シンポジウム「消費者契約法の課題を考える」 議事録

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日時

2013年2月2日(土)13:00~16:30

場所

主婦会館プラザエフ 7階カトレア

プログラム

1.来賓の挨拶
2.基調報告 消費者委員会「消費者契約法に関する調査作業チーム」取組状況
 (1)消費者契約法(実体法部分)の見直しに関する諸課題
 (2)契約締結過程に関する規定
 (3)約款規制
 (4)不招請勧誘・適合性原則
 (5)不当条項リストの補完
 (6)インターネット取引における現状と課題
3.パネルディスカッション 【テーマ】消費者契約法と民法(債権関係)改正
4.閉会の挨拶

○小田内閣府大臣官房審議官 皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。ただいまより内閣府消費者委員会主催の「消費者契約法シンポジウム」を開催いたします。
 本日の司会を務めさせていただきます、消費者委員会事務局の小田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
 消費者委員会では、平成23年8月に消費者契約法の改正に向けた検討についての提言を行い、民法改正の議論と連携して早急に消費者契約法の改正の検討作業に着手することを求めました。そして、消費者庁、消費者委員会での本格的な調査審議を行う体制が整うまでの間、論点の整理や選択肢の検討などの事前の準備を行うため、23年12月に調査作業チームを設置し、その後、毎月議論・討議を重ねてきております。
 本日のシンポジウムでは、前半の基調報告で、この調査作業チームにおける論点整理の中間報告を行います。後半には、専門家、有識者の方々をパネリストとしてお招きし、消費者契約法の課題を御議論いただくことで、改正促進のきっかけにしたいと考えております。
 なお、始まる前に一言御紹介いたします。皆様、お手元の資料の中にA5版、水色の御意見・御質問票を用意してございます。パネルディスカッションの中で適宜御紹介して、パネリストの方々に御回答いただこうと考えております。御意見・御質問を御記入いただきますようお願いいたします。基調報告が終わりました後に、この質問票を回収させていただきます。
 それでは、本日来賓としてお越しの国民生活センターの野々山宏理事長から、開会に当たりまして一言御挨拶をお願いしたいと思います。
 理事長、よろしくお願いいたします。


≪1.来賓の挨拶≫

○野々山国民生活センター理事長 皆さん、こんにちは。国民生活センター理事長の野々山でございます。シンポジウム「消費者契約法の課題を考える」に先立ちまして、一言御挨拶を申し上げます。
 私自身は、もともとは弁護士でありまして、消費者契約法の制定のときに少し関与をさせていただいております。その後、幾つかの裁判例についても、その形成について一定の関与をしております。また、消費者契約法は、その後、適格消費者団体による消費者団体訴訟制度を導入していきました。その消費者団体訴訟制度の制定あるいはその後の適格消費者団体の活動についても関与をさせてもらっております。その意味では、この法律に対する思い入れというものは非常に強くあると思っております。
 消費者契約法は制定後、既に10年以上経っております。その間、幾つかの意義、役割を果たしてきていると思います。
 第1には、事業者と消費者の間には格差があるということを社会に、あるいはマーケットに、あるいは裁判実務、相談実務に定着させたことが非常に重要だと思っております。その意味で、消費者契約法1条及び3条の意義は非常に大きいと思っております。
 第2には、消費者トラブルの解決実務、裁判実務に非常に活用されているということであります。裁判例は200以上、300近くの裁判例が収集されております。弁護士実務においても活用されておりますし、各地の消費生活センターの窓口においても、特商法に続いて活用できる法律として使われているといます。
 第3に、先ほど申し上げましたとおり、消費者団体訴訟制度へ発展したということも非常に重要な役割だと思っております。
 第4に、これらの役割によって社会の中で、特に約款の部門あるいは勧誘の部門につきまして公正な取引を実現していこうという1つの意識が定着し、それが具体的に実施されてきたという意義もあると思っております。
 さらに、第5として、消費者契約法はこの法律以外の法律、1つは特商法であったり、あるいは今、検討されております民法、こういうものにも影響を及ぼしてきております。さらには、この考え方は不法行為や説明義務等の民法の一般法理における解釈にも影響を及ぼしていると思っております。
 消費者契約法というものは、こういう多くの役割を果たしてきたわけであります。
 ただし、課題も多くあります。今日はその課題が議論されるわけであります。課題の第1には、相談実務あるいは裁判実務において、まだまだ使い勝手のいいものにはなっていないということであります。
 まず、勧誘において適用する場面というのは非常に限定されているということがあります。しかも、勧誘においては受け皿規定というもの、契約条項においては10条に相当するようなものがないということがあります。そういうものが勧誘の場面におきまして、同法が相談実務あるいは裁判実務で使い勝手がよくないと言われる原因であります。
 それから、契約条項の部門におきましては10条がありますけれども、この10条の解釈の問題で、私は個人的に最高裁の判断は非常に問題があると考えております。それから、リストが十分ではない。相談実務、裁判実務において使い勝手がよくないというのがあります。
 第2には、最近の新しい重要な消費者トラブルに十分対応していないという課題があります。国民生活センターに寄せられている多くのトラブルの中で最近突出しているのが、高齢者に対するトラブルとインターネット関連のトラブルです。これらに十分対応できる法律になっているかどうかという課題があると思っております。
 高齢者につきましては、不招請勧誘の問題、適合性原則の問題、そして状況の濫用の法理、こういうものをどう考えていったらいいのかということが課題になるかと思います。
 インターネット取引においては、広告表示と勧誘に関してこの法律が十分機能しているのかどうか。それから、約款の開示の問題として十分機能しているかどうか。こういうことが検討されなくてはいけないと思っております。
 そして、3つ目の課題としては、先ほども申し上げましたけれども、判例に見られる問題点であります。10年が経って、消費者契約法の制定の意義というものが裁判所でどのように考えられているかということについては、最近の最高裁判例から見ると、私はもう一度、制定意義の再確認と理論構築というものは要るだろうと思っております。また、勧誘あるいは契約条項においてもリストを十分検討してつくり上げて、それを裁判の実務でも生かせるようなものにしていく、こういう課題があると思っております。
 これら、消費者契約法にはさまざまな課題があると考えております。本当はその検討が制定後5年で行われなくてはいけなかったのですが、もう10年以上が経っております。ただ、この検討が消費者委員会で始まったということの意義は非常に大きいと私は思っております。個人的には、この議論をもう少し早く開示してもらったらいいかなと思っていましたけれども、きょうこれまでの議論についての検討経過・検討結果というものが開示されることについては、非常に楽しみにしております。
 消費者契約法は大変重要な法律であります。きょうこの法律の課題について議論し、検討を重ねることに非常に大きな期待をしております。4時半までの時間、私も十分学びたいと思っております。期待とともに、充実した議論をお願いしたいと思います。
 少し長くなりましたけれども、以上で挨拶にかえさせていただきます。どうもありがとうございました。 (拍手)

≪2.基調報告≫

○小田内閣府大臣官房審議官 野々山理事長、どうもありがとうございました。 それでは、基調報告に移ります。冒頭申し上げましたとおり、消費者委員会での調査作業チームのこれまでの論点整理の内容について御報告を申し上げます。
 報告者の皆様は御登壇ください。
 報告者の方を御紹介いたします。皆様から向かって左側から、河上正二消費者委員会委員長です。そして、調査作業チームのメンバーでございます、名古屋大学大学院法学研究科の丸山絵美子教授です。続きまして、東京大学大学院法学政治学研究科の沖野眞已教授です。向こうのテーブルに移りまして、一橋大学大学院法学研究科の角田美穂子准教授です。法政大学法学部の大澤彩准教授です。そして、消費者委員会事務局から司法書士の山田茂樹委嘱調査員です。
 それでは、皆様、よろしくお願いいたします。


(1)消費者契約法(実体法部分)の見直しに関する諸課題

○河上内閣府消費者委員会委員長 消費者委員会の河上でございます。よろしくお願いいたします。
 本日はお忙しいところ、多数御来場いただきまして、まことにありがとうございます。
 早速、私のほうから、導入を兼ねまして全般的な話をさせていただきたいと思います。
 先ほど野々山理事長から、非常に的確な、全体的な問題点の指摘もしていただいたので、私はもう安心してお話をいたします。きょうの報告は作業チームによる検討の中間報告と言うべきものでありまして、さらに検討を進め、5月ぐらいには報告書にまとめて本格的な審議のたたき台になるということを予定しております。皆様から忌憚のない御意見を頂戴したいと考えているところであります。
 検討されました消費者契約法の特に実体法部分の改正の課題は、非常に多岐にわたります。ここで全てについて論ずることは時間的に不可能でございまして、資料の末尾のところに、私が「現代 消費者法」に書いたつたない文章が入っております。それが少しは問題点を具体化をしておりますので、あわせて御参照いただければと思います。
 レジュメにも全体の大体の概要が書いてあるわけですけれども、今回の基調報告では、そのうち比較的重要ではないかと思われるところについて、それぞれの方に御報告をお願いするということにいたします。
 私からは、少し大きな問題について簡単に御紹介いたします。レジュメの4ページのところにあります、民法と消費者契約法の関係をどう考えるかということについては、そこにクエスチョンマークを5つほど並べて、こんなことが問題になるのではないかということが書いてあります。
 民法における人概念を分節化することで、消費者という概念を導入したらどうかとか、あるいは民法の中に消費者契約に関する規律を入れてはどうかといった問題を初め、さらに民法自身が例えば事業者法化した場合に、果たして消費者契約法に留保しておくべきルールはないのかといった大きな問題があります。
 特に最近では、中小事業者の立場をどういうふうに保護したらいいかということも課題になっています。消費者契約法のほうからのにじみ出しということを考えるか、あるいは民法の方で柔軟にそういうものを取り込むようなルールを考えるのかといった選択肢もあるわけでございます。
 最近では事業者的な消費者もいる反面で、例えば消費者的な事業者といいますか、個人事業者のような方もいらっしゃるということで、言わば適用範囲をどう考えるかという大きな問題がある。基本的には、今、民法改正でなされている作業がかなり大きな影響を持つわけです。しかし、それについては将来どうなるかわからないこともございますので、その動向いかんにかかわらず、当面は現行法を前提にして、消費者契約法としてフルセットで考えてみたらどうなるかということで検討をいたしました。
 民法典が仮に事業者法化した場合に、消費者取引において留保すべき具体的な規律はさらに検討が必要になるということで、例えば消滅時効でありますとか、ファイナンスリースの規定でありますとか、果たしてそのまま消費者取引にも適用していいかということは問題にしないといけません。差し当たってですけれども、民法典に民法と消費者契約法の規定を連結するような一般的規定があることが望ましいのではないかといった意見もあるということだけ御紹介しておきます。また、民法には欠けているが、消費者契約については積極的に必要なルールが存在しないかにも、配慮する必要があります。
 もう一つが約款の問題で、先ほど野々山理事長からも御指摘がございました。消費者契約法は隠れた約款規制法だと言われたぐらいでして、そういう意味では、消費者契約法の中でのさまざまな規律を約款規制の問題としてどう再構成するかということが問題になります。これは沖野報告の中で触れていただくことになろうかと思いますけれども、少なくとも約款法というものは消費者契約に限らない問題を含んでおりますので、そうだとすると民法に親和的なのかなという感じもいたします。ただ、それが消費者取引に使われている約款であるということによって補足すべき点があるかということは、不当条項リストの見直しとも関連いたしますが、やはり考えておかねばなりません。
 もう一つ、(3)の見直しの背景となる介入根拠でございますけれども、消費者契約法の第1条を見ますと、情報・交渉力の格差というところを前面に押し出しています。しかし、そういうものに加えて、実は集団的訴訟ということを考えていったときには、個別の問題以上に、あるいは「公正で健全な市場の形成」に対する配慮、事業者の行為規範としての消費者契約法という側面にも留意する必要があるのではないかと思われます。例えば現在の不実表示に関する規律を、そのまま個別の意思表示の取り消しという形での規律から、場合によっては事業者はこうこうしてはいけないという行為規範の形にしておいて、それによって消費者が誤認した場合は取り消せるというふうに、規律をきれいに整理していく必要があるのではないかということでして、これは5ページのeのあたりに「要件の書き方に工夫をすべきではないか」ということで現行法を再構成して例示してあるところを御参照いただければと思います。
 (4)が対価の問題でして、価格にどう介入するかという問題が出てまいります。これは後でまた出てまいりますけれども、7ページのところの「ミニ一般条項」というものを考えて、個別事情とか、そういうものをくみ取って効力を判断するような民法90条の公序良俗(暴利行為を含む)を具体化した条文が必要ではないのかといったことも議論しております。
 消費者契約法というのは、特商法とか割販法、民法と比べると、ちょうど中二階にあるような法律上の位置を占めているわけでありますけれども、特商法、割販法にある要件と、消費者契約法上の要件というものがうまく整合性をとれているのかどうか。民事実体法としての要件としては、統一できるものは統一したほうがいいのではないかといった問題もございます。
 次のページに移りますと、細目的問題の2つ目に「抵触規定」というものがございます。実は国際的な消費者取引がうんとふえている。インターネットで軽々と国境を越えるということもありますし、今では外国に旅行したり、あるいは外国人が日本に来て消費者契約を締結するということがあります。そういうときに、お互いに国の法律が違っていると保護の程度が違うわけです。そこで、その部分について通則法という法律で渉外的法律問題を処理するということになりますけれども、消費者契約に関する規律の一覧性ということに鑑みて、消費者契約法の中に抵触規定を置いておくことも考えられないか。これは消費者契約だけの問題ではないのですけれども、せめてアジアの消費者取引全体についての調和といいますか、そういうことも考えて、共通ルールの策定に向けた努力が必要ではないかということが話題になっております。
 これから後は、契約締結過程について丸山さんに、その後の契約内容の適正化については大澤さん、適合性原則等については角田さんというふうに進めていろいろと議論していただきます。約款に関しては、沖野さんからのお話を伺うということで本日の報告の全体を構成しております。私からは御案内ということで、あとの本編はそれぞれの報告者にお願いしたいと思います。

