河上消費者委員会委員長 記者会見

2017年2月28日
消費者委員会

日時

2017年2月28日(火)17:00~17:23

場所

消費者委員会会議室

冒頭発言

(河上委員長) それでは、よろしくお願いします。

こちらからは報告事項が1件だけで、「子ども向け広告のあり方について考えるシンポジウム」というものであります。

2月18日に「子ども向け広告のあり方について考えるシンポジウム」を開催いたしました。一般的に、子供は成人の場合と比較して、広告の影響を受けやすいなどの特徴があると考えられるところでありまして、子供向けの広告を行うに当たっては、そうした子供の特徴を踏まえた配慮が望まれると考えられます。しかし、現時点ではこのテーマに関する十分な議論の蓄積がなされているとは必ずしもいえない状況であります。

そこで、学識経験者、事業者など、広告に関わる関係者の皆様に広くお集まりをいただきまして、議論を深めていただきたいということで、シンポジウムを開催いたしました。

シンポジウムは、大きく2つの部に分かれ、第1部では基調講演・リレー報告として、子供向け広告についての法律的な側面あるいは広告が子供に与える影響、広告制作者の取組などについて、学識経験者や事業者の方々に、それぞれ専門的な知見に基づいて御講演をいただきました。

続く第2部では、学識経験者、事業者等の方々によるパネルディスカッションを行いまして、子供向け広告に対する認識、あるいは子供向け広告に関する対応を検討することとした場合に、その目的をどのように考えるかなどについて、活発な御議論をいただきました。

私も、最後に取りまとめの発言をさせていただいたのですけれども、このシンポジウム全体を通じて、子供が発達段階に応じて成熟するための環境を整備することが必要であって、これは国だけではなくて企業、親とも連携して取り組むことが大切であるということ。さらに、企業も子供の健全な育成という点を意識する時代になっているのではないかということ。同時に、子供が広告を見抜く力をつけることも大切でして、消費者教育と併せて取り組んでいただく必要を痛感いたしました。

さらに、シンポジウムで議論した内容については、参加した各自が現場に持ち帰っていただいて、その日の議論を更に発展させていただき、消費者委員会にもフィードバックしてもらいたいということをお伝えいたしました。

今回のシンポジウムは、子供向け広告を考える上での議論の第一歩となると位置付けられるかと思います。消費者委員会としては、今後、このシンポジウムの成果を報告書として取りまとめていきたいと考えております。

報告事項として私から申し上げることは、以上です。あとは、質疑の中でいろいろお答えしたいと思います。

質疑応答

(問) 今のシンポの成果の報告書として取りまとめたいというのは、いつ頃なのですか。

(答) 実際に、具体的な中身についての検討はこれからになります。できればなるべく早い時期に取りまとめたいと思います。

もちろん、年度内というわけにはいかないと思いますので、年度をまたいでできるだけ早くということで、お許しください。

(問) どこかの団体とか国とか経産省とかにも提言するような内容を考えていらっしゃるのですか。

(答) そのシンポジウムを聞かれた方はもうおわかりだったかと思うのですけれども、「子ども」にもいろいろな年代がありますし、「広告」も媒体によって随分違います。

そのようなこともあって、どのような形で具体的な対策を打っていくかは、かなり細かく詰める必要があります。広告は事業者にとってみると表現の自由や営業の自由とも関わる問題でありますから、その意味ではかなり問題は錯そうしているのです。ですから、その辺をきちんと詰めた上で具体的提言にするには、もう少し時間がかかると思います。

その意味では、今回、問題を整理するという形での取りまとめに、まずはならざるを得ないのではないかと思います。

ただ、シンポジウムのときにも紹介していただいた自主的な対応、ガイドラインをそれぞれの業態の中で具体的に生かしていくことができれば、かなり前に進むのではないかという気がいたしました。

セーブ・ザ・チルドレンというところが、こうした広告ガイドラインを発出しております。これは非常によく練られたガイドラインですので、こうしたものも参考にしながら、まずは各業界がどのような取組をするかといったことを注視したいと思います。

(問) これから、各業界のヒアリングとかもやっていくのですか。

(答) まだ、そこまで話は進んでいません。

ただ、この間来てくださったのはお菓子業界の方だったのですけれども、実は自分たちも手探りなのだということをおっしゃっていて、今回、ガイドラインができたということで、大変参考になるのでありがたいというお話をされておりました。

(問) 消費者契約法の話なのですけれども、クロレラ販売訴訟で、最高裁で画期的な判断が出ましたけれども、今やっている調査会の議論にどういう影響が出るのでしょうか。

(答) あの判決自体は、差止訴訟だったわけですけれども、結局、もう業者がそれ自体は広告は出さないという状態になっていたので、そういう意味では、差止めそのものに関しては棄却という話になった判決です。

ですから、判例としての拘束力がどの程度あるかということは、また別に考えないといけないのですが、論理展開というか議論の枠組みの中で、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちには勧誘には当たらないということはできないという判断でした。

そこから、「勧誘」に当たるというために、更にどんな要件が何か必要なのかとか、あるいは勧誘に当たらないということができないという議論の射程がどこまで及ぶのかといった問題があります。あれは紙媒体での広告だったわけですが、それ以外のものに、例えばインターネットの中のホームページであったり、どこまで及ぶかという話は、まだオープンなわけです。

私は個人的には、議論そのものの射程はかなり広いと見ておりますので、これからの消費者契約の中で広告が果たす役割については、従来のような考え方よりは一歩進んだ議論になると理解しております。

