金融小委員会(第3回)後の奥野小委員長記者会見の模様

日時:平成16年1月23日(金)15:58~16:17

奥野小委員長

今日の金融小委員会ですが、まず最初に16年度税制改正の内容と北欧諸国及びオランダの税制について事務局から説明を受けました。その後、今後の審議の進め方などについて自由討議を行いました。配付いたしました資料のうち、当面の検討項目の例という1枚の資料はその際の参考として配付したものです。

自由討議では、損益通算について、現状の分類所得税型の所得税のあり方自体の問題をどういうふうに変えるかということを議論していくのか、それとも証券市場の活性化、貯蓄から投資へということのための措置として議論していくのかを整理しておくことが必要ではないかなど、我々の議論の目的は何なのかという議論がありました。共通理解としては、もちろんそういうことも含めてこれから議論していくということですけれども、本来の目的としては、持続可能な経済社会の構築ということを実現するために、さまざまな金融面の、特に金融税制に関する制度措置を行うことであり、その中に今申し上げた貯蓄から投資とか、さまざまな論点が入ってくるのだと考えております。

それから、出た議論の中では、譲渡所得に関しては、譲渡損失をきちんと把握できるメカニズム、益も損失もそうだとは思いますが、譲渡所得をきちんと把握できるメカニズムが必要ではないかという議論がありました。

それから今日、非常に大きく議論が白熱したのは、次のような点です。経済学的に考えると、あるいは理論的に考えると金融所得というものを損益通算とかということで考えるということの背景として、そもそも金融所得という、あるいは投資ということを申し上げた方がいいのかもしれませんけれども、投資ということに関する考え方が50年ほど前に経済学では変わったんだと。新しくポートフォリオ投資という考え方が入ってきたということが大事なんだという論点が一つ提示されました。そういうふうに考えると、金融所得というものの中にさまざまな、例えば証券投資であるとか、株の投資であるとか、いろいろな投資からの収益があるわけですけれども、それはポートフォリオ全体からの収益の一部なのであって、本来の投資というのはポートフォリオ全体を一体化して議論することが必要である。そういうことから考えれば、損益通算というのは当然のことではないかという考え方が一つ出されました。それに対して、理論的に考えればそうなのかもしれないんだけれども、とりわけ譲渡益、あるいは譲渡損失という部分は、譲渡損失が発生するということとそれを実際に売買して実現することの違いが重要だという視点も出されました。投資家にとっては、投資からの収益が発生するということも大事なんだけれども、課税当局や、納税ということから考えると、それを実現した時点でしかつかまえられないので、収益の発生と実現のタイミングが違うということが問題だということです。特に、税を節約する、税額を節約するという観点から言うと、どのタイミングで譲渡益とか譲渡損を実現するかということによって、税を節約することができるというようなことがあって、そういうタイミングに関して、ある程度恣意的に操作できる、それを使っていわば租税回避ができるということを考えると、譲渡損益というようなものは通常のポートフォリオ全体の中でも特別に考える必要があるかもしれない。これは、むしろ理論の問題というよりは執行の問題だと思いますが、そういう考え方もあるのではないかという議論もありました。

もう一つ、翻って言えば、そもそもポートフォリオという前に、自分が持っている資産や富を使って生み出される所得を一括して考えるべきかもしれない。そういうものを資本所得というふうに経済学では言いますけれども、それは金融所得よりもう少し広い概念です。例えば自分が持っている資本を使って事業をする。そうすると、その事業が生み出す利益というものも資本所得になるわけですね。あるいは、不動産を使って、不動産事業をすると。それから入ってくる家賃収入も資本性所得なわけです。こういうものまで考えるのが二元的所得という考え方ですけれども、そこまで考える考え方もあるのではないかというふうな議論もありました。

最後の考え方については、大上段からそういう資本所得すべてを議論するのは、今の段階では難しいのではないか、時間的制約等も考えて難しいのではないかという議論もありましたので、議論はしますけれども、どこまでそういうことに立ち入った議論ができるかわかりません。少なくとも金融所得全体を考えるのか、譲渡所得の中で考えるのかというふうなことは、とりわけ損益通算等との関連で重要なのではないかということが今日の議論の一つでございます。

