第3回消費者契約法シンポジウム(大阪)「消費者契約法の課題を考える」 議事録

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日時

2013年7月27日(土)13:00~16:00

場所

チサンホテル新大阪

プログラム

1.基調報告
 【テーマ】消費者委員会「消費者契約法に関する調査作業チーム」論点整理について
2.パネルディスカッション
 【テーマ】相談事例に基づく消費者契約法の課題について
3.閉会

≪開会≫

○小田審議官 それでは、時間がまいりましたので「消費者契約法シンポジウム」を開催いたします。
 本日は皆様、お忙しい中、お集まりいただきましてまことにありがとうございます。
 本日、司会を務めさせていただきます、消費者委員会事務局の小田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 消費者委員会におきましては、平成23年8月に消費者契約法の改正に向けた検討についての提言を行いました。ここでは消費者契約法改正の検討作業に早期に着手することを消費者庁に求めたものでございます。
 そして、消費者庁における検討作業の進展に合わせて、消費者委員会で本格的な調査審議ができる体制が整うまでの間、論点の整理、選択肢の検討などについて事前準備を行うための調査作業チームを平成23年12月に設け、本年5月まで毎月検討を重ねてまいりました。
 本日のシンポジウムでは、前半の基調報告におきまして、この調査作業チームにおける論点整理の報告を行います。そして、後半には専門家、有識者の方々をパネリストとしてお迎えし、具体的な相談事例をもとに消費者契約法の課題を御議論いただくことで、法改正促進のきっかけにしたいと考えております。
 ここでお手元の資料について説明をさせていただきます。
 水色の冊子が本日のシンポジウムの資料でございます。
 かなり厚い冊子がございますが、これが調査作業チームのまとめました報告書でございます。
 その後ろに消費者契約法シンポジウムの配付物とございます。これは消費者庁から提供いただいた資料でございます。
 最後に緑色のアンケート用紙を置いています。アンケートにつきましてはシンポジウム終了後、受付に提出していただけますと幸いでございます。
 資料につきましては以上でございます。

≪基調報告≫

 それでは、早速、基調報告に移りたいと思います。先ほど申し上げましたとおり、消費者委員会の調査作業チームがこれまで行ってまいりました論点整理の内容について、御報告を申し上げます。
 報告者は皆様から向かって右側から河上正二消費者委員会委員長、そして、消費者委員会事務局から、司法書士であります山田茂樹委嘱調査員です。それでは、よろしくお願いいたします。

