意見交換会 議事録(2024年9月27日)

日時

2024年9月27日(金)10:30~13:00

場所

消費者委員会会議室及びテレビ会議

出席者

  • 【委員】
    (会議室)鹿野委員長、黒木委員長代理、小野委員、中田委員
    (テレビ会議)今村委員、大澤委員、柿沼委員、星野委員
    【説明者】
    一橋大学 松本名誉教授
    東京大学 河上名誉教授
    早稲田大学 後藤名誉教授
  • 【事務局】
    小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 消費者委員会の役割、在り方等について

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

アンケート

意見交換会に関するアンケートを実施中です。(10月15日締め切り)
ご協力いただける方におかれましては、以下のリンクからご回答ください。

※受付は終了いたしました。

《1. 開会》

○鹿野委員長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから「意見交換会」を開催いたします。

本会議に引き続きこの意見交換会には、黒木委員長代理、小野委員、中田委員、そして私、鹿野が会議室にて出席しております。

また、テレビ会議システムにて、今村委員、大澤委員、星野委員が御出席です。

柿沼委員は遅れて可能であれば御出席されると伺っております。

原田委員、山本委員は、本日所用のため御欠席と伺っております。

それでは、本日の意見交換会の進め方等について、事務局より御説明をお願いします。

○友行参事官 本会議と同様、テレビ会議システムを活用して進行いたします。

配付資料は議事次第に記載のとおりでございます。もしお手元の資料に不足などがございましたら、事務局までお申し出くださいますよう、お願いいたします。

以上です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。


《2. 消費者委員会の役割、在り方等について》

○鹿野委員長 それでは、意見交換会の開催に当たり、その趣旨等について一言述べさせていただきます。

消費者委員会は、消費者行政の監視役という重要な役割を担い、消費者庁と共に我が国の消費者保護について責任を負う立場にあるものと考えております。

本年、消費者委員会は設置後15年という節目の年を迎えました。消費者行政のさらなる充実のために、消費者委員会はこれからもその機能を十分に発揮していく必要があります。そのために、いま一度、これまでの消費者委員会等の歩みを振り返りながら、改めて消費者委員会の役割や在り方等について考える機会を設けたいというのが今回の意見交換会の趣旨であります。

本日は、消費者委員会の仕事に深く携わってこられた歴代の消費者委員会委員長にお越しいただいております。委員長としての御経験を踏まえた消費者委員会の役割や在り方等についてのお考えを御発表いただき、それを踏まえて意見交換を行いたいと思います。

改めて、本日は、消費者委員会の初代委員長を務められた一橋大学名誉教授の松本先生、そして第2次から第4次の6年間にわたって消費者委員会の委員長を務められた東京大学名誉教授の河上先生、そして直近ですが第7次の消費者委員会の委員長を務められました早稲田大学名誉教授の後藤先生に、会議室にて御出席いただいております。皆様、お忙しいところありがとうございます。私個人としてとても感激しているところでございます。

本日の進め方ですが、松本先生、河上先生、後藤先生の順にそれぞれ20分程度で御発表をいただき、その後、全体としての意見交換を60分程度行いたいと思います。

それでは、最初に松本先生からよろしくお願いいたします。

○一橋大学松本名誉教授 それでは、報告をさせていただきますが、細かい話をしていくと時間がないし、個別の政策まで立ち入るともっと時間がなくなるので、15年を振り返るための前提として、15年より前の議論がどうだったのかという歴史に遡ったうえで、この15年がどうなのかという評価のほうにつなげたいと思います。

レジュメの4ページ、消費者問題というのは経済発展の副産物であって、環境破壊と一緒に起こってくるものだというのが国際的な実感です。経済発展の証明として夏季オリンピックの開催ということがあり、東京での最初のオリンピックは1964年で、まさに日本で消費者行政が動き出した時期と完全に一致しているわけです。

韓国、中国と、大体20年を置いて同じ問題が起こって、オリンピックも開催しております。

次の5ページ、経済発展の結果、環境破壊と大規模消費者被害が一緒に起こってきたわけですけれども、それに対して政府が取り組み始めたのも大体同じ時期、60年代です。そして、1967年には公害対策基本法ができて、翌68年には消費者保護基本法ができる。基本法の制定はほぼ一緒の時期なのです。しかし、その後うんと差が出て、環境庁は1971年に早くもできている。消費者庁ができたのは2009年ということで、30年以上、40年近く差がついているのです。さらに環境基本法ができたのが1993年、消費者基本法は2004年ということで、ここでは10年差がついています。環境省は2001年に早くもできている。消費者省ができる可能性は今のところゼロです。

次の6ページです。消費者政策に政府が取り組み出した60年代からどのような手法が取られてきたかを簡単に図式化しました。それ以前の時代は、消費者保護はやっていたけれども、目的意識的にやっているのではなくて、他の政策のついでに消費者保護もやるという感じだったのが、60年代から行政規制中心、事前規制中心に取り組まれるようになるとともに、消費生活センター等による被害相談・あっせんが行われるようになってきた。

そういう中で、規制緩和の議論が80年代の後半ぐらいから起こってきました。規制を緩和するのだから、従来規制で守られていた人に権利を与えるべきであるという議論が出てきて、90年代には民事ルールを充実させようということで、製造物責任法ができ、2000年には消費者契約法ができました。

世紀が替わって2000年代になると、法律で事業者を規制したり、消費者に権利を与えるという手法ではなくて、市場、マーケットを利用して、双方の利益になるようなウィン・ウィン型の施策という手法が取られるようになってきた。さらに2010年代以降は、消費者の社会的責任とか消費者団体の権利といった、消費者の役割を重視したような施策も取られるようになってきたと思います。

次に、振り返るべき主な文書ということで、3つの時期に分けて紹介しておりまして、8ページです。1つは1989年、平成元年ですが、日弁連の松江での人権擁護大会で決議が出ています。これは非常にエポックメーキングだと思います。

それから、2003年に国民生活審議会の消費者政策部会で「21世紀型消費者政策の在り方について」という報告書が出されました。これも大変重要な文書です。

その後、2007年、2008年、2009年にかけて、消費者庁をつくるという中で幾つかの文書が出ています。

9ページですが、松江の人権擁護大会では、消費者法、消費者庁、消費者裁判の3点について決議が出されており、消費者法の中に、施策の策定及び実現に消費者が参加する権利を保障する諸規定ということが書かれていて、消費者委員会は、実はこの点につながっているという感じがします。

次に、10ページですけれども、21世紀型の消費者政策が2000年代初頭に議論されて、かなりの成果を生み出しました。国民生活局がこの議論の背景を3つにまとめています。

1つ目は、1968年制定の消費者保護基本法の枠組みでやってきたのだけれども、消費者トラブルの内容が多様化・複雑化しているということです。これは現在も同じで、一層多様化・複雑化しています。

2つ目は、企業の不祥事も続発している。これも現在も全く同じです。

3つ目が、消費者が安全で安心できる消費生活を送ることができる社会を実現するため、消費者政策を現在の経済社会にふさわしいものとして再構築し、21世紀にふさわしい消費者政策のグランドデザインを提示するということです。これは今はやりの言葉でいえば、パラダイムシフトということになります。

現在では、2000年代の初めの頃に比べるとデジタル化が大規模かつ急速に進んでおりまして、これはこの後の後藤先生の報告で細かく出てくるようなのですが、これをどうするのかというのが確かにグランドデザインとして大変重要だということになります。

次の11ページですけれども、パラダイムシフトの専門調査会の議論は、行き先がちょっと見えないところがあるのですけれども、21世紀型の消費者政策ははっきりと方向性が出ておりまして、幾つかの政策が現実に実現しております。例えば消費者保護基本法から消費者基本法に改正されて、消費者の保護から自立の支援へとか、消費者の権利が入った。さらに、事業者の自主規制ともいうべき自主行動基準を事業者は策定すべきであるという条項が入りましたし、事業者の自主的取組を横からサポートする制度としての公益通報者保護法が2004年に制定されています。今は、公益通報者保護法を無視する悪質業者や経営者にどう対処すべきかという厳しい議論が主ですけれども、つくられた頃は、コンプライアンス経営を促進するために内部の風通しをよくしましょうという観点からのルールだったということです。

それから、消費者による外からの目も重要だということで、団体訴訟制度も提案されて、2006年には消費者契約法が改正されました。2013年には、消費者裁判手続特例法もできたということで、ここで記載された方向の8割ぐらいは実現しているのです。ただし、違法・不当行為の抑止策としての連邦量刑ガイドライン的考え方というところが未だ実現していません。

その後、福田政権に入って、消費者庁をつくろうという議論が始まったわけで、そのときの幾つかの文書を挙げております。12ページで、2008年1月の施政方針演説のトップに生活者・消費者が主役となる社会を実現するということが挙げられています。今またパラダイムシフトの議論で「生活者」という概念が強調されていますけれども、実はもうこの時点で生活者は入っていたのです。我々消費者問題をやっていた者から見るとちょっと違和感があったのですけれども、考えてみると今の時点ではフリーランスが非常に増加している、消費者と事業者の境目のような人が大変増えている中で、狭い意味の消費者に限定せず、もう少し広げて個人ベースに考えていく中で、生活者という視点で考えるということは非常に重要ではないかと思います。

次の13ページです。国民本位の行財政への転換の中身として、福田総理がおっしゃっているのですが、「新組織は、国民の意見や苦情の窓口となり、政策に直結させ、消費者を主役とする政府の舵取り役になるものです」と。当時は消費者庁を意識してこういう発言だったのですけれども、現在この部分は、半分ぐらいは消費者委員会の役割になっているというのが私の見立てです。

次に、2008年4月に、14ページの6つの基本方針と、15ページの守るべき3原則というのが出されています。特に6つの基本方針の1つ目に、「消費者の視点から消費者政策全般を監視し、『消費者を主役とする政府の舵取り役』となる消費者庁」という言い方をされて、「監視」ということが強調される、あるいは「舵取り役」とか、2つ目や3つ目のところだと「司令塔」という言葉が出てきます。消費者委員会との関係で一番重要なのは「監視」ですが、これをどう位置づけるのかは後で触れます。

守るべき3原則でも、3番目のところで言われている消費活動はもちろん産業活動を活性化するという視点は、非常に重要な視点です。

それから、16ページで、新組織が満たすべき6原則ということも言われていまして、一元的窓口、情報収集と発信の一元化とか、司令塔とか、それから父権訴訟、違法収益の剝奪などが言われています。

17ページで、法律が通ったときの附則も挙げておりますが、半分以上実現していないです。

次に19ページで、消費者問題をめぐる3つのステークホルダー、これはもう言わずもがなでありまして、事業者と消費者の問題に行政がいかに関与するかということで、関与の仕方が2004年段階で変わってきたということがあります。

次の20ページのところで、消費者庁をつくるというのは、ステークホルダーのうちの1つである行政変われということなのです。その翌年の2010年にISO26000「企業の社会的責任の手引」が発行されまして、翌年にはJISにもなっているわけで、これが今度は事業者変われということです。消費者との関係だけではなくて、事業者にとっての全てのステークホルダーとの関係で変われという内容で、消費者との関係ではまさに消費者志向経営という話になります。

2012年には消費者教育推進法ができて、消費者市民社会という概念が打ち出されて、消費者も変われということになった。わずかこの3年の間に、消費者問題の3つのステークホルダーのすべてに変革を促す動きがあったということが重要と思います。

