総会(第32回)後の石会長記者会見の模様
日時:平成17年6月21日(火)15:59~16:33
〇石会長
先週の寄附税制並びに非営利法人に続きまして、今日、個人所得課税の主要な論点をまとめてまいりました。これをベースにいたしまして、秋以降、所得税改革の議論が始まるわけですが、その言うなれば土俵というか、前提条件を整理したということだと理解いただきたいと思います。恐らくこの中から、できるものを幾つか来年度税制改正に乗っけるという作業が政治的に行われるんだと思いますが、数年ながめて、このような方向で所得税改革をやればいいというガイドラインと申しますか、基本的な方向をまとめたというふうに我々は考えております。
それで、お読みいただくと、項目的にはいかにもこれまで累次にわたる税調答申の個人所得課税の見直しの論点と似ているようなという印象を持つかもしれません。しかし、これはかなり今回はいろいろなところで新しい要素をもっているというふうに自負いたしております。と同時に、すぐ税収と引っかけて、増税・減税等々の議論をする前に、骨格についての構造的な問題にメスを入れたという意味では、いかにも政府税調らしい、逆にいえば、他の機関ではできないような理論的な議論をしてきたと、こういうふうに考えております。
これから所得税と消費税、この二つが俗に言われます基幹税として、少子高齢化の中での年金、医療、介護の財源面を支える、あるいはこれだけたまりにたまった国の借金をどうするかというときの国民の負担の軸になると思います。そこでどうしても国民的な議論が必要であると考えております。恐らく、この個人所得課税に限定して見ますと、増税の項目という形で取り上げられるかもしれませんが、ただ、あえて開き直って言うならば、増税、あるいは国民の負担増なくして、今後の年金、医療、介護の財源も含め、少子高齢化は乗り切れないと考えています。
当然のことながら、その前にやるべきことは山ほどありまして、例の歳出カットも含め、あるいは行財政改革も含め、それは今回結びのところにも、我々、この報告書としてはやや異質の段もございましたが、一応触れており、そちらの配慮も十分したつもりでございます。
では、従来の税調答申とどこが違うかという点につきまして、三つ、四つ、私が感じて、考えておりますことを少し整理させていただきます。
一つは、今日も最後のクレームで、この主要論点メモは突っ込みが足らない、あるいは不公平の問題について突っ込みが足らないという、できた後にご批判をいただきました。が、従来、言うなれば課税目的のための所得捕捉のギャップですね、これは当然あって、それに対して、給与所得者の方はすべて所得が明るみに出ているので、給与所得控除で少しその辺を、少しというか、大いに面倒を見ましょうという形で給与所得控除が俗に言われます3割ですね、給与収入の3割というふうに大きな額を認めてきた。これも青天井で認めてきたと、こういう経緯があるわけです。しかし、給与、あるいは事業、この所得の中身も随分接近もしてきましたし、単に所得格差の正確さ、あるいは不公平さを給与所得控除で面倒見ろというのは限界があるのではないかと。私は今回は、給与所得控除というものが事業所得者から見ると過大ではないかという批判に対して、ある一面を認めていると思いますが、一応、実額控除という形で言うなれば積み上げる道を開いて、頑張って従来どおり3割まで、言うなれば給与所得控除を自分で税額として計算できる道、あるいは申告する道も開きます。給与所得控除をどうするかは、これからの議論でありますが、過大であるということ、それから特定支出控除という10人しかいないものについての支出の幅が極めて限定的過ぎるということについては見直そうということもあって、言うなれば給与所得者に対して、サラリーマンに対して、実額で申告をするという道も我々としては提案している。その別な一面で、今度は事業所得者に対しては、記帳義務とか、あるいは納税者の方の立証責任とかという厳しいことを申しております。そういう意味で、従来の被用者と事業者の間のギャップを前提とした控除体制なり、税務執行面、これは今回、ある意味では大きく変えたということでは、一つ今回の報告書の特色がここにあるのではないかと、このように考えています。
