会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方
はじめに
本年5月、企業の組織再編成を容易にするために会社分割法制を創設する商法改正法が成立した。税制においても、この法整備に則した適切な対応が求められている。法人課税小委員会においては、このような状況を背景に、平成13年度税制改正における整備に向けて、会社分割をはじめとする企業組織再編成に係る税制について法人課税のあり方を中心に検討を重ねてきた。この間、ドイツ・フランス・アメリカにおいて、各国における会社分割税制について調査を行った。
また、税制調査会の本年7月の答申「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」においては、当小委員会における検討を踏まえ、会社分割法制に係る税制上の対応を検討する際の基本的な視点として、次の点が示された。
[1] 合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税のあり方
[2] 株主における株式譲渡益課税やみなし配当に対する適正な取扱い
[3] 納税義務・各種引当金などの意義・趣旨などを踏まえた適正な税制措置のあり方
[4] 租税回避の防止
企業組織再編成に係る税制については、その内容が今後における企業の組織再編成のあり方に大きな影響を与えること、法令改正に向けて更に実務的な検討を加えていくべき点が多岐にわたることを考慮し、当小委員会として、できるだけ早くその基本的考え方を示すこととした。
第一 基本的な考え方
(1) 近年、わが国企業の経営環境が急速に変化する中で、企業の競争力を確保し、企業活力が十分発揮できるよう、商法等において柔軟な企業組織再編成を可能とするための法制等の整備が進められてきている。税制としても、企業組織再編成により資産の移転を行った場合にその取引の実態に合った課税を行うなど、適切な対応を行う必要がある。
(2) 企業組織再編成に係る法人課税のあり方を検討するに当たっては、以下の点から、現行の現物出資、合併等に係る税制を改めて見直し、全体として整合的な考え方に基づいて整備する必要がある。
第一に、会社分割には、現物出資、合併等と共通する部分があり、例えば分割型の吸収分割と合併では法的な仕組みが異なるものの実質的に同一の効果を発生させることができる。同じ効果を発生させる取引に対して異なる課税を行うこととすれば、租税回避の温床を作りかねないなどの問題がある。
第二に、現行の税制においては、営業譲渡により企業買収を行う場合には、資産の時価取引として譲渡益課税が行われるが、他方、合併により企業買収を行う場合には、課税が繰り延べられるなどの問題がある。
(3) 会社分割・合併等の組織再編成に係る法人税制の検討の中心となるのは、組織再編成により移転する資産の譲渡損益の取扱いと考えられるが、法人がその有する資産を他に移転する場合には、移転資産の時価取引として譲渡損益を計上するのが原則であり、この点については、組織再編成により資産を移転する場合も例外ではない。
ただし、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更が無いと考えられる場合には、課税関係を継続させるのが適当と考えられる。したがって、組織再編成において、移転資産に対する支配が再編成後も継続していると認められるものについては、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。
また、分割型の会社分割や合併における分割法人や被合併法人の株主の旧株(分割法人や被合併法人の株式)の譲渡損益についても、原則として、その計上を行うこととなるが、株主の投資が継続していると認められるものについては、上記と同様の考え方に基づきその計上を繰り延べることが考えられる。
(4) 分割型の会社分割や合併における分割法人や被合併法人の株主については、その取得した新株等の交付が分割法人や被合併法人の利益を原資として行われたと認められる場合には、配当が支払われたものとみなして課税するのが原則である。ただし、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる場合には、従前の課税関係を継続させるという観点から、利益積立金額は新設・吸収法人や合併法人に引き継ぐのが適当であり、したがって、配当とみなされる部分は無いものと考えられる。
第二 資産等を移転した法人の課税
一 移転資産の譲渡損益の取扱い
法人が組織再編成によりその有する資産を他に移転した場合には、その移転資産の譲渡損益の計上を行うのが原則であるが、組織再編成の実態や移転資産に対する支配の継続という点に着目すれば、企業グループ内の組織再編成により資産を企業グループ内で移転した場合には、一定の要件の下、移転資産をその帳簿価額のまま引き継ぎ、譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。
