松本消費者委員会委員長 記者会見

2010年12月17日
消費者委員会

日時

2010年12月17日(金)16:00~16:31

場所

消費者庁6階記者会見室

冒頭発言

 本日は、3点申し上げたいと思います。
 まず第1点は、先ほどの消費者委員会で行いました建議についてでありまして「有料老人ホームの前払金に係る契約の問題に関する建議」を消費者委員会として採択いたしました。これで消費者委員会設置以来、2件目の建議ということになります。
 なぜ有料老人ホームの前払金を取り上げたかということですが、この問題について、幾つかの団体等から消費者委員会で取り上げるようにという要望がありました。それから、苦情の件数がかなり多いということ、金額が大きいということ、そして、苦情の申出者、被害者に当たる方が高齢者であるということ。これらの幾つかの点から、これを我々として取り上げたわけです。
 中身でありますが、大きく3つの内容から成っております。
 第1点が、いわゆる90日ルールと言われている、90日以内に自分には余り合っていないということ等の理由で退居したい場合には、ホテル代相当額のような部分を除いた前払金については、きちんと返還することを厚生労働省が指導指針の中で入れているわけですが、それが実際に契約内容としてきちんと取り込まれていないケースが大変多いということで、この90日ルールの実効性をもっと確保できるように、法制化等の措置を取ってほしいということ。
 第2点が、前払金についての保全措置が法律上義務付けられているわけですが、実際には、きちんとした保全措置を取っていない事業者が相当数いるという中で、もう少し実効性を強化するために、例えば前払金の保全措置を取っていない事業者に対する直罰、それだけで罰則を科すことができるという形にすることによって、事業者のマインドを変えていっていただきたいということ。
 第3点が、その他幾つか細かい点について、まとめて提案をしております。3つに分かれておりまして、1つ目は、前払金の償却年数の決め方がどうもあいまいではないか。平均余命を考慮するようにという指導はされているわけだけれども、それがきちんと契約書の中に反映されていないということで、もう少しこの点を徹底してほしいということ。
 2つ目は、書面交付義務が法律上課されているわけですが、書面に書かれている内容が必ずしも明確になっていない事項が多いのではないかといった点。もっと明確に記載させるように、規則の改正等で対応してほしいということ。
 3つ目は、有料老人ホームについての相談機関、入居前のと言った方がいいと思います。入居後の苦情についてというよりは、むしろ入居前にどういう施設が一番自分に向いているのか等について、手軽に相談に乗ってもらえるような機関を整備する必要があるのではないかという点です。
 こういった大きな3本の柱でできた建議でございます。
 2つ目が、政策コンテストの評価結果についてであります。これは皆様のお手元にも配られていると思いますが、委員長談話を出させていただきまして、本日公表したいと思います。
 御存じのように、12月1日に「元気な日本復活特別枠に関する評価会議」が、予算要求について政策コンテストとして評価結果を公表したわけです。そこで、消費者庁はB評価でしたが、消費者委員会はC評価ということです。
 BとCの違いは、Bは事業内容について積極的に評価ができる。Cは積極的に評価ができないけれども、一定の評価ができる。一定の評価をしてもらっているんだからいいではないかということかもしれないですが、消費者委員会というのは、そもそも平成21年の通常国会に際して、政府案にはなかったものを当時の野党であった民主党の強い要望、イニシアティブの下に、消費者庁の中の消費者政策委員会を独立させて、監視機能を付け加えるという形で、現政権の野党時代の肝いりでできたはずの組織なのに、にもかかわらず一定の評価しかできないというのはどういうわけだということを大変強く抗議したいわけです。
 平成21年の国会の付帯決議の中でも、消費者委員会のスタッフの機能強化について、衆議院、参議院ともにきちんと書かれておりまして、参議院の方がより踏み込んだ書き方をしているぐらいであります。消費者委員会としては、平成21年の通常国会における与野党満場一致でできて、そしてこういう付帯決議も付いて期待されているということにふさわしい監視機能を持った組織として、きちんと活動していくために、調査部門の人員増を強く要求したいと思います。これが第2点です。
 3点目が、国民生活センターの在り方の見直しに関する事柄でありまして、消費者庁の方で消費者庁と国民生活センターをメンバーとするタスクフォースをつくって、在り方の見直しを始めるということで、第1回が24日に開催されることになっています。これは消費者委員会の今年最後の開催日と奇しくも重なっているわけですが、この見直しの流れは、独立行政法人の事業の見直しという、無駄遣いをやめましょうとか、行政をスリム化しましょうといった行政改革の流れの中から来ているということです。それについての一般的な重要性を否定するわけではないんですが、他方で、国民生活センターを含めて、消費者庁、消費者委員会の所掌事務や組織については、これもまた21年の通常国会の際の法案審議において、もともと政府案にはなかった附則がたくさん入りました。付帯決議よりも一層拘束力の強い、法律の一部としての附則がたくさん入りましたが、その3項で、「消費者の利益の擁護及び増進を図る観点から、消費者の利益の擁護及び増進に関する法律についての消費者庁の関与の在り方を見直すとともに、当該法律について消費者庁及び消費者委員会の所掌事務及び組織並びに独立行政法人国民生活センターの業務及び組織その他の消費者行政に係る体制の更なる整備を図る観点から検討を加え、必要な措置を講ずるものとする」と書かれているわけで、合理化のために独法の在り方を見直せというのとは少し違った流れの下に、国民生活センターを含めた3つの組織の業務の在り方、関係等を、消費者行政をより前進させる観点から、整備する観点から検討しろと言っているわけですから、我々としては、この附則の3項で言われている観点をもっと重視して、国民生活センターの在り方の見直しに臨んでいく必要があるということを強く申し上げたいわけであります。
 以上、3点でございます。

