第2回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録

日時

2024年1月31日(水)16:00~18:11

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(委員)
【会議室】
沖野座長、山本(隆)座長代理、大屋委員、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員
【テレビ会議】
石井委員、室岡委員
(オブザーバー)
【会議室】
鹿野委員長、大澤委員
【テレビ会議】
カライスコス アントニオス 龍谷大学法学部教授
川和功子 同志社大学法学部教授
(消費者庁)
【会議室】
黒木消費者法制総括官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
(事務局)
小林事務局長、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    ①専門調査会の検討テーマについて
    ②有識者ヒアリング(カライスコスアントニオス 龍谷大学法学部教授)
    ③有識者ヒアリング(川和功子 同志社大学法学部教授)
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1.開会》

○友行参事官 それでは、時間になりましたので、始めさせていただきたいと思います。

皆様、お忙しいところをお集まりいただきまして誠にありがとうございます。消費者委員会第2回「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」を開催いたします。

御参加の皆様におかれましては、お忙しい中御参加いただきまして誠にありがとうございます。

本日は、沖野座長、山本座長代理、大屋委員、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員には会議室で御参加いただいております。室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。遅れて石井委員も御参加の予定でございます。

なお、本日は、所用により加毛委員は御欠席との御連絡をいただいております。

消費者委員会からは、オブザーバーとして鹿野委員長、大澤委員にはテレビ会議システムにて御出席いただいております。

また、本日、龍谷大学法学部教授のカライスコス アントニオス様と、同志社大学法学部教授の川和功子様に御発表をお願いしております。お二人ともオンラインでの御参加でございます。

議事に入る前に、配付資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第に配付資料を記載しております。もし不足等がございましたら、事務局までお知らせください。

本日は、報道関係者を除く一般傍聴者の皆様にはオンラインにて傍聴していただいております。議事録については後日公開いたします。

次に、委員の皆様へお願い申し上げます。

一つ目でございますが、ハウリング防止のため、御発言いただく際以外はマイクをミュートの設定にしていただきますようお願いいたします。

二つ目に、御発言の際は、あらかじめチャットでお知らせいただきますようお願いいたします。座長から御指名があった後に、指名された方はマイクの設定をミュート解除して、冒頭でお名前をおっしゃっていただき、御発言をお願い申し上げます。御発言の際、配付資料を参照する場合は、該当ページの番号も併せてお知らせいただきますようお願いいたします。

なお、御発言の際には、可能であれば映像、カメラのマークをオンにしていただけますと幸いでございます。

三つ目に、音声が聞き取りづらい場合には、チャットでお知らせいただければと思います。

会場にて御出席の皆様におかれましては、挙手にて御発言をお願い申し上げます。

それでは、ここからは沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。


《2.①専門調査会の検討テーマについて》

○沖野座長 ありがとうございました。沖野でございます。本日もどうかよろしくお願いいたします。

では、早速本日の議事に入らせていただきます。本日3項目を用意しておりまして、一つ目の議事が「専門調査会の検討テーマについて」でございます。前回、「今後の進め方(案)」という資料たたき台に御議論いただいた上で、追加の御意見も募集をしておりました。本日は、これまでに委員の皆様からいただいた御意見を基に、検討テーマを具体化した資料を事務方にて作成してくださっていますので、まずは消費者庁から資料の説明をお願いいたします。

○古川消費者制度課長 御指名ありがとうございます。消費者庁消費者制度課長の古川でございます。よろしくお願いいたします。

資料1に沿って説明をさせていただきます。「検討テーマと主な意見」についてでございます。こちらは前回の専門調査会において今後の進め方として提出した資料について、前回の専門調査会で御議論いただいた内容を加えさせていただいたものでございます。よって、ページをおめくりいただきまして、1、2、3と書いていますが、例えば1、消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方ということ、あとは①、②、③というふうに書かせていただいています。ここで1、2、3、①、②、③ということは、順番の入替えなど多少の変更はありますが、前回専門調査会にお示ししました今後の進め方という資料のとおりでございます。

そして、ここに黒ポツで、既存の枠組みにとらわれることなく、消費者法制度において消費者の脆弱性を捉える必要性。その下には脆弱性の類型・内容、その下に指標など、他のところの項目にも黒ポツを加えております。これは、前回の専門調査会での委員からの御指摘などを踏まえまして、各項目において今後どのような事項を深掘りして検討していく必要があるのか、今後行うヒアリングにおいてどのような観点で質問したり整理したりすればよいのかというものを記載させていただきました。このポツの記載内容は、これで確定ということではなくて、今後の専門調査会での御議論を踏まえて追加したり、修正され得るものと考えております。

2ページ目を御覧いただければと思いますが、点線囲みで各項目に関連して前回の専門調査会で指摘のあった主な意見の概要を記させていただいております。詳細は割愛させていただきますが、お名前を載せているわけではないですけれども、それぞれの御議論、御発言いただいたものを抽出してございます。

すなわちこれは何かと申し上げますと、専門調査会で議論いただく課題の全体像をマッピングしたものというふうに御理解いただければと思います。例えば本日は、カライスコス教授、川和教授には外国の状況を御説明いただくことになろうかと思いますが、それは1とか2の全体に関わってくるものと考えております。例えば今後、1の①の脆弱性に特化して深掘りしたヒアリングをされたり、デジタルのところに特化しますとか、そういうことを進めていくことになろうかと思いますが、この資料で議論全体をマッピングして、これとの関係で今どの部分の議論をしているのかというのを整理しながら、理解しながら進められればいいかなと思って準備したものでございます。

今後、ヒアリング対象者が決まり次第、委員には随時お知らせさせていただきたいと思います。また、こういった有識者からヒアリングして論点を深掘りしたいとか、そうすべしという御指摘があれば、それを踏まえて対応させていただきたいと思いますので、随時御連絡いただければと思います。

この資料につきましては、専門調査会での議論を進めていく中、折を見てこの資料の内容をバージョンアップして、委員にお示ししたいと考えております。

以上でございます。

○沖野座長 ありがとうございました。

今、御説明のありました内容につきまして、御質問や御意見はございますでしょうか。新しく作っていただいた全体のマッピングというふうに言われたかと思いますけれども、それについて、現時点でのものですので、そのようなものとしてということになりますけれども、この時点で何か御指摘いただくことなどはございますでしょうか。よろしいでしょうか。

オンラインのほうもよろしいかと思います。

それでは、あくまで現時点での整理ということで、今後の議論状況に応じて変わっていくところもあると思いますけれども、今後のヒアリングですとか議論を進めていくに当たって念頭に置いていただければと思います。


《2.②有識者ヒアリング(カライスコス アントニオス 龍谷大学法学部教授)》

○沖野座長 それでは、次の第2、第3の議事が有識者ヒアリングということになっておりまして、そちらに入りたいと思います。

前回、専門調査会の進め方につきまして御意見をいただく中で、海外の状況を踏まえる必要性についても言及をいただきました。消費者法制度のパラダイムシフトを考えていく上で諸外国の対応を参考にするという意味でも、あるいは日本の法制度の特徴を再認識するという意味でも非常に重要なことと考えております。

本日は、前半で、龍谷大学法学部教授のカライスコス アントニオス様から「EUにおける消費者法制」について、後半で、同志社大学法学部教授の川和功子様から「アメリカにおける消費者法制」について、それぞれ御発表をいただきます。前半、後半それぞれにおきまして意見交換の時間もお取りしたいと考えております。

そこで、早速でございますけれども、前半といたしまして、カライスコス教授から25分程度を目安として御発表いただきまして、その後、カライスコス教授の御発表内容を中心とした意見交換を30分程度行いたいと考えております。

それでは、カライスコス教授、どうかよろしくお願いいたします。

○カライスコス教授 沖野座長、ありがとうございます。ただいま御紹介にあずかりました龍谷大学のカライスコスと申します。私のほうからは、事前に配付いたしました、今画面投映をしております資料に基づいて発表を行いたいと思います。タイトルとしましては「EU消費者法の展開と展望」としております。

簡単な自己紹介の部分は飛ばしまして、報告の流れですが、まずはEU消費者法の展開、次にEU消費者法の近時の動向、さらにはEU消費者法の特徴と展望について御紹介をしたいと思っております。

その際、本専門調査会の関心事項との関係で、EU消費者法はかなり広範であり、様々な領域にわたるということもありまして、次の三つ柱に主にフォーカスをしたいと考えております。すなわち1番として現代化、2番としては実効性確保、3番がグリーンへの移行、さらにはデジタル・トランスフォーメーションへの移行です。

それでは、まず1番のEU消費者法の展開から始めたいと思います。

こちらのスライドにありますように、1980年代から、個別の領域や取引類型に適用される一連の指令を通じて、EU消費者法の平準化作業が進められてきています。主な指令としましては、こちらにあります製造物責任指令、不公正契約条項指令、不公正取引方法指令、さらには消費者権利指令、デジタル・コンテンツ供給指令、物品売買指令などを挙げることができます。例えば、EU消費者法の特に当初の状況を見ていますと、初期の段階では訪問販売に関する指令、あるいは通信販売に関する指令といったように、個別の領域や取引類型にかなり特化した指令が順次採択されてきたという経緯があります。

そのため、このスライドの真ん中より下の米印のところにありますように、EU消費者法の断片化、これはモザイク構造とも呼ばれていますが、この状況が問題視されるようになりました。個人的には、今日の日本法の状況と同じような状態だったのではないかと認識しております。そして、そのような問題が浮上したということから、それまでのいわゆる垂直的な指令、つまり個別の領域や取引類型に特化した指令ではなくて、いわゆる水平的指令、すなわち分野横断的な水平的な規制を行う指令によって、この問題を解決するということが試みられました。

先ほど御紹介した上の部分の指令の中ですと、そのような水平的な指令としてまず採択されたのは不公正取引方法指令で、その次が消費者権利指令だということになります。これらについては、また後ほど御紹介をしたいと思います。

ちなみに、先ほど日本法で今日同じような状況が見られるということをお話しいたしましたが、そのようなことは既に日本法の中でも認識がされていて、このスライドで御紹介しています2022年2月18日の日弁連の意見書においては、正に分野横断的なルールの必要性というものが唱えられています。すみません。このタイトルのところをかぎ括弧で閉じるのを忘れておりましたので、補っていただければ幸いです。申し訳ありません。

