北海道旅客鉄道株式会社の運賃の改定案に関する消費者委員会意見

2019年8月15日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、北海道旅客鉄道株式会社の運賃の改定案に関する公共料金等専門調査会意見の提出を受けた。

消費者庁において、本意見を踏まえ、国土交通省とともに適切に対応することを求める。

北海道旅客鉄道株式会社の運賃の改定案に関する消費者委員会意見

2019年8月15日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、北海道旅客鉄道株式会社の運賃の改定案に関する公共料金等専門調査会意見の提出を受けた。

国土交通省は本意見を踏まえて対応されたい。

北海道旅客鉄道株式会社の運賃の改定案に関する公共料金等専門調査会意見

2019年8月15日
消費者委員会公共料金等専門調査会

消費者委員会は、令和元年8月2日付で消費者庁より「消費税率引上げに伴う公共交通運賃の改定案及び北海道旅客鉄道株式会社の運賃の改定案について」の付議を受けた。公共料金等専門調査会では、北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)の運賃の改定案(以下「本改定案」という。)について、令和元年8月9日に国土交通省へのヒアリングを行い、調査審議した。これらの結果を踏まえ、上記付議についての公共料金等専門調査会の意見は以下のとおりである。

1.結論

  • 本改定案は、一部の区間においては運賃の値上げ幅が大きく、利用者の負担が大きいものであるが、妥当性を欠くとまでは認められない。
  • 本改定案についての検討が進められる上では、消費者利益の擁護・増進の観点から、後記3で指摘する留意事項が踏まえられるべきである。
  • 公共料金等専門調査会は、国土交通省における事後検証その他の後記3で指摘する留意事項についての対応状況等について、しかるべき時期に国土交通省へのヒアリングを含めた検証を行うこととしたい。

2.理由

(1)本改定案申請に至る経緯について

国土交通省の説明から下記事項が確認された。

  • JR北海道は、昭和62年4月1日の設立以降、広大な北海道の営業区域において、輸送密度が低い線区が占める割合が多く1、降雪に対応するためのコストも要する等の北海道の厳しい経営環境の下で鉄道事業を行ってきた。その後も道内人口の減少、高規格幹線道路の供用延長、及び、自動車の保有状況の上昇等の事情の変化により、札幌圏の路線の輸送密度は増加しているものの、それ以外の路線では輸送密度が減少している。また、国鉄改革時に設定された経営安定基金の運用益も経済情勢の変化に伴い当初の半分以下まで減少した。
  • このような経営環境の下、JR北海道は、平成8年の運賃改定以降、消費税率引上げに伴う改定以外は実施しておらず、鉄道運輸収入は平成8年度をピークに減少してきた。他方で、人件費の削減を進めたほか、収支均衡を図るため、輸送の安全確保に必要な修繕費や設備投資まで削減してきた。
  • その後、平成23年以降、列車事故や検査データの改ざん等の問題が相次いで発生し、JR北海道は、国土交通大臣による平成26年1月24日付「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を受けた。同社は、同命令に基づき本来必要な修繕費や設備投資を確保して安全の再生に取り組んできたが、それにより大幅な経常赤字を計上することとなった。
  • このような経営状況から、JR北海道は、国土交通大臣より平成30年7月27日付「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を受け、同命令に基づき、2031年度の経営自立を目指すための「JR北海道グループ長期経営ビジョン未来2031」、「JR北海道グループ中期経営計画2023」及び「事業計画(アクションプラン)」(以下これらを併せて「長期経営ビジョン等」という。)をそれぞれ策定した。長期経営ビジョン等においては、JR北海道の自主的な経営基盤の強化2や安全に関する取組のほか、維持困難線区等同社単独では解決困難な課題についての国や沿線の地方公共団体等の関係者との調整などが盛り込まれている。本改定案もこの経営基盤の強化の取組の1つとして位置付けられている。
  • 本改定案は、鉄道運輸収入について1年度あたり約40億円規模の増収を図るものであり、国土交通省において、需要の見通しについても適切に算定されていることを確認したとの説明がなされた。
  • JR北海道による申請後、国土交通省は当該申請についてパブリックコメントを実施した。国土交通省から諮問を受けた運輸審議会は、当該パブリックコメントの結果や公聴会の内容も踏まえて審議し、令和元年7月25日付で答申(「北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃及び料金の上限変更認可申請について」)を発出した。