○河上委員長 皆さんこんにちは。河上でございます。よろしくお願いいたします。
 暑いところ、御参集いただきましてありがとうございます。
 きょうは消費者契約法の改正に向けた論点整理ということで、中身について私から御紹介させていただくということであります。ただ、前にも2月にシンポジウムを開催し中間報告をしましたら、余りにも報告者のみんなが早口で説明したということで、途中まではわかったのだけれども、途中からよくわからないまま終わってしまった、との感想が寄せられました。そのため、今回はもう少しわかりやすくできないのかという話になりましたので、私からは概要について一括してお話をして、むしろ後半のパネルディスカッションで具体的な問題を素材にしながら、今の消費者契約法の持っている限界と申しますか、問題点について、皆さんと理解を共有できるような形にしたいということで考えております。
 報告書はお手元にあります分厚い資料でして、全部で250ページぐらいあります。資料編がつきますと、もう少しふえることになろうかと思います。とてもではないけれども、これについて読んでいただいて、議論をするというのは難しいと思いましたので、概要版をつくりました。きょうお手元にある水色の冊子が私どもで用意した概要版でございます。
 報告資料1というのが2ページ目からございますけれども、きょうお話するのはこの報告資料1についてになります。これでもまだ話としてはわかりづらいし、味気ないということで、幾つかイラストを入れてごまかしてみました。イラストを入れたのですが、やはり難しいものは難しいので、余り深く立ち入った議論ができるとは思いませんけれども、こちらの概要版を参考にしていただければと思います。これが大事かなと思うようなあたりについてはゴシックで少し濃くして書いてありますのと、下線を引いたりして工夫はしております。きょうはゴシックのところを中心にお話をするということで、お許しいただきたいと思います。
 この報告書は調査作業チームで1年半ぐらいかけてやった討議の結果でありますけれども、まだまだ議論しないといけない部分がたくさんあるということでありますので、これから皆さんの御意見も伺いながら、さらにブラッシュアップして必要な改正に向けた議論のたたき台にしていただければということを期待しているところであります。
 早速、具体的な中身に入っていきたいと思います。3ページ目から前提的諸問題ということで、3つほど議論させていただいております。今回の見直しの前提となることとして、第1に民法と消費者契約法との関係をどう考えるかという点がございます。
 御承知のように、今、法務省で進められております民法、とりわけ債権法の部分の改正作業は急ピッチで行われておりまして、その中でもともとは消費者概念を導入してはどうかとか、あるいは消費者契約に特有のルールを統合してはどうか。消費者契約法の中でもう少し一般化できるものは一般化してはどうかというようなことが議論されたことがありまして、今、中間整理の段階では消費者側に一応落ちていますけれども、いずれにしても消費者契約法の実体法部分と民法の規律というのはかなり重なっております。
 建物で申しますと、民法が1階の基礎部分だと考えますと、その基礎に少しめり込んだ形で実は2階部分に消費者契約法がございまして、さらに消費者契約法から特化した、例えば特定の業態であるとか、特定の商品に関して注目した規律として、特定商取引法とか金融商品販売法といったようなさまざまな法律がある。これは3階部分にあるということになりますけれども、それらの相互の関係をどういうふうに調整していくかという問題がまず第1番目にございます。
 これと関連してですけれども、第2番目として消費者契約法の適用範囲をどう考えるかという問題があります。消費者契約法は御承知のように、消費者対事業者の契約に妥当するという法律として設計しております。労働法だけは今回対象外でありますが、それ以外はかなり普遍的な内容を持っているということなのですが、その切り方が消費者対事業者という契約になっているものですから、そうなると事業者の概念に入りそうな一定の団体であったり、あるいは中小企業であったり、個人経営のアパートといったものもございます。そうしたものに対して消費者契約法の適用が及ぶのか及ばないのかという適用範囲をめぐって問題が起きるということで、人的、物的な適用範囲をどう考えるかという問題があります。
 第3番目に、今般、民法改正の中でも検討対象となっている約款を用いた契約についてです。特に消費者契約の場合は、ほとんどが定型的な契約条件で規律されているということですから、ほとんどが約款による契約なわけです。そうすると、民法で約款に関する規律というものが考えられているのと同じように、消費者契約法においても約款に関する規律というものを考えるかどうか。仮に民法のほうでそれがうまくいった場合には、それを具体化するときにはどうしたらいいか。そういう前提となる幾つかの問題がございました。
 まず簡単に申しますけれども、民法との関係で言いますと債権法改正がどうなるかということはとにかく置いておいて、その上で消費者契約法として望ましい規律というのはどういうものかという観点から、この検討チームでは作業を行ったところでございます。ただ、民法のほうで大体これでいきそうだというルールが中間試案で出てきておりますので、もしそれが実現した場合は、それを具体化するためにはこうしたほうがいいかという議論をするということであります。
 差し当たりですけれども、民法の信義則のところに提案をされております消費者契約のような情報量、交渉力格差があるところで、民法の適用に配慮しようという一般ルールがありますが、そういうルールがもし民法に入っていれば、消費者契約法が民法を源泉として一定のルールを形づくることができるという意味では、そうした源泉となるルールが民法の中にあることは望ましいのではないかという意見が出ております。
 第2番目の人的、物的な適用範囲でありますけれども、消費者と事業者というのはちょうど補集合の関係にあるんだという理解をそのまま維持する必要があるだろうか。現在の規定の適用の仕方は事業者でない個人、これが消費者という形で適用がされていて、補集合の関係になっているのですけれども、しかし、考えてみるとさらに消費者契約法の規律による保護が必要な人というのがかなりいるのではないか。そのイラストのところにおばあちゃんが出てきて、私はどちらでしょうかという書き方をしていますが、例えばおじいさんが亡くなる前に、今後おばあさんが生きていく間に生活に資したらいいだろうということで、ためていたお金でアパートを建てて5件ぐらいの入居者を持って、その賃料で今後やっていけということで置いていったといたします。そこに例えば消防署のほうから来ましたなどと言いながら消火器を置いたやつがいた、あるいは新型電話を売り込みに来た事業者がいる。こういうときに、消費者だから保護すべきだという話なのか、それとも事業者として契約しているのだから、そこは消費者契約法の対象外だというふうにやってしまうのかというようなところです。
 できましたら、その辺のにじみ出しは消費者契約法で受けるほうがいいのではないか。これは前に近畿での弁護士会の中でも議論されていたところですけれども、できれば消費者概念の相対性を認め、これを弾力化する。あるいは中間概念として消費者的事業者のようなものを考える。さらには領域ごとに、例えば投資取引であるとか、それ以外の幾つかの領域を加えて、消費者概念を少しふくらませて議論をするようなことがあっていいのではないかということであります。もちろんこれは逆もありまして、インターネットのオークションなんかでは、1人で何十個も同じようなものを出しているということになると、これは事業者ではないかと思うような人もいるわけです。ですから、そこをきちんと切り分けられるかどうかということについては、さらに検討をする必要があるだろうということが最初に問題とされているところであります。
 もう一つは、これは6ページ目のところになりますが、約款規制にかかわる部分でありまして、約款はもともとは事業者間で使われていたものであります。ドイツなどでの約款規制に関する議論は、ほとんど事業者間取引における判例が基礎になって約款規制法ができたということは、よく知られているところであります。
 約款は事業者間だけではなくて、消費者に対しても使われるようになってから、トラブルの原因としてたくさん出てきているということであります。約款に関して言うと、もともとその内容を当事者がきっちりと読むことが予定されていないことが多くて、一種の合意の希薄化ということが常態化しております。
 そうだとしますと、消費者取引において約款の持っている特殊性に対応したルールを何とか用意することがあっていいのではないか。実は消費者契約法の不当条項規制というのは隠れた約款規制だと言われているぐらいであります。そういう意味では、約款の場合には個々の個別的な合意を経た条項よりも、もっと厳格な公正さを内容的に要求するのがふさわしいということになりますので、できましたら法に比肩する公正さが求められる。そこから出発した議論をしていただきたいということになるわけであります。
 現在の消費者契約法10条には、実は当時のドイツ約款規制法の一般条項によく似たルールが入っています。任意法規から合理的理由なく逸脱して消費者に対して不利になっているというような場合です。あとは逸脱の程度に合理的な理由があるかということを信義則に照らして考えるというルールがドイツの約款規制法の一般条項だったわけですが、なぜか日本の消費者契約法は、まず逸脱しているかどうか。不当に不利に逸脱しているという山があって、もう一つ、さらにそれが当事者にとって一方的な不利益になっているかどうかという、もう一つ山をこしらえたような要件の書き方になっているものですから、最近の最高裁は、第一に、確かに任意法規範が不利に変更されている、しかし、それほど一方的に不利益とまでは言えないなどと言って、敷引条項とか更新料条項について、そこそこの不利益は我慢しなさいという趣旨の判決を立て続けに出している。これは、もし書き方に問題があるのだとすれば、約款条項であるということを正面から認めた形で、一定の規律をつくっていくことにも意味があるのではないかということです。
 7ページのところに最低限、約款が契約内容となるためのいわゆる組入れ要件及び効果を定める規定を設けることを検討してはどうかということと、そもそも内容が合理的かどうかというよりも、一括的に組み入れる以上は大体合理的だろうと推定して組み入れているわけですから、最初から予想もできないような不意打ち的な条項は外すという、不意打ち条項についての効力を有しないとする規定を設けることを検討してはどうか。
 さらに、約款中の条項や実質交渉を経ていない条項の解釈準則についてルールを定めてはどうか。契約条項の定め方について、消費者契約法3条1項の努力義務を改めて、法的な義務として記述してはどうかということが、論点となりうることを述べております。
 約款の問題に関して言うと、一般的な部分は消費者契約に限らない問題でもありますので、民法の中で一般的な部分は受けていただいて、その上で消費者契約にふさわしい具体化を約款に関しては図るという方向が望ましいというふうに考えております。
 以上が一般的な前提の問題になりますけれども、具体的に現行の契約、消費者契約法の見直しに向けた課題という形で、契約締結過程の記述に移らせていただきます。
 8ページの下の部分、3でございますが、契約締結過程の関係の記述は2つございます。1つが誤認類型、もう一つは困惑類型と言われているものでございますけれども、実はこの3条、4条以下の記述に関して、現在使いにくいということで指摘されている論点が指摘してあります。ここには不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知といったものと、3条では情報提供に関する努力義務という規定があるわけですが、1つは「勧誘をするに際し」という言葉であります。「勧誘をするに際し」という限定があるがために、事業者からの相対での言葉以外のもの、例えば広告であるとか、インターネットでのホームページでの記載であるとか、そういったものが現在では対象外であるという解釈がなされています。
 ところが、現在我々が物を買おうかという場合に、通常は広告やパソコンをちょっとたたいて、インターネットでその中身を見て、その評価などを見て買おうという気持ちになることが多い。ほかにもフリーペーパーがあったり、いろんなものが我々の周りにあって、これは直接に話をして相手に何かを言われた以上に、契約締結に対して影響を与えているものであることは間違いない事実です。すると、勧誘を要件とすると、かえって誤った認識についての当事者の契約に対する機会というものを矯正する機会を失わせているというふうに思われますので、このような介入要件を削除するということを考えてはどうかということです。
 第2に、現行法は、不実告知等に関して重要事項に限るという限定をしておりますが、この重要事項という要件も大きな問題となっております。何が重要かどうかということは、実は、要件として、その当事者が契約を締結するか否かについての判断に通常、影響を及ぼすものという一般的な受け方で受けてもよいものであって、特に限定的に重要事項を限定列挙のように定めているように見えることが、今のところ、判例の中で逆に作用をして、これは重要事項とは言えないという形ではじかれているものが結構出てきているのです。特に経済的な事項に関して以外のものについては、重要事項としては判断の対象外だと言われるわけであります。そこで、そうしたものをもう少し広く受けられるような形にしてはどうか。
 9ページに具体的な提案が出ておりますが、マル1が勧誘要件の削除の話、マル2が不実告知型の場合の重要事項の要件緩和の問題。マル3が断定的判断の場合の財産上の利得にかかわらない事項についても適用ができるように要件を変えてはどうか。さらに、それと同時に不利益事実の不告知型の場合の列挙事由に関して、事業者の故意・過失を要件にして利益告知の先行を問わないで当該情報の提供があれば、契約をしなかった消費者に対して取り消しを認めることにしてはどうかというような提案がされているわけです。
 民法改正の中でも実は動機の錯誤のところで似たような議論がありますが、民法の記述で錯誤が言えるようなレベルよりは、少し低いところで取り消しが認められるとすれば、消費者契約法に置いておくことにも意味があり、むしろ必要になるだろうと思います。
 そのほか、現行法は取消規定という形ですけれども、取り消しすると言うと契約をゼロに戻してしまうという効果しかないわけですから、全くゼロにしてしまう。となると、やはりそこは要件がきつくなる可能性があります。それに対して一定の義務違反を前提に、損害賠償のような中間的な効果を導入することにした上で、因果関係に関する推定規定等を置くなどして、損害賠償の規定の具体化を図るとともに、訴訟上の情報格差を埋めるような手当をしてはどうかという提案もなされています。
 広告については、インターネットにかかわる広告がかなり重要な問題になってまいりますけれども、この辺は後で山田調査員から話をしていただくことになろうかと思います。
 10ページのところは困惑類型ですけれども、困惑類型も実は2種類しかないのが現状です。御承知のように帰ってくれと言ったのに帰らないという不退去型の場合と、帰してほしいと言っているのにそこにとどめさせられた監禁型です。この2つだけが困惑型の類型としてあるのですが、実際問題としてはなかなか言葉に出して書いてくれと言い難い。間接事実を積み上げていって、結果的にはこれは帰ってくれという意思があったと認定してもらえればいいですけれども、それをするためには相当な困難が伴う。言った、言わないとか、あるいはこういうときには帰ってくれと言えば帰っていましたよなどと言って、相手が居直る。そうなりますと、なかなか困惑類型というのも使いにくいということであります。そこで、執拗な介入行為あるいは契約目的を隠匿した接近行為というものがあれば、このような困惑類型として承認することが認められてはどうかというものです。
 2番目に、その上位概念として意に反する勧誘の継続と、それによる困惑というような形の要件にしてはどうかとして受け皿的な要件での規定も検討の余地があるように思われます。
 もう一つ進んで言えば、一定の状況のもとで相手方がそれにつけ込んで契約締結をさせる、迫るというような場合は、民法でも暴利行為のところに相手方の弱みにつけ込んでというような議論がなされているわけですが、そういった状況の濫用というものを取消事由として広く受け皿のところで検討してはどうかということが問題になっているわけであります。
 さらに10ページの下のところに取消しの効果という法定追認になるという規律が問題になっているところがあります。実は消費者契約法の取消しがあった後の後始末については、現在の消費者契約法にはその規律がありません。ですから、売買契約が締結されて、それが消費者契約法によって取り消されたというときに、相手から手に入れた品物がある。こちらから払った金がある。それを元に戻すという原状回復の手続は民法によって規律されているに過ぎないわけですが、実際に目的物をちょっと使ってしまったとか、あるいはこういう形で使っていて壊れてしまったとか、いろんな状況が出てくるわけです。消費者契約の場合に関しては民法のとき以上に現存利益に関する議論をはっきりさせて、後始末をやりやすくすることが必要になるのではないかと思われます。取消しの効果についての規律を設け、さらに取消期間が今、若干民法よりは短くされているのだけれども、実際にはこの期間を超えてしまうケースが多いという現実から考えると、それを変更して延長することは考えられないか。
 さらには民法では取消しに追認に関する規律が入っています。つまり実際にそれを使ってしまったとか、代金を払ってしまったという場合、法定追認が起きるというものですが、こういう追認に関する民法の議論をそのまま持ち込んでしまうと、実は今の実際の運用とも違った結果になってしまう可能性がございますので、法定追認に関する別の規律を消費者契約法に用意する必要があるのではないかということです
 細かい内容については、11ページにマル1~マル10にかけて書いてありますのでご参照いただければと思いますが、今、申し上げた法廷追認に関しては特にマル6の取消しの起算点については誤認であったことを知ったとき、困惑を惹起する行為及びその影響から脱したときなど、起算点は消費者が不当な影響を免れて、自由な意思決定ができるようになったときを指すことを明確に示す規定を置くことを検討してはどうかというようなことで検討課題にしております。また、マル8で、民法125条の法定追認に関する規定は適用されないというところを明確にすべきではないか、ということを提案しているわけであります。
 第三者の問題については、ここでは省略いたします。
 さらに12ページにいきますと、インターネットにかかわる報告の問題、これは山田さんが報告してくれますので余りお話する必要はないかと思うのですが、現在のネット上の広告はは目に余る状態です。特に美容医療などについては今、消費者委員会でも話題にしているのですが、あのような内容のものをインターネットで堂々と出しているということは、医療法上の広告に当たるのではないかとも思うわけですけれども、使用前、使用後みたいに出てくる写真などは比較広告として本当にやっていいことだろうかという気もするわけです。医療法上は広告ではないというのが厚生労働省からのお返事でしたけれども、もうそう言っていられないのではないかという気がいたします。
 いずれにしても、広告に関して今、ターゲティング広告とかさまざまな広告の手法が出ておりますので、こうしたことに対して何らかの対応が必要になるだろうということで、これは恐らく共有されてよい問題意識ではないかと思います。
 さらに13ページ、14ページにかけて、不招請勧誘と適合性原則にかかわる記述についての提案があります。弁護士会では不招請勧誘と適合性原則については、明文の規定を設けてはどうかという提案があるということはご承知の通りでして、後でパネルでもお話があるかもしれませんが、いずれにしても不招請勧誘の場合は、これはどちらかと言うと投機性の強い金融取引の場合に問題になるわけですが、それ以外の場合にどこまで問題にできるかということは、慎重に考える必要がありそうです。
 最近、正田彬先生の岩波新書で『消費者の権利』という本が新版化されました。正田先生の絶筆になったものですけれども、正田先生の『消費者の権利』の基本的なトーンは、個人の生活領域に事業者が土足で乗り込んできて物を売るということ自体が、本当は許されないことだ。人のところを訪ねるときには、予め行っていいかと聞いて、それでも迷惑にならないだろうかと遠慮しながら出かけて行くのがごく普通の礼儀感覚でしょう。事業者が土足で乗り込んできて、長時間商品を売りつけるということ自体が問題なのではないかということを、正田先生は強調しておられます。その意味では不招請勧誘というのが一般的なルールとしてできるかどうかというのは、確かに1つの法的な論点ではあります。これを果たして困惑取消類型の拡張というような形で取り込むことができるかどうかというあたりは、さらに引き続いて検討が必要であろうということで、とめてありますが、議論の必要はありそうです。
 適合性原則に関しても、現在では消費者基本法の中に相手の資産とか年齢とかに適合して事業活動しなさいということが基本法上の要請として出ています。金融商品販売法等には明文で適合性原則があるわけですけれども、ああいう金商法のような記述になるかどうかはともかくとして、消費者基本法で要請しているような適合性原則の思想を消費者契約法の各制度を運用する際に、その運用の指針あるいは要素として各制度の中で埋め込んでいくことがあっていいのではないかと考えられます。金商法なみの適合性原則を正面からルール化することに関しては、なお検討を要するけれども、そうした要素を説明義務や条項開示の在り方などに埋め込んでいくことは、十分考えられますので、検討されたいというような形でまとめているということでございます。これはまた後のパネルディスカッションで議論があるかもしれせん。
 14ページに入っていきますと、これが契約内容の適正化にかかわる部分であります。契約内容の適正化については、現在、不当条項がリストとして幾つかあるわけですが、2000年に消費者契約法ができたとき、あのときには「とにかく今、立法事実がはっきりしていてどうしても必要なものに限定してつくることにしよう。」、「小さく生んで大きく育てる」ということが言われました。2月の東京でのシンポジウムで、小さく生んで捨て子になっていると私どもが言いましたけれども、しかし、今は団体訴訟とかいろんなものを手当しながら、実効性確保のための手続が進められているわけですけれども、やはり内容の部分もそれに合せて整備していくことが必要であります。その場合、リストをもう少し充実させることを考えるべきではないかというわけであります。
 リストの中には、これは使ってはダメだという禁止条項からなるブラックリストと、評価余地を残した形で、たとえば、不当に長い期間、顧客を拘束するとか、そういう評価余地のある形でのグレーリストというものの2種類を用意していことが適切ではないかということを提案しています。もちろん今、立法事実がそれほどないのに、細かいリストをつくるのはいかがなものか。事業者にとってみると自由な事業展開を阻害することになるのではないかというような懸念があることは承知しておりますけれども、しかし、考えてみると、これだけグローバル化した社会でEUとか韓国とか、いろんなところでは既にリストが少なくとも2けた台の数、並んでいるわけです。そうするとヨーロッパの消費者に向かって事業者が物を売るときは、そのリストに従って売るということを受け入れておきながら、日本の消費者に対してはリスト化が無用であるというふうにおっしゃるのは、筋は通らないという気がいたします。
 問題がある条項ということで、抽象化されたリストをもう少しきちんと整備されることがあっていいのではないかということで、16ページのところには評価余地のないブラックリストのほか、評価余地のあるグレーリストの存在は必要であろうということで、提案しております。そのようなリストは、消費者相談の現場での判断の指針であるだけではなくて、やはり事業者にとっても条項の策定にあたってメリットがあるということで、その補完・充実を検討してもらいたいと書いております。
 18ページ、現在の10条の書きぶりについてということで、最高裁の判決で見られるように、表現によって相当悪い条項でなければできないということでは困るというわけでして、課題としては、消費者契約法10条前段要件は、当該条項がない場合と比較してといった文言に修正してはどうだろうか。後段についても、消費者の利益を一方的に害するというようなことは言ってもいいけれども、相手にたたみかけるように信義則に反してというやり方をすると、よっぽど悪いものでない限りはだめだというようなことになってしまうので、そこはスリム化して規定を置くことにしてはどうか。
 さらに、一方的に害するかどうかということの判断要素についても、さらに検討して書き込めるものは書き込んでいくというようなことがあってはどうだろうかということを提案しております。
 御承知のように、今、団体訴訟という形で差し止めができるものと、個別の訴訟で条項無効を争うものがございますから、団体訴訟でいくというときには、個別の事情から離れた抽象的な審査になりますので、その辺の要件の書きぶりに関しても工夫をする必要があるだろうという議論も致しました。
 19ページには、中心条項に対する議論がございます。中心条項というのは単価とか目的物そのものにかかわるものでして、基本的には、これは開示規制になじむものと考えられます。しかしながら、対価の計算要素などに関連する条項で、例えば更新料が典型的でしょうけれども、更新料という形で賃料に補完するようなものを取るということを考えると、逆に賃料がどのくらいランニングコストとしてかかわるかの判断をわかりにくくさせる作用があるわけです。対価の決め方に関する対価関連条項であっても、契約の透明度を下げることは疑いありませんから、やはり不当条項としての規律に服さしめるというほうが望ましいのではないかと考えられます。その切り分けは確かに問題なのですけれども、やはり中心条項についてもある程度捕捉できるように考えて、さらに個別に合意されている事項であっても消費者契約に関する限りは約款条項と同じぐらい、個別の合意がきちんとなされた正当性保証がないという前提で、その内容の公正さを明確に要求するというような立場のほうが望ましいということであります。
 さらに、20ページの下に消費者公序規定というものを用意してはどうかという検討課題が出ています。これが今の消費者契約にはないものなので注意していただきたいのですが、現在の消費者契約法は取消しで契約を無効にしてしまうか、あるいは無効な条項だけをたたいて、契約そのものは維持するか。その両方しかありません。しかし、全体として考えて、こんな条項があったのだったら契約全体としては無効にしてしまったほうがいいのではないかというものが少なくありません。そこで個別事情も全部勘案した上で、契約全体を無効にできるような、民法で言えば90条に相当するような規定を消費者版の「公序」として規定して、契約全体を無効化できるような規定を用意することはどうだろうかということで、消費者公序に関するというものを提案させていただいています。ただ、これは一般条項ですので考慮すべき点がたくさんありますので、21ページのところで留意点を幾つか指摘させていただきました。 22ページですけれども、各種契約に関する規律ということで用意してはどうかという提案があります。消費者契約法は契約締結過程で契約が成立するかどうかと、不当な条項規制あたりだけが大きな問題になっています。しかし、契約を考えると入口だけではなくて、例えばその契約の履行過程の問題であったり、契約関係を維持している間でのいろんなトラブルに対処する規律が必要になってくる可能性があります。これをすべて民法に任せておいて良いかということでして、例えば「売買契約」というようなものを1つ念頭に置いて、契約の締結過程から始まって、契約の効力あるいは履行に関する規定、終了にいたる一連の流れに関する規律を置いておくということとか、あるいは民法の中で現在、消費者契約のために用意しようとしていて落としたもので、もし消費者契約法で受けるべきものがあれば、そうした問題についてもここで幾つか考えていく必要があるといったことが検討されていいのではないかと指摘しております。このあたりは、民法の債権法改正の状況をにらみながら考えていく必要があります。
 さらに23ページのところに入りますと、今度は各種契約というよりも、契約の形態の中で継続的な契約についての規律が合っているのではないか。特に消費者契約で長い期間を持った回帰的な給付であるとか、継続的な役務の提供というような場合に、その周辺事情の変化とか当事者の状況変化というものがどうしても生じやすいということがあります。そうすると、いつまでもそこに不必要に拘束しておくことは望ましくないことになりますから、解消ということを考えないといけない。特定商取引法の中には継続的役務の幾つかが解約ということについての個別ルールを置いておりますけれども、より一般的に任意の中途解約の効果あるいは法定解除権についての規律、あるいは解約をした後の精算の方法、既履行部分と未履行部分をどういうふうに精算をして分けていくかということについての手当を導入してはどうかという23ページで議論されております。
 25ページは、消費者信用についての規律です。これも現在は一般的なルールはございません。割賦販売法とかそういうところで部分的な手当をしているわけですが、クレジットが組み込まれた消費者契約が非常に多い。クレジットを組み込まれたような複合的な取引関係で消費者の利益を守るために、もう少し一般的な形で規律が必要ではないか。特に現在では「抗弁の接続」という形で販売業者に対して言えることは、信販会社等に対しても言えるという記述がございますが、そうした仕組みをより拡充して、消費者契約の中に組み込むことが考えられないかということです。本文では、担当者が、具体的な立法提案も書き込んでおります。
 民法の中では決済に関する規律が議論されています。したがって、その決済システムがどうなるかによっても左右される問題ですが、その辺のことも含めて検討対象としてはどうかということです。
 27ページが最後になりますが、今日では、消費者取引は国内だけでおさまらない。日本の消費者が外国へ行って物を購入することもなりますし、中国やいろんなところから日本に来て物を買っていくという消費者もいます。インターネットは、簡単に国境を超えます。こうした国境を超えて消費者が取引をするというときのいろんなトラブルについて、最近、消費者庁は苦情のための処理の特別な機関を設けましたけれども、実体法のレベルで一体どういう記述に従って消費者が権利を主張できるのかということについては、必ずしも明らかでない。この点については、民法とかいろいろな法律のもう一つ上に、昔は「法例」と言いましたが、現在は「通則法」という法律があります。その通則法の中に規律があるわけですが、消費者契約法の中にその通則法をブレークダウンした規律を置いておくことが、問題の重要性にかんがみると必要ではないかと考えております。渉外取引の拡大に伴って、国際的な調和とか共通ルールの策定に向けた協力もまた必要になるだろうということは明らかでありまして、EUの域内で一番最初に指令として共通化が議論されたのが消費者契約の規律だったということを考えますと、今後、日本の中だけで消費者契約の規律のあり方を考えるだけではだめで、世界的な動向にも注意しながら内容を整理していくことが必要であろうと思われます。
 駆け足で話してきたので、触りだけになりましたけれども、今後、検討すべき課題はたくさんあります。全部を一気にやるというのは無理かもしれないですけれども、その中でも重要性の高いものから1つずつ着実に改善していって、消費者契約法を育てていくということをやらないといけないだろうと思います。集団訴訟に関する特例法ができ上がりましたら、ぜひ今度は実体的な内容について改善に向けた議論を本格化して、問題に取り組んでいければと思います。消費者委員会としても、今後ともこの問題に関しては積極的に取り組んでいこうと思っておりますので、いろんな形で御支援をいただければありがたいと思います。
 私からは以上であります。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

