与謝野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成21年4月10日

(平成21年4月10日(金) 17:43~18:15  於:共用220会議室)

1.発言要旨

 本日は、諮問会議の岩田議員に御同席をお願いしております。
 対策のマクロフレームを検討するに当たりまして、諮問会議の岩田、吉川両議員を初め、多くの民間経済専門家の方々と緊密な意見交換をしてまいりました。岩田議員には、この関連の御質問があれば、それにお答えをしていただくことになっております。
 それでは、先ほど総理が発表された「経済危機対策」につきまして、私から3点、補足的な説明を申し上げたいと思います。
 まず第一に、取りまとめの考え方についてでありますけれども、日本の経済は、実は2つの危機に直面をしております。金融危機、世界同時不況という当面の 危機には、雇用、金融対策と、経済の下支えをする一定の財政出動が必要となります。一方、世界全体の大調整の中での構造的な危機には、経済の構造転換と未 来市場の開拓が必要であります。
 短期の危機への対応と構造的な危機への対応は、場合によって相互に相矛盾、逆行する場合があります。すなわち、需給ギャップをすべて財政で埋めようとし ますと、過度に公需依存経済となり、真に必要な構造転換が阻害されることとなります。一方、市場競争による構造転換に偏れば、経済の底割れとデフレスパイ ラルのリスクが高まります。
 今回の対策の取りまとめに当たっては、これら2つの危機への対応をどうやって両立させるかに、最も意を砕いてまいりました。
 すなわち、第一には、将来の成長につながるWise Spendingに施策を厳選し、経済構造の転換を阻害しないような財政支出に集中するために、最大の努力を払うこと。
 第二に、一方でマクロ政策の観点からは、我が国の本年度の成長率を主要先進国並みのマイナス幅にとどめること。失業や倒産といった社会的悲劇を極力抑えることなどを念頭に、必要な内容と規模を検討いたしました。
 今回の対策は、「底割れ防止」と「経済の構造転換」という2つの課題への対応を両立させ、しかも相乗効果を発揮するような内容と規模になっていると確信をしております。
 第二に、取りまとめのプロセスについて、一言申し上げます。
 年明けに想定を超えた景気悪化が明らかになり、それ以降、予算成立後の対策取りまとめを念頭に、自分なりに頭の体操をし、いろいろな方の御意見を伺って まいりました。今回の経済危機を克服するためには、石油危機時を上回る国民の協力と挑戦が不可欠であります。そのためには、国民と一体となった対策をつく ることが必要と考え、先般の官邸における有識者会合も行いました。
 また、今回の対策の取りまとめでも、従来の霞が関、永田町の枠を超え、できる限り広い国民のニーズを踏まえて、その内容を比較選別するように努力したつもりでございます。
 ちなみに、有識者会合で約300の御提言が出されましたけれども、その6割程度がこの対策に盛り込まれており、既に実行されているものと合計すると、8 割程度に対応していることになります。残りの項目も、御提言をされた方と御連絡をさせていただきながら、諮問会議において、その実現可能性について議論す ることとしております。
 最後に、財政健全化との関係についてでございますが、経済の底割れを招くことになれば、財政の健全化はさらに遠のくことになります。したがいまして、財 政健全化のためにも、底割れ防止に向けて思い切った財政出動を早期に実行する必要があると考え、今回の対策を取りまとめました。
 昨年末に持続可能な社会保障構築と、その安定財源確保に向けた「中期プログラム」を閣議決定いたしましたが、それ以降、類似の対策や経済財政状況の大き な変化がありました。これらを踏まえ、安心社会実現会議や諮問会議でも御議論をいただきながら、できるだけ早期に「中期プログラム」の改定を行うこととい たしております。
 以上でございます。

2.質疑応答

(問)改めて全体を拝見して、相当の政策が盛り込まれているかと思うんですけれども、「1丁目1番地」というと変なんですけれども、この対策を取りまとめるに当たって、大臣が最も重視した点が何かということについて、お伺いできますでしょうか。