(2)契約締結過程に関する規定

○丸山教授 それでは、契約締結過程に関する規定ということで報告させていただきたいと思います。
 なお、消費者契約法に関する条文は、資料の41ページ以降に掲載されておりますので、適宜御参照いただければと思います。
 さて、消費者契約法の契約締結過程に関する規定について、まずもって検討の俎上にのせているのは、現行消費者契約法4条とその周辺部分の改正でございます。検討してはどうかと考えている主要な論点は、レジュメのマル1~マル4に記載のとおりです。
 第1に、4条1項2項に規定されている誤認類型について、取消要件の改正、再構成を図ることを検討してはどうでしょうか。再構成というのは、例えば事業者が情報の提供を義務づけられる事項と、虚偽の情報提供を禁止される事項とを区別して取消要件を見直すといった作業を意味します。
 第2に、4条3項に規定されている困惑類型について、より広い場面を対象とできる形で取消要件の改正を検討してみてはどうでしょうか。消費者が困惑するのは事業者による不退去、退去妨害の事例に限られないからです。
 第3に、4条による取り消しの効果及び追認規定などについて、消費者契約法に特別規定を設けることなどを検討してはどうでしょうか。また、権利行使期間の制限の規定については改正を検討してはどうでしょうか。取り消しの効果に関しましては、現在、消費者契約法に特別の規定がない事項ですが、ルールとして不明瞭な部分があり、手当てをする必要が高い事項であると言えるでしょう。
 第4に、5条1項、第三者が契約締結過程に関与する場合についてですが、この5条1項の文言等の改正を検討し、規定をより充実・明確化することを検討してはどうでしょうか。
 以下では、現状を踏まえまして、より具体的に検討事項とその背景・立法的対処の必要性について説明をしていきたいと思います。
 レジュメ8ページの2の「マル1 誤認類型」に入りたいと思います。4条1項2項を見ますと「消費者契約の締結について勧誘するに際し」という要件が出てきますが、この要件の削除などを検討してはいかがでしょうか。多くの皆様が御存じのとおり、この勧誘という要件に関しては、消費者庁の解説におきまして、広告・パンフレットなど不特定多数に向けられるものは、この勧誘概念に含まれないといった解説がなされています。しかし、パンフレット、広告などの虚偽情報を信じて契約締結に至ることはあります。不特定多数向けの宣伝広告における虚偽情報も、契約締結の意思形成に働きかけ得るものであれば不実告知とされてよいと言えます。実際、裁判例も広告やパンフレットの記載を考慮して、不実告知などを認定するものが確認できます。
 意見としましては、広告が不当でも契約成立までに是正されることもありますので、勧誘要件の削除や拡大解釈に慎重な姿勢を示す見解もあるのですけれども、契約が成立するまでに誤認が是正されるような場合には、そもそも誤認の存在や契約成立との因果関係が否定されますので、取り消しは認められないことになります。したがって、そのような懸念は無用ということが言えます。
 次に、4条1項1号の不実告知取り消しの要件のうち、4条4項に具体化されている重要事項につきまして、4条4項に記載された「1号2号」の限定を削除することを検討してはどうでしょうか。積極的に虚偽の情報を表示する不実告知の場合には、通常、消費者の契約締結の判断に影響を及ぼす事項について不実の情報が提供されれば取り消しを認めてよいのではないかという趣旨です。
 例えば消費者庁の解説では、電話機販売における黒電話が使えなくなるといった不実告知は、契約の目的物にかかわるものではないので重要事項の要件を満たさないといった事例が掲載されていたことがあります。しかし、このような限定には学説からも批判が多く、実際、裁判例でも古い電話が使えなくなると不実告知をした電話機リースの事例や、家が危ないというふうに不実告知をした床下点検商法の事例などで、4条1項1号による取り消しが認められています。類似の相談例も相当数存在するということでございますので、契約締結の意思決定を左右し、かつ、一般消費者に誤認をもたらす誤った情報の提供を事業者が積極的に行う場合、これを事業者に帰責し、消費者に取り消しを認めるということを考えてもよいのではないでしょうか。
 次に、4条1項2号の断定的判断の提供取り消しの要件について、「将来におけるその価格、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が」という部分を削除し、また「財産上の利得に影響を与えるもの」に限定するといった解釈を改めることを検討してはいかがでしょうか。
 現在のところ、この4条1項2号は、財産上の利得がかかわるような事例に適用が限定されるような運用がなされております。しかし、断定できない事項を積極的に断定して消費者が確実であると誤認することが問題であるとすれば、例えばエステサロンでの「確実に結果を出す」とか、教材販売での「確実に成績が上がる」といった事例にも適用を可能とするように要件を見直すことは、選択肢としては考えられるのではないでしょうか。
 次に、4条2項の不利益事実不告知取り消しの要件については、幾つかの改正の方向性があるのではないかということを検討しております。実際に確認できる改正提案としましては、特定商取引法のレベル、すなわち重要事項に関する故意の事実不告知まで広げるべきだということが言われたりしておりますけれども、そのほか、例えば故意過失による取引の基本情報の不提供について取り消しを認める形にするとか、あるいは基本情報には限定しないけれども、故意の情報操作による不適切な情報の提供などに取り消しを認めるといった可能性が考えられます。
 裁判例を見てみますと、取引の基本条件とか契約目的物の性質にかかわるような基本情報については、利益告知の先行を厳格に認定せずに、また、故意の要件の充足もそれほど問題とせずに取り消しを認める裁判例が少なからず確認できる状況でございます。また、消費者契約法の4条2項につきましては、最高裁の平成22年3月30日判決が出ておりまして、将来の金の価格は重要事項ではないとして、取り消しを認めないものでございます。具体的事案に照らしての最高裁の結論は妥当なのかもしれませんけれども、事業者が故意に情報操作をしまして消費者の判断を誤らせるような事例を救済しやすくできないかといった検討課題は、いまだあると考えます。
 いずれにしましても、消費者がみずから収集すべき情報や消費者が当然知っている事項についてまで事業者に情報提供義務を課す結果とならないように留意しながら、4条2項の再構成ということを検討する必要はあるのではないでしょうか。
 次にレジュメ9ページの「マル2 困惑類型」に移りたいと思います。4条3項の困惑類型について、「不退去」「退去妨害」というものを例示としまして、「意に反する勧誘の継続」と「それによる困惑」という形に取消要件を改めることなどを検討してはどうでしょうか。
 例えば隣人の家とかエステの施術中などにおける強引な勧誘、勤務先への執拗な電話勧誘などが実際に問題となっています。消費者は交渉力において劣位にあり、意に反する勧誘が継続して、困惑し契約してしまうという事態が問題なので、「不退去」「退去妨害」という狭い範囲に限定する必要はないのではないでしょうか。
 さらに判断力の低下、心理的な不安、誤解状況、立場の弱さなどにつけ込んで、消費者が本来であれば不要とするような契約を締結するといった状況濫用を要件とするような取消規定の導入を検討してはいかがでしょうか。
 不安の心理とか判断力・知識不足、立場の弱さにつけ込んで、過量販売や高価品の販売などを行うという被害事例は相当数存在します。この種の事例では、問題のある勧誘対応とか内容が不適切であったり不十分な判断である、こういった要素が見られるものの現行法の取消要件を満たしにくく、現在の裁判例は民法709条の不法行為や90条の公序良俗違反によって対応しております。しかし、90条といった条文は、それほど柔軟に活用できるものでもなく限界があると言えます。何らかの手当てが必要だと考えますが、具体的にどのような要件にすべきなのかは、さらに議論の必要があるところでございます。
 さて、不適切な情報の提供や、重要情報の不提供がある場合の効果規定について見ていきたいと思います。レジュメ9ページのマル3の部分でございますけれども、まず取消規定のほかに損害賠償責任規定を設けるといったことを検討してはどうでしょうか。現行の取り消しの規定と並べて損害賠償責任規定というのを設定していくということも考えられますし、3条で努力義務となっている情報提供義務につきまして、損害賠償責任規定として、要件、効果を考えていくということも検討課題として挙げられます。
 実際に、不当勧誘や情報不提供が問題となる事例では、損害賠償による解決を図る多数の判決例が存在しますので、これらを参考に要件を精査、明確化し、場合によっては損害や因果関係について推定規定を置くといった対応も考えられるのではないでしょうか。
 次に、現在、取り消しの効果につきましては特別の規定は存在しません。例えば「害虫がいる」と不実告知されて害虫駆除サービスを受けたのだけれども、害虫はいなかったという事例で、既にサービスは受けているので、取り消しても客観的な価値清算として代金を戻してもらえないのではないかといった事態が考えられます。このような利得の押しつけのような事態を回避し、取消権を認めた意味をなくさないためにも、清算に関する規定を整備する必要性は高いと言えるでしょう。
 具体的には、取り消し前に履行されて費消された部分や使用利益返還が問題となる事態に対して、取消要件に応じて費消された部分とかの現存利益を返還すれば足りるといった規定や、利益不存在の推定規定を設けるといったことを検討してはどうでしょうか。
 そのほか、消費者には短期での権利行使を一般的には期待できないという問題がございますので、7条の期間制限とか起算点の改正を検討してはいかがでしょうか。少なくとも民法の取消権の期間制限に合わせる。取り消し原因となった状況の影響から脱して、自由な意思決定が可能となって初めて期間が起算するといった形に改正することが考えられます。
 また、法定追認といったものが安易に認められてしまいますと、やはり取り消しを認めた意味がなくなってしまいますので、法定追認の規定については不適用といったことを明文化することも検討課題として挙げられると思います。
 次に、レジュメ10ページのマル4 第三者がかかわる5条の関係に進みたいと思います。
 まず、5条1項の「消費者契約の締結について媒介することの委託をし」という部分を、「事業者が契約の勧誘や交渉に関与させ」という形に改める改正を検討してはどうでしょうか。事業者が勧誘行為を第三者に任せた場合、事業者はその第三者の不当な勧誘行為について責任を引き受けるべきだという考え方を明確化してはどうかという趣旨です。そのほか、民法96条2項と同趣旨の規定を消費者契約法に設けるであるとか、4条違反の行為を行った第三者自身の責任規定を設けるといった改正も考えられると思います。
 3の部分に進みたいと思いますが、消費者契約法4条との関係で参考となる外国法の状況。これは全体資料の比較法の部分を参照いただければと思いますけれども、参考となる外国法の状況を概観しますと、民法における意思表示の瑕疵・法律行為の効力に関する規律は、諸外国でも非常に多様です。また、情報提供義務については、明文化の有無や適用領域・要件効果は多様な状況です。
 したがって、意思表示の瑕疵理論の拡張として消費者取消権を導入するという法制度設計は日本に特有のものとも言えますが、今回の検討では、現行法の基本コンセプトや成果を出発点に改正を模索するという態度で臨んでおります。ただし、違うコンセプトによって契約締結過程の適正化を図る可能性を排除するものではございませんので、この点も御議論いただければと思います。
 なお、消費者契約法における広告規制は、迷惑勧誘禁止という不招請勧誘規制の問題、合理的な選択を確保するための適正情報確保の問題、安全の確保にかかわる問題にまたがっておりますけれども、現在は適正情報確保の問題の一部を消費者契約法4条が引き受けているという位置づけになります。
 最後に、立法を考えるとした場合の留意点を挙げたいと思います。
 まず、理論的な問題でございますけれども、「消費者」「消費者契約」概念を踏まえて、特別法として契約締結過程に関する規律を設定する意義というのを再度確認しながら、改正を検討していく必要はあると考えております。
 また、広告にかかわる規律を消費者契約法に導入する場合には、不招請勧誘の規制や約款の開示規制などとあわせて検討を行う必要があると考えております。
 損害賠償責任規定を消費者契約法に置く場合は過失相殺の問題が出てきますので、消費者の過失をどのように扱うかを検討しておく必要があります。取り消し・無効規範との評価矛盾問題なども整理しておく必要があるでしょう。
 そのほか、冒頭にも触れられましたが、条文のつくり方としまして行為規範と実体法規範を分けるといった提案もされているところでございますので、この点も議論が必要な部分でございます。
 駆け足ではございますが、契約締結過程に関する規定の取り組み状況の報告を以上で終了したいと思います。 (拍手)

(3)約款規制

○沖野教授 沖野でございます。私のほうからは、約款規制という問題についてお話をさせていただきたいと思います。
 約款でございますけれども、現行の消費者契約法は約款には言及しておりません。しかしながら、消費者契約法の前史という状況を見ていきますと、まず消費者契約における約款の適正化が検討課題として取り上げられました。
 この背景には、各国での約款規制立法の登場、存在や不当な約款に対する消費者の苦情の多発という実情がございました。その後、検討課題は約款に限らず、消費者契約における不当条項規制に目が向けられてきまして、また、それとともに日本における問題の状況といたしまして、不当な約款や不当条項の問題とともに、契約締結過程における不当な勧誘からの消費者の保護、契約からの離脱の保障が重要な課題であったということがあり、これとあわせて消費者契約法という形で立法がされたわけです。
 しかし、約款をめぐる問題がなくなったわけではございません。現在、民法の債権法改正におきましても、約款規制は検討項目の1つに挙げられております。そちらのほうにつきまして、現在の最新の資料といたしましては、本年1月22日に開催されました第67回会議の部会資料56が最新のものでございまして、資料の75ページ以下に掲載されておりますので、適宜御参照いただければと思います。そこでは約款の組入の要件、不意打ち条項の規律、約款の変更、約款中の不当条項の一般則といった課題が取り上げられております。
 また、消費者契約法の見直しに関しましても、具体的な立法提案といたしまして、約款に着目した規律を設けることが、2012年2月に公表されました消費者契約法日弁連改正試案におきまして提案がされております。同試案の9条でございます。
 約款規制にかかわる事項といたしまして、変更の問題も重要でありますし、また、団体訴訟との関係もございます。さらには、非常に重要な問題といたしまして不当条項規制の問題がございますけれども、不当条項規制につきましては、既に消費者契約法は8条、9条、10条を置いているところでありまして、その見直しの問題に包摂されていくと考えられます。
 そこで、この報告では約款規制にかかわる事項といたしまして、4つの項目を取り上げてお話をさせていただきたいと思います。採用要件、不意打ち条項、解釈準則、透明性であります。また、それらの基礎を成す問題といたしまして、約款として規律を設けるべきなのか、そうだとするときに約款の定義をどうするのか、また、民法の規律との関係はどのように考えるのかという問題がございます。
 そこで、最初の採用要件でございますけれども、消費者契約におきまして紛争が生じたときに、事業者から消費者に対してこうなっているのだとして約款中の条項が援用されることは少なくありません。ここには2つの問題があると考えられます。1つは、なぜそう言えるのかという根拠の問題であり、もう一つはその適正化や消費者の保護の問題です。
 民法改正の文脈の中ですけれども、消費者契約の観点から約款につきまして、村千鶴子弁護士がこのように書かれています。
 「民法による契約自由の原則は、約款使用の現状によって消費者にとっては著しく制限されている。/しかも、契約を選択する時点で契約条件が消費者に開示されていないことが日常化している。そして、消費者が『その契約』を選択した場合には、事業者は、事業者があらかじめ一方的に定めた契約条項が契約内容を構成していると主張してくる。契約内容は当事者の合意によるものとの基本的な考え方に立てば、契約選択時に開示されていないために消費者が知らなかった契約条件によって拘束されることになるとする考え方は納得できるものではなく、きわめて不合理である。/取引条件は、契約締結後にトラブルが生じるまでは消費者には示されることがない場合もあるし、契約締結後に交付される場合もあるし、契約締結時に作成される契約書などに印刷されている場合もある、など様々であるが、いずれの場合にも同様の問題が起こる。」そして、このような問題意識から、「消費者契約に関して約款を契約に組み入れるための基本的なルールを法律で規定する必要があると考える」とされてます。
 一般に消費者契約において、事業者が契約内容を一方的に策定する、あるいは決定する権限があるわけではございませんので、その策定に係る契約条項が消費者を拘束するためには、契約法の一般原則から当事者の合意に基礎を置くほかはないと考えられます。その観点からは、消費者が約款によるという意思を表明し、両当事者、すなわち事業者と消費者との間で契約内容を当該約款により構成するという合意をすることが必要であります。そして、約款によるという合意があると言うためには、約款が特定され、また、内容について知る機会が与えられる必要があります。
 知る機会として、どの程度のものを考えるべきなのかということで考えていきますと、基本的には約款が提示されるのが本来でありましょう。消費者契約を措いて契約一般ということから見ましても、「当方作成の契約条件による」とだけ申し入れまして、契約条件については出さない。相手方からそれを見せてくれるように申し出るべきだというのは、むしろ異例であると考えられます。当方作成の契約条件によるという場合、どのような契約条件かを提示するのが本来であると考えられるわけです。
 確かに、約款の場合には交渉のたたき台として提示される場合ならともかくとしまして、一般的には定型的なものであって、かつ、その定型性がそのまま確保される。つまり、交渉による変更が予定されない。こういうものについて提示することがどのような意味を持つのかという疑問もあります。読むことが期待されない、読んでも交渉の余地はない、そのような契約条件についてあらかじめ提示し、あるいは交付することにどのような意味があるのかというわけです。むしろ内容が合理的であれば問題はないはずであって、開示はいたずらに無用のコストを増加させ、最終的にはそれが消費者に転嫁されるだけではないかという指摘、疑問も投げかけられております。
 しかし、先ほど引用いたしました村弁護士の指摘にありますように、契約を締結することは何よりも消費者の選択です。その選択に当たって契約条項については全く知る機会がないまま、それなのになぜそれに拘束されるのか。また、知りたいと考える場合に、消費者からアクションを起こして情報を取得しにいかなければならないのはなぜなのかという疑問に対して、それを正当化する特別な事情がない限り、答えることは困難だと思われます。
 約款による取引は有用な取引です。だからこそ、約款中の契約条件に、その拘束力の点できちんとした法的基礎が与えられることが必要であり、そのための要件が明らかにされるべきです。しかし、膨大な約款を逐一事前に交付することが、コスト上かえって消費者に不利益である、かつ、消費者の商品理解や意思決定のために必要な、重要な契約条件についてはきちんと説明がされるという場合には、約款の提示を簡略することが考えられるべきですし、また、バスへの乗車などを考えますと、事前の開示がおよそ期待できない場合もあるわけで、開示が大幅に緩和される必要がある場合もあります。また、拘束力の根拠につきまして、意思以外に求める余地はないかということも検討の必要があります。このような観点から、その具体的な規律の中身については、よりきめ細かな検討が必要です。
 また、採用要件の明定につきましては、逆にかえって安易に約款の拘束力を認めることにつながらないかという懸念もございます。約款を提示、交付されても読むことが期待されないのに、容易に拘束力が認められる方向に裁判所の判断が動くとすれば問題であるという指摘です。これに対しましては、希薄な意思による基礎づけしかない以上、他の規律、不当条項規制や解釈、透明性などの規律によりスクリーニングをきちんとかけていくべきでありましょう。何層もの多層構造で考えていくべきこと、開示の要件というものは最低限の要件であるということを基礎としつつ、その内容を考えていくべきだと考えられます。
 こうして約款の契約への採用というものを約款による意思に基礎づけるときに、次に不意打ち条項の問題が出てまいります。約款を採用するというその意思は、外形上約款としてひとまとまりに提示されて契約条件全てに及ぶのかという問題です。基本的には及ぶと考えられるわけですけれども、しかし、およそそのような総体の中に含まれていると期待できない条項まで契約内容となることが承認されたとは言えないわけですので、そのような意味で不意打ちである条項については、例外的に約款による意思の及ぶ範囲から除外されるべきだということが考えられます。
 不意打ち条項につきましては、内容規制において不当条項規制で対処すべきであるという考え方もございますけれども、内容の当不当に立ち入らず、異常な条項を同意の範囲から排除するという操作をどう位置づけるかという問題です。これは不意打ちの基準をどこに求めるかという点と関連してまいります。約款による意思の及ぶ範囲の問題として考えるときは、その範囲から例外的に除外される不意打ち条項は、契約の種類、性質、取引慣行に照らして含まれることを想定できない異常な条項を問題にすることになると考えられますのに対し、不当条項として問題とするときには、その規律内容いかんではありますけれども、内容の不当性が加味されることで不明瞭さやわかりにくさを問題とすることも考えられ、また、相関的あるいは総合勘案する枠組みが条項を対象に構築されるならば、その中で消費者の理解や認識を確保するための手続面での不十分さとして勘案することも考えられます。したがいまして、不意打ち条項につきましては、その基準、効果ともにそれぞれ検討の余地があります。
 次に解釈準則に移りたいと思います。条項の解釈についての一般的な規定は、民法にもどこにも置かれておりません。しかし、約款につきましては、従前より約款中の条項が個別合意と矛盾する場合には個別合意が優先すること、約款は想定される取引の平均的顧客の理解を基準として解釈されるべきこと、複数の解釈可能性がある多義的な条項については約款の使用者、消費者契約の場合には事業者に不利な解釈がとられるべきことなどの条項解釈の準則が説かれてまいりました。
 これらの準則を明文化することが考えられないかという点です。約款による取引におきましても、特定の条項が規律する事項について個別に合意がされたときは、特定の条項を排除することができることは契約法の一般原則から当然です。したがって、個別合意がされたときに、それによって排除される条項以外の他の条項と個別合意の内容が矛盾するときは、個別合意が優先することが同様に導かれるでしょう。
 約款による取引においては、一般的に画一的・定型的処理が要請されることからすると、条項の解釈については個別の相手方の理解や認識ではなく、平均的顧客を基準とした客観的解釈がとられるべきだと言われます。これに対しまして、契約というのはあくまで個別の契約なのであるということを理由といたしまして、平均的顧客の理解を基準とした客観的解釈ではなく、あくまで個々の当事者を基準とすべきであるという指摘や立法提案もございます。
 約款が保険約款や運送約款など古典的・代表的なものにとどまらず、さまざまなものを包含することを前提とすると、約款による取引における定型的処理・画一的処理の要請にも濃淡があると考えられます。契約の種類、性質、取引慣行などから、画一的処理が要請されるものについては一律の客観的な解釈がされることになるでしょうけれども、そうではない類型について個別の解釈の余地もあり得ると思われます。約款の定義、範囲、類型とも関係させつつ考える必要があります。
 以上は、約款における個別性と定型性という2つの要請をどう調整していくかという問題であり、解釈準則だけではなく、不意打ち条項や透明性の問題に関しても問題となります。
 解釈準則の3つ目の不明確条項解釈準則は、条項が多義的な形で表現された場合、解釈によって一義的に意味を確定することができないときに、意味が不確定ゆえに無効となるのか、それとも合理的な解釈選択肢のうちの1つを採用して条項の効力を維持するのかという問題について、約款の場合には作成者や使用者に不利な解釈をすることで条項を維持するというものです。多義性のリスクをどう誰が分担するかについて、作成に当たったまたは提示をする使用する側のリスク分担とするというものです。
 多義性についての最後のリスク分担というふうに考えられますので、そもそも当該条項の解釈として表現は複数にとり得るとしても契約全体から、あるいは個別合意の内容に照らして、あるいは条項の相互関係などからして1つの意味に確定できるときには、そもそも発動しない原則であると考えられます。その意味で、多義性を通常の解釈手法や準則によってなお払拭できないときの最後の準則であると考えられるわけですけれども、しかしながらこのような準則の明定に対しましては、事業者が必ずしも約款の作成自体を担っているとは限らないことや、また、作成能力の点でも巧拙があること、あるいは何が何でも作成者や使用者不利に、あるいは消費者有利にと援用されかねないという濫用の懸念があることなどが指摘されています。
 表現の多義性をめぐる最後のリスク分担であるならば、それ自体が明らかにされることが望ましいとも考えられますが、このような懸念に対して適切に答えるべく、その性格を明らかにすることや、あるいはそのような懸念を踏まえ、正面からこの準則を定めるのではなく、消費者の合理的期待を考慮した解釈であるとか、あるいは条項の明瞭さ、平易さの確保という透明性の規律の中で、大もとの義務を明文化することによって対応する見解なども検討されております。
 4つ目の項目といたしまして、透明性のお話に入りたいと思います。現行法の消費者契約法は3条1項におきまして、消費者契約において内容の明瞭さと平易さの確保につき、事業者に配慮する努力義務を定めております。
 このような義務が努力義務となっておりますのは、消費者契約一般について事業者も多様であることや、必ずしもみずからが作成するわけではないこと、明瞭さや平易さの確保としてどのようなものが、どの程度のことが要求されるのかが不明瞭であることなどに由来していると思われます。しかしながら、約款においてさえ明瞭さと平易さを確保するよう配慮することは望まれる事項でありまして、ましてや情報の質、量、交渉力の格差を正面から見据えて規律を設ける消費者契約法においては、契約条項は明瞭かつ平易なものとしなければならないとして、義務とすることは十分考慮に値すると考えられます。
 ただ、その場合も何をもって明瞭・平易と言うかという問題が残ります。規律の内容といたしましても、いたずらに複雑で、通常想定される顧客の理解はおよそ期待できないような条項は、契約の効力を支える相手方の理解に疑問符をもたらすものとして、不当条項規制の中で考慮することや、また、中心部分に関する条項であっても、意思の薄いものとして不当条項規制の対象とすることなどが考えられ、その基本にある義務として法定することも考えられます。
 以上4つの項目を約款規制として取り上げてきましたけれども、そもそも約款として規律をすることが適切なのかという問題がございます。消費者契約法において約款というアプローチを採用すべきなのか。それとも条項の問題として、例えば個別に交渉されてない条項についての規律とすることも考えられます。約款として規律をすることには、そもそも現在の取引が約款という形で、一種1つのブロックとして取引をされているという現状に適合的でありますし、採用との関係でも、個々の条項に向けられた意思というよりは、約款によるという合意を捉えること、あるいは約款の解釈や約款の変更あるいは団体訴訟における意義などもあると考えられます。しかし、この点は立法例も種々でありまして、どのような基準で規律を設けていくのかということ自体も、なお検討すべきことです。
 仮に約款によって規律をするという場合には、約款という概念をどのように定義していくのかという問題がございます。また、約款という概念をもとにして規律を考えていくといたしましても、今回申し上げました4つの項目を全て約款という法技術のもとで規律していくのかということも、またもう一つの問題であります。
 採用要件については、とりわけ約款の概念が有用であると考えられますし、また、不意打ち条項は約款の採用の範囲画定の問題であると考えるならば、それとセットになるべきものでありましょう。それに対しまして、不明確条項、解釈準則や透明性については約款かどうかよりも、消費者契約一般について問題とすることが適切だとも考えられます。
 最初に申し上げました日弁連の消費者契約法試案は、採用要件と不意打ち条項については約款の規律としつつ、透明性や不明確条項、解釈準則については約款か否かによって区別していませんが、これは示唆的です。
 以上は、消費者契約法における問題ですけれども、民法改正を視野に入れますと、このような規律のどれを民法で定め、どれを消費者契約法で定めるのかについての考慮も必要です。例えば約款を基準とする採用要件については民法で規律を置くとして、そのもとで消費者契約法における具体的な規律を考えるということもあり得るわけですけれども、その際も同様の内容とするにしても、例えば日弁連の改正試案9条は、消費者契約における約款であることに着目して、特に名称や形態のいかんを問わないということを明示することを提案しております。このように、同じ内容の規律であったとしても、消費者契約ゆえに特に留意すべき事項を消費者契約法で明らかにするということも考えられるわけでありまして、なお検討課題と考えられます。
 早口で恐縮ですが、私からは以上です。 (拍手)

