「あるべき税制の構築に向けた基本方針」総理手交後の石会長記者会見の模様
日時:平成14年6月14日(金)
〇石会長
ただいま首相官邸に行きまして、我々が午前中にまとめました「あるべき税制の構築に向けた基本方針」を手渡してきました。
10分か15分首相と今後の取扱い等について議論してまいりましたが、あるべき姿を描いていただいたのは大変感謝すると、そういう評価をいただきました。というのは、これまで税制というのはとかく足元を中心として、減税か増税か、増税の議論はあまりなかったんですが、減税で言うならばパッチワーク的に税制改革を繰り返してきたわけです。それでは将来を見据えた形での議論が全然出来ないと。だから直近のことをやるにしても、やはり、10年20年を眺めたそういう姿が、今、何を問うべきかという視点が重要であるということで、全く私ども意見が一致しました。
本格的な議論ができるんじゃないかと、首相自らおっしゃっていただきましたので、私どもがこれまで進めてきたやり方において諮問を出していただいた首相の側と意見が一致したかなと言う感じであります。
冗談めかして言われるのは、政治家というのは減税と予算の分捕りですから、そういう形で繰り返してきたこういう事を戒めてこれから議論して、ある方向に変えていこうということを示唆されているんだと思います。
そこで、我々も今日総会で議論した結果を踏まえまして、これから本格的に国民の中に飛び込んで、この次の議論をいかに理解してもらうかという努力をしたいと思います。率直に言いましてどんな税制を選ぶのかも私は国民の責任だと思いますから、我々の出した案はかなり長い目で見てるつもりですが、仮に今甘い選択をすれば将来そのつけが必ず巡ってくるわけです。端的に言えば赤字で減税するということはそういうことになりますから。そういう意味でどういう税を選ぶかというのも国民の責任であるという視点から、我々は対話集会を繰り返し、議論したいと思っております。
我々としては描いた図、姿というのは私個人的には自負を持っております。諮問会議が描いても、党税調が描いても、それ以外の機関が描いても、10年先を見据えるとこういう税制改革の案が絶対とは言いませんが、1つの有力な理論構築になっていると思っています。したがってこれからの議論を建設的に進めるためには、基本的に単に増税はけしからんという話ではなくて、世界的な規模での変革、内部的には高齢化社会が来るとか、これだけの借金漬けでムーディーズがあれだけ格下げしたということも踏まえてこういう税制を考えたということについて反対があれば、批判があれば堂々と意見を出していただいて、そこで議論をしたいと思っております。建設的議論というのは案があって初めて成立すると思っておりますから。そういう手法でできる限り国民の懐に飛び込んで議論をいたしたいと思っております。
既に、具体的には2003年度の税制改革の項目としては5項目挙げられております。今日の塩川大臣のお言葉にもございましたが、政治的にはかなり逼迫していると思いますが、そう急いだからといって税の本体でないものができるわけではありませんから、慎重にやりたいと思います。9月2日までで対話集会が終わりますので、その終わったあたりで中間的なまとめ、塩川大臣のお言葉でいうと、透けて見えるだったかな、だいぶ透けて見えてると思っているんだけれども、更に一段と具体的なものにできるかどうかを含めて中間的なとりまとめに向け、更に一段と深めていきたいと思っております。
一番頭を悩ましているのは、相続贈与のスキームですが、今度の基本方針の中にも「暫定的取組みをする」と書いてありましたから暫定的な取組みの具体的内容をできるだけ早い時期に出したいと思っています。
それから研究開発投資とかの範囲ですね、この問題は面倒だし、あと外形課税の具体的な中味についてはこれから再度詰めなければいけないなと思いますが、ある程度長い間やってきましたから選択肢は自ずと決まってくると思います。そういう意味で、比較的出来やすい部分とちょっと時間がかかるところとございますが、とりあえず5項目についてはなるべく早く全力をあげて整理したいと、このように考えております。以下の取扱いというのはこういう事でございます。
以上です。
〇記者
首相とのやり取りの中で重点5項目の具体化に向けてのご指示とか、あと昨日、政府与党で協議されましたが、デフレ対策的な臨時的な措置についての話等はございましたでしょうか。
〇石会長
首相はぶれていないと思います。前からおっしゃっている事は中長期的な姿を描いてくれと我々に諮問を出され、したがって、今与党3党とか、一部諮問会議でも出ているかもしれませんが、どういう言葉を使ったかな、小規模にちまちましたかな、パッチワーク的かな、短期的な視点からのデフレ対策と称する税制の活用、これについては恐らく政治的な情勢で前倒し等の話はあったかもしれませんけど、基本的には従来の姿勢でいいと思われているのではないかと思います。それについては具体的な指示はありませんでした。