他方、納番、あるいは源泉徴収との関係で言うと、損益通算の範囲を広げていくことは、きちんと金融取引を把握する必要があるので、そういう意味である種の番号は不可欠ではないかということが一つ議論としてありました。ただ、納税者番号というのは、例えば民間の金融機関が番号を使って名寄せをするということと、特定口座というものを組み合わせれば、基本的に源泉徴収で納税が全部終わってしまうというふうな仕組みを作ることも可能である。つまり、番号というのは必ずしも当局が管理するための番号であるというよりも、むしろ納番を導入することで民間の側で納税のための便宜が高まるというような仕組みをつくることが大事なのではないのかと言う意見が多く出されました。その一つの極端な例が、民間が名寄せしてくれて、源泉徴収で終わってしまえば、当局は基本的には納税業務にはかかわらないという形になるわけですから、逆にそういう民間で納税が終わるような仕組みを作るために番号というものがあった方が有効だろうということも事実だと思いますので、そういう、いわば本人に利用してもらえるような、民間が喜んで利用できるような、そういう番号を設計することが必要ではないかということが強く言われました。

もう一つ、日本の場合に、特定口座という利便性の高い制度ができたわけです。それがかなり最近の株式市場とか経済の活性化にある程度役に立っているのかもしれないという議論もあって、そこを少し検証してほしいという議論もありました。いずれにしましても、特定口座という仕組みを今後どう活用していくかということを考えていくべきではないかという議論もございました。

いずれにしましても、ここに書いた1枚紙の議論を中心に、これからの議論を進めていくということに一致いたしました。そのような討議結果を踏まえて、今後の小委員会においては、この夏までに報告を取りまとめるという予定でおります。時間的な問題がありますので、金融資産性所得の一体化、とりわけ損益通算のあり方、そのための前提条件といったことに焦点を置いて検討を進めることになります。

次回の小委員会は2月の中頃になると思います。具体的な日程は、まだ確定はしておりません。以上です。

記者

スケジュールの話なんですけれども、前回やったとき、先生も来年度改正というか、05年度改正ができれば実施したいようなことをおっしゃっていたんですけれども、今もそういう方針というか、その辺の話も今日あったのかどうかも含めてお願いします。

奥野小委員長

希望としましては、今年の夏ぐらいまでに小委員会の結論を取りまとめて、事務局にも少し具体案を作ってもらって、できれば来年度改正に間に合えばいいのかなというふうに思っていますし、一応そういう大ざっぱな流れについては、希望としては小委員会で申し上げたと思いますけれども。

記者

先ほどの話で、範囲のところで土地、不動産ですか、その辺の関係とか、金融から少し離れるようなところに割と否定的な議論だったようなニュアンスだったんですけれども、その辺は、議論はされるとおっしゃっていたんですけれども、やはり時間の関係もあって、本来の金融商品のところに絞っていくということですか。

奥野小委員長

例えばリートとか、いわゆる不動産をバックにした証券がかなり出てきていて、これは明らかに金融性所得でしょうと。だから、それを入れるのに不動産を入れないのはおかしいんじゃないんですかという議論もありまして、まだ議論としては決定しておりません。ただ、時間の問題もありますけれども、例えば不動産に関しては短期と長期で現状では違うとか、それから今年とりわけ控除に関して、整理はしましたけれども、まだ残っている控除、特に政策的な控除もあります。そういうものを考えたときに、いわゆる金融所得としてうまくいくのかなということに関して一抹の不安は残ってはいます。しかし、当然それは、一番最初に申し上げたことも含めて、これからの議論の中でどうするかを議論していくということになります。結論だけ申し上げれば、まだ何も決定はしておりません。

記者

納税者番号なんですけれども、これは今後の持っていき方として、よく選択制の問題とかも出てきますけれども、その辺の話というのは、方向性としてどういうふうに持っていくかということなんですけれども、どうでしょうか。

奥野小委員長

こういう言い方だと逃げに聞こえるかもしれませんが、まだ何も決まっていません。ただ今日の議論でも、選択制というオプションを議論するということに関しては、皆さん合意はあったとは思うんです。また、これはみんなに、全員に強制しないとというか、全員が入らないとうまく機能しないんじゃないんですかという議論もあったことも事実です。ただ、最近、情報の問題がこれだけ議論されていて、さまざまな考え方が起きていること、それから情報社会になっていること、それから先ほど申しましたけれども、やはり国が管理する番号ではなくて、民間に使ってもらう番号であるべきだということを考えていくと、方向としてどっちが強いのかといえば、まだ議論としては、これから議論することなんですけれども、選択制はかなり有効なオプションではないかと私は思っております。