また、共同で事業を行うために組織再編成により資産を移転した場合にも、移転の対価として取得した株式の継続保有等の要件を満たす限り、移転資産に対する支配が継続していると考え、譲渡損益の計上を繰り延べることを考えることができる。
なお、いずれの場合にも、移転資産の対価として金銭等の株式以外の資産が交付される場合には、その経済実態は通常の売買取引と異なるところがなく、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることは適当でないと考えられる。
1 企業グループ内の組織再編成
組織再編成により移転した資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる企業グループ内の組織再編成は、現行の分割税制(現物出資の課税の特例制度)の考え方において採られているように、基本的には、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成とすべきである。ただし、企業グループとして一体的な経営が行われている単位という点を考慮すれば、商法上の親子会社のような関係にある法人間で行う組織再編成についてもこの企業グループ内で行う組織再編成とみることが考えられる。
さらに、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。ただし、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和することも考えられる。
2 共同事業を行うための組織再編成
移転資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる共同で事業を行うための組織再編成に該当するか否かは、組織再編成により一つの法人組織で行うこととした事業が相互に関連性を有するものであること、それぞれの事業の規模が著しく異ならないこと、それぞれの事業に従事していた従業員の相当数が引き継がれることなどにより判定するのが適当である。
また、先に述べたとおり、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べるためには、事業の移転の対価として取得した株式を継続保有するとの要件が必要である。さらに、共同で事業を行うための組織再編成についても、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。
二 資本の部の金額の取扱い
商法上、分割型の会社分割や合併においては、分割法人や被合併法人の資本の部の利益準備金その他の留保利益を新設・吸収法人や合併法人に引き継ぐことが認められているが、分社型の会社分割や現物出資においては、それらを引き継ぐことは認められていない。
分割型の会社分割や合併における利益積立金額の引継ぎについての税制の考え方としては、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められず、資産の移転が原則どおり時価により処理される場合には、時価による通常の資産の現物出資の場合と同様に、利益積立金額の引継ぎは行わないこととすべきである。他方、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められ、資産の移転が帳簿価額により処理される場合には、従前の課税関係を継続させるのが適当であると考えられることから、利益積立金額についても引継ぎを行うのが適当である。なお、分割型の会社分割や合併の場合には、利益積立金額の引継ぎがありうるため、その金額を計算するためにいわゆるみなし事業年度を設けることが必要となる。
分社型の会社分割や現物出資は、資産を移転し、その対価として株式を取得するものであり、これらにおいては、利益積立金額は引き継がないこととするのが適当である。
第三 株主の課税
一 株式の譲渡損益の取扱い
分割型の会社分割や合併により、分割法人や被合併法人の株主は、新設・吸収法人や合併法人の新株等の交付を受けることになる。この場合には、先に述べたとおり、原則として旧株の譲渡損益の計上を行うことになるが、株主の投資が継続していると認められるときには、譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。
この投資の継続性は、株式を実質的に継続保有しているとみることができる場合に認められるものであり、基本的には、株主が金銭などの株式以外の資産の交付を受けるか否かにより判定することが適当である。
二 みなし配当の取扱い
分割型の会社分割や合併により、新設・吸収法人や合併法人の新株等の交付を受けた分割法人や被合併法人の株主においては、旧株の譲渡損益の取扱いとともに、分割法人や被合併法人の利益を原資として新株等の交付が行われたと認められる部分、すなわち配当とみなすべき金額の有無等についても検討が必要となる。