21ページ、消費者庁の設置にあたっては、「消費者行政の一元化」がスローガンとして掲げられたわけですが、一元化の中身は3つあります。

1つ目は、政策立案と規制の一元化ということで、消費者庁に権限を集めるということです。でも、全部の権限を集めると、日本政府の半分ぐらいは消費者庁になるので、それはしないということで、表示と取引だけということになりました。

しかし、情報だけは消費者庁が集めるということで、情報の一元化が2つ目です。このうち、安全に関する情報が特に重視されています。

3つ目が相談窓口の一元化ということですけれども、別に消費者庁あるいは国民生活センターだけで消費者相談をやれという意味の一元化ではなくて、全国どこでもあまねく相談ができるという意味の一元化です。

ただ、福田総理の発言からは、個別トラブルについての相談だけではなくて、先ほども言いましたように、政策全般についての消費者の声を反映させるというところが重視されている印象があります。

次に、私は、消費者行政には4つの中身があると従来から考えています。一つは事業者規制、もう一つは消費者支援です。これら2つが消費者庁設置の際に議論されたのですけれども、さらに3つ目に協働行政、4つ目に救済行政というのがあります。協働行政は少し議論されたけれども、救済行政もほんの少し議論されたけれどもという感じで、十分ではありません。

規制に関して、23ページです。伝統的には、行政が規制をする。行政というのは第三者ですから、サードパーティ規制で、当初はそれが中心だったのが、消費者に権利を与えるという手法が取られるようになってきた。消費者も、自己の権利の行使という形で事業者を規制できるようになってきた。これがセカンドパーティ規制です。

それから、さらに事業者自身も自主行動基準等をつくって、自主規制をしろということで、これがファーストパーティ規制ということになります。その後、消費者団体訴訟制度が出てくると、消費者団体というのは実は行政規制を代わりにやっているという面もあるとともに、消費者の代表でもあるということから、セカンドパーティプラスサードパーティで、3足す2は5だということで、私は勝手にフィフスパーティ規制という独自の規制として位置づけています。

さらに最近だと、プラットフォームに様々な役割を果たさせるべきだという考え方に基づいて、特にヨーロッパはこの色彩が大変強いわけですが、プラットフォームは自分の利益のために動いているという意味では、オリジナルにはファーストパーティなのですが、第三者的に公正で健全な市場を実現しなければならないでしょうということでサードパーティ的な面もあるので、1足す3は4だということで、フォースパーティ規制と名付けています。したがって、これら5つの規制をうまく組み合わせて考えないと駄目だと思っています。

次に、協働行政ですが、行政と企業や消費者が様々に協力・協働しながら施策を進めていくということで、いろいろな取組が行われているところです。

さらに次の25ページですが、救済行政というのは、消費者被害を受けた消費者の救済をいかに図るかということで、OECDが2007年の段階で3つのタイプについて実現するように加盟国に勧告しています。少額訴訟とかADR(裁判外紛争解決)による個別被害救済は日本でも実現しました。

それから、団体訴訟やクラスアクションによる集団的被害救済、これも日本でも一応実現しています。

3つ目の消費者保護執行機関、行政機関による被害救済のための損害賠償訴訟、これが日本では非常に限られています。アメリカが一番進んでいます。消費者庁・消費者委員会設置法の附則でも求められているのですけれども、全然動いていません。

最後に、中長期的に検討すべき課題を幾つか挙げました。

まず27ページで、消費者庁と消費者委員会の関係です。消費者委員会は実は常勤委員が一人もいないのです。常勤的委員というインチキのような委員はいるのですけれども、常勤委員が全くいません。全員片手間です。こういう委員会に何ができるのだということです。個人情報保護委員会は3条委員会ですが、常勤委員が5人、非常勤委員が4人です。それから、証券取引等監視委員会は、金融庁内部の8条委員会だから消費者委員会と同じ位置づけなのですが、委員3人の全員が常勤委員です。いずれの委員会も頑張ってやっているわけですが、非常勤委員のみからなる消費者委員会はなかなかしんどいです。

それから、監視機能の位置づけにそもそも無理があったのではないかということです。消費者庁は政府の消費者政策全体を監視するのだということが過去の文書の中でも言われていたのですけれども、消費者委員会が分離・独立したときに、その監視機能が、消費者庁に対する監視機能も付加されて消費者委員会に引っ越してきたような印象で語られて、第1期の消費者委員会もそういうイメージで頑張ったのですけれども、あえなく玉砕をしたということがあります。そもそも同じ大臣の下でやっている消費者委員会が、消費者庁に対して監視という非常に厳しい行為ができるのか。なかなか難しいというか、不可能だろうと思います。

消費者委員会だけが監視機能を行使すると言ってしまうと、消費者庁は政府の施策全体に対する監視はもうやらなくていいのか。司令塔機能も舵取り役機能もまとめて曖昧になってしまっているような印象があります。

さらに設置法をよく見ていただきたいのですが、消費者庁には第4条に任務規定というのがあります。ところが、消費者委員会には任務規定がないのです。もし消費者委員会に独自の機能を持たせるのであれば、これは決定的な問題だと思います。そこが国会内の法案修正ということで、あまり深く議論されないでできたことの欠陥かなと思います。

結局、当初、消費者庁の機能としていろいろ考えられていた部分のうち、どの機能を現在の消費者委員会に担わせ、役割分担するのが一番現実的で建設的かを考える必要があるのではないかということです。最初の方でも言いましたけれども、監視という大上段の議論ではなくて、消費者の声を反映するというほうをメインにして、それをやれば、内容面では監視的な、ここが不十分だからというのも当然入ってくるわけです。監視機能としてこうだというのではなく、意見の反映をきちんと行うという部分に特化するほうが建設的だという印象です。

以上を踏まえて、28ページでは、消費者委員会として、その活動評価の前提となる組織のミッション・ステートメント(使命)を策定・公表すべきではないかと提案しています。

次に29ページです。消費者法と競争法、言ってみれば消費者庁と公正取引委員会の関係ということです。私は、消費者法というのは消費者を保護するだけの法律だとは思っていません。消費者の保護を通じて公正、健全な競争を維持するための競争法の非常に重要なパートだと思っていますから、公取委のやっていることと消費者庁のやっていることは実は半分以上共通のことなのです。そういう中で、分離してしまったのがよかったのかどうかということです。国際的には少なくとも取引の面では一緒にやるというのがトレンドです。従来別々にやっていた中国や韓国でも、今は一緒にやっているわけで、先進国として完全に分離しているのは日本ぐらいかもしれないです。

そういう中で、公取委が2019年にプラットフォームとの関係で、消費者の個人情報をプラットフォームが黙って取得しているということは、独禁法上の優越的地位の濫用だと宣言しました。つまり、独禁法は、消費者との関係でも適用できるのだということを改めて指摘しているということはすごく重要なことで、このような考え方をてこにして、もう少し公取委が消費者保護に乗り出してきてくれればいいなと思っています。とりわけ消費者の個人情報が現在のデジタル経済において大変重要な役割を果たしている中で、いわゆるターゲティング広告とかパーソナライズドマーケティングが行われている。このようなマーケティング手法における消費者保護の問題をもっと検討し、必要ならば規制していかなければならない。しかし、消費者庁だけではやれない状況なので、公取委と一緒にやっていく必要があるのではないかと思っています。

30ページです。先ほど言いました福田3原則の3つ目の消費者行政、消費者法の強化は、産業活動も活性化するものでなければならない。消費者行政というのは、産業界にとっても本来プラスなのだという部分がまだあまり実現していません。政府の審議会や検討会において、何か法規制をするという議論になると、それは産業界の自由な活動を規制するから反対だという声が、消費者契約法でも個人情報保護法でも独禁法でも出てくるのです。そういう考え方を克服していく必要があると思っています。

いっそのこと消費者庁も経済官庁だという名乗りを上げて、予算をもっと取ってきてほしいなと思います。普通の縦割り主務官庁は、言わばサプライサイドから経済を考えているわけですが、消費者庁は、デマンドサイドから国民経済を大きくしていくという観点でやるのだと。

それから、31ページです。国連SDGsの12が一番消費者庁と関係のある課題です。このロゴマークが8の字を横にしたものに似ているということで、8月8日はリユースの日、サーキュラーエコノミーの日になっています。

さらに私は、「ESG消費」という考え方を強調しておりまして、最近の国民生活研究にも書いたのですが、消費者が単に商品の品質と価格だけに着目するのではなくて、その企業の活動全体も評価をして、その会社の製品・サービスを選択するという、「ESG投資」の発想と似たような感じの消費行動をとれば、消費者市民社会の形成にとって意味があるのではないか。消費者としても、企業にもっと直接的に影響を与えることになります。

それから、32ページですけれども、現在の行政規制ルールにしろ、民事ルールにしろ、非常に縦割りで狭い。横割りの規制ルールというのは景品表示法しかないのです。ただし、景表法は対象が狭い。アメリカの連邦取引委員会(FTC)法5条とか、ヨーロッパの不公正取引方法指令などに比べると非常に狭いということがあります。また、横断的民事ルールとしては、消費者契約法がありますが、対象は非常に限定的で、特に最近の改正は極悪層しか見ていないという感じです。

ということで、横割りのルールをもっと作っていくようにしなければならないと考えております。とりわけ、国連の障害者権利委員会の勧告を踏まえて、現在、成年後見制度の改正の議論が行われていて、この制度が大きく変わる可能性があります。後見人の取消権などがなくなってしまう可能性があるのです。そうなると、どうやって高齢消費者を消費者被害から守るのかという大問題が生じてきます。消費者法の民事ルールないしは民法の一般的な民事ルール、つけ込み型不当勧誘とか状況の濫用といったルールをつくっていくことによって救済しなければならないのではないかと思います。

それから、地方消費者行政の強化ということは消費者庁ができたときの目玉でした。最初は予算がついていましたが、どんどん予算が減っていって、最近は相談員のなり手も減ってきているという大変な状況になっている中で、消費者庁はデジタル・トランスフォーメーションという方向を進めています。これはPIO-NETの刷新とも絡んでいて非常に重要なのだけれども、相談員がいなくなってもデジタル化すれば何とかやれるのではないのというような方向の議論になっています。それとは別にデジタル化のための予算はどうするのですかという問題も生じています。

デジタル化をここであまり強調すると、地方のセンターは要らないのか、相談はもう全部中央1個所でやればいいのかという議論につながってくるおそれもあるので、地方の相談員の役割やその必要性も含めて根本的に議論する必要があります。

34ページですが、消費者政策策定への消費者参加ということで、審議会等に消費者団体から誰かが出ているということだけで十分なのだろうか。専門的な観点で意見を言えるのかという問題です。消費者も入っているということで、みんなの意見を反映していますよという正当化に使われているおそれはないか。ヨーロッパではBEUCというヨーロッパレベルの消費者団体があるのですけれども、ここには欧州委員会が経済的な支援をしています。なぜかというと、欧州委員会の政策に消費者の声を反映させるためには、消費者の声をきちんと出してもらわないと駄目だと。そのためには経済的支援をするのだということです。人材についても、欧米では、行政、企業、消費者団体、大学というふうにいろいろ移りながら活動している人も結構いると言われています。