消費者庁では、既にQ&Aの中で最高裁の判決に沿った解説を出しております。従来、消費者庁の解説では、広告は勧誘に当たらないという書き方をしていたのですが、そうではなくて、当たる可能性がありますという書き方に変えてくれていますので、かなり状況は改善されるのではないかと思います。

消費者契約法の勧誘に関する議論の中で、それがどういう形で取り扱われるかは、これからの専門調査会の中で議論があるかと思います。

(問) 次、確か3月ぐらいからは第2クールで、その1発目が要件の見直しだったと思いますけれども、今、おっしゃったような観点からの議論が展開されると考えてよろしいでしょうか。

(答) その辺は、今、事務局のほうで原案を検討しているわけで、実際に専門調査会でどういう議論になるかは、まだ今のところは申し上げないほうがいいし、予断は持たないほうがいいだろうと思います。

(問) 質問というか余談ですが、確か2月の上旬ぐらいに河上委員長が社会福祉協議会のセミナーで講演されました。私もいたのですけれども、珍しいと思って聞いていたのですが、そのときに委員長のほうから、特保とともに機能性表示食品制度は生き残るかどうかの正念場にあるというような御発言があって、皆さん多分聞いていてどきっとしたと思うのです。

もうちょっとその辺の詳しいところを、この場で聞ければと思いました。

(答) 機能性表示食品の制度は、言ってみれば特保制度がうまく機能していないこととの関係で、事業者のほうからもっと自分たちの責任で機能性を表示させるようにしてほしいと。その代わり、機能性の表示に関しては、科学的なエビデンスを責任持って用意するという制度にしてほしいということで、問題になったわけです。

例えば「いわゆる健康食品」の中でもかなり怪しげなものがあって、社会の中で人々の誤認を惹起(じゃっき)しているような表示をしているものがあるわけで、私は、それをいわば市場から淘汰(とうた)していく手段としては、それなりに意味があるということを考えました。消費者委員会の中でも随分議論があったのですが、9つほどの条件を付けて、この条件のもとでなら結構ですというゴーサインを出したものです。

特保制度は特保制度として既に千数百の商品があるわけですけれども、実際に動いているものは300ぐらいしかないのです。それにしても、特保の認証を受けていることによって、国民が、ある程度健康にはいいものだ、国が安全性と機能について考えて認証してくれたものだということで、信頼は勝ち得ていると思うのです。もちろん、問題もありましたけれども、しかしそういう信頼を勝ち得ている。

機能性表示食品が、特保に見合うぐらいの信頼を勝ち得るかどうかは、これからです。数の上では、実際に市場に出回る商品としては特保を超えています。しかし、企業の責任で出したようなものはこの程度かということになって、場合によっては機能性表示は信頼できないということになってしまったら、機能性表示食品制度そのものが意味をなさないのです。

私は特保制度と機能性表示食品制度が、同程度の安全性と機能性について社会から信頼を得られるようにならないと、この制度はあっても無意味だと申し上げました。

機能性表示食品制度に関しては幾つか問題も出てきたりして、みんな、そうか、そういうものかと思ってしまいますので、そういう信頼をきちんと醸成するためには、それなりの客観的なエビデンスをちゃんとそろえる必要がありますので、事業者も緊張感を持って機能性表示食品を世に送り出していただきたいと思います。

特保も特保で、この間から若干問題がありましたけれども、制度そのものを見直さないといけない時期に来ています。所詮は「食品」ですから、安全性と表示が適正であって、消費者がきちんと選べるような選択権を保障するような制度にしておかないと、両制度とも意味がなくなってしまうおそれがあるわけです。

その意味では、業界の方にも緊張感を持っていただきたいということを重ねて申し上げた次第です。

(問) ありがとうございます。

(答) それからもう一つ、先ほど最高裁の勧誘要件の話がありましたけれども、実は最高裁がクレジットの名義貸しについての判決を2月21日に出しました。割販法による取消しをクレジットの名義貸しに関して認めるかということで、第1審は認めたのですが、原審が認めなかった。それを、最高裁はもう一回ひっくり返して、認めるということで、名義貸しも取消しの対象になり得るという判決を出しています。ただ、これは差戻しになって、信義則の違反があるかどうかということをもう一回、控訴審できちんと見直しなさいということです。

昔は、名義貸しをやってしまいますと、消費者そのものが名義を他人に貸しているという点で、言ってみれば「負い目」があるわけですね。マイナスの要素です。名義を自ら貸しておきながら、その契約を名義貸しだったからということで否定することは許されないというのが一般的な裁判所の態度だったのです。けれども、最高裁は契約の実態を観察して、そのようにしてだまされた消費者の契約締結上の問題点をちゃんと見て、割販法上の取消しができるという判断をしてくれました。

先ほど、勧誘のところでも問題になったわけですけれども、今まで不特定多数の人間に対する広告は勧誘ではないといっていた。それは、実は公的なコンメンタールの記述にも責任があります。それはともかくとして、やはり最高裁が、顧客が契約締結をするときのいわば「動機」に当たる部分、契約を締結しようかと考えたときに、相手から与えられた事実が動機になって、そこで誤認をして契約を締結した場合は、やはり契約の効力を否定して構わないという判断にシフトしたと思うのです。

広告だって、それによって誤認をしてしまって影響を受けたのであれば、消契法上の勧誘として扱うべきだということになりますし、先ほどの名義貸しだって、名義を使わせてほしいと頼まれて、それが特定の人の利益になることを事業者から説得されて名義を貸してしまっている。つまり、だまされてそのようなことをやったという、動機における錯誤があったときには、契約そのものの効力を否定しても構わないという方向が明らかになったということなのです。

その意味では、最高裁が消費者契約の現実に対して目を向けてくれたということで、個人的にも非常によい判決を出してくれたと思っています。

(以上)