第11回総会 議事録

平成16年4月27日開催

石会長

それでは、時間になりました。今日は長丁場でございまして、1時半からご出席の方々はもうすでに2時間半ご滞在でございまして、総会という形で心苦しいのでありますが、どうしても今の段階でやらなければいけないことができましたので、お集まりいただきました。

まず、始める前に資料のほうをご覧いただきたいのですが、最初に16年度税制改正に関する関連の資料、主要討議事項が入っておりますし、それから、「税制改正」という16年度版の整理したものができております。

それから、税制メールマガジンというものを主税局が今度立ち上げまして、それに関します資料も入っておりますので、ぜひお目通しいただきたいし、メルマガに登録されたい方は、ネットのアドレスを登録しておきますと、自動的にここに書いてあるようなさまざまな新しい情報を送ってくれます。いうなれば官邸の首相のメルマガに対抗したアイデアだとお思いください。

それでは、今日は金融小委員会で今検討を行っております審議状況をこの総会でご報告いたしまして、一応お認めいただくということをこれから行いたいと思っております。

テーマは金融資産性所得課税の一体化でございまして、これにつきまして、どういう状況に今なっているかということを、小委員長の奥野さんのほうからご説明いただきたいと思います。

では、奥野さん、よろしく。

奥野金融小委員長

「総11-4」という資料が皆さんに配付されていると思いますので、それを使いながら、金融小でどういう議論をしてきたかということについて、ご報告をさせていただきたいと思います。

資料の2ページに、金融小委員会の開催状況ということが書いてあります。小委員会ではこれまで7回の会合を開催して、金融資産性所得課税の一体化に向けた議論を行ってきました。現在の審議状況ですが、これまでの開催実績は資料の2ページにあるとおりです。

会合では、まず、金融資産性所得課税の一体化の意義について議論をいたしました。これを改めて申し上げますと、「貯蓄から投資へ」という政策要請があることを踏まえまして、まず第一に、一般の個人投資家がニーズに合わせて金融商品を選択できるように、金融商品間で中立的な税制を構築するということが一つでございます。もう一つが、一般の投資家から見て簡素な税制を構築する。こういう2点を検討しました。

具体的には、2点ほどありますが、第1に、多様な金融商品から生じる金融資産性所得に対して、できる限り同じ課税方式、同じ課税の税率、形式的にできるだけ同じ形態をとる方向でそろえていきたい。

もう一つは、リスク資産と安全資産との中立性ということを確保するためには、リスク資産への投資から生じた損失について、損益通算ということを使って税制上の手当てをする必要があるだろう。課税方式の統一と損益通算の程度ということに関して、範囲をどこまでとるのか、どういうふうに範囲を考えるべきかということが、金融小委員会における議論の中心になっております。

その際の基本的な視点でございますけれども、先ほど申し上げた今回の一体化論議の目的が、一般の個人投資家が投資をしやすい税制を構築することであるという認識がありますので、一般投資家の資産運用ポートフォリオに入ってくる金融商品について、できる限り広く一体化の範囲を考えていきたいと考えております。あわせて一体化された新しい金融資産性所得課税の適正な執行をどのように確保していくかということについても、議論を行ってきました。

以下、資料に即して議論の内容を若干ご紹介したいと思います。

まず、税率、課税方式の一体化ですが、これは3ページに主な個人向け金融商品に関する現状の課税方式が書いてございます。金融商品から生ずる所得に対する課税ですが、平成15年度、16年度の税制改正を通じて、かなりの部分が20%の税率による分離課税にそろえられてきているということでございます。これは3ページの表からもある程度見て取れるかと思います。したがって、問題はその範囲を当面どこまで広げていくかということが問題で、そこを議論しております。

いくつかの議論がありますが、一つは配当課税です。配当所得の取扱いについての議論で、配当所得については、現在、大口の上場株式以外の普通の上場株式であるとか、公募株式投資信託については、20%源泉徴収、申告不要という形になっていますが、しかし原則は総合課税のままでございます。

また、申告不要とされている配当や公募株式投資信託についても、申告すれば、税額控除ですけれども、配当控除が受けられる仕組みになっています。配当は一面では金融商品からの所得という性格もありますけれども、他方では事業参加的な所得という性格もあります。その問題も議論をいたしました。