(答)それは、一つは雇用対策であり、一つは金融対策であります。それから、当然のことながら、雇用対策は新しい雇用を創出されるということでなく、現在の雇用を維持するためにどうするかという問題。大変不幸にして職場を失った方々に対しては、次の職に就くまでの間、これに対する手当、こういうものを非常に重視をいたしました。
 それから、金融対策では、中小企業対策もたくさん入っておりますけれども、やはり中堅企業、大企業も資金繰りに追われることになる。こういうことは、「資金繰り倒産」というような不幸な事態がありますと、雇用も喪失されますし、また、すそ野の広い分野ですと、多くの関連企業でも不幸な出来事が起きるということで、金融対策に対しても非常に力を入れたわけでございます。
 それからもう一つは……、幾つも「1丁目1番地」があるんですが、やはり環境対策、低炭素社会というものにも随分意を用いたつもりですし、また医療、介護も相当なレベルのことをやっておりますし、子育て、教育も相当思い切ったことをやったつもりでございます。そのほかに、科学技術等は、おそらく後で数字を御紹介するときにおわかりいただけると思いますが、9,000億になんなんとする科学技術予算を入れておりますし、これは日本の将来につながるものであると思っております。
 また、地方は、やはり今回は、中央が地方にいろいろな事業を押しつけるということではなくて、一つはやはり地方の裏負担の分を国が持つことによって、多少の財政のゆとりを地方に持っていただく。それから、交付金につきましては、やはり地方の特色やニーズにかなった施策を、それぞれの地方にやっていただくと。「1丁目1番地」の1から、1丁目1番地の2、3、4、5、6、たくさんあるんで、余りどれが「1丁目1番地」というのはなかなかお答えしづらいんで、お答えになっているかどうかわかりませんけれども、ここで、マクロ経済的にどういう効果があるかというのを、岩田先生に成長率の問題と失業率にどうきいてくるかというのを、ちょっと御説明いただきたいと思っています。
(岩田諮問会議議員)わかりました。それでは補足させていただきたいと思います。
 お手元に、横の「「経済危機対策」の経済効果」というのが配布されているかと思います。これの最初のページをおめくりいただきますと、GDPの数字と、それから今後いろいろなパスがあり得るという図が示してございます。これをごらんいただきますと、緑で書いてあるのが、実は今回の対策をとる前、おそらくこういう姿になってしまうのではないかということを想定した場合の線が書いてございます。です。
 この線のとおりにいってしまいますと、この括弧のところに書いてありますけれども、国際金融機関、これは国際機関等の見通し、OECD、IMF、いろいろありますが、暦年で見てかなり大幅な、6ないし7%の落ち込みになってしまうというような姿で、ほかの先進国と比べて、さらに2ないし3%悪いという、平均よりも落ち込みが大きい、今回の危機で日本経済が受けた打撃がほかの国よりも大きいということを、一つはやっぱり念頭に置いて考えるべきではないかということであります。
 今回の対策、財政の金額でいいますと、15.4兆ということなんですが、21年度だけをとってみて、その効果がどのくらいあるかといいますと、それはおよそ、GDPでここに書いてございますが、2%程度押し上げる力があるということであります。
 今回の対策をとったことによりまして、その上に書いてありますような、濃い青線でありますけれども、成長の軌道が上のほうにシフトしていくのではないか。また、その下に「危機のフェーズ」というのが書いてありますが、これは2009年の後半ぐらいから、危機のフェーズから次第に「底入れのフェーズ」というようなものに移っていくような姿が想定されているんですが、今回の対策をとることによりまして、その効果が実際にあらわれますのは、やはり秋以降というようなことになりますので、今回の対策が次第に効果をあらわしてくるということにつれて、徐々にこの成長率が上のほうに向いてくるというふうに考えられます。
 この結果、失業率のほうはどうかということなんですが、次のページに失業率のパスのイメージ図がございます。これをごらんいただきますと、経済危機対策をとらなかった場合には、これはやはり緑で書いてございまして、このときに失業率はどのくらい上がっていくのか。これは民間のエコノミストの方も、いろいろ予測をされておられます。200万だとおっしゃる方もいますし、250万あるいは場合によると270万というようなことをおっしゃる方もおられます。私自身は200万ぐらい、失業率でいうと3%ぐらい、上乗せされてしまうようなところまでいくリスクがあるのではないかというふうに考えておりました。