(4)不招請勧誘・適合性原則

○角田准教授 角田でございます。
 私からは、御案内のとおり不招請勧誘と適合性原則の消費者契約法への導入可能性につきまして検討しておりますところを紹介させていただきます。レジュメで15ページ以下ございます。
 さて、この2つのテーマはいずれも行政ルールにおいて一定の立法例の蓄積を見ているものでございますが、それらを消費者契約法に取り入れることができるかが問われております。行政ルールとの架橋、また、これらのルールはピンポイント的に領域を限定しておりますものですから、その普遍化の可否が問題となります。加えて、議論の立て方といたしまして、比較法を参照しにくいという特徴がありますこと、御承知のとおりであります。
 早速、論点を見ていただきたいと思います。1点目ですけれども、「不招請勧誘ルールの導入・その1」ですが、とりわけ投機性が高い金融商品につきまして、それから、レジュメでは抜けておりますが、昨年8月の特定商取引法改正によりまして導入された訪問購入もちょっと補足させていただきたいと思いますが、これらの領域におきまして、そもそも顧客が要請していない限り勧誘自体を禁止すべきであるという不招請勧誘規制が導入されてきておりますけれども、この規制といいますのは顧客の保護を目的とした法規定でありますから、これらの規定に違反した勧誘、販売行為につきましては民事上も違法となるという規定の導入を検討してはどうかと考えております。
 2点目には入りますけれども、不招請勧誘に関する消費者被害の相談が大変多く寄せられておりますが、一方で裁判実務を見てみますと、適合性原則違反、説明義務違反とあわせて民事責任を基礎づけるとされていることに鑑みまして、不招請勧誘ルールを消費者契約法に導入するということを検討するに当たりましては、不当勧誘に関する一般条項、受け皿規定のようなものを置き、その上で解釈・適用に当たっての一考慮要素とする方向を検討してはどうかという議論をしております。
 次に適合性原則についてですけれども、これは過大なリスクを伴う商品・サービスを目的とするような消費者契約における原則規定といった形での導入を検討してはどうか。
 4点目ですけれども、適合性原則について民事効果を伴った形での消費者契約法への導入を検討するに当たりましては、被害の実態、過量販売、過剰与信等に関する特別規定がありますけれども、それらの対応可能性と限界等を見極めながら、引き続き検討することとしてはどうか。
 以上4点について、以下お話をさせていただきたいと思います。
 まず、不招請勧誘でございますけれども、ルールといたしまして、契約締結の勧誘の要請をしていない顧客に対する勧誘それ自体を問題とする。つまり、マーケティングそのものを禁止、制限するという点におきまして、そこでなされた行為によって、消費者が誤認、困惑して契約を締結してしまったことを問題とする。先ほど丸山先生が御報告されたテーマとは、若干問題とする局面が異なっている点を意識する必要がございます。ですから、丸山先生が御提案された誤認、困惑類型の拡張あるいは相手の弱さにつけ込んで、本来不要な契約を締結してしまうという状況の濫用を要件とした取消規定の導入が実現したとして、なおプラスαで何が考えられるかということを、私からはお話をさせていただきます。
 まず、法規制の現状を確認しておきますと、レジュメに挙げてございますけれども、金融商品取引法における禁止行為として、あるいは商品先物取引法におけます不当な勧誘等の禁止として、それから、先ほど口頭で補足させていただきますと申し上げましたけれども、まだ未施行ですが、特定商取引法の58条の6第1項におきまして、訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘を要請していないものにつきまして不招請勧誘禁止がなされることになっております。その適法範囲ですけれども、指定制ではなく原則として全ての物品が考えられており、ネガティブリストがつくられることになっておりまして、そのネガティブリストの中身といたしましては、消費者の利益を損なうおそれがないと認められる、あるいは規制をした場合に流通が著しく害されるおそれがあるものがネガティブリストに挙げられることになっております。
 そして、この訪問購入のルールの特徴といたしましては、投機性の高い金融商品で認められてきた適合性原則の遵守をおよそ期待し得ないといったロジックが使われておらず、訪問購入における被害は単なる経済的損失にとどまらず、また、未然防止の必要性が極めて大きい。そして、在宅していることが多い高齢者、専業主婦に集中しているといった事情が考慮されたという点を指摘しておきたいと思います。
 それ以外でございますが、レジュメにも書きましたように、電子メール広告につきましても承諾をしていない者に対する送信の禁止、制限がなされておりますし、関連規定といたしまして、訪問販売については承諾意思確認の努力義務、再勧誘の禁止、電話勧誘販売についても再勧誘の禁止といった行政ルールがあることは御承知のとおりであります。
 2点目には入りますが、さて、それらの行政ルール違反と民事効をいかに架橋できるだろうかということを考えた場合に、理論構成としてはレジュメに記載いたしました3つほどが考えられるのではないか。
 まず1点目でありますけれども、行政上の販売・勧誘ルールの著しい逸脱に対して、不法行為法上も違法性を基礎づけるというものであります。これは次にお話をさせていただきます適合性原則に関します平成17年7月14日の最高裁判決がこのようなロジックをとっております。そこに記載したとおりですけれども、適合性原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となるというものであります。
 2つ目の可能性ですけれども、これは若干、不法行為法の体系が異なってはおりますけれども、ドイツの不法行為法、ドイツ民法823条の2項という条文が参考になるのではないかということなのですが、他人の保護を目的とする法律に違反した者も前項と同様ということですが、これは結局違法な権利侵害をしたということで、これによって生じた損害を賠償する責任を負うというものです。ですから、先ほどの論点で申し上げたように、顧客の保護を目的とした法律に違反したのであれば、それは不法行為法上の違法性を基礎づけるであろう、これが2つ目の可能性であります。
 3つ目ですけれども、これは法律行為の効力を否定するという効果を導く際に参照され得るものとして、消費者公序論、それから、取締法規違反の法律行為の効力論というものがございます。例えばということなのですけれども、比較法資料の125ページを後でごらんいただければと思うのですが、フランスにおきまして消費法典に攻撃的取引方法に関する規定が置かれておりまして、電話、ファックス、電子メール等の隔地的通信手段について、私的領域への侵入の対応が攻撃的であるといたしまして不招請勧誘の禁止、それから、訪問販売につきましては再勧誘の禁止を定めており、この禁止の意味ですけれども、刑罰の対象となっており、かつ、攻撃的取引方法によって契約締結に至ったときには、当該契約は無効となるといった形で民事効果を付与しております。このような立法が参考になるのではないかということです。
 ここでポイントといたしましては、不招請勧誘一般ではございませんで、取引方法の中でも特に私的領域の侵害が攻撃的なものをピックアップして、刑事罰とリンクした形での無効を規定しているところであります。
 次に2)のほうにまいりますけれども、不招請勧誘を理由とする不法行為責任を認めた裁判例も、適合性原則等と相まった形で認めているということと、領域が集中しているということですから、単独での実体法規範を考えることは困難ではないかということです。
 早速ですけれども、立法化の可能性に入っていきたいと思います。消費者契約のトラブルの多くが不招請勧誘に起因しているということが指摘されておりますので、「元を絶つ」実効性確保の要請が不招請勧誘に寄せられる期待の背景でございます。レジュメに挙げましたとおり、対処すべきとされている問題は、常時住所にいることが多く、判断能力に衰えが生じている可能性が高い高齢者に対するもので、対応ができていないものとして詐欺的投資勧誘、それから、苦情申し出がしにくい高齢者あるいは判断能力が不足している人への次々販売といった問題に対処してほしいというニーズが存在しているということです。
 ここで、先ほど口頭で御紹介申し上げました訪問購入について不招請勧誘が入った意味をどう捉えるかということが大きな論点になるのではないかと考えられておりまして、事業者との接触が始まってしまいますと、交渉力の格差があるために事業者の思惑にはまってしまう点では、こういった問題が共通しているのではないかということなのですが、訪問購入につきましては、特に消費者が買わされてしまうというものとは逆の立場であるがゆえの救済の困難さが指摘されて、その認識をどこまで重く見なければならないか、これを考える必要があるということです。
 それから、不招請勧誘につきましては、法的介入根拠といたしまして「私生活の平穏の侵害」というものがありますけれども、それによって生ずる損害というものは精神的な損害ぐらいではないかということで、この点をどう克服するか等も問題となります。
 次に、レジュメには「射程」と書きましたけれども、不招請勧誘の消費者契約法への導入を考えるに当たりましては、消費者取引一般について考えてよいのか、それから、勧誘態様も一般化可能かということも意識する必要があろうかと思います。
 時間もないので立法を考える際に留意すべき点に入りますけれども、先ほどの民事効との架橋というところで、1点目として指摘した適合性原則の判例におきましては、著しいという要件が入っておりますけれども、個人的には、どちらかというとそれは必要ないのではないかというふうに考えが傾いているところであります。
 それから、再勧誘の禁止につきましても、先ほど紹介申し上げましたフランス法の例に見られますように、これも保護法規に含めて考えることができるのではないかと思っております。
 時間が押してしまいましたので、適合性原則のほうに入っていきたいと思いますけれども、2つの問題があろうかと思います。法規範が行政ルールではなく民事ルールとして考えるであろうか、それから、投資サービスにおいて確立してきたルールでありますから、それを普遍化することができるであろうかということであります。
 具体的論点に入りますけれども、定義といたしましては、金融審議会が狭い意味と広い意味での適合性原則を分けて整理しているということは御承知のとおりかと思います。法制の特徴といたしまして、広い意味の適合性原則は実質的な説明義務として定められておりますほか、説明義務が尽くされたかどうかの解釈基準として、さらには勧誘の適正性確保のためのコンプライアンスルールとして規定されております。
 それから、狭い意味のほうですけれども、法制上はこれが中心になります。これが行政ルールとして規定されておりますが、先ほど紹介した平成17年の最高裁判決が、これを民事ルールと架橋する判例法理を確立させたという点がポイントだと思っております。この民事ルールは、最近の下級審裁判例においては実質機能していないという指摘が京都大学の潮見先生からされておりまして、これが非常に重要な問題ではないかと認識する必要があると思っております。
 他方で、説明義務が認められる事案が多いようなのですが、これが実質広い意味での適合性原則に近づいているとの指摘も同時になされております。
 それから、適合性原則は、御承知のようにリーマンショック以降デリバティブの販売・勧誘規制が強化されておりますけれども、合理的根拠適合性という新たな機能を獲得するに至っている点も、ここでは意識する必要があると考えております。
 次に、消費者法の領域に移りたいと思いますけれども、まずは消費者取引一般につきまして、消費者基本法5条1項3号が、事業者は消費者との取引において消費者の知識、経験、財産の状況等に配慮する責務を有すると規定しておりまして、これはプログラム規定でありまして、事業者が負っているのは責務であって義務ではないということはできましょうが、射程が消費者取引一般であることを見逃すことはできないでしょう。
 また、行政に対して対応を要請しているだけではなくて、立法者に対してもこの内容に即した措置を要請しているという意味で、大きな意味を持つとは言えないでしょうかと思っております。
 次に、レジュメに書いたように立法例が蓄積していることも十分に踏まえる必要があるということです。立法化の必要性のところでありますけれども、消費者契約法に置くことの意味を考える際に、消費者法固有の必要性として指摘されております、およそふさわしくない業種のものにハイテクな機器を勧めるとか、高齢者に多機能携帯電話を勧める、これらは過大なリスクを伴う取引とは言い難いようなところがありまして、これも必要性があると言っていいのだろうかということも1つ考える必要がございます。
 それから、隙間事案への対応ということで、店舗取引における過量販売の問題も実際に存在するということで、これをどう受けとめるかということが論点になろうかと思っております。
 そして、最後の立法化に当たって留意すべき点ですけれども、民法改正との関係の中で公序良俗の具体化、意思能力の定義、個人保障の制限等におきまして、適合性原則の要請を一部実現するような提案がされております。このような提案がなされていること自体、適合性原則の要請というものを受けとめる必要性ということが言えるのではないかということです。その必要性というものをどう整理したらよいかということなのですけれども、一部民法で適合性の要請が実現されたら消費者契約法は必要なくなるのかということなのですが、消費者契約法が販売勧誘ルールの原則規定という言い方をいたしましたけれども、さまざまな適正な顧客管理体制等を要請しているという機能に着目いたしますと、やはり固有性というものが認められるのではないかということです。
 それから、過大なリスクを伴う取引という視点以外に、適合性原則が一定の役割を果たし得る視点として何かないかということを、今、ちょっと悩んでいるところなのですけれども、生活に必須な商品、サービスであるという視点も、特に消費者契約においては考慮してもよいのではないか。この辺はまだ私見にとどまっており、可能性を追求してみるに値するのではないかと考えております。
 以上、駆け足での雑駁な報告でしたが、御清聴ありがとうございました。 (拍手)

