大田内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成18年10月12日

(平成18年10月12日(木) 18:53~19:40  於:記者会見室)

1.発言要旨

 本日、月例経済報告等に関する関係閣僚会議が開催されましたので、その概要を私から御報告いたします。
 今月の景気判断につきましては、「景気は、回復している」。これは、先月から変えておりません。
 今月の特徴は、日銀の短観が公表されまして、大企業・製造業の業況判断は2四半期連続で改善するなど、企業の業況判断は緩やかに改善しております。
 それから、雇用情勢は、厳しさが残るものの、改善に広がりが見られており、日銀短観の企業の雇用判断は、全規模・全産業で9月は3ポイント低下しております。つまり、不足感が拡大しております。
 先行きにつきましては、企業部門の好調さが家計部門に波及しておりまして、国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれます。一方で、原油価格の動向が内外経済に与える影響等には留意する必要があり、今後の景気動向に引き続き注視していきたいと考えております。
 政策の基本的態度につきましては、政府は、「骨太2006」に基づき、構造改革を加速・深化する等としております。
 今日の閣僚会議のやりとりにつきまして、主な御発言を私の方からいくつか御紹介いたします。
 まず1つは、今回、「いざなぎ景気」に並ぶ回復期間になるわけですけれども、過去の景気回復と今回を比べますと、今回は成長率が非常に低いのですね。「いざなぎ景気」と比べますと、今回の成長率は平均して2%程度ですので、成長率が低いと。それから、物価が下落している。デフレ下の回復であったという特徴があります。こういったことについて、今後どう考え、どう政策に生かしていくのかよく考えてほしいという御指摘がありました。
 それから、マクロ的には長期に及ぶ回復ですけれども、地域経済や企業規模にはまだばらつきが残っております。ここをもう少し詳細に見て、月例経済報告でも詳細に報告してほしいという御指摘がありました。
 それから、個人消費が足元で少し弱くなっておりますけれども、本格的な回復のためには消費の伸びが高まる必要があると。それから、足元で所得の伸びが少し緩やかになっておりますが、しっかりと所得も伸びていかなくてはいけないという御指摘がありました。
 主な御発言については、以上です。詳しくは、事務方の方からご説明いたします。

2.質疑応答

(問)確認ですが、この説明資料にもありましたが、大臣は今月の月例報告に基づいて、今回の景気回復局面が「いざなぎ景気」に並んで戦後最長であるという認識を現時点で示したということでよろしいわけですか。
(答)まだ正確には、御存じのように景気の山を判断しなくてはいけませんので、そこには留意が必要です。月例報告のベースで、2002年1月に始まった景気回復は、今57カ月になっていると。その長さをとりますと、「いざなぎ景気」に並んでいるということが言えます。
(問)正式な判定は後に委ねるけれども、月例ベースでいくとそういうことということですね。
(答)はい。そういうことです。
(問)それは閣議を経て、一応政府の見解という形になっているということでよろしいのですか。
(答)「いざなぎ景気」に並ぶかどうかというのは、今日の月例経済報告の中には含まれておりませんので、それは閣議の報告の対象にはなっておりません。
(問)大臣はそういう認識を説明されたということですね。
(答)はい。期間で見た時に、景気拡張期が「いざなぎ景気」と並んだということでございます。
(問)その並んだことについて、一言御感想がありましたら。
(答)今回の景気回復は、「いざなぎ景気」と比べますと平均の成長率が低いですし、回復の過程で地域間あるいは企業規模間のばらつきがあります。そのことを反映して、景気の実感が弱いという御指摘もあります。
 しかし、90年代以降、長く続いたバブル崩壊後の負の遺産を脱却した。そして、デフレ脱却も視野に入ってきたということは、経済がやっと正常な姿に戻ってきているという非常に大きな意義があると思っています。
 そういう意味では、今、日本経済は新たなスタート地点に立ったと見ることができるのではないだろうかと。今後は、これをさらに日本経済の競争力を高めていくという観点から、グローバル化ですとか情報化に対応した、つまり成長機会を的確に捉えるような政策を選択し、適切な経済財政運営をしていきたいと思っております。
(問)今日の会議の中で、デフレ下での回復だったことについて、どう考え政策にどう生かしていくか考えてほしいということですけれども、これから、まだまだやはり景気が息長く回復して、本当にいろいろな方が実感あるような回復に持っていくためには、どのような施策に取り組んでいく必要があるかということを改めて。