また、これらのEU法の指令ですが、その平準化の程度には、下限の平準化というものと最大限の平準化というものがありまして、前者はあくまでも最低水準を示すもの、後者は完全にその水準を加盟国が目指さなければならないというものとして機能します。近時では特にEUの消費者の権利強化のために完全平準化指令が採択されることが増えています。さらには、規則の採択も増加傾向にあります。指令の場合には加盟国が国内法に指令の目的を達成するための規定を設けることが必要ですが、規則はそのような国内法化を要することなく当然に国内法となりますので、より高度の統一性を達成することができるわけですが、最近では消費者法の領域でもこの規則がより頻繁に用いられるようになっています。

次の指令ですが、このように、先ほどのスライドで御紹介しました通り、実体法についてはかなり高度の平準化が進められてきていて、現在も進行中ということになりますが、他方でエンフォースメントについては、基本的に、過去においては加盟国の国内法に委ねるという手法が取られてきました。指令の中では、実効化のあるエンフォースメントを確保してくださいという趣旨の規定を置くにとどまり、あとは加盟国に委ねるということになるわけですが、そのため、ドイツ、フランスなど加盟国によって異なるアプローチが取られてきています。例えば、ドイツの場合には、基本的に消費者団体、あるいは競争事業者、事業者団体、商工会議所といった存在による提訴を基に権利実現が進められるのに対し、フランスあるいはEUを離脱したイギリスなどにおいては、民事的な執行、刑事的な執行、さらには行政的な執行という多様なメニューを準備してエンフォースメントを行ってきています。このように加盟国によってエンフォースメントのやり方に違いが見られるようになったことから、このスライドの真ん中より少し上にありますように、実効性の程度に相違が生じてしまい、これが問題視されるようになりました。

そこで、スライドの下の部分にある現代化指令、2019年の指令ですが、例えばこの指令は、主な目的の一つとしてエンフォースメント、実効性の確保を更に強力なものにするということを目的として掲げました。そして、一つ目の矢印にありますように、四つの重要な指令に罰則に関する規定を追加しました。つまり、加盟国はもはや罰則を設けるかどうかを自由に決めることができるのではなくて、これらの指令の適用範囲については必ず罰則を設けなければならないという義務を課されたわけです。

この罰則という用語ですが、英語の基の単語はpenaltyでして、行政的な罰金であることもあれば、刑事的な罰金であることもあって、それらを全て含めた用語、概念として用いられているということです。さらには、この現代化指令によって、このスライドの一番下にありますように、不公正取引方法指令という先ほど御紹介した水平的な指令に民事的な救済についても、これを加盟国に義務化する規定が追加されました。

次のスライドに主な指令を幾つか取り上げて、その民事効、そしてさらには実効性、罰則というものをまとめております。罰則は、先ほど申し上げたとおりpenalty、刑事的なものと行政的なもののいずれも含むものとなっていますし、実効性というのはやや特殊な用語、概念でして、基本的には行政ルールが念頭に置かれていて、行政による差止めなどですが、さらには裁判所による差止めとか、あるいは代表訴訟、日本でいうところの団体訴訟というものも含まれていまして、かなり広い意味での概念になっています。民事効は基本的に日本法と同じような内容となっています。

時間との関係でこれら全ては御紹介できませんが、不公正取引方法指令の2019年の現代化指令による改正で、それまで義務化されていなかった個々の消費者による損害賠償請求がまず義務化されました。それ以外にも契約の解消とか代金の減額というものも、加盟国が必要に応じて設けることができるということになりました。

次に2番に入りたいと思います。2番はEU消費者法の近時の動向ということですが、コロナ禍において、EUでもいろいろと消費者の不安を利用するような商法がかなり頻繁に出現しまして、それによって消費者の権利を更に強化するということの必要性が認識されるようになりました。

そこで、これは後でまた御紹介いたしますが、新消費者アジェンダというものにおいて2020年から2025年の間にEU消費者法で達成されるべき目的が掲げられまして、こちらの①から⑥、個別には読み上げませんが、このような方向性で消費者の権利を強化するためのアクションが取られることになり、現在なお進行中のプロセスです。少し幾つかピックアップして特に申し上げたいのは、②のより適切な情報提供というものの中に、持続性の側面を含むということ。そして、実効性の確保は、ここでもやはり問題視されて、更に実効性を確保しなければならない、より強力な執行体制を設けなければならないということが目的として掲げられているということです。

なお、最近のEU消費者法の動向を見ていますと、先ほど申し上げたものの他に、市場法としての位置付けがかなり強化されてきているということが挙げられます。これはすなわち消費者の権利も保護する、消費者を保護するということだけではなくて、消費者法を通じて健全な市場法を確立しなければならないということです。このことが大きな命題となっていて、EU消費者法が市場法として位置付けられています。

GDPR(一般データ保護規則)やP2B規則(オンライン・プラットフォームにおけるビジネス・ユーザーのための公平性・透明性に関する規則)などにも、このような方向性を見いだすことができますが、ここで少し注目をしたいのは、これらの規則が、いずれも域外適用に関する規定を設けていまして、すなわちEU域外に所在する事業者であっても、一定の要件を満たす場合にはその事業者に適用されるものとなっているということです。このことについても、また後ほど申し上げたいと思います。

次に、3枚スライドを使いまして、近時の動向の中でも特に特徴的なもの、かつ本専門調査会の関心事項に近いものを御紹介したいと思います。

一つ目として、このスライドにあります消費者のためのニュー・ディールが挙げられます。これによって、先ほども申し上げましたが、まず現代化指令が採択されて、これによって次の指令が改正されました。不公正契約条項指令、これは基本的に事業者と消費者との間における契約条項の規制を行うものです。さらには価格表示指令、これは価格の適切な示し方を確保するものです。不公正取引方法指令、これは消費者取引において事業者は不公正な取引方法を行ってはならないという水平的な規制を行うものです。さらには消費者権利指令、こちらは消費者に対する事業者の情報提供義務について、同じく分野横断的に水平的に定める指令ですが、これらの指令の中に、デジタル化への対応のほか、実効化のための措置として、先ほど申し上げましたので繰り返しませんが、民事的な救済というものを全ての加盟国が採択しなければならないということを義務づける規定も入れられました。不公正取引方法指令に関する規定です。

さらには、②として2020年の消費者代表訴訟指令がこのニュー・ディールの一環として採択されましたが、従来、EUには集団的な保護手段としての差止請求については指令があったのですが、いわゆる被害回復については指令がなく、フランスのように既にそのような制度を設けている国もあれば、そのような制度がない国もありましたが、この指令によって、いずれも採択しなければならないということが義務化されましたので、今後は双方があらゆるEU加盟国で存在することになります。これも実効化の措置として位置付けることができます。

次に2番ですが、デジタル・サービス法パッケージ、2020年のものです。日本でもかなり注目されているデジタル・サービス規則とデジタル市場規則によって構成されています。前者は、EU消費者保護上における最大級の立法として位置付けられているということで、オンライン・プラットフォームなどの仲介者というものを、その規模や役割に応じて四つのカテゴリーに分けて、それぞれのカテゴリーに異なる義務を課しているという点が特徴的です。

デジタル市場規則のほうですが、こちらは主に競争法の分野に位置付けられるものでして、かなり大手のものであるゲートキーパーとして機能するオンライン・プラットフォームを規制するものとなっています。これらいずれの規則も域外適用の規定が入っていますので、EUが自分のスタンダードを諸外国にもかなり強力な形で浸透させようとしているという姿勢が見られます。

三つ目として、先ほど少し申し上げました新消費者アジェンダですが、これは2020年から2025年までの目的について掲げるものであって、主な柱としては、グリーンへの移行、そしてさらにはデジタル・トランスフォーメーションへの移行が挙げられます。グリーンへの移行ですが、持続可能な商品の提供、持続可能な選択肢を消費者に提供するための情報提供義務などといったことについて目的がここでは掲げられています。デジタル・トランスフォーメーションのほうですが、ダークパターンや隠れた広告、人工知能、製品の安全性などについて、ソフトウェアとかアップデートといったデジタル社会ならではの要素を取り入れた対応を実現しようとするものとなっています。

最後に3番ですが、残り10分を使いまして、ここまで御紹介しました様々なこれまでの展開とか、あるいは近時の動向を踏まえて、日本法との関係でどのような点に特に注目するべきなのかについてまとめたいと思います。

一つ目、まず現代化関連ですが、EUでは、情報提供モデルというものがかなり変わってきているということが言えると思います。これは日本法にはない制約なのですが、EUには、EUが持つ権限と加盟国が持つ権限が分けられているということの関係で、EUは最小限の介入しかできないという縛りが課せられています。そして、EU消費者法の領域における最小限の介入としてこれまでよく使われてきたのが情報提供モデル、すなわち事業者に、消費者に一定の情報を提供することを義務づけるというものです。そうすれば、あとは消費者が合理的な選択をして適切な選択や行動をするというモデルですが、これが少しずつ変わってきています。どのように変わってきているのかといいますと、まず、特にオンライン・プラットフォームといった主体に、ユーザーに関する情報提供義務、つまりオンライン・プラットフォーム自らの情報ではなくて、オンライン・プラットフォームを用いるユーザーの情報を他方のユーザーに提供させたり、さらには、ユーザーが、それぞれ自らが負担する情報提供義務を適切に履行できるようなインターフェースの設計をオンライン・プラットフォームに義務づけるということです。これは設計上の義務と呼ばれているものですが、このように日本法でも最近よく議論されている共同規制のようなものが、国家だけが消費者を保護するのではなくて、かなり重要な役割を果たすオンライン・プラットフォームにもその規制の一部を担ってもらって、協力をしてもらうというようなことが情報提供モデルにおいてであったり、あるいはより広く見られるということです。

二つ目ですが、②の下に書いてありますように、現在、EUでは、デジタル・フェアネスに関するフィットネス・チェックというものが進行中でして、その結果が今年の第2四半期に公表される予定です。このフィットネス・チェックというのは、先ほど御紹介したEUの主な指令の幾つかを対象として、オンラインとオフライン、デジタルと非デジタルとで同程度、同様の消費者保護水準が確保されているのかを確認するものとなっていて、それが確保できていない場合には、更に立法のための提案が行われるということが想定されています。

既にEUでは、デジタルと非デジタルにおける消費者保護の同等性ということを目的として、例えばデジタル・コンテンツ供給指令で対策がされています。この指令は消費者に対するデジタル・コンテンツ、デジタル・サービスの供給に関するものです。この指令の中で消費者側に幾つかの救済手段が付与されていますが、それらと物品売買指令、消費者に対する一般の物品の売買における救済手段がほぼ統一されています。これは意図的に行われたわけです。そして、さらには、今日のデジタル化社会の中で重要となる、EUでは「デジタル要素を伴う物品」と呼ばれているものですが、例えばスマートフォンとかスマートウォッチ、スマートホームなどに適用される規律が明確化されています。つまり、日本でも、例えばスマートフォンはソフトウェアがないと基本的に機能しないわけですが、ソフトウェアに何か欠陥があった場合に、その責任を負うのはソフトウェアの提供者なのか、スマートフォンの機械自体の提供者なのかということが問題になったりするわけです。EUでは、基本的に機能するために欠かせないようなソフトウェアなどについては、物品そのものを提供した者が責任を負うということで明確化が行われました。