最後に、消費者団体の中でも、行政の機能の一部を代行していると評価してもよい適格消費者団体のエンパワーメントが重要だろうということです。活動資金の公的支援は現在、特定適格消費者団体が仮差押えをやる場合に、国民生活センターが担保金の支援ができるということだけです。消費者団体訴訟等支援法人制度が昨年できて、そして第1号の認定が出ましたけれども、この支援法人に対する政府による財政支援はありません。これでいいのかを考える必要があります。私は、消費者庁の設置の議論の時からその必要性が指摘されている、不当収益の吐き出しの受皿として活用するのがよいのではないかと考えています。アメリカの信託法には有名なシープレ原則というものがあって、個々の被害者に返金できない部分については、同種の被害救済をやっている団体に返金させるというようなことも可能になっているので、日本でもぜひこの種の制度を実現していただきたいと思います。

ちょっと時間をオーバーしてしまいましたけれども、以上です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

続きまして、河上先生、よろしくお願いします。

○東京大学河上名誉教授 松本先生の立派な資料があるので、私、資料がなくて大変申し訳ございません。

大体松本先生がおっしゃっていたことに尽きているだろうと思いますので、むしろ私は消費者委員会がどうあってほしいかということについて、日頃考えてきたことをお話しするということにしたいと思います。

消費者委員が出来上がったときに、いろいろな形で引き離されて、一体どこに自分の主軸があるのかということが分かりにくくなってきた。さっき松本先生も話していたとおりなのですけれども、少なくとも消費者委員会というのは総理大臣の下で内閣府に単独でぶら下がっている場所なので、その意味では、中立性と独立性が非常に大事な性格なのではないかと思います。

小さい組織ではあるのですけれども、その組織の中で各官庁を呼び出して、意見聴取をしたり、意見を述べたり、場合によっては勧告をしたりというようなことをしながら作業ができる非常に大きな力を持った組織であるということであります。それだけに、いろいろな影響が消費者委員会に対しては及ぼされる可能性があるということであります。

私は、委員長のときに、この委員会に政府の関係者の方が座らせろと言ってきたことがあったのですけれども、全てお断りいたしました。それぞれの立場の政府の考え方というものも一旦突き放して、消費者委員会というところが消費者の利益を支援し、擁護するためにはどうすればいいかということをきちんと考えていくということが必要である。

他方で、消費者委員会は消費者の味方だと思っている方もいらっしゃるのですが、決してそうではなくて、もちろん消費者がいろいろなところで困っているということに対して支援をしたりする立場ではあるのですけれども、そのためにはいろいろなところに目配りをしながら、消費者委員会として何ができるかということを考えることが必要であって、消費者団体にべったりの委員会ではないのだということも、きちんと御理解いただければということであります。

もう一つ、消費者委員会の事務局でありますけれども、事務局の数は本当に少なくて、しかも、もともと正規職員といいますか、ほかの部署からやってきて、ここで働いてくれている人がいるのですけれども、それ以外は企業なんかから出てきて仕事をしてくれているという人たちが結構いるのです。私、いろいろなときに事務局の人たちと話をしていたときに思ったのですけれども、ものすごく意識は高い。自分たちは消費者の利益がどうあるべきかということをここで徹底的に考えて、最終的に2年とか終わりますと会社に帰っていくのだけれども、今度は逆に会社の中で消費者対策がどうあるべきかということについて、さっき自主規制というのがありましたけれども、会社の中での行動を考えていくというような人たちに育っていっているということで、今でも当時の人たちがよく集まっているという話を聞きます。

委員長というのは、事務局員の人たちの力を借りて行動しないといけないということなのですけれども、最終的には委員長が責任を持つという覚悟でやっていかないといけないということなのだろうと思います。消費者の意見も聴いてというふうに先ほど松本先生がおっしゃっていたのですけれども、我々は消費者とは結びついている部分はほとんどないのです。地方消費者委員会というのを時々やって、地方の方とお話をする機会は持ちましたけれども、実際にはいろいろな苦情なんかが来るのは大体国民生活センターのほうであって、消費者委員会はそうした問題と直結して、いろいろ考えるだけの手足を持っていないということがあります。ですから、その意味では、委員長というのはなかなか大変で、いろいろなところに目配りしながら、ヒアリングはできますから、そういうことをしながら自分たちの情報を確かな形で手に入れるということをしないといけないのだなということを考えておりました。

委員会の下に専門調査会を置くということは今でもやっておられますし、特に専門調査会の中では民事の消費者契約法とか、特商法とかを検討する専門調査会を置いて、食品の問題についても専門調査会があって、ギャラリーが一番多いのは食品のところですけれども、いずれにしても委員が1人か2人入って、その専門調査会にいるのですけれども、その専門調査会の事務局というのは、なかなか消費者委員会だけではできなくて、消費者庁に手伝ってもらうということをせざるを得ないのです。消費者庁が手伝うと、どうしても専門調査会の結論は消費者庁ができる範囲のことに限定した形で結論がまとまりかねないという部分があります。消費者委員会としては、専門調査会の議論を逐一見ているわけではないのでなかなか分からないのですけれども、そのことも考えないといけない。親委員会の意向はなかなか反映されない可能性があるということがありますので、ぜひ実態をよく見て対処していただきたいなと思っておりました。

もう一つは、庁との関係であります。消費者庁と消費者委員会というのは、仲よく手を取り合って頑張るぞというものでは実はなくて、お互いかなり緊張関係にあります。さっき監視という言葉が出ましたけれども、消費者庁も消費者委員会においては監視の対象であります。ですから、消費者庁がきちんと対応してくれているのか、いないのか。消費者庁が消費者委員会の意見や勧告を無視するというようなことがあったときに、消費者委員会としては打つ手はあまりないのです。そこが問題で、消費者庁にきちんとやってもらうために、そこで意思疎通は一生懸命やって、こういう目的のために消費者庁がこういうふうに働いてもらわないと、全体としての消費者政策にとってはあまりいい影響が出ないのですということをしっかりと話をするということが必要だろうと思うのです。

いつ頃からか、松本さんの頃からやっていたのかもしれませんが、消費者庁の長官と国セン理事長と消費者委員会の委員長の3人で、月に1回ランチ会をやっていたのです。それで大体こんなことを今考えているのだというようなことをざっくばらんにお話していたのですが、この間聞いたらそこにそれぞれ補佐官がついていて、今は10人ぐらいでやっているというような話を聞きました。それはそれでまた必要なことなのかもしれないのですけれども、長官と国センの理事長と消費者委員会の委員長の間である種の個人的信頼関係というか、そういうものをきちんとつくっていくということであります。

それから、消費者担当大臣がいらっしゃるのですけれども、この方との意思疎通というのはなかなか難しい部分があります。その都度担当大臣に消費者委員会というのはこういう組織でこういうことを今考えていますというようなことをお話しする機会をぜひ持つように、事務局のほうで手配してやっていただければありがたいと思います。

これまで幾つも建議とか意見とか提言を出してきておりますけれども、これを言いっ放しにしてはいけないので、フォローアップを必ずやっていく。それも、どんどん増えていくとフォローアップが大変なので、常に監視して、ヒアリングを実施した上で、一応いい線まで来ているということであれば終了していって、整理していくということですけれども、本当に今やっている建議とか提言とか意見とかがどの段階にあるのかというのはいつも注意していないと、なかなかうまくいかないということがあります。

消費者基本計画、今回も議論していただいている。そして意見を述べているということですけれども、その工程表も含めて、その手がかりとして、今これはちょっとというようなものを取り上げて、深掘りもしていかないといけないのだろうという気がいたします。

何となく最近、深掘りをしたり、けんかをしたりするというようなことはあまり聞いていないので、消費者委員会が紳士淑女の集まりになっているのだと嫌だなと思ったりして拝見をしております。

それから、消費者庁のほうはどちらかというと、これまでもそうでした。これからもそうかもしれませんが、行政的な取締りとか、行政指導に重点を置くという傾向があります。しかし、それだけではなくて民事の実体法、特に救済に関わる民事の実体法についての配慮というのは、消費者庁自身が躍り出て、いろいろと民事の救済のために作業するというのは、それだけの力はないというようなことを言われて、できませんというようなことをおっしゃるのですが、しかし、どうしても庁が出ていかないとできない部分がありますので、その部分については頑張って後押しをしていただきたい。

最後に、日々新たに生起する消費者問題がありますので、それに対してアンテナをしっかりと張って、テーマをつかまえていくということです。短期的な課題と中長期的な課題があるでしょうから、それをバランスを取った形で取り組んでいく。この消費者委員会の人的・物的資源には限界がありますから、そこを考えながら、やれる範囲でやっていくということにならざるを得ないのですけれども、新しい問題にも対応する。

消費者庁が検討委員会を自前で立ち上げて、そこで今はいろいろな問題を庁として考えていくというような方向になって、消費者委員会が置いてきぼりになっているというような場合もありますので、それはむしろ消費者庁からいろいろヒアリングをしながら、委員会としてできることはありますかということです。消費者庁が監視機能を働かせていろいろなところに出かけていくというのは無理かもしれないのですけれども、消費者委員会のほうがむしろフットワークよく、外へ出かけていくということもできますので、お互いに協力をするということが必要になろうかと思います。

最近、消費者といってもいろいろな消費者がいて、事業者的な消費者もいれば、消費者的な事業者もいるというようなことで、消費者概念をにじみ出しているということであります。「生活者」という観点から、消費者問題を広く捉えるということが必要なので、その意味では委員会の先生方は非常に大変だろうと思いますけれども、それぞれが持ち味を生かして頑張っていただきたい。

あと、つまらないことですけれども、記者会見を委員長がやりますよね。記者の方とかマスコミの方を味方につけるというのは意外に大変なことで、質問に対して丁寧な説明をして、委員会の真意はこういうところにあると。マスコミの方には、こういう形で世の中に委員会はこういうことを実現したいと考えているのだということを公表していただきたいというようなことをお話しするという機会をぜひ持っていただきたいと思います。

私はたまたまたばこを吸うものですから、たばこを吸う記者の方には、たばこを吸いながら、「実はね」と言いながら話をいろいろしていたのですけれども、一生懸命そういうことも含めて、つまらないこともやらないといけないことがあります。

最後は、健康に留意して頑張っていただきたい。健康1番、健康2番ということで、頑張っていただければと思います。

私が委員長をやっていた頃の6年間に関しては、信山社というところから『消費者委員会の挑戦』という小さな本を出させていただきましたので、細かいことはそちらを見ていただければと思います。

どうも失礼しました。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

それでは、続きまして、後藤先生、お願いします。

○早稲田大学後藤名誉教授 後藤です。よろしくお願いいたします。

本日は「消費者行政の課題と消費者庁・消費者委員会の役割」というテーマで意見を述べさせていただきます。

まず、消費者行政の課題ですけれども、消費者行政にどのような課題があるかについては、消費者委員会あるいは消費者庁においてまさに日々取り組んでおられる事柄であり、私がここで申し上げるまでもないことですが、消費者庁と消費者委員会の役割や連携を考える上で前提となる問題ですので、第7次の消費者委員会での経験を通じて、私が消費者行政の課題と考えているところを若干述べさせていただきます。

第7次の消費者委員会は、令和3年9月から令和5年8月までの期間でしたが、この時期に並行して、消費者庁では、消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会が令和4年8月から令和5年6月まで15回にわたって開催され、令和5年7月に議論の整理が取りまとめられています。この懇談会は、消費者契約法の改正が壁に当たっている状況などを踏まえ、高齢化の進展による認知機能が不十分な消費者の割合の拡大、SNSやAI等の技術の進展により人間の限定合理性や認知バイアス等が容易に攻撃され、消費者に不利で不公正な取引が広範に生じやすい状況の発生、消費者が国境を越えて取引する消費者取引の国際化が急激に普遍化していること等の消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者法を理念から見直し、その在り方を再編し、拡充しようとするものです。

