総会(第45回)後の石会長記者会見の模様

日時:平成15年9月9日(火)16:17~16:39

石会長

言うならば、卒業式が終わったような感じでありまして、最後お聞きになったかと思いますが、委員の方からも幾つか最後の、言うなればお別れの言葉もあったと思います。それで私も3年間、この税調の議論を集約する立場にあって、どういう感想を持ち、今後どういうことが必要かという点につきまして、2、3点ずつ整理しておきたいと思います。思い出すと、3年前の9月14日、当時の森内閣総理大臣から次のような諮問をいただきました。念のため読み上げますが、「我が国税制の現状及び諸課題を踏まえ、今後の経済社会の構造変化等に対応した21世紀初頭における望ましい税制の構築に向けて審議を求める」と。「望ましい税制」というのは、われわれは「あるべき税制」という形で置き換えて議論をしたわけであります。最初の印象は、今の景気の状況で税制改革論議をすると、やはりそれは将来を見れば税負担増にならざるを得ない。そういう意味で、いつ本格的な税制審議ができるかなということで、実はかねがね思っておりました。3年前にスタートするときもそのような気持ちでスタートしたのですが、しかし、小泉構造改革ということもあり、私の個人的な物差しよりは若干早く本格的な、つまり税負担増も含めての本格的な税の議論ができたかなと、このように思っております。そういう意味では嬉しい誤算だったかもしれません。いずれこういう議論は必要だと思っていましたので、早い時期から本格的議論ができたということはよかったのではないかと思いますが、ただ、景気とのにらめっこというのは絶えず続いておりますので、それを念頭に起きつつ、今日の今年度税制改革のアンケートにもありますように、減税ということもそれなりにやったということですよね。

それから2つ目は、今の点にも絡むのですが、10年、15年先というそういう形で議論をしたのでありますが、どう見ても、今後、少子・高齢化が進み、国の借金漬けの体質がそう急速に改善しないという視点から言えば、あるべき税制の姿というのは、やはりみんなで負担をし合うという骨格をつくるということだと思いますね。そういう意味で、税負担増というものもやむを得ない。そういう意味で、はっきり消費税率二桁、将来必要ではないかというのを書き込んだというのもそこにあるんですけれども、そういうことに対して対話集会等を求めて、いろんな議論を国民的にしていただいたと。まだまだ、大きな日本という中において、われわれの投じた一石というのは小さいものでありますが、ただ、私なりに手応えは十分あったかなと、こう思っています。手応えの意味は、十数年前、消費税を導入するときに地方公聴会もやりました。その前から税調は何回もやっておりますが、そのときに比べますと、私は今回の対話集会に参加していただく国民の方々の意識が変わり、やはり自分の問題としてとらえていただくというところが鮮明になってきたと思います。そういう意味では、これから社会全体として担わなければいけない社会保障というセーフティネットをどういう費用負担で構築するかというときに、私は真っ当な議論がこれからできるというふうに確信いたしました。

それから第3点は、これは従来の税調とは違った環境にさらされたと思っていますのは、税制調査会の議論が独占物でなくなったということであります。元来、自民党税調というのはありましたから、それなりにお互いに縄張りといいますか、分業というのをやってきました。昨今は与党税調というのもできましたし、それから経済財政諮問会議も、やはりマクロ的な視点とは言いつつ、税制の細部にわたった議論も展開されるということがあって、よりよい意味では緊張ある対立といいますか、緊張ある関係で税制論議ができたというのが、過去3年間の税制論議の総括ではないかと思います。私はこれはプラスに作用していると思います。

マスコミの方々の関心も、その対立点という点にあったせいもあって報道もしていただきましたけれども、いろんな形の議論をいろんな場でやるということが重要であります。政府税調が出し、それを自民党税調がそれなりにちょっと税率を入れたり、あるいは時期を設定して、それで国会で、自民党独裁のころの国会ですぐすんなり通るというよりは、もうちょっとこの種の競争的な環境での税制論議というのは、国民的論議になっていく素地ができた、そういう意味ではこの3年間の1つの大きな特色であるとともに、大きな成果ではなかったかと思っています。

