第12回総会 議事録

平成16年6月1日開催

石会長

さて、皆さんおそろいですかな。途中で退席された方、あるいは新しく来られた方いらっしゃいますが、このままの格好で総会に移りたいと思います。

今日の総会の大きな趣旨は、金融小委員会でこれまで審議を重ねてまいりました例の金融資産性所得課税の一体化、これも取りまとめの方向で議論しなければいけません。そこで、これまでの状況を小委員長の奥野さんから概略ご説明いただいておく必要があろうかと思いますので、まず、奥野さんからごく簡単にこれまでの経緯をご説明いただけますか。よろしくお願いします。

奥野金融小委員長

金融小委員会ですけれども、前回、4月27日の総会で金融小委員会の審議状況をご報告いたしましたけれども、そのあと、5月11日と今朝の2回、小委員会を開催し、金融所得課税の一体化についての意見集約のための議論を行いました。現状を報告したいと思います。

なお、5月11日の会合で使用した、これまでに出された主な意見をテーマごとに羅列した資料というのを、「金融小8」という資料でお手元に配付しておりますので、適宜ご参照ください。

主な議論を紹介します。いくつかに区分けしてございますが、まず、総論として、金融所得課税一体化の意義について二つほどあります。一つが、少子高齢化の進展に伴って、近年、貯蓄率が顕著に低下する状況の中で、現存する家計金融資産の効率的使用の観点から「貯蓄から投資へ」の構造改革が重要である。そのため、いわゆるプロの投資家だけではなく、今まで貯蓄を中心に資産運用を行っていた一般の国民にとってより一層投資を行える環境を整備する政策的要請がある、という問題意識があるということです。もう一つ、このような政策的要請を踏まえますと、一般の個人投資家にとっての投資利便性を高めるような税制の構築が求められているということが、今回の金融所得課税一体化の議論の基本的な視点になるだろうということです。

次に、金融所得課税一体化の具体的内容ということですが、各種の金融所得に対する課税を20%の比例税率でそろえていくということ。これが1点です。もう1点として、金融所得間の損益通算範囲を拡大していくこと。この二つの点がありますけれども、金融商品間の中立性、税制の簡素性という観点からは、課税方式を金融商品間でそろえていくことが重要であると考えております。この点は、このあとに出てきます配当所得、公社債譲渡益、外貨預金、保険商品などにも関連してまいります。

次に課税方式ですが、配当所得については一般投資家の金融所得という性格に着目すれば分離課税にすることが考えられると思います。ただ、多様な配当所得のすべてを金融所得として課税することは必ずしも適当ではなく、例えば大口などの事業参加性のあるものは総合課税としておくべきではないかという意見が多くありました。また、公社債の譲渡益については、課税するとともに、現在認めていない譲渡損失も税制上の損失として認識すべきであるという意見が多かったように思います。

そのほか外貨預金ですが、外貨預金の為替差益、現在、雑所得として総合課税されていますけれども、これも金融所得として分離課税とするべきではないか。

保険、これは多様な課税方式が使われておりますが、保険については死亡保険までもほかの金融所得との中立性を強く求める必要はないかもしれないけれども、満期保険金あるいは解約返戻金等の収益が、満期時または解約時までの保険料の運用成果と見得る場合については金融所得として分離課税することを検討すべきではないか、という意見が多いということです。

損益通算については、まず第1に、投資リスクを軽減することにより、一般の個人投資家のリスク資産への投資促進に資するものだろうという認識で大体一致しております。他方、長い期間をかけて発生したものが、譲渡という行為時に一度に実現してしまう譲渡損益と、毎年毎年発生して実現する利子や配当などの経常所得とでは、税制上、性格が異なりますので、両者の間の損益通算は本来適当ではないのではないかと考えられます。しかし、「貯蓄から投資へ」の要請の重要性を踏まえれば、政策的な見地から株式譲渡損失とほかの所得との損益通算を一定の制限のもとで認めることが考えられる、こういうことではないかと思います。

