第4回金融小委員会 議事録

平成16年2月13日開催

委員

ただいまから、第4回金融小委員会を開催いたします。

本日は、財務省の副大臣と政務官にご出席いただいております。

前回の小委員会で申し上げましたように、当小委員会では、当面、金融資産性所得の一体化、すなわち損益通算のあり方、そのための前提条件といったことを中心に議論を進めているわけですけれども、本日は、今後の議論の入り口として、各種所得の損益通算の基本的考え方について議論を行いたいと考えております。

損益通算については、前回の自由討議の中でもいろいろな考え方をいただきましたけれども、本日は、そうした考え方を、今後、実際の税制に反映させていく際に、どんなことを考えなければならないかという、やや骨のところを議論したいと考えております。

それでは、損益通算制度の内容、考え方について、わが国の現行制度及び諸外国の事例を含めて、事務局から説明を受けたいと思います。

よろしくお願いいたします。

事務局

お手元の「金融小4」という冊子がございます。それと、メモがございます。これを用いまして、ご説明したいと思います。

資料の1ページでございます。これは何回もご覧いただいておるわけでございますが、やはり議論の出発点は常にここに戻りますので、おさらいでございます。

上から、給与、賃金、公的年金等々と、収入がそれぞれの種類ごとに記載されております。そこから必要経費を引きまして、いわゆる所得というものが出ます。これが、ここに掲名してありますもののほか、合わせまして10通りの所得分類が日本の所得税法ではあるということでございます。その所得、それを損益通算と申しますが、まずは合算するというのが基本でございまして、その合算をした結果の所得から所得控除を行う。基本的にはそこに累進税率をかけて税額を出すわけでございますが、例えば土地の譲渡収入、株の譲渡収入は申告分離、さらには、利子は源泉分離という形で比例税率でかかっているものもあるということです。

収入の種類のところで網かけしてございますのが、典型的な金融性所得でございます。「株式等の譲渡収入」、これは、取得費をまず引いて、ここで実現益というものを出すわけでございます。それが株式等の譲渡所得となりまして、それは一般の損益通算の対象外としておりまして、その上で所得控除を受けてさらに比例税率がかかる。申告分離になっているわけでございます。これにつきましては、特定口座を使いますれば、源泉徴収だけで申告をしなくていいという制度があるわけでございます。

下から2つ目でございますが、「利益の配当」。配当収入につきましては、負債利子控除というものが行われます。配当所得となるネットの所得が出されますが、これについて、申告を選んだ場合でございますけれども、総合課税になるわけですが、あとで申し述べますように、負債利子を差し引いた結果マイナスが生じることも理論的には考えられるわけです。その場合の損は損益通算の対象外ということで、バツが記載してあるわけでございます。

さらに、一番下の「預貯金等の利子」、これにつきましては先ほど申しましたように、損益通算の対象外でありますし、さらに所得控除も対象とならないということで、源泉分離課税になっているわけでございます。

このように各種類ごとに所得が規定されまして、それを足しあげて税額計算を行うわけですが、損益通算の仕組みということで2ページでございます。あとで申し延べますが、一定の損に着目いたしまして、その損をほかの種類の所得から差し引けるものが損益通算と言われるものでございます。事業所得の損失、不動産所得の損失、ちょっと右にいきますが、株式等以外……「等」となっていますが、16年度改正で土地の譲渡所得の損失は損益通算できないことになります。そういう法律を提案しているわけでございますが、株式等以外のその他資産の譲渡所得の損失、こういったものがそれぞれ箱の中の損益通算をまず行います。[1]と書いてあるのはそういうことでございます。

このように、いわゆる経常的所得の世界と、それから譲渡所得の世界が損益通算を行う順番という点において、この区分が行われているわけでございます。その箱の中の損益通算が終わったあと、なおマイナスがある場合は、[2]の損益通算が行われます。ここで、総所得というものが計算されるわけでございます。

それに加えまして山林所得と退職所得、これは両方とも、長年にわたって生じる所得、そういうものでございます。総所得のうち、特に譲渡所得もそういうきらいがあるのですが、総所得というものに対して山林所得と退職所得という2つの分類もあるということです。

これを見ていただきますと、損失が出ても対象になっていないのが幾つかあるわけでございまして、利子、給与、退職金、これらにつきましては損が想定されていないという意味で損益通算の対象の損失にはなっていないわけでございます。さらに、これは後ほど申し述べますが、配当について負債利子を控除した、マイナスということが起こり得るわけですが、それについての通算も認められておりません。さらに、雑所得と一時所得、これについても理論的にはマイナスが起こり得るわけでございますが、損益通算の対象の損失にはなっていないということでございます。

3ページでございます。「損益通算の基本的考え方」ということで、金子先生の「租税法」という教科書から抜粋しております。「所得税法は」から始まるところでございますが、先ほど申し上げたように、「10種類の所得に分類している。これは各種所得の金額の計算において、それぞれ担税力の相違を加味しようという考慮に基づくものであって、分類所得税の一つの名残りであるが、しかし他方で、所得税法は、原則として各種所得の金額を合算し、それに一本の税率表を適用することとしていることから、わが国の制度は基本的には総合所得税であるといってよい」。

損益通算の項目では、2行目でございますが、「総合所得税の建前から、他の所得のプラスとの相殺を認める必要がある」、そういう損失がある。「そこで、所得税法は」ということで先ほど申し上げた制度があるわけでございます。これを損益通算とする。「ただし」ということで、これも後ほど出てまいりますが、いわゆる「生活に通常必要でない資産」……書画、骨董、別荘、競争馬、こういったものにかかる譲渡所得の計算上生じた損失、これは損益通算の対象から外されている。

「また」ということで、これはある種特別措置として行っているわけでございますが、不動産所得の計算上、マンションを買うために借金をする、その利子を控除するという形で、あえてマイナスを作るという節税策があるわけです。それをブロックするという意味におきまして、土地を取得するために要した負債の利子に相当する金額、これも損益通算の対象から外しているという解説を金子先生にしていただいているわけでございます。

このように損益通算というのは分類所得というものを前提にして、それを課税ベースにのせる際に、所得の計算上、それをある種ブリッジするものとして用意されている制度です。

損益通算が制限されているものが幾つかございます。その理由については今後のご検討にもご参考になるかと思われますので、基本的には過去の税調答申、これを抜粋いたしまして、ご説明いたしたいと思います。

4ページが株式譲渡損失についてでございます。これは平成9年、この小委の前身でございますが、金融課税小委員会が出された報告でございます。「株式譲渡益課税への対応」ということで、ハのところでございます。下線でございますが、「他の所得との通算について、納税者番号制度の下で総合課税を行っているアメリカにおいては一定額に制限されており」。これも後ほど出ると思いますが、譲渡所得に関してアメリカは年間3,000ドルを限度にして損益通算を認めている。逆に言うと、1年に3,000ドルしか通算できない、こうなっているわけでございます。

「ほかの主要国では認められていない。これらの取扱いは、譲渡損失の他の所得との性格の違いや損失の発生に任意性がある」。いつ、その損を発生させるかというのが、操作性があるというところでございます。さらに、譲渡損失。譲渡益もしかりですが、その年その年の担税力が増減するというよりも、長年にわたって発生しているマイナス・アンド・プラス、こうなるわけでございます。

このように譲渡損失の他の所得との性格の違い、損失の発生の任意性、こういったことを見まして、「こうした考え方をも踏まえると、我が国においても他の所得との通算は認めないことが適当である」、このようにされております。

5ページでございます。同じ株のキャピタルゲインですが、これは平成12年の中期答申でございます。ここでご覧いただきたいのは、「ただし」のところでございます。「株式等の譲渡益に対して分離課税により一律の税率が適用されている一方で、株式等の譲渡損失について、総合課税により累進税率が適用される給与や事業などの他の所得との損益通算を認めることは、譲渡益と譲渡損失との取扱いに均衡を欠き、公平の観点から問題があることなどを踏まえ、その譲渡損失は他の株式等の譲渡益との間でのみ相殺できることとされています」。ここは、ある種益のほうの課税方式が違うことに着目した言及でございます。

さらに一番下のところでございますが、租税回避行為への対応として、「操作性の高い投資活動から生じた損失と事業活動などから生じた所得との損益通算の制限について検討が必要と考えます」。租税回避への対応という論点もここで提起されているわけでございます。