質疑応答

(問) 今回の建議に至る際に、委員長として今回の有料老人ホームの問題のどの点が今、消費者にとって重要で、喫緊の課題だと感じているか、改めて聞かせてください。

(答) 高齢者がどんどん増えている超高齢社会になってきて、どこでどのように住もうかという高齢者の住まいの問題が大変大きな問題になってまいります。1人で住める人、介護がなければ住めない人、さまざまいるとしても、自分の最期の何年かをどういう形で、どこで生活するのかというのは、それぞれの個人の価値ある人生という点では、大変重要なことです。
 そういう選択肢の中の1つとして、有料老人ホームというのが存在し、一定のニーズがあり、入居者がいる。その中には、満足されている方もいるし、そうでない方もいるわけですが、満足できない方をなるべく少なくできるような政策をとっていくべきであろうと思います。
 満足できないことの大変大きな要因として、苦情という形で上がっているものの中に、いわゆる一時金を払って終身利用権を得るという形で入居したんだけれども、その後、さまざまな事情で転居したいという場合に、その一時金が全然戻ってこないとか、あるいは大幅に差し引かれることによる苦情が大変多いということに私どもは着目して、この調査を行ったということです。
 前払金の保全措置の方は、倒産をしたという例はありますか。それで前払金が返還されなかった例もありますか。

(答・山口委員) あります。

(答) ということで、倒産も少しずつ現れてきているということですから、金額が大変大きくて、お年寄りにとっては、もう一度やり直して別の施設でということが大変困難になるぐらいの金額だということから、政府としての対応が必要だと考えている次第です。

(問) 建議についてお尋ねしたいんですが、6月に報告を求めるとしていますね。今回の建議は、老人福祉法の改正を求めるというところが柱ですけれども、これはもちろん委員長も御存じのように、厚労省は高齢者住まい法の方に老人ホームを書き込んで、次の国会に出したいという準備を進めていますね。
 6月の報告を求めるということになると、それは国会が通常ペースでいけば、ひょっとしたら改正高齢者住まい法がもうできてしまっている可能性もあるタイムスケジュールですが、これは6月に報告を求めても、御存じのように、国会でこういうふうに改正法ができました、あしからずという報告になる可能性があるのではないかと思いますが、6月まで報告を猶予するというのはどうしてでしょうか。

