いわゆる「販売預託商法」に関する消費者問題についての消費者委員会意見

2019年8月30日
消費者委員会

当委員会が発出した、いわゆる「販売預託商法」に関する消費者問題についての建議のうち、建議事項1(いわゆる「販売預託商法」に係る法制度・法執行の在り方についての検討)に対する当委員会の意見は、下記のとおりである。

  1. いわゆる「販売預託商法」に係る法制度の整備

    消費者庁は、悪質な「販売預託商法」による消費者被害の発生・拡大防止及び被害回復を図り、もって我が国の社会の安心・安全を確保するため、以下の事項を含む検討を行い、販売から始まる預託取引を対象とする法制度の整備1に向けた措置を早急に講ずるべきである2

    (1)禁止行為の法定
    ア 以下の悪質な類型の「販売預託商法」について、罰則による禁止、及びその契約が民事的にも無効であることの法定
    ①物品等が存在しない場合
    ②物品等の数量が預託されているはずの数量よりも著しく少ない場合
    ③物品等の販売価格が実際の価値に比べて著しく高額であるなど、形式的に物品等を介在させている場合
    イ 販売預託契約の締結に際し、将来、事業者が物品等の買取りを行う場合に、販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと(元本保証)の禁止
    (2)取引の適正性・規制の実効性を確保するための措置
    ア 消費者が「販売預託商法」のリスクなどを正しく理解した上で契約を締結することができるようにするための措置3
    イ その他適正性・実効性を確保するために必要と考えられる仕組み4
    (3)犯罪収益の没収、被害回復
    悪質な類型の「販売預託商法」に係る事業者の犯罪収益を没収し、その上で、被害者の被害回復に充てる仕組み
  2. 参入規制の導入の検討

