第10回総会 議事録
平成9年12月3日開催
〇加藤会長
第10回の総会を開催します。
今日の議題ですが、金融課税小委員会において、金融関係税制について本年6月以来15回にわたり精力的な御審議をいただきました。先ほど中間報告がまとまりましたので、本日はその報告を受けたいと思っています。
本日の進め方としては、報告書が非常に大部なので、審議の効率化も考えて、まず報告書の要約を事務局より朗読してもらいます。続いて、報告書全般について、本間小委員長からポイントをお話しいただきます。その後皆さま方から御意見を伺いたいと思っています。
次に、前々回より繰越しになっていた年金課税についての御意見を伺いたいと思います。この問題は来年度以降へと審議を続けていくことになるので、そういう意味でお聞きとりをいただきたいと思っています。
[「金融課税小委員会中間報告」]
それでは、初めに、中間報告の本文の冒頭部分及び要約の朗読をお願いします。(事務局から、『金融システム改革と金融関係税制』(資料1)冒頭部分、『金融課税小委員会中間報告の概要』(資料2)朗読。)
〇加藤会長
それでは、とりまとめに大変御苦労いただいた本間小委員長から、中間報告のポイントを説明していただきたいと思います。
〇本間委員
中間報告のポイントについて、私の方からかいつまんで御説明をします。
タイトルとしては、「金融システム改革と金融関係税制」としています。このタイトルからお分かりのとおり、実は我々この報告をまとめるに当たって、1つは金融システム改革に伴う緊急対応的な課題としての税制改革の問題と、その問題との関連において、特に所得税との関係における理論的な関係をどのように整合的に位置付けるか、こういうような問題意識を持ってこの中間報告にとりかかったということです。その点から、構成は、(1)総論的な部分、つまり金融関係税制の全体における位置付け、あるいは金融商品に対する所得課税のあり方、金融関係税制の適正な執行という総論的な部分のところと、(2)平成10年度税制改正において、早急に総会等において御検討いただきたい部分、これを分けて書いています。
私ども金融課税小委としては、金融ビッグバンに対応して、税制もまたそれにふさわしい時代的な要請があるという認識のもとに、税制の見直しというものを包括的に検討をするということを確認しました。その上で、各国の経済環境条件あるいは租税体系、さらには税収・財政状況、そして執行形態の相違がそれぞれ各国の事情によって異なるので、金融ビッグバンと申しても、それを国際的に単一の税制として構想をするという方向は、この4つの点における相違を踏まえると、必ずしも適当ではありません。それぞれの国の状況の中で、金融関係税制における整合的な位置付けというものが求められるということを、基本的なスタンスとして確認をしたということです。
その上で、私ども、この金融関係税制においては、経済理論的な立場及び租税理論的な立場の双方から、緊急を要する金融関係税制のあり方について、激しい意見のやりとりを行ったというのが実態です。3,500億円の税収をロスしても、グローバル化の中で日本が金融の活性化のためには廃止すべきであるという一方の意見があれば、一歩としても取引関係等の手直し・廃止というのはまかりならぬというような議論の中で、どのように理論的にこれを整理していくかということは、非常に困難な作業でありました。
しかし、その議論の中で、実は私ども、かなりうまくこれをまとめたのではないかと自負をしていて、そこを十分に読んでいくと、ある種の方向性というものが浮かび上がるように書いたつもりです。
まず理論的には、私ども、この金融関係税制の中で、焦点は、もちろん緊急性の観点からも、有価証券取引税及び取引所税の問題です。しかし、この問題は単にグローバル化の中で、軽減をしたらいい、あるいは廃止したらいいという問題に集約することができない問題です。1つは、貯蓄供給の国である我が国と、ほかの貯蓄を受け入れる需要国との間での非対称性の部分、あるいは税収における状況の違い、さらには執行上の体制の違いというものを、どのようにこの議論の中に組み込むかということは、その一方で所得税における証券税制のあり方というものを抜きにして議論ができないということでして、ここで激しいやりとりがあり、おおよその時間をこの点に費やしたというのが実態です。
我々は、中立的な金融課税というものが必要であるということが、フリー、フェア、グローバルの観点から、不可欠であるという具合に理解をして、この取引課税と所得税を理論的には別個のものとして整理をするというスタンスから始めました。これについて、中立性の観点から、取引課税についてさまざまな御意見があったわけですが、この方向性としては、やはり時代の潮流を踏まえて、軽減の方向に向けてのスタンスの意見が多かったということで、両論は併記をしているが、その方向でこの報告書が読まれることを期待しているということです。
しかし、そのことと同時に、金融課税の側面と並んで所得税における位置付けというものが、とりわけ垂直的公平という観点から議論をしなければならないということが、強く小委員会の中でも出されました。この点について、この報告は2つの意味で実は重要な問題提起をしているという具合に御理解をいただきたいと思います。
1つは、これまで税制調査会が総合課税というものを是とするような基本的なスタンスがありました。しかし、この報告書では必ずしもその立場を踏襲しない形になっているということは、御注意をいただきたいと思います。つまり、金融所得というような非常に足の速い所得を、地方税も含めて最高税率65%の税率表を前提とする所得税の中に総合課税化をしていくということは、中立的な観点から極めて問題が多い取扱いになるという現実的な理由が1つあります。総合化をするのであれば、本体の税率構造それ自身を相当大胆に見直していかなければならないということです。そして、その上で、私どもは最近の租税理論の立場から、最適課税論という立場を踏まえて、当面は分離課税を前提にして、金融所得と労働所得というものを分けて税制というものを構想しようと、このような考え方でとりまとめたということです。
具体的に申しますと、この労働所得等に関しては、いまの税制を残すのは当然ですが、金融課税については、分離課税を前提にして構想をする。そして、その上で、現在は御承知のとおり、源泉分離課税と申告分離課税を併用する形になっていますが、有取税等の軽減・廃止の方向というものが明確になった場合に、垂直的な観点からどのように資産性所得に対して公平な課税状況というものを実現するかという観点の中で、申告分離方式が望ましいという方向性をかなり明確に示したということです。したがって、執行上の問題等はあるし、過渡期の問題はありますが、方向性としては、できる限り源泉分離というものを整理縮小しながら、分離課税に一本化をする。このようなスタンスでまとめたということです。この点については、おそらく地方税の中における源泉・申告の相違の取扱いというようなものも、総会の場で御検討をいただく必要性があろうかという具合に考えています。
申告分離に強く示唆した形になっていますが、税務執行上これをどういう具合に公平に実行するかということは、申告分離の方式もかなり税務執行の段階の中でなじんできており、その適正な執行形態に近くなってきつつあるわけですが、一段と複雑化する金融所得の多様性をかんがみると、執行形態における納税者番号への積極的な導入の検討というものをお願いをしたいと、このように税制執行の面において、踏み込んだ形で提案をしているということです。その意味において、今後総会等においても、実施の問題について御議論を深めていただきたいというのが我々の希望です。
そういう流れの中で、私ども10年度改正においては、この金融取引に対する取引課税への対応という問題と、いま中心的に御説明をした1、2の株式等譲渡益課税の対応ということを中心に掲げていますが、そのほかにストックオプション税制、金融持株会社、特別目的会社、会社型投資信託に関する税制、生命保険料控除・損害保険料控除、課税繰延べ、非課税貯蓄制度に対する方向性について、総会においての御議論に我々自身の立場、方向性というものを示しながら、深めていただきたいというようにまとめたというのが、この中間報告の骨子であります。
実は、今日最終回の小委員会が開かれました。その中で少し問題になりました点を御紹介したいと思います。読み上げますと、「取引課税の廃止は中長期的には市場にプラスの効果をもたらし得るところであり、金融のグローバル化や現下の市場の動向にかんがみれば、金融システム改革を強力に推進していく政府の意思を明らかにするためにも、政策的な見地から、その具体的なスケジュールはともかく、思い切って廃止の方向を示すべきであるとの意見。」こういう具合に書かれているが、「その具体的なスケジュールはともかく」という言葉が、若干改革に向けて後ろ向きな印象を与えるのではないかと、こういうような御指摘が会長等のほうから出されました。その真意は、私ども、この「具体的なスケジュールはともかく」というのは、いつやるかわからないよというような役所的な発想ではなくて、どのように具体化をしていくかということは総会等にお任せするとして、思い切って廃止の方向を示すべきであるという意見が、かなり強く出てきたということを御理解いただきたいと思います。
しかし、税法上の立場、あるいは執行上の立場から、やはり取引課税の簡便性、税収の確保性という観点から、根強くそれに対する擁護論もありまして、とりまとめとしては、読んでいただいたらおわかりのとおり、方向としては軽減的な方向で総会の御議論を深めていただきたいということで、まとめ上げたということです。
〇加藤会長
それでは、皆さま方から、ただいまの金融課税小委員会の中間報告について、御質問などをいただきたいと思います。
