菅大臣記者会見要旨 平成21年11月20日

(平成21年11月20日(金) 15:27~16:03  於:合同庁舎4号館4階408号室)

1.発言要旨

 月例経済報告等に関する関係閣僚会議が先ほど開催されましたので、その概要を御報告いたします。景気の基調判断につきましては「持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある」。これは先月と同様の判断であります。

 こうした理由は、第1に、生産などの上向きの動きが続いているものの、第2に、外需や経済対策に牽引されたもので、自律的な回復には至っておらず、第3に、雇用の厳しさにもあらわれているように、景気の水準は依然低い、といった、これまでの状況に基本的に変化がないことを踏まえたものです。

 また、今般、物価の動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、我が国経済が緩やかなデフレ状況にあると判断いたしました。先行きにつきましては、雇用情勢の一層の悪化や、海外景気の下振れ懸念、デフレや金融資本市場の変動の影響など、景気を下押しするリスクに留意する必要があります。

 政府といたしましては、緊急雇用対策を推進するとともに、雇用、環境等について迅速かつ重点的な取り組みを行い、景気の下支えを図るための経済対策を取りまとめてまいります。これは今、取りまとめつつある、ざっくばらんに言えば、第二次補正に向けての取りまとめであります。日本銀行には、引き続き政府との緊密な連携のもとで、適切かつ機動的な金融政策運営が行われることを期待いたしております。

 今日の場にも、日銀の副総裁も御出席をいただきまして、また、今日の午前中の金融政策決定会合には、津村政務官に出てもらいまして、そういう場を通しても政府の考え方を伝え、また政府と日銀の緊密な連携ということを実行しているところであります。

