金融小委員会(第5回)後の奥野小委員長記者会見の模様
日時:平成16年3月5日(金)16:17~16:36
〇奥野小委員長
本日は、前回の小委員会に引き続きまして、損益通算において益といいますか、例えば利子であるとか配当であるとか、そういう益のとりわけ課税方式が各所得間の損益通算にどういうふうにかかわるのか、どういう問題を引き起こすのかということについて、事務局から説明を受けたうえで議論を行いました。金融資産性所得に対する課税の一体化ということは、課税方式についてもある程度そろえていくということが望ましいわけですけれども、現実は利子、配当、譲渡益といった所得の間で課税方式が違います。その違いが損益通算の範囲を考えるうえでどのような意味を持つのか。例えば制約要因になるのか、あるいはそれを乗り越えるために何をすればいいのかといったようなことに焦点を当てて議論を行いました。
まず、総論としてですけれども、規制緩和は進んでおりまして、金融の業態間の垣根というようなものがだんだんなくなっていて、取扱い商品の幅が各金融機関ごとに広がっていくだろう。そうすると、そういうさまざまな金融商品を包括的に取り扱うといいますか、そういうものを広く取り扱う特定口座のようなものを認めるといいますか、場合によってはそのためのサービス、そういうものを例えばゲートキーパーというふうにおっしゃった方もいましたけれども、だから各金融機関とはもう少し前出しで、さまざまな金融機関に持っている商品を管理してもらうといいますか、損益通算をしてもらうような、また特別のゲートキーパー的な機関というものが出てくるとか、とにかくそういうさまざまな金融商品をまとめて管理するような、あるいは税のために総合通算するような、そういうインフラのようなものができるといいのではないか。もう一度繰り返しますけれども、個人の金融資産を一元管理する金融サービスといったようなインフラというものが出てくるのが望ましいのではないだろうかという意見がありました。
それからもう一つ、総論としては、一般投資家という立場からみると、利子、配当、譲渡益というようなものを含めて、さまざまな金融商品の間で課税はできるだけ同じほうがよい、総合通算もできるだけ認めるほうがよいということではないんだろうかという意見が出ました。
次に配当所得ですけれども、配当所得については、上場株式の大口以外や公募株式投資信託については20%源泉徴収で申告不要ということが認められています。しかし、原則は総合課税です。また、申告不要とされている配当、公募株式投資信託についても申告をすれば配当控除、税額控除ですけれども、そういう配当控除が総合課税のもとで受けられるという仕組みになっています。配当は、一面では金融商品からの所得という性格がありますが、他面では、事業支配株主のような場合が特にそうですけれども、事業参加的な所得という性格もあります。そういう金融商品からの所得という性格と事業参加的な所得という性格、その二つをどういうふうに取り扱うべきかということについて議論を行いました。
主な意見として、二つのかなり対照的な議論がありました。一つは、金融一体化の観点ということから考えると、配当自体も分離課税が適当である、したがってほかの金融所得と一体的に取り扱うべきだ。むしろ何らかの手当てをするならば、配当を出す側、企業の側、そちらを考えるべきではないかという意見が出ました。他方、もう一つの逆の意見としましては、事業支配目的の、つまり事業をコントロールする目的の株の配当は金融所得とは言い切れないかもしれないという意見です。むしろ、そういう事業支配といいますか、そういう所得、あるいはそれにかなり近い事業所得も含めてですけれども、そういう所得に関しては特別な配慮が必要ではないかという意見もありました。それが配当所得です。
次は公社債の譲渡益についてですが、前回も若干意見がありました公社債の譲渡益非課税について議論を行ったわけです。現在、譲渡益が非課税とされているのは、公社債の価格が金利の変動によって動かないことを前提として、公社債のキャピタルゲインは経過利子の反映でしかない、利子を源泉分離で課税できればよいという考え方によるものです。しかし、昔はそれで通ったのかもしれないんですけれども、現在の債券市場は日々、市場利子率の動きを反映して公社債の価格自体、値動きがあるわけですから、そういう現状のなかでどういう課税ないし損失の取扱いが適当かということを、諸外国の例などを踏まえて議論しました。主だった意見としては、公社債譲渡益は非課税であることをやめて、普通の金融所得として課税すべきであるという議論だったと思います。
