第16回総会 議事録

平成10年4月17日開催

加藤会長

ただいまから、税制調査会の第16回総会を開会します。

ことしは問題が山積しており、皆さま方にもいろいろな意味で御苦労をおかけすると思いますが、よろしくお願いします。

本日の進め方ですが、初めに、先般の総理記者会見の模様について、事務局より説明を受け、皆さま方からの御意見をいただきたいと思います。次に、地方の法人課税について事務局より説明を受けて、皆さまから御意見をいただきたいと思っています。

審議に入る前に、委員の異動があったので、御報告します。

委員の後藤森重さん、鷲尾悦也さんが3月31日付で委員を辞任されました。後任には榎本庸夫さん、全日本自治団体労働組合中央執行委員長です。それから、本日御欠席ですが、笹森清さん、全日本労働組合総連合会事務局長でいらっしゃいます。同日付でそれぞれ任命されています。

また、特別委員の川岸近衛さんが、3月31日付で特別委員を辞任されました。後任には太田宏さん、読売新聞社論説委員が同日付で任命されています。太田さん、よろしくお願いします。

さらに、前回御紹介しましたが、今井敬さんの後任として、塙義一さん 日産自動車株式会社の社長さんが4月14日付で任命されています。どうぞよろしくお願いします。

初めに、税制改正案をはじめとする国会審議において、どのような問題が取り上げられたかについて、主要討議事項(資料1)として机の上に配付してあるので、後ほど御覧いただければと思います。

なお、国会の会期終了後、質問事項などを追加訂正し、後日改めて説明の機会を設けたいと思っています。

また、提出法案要綱を取りまとめたものとして、税制改正関係法律案要綱など(資料2)を机上に配付しているので、御覧いただければと思います。

それでは、本日の審議に入りたいと思います。すでに御承知のことと思いますが、去る4月9日、予算成立後、総理の記者会見が行われ、新たな政府税制調査会への要請がありました。

具体的には、現在の経済情勢を勘案して、特別減税の年内追加2兆円と、来年への継続2兆円、そのほかにいわゆる政策減税の実施、さらには個人所得課税や法人課税のあり方についての検討について述べられています。まずはこの総理の記者会見について、簡単に事務局より説明を受けたいと思います。

森信総務課長

資料説明の前に一言お話をさせていただきたいのですが、平成10年度の税制改正の状況でございます。いろいろな法案を出してきたわけですが、3月31日に「国税関係帳簿保存法」、それから、「法人税法等の一部改正法」、及び「租税特別措置法の一部改正法」、これが国会で成立しています。これで「特別減税法」を含めて今国会に提出した国税関係の主要5法案のうち4本が成立しています。たばこ特別税の創設を盛り込んだ「債務承継財源確保法」はまだ残っていますが、今後審議ということになろうかと思います。

なお、地方税の関係でも「地方税法等の一部改正法」が成立しているということを付け加えさせていただきたいと思っています。

さて、お手許の資料『平成10年度予算成立に伴う橋本総理大臣記者会見』(資料3)ですが、3枚目をちょっとお開きいただきたいと思います。「総合経済対策の基本方針」という表題の資料がついています。これは3月26日の与党3党、経済総合対策の基本方針ということでつけています。この三のところだけを引っ張っていますが、ここに「当面の社会・経済情勢等に対応するため、政策減税の検討を行うほか、グローバルスタンダード及び国民的要請を踏まえ、個人所得課税、法人課税等のあり方を早急に検討する。」というふうに書いています。

これを受けて、政府の経済対策の基本方針を示したものが、この『平成10年度予算成立に伴う橋本総理大臣の記者会見』ということで、1枚目に戻っていただきたいと思います。これは10年度の予算が4月8日に国会で成立しましたが、その次の日の9日に総理の記者会見という形で行われたものです。税のところは線を引いていますので、ここだけ読ませていただきたいと思います。

「まず第一に、私は4兆円を上回る大幅減税を行いたいと思います。所得税、住民税については、今年既に2兆円の減税を実施中ですけれども、更に今年中に2兆円の減税を上積みをし、来年も2兆円の特別減税を継続します。そのほか、国民生活や経済活動にとって、必要かつ有効な税制上の特別措置を講じたいと思います。いわゆる政策減税と言われるものです。福祉、教育、あるいは投資など、さまざまなお考えがありますけれども、このような考え方を念頭に置いてよく検討していきたいと思います。また、税は国民や企業の意欲と活力を引き出すものでなくてはなりません。そうした考えから私は個人の負担する所得税や住民税の在り方について、公正で透明な税制を目指して幅広い観点から深みのある見直しを行いたいと考えています。同時に、法人に対する課税の在り方も極めて重要な問題です。今般、法人税率を3%引き下げましたけれども、私は今後3年のうちに出来るだけ早く総合的な税率を国際的な水準に並べたい。国際水準並みにしたいと考えています。そして、このような問題について、政府及び党の税制調査会に対して早急な検討を開始するようにお願いしたいと思います。」という内容になっています。

そういうことで、税制に関して、総理の記者会見の中で、政府の税制調査会に対して、早急な検討ということが要請をされているということを御紹介したいと思います。

加藤会長

ただいま森信課長より説明がありましたが、机の上に資料として配付している1枚紙(資料4)のとおり、総理の指示は、大きく見ると2つに分けることができると思います。

1つは、短期的な課題として、経済対策としての特別減税・政策減税、もう一つが個人所得課税や法人課税のあり方、という2つに分けることができるかと思います。これらの項目のうち、まず短期的な課題として整理される特別減税、政策減税について、事務局より説明を受けたいと思います。

伏見税制第一課長

お手許に『平成10年分所得税・平成10年度分個人住民税の特別減税の追加実施について(案)』という紙があります。現在検討中の特別減税の追加分ですが、その内容を簡単に御説明します。

1番の減税規模ですが、いま御紹介した総理の会見にあるように、所得税、住民税を合わせて2兆円ということです。現在実施中の特別減税と同様、国税については1.4兆円の減税というのを念頭にいま作業をしています。

2番目の減税方式ですが、現在実施中の特別減税がいわゆる定額控除方式というものによっているので、追加減税については、理論的にはこれに定率減税で乗せるということも可能ですが、源泉徴収義務者の負担等を考えると、より簡素な方向ということで、定額控除方式しかないだろうということで、現在作業をしているところです。

3番目の減税額ですが、上記の減税規模のもとで、課税状況等に基づき現在精査を行っているところですが、全体の減税規模が、当初減税分の 1.4兆円と同じなので、いわば各人別というか、それぞれに分けると、ほぼ同額ないし多少上回る程度の金額となるだろうと。多少上回ると申すのは、前回の当初減税に伴って、それまで課税最低限以上の方が、結果的に課税最低限以下になっているというケースがあります。こういった方の場合には追加の減税の余地がもうないので、若干ですが、前回の現在実施中の減税の各人別の割合というのが少し増えるだろうということです。

具体的な数字が下にありますが、そこに出ている数字は、現在実施中の特別減税の数字です。本人については1.8万円、それから控除対象配偶者あるいは扶養親族の場合は9,000円というバランスです。「程度」となっているのは、これに例えば1,000円オーダーぐらいで本人が上乗せになるというようなことはあり得るかなと思っています。最終的には精査の上確定をしたいと思っています。

したがって、注にあるように、夫婦子2人の場合というのでまとめていますが、当初分が所得税については4.5万円でした。追加分はこの 4.5万円程度ということで、4.5万円に若干上乗せがあり得ると思っていますが、トータルでことしの特別減税というのは9万円程度になろうかと思っています。

なお、参考までに、一番下の欄に夫婦子2人の標準世帯の場合の課税最低限を記しています。所得税については、平成10年度改正、3月末に成立した税法をベースにすると、この標準世帯で 361万6,000円です。これが10年分については、現在実施中の特別減税により、423万円に上がった形です。さらに、今後法案の提出になるわけですが、追加減税を実施すると、この課税最低限が 490万円前後に上がるということになろうかと思っています。

最終的には4月中に内容の詳細を確定して、5月に法案の提出ということになろうと思います。その法案の成立のタイミングによってずれてまいりますが、給与所得者については、形式としては平成10年、その時点で何月というのを決めて、何月の源泉徴収税額から控除するという形で、前回、現在実施中の特別減税と同様の方式で減税を実施していこうと。控除しきれない分については、翌月分以降からも控除可能という方式をとっていこうということです。注にあるように、源泉徴収義務者の事務負担を考慮すると、本来、年末調整において実施するというのがあるいは適当かなと思いますが、景気対策という観点からは、可能な限り早期に実施していくという考え方もあるわけです。具体的な源泉徴収義務者の事務負担を考慮すると、法案の成立から特別減税実施まで約2か月程度の余裕が必要です。したがって、仮に法案成立が5月下旬であれば、8月1日には実施できるという状況です。ここら辺のところは今後の国会の状況等を見て、最終的に判断をして法案を提出したいと思っています。

なお、年金受給者については、給与所得者に準じた取扱いを行いたいと思っています。

それから、事業所得者のケースですが、事業所得者については、現在実施中の特別減税については、第1期の予定納税分が7月にまいるわけですが、そのときの申告からこの特別減税分を控除するという方式を考えています。それがこれから実施に移るところですが、結果的に場合により、追加減税が追いついてくるという可能性があります。したがって、全体の状況によりますが、うまく整理ができるようであれば、予定納税の通知の期限が6月の15日、また、第1期の予定納税がいま申し上げたように7月に行われるわけですが、それぞれ期限を1か月遅らせて、当初分と追加分を合わせて特別減税を実施する。ことしの8月に第1期の予定納税として、その時の段階で実施することが可能かなということで、内々の検討をしているところです。この事業所得者についても、第1期の予定納税分から控除しきれない特別減税分が残った場合には、第2期、───これは11月になりますが、───そこから控除可能にする。また、そもそも予定納税のない方の場合には、これは翌年の確定申告の際に調整をしていただくという形になろうかと思います。

所得税関係は以上です。

上田市町村税課長

続いて、同じ特別減税、個人住民税関係を御説明します。簡単にしますが、減税規模については、国税 1.4兆円に対し地方税 0.6兆円。これはことしの1月に法律を成立させた分と規模としては同等で、同じ規模を上乗せするという形です。

減税の方式についても、国税同様、地方においても、当初と同様の税額を定額で控除をするという方式をとらさせていただきたいと考えています。

減税額ですが、3のところです。地方税は当初、本人が 8,000円、控除対象配偶者 4,000円、扶養者が 4,000円という形でまいりました。国税と同様の理由で、丸々この金額では6,000億円の減税ということに若干欠けることになろうかと存じています。したがって、当初の金額に若干の上乗せ、国税さんは1,000円オーダーということですが、場合によっては、当方はそれより下の 500円とか、そういった刻みということも考えながら適切な額を定めてまいりたいと考えているところです。これらの結果、夫婦子2人の場合の全体の減税効果については、地方のところに書いているとおり、4万円をちょっと上回る程度ということになるものです。

また、1ページの一番下、課税最低限の問題ですが、個人住民税は負担分任、地域社会の経費をみんなで分け負担し合うという考え方から、国税所得税の場合よりも低いところに設定をされているところですが、今回の当初の特別減税を行うことにより、365万円、所得税の通常の特別減税前と同じぐらいになるわけですが、今後、これに加えて 6,000億円規模の減税を実施するならば、概ね 425万円前後というところまで上がってくる。こういうふうな見通しになっています。