6ページでございます。今度は配当でございます。先ほど来申し上げておりますが、配当所得、若干でも配当収入がありますと、その株を買うための借金の利子、これを控除する負債利子控除というものが認められております。

7ページでございますが、ここも下線をご覧いただきたいと思います。「無配の株式を取得するために巨額の負債を負い、他にたまたま少額の有配の株式を有することにより、その配当から負債利子を控除して多額の配当所得計算上の損失が生じ、損益通算によって他の所得を減少させているような事例は、はたして担税力に即応した所得計算として妥当かどうか疑問であり」というふうにされております。

さらに加えまして、(ハ)でございますが、「家事上の負債との判別の問題については、原則的には税務執行の運営に期待すべき問題であるが、実際問題として、家事上の負債の利子が混入する危険がある」ということも記載されております。

こういった論点を踏まえまして、一番下でございますが、「結局担税力に即応した所得計算を行うという常識的見地にたち、さらに、上記の問題を考慮して現段階においては、株式等の取得に要した負債の利子は、配当の総収入金額を限度として控除し、控除しきれない負債利子額は、他の所得から控除しないこととするのが適当であると認めた」ということでございます。この審議を踏まえまして、昭和30年代半ばに、配当所得の損失、これは損益通算できないということになっているわけでございます。

ちなみに、これは40年前に書かれた答申でございます。一部、この間に株の譲渡益についての課税がスタートしたり、そういう事情がございますが、基本的にはここで挙げられている論点は今も当てはまるかと思われます。

8ページでございます。今度は雑所得でございます。雑所得について、実は答申でのご言及はございません。ということで、これは昭和43年度改正でございますが、その当時の解説文をここに掲載しております。3行目でございます。「全体としてみた場合は必要経費が(雑所得の場合は)ほとんどかからないか、かかっても収入を上回ることのないものが大部分であってこれらについては通算の実益がなく、また、その他の種類の所得である程度支出を伴うものにつきましても、その支出内容に家事関連費的な支出が多いのが実情」ではないか。こういうことで、今回の改正を機にということで、損益通算をやめたということでございます。

以上が、損益通算を止めている理由について、文献で出てくる記載でございます。

11ページ以降、諸外国の課税計算の仕組みのフローチャートをご用意しておりますが、まとめていますのが9ページ、10ページでございます。諸外国ということで、まずは先進国でございます。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの通算が制限されている損失の一覧表でございます。

アメリカの例を見ていただきますと、事業・商業活動に係る損失、不動産賃料に係る損失。これは注書きで、「アット・リスク・ルール」、それから「パッシブ・アクティビティ・ロス・ルール」というものがございます。これはそれぞれ、1976年、1986年、いわゆるタックスシェルターをふさぐという意味において導入された制度でございます。これに当たる場合はほかの所得からは損を差し引けないというものでございます。

アット・リスク・ルールというのは、例えば組合のようなものをつくりまして、そこに100万ドルずつAさん、Bさんが出資をする。その組合が300万ドル借りてきまして、500万ドルのファンドを作って何らかの事業をする。その場合に、銀行から借りた300万ドル、いわゆるノン・リコース・ローンという、Aさん、Bさんにはかかっていかないという求償権のないローン、そういう形でこの事業をしようとした場合、500万ドルの事業が失敗したときには、観念的には、Aさん、Bさんにそれぞれ250万ドルずつの損失が生じるわけですが、注書きにございますように、実際に負担するリスク総額だけですよということで、今のような場合も、自分が直接出した100万ドルまでしか控除ができませんというものでございます。

パッシブ・アクティビティ・ロス・ルール、これは、自らが実質的に事業を行っているとは言えない投資。例えば利子、配当といわゆる一般的な投資から生ずるものはポートフォリオ所得ということで、別枠でございますが、投資所得(利子、配当等)に係る損失は投資利子控除というのができるわけですが、仮にこの範囲でマイナスが立っても、それ以上は引けませんという制度が別途ございます。このポートフォリオ所得とは別に、確かに、ある種単に運用しているというだけではない投資ではあるわけですが、例えば500時間以上その事業にタッチしていないとか、そういう客観基準を設けまして、実質的に事業を行っているとは言えない投資に係る損失、「リミテッド・パートナーシップに係る損失等」と書いてございますが、そういう場合については、消極的活動……パッシブ・アクティビティに係る所得として他の所得からはそういった損失は引けません、このようになっているわけでございます。まさに各国のいわゆるタックスシェルター対策ということで損益通算をいかに工夫するかという一つの例でございます。

以下、イギリスは不動産賃料に係る損失、その他収入に係る損失、譲渡損失、ドイツは譲渡損失について通算に制限がございます。

フランス、これはちょっと変わっていまして、農林業事業収入に係る損失ということで、ある一定のお金持ちの人は、農林業事業収入、これ以外に収入があるケース--5万3,360ユーロらしいのですが、それよりほかの所得があるような人は農林業収入に係る損失は通算ができません。何かホビー・ファームとかそういうものがあるらしくて、片手間でやっている農林業は通算ができないというような規定もございます。

さらに、自由職業事業収入に係る損失。営利的目的を持って継続的にやっている自由業、これについては普通の事業収入ということで、損失が出た場合、差引きができるのですが、そうでない職業、例では占い師等が挙がっているようですが、そういった人については損失の通算は認めない、このようになっております。

そのほか、不動産賃料に係る損失、譲渡損失ということで、各国を見ますと、譲渡損失については一定の制限ないし、全く通算を認めていないという例が出ているわけでございます。

10ページ、これは前回、事務局からもご説明したものでございます。北欧とオランダの損益通算の概要ということでございます。いわゆる二元的所得税の国においての取扱いを記しております。

11ページ以降、先ほど申し上げましたように、各国のフローチャートがございます。

19ページに、「主な個人向け金融商品に対する課税関係」ということで、保有段階、売却、払戻し、この欄は同じですが、利益についての表は今までお示ししたことがございます。今日は損益通算ということでございますので、益のほうも大切ですが、損の取扱いも書き足したものでございます。

上から見ていただきますと、公社債のところ、売却利益は非課税になっている。いわゆるキャピタルゲインは非課税になっております。その裏腹でございますが、損失が出てもこれは「ないものとみなす」、このようになっております。これは割引債についても同じでございます。

それから株のキャピタルゲイン、税率は上場株は20%で5年間10%。譲渡損が出ますれば、それは株式譲渡損ということで現時点では株式譲渡益からの通算ができる。さらに3年間の繰越しができます、このようになっております。

非上場株式でございます。譲渡益課税、売却の利益の欄ですが、現行制度では譲渡所得に税率26%の申告分離になっておりますが、今回(16年度)の改正案でこれを20%にするというご提案を申し上げております。

投資信託でございます。公社債投資信託もキャピタルゲインは非課税。これは公社債並みで非課税となっておりますので、その関係上、裏腹でございます、譲渡損が出てもそれはないものとみなす、このようになっております。

公募株式投資信託の譲渡所得、これも今回の16年度改正にかかるものでございます。改正案というところでございますが、税率が現行の26%から20%、上場株並みということで5年間10%、このようになっております。キャピタルロスにつきましても、改正案で、上場株並みと同じ、3年間繰越可、このような提案をしているわけでございます。そのほか、ETF、Jリート、こういったものが上場株並みの取扱いを現在受けております。

保有段階は説明を飛ばしましたが、このように、それぞれ20%源徴されているわけでございます。税率といたしましては、概ね20%でそろっているかなと、このようになっているわけですが、そもそも課税の方式が、最初に申し上げたように、あるものは、例えば配当でございます、総合課税に片足をまだ置いているものもございますし、利子課税のように、源泉分離ということで所得控除も行わない課税方式もあるわけでございます。そういった益に対する課税サイドと、今度、損の扱い、これをそれぞれどのように調整するかということが問題となるわけでございます。

極力同様にということで整理いたしましたのが、20ページ以降の諸外国の例でございます。アメリカが比較的単純でございます。アメリカは総合課税の国でございまして、公社債、株、こういったものを全部あわせて譲渡益課税を行っているわけでございます。損もその裏腹として、キャピタルロスとしてキャピタルゲインとの損益通算をする。その結果まだマイナスがある場合には、年間で言えば3,000ドル、それを限界に通算が認められることになっております。