(答)まず1つは、ばらつきながらも底上げされている状態ですので、これを改善するためには、さらに持続的な景気回復となるように注意深く様々な指標を見て、経済財政運営に努めたいということがございます。
 さらに加えて、ようやく今、企業は、設備、雇用、債務の3つの過剰を解消して体質を強化しましたけれども、これはスタート地点であって、今後、日本経済全体が生産性を高めていく余地は、まだ十分にあると思います。例えば、サービス分野の生産性の向上や規制改革を進め、政府が民間の阻害要因になっている部分を取り除いていくことによって持続力を高めていくことが必要だと考えております。
(問)最近世界的に景気の回復期間というのは長めになっているようですが、いつまでもこの回復の状況が続くというのもなかなか難しいのではないかと思いますけれども、この57カ月という長さが今の時代にあってどういう意味を持つのかということをお願いします。
(答)57カ月は日本の中では長いのですけれども、今御指摘にありましたように、先進国を見ますと景気拡張期間が平均して5年間、後退期間が1年間というのが、先進国――これは21カ国だったでしょうか、その平均になっております。景気回復期間が長期化しているというのは先進国に見られる傾向で、その背景は金融政策など景気調整の手法が緻密になってきているということ、それから、だんだん物よりサービスが中心となりサービス経済化が進んでおりますので、景気変動の影響を受けにくくなってきているという点がございます。この点を考えますと、それは日本にも共通して言えることですので、57カ月だからもうそろそろ山を越えるのではないかということではなくて、さらに持続的な成長を目指していくことが必要だと思います。
 それからもう1点、今回の景気回復の特徴の一つですけれども、消費の役割が90年代の回復より大きかったということが言えます。かつての景気回復局面においては、GDPに寄与する割合として消費が半分以上を占めておりました。ところが、90年代から消費の割合が2割から3割に落ちまして、代わって設備投資の割合が高くなっておりました。
 ところが、今回の回復においては、GDPに寄与する割合としては消費が4割ということで、設備投資の3割を上回りました。消費の寄与が大きいということは、それだけ安定的な回復であるということを示しますので、今後、所得環境が回復し、消費が持続的に伸びていくということを期待したいと思っております。
(問)今日の会議の中で、安倍総理の方からは何か御発言はありましたでしょうか。
(答)特別にございません。
(問)景気回復の実感がないと言われるのですけれども、それは成長率が低いということと、賃金が上がっていないということの他に何か要因として考えられることはございますか。
(答)今御指摘の点もまとめて言いますと、企業がバブル崩壊後の負の遺産を解消するために厳しいリストラをする中での回復でしたので、企業から家計への波及が遅かったということ、これが第1点です。
 それから、民間需要主導の回復であったために、地域間、企業規模間のばらつきが大きかった、これが第2点です。
 それから3番目は、息の長い回復ではありますが、平均の成長率が2%と低かったということがあるかと思います。
 加えて言いますと、デフレ下の回復でしたので、なかなか手取りの給与が増えていかないということも景気回復の実感の乏しさにつながっていると思われます。
(問)成長率が低いと言いながら、57カ月という長い期間、景気拡大期が続いたというのは、要因としては何がよかったか、どの部門が頑張ったかということについては、振り返って分析してどのように見ていらっしゃいますでしょうか。
(答)57カ月の間には2回の踊り場があり、一本調子の回復ではなかったわけです。ただ、企業が3つの過剰を解消し、企業の体質が強化されましたので、少々の経済変動は乗り越えるぐらいの強さになったというのが、57カ月に結び付いていると思います。デフレ下の回復がなされたのは、企業が賃金を上げたり、借入を増やすことに非常に慎重であったということだと思います。
 ただ、これを別の方面から見ますと、なかなか家計への波及に結びつかないと。あるいは設備投資にしても、なかなかキャッシュフローを超えた設備投資になっていかないという二面性があるのだと思います。これが、今後息長く続くことで、企業と家計の好循環が生まれてくることが期待されるところです。
(問)家計部門の消費なのですけれども、役割が大きくなってきたという認識と、それからまだまだ企業部門から家計部門に波及しないということがありますけれども、この消費とか家計がかなり成熟した段階に入ったと思っておられるのか、まだまだこれから伸びると思っておられるのか。
(答)これまで、今回の景気回復の場合、特に初期がそうでしたけれども、高齢者が消費を支えたという点がございます。消費の懐が深くなったということも言えると思います。それから、なかなか供給側から見た消費の供給に統計に現れてこないような通信販売やインターネットでの購入など、なかなか捉え切れないところで増えていて、SNAベースで見ると消費が増えている、堅調であるというデータが出ております。