他にも、製造物責任指令が改正されていまして、例えば欠陥のない製造物とするために必要なアップデートの提供については、それを欠陥の概念の中に取り込むというような改正提案が行われています。つまり、今日では、引渡しの時点において判断される欠陥というものが、今後はしばらく引渡しの後も続く一定の期間にわたって判断可能になるということです。他にもAI関連法の制定というものが行われたりしています。

次のスライド、実効性確保というところですが、先ほども申し上げましたように、加盟国間でこの実効性の程度に相違が見られたということから、最近の強い傾向として、EUレベルでそもそも一定のエンフォースメント手段を義務化するという動きが見られます。先ほど申し上げましたように、特に最近で行われたものとしては、罰則を必ず設けなければならないということが挙げられます。これには行政的なものと刑事的なものの双方が入るわけですが、そして、民事的な救済手段も付与しなければならないということで、言わばフランス法的な多様性のあるモデルを全ての加盟国で確保するということが実現しています。

他には②の手続的側面の強化ですが、こちらはEU消費者法において、実体法だけではなくて手続法においても事業者と消費者との間に格差があるのだということを念頭に置いて、例えば裁判所が職権で不公正な契約条項に関する審査を行うことができるということを判例法で確立したり、ADRやODRを強化したり、あるいはオンライン・プラットフォームに対して苦情申立ての解決のための手続を義務化したり、代表訴訟指令、集団的な保護の手段を強化したりということが行われています。

ちなみに、この代表訴訟指令ですが、厳格な要件を設けながらではありますが、第三者による消費者団体などへの資金提供というものも制度として認められるようになっていて、これも実効性確保のための一つの要素として捉えることができるのではないかと思います。

③の加盟国間の協力・連携の強化というところですが、やはり加盟国をまたぐような消費者被害が増えているので、それに適切に対応できるような仕組みが取られています。③については、日本法は単独の国家ですのであまり関係なさそうにも思えますが、実は日本法に置き換えるならば、中央政府と地方自治体との連携が今後ますます必要になるのではないかと、そのような方向性を示すのではないのかと個人的には思っております。

最後のスライドですが、特に最近、現在進行中のEU消費者アジェンダの中で、グリーンへの移行とデジタルへの移行という二つの大きな柱が立てられていますが、一つ目の持続可能性、これは今後かなり重要になっていきまして、EUの消費者法が日本の消費者法に与える影響の中でも大部分を占めるようになると私は予想しております。どういうことかといいますと、例えば事業者が環境主張を行うような場合に、その透明性を確保する、そして正確性を確保するというための新しい指令が提案されていたりしていますし、他にも持続可能ではない商品を市場から排除する。あるいは修理する権利を優先させるというような方向性の転換が見られます。

クエスチョンマークつきで消費者保護水準の低下ということを書いていますが、これは何かといいますと、一部では持続可能性を考慮すると、例えば先ほど申し上げましたように、修理する権利を優先してしまうと、交換してもらうという権利が後退する、というような懸念に関するものです。これは消費者保護水準の低下なのではないのかという考え方も示されていますが、見方を変えれば、市場において持続可能な商品が増え、修理可能な商品が増えます。このことによって更に消費者に新しい選択肢が提供されていて、選択肢が縮減するわけではないし、消費者保護水準はどうなのかというと、基本的には、EUではこれまで構築されてきた消費者保護というものを維持する方向性が示されてきているので、新しい手段において、もしかしたらこれまでのように強力な消費者保護水準が確保できないかもしれないという程度の懸念かと思います。

最後ですが、デジタル化が進む中で、このデジタル的な事業者による取引方法というのは、ますます消費者の個人データを利用するものとなりつつありますので、消費者保護と個人データ保護法との関係がより重要になってくるということがEUでも議論されていますし、このような方策を念頭に置いた対応もますます必要になるのではないのかということが言われてきています。

時間的な制限との関係で分かりにくい部分があったかとは思いますが、いろいろと御質問、御指摘をいただければ幸いに存じます。御清聴いただき誠にありがとうございました。

○沖野座長 カライスコス教授、ありがとうございました。限られた時間の中で的確に御説明くださいましてありがとうございます。

ただいまのカライスコス教授からの御発表の内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。冒頭に御説明がありましたけれども、会場にいらっしゃる方は挙手の形でお知らせいただき、オンラインで御参加の方はチャットに入れてくださるようにお願いいたします。

それでは、どなたからでも、どの部分からでも、どの点についてでも結構ですので、御質問や御発言がありましたらお知らせくださいますようにお願いいたします。いかがでしょうか。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 御説明ありがとうございました。資料の9ページの構成図を見ますと、民事効や罰則というルールのグラデーションだけではなくて、営業所外契約であるとか物品等契約適合性などの個別分野の指令と、不公正な契約条項や取引過程全体の規制などの通則的な、言わば横串的な指令の両方があるというのが分かります。どんな消費者でも、例えば脆弱な状況にあったとしても安心して取引ができるように、抜け落ちる箇所、漏れがないというようにするためには、このルールのグラデーションと重層化というのが大変参考になるなと思いました。

日本の消費者取引に関する一般法としての消費者契約法の要件は、現在非常に細かく規定されております。仮にこの要件をある程度緩めて、適用範囲を拡大したとしても、他の法律との役割分担だとか守備範囲を厳格に考え始めると、モザイク構造からの脱却というのがなかなか難しいのではないかと思うところを感じました。

そこで質問させていただきたいのは、資料の9ページでは、各指令の対象事項が並べられていますが、これらの対象事項には重複する部分もかなりあると思います。指令の全体像を考えたときに、各指令の役割分担だとか重複部分ということがある、あるいはそのことについて、EUではどのように考えられているのか、どういう発想でこういう指令をいろいろ作っているのかというところを教えていただければと思います。

もう一つ、2点目として質問させていただきたいのですが、資料の中では実効性の確保のためにいろいろ強化がされてきていると、現段階の動きとしてそれがあると。ただ、これは裏を返すと、実効化がやはり弱かったから強化していくということの現れだと思います。様々な手法によって実効性の強化策が取られたことによって、実際に被害の発生だとか被害相談件数、あるいは被害の回復額だとか、そういったものに変化があったのか、あるいは定量的なものではなくても、消費者は安心して暮らしていけるようになったなという安心感に変化があったのか。その実効性がどういう形で捕捉できるのか、分かれば教えてください。

以上です。

○沖野座長 それでは、2点お願いします。

○カライスコス教授 御質問いただき誠にありがとうございます。

一つ目の御質問と最初にいただいた御感想の部分に併せてお答えしたいと思います。まず御質問については、重複はかなり広い範囲で見られますし、守備範囲についてもかなり広い範囲で重複が見られて、役割分担の部分でもかなり重複が見られるというのが回答です。それはどのようになっているのかという点ですが、このことを三つのレベルに分けてお答えしたいと思います。

まず一つ目として、このスライドに挙げましたように、いろいろな指令があるわけですが、不公正取引方法指令は、取引の前、最中、後に事業者が消費者に対して行う不公正な取引方法を包括的に制していて、不公正なものであってはならないということを言っていますので、契約の存在も必要ではないですし、取引方法なので、広告とかマーケティングとかさらにはアフターセールも全て入るというかなり広い包括的な規制をしています。まずこの指令が一般法として存在していて、それと一緒に消費者権利指令、これは先ほど申し上げたように、一般法として基本的に事業者が消費者にどういう情報を提供しなければならないのかも規律しています。この二つの一般法として機能する指令と特別法として機能する指令はかなり広い範囲で重複していて、例えば不公正取引方法指令のガイダンスというものがあるのですが、このガイダンスを見ると、不公正取引方法指令とその他のたくさんある特別指令、特別法として機能する指令との関係性について、かなりページを割いて説明がされています。

基本的な方針としては、特別法である指令を優先しつつ、何かがそこから漏れていたら一般法である指令が適用されるという関係性になっています。なので、日本法では、例えば今のデジタルサービス法でダークパターンの規制がされたとか、あるいは少し前ですと、オンライン・プラットフォームのための指令がEUで出たということで注目がされるのですが、EUの研究者と話していますと、いやいや、もうそんなものは2005年の不公正取引方法指令でそもそも規制済みであったのだけれども、若干不適切な部分があったので、それを明確化するために特別な指令を設けただけで、そこから漏れるものは、また再び2005年の指令に戻って規制するということで、この一般法として機能する分野横断的な指令があるということが、その役割が非常に重要だというのが1点目です。

エンフォースメントについての重複ですが、こちらも同じような考え方がされているというのが私の認識です。つまり、単独の指令の中で、例えば不公正取引方法指令の中で行政的なエンフォースメント、刑事的なエンフォースメント、さらには今回、民事的な救済手段というものも入りましたが、それぞれの役割分担とか関係をかなり厳密に考えるのかというと、そうではなくて、これはフランスとかの加盟国のスタンスを見ていてもそうなのですが、メニューを広く用意しておいて、場合に応じて適切なものを使うということが行われています。例えば消費者の被害回復であれば民事的な救済手段を使う。その事業者に悪意があったかどうかは別として、何かルールに違反したのであれば行政的な制裁をかけていく。さらには悪質で繰り返しあえて違反行為をしている事業者であれば刑事罰を使うというふうに、メニューは広く準備しておいて、しかし、どれがどのような場面で必要なのかはあらかじめ分からないし、実効化のために広くメニューは準備しておいて適切に使っていくという方針です。場合によっては重複することもあり得るけれども、そこは執行機関、執行当局は適切に調整を取っていくという考え方だと思っております。

三つ目ですが、不公正取引方法指令の中で脆弱な消費者に関する規定が置かれていますが、時間との関係で詳細は申し上げませんが、消費者全般の平均的な消費者を一般的に基準としながら、特定の消費者集団に向けた取引方法については、その集団の平均的な消費者を基準とし、さらに、脆弱な消費者に対する取引方法については、脆弱な消費者の中の平均的な者を基準とするということで、ここでもやはり漏れがないように基準を変えているという特徴があると思います。

