金融小委員会(第4回)後の奥野小委員長記者会見の模様

日時:平成16年2月13日(金)15:50~16:02

奥野小委員長

前回の小委員会で、当面、金融資産性所得の一体化とその前提条件を中心に議論をするということで決まっておりましたので、本日はまず、損益通算の基本的考え方について、事務局から説明を受けたうえで、活発な議論を行いました。

まず、損益通算の範囲ですけれども、前回、経済学の観点から、ポートフォリオの範囲内では通算を認めるのは当然であるという意見がありました。しかし現実の税制は、諸外国も含めさまざまな理由から損益通算の制限を設けているということも事実です。今後、金融資産性所得を一体化するときに、その環境をどう整理すべきだろうかという問題意識で議論を行いました。主な議論ですけれども、一つの強い意見は、これは主に経済学の関係者から出たようにも思いますけれども、株式だけでなくて債券、為替などを含めたポートフォリオ全体で通算を行うべきである、という議論がありました。それをいわば補強する意見として、金融技術の変化で所得の性質の変化が容易になる。つまり、どこかでその通算を制限しても、金融技術の変化があると、その枠のこっち側から枠の反対側に簡単に移すことができるようになってくる。そういう状況の中で、デリバティブなんかは典型ですけれども、そういうことをもっと考えるべきではないか。あるいは、同じような意見ですけれども、ハイブリッド商品というようなものがたくさん出てくるでしょうから、そういうことを考えるべきではないかという議論がありました。

他方では、損益通算を拡大すると、デリバティブを利用して通算を利用する節税行為、あるいは租税回避行為といいますか、そういうものが引き起こされる可能性があるのではないかという意見も出されました。そういう意味では、租税回避の防止のための措置を設ける必要があるのではないかというような意見もありました。

少し違う角度からは、執行可能性が大事である。あるいは、納税者にとってわかりやすい税制であるということが重要であるという意見も出されました。そういう意味では、一般投資家の投資しやすい制度、プロではなくて、あるいは租税回避を考えている人よりも、普通の大衆投資家の投資しやすい制度を作る。そういうことが大事であって、租税回避の話はもう少し別個考えるということが必要なのではないかと。少し仕分けして、プロとアマとで仕分けして考えるということが必要ではないかというような議論もなされました。

それからこれももう少し違った議論としては、問題になるのは金融所得ですが、そのほかに所得のなかには給与所得とか事業所得というのがあります。給与所得、事業所得というのは累進課税されています。そういう意味で、実は金融所得の損失というものを給与所得とか事業所得に通算してしまうと、非常に有利なことができる。つまり、本来税率の低いところのロスでもって、高率の所得をいわば通算できてしまう。それで税を回避できるということがあるので、そういう給与所得、事業所得等を金融所得の損で通算する、あるいは侵食する。そういうことをできるだけ阻止することが大事だと。制度として通算できないという制度にしておいても、デリバティブとかいろんな形で、事実上侵食される可能性がありますから、そこをきちんと押さえておくということが大事なのではなかろうかという意見も出されました。アメリカなどではそういうこともやられているようなので、そういうことをきちんと考えるべきではないかという意見です。また、今言ったようなことは大変大事で、金融所得が給与、事業所得を侵食するのを防止するのは大事なのだけれども、他方では、金融所得の中でもきちんと制限をして、金融所得のプラスの部分というのが侵食されないようにということも大事ではないかという議論もされました。

そのほか、ちょっと細かい論点で言えば、公社債の譲渡益非課税、あるいは譲渡損のほうはないとみなす、そういう扱いというのは今後適当なものであろうかという疑問も出されました。

以上のような討議結果を踏まえて、今後の小委員会では金融資産性所得の一体化について一層議論を進めていきたいと考えております。次回の小委員会の日程は決まっておりません。

以上です。

記者

範囲の考え方なんですけれども、この議論というのは、しばらくずっとこの議論は続くわけでしょうか。

奥野小委員長

やっぱり今回の議論の非常に大きなところだと思うんですね。つまり、どこまでを金融所得としてどこまでの損益通算をするのかということが、まあ一つの大きな議論のコアだと思いますので、ある程度の時間はかける必要があると。で、少なくとも当面、この議論は続けるということだろうと思います。もちろん、そのほかにも重要なテーマがありますから、いずれそちらに移りますけれども。