したがってその範囲についてですが、まず、譲渡損益間の損益通算ということで、公社債の譲渡益を課税する場合には、公社債の譲渡損益と株式の譲渡損益との損益通算は認めてよいと考えられます。これに対して利子や配当などの経常所得と株式譲渡損失との間の損益通算については、ただ今申し上げたとおり両者の性格が税制上異なるので、難しい面がありますけれども、配当と株式譲渡損益とはその関連性が強く、また、配当所得が分離課税されることを前提とすれば、「貯蓄から投資へ」という要請を踏まえて、上場株式の配当と譲渡損失、公募株投の収益分配金と譲渡損失との間の損益通算を政策的に認めることが考えられる、という意見がありました。

他方、利子との損益通算ですけれども、できるだけ広く株式譲渡損との損益通算を認めたほうが「貯蓄から投資へ」の政策要請に応えるので、利子と株式譲渡損との損益通算を認めるべきだという意見もあります。しかし、配当に比べれば株式譲渡所得との関連性がより薄いという点、税収への影響も大きい点、あるいは、現行の利子所得に対する一律源泉分離課税との関係で、適正な執行を確保するため、官だけではなくて民間にも事務負担が生じるといった問題も指摘されており、現在、引き続き議論をしているところであります。

次は、資産滅失でございます。損失の取扱いに関連して資産滅失についての議論もたくさん行われてきたわけですが、株式の無価値化損失については、証券取引所の整理・監理ポスト制度等によって上場廃止前に売却できる機会があり、譲渡損失として譲渡益から控除可能であるという意見もありますが、他方、一般投資家の利便性に配慮するという観点からは、上場株式に限って適正な執行を確保した上で譲渡損失と同様の取扱いを認めたほうがよいという考え方もあります。引き続きこの点も議論しているところです。

他方、ペイオフ損失、いわゆる預金のペイオフ損失ですが、元本1,000万円までは保護されることになっておりますし、全額保護の決済性預金も存在することですから、こうした預金保険法上の保護に加えて、ペイオフ損失を税制上手当することについては、「貯蓄から投資へ」ということでは説明できないという意見が強いかと思います。

最後は、納税環境整備です。納税環境整備については、損益通算範囲の拡大に適切に対応するための執行体制の整備という観点から、納税者の申告書と、取引の相手方からの支払調書とのマッチングを行うための番号制度を中心に議論を行ってきていますけれども、損益通算の適用を受けるものが番号を利用するという選択制とすることが考えられるということ。その場合、住基番号や年金番号のような全国一連の番号である必要はなく、新たな番号とすればよいという意見が中心となっているかと思います。いずれにせよ損益通算という投資家利便のための番号ということで、従来の幅広い納税者番号制度とは異なるものだということに留意していただきたいと思います。

こうした議論を踏まえて、来週、6月8日の会合から具体的な報告案文の審議を行うこととして、6月15日、2週間後に予定されておりますこの総会において、報告ができるよう努力したいと考えております。

以上です。

石会長

ありがとうございました。今の奥野小委員長のご説明につきまして、何かご質問、あるいは、こういうことをどう考えているかというご意見があれば、お伺いしたいと思います。いかがでしょうか。

どうぞ、お願いします。

秋山委員

配当に対する課税につきまして質問があるのですけれども、一般的に経済活性化のためにリスクマネーの供給を積極的にしていこうという流れがあると思います。その中で「配当」のニのところですが、非上場株式を総合課税にするということについては、これを一本化するメリット、デメリットを比べてデメリットのほうが大きいというご議論があったのかなというふうに思うのですけれども、そのあたりをちょっとご説明いただければと思います。

奥野金融小委員長

議論が白熱したところの一つでございまして、こういう言い方をしたらいいと思うのですが、非上場株式というのを一括して考えるということは少し無理があって、例えばベンチャー税制とか既存ですでにやっておりますけれども、非上場株式についてもリスクマネーということできちんと対応していくことがたぶん必要だろうと。それは金融所得課税という形で対応するかどうかは別の問題ですが、とにかくそういう形で対応していくことも必要だろうと思います。

