金融小委員会(第8回)後の奥野小委員長記者会見の模様

日時:平成16年5月11日(火)16:14~16:29

奥野小委員長

本日の小委員会ですが、これまでの会合における議論を踏まえて、小委員会としての意見集約に向けて自由討議を行いました。これまでに出された主な意見をテーマごとに羅列した、「これまでに出された主な意見」という資料を配付しておりますので、適宜ご参照下さい。

主な議論ですけれども、総論のところで、金融所得課税の一体化を進めるに当たっては、「貯蓄から投資へ」という政策要請を踏まえて、一般投資家が投資しやすい税制を作るということが重要である、ということで税制の中立性、簡素性に加えて、「貯蓄から投資へ」、あるいは「一般投資家の利便性」というのがキーワードになろうかと思います。また、これまで金融所得課税の一体化というと損益通算の範囲が注目されがちでしたけれども、金融商品間の中立性、税制の簡素性という観点からは、むしろ課税方式を金融商品間でそろえていくということが重要ではないかと思います。逆に言うと、損益通算の前提としては課税方式、とりわけ税率を金融商品間でそろえていないと損益通算はできないということでもあります。こういう金融所得の課税方式の統一ということは、この後に出てくる配当所得、公社債の譲渡益、外貨預金、保険商品などにも関係することでございます。

次に課税方式ですけれども、配当所得につきましては、分離課税にすることが適当であろうと。ただし、大口などの事業参加性のあるものは総合課税としておくべきではないかという意見が中心であったと思います。また、公社債の譲渡益ですけれども、課税するとともに譲渡損失も税制上の損失として認識すべきであるという意見が大多数だったかと思います。その他ですが、保険商品等についても、貯蓄商品なり投資商品として一般に販売されているものがあれば金融所得として課税すべきではないかという意見、それから、外貨預金の為替差益なども金融所得として課税すべきではないかという議論であったかと思います。

損益通算等ですが、損益通算は長い期間をかけて発生したものが譲渡という行為とともに一度に実現してしまうといいますか、実現することができる、投資家の判断で一度に実現できる譲渡損益と、毎年毎年発生して実現する利子・配当があって、したがって、それを実現するタイミングに関して投資家が恣意性を発揮できないという経常所得の性格の違いは無視できないと。とりわけ租税回避行為という視点から、この性格の違いは無視できないという意見は多分、小委員会全体で共有している問題意識だと思います。とはいえ、「貯蓄から投資へ」という要請、あるいは「一般投資家の利便性」といった、冒頭申し上げたキーワードに照らして言えば、株式の譲渡損失とほかの所得、とりわけ一部の経常所得との損益通算を一定の制限のもとで認める必要があるという意見もかなりございました。その範囲の考え方として、公社債の譲渡益を課税する場合には、公社債の譲渡損益と株式の譲渡損益との損益通算を認めてもよいのではないかという考え方があります。今のは譲渡損と譲渡損ですが、譲渡損と経常所得との間の損益通算については、配当は株式から生じる、配当は経常所得ですが、配当は株式から生ずる所得であって、株式譲渡所得との関連性が強い。しかし、利子所得となると関連性がかなり薄れるのではないかという考え方もあります。また、預金利子を対象にする場合には種々の事務負担も考慮しないといけないのではないかという意見もあります。しかし、金融所得の一体化、とりわけ損益通算ということを考える場合には、一般投資家の大部分の資産保有形態として持っている貯蓄の利子と損益通算を考えないのはまずいのではないかという意見も非常に強くございました。

率直に言いまして、今日の委員会では、この利子所得とそれ以外の株、公社債というあたりの譲渡益等の損益通算を認めるべきか、認めるべきではないかということに関してかなり立ち入った議論をしましたけれども、まだ今の段階では両論が対立しているという状況かと思います。

