第1回野口英世アフリカ賞受賞者の決定

平成20年3月26日
内閣府

本26日、日本国政府は、第1回野口英世アフリカ賞をブライアン・グリーンウッド博士(英国)とミリアム・ウェレ博士(ケニア)に授与することを決定した。
受賞式は、5月28日横浜で開催されるTICAD IVの中で行なわれ、受賞者には賞状と賞牌および賞金1億円が内閣総理大臣から授与される。

医学研究部門
ブライアン・グリーンウッド(Brian Greenwood)(英国)

グリーンウッド1938年英国生まれ。1968年、英ケンブリッジ大学医学博士。現在、英ロンドン大学衛生熱帯医学校教授。

第1回野口英世アフリカ賞(医学研究部門)は、勇敢かつ独創的なマラリア研究を行ったブライアン・グリーンウッド博士に授与される。マラリアがアフリカ大 陸において広範にその脅威が広がり、1年間に100万人の命が奪われる状況下において、グリーンウッド博士は、マラリア制御のための効果的な戦略を構築・ 設計に貢献した。同博士のマラリア研究における重要な貢献は、この難病をめぐる悲観的な状況を一変させる不可欠な手段と知識の開発を大きく促した。同博士 の業績により、ごく最近まで絶望的と見られていたマラリア対策に希望が見え始めている。

授賞業績:
現場に密着した先駆的なマラリア研究

グリーンウッド博士は、30年以上にわたりアフリカの現場に密着した研究活動を続けてきた。特に英国医学研究評議会の在ガンビア研究所所長を15年間務 め、アフリカにおいて最も多くの命を奪っているマラリアの免疫学的側面、病原体の側面及び疫学的側面の解明に貢献するとともに、髄膜炎や肺炎など、アフリ カにおける乳幼児死亡の主要な原因となっているその他の感染症の解明にも貢献するなどの画期的な研究の先駆者となった。同博士の基礎研究及び応用的臨床研 究は、簡単で質の高い手法、新薬やワクチンの現場試行という形をとり、アフリカ国内における、あるいは国際レベルにおける一連の重要な公衆衛生政策の科学 的基礎を提供した。

マラリア

蚊帳の中で眠る妊婦と子供グリーンウッド博士の主な業績としては以下が挙げられよう。

  • 殺虫剤を染み込ませた蚊帳のマラリア制御における効用の証明。これは、いまやアフリカ大陸全体におけるマラリア予防の最重要対策となっており、多くのドナー機関が支持・支援している。
  • 現在マラリアの主たる治療方法として広く普及しているアルテミシニンをベースとした混合療法の主要な研究。
  • マラリアの化学的予防法が乳幼児死亡率を低下させることの証明。この手法は、現在、乳児、子供、妊婦の間欠性予防療法として応用されている。
  • 効用の高いRTS,Sワクチンを含むマラリアワクチンの試行に向けた多大な貢献。
  • ヘモフィルス・インフルエンザb型(Haemophilus influenzae type b (Hib))が予防接種により感染が回避可能となることの実証。
  • 肺炎球菌の共役ワクチンが乳幼児罹病率・死亡率の低下に繋がる可能性を示唆する臨床試験。
  • 髄膜炎菌ワクチンの開発における貢献。

熱帯医学の領域の拡大と変質

ハマダカラグリーンウッド博士の業績のもう一つ重要な側面は、熱帯医学のフィールド研究のあり方を根本から作り変えたことである。すなわち、従来の衛生を主眼とする 植民地経営や軍の付属的な活動から、アフリカ固有の複雑な生態系や現実の諸問題への深い理解と最先端の科学に基づけられた総合的な解決が必要となる、多く の関係者を巻き込み且つ多くの学問分野を動員した営みへと変革していったことである。こうして、研究室中心の活動と臨床研究、予防医学と治療医学、疫学、 人類学、行動科学研究等あらゆる知見が動員されることとなった。いまや当然のものとして考えられているこうした現代的アプローチは、同博士の先見性と指導 力が最初に生み出したものである。