そして、現在、消費者委員会において、消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会が開催され、有識者懇談会において提示された整理をより深める議論が展開されています。その意味では、消費者契約法の成立前後の状況を踏まえて、平成15年に内閣府国民生活局が公表した「21世紀型消費者政策の在り方について」から20年を経て、現在それに匹敵する、いや、それ以上の消費者法の再編・拡充の時期を迎えているといえると思います。

この一連の検討の成果を踏まえた消費者法を推進するための消費者行政の在り方を考えるのが現在の課題であると思いますが、パラダイムシフトに関する専門調査会は現在進行中であり、まだ最終的な成果の公表に至っていません。そこで、ここでは消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理及び私が経験した第7次の消費者委員会の活動を素材として、消費者行政の課題について私が考えるところを述べたいと思います。

スライドの2枚目ですけれども、消費者行政の課題として取り上げるべき重要な問題として、まず消費者を取り巻く環境の変化に対応する消費者行政の推進を挙げることができると思います。具体的には、高齢化への対応とデジタル化への対応を取り上げます。

まず、高齢化に関して、第7次の消費者委員会では、スライドの3枚目ですが、消費者基本計画工程表の改定に関して、令和4年12月の意見で、高齢者や障害者等の脆弱性を抱える消費者を保護するための取組が重要であることや、地方公共団体の消費者行政部局や消費生活センターのみならず、福祉部局をはじめとする関係部局、法テラス等の関係相談窓口等との連携が極めて重要であることから、これらの連携の取組を担保できるよう、工程表に反映させることなどを指摘し、スライドの4枚目ですけれども、令和5年3月の意見では、高齢者や障害者の消費者被害の状況を把握するKPIを設定することが重要であることなどを指摘しています。

これに関連し、スライドの5枚目と6枚目ですけれども、認知症及び高度認知障害の高齢者数と有病率の将来推計を掲げたスライドですが、これによりますと、認知症及び高度認知障害の有病率の合計値は、2022年度時点で約28パーセントであり、2060年度には約35パーセントになると推計されています。まさに誰もが認知症になり得るという認識の下、認知症になっても生きがいや希望を持って暮らすことができるよう、認知症バリアフリーの推進、社会参加機会の確保等、認知症基本法に掲げる理念・施策の推進に取り組んでいくことが重要になっています。

以上は高齢者への対応の問題ですが、有識者懇談会における議論の整理は、さらにこの視点の対象を拡大し、スライドの7枚目と8枚目ですが、デジタル化の進展やそれに伴う情報過剰によって複雑化する社会の中で、自らの消費者取引のために必要とされる判断力が十全でない原因は、認知症に限らない軽度認知障害や発達障害、境界知能など、拡大かつ多様化しており、相当割合の国民あるいは多くの人が、人生の相当長期にわたって種々の類型的・属性的脆弱性に起因する認知機能上の課題を抱えている社会を前提とした規律や仕組みを構築していくことが必要であると指摘し、これを踏まえて、消費者本人の意思を保存したり、その判断をサポートする仕組みの導入や、認知機能や判断能力を推定する技術の利活用の促進などの多様な手法を通じて、消費者取引から排除することなく、多様な主体が安心して消費者取引を続けることができる社会を実現するための規律を消費者法において整備することが求められるとしております。

また、スライドの9枚目ですけれども、パラダイムシフトに関する専門調査会においても、類型的・属性的脆弱性について言及されています。

さて、消費者を取り巻く環境の変化に対応する消費者行政の推進に関連して、次に問題となるのはデジタル化への対応です。

これにつきましては、スライドの10枚目ですが、第7次消費者委員会において、本会議で取り上げたものだけでも多くの問題を検討しています。とりわけ第7次で議論したものとして、デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループの検討がありまして、これに力を注ぎました。このワーキング・グループは、近年、SNSの利用率が増加し、コミュニケーションツールとして広く利用されていることを背景に、SNS関連の消費生活相談件数が年々増加していることから、それへの対応を検討することを目的として組織されたものです。

このワーキング・グループは、前半が令和4年2月から8月まで、後半が令和5年1月から7月までの全部で15回開催されておりまして、それぞれ令和4年8月と令和5年8月に報告書を公表しています。そして、令和4年8月の報告書に基づく建議と意見、令和5年の報告書に基づく意見が取りまとめられています。

令和4年の報告書の内容は、スライドの12枚目に示しましたように、執行強化や周知の問題、事業者の自主規制の問題、制度的手当の問題に分けることができ、制度的手当の問題として、通信販売ではあるが積極的な勧誘がなされる類型について、場面ごとに整理の上、勧誘規制の内容を検討すること。また、現行法の対応や自主規制でも被害の拡大防止が不十分な場合には、行政規制の対象とするよう検討することが必要であることを指摘しています。

令和4年9月の建議で取り上げられているのは、スライドの13枚目から16枚目にありますように、特定商取引法の執行強化と電話勧誘販売の解釈の明確化及び周知、それから消費者安全法の活用などでありまして、報告書で取り上げられている制度的手当の問題は取り上げられていません。

建議はこういう状況だったということでありますけれども、これに対して令和5年8月の報告書では、スライドの18枚目にありますように、必要と考えられる規制として、勧誘に先立っての事業者名、販売目的等の明示、禁止行為の創設、民事ルールの創設が提案されておりまして、これを受けた意見では、同様の趣旨の内容が示されております。つまり、制度的手当についての問題が盛り込まれているということになります。

この経緯を見ますと、特定商取引法が広告規制を中心とする古い規制のままで、現在の通信販売に適したものではなく、制度的手当が必要であるとする報告書の内容は、意見には反映されているものの、建議には反映されていないということになろうかと思います。

さて、第7次の消費者委員会が取り組んだもう一つのワーキング・グループとして、消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループの第3弾の検討があります。このワーキング・グループは、公正な市場を実現するために、中長期的な観点から、取引分野の消費者法におけるルール形成の在り方及びルールの実効性確保に資する方策、並びに行政、事業者、事業者団体、消費者、消費者団体等の役割について検討する目的で、平成30年2月8日の第266回消費者委員会本会議において設置されたものですけれども、第7次の消費者委員会では、自主的取組や民事ルールでは対応し切れない悪質商法に関して、実効的な法整備や違法収益の剝奪、財産保全等の制度について検討を進め、令和4年8月の中間取りまとめを経て、令和5年の報告書の公表まで、14回検討を重ねたものです。

こうした多数消費者被害を生じさせる悪質商法への適用可能性がある現行制度としては、スライドの20枚目ですけれども、民事的手法、行政的手法、刑事的手法等にわたる多様な制度があるわけですが、スライドの22枚目にありますように、現行制度による対応には限界があり、報告書は、スライドの23枚目にありますように、被害を回復するための具体的方策や制度的手当の創設を提案しています。

そして、この報告書を踏まえて、スライドの23枚目から25枚目で示した令和5年8月の意見が取りまとめられています。その骨子は、多数消費者被害の発生抑止、回復のための公私協働であり、スライドの25枚目にありますように、種々のルールを被害の予防・救済という目的を実現する手段としてどのように組み合わせることが最善かという観点から検討することが重要であること。それから、破綻必至商法のような分野においては、事業者、消費者間の問題、つまり民-民の問題についても、行政庁による破産申立権限の創設など、行政が一定の役割を果たすべきことが重要であることが述べられています。

事業者の不当な収益を剝奪し、被害者を救済するための制度については、消費者庁及び消費者委員会設置法附則第6項で、政府は、消費者庁関連3法の施行後3年をめどとして、加害者の財産の隠匿または散逸の防止に関する制度を含め、多数の消費者に被害を生じさせた者の不当な収益を剝奪し、被害者を救済するための制度について検討を加え、必要な措置を講ずるものとするとされたのをはじめとして、検討が重ねられてきたテーマでありまして、第7次消費者委員会の報告書及びこれに基づく令和5年8月の意見は、この問題に対する現時点で考えられる具体的な方策を提示した極めて重要な成果と自負しておりますけれども、意見としての取りまとめということになっているということであります。

なお、令和5年8月の意見では言及されていませんけれども、スライドの26枚目にありますように、ここでの多数消費者被害の救済のためには、消費者団体の役割も重要であると思われます。

以上、消費者行政の課題として、消費者を取り巻く環境の変化に対応する消費者行政の推進という課題と、多数消費者被害の発生抑止・回復のための公私協働という課題を取り上げましたが、これらの消費者行政の推進においては、消費者政策におけるEBPMの推進が不可欠です。

スライドの27枚目の令和4年12月の意見では、消費者政策の企画立案に当たってはEBPMを推進していくことが必要であり、EBPMを実践するためのロジックモデルの構築に当たっては、施策の効果の検証が可能となるようにKPIの設定を行うことが重要としていますが、このようなEBPMの推進は、とりわけ消費者を取り巻く環境の変化に対応する消費者行政の推進という課題を着実に進めるために、今後ますます重要になっていくものと思われます。

さて、スライドの28枚目ですけれども、以上に示した消費者行政の課題をまとめますと、第1に、消費者を取り巻く環境の変化に伴う消費者問題の複雑化への対応、第2に、自主規制も含めた種々のルールの組合せによる消費者被害の予防・救済というのが現在の消費者行政の課題ということになるのではないかと思います。

消費者委員会が建議や意見を取りまとめる場合、建議とするか意見とするかという問題がありますが、第7次消費者委員会で発出した件数は建議1、意見11であるのに対して、例えば第2次消費者委員会での発出件数は建議7、提言6、意見17であり、第7次では建議の件数が減少しています。こうした第7次消費者委員会における建議の減少の根本的な原因は、先ほどまとめました消費者を取り巻く環境の変化に対応するための方策、そして種々のルールの組合せによる予防・救済に対応するための方策という困難な問題を扱うものであったからではないかと思います。

もっとも、困難な問題であるからといって、日々生じている被害を放置しておいてよいというわけではもちろんありません。建議が消費者委員会の監視機能として最も重要なものの一つであることを考えますと、建議と意見等との区分について、問題となっている状況に応じたより柔軟な取扱いをすることも考えられるのではないかと思います。

次いでスライド29枚目では、第7次消費者委員会について気がついたところを記しています。この時期に、既存の部会や専門調査会は従来どおり活発に審議を行ってきましたが、私が以前に経験した消費者契約法専門調査会や特定商取引法専門調査会のような、法改正を目的として諮問を受け、答申をするという新たな専門調査会の設置がなかったためか、消費者委員会の審議会機能が若干低下したかもしれません。

他方で、各種団体等から消費者委員会に寄せられた意見を議論する機会が増えたことなど、消費者の声を消費者行政に直接届けるという役割は強化されたと思います。この点を一層強化するなどして、例えば消費者安全法第43条の勧告につなげるというようなことも考えられるのではないかと思います。

また、消費者団体調査等を通じて政策提言機能等、消費者団体の役割についても成果を得ることが第7次ではできたと思います。さらに、オンラインセミナーの開催等を通じた広報活動の強化も図られたものと思います。この方向は、第8次専門調査会では公式Xや公式ユーチューブの開設へと一層強化されております。