他方、そうではない、例えば非上場の、法人によっては、得られた所得を給与とか賞与とかいうものから配当に振り替えることが容易にできてしまう、あるいはわざとして節税をするというようなケースもあるので、それを分けて簡単に議論できればいいのですけれども、そこは非常に難しい。ですから、金融一体化課税という形で考えるときには非上場株式というのはその後者の問題があるので、そこでこういう書き方……、こういう書き方というか、これは「意見」ですので、これが我々が書こうとしている内容ではないのですけれども、こういう考え方が一方ではありますねと。ここにはむしろ書いていませんけれども、さっき申しましたベンチャー課税みたいなものに関しても当然我々は考えなくてはいけませんよねと、それなりのことは議論はしていると思います。

石会長

「それなりのことは議論している」というのが回答のようですが、ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。

どうぞ、菊池さん。

菊池委員

ちょっと質問ですけれども、難しい話だと思うのですが、金融所得課税を基本的に遠い将来一本化したいという願望が一つありますね。それと、「貯蓄から投資へ」という目先の政策課題があるということで、これはどっちを優先してやっていきたいのですか、ということが一つ。あとは、具体的には一個一個の金融所得を、これはだめ、これはオーケーという格好で、全部でいくつあるのか知りませんけれども、きりなくあるわけですよね。そこら辺の方法論というのはどういうふうになっているのかしら。

奥野金融小委員長

金融所得課税、一体化課税という、そもそも税理論上そういう理論がきちんとあるかというと、必ずしもわからないと思うんですね。二元的所得という考え方はありますが、それはこの際とるべきでないだろう。他方、逆の包括課税みたいなものというのは日本で現実に行われて、もちろん理想的な税というふうにとらえる人も多いのですけれども、それが分離課税という形で現実にそうではない形で執行されている部分も相当多い。その中で「貯蓄から投資へ」という政策要請を考えると、金融所得課税という形で考えるのが一番いいのかなというのがそもそもの考え方だと思います。ですから、最初の部分の答えとしては、どういう方向でというのは、もう少し本質的な、たぶん総会レベルできちんと議論していただく種類の話になるのだろうと思います。

2番目の、さまざまな金融所得について個別にどう考えるの、ということですが、まさにそこが我々も困っているところで、さっき申しました経常所得なのか譲渡益なのかということによって実現時点でいろいろな問題ができて、租税回避がしやすかったり、あるいは、そもそも課税方式が現状違っていて、徴収なんかがもうすでにあがっている部分と、あがっていない部分とか、いろいろ細かな問題があるものですから、それをきれいに一律に理論で解き切れるわけではなくて、まさにそこを議論しているとしか、ちょっと申し訳ないのですけれども……。そういうものがあれば、ぜひ菊池さんからご紹介していただきたいなというのがむしろ小委員会の希望かと思います。

石会長

私どもからもお答えしておきますが、最初の点、「貯蓄から投資へ」ということと金融所得課税一元化というのは、二者択一ではなくて、同一方向を目指す話であります。時間的なラグ、あるいは実施上の問題点で若干の食い違いは出ても目指す方向は同じでございますから、基本的には両者一体化して議論すべき話だろうと思います。

後者のほうは、かなり実務的な、インプリメンテーションと俗に言われます実施上の問題に絡みますよね。我々税調がどこまで細かい金融商品の中に立ち入ったことまで、ここで細かく線引きをして云々するかどうか。具体的な大きなものは出しますけどね。

いずれにいたしましても、今回は主要な論点整理とある基本的な方向を出すぐらいが我々の任務ではないかと思っていまして、それを受けておそらく今度は実務家からさまざまなリアクションがあるのだろうと思います。それをまた事務局の実務体験のほうから受けとめていただいて、またそこで我々の方向がどうなっているかを検証するという段取りではないかと思っていますので、一挙にこの報告書でケリがつくというふうにはお考えいただくことは全くないので、それほどの詰めはまだ行っていないというふうにご理解ください。よろしゅうございますか。

こういう形で進んでおりまして、今、奥野さんからご説明がありましたような形でもう一回詰めたものを最後には15日の総会にあげて、そこでご承認いただいて税調の報告にしたい、そういう段取りにしたいと思いますので、ご協力をいただきたいと思います。

それでは、よろしゅうございますか。どうもありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。