次のページ、イギリスでございます。キャピタルゲインについての課税のあり方、これの裏返しで損失があるものもありますし、各国とも実は公社債の取扱いには苦労しているという感じがいたします。例えば適格公社債は益が出ても非課税、これはある意味で日本と同じでございます。その裏腹で、損失についてもないとみなす、このようになっております。

次のページ、ドイツでございます。ドイツは基本的に譲渡益課税を行わないという伝統のある国でございます。株について、いわゆる投機的な株売買というもの以外は非課税となっているわけでございます。損失の扱いも、当然、益に対する非課税の扱いとの裏腹で、ないものとみなす、このようになっております。

フランスでございます。公社債のところをご覧いただきますと、払戻し(解約・償還)のときに償還プレミアムというものがございまして、26%源泉分離または総合課税、このようになっております。

損失でございます。利子に係る損失ということで、償還の前年に支払われた当該債券の利子とのみ通算が認められる。この辺も大変細かな工夫をしているということでございます。利付債で損失が出るということは、要はオーバーパーで買って、パーで償還を受けるというケースがこの損失にあたるわけでございますが、その場合、償還の前の年にもらっていた利子、その範囲であればその損は引いていい、このようにしているわけでございます。

スウェーデン、二元的所得税の国、ここも比較的単純でございます。公社債、これは資本所得として譲渡益にもかけ、キャピタルロスも見ているということでございます。当然でございますが、資本所得の中での通算で終わっているということでございます。

25ページでございます。金融商品に係る損益通算の現状ということで、縦の一番左側の欄でございます。ここに、どんな損があり得るかということで、株の譲渡損、それから、今度上場株と同じように扱いますが、公募株投信の譲渡損・解約損、こういったものが一つの損の類型としてございます。そのほか、本来は公社債についても譲渡損というのがあり得るわけでございます。例えば1つ98円で買ったものを、セカンダリー・マーケットで売った場合に96円でしか売れなかったというと、当然、2円の損が生じているということでございます。

さらに、最後にご説明いたします預貯金、公社債の元本割れによる損失、さらには会社の倒産等による株式の無価値化ということも一般的な意味における損が生じるものでございます。

それぞれがどういう金融資産性所得から差引きができるかというのがマル、バツでございます。バツが、差引きができませんということで、できるほうから言ったほうが早いわけで、株式の譲渡損について、上場株式の譲渡益、非上場株式の譲渡益から差引きができます。現行ではこの部分しかマルがない。このマルをどのように増やしていくのかというのがここでのご論議の対象となっているわけでございます。

一番右端でございます。何度も出てまいりますが、公社債の譲渡益、これは非課税ということになっておりまして、バーとなっておりますが、ここは当然差引きもできない、このようになっているわけでございます。

縦で言うと、2つ目の欄、公社債の譲渡損、「損失はないものとみなす」、このようになっております。

さらに一番下のところ、資産滅失のケースと仮に呼びますと、この滅失は経済的意味においては損でございますが、少なくとも現行の税法では実現した損ではない、このように取り扱われております。

次のページでございます。「資産滅失について」ということで、きわめて粗っぽいフローチャートで恐縮でございますが、普通の所得税の世界、これを絵にしたものでございます。

まず、収入。例えば給料や年金、不動産収入、こういったものが入ってくる。そこから必要経費などを控除いたしまして、所得計算をし、それに税率をかける税額計算が行われる。当然、納税がここで行われます。ここで申し上げたかったのは、納税後、税引き後の所得が個人にとっては生活の原資であるということになっているわけでございまして、この税引き後の所得で、生活をしてくださいというふうに、所得税法が決めをつけているわけでございます。この生活の中には、例えば費消に当たる部分、飲食とか、衣服とか、交際費、そういったものもございますし、例えば家賃というものもあるでしょう。それから、利払いというのもあると思われます。その上で、貯蓄・投資という、投資も行われるわけでございます。これは、税引き後の所得からそれぞれの生活のあり方ということで投資が行われる。

これで所得税の世界は完結するわけでございますが、例外が2つございまして、まず左側でございます。実現した貯蓄・投資のネットリターン、これは収入にもっていきます。例えば金利収入がありました、これは金利収入ということで利子課税が行われる。配当というものがあった、これは負債利子控除というのをやった上で収入にカウントされる。この「実現した」というところが悩ましいところでございまして、譲渡所得につきましては、譲渡があったときに、譲渡価格からそれを買った値段、取得費を差し引くことで実現益ないし損を計算する、このようになっているわけでございます。

もう一つの例外が、いわゆる雑損控除でございます。税引き後の所得で生活してください、こうなっているわけでございますが、災害、盗難、横領、こういうことで生活に通常必要な資産の損失、例えば住居でありますとか、家具、什器、さらに現金、こういったものも入ります。災害、盗難、横領、すなわち本人に責めが帰せられない場合、これについては、生活が困ることになるでしょうということで、その年の収入の1割を超える損が生じた場合はその超えた分について雑損控除を行う、このようになっているわけでございます。

「災害、盗難、横領」と現在はなっておりますが、過去に改正がございまして、横領というのがつけ加わった経緯がございます。当初は災害と盗難だけであったわけですが、横領というものを途中で足しました。そのときに、例えば詐欺を入れるべきではないかという議論も当然あったわけでございます。ただ詐欺というのは、ある種だまされたということもございます。いわゆる盗難に近いものということで、横領だけを入れようと。これも実は政府税調でご議論いただいておったわけでございます。

このように、一定の場合、それも本人の責めにない場合に、かつ生活に困る、こういうことを反映いたしまして、雑損控除というものが税額計算のところにフィードバックする、このようになっているわけでございます。

以上、今のバックグラウンドをご説明いたしましたが、メモに関して、あと2、3分お時間を拝借したいと思います。

前回まで、損益通算の範囲を極力広めるべきだというご議論をちょうだいしております。それを整理いたしますと、上のマル3つかなと思われます。包括的所得観念。対語といたしましては、制限的所得概念というものがあると思うのですが、そういった概念をとらずに、すべての所得を課税ベースに入れてしまうことをする以上、損失もパラレルに反映させるのが自然であろうという考え方、これが一つございます。

それから、経済的な観点からいわゆるポートフォリオがある。その範囲内の通算というものは当然やってしかるべきだと。ポートフォリオと一言で申しましても、その中にはリスクの程度の差等々があるわけでございます。先ほどアメリカの例で見ていただきましたが、ポートフォリオの中では通算をする。利子、配当等をするわけですが、それ以上スピルオーバーはないようにしてある。さらに譲渡所得については別な扱いをしているという例もございます。

3つ目でございます。これはいわゆる政策性を持ったものでございますが、「貯蓄から投資へ」ということで投資リスクをニュートラライズしようというものでございます。典型例といたしましては、例えば日本の制度でもベンチャー税制として、ベンチャー投資にかかるものにつきましては、投資した株が紙くずになった場合、先ほど申し上げた滅失のケースでございますが、ベンチャーの場合は滅失することもよくあるだろうということで、これをあえて株式譲渡損とみなすという措置もしております。このような場合は、まさにリスク投資へドライブをかけるという政策性が見てとれるわけでございます。

この辺につきましてはいろいろご議論がございましたが、大体今までのご議論で尽きているかなと思いつつ、下の4つでございます。所得の性質の差異。先ほど過去の税調答申で見ていただきましたが、引かれる益のサイド、それから引く損のサイド、それで所得の性質に差がある場合もある。典型的には、譲渡所得とそのほかの経常所得というのには、そもそも所得の性質に差があるのではないかという論点でございます。

さらに、それも踏まえて課税方式が違う。例えば総合課税に片足を残したままの配当課税、このままでいいのだろうか。それから堂々と差し引くということでは、そのままでいいのだろうかということもございます。そういうことで、損益通算を考える際には益のほうの課税のあり方も当然議論の対象にしなければいけないかと思われます。

3つ目、租税回避の防止。タックスシェルターをふさぎたいと、各国ともこれに一生懸命苦心をしているということでございます。

そういったことを全部ひっくるめまして、益についてはちゃんと課税され、損についてはちゃんと面倒を見る、そういったことが担保される適正な税務執行をどのように構築すればいいのか。

この損益通算、経済的な観点からのご論議、さらには制度を具体的に構築してからの観点、いろいろあろうかと思いますが、本日、これからご論議いただきましてさらに議論を深めていただきたい、このように思います。

以上でございます。

委員

それでは、これからの時間で、損益通算の基本的考え方について、ご意見、あるいはご質問等をいただきたいと思います。またその中で、先ほどの事務局の説明に対する質疑や、意見等も併せてお願いしたいと思います。