この点については、分割法人や被合併法人において、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められず、資産の移転が原則どおり時価により処理される場合には、法人が時価による資産の現物出資を行って株式を取得し、その株式を減資の対価として株主に交付した場合と同様に考えて、その法人の利益を原資とする部分があると認められるときは、その部分についてはみなし配当とすべきである。他方、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められ、資産の移転が帳簿価額により処理される場合には、利益積立金額が新設・吸収法人や合併法人に引き継がれることから、先に述べたとおり、配当とみなされる部分は無いものと考えるのが適当である。
第四 各種引当金の引継ぎ等
会社分割・合併等により移転する資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる場合には、その資産に関して適用される諸制度や引当金等の引継ぎについても、基本的に従前の課税関係を継続させるとの観点から、組織再編成の形態に応じて必要な措置を考えるべきである。
法人税における諸制度の取扱い等については、別紙によることが適当である。
第五 租税回避の防止
組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転とするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定を設ける必要がある。
第六 その他
(1) 法人が分割型の会社分割をした場合には、新設・吸収法人は、その分割法人の分割前に納税義務が成立した租税について、その分割法人から承継した財産の価額を限度として、連帯納付の責任を負うこととすることが適当である。なお、営業の全部を承継させる分割型の会社分割にあっては、その租税の納付義務の新設・吸収法人への承継について、実務的に検討する必要がある。
(2) 改正商法による会社分割の法律上の効果は、合併の場合と同様とされており、会社分割による資産の移転に係る消費税の課税関係については、合併の場合と同様に取り扱うことが適当である。
また、消費税の納税義務の判定等に関する特例を設ける必要があるほか、新設・吸収法人が承継した資産について対価の返還等や貸倒れが生じた場合の消費税額の調整等に関し、合併に準じて所要の整備を図る必要がある。
(3) 以上のほか、企業組織再編成に係る税制の整備について所要の措置を講ずる必要がある。
(4) 組織再編成に係る法人税制は、株式交換及び株式移転を合わせて検討する必要があるが、これらの制度は導入後間もないこともあり、今後、その実態等を見極めながら見直しを行うのが適当である。
(別紙)
一 法人税における諸制度の基本的な取扱い
会社分割・合併等において移転資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる場合における諸制度の取扱いについては、基本的には、以下のように考える。
(注)合併の場合には、被合併法人の全ての資産等がその帳簿価額で合併法人に引き継がれることから、特に留意すべきものを除き、引き継ぐ資産の範囲やその金額に係る記載を省略している。なお、合併及び現物出資の取扱いの中には、既に現行制度において同様に取り扱われているものも含まれている。
〔受取配当の益金不算入〕
(1) 会社分割・合併等により受け入れた株式に係る特定株式の所有期間要件の判定をするときは、新設・吸収法人等の所有期間に分割法人等の所有期間を含めることが適当である。
(2) 会社分割・合併等により移転した株式に係る短期所有株式の判定については、その移転株式数等に応じて調整した株式数により行うことが適当である。
〔棚卸資産〕
分割型の会社分割及び合併により洗替低価法が適用された棚卸資産を受け入れた場合には、その棚卸資産の期末評価額の計算の基礎となる取得価額は、分割法人等における原価法による評価額とすることが適当である。
〔減価償却等〕
(1) 会社分割・合併等により移転する減価償却資産は、償却超過額も含めその時の帳簿価額で引き継がれることから、新設・吸収法人等における償却限度額の計算の基礎となる取得価額も分割法人等における取得価額とすることが適当である。
(2) 事業年度の中途で分社型の会社分割及び現物出資が行われる場合には、その会社分割等までの期間に対応する償却費を計上できることとすることが適当である。
(営業権)
会社分割・合併等による資産の移転が原則どおり時価取引とされる場合において計上できる営業権は、財産価値が明確なものに限ることが適当である。
(一括償却資産)
会社分割及び現物出資の場合における一括償却資産の引継ぎは、移転する事業との対応関係が明示される金額に限ることが適当である。
(注)繰延消費税額等も一括償却資産と同様の取扱いとすることが適当である。
(繰延資産)