資産滅失ですけれども、それが次の論点ですけれども、一つはペイオフという預金という資産が滅失した場合ということですが、そういうペイオフ損失を手当てすることについては、「貯蓄から投資へ」という政策要請にそぐわないこと、そもそも元本 1,000万円までは保護される、しかもそれがあらかじめわかっているということ、全額保護の決済性預金も存在すること等を考えれば、手当する必要はないのではないかという意見が強かったのではないかと思います。株式の無価値化損失についても、非上場株式は別として、上場株式の場合には譲渡損と同様の扱いが望ましいのではないかという意見がありましたけれども、監理ポスト制度等があるので売却できるチャンスがあって必要ないという意見もあります。今後引き続き検討していくことになろうかと思います。

納税環境整備が最後の論点ですが、一般投資家の利便性を第一に考えると、損益通算というメリットを受けたい人だけが選択制で利用する番号を考えれば、それでいいのではないか。その場合、住基番号や年金番号のような全国一連の番号である必要はなく、新たな番号でいいのではないかという意見が多数であったと思います。いずれにせよ、投資家利便を第一とした損益通算のための番号ということで、柔軟で幅広い納税者番号制度とは異なるものだということを皆さんに理解していただきたいと思います。

以上ですが、次回は、間に基礎小委も入りますので、6月1日(火)を予定しております。引き続き取りまとめに向け議論していく予定でございます。

以上です。

記者

今度は、もう6月1日まで…。

奥野小委員長

ええ、6月1日まで開催しないという予定です。

記者

その後はどういうスケジュールでしょうか。

奥野小委員長

6月1日に論点整理をして、その後…。

事務局

毎週ペースぐらいで、6月の中旬にはアウトプットを出していただければと、こう思っております。

記者

特に今日、例えば利子の損益通算のところなんかは、そうすると次回にもう少し改めてということになりますか。

奥野小委員長

そうですね。一つの考えとしては、今は利子率が非常に低いんですけれども、これから利子率が上がってきたときに、利子所得というのはかなり大きなものになるでしょうし、一般投資家が持っている金融資産の一番大きなものは預金ですから、金融所得ということを考えたときに、預金の利子を考えなくていいのか、特に損益通算しなくていいのか、むしろ株式の譲渡益と公社債の譲渡益と利子と、この三つはやっぱり、それこそ三兄弟みたいなものじゃないのというような意見が一方では出たとともに、まあやはり、課税ベースが余りにも浸食されるとか、さっきの租税回避行為の問題とか、金融機関側の負担の問題とか、いろいろなことをまだきちんと考えなくちゃいけないだろうということで、ちょっとまだ、あるいはひょっとしたら最後まで、ここは議論としてまとめきれない可能性もゼロではないかもしれません。できるだけきちんとした方向性があるような報告をしたいと思っておりますけれども。

記者

委員会の中でも意見の割合というのが、ほんと半々ぐらいとか、そういう感じなんでしょうか。

奥野小委員長

むしろですね、例えば、金融機関のコストというのは一つの大きな論点だと思うんですけど、どのぐらいのコストかが分からないと、それがやはり分からなきゃ結論を出せないんじゃないですかというような議論もあるわけですね。ですから、半々というよりも、要するにもう少し考えてみないとよく分からないし、その上で最終的にどっちになるかということが、半々が3分の2対3分の1なのかということがみえてくると。今の段階ではまだ、その半々かどうかというところまでさえいってないという状況かと思います。ただ、かなり熱い議論はありましたから、そういう意味ではきちんと議論はしているということだと思いますけれども。

記者

今の金融機関の問題というところですけれども、コストの話ですが、それは次回までか、その後、週ごとになるのか分からないですけれども、そのあたりまでにある程度出てくることは、なかなか考えにくいんですけれども。