どうぞご自由に議論いただいて結構ですが、あまりばらばらな議論になるのも何かもしれませんので、今の最後のメモに7点あって、最初の3点がわりと経済的考え方に関する点で、あとの4点が、制度にかかわる点という話がありました。あるいは、25ページの表がありますが、これに関していろいろな議論を始めることが、たぶん制度にかなりかかわる議論だと思います。まずは、別にそれを議論してはいけないというわけではありませんが、どちらかというと哲学的なといいますか、最初の3点の経済的物事に関する考え方についてのご意見等がありましたら、そちらから中心にお話しいただければと思います。

委員

所得の性質の違いということで、譲渡損益はちょっと別にという話があったと思います。改めて言うことでなく、過去から出ている話ですけれども、要するに金融技術の発展とともに、インカムゲインをキャピタルゲインに変換したり逆にしたりとかいうことが、かなり容易になりつつあるという現状があるわけですね。所得の性質を与件として必ずしも考えられないという状況があると思うのですけれども、改めて、そういう状況をどう前提的に認識して議論するのかというところがもうひとつよくわからないので、何か補足的なお考えか説明があれば、伺いたいと思います。

委員

その点に関して、事務局のほうで何かございましたら。あるいは、特に税法の方、何かありましたら追加的に補足いただいても結構です。

事務局

もちろん、金融技術の発展と申しますか、変化によりまして、キャピタルゲインとインカムゲインを峻別できない、そういう領域があることは我々も認識しております。ただ一方で、例えば単純な土地の売買をはじめ株の売買、こういったいかにも明確なキャピタルゲイン・ロスというのもあるわけでございます。ご議論をこれからやっていただくわけでございますが、まさに範囲をどこまで見ようかという論点と、仮に認める場合でも、何らかの限度を設けるかというような政策論も出てこようか、このように思います。

委員

どうぞ。

委員

最近のいわゆる二元的所得税論というか、金融資産性所得に対する一元的な課税をしようという方向に向かっているのは、非常にいいことだというふうに感じているのですけれども、例えばデリバティブと言われるようなもの、先物取引とか為替取引とか、そういったものから出てくる損益というのは、例えば雑所得であったり、それから、ハイブリッドな金融商品から出てくるものも、場合によれば利子所得だったり、配当所得だったり、雑所得だったり、それから譲渡所得だったり、一時所得だったり。

結局、金融商品の技術的発展によってハイブリッドなものができてくるにもかかわらず、それを所得の性質というところでまだ分けようというところに、一つの出てきた所得がいろいろな所得の中に分かれていかざるを得ない部分がある、そこを根本的に考えなければいけないのかな、と。例えばそれ以外に、外貨建て有価証券などの場合、一つ為替が絡んでくると、今の課税の中でなかなか難しいのではないかという感じがしまして、そちらへ向けてもう一歩進められないのかなというのが私の感じです。

委員

それに関連して。おそらくこういった損益通算の範囲が決まってくれば、その損益通算の範囲に応じたデリバティブの商品が出て、損益通算をうまくできるような商品が出てくることも十分考えられるのではないかと思います。

委員

毎回、議論を伺っていて頭の中が混乱するのですけれども、一つは、所得の性質によって区別するという問題。法人の場合の金融取引の場合には、これを全部まとめていますから、それを除きますと、一体個人で、株式オプションだとかいろいろ、個人対象の商品について限定して考えることになるのではないかと思います。

それから、包括的所得概念と二元的所得概念。これはこの間も申し上げましたけれども、所得の区分をもし仮に2つに分けると二元的所得税。そういった場合に損益通算というのはやはり基本的には別々の形になって、それぞれ違う税率が適用されることになるだろうと思うわけです。損益通算をやる以上は総合課税一本の税率が適用される。それが普通の筋道ではないかと思うわけです。例外的に山林所得だの退職所得なんていうのは、もともとは分離課税しますけれども、ほかの所得がマイナスの場合には、さらにそこへ食い込んでということはあるのですが、金融所得を一体としてとらえることと、損益通算をどういう範囲で考えるか。このあたり非常に混乱しやすいものですから、どう考えたらいいのかなと、いまだにちょっとわからないでおります。

委員

私、ちょっと誤解しているのかもしれないので、少し整理させていただきますが、委員のお話は、二元的所得という考え、金融とそれ以外の所得ということを考えたときに、金融所得の中で総合通算をするならば、それもそれこそ総合課税にしろ、そういうご趣旨ですか。

委員

金融所得として分けるのだけれども、もしほかの所得がない場合に、金融所得に食い込んで金融所得から相殺しますという場合はどうするのですかという、ある意味で疑問点ですね。

委員

金融所得とそれ以外の所得の間の総合通算をどうするのか。

委員

ええ。もしやらないという場合であれば、スウェーデン方式でしっくりするのですが、やるよということになると、では一体どういう性格の税制になるのだろう、疑問があるな、ということです。

委員

私がこの間以来の議論として理解している話は、金融の中でだけ通算をして、それ以外とは仮にロスが出ても通算しないというのが多数意見なのかなと思いますが、もちろん、そうでないというご意見があったら、どうぞおっしゃっていただきますが。

どうぞ、今の点に関して。あるいはそれ以外の点に関して、どうぞ、ご自由にご意見がありましたら。

委員

今の3先生がおっしゃったことと関係するのですが、損益通算というのは、先ほどの事務局説明にもありましたように、異なる種類の所得間でやるという大前提があると思うのです。金融所得で収益を一体にと言われるときに、いわば一つの所得類型のように考えるのか、そうではなくて、ばらばらの所得なんだけれども通算をするのか、というところの整理が、どうも前回からの議論を伺っていて私もよくわからないところがあります。

つまらない例を出しますが、雑所得は、先ほどの説明のように69条の1項で損益通算に損を持ち込めない、しかし、雑所得の中でプラスとマイナスがあったら、当たり前の話ですが、35条の中でそれは雑所得の計算に使える。だから、雑所得の損失があると、今、公的年金が雑所得ですから、そこに入れて、それは損益通算ではなくて所得計算として使える、こういうことがあり得ます。つまり、一つの所得類型として作るということと、その枠を超えて損益通算をするということはおそらく違う問題であって、一体と言われるときにどっちを念頭に置いておられるのだろうかということが、やや、私には不分明なところがございますので、指摘だけです。

もう一点は、包括的所得概念という立場に立つと、できるだけ広く通算するのが当然であるというのはまさにおっしゃるとおりですが、一つそれが阻まれるとしたら、やはり家事費との関連だろうと思います。私、不勉強でフランスのことは存じませんでしたが、アメリカでも、ホビー・ファームはホビー・ロスとしてやはりロスを否定されている例があります。果樹園の運営で出たロスの通算を否定した、租税裁判所の裁判例があったと思います。それが、アット・リスク・ルールができる前のアメリカだったと思うのですが、タックスシェルターからのロスを通算しないというときにもやはりホビー・ロスという言葉を使って、一部の裁判例がそれを制限しようとした経緯があったと思います。

包括的所得概念に立ってなお、ここからが問題なのですが、果樹園の栽培などはホビーであり得るとした場合に、金融商品を一定限度扱っているというのは、ホビーという言葉はよくないかもしれませんが、どれだけ家事なのだろうか。普通に銀行口座を作って公共料金の引き落としや給料の振込みをしている、それに利子はつきますというものと、さらに、ある程度投機的に株の取引をしているというものは、同じに扱っていいのか。私はまだ定見を持っておりませんが、いいのかどうかということについておそらく論点はあろうと思いました。

2点申し上げました。

委員

最初の損益通算の話ですが、経済学の側から言うと、ああ、そういう定義だったのかという感じもあるのですが、一つの所得の中で損益通算というのが、株の譲渡所得などについてはこの数年間使われてきているわけですよね。それはやはりまずいと。要するに、言葉として別の言葉を使ったほうがよろしいですか。

委員

同じ株式の譲渡損益で、A株の譲渡損をB株の譲渡益から差し引くときは損益通算とは言わないように思いますが、先生、いかがですか。普通は使ってなかったと思いますが。

委員

損益通算というのは、69条でそれぞれの所得の種類の間の話ですね。

委員

ですから、その壁を越えて、一つの株式関連所得という類型をつくって、中で差引をしますよと言われるのと、そこから越えて利子・配当と通算しますというのは、おそらく我々の中では違う言葉であると思います。

