ご挨拶 野口英世アフリカ賞委員会 委員長 黒川 清2022年5月記
野口英世アフリカ賞委員会 委員長 黒川清です。
野口英世、日本人であればおそらくその名を知らない人はいないでしょう。日本のアフリカにおける医学研究のパイオニア。野口英世アフリカ賞についての説明をする前に、まずこの賞の由来となった野口英世博士についてあらためてご紹介します。
~ 野口英世博士の生涯と私たち ~
野口英世博士はわずか1歳の時、囲炉裏に落ち左手に大やけどを負いました。左手に障害を負ってしまった野口博士は15歳の時、恩師による手術を受けて成功したことに感動し、母シカや周りの人々の大いなる愛情と支援を受けて医師勉学に励みます。その後さらに多くの人々の支援を受けつつ国際的に活躍することになります。
1900年に渡米し最初にペンシルベニア大学に、その後デンマーク留学を経て創設間もないロックフェラー医学研究所に勤務し、細菌学の研究に没頭します。1911年に梅毒スピロヘータの純粋培養に成功し世界的な注目を集めた後、1918年から黄熱病の研究を始め、1927年、アフリカ西海岸で発生した黄熱病の研究のためガーナに渡りましたが、研究中に自らも黄熱病に感染し、1928年にわずか51歳で現地で亡くなりました。
しかし、貧しい家庭に生まれ逆境の中にあっても医学の可能性を信じ、すさまじい努力と情熱で世界に羽ばたいた野口博士がアフリカで行った献身的な医学研究活動とその成果は、今もなお我々に大きな励みと指針を与え続けています。
~ 野口英世アフリカ賞の意義とその背景 日本のアフリカに対する貢献 ~
世界中の数ある対アフリカ協力の中でも、野口英世アフリカ賞は、野口英世博士の遺志を受け継ぎ、今まで必ずしも関心が向けられていたとは言い難い、アフリカのための基礎医学研究、臨床研究、医療活動に光を当て、感染症への挑戦、アフリカの生活環境の向上など、人類共通の課題へ“現場主義”で挑戦し続ける人を支援、顕彰している点でユニークです。
なぜ日本がそうしたことをするのでしょう。日本政府はこれまでも政府開発援助(ODA)を通じ、アフリカ諸国を支援してきました。(※1)。また、国際的な保健分野での課題(その多くがアフリカが直面するもの)にも積極的に取り組んで来ました。アフリカに住む人々の命と生活、ひいては人類全体の保健と福祉の向上を図るという日本の理念と哲学のシンボルが野口英世アフリカ賞と言えます。アフリカにおいて野口博士と同じスピリットを持った人々を鼓舞して行きたい、野口博士と同じ情熱を持って活動している人たちにスポットライトを当てたいという日本政府の考えがこの賞を授与する動機となっているのです。
世界がコロナ禍に見舞われてしまった時代において、本賞がそうした人たちの活動に光を当てて正当な評価を行うことは、アフリカにとどまらず国際保健分野のレベルアップにつながり、グローバルなインパクトを与えるものとなることでしょう。この2年間、各国が新型コロナウィルス対策に尽力している中、この賞の持つ意味や重要性は重みを増していると思います。
~ 野口英世アフリカ賞の果たす役割 ~
本賞は、2008年以来、三度の授賞式が実施されてきました。選ばれた受賞者は、いずれも素晴らしい方々であり、今日もなお活躍され、引き続き立派な業績を築いておられることを大変うれしく思っております。受賞者の中には賞金の一億円を活用して奨学基金を設立し医師の研修教育を行ったり、新たな公衆衛生プロジェクトを実施している人もいます。本賞の授与は、過去、十分な注意が向けられなかったアフリカにおける保健と福祉に対する国際社会の関心を呼び起こし、アフリカにおける医学研究や医療活動を促進する役割を今後一層果たしていくと信じています
~ 今後の賞の実施予定 ~
野口英世アフリカ賞はこれまで、東京アフリカ開発会議(TICAD)(※2)の日本開催時のみ実施していましたが、2019年に開催されたTICAD7において、当時の安倍総理から、今後は野口英世アフリカ賞もTICAD開催の度に授与することを発表しました。TICADは現在、3年ごとに日本とアフリカでの交互開催となっていることから、同賞も今後は3年に一度の実施となります。本年8月にはTICAD8が開催される予定であり、次の第4回野口英世アフリカ賞もそれに合わせて発表される予定です。次回もきっと素晴らしい受賞者が選ばれ、野口博士のスピリットが本賞を通じてますます世界へ広がっていくものと確信しております。
(※1)日本政府のアフリカに対する支援に関して詳しくは外務省のサイトをご覧ください。
外務省 国際協力 政府開発援助 ODAホームページ
外務省 持続可能な開発目標(SDGs)
(※2)アフリカ開発会議 TICADとは、日本国政府が3年ごとに主導して行う、アフリカの開発をテーマとする国際会議です。詳しくは外務省のTICADのサイトをご覧下さい。
外務省 アフリカ開発会議(TICAD)
略歴 野口英世アフリカ賞委員会 委員長 黒川 清
黒川清(くろかわきよし) 野口英世アフリカ賞委員会 委員長 東京大学、政策研究大学院大学 名誉教授 東海大学 特別栄誉教授 Health and Global Policy Institute 代表理事 |
昭和42年 3月 | 東京大学大学院医学研究科修了 |
昭和44年 | ペンシルバニア大学医学部生化学助手 |
昭和54年 | UCLA(University of California at Los Angeles) 医学部内科教授 Professor of Medicine |
平成 元年 | 東京大学医学部第一内科教授 |
平成 8年 | 東海大学教授、医学部長 |
平成 9年 | 東京大学名誉教授 |
平成15年 | 日本学術会議会長 (―18年) |
平成15年 | 内閣府 総合科学技術会議議員(-18年) |
平成16年 | 東京大学先端科学技術研究センター客員教授 東海大学総合科学技術研究所教授 |
平成16年 | 内閣府 沖縄新大学院大学学長諮問委員長 |
平成17年 | 日本医療政策機構 代表理事 |
平成18年 10月3日 | 内閣特別顧問(~平成20年10月) |
平成18年 11月 | 政策研究大学院大学教授 |
平成21年 11月 | 政策研究大学院大学アカデミックフェロー |
平成26年 11月 | 政策研究大学院大学客員教授 |
平成29年 4月 | 政策研究大学院大学名誉教授 |
平成31年 1月 | 東海大学特別栄誉教授 |
平成31年 4月 | 政策研究大学院大学政策研究院参与、シニアフェロー |
平成31年 4月 | 成蹊学園理事長顧問 |
平成31年 4月 | 広島大学特別顧問 |
令和 3年 5月 | 成蹊学園名誉理事 |