記者

今日は、特に番号制度といいますか、その辺には言及はなかったんでしょうか。

奥野小委員長

ですから、番号制度といいますか、いわば実際の捕捉とか…捕捉という言い方がいいんでしょうか、その突き合わせとか名寄せとか、そういうところの話というのは、これまた別個の議論になるので、むしろ、そもそもどこまでの所得を考えて、どういう通算にしますかということを考えないと、具体的にどういう形で納番といいますか、番号とか執行の仕組みとか、そういうことを考えるかというところまでいかないので、まず当面、こっちからということだと思います。別に、サボッているわけではなくて、近々やりたいと思いますけれども。

記者

先程のご意見のなかで、損益通算でデリバティブ的な節税行為が引き起こされるというところがよく分からないんですけれども、どういう事態が想定されるんでしょうか。

奥野小委員長

これはちょっと補足してくれますか。

事務局

これは、むしろ皆様のほうがお詳しいのかとも思うんですが、いわゆる一般的な預貯金、それから株等の売り買いだけではなくて、それを複合的にまとめたようなものがあり得るわけですね。それを、例えば利子的な要素も入っているものもあれば、配当的な要素も入っている、中にはキャピタルゲインもごちゃまぜになっている、こういう商品もあり得るわけでございます。例えば先物一つとりましても、これはどれにも属さないという意味で雑所得課税というように処理してます。その雑所得としたうえで、実は15年度改正で、商品先物等につきましては20%の申告分離ということに、一応はしておるわけでございますが、どの程度課税できているか、これは申告してもらわないと分からないものですから、なかなか難しい。こういったものを、ある種金融関連商品と称して、全部ひっくるめて損益通算の対象にした。そういう場合に、例えば益については申告が出ない、損についてだけ申告が出るということも当然考えられるわけでございます。いわゆる従来型のきれいな所得分類・・・利子、配当、譲渡益、こういったものにきれいに分類できるもの以外の新型の金融商品というものができつつある。ないしは、もう既にあるわけでございまして、その場合の例えば損、これを他の利益から簡単に引けるようになるというのはいかがなものかと、こういう議論があるわけでございます。

記者

プロ向け、アマ向けというふうに分けるというのは、どういう観点で分けるということを想定されているんでしょうか。

奥野小委員長

分けるというか、要するに租税回避といいますか、節税といいますか、そういうことをやろうとするのはやはり…プロという言い方がいいのかどうかわかりませんけれども、いわゆる小口の一般の投資家の方々ではないんだろうと。一般の小口の投資家の方々にとっては、あんまり租税回避とか節税を考えるよりも、やはり納税の利便性とかそういうことが大事なのだろうと。そうすると、例えば租税回避をできるだけさせないようにというような税制を作ってしまって、小口の大衆の投資家にとっては、かえって利便性が悪いような税制になる。これはまずいよねという。そこでもちろん本当に分ける…完全に細分化されたものを作るかどうかは別として、場合によってはその二つを少し分けて対応できるような仕組みというものを考えるのはどうでしょうと、そういう考え方だと思います。

記者

先程の先生の説明の中であって、資料にもあるんですけれど、公社債の利益・損失を今は非課税、ないものとみなすとここにも書かれていますけれども、そう扱うことが果して適当なのかどうかというのは、もう少し具体的に言うとどういう議論なんでしょうか。やっぱり見直して、例えば他の金融商品と同じような税率にしたらどうかと、そういうことなんでしょうか。

奥野小委員長

質問の趣旨をちょっと誤解しているかもしれませんが、昔は国債とか公社債なんていうのは、流通市場がなかったわけですよね。今はそういう流通市場はたくさん出てきていて、そうすると日々価格がつくわけですね。で、利子率が上がったり下がったりすると価格が上下するわけですよね。そうするとそれに伴って、公社債についても譲渡損益というのがたくさん出てきている。それをあまり考えないでいた時期と、今みたいに、マーケットが確立された時期とでは、やはりそこをきちんと踏まえた、要するに公社債だからといっても、株と同じように譲渡損益が出るんだということは考えたほうがいいんじゃないですかということだろうと思いますけれども。

記者

課税関係を取り決めたころの環境とは、外部の市場環境が今はまったく変わってきているから、それに合わせた見直しも考えてみたらどうだという議論があったということでしょうか。

奥野小委員長

そうですね、私なんかもそういうことだと思います。

(以上)

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