以上3点、過去のことを振り返ったときの私の感想であります。

さて、この13日でこの3年間の税調の委員の任期が切れますので、今後いつからか分かりませんが、来るべき次の時期に備えて、税調というのは再活動をするということになろうと思います。政局がどうなるかによってどうなるか分かりませんので、いつごろどういう形でやるかということは分かりませんが、2、3、次の税調に託すべき点というのはあろうかと思っております。

それは、昨年来の基本方針でうたっているような、ある程度の青写真を書き上げたわけですね。あるべき税制の姿という形で書き上げました。幾つかの整理の仕方はあるかと思いますが、基幹税としては所得税、消費税を置いて、補完税として資産課税、まあ相続税と贈与税の世界ですね。そういう形のある一方、企業課税というものについては従来と違った役割を負うのじゃないかという税体系の問題。それから、やはり課税ベースを広くするという基本的な視点から、国民各層あるいは年齢を問わずみんなで負担してもらう、ある人はオールジャパンと言ってましたけど、オールジャパンの形を税制の中にどう仕組むか、どういう形で負担してもらうか。そのときには恐らく公平感なり中立といったような、あるいは簡素といった、税本来のそもそもの基準ですね、これが脚光を浴びると思います。そういう形で出てきたものを今後どういう形で着実に、1年ごと移していくかということが次の税調の大きな仕事だと思っています。例えば所得控除の見直しといったって、見直しというのは統廃合の意味ですが、1年に1つできるかできないかというような、そういうスタンスの中で、10年、15年はあっという間に時期はたってしまうと思います。そういう意味で基幹税として所得税をどう修復するかという工程表みたいなものが必要になってくると思いますし、これは景気との関係がありますから、いつどのぐらいの規模で、どうできるかというのは難しいんですけれども、これは着実にこれから税調がやっていくという、ちゃんとプランを練って、年度改正に移していくということになってこようかと思います。

それから2つ目は、恐らくこれまで中央省庁の縄張りにおいて税の議論もかなり局地戦、局地に限定された問題が多々あったと思います。その他の領域との関係を大分崩す努力をしてまいりましたので、これからそれを一層やって、私は、例えば社会保障一つとってもどこの審議会でやってもいいと思っていますし、あるいは例の地方財政の問題ですね。地方分権の問題、三位一体の議論だって、何も税調が大いに、税以外のところに口を出しても私は一向構わないと思っています。そういう意味で私は関係している審議会、関係している部局なり省庁が、おのおの議論を展開しつつ、ある方向にもっていくというのは健全な議論の仕方だと思っていますから、これは今後ますます、まあ放っておいてもこっちのほうにいくと思いますが、税調もそれに従ってやっていかざるを得ないかなと、こういうふうに考えております。

あとはテーマの設定ですが、恐らく次の税調は、3年間の新しいスタートを切ったときの初年度は、私はやっぱり基礎的な研究をもう一回、じっくり腰を据えてやるべきではないかと思っています。過去3年間の税調の最後の2年、これはかなり走りました。かなり税制改正の中で実効・成果を上げたという面もあろうかと思いますが、次の3年間の初年度は、やはりもう一回足元をしっかりさせる意味で基礎勉強をすべきだと思っています。例えば所得税における家族の問題とか、あるいは雇用形態が変わってきた、あるいは地球環境の問題も大きくなってきているし、それから何といっても国際化・情報化の中で税が従来どおりのような体系でいいかどうか、こういう議論もございますので、まあ1年間は基礎的な勉強に充てつつ、各界の専門家の意見にも耳を傾けて、次の3年後の中期答申、どういう切り口でそれを提示するかといったようなことも踏まえて、基礎研究から始めていきたいと、このように考えています。

以上、3点ずつ申し上げましたが、どうも財研の皆さんにもこの3年間いろんな形でお世話になりました。途中でメンバー交代された方もいらっしゃいますし、3年間以上もつき合ってくれた方もいらっしゃいますが、本当にお世話になりましてありがとうございました。