二つ目の御質問ですが、EUは、日本ほど調査の中でいろいろな件数であったりとかを分析するというような方向性はあまりないのですが、しかし、そうは言いましてもこれまでも幾つか実効性について、どのような水準にあるのかという調査とか確認はされてきていまして、2019年の現代化指令の前も、一定水準の実効性は確保できていたということはまず明確になっています。しかし、加盟国によってばらつきがあるのは、EU市場としてはよくないということで更に強化をして、この強化をした後の件数が今後どんどん出てくるのかと思いますが、EUにいる知り合いと話していると、先ほど教授がおっしゃられた肌感覚みたいな感じて申し上げますと、やはりかなり安心して取引ができるということができます。実体法もかなり強化されているし、エンフォースメントも今度は更に強化されて、これまでだと、どの加盟国にいるのかでややばらつきがあったのが、今後はもはやそういうことがなくなっていくということです。

ここで少し難しいのが、これは日本法の課題でもあると私は思っているのですが、被害や執行の件数が少ないということは、それがいいことなのか、よくないことなのかというのは見方によって変わるのだろうなというところを少し懸念しています。日本における立法過程における立法事実の在り方にも関連する問題です。EUの研究者と話していると、執行が適切に機能していないから件数が挙がってこないということもあり得るし、見方はいろいろなので難しいところはあるということを負われます。少し脱線して申し訳ありませんが、私のほうからは以上です。もし適切に御回答できていないところがあれば御指摘いただければと思います。

○沖野座長 ありがとうございました。

二之宮委員、いかがですか。

○二之宮委員 ありがとうございました。よく分かりました。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、他にはいかがでしょうか。

では、大屋委員に御発言いただいて、鹿野委員長からチャットに入れていただいていますので、大屋委員の後に鹿野委員長にお願いしたいと思います。

○大屋委員 大屋でございます。御説明ありがとうございました。

2点ほど伺いたいと思います。おっしゃったとおり、EU消費者法については、教授の御説明によると、特に不公正取引方法指令のようなところでは、かなり包括的あるいは概括的な規定がされていて、したがって、抜け漏れがないように受け止めることができているという御説明でございました。お伺いしたいのは、第1に、そういう概括的規定を設けられると、いざというときにいろいろと引っかかったら困るなというような産業界からの反応があったのか、なかったのか。あったとすればどのぐらい激しいものであったのかという点。

それから、やはり様々な規定が設けられていると、その適用の仕方において、よく言えば執行機関による弾力的な対応ができるということであるわけですが、逆に言うと、執行機関の腕前であるとか能力次第では、大変不適切な使われ方をしかねないといったような懸念も理論的には考えられるところであると。その辺り、要するに執行機関に対する信頼といったようなものがヨーロッパにおいてどのような状態にあるのかということについて、これは定量的にお示しいただくことは当然難しいと思いますけれども、教授のお考えを伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

○カライスコス教授 貴重な御質問をいただき誠にありがとうございます。

一つ目の御質問ですが、御指摘のとおり、不公正取引方法指令は、不公正な取引方法をしてはならないという大きな一般条項がありますので、その一般条項の中で具体的な要件も定められていますが、それでもやや抽象的な内容になっているので、それへの対応として、この大きな一般条項以外に小さな一般条項と呼ばれているものが設けられています。不公正取引方法の中の代表的なカテゴリーとして、日本で言うところの誤認を生じさせる取引方法と、困惑を生じさせる取引方法について、小さな一般条項が置かれています。これは正におっしゃられたように、執行当局、規制当局あるいは裁判所が、なるほど、このようなものが代表的なものとして考えられているんだなということを分かりやすいようにしてあるものです。

それの更に先の三つ目の段階として、ブラックリストと呼ばれている、いかなる場合にも検討の余地なく当然に不公正となる取引方法のリストが掲げられていまして、それに該当するような取引方法は一発でアウトだということになります。そうしますと、EUの事業者としては、確かに包括的な規制なのだけれども、その包括性、抽象性を緩和するために小さな一般条項もあり、具体例を示しているブラックリストというものもあり、そのような形になっているので、ブラックリストと小さい一般条項を見ればそれなりに、なるほど、この辺りはアウトなんだろうなという予見可能性が確保されているというのが1点目です。

もう一つは、これはあくまでも私の認識なのですが、EUの事業者と日本の事業者の考え方に少し違うところがあると感じています。私が今まで研究する中で接してきた日本の事業者ですと、名前が報道されるだけでもそれはマイナスなんだという考え方です。しかし、EUの事業者であれば、正におっしゃられたような、例えば一生懸命法令遵守をするために頑張っていたのだけれども、不公正な取引方法になってしまったという事案であれば、恐らく規制当局もエンフォースメントする際に、これは今回は差止めという形で、しないでください、今後はそれを繰り返すことがないようにしてくださいという程度にとどめて、何かそれに対して追加的な制裁を科すことはあまりないかとは思います。そして、事業者としても、むしろそれをチャンスとして、私たちは、これはこういうことで勘違いをしていましたが、今回よく分かりましたので、これからは気をつけますということで、より消費者に対する信頼が増すというような考え方をしている事業者が多いようです。そのため、今まであまり包括的な規制だから怖いというような声は、少なくとも私は目にしたことはないし、聞いたこともあまりないというのが現状です。

二つ目の御質問につきましては、これはおっしゃるとおりでして、それもあって、実体法レベルでもそうだったのですが、やはり加盟国によっては、より積極的な当局と、より積極的ではない当局がありました。この点についてもやはりEUもいろいろなデータとかを用いながら、全ての加盟国でどの程度の実効性が確保されているのかということは確認しています。ここはおっしゃられたとおり肌感覚的なものになりますが、信頼というものについては、行政がかなり積極的に介入してくれるという部分については信頼があると私は感じています。行政そのものに対する信頼はもしかしたら日本のほうが高いのかもしれないですが、行政の消費者被害に対する積極性という意味については、かなり積極的に動いてくれるという信頼はありますし、執行の体制、これは先ほどの二之宮委員の御質問にも関連するのですが、このスライドで挙げている例えば民事効、実効性、罰則というところを御覧いただきますと、民事効は基本的に個々の消費者が例えば提訴をする、あるいは消費者団体が提訴をする場合もあるかと思います。実効性の中に行政による差止めとか、裁判所による差止め、団体訴訟とか、あるいは個人による差止めとかも入ったりしていますし、罰則のところも行政と刑事、刑事ですとやはり消費者とかも動いたりするので、様々な主体が動けるような仕組みになっているというのも大事だと思います。行政だけに頼るのではなくて、個々の消費者、個別の消費者団体で、ドイツとかにおいては事業者団体とか、商工会議所とか、様々な主体が健全な市場を確保するために動けるということです。これも正に、例えば当局が積極的に動かないような場合に補完的に機能しているのではないのかと考えております。

もし適切に御回答できていない部分がございましたら御教示いただければと思います。

○大屋委員 ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、鹿野委員長からお願いできますでしょうか。

○鹿野委員長 鹿野です。よろしくお願いします。オブザーバーなのですが、前回、座長から、オブザーバーでも発言をしてよいというお話をいただきましたので、質問をさせていただきます。大きく2点ございます。

第1点は、一言で言うとEUの立法プロセスといましょうか、立法事実の捉え方についての質問です。具体的には、例えば7ページのところで、EUでも昔は断片的な規律であったけれども、その後、その弊害を認識し、分野横断的、水平的な指令を作ってきたという御説明があり、これは非常に重要なところだと認識しております。また、実効性確保のためのルールの整備というところも重要だと思っております。日本でも例えば分野横断的なルールが必要じゃないか、後追い的な規律ではどうしても対応できないものが出てくるのではないかということが指摘されてきたわけですが、日本では厳格な立法事実論が主張されて、なかなかそれが実現されないという傾向があったのではないかと思います。

EUにおいても立法事実というものは前提になっているのではないかと思うのですが、恐らく、その立法事実の捉え方が違うのではないかと思われます。そこで、その点について教えていただきたいという点が一つです。

それから、2点目はデジタル化への対応に関するものです。これについてもいろいろと御説明をいただきありがとうございました。特に17ページ辺りのデジタル・フェアネスに関するフィットネス・チェックについて具体例を挙げて御説明いただき、非常に参考になりました。これはコメントでございます。質問は、それにも関係するのですが、EUのデジタル化への対応のときに、いわゆるデジタル脆弱性と言われるようなところがどのように捉えられてきたのかという点です。デジタル化関連のいろいろな改正がありますので、個々的には様々な規律に盛り込まれているというふうには認識しているところですが、もう少し広く見て、デジタル脆弱性というものの捉え方について教えていただければと思います。よろしくお願いします。

○カライスコス教授 御質問いただき誠にありがとうございます。

1点目の立法事実ですが、これは鹿野委員長が指摘されましたように、日本法とは完全に異なる捉え方がされていまして、それまでにどのような被害が生じているのか、相談件数がどれぐらいあるのかということももちろん参考にはされますが、そうではなくて、より広く、今社会がどのようなことを必要としているのか、消費者がどのようなことを必要としているのか、あるいは市場が何を必要としているのかというところを主眼として立法が進められています。

具体例を挙げますと、製造物責任に関する指令がEUにはありまして、今その改正の作業が進められていますが、その改正、先ほど少し申し上げましたように、ソフトウェアとかも製造物の欠陥の概念の中に入れるとか、あるいはアップデートも製造物の欠陥について考慮するというような改正が進められています。これについてオンラインで欧州委員会にヒアリングをする機会がございましたが、その際に先方の欧州委員会の方に、これは日本で言うところの立法事実、何か被害がたくさんあったとか、相談がたくさんあったというようなことがあるのでしょうかというのを聞いたところ、幾つかそういう紛争、判決はありましたがという、こちらの質問がなかなか通じにくい感じの回答で、追加で説明をしたところ、いやいや、もちろんそういう幾つかの事案はありましたが、それとは無関係に、今社会がデジタル化されているわけですから、アップデートとかソフトウェアを無視したような製造物の欠陥の規制というのはあり得ないですよねというような趣旨の回答でした。やはりそこは社会、市場、消費者が何を必要としているのかが重視されているようです。ここは個人的な見解ですが、むしろ放置して、相談件数が増えて、被害が増えてから対応しますということだと、EUだと逆にこれは批判されてしまうのではないのかと私は思っています。先を見ながらどんどん積極的に立法を行っていくというのが一般化しているということです。

