金融小委員会(第7回)後の奥野小委員長記者会見の模様
日時:平成16年4月20日(火)16:24~16:36
〇奥野小委員長
金融小委員会の報告ですが、本日は前半と後半とで大きく二つのテーマに分けて議論を行いました。前半では、これまでの議論で取り残されてきた論点として、資産滅失の取扱いと外貨建て金融商品や保険商品などの金融商品について、事務局からの説明の後、議論を行いました。
まず資産滅失の取扱いですが、具体的には、株式を発行している会社が倒産して、その株式が無価値になってしまった、紙くずになってしまったというようなケースを念頭においております。所得税の基本的な考え方は、その年に稼いだ所得を課税対象とするというものですが、その稼いだ所得を物の購入に回すか、貯蓄に回すか、あるいは株の購入に回すかというのは、所得の処分であるということになります。したがって、所得の処分によって購入した物や株式が滅失してしまっても、それは所得を計算する際に考慮するべきものではないというのが所得税の考え方の原則になります。この考え方の原則自体は諸外国においても同様であります。他方、小委員会では貯蓄から投資へという政策的な要請も踏まえて、リスク資産への投資から生じた損失を政府もシェアすべきであるという議論をしてきたわけですので、株式が紙くずになった損失を税制上手当てするかどうかということが論点となるわけです。
小委員会の議論の概要ですけれども、一つの意見としては、上場株式の場合には紙くずになる前に市場で売却出来るチャンスがあるのだから、あえて特例的に認める必要があるのかという見方、つまり市場で売却出来れば、事実上倒産してもそれを売却するわけですから譲渡損になると。そうすると譲渡損として扱えるので、滅失という、いわば売らないでそのまま持っていて無価値化してしまうという滅失まで待たなくも、投資家は対処出来るはずだと。だから特例的に認める必要はないという見方も示される一方で、他方、第2番目の意見としては、紙くず損失も譲渡損失と同様、株式投資から生じた損失であり、諸外国での取扱い等も参考としつつ、株式譲渡損失と同様の取扱いをすべきではないかという意見も出されました。3番目に、また仮に株式譲渡損失と同様の手当てをするとしても、譲渡という行為がなく、しかも調書が出るというわけでもないので、適正な課税を確保する、まあ課税の執行の問題ですね。執行が非常に困難であるかもしれない。そういう意味では適正な課税を確保するために何らかの仕組みが別個必要ではないかという意見もありました。
この関連で、実は銀行預金等のペイオフ、これもある意味で滅失でございますので、これについても若干議論がありました。ペイオフ損失については、元本 1,000万円までは預金保険で保護されており預金分散での対応が可能なこと、株式とは異なって、リスク資産への投資の損失ではなく、貯蓄から投資へという政策目的にもそぐわないことなどから、原則として手当ての必要はないのではないかという意見がありました。他方、ペイオフ損失についても金融所得の範囲内で何らかの手当てをすべきではないかという意見もありました。
それから滅失と並んでもう一つ、説明を受けましたのはその他の金融商品ですが、外貨商品、保険商品等については、現在、雑所得あるいは一時所得として総合課税とされている所得もあります。あるいは先物商品ということについても事務局から説明を受けました。ただ、それに対して特段の意見は、委員からは出ませんでした。
それが前半ですが、後半のセッションでは、これまでの個別論点の積み重ねを踏まえて、金融資産性所得課税の一体化の所得税制上の位置付けについて、税法の立場から水野委員に説明をいただきました。内容として3点ほどですが、1点が、今後二元的所得税を目指すのかという点については、やはり所得税制全体のあり方としてさらに議論を尽くす必要があるのではないかということ。2番目に、そのなかで金融資産性所得課税については、貯蓄から投資への政策要請も踏まえて、一般の投資家が投資しやすい環境を作るという観点から、中立的で簡素な税制を構築するというのが一体化の位置付けとなるのではないかという点。3番目に、一体化の範囲については、譲渡損益と経常的な所得との性格の違いや、適正な執行の確保という点を踏まえつつ考えていくべきではないかという点がありました。これに対しても、特段大きな議論はなかったように思います。それについては後で質問等にお答えします。