次に、2枚目の実施方法です。個人住民税は下半分の方に記載をしています。個人住民税については、これは所得税と課税の方式が異なり、賦課課税ということで、前年所得を基本にしながら、年度の初めで各納税義務者の税額をはじいて、各月の、あるいは各納期ごとの税額を決めて通知をしてやる。こういうやり方をしているところです。したがって、今回のように年度に入ってから減税を行うということは、事務手続の進め方としては全く前例のないことでして、実際問題、各市町村においては、4月の中旬、下旬になると、6月からの課税に向けて、税額の打ち出し等の事務に差しかかっている状況にあります。しかしながら、諸々の経済状況等の判断から、平成10年度分の個人住民税を当初の 6,000億円に上乗せをして、もう 6,000億円やるということに、何とか地方団体としても協力をする必要があるのではないかという観点から、この6月の当初の課税の時期に間に合わせて、事務としては一緒にして1兆 2,000億円の減税ができるようにしたいと考えているところです。

そのためには、我々国のほうとしては、通常の年度ですと、特別徴収義務者、給与支払者のほうに各納税者の税額通知書というものを5月末日までに通知をいたさなければなりませんが、本年度の場合には、諸般の事情からこれを1か月遅らせる。あるいは市町村においても、普通徴収分については、原則6月ということになっていますが、これを7月に遅らせる。こういった別途の手続上の法的な措置をあわせ行いながら、税額の変更の準備をしていかなければならないと考えています。

そういうふうな努力をした上で、特別徴収分については、6月にすでに税を徴収しないということで、7月以降、11回で分割をするということをしているから、今後の上乗せ分については、7月以降の分割された減税額がより多くなる、各月の納付額が低くなるということで、簡単に言うと、7月以降、直接に上乗せが効いてくるという形になるものです。

それから、年金受給者、事業所得者等の普通徴収分、年4回の納付をしていただく場合には、今回は7月に送らざるを得ませんが、その第1期の納期から順次特別減税額を差し引くわけだから、当初の差引額が2倍ちょっとぐらいになって差し引かれる。もし1期で間に合わない場合には2期以降の納付額から減算をするという形で実施をするということになるものです。

いずれにしても、課税方式の特性に基づいて、今年度の追加の減税については、市町村の理解と協力を得ながら、我々としては進めていかなければならないと考えているところです。

加藤会長

次に、景気動向に関連して、昨年の消費税率引上げが昨今の景気落ち込みの原因ではないか、消費税率を引き上げるべきではなかったのではないか、というような指摘がこの頃よく行われます。これらについて、統計的な計数を含めて、その事実関係について事務局より説明を受けたいと思います。

鈴木調査課長

お手許の資料のうち、単に『資料』(資料5)と書かれているものがありますが、それを取り出していただきたいと思います。

最初に消費動向を見る前に、6年11月の税制改革以降の所得減税がいかなるものであったかということが、6年度以降まとめてあります。消費税率の引上げは9年の4月1日からでしたが、その前に、6年度にまず特別減税を5.5兆円行っています。7年度には、税率構造等の見直しに伴う制度減税が 3.5兆円と、特別減税が2兆円。それから、8年度においても同様です。8年度の特別減税については財源は特例公債です。6年及び7年の特別減税の財源は、いわゆる減税公債で、償還期限が20年のものです。9年の4月1日に消費税率が3%から4%になるとともに地方消費税が創設され、合わせて5%に上がりました。9年度当初においては、特別減税を実施しないこととしましたが、先般の特別減税、これは会計年度ですと、9年度と10年度にまたがる減税ですが、特例公債で実施しております。

右の部分をご覧いただきますと、総計としてフィスカル・ニュートラルということで実施したことをご確認いただけると思います。なお、消費税率の引き上げ前に16.5兆円の先行減税があったということです。

次のページは、民間最終消費支出を実質ベースでとっています。実線は前年同期比、点線は前期比です。消費税率の引上げ、地方消費税の創設は4月1日ですが、その前に駆け込みの需要があって、8年度、四半期にすると9年の1~3月、あるいは8年の10~12月、かなり高い伸びを示しています。9年の4月から6月にかけて、この駆け込みの反動で大きく減少しましたが、7月から9月になると、前期比ではもちろん、前年同期比でもプラスに転じています。そして10月以降、マイナスに落ち込んでいます。この7~9月がプラスとなっているのは、その前の年のO-157 の影響ではないかということを言う向きもありますが、これを仮に調整したとしてもプラスになっているということが言えると思います。

それから、次のページを御覧いただきます。3ページです。消費性向が最近非常に下がってきているということです。1970年代は80%近くだったわけですが、これが傾向的、趨勢的にかなり落ちてきている。さらに最近の状況を見ると、特に8月、9月以降、軒並み毎月のように落ちてきているわけでして、2月に68.4%という数字になっていますが、若干2月に下げ具合がややなだらかになっていることと思います。

これについて、4ページをちょっと御覧いただくと、御承知のように、先般の特別減税が勤労者世帯中心に2月から実施されていますが、右のほうに目を転じていただくと、濃いところが消費支出ですので、前月比にすると、2月は勤労者世帯で1.5と伸びています。1月についても伸びが戻ってきていますが、これは12月にかけて財布が非常に締まった状況の反動という見方もあります。

それから、5ページ以降は、日本経済の動向についてです。その冒頭にあるのは、4月の月例経済報告の文言ですが、「景気は停滞し、一層厳しさを増している。」ということで、個人消費の動向、設備投資、あるいは雇用の状況、大変厳しい数字が出ています。

それから、6ページを御覧いただきますと、景気動向指数あるいは業況の判断があります。

なお、消費税率引き上げの影響について、例えば(参考1)の「消費者態度指数」というもの、これは経企庁の調査ですが、消費者態度が今後半年間に今よりもどのように変化すると考えているか、良くなるか、悪くなるか、そういうことを指標としてとったものがありますが、9年の3月の時点で、3月から6か月先を見るときに、この時点は駆け込みがあったわけですが、今後、そんなによくならないであろうという数字が出ていますが、6月には、その6月以降6か月間はかなり良くなってくるという見方があって、こういう指標を見ると、やはり消費税が一段落した段階では、やや期待の持てる数字ではなかったかと見えるわけです。これについて収入の増え方とか耐久消費財の買い時の判断についても同じような数字が出ています。

それから、特別減税の関係で言うと、最近出た百貨店の売上、これは東京地区ですが、3月には季節調整済前月比プラス 1.8といった数字なので、特別減税の効果についていろいろな見解があると思いますが、全く効果がないということで結論づけるわけにはいかないと思いますし、かといって爆発的に消費が伸びているということも言えないわけですが、ある程度の下支えの効果はあったのではなかろうかということが言えると思います。

加藤会長

続いて、個人所得課税のあり方について、事務局より説明を受けたいと思います。

なお、法人課税のあり方については、これまで税調で議論を行ってきていて、平成10年度改正で法人税制改革が実現しています。また、法人事業税の問題をはじめとする地方法人課税の問題については、小委員会設置という方向で答申が出ています。地方法人課税の件については、後半に時間を別途とってあるので、そのときに御議論をいただくことにします。

伏見税制第一課長

『資料2』(資料6)というのがあります。御議論の材料として、データ的なものをざっと御覧いただければと思います。

まず1ページですが、租税負担率の内訳の国際比較ということで、国税だけを取り出した国際比較になっています。棒グラフになっていますが、棒グラフの高さ、対国民所得比で見た租税負担率です。日本は14.9%、アメリカが14.6%、イギリスが36.5%、ドイツ27.5%、フランス26.8%となっています。

棒グラフの中に各税目を、個人所得課税あるいは法人所得課税、消費課税、資産課税等に分けています。日本の場合は14.9%の租税負担率ですが、この中で個人所得課税が 5.1%、消費課税が 5.0%、法人所得課税が 3.8%、資産課税が 1.1%、こういうバランスになります。その構成比が右側の括弧の中に入った数字になっています。いわば税体系と租税負担率を同時にあらわしたような棒グラフになっていますが、例えばこの個人所得課税のウエイトを見ていくと、日本の場合は全体の中で 5.1%、シェアで34.1%ですが、隣のアメリカは租税負担率が10.3%、日本の倍になっています。シェアが全体の7割。それから、イギリスですが、イギリスの個人所得課税の負担率は12.8%、日本の倍以上、シェアは35%となっています。それから、ドイツが11.6%。フランスが日本に比較的近いところですが、7.1%というような形になっています。言うまでもなく消費税のウエイトが高いヨーロッパを見ていくと、日本の5に対して16、14、15というようなバランスになっているということです。

2枚目の次のページに移りますが、国税と地方税を合わせたところで同様の比較をしています。租税負担率の高さですと、日本が24.5%、アメリカが25.8%、イギリスが38.3%、ドイツ31.1%、フランス33.5%というような形になります。個人所得課税、地方税を含めたところでは7.6%になります。

それから、3 ページですが、3ページは所得税のブラケット、階段のようなものの絵が書いてありますが、課税ブラケットがいくつあるかというものを国際比較したものです。現状、日本は10%から50%の5段階ですが、アメリカが同様に5段、イギリスが3段階、ドイツは方程式の方式をとっています。それから、フランスが6段階ということになります。

最高税率、最低税率を見ていくと、日本が10%と50%、アメリカは15%と39.6、それからイギリスは20%と40%、ドイツは25.9%から始まって53%、フランスは1.5%から始まって54%というような形になっています。

それから、一番下のところには課税最低限の比較があります。日本の場合、10年度改正後、特別減税の分は除いて 361万円、アメリカが 244万円、イギリスが 105万円、ドイツが 373万円、それからフランスが 320万円という形でございます。

次の4ページですが、そこの課税最低限と、その後の税率ブラケット、これによって規定されていますが、所得税と住民税を合わせたところで、給与収入、それぞれ 500万円から 700万円、1,000万円、3,000万円ととって、それぞれの国でどれぐらいの地方税を含めたところの所得課税の負担額になるのかというのを、棒グラフを重ねる形で示したものです。例えば、給与収入 700万円という平均的な収入と思われるところをとってみると、日本のところには45.7という数字が入っています。地方税を合わせて給与収入 700万円の標準世帯を想定すると、45万7,000円の負担になる。このときにアメリカでは94万6,000円、イギリスでは154万2,000円、ドイツでは106万5,000円、それから、フランスでは46万1,000円という形です。

少し先の方へ上って、3,000万円というのが一番上のところです。日本の場合には1,011万円、アメリカは997万円。ここら辺になるとアメリカとほぼ等しい形。イギリスがまだ高いのですが 1,074万円、ドイツが 1,264万円、フランスが 935万円という形です。

次の5ページですが、いまの棒グラフを全部直線で結んだような形になっています。横軸に給与の収入金額をとっていて、縦軸のほうに実効税率と書いていますが、それぞれの給与収入に対して所得税、住民税を合わせた負担がどうなっているかというのをこのグラフで示したものです。日本の現行の制度が黒い実線で書かれています。非常に対極的な姿になっているのが、例えばイギリスになります。イギリスが一番左のところから出ている点線ですが、課税最低限が非常に低いところ、100万円強のところにあるので、すぐこのグラフが立ち上がります。それから、日本の場合には課税最低限が高いほうに属しているから、この 500万円という目盛りの近いほう、360万円ですが、そこら辺から立ち上がる。イギリスの場合には、初めの税率というのがいきなり20%でかかってくるので、かつ、かなり早い段階で最高税率の40%に達するということで、このグラフがわりあい垂直のような形で立ち上がってまいります。途中で寝て、あとはその40%に徐々に近づいていくという形です。日本の場合にはわりあいなだらかに上昇していく。

