消費者基本計画工程表の改定素案(平成31年2月)に対する意見

2019年3月27日
消費者委員会

消費者基本計画工程表の改定素案(平成31年2月)に対する意見

当委員会は、消費者基本計画工程表(以下「工程表」という。)の検証・評価及び見直しについて、昨年12月19日に「消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見」(以下「12月意見」という。)を取りまとめ、本意見の内容を、可能な限り工程表の改定素案に反映することを求めてきた。

その後、消費者庁をはじめとする関係府省庁等では、12月意見も踏まえつつ、工程表の検証・評価及び見直し作業を行い、取りまとめられた工程表の改定素案は、本年2月15日よりパブリックコメントにかけられた。

当委員会は、本年2月14日の消費者委員会本会議において、工程表の改定素案について、消費者庁よりヒアリングを行ったところである。このヒアリングの結果や、これまでに行った建議・提言その他の意見等の内容、工程表に記載された個別施策についてのヒアリングの結果や最近の被害実態等を踏まえ、工程表の改定素案に対し、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等におかれては、下記の各項目について積極的に検討の上、可能な限り工程表の改定原案等に反映されたい。

当委員会としては、本意見の工程表への反映状況や、その後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや、取組が不十分と考えられるもの等については、今後、重点的に当委員会の調査審議を通じて取り上げていくとともに、必要に応じて建議等の意見表明を行っていくこととする。

第1 全体的な事項

過去の平成28年5月に当委員会が発出した消費者基本計画工程表改定素案に対する意見1以降、累次指摘しているが、下記2点につき改めて取組の加速化を図られたい。

(1) KPIについて

施策の達成状況等に応じ、指標の見直しやアウトカム指標の追加設定を検討するとともに、目標の数値等についても、不断の見直しを図られたい。

また、現状のKPIについての検証を行うとともに、それを踏まえ第4期消費者基本計画工程表の策定に向けて、より効果的なKPIの設定方法等について検討されたい。

(2) 工程表の図について

年限を区切らずに5年間で取り組むことが示されているものについては、定期的・継続的に実施しなければならないものを除き、可能な限り具体的な取組に分けた上で、当該具体的な取組ごとに期限を明確に設定した上で、図示すべきである。加えて、2020年度以降の取組についても、施策の継続性の観点から同様に記載すべきである。したがって、取組の進捗や効果が思わしくない施策は、その状況を改善するための具体的な対策を工程表に反映されたい。また、第4期消費者基本計画工程表の策定にあたっては、当初よりその点に留意されたい。

第2 工程表への反映が必要な事項

1.民法の成年年齢引下げに対する対応について

民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)(以下、改正民法という。)が昨年6月に成立し、2022年4月1日から施行されることとなっている。これを見据えた環境整備は喫緊の課題であり、更に取組を加速化していくことが必要である。

そのため、12月意見でも指摘したとおり、「成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議」において取り組むこととされている個別の施策等について、いつまでに具体的に何をするのかを明確にした上で、その取組等の内容、スケジュール等を工程表に記載されたい。(法務省、消費者庁、関係省庁等)

(1)与信審査について

12月意見でも指摘したように、新たに成人となる18から19歳への貸付、信用供与にあたっては、法律で義務付けられている支払可能見込額調査や返済能力調査等に加え、事業者の自主的な取組(利用限度額等を少額に設定することや借入目的の確認を行うなど)の推進を図る必要がある。このため、事業者の自主的な取組状況を可視化するとともに、取組の効果を客観的に検証する等、更なる取組の推進に向けた各省庁の具体的な取組について工程表に明示されたい。(金融庁、経済産業省)(5(1)⑬関係)

(2)改正民法の周知

12月意見でも指摘したように、成年年齢引下げにより、18歳で何ができるようになるのか、どのようなことに留意しなければならないのか等を具体的に周知するとともに、各種媒体の活用等も含め、より幅広い消費者に行き渡らせるための具体的な取組について工程表に明示されたい。(法務省、関係省庁等)(5(1)⑬関係)

(3) 特定商取引法(省令)の見直し

消費者庁からの意見聴取に対する委員会の回答2を踏まえ、成年年齢引下げ対応として検討することとされていた以下の点について、その検討状況や、検討を踏まえた取組状況について工程表に明示されたい。さらに、工程表の図についても細分化を行い、いつまでに改正等の対応を行うのかについて明示されたい。(消費者庁、経済産業省)(3(1)②関係)