委員

中は、「通算」ぐらいですか。

委員

何ですかね。

委員

要するに言葉を整理しておかないと、今後の議論が混乱すると思うので、それだけの理由で申し上げているのですが。

事務局

先ほどの資料の1ページでございます。所得分類という欄に、上から、給与、雑、こう書いてございます。ここまでがいわゆる所得計算というものでございます。このいわゆる一つの所得分類になっているものの計算というのは、両委員おっしゃるように、損益通算とは申しません。あくまで所得計算の一環ということでございます。この所得の分類を越えて損と益をネットアウトするというのが、次の右の欄ですが、損益通算。このようになっているわけでございます。

ただ、金融所得というような新しい所得分類をつくって、その所得計算という仕方でやるか、ないしは、現行のこの所得分類を前提としてその間の損益通算というツールを使うか、この辺はある種法律の仕組み方でございます。この辺はむしろ中身を具体化していただいたあとに、どのような法律にすれば制度の整理として簡明かという議論ができるのかと思います。

委員

よろしいですね。これは単なる例ですが、株の譲渡損を例えば配当の益と通算するというのを、当面は相互通算という言葉で呼びましょう。結果としてそれが金融所得として一体化されてしまうと、その段階では相互通算でなくなるわけですが、議論を整理するためには当面は相互通算という言葉を使っていきます、と。

委員

今との関連で、いただいた資料の19ページのところに、いろいろ利益とか損失があるわけですけれども、例えば、先ほどの利子がキャピタルゲイン、キャピタルロスというのは、インフレ連動債というのが今度出てくると思うのですが、それを利子のほうにインフレ分を連動させるのか、元本に連動させるのかで、これを見ていますと、税金が違ってしまうわけですね。そうすると、利子と元本のところで分けるというのはもう時代遅れになってくるのではないかなという気がいたします。

では、どことどこで通算するかということと、この表でありますけれども、利益に非課税のときには損失もなし。対照にしているわけですけれども、利益のときに非課税で損失がないことが、どれほどそこの資産に対する需要を変化させているかというのを考える必要があると思います。債券の場合には、特に国債なんか今すごく出てきておりますけれども、今後、国債の売却損というのが出てくる可能性がずいぶんあるわけです。そうすると、利益も課税しますし、損のときも認める、そういう考え方もあるかと思いまして、非課税にしていて損を認めない、こういうものが今後本当にどれくらいいいかなというのも一つあります。

それから、いろいろな金融資産を合わせる場合に、現状では株式の流れが多いと思うのですけれども、私はむしろ金融所得全般で考えて、株、債券、それから日本の場合には、外貨の海外への投資が少ないのも、先ほど他の委員がおっしゃった、為替リスクに関する考え方がきちんとなってないといけないような気がしますので、やはりポートフォリオを金融全体で考えたほうがいいのではないかというふうに思います。

委員

先ほど前半と後半と言いましたけれども、後半の議論がたくさん出ていますので、どうぞご自由に全体について議論していただければと思います。

委員

前回からの議論とも絡んでいると思いますけれども、そもそもどういう戦略で問題を整理するかということで、もし、給与、賃金等々、資本所得と同じ税率で済むならば、全部一本でもいいし、具体的に言えばノルウェーの形で、一般所得という形で全部通算してかけていい。なおかつ、税金が足りないので給与からかけたいというときは、特別なことをやるという戦略があると思うのですけれども、まあ、そこまではできない。とにかく現実的に考えると、給与、賃金のほうは限界税率50%でかけてますよね。で、資本所得は少なくしたい。いろいろな議論は、包括的所得課税がいいとか言うけれども、片方の所得に対して高い限界税率をかけている以上は、包括的には現実的にはできない。では、それを解くような形でノルウェー的なものにするかというと、そこまで踏み込むこともできない。とすれば、現実的なソリューションとして2つのタイプの所得を分けましょう。

そこまではいいと思うのですけれども、そこが、前回からも、今日もまたお聞きしてわからないのは、金融は合わせましょうと。今日、財務省からご説明いただいた最後の表は、何かもう答えがあるみたいで、このバツみたいなところをマルに反転させれば、範囲が広がっていいのかなということなのでしょうけれども、私が思うのは、金融所得としてひっくるめて通算を広げる、そこまではいいけれども、やはりここは金融の人たちに議論していただきたいのは、それでもってデリバティブとか証券化が発展しているときに、不動産からの売却益等々が金融所得に化けてしまうと、そこで線は引けない。そういうふうな節税まがいのものが、この税を作ったためにワーッと出てくるというのはどのくらい現実問題としてあり得るのか。

そうすると、今言っている議論の一番根っこは、どこで所得が切れるのか。給与、賃金、年金は切れるだろう。まあ、年金は危ないかもしれないけれども、そこは切れるだろう。切れない間の部分が、どのくらいの現実問題として問題を引き起こすのか。そこを詰めないと、この制度を作ったために、不動産所得あるいは不動産の売却益が金融資産に化けるようなものをかえって誘発するのではないか。だから考え方は、そういうふうに大ざっぱに私は思っているのですが、これがフィージブルかどうかというのは、グレーゾーンがどれくらいシリアスな問題なのかというのをぜひ詰めていただきたいと思います。

委員

まさにそこが、不動産の問題だけではなくて、さっきから出ている譲渡所得とそれ以外のものに関してもそうだと思うんですね。つまり、デリバティブが入ってきたときに本当に切れるのか、どこで切ったらいいのか。ここら辺のことに関しておそらくいろいろな形の専門家の方がいらっしゃると思うので、今の委員の問題意識を踏まえて、逆にいえば、あまり問題ではないのだから、事務局が説明したように、外国ではかなり制限しているのだからもっと制限しましょう、というお考えの方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、さっきの事務局からの説明で言うと、例えばですけれども、課税方式の違いみたいなものがあると通算は非常に難しいのではないですか、という議論もあったわけですね。そういうことも含めて、どうぞ。

委員

まさにその辺がポイントだと思うのですが、これ、金融の範囲をどこまで認めるかという問題ですよね。これは理論的にきちんとしておかなければいけない、理論的に説明できる内容がないといけないと思うのですが、問題を簡単にするために極端に言うと、すべてを全部通算していいということにしたときに何が問題かというと、それぞれ税率が違うところは問題になりますね。税率が同じところについては基本的には全部やってもいいのではないかということは、一つの理論的な根拠にはなるのではないかと思います。そういう意味では不動産というのは、今度、譲渡税率を同じにすることはそのベースかなと思いますけれども、そうなると、不動産の範囲と、さっき、前の税調の答申のところで、生活に通常必要でない資産にかかる所得、書画、骨董、競争馬、この辺はなるほどと思いますけれども、理論的な根拠はどこにあるのだろうかという感じがするんですね。

実際そうなると、租税回避行動がやりやすいかどうかというところが大きなポイントになるのではないかと思います。租税回避行動が、現実的にはデリバティブで行われるかどうかということ、そこが最近では一番ポイントかなと思うのですけれども、これから議論する上では、「生活に通常必要でない資産」というのは理論的にはどうもはっきりしないから、この辺は、やろうとすればきちんと整理しなければいけないのではないか。実際に、「生活に通常必要でない」というけれども、これを業にしてやっている人もいるわけでしょうから、その辺は非常に曖昧ですよね。

これも基本的には、それでもって租税回避行動をすることを防止しようということだったのだろうと思います。これは前の答申だろうと思いますけれども、その辺を、新たな定義、そこまで含めてやれるような形が理論的に何か考えられたのかなと思います。不動産をベースにした金融所得というのは、以前から出ていますように、ほとんど金融と同じくらいになってきているという意味では、私は不動産は含めるべきではないかというふうに思います。書画、骨董になるとどうかなと思いますが、それも、理論的には含めて議論できるような根拠を考えておく必要があるのではないかなというふうに思います。

委員

例えば配当所得とか株の譲渡所得のときに、現状では借入金の利子を控除できるわけです。ということは、個人なんだけれども、お金をたくさん借りてきて株投資をして、大きな損失が出たら、それはほかの金融所得と通算できるとか、そういうことはポートフォリオというふうに考えていいのかなと、個人的にはちょっと疑問にも思うんですね。それが本当にそうなのかどうかわかりませんよ。ただ、普通ポートフォリオというと、持っているお金をどう運用するかですよね。大きなお金を借りて非常にリスキーなところに投資をするポートフォリオは、これ、ポートフォリオなのかなと思わなくはないですね。

