消費者基本計画等の実施状況に関する検証・評価及び消費者基本計画工程表の改定に向けての意見

2022年12月16日
消費者委員会

消費者基本法(昭和43年法律第78号)においては、消費者政策の実施の状況の検証、評価及び監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合には、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため、消費者委員会としては、消費者基本計画(以下「計画」という。)及び具体的な施策を定める工程表(以下、計画と工程表を合わせて「計画等」という。)の実施状況や、計画等に盛り込むべき新たな課題等に係る検討を、調査審議の重要な柱の一つと位置付けてきた。

令和2年7月に消費者政策会議で決定された工程表においても、「消費者委員会は、本工程表に記載されている施策の実施状況について、KPIを含めて随時確認し、検証、評価及び監視を行う。」とされている。

消費者委員会としては、「消費者基本計画工程表に係る消費者委員会の意見聴取について(意見)」(令和4年6月10日)の附帯意見(以下「令和4年附帯意見」という。)、個別施策に係るヒアリングの結果や最近の被害の実態等を踏まえ、計画等の実施状況に関する検証・評価において特に留意すべき事項や工程表の見直しに向けて具体的に検討すべき課題について、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等においては、下記の各項目について十分に検討の上、個別施策に取り組むとともに、可能な限り工程表の改定素案等1に反映されたい。

なお、消費者委員会としては、引き続き令和5年1月以降も、国内外の様々な社会状況等の変化に伴う消費者問題等についてヒアリングを行うとともに、今後、消費者庁において策定される工程表の改定素案等に対し、更なる意見表明を行うことを予定している。

1.全体に関する事項

(1)工程表の見直し及び消費者政策におけるEBPMの推進

消費者政策の企画・立案に当たってEBPM(証拠に基づく政策立案)を推進していくことは重要であり、消費者委員会としてもこれまで繰り返し指摘を行う2とともに、令和4年附帯意見において、次期計画の策定を見据えた取組に着手することを求めたところである。消費者庁等は令和4年附帯意見を踏まえ、今回の工程表の見直しから重点施策を設定してEBPMを実践するためロジックモデルの構築やKPIの充実等の取組を行う方針であり、その方向性について評価する。

ロジックモデルの構築に当たっては、施策の効果の検証が可能となるようにKPIの設定を行うことが重要であることから、KPIの設定に当たっては、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)情報を始めとする各省庁等が保有する行政記録情報や民間が保有する様々な情報を組み合わせることや時系列的に分析すること等により、消費者政策における課題や政策効果の把握を速やかに行うことができるように取組を進めること。なお、施策の実施の途中段階において課題を発見し改善を行えるよう、消費者庁及び関係省庁等は、行政の「無謬性神話」にとらわれることなく、主体的にロジックモデルの構築に取り組むことが重要である。

なお、2.以下に記載する各施策については、重点施策に位置付けることについて検討されたい。(消費者庁及び関係省庁等)

(2)国内外の様々な社会状況等の変化に伴う消費者問題に関する工程表等への記載の拡充

新型コロナウイルス感染症、デジタル化の進展や物価の高騰など、社会状況は目まぐるしく変化している。例えば、デジタル化を始めとする新しい技術やサービスの前では誰もがぜい弱性を持つ可能性があることを踏まえて、消費者被害の防止に努める必要がある。また、エネルギーを始めとした様々な商品やサービスの価格が高騰する中であっても、消費者の自主的かつ合理的な選択の機会を確保する必要がある。これら国内外の様々な社会状況等の変化に伴う消費者問題への対応については常に改善していくことが重要であることから、必要に応じ新たな課題について検討した上で、工程表等に記載を充実させること。(消費者庁及び関係省庁等)

霊感商法等の悪質商法をめぐる諸課題については、法整備、相談体制の強化、消費者教育の推進等の複数の取組を積極的に行う必要があることから、令和4年10月に取りまとめられた消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会報告書」やその後の関係省庁における検討状況を踏まえ、工程表等に反映させること。(消費者庁及び関係省庁等)

2.消費者法令の企画・立案等

(1)消費者契約法等

令和4年12月に成立した消費者契約法等改正法3及び法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律については、消費者及び事業者に対する周知啓発を徹底するとともに、両法律の効果の検証が可能となるようKPIの設定について検討すること。(消費者庁)

また、消費者契約法の規定の在り方についての抜本的議論の必要性については、これまで消費者委員会においても指摘4をしたところであり、国会の附帯決議5を踏まえ消費者庁の「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」において議論が行われている。当該有識者懇談会における議論も踏まえつつ、見直しの方向性やスケジュール等可能なものから工程表等に反映させること。(消費者庁)