この日本とほかの国との交差の点がどこかというのをざっと眺めていただくと、大体 3,000万円ぐらいで、アメリカ、フランスあたりよりは上になっています。3500万円ぐらいになると、イギリスとほぼ同じぐらいかなというような形になります。

それから、次の6ページですが、これまでの税制改革の中で、所得税、住民税のこのブラケット等がどういうふうに動いてきたかというものを、一体として図示したものです。62年9月、63年12月の抜本改革前の姿というのは、御案内のように、所得税、住民税とも非常に小刻みなブラケットが定められていました。したがっ、両方合わせると、そこの左にあるように、非常に細かい階段がたくさん出ていたということです。最高税率も88%という非常に高いものでした。

その次の改革、真ん中のところですが、この段階で所得税については課税ブラケットが5つになっているわけです。住民税と合わせたところでだいぶ整理された形になっています。

それから、現行の姿ですが、真ん中のグラフと比べると、全体として、税率の刻みは同じですが、階段の幅は、矢印などがついていますが、右側に広げるような形で、それぞれのブラケットの幅を広げた形になりました。若干その中に数字を入れていますが、例えば、所得税と住民税を合わせて限界税率が45%になる線というのは、給与収入、モデル計算だと 1,350万円のところです。これが以前は、真ん中のグラフにあるように、1,046万円のところです。所得税、住民税を合わせて45%ということは、所得税の限界税率が30%になっているわけですが、サラリーマンである納税者を見ていくと、94%の方は年収が 1,000万円以下です。したがって、一般の方は、年功序列賃金を前提としても、生涯を通じて限界税率が10%あるいは20%というかなりフラット化した形での税率の刻みになっているということが言えるかと思います。

それから、その次の7ページですが、所得税及び住民税のその基本的な仕組みということで、どういう形で計算がなされてくるかというのを簡単な図にしたものです。細かくはまたいずれ御説明する機会があると思いますので、ざっと眺めていただければと思いますが、全体として、所得を基本原則である総合課税としているものと、それから、分離課税、典型的には利子とか株式の譲渡益等ですが、分離課税で処理されているものと2つに大別されています。

総合課税されるものは、括弧の中にあるように、収入金額から必要経費あるいは各種控除等を引いていく形になるわけです。また、右側のところに所得控除とし、人的控除では基礎控除以下いろいろな控除があります。それから、その他の控除として、社保控除あるいは医療費控除、生損保控除等々いろいろな控除があります。ここら辺についても、これまでもいろいろな御議論がなされてまいりました。そうした総所得金額から控除を引いて、それにそれぞれ税率、いま御覧いただいたような課税ブラケットに従って税率を掛けていくという形です。

一番最後のところに税額控除というのがありますが、一定のものについて税額控除、例えば住宅取得控除というようなものが認められています。最終的に納付税額が確定をする。こういう流れになっているわけです。

それから、8ページですが、法人課税関係の参考資料が掲げてあります。8ページは昨年あるいは一昨年以来何度も御覧いただいている法人所得課税の表面税率(調整後)の国際比較です。国税である法人税と、地方税である事業税、住民税を合わせたところでの所得に対する税率、課税所得の計算上事業税が損金に算入されるということを調整した後の税率ですが、それを掲げてあります。10年度改正の結果、この国・地方を合わせた表面税率(調整後)は49.98%から 46.36%に引き下げられています。横に見ていくと、アメリカが 40.75%、イギリスが地方税はありませんので31%、ドイツは付加税を含んだ現在の姿だと 51.67%、フランスは付加税を含んだところで41と2/3%という形になっています。

その次の9ページですが、いまのグラフを表の形にしたものです。例えば国税だけの表面税率(調整後)をみますと、改正前は33.48%となっていましたが、今回の改正によって 31.08%に引き下げられています。国税だけで各国比較をするた、資料を縦に見ていくと、アメリカが 31.91%、イギリスが31%、ドイツが 36.06、フランスが41と2/3%というような姿になります。

それから、御参考までに平成10年度の答申を10ページから12ページにつけてあります。

また、前の税制調査会の最後の段階で、『これからの税制を考える』といういわば問題提起の文章をまとめていただいておりますので、13ページ以降にこれをつけています。その中で、例えば所得税、いろいろなところに出てきますが、例えば16ページのところに、2として「経済社会の成熟化への対応」というようなことで、その中の2)で「個人と企業との関係」というところがありますが、従業員と企業との関係というようなところに特に所得税関係の記述が出ています。参考までに掲げ させていただきました。

国税関係は以上です。

上田市町村税課長

次に、住民税の関係で若干追加の部分だけ言及させていただきますが、資料は6ページと7ページだけ使います。同じ資料の6ページです。

「所得税・個人住民税所得割の推移(イメージ図)」と書いてあって、いわゆる抜本改正の前後どういうふうに変わってきたか、税率のフラット化が進んできたという絵です。これらの結果、個人住民税、右側にあるとおり、税率の刻みというのは5%、10%、15%、3つになっていて、先ほど申し上げた負担分任という考え方からすると、その性格にある程度沿ったフラットな負担という形になってきている状況にあると見ているところです。

それから、課税最低限の問題ですが、国税と並べて、10年度改正前後と書いてあって、これは特別減税はないので、こういう数字ですが、税の性格として、比較的所得の少ない方にも税負担をいただいているという実情にあります。

次に、7ページのほうですが、課税の仕組みです。基本的には大枠のところで、課税の便宜等も考慮して、大方所得税の課税と近い形になっていますが、例えば、所得控除の人的控除の金額だとか、その他の控除のいろいろなルールにおいて、国税よりも広く薄くというような観点からの違いもあります。

あるいは分離課税について、1つは、ここで下のほうに「租税特別措置法等による分離課税等」とありますが、下のほうの利子とか金融類似商品、あるいは一部の配当、こういったものについては、住民税のほうは、道府県民税の利子割というので対応しているという部分もあります。あるいは株式譲渡益課税とか少額配当とか一部課税技術上の問題等もあって、課税ができていないという問題、これは昨年も金融課税の問題で御議論いただいたわけですが、そういう問題が若干残っている状況にあります。

加藤会長

先ほどもお話したように、地方法人課税については後ほどお時間をとってあるので、その際にお願いすることにして、まず皆さま方に御意見をいただきたいと思います。どなたからでもどうぞおっしゃってください。

松尾委員

私は日本経済の現状について、個人消費主導のリセッションに入ってきているという認識をしています。これにはよく言われているように、複合的な要因があると思います。公的資金の導入にもかかわらず、金融システムの不安は解消していません。構造改革が遅れており、雇用不安が増大しています。問題の根本的な解決を先送りして、政策が後手後手に回っている。それで事態を一層悪化させているように私は感じています。

特別減税もいずれ増税になってはね返ってくるという懸念が消費者に強いわけでして、先行きの展望が開けていません。これはもう当然消費は萎縮するわけです。政治のリーダーシップが欠けているところが非常に気になるところです。これまでのところですね。責任を回避することは、政・官・財ともに許されないと思います。

特別減税は、先ほど調査課長の説明がありましたが、やはり一時的な効果にとどまって爆発的な効果は期待できないということをはっきりさせておくべきです。あくまでも緊急避難的なものにするべきだと私は思います。

政策減税ですが、やはり公平・公正の観点からよくよく検討しなければならないと思います。例外をたくさんつくるということは好ましくないわけでして、税制に歪みを与えるようなものであってはならない。

それから、公共投資も増やしそうな気配でありますが、これもよほど中身を吟味しなければ、ゼネコンの企業会計を潤すだけの効果に終わってしまうのではないかと思うわけです。単なる選挙目当ての政策ではなくて、日本経済の再生を目指して長期的ビジョンに立った抜本的対策を講じないと、日本は本当にダメになってしまうのではないかと私は思います。

そこで、税制の責任は何かということになるわけですが、本来の税制のあるべき姿を追求しながら景気低迷から抜け出し、日本経済の活力を取り戻すためにやるべき措置は、当然考えられなければならない。

サプライサイド重視の対策として、法人課税の一層の軽減は早急に実現を図る必要があります。勤労者に働く意欲を高めてもらうために所得税制の見直しも当然腰を据えて取り組むべきです。個人所得税の最高税率の引下げが重要な課題になることは言うまでもないと思います。

その際、財源をどうするかですね。これはやはり国民によく説明して納得してもらうことが極めて大切であると私は思います。国債発行によるのか、その他の方法によるのか、それにかかわらず将来の増税が予想されるということになると、一時的な減税であろうとも恒久的な減税であろうとも、消費者は財布のひもを決して緩めない。これは経済理論的にはリカードの中立命題が成立するというわけです。そのような経済理論を持ち出すまでもなく、これは庶民の生活実感としてしごく当たり前のことです。したがって、将来の負担増をもたらすような減税であってはならないと思うわけでして、例えば所得減税については、非効率な歳出の削減とあわせて所得税の課税ベースを拡大して、その財源の中で経済活力を刺激する方策を考えるべきです。

松本(和)委員

先ほど説明があって、平成10年度における特別減税の追加が検討されているわけですが、市町村の立場から一言だけ申し上げたいと思います。2点あります。

市町村はいま介護保険関係で平成12年度から取り入れるということで、福祉関係が大分増加してまいっています。頭が痛いのですが。そういうことで財政状況が非常に厳しくなってきている状況です。このような状況の中で、市町村の税収の大きなウエイトを占めている個人の住民税の税収がどんどん減っていくような感じを受けているわけですが、これだけ経済状況が厳しい中なので、必要性、緊急性、これは理解はしますが、経済対策の絡みでの減税です。地方税はどこまでお付き合いをすればいいかというような考えを持っています。そういうことで、今後、それに対しての地方税の議論を深めてもいただきたい。個人的には、経済対策は国でやっていただきたいという感じを持っています。

また、あと1点は、今回の特別減税の追加について、先ほど説明をしていただきました。市町村は、現在、平成10年度の個人の住民税の作業に当たっては、5月末の通知期限に向けて最終段階に入っています。もし特別減税の追加が行われると、市町村はこれまでの作業のやり直しが必要となってまいります。そういうことで、作業がなるたけ支障のないように進めていただきたい。そういうお願いというか、要望をしておきます。

松浦委員

いま、松本和夫委員からもお話がありましたが、市長会の立場からも同様のことが言えると思います。2兆円の減税があったわけですが、私ども高崎市だけで見ると、その2兆円の減税で8億 3,700万円ぐらいの減になります。そうすると、減税補てん債という形でもって借金をしろということになるわけでして、私どもの会計からいくと、いわゆるダブルパンチでこの影響を受けるということになるわけでして、いま松本和夫委員からお話のあったとおりです。十分その点について御考慮いただければと思っています。

また、いま個人所得課税のあり方についてお話があったわけですが、法人課税については、法人課税小委員の間で相当議論がなされていますが、個人所得課税についても今後いろいろと議論を深めていくことは大切なことだと思っています。このことに関連して、個人住民税は市町村の税収において基幹的な地位を占めていることは御承知のとおりですが、住民税は地域社会の費用について、住民がその能力に応じて広く負担を分任するという性格を持っているので、このような性格を十分に踏まえて、今後の議論を行っていただければと思っています。どうぞよろしくお願いします。