(5)不当条項リストの補完

○大澤准教授 大澤でございます。
 本日、私のほうからは不当条項規制のうち不当条項リストの補完の部分について報告をさせていただきたいと思います。レジュメに掲載しておりますが、この問題につきまして考えられる論点として大きく3つに分けて指摘したいと思います。
 まず1つ目といたしましては、該当すれば不当条項であるとみなされる「ブラック・リスト」と不当条項であると推定される「グレイ・リスト」を設けてはどうかということです。また、このほかに、例えば業種ごとのリストなどを政令レベルで設けることも検討してはいかがでしょうか。
 2つ目の論点といたしましては、不当条項リストのうち特に裁判例で活用されている違約金・損害賠償額の予定条項規制について、規制基準などさまざまな観点から詳細に検討してはいかがでしょうか。
 3つ目の論点といたしまして、実際の事案におきましてはそもそも問題となっている条項がいかなる趣旨のものであるかが不明確であり、具体的にどの不当条項リストに当てはまるかが問題となることがございます。そこで、条項の性質決定に関する解釈準則を創設してはいかがでしょうか。具体的には、不明確条項に関しては消費者の合理的意思を重視する解釈準則を創設することを検討してはいかがでしょうか。
 以下、この3つに分けて問題となっている背景、そしてどのような対処が必要となるかということを述べてまいりたいと思います。
 まず1つ目のブラック・リストとグレイ・リストの件に移ります。現在の不当条項リストは、もう皆様御存じのとおり、消費者契約法8条、9条の2種類しか存在しておりません。結局のところ、多くの条項が消費者契約法10条によって不当性判断がなされているのが現状でございます。そのことを踏まえますと、レジュメに掲げました不当条項リストの3つの機能を実現するには至っていないと思われます。
 そこで、諸外国の立法例ですとか従来の裁判例、学説などを参考に不当条項リストを充実させるべきであると考えます。その際に、該当すれば不当条項であるとみなされるブラック・リストと、不当条項であると推定されるグレイ・リストに分けて設けることが考えられます。
 それはなぜかと申しますと、不当とされる条項の中には、いかなる状況を考慮しても常に不当と言える条項のみではなく、ほかの条項の存在あるいは対価との関係など、ほかの事情を踏まえれば当該条項の合理性が認められるという条項も存在しております。ブラック・リストのみによる硬直的な不当性判断を避けるためには、ブラック・リストとグレイ・リストに分けてリスト化することが望ましいのではないでしょうか。我が国の学説あるいは実務におけるもろもろの提案や諸外国の立法例を見ておりますと、ブラック・リストとグレイ・リストに分けて規定するものが多いです。
 以上のブラック・リストとグレイ・リストのほかに、業種ごとのリストなどを政令レベルで設けることも検討に値すると思います。
 日本でも、この点は消費者契約法制定過程におきまして一部の学説において指摘されていた点でございます。
 諸外国に目を移しますと、例えばフランスにおける濫用条項委員会における勧告というものを例として挙げることができます。もっとも、この場合にはそのリストを作成する主体、リストの法的効果、リストの更新頻度などを慎重に検討する必要がございます。例えばそのリストに条項の無効という私法的な効果を付与するのであれば、政省令ではなく法律で定めざるを得ないかと思います。しかし、更新頻度を高めるためには、法律よりも政省令によったほうが現実的であるとも思われます。
 ちなみに、フランスの濫用条項委員会の勧告は、学説では批判はあるものの、判例では法的拘束力を有さないリストであるというふうに捉えられております。
 リストに列挙する条項の候補は、レジュメ22ページに記載しております。この内容についても現在詳細に検討しておりますが、時間の都合がございますので3点だけ補足させていただきます。
 第一に、事業者の責任を不相当に軽くする条項でございますが、これにつきましては、例えば軽過失による責任を制限する条項もリスト化すべきかどうかという点ですとか、人身損害の免責あるいは責任制限条項について別途リスト化するか否かが特に問題になってくると思われます。
 第2に、事業者に一方的な権限を与える条項のうち、例えば契約内容自体の変更権限はブラック・リスト、条項の変更権限はグレイ・リストと分けることも1つの案だと思われます。
 第3に、意思表示に関する条項ですが、常に不当であるということは非常に困難であると思われますので、実は多くの学説あるいは外国法ではグレイ・リストに掲げられているという点をつけ加えておきたいと思います。
 次に違約金・損害賠償額の予定条項につきまして、論点と対処すべき方法について報告させていただきます。この問題は、現行法ですと消費者契約法の9条1号でございますが、これにつきましてはレジュメに掲げていますような問題点が指摘されております。このことから、消費者契約法9条1号につきましては以下の点を見直す必要があると考えております。これもレジュメに記載しているとおりですが、少し詳しく説明いたします。
 第1に、平均的な損害の立証責任について検討する必要があると思います。現行法の文言上は立証責任が消費者にあると解せざるを得ません。しかし、当該事業者の損害の平均値の算定根拠となる資料を持たない消費者が、事業者側に生じる平均的な損害を立証することは困難であると思われます。この点、下級審裁判例におきましては、事実上の推定あるいは民事訴訟法248条を活用することによって不都合を緩和しようとするものもございますが、今回の改正、見直しを契機といたしまして、立証責任を転換することを検討してもよいのではないかと考えております。
 第2に、平均的な損害の算出方法につきまして具体的な基準を設けることが考えられます。例えば最近の携帯電話の解約金に関する裁判例を見ておりますと、当該解約金条項が解約の時期を一切問うてない条項であることから、裁判所によりましては平均的な損害の算定に当たって本件契約を締結した顧客を一体のものとして判断しているものもある一方で、解除の時期的区分によって同一の区分に分類される複数の同種契約の平均値を用いたものとに分かれております。しかし、当該事業者に生じる損害額は解除の時期的区分によっておのずと異なってくるものであることですから、改正に当たりまして、解除の時期的区分によって平均的な損害額を算定することを明文化することも考えられます。
 第3に、平均的な損害の対象となっている損害につきまして、履行利益を含めず、信頼利益に限定するということを明文化することも考えられます。平均的な損害の対象につきましては、民法理論のみから正当化することは困難でございますので、消費者契約特有のものとして説明する学説が複数存在しておりました。このことを踏まえまして、今回の見直しに当たりまして、この点を明文化する余地はあるのではないでしょうか。
 ほかの論点といたしましては、レジュメ24ページの(3)のところにもございますが、消費者からの解除に当たって消費者側に帰責事由がない場合には、そもそも損害賠償を求めてよいのかという問題点がございます。学説では以上のような場合には民法の420条の適用が排除されるという見解もございます。そこで消費者契約法では、この場合の損害賠償額の予定条項を無効とするという条文を入れることも考えられるかと思います。
 そして(4)のところにございますが、消費者契約の解除を伴わない、消費者の債務不履行(義務違反)に対する損害賠償額の予定・違約金条項についても規制を設ける必要があるかと思われます。例といたしましては、レンタルサービスの延滞時の追加料金ですとか、あるいは賃料相当損害金の2倍条項など、金銭債務不履行以外のものは現行消費者契約法では規制の対象外となっておりますが、これらを解除を伴う場合と区別して対象外とする理由には乏しいと思われます。
 最後に5つ目ですが、以上のほかに対価不返還条項に関する規定を明文化することを検討してはいかがでしょうか。
 このような原状回復に関する条項は、事業者が対価を保持することに正当性があるかという観点から、この有効性が問題となります。その際に平均的な損害の有無を考慮するだけで果たして十分と言えるかは一考を要すると思われます。対価不返還条項も、実質的には損害賠償額の予定条項と同じ機能を果たしますので、別途リスト化する必要はないという声も聞かれますが、後で述べますように、文言上、不当条項リストを潜脱する余地をなるべく減らすためには、別途違約金条項と分けてリスト化することも望ましいのではないかと考えます。
 そして、冒頭の論点のマル3の部分につきまして、解釈原則について補足させていただきます。
 現実には、有料老人ホームの入居一時金の返還特約が問題となった事案のように、権利の実態が乏しいにもかかわらず、事業者側の主張する意思解釈論に引きずられる形で特約の性質決定を行っていると思われる裁判例が存在しています。敷引特約に関する最高裁、平成23年7月12日判決における岡部裁判官の反対意見でも指摘されておりますが、趣旨が不明確な条項を事業者側の認識で意思解釈してよいのか。消費者側は趣旨が不明確な条項に対して適切な選択ができないのではないかという問題が存在しております。そこで、契約内容の確定の準則として、消費者の合理的意思を重視して内容決定するという準則を設けることを検討することが考えられます。
 このような準則の結果といたしまして、作成者にとって内容が不利なものとなりましても、不明確条項を作成したという作成者側の帰責性ですとか、あるいは消費者と事業者との間の情報力、知識の格差を踏まえるとあり得る方向性ではないかと考えます。
 次にレジュメ24ページ「3 比較法的な動向との関係」というところですが、こちらにつきまして、詳細は資料の26ページのリストの表と、資料の128ページ以下をごらんください。時間も限られておりますので少しだけ補足させていただきますが、現在では、多くの国におきまして、ブラック・リストとグレイ・リストの二本立てによるリスト化がなされております。それぞれの立法例におきまして、どのような種類の条項がどういうリストとして掲げられているかは別表に委ねます。しかし、表を見ておりますと、条項の種類によりましてはブラック・リスト、グレイ・リストの仕分けについて共通するものも少なくありません。
 次に、損害賠償額の予定条項につきまして、これも資料にございますように、諸外国におきまして、損害賠償額の予定条項を契約解除の場合に限定するモデルは確認できません。
 最後に、解釈原則につきましては、これも比較法の資料にございますように、契約条項の明瞭化に関する規定を設けている国はございます。大きく分けますと、対価関係条項として審査対象外となる場合には、明瞭化は必要であるという形で定めるものと、条項の不明確性が不当条項審査の際の考慮要素となるといった形で定める規定が存在しております。詳しくは資料をごらんください。
 最後に、立法を考えるとした場合の留意点につきまして、これも冒頭に述べた3つの論点に分けて検討させていただきます。
 まず、ブラック・リストとグレイ・リストにつきましては、主に3つの点に留意する必要がございます。
 まず1つ目といたしまして、リストの文言の抽象度が問題となります。確かに具体的かつ明確な基準を設けることによって、誰でも簡単に問題となっている条項がリストに当てはまるかどうかを判断することができますし、それが望ましいとも思われます。しかし、余りにも細かい文言でリストを設けますと、今の現行法でまさしく問題になっておりますように、リストの射程を狭めてしまう危険性がございます。そのことから、リストの文言につきましては、学説でも指摘されておりますように、民法の条文程度、あるいはこれをやや具体化した程度が望ましいのではないかとも考えております。
 次に2つ目ですが、今の文言の点とも関係いたしますけれども、リストにおける不当性の基準の定め方は慎重な検討を要します。例えばリストの中に「過度に」あるいは「著しく」といった要件を入れてしまいますと、結局不当だということを消費者が立証する必要も出てくることになってしまって、その機能を害するおそれがあります。
 3つ目といたしまして、その条項の実質との関係でどこまでの条項をリストでカバーするべきかという点を検討する必要がございます。例えば条項の実質を重視いたしますと、対価不返還条項というのは、現行消費者契約法9条1号が適用される条項であると見ることができます。しかし、実務上は例えば老人ホームの入居契約をめぐる事例に見られますように、入居一時金を地位の対価あるいは権利金と構成することによって規制を免れるという弊害が生じております。全てのあらゆる条項をリスト化することは困難でしょうが、形式的に区別可能なものをリスト化することは必要なのではないでしょうか。
 次に損害賠償額の予定条項につきまして、これはあくまで私見ではございますが、文言として損害概念を維持するのかという点は検討してもよいかと思います。
 最後に解釈原則につきまして、作成者不利の原則ですとか、先ほどの沖野報告にもございましたような点との関係を踏まえる必要があるかと思います。
 最後に、関連する問題として次の点を指摘したいと思います。まず1つ目ですが、学説、実務における消費者契約法の改正提案の中では、例えば過量販売に関する条項など、その契約の目的物、対価そのものに関する条項をリスト化するものがございます。これらの中心条項についての規制の可否につきましては、現在、消費者契約法10条の見直しに当たりまして検討中でございます。仮に中心条項を規制することにするといたしましても、これらの条項をリスト化することの是非が問題となります。
 そして最後に、今、検討中と申し上げましたが、不当条項リストだけではなく、言うまでもなく一般条項である消費者契約法10条の見直しも必須となります。具体的には10条の基準ですとか、あるいは条項の不当性判断に当たっての考慮要素などが問題となります。この点につきましては、資料の77ページにある法制審の中間試案たたき台で設けられた、不当条項規制の一般条項の問題が参考となります。
 以上で報告を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。 (拍手)

(6)インターネット取引における現状と課題

○山田内閣府消費者委員会事務局委嘱調査員 山田でございます。よろしくお願いいたします。
 私のほうは、30ページからということになります。実はこのワーキングの中では、きょう取り上げる広告以外に、約款の成立要件の部分であるとか具体的な条項についての検討も行ったのですが、きょうは時間の都合で割愛いたしまして、広告に関する点についてのみ触れていきたいと思います。
 きょう、私に与えられた時間は10分でして、この中で大きく3つのことを取り上げていきます。まずは、ざっくりとインターネットにおける広告の種類について紹介いたしまして、その上でインターネット取引における被害の実情を少し見ていきます。最後に立法に際しての留意点、こういう流れで見ていきたいと思います。
 まず、30ページの「1 論点」のところからですが、読み上げます。
 マル1 広告は、不特定多数に向けた「申込みの誘引」とはいえ、消費者の意思形成に重要な影響を与えている可能性が高いことに鑑み、契約締結過程の適正化に関する規律において、一定のルールを定めることを検討してはどうか。
 これは別にインターネットの広告に限った話ではなく、広告全般に関する問題ということになります。
 2点目ですが、この後まさに取り上げるわけなのですけれども、インターネットにおける広告においては、いわゆるリアル取引と比べてどのような特徴があるのかに加えて、そのような特徴を反映したルールを検討してはどうだろうか、こういうのが今回のこちらの論点提示という形になります。
 では、どういった広告があるのかということですけれども、31ページをごらんください。今、ここでは分類といたしまして、媒体による分類と方式による分類をしていますけれども、媒体としては検索サイトからSNS、いろいろ並んでおります。広告はさまざまな場面で、要は隙間があれば広告を出そうという考え方に立っていると思います。
 イの広告のところになりますけれども、いわゆるマス広告と言われて、まさに不特定多数向けに行われている広告です。しかし、特にインターネット広告において重要なものは、32ページの(イ)にあるターゲティング広告が極めて重要なところになっていきます。では、ターゲティング広告とは何か。まさに文字どおりターゲットを絞って特定の対象に狙いを定めて広告をするという手法になっております。
 では、そのターゲティング広告にはどんなものがあるのかといいますと、32ページの表にありますとおり、ざっと見ていきますと、まず行動ターゲティング広告と呼ばれるもの、検索連動型広告と呼ばれるもの、属性ターゲティング広告と呼ばれるものがあります。
 では、どういうものかということで一つひとつ簡単に概要だけ触れておきます。行動ターゲティング広告というものは、ある特定の消費者がどういうところを閲覧したのかという閲覧履歴であるとか検索履歴、あるいは一定のウェブメールにおいてはウェブの件名、メール内容等々から、どういう行動かという一定のアルゴリズムに従って抽出いたしまして、その人に適格な、その層、クラスターということに分けるわけですが、特定の層に向けた的確な広告を提示します。ですから、例えば旅行旅行ということでいろいろ検索しまくっていますと、ある検索サイトとパートナーと呼ばれているウェブサイトを見たときの横に、初めて訪れたサイトなのにいきなり旅行の広告が出る、これがいわゆる行動ターゲティング広告の実例です。
 めくっていただいて、33ページの検索連動型、これは皆さんもよくお使いになると思うのですが、要は検索サイトで検索をいたしますと、画面の上側に色がついたような形で広告が出ていたり、右側に広告が出ている、あれのことですね。特定のキーワードを定めたら、そのときにはこの広告を表示してくださいよというふうに設定をしてやって、それで表示されるという広告です。
 最後、属性ターゲティング広告というものは、俗に言うSNSで、私も途中までやってみたことがあるのですが、居住市町村、性別、年齢、誕生日、趣味、関心というところまで絞っていって、その人にだけ表示されるようにということができる広告手法という形になっていきます。
 では、今、こういう広告手法がとられている中で、インターネットにおける消費者被害としてはどういったものがあるのかということに関しましては、34ページを見てください。
 34ページの図みたいなものは、恐らく一般的な消費者が契約に至るまでのルートを示したものです。通常、恐らくこういう流れで契約をしていくのだと思います。今回この報告に当たりましてPIO-NET情報も、24年、昨年1月1日から10月31日までのインターネット通販というカテゴリーに絞ったものも相当な件数があったわけですけれども、少し解析をしてみたところ、確かに相談事例としては多岐にわたるのですが、少し私のほうで気をつけて見ていったのは、○で言うと2つ目以下になります。
 私は司法書士ですので、こういった事件の実務経験からいたしますと、何でそこのサイトで契約をしたのかというところをたどっていくと、例えば内職を探していて「内職」というキーワードを打って検索をした。そこで検索の上位に来たからここならいいだろうと思った。あるいは検索結果、左であるとか右であるとか、あるいは上のほうに表示されたからここをクリックしたのだという形で、何らかの形で検索サイトが入り口になっているところがあります。
 そして、今、申し上げたように○の3つ目になりますけれども、検索サイトの上に来たから信頼をしたのだ、大丈夫なところだと思ったという形でおっしゃる方は少なからずいますし、PIO-NETを見ていっても、検索上位に来たからここにしたというものが少なからず見られるという現状があります。
 こういった現状を踏まえましてどう考えていくのかという形で、最後に35ページの「3 立法を考えるとした場合の留意点」というところになります。
 まず1点目です。(1)インターネット広告についてということで、広告の意義。「インターネット取引においては、非対面取引であることから、広告が消費者の意思形成に与える影響が極めて大きい」、これは商品のサービス内容といった内容だけではなくて相手方自体の信頼、つまり私が実際に携わった事件でも、インターネット上はここの会場よりも大きいような、社員がいっぱい入るモンスターのような大きな企業だと思って、実際に現地調査に行ったらバーチャルオフィスでして、おじさんがリクライニングで倒して寝ているだけというケースもあります。ただ、その辺もインターネットではわからないわけですね。当事者の属性にせよ、商品にせよ、表示に影響される部分が極めて大きいのだ、まずこれは要素としてあると思います。
 それから、36ページのところになりますけれども、特にターゲティング広告に関するものなのですが、いわゆる広告に関しては、これまでずっと不特定多数に対する申し込みの誘引であると言われてきたわけです。だからこそ意思形成に与える影響は弱いのだとなってきたわけですが、ターゲティング広告というものは、より効果的に広告を打とうといって働きかけようという意思がかなり強いわけです。そういう面から言ってみると、事業者のサイドから見たとしても果たして勧誘と違うものはどこにあるのか、むしろ近い側面が多いのではないか。そして、消費者についてもある意味ピンポイントで広告を打たれるわけですから、影響は非常に大きいのではないかという指摘ができるかと思います。
 3番目の特徴的なものといたしまして、検索の上位に来る。この結果は皆さん御案内のとおり、必ずしも上に来たところが優良であるとかすばらしいというわけではないのですが、ここのあたりの一定の検索結果が相手方に対する信頼性の指標になっているというところも、現実問題としては指摘ができるかと思います。
 それから、その他の問題です。2つあります。仮に広告に関して消費者契約法4条の対象にするとした場合、例えばアフィリエイトとか、そういったものは現行法の消費者契約法の5条では恐らく対象に入ってきません。そういったものをどう捉えるのか。
 2つ目は、昨今はいわゆるステマということで、この間もペニオクの芸能人のブログが問題になったわけですが、そもそも関連性が全くわからない。ブラックボックス、ここをどう捉えるのかという問題もあります。ですので、インターネット消費者取引に関しては、このような問題も含めて検討をしていかなければいけないのだろうと思います。
 以上です。 (拍手)