(2)特定商取引法等

特定商取引法等の契約書面等の電子化については、令和4年10月に公表された消費者庁の「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会報告書」を踏まえた政令、府令、ガイドライン等の整備に取り組むこと。その上で、施行2年後の見直しに向け、論点やスケジュール等可能なものから工程表等に反映させること。なお、消費者委員会は、「特定商取引法及び預託法における契約書面等の電磁的方法による提供についての建議」(令和3年2月4日)に基づき、本建議への対応について、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)に対し、今後、その実施状況の報告を求める予定である。(消費者庁)

併せて、特定商取引法については、平成28年改正特定商取引法の5年後見直しを含め、これまでの国会の附帯決議等を踏まえ不断の見直しを行うとともに、その検討の方向性を消費者に分かりやすく示すことに努めること。(消費者庁)

(3)景品表示法

消費者庁の「景品表示法検討会」における検討を進め、同検討会が結論を得た場合には、可能な限りその結論を踏まえた取組について工程表等に反映させること。(消費者庁)

3.デジタル化への対応

(1)取引DPF消費者保護法

令和4年5月の取引DPF消費者保護法の施行後の状況について継続して把握し、本法の効果の検証が可能となるようKPIの設定について検討すること。また、同法の国会附帯決議において今後の課題とされたC to C取引への対応、オンラインによる手続が可能な裁判外紛争解決手続(ODR)の提供、SNSを利用して行われる取引における消費者被害の実態把握等の各事項について、その検討の時期や取組について可能なものから工程表等に反映させること。(消費者庁)

(2)ステルスマーケティング対策

消費者庁の「ステルスマーケティングに関する検討会」における検討を進め、同検討会が結論を得た場合には、可能な限りその結論を踏まえた取組について工程表等に反映させること。(消費者庁)

(3)SNSを利用して行われる取引における消費者問題

「SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議」(令和4年9月2日)及び「SNSを利用して行われる取引に関する消費者委員会意見」(令和4年9月2日)を踏まえて、SNSのメッセージを含むインターネットを利用した広告表示に対する法執行の強化等、電話勧誘販売に該当する場合の解釈の明確化及び周知、消費者への注意喚起及び関係事業者等への情報提供及びSNS事業者における自主的取組の積極的な後押しに取り組むとともに、その取組方針やスケジュール等について可能なものから工程表等に反映させること。なお、消費者委員会は、同建議への対応について、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)に対し、令和5年3月までにその実施状況の報告を求める予定である。(消費者庁)

4.自立した消費者の育成

(1)消費者市民社会の実現やSDGsの達成

消費者市民社会の実現やSDGsの達成のためには、消費者自身が、自らの行動が社会・経済及び地球環境等により良い影響を与え得ることを認識し、コロナ禍や物価高騰など目まぐるしく変化する社会状況の中においても、「自立した消費者」として考え、行動できることが重要である。

そのため、エシカル消費について、理解度や認知度のみならず、消費行動について把握するKPIを設定すること等を検討し、工程表等に反映させること。また、消費者の自主的かつ合理的な商品・サービスの選択のためには、認証ラベル等の活用が効果的であることから、認証ラベル等の認知度にとどまらず、活用度に関するKPIの設定についても検討すること。(消費者庁)

(2)消費者教育の推進

現在検討中の次の消費者教育の推進に関する基本的な方針6と工程表との連携に留意し、工程表において同基本方針に盛り込まれた施策の効果の検証が可能となるように、理解度、行動変容、被害件数等についてのKPIを設定すること7を検討し、工程表等に反映させること。また、期間中に社会環境の変化に即した重点課題を適宜示し、必要に応じ新たな課題への対応を含む基本方針の見直しも検討すべきであることから、今後の見直しを念頭に入れた論点やスケジュール等について可能なものから工程表等に反映させること。8(消費者庁、文部科学省及び関係省庁等)

(3)成年年齢引下げ後のフォローアップ

令和4年4月の成年年齢引下げ後の若年者の消費者被害の状況について、継続して確認した上で、これまでの消費者教育や周知・広報活動等の効果や課題等について検証・評価し、常に改善していくことが重要である。そのため、施策の効果を把握するため、若年者の理解度、定着度や消費者被害の状況等のKPIを設定すること等を検討し、工程表等に反映させること。(消費者庁、金融庁、法務省、文部科学省及び関係省庁等)

5.地方消費者行政の充実・強化

(1)消費生活相談体制の充実・強化

令和4年度地方消費者行政の現況調査によれば、資格保有者数は増加しているものの、消費生活相談員数は減少しており、引き続き消費生活相談員の担い手確保は重要な課題となっている。消費生活相談員の担い手確保事業が必ずしも消費生活相談員の採用増や人材バンクへの登録者数増につながっていないことから、調査等を通じて課題を把握し、同事業の改善につなげること。