○山田委嘱調査員 それでは、続きまして委嘱調査員の山田から、インターネット取引における現状と課題ということで、20分ぐらい時間をいただいて簡単に御報告をさせていただきたいと思います。
 レジュメは通しページの28ページからとなります。
 まず1番目の消費者取引において不可欠となった「インターネット取引」でございますが、こちらは最近の消費者庁の消費者白書にもございましたが、インターネット取引を利用する消費者の数は年々増加しておりまして、今後もますます増加することは言わずもがなであるということになりますから、少なくとも消費者契約法の議論を考えていくに当たって、インターネット取引というものは不可欠な存在であると言えると思います。
 2番目のところで、インターネット取引における課題、問題点の要否ということで、28ページの(1)から29ページの(8)まで書き出しております。以降、書き漏らしてしまいましたが、これに加えて先ほどの委員長の報告にもございましたが、特にネット取引では越境取引になりやすいということもありまして、この点もあわせてネット取引の特徴だと言えると思います。
 さて、この28ページから29ページまでの(1)から(8)の幾つかの論点が、ネット取引の問題点としては挙げられると思いますが、本日は時間の都合があるということと、今回は消費者契約法に関するシンポジウムでございますので、消費者契約法に関連が深いところに絞って報告をさせていただきたいと思います。
 具体的に申しますと(3)~(6)についてお話をさせていただきたいと思います。このうち、きょう一番のメインになるのが(3)の意思形成過程、インターネット広告についてどう考えるかという点でございます。
 次が(4)の第三者の関与というところでございます。(5)と(6)につきましては、簡単な報告という形になるかと思いますので、先に取り上げさせていただきたいと思います。
 まず(6)の情報収集ツールとしての機能でございまして、レジュメの40ページをごらんください。ここでの話といいますのは、ネット社会になって、ネット社会というものが主に消費者契約法の裁判例の中ではどのように考慮されてきたのかということを、裁判例を分析して整理したものです。
 大きく分けて2つあると思います。ここのレジュメのほうに書いてあるのは、消費者契約法10条の有効無効という判断要素として、ネット社会というものがどう考えられて判断されていたのかという点です。
 主に更新料等の裁判例でみられるのですが、訴訟になりますと事業者側からネット社会になってインターネットの発達に伴い、事業者側と消費者との情報力の格差は相当程度是正されているという主張がなされることがあります。この点につきまして2つ目の●ですけれども、裁判例を見る限りでは、確かに量については格差は存在しないと言えるかもしれないが、しかし質の点では格差が存在するという判断をされているものが幾つか見られます。
 特にネット取引になりますと、例えば実際に私もそうですが、ある商品を買おうと思うときに1回ネットで検索をして、それが本当にいいかどうか、またさらにほかのサイトを調べるという形になりますと、逆に情報過多の状態になっていて、どれを信じたらいいのかわからないという状態になっています。ですからむしろネット社会というところで着目するのであれば、より一層事業者のほうが適切な情報を提供しなければ、消費者が誤った判断に陥る可能性があるというところですから、むしろここは3条の情報提供義務のところで少し考えるべきところがあるのかなと思います。
 もう一つ目は規約の拘束力というところで、近年、権利能力なき社団であるラグビー部が消費者に当たるという判断が示された東京地裁の裁判例ですが、合宿の宿泊契約等々のキャンセル条項の有効性などが問題になったところ、まず規約自体が成立しているかどうかというところが争点としてはありました。
 ここについて実はインターネット取引の話が出てきまして、簡単に言うと、確かにラグビー部の方がもらった予約の受付の書面の裏を見ると、キャンセル料については宿泊施設の別の定めるところにもよりますという記載はあった。しかし、どこを見たらいいかは特に記載はなかった。このような状況で裁判所は、何らかの取引資料が表示されているであろうことは容易に推測できる。そして、このケースでは宿泊施設のホームページの中でキャンセル料の表示は確かにあったという点、ホームページを見ることは特に困難だとは思われないという点を踏まえて、これは規約としては成立しているという判断をしています。これは個人的にはこれで成立というのは少し乱暴な気がするのですけれども、こういう裁判例も下級審ではありますが、出ているという点を報告させていただきます。
 ページを戻りまして、今度は規約の関係でございますが、ちょうど今のところと関連しているのですけれども、38ページの5番目のところ、規約の有効性というところがあります。これはPIO-NETや国民生活センターの報道資料発表で、インターネット取引のうちトラブルになった上位6つぐらいのジャンルの部分に関するサイトを私のほうで無作為に調査をしてみまして、規約がどういう状態で表示されているのかというものを整理してみたものです。
 詳しくはレジュメを見ていただきたいのですが、規約の表示場所につき契約締結前でも明確にわかりやすいサイトもある一方で、極端なものまでいってしまうと、結局、最終的に注文のボタンをクリックするまで1回も規約を、どこを見ればいいのかわからないまま、契約ができる状態であったというサイトも存在しており、まさに千差万別であるといえます。
 それでは、メインのほうに移りたいと思います。30ページです。
 まずは3(1)で現在の消費者のインターネット取引における動向を整理してみたものです。先ほど少し図で申し上げましたが、検索サイトを使って何か検索をするというのが一般的だと思います。PIO-NETを分析してみたところ、相談事例の中では検索上位に表示されたウェブであるから信頼できると思ったとか、有名大手企業であると思ったとか、検索の順位というものが信頼の指標になってしまっているケースも幾つか見ることができました。
 3つ目の●ですけれども、検索サイトの検索結果につきましては、不当なSEO対策を行う事業者がいることから、検索上位に表示されたからといって必ずしも当該サイトが信頼できるとは限らないわけです。これに対し、検索サイト業者は、不当なSEO対策がなされないようにするために、そういった問題のあるスパムサイトを排除するために定期的にアルゴリズムを変えたり、そういう工夫をやっているわけですが、それに対してまたさらにSEO対策業者は、その裏をかいて上位表示されるような方法を開発するというようないたちごっこが繰り返されている状況であると言えます。
 4つ目の●ですけれども、実際の検索サイトで、ある特定のワードを検索すると、通常あらわれる画面としては検索順位の結果が表示される。これを通常オーガニック検索の部分と言いますが、オーガニック検索結果の部分と、それから、大体右横ですとか上のほうに色がついてPRとか広告とか書いてある、いわゆるネット広告、正確に言うと検索連動型広告といったものが表示されている。これがネット検索の表示結果の通常画面であるという整理になります。
 31ページ、インターネット広告をもう少し詳しく見ていきましょうというところになります。インターネット広告につきまして、やはり一番注目に値するのはターゲティング広告の手法の発達というところになります。詳細については32ページに書いてありますけれども、文章で見るよりは直接図でイメージを持っていただいたほうがいいと思いますので、33ページ以下で4つほど代表的なターゲティング広告を紹介しております。一個一個見ていきたいと思います。
 まず図1が先ほど紹介いたしました検索サイトと連動している検索連動型広告でございまして、焼き芋を事例にしています。「焼き芋 おいしい」と例えば検索をすると、検索結果、これが先ほど申し上げたオーガニック検索結果の部分です。その横のあたりとかに例えば「焼き芋ならX!」とX社の表示がされます。これが検索連動型広告です。この広告の特徴というのは、例えば焼き芋食べたいなと、ある一定程度のポジティブな消費者向けの広告であるということが言えるのかなと思います。
 次に図2のコンテンツ連動型広告というものにいきます。こちらになりますと先ほどの図1とは異なりまして、別に焼き芋が食べたいわけでも何でもなくて、たまたまある特定の有名人ですとか、著名人のサイトを見たかったということで、あるブログを見ました。そのところ、ちょうどきょうはその方が焼き芋を食べたよなんていうテーマでブログを書いていることになりますと、そのブログの内容と連動して関係しているものが表示されます。これがコンテンツ連動型広告となります。
 この手法の場合、先ほどの検索連動型広告は、あらかじめ焼き芋を食べたいというある程度能動的な消費者だったのですが、このコンテンツ連動型の場合だと、必ずしも焼き芋を食べたいとは思っていなかった。言わば潜在的な顧客に対する広告手法だと言うことができるかと思います。
 34ページ、これはいろんな個人情報の関係でも問題になりました行動ターゲティング広告ですが、ここでの例は、消費者の方がまず最初Aサイトを見ていた。Aサイトは繊維質豊富なおやつというのがテーマで書かれているサイトでした。次にBサイトを見ました。これは焼き芋のつくり方を研究されているサイトを見ていました。次にCサイトはさつまいもの種類というのを見ていました。こうなってくると、この方は焼き芋を食べたいかもしれないなという話になってくるわけでして、その辺の情報を整理するとBサイトを見たときに「焼き芋ならX!」という広告が表示される。こういうような内容になっているというのが行動ターゲティング広告です。
 ただ、これはもちろんある消費者がどういうサイトを見ていたか、主観的に見ていて把握しているということではないので、そこは個人情報保護上の問題はないという整理はされているところです。
 35ページは、さらに行動ターゲティングの一種になりますが、リターゲティング広告というものがございます。リターゲティング広告は例えば最初、何の気なしにX社の焼き芋のサイトを見ました。しかし、別に食べたくないのでBサイト、Cサイト複数のサイトを見ていましたというところで、再び何の気なしに今度はEサイトに行くと、1回離れてしまった顧客のためにもう一回打ってみようということで「焼き芋ならX!」という広告があらわれるという広告の種類になります。
 このようなターゲティング広告、もっと本当は細かく言えばさまざまな種類がありますけれども、こういったようなターゲティング広告が発達している中で、インターネット広告が意思形成に及ぼす影響を改めて整理をしてみたいと思います。
 35ページのイのところですけれども、まずインターネット取引においては非対面取引でありますから、広告が消費者の意思形成に与える影響が大きいだろう。これは言えるかと思います。そして幾つか実際の事案でもありましたが、商品の性能など内容の点についてだけではなく、その相手方の事業者が信頼できるところかどうかというところすらもネットの広告、表示だけを信頼してしまうというケースも当然あり得るんだということが言えます。
 ターゲティング広告という形になりますと、消費者側から見るとそもそも一定の興味がある分野と、関連する項目が表示されることから、そのまま契約締結の意思形成に至るケースも少なくないということが言えると思います。一方では、先ほどの図4で紹介したリターゲティングのように、やり過ぎてしまうとしつこいなここの会社はという形で、むしろマイナスになってしまうことも一方ではあり得ます。
 2つ目のところでは、事業者側の視点に立ったリターゲティング広告は、こういう層やこういう人に対してこういう広告を打てばこういう効果が得られるだろうというふうに考えた上で広告を打ちますから、ある意味その事業者の動きとしては極めて勧誘に近い。顧客名簿などを持って、ここの層がここに勧誘しに行こうというものと似ているという点があるかと思います。
 さて、このような点を踏まえた上で、ではインターネット広告をどう考えるのかという点で、2つのところからまず考えてみたいと思います。
 1つ目は、まず36ページのウの3つ目の●で見ますと、消費者契約法について4条のところで「勧誘をするに際し」を入れてあるところの説明があります。ここを見ると、勧誘とは「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方をいう」とありまして、下のアンダーラインを見てみると、不特定多数向けの広告などは意思形成、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合になるので、「勧誘をするに際し」に当たらない。つまり取消しの対象にならないという示し方をしています。
 このロジックに乗っかって検討するのであれば、まず考え方としては意思形成の影響の尺度という形で考えていきましょうということになるわけです。そうすると、まず1段階目としてターゲティング広告とマス広告です。不特定多数向けの広告で意思形成に与える影響に違いがあるのかという点をまず考えます。そうしますと、例えば大阪駅の近くで「バナナあります」という広告がある場合と、たまたま、バナナ好きな方が、インターネットをやっていたところ、「バナナあります」と同じ内容のインターネット広告が表示されたとします。この場合に確かに、もしかしたらバナナ大好きな方にバナナありますという広告があれば、契約締結に至るケースが多いかもしれません。しかし、それはたまたまニーズと広告が合致しているだけでありますから、広告が意思形成に与える影響の大小から言ったら、それは差はないのだと思います。もともとバナナ大好きな方であれば、たまたま大阪駅を歩いていても、「バナナあります」という広告を見たら購入に結び付くでしょう。となってくると、意思形成の点でいえばマス広告とターゲティング広告で大きな差異はないと思います。
 次に、そうなると広告と勧誘が意思形成に与える影響が大きいのか小さいのかという話を考えることになります。よく古典的な考え方では、広告は不特定多数向けだから影響力が弱い。勧誘は個別の顧客に対する働きかけですから強いという図式でよく語られるのですが、しかし、そうなのでしょうか。こういう例で考えるとわかりやすいと思うのですが、子供番組をやっていて、コマーシャルはその子供番組の新しいおもちゃの宣伝を大体やりますね。そうすると、そのコマーシャルをみた子供は、大体「欲しい、欲しい!」となるわけです。しかし、これがもし余り勧誘がうまくない、朴訥と語るようなおもちゃ屋さんが消費者の自宅を訪ね、「今度新商品が出ました」とぼそぼそと言われて買うでしょうか。それはむしろ広告によったほうが買うと思われます。となると、実際は広告のほうがはるかに意思形成に働きかける影響が多い場合というケースも容易に想起されるわけです。そうしますと、広告のほうが勧誘よりも意思形成に与える影響力は弱いという価値判断は、実態にはそぐわないということも言えると思います。
 そのようになってきますと、結論としては特にターゲティング広告だけを特出しにして考えるというのは妥当ではないし、むしろ広告と勧誘の差異がないということであれば、いずれにしても意思形成に大きな影響を与えるということであれば、これはやはり消費者契約法の取消しの対象とするのが合理的であろうと考えます。これは私の考え方の結論となります。
 最後の論点が37ページの「4 第三者の関与」という点になります。昨今では、昨年のペニオクの事件も含めて、第三者である有名人のブログなんかの表現によって意思形成に至ってしまっているケースがあるわけです。しかし、現在の消費者契約法5条は、「媒介の委託を受けた第三者」という考え方を極めて狭く考えておりまして、少なくとも消費者庁解釈では、宣伝契約自体は5条の媒介の委託を受けた第三者に当たらないと明確に書かれています。ですから、もし今の5条の考え方のままでいってしまうと、取消しができないという話になりますから、ここのところも見直しを検討すべきであろうと思います。
 現に例えば37ページの脚注にありますけれども、景表法に関しましては消費者庁さんは「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」というところで、ブログなんかの口コミサイトの話であっても、報告主が第三者に依頼して掲載させている場合は、景表法上の対象として考えられるという見解を示しているわけです。ということからすれば、必ずしも5条のところだけ厳格に考える必要性もないというふうにも言えるのかもしれないと思っているところです。
 以上、私のほうもざっくりとお話させていただきましたけれども、今後、ネット取引に関する相談事例もますます増大すると思いますから、こうしたネット関係のものも含めて消費者契約法については改めて検討する必要性があると感じた次第です。
 以上です。(拍手)