最後に、まとめとしてスライドの30枚目ですが、これまで述べてきましたような消費者行政の課題に対応するためには、消費者庁と消費者委員会の連携強化が不可欠です。とりわけ消費者を取り巻く環境の変化を迅速に把握するためには、消費者委員会の消費者の声を消費者行政に直接届けるという役割を一層強化する必要があると思われます。先ほど松本先生の御報告で、消費者の声を反映させることが重要だというお話がありましたが、私も同意見であります。

また、ルール形成ワーキング・グループやパラダイムシフト専門調査会のような消費者法の基本に関わる総合的・長期的な検討は、部会や専門調査会、そしてワーキング・グループでの豊富な経験を有する消費者委員会において扱うのが適しているのではないかと考えます。

結論として、消費者問題の複雑化やルールの多様化が進む中で、現在、審議会機能を含めた消費者委員会の役割がより発揮されるべき時期にあるのではないかと考えております。

以上です。どうもありがとうございました。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

以上で3名の皆様からの御発表が終了しました。

これより全体を通じて、少し時間が押していますが、60分程度を予定して意見交換をしたいと思います。いかがでしょうか。御質問、御意見等があればお願いします。

今村委員、お願いします。

○今村委員 私、質問させていただきます。

今までの経緯とこれまでの先生方の経験に基づく我々への提言、本当にありがとうございます。

松本先生にお聞きしたいことが2つあります。

最初に委員長をされたということで、当初どのような状態だったかということをぜひ教えていただきたいと思います。まず、資料で申し上げますと、先生のスライドの消費者庁と消費者委員会の関係のところにある大臣が同じであるという問題について、実際に立ち上げ当初はどうだったかということを教えていただければと思います。

今、事件が起こるたびに、我々も消費者委員会としての意見を言うことと、消費者庁としての動きとの調整をしているわけですけれども、やはり大臣が同じであるので、意見としてもう少しやったほうがいいのではないかという意見は、最終的に大臣のところで調整が行われますから、これでは足りないのではないかということは、なかなかこちらの判断としては言いづらいという状況があると思います。実際、たくさんの建議を出されてきたと思うので、そのところはどのようにされてきたのかを教えていただきたいと思います。

それと、救済行政のことについて触れていただいていることについて、最初のページに、消費者問題としてヒ素ミルクやカネミ、スモンなどの薬害なども含めてのお話があります。私、実は厚生省に勤務しておりましたけれども、全て担当していた事件なのですが、規制官庁が救済をするということにすごく不自然さを感じております。犯罪に対して警察庁が救済するのかというとそうではないのですけれども、ほかの規制そのものを中で起こった事件に対して救済するということについては、先生のお考えとしてはどのように考えておられたのかということを教えていただければ。

以上2点、もし分かれば教えていただければと思います。

以上です。

○鹿野委員長 それでは、お願いします。

○一橋大学松本名誉教授 1つ目の発足当初どうだったのかという話です。発足当初は、委員の多くは消費者庁の設置の議論に深く関わっていた方であったということもあって、意気軒高として、消費者委員会を消費者庁の外につくることの意味を非常に強く意識をして、いろいろやろうとしていたということがあります。大臣がどなたかによってその辺りは大分変わってくるのですけれども、消費者庁・消費者委員会設置後きわめて短期間の野田大臣の時期を経て、政権交代後の最初の大臣は当時の社民党の福島党首だったのです。福島大臣は、とりわけ危険な食品関係の問題について、かなり積極的に消費者庁としての権限を行使するということをやっておられました。その後、大臣も短期間で何度も交代して、独立行政法人の仕分けというのが政府の主たる課題になり、消費者庁としても国民生活センターを廃止するという議論になってきました。それに対しては消費者委員会の委員のほとんどの人が、経済界出身の方も含めて、おかしいのではないかのという方向で議論していたのですけれども、消費者庁との考えが一致しないまま任期満了にまで行ったというところがあります。時の政権がやろうとしていることに対して、消費者委員会は無力だということを非常に実感しました。

これは当たり前といえば当たり前の話なのです。個人で言うのは自由だけれども、政府の組織が、しかも同じ大臣の下にある組織が何か批判的なことを言えるのかというと、それはできないでしょう。この経験から、消費者委員会の監視機能というのをあまり強調しないほうがいい。それをすると自縄自縛になって動けなくなるので、そうではなくて消費者の声を政府に届けるのだと、消費者庁に届けるんだということであればそんなにおかしな話ではなくて、政府としては、そのとおりやるつもりはないけれども、意見はお聴きしますという態度は取れると思うのです。ですから、消費者庁がやろうとしていることを支援するという形のことはいっぱいできますし、何かをしたらどうですかという提案、消費者庁が同意するような提案をして進めていくというのも当然できるのだけれども、そうではないようなことについては大変難しいだろうということです。

ただし、消費者庁以外の役所に対して何かやってくださいという、当初の消費者庁をつくるときの理念としての消費者庁が司令塔になるとか、監視役を果たすということを消費者庁と消費者委員会が一緒にやるというのは、十分あり得るのです。消費者庁がそういうことをやりたいのだけれども、直接他省庁に言いにくいというような場合に、消費者委員会が代わりに言うということはあり得るので、監視機能は、消費者庁と消費者委員会が一緒にやる場合には発揮できる可能性がある。けれども、消費者委員会が消費者庁を監視するというのは、なかなか難しいだろうということです。

2つ目のご質問の救済行政の話ですが、主務官庁が救済までやれますかというと、行政的な手法で薬害の救済をやるというのはあり得ると思うのです。実際に政府としてそういう法律をつくったりしています。ただし、ここで言っている救済は英語のcivil remedy、民事救済の話なので、社会保障的な意味の救済ではありません。社会保障的に薬害のための基金をつくって何かやりましょうというのは主務官庁が今までやってきたし、今後もやっていただければいいと思うのです。そうではなくて悪質業者が消費者をだましたというようなケースにおいて、全て個々の被害者が自分で裁判をやらなければならないのですか。悪質業者の資金を全部自分で追跡して押さえていかなければならないのですかという話です。この点で、海外では、本来、民事的な損害賠償で請求できる部分について、行政が様々に協力してやっているということなのです。アメリカが典型的で、FTCにしろSECにしろ行政規制をやっている機関が消費者の代わりに裁判をやったり、あるいは課徴金といいますか民事罰(civil penalty)いう形で、事業者の不当に得た利益をがばっと押さえて、それを被害救済のほうに回せるというような仕組みもあるわけなのです。あるいは、アメリカの州法だと、州の司法長官、日本で言えば法務大臣と検事総長と消費者庁長官を合わせたような役職があります。パレンス・パトリエ(parens patriae)と英語で言いますけれども、司法長官は、家父、州民のお父さんだということで、州民の代わりに民事裁判、損害賠償請求をやって、お金を取り戻せるというような制度もあるのです。

日本はヨーロッパ法の伝統ですから、その辺の発想が大分違うわけですけれども、本来消費者が損害賠償として取れるはずの被害回復の部分について、行政がもっと関与していけるような仕組みがあっていいのではないかという趣旨です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

今村委員、よろしいですか。

○今村委員 ありがとうございます。

先生の知見をお聞きして、自分の考えとまたなじませて、世間に発信していきたいと思います。

どうもありがとうございました。

○鹿野委員長 それでは、大澤委員、お願いします。

○大澤委員 先生方、どうもありがとうございました。直接伺うべきところ、午後に所用があって伺えず申し訳ありません。

2点質問がありまして、1点目が今の救済行政に関わるところなのですが、やや観点が違うかもしれないのですけれども、松本先生に伺えればと思います。救済行政のスライドのところも拝見しましたけれども、確かに日本では民事の救済に関して、例えば民事差止めとかに関して、行政機関が何か直接、例えば裁判所に差止めを請求するとかそういったことはないと思います。確かに海外では、私が知っているのはフランスですが、行政機関が例えば不当な条項の差止めをする権限などを持っているという形で、救済なのか予防なのか両方かもしれませんが、そういう形で行政が管理をするというシステムはあります。

これは確かに日本にはなくて、消費者庁、消費者委員会にそういう差止め権を与えるべきということまでを言っているわけではないのですが、日本の救済というのは、どのレベルを救済と言うかというのはいろいろあるのですが、どちらかというと裁判外で少なくとも消費者の声を聴くと。相談・あっせんに関しては、地方公共団体、相談機能がかなり充実していると思います。それとともに、充実しているというポジティブな見方もできますが、そちらにかなりかかりっ切りになってしまっているというか、そこがかなり中心になってしまっているということがありますので、救済という観点から、例えば消費者団体あるいは裁判外ですけれども消費生活センター等々以外に、消費者庁、消費者委員会がどういう役割が果たせるかということは検討の余地もあるのではないかと感想として持ちましたが、私、もしかしたらきちんと理解できていないかもしれませんので、この点についてお話を伺いたいと思います。これが1点目です。

その他松本先生の御報告に関しては、公正取引委員会との関係については、非常に共感するところが大きかったです。やはり海外では競争行政と消費者行政を同じ機関が扱っている。もちろん中で細かく部署は分かれていると思うのですが、一つの機関が扱っているところがありますので、ここは全く共感しました。

2点目は、後藤巻則先生のスライドと御報告を伺っていて感じたことでありますが、後藤先生のほか河上先生、松本先生にも御意見を伺えればと思っている点です。

スライドの最後のほうなのですが、消費者庁、消費者委員会の役割というところで、私のパソコンの手元で言いますと29ページ目だと思いますが、同じですね。29ページ目のところで、私も今、消費者委員会の委員を拝命していまして、消費者委員会が審議会としての役割というか、いろいろ消費者庁、関係行政機関に意見を述べる等々の役割があるというのはもちろん分かっていて、その点の責任も感じているところではあるのですが、拝見していて、29ページ以降に、消費者委員会にこういう役割があったほうがいいのではないかという話が書いてあって、全く共感するところなのですが、例えば30ページの最後のところにあります消費者問題の複雑化やルールの多様化が進む中で、審議会機能も含めた消費者委員会の機能がより発揮されるべき時期にあるということで、全くこれも本当に共感をするところなのですが、具体的に消費者委員会は、確かに消費者委員会という独立した立場から、現在の消費者問題全体を見渡し、かつ消費者法ルールあるいは法制度等々、私は法律の専門家なのでそういう観点でどうしても話をしてしまうのですが、そういうのを客観的に外から眺めて整理したりできる役割にあるのではないかと思っています。

そういった機能を審議会ももちろんではあるのですが、例えば28ページに制度・運用の改正・改善等々に向けた建議、意見を消費者委員会が出すということで、建議、意見を何か活用して、例えば複雑に絡み合っているルールだったり、問題だったり何か整理をして、建議、意見というと何か一つの細かい個別の問題という感じはあるのですが、そうではなくて、それだけではなく消費者法システム全体を見渡すような、あるいはそれについて例えば法改正とかそういったものにもつながるような御意見などを消費者委員会が出すということはできないのだろうかと。個別の問題ではなく、そういったことはできないのだろうかというのを疑問として感じたということです。