○小田内閣府大臣官房審議官 報告者の皆さん、どうもありがとうございました。
 それでは、ここで20分間の休憩に入ります。先ほど申し上げました御意見・御質問票をまだ御記入でない方がおられましたら、休憩時間中に御記入いただきまして回収の係の者にお渡しをいただければと思います。
 再開は14時57分にいたします。どうぞそれまでに席にお戻りください。よろしくお願いいたします。

 (休  憩)

○小田内閣府大臣官房審議官 それでは、57分と申しましたが、もう皆様席にお戻りでございます。時間も押していますので、後半に入りたいと思います。
 ここからは、パネルディスカッションに移ります。コーディネーターは河上委員長にお願いしております。
 では、委員長、これから進行のほうをよろしくお願いいたします。

≪3.パネルディスカッション≫

○河上内閣府消費者委員会委員長 よろしくお願いします。
 先ほどの一連の報告を聞いて、何かリレー競争を見ているようで、大変せわしい思いをされたと思いますけれども、それぞれ問題が非常に多岐にわたっているということと、それにもかかわらず理論的なきちんとした裏づけをしておかないと、単なる思いつきでの立法というわけにもいきませんので、我々としても慎重にありたいという思いでございましたので、御理解下さい。
 これからのパネルディスカッションでは、現在、法制審議会で検討中であります民法改正の動向も踏まえながら、消費者契約法の立法的課題をもう少し具体化してといいますか、かみ砕きながら議論させていただきたいと思います。
 まず、本日お忙しい中、今回のパネリストとしてお招きした皆さんの御紹介をさせていただきたいと思います。皆さんの簡単な略歴は資料の39ページに掲載しておりますので、そちらを見ていただくということにいたしまして、ここではお名前のみ紹介させていただきます。
 皆様から向かって右側から、前半の基調報告でも御報告いただいた東京大学大学院の沖野眞已先生です。(拍手)
 続きまして、日弁連消費者問題対策委員会副委員長の北村純子さんです。(拍手)
 続いて、東京ガス株式会社総務部法務室長の佐成実さんです。(拍手)
 続いて、全国消費生活相談員協会理事長の丹野美絵子さんです。(拍手)
 続いて、法務省大臣官房参事官の筒井健夫さんです。(拍手)
 最後が、消費者庁消費者制度課長の堀井奈津子さんです。(拍手)
 パネリストの皆さん、本日はよろしくお願いいたします。ここからは肩書きは省略させていただきまして、さんづけで呼ぶことにさせていただきますので、御了承下さい。
 以上6名のパネリストの皆さんから、御意見を頂戴して進めてまいります。また、休憩中に会場の皆様からいただいた御意見・御質問につきましても、適宜ディスカッションの中で取り上げさせていただくことにしたいと思います。
 それでは、早速ディスカッションに入りたいと思いますけれども、資料の40ページにございますように、大きく4つの点について議論を進めてまいりたいと思います。
 最初の論点は、消費者契約法の実体法部分の見直しの必要性についてであります。最初に紹介があったように、消費者契約法は平成13年4月に施行されて、今年で、12年になります。この法律については、これまで消費者紛争の解決のために、かなりの貢献をしてきているということですけれども、相談の現場あるいは裁判所における判例の中では、幾つかの課題も指摘されるようになってきております。
 まずは、消費者契約法の見直しの必要性ということについてお伺いしたいと思います。最初に現場に一番近いということもございますので、丹野さんにお伺いいたします。実際の相談事例などから見て、消費者契約法の見直しの必要性についてお考えを少し発言いただければと思います。

○丹野全国消費生活相談員協会理事長 丹野でございます。よろしくお願いいたします。
 今、御案内がありましたように、消費生活相談員は消費者の苦情を受けまして、その問題を解決するべく尽力するという立場におりますので、その消費生活相談の現場からお話し申し上げようと思います。
 冒頭、野々山理事長が御挨拶のときにおっしゃいましたように、消費者契約法が1条のところで消費者と事業者の情報格差・交渉力格差について、それを正面から規定している点において非常に有益な法律だと理解をしております。トラブルに陥っている消費者の立場の認識や相手方事業者への説得に、この格差という部分を用いると一定の効果を発揮することができます。
 ただ、消費者紛争というのは、端的に申し上げれば消費者が陥っている状態から何とかして抜け出したい、その契約から離脱したいというのが主な目的ということになるのですが、消費者契約法はその目的のための法律だとは思うのですけれども、現実の消費者被害の実態から申し上げれば、制約やら不足やらがありまして、消費生活相談の中では必ずしもフルに使いこなせていないというのが現状でございます。非常に残念な状態だと思っております。
 そのこともありましてか、実感レベルではありますが、消費者にも事業者にも消費者契約法という法律が必ずしも浸透していないのではないかと思っております。資料をくっつけましたので56ページをごらんいただきたいのですが、56ページ以下に具体的な事例を26事例挙げております。 4条の取消権の発生する条項について言えば、具体的にはほとんどが事実の評価をめぐって「言った、言わない」の争いになって条文の抽象性というものが問題になるのだと思います。
 それから、そもそも適用範囲・対象が非常に狭いために、実際の被害救済ができないということがありますが、その点については後からお時間を頂戴したときに申し上げようと思います。
 また、9条、10条につきましては、私ども全国消費者相談員協会は適格消費者団体でもありますので差止請求を行うのですが、事例の15というのが58ページに載っていますのでちょっとごらんいただければと思います。例えば美容整形の不当なキャンセル料について差止請求をすると、文書で交渉を重ねた結果、結局事業者側に「キャンセル料については実費相当額としますよ、ただし平均的損害を超えません。」そういう回答をされてしまいました。もともと平均的損害という概念が非常に問題で、さらに立証の問題があるのですけれども、何よりもキャンセル料規定がこういう規定になってしまうと、消費者側としてはキャンセルすれば幾ら取られるかは事前にわからないことになりました。3条1項が非常に役に立ってないこともわかりますが。
 当事者としては、ある意味、切歯扼腕をしたのですけれども、いたし方ないということで落着をしたケースがあります。実は同じようなことが、結婚式場とか調査会社への申し入れでも起きています。
 消費者契約法にある平均的損害概念というものが問題なのではないかということも含めまして、ほかにいっぱい例がございますが、本来もっと早く見直されるはずだった消費者契約法について申し上げれば、私どもの立場からは、これは待ったなしでやっていただきたいと考えております。
 以上でございます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 続いて、北村さんは弁護士としていろいろな形で消費者トラブルにも携わっておられるわけですけれども、今日、裁判例も相当集積をされていることも踏まえた上で、見直しの必要性といいますか、どういうふうに感じておられるのか、お願いいたします。

○北村弁護士 施行から10年以上経過しまして、裁判例のほうも学納金返還訴訟判決などがありましたけれども、かなり集積されていまして、契約法は一定の成果を上げているというふうに見てよいとは思っています。しかし、これで十分ということではなくて、見直し、民事ルールの充実のための改正が必要であろうと思います。
 契約法の成果の面を言いますと、この法律は、制定のころは内容が後退していって限定的な内容となってしまったということから、救済に使えないのではないか、かえってマイナスになるのではないかという声もあったところですけれども、裁判実務などで活用されて、今では極めて重要な法律になっていると見ていいと思っています。それには1条の格差を明記した目的規定の役割が大きいと思います。これまでも何度か御指摘があったとおりですけれども、その趣旨が踏まえられました、よい裁判例も多数出されてきたところではあります。
 しかし、やはりまだ十分ではない。解釈にも限界がある。もともと限定された内容であったということはもちろんありますけれども、裁判例でも最高裁判決が平成23年に幾つか出されましたが、問題があるのではないかという判決が出されたということもありますし、何とか救済しないといけないケース、高齢者が老後の財産を奪われてしまったという被害などがありますけれども、そういった救済しないといけないと思うケースにおきまして、現行の契約法では十分対応できないということがありますので、契約法改正によって立法的対応を考えることが必要であると考えています。
 日弁連のほうでは、あるべき改正内容の提言、必要な民事ルールの提言ということで、2012年2月、消費者契約法の日弁連の改正試案を公表しました。配付資料に、その冒頭文と条文の部分を入れてもらっています。条文の後に解説する部分があるのですけれども、これは100ページを超えますので入れていませんが、こういうものを公表しました。中身につきましては、この後、御指示がありました範囲で御紹介させていただくということで、見直しの必要性について感じているところは以上ということになります。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 それでは、佐成さん、事業者、経済界の立場からの御意見ということで発言をいただけますか。

○佐成東京ガス株式会社総務部法務室長 私はガス屋でございますので、事業者、経済界を代表するようなものではないので、ある意味では私見ということになるかもしれません。また、私は家に帰れば当然消費者でございますから、消費者の立場もあるということでございますが、一応事業者サイドで見たらどうか、そういった意味で本日は発言させていただこうと思います。
 今、両パネリストの方からもありましたけれども、消費者契約法は、これまで10年の実績がかなりあって、効果的に運用されてきたというところは我々事業者にとってもそうだろうと思います。多分、かなり効果的に運用されてきたというのは、格差の部分についてかなり是正がされてきたということだろうと思います。
 他方、悪質な事業者というのはどの世の中、どんな時代にも必ずいる。そういったものを公正な市場から排除していくという意味で、悪質業者を徹底的に撲滅していくためのルールづくりというものは必要ではないかと私も感じております。当然のことでございますけれども、そういったことをやっていくためには、やはり具体的な立法事実、つまりパネリストの方あるいは基調講演のところでもございましたし、特に丹野さんのところではリストで事例を御紹介されておりましたけれども、やはりそういった具体的な立法事実に基づいて十分議論を深めていただきたい。その上で、今も現行法が非常に有効に作用している面があるのだけれども、それでも抜け落ちてしまう部分を具体的に深く議論していただいて、詰めていただくということが大事かなと感じております。
 ただ、それだけでは問題があると思いまして、一言申し上げれば、やはり健全な事業者の活動を萎縮させないという視点もかなり重要だろうと思っております。単に事業者、消費者というものを二項対立で考えてしまうということは必ずしも適切ではないというふうに事業者の立場でも感じておりまして、やはりぜひウイン・ウインの関係を築くということで、今回見直し議論が行われておりますので、その中で、ぜひそのウイン・ウインの関係を築けるように、前向きに、積極的に議論を深めていただければと思います。
 以上でございます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 そんなことは要らないというふうに言われなくて安心しました。もちろんウイン・ウインの関係になることが理想ですので、その方向で頑張りたいと思いますけれども、いずれにしてもある程度見直しをやっていくことは必要なのだということで、ディスカッションを進めてまいります。
 続きまして2つ目の論点です。債権法のところですが、民法の改正が進行しているわけですけれども、その民法改正と消費者契約法の関係について少し考えてみたいと思います。
 きょうは筒井さんにもお越しいただいています。現在、民法改正に向けて法制審議会でいろいろな審議が急ピッチで行われているということでありますが、民法の中に消費者概念も入れてはどうかという提案あるいは消費者契約関係の規律を導入、それには民法に一般化していくというやり方と、消費者契約に特有のルールを統合して民法の中に入れるという幾つかのタイプのものがあるわけですけれども、この問題について、現在の部会での検討状況を少しお話しいただければと思います。

○筒井法務省大臣官房参事官 法務省の筒井でございます。
 現在、法制審議会では債権法を中心とする民法改正について審議中であり、私はその現場の責任者を務めている者でございます。河上委員長から御紹介がありましたように、現在の民法改正は、審議の開始から3年余りを経て、今月、平成25年2月末を目途として、中間試案の取りまとめを行うという方向で審議が進められております。
 この民法改正におきましては、民法の代表的な適用場面の1つは、言うまでもなく消費者契約であるわけですから、民法の規定を見直すに当たっては、ある規定が消費者契約に適用された場合に支障が生じないかどうかということについて十分留意しながらここまで検討を進めてきたつもりでございます。
 その中で、消費者あるいは消費者契約という概念を使った、適用範囲の限定された特別な規定を民法に置くのかどうかということも、一つの論点となっておりました。
 この点に関しては、まだ中間試案の取りまとめに向けた具体的な審議がそこまで到達しておりませんので、そこに至る前の直近の部会における検討結果を御紹介いたします。配付資料の通し番号64ページをごらんいただきますと、ここに「第4 消費者・事業者に関する規定」の1として「消費者に関する規定」という項目が取り上げられております。
 これまでの法制審議会の議論の中では、抽象的に民法に消費者に関する規定を設けることがよいのかどうかという問題を設定して議論をするのは必ずしも建設的ではないだろうということで、個別に、消費者に関する規定、消費者契約に関する特則を設ける必要があるかどうかといった観点から議論が進められてまいりました。
 その中では、例えば消滅時効に関して、当事者の合意によって時効期間を変更することができるというルールを設けるとした場合に、そのルールについては消費者に不利な方向で、つまり事業者の債権の時効期間を延長する方向での変更は無効とするという形で、消費者契約の特則を設けるかどうかといったことが審議の対象とされてまいりました。
 しかしながら、例として紹介いたしました消滅時効に関する時効期間の合意による変更については、その規律そのものが、現在、中間試案に向けた審議の中では取り上げない方向の論点として整理されつつあります関係で、消費者に関する特則も必要がなくなる方向であります。こういった議論の経緯などにより、現時点では個別の消費者契約の特則に関して論点として残っているものは少なくなってきております。まだ中間試案の審議の途中ですので、断定的なことを申し上げるには差し控えたいと思いますけれども、個別の検討項目として中間試案に残るものは、全くないか、あるいはそれほど多くはない方向に向かっているのではないかと思います。
 他方、先ほどごらんいただきました配付資料の64ページ「1 消費者に関する規定」の(1)というところでは、個別の規定とは別に、消費者契約を始めとする情報交渉力の格差がある当事者間で締結される契約に関しては、格差の存在に留意して民法を解釈しなければいけないといった規定を設けるかどうかということが論点として取り上げられております。こういった総論的な規定を民法に設けるかどうかということについては、これからの審議次第ですけれども、中間試案に盛り込まれる可能性はまだ残っているように思います。
 現在の審議の状況としては、このように進んでおりますので、御紹介させていただきました。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 先ほどの消費者契約を始めとする交渉力の格差云々というところを具体化していくと、例えば小規模の個人事業者なども射程に入るという構想になるわけですか。

○筒井法務省大臣官房参事官 交渉力等において格差がある当事者間については、消費者と事業者の間だけでなく、小規模な事業者との関係でも適用されることを念頭に、このような提案が検討されているということでございます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 続いて北村さん、この民法改正に関しては日弁連からも意見を出されているということですけれども、弁護士会の立場といいますか、弁護士の立場からはどういうふうに考えられますか。

○北村弁護士 日弁連の意見書の状況ですけれども、民法への統合化ということにつきましては、既に日弁連は反対の意見を公表しています。
 それから、中間論点整理で論点設定されていました消費者保護規定につきまして、基本的に立法化賛成という意見書を既に公表しています。また、中間試案に向けてのものは、中間試案が正式に出されましたら日弁連のほうから意見書が公表される予定ですけれども、私のほうから申し上げたいのは、民法改正作業と契約法改正作業の関係についてですが、消費者基本計画でも指摘されていますとおり、連携が必要であろうと思います。それは、ある規定が民法改正で変わることになった、なりそうだという場合に、消費者に関する必要な手当てがなされないですとか、必要な消費者の民事ルールが民法にも契約法にも入れられないということになってはいけないのではないかということです。
 それで、民法改正議論のほうが相当なスピードで進められてきましたけれども、日弁連のほうでは平成23年11月に意見書、実体法規定の見直し作業の早期着手を求める意見書というものを出しました。ここでは、消費者庁に対して見直し作業を直ちに開始していただきたい、国民生活局で開始されていて、消費者庁設置問題で中断されてしまいました作業を再開していただきたいということと、それだけではなく、法務省と消費者庁に対して、相互の連携と協力のもと、民法の見直し作業と契約法の見直し作業を同時並行で進めることも求めるというふうに指摘しています。
 消費者庁のほうでは、今、集団的消費者被害回復訴訟制度のほうで当面大変ということは私のほうも十分理解しているのですけれども、消費者庁のほうもやらないとは言われてはいないのですが、しかるべきタイミングで具体的作業に着手していただきたいと思います。
 以上です。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 また後で堀井さんにもお聞きしたいと思いますが、民法の中での消費者法ということに関して、経済界からも一定の意見が出されていると言われています。佐成さん、経済界の立場としてはどういうふうにお考えでしょう。