    消費者庁は、悪質な「販売預託商法」への対策として、以下の取組を行うべきである。

    (1)上記1に基づく取組と並行し、事業者に対してヒアリングを行うなど、我が国において行われる「販売預託商法」の実態把握を行うこと。
    (2)上記(1)の結果や上記1に基づく措置状況も踏まえつつ、「販売預託商法」を行う事業者を対象とする参入規制の導入について、速やかに検討を進めること。
(理由)
  1. いわゆる「販売預託商法」に係る法制度の整備(意見1)について
    • 当委員会は、建議で述べた理由等から、現行の各法律による悪質な「販売預託商法」への対処には限界があり、被害を根絶するために、早急に法制度を整備することが必要であると考える。
    • かかる法制度の整備に当たっては、物品等を販売することから始まる預託取引を規制対象とすること、当該取引が投資性のある取引であることを踏まえること、早晩破綻することが経験的に明らかな類型の取引形態を禁止し、罰則規定により担保すること、当該取引を行う悪質な事業者に対し、法所管官庁や捜査当局が、被害が拡大する前のより早い段階で取締りを実施することができる要件を設定すること、被害者に泣き寝入りさせないためにも、犯罪収益を没収し、被害回復につなげる仕組みを導入することが必要である。
    • そこで、第一に、「販売預託商法」のうち、悪質な類型の取引を罰則により禁止し、当該取引が民事的にも無効であることを法定すべきである(意見1(1)ア)。これにより、悪質な類型の「販売預託商法」を、より形式的に取り締まることが可能となり、消費者が契約を締結してしまった場合でも、その無効を主張しやすくなることが期待される。
    • また、悪質な「販売預託商法」では、契約を締結する際に、将来、物品等の販売価格相当額で買い取ること(実質的な元本保証)が約束されるため、消費者は、小さいリスクで高い利益還元を確実に受けることができるものと誤信し、取引に引き込まれてしまう。こうした元本保証は、市場における公正な価格形成を阻害するうえ、事業者も不必要に多額の支出をすることになり財務の健全性が脅かされることからも、適切でない。したがって、「販売預託商法」において、販売預託契約の締結に際し、将来、事業者が物品等の買取りを行う場合に、販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと(元本保証)は禁止すべきである(意見1(1)イ)。
    • 第二に、「販売預託商法」は投資性のある取引であり、消費者がリスクを正しく理解して取引に入れるよう、正しい情報が適切に消費者に伝わらなければならない。そこで、説明義務・書面交付義務の充実・強化や、法所管官庁への調査権限の付与等、取引の適正性、規制の実効性を確保するための措置が講じられるべきである(意見1(2))。
    • 第三に、こうした悪質な類型の「販売預託商法」は、事業者が破綻を念頭に置いており、最終段階では既に事業者の資産は散逸してしまっていることなどから、破綻後には消費者が受けた被害の回復を期待することができない。また、中には、①自分が被害に遭ったことを周囲に言い出せない、②知人に紹介してしまい、罪の意識に苛まれる、③被害に遭ったことを忘れ、心労を減らしたいと考える、④認知上の問題から状況をよく理解できない等の被害者もいること、特に独居・高齢の被害者の場合、被害状況の再現が困難であることなどからも、被害者の自発的な行動を期待することは難しく、被害の回復を制度的に担保することが必要である。そこで、悪質な類型の「販売預託商法」に係る事業者の犯罪収益を没収し、その上で、被害回復につなげる仕組みを導入すべきである(意見1(3))。
  2. 参入規制の導入の検討(意見2)について
    • 悪質な「販売預託商法」による被害を未然に防止するためには、法所管官庁が、「販売預託商法」を行う事業者と、その事業に関する情報をあらかじめ収集し、問題が発生した際に、早期に実態を把握して対処することが重要である。
    • そのため、当委員会としては、上記意見1に基づく措置に加えて、「販売預託商法」を行う事業者を対象とする参入規制についても導入を検討すべきであると考える。
    • しかしながら、現状、我が国において、「販売預託商法」を行う事業者がどこにどの程度存在し、どのような種類の物品等を用いて事業を行っているかについては、正確には把握されていない。
    • 参入規制の導入の検討に際しては、健全な事業者に及ぼす影響5、他の法令に基づく参入規制との関係性6、必要となる行政コスト等についても考慮しなければならず、そのために、まずは、事業者に対してヒアリングを行うなど、我が国において行われる「販売預託商法」の実態をより正確に把握することが必要である。
    • 悪質な「販売預託商法」による消費者被害の発生・拡大を防止するために、消費者庁には、上記意見1に基づく措置の実現に向けて優先的に取り組むことを期待するが、それと並行して、上記実態の把握と、その結果等も踏まえた参入規制の導入に向けた検討を速やかに行うべきである。

以上

  1. 当委員会としては、現行の特定商品等の預託等取引契約に関する法律(昭和61年法律第62号。以下「預託法」という。)の改正によるか、新法の制定によるかを問わないが、規制の対象となる物品等を限定列挙する規定の方式(指定商品制)は採用すべきではないと考える。
  2. 併せて、物品等の販売と当該物品等の預託が当事者を異にして一体的に行われる場合や、物品等の販売に仮想通貨が用いられ、交換の法形式で行われる場合等、形式的に潜脱しようするものについても規制の対象に含めることも求められる。
  3. 例えば、事業者が消費者に交付する書面について、消費者トラブルとなりやすい事項について適切に説明を行い、特に重要な事項や十分に読むべき事項については、文字の大きさを拡大し、赤色の文字とすること、赤枠の中に含めることの義務化・強化。
  4. 例えば、法所管官庁への調査権限の付与、クーリング・オフ、中途解約権等(新法の制定による場合、少なくとも現行の預託法と同等の仕組みを導入すること)。
  5. 参入規制は、法所管官庁が販売預託商法を行う事業者に関する情報を早期に把握する手段の一つという趣旨からすれば、健全に事業を行う事業者にとって過度な負担とならないよう、例えば届出制を採用し、他の法令で作成が義務付けられている書類や、事業者にとって作成が過度な負担とならない書類の提出を求めるといった仕組みとすることも考えられる。
  6. 例えば、宅地建物取引業(宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第2条第2号)や不動産特定共同事業(不動産特定共同事業法(平成6年法律第77号)第2条第4号)等、他の法令において許可制、免許制、登録制等の対象となっているものや、公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるもの(金融商品取引法第2条第2項第5号ニ参照)については、参入規制の対象から除外することも考えられる。