なお、念のために申し上げておくと、今日はこれを十分にまだ御熟読いただいていないので、審議の時間は後日にとりまして、皆さま方からさらに御意見をいただく予定です。今日は限られた時間ですが、どなたからでもどうぞ。約20分ぐらいの予定なので、どうぞ御質問いただきたいと思います。
〇柳島特別委員
1つ、3ページのところで、おそらく議論になったのだと思いますが、国際的なグローバル・スタンダードの単一の税制の話なのですが、やはりビッグバンをやっていく場合は、金融機関と取引所間と制度間競争というのは当然あるのだから、税制というのも調和していかなければ、将来やっていけないのではないかと思うのですが、その辺はどうなんでしょうか。
〇本間委員
私どももその点については十分に意識して、制度があまり各国とかけ離れた状況をつくるということは、東京市場を中心とする日本の金融市場において、非中立的で、阻害的な効果を及ぼすという立場をとっています。しかし、各国とも、この取引課税について、全部が同じ方向に廃止というように進んでいるわけではありません。財政上の理由あるいは経済上の理由によって、取引課税というものを印紙税等々の形において残しているというような部分があります。方向性としては軽減・撤廃の方向を持っているわけで、日本もいまの状況の中においては、それに方向性として作用性をしていくような事態をつくっていくということが肝要でして、その政策的な判断については、小委の判断よりも、総会の判断の中で決定をいただければという具合に、我々はオープンな形で問題を提起しているということです。
〇岩瀬特別委員
私は小委員会の委員の一人として、今日ここに出した報告書はそのとおりですが、総会としての議論の場において、私の考え方を改めて表明したいと思います。
銀行・証券・保険等の金融界は、いま金融・資本取引のグローバル化、市場原理が働く効率的な資本市場の確立、及びその中で生きることを目指して、しのぎを削っています。金融の自由競争が一段と加速する中で、一部の企業破綻の発生を見るのは致し方ないとしても、最近のケースを見る限り、日本経済全体に対する失速感あるいは閉塞感ばかりが色濃くあらわれているように思われます。市場が直面しているこのような事態を打破するためにも、平成10年度の証券関係税制改正の果たすべき役割は、大変大きなものがあると思います。有取税と取引所税を小幅改正するのではなくて、思い切って廃止した場合は、一挙に失速感とか閉塞感が払拭できて市場は活性化する。そこまでは断言することはできないとは思いますが、画期的な手数料の自由化等、他の施策と相まって、その方向に向けて大きく動き出す要因になることは明白です。租税法律主義のもとでは、ひとたび成立させた税制を廃止するというのは大変なことであるということ、また、収入が減少することは重大なことだということも十分理解した上で、なおかつ、いまこそ、この総合経済対策の一環として、政策に重きを置いた決断が切望されるということです。
いわゆる日本版ビッグバンにおいて、我が国がターゲットとすべき国際金融・証券市場はニューヨーク、ロンドンです。取引課税を残したままでは、竹槍で戦えというのと同義語になります。有価証券取引税は、小委員会報告にも記載されているとおり、米国にはない。また、有取税が存在すると強調されている英国の場合は、我が国と違って、公社債やマーケットメーカーには課せられていないという点で、その実態は我が国の有取税と似て非なるものであるということです。国際間において、あえて税の競争をする必要はありませんが、最低限、戦うべき市場と同一条件に近い環境にする措置、並びに来年4月からの外為法改正に伴う市場空洞化懸念の払拭のための措置は、必須の要件であると考えます。
また、取引所税についても、これは英国、米国を含めて、主要国に例を見ない日本独自の税制です。今後もますます新しい技術開発等発展が期待されているデリバティブの取引の面で、なぜ独り日本だけが取引所税を先行して導入して、わざわざ国際市場としての競争力を落としてしまう必要があるのか、甚だ疑問です。国際的に導入され始めた際に、我が国も足並みをそろえるという対応で一向に支障がないのではないかと私は思っています。
それから、キャピタルゲイン課税についてですが、小委員会報告の中で、「源泉分離選択課税方式を廃止して、申告分離課税に一本化することが適正化の方向と考える。」こう結論に近い形になっているわけです。これについて、私は小委員会において少数派に属することは認めますが、この結論については、強く反対せざるを得ません。現在の低迷する株式市場において、かつ、投資家の8割もが源泉分離課税を選択している現状において、現状を無視して申告分離課税の一本化の導入というのは、個人投資家の市場離れをますます加速させる結果を招くであろうことを私は強く恐れます。
私が主張したいのは、税理論を無視せよということでは決してありませんで、いま求められているのは何のための税制改正なのかということを、再度申し上げたかったのです。別の表現をとると、いま、日本という疲弊した体を健康体に戻すためには、税の処方箋をいかに書き上げるかということが非常に大切です。金融・証券市場は日本経済に血液を送る動脈ですし、有取税と取引所税は、あえて言わせていただければ、血管内に付着したコレステロールです。動脈硬化を来さないうちにコレステロールを除去するように、そういう適切な処方箋を、本総会においてぜひ書き上げていただきたいということを切望します。
〇佐野特別委員
この小委員会報告を拝見して、相当御苦労されたところがあるというのが第一の印象です。本間小委員長のお話なんかも伺っていると、結局、一番苦労された点というのは、所得税との関連だというように私は理解しているわけです。確かに株式の譲渡所得だけほかの所得とは違った扱いといいますか、特別な扱いをするというのは無理ではないか。といって、総合課税あるいは申告課税という方向に一挙に持っていくというのも相当の準備が必要であって、準備不足のままこれをやるということになると、別の混乱が起きるという感じがしています。
私は基本的に、有価証券取引税は低い方がいい、取引コストは低い方がいいということには賛成ですが、といって所得税の体系というものを無視して、ともかく市場対策だと、あるいは活性化だということで、これを断行するということには反対です。
1つの意見として、要するに、困っているのは所得税との関係なわけで、有価証券取引税を、取引の主体別、例えば法人は非課税にする、しかし個人まで非課税にすると所得税との関係が出てきてしまうということで、個人の取引は従来どおりという、主体別の選択というものができないものかというのが私の意見です。
〇加藤会長
いまの点、本間先生、何かお答えがございますか。
〇本間委員
有取税の議論の中においても、複数の委員の方々から、有取税の実態というのは、個人が直接払う以外に、機関による取引税の負担というものが非常にパーセンテージとしても高い。そのことが東京市場の使い勝手の悪さになっているのだ、取引コストの高騰につながっているのだと、こういうような御議論がありました。その点で我々は有取税のいわば軽減・撤廃の方向性というものの中で、取引コストの軽減をした上で、個人のレベルにおいては、それによってもたらされる利益というものが、税引き後の形では高くなる可能性があるので、資産課税のところで譲渡益として適正に課税をしていただく。これは結果的に個人のレベルで、つまり最終的な税負担の担い手である個人のレベルで税が重くなるということは否めないことだと思いますが、法人が、いわば機関が中間者であるという位置付けをすれば、我々はこのような改正というものが、理論的にも妥当するものであるという具合に考えて、ここで提案をさせていただいているということです。
〇松尾委員
私は、ビッグバンに対応して、それにふさわしい税制を考えるということは大賛成です。ただ、ビッグバン、即、有取税撤廃と言っていいのかどうか、その辺は疑問があります。財政構造改革の視点が非常に重要であります。財政構造改革の視点からは、やはり税収確保の要請がある。これは明らかであります。ビッグバンで市場が活性化すると、やはり有取税の税収は増えるのではないかと思います。だから、一挙にここで撤廃したほうがいいのかどうか、これは非常に疑問があります。手数料の完全自由化も99年末だから、この点も考えると、軽減はともかくとして、一挙に10年度税制改正の中で撤廃するということについては、私としては反対ということを申し上げたいと思います。
それから、政府税制調査会としては、証券税制全体の中で有取税問題を検討するというスタンスをこれまでとってまいりました。このスタンスは変える必要はないと思います。キャピタルゲイン課税については、小委の報告も、「申告分離課税に一本化することが適正な方向と考える」としています。私はこれには賛成です。公平・適正な課税という観点から、やはり申告分離課税に一本化するということは、ぜひとも実現しなければいけない。有取税問題と切り離してキャピタルゲイン課税問題を処理することはできないと思います。どうしても申告分離課税の一本化は実現するべきであると思います。
〇吉田特別委員
この金融関係税制の中で、生命保険料控除・損害保険料控除、あるいは老人マル優が、取り上げられつつありますが、これらは、庶民から見ると、所得税制の中で論議されてしかるべきでないか。例えば、生命保険料控除・損害保険料控除と類似しているのは、社会保険料控除というのもあるし、それとの関連を無視して、金融関係税制として論議するだけでいいのだろうか。それから、老人マル優にしても、老年者控除とか、そのほか公的年金控除とか、いろいろな控除があるわけだから、そういう意味合いで関連しているものではないか。だから、金融関係税制の中だけで、当面、来年度でこれをどうするのだというには、若干論議が足りないのではないかなという感じがいたしていることを申し上げておきたい。