○佐成東京ガス株式会社総務部法務室長 私、民法改正のほうの部会の委員をさせていただいておりますが、学者の先生方が非常に多くて理論的なお話ばかりで、私はユーザー委員というふうに呼ばれておりまして、しかも、事業者の立場ということで出ておりますものですから非常に評判が悪いというか、意見も余り賛同されない傾向でございます。そういう意味では、部会では消費者に対する熱いまなざしといいますか、温かい議論はなされているということだろうと思います。ただ、やはり弁護士会のほうも、消費者法の民法への統合というのはかなり難しいのではないかという御意見を持っているのと同様に、経済界のほうもそれは難しいのではないのかという意見が大勢という感じがいたします。それで私も部会ではそういう発言をしておりまして、先ほど筒井さんのほうからもありましたけれども、現在は、そういう総則的な規定を置くべきかどうかというところがかなり焦点になってきておりまして、個別規定よりもむしろそちらのほうにかなり力点が置かれてきておりますが、そもそも消費者と事業者という概念で分節化をしてしまうこと自体が、やはり民法の性格をかなり変えてしまうのではないかということが感じられます。
 私が疑問を感じるのは特に3つの面でございまして、1つは、やはり民法というのは、近代市民革命によって生み出された1つの歴史的な財産であるわけで、そこで人という普遍的な概念を入れたということの歴史的な重みです。身分関係といいますか、そういったものを完全に撤廃して普遍的な人という概念を入れたこと、多分これは現代においてもかなり重要な価値ではないかというふうに私は感じております。ですから、それを安易に分節化するということについては、私は心理的な抵抗を感じております。
 もう一つは、先ほどもちょっと二項対立的な概念を入れるのは余り適切ではないのではないかと申し上げました。やはりウイン・ウインの関係を築くということであれば、余りぎらぎらした対立的な概念を持ち込んでしまうということが本当にいいのかという面もございます。
 もう一つは、抽象的な人概念を入れていることによって、民法は指標として機能しているのだろうと思います。抽象的な人たち、つまり対等な立場の人たちが普通に取引をしたらどんな状態がつくり出せるのか、これが指標となって過去100年の民法の歴史の中で実績として積み重ねたものでございますから、やはり消費者、事業者の格差の是正のためであれば、そのための特別法に基づいて、機動的・柔軟に具体的立法事実に基づいて適切に対処していくのが一番望ましいのではないだろうかということが、経済界として感じているところでございます。
 以上でございます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 皆様、御存じかどうかわかりませんけれども、民法の規定は1,044条まであるのですけれども、あの中に女とか男という言葉さえ入ってないのですね。民法典は人間の中の一番大きな分節である性別さえ入れることを拒んでいる。そういうことによって、逆に多様なものを守っているという意味合いがあるということは確かです。ただ、いずれにせよ民法の基本にある人間は「自然人」ということになって、その自然人の社会生活とか日常生活は基本的に消費者としての行動だということになると、民法ルールというものは本来的に消費者の利益にもきちんと配慮した形であるべきだということにはなろうかと思います。
 民法と消費者法との関係について、まだまだこれから検討しないといけない大きな問題ですけれども、余りこれにコミットしているわけにもいきませんので、それと少し離れたところで、約款規制の問題についてお伺いしたいと思います。約款の問題というのは、実は消費者取引、事業者間取引に限らず出てくるべき問題です。
 先ほど沖野報告の中で約款の問題を扱われたわけですが、民法改正で問題とされている約款適正化と消費者契約法との関係をどう考えればいいかということなのですけれども、基調報告をなさった沖野さんのほうから、ここがポイントですよというところがあったら少しかみ砕いてお話しいただければありがたく思います。

○沖野教授 報告をさせていただいた点でもありますので、やや繰り返しになりますけれども、お許しください。約款という場合には事業者間の約款も大きな領域ですので、消費者契約とはかなり対象が違ってきます。それも含めて一般的に約款であり、あらかじめ多数の取引に適用されることを想定して定型化された、しかも一方的に策定された契約条件というものを契約法の中でどのように位置づけていくのか。一方では、その拘束力の根拠をどう考えていくのか。あるいはそこにある問題点として、隠蔽効果であるとか不当な条項の適正化の問題というのが、約款一般にあるわけですけれども、これらの状況は、消費者契約においてはまさに先鋭化してくるところです。消費者契約法は約款という規律こそ設けておりません。不当条項規制という現状ですけれども、委員長が冒頭でおっしゃったように隠れた約款規制ではないかと言われるように、約款の問題というものは消費者契約における条項の問題としてオーバーラップしてくることは確かです。
 ただ、そうはいいましても、消費者契約においては、これまでに強調されております構造的な格差、情報の質や量、交渉力の格差ということを正面から見据えて規律をしていくということですので、おのずと約款とは違ってくる規制の根拠や考え方があるわけで、消費者契約法の側から見ますと、規制の根拠に重複する部分と、それだけではない部分があるということになるかと思います。
 規律内容という点に目を向けますと、約款規制は消費者契約にかかわらず約款一般を対象とするものですので、消費者契約の場合を、約款規制との比較という観点からみますと、消費者契約については、約款かどうかを問わず、同様の規律が該当すると考えるべきではないかということをいわば上乗せして検討していく必要があり、規律といたしましても、一方で民法に約款規制が設けられるならば、それをにらみながら消費者契約であったときにそれに上乗せする部分があるのか、あるいは消費者契約の場合は約款ということでなく切り出すのかということをそれぞれ考えていく必要があります。具体的な話は報告のところで少しお話しさせていただいたように、今まで約款規制というと、特に河上委員長を代表的な論者とする約款法理というのは、3点セットといいますか、採用ないし組入と解釈と不当条項規制というのが一貫した形で希薄な意思ということを根拠に展開されてきたわけですけれども、その規律というものが必ずそれと3点セットでないといけないのかということは考えてみる必要があるのだと思います。
 もう一つ補足させていただきますと、他の法理、例えば情報提供ということも非常に重要で、契約の重要な条件については約款という形で開示すれば足りるということではなくて、まさに意思決定に重要なものというのは別途情報提供あるいは説明の対象になってくるということがありますから、約款規制と言われる問題あるいは規律の内容とともに、他の規律との関係というのもあわせて検討していく必要があると思われまして、そういう他の規律も、民法の中でどうなるのかということを見ながら考えていく必要があるのだと思います。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 沖野さんの報告の中で、約款という言葉は使わないのだけれども、個別交渉を経ていない合意という言葉で表現をしてルールを定めてはどうかという御指摘が出たかと思うのですが、個別交渉を経ていない合意というのと約款というのはどういう関係にあるという御認識なのですか。

○沖野教授 その考え方自体が、また1つの理解が分かれるところだと思うのですけれども、約款そのものはあらかじめ定型化されており、基本的には個別交渉を経ない条項であり、逆に個別交渉を経るようなものがあったとしますと、それは約款から除外されるということになりますから、そこはオーバーラップしてくるのだと思います。
 そうしますと、1つは視点の違いでして、各条項単位で考えていくのか、それとも契約条件の総体という形で捉えていくのか、また、総体として捉えたときには、一般的には中核となる合意の部分と周辺的な条項の部分という形で、契約全体の把握を2段階構成にしていくという構想の仕方に特色が見出されます。それから、約款という捉え方は、一方で多数の契約に適用されることが想定されているという意味では、多数性とか大量性というのを相当前面に打ち出すことになると思われます。そうしますと、例えば客観的に見て、平均的にこの契約条項あるいはこういうブロックでの契約条件で契約をするということが想定されている平均的顧客というのは、約款からは出やすいと思いますけれども、個別交渉を経ていない条項ということからはやや難しい面もあるように思われます。
 もう一つは、今回の報告対象とはいたしませんでしたけれども、約款というと不当なものを適正化するということだけではなくて、現在約款による取引は非常に有用な取引として展開しておりますので、それのきちんとした基礎を与えることを考えるときに、例えば大量の取引ですと、仮に有用な変更、例えば法律の変更によってこの部分を手当てしたほうがいいとか、社会情勢の変化によって、むしろ望ましいあり方だけれども、契約の変更であれば本来個別の同意をとらなければいけないところ、多数、大量の取引であるならば、もう少し違う変更のあり方というのを考えてもいいのではないか。多数、大量の取引というものに対処するためには、交渉されていない条項という捉え方よりも約款のほうがなじむという面があります。このように、多分に問題の把握の仕方や考え方という点での違いがあるのではないかと思います。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 実は会場からの御質問も、約款に関してのものが多いのです。もうちょっとだけおつき合いいただきたいのですけれども、例えば約款の拘束力を認めるときには開示というのが必要になる。開示のあり方は確かに非常に重要な問題ですけれども、例えばほかの冊子とか、文書とか、内規に規定された条件に従うという条項で合意するとします。その内容は条項自体からは読み取れないということになります。生命保険でも、後から送ってこられる冊子の中に入っているとか、事務所の奥のほうに張ってある条件とか、いろいろなものがある。そういう契約自体から内容がわからないものの規定の効力というのは、今後約款の議論が入ってきたときに、民法の原則としてどういうふうに扱われることになるのだろうか。今、実務で実際に慣行的に利用されている形態が結構あるので、そのあたりの開示のあり方について今後どういうことを問題にしていくことになるのだろうかという御質問が1点。
 それから、もう一点は、不当条項規制と開示規制の消極的要件として議論された不意打ち条項禁止という関係、これは両立するものなのか、それともそれぞれ仕分けして、これは不意打ちで落ちるもの、これは不当条項で落ちるものというふうにきれいに分けられるのかどうか、そのあたりの説明を少しいただければと思います。

○沖野教授 最初の開示の話ですけれども、開示のあり方というのは具体的に非常に悩ましいのだと思います。今、委員長から幾つかの例が出ましたけれども、代表的な取引ですと保険契約などで、今はそういうことが大分なくなってきているようですが、後から約款が送られてくるということもあるとのことです。ただ、私は開示の要請に関しては、保険約款であれば比較的問題が少ないと思っておりまして、と申しますのは、海外旅行のときの傷害保険などは急いでということがありますけれども、例えば生命保険ですと、ある程度じっくり時間をかけて最終的に意思を決定していくわけですから、その間に重要事項については契約条件も含めて説明されますし、約款について見る機会を確保することも可能です。ここでの問題は、しかし、大量のものを最初の時点でどんと送るということを全員にやるのは、例えばコスト面などで問題があるという話なのだと思うのです。
 それに対して、バスに乗るということは約款による合意すらも本当にとれるのかという問題がありまして、バス停のところに何々約款によりますと掲示すればいいのではないかということですけれども、バス停の時刻表を見たらそこに書いてあるとか、そういうものは本当に擬制的な感じがするわけです。そういう旅客運送契約ですけれども、この取引の重要性というのは疑いなく社会的にも必須な取引ですので、こういうものについてどう考えるかという問題があるのだろうと思います。
 そのほかで挙げられる例ですと、例えばコンビニから宅配便を出す場合に、一々約款の開示を受けて幾つかの業者を見比べながらやるのかというと、これもなかなか期待できないということがあります。そうしますと、約款の開示ということが非常に重要であることは確かだし、保険の場合は幾つかの選択可能性がありますので、特に着目した条件をあらかじめ見る機会が与えられるとか、あるいはそもそもそれは商品ですので、商品を見ないで買うのかということもあるのだと思います。だけれども、そういうことが期待できない、あるいはむしろより迅速、簡易に契約締結ができたほうが望ましいというものもありますので、そうだとすると何段階かに分けて考える必要があるのではないかと思います。
 そうしたときのあり方としては、本当に最低限という内容を一般的な形で定めてあとは解釈に委ねていくのか、それとも基本は直ちに見られるようにしつつ、しかし、例外として幾つかの類型を設けるのか。開示が困難であるとか、期待できないとか、それから、報告の中では意思以外の基礎づけということもどうしても考えなければいけない類型というものがあるのではないかということを抽象的に申し上げましたけれども、やはりそういうものがあるのではないかと思います。
 そうしますと、それを組み合わせていくようなことが考えられるのではないか。幾つかの類型で分けていく必要があるのではないか。それをうまく規律化するのが望ましいと思うのですけれども、定式が難しいとしますと、ある程度の抽象性を持たせた規律にした上で解釈に委ねるということもあるだろうと思います。
開示に関しては、有用な取引をおよそ禁止的にするような規律というのは望ましくないわけですので、その点はまさに重要な問題であると認識しております。
 2つ目の不意打ち条項規制ですが、これは立法例もさまざまございますので、報告では、やや私見に近いところを述べてしまったかもしれませんけれども、約款の採用ということを言うと、開示さえすれば全部についてそれによるという意思が常に形成されるのかというと、その意思によって入ってくるものだけが入ってくるはずです。そして、基本的には全部入ってくるけれども、異常なものは排除されるべきだろうという形で考えられる面があります。
 他方で、条項の錯誤と言われるような問題もございまして、個別の事情等によっては、これまでは違うことを考えていた、あるいは違う期待が形成されたということも、その特定の条項にそのまま拘束力を持たせるのかという問題になってまいります。一般的・客観的に見てどういうふうになるかという問題と、個別の理解力ですとか交渉等によって範囲から除外されていくだろうものもあります。
 さらには、その範囲から除外されるだけではなくて、条項の重要性の度合いですとか、それについての情報提供の具合によっては、それらが内容面と相関的になって、最終的に拘束力を排除されるということもあるのだろうと思います。
 これまで不意打ち条項という名前のもとでいろいろなものが盛り込まれてきた、あるいはいろいろな議論がされていた。でも、最終的に拘束力を否定するために不意打ちですねということで片づけた面もあるのではないかと思います。それが不意打ち条項をめぐる議論を非常に不透明にしていますので、それぞれの適用の範囲といいますか、何に基礎を置いてどのような効果と連動させて不意打ちを語っていたのか、あるいはいくのかを明らかにするべきだろうと思います。
 不意打ち条項について、約款の開示と合わさって、あるいは採用要件と合わさって、そもそもそこまでは最初から入ってきてないのですというタイプで切り出していくものと、不当条項の中で効力を否定していくということが両立し得るのか、仕分けされ得るのかということですけれども、それは仕分けが可能ではないかと私自身は考えておりますが、立法のあり方としては、言わば手続的な瑕疵として条項無効を導くというやり方もありますので、具体的な技術といいますか、手法というものも選択の余地が残されているのだろうと思います。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 民法で例文解釈というものがあるのですけれども、まさに例文だから当事者は合意してないという見方をする場合と、例文だと言いながら内容が悪いということで落としてしまうという両方が解釈の中にあるのですけれども、ここには同じ問題がひそんでいるということなのだろうと思います。
 実は法制審議会の中でも約款規制の問題が議論されているということですけれども、筒井さんはこれをどう見ておられますか。

○筒井法務省大臣官房参事官 現在、法制審議会での民法改正の議論の中でも、この約款に関する規定を設けるかどうかということが取り上げられております。具体的には、約款がどのような場合に契約内容となるのか。これを法制審の部会資料では組入要件と呼んでおりますけれども、この組入要件をめぐる議論があります。また、不意打ち条項や、不当条項規制に関する議論も進められています。いずれを取り上げても大いに意見の対立があり、現状としては、今後の合意形成がなかなか容易ではない論点であると言えるのではないかと思います。
 ただ、そうはいいましても、今日の取引の中で、先ほどの沖野報告の中でも出てまいりましたけれども、約款を用いた取引の重要性が大変高まっている中で、その約款が契約内容となる根拠について疑義があり得る状態というのは、決して望ましいことではないと思います。19世紀末につくられた民法を今日、21世紀に見直すに当たって、約款に関する規定が民法の中に設けられないという事態は決して望ましいことではないと私は思っておりますので、この点については、根強い意見の対立があるとしても粘り強く、さらに言えば不退転の決意を持って、民法の中に規定を設けることができるように努力していきたいと私は考えております。
 ただ、その際、約款に基づく取引というのは、現在の取引社会の中で現実に極めて多数行われているということについて、十分な考慮が必要であると考えております。先ほど来、河上委員長と沖野先生との間のお話の中でも出てきたことですけれども、やはり実情としてどのような約款の開示が行われているのかを十分に踏まえ、その実務に一定の合理性があるとすれば、それを踏まえた組入要件を検討していく必要があるだろうと考えております。また、その組入要件における開示について、それが契約内容を知る機会を与えるという重要な意義があるとしても、そのことに過大な役割を負わせることによって、分厚い契約書が事前に渡されるといったことだけが形式的に行われたとしても、それは決して消費者の利益にならず、意味がないわけでありまして、その点では説明義務など、その周辺にあることとの関係に十分留意して検討を進めていく必要があるのではないかと私は考えております。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 約款取引に安定したルールを策定するというのが現在においては非常に重要だということで、不退転の決意という非常に力強い発言をうれしくうかがいましたけれども、約款取引の合理化効果というものは、それはそれで大事にするということも必要でありますし、消費者契約との関係で言うと、やはり微妙に介入の根拠であるとか適正化の趣旨と異なる面もありますので、立法府としてそれぞれの役割分担というものを慎重に考えていく必要があるだろうと思います。
 駆け足で進んで恐縮ですが、続いて第3番目の論点であります。契約締結過程の規律に関する問題で、丸山さんに報告をいただいたところです。これには問題にすべき点が非常に多いのですけれども、まずは丹野さんにお伺いいたします。消費者からの不当勧誘に関する相談事例などから、これは重要だと感ずるような点がございましたら、御指摘いただければと思います。

