みどりの学術賞選考経過報告

第3回みどりの式典 みどりの学術賞選考経過報告

みどりの学術賞選考委員会委員長 常脇恒一郎

 第3回みどりの学術賞の選考に当たり、選考委員会は、「みどり」に関する学術に造詣の深い学識経験者等約270名に対し、この賞にふさわしい候補者の推薦を依頼しました。その結果、約50名の推薦が得られました。これには、分子・細胞レベルで植物の働きを研究しておられる方から、地球規模で生態系の研究をしておられる方まで、実に多様な分野の方が含まれており、「みどり」という言葉のもつ、意味の幅広さ、奥深さを改めて思い知らされました。

 選考委員会は都合4回の会合をもち、この推薦を基に候補者の選考を進めて参りました。その結果、第3回「みどりの学術賞」受賞者として、東京都立大学名誉教授 和田正三博士と、九州大学大学院理学研究院教授 矢原徹一博士を推薦することに決定致しました。

 先ず、和田博士の業績について申し上げます。

 地球を「みどり」に彩る植物の葉緑素は、葉緑体という細胞内の小器官に含まれております。農林業、造園・園芸、自然保護などの基盤となる植物の営みはこの葉緑素の働きに大きく依存しています。

 ご存知のように、植物の発達や生育には光が必要ですが、この光の受容体として、赤い光を吸収するフィトクロムと青い光を吸収するフォトトロピンが知られていました。和田博士は、この両者が融合し、赤い光と青い光の双方を吸収する新しい光受容体を先ずシダ植物、次いで緑藻で発見し、ネオクロムと命名されました。一方、葉緑体は、光合成を効率よく行うため、光が弱いとき細胞の表面に集まります。逆に、光が強いと、障害を避けるため細胞の側面に移動します。これを「葉緑体の光定位運動」と呼んでいます。和田博士は、この定位運動の引き金となる光の感知が、一般にはフォトトロピンによって行われること、しかし、シダ植物ではネオクロムも関わっていることを証明されました。このように、博士は、植物の形態形成と葉緑体の定位運動について、光の受容から現象の発現にいたる一連の道筋の解明に卓越した貢献をされました。

 次に、矢原博士の業績について申し上げます。

 地球上の「みどり」は多様に進化した植物によって彩られていますが、植物の多様性の全体像の把握には、植物相の動態の解明が不可欠であります。
 矢原博士は、一貫して植物の進化における種の動態を解析し、特に、植物が、昆虫や病原体などとの相互作用の下、様々な繁殖戦略を取るようになり、それによって種の多様性を生み出していることを明らかにし、繁殖生態学の開拓に貢献されました。また、日本の野生植物の絶滅リスクを網羅的に評価したレッドデータブックのとりまとめに中心的役割を果たされるとともに、生物の多様性保全の必要性を科学的に明らかにした著作や実践的活動を通して、「みどり」の保全について科学的立場から説得力のある発信を続けておられます。これら業績は、学術研究の社会的貢献という面から高く評価されるものであります。

 今回のみどりの学術賞を受賞されるお二人の研究により、光と植物の関係、および、植物の多様性をもたらした進化の仕組みの一端が明らかとなりました。「みどり」に光り輝く世界がどのように形づくられてきたか、そして、それをどのように維持していけばよいのか、今後とも「みどり」に関する学術がこれら問題点を解き明かし、社会を動かす力になることを、選考委員会として心から期待し、念願するものであります。

以上をもちまして、委員長としての選考経過の報告を終わります。