主な議論としては、第1に、配当所得は金融所得であるという性格に着目すれば、金融所得課税一体化の観点から分離して、いわゆる総合課税ではなくて、分離課税して、金融一体化課税の中に取り込むべきではないか。その場合に配当所得に特有の配当控除というものは不要となるのではないかというような議論を行いました。

また、第2に、大口株主が事業支配目的で保有する株式や非上場株式に対する配当については、事業所得とのバランスを考慮して、総合課税を維持して、金融所得課税の一体化には含めないほうがいいのではないかという有力な意見がありました。

次に、公社債の譲渡益課税ですが、公社債あるいは公社債投資信託の譲渡益は、現在非課税となっております。その反面で譲渡損失もないものとみなされています。現在、譲渡益が非課税とされているのは、実は公社債の価格が経過利子を反映する形でしか変動しないという、極めて単純化された前提に基づいて、利子を源泉分離で課税すれば、譲渡益・損は考えなくていいという考え方によって、こういう取扱いがされてきました。しかし、現在の債券市場は日々金利の変動により値動きがありますから、そういう現状の中で、公社債の譲渡益に対してどういう課税ないし損失の取扱いが適当だろうかということを、諸外国の例なども踏まえて議論してきました。

議論の中での主要な意見としては、公社債市場が現在のように大規模になり、公社債の価格も日々変動している状況を踏まえれば、公社債も株式と同様に譲渡益に課税し、譲渡損失も認識するべきではないかというものが有力であったかと思います。

そのほか、外貨預金等の為替差損益であるとか、保険商品、先物取引などについても、金融小委員会で議論の対象としてきております。

次に大きな話題としての損益通算でございますが、これは4ページに日本の現状の損益通算のケースが書いてございます。

損益通算についての主な議論ですけれども、リスク資産の投資損失を損益通算することにより、リスク資産と安全資産の中立性が確保される。もう少し別な言い方をすると、リスク資産の場合、今までは利益についてだけ課税していて、損失は全く課税の対象としてこなかったわけですが、そうすると、利益が出た時だけ課税されてしまって、損失が出ても何の税の担保もされない。そうすると、いわばリスク資産を持っていると、かえって平均的なリターンさえ取れないという損が出る。そういうことではまずいだろうということで、損が出た場合にも、何らかの形で税で割り戻してやる。その割り戻しの仕方として利益と通算するという形で割り戻す。そういう形で、リスク資産を持っていても、安全資産を持っていても、収益の期待値が確保できるというような形の中立性を確保できるだろうと。そういうわけで、リスク資産の投資損失を損益通算をするということが中立性を確保するために望ましいのではないか。とりわけ、一般投資家が投資する金融商品から生ずる所得の中では、できる限り幅広く損益通算を認めるべきではないかという考え方がかなり共通に認識されました。

ただ、損益通算の範囲について、利益と損失の取扱いを欠くような損益通算は多分認めるべきではないだろうという意見も非常に強くございました。したがって、金融商品から生ずる所得同士であっても、分離課税される所得と総合課税のままの所得との間の損益通算というのは、これは認めるべきではないだろうと。あるいは税率が異なる所得同士の損益通算も認めることは適当ではないだろうという意見も有力でございました。委員会の共通認識だったと思います。

次に、譲渡所得課税を実現ベースで行っているということに伴って、実は一定の期間を経て発生した損益が、納税者が任意に選んだ譲渡のタイミングで実現できる譲渡損益と毎年経常的に発生する所得とは、性格が異なるだろうということも共通の認識でございます。つまり、例えば預金利子であるとか配当というものは、これはある時に利子・配当所得という形で入ってくることが明らかだと。ただ、譲渡損失、利益もそうですが、これは仮に利益とか損失が発生していても、それを実現しないと課税の対象ないしは損益通算の対象にならない。そうだとすると、それを適当なタイミングで選ぶことによって、損益通算を申告上有利なタイミングで実現することができる。そうすると、投資家の側の恣意的な行動にかなり依存して税額がいろいろ移動することになりかねない。それを少し気をつけたほうがいいのではないかという議論もございます。