会社分割及び現物出資により移転する資産・負債、契約等に密接に関連する繰延資産は、これらの資産等に伴って移転することとすることが適当である。
〔圧縮記帳〕
(1) 会社分割・合併等により資産を移転する場合、その資産に係る圧縮積立金勘定等も一体的に引き継ぐ必要があると考えられるが、現行制度は、商法・会計上の処理を前提としており、それとの調整の方法も含め、その取扱いを実務的に検討する必要がある。
(2) 会社分割及び現物出資の場合における特別勘定の引継ぎは、圧縮記帳の対象となる資産の取得が確実である場合に限ることが適当である。
(3) 事業年度の中途で分社型の会社分割及び現物出資が行われる場合には、その直前に圧縮記帳の処理ができることとすることが適当である。
〔引当金等〕
(1) 引当金のうち、会社分割・合併等により移転する資産と個別的な対応関係にあるものについては、その資産と一体的に引き継ぐことが適当である。他方、資産との個別的な対応関係が無い引当金は、分社型の会社分割及び現物出資の場合には、基本的には引き継がないこととすべきであるが、それぞれの引当金の趣旨・性格等を考慮し、その取扱いを検討する必要がある。
(2) 事業年度の中途で分社型の会社分割及び現物出資が行われる場合に引き継ぐ引当金については、分割法人等においてその直前に繰入れができることとすることが適当である。
(3) なお、原則どおり移転資産の譲渡損益の計上を行う会社分割・合併等の場合には、その譲渡損益の計上時に、引当金を取り崩す等の処理を行うことが適当である。
(貸倒引当金)
[1] 個別評価債権に係る貸倒引当金については、会社分割・合併等により金銭債権を移転する場合には、その金銭債権に係る金額を引き継ぐことが適当である。
なお、個別評価債権に係る貸倒引当金については、債務者ごとに繰入限度額を計算する方法に改めることが適当である。
[2] 一括評価債権に係る貸倒引当金については、分割型の会社分割及び合併の場合には、その移転する一括評価対象の金銭債権に応じた金額を引き継ぐことが適当である。
[3] 貸倒実績率については、合併の場合には、所要の調整を行う必要がある。また、会社分割及び現物出資の場合には、移転する事業に係る貸倒実績率を合理的に計算できる場合があるか否かについて、実務的に検討する必要がある。
(返品調整引当金)
[1] 返品調整引当金は、売上の修正といった側面もあること等を考慮して、会社分割・合併等の場合に、移転する対象事業に係る売掛金又は販売高に応じた金額を引き継ぐことが適当である。
[2] 返品率については、合併の場合には、所要の調整を行う必要がある。また、会社分割及び現物出資の場合には、移転する対象事業に係る返品率を合理的に計算できる場合があるか否かについて、実務的に検討する必要がある。
(退職給与引当金)
退職給与引当金は、従業員の引継ぎ等と一体として取り扱うことが適当と考えられることから、会社分割・合併等の場合には、移転資産の譲渡損益の計上が繰り延べられないときも含め、その移転する従業員に係る要支給額に応じた金額を引き継ぐことを検討する必要がある。
(賞与引当金)
賞与引当金は、分割型の会社分割及び合併の場合には、その移転する従業員数に応じた金額を引き継ぐことが適当である。
(製品保証等引当金)
製品保証等引当金は、分割型の会社分割及び合併により対象事業が移転する場合には、その移転する対象事業に係る収益に応じた金額を引き継ぐことが適当である。
(特別修繕引当金・準備金)
特別修繕引当金・準備金は、会社分割・合併等により対象資産が移転する場合には、その対象資産に係る特別修繕引当金・準備金を引き継ぐことが適当である。
(準備金)
租税特別措置における各種準備金は、引当金に準じた取扱いとする方向で検討する必要がある。
〔有価証券〕
(1) 分割型の会社分割及び合併により売買目的有価証券が移転する場合には、時価法適用後の帳簿価額を引き継ぎ、その評価益又は評価損の戻入れ処理は、新設・吸収法人等で行うことが適当である。
(2) みなし配当の取扱い等に応じた所要の規定の整備を行う必要がある。
〔長期割賦販売等、工事進行基準〕
(1) 会社分割・合併等により長期割賦販売等に係る契約を引き継いだときは、新設・吸収法人等は継続して延払基準を適用できることとすることが適当である。
(2) 会社分割・合併等により長期大規模工事に係る契約を引き継いだときは、新設・吸収法人等は継続して工事進行基準を適用することが適当である。また、工事進行基準を適用するその他の工事に係る契約を引き継いだときは、継続して工事進行基準を適用できることとすることが適当である。
(3) 事業年度の中途で分社型の会社分割及び現物出資が行われる場合には、その直前にこれらの処理を行うこととすることが適当である。
〔繰越欠損金〕
(1) 合併の場合には、租税回避行為を防止するための措置を講じた上、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが適当である。