〇大田委員
私も金融課税小委員会に入っており、意見は報告の中に酌み取られております。理論的には報告に整理されたとおりですが、最後の選択の部分は残されているので、その政策的な部分で意見を申し上げたいと思います。
私は取引課税はやはり撤廃すべきだと思います。なぜ軽減ではいけないかというのは、政策的な判断としか言いようがないのですが、やはり市場のマインドを刺激するという意味でも、いまケチなことはしないほうがいいのではないかなと思います。
それから、譲渡所得税のほうですが、みなしはやはり廃止しなくてはいけないと思います。本人を明らかにしないまま取引ができるような状況はなくしていかなければいけないと思います。だから、申告分離課税に一本化すべき。ビッグバンのもう一つの側面、国際的な競争の激化ということのもう一つの側面は、やはり金融取引が国際的になるということだから、その中で収益をいかに把握して公平に課税するかというところが、ビッグバンのもう一つのポイントだと思います。それから考えて、やはりキャピタルゲイン課税というのはここでしっかりかける。これをかけないで、取引課税で補完するというようなことは、ここでやめなくてはいけないと思います。
ただ、難しいのは、取引課税の撤廃と譲渡所得税の改革を同時にやらねばならないのかという判断です。私は政策判断としては、譲渡所得税を申告納税に一本化しない限り取引課税は廃止しない、つまり同時でなければいけないというふうには思いません。やはりいまの状況を見て、取引課税というのは早急に撤廃すべきだと思います。ただ、いいとこ取りというのは、これまでの課税の中でもよくありましたし、それだけは避けなくてはいけないので、譲渡所得課税を申告納税に一本化するのだということをきっちりと書く。いかに担保するかというのは議論しなくてはいけませんが、きっちりとそれを担保しておくということが必要だと思います。
〇橋本特別委員
私も金融課税小委員会のメンバーとして議論してまいったわけですが、総会の委員という立場で、改めて私自身の考え方を申し上げると、2つの理由から、有取税・取引所税は廃止すべきものと考えています。
1つの理由は、有価証券取引税とか取引所税というものは、取引のコストを高めることにより、投資家の資産の組替えを難しくさせるという側面があります。高齢化社会において、効率的な資産運用の場がますます重要になってまいりますし、また、1,200兆円と言われる個人金融資産を活用するのだというビッグバンの目標、そして経済の活性化ということからすると、効率的で活力ある金融市場というものが不可欠であろうと思います。これを考えあわせると、取引そのものに税を課するという考え方からは脱却して、市場機能の発揮に重きを置いた金融税制に転換する必要があるということが第1点です。
第2に、取引のグローバル化という問題があります。どなたからもグローバル・スタンダードの問題が出ましたが、国際的な整合性というものが確保されない場合、特に市場性の強い金融取引については、金融市場の空洞化というものが恐れられる。金融先物・オプション取引を見ると、東京市場の主要商品である円短期金利先物の取引においては、シンガポール市場の取引高というのは、もう東京市場の約4割まで上昇してきている。もちろん税だけが理由でないとは思いますが、大きな要素として、諸外国で課税されていない取引所税──取引所税というのは諸外国どこにもないわけです──というものの存在によって、東京市場の取引コストがシンガポールの約2倍になっているということは、無視できないわけです。
有取税についても、先ほど岩瀬委員からお話があったとおりでして、ほとんどの国で、ないか、もしくは廃止をされているし、英国とかフランス等においては、国債などは非課税になっています。先進国においてもトレンドとしては、有取税は廃止・軽減の方向にあるということです。
それで、取引課税の撤廃ということになると、税収への影響ということも指摘されますが、取引所税については、総額でも400億円程度と、税収への影響も少ないわけだから、市場空洞化の切迫性というものを考えると、平成10年度で撤廃するべきものと思います。
有価証券取引税についても、来年度改正で撤廃すべきものと考えますが、税収への影響から、もし来年度での撤廃が非常に難しいというようなことであれば、幾ら遅くとも、例えば株式売買手数料の自由化のスケジュールに合わせて、二段階で撤廃する。すなわち、平成10年4月に売買代金5,000万円超に係る部分が自由化されるわけですが、平成10年4月に軽減をして、完全に売買手数料が自由化される11年の12月までに完全撤廃するというようなスケジュールも1つの考え方ではないかと思います。
〇河野特別委員
この小委員会がこのテーマを検討し始めてから1年になっていますが、ここのところ10日間ぐらいの市場の混乱なり破綻なりということがあって、文章にも書いてあるが、政策的な見地から云々で、思い切って廃止の方向を示すべきであるというのが、かなり強い意見としてけさも出たと、本間先生がおっしゃっていましたね。
政策的な見地ということは、税理論だとかいろいろあるが、我々の用語で言えば、政治の決断だということですね。それに似たようなことを宮沢さんとの国会答弁でやりとりしていましたよね。そういう状況にあるということはわかるし、ビッグバンを控えての証券・金融サイドからのお二人の議論がいまあって、それはそれで全部わかる話なんですね。そのことをわかった上で、もうちょっと広い見地から1つの問題を提起しておきたいのです。
それはどういうことかというと、さっき本間さんが一番冒頭におっしゃったけれども、この際、3,600億円と言う巨大な──あるときは、バブル時代の話ですが、2兆円を超えていたんだから、そんなことはこれからないと思うが、いずれにしてもまだ3,600億円という金は、そう簡単にひねれる金じゃないですね。それを落として代わるものがない状況でやるという意見が強いという話があったんです。何を意味するかというと、いま我々は有取税の話を中心に議論していて、それを廃止することがいかに合理性があるかということの議論をやっているのだが、あわせて法人税減税の話にしても、課税ベースの適正化プラス実質減税論という話があるわけでしょう。いずれにしても、自民党の中では政策税制論というのがあって、2,000億円だ、3,000億円だということがもっぱら言われている。それを頭の中で足していくと、相当の金額なんですね、簡単にやってみると。兆に近いんですよ。その歳入欠陥については、挙げてあまりものを言わないで、今回はそうしていこうというわけでしょう。
まじめに考えている論者の基本的な腹の中にあるのは、個別で穴はいま空くけれども、政策的にいまこれをやらなければいけない。しかし、いずれは再び税の体系論というのを巻き起こしてやらなければ、我々は無責任のそしりを免れないということもわかった上で、それぞれみんな議論しているのだと思いますよ、税調委員であるならば。ただ、いまそれを言うことは、後ろ向きのような印象を与えるので言いたくないのだが、そのことが念頭にないと、こういうことをやることは、どっちにしても、あとにえらいツケを残す話なので、経済が隆々たる勢いで上がって、また兆単位で税収が増えるという世の中になれば結構だけれども、そう簡単に期待できないとすれば、いずれあと2年ぐらいの間には、この案をどうするかという大議論をまた税調でやらなければいけない時期が来ると思うんです。
税収というのは、いま歳出が、先週財政構造改革の法案が参議院を通って、歳出面でいろいろな制約をかぶって、来年度予算から強引な抑制論が法律的に実行されることになったですね。それはそれで大前進なんですよ。さらにそれを切り込むという話も理論としてはあるが、しかしそれは空想に近いかもしれない。とするならば、遠からず税収論というものを、全部経済の状況、景気の状況を踏まえながらの話ですが、やらなければいけない時期が来るかもしれない。そのことをお互いに確認しておかないと、いたずらに当面のことに追われて、政策判断だということで押し流されるということは、禍根を残すと思うのです。ただ、しかし、いまのこのテーマに関して言えば、政治が政治的な決断を下す、税調もそういうことの対立する理論を超えたところで議論をまとめるということは、必要な時期だし、会長もそういう決断をしてもらいたい、という2つのことを申し上げておきたい。
〇水野(忠)委員
私も金融課税小委員会でこの報告案のとりまとめに当たった者として一言お話ししておきます。すでに委員長からお話があったことですが、金融システム改革の中で金融関係税制がどうあるべきかということであります。特に最近いろいろ事件があったこともあり、金融システム改革として、市場の活性化のために税制がどうあるべきか。こういうことから非常に結論が先走るようなものが飛び交っているわけですが、そのような中にあって、小委員会としてなすべきことはどういうことかということを、ずっと検討してきたわけです。
今日御紹介いただいた要約だと、かなり政策的なところに要約が集中しています。あとで本文を御覧いただきたいと思うわけですが、まず、取引課税では、取引所税、有価証券取引税、永年数十年にわたって課税してきたわけですが、それなりの根拠があったのかどうかという点です。課税の根拠と言われること。これに対して取引に対して影響を与えている。一体取引に対するコストはどうなっているのであろうかということを検討してきたわけです。
さらに、国際的な観点から、いわゆるグローバル・スタンダードと言われていますが、国際的な中で証券取引に係る税制というものは、全世界的に見るとどうなっているのだろうかということを検討した結果として1つの結論が、現実の取引への影響、国際的整合性、これだけでは結論は出ないのではないかということであります。だから、これが結論だということではありませんが、国際的整合性、それから現実の取引に対する影響はどうか。これは金融論の先生が分析した結果、実証できなかったとかいう話もありましたが、そういうようなことで、結論としては、これだけでは結論を出せない。だから、判断するとなると、政策的にどういうふうに判断するのかということになるわけです。