(答) 建議を見ていただきますとわかるように、1つは、規則等でこういう形でもう少し手当が可能ではないかということを幾つか書いています。また、ひな形等を提示するという形で、これは非常にソフトな指導ということになると思いますが、事業者指導できないかとか、あるいは相談のための対応策を考えられないだろうかといった、幾つかの事柄を提案しております。そういう言わば現在の老人ホームの基本的な法律である老人福祉法サイドでやれることというのを1つ並べています。
 他方で、今、おっしゃったように、現在の老人ホームよりも少しハードルの高い、基準の高い施設を高齢者住まい法の方に移行させるというか、引き取っていこうという方針があると聞いております。
 高齢者住まい法の改正がまだ実現していないわけで、それが実際にいつごろ実現するだろうかということを考えますと、これは多分予算関連法案ですから、3月中には終わってしまいますか。高齢者住まい法の中に具体的に有料老人ホームと従来の高専賃を一体化したものとしての登録基準としてどういうものがつくられるかということを、我々は見なければいけないだろうし、法律の中に書かれないで、政省令の方に回されるものもかなり多いと思いますから、高齢者住まい法の方での対応がきちんとどれぐらいなされるのかということを見る必要がある。
 それから、現在の有料老人ホームの中で、高齢者住まい法の高い基準を満たしていないところのホームは、従来どおり、老人福祉法の有料老人ホームという枠にとどまらざるを得ないわけで、そちらの方に対しては、やはり老人福祉法の規則の改正等で対応していってもらわなければならないということがありますから、そういうことも含めて、半年後の6月ぐらいと設定している次第です。

(問) 今、おっしゃったように、高齢者住まい法のスケジューリングはほぼ見えているわけですから、やはり筋としては、第一段階として、高齢者住まい法の国会提出前に一旦報告を求めるということにしないと、報告を求める意味がないのではないでしょうか。

(答) 法案の内容に何を盛り込むかという点での報告を求めるということですか。

(問) はい。

(答) 途中のステップとしてお聞きするということはあるかと思いますが、高齢者住まい法をこうすればおしまいという建議ではありませんで、いろいろ書いていることについて対応してくださいということなので、6か月ぐらいの期間を置いているという趣旨です。
 それから、個別にどんどん実現していっていただいた分については、説明をしていただく、あるいはそういう報告をしていただくということはあるかと思います。

(問) わかりました。
 あともう一点だけ。先ほど、委員長が触れられましたように、やはりこの問題が象徴するのは、入居一時金の問題だと思います。これは要するに、介護保険法が導入されても、漫然と過去の商慣習が残っていたという、ちょっと変わったお金の取り方が続いていると認識していますが、抜本的な解決ということを目指すのであれば、直ちにやめれば、それは大変な老人ホーム業界の騒動になるとわかっていますけれども、中長期的な将来を見越して、この入居一時金の在り方を見直すということをこの建議案に触れられなかったのはどうしてでしょうか。

(答) 介護保険制度が始まれば、入居一時金は要らないのではないかというのは、両者で重なっている部分と重なっていない部分があるので、多分イコールにはならないと思います。つまり、入居一時金というのを有料老人ホーム業界としては、言わば終身利用権の買取りとして性格づけているわけで、それは施設の利用権、居住権の死亡時までの買取りという感じです。介護保険でカバーされるのは、住宅ではなくて、介護サービスの部分だと思いますので、介護保険制度ができたから、居住権の終身買取りという制度が要らなくなるということには多分ならないと思います。
 これは最終的には、利用者の意識の問題に還元されるところがあって、決まった金額でずっと住めるんだということにメリットを感じる方、すなわち、毎月幾らずつ払っていって、1年後にまた賃料の改定があるかもしれない、あるいは更新料も払わなければならないかもしれないという形の賃貸借ということよりも、一括で払えば死ぬまで居られるという方がいいと思われる方もいるということなので、賃料の方がわかりやすいから、すべて賃料にした方がいいとまでなかなか言い切れないところがあります。そこには一種の一時払い型の年金保険で、お金をもらうのではなくて、住宅に住めるという現物給付がされるような性格があります。例えば1,000万円を払えば、ずっと死ぬまで住む権利がもらえるというものであれば、1,000万円が年金保険の一時払いの保険料であって、それで死ぬまでの間、毎月10万円ずつ年金が下りて、それを住宅の賃料に充てるんだというかわりに、毎月ずっと住まわせてもらえるというタイプの取引だと考えれば、それはそれで一定のニーズはあり得るかと思います。