○小田審議官 どうもありがとうございました。
 それでは、休憩に入りたいと思いますが、この部屋に時計がありませんので、皆様携帯電話をお持ちだと思いますが、14時25分に再開をしたいと思います。パネルディスカッションを少し長めにとりたいと思いますので、恐縮ですが、14時25分、この部屋にお戻りいただければと思います。よろしくお願いします。

(休憩)

≪パネルディスカッション≫

○小田審議官 それでは、時間になりましたので後半を始めます。
 ここからはパネルディスカッションに移ります。コーディネーターは坂東俊矢消費者支援機構関西常任理事でございます。
 坂東常任理事は京都産業大学大学院法務研究科教授で、消費者法、民法に関する研究をされ、また、弁護士としても活躍されておられます。さらに消費者支援機構関西の設立当初から常任理事として御活躍でございます。
 ここからは坂東常任理事に議事進行をお願いいたします。

○坂東コーディネーター それでは、早速ですが、パネルディスカッションを開始したいと思います。
 今、御紹介いただきました、本日の司会を仰せつかっています坂東と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 このパネルディスカッションでは、既に河上委員長からもお話がございましたが、消費者契約法の今、抱えている課題について、このパネラーの皆さん方と話をしていきたいと思っています。
 本日、パネルディスカッションに御参加いただく先生方につきましては、資料集の41ページに紹介が出ております。御参照いただけますようにお願いします。
 それでは、最初にまずパネラーの皆さん方から、それぞれ自己紹介を兼ねて消費者契約法への思いなどについて語っていただきたいと思います。
 まず、法務省経済関係民刑基本法整備推進本部参与の内田さんからお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

○内田氏 御紹介いただきました、法務省で参与をしております内田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 自己紹介を兼ねて、消費者契約法についての思いということなのですが、今日お配りいただいております青い資料集の最後のページをご覧いただきますと、民法(債権関係)改正の経緯が書かれています。2009年11月から法制審の部会審議が始まりまして、既に3年半以上経過し、その間、中間的な論点整理とパブリックコメントをやり、その後、第2ステージの審議をして、この2月に中間試案が取りまとめられまして、4月から6月にかけて二度目のパブリックコメントが行われました。
 参考資料には5月下旬から第3ステージと書いてありますが、正確には7月から第3ステージが始まりまして、現在の予定では1年くらいかけて改正要綱案の内容をある程度かため、早ければ再来年の通常国会への法案提出を目指すというスケジュールが部会で了承されております。
 かなり急ピッチでこれからの作業が行われると思いますが、この改正のプロセスの初期のころに、消費者にかかわる契約ルールの特則を民法の中に入れるという提案が議論の対象としてたくさん挙がっておりました。しかし、これに対して非常に批判が強くて、結局、中間試案では全て落ちております。落ちた理由は大きく分けると2つありまして、1つは消費者に関するルールは民法ではなくて、せっかく消費者契約法という特別法があるのだから、消費者契約法の中に入れるべきだという規定の配置をめぐる議論がありました。しかし、もう一つ大きな理由としてルールの中身そのものに対する反対があり、消費者のための特則の中身に対する反対が強くて落ちたという面もあります。
 今回議論されております消費者契約法の改正をめぐる議論の中で出てきているさまざまな提案は、民法改正のプロセスの初期のころに出ていたルールとかなり共通性がありますので、当然同じように中身に対する反対が出てきて、同じような困難に遭遇するだろうと思います。
 民法改正のための部会には消費者ルールを擁護するメンバーも相当数いたわけですが、それでもだめだったということは、やはり客観的なデータを蓄積して議論していかないと、批判を押し戻すことは難しいだろうと思います。民法の中に消費者規定が入らなかったということは、消費者契約法の果たすべき役割はますます大きくなっていると思いますが、その中にきちんとルールを盛り込んでいくためには、やるべきことはたくさんあるだろうという気がいたします。
 以上でございます。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 それでは、次に消費者庁消費者制度課長の加納克利さんです。

○加納氏 消費者庁の加納と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 自己紹介も兼ねまして、消費者契約法に関する思いをということですので簡単に申し上げますと、もともと弁護士でございまして、いわゆる消費者問題に取り組むきっかけとなりましたのは、学納金の返還請求訴訟に原告弁護団の一員として携わったというのがきっかけでございます。
 その後、当時の内閣府の方で任期付公務員になりまして、消費者契約法を中心に、団体訴訟制度の導入でありますとか、消費者庁の創設にかかわります関連法の整備でありますとか、そういったことに携わりながら、現在は専ら実効性の確保という観点で集団的な消費者被害の回復に関する裁判手続特例法というものを担当しておりまして、今、国会で審議が継続中という処理になっておりますけれども、それを主として担当しているという状況でございます。
 先ほど法制審の関係もございまして、こちらの方にも私は関係官として出席をしておりまして、その中でいろいろ消費者庁として意見を述べるということでやっております。消費者庁としましては、法制審の議論につきましては内容的に消費者の観点から導入すべきであると思われるものもありますので、そういったところについては積極的に導入をすべきであるという観点から、いろいろと申し上げたり、逆にB to B取引では妥当性が十分認められるものの、B to C取引においては必ずしもそうとは思われない点については疑問を呈するということで対応をしてまいりました。
 また、法制審の審議の状況をにらみながら、消費者契約法につきましては民法の内容によって大きく影響するところがございますので、さらに検討しなければならないと考えているところでございます。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 次に、公益社団法人消費者関連専門家会議、ACAPと言ったほうがきっと皆さんもよく御存じだと思いますが、その理事で、日本生命の消費者室長である中村哲さんです。

○中村氏 ACAPからやってまいりました中村でございます。
 所属企業である日本生命では、消費者団体や消費者行政の渉外業務をしておりまして、また、ACAPのほうでも交流活動委員長ということで、消費者団体、行政との交流活動を担当しております。
 正直、所属の企業やACAPにおきましては、消費者契約法の改正の検討は進んでおらない状況ですので、逆にこういうテーマなので保険会社に勤務している中村が行ってこいということで、きょうは東京からまいった次第でございます。
 消費者契約法ですけれども、制定されてから十数年がたちまして、判例もたくさん出てきております。生命保険会社が被告となった事案も散見されておるのですけれども、いわゆるまっとうな事業者であれば、消費者契約法を意識した事業活動というのは随分定着しているのではなかろうかと思っております。
 冒頭、先生方の御発表にありましたように、非常にこの十数年の間に高齢化社会の進展、また、インターネット取引の増加といった背景の中で、今、内田先生からお話があったように民法改正という大きなテーマもありますので、消費者契約法を取り巻く環境も変わってきておりますので、やはりこのタイミングで見直しは必要ではなかろうかと思っております。
 この消費者契約法は、業種を問わずあまねく適用される法律ですし、また、今、加納さんがおっしゃったように、適格消費者団体の消費者被害の回復に関する裁判手続特例法といった制度も組み込まれていこうという、非常に強力な法律だなと認識しておりますので、消費者サイドによってよりよい改正であるとともに、事業者サイド、行政サイドから見ても妥当性が強く求められる法律なのではなかろうかと思います。
 本日は事例をベースに議論を進めていこうということでお伺いしておりますので、ACAPは事業者団体ではあるのですけれども、日常、消費者と接している業務を行っている立場から、積極的に本日の議論に参加をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 続いて公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会、NACSのほうが皆さん方おわかりだと思いますが、西日本支部の副支部長である樋口容子さんです。

○樋口氏 皆さんこんにちは。NACSの西日本支部で副支部長をしております樋口容子と申します。
 私は奈良市の消費生活相談センターで相談員をしておりまして、その相談員という立場からということで、今回お招きをいただきました。非常に勉強不足でありますが、どうぞよろしくお願いいたします。
 唯一、相談員ということで忌憚のない意見をどんどん言ってほしいと言われておりますので、恥ずかしながら言わせていただきます。消費者契約法につきましては、取引類型を問わず使えるということでは本当に有難い法律ではあるのですけれども、実際、私ども相談員がそれを使って何かてきぱき取引のあっせんができるかというと、ほとんどできない、ほとんど使えないという法律ということは間違いないだろうと思います。
 後からも出てまいりますけれども、事実不告知、不実告知あるいは断定的判断の提供、全て言った言わない論争に必ずなってきます。そして、その結果が消費者の方に立証責任がある。そうすると、高齢者であったり、判断力が低下している方にそんな立証ができるわけがなく、第1条に消費者と企業の交渉力の格差を埋めるためと記されているにもかかわらず、消費者側に非常に負担が大きい法の構成になっているのではないかと思います。
 また、入口の部分のまず消費者、河上先生から先ほどお話いただいていたのですけれども、この消費者の規定自体も非常にあいまいで、私などたくさん扱わせていただいたものにアフィリエイト広告であるとか、ホームページのリース契約といった事例があります。全然儲けてもいない方々を事業者というふうに扱われてしまって、交渉が非常に難航することが幾らでもありました。ですので、できれば本当に最初の入口の時点の消費者の類型あるいは事例化というところからまず始めていただければ、非常に使いやすくなってくるのではないかと思います。
 今日はまだまだこれから議論が続くと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

○坂東コーディネーター では、名古屋大学大学院法学研究科教授の丸山絵美子さんです。

○丸山氏 名古屋大学の丸山でございます。民法、消費者法を中心に研究、教育を行っております。
 消費者契約法に関して思っていることなのですけれども、2000年に成立しました消費者契約法は、事業者、消費者間の情報、交渉力格差に着目しまして、消費者契約一般に適用される民事ルールとして、その登場は社会的にも注目を集めました。学納金返還請求訴訟など注目を集めた最高裁判決も登場しまして、同法が立法された意義は大きいものと考えています。
 しかしながら、現在の消費者契約法の内容は、契約締結過程に関する規律と不当条項規制に関する規律にその内容がとどまっております。しかも、例えば不当条項の具体的なリストというのは8条、9条だけであるなど、やはり内容が限定的と言わざるを得ません。また、消費者契約法4条について見れば、取消しの要件が立法趣旨からすれば厳格過ぎる部分があり、相談現場などでは解釈による対応では限界があるといった指摘も聞かれるところであります。
 消費者契約法は、その制定過程から現在の改正の議論に至るまで、有識者などによる法改正に関わる議論がある程度積み重ねられているものでございます。また、中身を充実させる必要性を示すような裁判例や相談例というのも、これは一定の蓄積があります。消費者の権利の実現を確固たるものとする手続的な制度の実現は確かに必要なものでございますけれども、それとともに実体法の中身の充実も真剣に議論をする時期が来ているのではないかと考えております。
 本日はどうぞよろしくお願いいたします。