以上です。

記者

今日の総会を終わりまして3年間の任期が到来するということで、この3年間の自己評価なんですが、石会長が持論にしておられます与党税調との関係で、政府税調のほうは中長期的な課題に取り組むと。一方、自民党のほうは利害調整などを図りながら、早速来年度改正をどうするかという短期的なテーマに取り組むという、そういった棲み分けができて、政府税調としての存在意義をこの3年間で示すことができたのかどうなのか。それと、中立・公平・簡素といういわゆる税の原則の議論ですよね。この原則をどの程度まで全うできたのかということについてまずお聞きします。

石会長

党税調もいろんな構成上のこともあって年々変わってきているのかなと思いつつも、やっぱりああいうふうに責任がある政治家が責任を持って対処してくれるということを、私は非常に評価しております。つまり、減税は誰でもできますよね。ところが、税負担増というような形が絡んできたときには、やっぱり厳しいこと、あるいは嫌な選択もするという政治家が出てこないとできない。そういう意味ではわれわれがプランナーに徹して、そこにそのプランをどう取り上げて実施に移すかというときには、自民党税調みたいな形の政治的な折衝の場というのが僕は必要になると思っています。いつまでも自民党税調と政府税調の関係、連携が続くとは思っておりませんので、しかるべき時期には新しい仕組みができると思っています。

公平・簡素・中立の原則が経済財政諮問会議の中立対活力なんというのは昨年、かなり大きく報道され議論しましたが、今にして思えば、どこに争点があり、まあ議論としてはおもしろかったのかもしれないけれど、何か成果があったかなあということになると、いささかちょっと疑問を感じざるを得ない。われわれの言う公平・中立・簡素というのは、ある意味では極めて規範的な、まあ紋切り型という意味ですが、極限的な状態の原則でありますから現実との距離は結構あるんですね。そういう意味で現実との距離感を縮めるべく、その原則から現実に歩み寄るという作業もせにゃいかんということが多々あるし、事実あったと思いますね。例えば今日、議論にしました研究開発投資とか設備投資減税というのは政策減税ですからね。本来の税調のスタンスから言いますとそれほど、本来の中立から言えば、ああいう政策減税については、まあ積極的にやるべきというスタンスはとれなかったと思いますが、今回は基本税率よりは、実際に投資がへこんでいるときにやるべき手段としては、ああいう政策減税があったのはよかったという意味で、結果でも分かるように、結果としてはよかったと思いますが、原則に忠実かと言われれば、そこはちょっとやや回り道したかなという点もあります。そういう意味で、あくまで掲げているスローガンと実際にやったこととの間の乖離は、これはもういつの税制改革にも必ず出てくるんですね。そういう意味でしようがない面もあったし、しかしレファレンス・ポイントといいますか、規範点というのは絶えず押さえつつ、それとの乖離を意識して実際のタックス・ポリシーをやるべきだということにおいて、ある原則はそのまま踏襲できたのではないかとは思っています。

記者

今後3年間、この前まとめました中期答申の具体化、消費税の引き上げであるとか、個人所得課税の見直しだとか、それ以外にも積み残した課題として公益法人課税の見直しだとか環境税の話とか、いろいろたくさんあるかと思うんですが、先程、工程表が必要というふうにおっしゃったんですが、そこで今後3年間はどういうスケジュール案を持っておられますか。

石会長

いや、まだだって新しい税調もできていないし、僕もそのまま税調の会長を続けるという話もまだ確定もしていないわけだから、工程表を出すのは、最初の税調がいつスタートするか。これは多分、僕は来月に入ってからだと思いますが、その段階でお示しできたらと思っていますけれど、ただ、あえて新しい税調に言うならば、おっしゃるとおり、3年間の1年目は、今言ったような基礎研究をしつつ、それから時の流れからいって、おっしゃる公益法人の問題、他の問題もあるでしょう。それからやっぱり金融証券税制でさらに金融証券の総合化、あるいは二元的所得税論の是非、納番もございますでしょう。それからやはり私は京都議定書というのが、何といってもロシアの参加を待ってスタートしたときに、環境税的な税の活用の問題も議論としては避けて通れないということになって、いろいろ問題が出てくると思いますので、それはその時その時に合わせてやっていくと。しかし基本的には、次の3年間でとにかく大きなテーマ、これはまさに工程表も含めていずれお示ししなきゃいかんとは思っています。ただ、今終わった段階で次の発足の時期も分からないのに、今はちょっと難しいと思います。越権行為じゃないかと思うし…。