河野特別委員

景気刺激と減税ということで、総理がこういう決断を去年の暮れと2回やったんですよね。それは我々の討議を経ないで総理自身の決断でやられたので、そのことの是非をいまここで余り議論する気はないのですが、ただ、特別減税というのが継続してきているから、何が実質上残ってくるかというと、課税最低限がべらぼうな数字に達したという事態がずっと続いているんですよ。よくよく考えて見れば、ここに一つの問題があることは、識者だったら全部わかる話ですね。これはしかし、いまさら政治決定したことについてとやかく言うことはないので、限定的に何がしかの役割を果たすと思うから、それはそれでいいのですが、その結果、後々恒久的な所得税体系論をやるときに、この後遺症は相当重いんですよ。どう直すかということは大変な政治的な努力を必要とすることになると思うので、そのことはお互いに確認しておく必要があるということが第1点。

第2点は、この前、先日だったか、NHKの朝の政党の討論会を聞いていたら、共産党だけではなかったんですが、消費税を景気刺激策に使ったらどうだという議論をやっていたんです。これは、我々随分長い歴史が消費税導入にはあって、向かうところは、もし国際的な標準と考えるならば、明らかに我々はヨーロッパ型をねらっているんです。完璧にそっちへ行くつもりはないが、方向は明らかにそっちなんです。あの政治的なコスト、社会的なコストを考えてみれば、軽々しく消費税をいじるなんていうことは、今まで踏んできた、それから将来も我々がねらうであろう税体系の方向性の議論からいったら、これは明らかに反すると思うのです。それは財界だってそんなことは言ってないわけで、ごく真面目にいままでの経過とこれからの展望を考えてみれば、消費税を軽々しく動かすなんてことは考えられないことだと僕は思うのです。

ただ、共産党は、聞いてみれば、所得税体系をさらに累進構造を強くして、ある程度の所得の再分配をやるべきだと。それはそれで立派な政策だし、学者の中にもそういう方がいらっしゃることをよく知っていますが、我々はその道をものすごい議論をやりながら違った道を選んできて今日まで来ているので、これを逆行することになると、課税最低限を上げるということよりも、もっともっと深い傷を残すことになる。だから、政策減税を含めていろいろなことをやらなければいけないと思っていますよ。だが、基本的に我が税調がフォローしてきた方向に重大な傷を与えるようなことは、後々のことを考えてみれば避けたほうが懸命だというふうにとりあえず思います。

塙委員

ミクロの立場から言うと、現在の景気の落ち込みというのは、非常に深刻であります。各企業にとっては死活問題であることは御存じのとおりでして、やはり景気対策としての税制改革というのは、私どもが一番期待しているところでして、また大事なところであろうと思います。税額のプラス・マイナスの問題とかはあるかもしれませんが、まず景気を回復して、それで税額を高めて税収アップを図るというのが基本ではないかと思っています。そういう意味では、今回の特別減税は、額とか方法とか、いろいろ御意見はありましょうが、非常に経済活性化のためにはトリガーとして役に立つのではないかと思っています。

より基本的には、個人とか企業のやる気、そういったモラールを高める。そういうために所得課税とか法人課税の抜本改革というのは、やはり不可欠なものであろうと思っています。特に法人課税については、国・地方を通じて実質減税を基本とした実効税率40%達成、これを目標でこれまでも税調もいろいろ御検討と伺っていますが、この道筋をできるだけ早く示す必要があるのではないかと思っています。政府税調でそういうものの抜本改革の方向を早く打ち出していくべきであろうということを、重ねて申し上げたいと思います。

石特別委員

最近の議論を見ていると、どうも振れが大きすぎるような気がしてしようがない。政治的には参議院選挙が近いということがあって、何かアドホックにいろいろなことが税制に関しても言われている。国際的に景気回復を公約したということ、これは仕方がないのでしょう。その面でまた何兆円という大きな規模の減税も要求が出ているというわけで、先行き不透明な中で議論は難しいのですが、やはり長い目で見てどうかという議論が全部抜けて、目先のことだけに対応するというような視点から政策論議をされているのは、非常に私は嘆かわしい。

そういう意味で、こと税制だけに関しては、やはり税調ではきちっと整理しておく必要があると思います。マスコミも政界もその辺をちっともやっていないので、例えば4兆円減税、制度減税したときにどうしようかというときに、やはり将来の財源をどうするかも踏まえて、ここできっちりしておく必要がある。それを最初に私強調しておきたいと思います。

そこで、二、三受けての話なのですが、税調というのはそもそも長期的にわが国でどういう税制が望ましくて、安定した税制の仕組みを、課税の公平・中立・簡素についてやってきたということの本来の使命から言うと、景気調整的に減税要求がどーんと出てくるのは、税体系を壊すわけですよ。特別減税みたいに一時で終わってしまうのなら、それはそれでじっとしていれば直るかもしれませんが、いま河野さんがおっしゃったように、今回のはもっと根が深くて、橋本総理の決断も入っているから、これは数年かかってやらなければいけないという宿題を、好むと好まざると与えられたわけです。そういう意味で、やっとその中身を検討していくことは、税調本来の仕事になるのかなという気はしつつ、これは重い宿題だなと思っているわけです。

そこで、おそらく制度減税にしなさいということが大きな問題で、これが法人税、所得税に来ているので、それは税調らしく本来のスタンスに戻ってその議論をしなければいけないと思います。所得税でいうならば、最高税率をどうするかという問題、それから、課税最低限を上げるという形で来ている定額減税方式でこのままいいか、そのままそっくり制度減税してしまっていいのかということですね。課税最低限の問題をどうするかという議論を踏まえて、やはり制度減税に直すときの議論をしなければいけないと思うし、それから、よく課税最低限が日本は高いと言われている実態も、もうちょっと細かく国際比較をしたときに、さまざまな控除があるから、国際比較は難しいんですね。だから本当に低いのか高いのかもちゃんと精査して、その辺も議論しなければいけないし、それから、最低税率が余りにも低すぎる。10%で始まっているのは日本ぐらいですから、それでいいかという議論もり、この辺は政治的に難しいのですが、やはり一回整理して国民に投げかけるという作業も必要だと思います。

それから、法人税は、昔、課税ベースを広げてその範囲で税率をなんて言っている話は数年前に終わってしまって、今は全くネット減税的になってきている。それはそうだったら、今後中長期的に見てこれをどうするのか。当面は赤字国債でやるほかないというのは、これは戯文になってしまったので、そこは致し方ないと思いますが、長い目で見て、歳出カットということで将来的にこれを埋めるのか、あるいはもう一段直間比率の見直しなんていう形でやるのかというのを、いま打ち出すのか、あるいはそっとしてここだけの議論にしておくのかは別として、やはりそこはきちんと私どもは整理しておく必要があるだろうと思います。

よくアメリカを例に出して、景気を刺激すれば、おのずから赤字国債でやっても税収は戻るというのは、いろいろな試算をしてもまず不可能であり、いずれその財源調達というのは本格的に議論しなければいけないので、少なくとも税調というのはその辺まで頭に入れてこの種の政策判断をしなければいけないのであろうと、総論的に言うとこういうことを申し上げておきたい。

それから、政策減税については、「子育て減税」とか何かいろいろ出ています。額は少なくていかにも効果のあるようなことを言っていますが、これはまさに税制に穴をあけるものでして、本来やるべきことではないだろうと、私はかねがね思っています。

小長委員

まず、加藤税調会長に心から敬意を表したいと思います。ここ一月の間のいろいろな景気論争なんかを見ていて、党主導型であることはもちろんだったわけですが、どうも我が税調の存在感というのがかなり薄かったような感じがしたわけです。これはある程度やむを得ない面もあったわけですが。その中で、適時適切に税調会長が、平成10年度の税制改正に関する答申の基本的な考え方を踏まえながら、もっとさかのぼれば、『これからの税制を考える』というあの考え方を踏まえながら、法人税の問題、所得税の問題について御発言いただいて、全体の政策の流れの中で、減税というものの位置付けを大変強調していただいて、それが結果的に橋本総理の発言の中にも減税がかなりの部分を占めるような格好になったということは、これはやはり一つの成果ではないかと思います。心から敬意を表したいと思います。

それで、具体的に私が申し上げたいのは、先ほど塙委員もおっしゃったわけですが、法人課税の問題については、いままでの税制調査会の議論の中で、40%の水準に早くもっていくということが当然の政策目標であったわけですが、橋本総理も「3年のうちできるだけ早く」ということを言っておられるわけでして、「できるだけ早く」というところに力点を置いていただいて、40%水準に1日も早く達成するような努力を継続してお願いをしたい。

それから、特別減税のほうは、景気対策としては、これはこれとして位置付けざるを得ないと思いますが、当然、並行して所得税の制度減税のほうにも手をつけていただくということで、最高税率の問題、課税最低限の問題、あわせて議論の対象にしていただく必要があるのではないかと思います。

それから、法人課税絡みで地方事業税の問題、これは後から出てくる話かもしれませんが、外形標準の問題だけではなくて、地方住民税、固定資産税の問題もあわせ議論の対象にしていただいて、全体的な地方税のあり方というものを議論をしていただいたらどうかなと思う次第です。

加藤会長

小長さんにいまちょっと褒められたので、褒められながら後ろで何かやっぱりあるのかなと思いながら、本当に信じていいかどうかわからなかったのですが、しかし、私は単純なる減税論者ではありません。税制の体系を崩すことがあるような、あるいは歪めるようなことがあってはならないという気持ちだけは抜けませんので、よろしくお願いします。

水野(勝)委員

今回の減税については、この減税も何がしかの効果はあるとは思いますが、現時点での日本の経済の動向ということから見ると、おそらく4月からは、去年の消費税の反動がまたあらわれるわけだから、4月以降の指標等を見れば、そんなに慌てるような指標というわけでもないだろうという気もするわけです。ことしの春闘においても、大体 2.5%から 2.6%ぐらいのベースアップが行われている。これが5兆円ぐらいの効果があるだろう。これが個人の懐に入っている。企業は何とか言いながらもそれだけの部分は払える力もあったとも言えるわけです。

したがって、この春以降においては、こうした状況というのは、現在の状況は少しずつ良くなるのではないかという期待もされるので、余り慌てて減税をということでもないような気もするわけですが、いまやこれが国際的な世論になっている国際的な世論からすると、日本は大変だから減税をしたらどうかというのですが、例えば失業率をとっても、日本は3.6%まで上がってしまったというのですが、ヨーロッパは10%、11%、12%です。

それから、減税をしなさいと国際的に言われても、先ほどの資料にもあるように、課税最低限はべらぼうに高いし、また租税負担率は、アメリカとほとんど一緒ですが、ヨーロッパに比べれば格段に低い。こういう状況の下でもなお日本は減税をしたらどうかという、大変ないま国際的な議論になっているということは、これはどういう環境からそうなるのかなという気もします。現在の国際世論がそういうことであれば、そういうことかもしれないと思うのですが、これらの点について、国際的に理解を得るような方法も考えておいていいではないかと思うわけです。

しかし、そうした国際世論の流れ、あるいは国内の議論の流れからして、今回の減税は相当なものをやっていただける。それはそれで効果はあるだろうと思うから、ここはそれを行っていただいてと思いますが、それについても、先ほどから議論があるように、今回の減税が今後の所得税のあり方というものに対して、いろいろな点で禍根を残す、問題点を残すということのできるだけ少ないようなことを考えるべきではないかと思うわけです。

それから、毎年特別減税を続けていって、ことし限り、ことし限りといっても、結局はずるずると続くかもしれない。それであるならば、思い切っていっそのこと制度減税、所得税は本当にどうあるべきかということを別途早い機会に検討しておいて、それが移り変わったときに、こういうものがあります、これでいきます、ということをすぐに出せるぐらいの態勢で、本当の所得税課税のあり方を検討しておくべき時期ではないか。これはもうそんなに早すぎることはない。早い機会に基本的なあり方を検討されていいのではないかと思うわけです。