(問) 主に先ほどおっしゃったように、今は利用権であるという説明を有料老人ホーム業界などはしていますけれども、これはまさに委員長の御専門でもあると思うんですが、これは利用権であるというのは、要するに何のお金なのかいまだにあいまいだと感じるんです。委員長の利用権という説明は、リーズナブルであるという判断なんでしょうか。

(答) 今、言ったように、法律用語で言えば民法の中に終身定期金という契約制度があります。終身で定期金というお金を毎月もらうかわりに、住宅を利用するという現物給付をもらっているんだと考えれば、そういう契約はあり得る契約です。
 ただ、消費者として、どこまで冷静に判断しているかというのは、ちょっとわかりません。自分はたっぷり長生きするつもりで、この額で長生きする分ずっと住宅費をカバーしてもらえるんだからありがたいという意識を持つ方が大変多いだろうと思うんです。すぐ死亡することがわかっていて、非常に高額の一時金を払うという人はいないだろうと思います。ただ、長生きした場合のリスクを考えると、それなら一定額で死ぬまで住めるところにいた方が、自分は安心だと思う人はいると思うんですよ。ですから、その辺のそれぞれの消費者のリスク感覚に見合った内容の契約形態があるということは、おかしくはないと思います。年金は明らかに、早く亡くなれば損だけれども、長く生きればもらえる額が多くなるということですからね。

(問) 平成18年に改正法が施行されてから、規制強化をされたにもかかわらず、これだけまだ被害が拡大しているということは、委員長としてはなぜだと認識されているかお答えいただきたいです。

(答) 1つは、業者が新規参入しやすいということですね。その上に、規制強化がされたけれども、その規制の実効性を確保するための施策が必ずしも十分ではないということかと思います。例えば保全措置は、法律上義務付けられているんだけれども、実際にはしていない業者が結構な数いるということは、規制強化されたけれども、必ずしも実効性を伴っていないということです。ですから、その辺をもう少し改善してくださいというのがここでの建議の内容です。

(問) ということは、この数年間、厚生労働省がやられていた対策では、かなり不十分だという認識でよろしいでしょうか。

(答) 保全措置を取っていない事業者に対して、保全措置を取らないのであれば、業務停止だという行政処分ができるかという話が1つあります。それをやれば、今、入居している人を別の施設にきちんと入っていただいてお世話できる状態を、行政側が用意できるのかということがあって、行政としては、入居者の行く先を考えると、厳しい処分ができないんだと言っておられる都道府県関係者もいるわけです。
 ですから、既にもう動き出しているものについて厳しくやれば、単純に問題が解決するというわけには多分いかないだろうと思います。現在既に違法状態になっている業者については、違法状態を解消するように指導を続けていかざるを得ないと思いますが、とりわけ今後の新規参入業者について、罰則の強化、直罰の導入というのは、行政の命令として業務停止をするという行政に責任がかぶってくるというものではなくて、経営者個人に直罰を科すということによって、場合によっては、法人にも両罰規定ということで科すことにもなるかもしれないですが、経営者個人のマインドを変えさせるという効果があるので、行政が法律に基づいて処分をするのとはちょっと違った効果が期待できるのではないかと思われます。
 どうぞ。

(答・山口委員) 重要な事実なのは、平成18年の改正で大きく変わったのは、それまで10人以上の施設が有料老人ホームとして法規制の規制対象だったのが、1人でも一定要件があれば、全部有料老人ホームということで、守備範囲が広がってしまったんですよ。それである意味、厚労省に同情すれば、要するにピンからキリまでいろんな施設が全部有料老人ホームの範疇に入ってしまったものですから、やはりどうにも法律の規制の枠外にある事業者を減らせないという実情もございます。

(以上)