○坂東コーディネーター では、最後に弁護士の山本健司さんです。

○山本氏 弁護士の山本でございます。
 現在、日弁連消費者問題対策委員会において、消費者契約法担当の副委員長をしております。どうぞよろしくお願いいたします。
 消費者契約法は、制定前に立法運動に参加しておりましたことや、制定後も学納金返還請求訴訟の原告弁護団に参加しておりましたことなどから、特に思い入れの強い法律です。
 消費者契約法という法律は2000年に成立しました際、前年度に日弁連で公表しておりました試案よりも、かなりこぢんまりとした内容で成立しました。既に立法から13年が経ち、高齢化社会の進行、インターネット取引の普及、民法改正の動きなど、消費者契約を取り巻く環境は大きく変化しております。消費者契約に関する包括的な民事ルールである消費者契約法につきましても、手直しや補充が不可欠であると思っております。
 日弁連では、2006年、2011年に消費者契約法の実体法部分の早期改正を求める意見書を公表しております。また、2012年2月には具体的な改正試案を提言しております。本日配付資料の分厚いほうの252ページ以下に、その試案の条文部分を掲載していただいております。そのような具体的な改正試案を提言しているのですけれども、なかなか改正作業の着手自体が厳しいという状況が続いてまいっているのが現状だと思います。
 今般の消費者委員会の報告書の公表と本日のシンポジウムは、実体法改正の実現に向けた1つの大きなステップであると考えております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 多彩な6人のパネリストで今から議論を始めていきたいと思います。
 資料の42ページ以下をごらんください。ここに11の具体的な事例が簡潔ではありますが、記載をしております。この11の事例は全部で5つの形に分けて記載されております。この5つの形に分けたものに従って、きょうは議論を進めていきたいと思います。
 まず最初に相談事例マル1~マル3、すなわち契約締結過程(誤認類型)にかかわる部分について議論をしたいと思います。
 これは既にここにおられる方々には釈迦に説法でありますが、消費者契約法は不実告知、断定的判断の提供、それに不利益事実の不告知により消費者が誤認をした契約を取り消すことができる旨を定めております。しかしながら、例えば相談事例マル1を見ていただきますと、これは重要事項を単に告げなかっただけの事案であります。その場合には取消権の要件を満たさないという問題がございます。また、相談事例のマル2を見ていただきますと、この事案は断定的判断を提供しているわけですが、その事項が例えば金融取引における指標や金利などといった経済的事項ではないがゆえに、取消しができないという解釈もなされている、そういう対象である事案でございます。
 また、マル3の事案は先ほど来議論になっていたとおりでございますが、広告上の不当な表示を信じて契約をした消費者であるわけですが、その広告自体が勧誘という概念に含まれないという解釈もあって、考え方によれば本件は消費者契約法では救済されない可能性が残されている、議論の余地のある事案であります。
 このような消費者を誤認させる勧誘行為の3つの類型について、現場ではどのようなことが問題になり、感じておられるかといったところから議論を始めたいと思います。
 まず樋口さんにお伺いします。こういった事案以外にも相談現場でいわゆる誤認類型についてどのような問題意識を持っておられるかという点をお聞かせいただけますでしょうか。

○樋口氏 まず相談事例マル1なのですけれども、現在、私も似たような案件を扱っております。中古のバイクなのですが、全く似たような案件でして、35万で買ったバイクを登録に出そうとしたところ、事故車であるということがわかったという話です。が、その業者が、ネット販売し、協会などにも全く属していないという業者で、非常に連絡もとりづらいですし、こういう内容で交渉したとしても一切受けてくれません。何なら裁判でもしてくださいというような形で、交渉では全く歯が立たないという状況になっております。
 これは中古車にはよくある話でして、メーターの巻き戻しというのは最近、消費者契約法で解約できてきたのですけれども、事故車であるとか不正改造をしている場合、交渉では、不実告知、事実の不告知としては解約が難しいというのが現場の現状であります。
 マル2の事例も、高齢者の御夫婦が高血圧があったり糖尿病があったりと、御夫婦でいろんな病気を抱えていたので、高麗人参エキスを体にいいということを勧誘されて、いわゆる店舗販売なのですけれども、300万円も契約してしまったのです。その場合も業者の方は、「一切そんなこと言うわけないではないですか」とか、「向こうの誤認です」などと言うのです。けれども、年金生活の御夫婦が300万円近くの健康食品をまず何の動機もなく買うわけがなく、相談員になったころの講座で村千鶴子弁護士が、「言った言わないの場合は、どうしてこの人が何百万円もの高額なものを買ったのかということを考えれば、業者に効果効能を勧誘されて、そういう動機になったから買ったに決まっているでしょう」ということを言われ、なるほどと思いまして、割とそういう言葉を使いながら交渉を進めているのです。とにかく、この法律の中では非常にこれも使いづらい内容だと思います。
 広告上の不実表示なのですけれども、これも景品表示法であるとか、特商法の通信販売の広告の規制はあるのですが、全て業法のルールでして、民事で解約に持ち込めるような法の組み立てにはなっておりません。それで、いつもこれも、契約書の記載とか、あるいはほかの申し込み内容の表示というような、いろいろな不法行為、不当行為をいっぱい集めてきて、そしてやっと解約に持ち込める、あるいはあっせんに持ち込めるといった内容になっておりまして、現場でも大変使いづらいなというのはあります。

○坂東コーディネーター ありがとうございました。
 消費者委員会の論点整理の報告書の中では、契約締結過程の誤認類型については丸山さんが執筆されています。この別冊資料の8ページ以下であります。
 今の樋口さんの話も含めて、どのようにお考えですか。

○丸山氏 それでは、事例ごとに多少コメントをさせていただければと思います。
 事例マル1は先ほどから御指摘がありますように、中古車が事故車であることは契約締結の判断に影響を及ぼす重要事項であると言えると考えられますが、これを消費者が告げられていなかったという事例でございます。このような事例について、民法の詐欺、錯誤、瑕疵担保責任に関する規定によって対応する可能性あるいは情報提供義務違反、説明義務違反を利用して損害賠償を請求する可能性はもちろん否定されません。
 しかし、意思表示の瑕疵に関する民法の規律を拡張したはずの消費者契約法では、取り消しにくい事例であることを指摘できます。なぜかといいますと、消費者契約法4条2項は重要事項について不利益事実の不告知があった場合に取り消しを認める規定ですが、利益告知の先行を要求し、さらに故意も要件としているからです。
 もっとも裁判例を分析してみますと、商品の性能とか内容とか、あるいは給付と対価の均衡関係判断にかかわる取引条件など、事業者側が設定している契約条件のうち、基本事項と言えるものについて事実の不告知があって、消費者がそのような事実に関して誤認しているような場合には、利益告知の先行とか、故意という要件を余り厳格に問わないで取消しを認めている判決も見られるところではあります。
 そこで私が執筆している報告書の8ページ以下では、そういった契約の重要な部分、基本事項に関する情報の不提供については、利益告知の先行を問わず、過失による不告知についても取消しを認めてはどうかといった提案をしているところでございます。
 次に事例マル2ですけれども、これは事業者が断定的な判断を提供し、消費者がその判断を信じて契約をしているわけなのですが、これにかかわる記述としては、消費者契約法4条1項2号があります。しかしながら、この消費者契約法4条1項2号は、将来におけるその価額、金額など、将来における変動が不確実な事項という文言を用いておりまして、金融取引を念頭に置いた規定であることがうかがわれ、このような事例では使いにくいし、裁判例でも実際にこういった事例では使われない傾向にあることを指摘できます。
 マル2のような事例は、先ほどなかなか対処しにくいというという指摘があったところですが、現行法では実はいずれの規定によっても対応が難しい谷間事案とも言えるのではないでしょうか。しかし、一方では本来断定できないことを断定するという行動に、取引社会にとって望ましい側面はないのではないかと思われますし、他方では、消費者は断定的判断を提供されるとそれを信頼してしまうという傾向があるとすれば、財産上の利得に限定しないような形で断定的判断の提供があった場合に、誤認取消しを認めるといった解釈の採用あるいは法改正による明確化を図ることは検討に値するのではないでしょうか。
 最後のマル3の事案ですけれども、これも先ほどから指摘されておりますように、4条の勧誘概念の解釈にかかわる事例です。繰り返し指摘されておりますように、広告であろうが、口頭での働きかけであろうが、契約締結過程における事業者の契約締結への働きかけに起因して消費者に誤認が生じたと言えるのであれば、不実告知取消しなどが認められてよく、勧誘概念に広告が含まれないといった限定的解釈に、合理的な理由はないのではないかと考えております。
 実際に裁判例などを見ても、広告やパンフレットだから不実告知とならないといった判断がされている判決は見当たりません。ただし、勧誘要件を狭く解釈する立場もあるので、これも法改正によって明確化を図るほうが望ましいのではないか。こういったことを報告書の8ページ以下では掲げていただいております。
 以上でございます。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 課題が少し明確になってきたと思いますが、とりわけ相談事例マル3は不実表示という言葉が使われていますが、消費者契約法は実は不実告知というのが従来言われていた言葉であります。民法改正の議論の際に不実表示の一般化というものが大きな問題になっていると思います。内田さんからその経緯や状況についてお考えをお聞かせいただけませんでしょうか。

○内田氏 それでは、中間試案を御紹介したいのですが、別冊資料の報告書224ページに中間試案の内容が掲載されています。
 錯誤の規定が右側に掲載されておりまして、一番下の(2)イというところに「表意者の錯誤が、相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるとき」という文章が出てきまして、これがいわゆる不実表示と今も言われており、かつ、非常に誤解の多い規定です。
 まず、ここに至るまでの経緯を御紹介いたしますと、民法の改正の論議のごく初期のころに、学者グループが不実表示の規定を民法に置こうという提案をいたしました。この提案は、勧誘もなく、表示した側に故意とか過失もなくても、不実表示によって誤認が生じたことを要件として一定の場合に取消しを認めるというルールでした。
 これが議論の対象になったのですが、その際に消費者契約法4条の不実告知の規定の一般法化という説明の仕方をいたしました。こういう説明の仕方をしたということも1つの理由だったかもしれませんが、多くの批判を招きまして、経済界からは消費者のためのルールとして消費者契約法にあるものを、消費者という限定を外して一般法とするのは何事かという批判がありしましたし、消費者のために活動しておられるグループの方々からも、こんな一般ルールにされてしまうと、不実表示のルールが消費者の表示に対しても適用される。これはいわゆる逆適用と呼ばれ、そういう消費者に不利な場面も生じるのではないかという批判を受けました。要件をきちんと読んでいただければ、そういう心配はないと私は感じておりましたが、しかし、経済界からも消費者側からも双方から反対されましたので、そんな案が生き残るはずがないわけでして、これは消えてしまいまして、現在の中間試案では残っておりません。
 今、残っている中間試案の規律は何かというと、先ほど御紹介しましたように錯誤の中の規定としてです。錯誤というのは要素の錯誤があれば契約が無効になる。中間試案では取消しと提案されておりますので、取り消される。しかし、要素の錯誤と言っても非常にわかりにくいので、要素の錯誤の内容を、判例ルールを明文化することで明らかにし、かつ、いわゆる動機の錯誤、つまり、契約の前提となった事実に誤認があった場合ですが、これが錯誤で一番多くて、消費者紛争で出てくるのもみんなそうですが、この動機の錯誤があった場合についても判例ルールがきちんとあって、動機が表示されて契約の内容になったと評価されれば、初めて要素の錯誤があるかどうかの評価の土俵に乗ってくる。そういうルールがあるわけですが、これも明文化することが提案されています。
 ところで、動機の錯誤、つまり、事実の誤認が相手が誤った表示をしたことによって生じたという場合は、動機の錯誤が契約の内容になっているかどうかを問わずに、直ちに要素の錯誤の有無の判断をすべきだ、というルールを裁判例の中から抽出することができます。最高裁判例があるわけではないのですが、合理性のあるルールであるように思います。つまり動機の錯誤に陥っているけれども、それはあなたのせいで陥ったのではないですかというときに、表示そのものは無過失ですることもあるわけですが、しかし、誤った表示をした側が、錯誤が契約内容になっていないのだから要素の錯誤の判断をすべきではないなどと主張することを認める必要はないだろう。そこで動機の錯誤のサブルールとして、いわゆる不実表示のルールが提案されているということです。
 これは消費者保護のルールではなくて、一般法であって、ごく常識的なものですし、比較法的にもオランダの民法とかヨーロッパ契約法原則とか、現代的な契約ルールに見られるルールですけれども、外国の真似をしてということではなく、日本の裁判例から抽出されたルールとして、こういうサブルールをきちんと明文化しようということが提案されているということです。ですから、これは当初提案されていた不実表示とは全く成り立ちの違う、あくまで錯誤法の中のルールです。
 当初提案されていた不実表示のルールは、比較法的には英米にそういうルールがありますので、荒唐無稽なものではなく、一般法として十分存在し得ると思われます。にもかかわらず、非常に批判が強かったのは、要素の錯誤という民法の要件に関しては、100年余りの判例の蓄積があるわけですが、不実表示の規定を新たにつくり、そこで「通常契約をするかどうかに影響を及ぼすべき事実について、事実と異なる表示があったときは」といった新たな要件を書きますと、これは今、消費者契約法の改正でも議論されている点ですけれども、その要件をめぐって一からまた判例を形成しなければいけない。そんなことをするよりも、今までの安定した錯誤法があるのだから、新規のルールは要らないと批判されてつぶれてしまったというわけです。
 消費者契約法の改正で今議論されている内容は、民法の改正の議論の初期のころに行われていた議論とかなり共通しているように私には見えますので、同じような批判が出てくるだろうと思います。それを押し返すためには、繰り返しになりますけれども、個別の事例で消費者を保護する必要があるというだけではなかなか十分ではない。かなりの事例の蓄積など客観的なデータを集めた議論が必要なのではないかという気がいたします。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 まだまだ議論が尽きないと思うのですが、時間のこともございます。次のテーマに移りたいと思います。
 お手元の相談事例でいきますとマル4とマル5です。いわゆる困惑類型にかかわる議論があります。
 マル4は帰ってほしいと思ったけれども、口に出せないまま契約を締結してしまった。したがって、消費者契約法による取消しが難しいのではないかという議論であります。
 マル5は執拗な勧誘であったことは間違いないのですが、それが電話でなされた。そういう事案であります。したがって、これも消費者を困惑させる勧誘行為であることは間違いないのですが、消費者契約法の適用がどうかといったような問題であります。ここでも初めに樋口さんからこれらについての御感想を伺いたいと思います。