○丹野全国消費生活相談員協会理事長 丸山先生から御報告いただいた部分で随分詳細に御紹介いただいていますが、私のほうも56ページ以下をごらんいただければと思います。
 今、消費生活相談で非常に多いものから順番に申し上げますと、インターネットをめぐるトラブルが断然多いですね。その次に高齢者の財産被害が多いということをご念頭に置いてこれをごらんいただくとありがたいのですが、例えば56ページ目に出ていますのは不実告知の話ですが、消費生活相談で契約締結過程の規律として一番使っているのは、この不実告知のところでございます。我々の用語で虚偽説明と言います。
 マル2の事例は訂正をさせていただくと、ネットでドロップシッピングの広告を見つけ資料請求したら、担当者から「電話があり」というのが抜けております。広告だけで入ったのではなくて、担当者からの電話があって入ってしまったという話なのです。この事例を読むことは割愛させていただきますけれども、要は非常にうまいことを言って契約させる手口でございます。そういうものがたくさんある。
 実際にないことを言われて契約をしてしまったということなのですが、右側に「問題点等」があります。そこのマル2、マル3をごらんいただきますとわかりますように、非常にたくさんあるのですが、結局ほとんどは言った言わないの問題に帰着してしまうという意味では、その当てはめをめぐって、言った相手の当の事業者である人たちに、あなたたちはこういうことを言ったと消費者は言っていますよと言って、そんなことは言いませんという言い合いをするということがあって、これを事業者に認めさせないといけないわけで、これはなかなか難しいものがあるというのをまず御理解をいただきたいと思います。
 それから、マル4、マル5の事例にありますように、うそを言っているのだけれども、その当該の商品についてのうそではなくて、あくまでその商品を購入する動機づけになる部分のうその場合は消費者契約法は該当しないとされていて、特商法では既にカバーされている部分ですから、やはり消費者契約法では穴があるのだということになると思います。消費者契約法では解決が困難だということになります。
 めくっていただいて57ページに移りますが、次には断定的判断の提供ですが、既に御報告の中にありましたように、裁判等では克服されているというふうに聞きますけれども、エステで必ず痩せますよとか、学習教材で必ず成績が上がりますよみたいなものは、財産上の利得ではないということで使えないというふうに私どもは言われていますので、そこもなかなか難しいということになります。
 それから、不利益事実の不告知のところの例もそうですが、条文の中に「故意」というものがありますので、実際に裁判例の中では事業者が知っていればいいという判決もあると伺っていますけれども、相談の現場の中で故意ではないというふうに正面から言われたら、やはり使いにくくございまして、実際にこれを使った例というのは非常に少なくなっております。
 それから、マル9、マル10にありますけれども、退去妨害を見ていただければと思います。退去妨害のときの事例も、投資用マンションで非常にしつこくしつこく言ってくるから断るために喫茶店へ行って、長時間断って、最後に断ろうとしたら「何を言っている」ということを言われて、結局どうしようもなくなって契約してしまった事例も、事業者と交渉をすると、心理的にも事実上も退去妨害にほかならないのに、喫茶店だから帰れたでしょうということを言って退去妨害を認めない事例が多くございますし、その次のサークルの先輩が圧力をかけるみたいな話も、いわゆる状況の濫用だと思いますけれども、これもなかなか適用が難しいということになります。
 それから、めくっていただいて61ページですが、消費者契約法は勧誘に際してということになっていますので、例えばネット広告。先ほど詳細なネット広告の御説明がございましたが、広告とは言いながら、要はその人に向かって勧誘しているのと何ら変わらないような方法の広告が実際にあり被害がたくさんあるのですが、結局はそれも使えないということになる。
 それから、消費者概念の問題もありますし、最後の26番目の事例をごらんいただくと一人暮らしの母が、数年前からわけのわからないファンドを多数契約し、絵画や布団も契約しているらしい。とにかく家に来ないようにしてもらいたいという御家族の悲鳴のような相談があるのですけれども、これも非常に深刻ではありますが、そこの問題点に書いてあるように、適合性の原則ではカバーできないので、一定の客観要件を設けて不招請勧誘規制を導入するというのが効果的だと我々現場の人間は思っています。それに対しても検討していただきたいのが実情だということを御報告申し上げます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 要件を充足するための事実レベルでの立証とか、あるいは当てはめのところでの問題が非常にあって、使い勝手があまりよくないという御趣旨かと思うのですけれども、こういう契約締結過程の規律を考えるに当たって、この点は留意していく必要があるというポイントについて、沖野さんから少し説明をいただければと思います。

○沖野教授 根本に立ち返ってということで考えてみますと、契約締結過程の規律は何を狙っているのかということです。消費者契約において消費者を拘束するのはなぜかというと、まさにそれは自分がそういう契約をしたからなのですけれども、民法の一般則から言いましても、十分な判断力のある者が十分な情報に基づき、不当な働きかけによらずに自由にした意思決定だからこそ契約が拘束する。ところが、消費者契約の場合には、まさに構造的な格差ということから、この部分では十分に対応されない。そのような事情に照らして、契約締結過程において意思決定のゆがみがあるときに離脱の道を認めている。さらに、事業者の不当な働きかけや不当な勧誘によって意思決定のゆがみがあるときには、拘束力から解放されるという形で、契約締結における、なぜその契約を締結して拘束されるのかというところの基礎を提供しているのだと思います。
 ところが、現行法では、基礎の提供の分野が非常に限定的であるということがあり、それが非常に問題になっているということだと思います。具体的な内容は既に御報告があり、また、丹野さんからも個別に御指摘をいただいたところですけれども、誤認と困惑に着目した規律となっていて、とりわけ理解力ですとか、あるいは耐性といいますか、適合性で問題になるようなその取引に十分耐えられるのかといったところは必ずしも取り込まれていないということがあります。また、現行法の規律は、意思表示をして契約をしたのだけれどもその基礎が十全ではないときに、そこから解放されていくという規律ですが、一方で、取引行為の適正化ということを考えますと、取消しという形での契約からの解放とは別に損害賠償のような規律もあわせて考えられる必要があるところ、これも抜けているということがあります。
 冒頭に野々山先生から、受け皿規定が不在であるという御指摘がありました。不当条項についての規律は、個別の不当条項の規律が寂しい、薄いものであっても一般条項が置かれた上で、個別に問題となるものが幾つか置かれているのに対し、契約締結過程については本当に個別にピンポイントの規律だけがあって、あとは民法に委ねられています。例えば民法の公序良俗の展開ですとか、あるいは不法行為規定の展開で対応しているところはあるのですけれども、それであると予測可能性という点でも十分ではないということがありますので、もう少し手厚くすることが双方の当事者にとっても望ましいことなのだろうと思います。
 時間をとって恐縮なのですけれども、もう3点申し上げたいのですが、消費者契約法は、現行法は個別契約における取り消しとともに団体訴訟の対象ともしておりますので、この両面から適正化を図るということをやっているわけで、それぞれの観点から適切なのかということを考えていく必要があると思われます。
 例えば冒頭の委員長のお話の中で、また、第一部の御報告の中でありましたように、規律の仕方として、現行法は、不当な勧誘行為に意思決定のゆがみというものをセットにした形になっているのですが、これを切り分けることによって適切な勧誘行為を確保していく。不適切な勧誘行為に対しては損害賠償とともに差止め等を求めていく形での規律も考えられてくるところですので、それとの対応でも考えていく必要があるでしょう。
 もう一つは、消費者契約法は決して独立した法ではなく、これも既に指摘されましたように中二階の法律です。広くは民法が基本的なところを支え、個別には特商法や割賦販売法や各種の規律が対応しているわけですけれども、この3階建ての中で消費者契約法はどういうことを担っていくべきかという観点があります。消費者契約法は生まれて12年ですが、割合育てられてこなかった。だけれども、ほかの法律は頑張っているみたいなところがございまして、丹野さんから御指摘のあった、例えば重要事項の不実告知につきましては、消費者契約法の解釈としても、研究者の中ではもうちょっと広く読めるという考え方もあるのですけれども、立案担当者の説明なども強いところがありまして難しいというのもよくわかるところです。
 一方、特商法のほうでは、既に訪問販売などを見ますと動機部分に当たるような契約締結を必要とする事情に係る事項というのは、既に不実告知の対象となっております。契約に関する事項であって、顧客等の判断に影響を及ぼすことになる重要なものという形で、より広げられた形で書かれている。これは消費者契約法の制定の際にはそうではなかった、その後広げられていったわけですが、これが訪問販売だからなのかというと、やはりそのような契約締結の態様に限られない事項であって、消費者契約法が一般法として受けるべきではないか。こういうでこぼこが出てきていますので、それが整合的なのかということから改めて考えてみる必要があるのだろうと思います。
 最後に、もう一つは、勧誘ということで限定されている契約締結過程に対する規律というものが、消費者契約法の解釈として、研究者のほうでは勧誘の中に広告が当然に入らないとはむしろ考えていないわけなのですけれども、立案担当者解説などがそういうふうに書かれているものですから、限定されないはずなのですけれども、縛りになっている。そもそも勧誘に際しということが必要なのかという問題もあり、そういった規律の対象の捉え方、― ― もちろんインターネット取引などが新しい手法ということもありますけれども ― ―、その点も考えていく必要があるだろうと思います。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 今の話と少し関係してくるのですけれども、不実告知の問題は、民法の中で取り込むことがかなり大きな議論になってきているわけですが、この問題については筒井さんにお伺いしたいのですけれども、不実表示を民法の中でどういうふうに扱うかについて、今の法制審での議論の状況を御紹介いただければと思います。

○筒井法務省大臣官房参事官 不実表示に関しましては、法制審議会における議論が始まる前に、学者グループからの立法提案などが公表されていたときには、消費者契約法にある不実告知の規定の一般法化といった文脈で議論が紹介されていたと思います。
 しかし、法制審議会が始まって以降は、法制審議会への諮問において民法を国民にわかりやすいものとするという目標が掲げられ、そのことの中身として、これまで我が国の110年の民法の運用実績の中で形成されてきた判例法理その他のルールを適切に条文化していくべきではないかということが議論されてまいりました。そういった文脈の中で、不実表示につきましても、動機の錯誤の1つの類型として、そういった法理が日本の裁判実務の中で形成されてきたのではないかという指摘があり、そのような裁判実務の反映として、動機の錯誤の1つのサブルールとして不実表示に関する規定を設けてはどうかということが議論されてまいりました。
 お手元の配付資料ですと通し番号の68ページに、民法95条の錯誤の規定の見直しに関する記述があります。これは中間試案のたたき台として提示された案であります。ここでは、消費者相談の現場でもしばしば参照されることがあると言われている錯誤に関する規定について、現在の判例の到達点などを参照しながら、そのルールを具体的に明文化していくことが試みられています。その中で、錯誤の(1)では、要素の錯誤に関する判例の定式を具体的に書き込むことが提案され、(2)ではいわゆる動機の錯誤に関する判例法理を明文化することが取り上げられております。このうちの(2)のイのところで、表意者の誤った認識が相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるときという要件が提示されておりまして、これがいわゆる不実表示に関する法理を明文化するかどうかという論点を取り上げたものでございます。これについて、現在、中間試案として盛り込むかどうかということが議論されているところです。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 もう一点、広告の話が何度か出てきたわけですけれども、広告についても消費者契約法における勧誘の解釈でどうするかということで、いろいろ議論があるわけですけれども、北村さん、広告について何かお考えがあればお願いします。

○北村弁護士 インターネットを含めまして、表示、広告によるトラブルなどにつきましては、これへの対応というものが重要な課題の1つであるというふうに認識しています。
 この対応につきましては、景表法など、行政規制ですとか、事前規制もあわせて必要と思いますけれども、契約法での消費者個人の民事救済の手段を考えることも必要かと思います。
 現行法では、具体的には前半の報告から挙がっていましたとおり、4条の条文の勧誘のところが問題になるわけですけれども、日弁連改正試案では不特定多数向けの広告であっても、実態としては契約締結の意思形成に影響を与えることがあるのだということで、広く勧誘に含まれるものと解すべきであるという立場をとっています。
 現行法のもとでは、そのように勧誘を広く解すべき、これも当たるということでありますけれども、資料では49ページになりますが、日弁連の改正試案の提案のほうでは、もう解釈の疑義を解消するという見地から条文上明確化するということで、条文の勧誘のところを「勧誘をし、又は消費者を誘引するための手段として行う広告その他の表示をするに際し」としてしまうことを提言しています。
 規定のあり方としましては、ほかに前半の報告でありましたとおり、「勧誘するに際し」という部分は削除してはどうかということも挙げられるところでありますけれども、目指す方向としましては、現在のインターネット、広告によるトラブル被害に対応する民事ルールとするということになるかと思います。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 どうもお待たせしました。堀井さん、今までの意見を踏まえて、何か契約締結過程の規律についての御意見があればお願いいたします。

○堀井消費者庁消費者制度課長 皆さんから非常に厳しい御指摘を受けまして、針のむしろにいるような思いで聞いておりました。
 契約締結過程についてのパーツなのですが、今回初めて出番が回ってきたということで、そこだけではなくて全般にかかわることかもしれませんけれども、これから消費者契約法を見直していく、あるいはそのあり方を考えていくに当たって幾つか必要かなと私が思っている点を、まず初めに御紹介したいと思います。
 まず1点目は、消費者契約法をつくったときと今ではかなり状況が変わっている。社会経済情勢の変化を十分に踏まえた形での見直しを検討するべきであると思っています。
 個人的には、基調報告の中で既に幾つかそのヒントが出ているのではないかと思いますが、例えば高齢化、そしてIT化の進展、こういったことは大きなポイントになってくるのかなというふうには思っています。まずそういうところを踏まえるのが1つ目。
 2つ目としては、消費者契約法の特性といいますか、性格というものを考えたいと思っています。既にきょう、お集まりの皆様方はよく御案内のように、消費者契約法は、この業に対してとか、この取引形態に対してとか、そういうことではなくて、消費者契約であれば、幅広く全体として包括的に適用されるルールであるということがあります。したがいまして、そういう観点で消費者、事業者に対して極めて大きな影響がある。さらに、事業者に対する行為規範という意味合いも持っているというふうに考えています。
 したがって、先ほどからいろいろと伺っていると、キーワードということで使い勝手がいいという言葉が出てきていて、私、これは非常にありがたいなと思うのですが、一方で使い勝手がいいからといって変えても、実際として業を営んでいる事業者の行為規範という部分にも影響が出てくる、そういったことも考えた上でやっていくことは必要というふうに思っています。
 そして3点目、ほかの関係法令の改正とか状況、こういったものを見て消費者契約法のあり方をきっちり考えていくということだと思います。平成12年に法律ができてから、特商法も16年に民事規制が入って、特商法だけで言えば、つい最近、押し買いで不招請勧誘という御紹介がありました。それ以外にもさまざまな法改正がある。
 それで、消費者庁を21年9月につくっていただいて、司令塔という意味合いで消費者関係については総合調整をしたり、あるいは横断的な企画立案をするという役割も担わせていただいています。そういう観点から、12年当時と大きく状況が変わっているので、今、全体としてどういう法律ができていて、どこで何をやっているかというのを見ていく。
 ちょっとこれも議論が外れてしまうかもしれませんが、私たちはこれを打ちたいのだ、これを潰していきたいのだというふうに思ったときに、場合によってそれは民事ルールではなくて、世の中の動きはそれだけ動いていますから、本来の行政規制でやるべきこともあるかもしれない。そういう観点で、いろいろ幅広い視野を持ってやっていくというのを念頭に置いてやっていきたいなというふうには思っています。
 それで、契約締結過程について本当に多岐にわたる御指摘がいろいろありましたが、勧誘に際しという文言あるいは勧誘、あとは表示広告、そういったところについての御指摘でございます。
 やはりそもそも消費者契約法が誤認、困惑というところを取り消し事由ということで捉まえて、民法の特別法ということでつくっているというところから考えたときに、その勧誘というのを考えると、それが不当なものであれば消費者の意思形成がゆがめられているというのは比較的わかりやすいと思うのですが、それが一般的な、例えば表示とかいうことになりますと、全く同じような形で言えるのか。
 ただ、一部の基調報告の中であったように、例えばインターネットの場合に、ほかにも何もその要素がない場合、それで消費者が決めたような場合は違うのではないかとか、本当にいろいろな議論があると思います。そういう形でのいろいろな現場の事実、法律改正をするときに立法事実とか、そういったことで言っていることもありますが、そういうことを積み重ねていってどういうことが必要かというふうに考えていくのかなという気がしております。
 いずれにしても、非常に勉強になる御報告で、参考にさせていただきたいと思います。以上です。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございました。
 もう大分時間が押してきておりますので、4つ目の論点である不当条項規制の見直しのほうに移りたいと思います。不当条項規制に関しては、北村さん、佐成さん、そして最後に堀井さんにお伺いしたいと思います。
 北村さんのほうから、コメントがあればお願いします。

○北村弁護士 不当条項規制の現状についてですけれども、現行法には10条で一般規定が入ったというのが大きいと言えると思います。10条の条文につきましても、前半の報告でも検討課題、論点の指摘がありましたけれども、日弁連改正試案でもよりよいものへ、使えるようにということで改正の提言をしていますけれども、8条、9条に当たらないものの受け皿規定となる10条の存在は大きいと言えると思います。
 それから、消費者団体訴訟制度、適格消費者団体による差止請求ですが、これは条項の分野に限ったことではありませんけれども、制度創設以来、訴訟あるいは裁判外で解決された事案の件数も大分ふえてきているところでありまして、成果が上がってきている。これも評価すべきことであると思います。
 しかし、問題点の1つとしては、リストがまだまだ少ないということがあると思います。リストについては前半の報告でもありましたし、日弁連のほうでも資料の52ページ以下になりますけれども、条文を挙げています。ブラック・リスト、グレイ・リスト、それぞれ多数提案しているところです。
 不当条項規制のあり方につきましては、充実した不当条項リストと一般規定の両方が必要であるというふうに考えます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 それでは、リストに関しては、佐成さん、いろいろ御意見がおありだと思います。よろしくお願いします。

○佐成東京ガス株式会社総務部法務室長 不当条項規制、ブラック・リストですけれども、ブラック・リストというものは事業者にとってもメリットがあるわけですね。当然のことながらそれはやってはいかんということですから、はっきりと予測可能性が立つ。ですから、これは非常に望ましいことだろうと思います。
 今、具体的な立法事実に基づいて、現行の不当条項リストに足らざる部分があるということであれば、そこを詰めていただくということは、健全な事業者というふうに言っておきたいと思うのですけれども、健全な事業者にとっては非常にありがたいことであります。要するに、悪質な事業者が市場から排除され、健全な事業がさらに促進されるという意味では非常に好ましいことだというふうに高く評価できると思います。
 ただ、リストをむやみに拡大してしまうということについては、やはり立法事実を十分踏まえた上でやっていただかないと、取引コストが増大するという問題がありますので、そこは立法事実を十分深く議論していただきたいということでございます。
 もう一点だけ申し上げておきますと、グレイ・リストの導入に関して事業者がどういうふうに受けとめるかということについてなのですが、健全な事業者といいますか、保守的な事業者と言ったほうがよろしいのかもしれないですけれども、そういった事業者になりますと、どうしてもグレイなことはやりたくないという傾向があって、どちらかというと萎縮効果と申し上げたほうがよろしいのかもしれないのですが、本当に悪質な事業者を取り締まるというポジティブな部分よりも、むしろ健全な事業者への萎縮効果というネガティブな部分がありますので、こういったネガティブな部分にも十分御配慮をいただいた上で議論を深めていただければ、事業者としてはありがたいと思っております。
 以上でございます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 ありがとうございます。
 グレイというと何か灰色で黒に近いという感じがするから嫌がられるのですけれども、グレイというのは別に黒に近いという話ではなくて、契約条項の評価には、どうしても量的・質的に一定の評価が必要となるような概念を含んでいる場合がある。例えば長さであるとか、質であるとかですね。それが不相当かどうかというところの評価余地がある問題というのは条件には必ずあるので、その部分に対して手当てをしておいたほうが、むしろ何もないよりは指針がはっきり見えていいのではないかという趣旨であることを、ぜひ御理解いただきたいと思います。
 立法事実という言葉も随分出てきました。堀井さん、今の話も踏まえて不当条項の見直しについて、お考えをちょっと聞かせてください。