この問題ですが、税制調査会として、おそらく片方で政策的な税制、例えば租税特別措置といったようなものについて、所得課税としてですが、政策的な税制というのは好ましくないということで一方で言ってきているわけなので、政策的に税制調査会として取引課税に取り組む場合にどうしたらいいのか。これはやはり考えなければならない点でして、緊急的にどうこうということはまた別の話ですが、税制調査会、税制を検討する会としての結論ということになると、それなりの流れというか、従来からの姿勢というか、それに対して緊急性ということだと、それに対してどういうふうな形で落ち着けるのか。その点もいわゆる税制を調査する、単なる経済政策として検討している委員会ではないということですので、税制の委員会としての立場ということを出していただきたいと思うわけです。
〇鷲尾委員
有取税のことに集中しているようですが、「金融商品に対する所得課税の在り方」というところで、要約では3ページのところに書いてますが、上のほうの、「分離課税を導入することが適当である」という本間先生の御指摘でもありますし、それは申告分離課税を基本とするというお考えだと思うのです。問題は、本間先生も御指摘のように、これまで、私も主張してまいりましたが、税調の議論は総合課税化の方向へというようなことが基本だというところの補足説明があったわけです。問題は、本文の7ページ、8ページにいろいろな御意見が書いてあって、詳しく読んでいないから、勉強しなければわからないところがあるのですが、それでは3ページの後半に書いてある「納税者番号の検討状況を見ながら」云々というのは、これは単純にはいかないと思いますが、こうした検討ができれば、現在は申告分離課税を基本とするけども、将来は総合課税ということがあり得るのかどうか、これは議論が必要と書いてあるから、それでいいのですが、かなり真剣に議論しなければいけない。
特に本文のほうを見ると、所得税の税率構造なども提起をされているし、それぞれの金融商品の持っている累進性の問題についても、本当に一本にまとめられるのかどうかという議論があるだろうと思って、単純に納税者番号──私も納税者番号は推進すること自体は積極的に賛成ですが──だけではない問題があるから、税構造全体で考えなくてはいけないということは、大変な大きな議論になるなと思っているので、その点の引き続きの真剣な議論が必要だし、私も参加したいと、こういうふうに御意見を申し上げたいと思います。
それから、今度はうんと小さい話ですが、生保・損保の保険料の控除の問題とマル優の問題、これは私は吉田委員が言われた意見に賛成でして、金融という立場だけではなくて、さっきの総合課税の問題もそうですが、やはり所得税との関わり合い方で考えるという、私もその意見なので、一言付け加えておきます。
〇加藤会長
生保の問題については、24ページにも書いてますが、単に金融だけの問題で考えているのではないのだということを、念を押しているので、その点、御了承いただきたいと思います。
〇島田委員
今回の報告は、大変御苦労なさったという皆さんと同じ感想を持つわけですが、取引課税の廃止もしくは軽減、それから申告分離の一本化、私は大変重要な指摘なので、ぜひ支持したいと思いますが、実はさっき河野委員が言われたことを、非常に重要だと思ってずっと考えていたんです。というのは、結局、これらの問題、金融課税の問題もそうですが、実は法人税の問題もそうなんです。それから、地方税の問題もそうです。実は消費税の問題もそうなんですけど、全部所得税の問題にかかってきているんです。所得税の構造をどう21世紀に向けて持っていくのかという考え方がないと、同床異夢というのか、空中分解しかねない。これは根本中の根本だと思うので、もちろん10年度改正でどうこうということをできる問題ではないのですが、常にそれを念頭に置きながら、今期の税調の3年間の仕事の中で、所得税の体系というのは見直さないといけないということを、ぜひ強く言っておきたいと思います。
いままでの所得税というのはどういうことかというと、1つは高度成長ということがあったから、できるだけそういうものの中で累進性を強めて、課税最低限を上げて、平等化を進めるという考えが1つある。それから、徴税については、源泉徴収という発想で大多数の人たちの所得税を決めてきたという考え方がありますね。いま申告分離課税ということになってくると、非常に重要な意味を持っていて、つまりマーケットに参加する個々の主体が自分で申告する、そしてマーケットの価格というものを考えながらいく。ところが、源泉というのは、マーケットはどうなっているか、要するに政府が勝手に決めてしまうわけだから、現在の源泉分離課税のレートなんていうのは、ものすごくマーケットの実態から実は離れているのではないかと思いますが、そういうことを国民は疑問を持てない。持っても議論する余地がない。そういうことでこれはやってきているわけで、所得税も同じことなんです。
だから、そういう類い、つまり2つの考え方ですが、何でもかんでも所得は平等化するという考え方と、国家が決めるのだから人々はただついていく。これまでこういう大思想で来ていたのではないですか。これからそれを変えるのかどうか。つまり自己申告というグローバルな透明なマーケットの中で、主体が自己責任でやっていくという考え方と、それに伴って、能力のある人とない人との間に差が出てくるのは当然のことですね。消費税だって逆進性があるから、もうちょっと税率が高くなれば、大問題として議論しなければいけない。
そうすると、所得税の範囲内で平等化を進めるのではなくて、最低生活を絶対に保障するという新たな弱者救済の明確なやり方です。例えば、この問題はマル優問題なんかもそうだが、マル優というのは、実はお金持ちの老人のために実質の効果があるのだろうと思うんですね。実際、本当に所得の低い老人を救うためにはどうするのかという、これは直接トランスファーしてしまったほうがいいに決まっているわけで、そういうことも所得税の考え方をもっとすっきりさせて、能力に応じた所得分布をするが、しかし、最低限のところは、別のもっと直接的なやり方で所得保障をしていくのだ、生活保障をしていくのだという考え方に我々がコンセンサスを得られるかどうか。その歴史的転換だと思うのです。私はこの1~2年の間に、その考え方をこの税調でしっかり持たないと、いま考えていることはみんなバラバラな感じになってくるので、ぜひそこのところを、10年度をやりながら、かつ、どこかの段階でしっかり考えるという提起をこの税調でしていただきたいと思います。
〇平田委員
この小委員会の御答申は御労作でありまして、大変感心して拝見させていただいています。
しかしながら、ここの文章には出てこないのですが、執行面ないしは実務面から申し上げると、株式の譲渡益課税は昔から大変な問題があって、捕捉をして課税をするというのが大変困難です。それは環境が整備をされていない。例えば法定の資料制度がない、納番制度も出来ていない、こういうことがあって、税調では昔から御審議をしているのだろうが、現実の税の世界では、これは全く非課税の聖域であったのです。税金を取られないで稼ぐには株式投資をすればいいのだという世界であった。それがまた長かったんです。だから、現在の金融資産が1,200兆円もあるというが、その中の預貯金のうち何割かは、まさに株式を売って儲けた金が蓄積をされて出来たのではないかと言ってもいいぐらいのものです。
それを今度、金融システム自体がビッグバンに移行するから、そのシステムを改革しようということで、再びこの譲渡益課税が問題になっているということだろうと思います。従来から有価証券取引税をとってきたということは、株式譲渡益を課税ができないということの代替財源ではなかったかなという気がするのです。システム自体が透明化していくとなれば、当然、有価証券の取引に対して、取得とか売却のときにとる取引税というものは、廃止をされていくべきだろうと考えます。株式譲渡益課税が聖域であった部分を、最近、源泉分離課税と申告分離の2つの方法の選択でもって、みなし差益率で税金をとるようになったことは、システムの透明化の一歩であり、取引税を廃止の方向に向けていく一助となっているはずです。
だから、私の意見としては、そこのところをもう少し工夫をして、直ちに全部申告分離ということは、まだまだ環境が整っていないのではないか。かつ、また、基本的に総合課税に移行するというところまでは、まだまだ納税者の理解を得られないという気がするわけでして、この小委員会の今日の御労作をもとにして、税制調査会でさらに理想的な税制としての総合課税までいくということを、当然視野に入れて、現段階としては、現在の源泉分離の方式をもう少し工夫をしていただいて、地方税にまで課税できるような方法をとりながら、改善をされていくのがいいのではないか。当然のことながら、システム改革が先行するとすれば、取引税は廃止ないしは軽減というふうに私は思っています。
〇加藤会長
まだ御意見があると思いますが、先ほど申し上げたように、この中間報告についての議論は、来週にまたこれを取り上げることになっています。この次の12月5日は法人課税と土地税制なので、その次にまたこの問題を取り上げます。それまでにぜひこの小委員会の報告をじっくりとお読みいただいて、そのときにまた御議論をいただきたいと思っています。
そこで、この中間報告について、総会終了後に、小委員会報告ということでもって公表することにしたいと思うので、その点御了承お願いします。
[年金課税]