二つ目のデジタル脆弱性、あるいはデジタル化の部分ですが、先ほど申し上げるのを忘れていたのですが、不公正取引方法指令も消費者権利指令、二つの抽象的、分野横断的な一般法としての指令、その下に様々な特別法としての指令がどんどん今も作られているわけですが、これらにおいてEUでは、いわゆる技術中立性というものがかなり念頭に置かれています。つまり、メールだったら規制できるけれども、チャットになった途端にこれは規制できないとか、この手段だったらいけるのだけれども、この手段になった途端に規制できないというような手法はとことん避けてきているということが言えます。

そうしますと、デジタル化社会の中でいろいろな、もちろん鹿野委員長がおっしゃったようにそのための新しい指令が出てきているわけですが、一般法としての枠組みは少し変えるだけでも機能できるようになっています。したがいまして、デジタル脆弱性というものも基本的には一般法としては不公正取引方法指令の中の、報告の中で申し上げたあらゆる消費者の平均的な消費者、特定の集団の平均的な消費者の三つ目の脆弱な平均的な消費者という概念を用いて、実はデジタル脆弱性にも対応できるわけでして、そこがすごく重要だと思っています。

さらには、正に鹿野委員長がおっしゃったように、それでも少しやはり難しいところが出てくるので、どんどん個別の特別の指令を作っていくことも同時に進められているということです。

お答えになったか分かりませんが、私のほうからは以上です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

では、河島委員、それから室岡委員からもチャットを入れていただいていますので、河島委員、それから室岡委員でお願いします。

○河島委員 河島と申します。法学者ではありませんので、法学者であれば常識的なことを聞くかもしれませんけれども、御容赦いただければと思います。

まず1点目なのですけれども、EU法の中で完全平準化が図られることによって、北欧の諸国では消費者保護の水準を下げたということを聞いたことがあります。そのことでそれらの国々で何か問題が生じたのか、問題が生じたのであればその中身を教えていただければと思います。

2点目としまして、消費者教育のデジタル化対応というのは御説明がなかったのですけれども、EUの中で何か特徴があるようでしたら教えてほしいということがあります。

3点目としましては、消費者法の文献を見ると、ダークパターンについては近年かなり議論がされているのですが、不法なデータが売買されているダークウェブに関して、EUの消費者法の中で何か議論をされているのかどうか、消費者法ではなく警察に任せている状況なのかどうか、その辺りを御存じでしたら教えていただければと思います。

以上です。

○カライスコス教授 御質問いただきありがとうございます。

1点目につきましては御指摘のとおりでして、例えば具体例として挙げられますのが、消費者権利指令の中には消費者に付与されているクーリング・オフ、EUでは撤回権と呼ばれているのですが、クーリング・オフ権についても規定がありまして、日本法とここは似ているのですが、クーリング・オフの権利の説明とかを適切に行わなかった場合には、クーリング・オフ期間は開始をしない、進行しないということになっています。しかし、従来、例えば北欧諸国とかの場合ですと、説明をしなかったら永遠にクーリング・オフができることになっていたところ、それが完全平準化指令によって1年という上限がついてしまって、逆に消費者の保護水準が下がったということが挙げられています。

これらは、どちらかというと実体法レベルでの消費者保護水準の低下です。なので、より長期間にわたって本来有していた権利が短期間のものになってしまったということなのですが、では、実態としてはどうなのかといいますと、それによって何かすごく被害件数が増えたとか、相談件数が増えたというようなことは少なくとも私は認識していません。一般論にはなりますが、消費者保護水準が下げられたのは北欧の国が多くて、北欧の国は消費者オンブズマンとか当局がかなり積極的に規制をかけていることが関連しています。以前に京都大学で教えていたときに交換留学生の方、北欧出身の方だったのですが、その方が、先生が日本法について説明されているところがよく分からない、これは北欧だったらすぐに取締りの対象になるのですけれどもという趣旨のことをおっしゃられて、なるほど、やはり国が違えばこんなに違うんだなということを感じたことがあります。

消費者教育については、御指摘のとおり、これはEUの立法として何か消費者教育、例えば日本の特別の立法のようなものがEUにはないということもあって、あまり触れてはいませんが、加盟各国で積極的に消費者教育は進められています。デジタル化への対応として、個人的にすごく興味深かったのは、ドイツの消費者センターだったかと思いますが、そこに行ったときに、センターとしていろいろな消費者教育のためのデジタル的な資料をウェブサイトにどんどんアップしていて、しかも、それをアップして使えるようにしているだけではなくて、専門家がそれを評価できるようにもなっているということでした。専門家が、この教材は例えば五つ星をつけてすばらしいとか、この教材は少しこういうところが不足しているとかという評価を行うわけです。なので、学校の教員とかはそういうデジタル教材を使う前に専門家の評価も参照しながらそれを使うことができるという、正にデジタルならではの取組だなということを感じたりしたところです。

三つ目のダークパターンにつきましては、御指摘のとおり今すごく話題になっているのですが、報告の中で少し申し上げたように、EUの関係者はやや冷静な姿勢でして、2005年の不公正取引方法指令でかなりの部分が規制済みで、今回どちらかというとオンライン・プラットフォームとかのオンライン・インターフェースの部分について新しく規制が入ったりとか、少し範囲が広がったりしているという感じですよねということが言われています。

ダークウェブにつきましては、ここは少し難しいところがありまして、EUは消費者保護のための権限を持っているのですが、権限を持っていないところもかなりあって、あと、個人データのところについてもいろいろと今まで立法を行っているので、もしかしたら少しここが権限との関係で動きにくいところなのか、あるいは御指摘のとおり加盟国レベルでいろいろと適切に措置が取られているのかというところです。すみません、そこは存じ上げないのですが、御指摘のとおり、私の研究している中でも、これが正面から捉えられて、何か特別の手段が講じられているということはまだ伺っていないところです。

○河島委員 ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、室岡委員からお願いします。

○室岡委員 ありがとうございます。貴重な御報告をありがとうございました。大変勉強になりました。

先ほどの議論に対する御回答で、包括的規制だからといってEU事業者は怖いと思わない。他方で、日本の事業者は名前を出すこと自体を嫌がるというところがございましたが、具体的に規制をかける段階で、EUにおいては行政側と事業者側の対話はどう行っているのかということを教えていただければと存じます。

なぜかというと、日本の事業者は、例えば消費者庁からの注意や規制といったものがあればそれは嫌がることは想像可能ですが、他方で、別の省庁、例えば金融庁は、私が聞いた限りでは民間の銀行と対話をしているそうです。消費者庁と民間の企業が対話をすること自体も本来は何も問題ないはずのため、うまくフレームワークを作ることによって、日本の事業者にもEUの事業者と同様に振る舞っていただくことは可能ではないかということを思いました。そのため、具体的にどのような対話の場かを御教示いただけましたら幸いです。

○カライスコス教授 御質問いただきありがとうございます。

EUには加盟国が27ありまして、それとは別にEUの機関としての欧州委員会とかもあるわけですが、EUにおける消費者被害がかなり国境を越えて行われるということで、2017年に消費者保護の協力のための規則というものが改正されました。その中には、いわゆる確約の手続というものが入っています。確約手続というのは、日本法にも一部あるものですが、EU加盟国の当局が消費者との間で、正に御指摘いただいたような対話を通じて、これはまだ正式に違法だということを認定したわけではないのだけれども、どうも違法だというふうに考えているけれどもどうでしょうかという、そういう対話をして、その中で確約を行って、事業者が自ら過ちを認めた上で改善していくことを約束するというものですが、かなり行われています。

恐らくこれがおっしゃられた対話を可能にする枠組みとしても機能しているのではないのかと感じています。なので、事業者としては、選択肢の一つとしてそこを戦う、それは無理にでも裁判訴訟という形に移行させて、とことん戦うという選択肢もありますし、提供された情報を基に考えれば、違法な行為なんだなということを認識できる場合にはそれで確約をして、自ら過ちを認めて改善するという選択肢もあります。ここが正に御指摘いただいたように、事業者としてもより柔軟に対応できる。行政としても柔軟に対応できて、事業者としても認めて改善をするということで信頼を回復させて、更に強化するということにもつながっているところがあるかと思います。今後もしかしたら日本の消費者法の中で確約という手続をより広めるほうが行政も動きやすく、かつ事業者も対話がしやすいというメリットがあるのかもしれないと、御指摘を伺って今考えたところです。

○室岡委員 ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。


《2.③有識者ヒアリング(川和功子 同志社大学法学部教授)》

○沖野座長 他にもお聞きしたいことなど正直多々あると思うのですけれども、予定した時間を既に超過しておりますことから、この後また時間があればというのは、およそないような感じがするのですけれども、カライスコス教授には引き続き、差し支えなければ御参加をいただきまして、議題の三つ目、有識者ヒアリングの二つ目ということで、川和教授にアメリカの状況について御発表をいただきたいと思います。川和教授には25分程度で御発表いただきまして、その後、御発表を中心とした意見交換を一応30分程度ということで、同じくらいの時間を見ましてお願いしたいとおります。

それでは、川和教授、お願いできますでしょうか。

○川和教授 同志社大学の川和と申します。本日はこのような機会をいただきまして有り難く存じます。消費者取引全体の法制度の在り方、デジタル化の影響についての基本的な考え方の概要についての報告ということでしたので、去年の比較法学会での報告を基に、時間の制約のため省略した製造物責任の部分とデジタル化に関連したトピックにつきまして若干補充させていただいたものを中心に報告させていただきます。

本日ちょっと体調を崩しまして、声が聞きにくいところもあるかもしれないのですが、申し訳ございません。

アメリカ法の全体像はとても把握し切れるものではないのですが、また、FTCの規制など私の専門外である行政法的なルールということで十分な御説明ができない点もあるかと思いますが、どうかよろしくお願いいたします。

本報告は、多岐にわたるトピックについて触れておりまして、参考までに関連する拙稿を少し御案内しておいたほうがいいかなと思いましたので、こちらのほうですね。例えばこのような拙稿を御参照いただければと思います。

次に、全体像ということなのですが、アメリカの消費者法について、去年の比較法学会での報告を基に報告させていただくことにしております。具体的には、契約締結過程における広告、表示、情報提供に関する法。不公正又は欺瞞的な行為又は慣行に関する法。オンライン取引を含む取引の契約条項に関する法。商品の安全に関する法。クラス・アクションに関する法について検討していきたいと思います。

まず、報告の前提といたしまして、判例法主義、連邦制度等です。アメリカ法についての全体像をお示しするため、裁判所、法制度、消費者法の歴史について簡略に言及いたします。

アメリカ合衆国では、連邦と州のそれぞれに議会、裁判所といった統治機関が存在いたします。連邦裁判所は連邦の憲法、法律、条約に関する事件、異なる州の市民間の民事訴訟で、訴訟物の価額が7万5,000ドルを超えるもの等についての管轄権を有します。