(2)本改定案について

  • 鉄道の旅客運賃等の上限を変更するには、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えない範囲で変更される必要がある(鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第16条2項)。本改定案について、国土交通省により示された総括原価方式により算定された結果によれば、平年度(令和2年度ないし令和4年度の3年間合計)の推定額で総収入が3639億2100万円、総括原価が4035億1400万円であり、総収入が総括原価を超えないことが確認された。
  • 本改定案では、普通旅客運賃のうち一部の区間の運賃値上率が3割超えとなり、また、定期旅客運賃の改定率(消費税率引上げに伴う改定を含む。以下同じ。)が22.4%(普通旅客運賃の改定率は15.7%)となる。運賃・料金全体での改定率が11.1%であるのに対し、一部利用者の負担が特別に大きい。値上率が3割以上となる区間があるのは、従来運賃では7kmないし10kmの区間における距離比例運賃増加率を抑制していたところ、その前後の区間並みに引き上げたためである。また、定期旅客運賃の改定率が大きいのは、現行の定期旅客運賃で区間が100kmまでと設定されており、値上率が大きい近距離区間の利用者の割合が大きいためである。
  • このように、本改定案では、運賃引上げに伴い、運賃体系の変更が行われたため、近距離利用者等への負担が大きいうえ、一部の区間においては急激である。利用者への不利益が大きいことを考えると、その妥当性を検討する必要がある。国土交通省は、この値上げが、従来近距離が優遇されてきた距離加算を他の部分と平準化したものであること、札幌を中心とする近距離圏では相当な設備投資を行うため相応のコストがかかっていることを反映したものであること、値上げ後の運賃も並行する路線を持つ他の鉄道事業者の運賃の同レベル相当にとどまることを理由に妥当だと説明した。
  • 同一率の値上げにも増収効果が大きいものと小さいものがある。今回の値上げは、増収効果の大きな近距離運賃を大きく引き上げ、増収効果の小さな運賃の引上げを抑制する値上げだと考えられる。負担が大きくなる利用者への配慮が必要なものの、JR北海道の収支を改善することが不可欠であること、増収効果のない値上げを抑制せざるを得ないこと、大幅となる値上げ運賃が並行する路線を持つ他の鉄道事業者の運賃のレベル相当にとどまること、JR北海道が利用者の多い札幌圏における更なる利用者サービスのための設備投資を計画していることから、本改定案における値上げが妥当性を欠くとは認めることはできない。
  • 消費税率の引上げに伴う運賃改定分については、国土交通省より、事業全体として108分の110以内の増収となるよう設定が行われていること、及び、端数処理が合理的かつ明確な方法により行われていることを確認したとの説明があった。

3.留意事項

  • JR北海道において、その事業が北海道内の消費生活に多大な影響を与えることを十分自覚し、徹底した輸送の安全の確保や利用者の利便性向上に向けた取組、及び、それらを実現するためのグループ全体での最大限の経営努力が行われることが重要である。国土交通省においては、JR北海道の長期経営ビジョン等に基づく取組を丁寧に検証し、その確実な実施のために必要な指導、助言を行うべきである。それらの際には、本改定案については、近距離利用者等への負担が大きく、想定以上に利用者が減少する可能性もあることから、需要の変化について注視するべきである。
  • 本改定案は運賃の値上げ幅が小さくないものであること、及び、区間によって値上率が異なることに鑑み、運賃の改定に当たって、JR北海道は利用者の理解を得るための積極的な取組や丁寧な情報提供・説明・対話を行うべきである。

以上

  1. 平成29 年度では、輸送密度4000 人未満の線区(国鉄改革時では廃止・バス転換とされた。)が営業キロ総延長の約75%を占めている。
  2. JR 北海道のグループ事業全体での増収施策、コスト削減策、及び、管理体制の強化等。