○樋口氏 これも大変多い事例となっています。特に高齢者の方だと、マル4の場合だったら住宅リフォームであるとか新聞勧誘などが非常に典型的な例になっています。
 住宅リフォームは最近かなりいろいろな法律の規制で適正化されてきているのですけれども、相変わらず新聞勧誘なんかがひどくて、私が受けた相談案件では、勧誘員が、「要りません」と言われたのに、「何を言っているんだ」と言ってドアに足を入れてきて、高齢のおばあちゃんはそれだけで驚いてしまって、今とっている新聞があるにもかかわらず、二重で契約してしまったというような例がありました。その勧誘員の行動は、こちらからあっせんに入りましても、「そんなことはしていません」という形で逃れております。おばあちゃんは、怖かったから契約したんですということを言われる例が本当に多いです。ですから、怖い場合は、帰ってほしいすら言えない消費者もたくさんいるということが多々あると思っております。帰りたいというのも同じだと思います。
 マル5なのですけれども、これは最近、多くの相談員の方も手を焼いていると思うのですが、健康食品の送りつけ商法というものがこの1年ぐらいかなり多くなってきています。手を変え品を変えなのですが、大体は「あなたが申し込んだ健康食品ができ上がりましたので送ります」と業者が電話をしてきます。そうすると、「そんなもの頼んだ覚えはありません」、「いやいやあなた頼んでいます。何をぼけたことを言っているんですか」という感じで、業者に非常に強引に電話で言われ続けるのです。「そんなもの頼んでいない。要りません」と消費者が電話を切るのにもかかわらず、業者が何度も「お前頼んでいるのに取らないと言うのか。お前の住所わかっているぞ」みたいに非常にすごんで、契約を強要してくるのです。電話なので別に断って構わないのに、その電話が余りにも怖いので消費者が契約してしまったという事例が非常に増えております。
 こういった場合も、電話は本当に勧誘の1つの大きな手段であると思います。特に高齢者で自宅にずっといて、外にも出ない方にとって電話というのは、非常に大きなコミュニケーションのツールになっておりますので、先ほどのインターネットの勧誘と一緒なのですが、電話による勧誘というのが対象外というのも、これは規制としてはおかしなことだなと実感しております。

○坂東コーディネーター 高齢者の方の被害が電話勧誘販売で始まるというのは今、大きな社会問題になっている事実でもあると思います。この辺については裁判例も出てきていると思うのですが、山本さん、そのことも踏まえてどのようなお考えをお持ちですか。

○山本氏 もともと「困惑」というのは、困り、戸惑い、どうしてよいかわからなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況になることであるというような言われ方をしております。消費者契約法の困惑取消しという制度は元来、事業者にそのような状態にさせられて締結した契約は取り消せるという基本構造であると思います。ところが、現行法で取消しという効果がもたらされる困惑惹起行為については、不退去と退去妨害に限定されております。これが現行法の困惑類型に関する大きな問題点だろうと思っております。
 裁判例というお話を頂戴しましたけれども、我々弁護士会の調査でも、消費者庁の調査報告でも、事業者による不退去、退去妨害以外の態様による不当な困惑惹起行為によって締結された消費者契約に関する被害事例について、民法90条の公序良俗違反で契約の法的効力を否定した裁判例や、不法行為に基づく損害賠償請求を認めて被害救済を図った裁判例が少なからず存在いたします。
 具体的な内容としては、先ほどから御紹介がありますような勤務先や自宅等への執拗かつ威迫的な言動での電話を繰り返すことで消費者がやむなく契約を締結してしまったという事例のほか、霊感商法など不安心理につけ込んだ勧誘行為が認められる事例、知識・能力が不十分な際につけ込んだ勧誘行為の事例、従業員など立場の弱さにつけ込んだ勧誘行為の事例などが認められます。これらは不退去、退去妨害といった身体を拘束するタイプの困惑惹起行為ではないことから、非身体拘束型の困惑惹起行為と言えると思います。
 それら非身体拘束型に関する裁判例からは、現在の消費者契約法の4条の消費者取消権の対象が身体拘束型に限定されてしまっているので、被害救済がやむなく民法の公序良俗規定や不法行為などといった一般規定で試みられているという現在の状況がわかります。しかしながら、裁判実務では裁判所は一般的に公序良俗違反の認定には慎重ですし、また、相談現場でも要件が不明確であることから、公序良俗は使いにくい法規定であると思います。加えて、消費者被害は対象金額が低廉なことが多いこともあって、非身体拘束型の困惑惹起行為の被害類型については、被害者の泣き寝入りとなっている案件が少なくないのではないかと思います。
 したがって、非身体拘束型の困惑惹起行為の類型については、消費者契約法の不当勧誘行為の1類型として明定して、事業者がそのような行為で契約締結させた場合には契約を取り消せる、また、損害賠償請求ができるといったような立法を検討すべきではないかと思います。
 先ほど御紹介させていただきましたように、日弁連試案ではそのような立法提言を試みております。また、今回の内閣府消費者委員会の報告書でも、そのような方向での検討をしてみてはどうかという立法提言がなされております。今後必要な消費者契約法の実体法改正の重要なポイントの1つであろうと考えております。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 困惑類型のにじみ出しは、どうやら民法の公序良俗違反というところで頑張ってきたんだという話がありました。当然、民法改正との関係がとても重要でございます。
 今、民法改正でも公序良俗の具体的な議論の中で、暴利行為という議論も出てきていると聞いております。それとの関係で今までのお話を内田さん、どのようにお考えになったかお聞かせいただけませんか。

○内田氏 これも中間試案を御紹介したいのですが、別冊資料の223ページをご覧ください。右側に法律行為総則、公序良俗という記述があり、その(2)ですけれども、民法90条の公序良俗だけでは今のお話のようになかなか使いにくいものですから、これを具体化した規定を置こうという提案がされております。(2)の冒頭をちょっと御紹介しますと「相手方の困窮、経験の不足、知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して」という要件が書かれています。
 この部分だけが要件になりますと、いわゆる古典的な暴利行為の現代化として、ヨーロッパで「状況の濫用」などと呼ばれている法理の要件になります。加納さんが以前、学納金返還訴訟をやっておられたということですが、学納金返還訴訟をめぐる判決の中にも、高裁判決ですけれども、「状況の濫用」という日本民法にない概念をわざわざ用いて判決文を書いている判決が幾つかありますけれども、その「状況の濫用」の法理になる。そうすると、今、議論されているような事例にも対応可能なルールになるだろうと思います。
 ところが、こういうルールを入れることに対しては、部会では多くの反対がありまして、このためにコンセンサスが形成できないということで、中間試案では落ちました。
 中間試案に入っているものはどういうものかというと、今、読み上げました「相手方が・・・合理的に判断することができない事情があることを利用して」に続いて、「著しく過大な利益を得、又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は、無効とする」となっています。この要件が入ると格段に要件は厳しくなりまして、著しく過大というのは経済合理性の観点から許容できる範囲を超える利益を相手が得ること、つまり、経済合理性の観点から許容できる範囲を超える給付の不均衡が生じるということです。
 外国の立法例の中には、これだけでもって契約に介入できるというものもあるわけですが、日本ではここまでの暴利が生じても介入できない。それにプラスして契約締結過程の不当性を先ほどのように証明して、初めて介入できるというのが今回の暴利行為のルールです。
 私はこれは消費者保護のルールではないと思います。一般法のルールであって、ただ、公序良俗と書くよりははるかに具体化されていますので、これを書くことには意味がある。それでも今、経済界から非常に強い反対がありますので、風前の灯火かもしれませんが、やはりこれを書くことに意味があると思ってくださる方々には、きちんと賛成だと言っていただいたほうがいいと思います。
 しかし、これだけでは消費者保護にはなりませんで、これに加えて恐らく過大な不利益という要件を外した「状況の濫用」的なルールがなければ、今のような事案には対応できないだろうと思います。しかし、そういうルールに対しては非常に強い反対があるというのは事実で、やはりこの反対に対して力で押し切るというのはなかなか立法では難しいことです。反対の理由というのは専ら濫用されるということ、救済されるべき事例を救済すべきでないと言う人は余りいないと思うのですが、こんな一般的なルールをつくると濫用されてしまうというわけです。そこで濫用されないような仕組みを説得的に議論していく必要があるだろうと思います。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 申しわけありませんけれども、次のテーマに移ります。次の3番目のテーマは契約締結過程、とりわけインターネット広告の話です。先ほどインターネット広告についてはさまざまな課題があるという御報告が既になされております。事例マル6及び事例マル7がその対象でありますが、マル6については要するにネット上の広告の問題です。マル7はブログの記事を見て契約を締結してしまったという問題でありますけれども、IT化の進展により消費者がネット取引をする量は著しく増えています。ほぼコンビニの取引と一致しているというふうにも聞いております。そのインターネット取引についてさまざまな相談事例があると思いますが、最初にまた樋口さんからその状況についてお話をいただけますでしょうか。

○樋口氏 3分と言われていますが、3分では言い切れないほどの事例がインターネットではあって、先ほどもおっしゃっていましたけれども、例えばアダルトサイトだったり出会い系サイトだとかに入り込んで、数百万円から数千万円使ってしまったという消費者が後を絶たないのです。なぜこんなのを信じるんですかと言っても、一人きりで画面と接して、ブログやTwitter、ネット広告、SNSなどを見て長時間過ごしている方なんかは、それが世界の全てで、先ほどの高齢者の電話ではないですけれども、ここに書いてあることは非常に正しいと思い込んでしまうようです。でなければ、なぜインターネットで、数千万円あげるから、とりあえずこちらのサイトに入ってきてくださいなどと言われて、それを信じてメールのやりとりをしただけで数百万円も支払ってしまう消費者が後を絶たないのでしょうか。私が相談を受けた方は880万だったのですけれども、全額振り込んでしまうのです。皆さん社会的にはまともな方なのです。何でそんなに信じ込んでしまうのか。これは心理学的にもぜひ研究していただきたいと思うのですが、これを勧誘と言わずに何と言うのだろうかといつも思います。
 また特に最近ひどいのは、日本だけではなく海外からのネットでの不正広告です。一流メーカー品とか、ブランド品と思われるサイトがネット検索で一番上に来るようになっていて、高額商品、ブランド商品をオーダーしたつもりで、お金を振り込んだけれども、商品が届かない。あるいは偽物が送られてきた。後でやりとりをしようと思うと、全然そこのサイトに連絡がつかない。それは今回の類型とは違うのですけれども、とにかくネットの広告、ブログ、Twitterといったもので情報が拡散しているというか、錯綜してしまって、消費者はどれが真実か全くわからないという混乱の状況にあると思います。ですからやはりこういったインターネットの広告、あるいは表示に関しても、業法ルールだけではなく、こういうことで契約してしまう消費者に対しての救済制度である民事ルールも、適用ができるような方策をつくっていただきたいというのが思いです。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 こういう点については事業者の方からの御意見も非常に貴重だと思うのですが、契約締結過程の規律に関して中村さんはどのようなお考えをお持ちですか。

○中村氏 まずインターネット取引なのですけれども、私自身のことなのですが、冒頭の山田先生のお話をよく聞いていればこういうことはなかったと思うのですけれども、実は私、ゴルフクラブをネット取引で購入しまして、それはどうも日本のサイトではなくて、怪しげな日本語のサイトにどうやらたどり着いてしまって、クレジット決済したのですけれども、これはどうもおかしいということで、品物が届かない前に、何とか四苦八苦してそれをうまく取消しできたのですが、そういう意味で本当にネット取引には落とし穴があるなと身を持って経験しております。
 そこで今回の6番目の事例なんかを見ますと、私は広告というのはある程度誇張されたものだということは一般的にも理解されているし、ただ、それが誤認であるかどうかというところが問題になるのではなかろうかと思うのですが、この事例マル6のように「1週間でアレルギー体質克服」なんていうことが書かれているものは、景表法の規制の対象になってくる事案ではなかろうかと思います。
 先ほどから議論があります広告規制といったものを消費者契約法の中に加えるということの意味合いなのですけれども、先ほどの冒頭、私が紹介しましたように、やはりネット取引というのは広告=勧誘というところがまさに直結しているので、それ以外の判断の要素はないわけです。それから、店頭販売であっても、最近はポップ広告みたいなものを店頭に並べて、結構、断定的な物言いをしているようなものもあるわけですけれども、それらとネット取引の広告とは同列ではないのではと思います。ただ、それをどの程度信じるか信じないかというのは消費者の皆さんだと思うのですが、そういったことの見合いも含めて総合的に考えていかないといけない問題ではなかろうかと思います。
 あと事例マル7の有名人ブログの記事、また最近はこんな事例はステルスマーケティングと言われているらしいのですが、ただ、これも有名人が推薦するというブログ、ここら辺も有名人の線引きをどこでするかということもなかなか難しいところではありますが、私はこういったものへの法規制はそもそもなじむのかなと思います。むしろそれ以前の消費者教育とか啓発だとか、そういったことでインターネットの注意事項みたいなことについては、別の角度から啓発、教育していかなければいけないテーマではないかと思っております。
 坂東先生のほうからは契約締結過程全般についてということでございましたが、先ほど報告書の中にも「情報提供義務」といったものを、契約締結過程の中の規律のほうに入れていこうという議論があったかと思います。これは後ほど「適合性の原則」ということとも絡む論点かと思うのですけれども、やはりどのような人にどのような情報をきちんと伝えていくかといったことは事業者としてもきっちりしていかなければならないですし、法律にする以上はそれを明確にしていただきませんと、ともすれば「情報提供義務」といった言葉は独り歩きしがちだということもございますので、実際に我々ACAPの消費者相談に携わる者も、こういうものの使われ方で相当な混乱が生じるということもなきにしもあらずなので、一番いい形での着地点をお考えいただければと思っております。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 それでは、加納さんから今までの御意見を踏まえて、インターネット取引を含む契約締結過程の規律全体についてどのような御意見を持っているか、お聞かせいただけませんでしょうか。