(2) 分割型の会社分割の場合には、移転する事業に係る繰越欠損金の計算の困難性を考慮し、その引継ぎについては、実務的に慎重な検討を行う必要がある。
〔租税特別措置〕
特別償却、税額控除等の各種の租税特別措置については、それぞれの政策目的を考慮しつつ、法人税法における諸制度に準じた取扱いとする方向で検討する必要がある。
〔所得税額控除〕
(1) 会社分割・合併等により利子配当等の元本が移転した場合において、新設・吸収法人等が原則法によりその控除所得税額を計算するときは、その所有期間に分割法人等の所有期間を含めることが適当である。
(2) 会社分割・合併等により利子配当等の元本が移転した場合において、分割法人等及び新設・吸収法人等が簡便法によりその控除所得税額を計算するときは、利子配当等の元本の数又は額面金額を調整した数又は金額を以て行うことが適当である。
〔外国税額控除〕
(1) 会社分割・合併等により国外所得に係る事業が移転した場合、新設・吸収法人等は、繰越控除余裕額及び繰越限度超過額を国外所得に係る基準により合理的に計算できる限りにおいて、これらを引き継ぐことが適当である。
(2) 会社分割・合併等により受け入れた株式に係る外国子会社(孫会社)の所有期間要件の判定については、新設・吸収法人等の所有期間に分割法人等の所有期間を含めることが適当である。
〔中間申告・納付〕
合併法人が前期確定税額方式により中間申告を行う場合には、その中間納付額は、被合併法人分を加算した金額とすることが適当である。
〔その他の所要の整備〕
その他の個別制度についても、上記に準じて所要の整備を図る必要がある。
二 法人住民税・法人事業税
法人住民税及び法人事業税についても、法人税における諸制度の取扱いを踏まえつつ、所要の整備を図る必要がある。
商法における会社分割の形態の概要
会社分割に係る税制の主な検討の視点
合併・現物出資等の資本等取引と整合性のある課税のあり方
商法改正により導入が予定されている会社分割には、その経済実態が合併や現物出資と同様なものがある。また、増減資、自己株式の消却、残余財産の分配あるいは実質的な利益の資本組入れなどの資本等取引が生じ得る。
このため、会社分割に対する課税のあり方を検討するに当たっては、合併、増減資など各種の資本等取引と整合性のある課税のあり方を確保する等の観点から、広範な検討を行う必要がある。
株主における株式譲渡益課税やみなし配当課税に対する適正な取扱い
分割会社の法人株主及び個人株主は、会社分割により、分割会社の株式を保有したまま、あるいは分割会社の株式と交換に、新設・吸収会社の株式を取得するが、この場合、法人税及び所得税における株式譲渡益やみなし配当の課税関係について、適正な取扱いを確保する観点から、検討を行う必要がある。
納税義務・各種引当金などの意義・趣旨等を踏まえた適正な税制措置のあり方
会社分割が行われる場合の商法・企業会計等における具体的な取扱いを踏まえ、納税義務・各種引当金の引継ぎなどについて、分割会社及び新設・吸収会社における法人税法及び租税特別措置法等の広範な各税法の適用関係がどのようになるのかを整理し、その意義・趣旨等を踏まえた適正な税制措置のあり方について検討を行う必要がある。
租税回避の防止
会社分割は、その形態や方法が極めて多様となることが予想されることから、租税回避の手段として利用されることのないように、法制上万全の措置を講ずる必要がある。
わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-(抄)
平成12年7月 税制調査会
二 法人課税
1.法人税
(5) 企業組織再編への対応
[1] 会社分割に係る税制
イ.会社分割法制の整備とその内容
会社分割とは、一般に、会社からその一部を切り離すことにより、一つの会社を法律上独立した複数の会社に分けることをいいます。
今回法整備された会社分割は、会社の営業の全部又は一部を他の会社に承継させることにより、会社を分割するというもので、従来のわが国商法にはなかった概念が導入されたものです。
(注)これまでは、会社の分割は商法上認められている現物出資などにより可能でした。この場合、裁判所が選任する検査役が出資財産やその価格などについて調査することとされています。しかし、その調査にどのくらいの期間を要するか予測が困難であり、その間、営業を停止しなければならない、また、会社設立の時期が決められない、といった問題が指摘されています。さらに、債務の引受けについては、債権者の個別の同意を得なければなりません。これに対し、今回法整備された会社分割制度においては、検査役の調査が不要とされ、また、会社分割の効果として、債務を含めた権利義務が包括承継されるため、債権者の個別の同意が不要となるなどのメリットがあります。