また、消費生活相談員の研修への参加や処遇の改善状況について地方公共団体間の取組に差異が見られることから、地方公共団体間の比較9を行って課題の把握に努めるとともに、地方公共団体のニーズを踏まえた交付金メニューの見直しや好事例の横展開等を通じて、地方公共団体の取組を支援すること。

さらに、人口減少・少子高齢化の中でも消費生活相談機能を維持するため、専門人材を含む多様な人材が消費生活相談員として活躍できるような働き方改革や消費生活相談のデジタル化の推進に向けて工程表等の記載を充実させること。消費生活相談のデジタル化を推進する際には、デジタルによって対応可能な部分と人が行うべき部分の整理など、国と地方公共団体との認識のすり合わせに努めること。(消費者庁)

(2)ぜい弱性を抱える消費者に対する支援

高齢者や障害者等のぜい弱性等を抱える消費者を保護するための取組が重要である。消費生活相談の役割が増す中で、地方公共団体の消費者行政部局や消費生活センターのみならず福祉部局を始めとする関係部局、法テラス等の関係相談窓口等との連携が極めて重要であることから、これらの連携の取組を担保できるよう工程表等に反映させること。

また、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)については重層的支援体制整備事業との連携を含めた、より積極的な活用を図る必要があることから、見守りネットワークの設置状況のみならず、活動状況等を測るKPIを設定し、工程表等に反映させること。(消費者庁、法務省、厚生労働省及び関係省庁等)

6.消費者安全

消費者事故の未然防止と被害の拡大防止のためには、消費者に対する注意喚起にとどまらず、制度や製品等の改善につなげていくことが重要である。

消費者事故の防止に向けた取組の効果を検証するためには、消費者事故の件数や被害内容の継続的な把握が必要である。そのため、事故情報データバンクの入力情報の質向上のほか、医療機関ネットワーク事業10やSNS等の活用等の多様な手段によって消費者事故の情報収集の更なる充実に努めること。また、消費者安全法に基づく注意喚起や消費者安全調査委員会の意見具申等を通じて、その後の消費者被害の防止や制度・製品等の改善につながるよう努めるとともに、被害防止や制度・製品等の改善にどの程度つながっているかについて把握することができるよう、分野を設定して試行するなどKPIの検討を行うこと。(消費者庁及び関係省庁等)

7.保健機能食品

保健機能食品制度は、特定保健用食品制度の設立から約30年が経過しているが、特定保健用食品と機能性表示食品の区別を含めた消費者の認知度や理解度が頭打ちとなっていることから、より分かりやすい周知・広報が必要である。また、機能性表示食品の信頼性向上のためには有効性の科学的根拠の質を高めることや事後チェック、執行強化による表示の適正性の確保等が重要である。さらに、保健機能食品制度の認知度や理解度にとどまらず、保健機能食品が食生活の改善等の消費行動や健康の維持・増進等に与えた影響を把握することが必要である。

こうしたことを踏まえ、令和6年度までに取り組む予定である保健機能食品制度の発展・充実の検討についての論点やスケジュール等について工程表等に反映させること。(消費者庁)

(以上)

  1. 令和4年11月9日消費者委員会本会議において、今回の工程表改定から重点化と効率化を図ることとし、重点施策についてはEBPMを実践すべく、原則、ロジックモデルの作成を順次試みるとの説明が消費者庁からなされた。消費者委員会としては、重点化と効率化の方向性は妥当と評価した上で、重点施策以外の施策が滞ることがないよう、消費者白書等の工程表以外の政策文書への反映も含め、施策の推進を担保することを求める。
  2. 「次期消費者基本計画の素案(平成27年2月)等に対する意見」(平成27年2月17日消費者委員会)、「消費者基本計画工程表の素案(令和2年5月)に対する意見」(令和2年5月29日消費者委員会)、「消費者基本計画等の実施状況に関する検証・評価及び消費者基本計画工程表の改定に向けての意見」(令和3年12月17日消費者委員会)及び「消費者基本計画工程表の改定素案(令和4年3月)に対する意見」(令和4年3月31日消費者委員会)
  3. 消費者契約法及び独立行政法人国民生活センター法の一部を改正する法律
  4. 「消費者基本計画工程表の改定素案(令和4年3月)に対する意見」2(1)
  5. 令和4年5月に成立した消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律に対する附帯決議
  6. 次期基本方針に限り、令和5年度から11年度までの7年間を対象期間として策定される予定である。
  7. 同時に、各地方公共団体の推進計画においてもKPIの設定を促すことが望ましい。
  8. 「消費者教育の推進に関する基本的な方針の変更に向けての意見」(令和4年9月2日)においても同趣旨の意見を述べたところ。
  9. 地方消費者行政の現況調査等をもとに、人員、予算、取組について都道府県間の比較・分析を行い、施策の効果を把握することが考えられる。
  10. 家庭における子供の事故等の把握が困難と考えられる事故情報の収集については、同事業の活用が考えられる。