○加納氏 こういった消費者契約法制定後の事情の変更といいますか、社会情勢の変化に対応する中で、インターネットの問題というのは非常に大きな問題だと思っております。インターネットをめぐる消費者トラブルというのが非常に増えているという状況だと思いますから、それに対応した消費者契約法の見直しというのは当然検討する必要があると思っています。
 他方で、先ほど来いろいろ議論がありますけれども、インターネットの問題は非常に奥が深くて、表示規制の問題でありますとか、国際的な取引の問題とか、非常にたくさんの問題を含んでおりますので、消費者契約法で全てを拾っていくべきかどうかというのはよく考える必要があると思っていまして、やはり景表法とか特商法とか、そういった行政規制の中でカバーしているものは何かとか、そういった全体像の整理といいますか、どこをどう法律で手当をしていって、消費者契約法はその中でどこでカバーしていくかというような整理をしていかないと、なかなか全てを消費者契約法でカバーするというのは難しいですし、政策としてもいいものにはならないのではないかという気もしております。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 それでは、次のテーマに移りたいと思いますが、消費者委員会の今回の論点整理の報告の中でも幾つかのテーマが挙げられて、具体的な議論をされています。その中で適合性の原則というものを今回取り上げたいと思います。
 これは御存じのとおり、私たちの社会の超高齢化に伴って、例えばひとり暮らしの高齢者などが消費者被害のターゲットにもなっているという話があります。見ていただいたらすぐ御理解いただけるとおりですが、相談事例マル8という事案は本人が被害を受けているという認識がない事案であります。相談事例マル9はいわゆる知的障害者の方に不当な勧誘が行われた事案でありまして、いずれも適合性の原則の議論が出てくる事案ではないかと思います。
 まず山本さんにお伺いいたします。日弁連の改正試案の中では、適合性の原則の条文化が提案されていたと思いますが、その点も踏まえてどのようにお考えか、お聞かせください。

○山本氏 本件の事案のように、判断能力に問題のある方、特に高齢者を狙って高額商品を次々と売りつけるといった悪質な事業者による被害事例は、非常にたくさんあると思います。国民生活センターの統計では、我が国の相談現場における70歳以上の消費者トラブルに占める比重は、最近10年間でほぼ倍増し、全体の16.8%を占めるに至ったと聞いております。
 判断能力に問題がある方の被害事例の場合、誤認、困惑により契約してしまったといった事案もさることながら、そもそも合理的な判断ができないために事業者を容易に信用してしまって事業者に言われるがままに契約してしまう、本人に被害の認識がないといった事案も多いというのが1つの問題であろうと思います。
 したがって、現行法の誤認類型、困惑類型の強化だけでは不十分であって、それらとは別個の救済制度を整備する必要があろうと思います。我が国で高齢化社会が今後ますます進行していくのは確実であることを考えれば、判断能力の低下した消費者が安心して生活できる民事ルールの整備は、国家として必要なところではないかというふうに考えます。
 そのような要請に応える1つの試みとして、日弁連の消費者契約法改正試案では、適合性原則違反を事業者の不当勧誘行為の1つとして位置づけ、損害賠償権という法律効果と取消権という法律効果を認める立法提案をしております。
 適合性原則違反はもともと金融商品の取引で判示されることが多く、効果は一定の場合に損害賠償を帰結するものとされておりますので、その適用範囲と効果を広げた試案と言えると思います。もっとも、そのような考え方には異論もあるところであり、別の法律構成もあり得るように思います。例えば、先ほども御紹介がありました状況の濫用という規定を新設するとか、不当勧誘行為の一般条項を新設するといったあり方も考えられるように思います。日弁連の改正試案では、そのような立法提案も適合性原則違反と併記して立法提案をしております。今般の消費者委員会の報告書を受けて、立法について広く理解を得られるような法律構成や要件立てについて、今後さらに検討を深めて参りたいと考えております。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 続けて今の点について、丸山さんからコメントをいただきたいのですが、どうですか。

○丸山氏 今回の事例に沿ってコメントをさせていただきたいと思います。マル8の事例は、高齢者ご本人が契約に満足しているということでございますので、恐らく成年後見制度の利用なども考えなければいけない事例だと思うのですけれども、マル8やマル9の契約について、そもそも民事的に無効主張あるいは取消しが可能なのかという観点から考えてみますと、現行法ではなかなか難しい事例と言えるのではないでしょうか。
 事実認定としまして、例えば同種の商品とかサービスを大量に契約しているといった、いわば過量販売のようなケースであるならば、現行法でも特商法の9条の2や民法90条の公序良俗違反の規定による対応が考えられるので。しかし、今回の事例が1回限りの10万円の補強工事であって、不実告知の事実もない場合であったり、マル9の130万円の購入契約が1回限りでの取引だったという場合には、これらの契約した消費者には確かに判断力が低下しているという事情は伺われるのですが、意思無能力とまでは言えないでしょうし、値段設定も類似の商品と比べて著しく高額とまで言えないのであれば、民法90条の活用というのも難しくなってくる事例ではないかと思われます。
 ところで、適合性原則という考え方については、配付の報告書の56ページ以下のところに検討がされております。そこで指摘されておりますように、この適合性原則という考え方は、もともとは投資サービスの領域における業者ルールとして登場したものであります。日本ではそれが消費者法の領域においても、勧誘に際して消費者の知識、経験、財産の状況等に配慮するという事業者の勧誘に関する望ましい行動のあり方あるいは行為規範として、例えば消費者基本法や、そのほか幾つかの法律で掲げられてきている。このように言えると思います。
 報告書でも提案されておりますように、消費者契約における事業者の勧誘に関する行為規範として、消費者の知識、経験、財産の状況等に配慮して勧誘するという考え方を消費者契約法に位置づけるということは検討に値すると考えます。行為規範としての明確化というのは事業者にとっても全うな事業者であれば、勧誘方針を立てやすくなるといった点でメリットがあるでしょう。ただし、民事的効果を伴う規定として導入を考える際には、過量販売の規定を拡大に関する議論提案されている消費者公序規定の導入、あるいは困惑類型の拡大、そこでの議論を踏まえながら、そういった規定の要件・解釈の中で適合性原則の考え方を反映させていくといった手法も考えられるのではないか。現在はこのように考えております。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 さまざまな検討がまだ必要のようにも思いますが、一方で高齢者等の取引というのが現実の問題として今、事業者の方の前にも突きつけられてくる課題かと思います。中村さんからも御意見をいただけますでしょうか。

○中村氏 この適合性原則というのは非常に実務の中では難しい問題でございまして、例えばこの事例のケースで見ましても、年齢だけでは決められないといいますか、例えばこの方は70歳ということなのですけれども、認知症が入っているような方の70歳なのか、それとも1人でしっかり生活されている方なのか、そこら辺によって事業者としても判断が異なってくるのではないかと思います。
 また、高齢のお話は我々ACAPもよく聞く話なのですが、どういうことかというと、例えばこういうクレームを言われる典型的なケースとして、1人暮らしのお年寄りの方がちょうど今、夏のお盆の時期に子供さんが帰ってこられて、親が高額のものを買っていることに驚いて、その子供さんのほうが事業者に、おばあちゃんがわけわからないものを買わされたので、そんなものを取り消してくれというようなことをクレームという形で入ってくるというケースが、いろんなサービス、商品の事業者から聞いております。
 事業者としても、こういう高額な商品であるとか、サービスを高齢者に販売する場合については御家族への説明であるとか、販売員が上司と同行の上に契約をするとか、そういう義務づけをしているような業界も幾つかございますけれども、このような事例のような場合について、御本人のクレームというよりは、家族の方からの強い御意向というケースが働いている場合も少なからずありますので、本当に適合性の具体的な線引きというのは、実務の中では非常に難しいと感じております。
 ただ、もちろん高齢者問題というのは年々大きくなる問題ですし、法的保護をしなければいけないという方々もたくさんおられるのは事実ですので、この消費者契約法改正に当たってルールづくりということはぜひ必要であると考えています。
 ただ、高齢者だからと言って必要以上に事業者の法規制を厳しくし過ぎると、事業者のほうでも、そうでしたら高齢者と取引すること自体が非常に面倒だ、コストがかかるということで、高齢者との取引をためらうという形のことが出てくるのではないかとも、思っております。
 これからますます高齢者、その中でもひとり暮らしのお年寄りが増えているというのが現実ですので、そういった方々が取引できないような形になってしまうのは本末転倒なので、そんな形にならないようにしなければいけないのではないかと思います。
 事例マル9のいわゆる社会的な弱者の方との消費者取引という類型かと思うのですけれども、こういったケースについては例えば医師の診断書が出てくるだとか、そういうことによって、ある程度適合性の判断については線引きといいますか、判断が出てくるのかなと、事業者としてもこういうものについては答えを出しやすいことになるのではなかろうかと思っています。
 先ほども申し上げましたように、高齢者と適合性が一番悩ましいところではないかなと実務の中で感じている次第でございます。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 それでは、加納さん、今までの御意見を踏まえて適合性原則についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。

○加納氏 先ほどのインターネット取引と並びまして、高齢者社会の進展というのは大きな社会事情の変化に当たると思いますので、これを踏まえた消費者契約法の見直しというのは必要性を認められますし、逆に大きな課題になると思います。
 方向性として、1つは困惑類型の拡張というのが考えられるのではないかと個人的には思っておりまして、現在の不退去・監禁となっているものについて、さらにそれ以外の困惑類型というものを具体的に書き足していくという形での立法があるのではないかと思います。
 もう一つは、先ほどの内田先生のお話ですと、そんなに大したことないお話だったかもしれませんが、公序良俗の民法90条の具体化でありまして、ちょうどきょうの別冊資料の223ページのところには、消費者契約法関連論点というところで右のほうに適合性原則というメモが書かれておりまして、これは事務局サイドで書かれていたと思うのですけれども、私なりの理解では、公序良俗の(2)の提案といいますのは、適合性原則の発想というのがかなり入り込んでいる。要は、法律行為をすることができるかどうかという相手方の事情をきちんと見た上で、それは無理であると。さらにその対価の不均衡を要素とするというところがどうかという議論があると思いますけれども、こういった要素を考慮して法律行為の有効性を判断していくという枠組みだと思いますが、こういう規定が民法に入るとすれば、その意味は非常に大きいのではないかと思います。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 私ももう少しすると高齢者になるので、私は70過ぎになったときにデパートに行って嫌がられないで、でもたくさん買わないとお客様として認めてもらえないような、そういう空気になるのだけは嫌だなと思いますので、このテーマというのは他人事ではない、本当に消費者契約法の枠組みの中できちんと一定の議論を形としてつくっていかなければいけない。そういう議論ではないかと私自身も思っております。
 もう一つ、とても重要な議論があります。それが5番目であります。河上委員長の御報告にも非常にこの部分は示唆的な報告がございましたが、いわゆる約款規制の問題です。
 事例マル10を見ますと、これは要するに解約に関する約款条項を聞いていなかったという問題であります。事例マル11は要するに約款規定の中に不合理な情報が含まれていたのですが、そのことを気づかないまま契約を締結してしまったという事案であります。約款については消費者契約に限ったことではなく、判例も多く、集積をされてきていると思います。また、何よりも民法改正等の議論の中で、約款についてはとても重要な議論が積み重ねられてきていると思います。したがいまして、まず内田さんから、民法改正との関係で約款論がどのように議論されてきたかということについて、御説明をいただきたいと思います。

○内田氏 それでは、また中間試案をご覧いただければと思います。別冊資料の221ページです。
 約款に関して何らかの規律を民法に置くかどうかをめぐっては、今なお根本的な対立があります。経済界からは一切規定を置くべきではないという主張が強くなされておりまして、中間試案にはこのように入っておりますけれども、置くかどうかについてもまだ熱い議論が闘わされている段階です。
 中間試案の中では、約款についてそもそも規定を置くべきではないという議論もあることにも留意した上で、置くとすればということで3つの論点を取り上げています。1つが組入れの要件。約款がどういう要件を満たせば契約要件になるのかということ。2つ目が内容の合理性コントロールのルール。3つ目が約款の変更についてのルールです。
 まず最初の組入れの要件は、中間試案の2ですけれども、約款を使いますよという合意をし、そして見たいと思った人が見ることができる機会が確保されていれば、個々の顧客が約款の中身を知らなくても約款は契約内容になることを法律で認めようというルールです。契約法の一般原則からすると、約款が契約内容になるハードルをかなり下げたと言えると思います。これは明らかに約款を使う事業者には有利だと思うのですが、これも反対が多く、全体に反対という感じです。
 他方で、インターネットビジネスをやっている事業者からは、こういうルールを設けてほしいという声が出ています。約款によって取引をしたけれども、あとでこんな約款は読んでいなかった、だから契約内容になっていないと主張されて、裁判所がそれを認めるということになるとビジネス全体に波及してしまいますので、非常に大きなリスクを抱えることになる。
 そこで何をすれば確実に約款が契約内容になるかのルールをはっきりさせてほしいという声が出ています。これは消費者にとって不利かというと、必ずしもそうではありません。消費者保護の観点からもっと約款をきちんと開示して、消費者が読めるようにすべきだという声もあるのですけれども、実際に開示されて消費者が読むかといいますと、約款というのは起きるかどうかわからないような細かな場面について免責をするとか、賠償の範囲がどうのこうのと細かなことが書かれていますので、普通はそんなもの読みたくもないし、開示されたところで普通は読まない。ですから、読めるようにしたところでそんなに保護に資することはないのではないかという気もいたします。しかし、中には本当に読みたいと方がいますので、読みたいと思った人が確実に読める。それを確実に確保した上で契約内容になることを認めようというのが組入要件です。
 これといわばセットになった形で、契約になることを緩やかに認める以上は、約款の内容の合理性を法律が担保することが必要になるだろう。そこで冒頭の河上委員長のお話の中にもありましたような不当条項のリストを消費者が当事者となる約款取引については設けようという提案がされ、議論がなされましたけれども、強い反対がありまして、これは全て落ちております。消費者契約法で同じ議論をされるとしますと、やはり同じ議論が繰り返されることになるだろうと思います。
 現在、中間試案に入っております内容についてのルールは、3の不意打ち条項と5の不当条項規制の一般ルールだけです。不意打ち条項というのは、合理的に考えて予想もできないような条項は契約内容にならないということであり、不当条項規制は消費者契約法10条と似たような形ですけれども、約款がない場合に比べて相手に過大な不利益を与えるというような場合についてコントロールするものですが、私はこの不意打ちの規定とか不当条項の一般ルールの内容は、現在の裁判所の判例の水準であると考えています。今でも裁判をやればこうなる。しかし、それが書かれていなくて公序良俗しか根拠条文がないので、ルールはこうなっていますよということがわかるようにしようというのが今回の中間試案の内容であると考えています。
 議論が飛んで恐縮なのですが、先ほどの暴利行為のところで加納さんから、提案されている中間試案の内容だけでも書かれることには意味があるというお話がありましたけれども、あれも私の理解では現行の判例ルールの明文化であって、新たな規制をかけるものでは全くない。約款の内容コントロールについても、裁判をやればこうなるということが見えるようにしようという、ルールの透明性を高める趣旨の規定であると理解しています。
 最後の約款の変更については、大量の相手方との契約を定型的に行う事業で、典型はクレジットカード契約などですが、長期にわたって契約をするというときに、途中で変更する必要が生じ、現実に変更が行われています。しかし、理論的にはそんなことは認められるはずがないわけで、契約を締結しながら、一方当事者が勝手に中身を変えるということはあり得ない。しかし、現実に行われている以上、どういう要件があれば可能なのかということを規律した上で、約款の変更が後から無効になることを防ぐという意味で、事業者に一定のメリットを確保した上で、変更の中身が合理的な範囲におさまるような枠をきちんとはめよう、というルールです。しかし、これについては根本的な異論もありますので、引き続き検討するというテーマとなっております。
 以上が現在の状況です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 そうしましたら、約款論についてコメントを3人の方に順番にいただきたいと思います。まず研究者の立場から丸山さん、弁護士の立場から山本さん、事業者の立場から中村さん、大変申しわけないですが、簡潔にそれぞれコメントいただけますでしょうか。