〇記者
中間的なものは9月初めにということで、最終的なものが見えるのは10月ぐらいですか。
〇石会長
5項目を優先して議論しないといけないと思いますが、5項目だけが我々に課された任務ではありませんので、中長期的なあるべき姿というのは、本文21頁にしかと書き込んだつもりですが、それを具体的な制度に移していくことについては、それなりに時間的に早くやるもの、じっくり腰を据えてやるもの、いろいろあると思います。
5項目の次に来るものをどれにして、さらにその後どういうことをするのかというのは、これから基礎小を中心としたメンバーと議論して詰めていきたいと思っております。いずれにしても、当面の課題と次に来る課題ぐらいの具体的なイメージはまた公表したいと思います。
〇記者
1月17日に議論を始めまして、その間諮問会議と対立している云々の報道ありまして、山あり谷ありだったかと思うんですが、今回の答申の意義も含めまして会長の感想をお伺いしたいと思います。
〇石会長
従来は1月から6月の間というのは政府税調というのはあまりやってなかったんですよね。他のところもやってなかったけれども、そして秋になると各所がバタバタとやりだしたということですよね。
私は小泉首相自らが言っていたように、活性化した議論ができたと、俺に感謝すべきだということを言っていましたが、私もそういう意味においては良い議論の場を与えてもらったと思っております。税制調査会のメンバーは今の税制のままでいいと誰も思っていない。ただ、これまで増税の話をすると政治的にすぐ蓋をされちゃうんじゃないかという話もございました。
まさに予断なく聖域なくやってくれという話は、ある意味では誠に自由な活躍の場を与えられたということで、ある意味では我々は自由に振舞えたと思うし、それなりの成果はあげられたのかなと思っております。
この種のことを、つまり将来、苦い国民に選択というか厳しい痛みを、考えたら困るようなことを言う機関はないわけで、政治的にはでてこないし。我々も無条件で言っているわけではありません。あるターゲットでこういう事に到達するためには、硬軟織り交ぜた様々なアプローチの仕方がありますから、それを考えつつ、日本がこれから生き延びていく、あるいは国際社会で一段と信頼を得るためにはやらなければならない処方箋を描いたつもりです。
昨日Financial Timesの記者と会ったら、今日の記事で日本が破産しそうなことを書いてありまして、こっちが心配することを向こうが心配してくれているんだけれども、なんか国内はあんまり心配してない。そこは違和感ありますけれども。そのこれからギャップを埋めたいと思います。
〇記者
今後の段取りがはっきりしないので整理したいのですけれども、とりあえず公聴会は9月2日までというのは決まりだと思うんですが、今の会長のお話ですと、9月2日のあとに中間とりまとめとおっしゃったのですが。
〇石会長
まだ事務局と詰めておりませんが、恐らく9月2日というのは待ちきれないから8月の最後の週か後半に、基礎小なり総会なりを数回開いて、そのときの対話集会の反応、これは我々にとって重要な資料になってくると思います。それをサマライズする格好で基本的な評価を整理して、それから今回の対話集会では少なくとも5項目についてどういう反応があるか説明をしようと思っています。例えば、配偶者特別控除はどうなのか、「益税」の対策はどうなのか、生前贈与をどう考えるか、一応出したいと思っています。それを受けてそれを整理する格好で自ずからあるスキームを作ることができると思ってます。まだ両局長とも話をしていませんから、塩川大臣も8月中に議論をと言ってますから、せいぜい9月初めぐらいまでには透けて見えるような格好のものを、5項目といっても項目だけですから、これに詳細的なスキームが入るような格好のものをと思っています。そういうスケジュールです。それを受けて休んでいるわけにいかないでしょうから9月、10月にかけて最終的に5項目以外のところでもう少し詰めなければならないところは詰めて、それで10月末か11月には今年度の税制改革案の参考にするようなことも含めた意味で我々の抜本見直しの案を出したいと思っています。
〇記者
もうひとつわからないのは、塩川大臣が政府与党の追加デフレ対策のほうで出ている税制改正項目ありますよね、研究開発とか相続贈与とか、これが例の5項目に入っているという理解だと思いますが、
〇石会長
僕はそう思います。
〇記者
5項目を議論する中で追加デフレ対策として政府から与党に提案している内容についても政府税調で詰めるということになるのでしょうか。
〇石会長
与党3党のデフレ対策云々といっていることを政府税調がやる必要があるんでしょうか。わかりませんが。ただ、土地税制とか証券税制等々一部見直すことが入ってくるかもしれない。固定資産税の見直しも入ってますから。土地税制については。その中で間接的に触れることがあっても、与党3党のデフレ対策になっていることをさらに諮問を受けているわけじゃありませんので。首相はそういうことを諮問出しているわけではないから。それは直接はやるつもりありません。