年金課税等の審議に入ります。この問題は前々回の審議において、時間の都合上積み残しとなっています。本日これを取り上げて、公的年金については、平成11年に財政再計算が予定されているし、また、民間の年金保険商品も変化しつつある中で、年金等に対する税制のあり方についても、来年度以降へ審議をつなげていくということですので、これを議論として私たちも取り上げていきたいと思っています。また、今年1月に当調査会がとりまとめた「これからの税制を考える」の中においても取り上げていて、世代間の公平という問題が指摘されています。こういった点も議論の対象になるかと思っています。
では、まず総括的に事務局から説明を受けたいと思いますが、鈴木調査課長、それから武田市町村税課長、それぞれよろしくお願いします。
〇鈴木調査課長
お手許の資料を御覧いただきたいと思います。『年金課税等』(資料3)という説明資料と参考資料が冊子でございます。その前に、1枚紙を御用意させていただきました。資料の御説明をする前に当たって、年金課税等をめぐる主な論点メモというところで、その意義、視点等について簡単にまとめさせていただきました。
まず、年金課税等をめぐる主な論点ですが、御承知のように、少子・高齢化の進展という大きな問題があります。これによって勤労者世代の人口構成比が減っていくわけですが、成長率が趨勢的に鈍化する、あるいは社会保障費用が増大する、そして、現役世代の負担が非常に危惧されている、という問題が1つあります。
それから、経済社会の成熟化ということで、先ほどの金融課税小委の議論とも絡むわけですが、国民生活水準が向上していく、生活様式が多様化する、経済がストック化していく、ということです。また、雇用形態が変化する。つまり老後の所得保障について、いろいろな面で、例えば退職金の問題、年金支給の変化の問題、あるいは終身雇用の変化の問題、一時金方式か年金方式かといういろいろな問題が出てきます。
次の問題は、個人金融資産が1,200兆円ある。この運用をどういうふうにしていくのか。有利運用をしていく、さらに取引がグローバル化してくる、金融システム改革に伴って、こういったことが注目を浴びているわけです。その中で年金・保険商品も多様化してくる、あるいは年金基金の役割が増大してくる、こういうことがあります。
そして、危機的な財政状況があります。財政構造改革ということで、歳出構造、制度の見直しが図られなければならないという認識のもとでして、こうした中で、現在の内閣の6つの改革のうちの1つのテーマとして、社会保障構造改革があります。平成11年、年金制度改革ということで財政再計算、これは5年に一度やってます。平成9年1月に人口統計が新しく出ました。こういうことに基づいて考えるわけですが、将来の給付と負担をどういうふうにマッチさせて適正化していくのか。それから、現役世代の負担増との関係、もう一つは公と私との関係をどう考えるのか。つまり、いま年金が基礎年金、社会保険料で2階建ての年金、その上に基金などの3階建ての年金、そして自社年金とか個人年金がありますが、その関与の仕方、公の関与の仕方をどうしていくのかという問題が、まさにテーマとなっているわけです。こうしてみると、年金制度、公的年金、企業年金、個人年金の適切な役割分担をどういうふうに考えるのか。
それから、公的年金における財政方式ですが、積立方式から賦課方式のほうに、もうかなり移ってきているわけなので、そういったところで、どういった制度の安定的な仕組みが考えられるか。
それから、年金プランの関係で言うと、いままで非常に右肩上がりで、給付も、利回りもかなり多かったわけですが、給付型の年金がどうにもならなくなる。そうすると確定拠出型の年金をどうしていくのかということが、社会的な要請として出てくる。
それから、企業年金法の制定の動きがあります。アメリカでエリサ法というのがあります。1974年にできた法律ですが、企業年金での受給権の安定確保等々の問題、一般的な企業年金法の制定の動きをどういうふうに考えたらいいのか。そういうことがあります。
こうした環境の中で、税制としてはどういうふうに考えていくべきか。先ほど御議論があったように、所得税の問題は大きな視点の1つになろうかと思います。これは公平、特に世代間の公平の税の基本原則との関係、あるいはいろいろな商品が出てきます。中立性の観点、それから、先ほど島田委員からございましたが、税としてどういうふうに仕組んでいくか。簡素化などその他の問題があろうかと思いま す。
そういった中で、現在の課税のあり方というのは、拠出段階、運用段階、給付段階でいろいろな税の問題があるわけです。それをどう考えるか。具体的には、社会保険料控除、それから、給付を受けたときの公的年金等控除の関係。それから企業年金に係る課税においては、3階建てというか、適格退職年金とか厚生年金基金に係る課税の問題。あるいは、いままで個人が企業に非常に密着していたのが、企業を転々と移る場合に、その年金をどういうふうに持っていくかというポータビリティ、持ち運びできる年金というか、そういった問題。拠出型年金等アメリカのレギュレーションの401 条のkというプランがありますが、こういったものとのかかわりをどうするのか。
それから、年金、保険、貯蓄とのバランスですが、いろいろな商品が出てきます。それと生損保控除との先ほどの御議論もあります。
それから、確かに老年者というと、経済力はあるかもしれませんが、肉体的な面でいうとかなり弱ってくる。そういった面での配慮とか経済力といった面を、どこまで税として見たらいいのか。そういう問題があろうかと思います。
最後に、この問題は究極的には国民負担のあり方、税と社会保険料のあり方とか、所得税のあり方とか、その他税体系と結びつく問題であろうかと思います。
こういったことを頭に置いて、資料の御説明をします。『年金課税等』の説明資料をあけていただきたいと思います。
まず、1ページ目です。65歳以上の人口の対総人口比が書かれています。現在、日本は17.2%、2025年には27.4%。左のグラフを御覧いただくと、急カーブで昇っていっている。諸外国に例を見ない高齢化のスピードです。
2ページを御覧いただくと、これを世代別に、勤労者世代、65歳以上あるいは75歳以上の年齢で人口をとっています。勤労者世代も2000年前後になると、これ以降徐々に減ってまいるわけでして、一方、65歳以上はどんどん増えていくということで、2025年にはほとんどピーク状態、3,300万人という具合になってまいるし、勤労者世代と老齢人口の比率も、20年前の7.7%から2000年には3.6%、2025年には2.0%という具合で、勤労者世代が支える老齢人口というものが非常に大きくなってくるという具合です。
一方、3ページを御覧いただくと、年齢世帯別にどのくらい所得があるのか、収入があるのかといったものを調べてみました。これは厚生省の国民生活基礎調査ですが、世帯人員1人当たりの平均所得金額です。30歳代だと、世帯所得の金額が600万円ぐらいですが、1人当たりにすると200万円弱、これが徐々に50歳代に向けて上がってまいります。全世帯平均を御覧いただくと、1人当たり219.2万円とあります。それに対して高齢者世帯は、1人当たり210.8万円でほぼ同じぐらいの金額です。
これを昭和50年で全世帯平均と高齢者世帯の平均所得の具合を考えてみると、そこに平成7年の平均所得金額、全世帯平均659.6万円があります。これの約半分が高齢者世帯333.8万円ですが、昭和50年には、全世帯が264万円、この4割ぐらいの低い割合でした。これが徐々に所得が上がってきて、高齢世帯もかなり上がってきている。
この要因ですが、次のページを御覧いただくと、高齢者世帯の所得の種類別の金額が出てまいります。金額もかなり伸びてきていますが、特に大きな要因としては、公的年金の給付ウエイトが非常に高まっている。金額も上がっているという状況がおわかりいただけると思います。一番左の黒いところが公的年金・恩給の額です。ウエイトも昭和50年の3割弱から6割ぐらいになってきた。金額も膨大に増えている。それから、稼働所得、左から3番目の縦縞のところの、家賃だとか地代による所得、こういったものが入ってくるという状況です。
5ページを御覧いただくと、年齢階級別の1世帯当たりの貯蓄・負債現在高を棒グラフであらわしたものです。ゼロより上が資産、下が負債です。住宅ローンだとか土地ローンだとか、いろいろなものが負債でありますが、それから上の部分を御覧いただいてから、貯蓄-負債のところを見ると、一番右の全世帯平均が大体1,000万円弱、800万円ぐらいの純貯蓄があるわけですが、実は70歳以上の世帯を御覧いただくと、1,840万円の純貯蓄があるということで、年齢を追ってかなり多くの貯蓄がある。その大きな割合は預貯金にかかってきているわけですが、有価証券もかなり大きいウエイトを持っています。
6ページを御覧いただくと、世帯主の年齢ごとに金融資産、これを現金を除く残高の分布をとらえたものです。30歳代、40歳代、50歳代、60歳代とありますが、30歳未満だと400万円以下に集中している。平均が281万円ですが、棒グラフが徐々に一様分布に近くなってくる。そして、60歳以上になると、例えば2,000万円以上を御覧いただくと、大体半分近くの分布になってくるということで、かなりの金融資産をお持ちになっている世帯が高齢者ほど増えてくるということがおわかりいただけると思います。
それから、7ページを御覧いただくと、金融資産の年齢階層別の保有割合ですが、50歳から59歳、10歳ごとに分けてとってありますが、右の黒い部分と灰色の部分を合わせると、50歳以上の階層では、7割の金融資産を持っているということになっているわけです。