なぜそういうことを言い出すかというと、不動産ということに、やれ長期だ、短期だ、投機だというようなことをいろいろ言うのは、世上そういう認識があって、お金を借りてきて土地に投機的に投資をすることは、普通のポートフォリオ投資とは違うんだよ、という常識が何となくあるような気がしていて、それをそもそも経済学的に何か分けて考えますか、税法的に何か分けて考えますか、あるいは、デリバティブとの関連でこれは分けようがありませんというふうに考えますか、そこら辺、要するに問題意識の提供なのですが、どういうふうにお考えになりますでしょうか。

委員

先生が、ショート・セールに対してそういうふうにネガティブな感覚をお持ちだというのは意外ですけれども、やはりショート・セールを含めてポートフォリオだと思います。

委員

不動産も含めて……。

委員

借入をして、安全負債を発行して危険資産を取得するというのを含めたのがポートフォリオだと思いますけどね。

委員

そういうふうに定義するということですね。

委員

ええ。ショート・セールをするのが現実的に難しいという制約があって、保有資産の間でのポートフォリオを考えるということはあり得ますけれども、原理的にはそういう制限があるものだとは思わないですけどね。

委員

借入をして投資をするというのも、自分のリスクでやるのだとすれば、私は、あながち否定されるべきものではないのではないかなと。逆に、ある金額で、これ以上は個人はやめなさいということがひょっとすると社会通念上あるかもしれませんけれども、ただ、一つだけ問題なのは、それがちゃんと金融投資に向かっているのか、それとも家事的な部分に行っているのか、そこだけきちっと峻別さえできれば、ある意味ではそれが一つのポートフォリオとして--もちろん、合理性がもう一つある必要がありますけれども、借りた金で全部金融的な投資でいけば、ある程度そこの捕捉というか、関係はわかるのではないか。したがって、ダメだというふうに線は引けないような感じを持ちます。

委員

損益通算の問題ですが、メモのところに書かれております、「所得の性質の差異」というのがあると思いますけれども、一番の問題は、この所得の性質の差異がわからなくなっているということがあると思うのです。これはキャピタルゲインなのか、配当なのか、利子なのか、峻別しろと言われたらできなくはないけれども、明らかにアドホックさが伴いますし、そうなれば当然、隙間を突いた形でイノベーションというのは起きます。先ほど他の先生からもご指摘がありましたが、こういう規制を設ければ必ずそれに対抗する商品が出てくるわけで、ああいう人たちは頭いいですから。

ただその一方で、別の先生がさっきおっしゃったように、ある面クリアに峻別できるもの、ある意味で二元的所得税はそれで悪くないアイデアだと我々経済学者が思うのは、労働所得というものと……、ただ、これもストックオプションとかあればまたわからなくなりますけどね。労働所得という性質と、金融所得というか資本所得というものは、違うでしょうということ。ここはある意味で線引きが効くでしょう。ただ、同じ資本所得、中でも金融所得とか不動産関係ということでやると、これはちょっとクリアではない。あるいは、金融所得の中でもキャピタルゲインとか、利子とか、配当であるとすれば、これも、定義づけはできますけれども、やはり明確なラインを引くことは難しいかなということになってくれば、損益通算というものをとらえるならば、やはりクリアに選別できる範囲でやるしかないのかなと。

私は実は、むしろ損益通算を、例えばキャピタルゲインならキャピタルゲインの範囲の中で制限したほうがいいのかなと最初思ったのですが、逆に、キャピタルゲインと配当とか、利子とか、そこの峻別がクリアにつかないとすれば、そういうふうに既存の所得のカテゴリーで限定することが、別の歪みというか、租税回避行動であるとか、そういったものを招くだろうなということを考えるならば、例えば一つのアイデアは、むしろアメリカがやったみたいに、割り切って例えば3,000ドルなら3,000ドルまでという形で金額で限定するというのも一つありかなと。その一方で、損失であればそれは繰越し。今、日本は3年が限度だと思いますが、それを少し延ばすか、イギリスみたいに無限にやるか。そういうふうにして考えていかないといけないのかな、という気はしているのですけれども。

委員

この問題は、おそらく最低でも2つアプローチがあると思います。

1つは、クリアに分けられるかどうかということを考えていって損益通算の範囲を考えるという、今までやってきた議論です。

もう1つは、これは訳のわからない部分がかなりあるのだから、大きく網をかけて、租税回避の防止でこれに対抗する、そういう方向です。今、最先端のデリバティブを念頭に置いたご議論が交わされていましたが、例えば事業所得、個人事業主が法人になり給料のほとんどを配当で受け取れば、これは配当になるわけですよね。一方で、金融商品にだけ通算できる租税回避商品を買い込んだと考えると、これは事業所得と事実上通算できてしまいますから、何か特殊関係者で、何%以上持っている株からの配当はこの配当とはみなさないというような、例えばそういう規定を設けざるを得ないだろう。デリバティブなんて言わなくてもおそらくそれは必要になってきますので、わりあいに広く網をかけて租税回避のところで一生懸命考える。

あるいは、私はあまりいいとは思いませんが、アメリカの歳入法469条のPAL(Passive Activity Losses)のようなものを持ち込んでくることを含めて対応するのも一つの方法かなと。クリアに分けるか、分けられないかという議論をせずに、網をかけて租税回避の防止で精緻に対応する。これは法典の複雑化という点で大問題が起きますが、それもアプローチかと思いました。

委員

経済学者側の議論がわりとあれしていて、別にそれはいいことだと思うのですが、逆に税法の方々のリアクションもちょっと怖いので、できれば一応伺っておきたいなという感じがします。今、委員から出ましたけれども、他の委員の方々ございませんか。

委員

先ほど疑問点をお話ししましたのですが、かつて株式の譲渡が原則的に非課税だったときにどうなっていたかというと、不動産譲渡に類似した譲渡の場合には課税すると、完全に租税回避を封じる規定を置いたのですけれども、今日で20%になっていますが、やはりそういう形での課税逃れというのは、線を引けば必ずその周辺で出てくると思います。

それから給与所得につきましては、今、週末になると必ず電話がかかってくる、いわゆるワンルームマンション。あれで購入して人に賃貸して利子を引いて、それから減価償却をやると必ずロスが出ます、これを給与と相殺すればあなたの税金は返ってきます、というのでやっていますけれども、そういうような形。損益通算、いわゆる損失をどう扱うかという問題で、損失というのは課税所得を減らすことはできますから、よっぽどうまくやらないと……。たしかに金融所得でくくると、利子と配当を区別しなければいけないとか、株式の譲渡と償還差益の問題についても、株式の譲渡になるか、それとも利子になるかを区別するとか、そういった問題は一面片づくような気がしますけれども、もっと微細な面で問題が出てきてそうだなという気はしております。

委員

執行可能な制度をどういうふうに組むかということが非常に大きな問題になってきて、もちろん国税や地方税の当局の方にとっても、あまり複雑なルールで、例外の例外の、そのまた例外のそのまた例外というようなことを常に頭の中に置きながら執行というのは、これもなかなか厳しいですよね。納税者にとっても同じことで、あまりルールが複雑化すれば、多くの納税者は途方に暮れてしまって、そちらのことがいやだから投資しないとか、そういうことも起こってくる話で。大多数の一般の納税者を前提として、そういう場合には、比較的執行の容易な、マイナスを引くとか引かないとかそういう細かいことを言わなくても、面倒だから投資しない、面倒でなければ投資するという方のための、これは額とかで制限すればいいのかもしれませんけれども、そういうルートはあったほうが結果的には経済理論的に中立化……でも、中立なんですね、そのほうが。行動に影響を及ばさないという意味では。

ソフィスティケーティッドな納税者は、これはいろいろなことをするわけで、特に不動産所得とか事業所得という形にして、利子とか減価償却とか、言葉は悪いですけれども、半ば人為的につくり出すということはどこの国でもよくある話で、課税当局は、国税でも地方税でもこういう場合に非常に頭を悩ませ、納税者のほうもきっと大変なんだと。何が大変だかわかりませんけれども、大変なのだと思います。そこで租税回避否認のルールを作って、まあ、紛争がどうということはあるでしょうけど、そういう非常に複雑な場合について、シンプルなルールというわけにはなかなかいかない。複雑な場合についてだけ考えると、民法なり商法なりで所得の性格がある程度決まってきて、所得税法は、基本的には民法なり商法なりの所得のルールを前提としてできているわけで、元本と利子を区別しないというのは経済的にはそうなんでしょう。今、金を払って、将来返ってくれば、元本の形で返ってこようが、利子の形で返ってこようが、キャピタルゲインの形で返ってこようが、キャッシュフローはキャッシュフローでそれに色はついていないというのがファイナンスの基本ですから。