 今回の対策をとることによりまして、その失業率が、ここで下のほうの濃いブルーの線で書いてございますけれども、ここのところにシフトダウンしていくと。こういうことの結果、過去の失業率のピーク、これは前回の景気後退期、2001年にITバブルの崩壊がありまして、アメリカであって、それで日本も景気後退したわけですが、その後、2002年あるいは2003年に失業率が、実は5.5%まで上がって、それが過去最高の水準だったわけであります。
 今回の対策をとるということで、そのピークにいかないように、その5.5%の範囲内に抑制するような効果が私、今回の対策でもって期待できるのではないかというふうに思っております。
 もちろん、経済は生き物ですので、いろいろな不確実性がございます。アメリカの今の景気後退の姿がどうなるのか、あるいは金融の問題がどういう形で決着するのか、こういうことで不確実性は高いのですが、今回の対策をとることによって、GDPでいいますと今年度は2%程度高まると。そして、次第に年度の後半あたりから底入れフェーズに入っていって、次第に成長軌道に戻っていくということが期待できるのではないか。その中で、失業率も過去のピークを上回らないような範囲で抑制することが可能になるのではないかというふうに思っております。
以上でございます。
(問)中期プログラム」の改定の件で、もう少し具体的なイメージをお伺いしたかったんですが、去年の12月に決めた「中期プログラム」では、景気回復を前提に、早ければ2011年度に消費税を含む税制抜本改革を行って、その消費税の税収分は、すべて社会保障に回すというような大枠をつくられたと思うんですが、その大枠を変えるおつもりがあるのかないのかということと。
 今回それに追加して、この15兆円分ぐらいの財源が必要になってくるということなんですが、それについて具体的な、この辺についてはこういったところから持ってきたほうがいいというような道筋を示すということなのかという2点、お伺いできればと思います。
(答)「中期プログラム」に書いてあります景気回復を前提とした消費税を含む税制の抜本改革というのは、その基本ラインは同じでございます。ただ、昨年の12月の状況で、その前提となった社会保障全体の経費の増分あるいは少子化対策、この話と、今回やりましたいろいろな対策とは、やっぱり額は上のほうにどうしてもずれてしまうわけでして、今回財政出動はしますけれども、財政規律といいますか、健全な財政の方向に向かっての目標を失ってはいけないということがあって、やはり今回使ったお金は、3年後に予定されている税制抜本改革の中で、今使いますけれども、2011年以降に今回使った分は、やはり財源の問題として手当をしなければならないと、そういう意味でございます。
(問)財源についてお伺いしたいんですが、国債をどの程度、追加発行する必要があるのかと、国債の追加発行の規模と。あと、それに関連して大量の国債を発行すると、市中で消化するのは徐々に難しくなっていくのではないかという考え方もあると思うんです。それに関連して、財務省は日銀の政策決定会合でも、日銀に国債の買い取り増額を要請していたりしますが、日本銀行に求めていくことがあるのかどうか。そのあたりも含め、お話を伺わせてください。
(答)日本の長期資本市場は、クラウディングアウトが起きるような状況ではないと思っておりますけれども、やはり市場との対話を欠かさないで、実際に国債を発行するときには、やはり慎重な対応が必要だと思っております。
 日銀に要望することは一つもございません。日銀は、日銀としての市場の安定という観点から金融政策を展開されておりますので、日銀に対しては、全面的な信頼を置いております。
(問)大臣、今回の経済対策は国費を15兆円超、以上も使う大きなものとなりまして、後から振り返ってみて歴史に残ると思うんですけれども、国民一般からすると、本当にこれで景気がよくなるのかというような素朴な疑問があるんですけれども、まず、取りまとめられた責任者として、国民に対するメッセージとして、景気はよくなるのかという点が一つと。
 あと、本当に「全治3年」で日本経済がよくなるのかと。これも「中期プログラム」との関係にもなりますが、そこも総理も繰り返し、ちょっと前までおっしゃっていましたけれども、その辺は約束できるのかどうか。その2点お願いします。