 私からは以上です。

2.質疑応答

(問)2点ありますので1点ずつ伺います。
 1点目ですが、今回の基調判断で「緩やかなデフレにある」と、ほぼ3年ぶりぐらいに「デフレ」という表現を政府として認識したということで、デフレ宣言をしたことになると思いますが、非常に大きな政策判断だと思いますけれども、景気動向が持ち直しているという表現を変えない中で、デフレという非常に先行きに懸念があるような状態について、言及された最大の理由と、政府としてデフレ克服のためにどういった施策をとっていくのか。今、副総理の中で具体的にある考えをお聞かせください。
(答)緩やかなデフレという判断をしたのは、消費者物価が6カ月連続で前月比マイナスとなったこと、また名目GDP成長率が、実質GDP成長率を下回る状況が、2四半期連続で生じたこと、また需給ギャップの大幅なマイナスが続いていると見込まれること、こういったことが物価の下押し圧力になっていると見ております。
 こういったことから、景気全体は持ち直しの傾向にありますが、このデフレの状況は、一時的というよりは、この間継続していただけではなくて、今後も気をつけなければしばらく続いていくという見通しを持った中で、緩やかなデフレ状況にあるという判断を示したところであります。
 私としては、このデフレ状況を脱却するために、一つには、日銀との政策的な協調といいましょうか、そういった意味での金融面からのフォローを期待するところがありますし、また、一般的ではありますけれども、これまで、さらには今打ちつつある景気対策等が効果を上げる中で、デフレ状況から脱していけるような方向性を見いだしていきたいと、考えております。
(問)もう一点ですが、今、日銀との協調についておっしゃられましたけれども、日銀の白川総裁は、デフレという状況であるという認識を示されておりませんけれども、今回、政府として「デフレ」とはっきり出したことで、政府と日銀のデフレに対する認識の違いが鮮明になったような気がしますが、この違いが生じていることについてどのようにお考えなのか。あと、今のお答えの中で、金融面でのフォローをお願いしたいという話がありましたが、例えば国債の買い取り枠の増額とか、そういったさらなる緩和策について念頭にあるのかどうか、その2点について伺います。
(答)私は、表現ぶりは別として、現実に起きていることの認識に、日銀との間でそう大きな差はないと思っております。ただ、あえて言えば、逆に政府としては、そういった危機感を持っているということを明らかにすることで、そういった状況から脱却する努力を、自分たち自身の政策でもそうでありますが、日銀にも協力といいましょうか、協調していただけるように、そういう意味合いも込めて申し上げたつもりであります。もちろん、客観的な数字が先ほど申し上げたような状況にあるということが当然前提でありますが、そういう意味を、私なりには持って申し上げました。
(問)日銀との政策的な協調、具体的にこういうことを望みたいというのがもしあれば、改めてその辺の御認識をお願いいたします。
(答)日銀との間では、先ほど申し上げたように、今日の会議でも津村政務官にも出てもらいましたし、そういう中では、こちらの考え方、見方は適宜伝えているつもりであります。
 日銀も現在の状況は十分把握しておられるわけですが、まだ出口戦略をとるのは少し早いのではないか、もう少し、今の形を続けていただいたほうがいいのではないか、というメッセージとして受け止めてもらえているのではないかと、思っております。
(問)繰り返しで申し訳ないのですが、先ほど「デフレ」と宣言された理由は伺いましたが、今、副総理の中で、デフレに陥っていることによる景気への悪影響というか、デフレで何が問題だとお考えなのか、その辺について改めて伺いたいのですが、その辺の御認識はどうでしょうか。
(答)デフレというのは、土地バブルが崩壊した後、私は実は土地の問題はかなり長くやっておりましたから、ある意味では土地の値段が下がることによって、都市生活者の住宅取得が楽になるのではないかと当時思っていた時期もありましたが、バブルの崩壊、あるいはそれによるある種のデフレ状況というのは、いろいろな問題を引き起こすということを、当時も感じたところです。
 消費者の低価格志向が続いているといったようなことも、デフレを招いている、あるいはデフレの一方の圧力にもなっているわけですが、一言でいえば、これはもう釈迦に説法かもしれませんが、デフレというのは、名目的な意味での借金は変わらない中で、実質的には借金が多くなる、あるいは負担が重くなるということでありますから、そういった意味でも、企業運営上、あるいは国家財政運営上とも言ってもいいかもしれませんが、そういう状況が必ずしも好ましくないということは当然言えると、思っております。
(問)先ほど大臣は、日銀との間で認識にそう大きな差はないとおっしゃいましたが、例えば物価の見方を一つとっても、今日、日銀は決定会合の後の資料で、物価は上振れリスクがあると言っておるわけで、政府と日銀が若干、方向感違うなという感じはするんですが、そこで、日銀が何をやるかという手段については、独立性があるので言うべきではないと思うのですが、その目指す目標については、共有していく場とか、協議が必要だと思うのですが、そのあたりは大臣はどのようにお考えでしょうか。
(答)先ほども申し上げましたように、一つは日銀の会議に、今日の場合は津村政務官に出てもらいましたし、基本的には、政務三役が手分けをして出ることによっての意思疎通、あるいは今日の月例関係閣僚会議には日銀副総裁が出席をされておりますが、そういう場を通しての意思疎通、もっとざっくばらんな形もとりたいとは思っておりますけれども、まだオープンな定期協議といった形にはなっておりませんが、少なくとも、いろいろな機会を通して、意思疎通を行うことは、これからも努力をしてきたいと、こう思っています。
(問)現時点で、意思疎通は十分とお考えでしょうか。