 ただ、雇用者所得は、まだそれほど着実に増えているという状態にはありませんので、これが着実に増えていくと、消費はさらに増える可能性があると考えています。
(問)57カ月という節目を迎えたということで、そろそろ今回の景気に名前を付けようというようなお考えはいかがでしょうか。
(答)考えたこともありませんでした。
(問)では、このまま特に名前を付けずに。
(答)ええ。ああいうのは、マスコミがお付けになるのではないのですか。
(問)あまり所得が伸びない中で、貯蓄がすごく下がっていると思うのですけれども、これは消費を伸ばすことにもつながっているかどうかということと、貯蓄率が減っているということ自体についてのお考えをお願いします。
(答)御指摘のとおり、貯蓄率は減少しております。この背景は、所得が伸び悩む中で、消費支出は緩やかに増加したということです。この貯蓄率の低下は、高齢化というのが最大の要因だろうと思います。高齢化による貯蓄率の低下であれば、さほど心配しなくてもよい、当然予想されることですけれども、これ以外に要因がないかどうかは、もう少し注意深く見る必要があると思います。よく言われております非正規雇用の拡大であったり、あるいは地域別でみて、非常にまだ厳しい地域があるということがございますので、それがどの程度反映しているかというのは、もう少し分析してみたいと思います。
(問)所得の改善について、企業は相変わらず非常に慎重な賃金の支払いしかしていない面があると思うのですけれども、所得が今後よい方向に向かうということについて楽観的な見通しを持たれているのかどうか、そのあたりを教えてください。
(答)楽観とか悲観ということではなくて、いろいろな動きを見ておりますと、新卒採用も増えておりますし、徐々に正社員も増えてきていると。企業がだんだん人材を採用し始めたというような感じはいたします。
 それから、これはよい面なのですけれども、他方で成果主義の賃金も広がってきておりますので、良い人材として高い給与をもらう人もいれば、成果主義により成果が賃金に反映される結果として、平均としてはそれほど高まらないという可能性もあると考えています。ですから、景気の動向と賃金の構造の両面を見ていく必要があります。
(問)総人件費ベースで見た時は、なかなか高まっていかない可能性もあるという御見解でしょうか。
(答)ただ、労働分配率は今60%ぐらいに下がってきておりまして、長期的にどこら辺で均衡するのかという、均衡する労働分配率を出しますと、大体均衡線に近づいてきておりますので、このあたりが下げ止まりではないかと見ています。
(問)景気の拡大要因のうち、政府の政策対応による貢献についてはどのように見ていらっしゃいますか。
(答)小泉前内閣の下では、政府が直接公共投資のような形で需要を作るという政策からは転換いたしました。民間企業が活動できるような体制を作っていく、環境整備をしていくという方向に転換したのだと思います。不良債権処理で重しを取り除く、あるいは企業再編を行いやすくする、あるいは研究開発税制を整えるといったような形で環境整備をしていったという面での一定の貢献はあったと思っております。
(問)今日の会議の後、安倍総理に会われて諮問会議の打ち合わせをされたそうですけれども、総理の方からお言葉とか何かございましたら。
(答)いえ、今日の時点では特別ございません。明日の進め方を少しご説明しただけです。
(問)成長率は低いのですが、これだけ回復局面が長く続くと、当然金利の次の引上げ時期が懸念されますが、今の認識として、追加利上げに関してどのように考えているか、改めて所見をお聞かせください。
(答)追加利上げをするかどうかは、日銀が専門的な見地から判断なさることだと思っております。日本経済のどういう姿を目標とするかという点は、政府と日銀が、共有していると思いますが、それをどういうペースで、どういう手法でやっていかれるかは、日銀が専門的な見地から自主性を持って判断なさることだと思っています。
(問)仮に年内に追加利上げした場合に、今の日本経済は後退するような脆弱さなのかどうかについて、いかがでしょうか。
(答)それは、その時点の状況にもよりますので、今申し上げることはできません。
(問)諮問会議の件ですけれども、首相補佐官の根本さんが会議に御出席ということですが、大田さんと根本さんの役割分担はどうなるのかご説明いただきたい。
(答)経済財政政策の中で、根本補佐官は、安倍政権で中心的に掲げられております社会保険庁改革、経済成長戦略、「アジア・ゲートウエー構想」を担当なさいます。それに加えて、安倍内閣での経済政策について海外でご説明なさるという役割をお持ちです。経済財政諮問会議の運営は、私に任せられております。根本補佐官も御出席になりますが、出席者というよりも、オブザーバーという形で御出席になります。
 ただ、もちろん社会保険庁改革あるいは経済成長戦略というようなテーマで説明者となるときは、根本補佐官も出席者として参加なさいます。