記者

それとこれも先程の越権行為に引っ掛かってしまうかもしれませんけれども、来年度の税制改正の議論なんですが、先程、来年度は基礎的な研究活動をしたいというふうにおっしゃったんですが、これは余りにも大きな税制改正をしないという意味でおっしゃっておられるのか…。

石会長

過去2年間の年度改正答申、そしてそれが税制改正案に投影した中を見ると、結構やってんだよねえ。そういう意味では、来年度どういうところに、過去2年と同じような目玉的な項目があるかというと、私は、過去2年に比べるとそう大きなものは、今の景気情勢、今のさまざまな制約からいって、即できるかどうかということについては、これから精査する必要もあろうかと思いますけれども、過去2年とはちょっとトーンが違うのではないかとは思っています。そういう意味で何ができるか、年度改正に向けてこれからの議論でありますが、ちょっと違ったトーンになるかなというのは率直に思っています。

記者

各論になるのですけれども、所得税のいろいろな控除の見直し、高齢者の負担増ということをこれまで中期答申でもおっしゃられているんですが、これは越権行為にならない範囲でお答えいただきたいんですけれども、中期答申を出した以上、これは10年先、15年先でいいと考えてらっしゃるのか、それはどのぐらいの目処を考えているかを。

石会長

それは恐らく公的年金等控除とか、それから老年者控除とか、それから老人扶養の問題とかって、控除の問題に絡みますよね。まあそれは、実は年金で言うならば、給付のほうの改革が急速に進んできたときに課税強化と一緒にできるかどうかと、私はこれでいつも心配しているんですよ、ダブルパンチになりますからね。そういう外界との絡みもあって、問題は問題として、われわれ提示はします。しかし、それが実際にどう踏み出すかというのは、恐らく僕は政治的な判断がかなり入ると思います。おっしゃるオールジャパンで、年齢等々こだわらずみんなで頑張ってもらうというときには、私は高齢者も例外でないと思うんですね。高齢者の負担ということは、高齢者の中の高所得者・低所得者に十分配慮しつつあると思っていますので、それは恐らく1つのイシューになるでしょうね、これから。具体的に申し上げたような控除の見直しを通じてということだと思います。

記者

年金改革に関連してなんですが、先週、坂口私案が…。

石会長

出ましたねえ。

記者

あれについては具体的に財源の問題などが示されていませんが、昨日の演説なんかを聞いていても。

石会長

みんな逃げてますね。

記者

で、この受け止め方はいかがですか。

石会長

あれで将来世代がみんな安心して、日本の年金制度は大丈夫というふうになるかどうか。これはこれからの議論だし、皆さんの世代だって非常に関心のある話だし、13.58%が20%だっけ? 頭打ちすると言いますけれども、あれは今ある高齢者のために一生懸命拠出するという話であって、ご自分たちのためじゃない世代が圧倒的に多いんでね。そういう意味では、税でやる、保険料でやる、この根本的な議論をみんな避けてるんですねえ。単に、腰溜め的に3分の1、2分の1なんて議論が出ているだけの話で、私は費用負担のあり方について、さっき言った基礎研究、そこではじっくりやりたいと思っています。そういう意味で、この間の坂口厚労大臣の真意は、あれは積立金を崩すということですよ。それの是非をこれから国民的な議論をしなきゃいけないと思っていますし、税調にも、あんな5年ももっていく必要あるかねという議論はありました。まあそういう形で、あの辺も踏まえて少し、積立金取り崩しの是非も議論の対象にせざるを得ないと思っていますから、それ等を含めて税でやるか保険料でやるか。税でやるときは消費税かどうか。これは本格的議論はこれからだと思いますが、それもにしてもこの秋に、結論を出すというのは難しいんじゃないですかね、政治的にね。したがって、また得意の先延ばしになるのかどうかですけれども、税調としてはやっぱり議論はあるところで、やっぱり本格的にやりたいと思っています。

(以上)