二つ目は、家族と控除の点に対しまして、やはり従来とは違った形での問題提起をしたと思っています。その一つが配偶者控除でありまして、ここにも書いてございますが、従来、専業主婦については内助の功ということもございますが、言うなれば夫の方の担税力を減殺する要因、言うなればお荷物になっているというふうな印象での配偶者控除を認めてきました。配偶者特別控除をなくした段階で、既に内助の功というのは共稼ぎも片稼ぎもあるのだから、その辺のことはやめましょうという話になっておりました。今回も税制面において、夫と妻が要するに担税力の関係で結びつくというよりは、対等のパートナーとして存在するのではないかということを申しております。そういう意味で、配偶者控除というのは日本だけが持っている制度だと思いますが、今回、これをすぐやめろという趣旨のことは書いてございませんが、例の103万円のパート減税のところの人的控除を二つ使うという点も踏まえまして、それから妻と夫の経済構造上の変化も踏まえて見直すべきであるという提案をしております。
それから扶養控除につきましては、少子化という面から税額控除化を言い、それから無制限になっております控除の適用範囲に年齢制限を設けたらいいじゃないかといったようなこともはっきり申しております。それから教育減税的な意味の特定扶養控除については平成元年に入れたんですが、時代も変わり、そういう特定の目的だけに特定の人的控除というのはどうかという問題提起で、これも廃止ということも言っております。
三つ目は、納番についてご不満もある人はいましたけれども、かなり今回、踏み込んで書いたと思っております。単に金融所得のマッチングですか、それにとどまらず、納税環境整備のために納番というものは有効であると。そして、かつ住基番号と年金番号、二つあるわけでありますから、これにつきましても、その適用の可能性も探っております。それから、あえてここに書くまでもなかったかもしれませんが、納番を入れればすべて所得が捕捉できるという誤解については間違いであるという趣旨で、特に自営業の所得捕捉について、納番というのは一定の限界がある。一定というか、大いに限界があるという点につきまして、整理をしたつもりでございます。これが3点目。
4点目は、住民税は個人所得課税といったときに車の両輪の片方でございますが、今回、税源移譲ということを絡めて、税率構造をフラット化しようといったような話もあり、かなり主役を演じてくると思います。と同時に、所得税より住民税の方の総体的なウエートが税源移譲後は、どのぐらいの期間にわたるか知りませんが、かなり高まってまいりますので、本格的に税務行政上でも従来とは発想を変えて頑張れという趣旨もございます。そこで、現年課税ということもあってしかるべきだという発言もあり、これは初めてかな、この税調で答申に書き込んだということだし、住民税の所得割と均等割についても、十分引上げを考えるべきであると同時に、所得税とは独立して、住民税の世界で控除等々を考えるべきだという新しい側面も入れたつもりであります。これが4点目になりますかね。
5点目は、今回の所得税改革の視点として、税務執行面についての改善をかなりいろいろな面から追求したつもりであります。この論点整理をお読みいただきますと、それなりに首尾一貫いたしておりまして、所得税の書き方としては、課税目的上の所得があり、それから所得控除を引き、それに税率を掛けるわけです。それに実際上の税務行政が絡んで、課税が確定するという段階に沿ってこれは書いてあるんですよ。そういう意味で、最後のところで税務執行面の、かなり詳しく書き込んだ改善の案を提案しているというように、議論を展開したとおくみ取りください。
これが今日行いました「主要論点」の具体的内容と我々の問題意識であります。あくまで「論点整理」というふうに表題をつけてございまして、寄附税制等々の「基本的な考え方」と違う、そういう意味でこれから何年かにわたって所得税を議論するときの基本的なスタートライン、言うなれば発射台という形で論点を整理したというふうに我々は問題提起をしております。かつ、これは恐らく国民各層の中でいろいろな議論をしていただいて、現下の財政事情であるとか、人口の変動の問題を踏まえて、やはり今後はオールジャパンでみんなが支えないと、この国の形はよくならんと思っています。いろいろな税がありますが、主要な税として、個人所得課税のあるべき姿を再整理した、あるいはさらに突っ込んで議論を展開したというふうに考えております。以上です。
〇記者
来年度税制改正をにらんだときのテーマなんですけれども、報告書の中では、定率減税の全廃と、それから国から地方への税源移譲に関する所得税と住民税の変更というところが明記してあります。これまでの石会長の会見では、いわゆる子育て支援の税額控除、整理というものが乗ってくる可能性があるかなというお話をいただいていたと思いますが、いわゆる既存の各種控除の整理・縮小ということでとらまえた場合に、現実問題として、一つでも、最終的には与党の判断かもしれませんが、来年度税制改正のテーマに乗ってくる可能性があるか、あるいは整理・縮小のところは、現実には来年ということではないだろうと見ておられるのか、そのあたりどうでしょうか。