本来ならば、多分そういう意味で両者、つまり経常的な所得と譲渡所得の損益通算というものは認めないほうがいいのではないかということもあるだろうと思います。ただ、「貯蓄から投資へ」という要請の重要性ということがございますし、政策的配慮として認めることを考えるべきではないかという議論ももちろんございました。ただ、仮に認める場合には、諸外国の取扱いを参考にしつつ、何らかの制限も必要であろうと考えます。

さらに、デリバティブに関連する問題ですが、高度な金融技術を利用した所得類型の変換等による租税回避行為が行われる可能性もかなり高い。デリバティブを使って租税回避が行いやすいということもありますので、これに関しての何らかの対応も考える必要があるのではないか。

あるいは、最後ですが、損益通算の範囲を拡大すると、金融資産性所得からの税収が大きく減少する可能性もある。そういう意味で、タックスベースと税収とのトレードオフということもあるのではないかというような議論がございました。

今後はこうした基本的な考え方を踏まえて、損益通算の範囲についてもさらに議論を深めていきたいと考えております。

次に、ややテクニカルな話になりますが、資産滅失という問題がございます。図は5ページです。そもそも金融資産性所得の損失として考えるべきかどうかという問題として、資産滅失の取扱いについても議論をいたしました。例えばですけれども、株式を発行している会社が倒産して、その株式が無価値になってしまった、紙くずになってしまった、売りそびれたというケースでございます。したがって、譲渡損にはならないわけです。この場合、所得税というのは、本来その年に稼いだ所得を課税対象とするというもので、その稼いだ所得を物の購入に回すか、貯蓄に回すか、あるいは株の購入に回すかというのが所得の処分でございます。したがって、購入した物や株式がその後滅失してしまっても、それは所得の処分であって、所得自体を計算する際に考慮すべきものではないというのが、所得税法の基本的考え方でございます。この考え方の原則自体は諸外国においても同様でございます。

しかし、小委員会では、繰り返しになりますが、「貯蓄から投資へ」という政策的な要請があること、あるいは株式を譲渡した場合のキャピタルロスの取扱いとのバランスというような視点からも、会社の倒産によって株式が無価値化した時の損失等を税制上手当てするかどうかということが論点となっております。

大きな話題の最後でございますが、納税環境整備ということがもう一つ大きくは議論したことでございます。金融所得課税の一体化を実現するためには、制度の適正な執行と納税者の利便を図るための納税環境の整備が必要です。現行制度はほとんどの給与所得者が納税申告を行わないで済むことを前提として、納税者及び税務当局の事務負担等にも配慮して、源泉徴収でほとんど納税を終わらせて、申告が不要であるという仕組みが今の所得税の中心となっております。

他方、現在は源泉徴収だけで課税関係が終了していた納税者、一般投資家の大部分はそういう納税者なのですが、こういう納税者が損益通算の適用を受けるために申告をする局面が増えるだろうということになります。源泉徴収されていない金融取引について、利益を隠蔽し損失だけを申告することや、損失金額、源泉徴収税額の過大申告による不正還付申告などの不正行為が行われる等のおそれもあるので、税務当局において個々の納税者の損と益をそれぞれ正確に把握することが必要だろうと思います。

その仕組みとして6ページにマッチングという仕組みが書いてございます。簡単に言ってしまうと、納税者が例えば何らかの金融取引をAという相手、例えば証券会社なら証券会社に行って、そこで株式を売って利益を得るとか、B銀行に行って、投資信託を売って、そこでまた損が出るとか、そういうことを行っていく。そうすると、そういうものを合わせたものとして、納税者は損益通算をして、確定申告を税務当局にするわけです。その時にその確定申告だけですと、税務当局はその申告の内容が正しいかどうかということはわかりませんので、そういう損益通算をきちんとする、納税者が意図的に悪用しないようにするためには、納税者の取引相手であった金融機関のAであるとか、銀行Bであるとかというところからも支払調書を税務当局が取って、それを確定申告とマッチングさせるという作業が必要になります。

そのためには、金融資産性所得の源泉である、大部分の場合は金融機関ですが、ここから支払調書を取るという作業が確定申告を受けるということに加えて必要になる。しかも、それをできれば効率的にやるためには、マッチングがスムーズにできる仕組みというものが付加的に必要になるので、そのためには実は番号というようなものを納税者に持っていただいて、それを調書にもつける、確定申告にもつけるということをしていただくと、税務当局としてはマッチングがしやすい。これが納税環境に関わる問題でございます。