それから最後に、利子所得ですけれども、利子所得については現在、一律源泉分離課税が行われています。その理由は、個人の預貯金口座数が十数億口座、まあ赤ちゃんも含めて1人10口座ぐらい持っているという話ですが、そういう大量の口座があるわけで、したがって利子の大量発生という性格があります。そのときに申告制とした場合に、つまり利子所得を申告制とした場合、納税者、金融機関、税務当局のコストや事務負担の問題があることになります。利子との損益通算を認めるということになりますと、それでは源泉徴収された利子の還付申告を認めるのかという問題も出てくるわけです。この点に関しては、主だった意見としては、銀行預金は今言ったように口座数が非常に多いので、通算の可否については実施の可能性を考えるべきかもしれないという意見もありました。それから、利子について法技術的には通算可能であるけれども、納税者番号制度による担保がないと通算は難しいのではないかという意見もありました。それから利子について、あるいは納税者番号についても、もう少し選択制を考えるほうがよいのではないかというような議論もありました。
大体そんなところが議論でございまして、以上の討議結果を踏まえてさらに議論を進めていきたいと考えております。
次回の小委の日程はまだ決まっていないということでございます。
〇記者
利子所得のお話ですけれども、今のお話を伺うと、損益通算は難しいというふうな意見が大半ということになるんでしょうか。
〇奥野小委員長
いや、総論でお話ししたように、金融所得に関してはできるだけ一体で広くという意見も非常に強くて、だから理想は多分、そこまでやれるんだったらやりたいという意見の人も多いと思うんですね。ただ、それをどういう形でやるのかということが技術的に大変かもしれないし、銀行なんかのコストもあるだろうから、その社会的なコストをできるだけ小さくしながら、それでできる方向を探っていくべきではないかということなんだろうと思いますけれども。そのために納税者番号みたいなことも考えるかもしれないし、そういうことの選択制みたいなことも考えられるかもしれないしという、そういう趣旨だと思いますけれども。
〇記者
例えば、そういったうまく事務的に管理できるシステムができない場合には先送りとか、そういう可能性もあるんでしょうか。
〇奥野小委員長
金融所得の一体化に関しては、できるだけ先送りはしないでもちろんやりたいと。だけども、利子所得に関してやれるかやれないかということは、これはどうなんでしょうね、今日の皆さんの意見を聞いている限りは、できるだけ広くということに関しては、まあ理想はそうですねということに関しては、かなり広い合意があったように思いますけれども、だからそういう意味で、できるだけそういう方向でということでしょうけども、ただ、利子所得に関してすべて総合通算、損益通算を認めるということまで完全にできるかということになれば、まあ技術的な問題も含めて少し問題はあるかもしれないと思います。
要するに言いたかったことは、利子所得まで損益通算できるかどうかということは、まだ今後の検討によるということですね。ただ、理想としてはやっぱりやるべきだということは、皆さんの共通した意見ではある、と。
〇記者
最初に一元管理できる特別な口座を作れたらというふうなことをおっしゃってたんですけれども、これはどういうイメージのものになるんでしょうか。ちょっと、いまひとつ…。
〇奥野小委員長
こういうことをやるためにいろいろな障害があるから、それをどうしたらいいでしょうかという意見でもあったんですが、私が理解した一つのイメージは、例えば株の譲渡益を管理するために特定口座というものを作ったわけですね。ところが、それは証券会社だけですよね。それを、例えばですけれども、預金利子に広げようと。そうすると、銀行の持っている口座、銀行にある口座と証券にある株の口座を損益通算する必要が出てきますよね。しかしそれを、今は銀行預金は銀行、株は証券。そうすると、今そのままやろうとすると、投資家が全部、銀行と証券会社の特定口座を自分で管理、総合通算しなくちゃいけない。そうするのは結構コストがかかって、一般投資家としては利便性が低いかもねと。それを何かうまくまとめて担保できるような仕組みができないでしょうかねという、そういう理想論ですね。