〇石会長
ひとえに、消費税の論議が絡んでくると思います、これに。恐らく、我々の提起いたしました個人所得課税の見直しというのは、子育て支援を含めて、減税の要素をにおわせるというか、示唆するような項目もあります。しかしかなりの部分、太宗はやはり控除の見直しとか、あるいは所得分のいろいろなひずみ・ゆがみを直すという視点から増収になる可能性がありますね。あくまで我々は増収を直接目指していないということを何遍も申しまして、そのゆがみ・ひずみ是正でやっていくわけです。では、ゆがみ・ひずみのどこが一番ひどいかなんていう議論をし出しますと、いろいろ価値判断がございますが、言うなれば消費税の議論がどうなるかということと、既定路線として、来年度は税源移譲をしなければいけない。それから、定率減税の残り半分、これも経済情勢によりますけれども直したいということになりますと、ここに書いてある今日の所得控除の構造的な見直しのところは、やや中長期的な役割を担っていると思います。しかし、中長期的と言われても、できるものからやっていくという意味で幾つか出るとなると、扶養控除の一部とか、あるいは特定扶養控除、これは2年前に既に出して、廃止が適当であると出しておりますが、最終段階である政党の反対によってだめになったという経緯もあります。その辺が浮上するかなという感じはいたします。ただ、これは増税の方ですから、どこまで政治的に通るか分かりません。
そういう意味で、今回出したのは、2007年度にかなりの部分が実現するとは思っていませんが、ただ、これだけぴしっと整理いたしましたから、これに乗って2006年度、2007年度、2008年度、大きな流れの中で所得税改革をやってもらえば、おのずから配偶者控除、給与所得控除、退職所得控除等々でも議論が展開されると思っております。
〇記者
冒頭述べていただいたところで、触れられたところですが、国民負担増なくして少子高齢化は乗り切れないだろうということで、所得税、消費税が基幹税として軸になっていく中で、国民的な議論が必要であると。まさにそう思うんですが、お尋ねしたいのは、なぜそれが今回の論点整理でずばっと書き込めなかったのかと。小泉さんが、消費税は私の在任中は引き上げないと明言されておられる事情はわかるんですけれども、今回、総理に提出されない、まさに論点整理ということであれば、その問題意識を正面から問うてこそ、国民の方も真剣に増税というものを考えるのではないかと。
〇石会長
消費税に触れていないということと、増税をはっきり書いていないという、その2点でのお尋ねですか。これは、僕は秋だと思っているんですよ。すべからくいろいろな税制改革、具体的に結びつく制度設計は。そういう意味で、その前段階として論点を整理したという意味において、あえてその辺には触れなかったと。つまり、それに触れると、今我々がやっているひずみ・ゆがみの是正がメインであるよというところが、何かやにわに増収策でやっているんじゃないかと、そういう痛くもない腹を勘繰られるのは嫌だという気もありました。要するに、やはり増収に結びつくにしても、構造的にどこに問題があると整理しないと議論が矮小化されると思っています。いずれにしても、おっしゃるような趣旨のずばりと問うということは、まさに最後の方にも書いてございます、国民的議論を巻き起こす意味でははっきりしなきゃいかんと思いますね。それは秋以降やりたいと思います。あるいは、来年度、中期答申、これを我々は書かなきゃいけないわけですから、そこでどれだけ書き込めるかという議論もしたいと思います。
〇記者
この間もお伺いしたんですが、改めて今のお話にも出ていたんですけれども、そうすると、数年かけて段階的に実施していくみたいなイメージで考えていらっしゃるということで…。
〇石会長
ということです。だって、これだけの大きな仕組み、構造的な是正をしなきゃいかんときに、一挙にはできませんね。理由が二つあって、一つは日本経済がどうなるかということと、他の税の改革問題と絡んでいますから、トータルに税制をどうするかという視点の中で、個人所得課税のパーツはここですよということですね。そういう意味で、一挙にはできないけれども、着実に数年の間にやってもらいたいという税調の意気込みを伝えたというふうに考えてください。
〇記者
先ほども出ていましたが、消費税との絡みでいうと、消費税、これも一種の税制改革だと思うのです、消費税率を上げていくことと、所得税の改革のどちらをプライオリティを置いていらっしゃるのかということを改めて伺いたいんですが。
〇石会長