(答)私は、意思疎通そのものがそんなにできていないとは思っておりません。ただ、私も、決してこういう分野が長いわけではありませんから、どう申し上げていいかわかりませんが、客観的に見ている数字は、同一のものを見ているわけでしょうから、そういう意味では、その客観的に見た数字をどのように読み取るか、あるいはそれをどのような形で表現するかということにおいて、多少の差があるのかもしれません。ですから、そう大きな本質的なものの見方に差があるとは、私は思っておりません。あと、細かい点は津村政務官のほうから御説明をいたします。
(問)2点お尋ねします。まず1点目は現在のデフレ状況について。いわゆる物価の下落と、それから景気の悪化が循環的に進むデフレスパイラルに陥る懸念が果たしてあるのかどうか。そのあたりの御認識を伺いたいのと、それから今後の対策ですけれども、いわゆる有効需要をつくり出していくために、どういったことに注力なさっていくのか。先だって、QEの会見の後では、アジアの外需も取り込んでいきたいともおっしゃいましたけれども、そういった方面も含めて今後どういった取り組みをしていかれるのかをお話しいただけますでしょうか。
(答)かつて2001年ごろのデフレ状況において、企業の過剰債務、金融機関の不良債権等の問題を背景にして、ややデフレスパイラルに陥るんではないかという懸念が高まった時期もあったと認識しております。
 現在は、金融面では当時のような不良債権問題等はあまりありませんし、そういった意味では、デフレスパイラルの可能性は、そう大きくはないと、このように思っております。ただ、冒頭申し上げましたように、物価の下落が続くことは一般的には企業の収益にも必ずしもいい影響がありませんし、特に債務の返済、資金繰り等には難しい面が増加をする可能性がありますので、そういう点は金融的なところからも、しっかりと支えなければならないと、このように思っております。
 その上で、既に国会の質疑でもいろいろ、野党の皆さんから聞かれていますが、需要を拡大する、内需を拡大する、あるいは外需を拡大するということでありますけれども、私は、この20年ぐらいの経済財政運営を、もう一度私なりにいろいろな専門家の知恵もお借りしながら、検証をしてみたいし、今いろんな意味で、私なりに検証しているところです。
 いろんなところで発言しておりますから、皆さんも聞き及びでしょうけれども、かつては財政出動が大きな投資効果を生んだ時代もありました。あるいは、財政に頼らない形でも民間で投資を行い、大きな経済効果を生んできた時代もありました。それが80年代に入って、財政出動はするけれども、経済の引き上げ効果が非常に薄くなってきたわけでありまして、私はそのあたりが、実は大きな転換点ではなかったかと思っております。
 しかし、その転換点を転換しないまま、財政出動による公共事業中心の財政を組んできた、これは地方に雇用を生み出し、ある意味では、お金を流し、仕事を生み出したわけですから、そういう点では、日本の経済格差を小さくする効果はあったと思います。しかし、日本の国全体が成長するという意味では、必ずしも有効な投資でないものを、まさに借金でやったために、財政の赤字がたまってきたわけです。
 それに対して、小泉・竹中路線が今度は逆に、いわゆる規制緩和をやれば財政出動がなくても景気は上がるんだという路線をとったわけです。その結果、確かに一部の企業は収益は上がったわけですが、一方で、格差が大きく拡大いたしました。さらに加えて言えば、一部の企業は収益は上がったかもしれませんが、国全体の生産性が本当に上がったんだろうかということであります。
 つまりは、完全雇用という状況の中で企業が生産性を上げれば、国の生産性の向上につながる、そこでリストラされた人は別の仕事に就けばいいわけですから、そうなりますが、完全雇用でないときに一つの企業が例えば1万人を半分、5,000人リストラして、その会社が経営が立ち直ったとしても、やめさせられた5,000人が失業状態のままであれば、日本全体としては、成長、生産性が上がったことにはならないわけでありまして、そういう点で、私は、その考え方も、必ずしも結果としてうまくいかなかったことも含めて、正しい方向ではなかったのではないかと、このように見ております。
 そういう意味で、かつての財政に依存し過ぎて、分配にはなったけれども、成長にはつながらなかった80年代と、さらにはこの10年ほどの、いわゆる上げ潮路線と言われた、規制緩和さえやっておけばいいんだという路線がいずれも間違っていたのではないかという認識を今持つようになっております。
 そういう意味で、もう一つの道、第三の道というのは、政治的な用語ではかつて使われましたが、経済においても、もう一つの道が私はあるのではないかと思っております。それはまだ、体系だった表現をするまでには至っておりませんが、この間、私がよく申し上げるのは、「新たな雇用というものが、新たな生産を生むような分野」、つまり「新たな需要を生むような、新たな雇用」という言い方をしてもいいですが、そういう分野に集中的にミスマッチした労働力を振り向けるとか、あるいは効果的な形で財政的な支援をするといったようなこともありますし、また、財政に頼らないで、需要を拡大するようなルールの変更、これはかつては「規制緩和」という言葉が使われましたが、必ずしも緩和だけではありません。電力の固定買取り制度などは、どちらかというと「規制」という言葉で言えば「強化」と言うべきかもしれませんが、そういうルールの変更によって需要を拡大できる分野も、かなりあります。
 特に環境に関連しては非常に大きくあると思っておりまして、そういう需要を生むような雇用と、それから財政出動を伴わないで需要を生み出すような分野、こういうものに集中的に政策の中に盛り込んでいくという、もう一つの道があるのではないかと思っておりまして、これまでの緊急経済対策もそういう方向でありますけれども、今、今夕も相談をする第二次補正の経済対策、あるいは来年度予算についても、そういう考え方を一つの柱にして、新しい財政の方向性を生み出していったらどうかと、このように思っていることを、せっかくの機会ですから申し上げておきたいと思います。

(以上)