それはそのとおりだと思うのですけれども、所得税の制度をそうしてしまうと、所得というのは把握することができなくなってしまって、それもちょっと大きな矛盾になってしまう。そういう複雑な場合には、一定程度、単一の投資をしてリターンがあった場合に、アメリカですとOIDルールというのでしょうか、この部分だけはリターンとみなしますよというような計算式を、複雑な取引をする納税者に用意をしておいて、利子であってもキャピタルゲインであってもその部分については同じように課税する。場合によってはマイナスを引く。ただし、人為的なマイナスについては利用を制限するという、非常に複雑なルールを用意することになるのではないかと思うんですね。

ただ、明治の昔から存在してきた所得類型を全部なくして、租税法独自に、あらゆる取引について、この部分が所得でほかは元本の返還です、というようなことを所得税法の中で全面的に定義できるかといったら、これはできないですし、仮にしたとしても、曖昧なところが残りますから、執行のサイドが困ってしまう。それから納税者も困ってしまう。不必要な紛争が起こることになると思うんですね。

そこは私は、二元的というときに、給与なり事業なりと金融所得ではなくて、一般の納税者と複雑な納税者の二元的な扱いというのか。現実に世の中はそういうことになっているのだろうと思いますけれども、多くの方にとっては面倒なのが一番困るわけで、多少余計に払っても面倒さえなければ安心していられるというのが、一番心理的にもいいということはあるのだろうと思います。まあ、そういうことをここで言ってもしようがないのですが。あまり法律的な議論ではありませんけれども。

委員

例えば一つの考え方としては、通算の上限を設けるとかいうようなことを設けて、一般とそうでない人を分けることはあり得るのではないですか、というお話だというふうに考えてよろしいですか。

それから念のために、先ほど問題意識の提供という形で言いましたが、投機だと言ったからだいぶ反発を買ったみたいですけれども、申し上げたかったことは、譲渡益というのは実現のときにしかつかまえられないという問題がありまして、したがって、さっきの話ではないですけれども、株でも土地でも膨大な借金をして買ってくる。実は未実現の利益がものすごく出ているのだけれども、それを実現化しなければ全く税を払わなくて済むという節税行為がかなり自由になる可能性がある。こういうことは本当に大丈夫ですかね、と。ですから、デリバティブの問題と節税の問題と、両方をバランスよく見ていく必要があるのかなというふうに私は思っているのですが。

委員

せっかく法律学者の議論に割り込んですみません。幾つか大きな点、さっき申し上げたのですけれども、金融所得でどこまで整理できるのか、グレーゾーンはどうなのか。今、金融所得の中で調整できるではないかというお話でしたけれども、そこは避けられない。先ほど他の委員がおっしゃったことは、私は非常に重要だと思う。

つまり、今何を議論したいかというと、狭い意味の金融所得ではなくて、証券化されるような、あるいはもっと思い切って言えば不動産所得まで含めたような所得、益ですよね。それももう区別がつかなくなってきて、不動産及び金融資産からの所得というカテゴリーが一つある。それが給与、賃金を侵食しない、また、事業所得の中の分け方を侵食しないというところがポイントだと思うのです。そうすると、さっきのワンマンションなんていうのはまさに事業所得が給与所得を侵食するわけです。日本はそれを結果的に許している。金融所得課税といいながら、一番クリティカルな給与所得に対して、他の所得、あるいはロスが侵食する道があるわけですよね。

それから、そちらの先生のは、皮肉なことに、ノルウェーでも一番頭を悩ませたのは、一般所得は28%で、労働所得になると高くなる。そうすると、まさにおっしゃったように自営業者が資本所得に化ける。ところが、日本はいいか悪いか、ここからは半ば冗談みたいな世界ですが、給与所得控除が非常に大きいから、皮肉なことに出てこないわけですよね。それは皮肉ではあるとしても、ポイントは、さっき言ったグレーゾーンの話とこの議論。むしろ塞ぎたいのは、給与所得、あるいは、理論的に言うと自営業者の所得の報酬部分に侵食しないことがポイントではないですかね。今の世界では、委員がおっしゃるように、どれだけ賢い納税者がいるかどうかわかりませんけれども、また限界税率が50%になってきたので、まあまあよくなってきたのかもしれませんけれども、その道は今あるわけです。やや皮肉な感じはしますけどね。

だから私の議論は、グレーゾーンをどうしますかということと、給与所得、あるいは自営業者の所得の報酬部分に侵食する、そこの道はカットすべきではないのか、我々の議論でね。それがとりあえずの今の議論で、その先さらにどうするかというのはこの委員会のテーマではないと思います。

委員

具体的には何を。

委員

具体的には、金融所得の範囲、グレーゾーンというのは、もっと専門家の方に議論してもらわなければいけないですけれども、広げなければいけないだろうと。そして、むしろ給与所得に対して、今言っている形の金融的な事業資産のロスが引けるところは切ってしまえばいい。

委員

不動産所得そのものをここで扱えるのかどうか私は存じませんから、そこは論じません。先生がおっしゃった、金融系のロスが、事業それから給与のタックスベースを侵食できないようにするべきだと、それはここのテーマだと思いますし、100%賛成です。そこまでは制度的に作るのは総体的には難しくないと思うのですが、そこで止まるということは、金融系のプラスを金融系のマイナスで自由自在にシェルターしていいという状況をほったらかすことになると思うのです。

私は、そこから先がここでの問題であって、第一段階どうしても守らなければいけないのはまさに先生のおっしゃるラインであって、事業と給与を守ろう、それはまさにおっしゃるとおりです。そのもう一つ向こうに、金融系のプラスもそれなりにちゃんと課税できないといけないというシステムが必要で、そこをどうするかというのが、やはり色分けの問題と絡んで難しいのではないかと思います。

委員

簡単な例を挙げますと、最近、ストックオプションが問題になっています。これは給与所得か一時所得かと話題になりましたけれども、金融所得、あるいは金融関連所得になると、これはオプションなんだから金融所得に決まっているではないか、そういう議論があっさり出てくると思うわけですね。そういうようなものが一つあります。

それから、わが国では非常に輸入が盛んです。今、ストックオプションが定着するかわかりませんけれども、例えば「プロフィット・シェアリング・プラン」といって、労働者に利益の一部を分けるようなプランも持っている。これは、株主ではないけれども、配当みたいなものを従業員がもらう、これもやはり金融所得ですか、と。そういう形で必ず議論になるんですね。だから、たしかに利子と配当なんていう、もともと金融所得同士だったものを区別するのは簡単になるかもしれないけれども、先ほどから出ていますように、不動産所得にはみ出す部分だとか、給与にはみ出す部分、この辺との区別が今度は大変になるのではないかなと思うわけです。

メモ書きの最後には「適正な税務執行」と書いてありますが、税務執行が適正に行われていたら、ストックオプションを一時所得という解釈はまず出なかったであろう。やはり情報不足が原因だったと思うんですね。こういう新しいものがどんどん出てくると、一番最後になっていますけれども、それに対応する適正な税務執行、調査課で調べた諸外国が非常にたくさんありますが、こういうものを国税当局も検討しながら対応していく必要はあるのではないかと思います。今の付け足しですが。

委員

たしかにさっき先生がおっしゃったように、一つ守りたいラインがある。特に給与所得というのは累進課税ですから、そこで税収を取りたいという本音がありますから、とりあえずそこの課税ベースが侵食されるのは防ぎたい。その一方で、では、先ほど他の先生からご指摘がありましたように、金融所得の中で自由に損益通算させて、ある意味であえてロスを出して課税を逃れることを許してもいいのかどうか。そこはたしかに問われるべきことだと思うのですが、そこでまた細かく、この場合は節税行為とみなして損失を認めないとかそういうことになってくると、さっき他の先生がおっしゃっていた、複雑化というのが起きてきます。これはほとんどイタチごっこの世界に入ってくるような気がします。私は、もちろん節税対策が必要だというのはわかりますけれども、あまり複雑にしないこと。別にこだわっているわけではないのですが、だったら、認める損失額に上限を設けるとか、そういうふうな形で比較的わかりやすく、かつユニフォームに適用可能なものに限定したほうがいいだろう。