我々税調は、プランナーであり、企画立案者でありまして、可能な選択肢を幾つか提示するというのが主たる役割だと思います。そういう意味では、今のところ、随時やってきましたことは、税の中身についての検討でありますから、これについてプライオリティをつけて、これをやれ、あれをやれというのは、我々とっておりません。とるつもりも今後ないと、僕個人的には考えています。やはりこれは国民の負託を受けた政治家が、我々が整理した中で一番国民にとって望ましいものを選ぶという作業をしてくれるということだろうと思います。これから我々は年度改正にかけて、再度すべての税について、もう一回さらっと触れますが、その中で、個人所得課税についてはこれがベースになると思います。したがって、党税調も含めて、そこで議論が具体化してくれると理解しています。
いずれにしても、消費税ももう話題に上っていますし、我々も二桁でやるべきであると言っておりますから、これは2007年度以降の話として浮上せざるを得ないと思っています、消費税につきましてはね。
〇記者
これも以前の会見で出ていたかもしれませんが、改めて子育て支援の税額控除のお話なんですけれども、歳出側で児童手当とかみるとかという考え方と、それからまさしく会長もおっしゃってましたけれども、規制緩和とか既定の絡みの問題の方が大きいんじゃないかとか、いろいろな考え方がありますけれども、会長ご自身はどういうふうに見ていらっしゃいますか。
〇石会長
税でやる限界は極めて明白だと思っています。というのは、税金を払っていない人には何の恩恵も行かないわけですから、いろいろ所得・税額控除といっても。それから、児童手当という歳出面でもまだ広く、低所得者層もカバーできますから広いと思いますが、歳出・歳入両面である財政的支援よりは、私は子育て支援ということならば、この間、北欧の視察も行ってきましたが、社会全体の仕組み、特に保育所の問題であるとか、女性の働き場のキャリアアップ等々につながらないことであるとか、あるいはまさに家族全体を育てるなら、亭主の方の勤務情勢の問題があるとか、あるいは政府が子育て中にどれだけ支援できるか、給与面も含めてね。そういう仕組みの方が大きいですね。そう思います。ただ、こういう大きな仕組みができなければ何もできないというのでは困りますから、今まさに全力投球でできる施策、パッケージでやろうと言っているわけですから、税でやるとここだろうと、そういうことで問題提起したと理解してください。
〇記者
歳出の見直しとの関係について質問なんですが、これまで税調、過去ずっとさかのぼると歳出削減というものにかなり注文をつけてこられたこともあったと思うんですけれども、今回、一番最後の「結びにかえて」のところで、「国民に負担増を求めることとなる場合には」ということで、さらっと触れておられている程度であると。この点については、税調のメンバーからもっと触れるべきだという意見がなかったかということと、石会長ご自身はどのように考えておられるか。
〇石会長
最後の3行ですか、これは実は最後に入れたんですよ。というのは、今回、これはあくまで所得税を中心とした論点整理ですから、まさに技術的な、理論的な問題をやっているので、実際に執行なり、どういうふうにフィージビリティを高めようかという議論は秋だろうと。したがって、今から歳出を含め、行財政改革を言わない方がかえっていいんじゃないかという議論もあったんです。ただ、今、おっしゃったように、やはりやるからには、増収を云々するような場合には、これがなくてはとてもじゃないけれども納得できないだろうというので入れました。私は、歳出カットも含めた行財政改革がなくしては、税負担の増はできない等々と、随分方々の報告書に出ていますよね。かつ、そう言われる方が非常に多い。ただ、どうもお題目的になってしまって、内実が伴わないという心配をしているんです。つまり、歳出カットといっても、そう一筋縄に行かない面が幾つかあるわけですよね。例えば、新幹線一つとったって、賛成する人と反対する人と真っ二つに分かれているわけです。公務員の給与等々にまでやっと少し議論が及んできましたから、本格的に政府はやる気になっていると思いますが、ただ、どこの限度まで、いつまでにやるかということについての国民的コンセンサスを政治的に早くとってもらいたいと思います。
もう一つは、歳出カットでは、今の財政危機なり、少子高齢化の必要な財源は確保できないということについても、私は国民的な合意を早くとるべきだと思う。それを踏まえないと、この議論は乗ってこないような気がします、税制改革の方へね。そこがこれから政治的に大きな問題だというふうに個人的には見ています。
〇記者