それから、8ページを御覧いただきます。モデル世帯のライフサイクルと税制のかかわりを示しています。一番下に年齢、22歳で就職、28歳で結婚、2子が生まれる、退職する、再就職する、死亡すると、こういう状況のもとで、若いうちに財形貯蓄があります。それから住宅取得等特別控除があります。それから、財形年金、個人年金の準備をします。この控除があります。それから社会保険料の控除、また事業主の負担があります。それが公的年金と、一部厚生年金等で企業年金に移る。それから退職所得というのが60歳ぐらいに生じてくる。そして、65歳以上、老年者控除、老人マル優といった経済力の弱さに配慮したものその他が出てくる。こういう具合でございます。
9ページを御覧いただくと、先ほど申し述べたように、年金がどういうふうな公と私とのかかわりを持っているかというのがこの表でして、国民年金、基礎年金ということで、一段階の年金があるわけです。大体ひと月6万5,000円程度あるわけですが、それがその上に2階建てがあります。基礎年金は3分の1ほど国庫負担が入っているわけですが、厚生年金、これは社会保険料が主なものです。そして、その上に厚生年金基金だとか、適格退職年金だとか、職域部分がある。その上に自社年金だとか個人年金、こういったものが組み合わさって、多重構造として年金制度ができているということです。
そのうち、特に3階部分のところを10ページでとりまとめています。企業年金ですが、適格退職年金、特例適格退職年金、厚生年金基金という制度があります。適格退職年金については、昭和37年にできているわけです。ただ、これは右のほうを御覧いただくと、年金設計が大分違っています。例えば給付期間であれば、適格退職年金は5年以上あるいは有期、期間を限った年金も可能であるといったような特徴があるし、平成5年にできた特例の適格退職年金、これは終身年金が原則です。厚生年金も同様です。こういった問題で積立金が一番下に書いてありますが、かなり多くの年金積立金ができ上がっており、60兆円を超えるものが運用されているということです。この課税関係があります。
それから、適格退職年金制度の概要については、11ページにありますが、省略します。
それから、退職金と年金に対する課税を企業との関係で、あるいは所得税の課税としての関係をとらえたチャートです。拠出段階、運用段階、給付段階、一番下に書いてありますが、事業主の損益計算上、福利厚生から強制の保険料ということで、厚生年金保険料が取られる。給付の段階では、年金としての給付、これは雑所得として課税されます。そして、法定外、任意の契約掛金でこういった企業年金があるわけですが、これが基金・受託機関に預けられて、そして給付されたときに、雑所得あるいは退職所得、これは退職金として一時金として給付される場合には、こういったものと分離課税で成り立っているということです。
特徴は、一番下にありますが、拠出段階で事業主の負担については損金算入されます。従業員に対する給与とされない。控除が認められる。それから、運用段階では、一部特別法人税の課税があります。運用残高の1%分があります。給付段階として、雑所得、退職所得として課税と書いてありすが、あとで見ていただくように、実質的には非課税、非常に控除が高くなっているので、ほとんどの部分が課税されていないということになっています。
13ページを御覧いただくと、公的年金等に係る課税の仕組み。年金を給付されると、それを通常であれば所得計算するわけですが、かける段階でどうするかというのが入口です。保険料をかける。それは所得控除として社会保険料控除等がありますが、生保控除で控除されるということ。そして、出口、これは給付をもらう段階ですが、ここに書いてあるように、定額控除が100万円、定率控除ということで、最低保障も140万円と非常に高い。さらに、65歳以上の本人であれば、50万円の控除ができる。そして、基礎控除その他の控除を引いて税額計算ができる。このように非常に手厚い仕組みになっているわけです。
その結果ですが、次のページ、公的年金等の受給者、夫婦世帯の課税最低限を御覧いただくと、所得税だと334万6,000円ということでして、かつ、括弧書きの70歳以上の老人控除対象配偶者であれば、348万8,000円まで課税されない。一方、一般夫婦はどうなっているかというと、所得税でいうと、209万5,000円が課税最低限ということで、非常に大きな差があるということをどういうふうに考えるのか。
それから、15ページを御覧いただくと、諸外国との比較ですが、掛金段階と給付段階でどうなっているかという表です。事業主負担については、ほとんどの国で損金算入される。
被用者の負担分はどうなるか。サラリーマンの保険料ですが、日本は社会保険料控除ということで、全額所得から控除される。アメリカは所得から全く控除しない。イギリスも全く控除しない。ドイツは一定の限度がある。フランスは日本と同じように控除がある。それから、自営業者の分もそういったことで各国違っています。
一方、もらった場合はどうなるかというと、老齢年金であれば課税される。ただ、日本の場合には、先ほど御覧いただいたように、かなり課税最低限が高い。遺族年金、障害年金は非課税、他の国は課税といったことです。
それから、16ページ、先ほど御覧いただいたように、ポータビリティとかあるいは拠出型年金で、401(k)というものがあって、公的年金と企業年金の日本とアメリカの比較をしています。拠出段階について、アメリカでは確かに401(k)プランがあって、所得控除は年間9,500ドルまで所得控除されるということですが、ただ、もらう段階でどうなるかというと、出口では課税されるといった状態。日本だと、実質的な非課税扱いになっている。こういったことをどういうふうに考えていくのかということです。
それから、17ページを御覧いただくと、冒頭申し上げたように、年金プランの関係を図示したものでして、一番左が確定給付型、つまり給付の水準がもう予め決まっている。そうすると、いまのように、例えば運用利回りが非常に低くなってくると、足りなくなった部分は、給付は一定ですので、企業が不足分を補填する。そういった問題が出てきます。確定拠出型年金の場合には、運用利回りに基づいて給付が変動する。だから、運用利回りが低い場合には給付が非常に伸びない。そういう状況も出てくる。
それから、課税関係がそこに書いてあります。民間の年金商品であれば、そういった給付が伸びない場合もあるわけで、契約でいろいろありますが、給付金から掛金を引いた金額に対して雑所得等で課税されるということになるが、左の確定給付型の現在の状況は、公的年金等控除など非常に手厚いものになっている。そうすると、確定拠出型年金を考えたときには、どういった控除の仕方があるのか。やはり民間年金商品並びということになるという考えもあるわけです。一番下にありますが、一定の給付額を保証するのが一番左、給付額は運用次第となるのが、民間もそうだし、確定拠出型もそういうふうになっている。そういった年金プランと掛金との関係の特性をどういうふうに考えながら税として仕組んでいくのか、ということがあろうかと思います。
18ページを御覧いただくと、先ほど企業年金法の関係、あるいは確定拠出型の検討状況ですが、これは規制緩和推進計画というのが政府で閣議決定しています。これで9年度かなり検討しているわけです。こういった検討の状況もあるということだし、年金制度の改正のスケジュールも11年の2月に法案提出を目指しているわけです。
19ページに各控除があります。これは省略します。
それから、次の20ページに所得税の態様別の人的控除の組み合わせの例があります。夫婦のみの場合、基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除とありますが、これが本人が老年者になると、老年者控除ができる。それから、夫人が老人控除対象配偶者になると、38万円の配偶者控除が10万円アップして48万円になる。こういう状況です。
それから、1ページとばしていただいて、退職所得の課税ですが、退職所得についても、大変課税が優遇されています。そこに計算式があります。例えば表を見ていただくと、2,000万円をもらう。そうすると、そのうち控除が、これは30年勤続の場合ですが、最初の20年間は40万円ずつ控除、それ以降は70万円で、1,500万円が控除される。その残りの半分しか課税対象にならない。そして、その金額に通常 のブラケット税率でかかるということになっています。
24ページは少額貯蓄の例が書いてあります。郵便貯金、それから少額貯蓄350万円までの元本に所得税を課さない。少額公債もそうです。財形が550万円、等々あります。
それから、25ページは生損保控除です。そういったラインで控除が認められています。
それから、26ページには租特の減収額ということで、生損保控除の減収額が3,000億円を超えている。老人マル優も1,000億円に近づいているということです。
国税からの説明は以上です。
〇武田市町村税課長
引き続き、地方税関係を御説明します。
国税と共通の部分の重複を避けて、簡潔に御説明します。
同じ資料の13ページを御覧いただきたいと思います。公的年金等に係る課税の仕組みですが、住民税においても、入口段階では、掛金に対して所得控除、社会保険料控除等があります。出口については、年金収入に対して、右の表にあるような公的年金等控除をするということです。また、65歳以上の方については、住民税の場合には48万円の老年者控除の適用があります。その他基礎控除等33万円などが所得控除される、こういう仕組みです。
次に、14ページですが、公的年金等受給者の課税最低限の試算です。夫婦世帯の場合について、65歳以上の公的年金受給者で、配偶者は老人配偶者に該当しない場合については、310万5,000円ということです。括弧内にあるように、老人配偶者に該当する場合は、317万6,000円になります。
下のほうの(参考)で、給与所得者の一般夫婦世帯の場合については、185万7,000円という課税最低限です。