○丸山氏 約款という切り口で問題を考える場合には、消費者契約に限定しない形で規律の必要性を論じることができますので、まずは民法において約款に対する規律を設けることを考えるのが本筋であると思っております。そして、法律に約款に関する規律を置くことが、取引に安定的な基礎を与える意味があると考えております。
 ただ、具体的に考えていくと難しい問題もありまして、例えば相談例マル10などは非常に微妙な事例であり、考え方はもしかしたら分かれるのではないでしょうか。1カ月の定期について解約可能性が3日間という契約条件は、私は内容的には不当な条項とは言えないと考えます。なので、この事例というのは、そもそもこういった解約の条件が契約の内容となっているのかという「組み入れ」とか「開示」などと言われるところに問題があると考えられます。
 恐らく、一方の考え方としては、事故とか遅延時の賠償などを定める運送約款などと同様に、定期券購入に係る約款もその存在は知られているもので、黙示の同意などを語ることができるので、営業所、販売場所、ホームページなどで掲示があって、お客さんが行動すればその内容を容易に知ることができるという了知可能性があれば、契約の内容化が認められてもよい。事例マル10のお客さんは転勤などの事態があり得るなら窓口で確認するなど、自分で対応をとるべきだったという評価があり得ると思います。
 他方では、定期券購入の場合は窓口とか機械で買う場合においても、注意を喚起する機会を事業者は確保する工夫ができるので、もう少し丁寧に約款の存在とかトラブルの多い条件への注意喚起が行われるべきで、時刻表への記載だけでは開示とか同意の取り付けとしては不十分という評価もあり得ると思います。事例マル10についてはそのような感想を持っております。
 事例マル11につきましては、消費者契約法9条1号によって対応が可能な事例と考えますが、報告書の69ページ以下で詳細に検討されておりますように、平均的な損害額の考え方がわかりにくいといった問題を現行法は抱えております。このような現行法の問題点を改正において議論する必要があると考えておりますし、また、不当条項リストの充実化は消費者契約法においては必要な作業であると考えております。
 以上です。

○坂東コーディネーター 山本さん、お願いします。

○山本氏 約款規定の明文化には賛成です。中間試案に関するパブコメにおける日弁連意見も基本的に賛成という意見を述べております。
 現代社会では約款を使用した取引が広く行われているにもかかわらず、現行法には約款に関する規定が存在しません。その法的拘束力の要件・効果は不明瞭です。現代社会において約款の適正な規律は不可欠な法規範ではないかという問題意識はそのとおりであると考えます。また、法規範の内容としても、中間試案で提言されているような、定義、組み入れ要件、不意打ち条項の禁止、不当条項規制、変更規定といったものが有益かつ必要であろうと考えます。特に不当条項規制に関しては、約款内容の合理性確保という観点から、極めて重要な、不可欠な規定であろうと考えております。
 約款規定を定める法典としては、今までも御意見が出ていますけれども、まずもって一般法である民法で議論すべきものではないかと私も思います。もし民法改正の議論でその法規範が落ちた場合や不十分なものになった場合においては、消費者契約約款に関する法規範を受け皿的に消費者契約法で規定するということも、選択肢としてあり得るとは思いますけれども、本来的に約款問題というのは消費者契約に限定されない問題ですので、民法において議論されるというのが本筋ではないかと考えております。
 この点、約款使用者の立場から約款規定の消極意見が聞かれますけれども、事業者が策定・変更した約款に法的拘束力が肯定される要件が法定されるということは、約款取引の安定や無用なトラブルの回避につながりうる点で、約款使用者にとっても有益であるはずではないかと思います。
 また、経済活動に対する萎縮的効果という観点からの消極意見も聞かれますけれども、現にドイツ等のヨーロッパ諸国のみならず、韓国等のアジア諸国でも約款に関する法規範は既に存在しており、それらの国では円滑な経済活動が現に行われているということを考えるときには、経済活動との関係で約款規定を過度に有害視する必要性はないのではないかと考えます。
 以上です。

○坂東コーディネーター ありがとうございます。
 中村さん、お願いします。

○中村氏 消費者契約法ができて十数年たちまして、その第1号の判例が大学の学納金の問題。加納さんもおやりになられたということのようですが、悪質事業者から一番遠いと思われている学校法人が相手だったということは、正直言ってびっくりしました。
 私のおります生保業界も、最高裁では生保の主張は認められたのですが、下級審では消費者契約法で無効という判決も出ています。あと、とても判決例が多いのは例の不動産の敷金問題です。ということで、ここの関係の判例を見ていきますと、悪質事業者が相手というよりは、従来からの業界の慣行でそのまま約款に書いていたとか、契約にしていたとか、そういったところがここの問題で被告になっている。要するに業界慣行などを第三者の目から見たりとか、現代的な視点から見るとそういう慣行はおかしい。そういう判決だったのではなかろうかと思っています。
 その視点で事例マル10、マル11も先ほど先生方がおっしゃられたように組み入れの問題であるとか、その約款規定の合理性という問題ではあるかと思うのですけれども、ただ、約款をベースに業務をしている事業者にとっては、約款外の取り扱いを行うことについてはとても慎重です。
 幾つか議論の中で、ブラックリストを消費者契約法に取り込むという議論は理解できるのですが、非常にアレルギーがあるのは、「不意打ち条項」ですとか、「作成者不利の原則」であるとか、それは裁判所の中で裁判官がそういう判断を判決に書くときに考慮されるというのは合理性があるかと思うのですけれども、そのような規定が消費者契約法の中に入ってしまうと、どうなるのかなと。といいますのは、相談室のお客様対応の中では自分の要求はどのようなことをしても通そうという方も少なからずおられるわけで、こういう規定が消費者契約法の中にすとんと入ってきてしまうと、相当な混乱も生ずるのではなかろうかと思います。諸外国ではうまくいっているというご紹介もありましたが、実務の面から見ますと、あまり楽観的には考えにくいと思います。
 いずれにしましても、契約の内容というのは非常に単純なものから長期にわたるものまでありますし、形式的にもそれこそ主務省が精査の上に認可されたものから、文房具屋さんのひな形の契約書で契約をしている体裁のものまで、言い方はあれですけれども、非常にピンからキリまであるので、そういったものを包括するような約款規制というものはどの辺をフォーカスするのかといったところが難しいのではないかと思います。

○坂東コーディネーター ありがとうございました。
 いろんな議論がまだまだ尽きないところです。本来であれば恐らくこのパネリスト6人の方であれば、放っておけば2時間でも3時間でも議論ができます。しかし、与えられた時間がそろそろ尽きます。本来なら各パネリストの方々から一言ずついただきたいところなのですが、残された時間があと5分です。ですので、一応きょうの議論を聞いて、消費者契約法を中心になって対応していただくのは消費者庁でありますので、全体の議論を聞いた感想という形で、加納さんからまとめの御発言をいただけないでしょうか。

○加納氏 消費者契約法は消費者契約一般の基本法ですので、基本法の中できちんと対処すべきものというのは、きちんと受けとめてやるべきだと思っています。ただ、民法改正の議論がきょうは多かったのですけれども、一方で民法改正の議論があり、他方で消費者庁は特商法とか景表法とか、その他いろいろないわゆる消費者法を所管するというふうになっておりまして、これは内閣府のときから大きく異なっています。
 例えば、特商法の中にもいろいろな民事ルールが入り始めている。そういった中で、では特商法の中のルールの中でそれなりに消費者契約法に取り込めそうなものはないかとか、そういった観点で見ていく必要がありますし、もう一つは集団訴訟の裁判手続特例法をやっておりますけれども、消費者法はもともとは行政規制が中心だったのですが、PL法であり、消費者契約法であり、さらに今は裁判手続特例法をやり、さらにそこから先に例えば破産手続について消費者庁が申し立てることができるようにする制度を検討したらどうかとか、いわゆる悪質事業者を見据えた場合に、そういったことも必要でないかとか、非常に悪質な事業者については財産を、違法な収益を剥奪する制度を設けるべきではないかといった議論もあります。
 そういうふうにしますと、行政処分、更には刑事の分野にも消費者法がいろいろと特別なルールをつくっていくという話にも発展する可能性がありまして、民事ルールについても手続法、破産法、執行法、保全法、そういったところまで幅広く、いろんな形での消費者保護のルールというのはつくっていかなければいけないという、そういう局面にだんだん入っていくのだろうと思っておりますので、そういった消費者法全体の姿といいますか、その中でインターネットとか高齢者というのが場面を変えながら出てくるというのを目指しておりますので、消費者庁というのはそもそもそういうことをやるんだ。消費者目線であらゆる行政の仕組み、ルールの仕組みを全て消費者の目線から見直していきつつ、適当なものを考えていくというのが本来の消費者庁のミッションでありますので、そういった原点に立ち戻りながら、その中で消費者契約法をどう位置づけていくかという観点で考えていきたいと思っております。

○坂東コーディネーター ありがとうございました。
 消費者契約法自体が持っている課題については、きょうさまざまな議論がなされて、共有できたのではないかと個人的には思っております。ただ、その消費者契約法の改正のあり方や、その方法については今、加納さんからもお話がありましたが、まだまだ詰めた議論が必要であるということも現実のようであります。
 その際には、内田さんから随分話がありましたが、現場で消費者契約法がどう使われていて、どこに課題があるのかということの蓄積がもっと必要なのかもしれません。そういった観点もきょうのシンポジウムでは明らかになったのではないかと思います。
 宣伝になりますが、11月9日には私の勤務しています京都産業大学で第6回消費者法学会というものが開かれまして、そこでは消費者契約法の改正についての理論的な研究がなされる予定になっています。そういった成果も踏まえて、今後、消費者契約法の改正についての議論というのが進んでいくことを私自身も強く期待をしております。
 きょうのシンポジウムがその1つのきっかけになったと後から評価されると大変ありがたいなと思います。
 時間がまいりました。以上でパネルディスカッションを終わりたいと思います。パネリストの皆さん、どうもありがとうございました。(拍手)


≪閉会≫

○小田審議官 皆さんどうもありがとうございました。
 コーディネーターの坂東常任理事、また、パネリストの皆様に対して、いま一度拍手をお願いします。(拍手)
 それでは、閉会に当たりまして河上正二消費者委員会委員長より御挨拶を申し上げます。よろしくお願いいたします。

○河上委員長 どうも皆さん、きょうは長時間にわたっておつき合いいただきまして、ありがとうございました。
 きょうは豪華なパネリストの皆さんに議論をしていただいて、消費者契約法のこれからの課題についての、ある意味ではイメージを少し共有していただけたのではないかと思います。ただ、そういった議論をいただきますけれども、実際に改正まで持っていくということになりましては、非常に険しい道のりがありまして、具体的には立法事実の積み重ねであるとか議論の積み重ねをやっていかなければなりません。
 ただ、2000年につくられた現行の消費者契約法が、これでよしという状態でないことは確かであって、当時積み残されていた問題、それから、十数年たって現在まで適用しないようになっているときに補完すべきもの。さらに、あるけれども、使い勝手が悪いので、そこは改善したほうがいいもの、幾つか問題点があるかと思います。100点満点採れる必要はありませんが、大事な問題に関しては一個一個改善に向けた議論は進めていかないといけないということでございます。そういう意味では先はまだ険しい道のりかもしれませんけれども、まずは問題意識をみんなで共有して、改正に向けた議論をしたい。
 東京でも実はこういうシンポジウムをやらせていただきましたが、経団連の本部長は、「今まで消費者委員会のワーキングチームは内輪だけで議論していたから横から見ていて歯がゆかった。広く我々にも議論させてほしい」とおっしゃいました。「望むところである」とお答えしておきました。
 いずれにしても第3期の消費者委員会の課題になるのだろうと思うのですけれども、何らかの形で検討の場をつくって、消費者庁とも協力しながら新しい次のステージにぜひ議論を進めたいと考えておりますので、またいろんな形で御協力をいただくことになろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。
 きょうは特にKC'sの方々に事務的なことまでお手伝いいただきまして、大変な御迷惑をおかけしましたけれども、本当にありがとうございました。またお目にかかれるときがありましたら、御一緒にいろいろ勉強したいと思います。
 どうもきょうはお疲れ様でございました。(拍手)

○小田審議官 ありがとうございました。
 皆様、本日は長い時間にわたりましてシンポジウムに御参加いただきありがとうございます。
 冒頭に申し上げましたように、お手元にアンケート用紙がございます。こちらのほうに今回のシンポジウムの御感想あるいは消費者契約法の見直しの必要性など、忌憚のない御意見をいただければと思います。出口のところに回収箱を用意しておりますので、お帰りの際に入れていただければと思います。
 それでは、シンポジウムを終了いたします。どうもありがとうございました。(拍手)