有識者による解説

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分権提案の種子はどこにあるのか ―青い鳥を探して―

勢一智子氏の写真
西南学院大学法学部教授
地方分権改革有識者会議議員
提案募集検討専門部会構成員
勢一 智子 氏

これを読んでいる貴方は、入庁何年目でしょうか。自治体職員として経験を重ねて、自治行政の専門性を身につけてきたことでしょう。難解な法令を解釈し、所管省庁のガイドラインを読み解き、庁内マニュアルに沿って手続を進める…自治体職員の専門性の一つです。専門性の蓄積は知識のみではなく、職業気質も培います。専門性が磨かれれば、自治体職員としての職業感覚も鋭くなります。

入庁した頃、今の「専門性」に違和感を抱いたことはなかったでしょうか。専門性が「常識」となった職員感覚は、もしかすると住民感覚からは距離ができているかもしれません。住民の素朴な疑問に気付かない。これは、分野に関わらず、「専門性」のサガです。

他方、自治体職員の専門性からしか見えない部分もあります。住民の疑問や悩みに対して制度的に解決する糸口を導き出すことは、地域に暮らし、住民に寄り添うことができる自治体職員の「専門性」です。

「常識」を疑うことから、変革は始まります。素朴な疑問から国の制度が変わるかもしれません。住民や地元事業者は法制度のどこに困っているのか、その困りごとを地域で共に考えることは、地方分権改革の芽を育む作業になります。自治体職員だけではなく、地域の多様な人々がそれぞれの「専門性」から一緒に分権提案を育てていく過程が大切で、それが制度変革の原動力になります。地域の悩みというエビデンスが法制度を変えるのです。

さらに、同じ悩みは他の地域にもある可能性が高いです。多くの自治体職員と情報共有することも有益です。分権提案では、年々共同提案が増加しています。多数の地域で支障が示されれば、制度改正への説得力が増します。

分権提案は、内閣府地方分権改革推進室にお寄せいただきますが、皆さまからの提案を最初に受け止めるのは、自治体から派遣されている調査員です。すなわち、地方行政現場の実情を理解する同志が、提案のブラッシュアップのために全面的にバックアップする体制がとられています。現在、分権室には31人の「応援団」が勤務しています(令和4年2月現在)。

そして、提案を投げかけて「国を変えた」貴方には、次のステップもあります。地方分権改革の旗手として、あるいは分権室の調査員となって次の貴方を支援していただきたい。地方分権は、未だ道半ば、各地域が夢描く未来を実現できる法制度体制の整備が必要です。

分権標準型社会に向けて共に歩みが進められるよう、提案募集検討専門部会構成員として私も努めたいと思います。

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