逆にいいますと、かなり一人一人納得しているかどうかは別にして、財政再建のためには歳出カットのみならず、増税もいずれ来るだろうなという雰囲気はあるかと思うんですが、まだ国民的な納得、合意というものには、まだ…。
〇石会長
ないでしょうね。ほど遠いというか、5年前、10年前に比べれば、随分その辺についての理解は深まったと思うし、そういう意味では、正直言って、昔の税調会長が今言っているようなことを言ったら、もっと非難は集まったと思いますよ。何ですぐ増税なんだと。しかし、逆にいえば、非常に不幸なことに非難が集まらないというか、それだけ財政危機が逼迫しているということですね。だんだん待ったなしに追い込まれてきたということだと思いますよ。やはり国民一人一人がお願いベースで増税に応えてやるよというのではなくて、自ら考えるべきことでしょうね。自分たちが年金、医療、介護を含めて、どういう公共サービスをもらう、したがって我々がこれを払うのか払わないのか、払わないのだったら、自分で自分の老後は面倒を見るというふうに割り切る、アメリカ式に。そういうふうなことまで広げて選択をすべきだと思いますね。議論をね。
〇記者
所得税の抜本改革について、「今後」という言葉で表現されたわけですが、実際、何年くらいを想定されているか。
〇石会長
私は、個人的には4~5年と見ていますけれども。ただ、これが4~5年たって、100%実現するとも、これまた思っていないんですよ。かなり難しい面も多々あります。恐らく、どこの国の所得税を見ても、100%完全というのはないですね、理想が100%実現するというふうなことは。さまざまなせめぎ合いの中で、既得権益も擁護しなきゃいけないし、ある意味では妥協もしなきゃいけないということになりますと、ここに挙げていることについて、4~5年かけてどこまでできるかという問題だと思います。
〇記者
所得税の抜本的な改革に関する本格的な議論というものは、来年夏の中期答申まで持ち越しになると、そういうことですか。
〇石会長
9月後半にまた税調も再開して、年度改正に向けて議論をしていこうと思っています。例年のペースで行きますと、11月中ぐらいには来年度税制改正ですべき主要な項目につきまして一応論点、まさに我々として基本的な方針を出したいと思います。これは法人税も含め、あるいは地方税も含め、消費税もそのとき入るのかどうかわかりませんけれども、あと環境税とか、お酒の税金等々入るのかもしれませんが、とりあえず一応やるつもりでおります。その中で、個人所得課税というのも今先ほどの記者の方からあったように、どこをやるかということが具体的に提案できれば、我々としても踏み込んだ議論、そのときに恐らく三位一体での補助金の3兆円なら3兆円が決まれば、実は税源移譲の具体的なスキームをつくらなきゃいけないんですね。住民税と3兆円を譲るところの国税としての所得税、そういう大きな作業がありますので、所得税を秋以降やらないで、来年の夏まで、中期答申まで何もしないということはあり得ません。議論はいたします。来年は、なるべく早い時期に、1月早々あたりから議論を詰めて、中期答申に向けた作業をしたいと考えています。
〇記者
こういう答申というか、論点整理が出ますと、とかくサラリーマンいじめだとか、サラリーマン直撃といった受けとめられ方をされると思うんですが、それについて、会長はサラリーマンの方にどういう説明をされますか。
〇石会長
先ほどオールジャパンと申し上げましたが、これから国民が全体としてこの国をどう支えるかという議論からいいますと、サラリーマンが核にならなかったら絶対できないですよ。サラリーマンというのは、就業者の8割を占めています。恐らく今、5千数百万人サラリーマンがいて、そのうちの4千万人を超す人が納税者になっていますね。それに比べて自営業とか事業所得者というのは、今180万人しか納税者はいないんですよ。農業に至っては14万人しかいないんですよ。14万人、180万人、4千万人といったら、誰にやってもらうかと言ったら、サラリーマンの方々にみんなで頑張ってもらうほかないんじゃないですか、というメッセージを送りたいと思いますけれども。皆さんも含め、私もサラリーマンですから、それはちょっと、直撃されるのは嫌だし、困るとは思いますが、しかし、残ったほかの業種の人に、幾ら払っていないから払わせるといっても、それはやらなきゃいけませんよ。今度も事業所得等々で記帳義務も強化して、クロヨン対策を一貫しますけれども、殊、これからの必要な財源等々、税源等々といったら、やはり核になる層がやらなきゃいけない。そういう意味では、私はサラリーマンの方に対しては、こういう事情であるということは正面から訴える必要があると考えています。それに、この問題は、あえて言うと、今回うまく切り抜けて消えてしまう話ではないですよ。必ずだんだん、問題はかえって大きくなりますよ、先送るほど。少子高齢化も含め、どんどん進みますし、それから財政赤字の問題も累積がたまればたまるほど返す割合が増えていきますから、そういう意味で私は逃げて通れないと思っています。そういう意味で、真正面から、まさにサラリーマンを中心とした国民皆各層がこの問題に取り組んでもらいたいと思う、取り組まざるを得ないというふうに考えています。ちょっと刺激的な発言ですか。