州裁判所は、州法に基づくケース及び、連邦憲法又は連邦制定法により禁止されない全ての事項についての管轄権を有し、刑事事件、契約法、不法行為法、家族法等が関連する民事事件の多くを取り扱います。

英米法の国というのは判例法主義を採用しておりまして、判例が第1次的な法源とされております。判例法主義を支える先例拘束性の原理というものなのですが、ある事件と同様の事実関係をめぐる事件において判決が下された場合、裁判所は先例に従って裁判しなければならないとするものです。契約法、不法行為法の分野においては、基本的に判例法がその重要部分を構成しています。コモンローという用語は制定法との対比において裁判における判例の蓄積により形成された判例法を意味する用法で使用されることがあります。契約法、財産法、家族法、会社法など多くの法分野が州法によって規律されております。

これらの部分においては、判例法がその重要部分を構成していますが、判例の蓄積だけでは何を先例とするかが分かりにくいということで、契約法など判例法の主要な分野においては法典を条文の形でまとめ、説明、例をつけたリステイトメントや、特定法分野の法律について各州間の統一性を促進するために作成された模範法のようなものである統一法が作成されております。統一法の中でも一番有名なのは、統一商事法典となります。

制定法は、立法目的や適用範囲が特定された特別法的な性質を有します。連邦法は、合衆国憲法の権限に基づき制定されております。

ここで、消費者法における典型的な問題として、消費者が購入した商品に満足しないといった事象に関連して発展してきたアメリカ法における消費者法の歴史について簡略に言及いたします。

買主が購入した商品の品質に失望した場合、伝統的には、買主をして注意せしめよという原則が提示されてきました。これは動産売買の場合、売買目的物の品質等を保証する責任等について契約条項により明示に定められていなければ、売主に詐欺がある場合を除き、買主は不適合に対する責任を売主に求めることができないという原則です。この問題に対応し、売主をして注意せしめよという原則となった経緯をたどり、コモンロー、一般的、包括的に不公正又は欺瞞的な行為又は慣行を規制するFTC法、1960年代から同様の規定を置いて発展してきた州法等について取り上げ、検討してまいります。

FTCについては目次のⅣ以降、マグヌソン・モス法についてはⅤの3、品質保証に関する法で改めて説明いたします。

ここで少しまとめますと、アメリカにおける法制度については、ある法的課題の解決に向けて、民事ルールであるコモンローの不法行為法、契約法と不公正又は欺瞞的な行為又は慣行に関し、独立して存在する行政ルールであるFTC法、同様の規定を有する州法が実質的に相互互換的な役割を担うということが言えるかと思います。

後に言及するマグヌソン・モス保証法が州法における品質保証に関する法を実質的に補う役割を果たしているといった場面があること。それから、後に御説明させていただきますが、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行に関する規定、非良心性といった一般的、包括的な規制が取引の種類等に特化した特別法に加え、補充的、重層的な保護を与えることが期待できるといった場面もございます。

ということで、請求原因、請求主体、救済等においてそれぞれ異なったルールを有するコモンロー、州法、連邦法と、州裁判所、連邦裁判所といった多重な構造が消費者保護法制に影響を与えております。

次に、契約法の締結過程における広告、表示、情報提供に関する不法行為法、契約法について若干言及いたします。

不法行為法については、第2次不法行為リステイトメント525条以下の詐欺的不実表示に基づく請求、552条以下の過失による不実表示に基づく請求を挙げています。しかしながら、コモンローの詐欺的不実表示の請求は、故意、正当な信頼の証明が困難であるとされています。比べて、後述の州における規定での請求においては、このような証明は必要とされておりません。

契約法について、第2次契約法リステイトメントの錯誤、不実表示、強迫、不当威圧といったルールが置かれています。

非良心性についてなのですが、非良心性というのは、詐欺や脅迫までに至らない当事者の行為を規制するという意義を有しまして、UCCでは第2編302条に規定されています。UCC第2編は物品の売買に適用される規定ですが、非良心性はその他の契約においても適用されて、契約法、リステイトメントなどについても規定が置かれています。非良心性については、契約成立における不適正さに関する手続的非良心性と、契約条項の不公正性に関わる実体的非良心性に分類されます。日本法における公序良俗であるとか信義則というものいついて、類似するルールではあるのですが、比べると裁判例が多く、より活用されているということが言えるかと思います。そのような包括的、一般的なルールであると考えられるということです。

日本法を振り返ってみますと、消費者契約法においても、不当勧誘規定に関し、特定の状況における特定の種類の消費者のみに適用されるルールではなく、より一般的、包括的なルールの設置が求められるところですが、この点、アメリカ法は参考になるかなと思っております。

本日は特にデジタル化に関連して、非良心性とクリックラップ契約の関連性について若干補充したいと思います。オンライン取引上、クリックしたら同意を表明することになるというクリックラップ契約は、条項について合理的な通知があり、同意を表明する行為があれば一般的に有効とされています。しかしながら、契約当事者間の取引的地位の格差がある中で、条項が顕著であるか、同意ボタンが明確に条項に関連づけられているのか、ウェブサイトの設計上、ダークパターンがユーザーの同意を単にクリックするということの行為を誘導するために使用されているのではないかといった疑問も呈されております。

さらに、オンライン契約への同意が存在したかについての判断において、意思表示についてUCCが採用する「合理的な者」という基準は適切かといった指摘もなされています。つまり、U.C.C. 1-201(b)(10)条においては、合理的な者であれば、自己に不利に作用する契約条項に気づくはずであるように、その条項が記載されている場合、当該の契約条項は顕著なものであるとして契約条項が顕著であるかという点に関し、契約条項が目立つかどうかを判断する際の書体やフォントについて規定しています。

ここで、後で言及させていただきますが、クリック契約条項における仲裁条項が手続的非良心性に当たるとされた裁判例もありますが、後のクラス・アクションのところでその話はさせていただきます。

次に、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行に関する連邦法、州法について言及いたします。

連邦法について、FTCは一般規定である連邦取引委員会法5条、規則、政策声明、取引規制規則及び指針などを通じ、消費者を保護するために重要な役割を果たしてきました。連邦取引委員会法5条は、通商における不公正な競争方法に加え、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行を禁止しています。

このような一般的、包括的な取引を問わず、言わば横断的と言えるような行政法の規定及び多額の民事罰を科すことを含む強力な権限がFTCに存在するという構造は、日本法と比べてアメリカ法の顕著な特徴と言えるのではないでしょうか。

FTCによる不公正又は欺瞞的な行為又は慣行に対する権限の例としては、違法な行為の停止、原状回復等を命じる行政機関等の命令である排除措置命令。委員会命令の違反等について科すことができる民事罰、差止め命令、政策声明、指針等がありますが、FTCにおける圧倒的多数の執行は同意命令で終結しているということに留意する必要があります。

差止め命令の場合に、従来から13条(b)の消費者に対する救済において、原状回復、不当利得の吐き出しなどが認められていましたが、AMG事件においては、差止めは認められていますが、金銭的救済については認めないとの判断がなされ、今後のFTCの執行において大きな後退となることが指摘されています。

FTCの様々な分野における指針が公表されておりまして、例えばおとり商法であるとか、それから減量、製品についての広告など、推奨広告に関する指針なども注目を集めております。

2023年に改正された内容は、ソーシャルメディアやレビューなど広告主が消費者に商品やサービスを宣伝するための方法に対応するものとなっています。ガイドは、それ自体、法的効力は持たず、FTC法違反は別途証明されなければならないものの、FTCの下で不公正又は欺瞞的な行為又は慣行とみなされるものについて、委員会による権威ある解釈を示すものとされています。

さらに、FTCが執行権限を有する近年の連邦法として注目されるものです。CAN-SPAM法であるとかテレマーケティング並びに消費者詐欺及び濫用防止法などがあります。それから、児童オンライン保護法というのは、13歳未満の子供についての個人情報を収集・利用・開示する商業ウェブサイト又はオンラインサービスのオペレーター等に関し、個人情報を収集する前に両親に通知して、その同意を得ることなどを課すものです。このように児童を保護することに特化した法律がアメリカには存在することが注目されております。この点、日本法においても参考とできるのではないかと思います。

次のスライドで、オンラインゲームで課金に関する「フォートナイト」の事例について若干言及させていただきたいと思います。最近の報道によりますと、FTCは、COPPAに違反して、ダークパターンを使用して、プレーヤーを欺き、意図しない購入をさせたとされる「フォートナイト」の開発者であるエピック・ゲーム社との間で、総額5億2000万ドルの救済金を支払う合意を取り付けたということです。これらの額ですが、ゲームの返金額においては最高額で、FTC違反の罰金額としても最高額であるとされています。

内容は、COPPAに違反した児童の個人情報収集及び若者向けのリアルタイムのボイスチャットをデフォルトで有効とするというようなことが不公正な行為であるとするものです。COPPAの規定だけでなく、一般的な規定であるFTC法の違反といった重層的な仕組みがより充実した救済メニューを提示しているということが指摘できるかと思います。

州の消費者法においても、連邦法と同様の規定が置かれており、不公正及び欺瞞的な行為及び慣行規定があるということで、UDAP規定というふうに呼ばれています。これらの規定においては私人による訴訟が可能であるとか、現実的賠償だけでなくてクラス・アクション、最低限の賠償、数倍賠償などの制度も整備されております。詳細については言及しませんが、以下に提示しているような形式で州法が置かれております。

例えば、こちらはニューヨーク州の一般業務法においては、同法に基づき州の司法長官が違法な行為をした者に対して行為の差止めを請求して財産の回復を請求することができる。それから、1,000ドルを超えない範囲で賠償額を3倍に増額するということや、年配者に対する違反行為がなされた場合、特に罰金を追加することができるといった規定で、そのような規定で高齢者の保護を図っているものがございます。

次に、オンライン取引を含む取引における契約条項に関する法的課題について言及いたします。

こちらの法律は電子署名等に特化した法律になります。

最近作成されました消費者契約法リステイトメントに言及する前に、前提となる法的課題について言及いたします。契約法における伝統的な原則といたしまして、当事者には契約を読む義務があるとされておりまして、契約に署名した者は契約に同意を表明したとされ、読んでいないことについて不平を言うことができないとされています。このようにオンライン取引における契約において、消費者はコンピューター画面に提示される契約条項にあまり注意を払うことがなく、単に同意ボタンをクリックしてしまうという可能性があるとされます。特に仲裁条項、クラス・アクションの放棄条項などについて多くの争いが生じる可能性があることが指摘されています。