あとは、やはり消費者委員会の役割として、スライドの29ページには広報活動ということが書いてありまして、例えば昨年の第7次の消費者委員会のSNSのチャット機能のものについても報告書等々を拝見していましたし、説明会をオンラインで開催していたのも存じ上げているのですが、こういう広報活動はもちろん消費者向けでもあるとともに、当然事業者に向けても消費者委員会としての今後の例えば法の在り方とか、法に限らずルールとして新しい問題にどういうものが必要となってくるか、あるいはどういうふうにやっていくかということを示す場でもあると思っているのですが、こういった広報活動に当たりまして、もちろん消費者向けだけではなく事業者向け、さらには消費者団体ですとか様々な消費者法のアクターに向けた広報活動の在り方ということで、先生が委員長でいらっしゃったときに何かお感じになったことはあるでしょうかという質問です。

いずれも抽象的で申し訳ありませんけれども、どうか御指導のほど、よろしくお願いします。

○鹿野委員長 大きく2点いただきましたので、まず第1点について、松本先生からお願いします。

○一橋大学松本名誉教授 私のレジュメの25ページを見ていただければいいのですが、被害救済についてのOECDの勧告を基にして立てている議論なので、差止めというのは対象外です。差止請求というのは、被害の予防、防止あるいは行政規制の民事版ということであって、国によっては適格消費者団体と並んで行政機関が差止訴訟をやるということもあるようです。そうではなくて本来裁判をやれば損害賠償や返金を得られるような、詐欺だとか不当勧誘といった事件において、救済方法として、裁判をやるという伝統的な方法以外に3つの方法を整備しろということをOECDが勧告しています。その最後に、行政機関が消費者の代わりに損害賠償や返金請求の裁判をやる仕組みも考えろということを言っているわけで、この手法が存在する国が結構あるのです。この手法の点では、日本は非常に遅れているという話をしました。

例えば消費者委員会の機能として、消費者裁判手続特例法の中に集団的被害回復請求に乗り出すことができるという権限を入れてもらうというのもあり得るかもしれないです。消費者委員会は、消費者行政の執行機関ではないけれども、政府機関が救済に直接関与できる仕組みはあってもいいのではないかと思っています。

消費生活相談センターにおける相談の現場での解決というのは、OECDの勧告でいえば、ADRによる個別被害救済の非常に柔らかいバージョンです。相談員が間に入って、いわゆるあっせんという活動を行って、適切な救済を実現しているケースが一定数あるわけです。これはオフィシャルなADRではないけれども、実質的な被害救済に相談員が貢献しているということで、いわゆる規制行政ではなくて、支援行政として救済の機能が実現しているということであり、私は、救済行政として分類しておりません。

以上です。

○鹿野委員長 それでは、2点目については3人の先生方皆さんにお聞きしたいということではありましたが、後藤先生のレジュメに沿った形で御質問がありましたので、まずは後藤先生からお願いします。

○早稲田大学後藤名誉教授 御質問ありがとうございました。

私が基本的に考えていますのは、現在、消費者問題、消費者法、消費者行政ということを考えるというのは、非常に難しい大事な時期にあるということでして、2003年の先ほども引用しました21世紀型消費者政策の在り方についてというところで、次の年の消費者基本法につながる議論がなされて、2003年、2004年の少し前に消費者契約法ができたということなのですが、その辺りの2000年前後の動きというのが、消費者問題への対応ということから見ると非常に重要な時期で、現在につながった骨格をつくったと考えています。

先ほどの報告でも申し上げましたように、2003年の21世紀型消費者政策の在り方についてから20年たって、現在、その2003年では想定していなかった非常に大きな問題に直面しているということでありまして、具体的に消費者委員会が扱う問題というのも、そういう問題を扱うという状況になってきているのだと、こういうことが基本的な考え方ということでありまして、では、それをどうするのかということで、消費者庁も消費者委員会も、それから各方面で対応を考えていく必要がある重要なテーマだということになるわけです。

そういう問題について消費者委員会としてどう考えていくかということですが、先ほどの御質問にもありました審議会機能ということで、第7次の消費者委員会においては、審議会機能が、もちろんいろいろな専門調査会とか部会とかで審議が活発に進められているのだけれども、私が河上委員長の時代に経験したような、法改正に直接結びつくような形で諮問を受けて答申するというやり方、消費者契約法の専門調査会とか、特定商取引法の専門調査会とか、そうした審議ということから見ると、第7次の場合には審議会機能がやや低下したかなという感じを持っていまして、これに対して、河上先生の先ほどのお話にも出てきましたけれども、検討会というものが消費者庁では活発に行われていて、まさに現在問題となっているデジタル等も含めたいろいろな検討会がなされている状況です。これは現場に軸足を置いて、すぐ対応しなければならない緊急といいますか重要な間近な問題を検討するということで、そういう組織が置かれるというのは非常に大事なことだと思うのですが、一方で、消費者委員会のほうで審議会機能を発揮するということについては、先ほど大澤先生からもお話が出ましたように、私が経験した諮問・答申というような形で、法改正に結びつく、そういうようなもの以外の割と長期的な、消費者問題全体を見渡して、そして直接法改正に結びつかないとしても、現在の問題を正確に捉え、そして提言し、消費者庁等に届けるという役割が非常に大きいのではないかと思います。

問題が複雑化しているという状況だからこそ、それからルールの組合せをどうすればいいかというようなことだからこそ、専門家等が集まって、議論するというのは大事であって、そういう意味からいうと、私も実感しましたけれども、ルール形成ワーキング・グループは、鹿野先生らが始めたもので、第7次のところで第3弾なのです。第1弾、第2弾と重ねてきて第3弾で、第3弾の活動というのは、第1弾、第2弾の問題整理に支えられて、第3弾の検討ができたということであって、そういう意味から言うと、消費者委員会の力を発揮するという点で、そのようなものは、消費者委員会にふさわしいものという感じがするわけです。長期的な視野を持って問題の解明に当たっていくということが、消費者委員会の重要な役割だと考えています。

そういう意味での審議会機能も含めての消費者庁との連携、連携という言葉を使ったときのイメージというのは、先ほど私の河上委員長時代の経験で、特定商取引法専門調査会とか消費者契約法専門調査会がそうでしたが、消費者庁と消費者委員会がまさに協力して、消費者庁に資料をいろいろ提供していただいて、そして議論を進めているということでありまして、そういう意味での連携がより強化されるということが大事ではないかと思っております。

それから、先ほども申し上げましたけれども、消費者の声を届けるという機能、松本先生はこれが非常に大事だというお話をなさっていましたが、私も審議会機能とともに、声を届けるという機能が非常に大事だと思っていまして、声を届けるというところがある意味取っつきやすいというのでしょうか、大きな問題を長時間かけて審議するということは非常にエネルギーも使うし、その間に場合によっては委員の入替えがあったりして、第何次の消費者委員会と第何次の消費者委員会が連続して扱うというような問題にもなってきます。これに対して、声を届けるというのは、実際、小林事務局長が行ったことは非常にフットワークが軽くて、オンラインセミナーとか、広報活動に伴って消費者の声を聴き、それからそれを届けるということ、そうした活動を事務局で進めていただいたと思います。

そういう意味から、事務局としては大変だと思いますが、今進んできているユーチューブを使うとか、Xを使うとか、このような活動というのが、長期的な展望というような先ほどの審議会機能とはまだ別のところで着手できるわけでありまして、今、重要な営みがなされているとは思うのですが、一層強化して、消費者の声を届けるというところに力を入れるのが大事ではないかと思います。もちろん皆さんマンパワーというのは限界がありますので、無理をしていただくということはできないと思いますけれども、できる範囲でそういう視点は大事なことだと思っています。

お答えになったかどうか分かりませんが、大澤先生のお話に対して私が感じたところはそんなところだということでお話しさせていただきました。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

3名の先生にできれば聞きたいということでしたので、松本先生、付け加えること等がございましたらお願いします。

○一橋大学松本名誉教授 消費者庁をつくろうという議論をしていたときには、消費者委員会ではなくて、消費者政策委員会という名前の消費者庁の審議会、普通の審議会でした。消費者庁から諮問を受けて、議論をして、答申を返すというものだったのです。それに対して、当時、野党だった民主党が消費者権利院法案というのを出してきた。消費者権利院というのは、自ら消費者行政を行うわけではないけれども、内閣から一定の独立性をもって各省庁に対して強力な監督・勧告ができるという、消費者庁より強い権限を持った組織で、人事院とか会計検査院のようなイメージです。ねじれ国会のため、このままだと法案が成立しないということで、国会で当時消費者問題特別委員会の与党筆頭理事だった今の岸田総理が頑張られて妥協案をまとめられたのが、消費者庁の中にあった消費者政策委員会を外に出して、内閣府の消費者委員会とするということだったのです。

消費者委員会の中身については細かい議論をしないで、言わば妥協のためにつくられたというようなところがあった。しかし、消費者権利院というのは政府の消費者行政を監視する組織であるという面がインパクトを与えていて、第1次の消費者委員会の委員は、消費者権利院ではないのだけれども、消費者権利院的なイメージでみんな頑張っていたわけです。しかも、政権交代もあったので、消費者委員会には、本来の審議会機能と、それから法案改正で付加された監視機能と2つの機能がありますという感じでやっていました。消費者庁からの諮問を受けていろいろ審議するというのは、本来の審議会機能です。食品関係などはまさにそうで、今でもそのように動いていると思うのですけれども、そうでない部分、消費者庁からやってくださいと言われたわけではないのだけれども、消費者委員会が自らの発意でもって何かの議論を始めるという部分は、監視機能とは言わないほうがいいと現在では思っています。消費者の声を政策に反映させるための機能なのだと位置づける。

では、親委員会の下に設置される専門調査会とか部会は何ですかというと、消費者庁からの諮問を受けてやる部分はまさに審議会ですけれども、そうではなくて諮問も受けていないのに勝手にやる部分というのは、審議会とはもう言えないと思っています。審議会機能とそうでない機能を両方備え持っている行政組織としての消費者委員会として、消費者庁からの諮問を受けて、事務局も消費者庁がやってまとめるというものと、そうではなくて消費者委員会が提案をして、議論をしてもらって、消費者委員会のほうがまとめるというものは、ちょっと性格が違うのではないか。しかし、名称は、常設的な部会を除けば、いずれの場合も多分専門調査会で動いていると思うのです。

現在審議されているパラダイムシフトは、消費者庁からの諮問を受けて、本来の意味の審議会としてやっているわけなので、そうするとどこまで消費者委員会の声を反映できるのか。従来の消費者委員会が出していた考え方と違うような考え方を専門調査会が出す可能性、パラダイムシフトの中間整理を見ていると、ちょっとだけそれを感じるのです。そういう場合に、親委員会の消費者委員会としては一体どうされるのかというところが、ちょっとよく分からないなという感じなのです。そこを割り切って、諮問を受けて答えを返す場を提供しているという審議会機能であれば、親委員会として、そういうまとめに反対だとしても、それはそれで、審議会であればそのままでもいいのかなという感じなのです。自分たちが提案してまとめたものについては、消費者庁に提案をして、申し入れて、実現のために努力してもらうということで、消費者庁が採用してくれない案も今までいっぱいあったようですけれども、それはそれで本来の機能を果たしている。消費者の声を政策の形にまとめて、提案するという機能を果たしているのだと考えれば、一応整理はできるのです。

ただ、それで国民全体にとって幸福ですかというのはまた別の問題で、消費者庁と消費者委員会が、今は別の2つの組織になってしまった以上は、いかに連携しながら、国民、消費者にとってプラスになる政策実現をやっていくかということが一番重要なことだと思います。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

河上先生、御発言をお願いします。

○東京大学河上名誉教授 特にはございませんけれども、消費者委員会は国民の声を代表できるような立場なのかなと今思いました。むしろ国会とかいろいろなところのほうが、形式的には国民の声を代表しているのではないかという気がします。