〇記者
全体としてこれから税負担を増やさなきゃいけないというのはわかるんですけれども、その前にここにも書いてあるように歳出の見直しというのがあると思うんですが、この答申の中では例えば地方交付税、地方財政の問題とか、特定財源の問題とか、歳出と密接に絡んだ部分では、諮問にあったにも係わらず、全体にあまり踏み込みがないように思うんですけれども。
〇石会長
これからでしょ、それは。本来歳出に絡んでいる部分ですから、国と地方に絡めては諮問会議がやると思います。それで地方交付税の中味自体の見直しについては我々守備範囲ですけれども、ただそこだけ取り上げて地方交付税の見直しは出来ないし、片山大臣が言ったように税源移譲と交付税見直しと国庫支出金と3点セットですから、その3点の1つだけ税調でやってもあまり議論にならないと思います。私は議論する場を作ってくれといってきたので、税調で見直してくれといわれても、できる範囲ではやってみたいとは思いますけれども、トータルなスキームまでは描ききれません。税調にはそこまで権限がないと思う。国庫支出金の見直しも含めて。問題意識は持ってますから言える範囲で言いたいと思います。個人的には歳出カットといっても一部口先で言っているだけで、今度3つ挙げました、社会保障と地方財政と公共事業。しかしどこまでやればいいかというのはターゲットがほしいですよね。恐らく対話集会を開くと一番そこが集中砲火を浴びますから。僕は願わくば、どこまで歳出カットをしてそこまで達しないうちは増収の議論ができないというような形じゃないとなかなか納得しないと思うんです。そういう歳出カットの議論の場を探したいと思いますよ。特に財政審あたりと議論して。
〇記者
特定財源については。
〇石会長
特定財源については、そこに書き込みました。見ていただければお分かりのとおり、一般財源化を含めてそのあり方を見直すといったあたりで今のところは政府税調としては両論ありますから、精一杯だと思います。暫定税率というのはそのままそっくり消えてなくなる心配を持っている人もいますし、やり方は非常に難しいと思いますね。理想的には一般財源化して環境税みたいなものを考えたらいいんでしょうけど、なかなか慎重に行動しなければならないところがありますので口先で話がポーンと終わるようなことじゃありません。したがって慎重にものの関係を加味しつつ一般財源化を含めたあり方を考えると。中味を詰めることを努力したいと思いますが、どういう格好で話が進捗するか、私も探っているところです。
〇記者
人的控除なんですが、配偶者と基礎控除と扶養控除の基本構造の3つの考え方の見直しということで、税調のほうから国民に対して議論を投げかけるというのは珍しいことだと思うんですが、これの狙いと、最終的に税調として集約して考えをまとめるんでしょうか。
〇石会長
対話集会でどう説明するか結構悩んでいるんですよ。読んでもすぐさまぱっとわかるような話題ではないかもしれない。図でも作って説明できたらと思っていますが。
はっきりいって、(基礎控除、配偶者控除、扶養控除の3つの控除に簡素集約化するという案の後に更なる見直しとして呈示した3つの考え方のうち)考え方1以外は、配偶者控除のところはなくすという選択肢となっているんですよ。まさに男女共同参画を含め働く人に控除が適用されるようにする、ただし働けない老人とか子供とかの分は控除を付けましょうと。端的に言って家庭の主婦については扶養控除又は家族控除として一部認めることはあっても、あるいは基礎控除に吸収することはあっても、独立の控除をなくすということですから、そういう形で聞いてみてどういう意見が出るかという議論は仕向けてみたいと思います。
なくせという声も結構あるわけだから。残せという声とどれだけ拮抗するか。それはこれから議論したいと思います。
〇記者
最終的にそれは1つの形にしてまとめて何かするんでしょうか。
〇石会長
配偶者控除そのものの議論の前に配偶者特別控除を何とかしなければいけない。配偶者特別控除と特定扶養控除が先ですからその二つを突破するだけでも結構大変だと思いますよ。その後でしょう。配偶者控除そのものは。5項目には配偶者特別控除は入っているけれども、配偶者控除そのものは入っていない。配偶者特別控除を議論する過程で配偶者控除も議論の対象になると思いますので、言うなれば世帯とか家族とか人的控除について所得稼得者自体だけの控除でいいか、世帯の特性を入れるかどうかという議論も幅広くやるということでこれから議論を深めていきたいと思います。今のところこっちの方だというのは持っていません。重大な問題なので議論しないと。専業の方からいうとこれはすごい抵抗のある話です。それを少しいろいろな形で議論してみたいと思います。