  • 連鎖販売取引における若年成人の判断力の不足に乗じて契約を締結させる行為を行政処分の対象とすること
  • 訪問販売において、若年成人の判断力の不足に乗じて売買契約または役務提供契約を締結させることが行政処分の対象行為となることを規定上、明確にすること

2.消費者契約法の見直し

平成29年8月に発出した答申3の付言及び改正消費者契約法の附帯決議を踏まえた今後の取組スケジュールを、期限ごとに可能な限り具体的に明示されたい。また、答申を踏まえた改正消費者契約法が本年6月から施行されるところ、その周知等、取組を加速化されたい。(消費者庁)(3(1)④関係)

3.地方消費者行政への支援

地方消費者行政については、「地方消費者行政強化作戦」が定められ、「地方消費者行政推進交付金」等を活用した計画的・安定的な取組支援が行われ、消費生活センターの整備、消費生活相談員の配置・増員及び消費者教育の推進等に寄与してきた。

平成30年度から措置された「地方消費者行政強化交付金」については、その補助対象事業が国として取り組むべき重要消費者政策等となっているが、地方公共団体において取組や体制の実態が追い付いていないことや、求める支援とのミスマッチが生じていることが懸念される。そのため、地方公共団体における活用状況等の実態を把握し、地方消費者行政推進交付金から地方消費者行政強化交付金への切り替えが地方消費者行政に与える影響と、それを踏まえた財政支援の取組等について検討されたい。(消費者庁)

また、地方公共団体における体制や自主財源の更なる充実に向けた消費者行政重視の政策転換を促すためには、短期的な取組のみならず、実効性が確保された取組を継続的に行っていく必要がある。そのため、本年1月から開始された「地方消費者行政強化キャラバン」の成果も踏まえ、平成31年度以降の継続性が確保された具体的な取組について工程表に明示されたい。(消費者庁)(6(2)①関係)

さらに、これまで消費者庁が実施してきた地方消費者行政に関する施策を検証し、必要に応じて地方公共団体とコミュニケーションを図った上で、中長期的な視点に立った取組について検討されたい。(消費者庁)

4.適格消費者団体等への支援

消費者被害の防止・回復を効果的に実現するため、消費者団体訴訟制度の主体となる適格消費者団体等の設立促進や、その活動支援に向けた取組を消費者政策として進めていくことが重要である。また、消費者団体訴訟制度の信頼性の確保に向けた取組も不可欠であるが、その前提として、団体が自主性を阻害されず十分に活動できることが必要であり、制度創設の趣旨にも合致するものである。

そのため、消費者団体訴訟制度の機能強化や、適格消費者団体等の活動の更なる活性化に向けた取組について工程表に明示されたい。(消費者庁)(5(1)①関係)

5.公益通報者保護制度の見直し

当委員会が昨年12月に発出した答申4を踏まえた取組状況や、今後の取組、検討スケジュールについて工程表に明示されたい。特に、公益通報者保護専門調査会において方向性が打ち出された事項については、他の事項に先行して検討を行うなど、その実現に向けて積極的に取組を進められたい。(消費者庁)(4(3)③関係)

6.身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての対応

12月意見でも指摘したとおり、これまでの取組を踏まえ、今後どのような取組を行うのか、以下の事項を含め工程表に明示されたい。(厚生労働省)(3(2)⑯関係)

  • 預託金の適切な保全などにかかる身元保証等高齢者サポート事業を提供する事業者への働きかけ
  • 平成29年度に実施された実態調査の結果を踏まえた身元保証人に期待される機能の詳細検討、より小規模に提供される身元保証等高齢者サポートの実態把握、今後、身元保証等高齢者サポート事業の需要が増大する社会における制度の在り方など、実態調査の結果から課題とされた事項に対する更なる取組

7.事故情報の収集、注意喚起等

12月意見及び昨年3月意見5 でも指摘をしているとおり、平成29年8月に当委員会が発出した「事故情報の更なる活用に向けた提言」を踏まえた、中長期的な取組スケジュールを検討の上、特に以下の取組について具体的に工程表に明示されたい。(消費者庁)(1(2)①関係)

  • 事故情報データバンクの入力項目の精査や、事故原因の究明等を行っている研究機関へ公開する等の事故情報の公開促進に向けた取組
  • 事故情報の更なる活用に向けて、関係省庁のみならず消費者、事業者、事故情報データバンク参画機関が連携・情報交換をスタートさせる取組