(問)今日の関係閣僚会議の中で、日銀の追加利上げに関して、どなたかの御発言がりましたか。
(答)いえ、ございません。
(問)最初に企業部門の好調さが家計部門に波及して、先行きとしては景気回復が続くと見込まれるというお話なのですが、つまり「いざなぎ景気」を超えるという景気の拡大期間が続くであろうという御判断をお持ちだという認識でよろしいでしょうか。
(答)はい。その状況が見込まれるということですね。
 ただ、先ほど申し上げましたように、リスク要因はございますので、先のことについて当然ですが、正確なコミットメントはもちろんできませんが。
(問)どの程度続くかということについては予見をお持ちでないということですね。
(答)はい。
(問)根本さんと大田さんは、棲み分けができているということでよろしいのですか。
(答)もちろん重なる領域はありますし、経済財政政策全体をお預りしているわけですから、密接に連携や意見交換はしたいと思いますが、経済財政諮問会議は私が運営を任されたということですので、その点に関して重なるということはございません。
(問)デフレ脱却が視野に入ってきたことについて、改めて現状についてどういう認識をお持ちなのかお願いします。
(答)デフレは、物価が持続的に下落する状況を指しますが、この状況は終わっていると。
 ただ、もう一度その状態に戻らないかどうか、もう少し見てみたいと。大変長く続いたデフレですので、後戻りすることがないか、もうしばらく慎重に見たいと考えております。
(問)諮問会議ですが、大臣になられたときに2つ課題があると言われて、歳出削減と経済成長戦略、この2つをやると。
(答)オープン・アンド・イノベーションですね。
(問)はい。それでよろしいのですか。
(答)あれは、私の希望として申し上げたことですので、当然、歳出・歳入一体改革、それからオープン・アンド・イノベーション、歳出・歳入一体改革は「骨太2006」に書かれていることです。「骨太2006」に書かれていること、それから安倍総理が所信表明演説あるいは政権公約で御指摘になったことの中で政府として取り組むべきこと、これは経済財政諮問会議の課題になると考えています。
(問)根本さんと重なるような気もしないでも。
(答)ええ、もちろんです。完全な棲み分けではなく、経済財政政策というのは一緒に担当いたしますので、経済成長戦略という部分は、根本補佐官もなさいます。この部分は重なります。それを経済財政諮問会議で取り上げます時は、根本補佐官にも状況を説明していただき、議論に加わっていただくということになります。
(問)民間議員ペーパーでも成長戦略的なことが書かれることはあると思うのですけれども、その作成に当たって、根本補佐官がかかわるということはあり得るのでしょうか。
(答)民間議員のペーパーですので、かかわることはございません。
(問)オープン・アンド・イノベーションとか人材とおっしゃったのですけれども、もう少し具体的にどういうことを考えられているのかをお願いします。
(答)それは、明日の有識者議員ペーパーで示されると思います。むしろ、その中で、何をどう取り組んでいくのかというアジェンダ設定の取組が、諮問会議の非常に大きい課題かなと思います。
(問)明日の諮問会議は、具体的なアジェンダ設定に入るのでしょうか。
(答)いえ。まだ1回目ですので、大きい方向性、こういう考え方でやっていくというのが有識者議員ペーパーとして示されるのだと見ております。
(問)具体論ではないという。
(答)ええ。有識者議員はまだ任命されていないのですしね。明日正式に任命ということになりますので、とてもアジェンダ設定まではいかないだろうと思います。
(問)諮問会議の運営の方法なのですけれども、大臣は著書の中で、過去、小泉・竹中時代の与党と調整しないで案を出して、対立極を鮮明にしたことが改革を牽引してきた要因であるという指摘をされていますが、一方では、これはまだ過渡期のやり方なのだという話をされていらっしゃいます。大臣御自身は、与党との関係ではどう進めていかれるのか。あと、党の頭越しに何か決めるようなことも、郵政の時のようにあり得るのか。
(答)まず、後者については、私にはわかりません。前者は、党との連携の形というのはいろいろな形があるのだろうと思います。過去においても、諮問会議の有識者議員が改革を強く牽引した場合もありますし、党と連携しながら活性化戦略をつくっていったケースもあります。歳出・歳入一体改革についても、政府・与党で大変厳しい調整をしながら目標を出されておりますので、ここは連携しながら進めていくということもあります。ただ、その中の制度改革については、民間議員が大胆な御提言をされて牽引するということもあるのだろうと思います。これといった固定化したやり方ではなくて、新しい歴史をつくっていこうと思って私も大臣をお引き受けしましたので、試行錯誤しながら、テーマによって、よいやり方を考えていきたいと思っています。

(以上)