この点に関する主な議論としては、まず第1に損益通算の範囲を拡大する場合、損益通算の対象となる金融資産性所得については、その支払元である金融機関等に対し、税務当局に支払調書の提出を求め、それに加えて納税者から提出される申告書とマッチングすることによって、申告の適正さを担保する必要がある。これが私が今申し上げたことでございます。

2番目に、これも今申し上げたことですが、大量の支払調書と申告書とをより効率的かつ正確にマッチングする方法としては、何らかの番号制の導入を検討すべきではないかということが議論されました。

ついでですが、そういうことをすると、例えばですが、マッチングが本当にちゃんと行われているかということを税務当局が調べるためには、番号があれば番号ですぐわかるわけですが、番号がない場合には、その支払調書が出てきた人と確定申告の人が本当に同じ人かどうかということを調べるために、税務調査に入るとか、いろいろ納税者としても負担が出てきますから、逆に番号があるというのは、少なくとも正しい申告をしている納税者にとっては、負担を減らすという面もあるのではないだろうかと思います。

あるいは、番号がなくてもマッチング自体は行う必要がありますから、そこに番号を入れたからといって、そのことによって、納税者に新たな不利益をもたらすものではないということにも注意していただく必要があると思います。

それから、納税環境に関する3番目の議論ですが、いずれにしましても、国民の理解を得ることが重要ですから、従来のような幅広い納税者番号制度とは発想を変えて、投資家利便を第一にした、損益通算というメリットを受けたい人だけが選択制で利用できる金融番号というような形を考えるべきではないかという議論が中心でございました。

ただし、最後の点ですが、番号制度を導入し、金融機関等に対しても告知するということになりますから、金融機関などから番号情報、あるいは税務情報が漏えいするおそれも否定できません。したがって、民間における個人情報セキュリティの問題や、個人情報保護法などの法制面での整備状況についても検討が必要ではないかという議論がありました。

7ページが納税者番号制度の外国の状況でございます。

以上まとめますが、このようなさまざまな論点について、これまで7回の会合で議論を行いました。今後はこれまでの議論を踏まえ、8ページに主な金融商品に係る損益についてという表がございますが、8ページの表の中のどこまでを一体化課税として税率等をそろえるか、もう一つがどこまでを損益通算の範囲として考えるか、というようなことを含めて考え方をとりまとめる作業に入りたいと考えております。次回、5月11日の会合から意見のとりまとめ作業に入り、6月中にはとりまとめを行いたいと考えております。

以上です。

石会長

ありがとうございました。

今の奥野さんのご説明について、また、今、小委員会は何をやっているかということについて、重ねてご質問があればどうぞ。

大体どういうことをやっているかということはおわかりいただけたと思いますし、とりまとめの方向もある程度の状況は把握できるかと思いますが、特に今日総会に出てこられて、これを初めてお聞きになる方、ご質問があれば。

よろしゅうございますか。今日ここで一番皆さんからお認めいただきたいのは、連休明けからとりまとめに入るということなのです。今申し上げたような三つ、四つ重要な点がございましたけど、いうならば損益通算の範囲の問題とか、資産滅失をどうするとか、納番をどうするとかというあたりで、しかとしたことになると思いますが、中間的なまとめも含めて報告書をまとめたいと思っております。中間か最終か、多分最終になるかもしれませんが、まとめたいと思っていますので、その点について、総会としてお認めいただきたいと思います。よろしゅうございますか。

先ほど実は急いでしまいまして、基礎問題小委員会の今後の日程について申しそびれましたので、また、「実像」把握のヒアリングが続きますので、総会メンバーの方もぜひご出席いただきたいという意味で申し上げますが、次回は、連休明けというよりは、もう5月中旬でありますが、5月14日の金曜日、「環境」をテーマにやろうと思います。それから、5月25日、火曜日、6月1日、これはパブリックセクター等々の話で議論を整理して、その後またこちらの基礎問題小委員会のほうもとりまとめに入りたいと考えております。

よろしゅうございますか。5月14日、5月25日、6月1日、いずれも午後を考えております。よろしくお願いいたします。

それでは、最初から出ておられる委員の方は、長時間どうもご苦労さまでした。これにて散会にいたします。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。