消費者委員会というのは、消費者問題についての専門的知見を有している各界の人が集まって、その問題を整理するというところに尽きているのではないかという気はいたします。自分たちの知見で認識が足りないところは専門調査会というところを開いて、その調査会で調査した結果を伺って、判断する。しかし、あくまで親委員会として、その判断も結果については責任を持ってやっていくという仕組みかなと個人的には思っておりました。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

大澤委員、何かございますか。

○大澤委員 多分時間も押していると思うので、1点だけですけれども、どうもありがとうございました。

最初、救済の点で私が気になった、御質問させていただいたのは、私も東京都とかのADRを実は務めたことがあるのですが、例えば不調になったときに、訴訟援助するので裁判でやってくださいといって、結局一旦消費者の利益のためのADRをやったのだけれども、結局そこが駄目だと普通の通常の訴訟に行ってしまうというところで、多くの消費者は訴訟はもういいですということで、もうそこで終わってしまうということがあったものですから、何か行政が関与しているADRとかそういうものと裁判所をつなぐようなものというか、その中間のようなものとか、そういうものに若干興味を持っていましたので、行政機関の救済というところを少し関心を持って質問させていただきました。

あとは、3人の先生方のお話を伺って、私もいろいろ今後考えなければいけない、考えたいと思ったのですけれども、特に広報活動のところで、単純に消費者の声を受けて、それを消費者行政に届けるという役割があるというのは非常にもっともなのですけれども、他方で、消費者委員会が審議したことを消費者庁に届けるということだけではなくて、消費者だったり事業者に示していく考え方、しかも大局的な見方ができる消費者委員会だからこそできることがあるのではないかということを思って質問させていただいた次第です。

どうもありがとうございました。

○鹿野委員長 ありがとうございます。

それでは、黒木委員長代理、お願いします。

○黒木委員長代理 15年前、日弁連で消費者庁と消費者委員会設立のための署名活動をしていた私にとって、三賢人の先生方を目の前にして緊張しますが、3つの質問をさせていただきます。

1. 消費者委員会の監視機能について

現在の第8次消費者委員会では、第5期消費者基本計画の策定に多くの時間を費やしています。第7次消費者委員会では、第4期消費者基本計画について工程表も含めて細かく検討し、KPIやEBPMも検討しました。

委員会は、基本計画の遂行状況や作成過程について、独自の権限で深く掘り下げた意見を消費者庁や関係省庁に提出できるはずです。この形での監視機能は委員会に残されているのではないでしょうか。この点について、三賢人の先生方のご意見をお聞かせください。

2. 司法と行政の連携について

松本先生の救済に関する指摘や、河上先生の実体法に関する考察、さらに後藤先生からご紹介があった第7次消費者委員会でのルール形成ワーキング・グループでの議論を踏まえると、救済としての司法と行政の関係が重要です。2024年9月号の法律時報でも司法と行政の連携が特集されていました。

中長期的に見て、司法と行政をうまく結びつける機能や提言を、消費者委員会として深く掘り下げていくべきではないでしょうか。この点についても三賢人の先生方のご意見をお聞かせください。

3. 決済制度の透明化について

お手元に差し上げておりますが、第8次消費者委員会は、本日第5期消費者基本計画に関する第2弾の意見書をまとめました。その中で、今後5年間で必ず取り組むべき事項として決済制度の透明化を挙げています。現代の決済制度による財の移転は単なる弁済ではなく、複雑な当事者間の複数契約により債権債務関係となって財が移転しています。

これについて、行政による行政規制として割賦販売法、資金決済法、銀行法、さらには通信キャリアに関わる総務省の規制など、様々な業法が関係します。一方で、司法が取り扱う実体法上で考えると複数の当事者間の複数契約は相互に影響しないという原則もあります。

このように実務的にも理論的にも難しい決済制度の透明化を、消費者委員会として深く掘り下げ、今後5年間の課題として検討していくことについて、三賢人の先生方のご意見をお聞かせください。

以上、3点についてご意見をいただければ幸いです。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

3点全てそれぞれの先生にということでございましたので、まずは松本先生、お願いできますか。

○一橋大学松本名誉教授 今まで言ったことの繰り返しですけれども、意見を出すということは、監視とまで大仰に言う必要はないと思うのです。「監視」という言葉で自縄自縛になるとあまりよくないところがあるので、そうではなくて意見を出すのだと。その意見は消費者の観点からの意見なのだということで、消費者の声を政府に届けるということを専門家的な発想も中に入れた上でやるのだと。生の声を直接に届けるだけならもっと別の組織でもいっぱいやれるわけなので、それを少し加工して、政策につなぐような形で声を届けるということだと思っています。

それから、救済に当たっての行政と司法の関係です。日本は完全に分離してしまっているのだけれども、もう少し融合してもいいのではないか。行政の中でも、警察行政の役割は大変大きいのですけれども、警察行政と消費者保護のつながりはまだ非常に限られているわけです。あるいは、金融行政についても、悪質業者にお金を巻き上げられたのを取り返すのが今、非常に困難になっている。資金の追跡がなかなかうまくできない。この辺は、金融行政のほうがしっかりやってくれればちょっと変わるのではないかと思います。最近の新聞で、金融庁が資金決済法や貸金業法の改正で少し積極的な方向性を示しているので、非常に期待しているところです。

以上です。

○鹿野委員長 それでは、河上先生、お願いします。

○東京大学河上名誉教授 3点お話しになったこと、基本的には賛成であります。

ある程度深掘りして意見を出していくということが必要なのだろうと思いますけれども、ただ、あまり無理されないほうがいいのではないかと思いますので、もやっとした形でいいから、現状認識を相手に伝えるというようなことからスタートされればいいかなという気がいたします。

それから、司法とのあれですけれども、これはやはり必要だろうという気がします。これまでいろいろなお金を実際に返還するところまで行かなくても、一定のお金を返したら、そのための課徴金は減らすというような仕組みがありますけれども、ああいう形で循環させて、救済との連携を行っていくというようなことは、これからもいろいろなところであっていいのではないかという気がいたしました。

決済制度の透明化は、私はよく分からないので、勘弁してください。

○鹿野委員長 ありがとうございます。

後藤先生、お願いします。

○早稲田大学後藤名誉教授 1点目ですけれども、消費者基本計画の工程表に関しては、第7次でも非常に時間を使っています。実際、第7次の活動を一覧表にしたものを、第7次の最後かその前の本会議で示してもらいましたけれども、その中で消費者基本計画に関する問題というのが非常にたくさん項目としてあるということでして、そういう意味で、消費者委員会が監視と言うかどうかは、先ほどの松本先生の問題提起もありまして、監視と言うかどうかという問題はありますけれども、消費者委員会が従来、力を入れてきたところであって、第7次もそうだったと思います。

ただ、第7次の中で一つの動きとしては、工程表が割と簡素化されるというか、非常に大部であるものを、これを全部読んでいる人はいないのではないかというようなことを言う人もいるぐらいのものであって、それを重点項目というような形でスリム化して、部分的には消費者白書のほうに内容を移すというような動きがあって、基本的には大部なものをより分かりやすく整理して、コンパクトにするという方向は正しいと思うのですけれども、そこで重点項目から漏れてしまうものとか、KPIとか、今の問題意識が十分に継承・発展されていくかどうかということについては、やや見ていかなければいけないかなという感じはしております。

そういう意味で、第8次の消費者委員会としても、言いたいことは言えるというような感じで工程表に関して対応していくというような問題意識を持って、必要であれば細部を含めた疑問点を届けるとか、そういうこともあると。消費者庁のみでなく、全省庁にわたっていろいろなことを言えるということでありますので、このことについては非常に重要であって、そこが何か内容的にも簡素化されるということになるとちょっとどうかという感じはしております。

2番目の司法と行政の関係なのですけれども、司法と行政の関係についは、私法と行政の関係も問題になります。例えば、第7次のルール形成ワーキングで検討したところですと、消費者庁に破産の申立権限を与えるというようなときに、そこに裁判所が関与するという形で、裁判所の関与があるから行政が関与する正当性が担保できるということでして、そういう意味での問題というのは、特にルールが多様化するという中においては、非常に大事な視点になってくるのではないかと思います。

それから、消費者委員会の活動とは少し離れる部分もあるのですけれども、司法というのを例えば裁判で民事ルールを適用するというような側面で考えると、行政と民事ルールの関係というのが考えなければいけない重要な問題になってきて、現在、先ほど消費者を取り巻く環境の変化ということで、今、大事な問題だと私は認識しているのですけれども、裁判所が判断することに非常に迷うような場合もたくさんいろいろなところで出てくる。そういうときに、実際、行政で一定のルールを法律まで行かないとしても通達とかガイドラインとかで示していくということを手がかりとして、司法、裁判所が不法行為の成立を判断するなど、一定のことを行っていくというのは、問題が複雑化して細分化すれば、あるいは専門化すれば、より必要なことになってくると思います。

裁判官もある意味、実際に持ち込まれる問題については素人ということがありますので、法律については専門家ですけれども、実際持ち込まれる問題は、例えばデジタルの問題なんかは一つそうなのですけれども、デジタルの専門家でないと分からないというようなことがありまして、その分からないというところは、むしろ行政のほうがキャッチできるということがありますので、そういう意味での協力というのは、より推し進める必要があるのではないかと思います。

それから、決済制度のことについては、今、黒木委員長代理にお話しいただいたように、中長期的な展望を持って考えていかなければならない重要な問題であって、ルール形成ワーキング・グループが第7次で第3弾だったのですが、あまり待ってもいられないのですけれども、そういうような時間を要する問題であっても、時間をかけて、根本的なところについて専門家を集めて議論していくというのは、消費者委員会の本領発揮の部分ではないかという感じがします。消費者庁は現場での問題の対応ということで、直近の法律改正とかでかなり忙しいということもありますので、直近の法律改正とか現場での行政処分とかいうようなこととは離れたところに存在しているということから考えると、そういう問題こそ消費者委員会で扱うことが適していて、決済制度について扱っていくことは大事なことだと考えています。

以上です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

 

黒木委員長代理。

○黒木委員長代理 ありがとうございました。

今日聞きたかった3点を全部お答えいただきましたので、私今日は大変満足です。ありがとうございました。

○鹿野委員長 ありがとうございます。

ほぼ予定した時間が来ているのですが、ほかに御発言があれば。それでは、小野委員から中田委員ということで、お願いします。

○小野委員 本日はどうもありがとうございました。

お尋ねをしたいことはこれまでに既に出ておりましたので、とはいえ何も申し上げないのは失礼かと思いまして、所感だけ述べさせていただきます。

私自身、法律の専門家ではなく委員をお引き受けして1年たっています。そこでどこまでちゃんと仕事ができているのかというのが不安になることもあるのですけれども、これまでの御発表、それから議論を受けまして、例えば審議会のような側面があると。監視機能というより、もしかするとそういったところで私はお役に立てるのではないのかなと思って、強く心を持っております。直接届いた消費者の声を届けるのではなくて、専門家として伝えていく、凝縮をさせる、そこが専門家としてやっていくべきことなのかなと思いまして、心強く思いました。どうもありがとうございました。