8.仮想通貨交換業者についての対応

仮想通貨6交換業者に対する対応については、当委員会が意見を発出した平成29年12月以降においても、仮想通貨交換業者の実態把握や、消費者への注意喚起等、様々な取組がなされているが、顧客の仮想通貨の流出事案が複数発生している現状を踏まえ、「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書を受けた取組等について工程表に明示されたい。(金融庁)(3(2)⑧関係)

また、消費者への注意喚起にあたっては、取引のリスクや登録業者とみなし業者の違いなどについて、より幅広い世代に分かりやすく伝えることができるよう、実効性の確保に向けて取組を進められたい。(金融庁)

第3 次期基本計画に向けた課題

1.地域における横断的な取組体制の構築

我が国において、人口減少に伴う財源の縮小、人員不足が進む中で、地方公共団体についても、多様化・複雑化する行政課題に的確に対応していくためには、これまでの施策や取組に加え、医療や福祉、教育など行政や地域における政策分野に捉われない横串での連携が重要になると考えられる。そのため、昨年9月に発出した意見7(以下「9月意見」)でも言及した自治体間における連携の在り方など地方公共団体における対応力の強化の視点に加え、地域コミュニティや既存のネットワークを活用し、消費者行政関係者のみならず、民生委員やNPO法人、民間事業者など多様な主体が参画することで、地域全体で消費者行政を含む各種の行政課題に取り組んでいくことが考えられる。

一方で、各地域において、行政だけでは担うことができないコミュニティやプラットフォームを、規模や地理的条件が様々であるなかで、どのように作っていくか、その担い手となる人材の確保や育成、それを踏まえて活動の拡大に向けてどう取り組んでいくかなどの課題があることに留意が必要である。

消費者行政の分野においても、「地方消費者行政強化作戦」が定められ、消費者安全確保地域協議会の設置の促進が図られているところであるが、こうした既存のネットワークの有効活用を考えることも一つの方策であるところ、第4期基本計画策定に際しては、既存の消費者分野の施策に加え、多分野にまたがる横断的な施策も念頭に置きつつ、地域全体で消費者行政を推進するための体制整備という視点も盛り込むべきである。

2.第3期基本計画に盛り込まれた施策の進捗等にかかる検証・評価

本年1月の「第4期消費者基本計画のあり方に関する検討会」報告書を踏まえ、消費者庁を中心に、今後、次期基本計画策定に向けた検討が本格化すると考えられるが、それにあたっては、9月意見でも言及したように、第3期計画の初年度である平成27年度からの各施策の進捗状況についても総括的な検証・評価を行い、施策目標の達成度やその効果を十分に明らかにされたい。その上で、十分な進捗や効果が見られなかった施策については、その理由及び今後に向けた課題等について整理を行い、取組方針を明確化した上で、次期計画に盛り込むべき施策について検討されたい。

第4 最近の被害実態等を踏まえた課題

悪質商法等による高齢者を中心とした消費者被害への対応

昨今、悪質商法等による高齢者を中心とした消費者被害が次々と発生・発覚し、老後の資産の不安に付け込むものなど、その手口はますます巧妙化している。今後、我が国では高齢化率が約40%まで高まることが予測されており、高齢者の保護や被害救済、消費者被害の未然防止は、我が国の社会全体の安心・安全にも直結する課題である。

そのため、消費者被害や消費者トラブルの発生及び拡大防止のため、所管法令等について不断の整備・見直しを行うとともに、その運用にあたっては、関係省庁が連携して、その実態や被害の発生状況を的確に把握するなど、高齢者を中心とした消費者被害の発生・拡大防止に向けて、積極的に取組を進めるべきである。

(以上)

  1. 消費者基本計画工程表の改定素案(平成28年4月)に対する意見(平成28年5月24日)
  2. 「民法の成年年齢が引き下げられた場合の新たに成年となる者の消費者被害の防止・救済のための対応策について(回答)」(平成29年1月10日消費者委員会)
  3. 消費者契約法の規律の在り方についての答申(二次答申)(平成29年8月8日)
  4. 公益通報者保護法の規律の在り方や行政の果たすべき役割等に係る方策についての答申
  5. 消費者基本計画工程表の改定素案(平成30年2月)に対する意見(平成30年3月30日)
  6. 「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書において「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが提言されたが、消費者への浸透度等の観点から「仮想通貨」と表記
  7. 次期消費者基本計画策定に向けた基本的な考え方についての意見(平成30年9月12日)