コンピューター情報の契約の成立等に関しましては、一応これらの法律がありますが、ここでは触れません。

消費者契約法リステイトメントは、草案が承認され、公式テキスト準備中となっておりますが、オンライン契約を含む事業者と消費者間の標準書式契約を適用対象としていまして、コモンローの包括同意原則を反映するものという位置付けでございます。草案作成に当たりましては、ソフトウェアの購入以前はアクセスが不可能なソフトウェアの製品の箱にシュリンク・ラップされた、買主が支払った後で契約条項を受け取る商業的な現実を認識し、標準書式契約の条項を強制可能なものであるとしたシュリンク・ラップ契約についての裁判例が参照されております。

このリステイトメントについては、不公正な契約条項により消費者を害するものである。また、同意の捉え方についてオンラインで取引する消費者は標準書式契約に拘束されるとの推定を作出する等の批判的な意見が提示されていますが、詳細は今後の検討課題とさせていただきたいと思います。一つ留意しなければならないのは、リステイトメントといいましても、裁判所が採用しなければそこの法律とはならないということに留意する必要があります。

リステイトメントの構造はこのようになっています。少しEUと比べますと、アメリカ法では契約条項の規定を用意するアプローチが採用されていますが、アメリカでは開示、約款規制、非良心性、不実表示というアプローチが採用されていることに留意する必要があるかなと思います。

次に、米国の消費者保護法制においては重要なのですが、日本においてはなじみのない品質保証に関する法について言及させていただきます。このような概念は、御存じのように、EUの物品売買指令、デジタル・コンテンツ、デジタル・サービス指令にも類似の概念があるということです。

ちなみに、UCCの売買というのは、売買取引に関する商慣行についての法として作成されたもので、全ての州で州法として採用されており、日本の民法の売買の規定と同様に、契約の自由の原則に基づく対等な当事者間における消費者取引にも適用される規定ですが、幾つかの規定は商人に課される義務について定めています。

例えばこの314条における商品性の規定については、当該種類の物品を扱う商人である売主の黙示の保証ということについて、商品性を有するためには平均的な品質を有し、通常の目的に適合するなどの性質を備えている必要があるという、このように最低限の品質保証を守るという保護規制は参考とできるものではないかと考えております。

こちらはマグヌソン・モス保証法と連邦法ということで、更に少し形式的な書面による条件の開示等に関する規則を設けております。

その次に、商品の安全に関する法ですが、プラットフォーム事業者に厳格製造物責任が課された例ということについて言及してまいります。

御存じのとおり、アメリカ法、人身損害の賠償に最も関連が深いのは厳格製造物責任というふうになります。

こちらはプラットフォーム事業者に厳格製造物責任が課された裁判例ということで、責任肯定例、責任否定例があるということでございます。アマゾンを通じて出品者から購入したバッテリーが爆発して、原告がやけどを負った事例について、アマゾンに対して厳格製造物責任が追及された事例において、このような判断がなされましたという背景には、製造物責任を課す政策的な根拠が色濃く反映されているということが言えます。アマゾンが出品者と消費者の間の頒布の連鎖において強力なリンクであり、仲介者として機能し、損害を被った消費者が合理的に対応できる唯一のメンバーであった。あるいはその安全を促進するために出品者等の上流の頒布者に圧力をかけることもできる。そして、責任のコストを調整する能力を有している。このような判断がなされた理由づけのベースには、製造物責任を課す政策的な根拠が色濃く反映されているということに注目できるかなと思っております。

ここでは商品の安全に関する連邦法についても言及させていただきまして、この法律に基づいて、アマゾンに対する行政申立てなども行われていると。要するに州法に加えまして、このような救済が考えられておるということでございます。

最後にクラス・アクションでございますけれども、米国においては、消費者団体訴訟制度ではなくて、同様の機能を果たし、より強力に機能する制度としてクラス・アクションというものが使用されてまいりましたということなのですが、最近の批判からいいますと、クラス・アクションのクーポン和解ですね。被害者がクーポンを被告から受け取るとか、それから、法廷地漁りと呼ばれているフォーラムショッピングなどの問題が指摘はされております。

また、近年、約款におけるクラス・アクションの放棄条項を含む仲裁条項が有効とされまして、クラス・アクション訴訟は抑制される傾向となっております。

まとめにかえてということなのですが、アメリカにおいては、請求原因、連邦法、州法とともに詐欺、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行の規制等について、買主注意せよといった方向性に向けて発展を遂げてきました。請求主体救済等において、それぞれ異なったルールを有するコモンロー、州法、連邦法と州裁判所、連邦裁判所といった多重な構造が消費者保護法制に影響を与えています。

そして、FTC法を州法における5条、非良心性などを含む取引形態、目的物の種類を問わない横断的、一般的、包括的な規定と特別法の規定などの重層的な構造が消費者救済をより充実したものとしているということが指摘できるのかなと思っております。日本においてもこのような一般的、包括的な規定の活用、執行、救済を支える行政的ルール、行政機関の活用といったことが今後の課題となり得るのではないかというふうに考えられます。

あと、アメリカ法における幾つかの課題ということで差止め命令に関するものであるとか、それからオンライン取引を含む取引の契約条項に関する消費者契約法、リステイトメント、あるいはクラス・アクションのアメリカ法の問題というものが指摘できるかなと思います。

御清聴ありがとうございました。すみません。少し時間をオーバーしてしまいました。

○沖野座長 川和教授、ありがとうございました。

最初に教授の御論文としてお示しくださったスライドですが、もしよろしければ、後ほどでもその部分を補充していただければ、御論文を拝見できると非常によいかと思いましたので、よろしくお願いいたします。

○川和教授 はい。

○沖野座長 それでは、ただいまの川和教授からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答や意見交換をさせていただきたいと思います。前半のカライスコス教授の御報告と相互に関連をしたり、あるいは対比の点で非常に興味深いといったこともございますし、カライスコス教授もとどまってくださっていますので、特に後半の川和教授の内容に限定せずに御発言をいただければと思います。先ほどと同じように、御発言のある方は挙手でお知らせ願い、オンラインの方はチャットにお入れくださるようにお願いいたします。

それでは、どの点からでも、前半の部分も含めてということになりますけれども、御指摘あるいは御質問をいただければと存じます。いかがでしょうか。

小塚委員、お願いします。

○小塚委員 ありがとうございます。学習院大学の小塚です。川和教授には、膨大なアメリカ消費者法を大変手際よく御整理いただきましてありがとうございます。

その外側、お話しいただいたことの外側のようなことをちょっとお聞きしたいのですけれども、やや失礼かもしれませんが、私としては関心がありますので。一つは、こういう法形成についての政治の影響、もう一つは、心理学とかあるいはデジタル技術の活用に関する御質問です。

まず、政治ということなのですが、歴史的に言えばアメリカの消費者法というのは民主党のほうがサポートしてきたと思いますが、最近、共和党もトランプ前大統領をサポートする勢力によってほとんど伝統的な意味での共和党の政治家というのが発言力を失いつつある中で、例えばトランプ政権下においてアメリカの消費者政策がどうであったかとか、あるいは州知事がどちらの政党であるかによって消費者政策に対するスタンスが違うのかどうかというような、そういう意味での政治の消費者法制の形成に関する影響をお聞きしたいというのが一つ目の御質問です。

二つ目は、途中でお話がありました、例えばダークパターンとか、あるいはオンラインの児童の保護などのところに関わると思いますけれども、実際に消費者がどういう行動を取るかというような心理学的な分析、あるいは行動科学的な分析とか、それからむしろ消費者側がデジタル技術を使っている場合と使っていない場合とで対応を違えたほうがいいのではないかというような、そういう非法律学を使った議論というのがアメリカにはあり得るかどうか。これは私は、例えばヨーロッパにはあまりないのではないかと想像しているので、そのような背景もありまして御質問をさせていただきたいということです。御教示いただけましたら幸いです。

○川和教授 ありがとうございます。ちょっと政治的な話とか、聞いていただきたかったなと思っているところです。確かにトランプ政権という、私が最初に比較法学会で御報告したときに後退という言葉をいろいろ使ってしまったのです。報告の趣旨としては、アメリカ法で参考にできるところを強調させていただくというのが道筋なのかなと思いつつ、ここの後退であるとか、それからリステイトメントですね。二つ目のあれにも関係があるかなと思いますが、それからクラス・アクションの抑制という三つですね。これは御指摘のとおり、やはりちょっと政治的な影響というものがどうしてもあると。

アメリカ法において、最近のロー・アンド・ウェイドとか、司法は一体どのような方向に向いているのかということが政治的なところですごく懸念されるというのが、それは一言で申し上げますと、やはり連邦裁判所の裁判官の任命という、裁判所の保守化といったような現象が生じておりまして、私が比較法学会で報告したときには、そこの点も含めまして、少しダークな影響というものについて感じていたところでございまして、このような質問をいただいて大変有難く存じております。

それから、二つ目の御質問です。COPPAのところですね。ここのオンラインプライバシー保護法などがあって、特に今日御紹介させていただきたかった点です。要するに、こういうダークパターンという手法が採用されて、それがやはり、まずは子供に対する影響が懸念されるというところ。それから、支払いですよね。この支払いのシステムが、一旦クレジットカードの登録なんかをすると、もう確認画面などなしにどんどん請求されてしまうようなダークパターンが採用されているということなのです。

もう一つの御質問は、それについてちゃんと分析はなされているのかということです。すみません、どこで出ましたかね。ここですよね。ちゃんとこれ、心理学的な分析がされているのか、計量学的な分析がされているのかという、恐らくはここの問題意識は、そこが十分にされていないのではないかと。要するに、ダークパターンを誘導させるような、そういうデフォルトの接点があった上で、クリックラップという契約において、伝統的な普通の対面の売買における契約の合意の取り方というところと、それよりももっと安易にクリックラップ契約において同意が擬制されているのではないかと、そういった問題意識があるのかなと思います。

そういった問題意識もあるのに、様々なダークパターンによって誘導された様々な問題のある条項が有効とされるという、その有効性を作出されているのではないかという問題意識があるのではないかと考えられるということです。だから、ローリングコントラクトといって、一旦ある契約に同意してしまったら、その後の変更であるとか、不利な条項であっても、結局クリックして同意を表明しているでしょうといったことを、心理学的な分析などをきちんと行わないで、そして同意させてしまう。こういう問題意識があるということから、このリステイトメントの契約というのはかなり批判が、州の司法長官から何名も批判を受けているというところで、私もこのような内容のものがリステイトメントとして出てきていることに大変懸念を感じておるところでございまして、こちらについても御質問いただいて大変有難く存じております。