続いて、19ページに個人住民税の人的控除の一覧表をつけていますが省略します。
続いて、21ページですが、態様別の人的控除の組み合わせの例です。まず例の1、夫婦のみの勤労世帯ということで、この場合には、基礎、配偶者控除、配偶者特別控除、合わせて99万円という人的控除があります。例の2で、本人が老年者に該当する場合については、上記に加えて48万円の老年者控除が適用されるということで、合計147万円。例3で本人が老年者、配偶者が老人対象配偶者の場合については、さらに老人配偶者控除が38万円になるので、計152万円という控除額になるものです。
続いて、23ページを御覧いただきたいと思います。個人住民税における退職所得の課税の仕組みです。これについては、他の所得と区分をして分離課税をしています。計算式としてそこに書いてある方程式で計算をします。例にあるように、勤続30年で退職一時金が2,000万円というふうな場合については、退職控除をして、計算式を適用すると、最終的に個人住民税額は13万5,000円ということになっています。
次に、24ページですが、老人等の少額預金の利子の非課税等です。(イ)から(ホ)までありますが、所得税と同様、住民税においても非課税扱いということになっています。
続いて、次の25ページで、生保控除・損保控除制度です。金額的には、下のほうの(注)で、例えば生保控除については、住民税は3万5,000円まで、損害保険料控除についても、長期契約が1万円までなど、所得税と金額は異なっていますが、同様の仕組みをとっております。
最後に、27ページで、減収額の数字を御覧いただきたいと思いますが、平成9年度ベースで、個人住民税における主な減収額として、生命保険料控除、損害保険料控除を合わせて、1,210億円の減収を見込んでいます。さらに、老人マル優等として、300億円の減収があるということです。
〇加藤会長
あまり残り時間がありませんが、皆さま方、御意見、御質問がありましたら、どうぞお願いします。
〇島田委員
今日までの公的年金制度で問題になっている最大の問題は、私は2つあると思っているのですが、1つは世代内の不公平、もう一つは世代間の不公平。世代内の不公平は、1つの例で申しわけないのですが、1,200万人の3号年金者とそれ以外の人との不公平というような象徴的なものすごい不公平があります。それから、世代間は、世代によって年金の拠出率が将来ものすごく増えていくということが想定されているから、大変な不公平がある。
この問題について、再来年の年金財政再計算をめどにして、現在相当な改革をしようということが水面下で考慮中だろうと思うのですが、この年金課税の問題は、私は、今日るる御説明いただいたように、勤労者世代と年金受給世代との間に、いろいろな意味で、誰が見ても、ちょっと年金受給世代に甘いのではないかなという、過去の社会に対する貢献は別として、現在甘いのではないかなというような感じが否めないから、それについて年金課税していくということ、そういう議論を出そうではないかということはよくわかるのですが、再来年に行われると考えられている改革がどんなものになるのか。
1つは世代間の不公平を減らしていくために、長期的に年金の受給額を大幅に削っていこうという考え方があるのだろうと思うのですが、そういうことがあるとすると、この年金課税との関係というのは、それはそれとして根本的な改革があって、ただそれに対して薄くかけるのだからいいではないか、そういう議論とは直結しないのだ、どういう年金構造改革になろうとも、ある程度の負担はしていただくのだと、こういうふうに割り切って進めていいのか。それとも、そういう根本の土台のところが変わると、この年金課税の考え方も改めて議論するという種類のものになるのか。この辺をちょっと教えていただけるとありがたい。
〇鈴木調査課長
財政再計算時を目指して、さきほども出ていましたが、11年2月ぐらいに法案を作成するということを目指してやっているわけですが、来年の夏場から暮れにかけて、かなり大変な議論になってくるのではないかと思います。その前に、おそらくですが、近いうちかもしれませんが、これは社会保険の厚生省関係でやっているので、そちらのほうでいろいろな案を、どのくらいの案があり得るのかというのを、あるいは検討がどういうふうになっていくのかというのが、そちらのほうでディスクローズされてくる可能性があると思います。検討状況がどうなってくるかと。
いま御説明したように、基本的にはやはり将来の給付と負担をどういうふうにしていくのかということで、いま御議論があった現役世代の負担と将来世代の関係をどうするのか。この制度をどういうふうに合理化・効率化していくのかという点が一番大きい問題だと思うし、財政構造改革法でも、例えば一定所得以上の方について、どのくらいの年金支給であるべきかということについて検討を加え措置すると、実際に条文として書いてあります。
それから、もう一つ一番大きいのは、いま行革も推進しているわけなので、公の観点をどこまで入れていくのか。自助努力だとか、民間活力だとか、そういったところをどの程度この制度の中に入れていくかという問題で、いろいろな検討状況が進んでいるので、いま検討している状況だということだと思います。ですから、それが明らかになってくる、あるいは検討が進んでくる中で、税としてもそういった枠組みの中でどういうふうに考えていくのかというのは、やはり大きな検討課題ではなかろうかと思っています。
〇堺屋委員
年金の問題はいろいろ複雑な問題があるので、税制にいろいろなことを絡めて議論しないほうがいいと思うのです。私は、年金問題の基本は、ここにある説明があって、高齢者は必ずしも貧困者でないという前提で議論する必要があります。まず、かわいそう税制というのをなるべくやめたほうがいいと思うのです。したがって、年金の所得も給与の所得も控除額は原則一緒というのが当然でして、給与所得よりも特に年金所得のほうが非課税額を引き上げなければいけないということはないと思うのです。あるとすれば、障害者、高齢者について特別の、これは他の所得についてもどんな所得からでも控除するということは考えられますが、年金だから特別に扱うという現在の制度は、いかがなものかという気がします。
同様に退職金ですが、これも工業社会の中で、できるだけ同じ会社に勤めたほうが有利だという、長期勤続奨励税制という要素があります。したがって、これももう少し縮めていって、20年間、40万円控除というのを減らす方向に持っていってもいいのではないかと思います。
3番目に、少額貯金と生命保険ですが、生命保険はもう90何%の人が適用されているので、一般減税に加えるべきであって、できるだけ少額貯金の特例、保険の控除というのは、やめたほうがいいのではないかという気がします。
〇諸井委員
この社会保障というのは、先進民主主義国の一番大きな頭の痛い問題だと思うのです。民主主義国である以上は、社会保障をちゃんとやらないと、政府がもたないという面がある。しかし、社会保障というのは、どうしてもだんだん手厚くなっていって、そのこと自体が今度は国の経済全体を非常に弱くしてしまうというような面、非常に難しい問題だと思うのです。
それで、いまのようなやり方というのは、結局、どの国も続けていけないのではないか。社会保障改革というのは、まず本当に困っている人かどうかを見分けて、本当に困っている人には、必要かつ十分なものをあげる。逆に困っていない、要するに、十分な所得のある人にはあげないというのが、まず第一の原則だろうと思うのです。そういう視点からすると、所得の十分にある人は、むしろ年金をもらわないという制度を考えていかなければいけないと思います。制度自体を変えていくのは、なかなか簡単ではないですが、そういう考え方からすれば、いま堺屋さんがおっしゃったように、年金の控除というのは、これはもうイーブンであるべきで、いまのお話もあったように、いろいろなことを税制で面倒見るというのは間違いで、税制そのものはなるべく単純明快、一本でいく。そして公平でいく。これはまた徴税の効率化にもつながってくる話なので、ぜひそういう方向でいってもらいたい。困っている人を救うほうは、社会保障のほうで、その場合も本当に困っている人を見分けてやるということを、きちっとやっていかなければいけないということを考えています。
〇幸田特別委員
2025年には働く世代2人で65歳以上の人を1人養うという時代が来るわけだから、年金課税の問題はそろそろ本格的に議論をすべきではないかと思うのです。
ただ、先ほど来お話があるように、公的年金の改正が来年の夏ないしは秋頃には、大体の姿が見えてくると思うので、その頃をめどに、あるいは全体の姿が明らかになった段階で、この問題はいろいろ議論していただいたらいいと思います。入口の保険料と年金の出口と両方で非課税、出口で実質的な非課税になっているから、こういう制度がいいかどうかという基本的な問題も含めて議論をしていただくべきだと私は思いますが、ただ、おそらく実質的な課税最低限を、年金受給世代と勤労世代を合わせると、3,000億円か4,000億円かわかりませんが、数千億の実質的な増税に老齢世代はなるのではないかなと思うから、その取扱いは相当慎重な取扱いが必要ではないかと思います。
特に、いままで御発言がありましたが、同じ老齢世代を一括して平均的な姿でとらえるということは正しくないので、平均所得が勤労世帯と同じだとか、あるいは金融資産をたくさん持っているとか、今日そういう資料を拝見させていただきましたが、これは非常に所得格差なり分布が偏っているのではないかなと私は思います。これも資料がいずれあると思うから、そういった本当に困っている人にどうするのかということで、そういった点は十分わかるような認識をした上で、この問題を議論することは一つ必要ではないかなと思います。