奥野小委員長

金融機関のコストに関してはまだ出ないと思います。ただ、要するにその問題がどういう問題があるのかということが、今日かなり、少しずつ明確になってきてですね、それをもとにして次回、もうちょっときちんと議論しましょうということだろうと思います。で、その間、金融機関等に、まあコネクションといいますか、ある委員に関しては、まあそれなりに情報を集めてくる可能性はあると思います。その結果、しかし、クリアな、なにか数値が出るとは今の段階では思いませんけれども。

記者

課税方式なんですが、基本的には一体化するものは分離課税にするという方向でしょうか。

奥野小委員長

課税方式には二つあって、一つは税率の問題と、もう一つが申告ないしは源泉という納税方式ですよね。それで、私、先程申し上げたのは税率に関してということですね。ですから、税率は一致しないとまずいでしょう、と。ただ、損益通算の対象とするものに関しては、それを損益通算したときに、いわば損と益をあわせて、いわば税制上のメリットを申告する人に与えるわけですから、その納税、申告の正しさということをきちんと分からなくてはいけないし、しかも、そのときに源泉徴収したものを払い戻すというわけですから、要するに一遍源泉徴収しておいても、ある意味では申告にもう一遍戻さざるを得ないわけですね。ですから、そこの仕組みをどうするかというところはちょっとまだ細かい、多分…どう言ったらいいんでしょう、課税方式に関してきちんと設計をしなくてはいけない。で、そこまではまだ立ち入った議論はしていませんし、多分6月中には、そこまでは立ち入れないだろうと思います。ただ、できないものまでやるつもりはないので、できるだろうという見込みがあればやるということなんですけれども。

記者

預貯金の利子を分離というのはちょっと考えにくいんですけれども…。

奥野小委員長

源泉にしておいて、しかし、いくら税金を取られたかというのは投資家は分かるわけですね。それを申告させて、その申告が正しいということを課税庁側がチェックする仕組みさえあればいいので、そこをどう作るかということが、これはまあある意味で制度設計の問題なので、それはできるでしょうという見込みだと思います。

繰り返しになりますけれども、要するに、例えば一つの金融商品は20%の税率で、別のものは10%なのに、その両方を損益通算するというのはいろいろ問題を引き起こすので、それは無理でしょうと。ですから、税率に関しては多分一定にしておく必要があると思います。

記者

資産滅失の株のところなんですけれども、前回の議論と、今のご説明だとあまり変わっていないのかなという印象を受けたんですが、今日の議論で、ある程度進んだ部分とか具体化した部分というのはあるんでしょうか。

奥野小委員長

そんなに具体化はしていないと思いますね。今日やった議論は、一番大きいのは、さっき申しましたように、やはり大物は株の譲渡益・配当と、それからもう一つは公社債と、やっぱり利子でしょうと。この三つをどうするかというのをまず第一に議論すべきでしょうということですよね。そのうえで資産滅失というのは、そういう意味で言うと、ややマイナーなという言い方は極端かもしれませんけれども、もう少しテクニカルな話になるので、まあ例えばですけれども、ペイオフの資産滅失のようなものを認めておいて、利子の損益通算を認めないなんていうような話はあわないので、まずそっちを決めてからという話になると思いますけれども。

記者

今のお話、ペイオフに関しては認められないけど…。

奥野小委員長

そうですね。ペイオフは、別に今のなかであれしたんじゃなくて、ペイオフだって認めるべきではないかと言った人もいましたけれども、ただ、多数意見としてはペイオフはいいんじゃないのという意見だったように思いますけどもね。

記者

株のところだけがまだわからないと。

奥野小委員長

ですから、まあペイオフに比べれば株のほうがまだ意味がありますよねって、それで株については、まあ逆に言うと、どう言ったらいいんですかね、売りそびれる人がたくさんいるんだから、つまり、破産してしまったのに気がつかないで売りそびれてしまうという人もいるんだから、救うべきではないのという意見も結構ありました。まあそうですね、ですからやはり株に関しては、どちらかというと認めるという意見、認めろという意見のほうが相対的には強かったというふうに言ってもいいかもしれません。

(以上)

金融小委員会