すみません。お答えできましたでしょうか。

○沖野座長 ありがとうございました。

小塚委員から更にあるかと思うのですが、鹿野委員長から御発言があるということで、しかし、退室時間が迫っているということなので、少なくとも御指摘の内容であるとか御質問だけでもお伺いしたいと思いますので、いったん小塚委員との間を中断させていただいて、鹿野委員長からお願いします。

○鹿野委員長 すみません。貴重な御報告をありがとうございました。所用により6時前に出なければいけないのですが、後で議事録で確認させていただきたいと思います。

二つありまして、一つは、アメリカにおける消費者保護のための公法と私法の連携というか、行政が民事的な救済ということに役割を果たしている場面についての質問です。18ページにありますように、従来、FTCが消費者被害の救済においても重要な役割を果たしてきたというふうに伺ってきたところでございますが、18ページの真ん中辺りで紹介されておりますように、2021年の判決でそこに一定の歯止めがかけられたということで、それに対する懸念についてもご紹介いただいたところでございます。

ただ、その他の法律や仕組みにおいて、公法と私法の連携、あるいは行政が民事的な救済について何らか役割を果たしているということが、果たしてあるのか。例えば、その後にUDAP規定について、これは私法上の請求権を規定しているという御紹介があったわけなのですが、これらにおいて何らかそういうふうな仕組みがあるのかどうかなどを伺わせてください。

それから、2点目は簡単な確認ということなのですが、29ページの一番下のところでEUとの対比についてご説明いただきました。一言で言うと取引方法規制と内容規制についての確認です。本日御紹介がありましたように、アメリカでも、取引のプロセスに関する欺瞞的であったり不公正であるような取引方法を排除しようというルールは追加されてきたと認識したところでございますが、29ページの一番下で御紹介いただいたところは、契約の内容コントロールということについて、EUでは不公正条項指令などがあって、かなりのルールが設けられているのに対し、アメリカではそのような内容コントロールは基本的にしないという傾向が見られるという趣旨として理解してよろしいでしょうか。

ここのページに約款規制とかも書いてあるので、約款規制というのがどのような内容のものなのかや、他の記載にも関わるところかもしれませんけれども、その点について伺いたいと思います。また、もしそうであれば、単なる想像ですが、アメリカではやはり契約自由にかなり重きが置かれているのかなとも思われるのですが、その背景等について、あるいはその理解で正しいかということについて伺えればと思います。よろしくお願いします。

○川和教授 ありがとうございます。まずは行政ルールということと、ここの後退ということで、かなり後退してしまったのかなと思っておったのですが、よく考えてみれば、同意命令というのはあるわけですね。「フォートナイト」の事例を見てみますと、これはCOPPA違反で罰金ですね。その後、ここはあまりちゃんと言っていなかったのですけれども、リファンドできると。個々の消費者がリファンドできますよと、ここのサイトを見てくださいよということで、返金を申請できるのは、この特定の期間に不要なアイテムについてゲーム内通貨を請求された場合とか、子供が知らない間にクレジットカードで課金された場合、又はクレジットカードに苦情を申し立てた後、アカウントがロックされた場合ということで、行政的な罰金プラス消費者に対してダイレクトに返金ができるという、そのような仕組みがあるということで、行政ルール、それから民事救済といったようなものですかね。そういう重層的な構造が前向きに捉えられるのではないかということの御紹介、具体例として出させていただいたというふうに感じています。

それから、UDAP規定ですね。こちらのほうは私人訴訟の提起ができますし、それから、州と私人の訴訟という、またやはり重層的な構造があるわけですね。さらに数倍賠償とか、これは州によって違うので、あまり州ではこうですと断言してしまうと危険なのでちょっと避けたいのですが、ここの重層的な構造ですね。要するに司法長官の訴訟もできるし、それから私人による訴訟もできるといった、この行政的、司法的ルールのミックスといったものについては興味を持っていただけるのではないかと感じています。

それから、最後の御質問で、こちらです。不公正な契約条項そのものについて、グレーリストですとかブラックリストとか、いろいろなアプローチがあるわけなのです。しかし、このリステイトメントについていろいろ論文が出たのを見てみると、やはりアメリカ法のアプローチというのは、契約の締結に至るまでの過程というか、でも、もちろんアンコンシャナビリティー、非良心性というのは契約条項のあまりにも一方的なという捉え方なのですけれども、契約条項についての規定ではあるのですが、具体的にこのような契約条項の規定といった非常に特定的な契約条項という形の規制はないのではないかという感じです。

歴史的な背景というと、UCCの最初の御説明をしたときに、UCCのコンセプトとして当事者間の契約自由というものがあるということなのです。それについてどのように考えるかといいますと、そういうことがあるのですが、もう少し条項について具体的なブラックリストとかがあったほうがいいのではないかということがあるのですが、今まで、本日御報告させていただいたことで非常に楽観的に考えるといたしますと、一般規定というものであるとか、それから非良心性であるとか、こちらは日本法の公序良俗とか信義則に類似したものですが、もうちょっと活用されていると、それで裁判例もかなりあるということです。昔の判例で、家具を買って、割賦販売で最後の支払いが終わるまで所有権が留保されているといったような条項が非良心的であるといった、ケース・バイ・ケースではあるものの、契約条項があまりにも一方的であるとか、そのような理由によって無効となる可能性を秘めてきたのではないかという話をしておりました。

この報告で、松本恒雄名誉教授、それから大阪弁護士会の薬袋弁護士には大変いろいろお世話になりまして、アメリカ法を分かっていただくためにはこのような言い方をしたらいいのではないかなど、大変御助言いただいて、この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。

鹿野委員長、ちゃんとお答えできておりますでしょうか。またいつでも聞いていただければと思います。

○沖野座長 ありがとうございます。鹿野委員長は残念ながら退席をされまして、後ほど議事録等でも勉強させていただくということでしたので、それで更に分からないところがあればどうするのかという問題はございますけれども、そのようなことでございます。いろいろ複雑な問題を丁寧に御説明くださいましてありがとうございました。

先ほど中断してしまった小塚委員からの、例えばオンラインでの児童保護についての行動分析等々の分析はあるのかという点については、消費者契約法のリステイトメント自体について、そういった分析が足りないという指摘があるというのは、分析があった上でということではないかという御回答がありました。中断してしまって申し訳ありませんでした。更に小塚委員からございますか。

○小塚委員 いえいえ、そんなに大したことを申し上げようとしたわけではなくて、一つは、そもそも政策的なコンセンサスがあるかないかでは、多分EUとアメリカの大きな違いで、EUは、別な例えば移民の問題とかではやはり右左があるわけですけれども、消費者政策については比較的目指す方向はコンセンサスがあるのではないか。だからこそ着実にルール形成ができているのではないかなと思ったということと、他方でアメリカは、非法律学の活用というのを私は期待したのですが、川和教授の御指摘ですと、少なくともこの消費者契約法リステイトメントには盛り込まれていないということなので、むしろ批判のほうを着目すべきなのかなというふうに感じたという感想です。川和教授、ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

御指摘等は尽きないと思うのですけれども、予定した時間が来ておりますので、本日としてはこれで議論を切り上げさせていただきたいと思います。

それで、いろいろお聞きしたかったことですとか、あるいはこういった点も考えるべきではないかということが委員の方々から更にあるかと思うのですけれども、それについて、では、消費者庁からお願いします。

○黒木消費者法制総括官 すみません。ちょっと時間が足りなかった面があろうかと思いますので、もしよろしければ、この後、追加の御質問などがおありであれば、事務局のほうにお寄せいただければ、両教授に可能な範囲でお答えをいただけるようにお願いをさせていただければと思っております。詳細、いつまでにとかそういう御連絡は、追って事務局からメール等で委員の方に御連絡をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

○沖野座長 ありがとうございます。それでは、今回お聞きになりたかったことですとか、あるいは御指摘くださろうとしたことも、時間の関係で少し控えてくださった部分があるかと思いますので、両教授にお伺いするのがよろしいのか、さらにまた調査等々別の機会がよろしいのか。カライスコス教授も川和教授も、こういう形で御説明を引き受けてくださったうえ、さらにフォローアップまでお願いするというのも事前にお願いした範囲を超えているかもしれませんので、可能な範囲でということでお願いできればと存じます。

それでは、議事の第2、第3については、これで終えさせていただきたいと思います。

カライスコス教授からも御指摘いただくこともあったと思いますし、EUとの関係ですとか対比などもいろいろあったかと思うのですけれども、そういうことがあれば、それも事務局にお寄せいただければと思います。では、そのような形で、しかし、対応を義務づけるものではないということでお願いしたいと思います。

それでは、委員に関しまして、石井委員が入られたということで間違いないでしょうか。入っておられますか。

○石井委員 入っております。

○沖野座長 石井委員は前回御欠席で、今回からとなりますので、今頃お願いするというのも失礼かもしれないのですけれども、一言自己紹介をお願いしまして、また、前回、問題意識ですとか御関心の分野ですとか今後の進め方などにつきましても一言お願いできればということでお願いしておりましたので、その辺りについてお願いできればと思います。

○石井委員 すみません、私もちょっと次の予定があって、すぐ出ないといけないので本当に手短で申し訳ないですが、中央大学の石井です。よろしくお願いいたします。

消費者法の分野の議論には、個人情報保護の領域から非常に関心を寄せておりまして、本日も御報告の中で少し言及のありましたダークパターンの問題ですとか、個人情報保護と消費者保護の領域の交錯の部分がいろいろ出てくるかと思いますので、そうした論点の重なり合いみたいなものを含めて、大きな視点から議論に参加させていただければと思っております。

すみません。ちょっと次の予定がありまして、これぐらいでお許しいただければと思いますが、よろしいでしょうか。

○沖野座長 もちろんです。ありがとうございました。また引き続きよろしくお願いいたします。

○石井委員 よろしくお願いいたします。

○沖野座長 それでは、改めまして、カライスコス教授、川和教授におかれましては、大変貴重な御報告、御知見をいただきまして、本当にありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたしますと申し上げていいのかどうか分かりませんけれども、いろいろな機会で御教示いただくことになると思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

また、委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございました。時間を超過して大変申し訳ないことでございました。


《3.閉会》

○沖野座長 最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。

○友行参事官 長時間にわたり御議論いただきまして誠にありがとうございます。

次回の会合等につきましては、決まり次第御連絡いたします。

○沖野座長 ありがとうございました。

それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。

お忙しい中、お時間を取りお集まりくださいまして本当にありがとうございました。

では、終了といたします。

(以上)