政府税調はある意味でいろいろな層から委員が出てますから。諮問会議みたいに活性化で法人税下げるというだけの視点ですと必ず反発が出るんです。当然。労働組合の方もいるし、主婦連の方もいるし消費者の方もいる。経営サイドだけの減税減税で話はわかるとは思わない。これは所得税を高め消費税にも少し頼るという中に、ウェルバランスというかバランスの取れた議論をしないといけないから。そこはまさにこれから国民的議論に乗っけていきたいと思います。
〇記者
今回の基本方針では、これまでのご説明で触れられていないですが、時間軸の話ですとか、ある程度の幅を持たせた率の話ですとか、秋以降の議論の中では優先順位を含めて仕上げの作業の中でそれらはつけられていくのか。
〇石会長
今度5項目というのがボーンと出たのは、首相の方から。議論だったからクリアカットになったけれども、あれがなかったら今回の基本方針読んでもわかんないでしょ。何がこうだとか。
しかし、基本方針の中にこれは第1順位とか第2順位とか普通つけない。だから秋以降も別紙とか別の方法でつけられる方法があるのかもしれませんけど、レジュメのような書き方もできるのかもしれませんけど、いずれにしても政策の順位、税制改革の順位は必要だと思ってます。少なくとも、二元的所得税とか納番の話はちょっと先だろうし、その前に恐らく僕は相続贈与の話が来ると思っていたが来ましたし、総合課税の話はもっと先だろうし、自ずから書いている本人はわかっているんだけれども、今回みたいな形で出せるかどうかです。それがないとなかなか議論はしにくい。そんなふうに考えてます。
〇記者
税率の話は。
〇石会長
税率とは消費税とか、所得税とか法人税の税率ですか。これは恐らく自民党税調の話とも絡んでくる話だと思ってますから、秋以降、例えば税率の話ですとどうするんですかね。我々が税率の話ではっきり言っているのは、相続税の最高税率が70じゃ高いと書いてますよね。ああいう格好で書けるものが他にもあるのか探っていますけれども、なかなかまだちょっと難しいところです。
税率とか最終的な国民的全体に影響を及ぼすようなジャッジメントというのは、一政府税調では判断が難しいかと思っているんです。ある意味では、国民付託を受けた政治家の責任ではないかと思ったりします。これからの議論で解決したいと思っていますけれども。地価税の時も消費税率のときも最後に決断したのは党税調ですよね。そういう格好になるような気しています。
〇記者
10年20年を見据えてという話があったんで、伺っておきたいんですけれど、先ほどもちょっと出たんですが、総合課税なんですが、これについてはどういうスタンスでおありですか。
〇石会長
政府税調としては総合課税の看板を100%降ろすということはないと思われます。というのはあくまで総合課税を大いに推奨しているグループも強く、かつ、事務局も財政学者も、今全部あきらめて二元的所得税をファイナルなゴールとしようということころまで意見が集約できません。そこで総合課税を掲げていく限りにおいては税制改革の方向が見えてくるんです。そこに1本の光が見えてくるような努力をしていけばいいんだから。そういう意味ではまだ掲げると思います。ただ、現実的な論者から見ると、戦後50年経っても何も出来ないじゃないかという話もあり、ただ、納番が入った時に新しい局面になるかなと思っています。私は資産性所得を総合課税にしたときのキャピタルフライトなり、商品設計の魅力なさ等々から見ると、難しいという意識を個人的には持っていますけれども。ただ僕も敢えてむしり取ることはないと思っています。
〇記者
10年20年先のタックス・ミックスですけれども、これはどういうのを念頭に置かれているのですか。
〇石会長
個人的には所得税と消費税が基幹税になると思います。法人税は連結が入ったり、国際競争力の観点があったりして、各国並みの地位に落ちると思います。各国並みの地位というのはトータルの税収の中で10%代です。今20%前半でしょ。高度成長期には30%超えて個人所得税より高かったんですから。僕は個人所得税の世界は個人所得税と消費税になって、そうなりますと消費税の持つ逆進性的なイメージとか、所得税はフラット化というところまできていますから、再分配効果はなくなりますよね。僕はその後は資産課税で補完するしかないと思っています。したがって、所得税は基幹税として極力今までぐらいにして、消費税と資産税の組み合わせでそこは再分配的な効果をかませつつ消費税ということになるんじゃないかと思ってますけどね。それと個別消費税、酒、たばこ。これは担税物資としては重要な役割を演ずると理解しています。これから大きな問題は国と地方の税源配分で何を使うかというところでしょう。それはまだはっきりしたことはいえない段階ですけど。それをどういうふうに整理していくかというのは今日の片山大臣のお話にありましたように大変難しいものがあると思います。
(以上)