分割の種類としては、分割する会社の営業を承継する会社が既存の会社である「吸収分割」と、承継する会社が分割により新しく設立される会社である「新設分割」が規定されています。また、会社分割に際して、営業を承継する会社は株式を発行しますが、その株式を分割する会社に割り当てる「物的分割」と、これを分割する会社の株主に割り当てる「人的分割」のいずれもが認められています。さらに、これらの中間的形態や複数の会社が共同で行う新設分割も可能とされており、商法上認められる会社分割の形態や方法は多様となっています。
ロ.会社分割制度と税制
今回の商法改正による会社分割制度の創設を踏まえ、当調査会は、法人課税小委員会において、平成13年度税制改正における会社分割に係る税制の整備に向けて検討を進めています。
会社分割が行われた場合、会社間の資産の移転、各種引当金などの引継ぎ、株式などの交付といった局面で課税の取扱いが問題となります。
諸外国の例を見ると、会社分割により移転する資産については、その譲渡益に課税することを原則としています。しかし、会社分割には多種多様なものがあり、このうち、通常の資産の移転とは異なり、分割の前後で経済実態に実質的な変更がない会社分割については、税制上も中立的な取扱いとするとの考え方から、特例として課税の繰延べを行うものとされています。また、合併に係る税制上の取扱いについても、会社分割に係る税制と整合性のある取扱いとなっています。
会社分割についての法的構成は、会社分割を合併と同質の事象として組織法的に構成する大陸型と、会社分割を現物出資による財産の譲渡とその対価として取得した株式の株主への分配の組合せとして構成するアメリカ型の2つがあります。
このうちアメリカ型の会社分割は、今回のわが国商法の改正においては手当てされておらず、わが国に導入される会社分割とは基本的に形態が異なっています。したがって、わが国において、会社分割に係る税制を検討するに当たっては、今回の商法改正により法整備がなされた会社分割制度を念頭に置いて、検討を進めることが適当と考えます。
諸外国においては、会社分割税制について、会社分割の形態や手法は多様なことから、非常に詳細な規定が設けられており、また、会社分割の内容が課税繰延べの適格要件を満たさない場合、大きな税負担が生じ得ます。このため、例えばアメリカにおいては、会社分割については、その税制上の取扱いについて課税当局に事前に確認するいわゆるアドバンス・ルーリングの取得などが行われています。また、フランスにおいては、大蔵大臣による事前承認制が採られています。
ハ.会社分割に係る税制の検討の視点
会社分割に係る税制を検討するに当たっては、株主や会社債権者の利益の保護を目的とする商法と適正課税の実現を目的とする税法との違いにも留意しつつ、税制の観点から十分な検討が必要です。そのためには、商法における計算規定など会社分割の具体的取扱いや資産・負債の分割の際の取扱いの詳細、会計処理のルールの明確化が期待されます。
会社分割に係る税制上の対応を検討する際の論点は、広範かつ多岐にわたっていますが、主なものとしては以下の4点があります。
(イ) 合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税のあり方
会社分割には、その経済実態が合併や現物出資と同様なものがあります。また、増減資、自己株式の消却、残余財産の分配あるいは実質的な利益の資本組入れなどの資本等取引が生じ得ます。
このため、合併、増減資など各種の資本等取引と整合性のある課税のあり方を確保する必要がありますが、その際、合併などに係る現行税制についても併せて広範な検討を行う必要があります。
(ロ) 株主における株式譲渡益課税やみなし配当課税に対する適正な取扱い
分割する会社の法人株主及び個人株主は、会社分割により、分割する会社の株式を保有したまま、あるいは分割する会社の株式と交換に、新設・吸収会社の株式を取得しますが、この場合、法人税及び所得税における株式譲渡益やみなし配当の課税関係について、適正な取扱いを確保する観点から検討を行う必要があります。
(ハ) 納税義務・各種引当金などの意義・趣旨などを踏まえた適正な税制措置のあり方
会社分割が行われる場合の商法・企業会計における具体的な取扱いを踏まえ、納税義務・各種引当金の引継ぎなどについて、分割する会社及び新設・吸収会社における法人税法及び租税特別措置法などの広範な各税法の適用関係がどのようになるのか整理し、その意義・趣旨などを踏まえた適正な税制措置のあり方について検討を行う必要があります。
(ニ) 租税回避の防止
会社分割は、その形態や方法が多様となることから、租税回避の手段として利用されるおそれがあります。例えば、保有する資産を他の会社に対し譲渡する場合には、譲渡益課税がなされるのが当然ですが、吸収分割を利用して実際にはこれと同じことを行うことが可能です。この場合、譲渡益課税がなされないとすれば、会社分割が租税回避の手段として利用されることが考えられます。このようなことのないように、万全の措置を講じる必要があります。
会社分割に係る税制については、上記のような論点を含め、改正商法による具体的な取扱いや企業会計の検討の動向を見極めつつ、引き続き、法人課税小委員会で具体的な検討を進めていく必要があります。