また、政策減税については、これも将来に問題を残さないように、例えば現時点で感じられるのは、例えば住宅であるとすれば、住宅問題を思いきって集中的に政策的に考えていただく等々により、政策減税においても、長期的、中期的な視点を頭に置きながら検討されてはいかがかと思うわけです。

佐野特別委員

3点ほど申し上げたいと思います。

1つは特別減税ですが、先ほどの説明だと、定額方式を追加分も踏襲するというような方向が、事務的な要因からいっても決まっているようです。ただし、私はやはり定率方式というものが今回の追加減税においてはいいのではないかという意見を、記録にとどめるために申し上げたい。

1つは、景気、とりわけ消費の刺激というようなことを考えた場合、家計調査の5分位別の消費支出の動向を、実は私過去10年ほどさかのぼって増減率をはじいてみたわけですが、去年、おととしあたり、1分位、2分位あたりの所得の低い層はマイナス、それから、4分位、5分位、所得の高い層はプラスという傾向が出ているわけです。したがって、低所得層ほど厚くしなければいけないという理屈にもなるかもしれないのですが、いま消費余力がある、あるいは意欲がまだ冷めきっていない、そういう層に余計還付が渡るというような方式も消費対策として一考に値するのではないかという気がします。

それから、もう一つ、先ほどからも意見が出ていますが、低所得層ほどといいますか、この6万5,000円というものが打ち切られた場合のリアクションというようなことを考えた場合、これは低所得層の可処分所得からいってもダメージが大きいということで、あとが恐いという懸念もまたあるわけでして、来年の制度減税を考える場合、おそらく税率重視というようなことがポイントになろうかと思いますが、その際の反動、とりわけ低所得者層がことしに比べると実質的な増税になってしまうというような事態は、いまからなるたけ避けるような準備をしていたほうがいいのではないかということで、私の意見がどこまで実際に生かされるかどうかはわかりませんが、少なくともこういう意見もあったということを記録に残しておいていただきたいと思います。

それから、政策減税、これは何人もの方がこれまでもおっしゃっていますが、私もこの政策減税は少し安易ではないかと、少しではない、かなり安易ではないかという気がします。政治的な事情はあるにせよ、それにしても税制というものが政治の駆け引きに余りに安易に使われすぎる。これは是非政治の世界でもやめていただきたいということを申し上げたい。とりわけ先ほど石先生からもおっしゃった「子育て減税」というものですが、政策減税であるからには、政策目的あるいはその効果というものもある程度期待できるものでなければいけないと思うのですが、この「子育て減税」をやって、果たして出生率等々が回復するのかどうか、ここら辺も甚だあいまいなまま議論が進んでいる。「子育て減税」で 1,000億、2,000億のお金を費やすならば、あわせて出生率がどうなるのか、人口推計はどうなるのかという議論までした上で税制というものを決めていただきたい。これは政府税調からの注文です。

それから、もう一つ、消費の動向を先ほどから説明があったわけですが、やはり社会保障というものが去年、とりわけ去年の後半以降重なっているということで、医療・介護・年金と、これが実は消費マインドを重くしている重要な要素ではないかと私は思います。したがって、いくら減税をやっても、社会保障のほうで、そちらはそちらの論理で進められると、全体の消費マインドがどこまで減税によって鼓舞されるのかどうか、甚だ不安なものが残る。そういう意味で、いま年金の制度改革というものが進行中ですが、年金課税というようなテーマも抱えていることもこれあり、一度年金の改革といったものがどうなっているのか、税制調査会でも厚生省の当局者に来てもらって、ある程度の中間的な考え方、あるいは作業の進捗を聞いてみたらどうかと思います。

和田委員

今の景気の動向について、やはり個人消費が冷えているということがよく言われていますが、本当に買いたくても買えないという立場と、もう一つは、ほどほどのものなら買えないわけではないが、買う気にならないということがやはり一番大きいのではないかなと思うのです。それは自分が本当に必要として、しかも欲しいもの、というのを厳密に選んでいくと、それがないということが一つと、それから、もうお話が出ていますが、将来に対する不安、それから政治に対する不信、そういうのものが全部重なってきていると感じています。

その中では、特に介護保険なり医療費なり雇用不安なりというような面で、いままで、大体中年以降、40、50になってから「老後の不安」という言葉を使ったのですが、いまはもう20代ぐらいの人が、この人本当に「老後」という言葉を使っているとびっくりするような若い人たちの会話の中で、「自分たちの老後が」という話が出てきているというので、これは二、三年前と全く変わっているなというような感じがしています。

それで、特別減税、 これは財源があるのならばいいのだと思うのですが、いつかは必ず増税となって帰ってくるのではないか。そこのところの不安というか、そこのところも非常に大きな影を落としていると感じています。

それから、消費税が決して発端ではないというような説明もありましたが、やはり庶民感覚からすると、「消費税の5%というのは本当に痛いわね」という会話が、これは私ども消費者運動をしているとかそういう立場ではなくて、普通の人たちの会話の中に出てきている。新聞を拝見しても、投書欄に、毎日のように特別減税なんかよりもむしろ消費税の税率を下げるか、あるいは2%分を一番面倒くさくなく頭割りにして返してほしい、というようなのが正直なところ庶民感覚だということを申し上げておきたいと思います。

もう一つ、これは1点質問なのですが、先ほど御説明いただいた『資料』(資料5)の2ページの「民間最終消費支出の推移」というところで、7月から9月が上がっていて、これは先日の予算委員会を聞いていたら、そこでのやりとりの中にもあり、それから、先ほどの御説明にもO-157 の影響もあると言われているが、(ちょっと正確な御説明の文言を覚えておりませんが、)それを考えても上がっているのだというお話がありました。私は予算委員会の話を聞いていて、どうなのかなと思って、去年の税制調査会の資料を引っ張り出してみたら、これは果たして同じ資料として使っていいのかどうかはわかりませんが、7月から9月の一昨年から昨年にかけては、確実にマイナス3%、という数字が出ているんですね。ですから、それを考えて、おととしから去年にかけて消費税で落ち込んだのが、7月から9月にかけては戻っているといういま御説明があったのが、後でもう一度ちょっと、私が理解していないのかもしれませんが、伺いたいなと思っています。

それから、もう1点です。政策減税については、先ほどからお話が出ていますが、例えば、教育減税なんていう話を出すと、「授業料を上げておいて何が教育減税なのよ」という言葉が返ってまいります。余りにも思い付きというのでしょうか、安易な目先だけのことで出てきているのではないかなと思っています。

それから、公共事業については、「いままでの公共事業ではなく」というと、すぐ情報通信──いろいろそれぞれ意味はあると思いますが、やはりもっと社会保障なり福祉、例えば同じ道路をつくるならば、車椅子でちゃんと通れるような段差のない道路をつくるとか、そういうことであればどこからも反対は出ないのではないかなと。

それから、二、三資料として新聞で拝見したのですが、福祉に使った場合に、例えばニューゴールドプランとか、そういうものを充実していったほうが、同じ公共事業として経済波及効果があるのだというような記事も拝見しているので、その辺のところ、同じ公共事業の中での質のあり方というのを十分に考えていただきたいと考えています。

それから、消費税の話が出たので、私は消費税がはっきりと増税になるという方向付けをしたときの平成6年の6月の答申をもう一度読み直してみました。ここで初めて税金について増税ということを打ち出しています。そして、消費税についても、「税体系における消費税のウエイトを高めることが必要である」ということをはっきりと出しています。ただ、この中で税制調査会として大変強く言っているのが、「行財政改革を行うべきである。これなくしては税制改革は是認し得ないという強い意見があった。当調査会としては、行財政改革について、税制改革の具体化と同時並行して果断に実行すべきことを政府に強く要請したい」という書き方をしているのです。これが大変私たちの期待通りにいっていないというところで、消費税のアップ、それから、いまは財政構造改革が少々あやしくなっているところで、社会保障についての改革だけは間違いなく進められているということで、大変納得できない感じがしています。

所得税と住民税についての恒久的な改革については、もっと時間をかけてまた考えて意見を申し上げたいと思います。

鈴木調査課長

消費動向についての去年の7-9、それからおととしの7-9の状況、O-157の影響ということですが、1996年の7-9は確かにO-157 の影響があって、その前の4-6、それから、その後の10-12の伸びが、実質前年同期比をとると、1996年の4-6は2.4%で増加しています。7-9をとっても、伸び率はかなり鈍化しましたが 1.7%となっています。その後10-12をとると、2.4%とまた伸び率が高くなっています。 2.4が 1.7となっていますが、これが仮に 2.4のままで推移したとして考えた場合に、この97年の7-9がどうだったかということを考えてみると、それはやはりプラスになっているということです。つまり、これは民間最終消費支出の実質で、かつ前年同期比をとっているので、指標その他をもう一度チェックするということでご確認いただけるのではないかと思います。

橋本特別委員

まず、特別減税については、いまの経済状況がデフレスパイラルに落ち込む寸前だと。したがって、これは一旦走り出すとなかなか止まらないわけなので、非常に冷えきった消費に盛り上がりのきっかけを与えるという意味で、非常に意味があると私は思うし、よく決断をされたなと思っているわけです。

ただ、佐野委員から先ほどお話があったとおり、定額方式をとられたのは、本来からいえば、納めた税金に応じて減税をするという定率方式のほうが理にかなっていると思うのですが、何しろ早くやらなくてはいけないという事務上の都合があったのかなと思っています。

それから、今後、税制調査会として取り組むべき制度としての所得税改革については、やはり皆さんがおっしゃっておるように、国際的に見て非常に高いこの累進構造の是正、それから、課税最低限度というのが非常に高い。これまでも高いし、今回の特別減税によってなお一層それが高くなって、いわば体系上の歪みが出てきているわけだから、これを是正する。財源上の観点からもそういうことが必要ではないかなと思うわけです。

そのほかに、私は一つはビッグバンが始まったということからの視点が必要ではないかと。つまり、日本のお金持ちが、余りに所得税率が高いために脱税的に海外に逃避する可能性もないとはしないし、また、逆に外国の人だとか資本だとかいうものが、日本に入ってこようとする場合のやはり大きな一つの障害になりかねないわけだから、そういう意味においてグローバル・スタンダードというものをよく見る必要があるということが一つ。

それから、もう一つの視点としては、少子・高齢化社会に非常に急速に向かうわけだから、所得税に対する依存度が高いと、長期的には税収が減ってこざるを得ないという問題があるので、そういう視点から所得税というものをどういうふうに考えていったらいいかという問題があろうかと思います。

それから、最後に所得税改革を進める方法というか、税調の総会でこれをやっていくのか、あるいは法人課税のような小委員会を設けてやっていくのかという問題があろうかと思います。私はやはり問題がかなり大きいので、小委員会をつくったらどうかなという気がします。

平田委員

皆さん方の御議論を拝聴していて、私は減税は余り経済の活性化には役立たないのではないかという考え方のほうが強いですね。しかし、いま非常に政治決断で減税、減税とみんなが言い始めて、減税しなくてはならない。ここは政府税調だから、当然それを結論として追認をしていかなければならないのですが、皆さん方の話の中に出てこない話になりますが、経済構造改革がほとんど進んでいないままでこのような減税をやっても、消費のいまの低迷を直すわけにはいかないだろうということです。