○鹿野委員長 ありがとうございます。

それでは、中田委員、お願いします。

○中田委員 大変学びの多い貴重なお話を伺わせていただき、ありがとうございました。

消費者委員会委員の一人といたしまして、消費者行政に対して自身が何を伝えていくべきか、改めて考えさせられました。

その上で2点御質問があります。

1点目は、消費者委員会と消費者庁の連携の在り方に通ずる点なのですが、私はこれまで民間企業の経営に携わってきまして、委員を拝命する以前は、一人の消費者としては、消費者問題解決の包括的な最終責任は、その名のとおり消費者庁にあるという認識を持っておりました。ただ、1年委員をさせていただいて、消費者問題解決には複数省庁と複数法律が想像以上に複雑に絡み合っているという認識を新たにいたしました。

一方で、そのような複雑な状況下で、消費者行政の司令塔である消費者庁が、その責任と権限を十分発揮されることに時に苦慮されているのではないかというように感じることがありました。特にこの上半期、機能性表示食品の在り方に関して、答申と附帯意見を出すまでの複数省庁との議論において、消費者委員会及び消費者行政の司令塔である消費者庁は、課題の主管省庁に対してどれだけの影響を持ち得るのかということをとても考えさせられました。

新しい消費者問題が日々起こる中で、課題の特定は適宜行われている一方で、包括的な課題解決のボールは誰が持っているのであろうという疑問を感じることが時々ございます。松本先生の御発表にもございましたが、消費者委員会が担うべき責任について再考の余地はあると思いますが、現状、国民の意見や苦情に近く、政策に直結させることが可能な独立性を持つ消費者委員会の存在やその議論が、消費者庁が他省庁と協議・調整される際の武器になるよう後押しをしていければと考えているのですが、この点、第8次の消費者委員会は今後どのように消費者庁と連携を図っていけばよいかということを、できれば3人の先生方にと思ったのですが、お時間も限られていると思いますので、直近の委員長でいらっしゃった後藤先生に御助言をいただければと思います。

2点目として、松本先生の御説明の消費者行政において事業者と消費者のウィン・ウィンの関係構築や仕組みはとても重要であるという視点、私、大きな気づきをいただきまして、この1年間の議論においても、消費者保護という名の下に、行政と事業者は規制する側とされる側という、どちらかというと対峙するような立てつけでの議論が多くなされてきて、議論への事業者の参加がすごく限られていたと感じました。消費者庁を経済官庁としても位置づけ、市場の活性化に寄与するという視点を持つ必要があるという御教授をいただきましたが、これは消費者委員会あるいは消費者庁としてどのように進めていけばよいか、もしアプローチの方法があれば松本先生にお伺いしたいと思います。

この2点です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

それでは、1点目について、後藤先生、お願いします。

○早稲田大学後藤名誉教授 非常に大事な御質問で、答えも難しいという感じがするのですが、結局、包括的な課題解決のボールを誰が握っているかということは、その問題が複雑だと、実際誰がどう動いたらどういうふうな解決に行くかというようなことの見渡しが難しいという状況でして、先ほど何回も申し上げますけれども、消費者契約法の専門調査会とか、特定商取引法の専門調査会とかですと、ある程度ゴールが見えていて、法改正に結びつかないものもあるのだけれども、結局一定程度は法改正に結びつくということであって、そのときに例えば消費者委員会の専門調査会がボールを握っている、それをしっかり届けるということになると思うのですが、例えばデジタルの問題をどういうふうに考えるかというと、特定商取引法の通信販売の規定がもう古くなっているので、それを直そうというような形で議論をする場合に、そこに特化する議論をするということになると、ボールは確かに消費者委員会が握っているという感じにはなるのですけれども、そのボールをしっかり握るのがそこで本当に正しいのかどうかがよく分からないという状況なのです。だから、今の御質問に関しては、第8次においても検討していただきたい悩むところなのです。

誰かというのは組織とかそういうことになりますが、結局誰がどういうような行動を取って、どう実現していけばどういうふうに動くのかということに関しては、先ほどの2003年の21世紀型消費者政策の在り方についての時代より難しくなってきているということであって、その中で消費者委員会の役割を発揮するというのはどういうことなのか。ボールを握るのも、握り方を間違えると消費者委員会として適正なことができるかどうかということにも関係してきますので、そういうことも考える必要があって、そういう意味では、消費者委員会というのは専門家の知の集合体ですので、消費者委員会の委員の方々が知恵を出し合って考えていくということであって、私たちはもう退任しましたので、例えば第8次で意見を出していて、この意見は非常に充実しているなとかいう形で拝見はしていますけれども、応援団という形になりますので、しっかり応援をしたいと思っていますので、頑張っていただきたいと思います。

以上です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

それでは、2点目について、松本先生、お願いします。

○一橋大学松本名誉教授 ウィン・ウィン型の消費者行政あるいは消費者政策と言うは易いが、実現はどうなのですかという話です。理念的には、私は最初のほうで言いましたけれども、消費者法は消費者を保護するだけではなくて、公正な競争環境を整えるための一つのツールなのだと考えているので、公正な競争が実現できれば、多くの事業者にとってプラスになるはずなのです。経済学的な理論でもそうだし、法律学の理論でも同じですけれども、最近、立法をしようとすると、それは事業者の自由を制限することになって、むしろ経済発展にとってマイナスだという反対論が出てくるのです。これは消費者保護の分野に限らず、独禁法の分野でも同じだという話を公取委の関係者からお聞きしていますし、さらに現在、個人情報保護法の3年見直しという作業をやっているのですけれども、ここでも全く同じ議論が出ています。

したがって、ウィン・ウィンの環境を実現するための仕組みを導入することに事業者の理解を得るということが今一番重要なのではないかと思っています。事業者が反対していると何もできないのが現状です。強引に押し通すか、事業者の意見を反映するとすればもう何もやらないか、どちらかであって、事業者の意見を反映すると、結果として悪質事業者が得してしまうのです。そうすると悪質ではない中間的な事業者も、そのままだと自分が損をしますから、そっちのほうに何となく流れていきがちになります。景品表示法の世界などはそういうところがあって、全体としてちょっとずつちょっとずつ不当な表示のほうに行きかねないので、そこはきちんと抑える必要があると思うのです。消費者教育だけではなくて、事業者教育というか、事業者の理解を得るということが一番の要ではないかと思っています。これはそんな簡単にできることではないのですけれども、諦めたら法改正は何もできないということになります。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

星野委員、お願いします。

○星野委員 大変勉強になりました。

体調不良のため、オンラインで失礼いたします。

松本先生が書かれていた消費者庁と公正取引委員会の分離の問題、まさしく非常に重要でありまして、私も非常に思っているところでございますが、一応独立した機関である消費者委員会として、松本先生と河上先生、後藤先生は御一緒させていただきましたので一応存じ上げていますが、これまでの期に、具体的に公正取引委員会と消費者庁とを何かしら組み合わせていろいろ議論させるような場を積極的に消費者委員会として持たれたような経験とかがございましたらお話しいただければと思いますとともに、もう一点、全然違った観点で、先ほど常勤化の話がどこかで出たと思いますが、法律に一応検討事項として、政府は消費者委員会の委員について、この法律の施行後2年以内に常勤化を図ることを検討するものとすると書いてございまして、そういったものに関して具体的に御議論されたことはございますか。

○鹿野委員長 それでは、松本先生からお願いします。

○一橋大学松本名誉教授 第1次に関しては、公正取引委員会と消費者庁をどういうふうに連携してもらうかという議論は一切やっていません。景品表示法の執行部隊が公取委から消費者庁に出向していたという実態がありますが、それ以上に政策面で融合して実施するという感じはしませんでした。

一番重要なのは、消費者庁は取引だけではなくて、安全の問題にもかなり関わっています。もともと消費者庁ができたときのきっかけの1つが食品安全の問題だったわけですから。他方、公取委は、安全の問題は対象外だとしているところがあって、取引の面だけだと非常に親和性が高いのだけれども、安全も入れるとなるとちょっと違うという議論が消費者行政推進会議の議論の時点からあったということがあります。

常勤化についても、議論はしていません。ここにも何人か常勤的委員の方がいらっしゃると思いますが、常勤化については消費者委員会としても議論していないし、消費者庁も具体的に何も動きはなかったと思います。

○鹿野委員長 ありがとうございます。

それでは、河上先生、お願いします。

○東京大学河上名誉教授 公取との関係については、今、松本先生がおっしゃったとおりで、あまり消費者委員会とは近づいていなかったし、私が消費者庁に行って公取の仕事をしているところへ行ったら、そこは行かないでくださいと言われて外された記憶があります。

考えてみたら、公正取引のほうは取引なので、それ以外の分野について一体的に動くというのは難しいのではないかという気がいたします。

それから、常勤ですけれども、常勤的非常勤で私もずっとおりました。しようがないのではないかと思うのです。消費者委員会という委員がかなり長く勤めるような組織ならばいいのですけれども、どっちにしても2年か3年で元に戻るわけです。そうすると、常勤になってしまって、前のところを一遍辞めてというわけにいかないですし、逆に消費者委員会の活動をするに当たっては、自分の根のある団体があったほうがいいことも多いわけですので、その意味では、今のような常勤的非常勤で当分はよろしいかという気がしております。

○鹿野委員長 ありがとうございます。

星野委員、よろしいでしょうか。

○星野委員 ありがとうございました。

○鹿野委員長 ほかにはございませんでしょうか。

それでは、予定の時間を大分超過してしまいましたが、意見交換は以上とさせていただきたいと思います。

本日は、消費者委員会の役割、在り方等について、歴代の委員長から非常に重要な御示唆等をいただき、大変有意義な意見交換を行うことができました。

松本先生からは、歴史に遡ってお話をいただき、それを通して消費者庁、消費者委員会が設置された経緯や設置の際の基本的な考え方などを再認識・再確認することができました。また、後半では、それを踏まえた今後の課題について重要な御指摘をいただきました。

また、河上先生からは、第2次から第4次までの6年間の御経験を踏まえて、消費者委員会に対する数々の御助言を頂戴しました。私たちが現在、委員としての業務に携わる際に悩ましく思っている点などについて、適切なアドバイスをくださったものと思います。

さらに後藤先生からは、直近の第7次の御経験や取組を踏まえて、消費者を取り巻く環境変化に対応する消費者行政の推進に関する御意見や、消費者庁、消費者委員会の役割等について貴重な御意見をいただきました。

先生方の御発表と意見交換を通して、消費者委員会が独立性・中立性を堅持し、監視ということをどこまで強調すべきかという御指摘もありましたが、いわゆる監視役としての機能や審議会機能、そして消費者の声を専門家としての分析等も踏まえて届けるという機能などをどのように果たしていくのかということ。それから、消費者庁との役割分担と連携をどのように適切に図っていくのか。それから、被害の抑止及び回復のため、公私協働をいかに図っていくのかについて、我々としても構想していくべきではないかということ。それからさらに取引分野については、公正な競争、それから健全な市場の確保というような観点が重要であるということなど、様々な重要な点について御指摘をいただき、認識を新たにし、重要なヒントを得ることができたと思います。

本日の意見交換を踏まえ、消費者委員会としてその機能を十分に発揮することができるよう、今後も取り組んでまいりたいと思います。

本日御出席いただいた歴代委員長の皆様には、大変貴重な御意見をいただき、誠にありがとうございました。消費者委員会を代表して、厚く御礼を申し上げます。ありがとうございます。


《3. 閉会》

○鹿野委員長 それでは、以上をもちまして「意見交換会」を終了したいと思います。

お忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございました。

(以上)