〇記者
それはあくまで理想論で、具体的なお話は…。
〇奥野小委員長
そういう利便性みたいなものをきちんと考えることが、こういう仕組みを作っていくためには、仕組みとしてうまくやるための一つのやり方でしょうねと…あんまり説明になってませんかね。そういう議論がありましたというご紹介なんですけれども。
〇記者
こういう損益通算を考えるに当たって、保険商品はどういうふうになるのか。
〇奥野小委員長
今日も、保険とか外国の為替関係の商品であるとか、それからオプション商品であるとかということについてどう考えたらいいかというご紹介もありました。一つの意見として、特に保険は国民にとって非常に大事なものだから、それもまとめて考えたほうがいいのではないかという意見もありました。ただ、そこまで突っ込んだ議論というのは、まだきちんとはしていないということですね。今日はだから、どちらかというと配当、利子、公社債というあたりが議論の中心ではあったと。
〇記者
同じ点なんですが、事業支配のための株の配当は金融所得とは言えないかもしれないというご意見があったそうなんですが、これはどういう考えによるものなのか。
〇奥野小委員長
株式を持つということは、一つは、その投資目的で株を買って、それから配当とか譲渡益を得るという、いわば収益目的のために株に投資するのが一つですね。もう一つは、株式というのは企業の経営に関するコントロールをする手段であるわけですね、株を持っているということは。そうすると、株をたくさん持っている場合には企業で実現された、例えば収益というものをいろいろ自分で、処理をコントロールをしたり、いろんな経営に関して関与ができるわけですよね。それはやっぱりちょっと違うことなので、そういうコントロール目的のものに関しては、純粋な金融目的のものとは少し違う取扱いをしたほうがいいのではないかという意見があったということですね。
典型的には、例えば今の大口株主の場合には、配当所得に関して少し違う取扱いがされているわけですけれども、そういう取扱いみたいなものを今後どういうふうに考えていったらいいかということに関連して出てきた議論です。
〇記者
2点お伺いしたいんですが、1点は、先程の損益通算を一体的にやるシステムというか、あるいはどういう機構になるのかよく分からないんですが、このイメージとして出てきた話は、金融機関がそれぞれ協力して作るというイメージなのか、あるいはある程度公的なものとして管理するシステムを作るという、どちらの性格のものなのかという点と、もう1点は損益通算の範囲ですが、以前ありました、例えば投資用のワンルームマンションとか、あるいは土地譲渡損益とか、そういう資産については今回の議論の対象に入っているのか、入っていないのかという点をお伺いしたいんですが。
〇奥野小委員長
前者については、要するにそういうインフラを作ることが望ましいのではないかという意見があるし、多分、かなりの委員の人とかは、理想としてはそういうものがあると非常に便利だろうねというふうに思ってると思うんですけれども、ただ、それを具体的に実現するためにはいろいろな法律の制約とか、それこそ金融規制の話などもあって、それほど容易ではないだろうと。したがって、今回の税の改正とその問題とをどういうふうに考えていったらいいんでしょうねという問題提起があって、それはある意味で税の問題と並行して議論なり知恵を絞っていく必要があるんでしょうねと。しかし、この小委員会で議論をする性格のものかどうかはちょっとよく分からないという認識だったというふうに、私は理解しております。
それから多分不動産だと思うんですけれども、これに関しては、今日の議論はむしろ、株式とかそういう譲渡損と、例えば利子とか配当とかの益の損益通算をどうするかという話が中心だったので、不動産に関しては議論してませんけれども…。
〇記者
小委員会のなかでは、排除しているわけではないんでしょうか。
〇奥野小委員長
排除しているわけではありません。ただ、金融ポートフォリオからの所得の一体化という話が中心になっていて、議論としては金融所得というイメージがぴったりくるものに議論は集中したと思いますけれども。
(以上)