もう一つは、老齢世代になると、体も弱ってまいるし、心身ともに弱ってまいるから、そういう面での負担というのが、普通の若い世代とは違うという、おそらく健康保険の患者負担もこれからますます増えてくる一方だと思うし、健康保険外の負担もかなり増えてくると思うから、そういう面も少し考慮してこの問題は考えなければいけない。単に勤労世帯との比較だけということは、ちょっとどうかなという感じがします。
それと、先ほど来お話のある世代間の公平というのも、年金だけの世代間の公平というのは、私は適当ではないのではないか。いまの若い世代というのは、教育費の負担を親から相当受けているわけだし、また親からの遺産の相続という資産の問題もあるから、世代間の公平というのも年金だけで考えるかどうかという、これは非常に議論があるところだと思います。学者の先生方でもいろいろあるようだから、この面も少し慎重に、世代間の公平はどういうものかということは、いろいろ説く人によって違うと思うから、考えていかなければいけないと思います。
それと、高額所得者の年金の問題ですが、実は日本の年金制度は、保険料を払って年金をもらうという仕組みになっているから、保険料を払ったが、おまえは高額所得者だから年金は出せないよということは、年金制度自体を否定することになるのではないか。だから、この問題はむしろやはり税のほうで、高額所得者についての、あるいは年金についての課税をどう特別に扱っていくかということで解決をしないといけない問題ではないか。これは年金だけではなくて、老人医療についても同じような問題がありますが、そういう考え方を持っています。
〇松永特別委員
年金に関して一番問題なのは、国民の人たちが不信感を持ち続けているということだと思います。先日も新聞に、18歳未満の方は払った分が戻ってこないと。そうなると、誰もまた払いたくなくなる。やはりここが大変大きな問題だと思います。今日の御説明を受けて、こんなに世代間格差があったのかということがよくわかりました。ぜひ制度の合理化を追求していき、年金に対する信頼感を高めるという、ここをもう一度本当に練り直す必要があると思っています。
〇鷲尾委員
私の立場というか、私は税調に出てあまり立場で意見を言うつもりはないのですが、立場から言うと、いままでせっかく積み上げてきた社会保障制度であるし、あるいは税法でもあるわけだから、単純に言えば、組織内で議論するのは絶対反対と、こういう話になるわけです。まずそれは言っておきます。
ただ、そうは言っても、我々勤労者というか組合員の中でも、公平というのは何かという議論が始まっているから、これは、今日もう幾つか出ていたように、公平という概念でもすいぶん意見が違うと思いますね。したがって、それは真剣に議論しなければいけないと同時に、税か社会保障制度かということについては、これからは行革で審議会についてもいろいろな統合が図られるわけだから、やはり年金審議会等々の議論は十分詰めるということは意を尽くしていただきたいと、こういうふうにいま考えています。
そうした意味で議論には参加させてもらいたいと思うのですが、問題は年金制度の場合は常に、例えば厚生年金の再計算の問題でも、ソフトランディングがあって、何年からということになるのですが、税の問題は待ったなしですね。例えば退職金の例を1つとっても、税制が変わると、いままでずっとその期待値でもって30年勤めた人が、税制では待ったなしで取られる。こういうことは、税法上はしようがないのですが、これはソフトランディングを設けないと、とてもじゃないが、現役世代と老齢世代の間の不公平性といっても、その人たちが怒ると、こういう制度はつぶれてしまうので、その点は十分考えた公平性というものを覚悟しなければいけない。こういうふうに思います。
〇今井委員
年金の問題、それから、それにかかわる税金の問題、これを包括的に討議するというのは賛成なのですが、どうも前々から申し上げている税制適格年金の特別法人税の見直しが先送りされそうな文章になっているので、その点は、ひとつぜひ平成10年度の税制改正でお取り上げいただきたい。これは経済団体全部、それから鷲尾さんも一緒になって、大蔵大臣宛てに要望書を提出しているので、ぜひここで取り上げていただきたい。内容については、いままで何回も申し上げているので、省略します。
〇佐野特別委員
資料についてちょっと感想を述べさせてもらいたいのですが、年金あるいは年金課税の話になると、すぐこういう資料が出てくるわけですが、先ほど何人かの委員の方も言われていましたが、高齢者というのは、非常に格差、個人差が大きいということは、わきまえなければいけないのではないか。つまり、こういう平均的な資料でそれがすべてだということには必ずしもならない。資産が幾らある、貯金が幾らあるといっても、個人個人によって、例えば配偶者が病身であるとか、個人の事情によってかなりお金の価値というのは違ってくるというのが第1点。
それから、これは資料そのものではなくて見方の問題にもなると思うのですが、先ほどから課税最低限の現役世代との違いというようなことが話題になっています。例えば65歳以上348万8,000円という表を拝見しても、あくまでも配偶者がいるという前提であって、高齢者の場合はかなり独り暮らしが、特に女性の場合はそういうケースが多いので、そういうのを除くと、この344万円ではない、200数十万円、月20万円ぐらいですか、そのくらいはやはりまだ非課税にするのかなという考え方もできる。だから、資料の見方というのを気をつけなければいけないと思います。
もう一つ、先ほどの年金と税制との関係なのですが、もっと広げて社会保障全体、特に医療とか介護という問題が出てきて、特に自己負担、あるいは介護だと新たな保険料プラスまた自己負担ということで、高齢者もそれなりにお金のかかる、あるいは蓄えをしなければいけない時代になってきたのかなという気がします。これも配慮しなければいけない。
もう一つ、消費税というのが導入されているわけで、この点の負担面で見ると、高齢者も相応の負担はしているのではないかという考え方も必要だと思います。つまり幅広く考えていかないと、この年金課税の問題はなかなか明確な答えが出ないというのが私の感想です。
〇竹内委員
3点だけ、この年金課税について伺っていた感想を申し上げたい。1つは、日本のいま資産のストックの状況を続けていくと、これからの日本経済の消費の構造とのギャップが大きくなるのではないか。つまり、60代、70代の消費ニーズは小さいが、勤労世代の30代、40代が一番消費ニーズが高い。そこにストックが少なくて、公的負担が高い。そして、高齢者になって資本ストックがだんだんできていく。この形を続けていくと、日本のこれからの経済の消費構造のバランスに非常にネガティブな影響があるというのが1つ。
2つ目は、どうしてそういうことが必要だったのかと考えると、やはりいままでの社会保障が、社会資本や企業の設備ストックの増強と関連があったのではないか。例えば厚生年金の負担率も、一部社会資本とか財投の関係とのバランスでやや高くなっているし、引当金なども、資産だが、その中を見ると機械設備になったりと、実際は資本形成に役立つ形になっている。これが、本当に勤労者のためなのか、やや疑問な点があり、こういった給与後払いを促進する税制が過度にインセンティブを与えているというのは、やはり問題が大きいと思います。
最後に、社会保険がこれから保険料が高くなっていくと、当然控除額が大きくなるので税収が減っていく。それに応じて予算規模が変わればいいのですが、現状どおりでいくと、やはり非常に大きな財源の制約になる可能性があるので、これは非常にタイムリーなテーマだと思う。
〇加藤会長
いま御議論をいろいろいただいたように、この問題は議論すると非常に多くの問題が出てまいります。そんなわけで、これは来年度にかけて、さらに審議を詰めていきたいと思っています。
次回の総会は12月5日・金曜日、今週の金曜日でございますね。またこれも午前10時からでございます。法人課税の問題と土地税制について御議論をいただこうと思っています。さらに、来週は12月9日・火曜日、午後2時から、12月12日の金曜日の午後2時からということで、今日の金融課税小委員会の問題なども含めて議論が展開されるので、また来週よろしくお願いしたいと思っています。
〇諸井委員
そこで結論を出してしまうのですか。
〇加藤会長
ええ、もうそろそろ出さなければなりませんね。議論は続きますが。あまり早く答えを出すと、わっといろいろな問題が起こるので、様子を見ながら、若干調整しながらやっていくので、もう出てもいいではないかと思っても、なかなか出ないということがあるかもしれません。
いまお手許にお配りしているのは、総務課長から説明がありますが、法人課税の関係資料でして、議論は今度の5日の日にやることになります。
〇森信総務課長
ただいまお配りした資料(資料4)、これは法人税の関係の資料でして、1ページ目に法人税の税率を1%引き下げる場合の減収額という仮定試算が書いてます。それから2ページ目に、課税ベースの各項目ごとに適正化を行う場合の増減収額というものをとりまとめたものです。
この資料の内容については、次回、12月5日ですが、事務局から改めて御説明させていただきまして、その場でまた御議論をいただくというふうに考えているので、よろしくお願いします。
〇湊税務局長
地方法人課税関係についても資料(資料5)をつけていますが、これはいまの御説明があった法人税の課税ベースの見直しに関連して、法人事業税の対応についてのことを触れており、1、2と書いていますが、これはお読みいただければ、すべておわかりいただける内容になっておろうかと思います。あわせて御論議をちょうだいします。
〇加藤会長
それでは、この次にこのことについての議論をいただきたいと思うので、今日はこれで終わります。大変ありがとうございました。
〔閉会〕