その一方で、さっきのストックオプションの話も出てくるのですが、たしかに二元的所得税というのは、金融所得と労働所得という側面のほかに、賢い納税者と普通の納税者の区別ということで考えるならば、ある意味で普通の納税者はこんなのでいいと思うんです。普通にやればいいと思うんですね。で、賢い納税者に関しては、たしかにターゲットに応じた対応、不動産所得の問題、ストックオプションの問題というのはあると思うんですね。特にストックオプション、これがどれくらい浸透するかわかりませんが、対象になるのはマネージャーさんとかそういう人たちなので、だとすれば、比較的ターゲットは絞りやすいと思いますから、ソフィスティケーティッドなタックスペイヤーか、ナイーブなタックスペイヤーかで、ある程度節税対策というのは分けて考えていってもいいのかなというふうに思います。

もう一つ、すごくナイーブな質問ですけれども、ここの議論の前提条件になっていることは何かというと、キャピタルゲインをとにかく実現ベースでしか課税できないというのは前提条件なんですね。もう一つはよく考えてみたら、金融所得を個人ベースでかけようというのがやはり前提条件だったんですね。前者に関してですけれども、発生ベースで追いかけることは本当にできないのかね、ということ。もちろん、骨董品であるとか不動産屋は難しい、それはもうわかりますけれども、例えば不動産関係で言えば固定資産税を実際かけているわけですしね。ただ、特定口座とかができて、個人がもしそこに株とかを入れていけば、定期的に値洗い、再評価ということは理論的には不可能ではないだろう。もちろんタンスにしまっている人のは無理ですけれども。それはふと思ったことです。

委員

最後に委員、一度お話しなさいましたから、実現可能性ということについてどういうふうにお考えになっていらっしゃるか。

委員

プリミティブな議論をしますけれども、企業の話をしているのではなくて個人の話をしているわけです。個人というのはいつか死ぬのですから、未実現のキャピタルゲインを持ち越すとしても、それは相続・贈与の段階で対処する方策は考えられないことはないですよね。そこまで待つよりは、何らかの形で可能な範囲で値洗いをして、その時点で段階的に課税をするということをやっていけばいいのだと思いますけれども、最後は死んだときに清算してもらうというのがあり得る話だと思うのです。それこそインプリメンテーションの問題の難しさを指摘されれば、ちょっと引っ込みますけれども。

委員

今のご意見は、仮にやるとしたら相続税のところにも連動します。最低限そういうことですよね、お話としては。

委員

はい。

委員

そこまでいくと、消費税になっちゃうんですよね、最終的には。たまたま株のキャピタルゲインでしたけれども、ずっと行って、消費したところにかける。さらに消費し切れなかったのは、死んだときに消費だとみなしてかける。だから、こちらの委員が言ったのは、ここでやるには、イッシューとしてやはりやりたいですけれども、議論になる。だから、非常に難しい線をやっていて、ここで今一生懸命やっていることが、実はまた、労働所得のほうに50%かけていて、広い意味の金融所得を20%で整理していってうまくいったと思っても、それがどれだけもつかという問題はあると思いますけどね。まあ、それは次の世代が考えるという。

委員

とにかくできるだけ早くリスクをとれるような税制をぜひ国民に早く提供したいなと、個人的には思っておりますけれども。

それから一つだけ、所得の種類と言ったらいいんですか、要するに損失とかそういうものをどう考えるかというのも一つのテーマだったのです。それも含めて、もしよろしければ議論ください。

委員

定義の問題ですけれども、ちょっと気になるから。租税回避行動の防止というのは、当然、こういうところだから出てくるわけですが、損益通算を認める、そしてそれは、貯蓄から投資へという投資促進の税制にしようと。そういう流れを生もうということであれば、そういう動きを租税回避と呼ぶか、投資促進の動きと呼ぶか。これは定義の問題で、同じことをそういうふうに呼べるわけですよね。ある意味では、租税回避を完全に防止しようと思ったら、損益通算してメリットを取るなということになってしまう面も出てくると思いますので、やはり租税回避というものの定義をはっきりしないといけないのではないかと思います。

例えば防ごうと思えば、上限を設けるとか、先ほどアメリカで言いましたように。そういう非常にはっきりした形でやろうと思えばできるし、制度としての租税回避と損益通算というのは、ある意味で矛盾する部分が常に出てくるのではないかなというふうに思います。

委員

時間がそろそろあれですけれども、議論が全く出ていない話として、一つは、預貯金、公社債の元本割による損失、会社の倒産、あるいはペイオフもそうだと思いますが、そういうものによる株式とか資産の無価値化等の損失について、現状では課税関係が生じていないのですけれども、これについてどう考えるか。もしご意見があれば。

もう一つ、これのほうがちょっと悩ましいかもしれませんが、損益通算をする相手方の益のほうで、利子は源泉分離、配当は上場株式等については源泉徴収、申告不要等はあるけれども、原則は総合課税という課税方式になっている。課税方式の違いは損益通算を制限する大きな要因となるように思うけれども、それをどうするか。やや小さい問題ですが、先ほど来の非常に大きな議論がありますから、それについて何かありましたら、それも含めて、どうぞ。

委員

聞いていると、非常に楽しい議論なので、エンジョイして聞いていましたけれども、感想は、三派・三通りのグループの方がいらっしゃるわけね。財政学者と金融学者と税法学者がいて、各々の立場で各々の議論をされていて、初めは何か違和感を持って聞いていたんだけど、だんだん収束はしてきていますよ、それなりに。したがって、いい面をお互いに出してやっていけば、そこそこいい議論ができるのかなという期待感を持っています。

それから、今、最後に言われたこと、私は前から関心を持っていますが、源泉か申告か、あるいは特定口座、それと損益通算かというあたりが、私は最後の決め手になると思っているんですよ。やはり理論的には申告ですよ、通算をしっかりしようといったら。ところが、日本のカルチャーとして、税務署に近寄りたくないなんていうのは皆さんしょっちゅう言っている話。しかし、私から言わせると、日本のインベスターだけなぜそんなに保護しなければいけないかという思いもかなりあるんです。まあ、これはこれである意味では仕方がない議論かもしれないから、そういうカルチャーの面まで踏まえてこれから議論することが必要なんでしょうね。

そういう意味で、夏くらいまでの期間でありますが、大いにもんでいただくと、それなりにいろいろな知恵が三方から出てきて、それがうまくあるところで結集すれば、いい答申案ができるかなと期待していますので、頑張ってください。ずっと聞いています。

委員

きわめてエンカレッジなのか、挑発的なのか、よくわからないコメントをいただきましたけれども、ほかに何かございますでしょうか。

事務局

通算の話というのは大変難しいところがあるので、いい勉強になったのですけれども、最後に言われたとおり、現実を見ると、たぶん一般の方は源泉分離、そしてプロは通算して主として申告。そういう選択が、今の時点では望まれているのかなという気はします。

ただ、どっちにしても、どこまでその対象にしていくのかというのが、そもそも今日の概念で言うと、所得の性質の差異というところをどこまで今回の話の中で織り込むのかということが、かなり重要なのかなという気がします。ただそこは、ある意味では限られたところから広げていくという手法もあるでしょうし、現実にはいろいろなやり方があると思います。ぜひ、こういう機会ですから、今のような議論を大いにしていただいて、我々も聞かせていただけたらと思う次第です。

委員

よろしいでしょうか。

では、今日はありがとうございました。幅広い観点からご意見をいただきまして、ありがとうございました。

今後、金融資産性所得の一体化の具体的範囲を考えていきたいと思います。また、損益通算を考えるにあたって、各種金融商品に対する課税方式の違いは考慮に入れるべき重要な点であると思われますので、例えば公社債の譲渡益課税、利子の源泉分離課税、配当の総合課税といった問題についても改めて議論したいと思います。

最後に、今後の予定ですけれども、次回の小委員会の日程は未定です。申し訳ありません。正式に開催が決まり次第、案内状をお送りしますので、よろしくお願いいたします。議題についてはその際案内状でお知らせいたします。

それでは、本日の小委員会はこれで終わりにいたします。どうもありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の会議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。

金融小委員会