というのは、いろいろな方が指摘されているように、買う商品がもう余りないんですね。それから、一応将来に対する不安があるということから、皆さんの財布のひもが固くなってしまっている。日本の国は世界で一番の債権国であるし、皆さん方の一人一人の所得は大変高いわけだから、本当に不況でどうこうということは、まさに企業の経済構造改革が進んでいないことが理由だということです。日本はもともと輸出型のフルセット生産で稼いできた国だから、そのような経済の形を、今 度はG7でもっていま非常に叩かれているわけですね。日本が一人勝ちしているようないまの貿易黒字を何とかさせよう、内需拡大をしなさいと。内需拡大をしなさいといっても、この島国の単一民族が、いまのような将来不安を持っていたのでは、財布のひもは揺るがないわけです。

こういったことを考えないで減税だけやってもほとんど効果はないのではないか。橋本首相が本当にG7の中で御苦労なさって減税を約束をしてきた。だから何とか世界の風圧を逃れるために、ここで2兆円減税程度のことをやって、そして、実質昨年からお約束をしている行財政改革とか経済構造改革などを進めていく。私はそういう意味が裏側にあるのではないかと理解をするわけです。そうでもない限り、このような減税はほとんど意味がない。識者の方がおっしゃいますように、所得税ないしは法人税という仕組みをもっと合理的に考える。適法・適正に考える。さらにまた、国際的に税率を合わせるということであれば、それは極めて簡単です。税率だけ合わせればいいわけですが、しかし、そうした論議を進めていく中で、必ず課税ベースを広げなければ税収が確保できないという問題が残されるわけだから、その辺を行政の皆さん方がどう考えるか。歳出構造を直さない限りは、歳入額は確保しなければならんということです。私はそういう御議論が高まることを是非お願いをいたしたいと思う次第です。

それから、今度の年初からやった特別減税ですが、私はちょうど確定申告、3月15日を経過したときにつくづく思ったのですが、この3月15日の確定申告で皆さん方が申告納税制度で申告しているときに、この2兆円の所得減税をどうして事業者に対してやらなかったかなと思うのです。給与所得者については源泉税で2月から返しましたが、事業者に対しては7月の予定納税でしか返せない。かつまた、それでも返しきれないときは来年の3月15日ということになるわけです。すなわち、アナウンス効果として減税、減税と言いますが、実質庶民の手にお金がいくのは、給与所得者ぐらいしか手続的にはできないんですよね。そのぐらい税というものは執行の段階で非常に技術的に難しいのです。あの3月15日に本当は返せればいいのですが、そうすると会計年度の問題があって、財源がないということになるから、事業所得者は遅れてしまうわけです。今度の説明もまさにそのとおりになっていますね。

それから、せっかく御苦労なさった法人税改革の税率を下げる問題にしても、法律の読み方としては、平成10年の4月1日の開始事業年度から税率が下がるよということは、実際、税率引き下げ後の税金を企業体が払うのは、来年の5月、6月以降ということになるのです。だから、税の恩恵というのは、法律で決めて、執行の手続まで決めないとできないわけだから、なかなか難しいですね。だから、ここで2兆円とか、さらにまた2兆円の減税と言うが、これも何か手早くやらないと、庶民のためには本当に減税になったということにはならない。また、逆の論理で申し上げると、税というのは集めるのに大変苦労するわけだから、安易に減税、減税というようなお話は、執行するほう、ないしは私どもの職業人から申し上げても、税を集めるということは大変な手間がかかるということを、是非私の立場からも申し上げておきたいと思います。

森田委員

いま日本経済も世界経済もパンドラの箱をあけたような感じになっていると思う。その背景にあるのは、やはり世界経済の構造的な不均衡というのが一番大きいのではないかと思うのです。だから、そういう視点でもって物事を考えないと、ポピュリスト的なことはできても、国民のためにならないことを積み重ねていくということになるという危惧を抱いています。

さまざまな危機が同時に押し寄せているような感じだと私は思うのですが、この税金の問題を考えるにしても、もう税収は当分の間増えないのだと。むしろ減る公算のほうが大きい。あるいは特別減税をやって、それを消費税で取り戻そうと思っても、もはや世界経済も日本経済も消費税を上げるような経済・政治的環境にもうならないと思うのです。だから、そういうことを本当に真剣になって考えて、人気取りとか参議院選とか、そういうことを考えてやるととんでもない間違いを犯す。それでますます今後の経済運営がやりにくくなるのではないかと思います。

去年の当初から秋頃までは、財政構造再建一色だったのが、たちまちそういうことを忘れてしまって、あたかもいくらでもお金をどこかから持ってこれるみたいな議論が横行している。だから、いまこそプロの出番だという感じがします。

先ほど言った世界的な問題というのは、1930年代もそうだったわけですが、有効需要に対する大変な過剰な生産力というのが、中国をはじめあらゆるところに、日本国内を見ても50兆円分相当の過剰設備があるとか、あるいは投資機会というのがどんどん少なくなってきた。日本においても投資機会というのはほとんどない。世界的でも住宅建築ブームはすでに一巡しているし、素材産業もめぼしいものがない。さらに巨額なホットマネーの動きという、これが本来だったら成長地域のところを次々つぶしていく。アジアしかりだし、中南米にしてもしかりだと。

そして、成長地域の実物経済の成長しているところの経済が破壊されて、失業したお金がどんどんニューヨークに集まっていく。それでニューヨークの株が上がる。やはり一番根底にあるのは、アメリカの経済が永遠ではないということですね。アメリカ経済も多分かなり早い間に崩壊するだろう。そのときになったら、世界的な不況が訪れてくる。そういうことを考えて、一番大切なのは、マイナス成長でもワークするような経済システム、企業が生き残るような手段を考えなければいけない。あくまでも主体は、国というよりも個の企業がどういうふうに生き延びるか。むしろこれからは非経済的な分野が増えると思うのです。ボランティアとかNPOとかそういう役割を、経済的な活動のあいた穴をどんどん埋めていくようなことが必要である。

それから、税制などで一番必要なのは、企業の負担をなるべく身軽にすべきです。これは別に国際競争だけでなくて、戦後の村社会も崩壊したし、大家族制度も崩壊したし、地域社会もないという中で、ある程度コミューン的な存在らしきものはいまは企業にしかない。例えば世界不況になったときの一つの拠り所、共同体的なものは、日本では企業にしかない。これは非難も含めていろいろ言われるわけですが。だからある程度企業を身軽にするのが社会対策としても一番安上がりな方法だろうというような観点で、私は法人税の減税にも賛成してきたし、そういう全体の流れということ、全体の仕組みをいま変えることが必要と思います。とにかく場当たり的なことはなるべく避けたほうがいいのではないかというのが私の考えです。

加藤会長

まだ御意見が出尽くしてないと思いますが、これからもいろいろ議論をしていく余地があるので、皆さま方の最初の御意見はこの程度にさせていただこうと思います。

いま御議論をいろいろいただいて、基本的には、現在政府のとろうとしている特別減税による減税については、効果についてはいろいろ考えなければならないが、しかし、それをいま当面の政策としてやることについては、これはやむを得ないという御意見だったように思います。

そのような御意見の上に立つと、我々がやらなければならないことは、それを通じて、今度は税体系はどういうふうにこれでもって影響を受けるのか、あるいはどういうふうにこの個人所得税について考えなければいけないのか、ということが問題になってまいります。

そういう個人所得課税というものをどうするかということについては、いろいろな御意見があるから、これを一遍に皆さま方の御意見を聞いて集約しようとしても、なかなか集約しきれるものではありません。そこで、先ほど橋本さんの御提案がありましたが、そういうことを一つ議論して整理をしてもらうような委員会をつくって、その小委員会でもってある程度人数が絞られた中で議論しながら、答えを決定するのではなくて、そこで問題が何であるかということを出していただいて、そして、それを整理して、専門的な角度から、例えば租税理論の立場からどういうふうにこれを判断したらいいのかというようなことについてまとめていくという方向で、だんだんとやっていったらどうだろうか。

しかし、いままでのような小委員会と少し違って、今度は総会に本当にタイアップした形の小委員会。いままで小委員会は若干、専門家だけの集まりで進んでしまうことがありましたが、今度はこういう問題については、むしろ総会でいつも反映させながらやっていくという形の小委員会を考えていきたいと思っています。このような小委員会を設置してはどうだろうかというのが、 私がいまお聞きしていたときの考え方ですが、皆さま方でこの点についていかがでしょうか。こういう小委員会を設置して、疑問点あるいは問題点を整理して、そして、それを租税理論の立場からはどう考えるかということをいろいろと御意見を伺いながら、それを総会でまたみんなで叩きながら、話し合いながら、進めていってはどうかと思いますが、よろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

ありがとうございました。それでは、そういう考え方に立って、小委員会での専門的な議論を素材として、これから幅広い審議をしていきたいと考えています。

その小委員会の構成については、私に御一任いただいて、次回の総会で皆さま方に御報告したいと思いますが、それでよろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

では、そうさせていただきます。個人所得課税の諸問題をはじめとする税制に関する基本的問題については、ただいまのような方向で進めさせていただこうと思っています。

(休憩)

後半の議題については、先ほども申し上げたが、地方の法人課税の問題です。すでに皆さま方の答申にあったように、地方法人課税についての小委員会を設置するということが一つ出ています。そんなわけで、この設置をこれからどうするかということについて、御意見などがあったらいただきたいと思います。それから、法人課税については相当の議論をしてまいりましたが、この法人課税小委員会がやってきた議論を踏まえて、今度は地方の法人課税をどうするかという問題に移ってまいります。そういう意味では、いま法人課税の引下げは実現していますが、しかし、さらにこれを進めていくためには、地方の法人課税を考えざるを得ないという状況に入っているので、そこでこの総合的な研究をしなければならないことになりました。

なお、総理は、今後、法人課税の問題については、「税体系全体のあり方も踏まえつつ、法人事業税の外形標準課税の検討をはじめ、法人課税のあり方について検討を進める必要がある」としています。まずはこのような観点から、地方法人課税の問題について、事務局より説明を受けて、皆さま方の御意見をいただきたいと思います。

片山府県税課長

資料を開いていただいて、3枚目が1ページになっています。地方税収の構成で、平成10年度の地方財政計画額をベースにしてグラフにしています。固定資産税、法人事業税、個人市町村民税などが主な税目になっています。

次の2ページ、これは平成8年度ですが、決算ベースで、右側の上に道府県税の構成、下に市町村税の構成があります。上の道府県税では、法人事業税はこの年は34.8%の構成比です。あと個人の道府県民税が17.9%、自動車税、軽油引取税というようなものが主な税目です。下の市町村は、固定資産税が43%、個人の市町村民税が31.3%、この2つで8割弱というところです。

それから、3ページは、地方税の構成をOECDの歳入統計の区分により所得・消費・資産に分類したもので、参考に付けています。

4ページは直間比率の推移です。上に地方税があって、直接税、間接税のウエイトをそれぞれ分けています。かつては、例えば昭和30年代は、間接税のウエイトが20%を超える頃がありました。ずっと下がってきて、特に平成元年に、地方税にそれまであった電気税、ガス税、娯楽施設利用税、そういうものを廃止した関係でウエイトが下がっています。10年度になって、また上がっていますが、これは地方消費税が導入されたことの結果です。

5ページは、租税総額に占める地方税の割合でして、租税総額全体90兆 3,000億円の中で地方税が35兆円、総額に対する割合が38.9%となっています。逆に下に歳出面での国と地方の割合を書いてあって、歳出で見ると、一番右下ですが、64.6%ということで、歳入と歳出のウエイトは逆転しているという、よく出している資料です。