(答)財政を出動いたしますので、間違いなく有効需要は創出できると確信をしております。
 また、有効需要としてなかなかカウントできないんですけれども、今回の金融対策というのは、相当大きな効果を経済に対して持っているということは、間違いないと思っております。ただし、日本が不況に陥った原因は、1月、2月、3月の貿易統計を見ていただきますと、1月が四十七、八%、2月が49、3月が 47のマイナスを示しておりまして、明らかに日本の経済の悪化は外需が落ちていることが、その主たる原因あるいはそれがほとんどの原因であって、景気が回復していくためにというよりは、自然体としての景気回復を望むのであれば、外需が回復するまで待たなければならないということになります。
 先ほど申し上げましたように、外需の落ち込み、これを全部財政で埋めるというわけにはまいりません。したがいまして、今回の景気、経済対策の目標は、とにかく景気の底割れを防ぐと。岩田先生のさっきの御説明にありましたように、ほうっておけば6%から7%成長率が落ちるという、落ち込みぐあいを2%強戻すと、こういうことでございまして、今回の財政出動によって、6%、7%のマイナスが全部埋まるということは考えておりません。
 それからもう一つは、やっぱりこの経済対策の主眼は、景気後退によって起きる社会的悲劇、例えば失業とか、ゆえなき倒産とか、そういう、やはり社会的悲劇を極小化しようという思想が込められております。したがいまして、すぐに景気が回復するというわけではありません。先ほどの岩田先生のお話にもありましたように、本年末から来年にかけて、少しずつ明るさが見えてくるというのが、最もいい見方ではないかと思います。
(問)すみません、2点お伺いします。
 まず1点、先ほどの質問者の質問にもあったんですが、今回のこの補正予算の中で国債発行が幾らぐらいになるかというところのお答えが、ちょっと抜け落ちていた気がするんで、そこをお願いしたいのと。
 あと、今回描かれたシナリオが、シナリオどおりひょっとしたら、先ほど岩田先生は「経済は生き物だ」とおっしゃいましたけれども、シナリオどおり進まなくなってしまうリスクについて、大臣はどのようにお考えかということをお聞かせください。
 それともう1点、例えば今回、介護職員の給与引き上げのように、先ほど大臣がおっしゃった公的な補助とおっしゃったかな、公的な助成に依存している部分が多いところから、経済の構造改革を進めていく……、経済の抜本的な改革をしていかなくちゃいけないというお話だったんですけれども、例えば公的助成からうまく、どのようにすれば自立的な成長になるのかというプロセスをもう少し、ちょっと大臣のプランをお聞かせいただけないでしょうか。
(答)まず国債発行ですけれども、手元に見えているお金は、平成21年度の予備費の1兆円と、特別会計の中には、既に法律で使うことが許されている財政投融資特会の中の残りの3兆円、これしか見えないわけですから、残余の部分は国債発行せざるを得ないと。
 国債発行は、建設国債、赤字国債に分かれますが、まだ建設国債は公共事業のほかに、施設整備費あるいは出資等々ありますので、まだ最終的な精査はできておりません。しかし、両方を合わせますと10兆を超える国債発行になるということでございます。
 それからもう一つは、介護の話でございますけれども、介護は介護保険料と税と、両方で実はやっております。しかしながら、介護現場というのは非常に給与の割には仕事が厳しい、大変重い負担の仕事であって、最近は介護をしてくださる方、人の確保も難しくなってきているということで、社会的ニーズとしては、やっぱり介護に従事してくださる方というものを確保しなきゃいけないと。そこで、給与を若干ですけれども上げさせていただこうと。
 ただし、一部報道でありましたような、こういうことをやっても経営者がみんなとっちゃうんじゃないかということを言っておられた方がありますけれども、それは大変大きな誤解で、今回は賃金の支払い実績に応じて援助していくということですから、実質的に給与は上がるということです。
結局は、介護であれ、その他の社会保障であれ、保険料か税いずれかで国民は負担しなければならないわけでして、公的助成といえども、実は国民負担であると。ここのところはやっぱり、みんなで自覚した上で政策を進めていかなきゃならないと思っております。

(以上)