〇記者
今回、所得税が基幹税であるという表現が消えていますよね。これから地方への税源移譲があり、さらにこれから消費税が上がっていこうというときに、この所得税の役割、税制の全体のグラウンドデザインの中で、所得税の位置づけというものはどこに……。
〇石会長
基幹税という言葉が消えたのは、極めて基幹税という言葉がどうも納得できないという強いご意見を絶えず言われる方がいまして、あえてそれにこだわらなくてもいいだろうという形で消えました。私個人的には、基幹税という言葉を使っても一向に構わないと思っています。私は、ほかのいろいろなところで基幹税は所得税と消費税、二つになるだろうとはっきり言っています。この二つは国税ですね。地方税も恐らく基幹税、恐らく住民税を中心とした、固定資産税を中心とした基幹税はあるんでしょう。だから、あえて言葉遣いとして基幹税という言葉は消しましたけれども、所得税の役割がそれによって落ちるわけではございません。英語で言えば、キータックスとかメジャータックスと言うんでしょうけれども、基幹税の役目としては。それは相変わらず残っていると思っています。深い意図があるわけではありません。
〇記者
基幹税であれば、やはり所得税、これまで文言にも「財源の調達機能」とかという文言が入っていたと思うんですけれども、今回、論点整理ということで、そこまではないにしても…。
〇石会長
いや、税収確保機能の復活ということを書いていますよ。
〇記者
来年の、例えば中期答申とかでは、やはり税収を確保するような、いわゆる調達機能のというのは当然前提にしっかりと書く…。
〇石会長
今回も1ページの早々に、序のところに、財源調達機能を持つべきだと、本来果たすべき。下から10行目ぐらいにはっきり書いてあります、そこは。つまり、26兆円ぐらいあった所得税が今13兆円ぐらいになってしまったのかな。恐らく税として、どんどん浸食されてしまって、やはり所得税というのは、私などはベストタックスだと思っていますから、税制の中で。その地位が総体的にどんどん落ちるのはよくないし、日本の税制にとって不幸なことだと思っていますから、これの復活かな、復元かな。景気がよくなれば、かなり復活してくると思いますが、税の制度の仕組みとしても、例の定率減税が代表的でありますが、相次ぐ減税によって、随分その辺が壊れてしまったと思っていますので、それを直したいと思っています。
〇記者
地方の個人住民税なんですけれども、今度、税源移譲が入ると、比重が高まってくるという形になるわけですが、かつて会長も税の、地方の徴収の体制に不安があるというふうな話もありましたが、今後、地方の自治体に対して、どのような意識の変革を求めて、それから納税者の方も地方税の負担がかなり増えるわけですけれども、これについてはどのように…。
〇石会長
今回は、国税で減税になった分だけが一応理論的には回るわけですね。そういう意味では、形の上では住民税増税になりますが、実質的な負担は変わらないという説明でしばらくは通用すると思いますが、いつまでその状態が続くかどうかわかりません。国も地方もこれだけ赤字を抱えていますとね。そして、そうは言っても、地方税というのは基本的には国税におんぶしたところが多々あるわけでありまして、そういう意味で、地方の側から言うと、独自の税体系を税務行政上構築しようというインセンティブが欠けていたんだと思いますね。それではいかんという話が最近、地方側、総務省側に出ていますから、それが今回、現年課税にしようとか、あるいは所得控除も、必ずしも国税と一緒でなくたっていいじゃないかという話にもなっていますので、そうなると、あと税務行政上、各自治体が持っておりますその強化をどうするかという具体的なところまで踏み込んだ議論がいずれ必要だと思いますね。問題意識は投げかけておりますので、まず地方の方で、あるいは総務省の方でその問題をぜひ考えてもらいたいというふうに我々はメッセージを送っているつもりです。これは税調の中でも、かなりの委員の方からそれに対する要望が出ていますので、これは実現方、これからやはり歩を進めなきゃいけないと考えています。
(以上)