いずれにしても、本日の議論で金融資産性所得課税の一体化に関する基本的な論点についてはひと通りカバーしてきたというふうに考えておりますので、今後は、これまでの議論を踏まえつつ、考え方の取りまとめの作業に入っていきたいというふうに考えております。
次回の日程は5月11日(火)午後の開催を予定しております。
以上です。
〇記者
今のご説明で、滅失資産の取扱い等の説明があったんですが、結論的なものは何かなかったんでしょうか。
〇奥野小委員長
結論は特に、今の段階ではないですね。まあ出来るだけ広くとるべきだという考え方の方と、特に執行の問題とかいろいろなことを考えてそこまでしなくてもいいというご意見の方と、両方あったように思います。
〇記者
そうしますと、最終的に意見を取りまとめるまでに何らかの結論的なものを皆さんで、あるいは今後の意見を例えば両論併記のような形でいくのか、どういう見通しになるんでしょうか。
〇奥野小委員長
まあ意見的にいろいろな周囲の状況とか、いろいろなことを考えながら取りまとめるのだと思いますが、私個人としては、出来るだけきちんとしたといいますか、それなりにメッセージがきちんと伝わるような取りまとめをしたいとは思っています。ただ、もちろん関係者もたくさんいるので、今の段階で断言は出来ませんが。
〇記者
一応確認なんですけれども、前半の部分のお話というのは、損益通算を認めるかどうかという議論で、前回、納番の話…、番号を選んだ人に認める範囲を定めるという議論なのか、それとも別の議論とかという点はどうでしょうか。
〇奥野小委員長
まず第一に、滅失の話というのはですね、これは損失に対して税の取扱いをして税で穴埋めするかということですから、これは当然、税で対応するという以上は、これは損益通算で対応するということになるんだろうと思います。損益通算ないしは、取扱いによっては譲渡損に対して譲渡益と通算するという、それは損益通算と…正式には損益通算ではないと思いますけれども、言葉の定義上は。まあいずれにしても、何らかの形で通算するということを認めますかというのが、滅失を認めますか、認めませんかということの意味だと思います。
それに番号がどれだけ絡むかということですが、これは、番号がなくては絶対に通算が出来ないという話ではないと思いますから、基本的には番号とは独立した議論だというふうに、個人的には思います。ただ、この種の議論はかなり執行上非常に難しいという問題があってですね、例えば株式であれば、その申告をした人がそもそもその株式を本当に持っていたのか、とかそういうことをきちんと確認する作業が非常につきまといますから、そういう意味では執行のやりやすさということを考えると、番号があったほうが多分執行はしやすい。ですから、損益通算ないしは滅失とかいうものを認めるか認めないかというときには、番号が入れられるのか入れられないのかということも、まあ考量の要素の一つにはなると思います。ただ、それは必要条件ではないというふうに、個人的には思います。
〇記者
後半の水野先生の意見というのは、どういう位置付けになるんですか、取りまとめとしていうと…。
〇奥野小委員長
一つは、金融一体化課税というときに包括所得とか総合課税という考え方、あるいは二元的所得という考え方、まあいろんな理論的な考え方があるわけですが、一言で言ってしまうと、そういう理論的な問題等にそれほどこだわらなくても…といいますか、事実上包括課税の一種として金融一体化課税みたいなものも考えられるだろうし、二元的課税に今の段階でそれほどこだわる必要もないだろうというのが1点ですね。それからもう1点は、これは小委員会の結論ではないんですけれども、水野先生のご意見として、所得区分というのが今たくさんあるわけですが、それを金融所得という新たな所得区分を作る必要があるかどうかということに関して、特にそれをするのも難しいし、現行の所得区分のままでもいいのではないかと。そのな中で金融所得というものをまとめていったらいいのではないかという話がありました。まあそういう方向だろうね、と。3番目にあるとしたら、一体化課税をするために何が問題でしょうねと。そこで、執行の問題とか課税方式の問題とか、そういう問題がかなりカギでしょうねと。これも、皆さん意見はありましたけども、一応皆さんそうでしょうねという理解だったと思います。
(以上)