アフリカとの研究パートナーシップ

これは、グリーンウッド博士のアフリカに密着した研究が残したもうひとつの偉大な遺産である。同博士は一貫して若いアフリカ人研究者の研修及び支援等の人 材育成に力を入れてきた。同博士に感化され、指導を受けた学生、医者、臨床医は今や多方面で活躍しており、科学界一般の中におけるアフリカ医学研究の地位 の向上に絶大な貢献を行ってきた。

医療活動部門
ミリアム・ウェレ(Miriam K. Were)(ケニア)

ミリアム・ウェレ1940年ケニア生まれ。1981年、米ジョンズ・ホプキンズ大学公衆衛生学博士。ウジマ財団共同創設者・保健問題専門家。 第1回野口英世アフリカ賞(医療活動部門)は、東アフリカの村々において女性や子どもに対し基礎医療サービスと保健の権利をもたらし、何百万人ものアフリカと世界の人々に希望を与えたウェレに授与される。アフリカ医療研究財団(AMREF)やウジマ財団1での活動を通じ、同博士は、アフリカ大陸全体の人々にとってインスピレーションの源泉であり続けてきた。

授賞業績:
コミュニティに立脚した保健サービスの提供

ウェレ博士は、40年間にわたり地域レベルへの医療サービスの提供の実践面に焦点を当てて、アフリカの人々の健康と福祉の増進に献身した。日常の健康問題 の革新的な解決方法の開発・実施に向けて地域社会を団結させてきた。コミュニティに立脚したアプローチの最も典型的な事例は、長年のタブーを乗り越えて公 衆トイレを継続的に設置してきたことである。また、地域の診療所に子供たちを小グループに分けて予防接種に連れて行くことにより、乳幼児接種率を大幅に引 き上げた。同博士の革新的な活動や体系的な先例は、アフリカ連合との係わりを通じ、あるいは、エイズ・結核・マラリアに関するアフリカ首脳会議の保健問題 アドバイザーとして、ケニア国内のみならず東アフリカ、ひいてはアフリカ大陸全体に甚大な影響を与えている。

HIV/AIDSとの継続的戦い

性行為、HIV/AIDSに関する開かれた率直な議論を促すため、若年層、売春婦、同性愛者、麻薬の静脈注射乱用者などとの直接対話を行うウェレ博士の活動のスタイルは、ケニア社会に大きな刺激を与え、HIV/AIDSを抱えて 生きる人々の恥辱や差別の減少に貢献した。また、弱者集団、特に貧困層や社会の周縁に追いやられた人々を献身的に擁護してきている。性、部族、年齢、階級 に基づく偏見を乗り越え、すべての人々の自己啓発・成長に全力を傾けている。特に、重度のHIV/AIDSに苦しむ未亡人や孤児は、医療サービスへのアク セス拡大のための同博士の活動の恩恵を最も享受した人々である。

HIV/エイズ感染率・感染者数

同博士は、ケニア国家エイズ対策委員会委員長として強力なリーダーシップを発揮し、バランスのとれたHIV/AIDS対応指針を取りまとめた。その結果、 ケニアのHIV感染率及びAIDSによる死亡率は一貫して減少してきている。2002年から2006年にかけてケニアのHIV感染率は13%から5.1% まで低下し、ARV薬服用者数は、2002年の2千名から2007年には15万人に激増した。同博士は、HIVとAIDSを抱えて生きる人々が、流行し続 けるAIDSの予防、管理、社会問題の軽減に対し重要な役割を果たすことができることを強調してきている。

NGOの力の活用と集中

ウェレ博士は、アフリカ最大の保健NGOであるアフリカ医療研究財団(AMREF)の理事長として、ケニア国家予算のうち保健分野に係る予算を2003年から2007年にかけて3倍に増やし、農村部の地域社会への医療サービスの拡大を指揮した。
同博士は、ウジマ財団の共同創設者及び総裁として、自身の医学の知見と知識を活用して若年層の素行改善に努めてきている。ウジマのプログラムに参加した若年層の麻薬常用率は、6ヶ月で80%から10%以下に低下し、性や生殖に関する保健指標は顕著に改善した。

1 ウジマ財団は、ケニアの慈善団体。「ウジマ」とは、スワヒリ語で良質な生活を意味する。ウジマ財団は、HIV/AIDS及びマラリアの対策を含む保健の向上を通じて若年層の自己啓発を行っている。