○堀井消費者庁消費者制度課長 先ほど来お話が出ているように、不当条項は今日的な課題に対してリストをどう見直すかというところがポイントかなというのは集約されつつあると思うのですが、グレイ・リストについては、今、佐成室長さんからのお話にあったように、当時いろいろ議論になった。そもそも評価の余地が残って、無効となり得る条項の要件が不明確なものが列挙されて対象が書かれるということになると、列挙された事項に該当する条項については、無効とする必要がないものまで無効であるというクレームがふえるといったことで取引を無用に混乱させることになるとか、そういう懸念があったというふうに聞いています。
 いずれにしても、新しい制度をつくるときには、つくれなかった壁をクリアーして、そういうことはないのです、そういうのは大丈夫ですという認識を関係者で一致させた上で進めていく必要があると思いますので、今後関係者で議論を深めていくということかなと思います。

○河上内閣府消費者委員会委員長 正当な理由なく解除権を奪うという「正当な」理由、これは既に一定の評価が入ります。それから、「不相当に」長期にわたって顧客を拘束する、これにも評価が入ってしまいます。でも、そういうことについて一定の基準を示しておくことが、逆にこの点を条件として入れるときには気をつけてくださいということで、むしろ何もないよりは透明度を高める役目があるのだということですので、グレイ・リストについての理解をぜひ深めていく必要があるのだと思います。
 ちなみに、私は立法事実の必要は余り言ってほしくないと個人的には思っています。将来問題が起きるかもしれないという危険があれば、ある程度それに対応していく。包括的な立法として消費者契約法ができたというのもそういう意味においてであります。この領域についてこんな問題があるではないかと立法事実をもち出すと、それならば何とか業法の何とかにこういう特則規定を入れたら良いではないか、消費者契約に入れるまでの必要はないではないかということで潰しにかかるというのが、今までの議論のパターンなのですね。
 つまり、立法事実を1つ挙げて、それを一般化してルール化しようとしても、個別的対応の可能性が指摘されて、一般化が難しいということがある。しかし、潜在的な危険があるときにはあらかじめ予防線を張っていくということをやっていく必要があるように思います。世界中で既に立法化されたリストがあるときに、ヨーロッパ人に対してはそのリストに従うということがあっても、日本人の顧客には使わない、これはおかしいのではないかという感じがいたします。ですから、グローバルスタンダードに合わせるということについても積極的に議論をしていくことが必要なのではないかという気がしております。
 ちょっと司会の役目を忘れて発言してしまいました。済みません。
 もう時間がないので、残された時間の間に、きょうのディスカッションで話し足りなかったということを自由に、感想も含めて結構ですのでお言葉をいただければと思います。沖野さんのほうから1~2分程度で、これだけは最後に言いたいということをお願いします。

○沖野教授 私、消費者契約法制定のころには、オフィシャルにということではないですけれども、現代契約法研究会ですとか、幾つかの研究会で立法についての検討をさせていただいて、若干書いたものなどもございます。消費者契約法ができたということ、また、その規律の内容として実体法の規定が入った、あるいは不当条項の一般条項が入ったということは、まさに消費者契約法の趣旨、目的を達成するためによかったと思います。
 しかし、当時からちょっと狭きに失するのではないか。確かに健全な事業者に対する萎縮効果、有用な取引をも禁止してしまうような効果を持つことは望ましくないという関心は非常によくわかるところでありますけれども、萎縮効果に萎縮し過ぎているのではないかという印象も持ちました。その際、大変有名な言葉ですけれども、「小さく産んで大きく育てる」ということが言われました。見直しの附帯決議もされていることだし、消費者契約法は大きくなってきたのかというと、団体訴訟は入りましたけれども、実体法の部分はやや見捨てられた子どもではなかったかという印象を持っております。
 消費者契約法は、名前から言いますと消費者契約についての一般法、民法と業法の間の中二階にあるまさに一般法という性格を持っているのですけれども、その内実を見ますと非常に限定的な対象しか持っておらず、その限定的な対象についてさらに限定的な規律になっているということは、消費者契約の適切な、あるいはまさに適正なウイン・ウインの中での発展のために決して望ましくないことなのだろうと思います。
 消費者契約法がまさにその名に値するようなものとして、その充実というのを図っていくべきで、意思表示に限らない規律ですとか不当条項規制の充実や解釈準則など、現行法において現在、対象事項となっていないものについても、より積極的に検討すべきではないかと考えております。

○河上内閣府消費者委員会委員長 北村さん、お願いします。

○北村弁護士 1点、最後に追加意見を言わせていただくとしましたら、不当勧誘行為のほうに一般規定、受け皿規定が必要ということを挙げておきたいと思います。現行の誤認・困惑規定の拡張あるいは取消類型の追加ということも前半の報告のとおり必要と思いますけれども、受け皿的・一般的な規定はぜひとも必要と強く思います。
 これには不当勧誘行為の取り消しの一般規定という形も考えられますが、ほかにも民法では90条がありますけれども、その消費者契約法版といいますか、資料では7ページ、最初に河上先生が触れられましたけれども、そういった規定のあり方も考えられるところであります。
 日弁連の改正試案のほうでも、条文としての提案までには至っていませんけれども、解説の中で公序良俗規範の消費者契約法版といったあり方も考えられると提案しているところです。規定のあり方ですとか各条項の関係というのは引き続き検討課題ですが、一般規定というものはぜひ必要というふうに思います。
 そのほかにも検討課題がありますけれども、今、私は日弁連消費者問題対策委員会で消費者契約法、また集団的消費者被害回復制度などの担当の副委員長をしておりますので、引き続き皆様と連携して取り組みを進めていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

○河上内閣府消費者委員会委員長 佐成さん、お願いします。

○佐成東京ガス株式会社総務部法務室長 では、一言といいますか、約款規制の話題が出ましたので、その点についてちょっとコメントをさせていただこうかと思います。約款規制法というのは、御承知のとおりドイツできちんとしたものができているということでございます。その中の一部分だけを切り出してつまみ食いするというのは、本当に立法のあり方として妥当なのかという疑問がございます。
 それと、やはり21世紀の民法ということもさることながら、21世紀の民事立法のあり方全般、民事法の体系全体を見据えた上で、ドイツにならった約款規制法というものを真剣に議論していくということも場合によっては必要ではないかと感じております。ということは、逆に言いますと、拙速に民法の中に開示だけがあれば組み入れるというような緩々の約款条文を入れてしまうということについては、おそらく、部会の中では反対意見が最後まで残って、もしこれをどうしても立法化しようということであれば、最終的に多数決で決せざるを得ない事態になるのではないか、相当紛糾するのではないかということを、私としては今の段階で非常に危惧しておりまして、むしろ約款という問題については別のフォーラムをつくって、ドイツにならった約款規制法を真剣に議論するということも大事なのではないかと思います。
 特に開示ということについては、逆に言えば、開示されたものはすべて読むべきである、Duty to readはあるのだというふうに言われてしまうと、我々も非常に困るのですね。それは別にB to CだけでなくてBtoBでも困るのですね。実際にすべて読むべきであると言われると困るわけです。
 もちろん、取引として選択しないこともできるものについてはそれでもいいとも思うのです。ですけれども、とりわけ選択可能性のないようなもの、特に最近は問題が多いと皆さんも言っていたIT関係もそうだと思うのですけれども、ITはいまや社会的なインフラになりつつあると思うのですね。これを使わないという選択は難しくなりつつあるのです。それなのに、例えば検索サイトだとかSNSの約款を読み、すべてに同意しなければ使えないとなったら、本当にいいでしょうかということなのですね。開示されているではないかと言われて、皆さんそれで本当にいいのかなと思うわけです。
 そのように社会の中で、特にITもそうだと思うのですけれども、新しいものがどんどん出てきて、それを規制しろということではないですが、やはり社会的に見て不可欠な施設、エッセンシャルファシリティーみたいなものになってきているものの約款を緩々の開示だけで正当化してしまうというのは、本当にいいのかなというので非常に疑問を感じております。
 そういう意味で、民法部会の中で激論といいますか、組入要件の条文化それ自体に強い反対意見があるというのは当然のことだろうと思っております。
 以上でございます。

○河上内閣府消費者委員会委員長 丹野さん、お願いします。

○丹野全国消費生活相談員協会理事長 私、この消費者委員会が主催する、きょうのシンポジウムにパネラーで出てくださいという御依頼を受けたときに非常に緊張いたしまして、作業部会がどういう方向で御報告をお出しになるのかを知らないで、今、壇上に座っているわけですが、前半部分の御報告を聞いていて、私ごときではそしゃくできない部分がたくさんありましたが、報告の方向性自体は消費者相談をやっている人間から言うと、非常に歓迎すべき御報告だったと認識をしております。
 その認識で申し上げますと、やはり今、深刻な消費者被害がすごくふえている中で、消費者相談というのは非常に足が早くて、インターネットの相談がごく当たり前になり、しかも、ネットは軽々と国境を越えてグローバル化している時代であり、他方、消費者の財産被害は本当に深刻で看過できないような状況になっております。消費者契約法は消費者にとってわかりやすい民事法ということで、その時代の変遷についてこなくてはいけないのではないかと思っていますし、ついてくるはずの法だというふうに思っております。
 ですから、きょうここに参加させていただいて大変ありがたかった。とても有益だったと思っておりますが、消費者契約法が消費者のためのわかりやすい法律としてもっとフレキシブルに機能して、消費者被害の救済、未然防止、ひいては健全な市場を構築する法として存在をしていただきたいと願っております。

○河上内閣府消費者委員会委員長 それでは、筒井さん、お願いします。

○筒井法務省大臣官房参事官 本日は消費者契約法と民法との連携といった観点からお招きをいただきまして、大変勉強させていただきました。まことにありがとうございました。
 私の立場としては、消費者契約法との連携を意識しつつ、まずは自分が職責を負っている民法について、間もなく中間試案の取りまとめが行われるという時期に差し掛かっておりますので、この民法改正が具体的な成果に結びつくように、最大限の努力をしていきたいと考えております。
 中間試案が2月末をめどに取りまとめられました後、この債権法改正のプロセスの中で2回目となるパブリックコメントの手続が予定されております。この中では、本日お集まりの皆様にもぜひ多くの意見を寄せていただいて、よりよい債権法改正ができますように、私としてもますます努力していきたいと考えております。
 本日はどうもありがとうございました。

○河上内閣府消費者委員会委員長 それでは、最後に堀井さん。現在、消費者庁では例の集団的消費者被害救済に係る訴訟制度というものの法案の検討がヤマ場に差しかかっているということでございますけれども、そのことも含めてまとめの言葉をお願いしたいと思います。

○堀井消費者庁消費者制度課長 まとめというのは僭越なのですが、これまでお話があったように、使い勝手がいい法律という話がいろいろ出てきました。消費者契約法のみならず、いろいろな部分で民事ルールというのが充実をして発展をしてきているという状況の中で、やはりその法律を使えなければいけない。使うのはどこかというと、相談の現場であったり、あるいは個々の消費者の方々の日常の場であったり、究極には裁判といったところで使わなければいけない形になるわけです。
 ただ、今、究極の裁判という場になかなか行きにくい。消費者が被害を受けても訴えたりということができないということで、今、私ども消費者庁のほうでは、集団的に消費者被害を回復するための訴訟制度という特例を考えております。団体が個々の消費者のかわりに訴えて、一段階目で勝ったら、二段階目で消費者の方が入ってくるという形の制度になっています。結局、みんなで一生懸命苦労して法律を考えてつくったり、改正しても使われなければ意味がないので、そのためにこういう手続法を充実していきたいなという思いでやっているところです。
 もう一つ、最後なのですが、使ってもらうための法律をつくるためにどうしたらいいか。それは一見大変で回り道に見えるかもしれないのですが、つくる前の段階で関係者が本当に議論を尽くして、みんなを巻き込んで中身を考えていくことだと思っています。
 消費者契約法は、消費者庁はなかなか検討が進んでないということでお叱りを受けることも多いのですが、いろいろな場で御議論していただいていますし、ましてやきょうのように河上委員長を初めとして、消費者委員会の調査作業チームの皆様方、本当にお忙しい中をずっと何日も何日も議論を重ねて、しかもこういった形で成果をまとめてくださったということは、消費者庁というか、私の立場からしても、この場をかりてということになりますけれども、本当に敬意を表したいと思いますし、感謝を申し上げたいと思います。
 私どもとしてもしっかりと受けとめて、これから検討していきたいと思います。長官の教えのもとで頑張りたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。
 以上です。

○河上内閣府消費者委員会委員長 長官も頑張れというお顔つきです。
 きょう我々は、実体法のルールを扱ったわけですけれども、実体法のルールがどんなに充実しても、手続が非常に難しかったり、使い勝手が悪いとどうしようもないわけです。その意味では、集団的な消費者被害の救済に関する手続も、バックアップしますので、強力に推し進めていただきたいと心から念じております。
 最後になりますけれども、この間、安倍総理大臣がいろいろ頑張って、経済の再生、経済的な活動を活性化して云々ということを非常に強調しておられる。しかし、実はその下支えになるのはそれぞれの消費者の消費行動なわけです。ですから、そこでの消費者の権益が十分守られてこそ健全な市場がつくられるし、あるいは経済の活性化につながっていくのだということも忘れられてはならないと思います。所信表明演説に消費者のしの字も出てこなかったことは非常に残念でありますけれども、そのことは忘れてほしくないと思います。
 今後、消費者と事業者の対立の構造を乗り越えて、やはりウイン・ウインの関係になるように、よりよい市場をつくるためにはどうあればいいかということを積極的に考えていく方向で、事業者の方々とも力を合わせて知恵を出し合う姿勢をぜひ持ちたいと思います。
 今回のシンポジウムで論じられた課題を含めまして、これを機に、消費者契約法の見直しに向けた議論が加速することを心から期待しております。
 会場からいろいろ御意見をいただいたのですけれども、私の司会の不手際で十分生かせなかったことについては、お詫び申し上げます。パネルに参加いただいた皆様には改めてお礼を申し上げますとともに、最後までおつき合いいただいた会場の皆様にもお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。 (拍手)

○小田内閣府大臣官房審議官 パネリストの皆様方、ありがとうございました。今一度、盛大な拍手をお願いいたします。 (拍手)
 この後、演台の模様がえをいたしますので、今しばらくお時間をいただければと思います。
 お待ちいただいております時間を利用させていただきまして、お願いしたいことがございます。皆様のお手元の資料の中に、黄色いアンケート用紙が入っております。シンポジウムの感想や消費者契約法の課題、見直しの必要性など、忌憚のない御意見を御記入いただければと思います。今後の消費者委員会の活動の参考にさせていただきます。お帰りの際に、出口に回収箱を用意しておりますので、入れていただければと思います。
 それでは、最後に閉会の御挨拶を阿南消費者庁長官にお願いしたいと思います。本日のシンポジウムの御感想なども踏まえまして、お願いできればと思います。

≪4.閉会の挨拶≫

○阿南消費者庁長官 皆様、お疲れ様でした。本日はシンポジウムに参加をさせていただきましてありがとうございました。今、ばたばたしておりまして、おくれてしまって申しわけございませんでした。
 消費者契約法ですけれども、消費者契約というものを包括的に適用対象とする民事ルールということで裁判例が数多く集積されていると同時に、消費生活相談の現場においても紛争解決に活用されるなど、その効果を発揮してきていると考えております。また、その実効性を確保するという観点から、平成18年の改正によって適格消費者団体による差止請求権を内容とする消費者団体訴訟制度を導入し、消費者被害の未然防止、拡大防止が図られてきているところでございます。さらに現在、消費者庁では、先ほど堀井課長が申し上げましたとおり、消費者に生じた被害の回復を実効的なものとするための制度として、集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の検討を進めており、今国会への提出を目指して鋭意作業をしているところでございます。ここは、ぜひ皆様にも御支援いただきたいと考えております。
 消費者契約法は、皆様に実体法の部分の見直しについてさまざま御意見をいただきました。小さく産んで、確かに育ててはきたのですけれども、皆様の御意見は、もっとスピードを上げて、時代に合わせて大きく育てていきなさいという御意見だったと思います。きょういただいた貴重な御意見や御見解を真摯に受けとめながら、また、法務省での検討が進められている民法の改正の議論とも連携をとりながら、さらに前向きに検討してまいりたいと思っております。
 私は、消費者団体の出身ではありますけれども、消費者、生活者が主役となる社会の実現に向けて、消費者行政にはなお多くの課題があると認識しております。消費者庁は消費者行政の司令塔として、これらの課題の解決にしっかりと取り組んでまいりたいと思っています。今回、政権交代により、消費者庁をつくりましたときの推進者でありました森まさこ大臣をお迎えし、もう一回スタート時の考え方に立ち戻って、消費者行政の充実のために強力に頑張っていこうと思います。今、消費者庁全体も決意を固めているところでございますが、その1つとして消費者契約法の改正があるのではないかと考えております。
 きょうは相談員の皆さん、そして学者、弁護士の先生方、法務省、さらには事業者からも貴重な御意見・御見解を伺うことができました。私も大変勉強になりました。消費者契約法の課題を考えるに当たって、本当に有意義なシンポジウムだったと思っております。今後、消費者委員会の河上委員長とも、そしてまた、国民生活センターの野々山理事長とも一緒に、この問題を本当に真剣に考えながら推進していく連携を強めていきたいと考えております。
 改めまして、このような場に参加させていただき、また、発言の機会を頂戴して大変ありがたく存じております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。きょうは、誠にありがとうございました。 (拍手)

○小田内閣府大臣官房審議官 阿南長官、ありがとうございました。
 皆様、本日は長い時間にわたりましてシンポジウムに御参加いただきまして、本当にありがとうございました。本日のシンポジウムは、以上で終了させていただきます。
 お帰りの際に、出口にアンケート用紙の回収箱がございますので、そちらのほうに入れていただければと思います。どうもありがとうございました。 (拍手)