それから、6ページは地方の歳入純計を決算額で構成比を比較したもの、その推移です。直近の8年度の決算で見ると地方税は34.6%、過去、一番左を見ていただくと、42.6%というような時代もありました。上から2つ目に地方債があって、地方債は平成元年度は7.5%ですが、8年度は15.4%ということで、地方債が増えて地方税が微減してきたという推移です。

7ページは、地方歳入の構成を都道府県と市町村で分けてみました。上が都道府県で、地方税が31%、市町村の場合には34.7%。市町村のほうがやや高くなっています。道府県のほうは逆に地方債のウエイトが高くなっています。

8ページは、市町村の規模別に歳入の決算額を分析しています。大都市から町村までそれぞれウエイトが違いますが、例えば大都市だと、相対的に地方債のウエイト、その他の財源のウエイトが高い。それから、中核市、中都市になると、相対的に税のウエイトが多くて交付税が少ない。財政力が高いということ。町村になると、逆に税のウエイトが低くて財政力が非常に低いという傾向がうかがわれます。

それから、9ページは市町村税を市町村の規模別で分類したものでして、余り大きな差はありませんが、強いて挙げれば、大都市と中核市では法人住民税のウエイトが相対的にやや高い。町村になると、固定資産税のウエイトがかなり高い。こんな傾向が読み取れます。

それから、10ページは歳入総額に占める地方税の割合を団体別に分類したものです。左側の表で見ていただくと、地方税の割合が10%未満のところが、県はさすがにありませんが、市町村だと 869団体、26.7%あります。それらをグラフで右に示していますが、道府県の場合には10~20%、20~30%というところに集中しています。市町村の場合には0~10%のところもかなりあり、それから、10~20%ももちろん高い。ただ、市町村の場合には、40~50%、50~60%のあたりにもある程度分類している。それなりに高いところもある。そういう分布になっています。

11ページは、主要税目の税収の対前年度増減率の推移をグラフに示していますが、下を見ていただくと、都道府県の歳出、市町村の歳出、それから、それらを合わせた地方歳出の純計で、増減率の推移をあらわしています。比較的安定した状態になっています。上が主要な税目の増減率ですが、例えば固定資産税などは非常に安定的に横に這っているという状態だし、個人住民税も平成6年度に特別減税をやりましたので、かなり落ちていますが、こういう変動要因がなければ、かなり安定した推移をたどっています。また、自動車税なども同じような傾向です。それに対して法人事業税は、やはり景気の動向その他に左右され、かなり伸びるときもあるし、落ち込むときもあるという状態です。

それから、12ページ、法人住民税の概要がありますが、これは省略します。

13ページに均等割の税率の推移もあります。これも参考までに付けています。

それから、14ページ、法人事業税の概要、これも省略します。

15ページは法人事業税の税率の推移ですが、いままで税率は変えていませんでしたが、平成10年に法人課税の見直しの一環として初めて、例えば基本税率だと、12%を11%に下げたということを示しています。

16ページは、その10年度改正で地方法人課税の増減収がどうなったかということですが、一番右下に、国税の法人税の実質減税が、平年度で 2,580億円から 2,140億円という数字を書いていますが、それをずっと左を見ていただくと、地方税の場合には、法人事業税、法人住民税を合わせて、平年度で 1,440億円から 1,240億円程度の実質減税になるという見込みです。

あと17ページからは資料ですが、政府税制調査会の10年度の税制改正に関する答申を抜粋しています。18ページの5)に地方法人課税があって、19ページをあけていただくと、アンダーラインを引いていますが、「地方の法人課税については、平成10年度において、事業税の外形標準課税の課題を中心に総合的な検討を進めることが必要です。」6)にまたアンダーラインを引いていますが、「今後は、事業税における外形標準課税の検討が法人課税の表面税率(調整後)の議論にもつながることを念頭に置きながら、法人課税の表面税率(調整後)のあり方について検討を進めることが適当と考えます。」という文言になっています。

それから、20ページは、平成8年11月ですが、当調査会の法人課税小委員会の報告の抜粋でして、その中に地方法人課税のあり方が書かれています。例えば税の性格だとか、それから、21ページに地方の法人課税の対応、法人事業税の外形標準課税についてもある程度詳しく書かれています。

22ページは、課税ベースに関する個別的検討ということで、17で事業税の外形標準課税についてもさらに詳しく記述がなされています。参考にしていただければと思います。

25ページからは、最近の当税調の審議で出された地方税の総論に関する主な意見です。地方分権関係、それから、26ページは課税自主権、下に地方行財政改革、これらに関する御意見をまとめていますし、28ページは、その中でもとりわけ地方法人課税に関する意見をまとめています。29ページには特に外形標準課税に絞った意見も書いています。参考にしていただければと思います。

加藤会長

地方の法人課税、とりわけ事業税の外形標準化の問題については、今後、小委員会を設置して、専門的・技術的観点から議論していただくことになっていますが、この際、小委員会の審議の進め方、あるいは小委員会に対する御意見などがあったらお聞きしたいと思うので、どうぞどなたからでもおっしゃってください。

島田委員

法人課税の問題については、先ほど口頭で御説明いただいた資料の中に、これは総理の御発言だと思いますが、今後3年のうちにできるだけ早く総合的な税率を、ということですが、私は3年では長すぎると思うのです。しかも特にこれは地方税ということになると、経済活動をやって、国税があって、その後ということになるから、先ほどの平田委員のお話ではないですが、実際に動いてくるのは4~5年先ということになって、忘れられた頃に動き出すということになりかねないので、私はあえて記録にとっていただきたいと思いますが、一委員の気持ちとして、できるだけ今年度中に形をつけるという意見があったということは、テイクノートしていただきたいと思います。

もう一つは、これに関して、地方税改革というのは、実は日本の責任のある地方自治を実現するために非常に重要な突破口になるだろうと思うのです。というのは、納税者から見ると、やはりこの外形標準課税というのは新税だから、新税が応益税ということになると、おそらく納税者はちゃんと理解をして納得をして納めるということが本質だと思うのです。そうすると、地方自治体が納税者に対して、納税者が対価を払うにふさわしいサービスを提供しているのかどうかということについて納得を得なければ、形はつくったけれども、非常に混乱すると思うのです。

この問題はどこへ行くかというと、地方自治体が納税者の納得を得るだけの情報開示をしているかどうかということなのです。あるいはそれをする能力、説明力、そういうものを持っているのかという非常に本質的な問題に入ります。私はあえてそれは大変いいことだと。そういう問題を突きつけられて、地方自治体が自分の予算の使い方、そして、それが住民あるいは企業にどのぐらい役に立っているのかということを、ちゃんとわかるように説明できるようにする、そのための情報開示をする、それがなければ税は納めない、というぐらいの納税者と当局との間の切磋琢磨があって本当の自治が実現できる。そのきっかけになるという意味で非常に重要です。はっきり言うと、現状のままの地方自治体で地方分権なんかとんでもないと思っているんですよ。うんと進んだ情報開示があって、説明があって、住民・企業が納得する。こういう状況ができて初めて望ましい地方分権が起きるので、そういう意味では、今般の改革は実は本質的な問題を含んでいるので、全力をかけて税調 は努力すべきだと思います。

私、ちょっと先ほど遅れてきたので、一言是非質問したいことがあってお許しいただきたいのですが、1枚目に配られた政策減税について、政策減税の規模というのはどのくらいなのかというのをあとで教えていただきたいのと、それから、前半では政策減税の中身についての御議論はするチャンスがなかったように思いますが、税調というのはそういうのでいいのかということをちょっと聞きたいと思います。これはいつ決められるのか知らない。おそらくこれは法律にするわけで、今国会を通すということなのかもしれませんが、福祉とか教育とか投資とかというのをどう考えるかというのは、私は税調の重要な役割だろうと思うのです。だから、これについて、当局が急いでやってしまうのだ、参院選の前にやってしまうのだ、ということなのかもしれませんが、それはわかりますが、やはりそのために税調としては、1回や2回は特別に会合を開いて議論をする機会をいただきたい。そうでないと、税調の委員として「知らないでした」というのでは、何をやっていたのかわからない。是非1回か2回会合を開いて、十分とは言わないまでも、それなりに責任を果たすぐらいの議論をさせるチャンスをいただきたいと思います。

質問としては、政策減税の規模はどのぐらいなのですかということを教えていただきたい。

大武審議官

ただいま島田先生からお話があった政策減税については、平成10年4月9日の橋本総理大臣記者会見というところで先ほどちょっと御説明した話ですが、総理からは、「私は4兆円を上回る大幅減税を行いたいと思います」ということで、その4兆円というのは、2兆円と2兆円の特別減税、その「上回る」という部分で表現されているのかと思います。また、総理は、「いわゆる政策減税」とおっしゃっていて、「福祉、教育、あるいは投資など、さまざまなお考えがありますけれども、このような考え方を念頭に置いてよく検討していきたいと思います」ということで、規模は特にメンションをされていません。あくまでも政策ということだから、景気ということを考えて、真に有効かどうかというような判断から議論するのだというようなことなのかと思います。規模は決まっていません。

島田委員

その問題に関してなぜそれを申し上げたかというと、今度の公共投資について、良質の公共投資をするということがあります。きょうの新聞などでは、4兆円までは旧型のだと、あとは良質のをやるのだと、こういうことなのですが、実は良質ってどういうことなのか。コンクリの建物を建てて、名前だけ変えて良質なのかという疑問をやはり我々は持つわけです。一番重要なことは、コンクリの建物を増やして公共投資をするのだったら、むしろ人材投資をすべきなのだろうと思うのです。人材の投資というのは、実は人材に投資をするというのと、人々が自分に投資をするのを減税をしていただくというのと表裏一体なので、同じことなのです。だから、「上回る」という表現を、私はある意味では、公共投資と同じことで議論する余地が本当はあると思います。つまり、財政法の4条で、建設国債の対象というのは国家の資産ということになっていますが、それはコンクリの建物だという一般のこれまでの理解ですが、そういうことが時代遅れなので、早く4条を見直して、本当の資産である人材を活用できるようにするというような発想を持ってもらいたいと思うのです。

ところが、当局の方はお忙しいから、本当に必死になって仕事をしているのはわかりますが、物事を考える時間がないのではないかと思うのです。だから、我々は少し考えてあげなければいけない。そういう意味で申し上げているわけです。まことに不規則発言であったら、お許しいただきたいと思いますが、御賛同の方はたくさんいらっしゃると思います。

吉田特別委員

一、二質問を兼ねて申し上げておきたいと思うのです。

地方税の中の事業税の課税のあり方について御検討をされている。その中に事業税を外形標準課税に変更していってはどうかというこの発想について、私は決して頭から否定するものではありません。ただ、いままでの法人課税という範疇の中で議論を進められているようですが、事業税には個人の事業税もありますよと。個人事業税はどういう論議がいま進められているのですか。外形標準課税のときにこれはどういう論議になっているのか。これがまず第1点。

同時に、その外形標準課税に移行するに当たって、急激に法人事業税を全部外形標準課税に移し変えるのでなくて、途中経過として、事業税も残すし、外形標準課税も導入するやの議論も聞こえてくる。そういうときに一体、この中小、個人事業者に対して、どういう配慮があるのか。議論のいまの過程は一体どういう論議をされ、どういう手順を踏んでいこうとされるのか。これをまずお聞かせいただきたい。

私はやはり租税の公平化、簡素化、中立の三原則から見ても、個人と法人というものを、国税、地方税を通じて総合的にバランスを考えていただきたい。そのときに事業所得者を個人のサラリーマンとの比較で考えるのか、あるいは企業としてとらえていくのか、この論議を是非将来的な抜本的所得税の見直し論議と、地方税のいま外形標準課税の論議も出てきているわけだから、これらを通じて検討をしていただきたい。率直な議論をしていただきたい。事業というと、個人と法人がどうも共通の論議の場がない。これを一体どう考えているのかということを申し上げておきたいと思います。

松尾委員

今後の小委員会の審議の進め方について3点要望があります。

第1点は、当税調の法人課税小委が平成8年にまとめた報告の中には、「消費税や地方消費税との関係などについても、なお検討すべき課題が多い」としているわけですね。そこで、この問題も含めて、やはり税の性格論を改めて議論していただきたいと思います。

第2点は、法人事業税の外形標準課税は決してやさしい問題ではなくて、非常に難しい問題であろうと思います。そこで、問題を投げ出して、やはり国税でやってくれということになっては非常に困るわけでして、地方税制の枠内できちんとした結論を出していただきたい。

それから、第3点は、これは道府県税ですから、都道府県の行財政改革、これもワンセットで議論していただきたい。

栗田委員

地方の法人課税の小委員会で十分検討していただくことを期待いたしています。そこで、まず最近の地方公共団体、都道府県の財政は当然、景気の波を受けているわけでして、非常に厳しくなってきており、きょうも全国知事会をはじめ6団体で、大蔵大臣と自治大臣に対して、今回の経済対策に関する緊急要望ということで、地方公共団体の財政運営に支障を生じないよう、必要な財政措置を講ずるよう要請しています。

また、都道府県は高齢化社会を迎え、今後ますます良質で十分な行政サービスを提供していくことが求められているわけでして、そういった意味で安定した税源の重要性を痛感しています。

そこで、事業税に対して、外形標準課税を導入するという問題ですが、先ほどの資料で11ページにあるように、法人事業税の対前年度の増減率が大変なばらつきがあり、昭和63年と平成4年の開きが大変大きい。こういったようなことで、安定税源を求めるという意味では、是非この外形標準課税の導入を検討していただかなければならないと思います。

その場合、税理論としてどうあるべきかということが大切なので、税収中立でお願いしたい。いま問題になっている法人課税の減税というものと結び付けて考えるようなことがないように是非お願いいたしたいと思います。

地方公共団体の財政運営について、なかなか理解が得られていないようでして、地方の財政運営はけしからんといったような意見もあるわけですが、地方公共団体は、行財政改革の推進に真剣に取り組んでいますので、その辺の理解もいただいて、そういった前提で是非議論を進めていただきたいと思います。

それから、地方の法人課税のほうですが、先ほど16ページでお話があったように、平成10年度で 1,240億円から 1,440億円というような実質減税も行っています。地方財政を取り巻く環境は非常に厳しいということでして、是非専門的な立場で地方法人課税のあり方を検討していただく。その際、国税である法人税と地方の法人税割の配分をどうするか、国税と地方税を合計したものが法人の負担になるわけだから、国税と地方税の配分のあり方というものも十分検討していただいて、地方分権を支える地方税源の確保についても、是非念頭に置いて議論を進めていただきたい。このように思います。

石特別委員

いま何人かの方から問題を提起されましたが、いずれも難しいという問題を御指摘になったと思います。事実この税調にはいろいろ取り残された宿題があるのですが、この外形課税の問題というのは、まさに二、三十年来、我々やろうと言いつつやれなかった問題でして、それだけに問題が難しかったということだろうと思います。

そこで、今回やっとやろうという気になった途端、余り環境は良くない、どうしても赤字法人の課税の問題が出てきます。そうすると、景気の落ち込み等々の兼ね合いで、果たしてどうなるかという問題もあるでしょう。それから、法人税率引下げというときに、こういう課税ベース自体を変えようということだと、何かカモフラジィー的に法人税の守備範囲から追い出すのではないかという痛くもない腹をさぐられかねない面もあるし、そういう意味でこの小委員会にお願いしたいことは、やはり理論的な根拠をじっくり腰を据えて検討する。つまり新税だから、納税者に納得していただかなければいけない。そのためにはやはり根拠がしっかりして、明確な問題意識とスタイルもしっかりしていなければいけないのだろうと思います。そういう意味で今年中にやれという島田さんのお考えには賛成ですが、ただ、実際にやられるということになると、まだその先少し待たなければならないケースも出てくるだろうと思いますが、いずれにしても国税の法人税のときに、課税ベースを広くして税率を下げるというのも1年以上たなざらしになった経緯もありますが、土台さえしっかりしていれば、必ず日の目は見るわけだから、土台づくりをぜひやってもらいたいということ。

それから、外国にもこういうケースはいっぱいあるから、そういうことを比較検討するということと、地方の方々の意見をやはり聞いてみる必要があるのだと思うのです。そういう意味では、これは専門的な領域ですが、やはり地方へ行って、有識者の方と議論をするような場もつくるとか、言うならばフルセットでとりあえずやらないと、この大きな山は越えられないと思っているので、おそらくいろいろな形で負担が事務局へめぐっていくのかもしれませんが、それを乗り越えて新しい提案を是非やってもらいたいなと思っています。

河野特別委員

時間がないので、いま石先生がおっしゃったことの上に立って一言だけ申し上げたいのですが、ここに福井の知事がいらっしゃるのでお聞きしたいのだが、結局、長年にわたる知事会の要請が、いろいろな偶然の重なって、日の目を浴びるようだという条件にいまやっとなったわけです。ただ、状況は極めて難しいときにそれが起こるということもまた事実なのです。

そこで、僕は地方分権委員会でも何人かの知事にお尋ねしたのですが、この話は、中央の自治省だとか税調が全責任を負ってやるのではなくて、道府県税なのだから、知事が責任者なのだから、この問題を実行するに当たって、大変な抵抗があることは目に見えているわけで、それを知事が自分で主体的に説明もし、説得もし、ということについて、本当に体を張ってやるつもりがあるのかどうかということが基本だと思うのですよ。何かそれはよそ事で、中央で何かまとめてくれるのだと、安定財源は俺のところへ来るということだと、具合が悪いのではないか。例えば兵庫の 貝原さんだとか何人かの知事に質問したことがある。そうしたら、「河野さん、今度だけは真剣にやります」と言うから、「それはありがたい。そうでないと、我々は東京で空回りする」と申し上げたので、それで栗田さんに、福井県知事としては、体を張ってもらえるかどうかということをお尋ねしておかないと、この話は動かなくなってしまうんです。

栗田委員

税制の現在の仕組みでは国の法律で決められるということで、もちろん国会でいろいろ議論をされるわけですが、地方としても事業税の外形標準課税というものを望んでいるわけだから、まさしく体を張って住民を納得させる、そういう意気込みでやっていくということです。

加藤会長

まだ御意見がいろいろおありだと思いますが、この問題については、次回の総会でも引き続き議論をしていきたいと思っているので、きょうはこのあたりで皆さま方の御意見をいただいたことにして、小委員会をつくることが前提になっているので、この小委員会について考えていきたいと思います。

いまお聞きしていて、大体こういうことではないかという気がします。「地方法人課税小委員会」という名称になるかと思いますが、法人事業税など地方の法人課税を中心に専門的・技術的、あるいは理論的な観点から御検討していただくことが第一ですね。

さらに、そこから地方分権とか地方税、それから地方行革、そういう地方税一般とかそういう問題については、あるいは税源をどうするかということについて、これは主に総会で皆さま方に幅広い観点から御議論をいただくことになるのではないかと思います。つまり小委員会というのは、そういう専門的なことをやりますが、全体についての見方を必ずしも議論しないので、そういう点から今度やはりやっておかないと、十分な答えが出てこないので、そういう観点から考えてみたいということ。総会で引き続き、つまり小委員会と総会とが本当に連携をとった形での議論をしていかなければならないのではないかと理解しています。

さらに、こういうことを考えると、先ほど石さんがおっしゃったのですが、これは新しい課税なんですね。だから、納税者の方がこれを本当に理解していかないといけないわけで、そういう意味で、地方分権にあわせて納税者の視点も踏まえた御論議が必要なのではないか、非常に重要になるのではないかと、こういうふうに思っています。その点も含めていろいろとこれから進めていきたいと思っています。さらに海外視察なども入れなければならないと思うし、いろいろと御検討いただきたいと思っています。

さらに、小委員会で専門的な議論をしていただいて、その議論をさらに総会で広げながら議論していくのですが、先ほども出たように、この総会でもって、特に栗田さんがいらっしゃるので、知事がおやりになると、こうおっしゃってくだされば、我々としては非常にやる気になるので、是非そういう意味では御協力をお願いしたいと思っています。

そこで、小委員会をつくることになるので、名称としては、「地方法人課税小委員会」、いままで「法人課税小委員会」というのがありましたが、これを発展的に解消して、「地方法人課税小委員会」ということにしたいと思っています。

それから、この小委員会に所属していただく委員については、議事規則があって、私が指名をさせていただくこととなっているので、現在までに考えたところのお名前を申し上げさせていただきます。大変御多用ですが、、これから申し上げる方には是非御協力をお願いしたいと思います。

石 弘光さん、島田晴雄さん、津田 正さん、本間正明さん、水野忠恒さん、また専門委員の神野直彦さん、関 哲夫さん、田近栄治さん、中里 実さん、林 宜嗣さんに所属していただこうと思います。さらに、愛知産業株式会社の社長の井上裕之さんと、太田昭和監査法人会長の矢澤富太郎さんにも所属をしていただきますが、このお二人は現在のところまだ専門委員ではないので、専門委員として任命をさせていただこうと予定しています。以上の方々のほかに、私と松本会長代理が参加することによって、この委員会を進めていきたいと考えています。

小委員長も議事規則により会長が指名することになっているので、石委員にお願いしたい。法人課税から地方法人課税と連続ですが、是非よろしくお願いします。

それから、次回の総会ですが、5月19日の火曜日、午後2時から開催したいと思っています。会場は本日と異なりまして、合同庁舎4号館4階、共用第一特別会議室、いつもの部屋ですね、そこで行うのでよろしくお願いします。

また、地方法人課税小委員会、できたばかりですが、次回の総会と同じ日、5月19日の午前10時からを予定しているので、所属された方は是非御参加をお願いしたいと思います。

それから、さっき島田さんからちょっと出たことで、時間が一、二分あるので申し上げますが、政策減税のことです。政策減税について、ここでもって議論をすることももちろんあるのですが、問題はこういう景気対策のために政策、政治決断でもってやられたということだと、我々としては総理の諮問機関だから、総理から諮問があると答えられますが、そうでないと、ここでまともに取り上げて議論するということではない。しかし、それよりもやはり我々としては、中期的、長期的に税体系をどう考えるか、福祉の問題をどうするか、人材開発のために税制がどうかかわるか、というようなことを是非中期的課題として論じていきたい。

そして、現在行われる景気対策の当面の政策減税などについては、これは本来やってほしくない。やってほしくないのだが、政治的決断としてやるなら、それは仕方がないということでして、やってください。しかしながら、やってほしくないのだから、やるにしてもなるべく早くこれをやめてほしい。つまり、やるとしても一時的なものだから、早くやめてほしい。そして同時に、私たちが一番注意しているのは、このような政策減税が私たちの論じようとしている将来の税体系の理想から外れる、あるいは歪みを起こすような、そういう政策減税については、あくまでも反対するという立場を私は貫きたいと思っています。そういうような方向で処理してよろしゅうございましょうか。もしよろしいようでしたら、今後もそういうふうに進めさせていただこうと思っていますが、また御意見などもいろいろいただきたいと思っています。

きょうは大変長くなって恐縮ですが、これで終わらせていただきます。お忙しいところありがとうございました。

〔閉会〕