記者

まだこれからの話なんでしょうけれども、それを導入するに当たってのインフラというんですか、基礎年金番号であるとか、住民票コードであるとか、その辺をどういうふうに持っていくのかというのが今後どうなるのかということについて。

奥野小委員長

今日は、そういう話は何も出ていませんし、まだどうなるかわかりません。ただ、既存の番号で、ある意味でものすごくいろいろ問題にされてしまっている番号は使いにくいことは事実だし、それから選択制にするときに、そういう番号である必要があるのかどうかは、ちょっとまだ議論されるべきでしょう。だから言いかえると、新しい番号を作るというのも一つのチョイスだろうと思います。いずれにしても、繰り返しになりますけれども、それはこれから小委員会で議論していくことです。

記者

今の納番の話なんですけれども、国が管理するような番号ではなくて、民間が納税のための利便性を向上するための仕組みを作ろうという議論ということであると、これまで納税者番号制度という、その言葉がイメージさせてきた、国が管理して、租税をすべて把握される、税をすべて把握される、そういうイメージのものではなく、あくまでこれからの議論の方向性というのは、金融所得を一本化するに当たって、どれだけ利便性を向上させられるかという趣旨でいくのか、それとも夏までの報告書の中には、要するにこれまで議論されてきた、この場でなくても、納税者番号制度とはというその部分についてというのは、どういうふうに・・・。

奥野小委員長

実は、納税者番号という番号自体がいけないんじゃないのか、タックス・ベネフィットナンバーと言いましたかね、要するに納税するとどのぐらい便宜が図ってもらえるかというための番号とか、そういう名前にしたらどうかという議論もあったぐらい、できれば国が管理するというよりも民間で使う番号だという発想の方がいいんじゃないのかという議論も強くありました。他方、いわば一つの考え方として、そういう特定口座みたいなものも含めて、できるだけ社会が受け入れやすいといいますか、個人があまり責任を負わないで、誰かに管理してもらうと言ったらいいんですかね、そういうやり方でうまくいくような仕組みというのは、極めて日本的な仕組みなので、国際取引みたいなところに行ったときには、やはりきちんとした番号できちんとしないと、国際標準にならないのではないかというような話も出ました。だからもちろん理想として、民間が使う番号であって、各個人が自分のために非常に有用な番号だというふうに思ってくれるような番号がいいよねということに関してはみんな一致していますけれども、ただ、それで本当にいい制度が設計できるのかということは、これからだと思います。

記者

民間にとって使い勝手のいいというか、納税者の利便を図る番号、これはどういうイメージなんでしょうか、もう少し具体的に言いますと。

奥野小委員長

今日出た話を一つの例にすれば、今は証券の、株の譲渡益だけに関して特定口座があるわけですよね。こういうものが例えばもっとたくさん金融取引に、ほかのものに、損益通算みたいなものを広げていくことになると、例えば利子とか、利子が本当に入るかどうかというのはまさに別のイシューですけれども、例えば債券の譲渡益とか、利子でも配当でもいいんですけれども、そういうものにだんだん広がっていくかもしれないと。そうすると、それを納税者が一々全部自分で計算して申告しなくてはいけなくなるわけですよね。源泉徴収を今やったりしていますけれども、損益通算を認めると。それに加えて申告も必要になるということですから。しかし、そういうことをするのは納税者個々にとってはかなり手間かもしれないと。そうだとしたら、担当する金融機関がそれぞれ番号を控えて金融取引をすることによって、今度は民間の金融機関同士で名寄せをすると。番号があれば、民間同士で名寄せができるわけですよね。そうすると、源泉徴収をみんなしておいて、その上で名寄せを民間がして、名寄せしたものでクリアして、あなたは幾ら税金を払えとか、幾ら戻すとかということを本人との、また金融機関との口座で決済してしまえば、本人はほとんど何もしなくて済むと。しかも、公平な、公正な納税が行われるということになりますよね。例えばですけれども、そういう仕組みというのはあるんじゃないのというふうな話もありました。これは一つの例であって、全然具体案ではございませんけれども。

記者

それは、課税当局に対しては、その番号というのはどういうふうになるんですか。

奥野小委員長

だから、もちろん金融機関が名寄せをしてやった結果を、必要な場合には、当局から出せと言われたときには出すということになるんだと思います。だから、言いかえると、当局が何かの理由でこの人に関して調査をしたいというときには、金融機関に行くと。それで、全部の金融取引について番号つきで出てくるので、それをチェックすることによって納税の正しさということを当局はチェックするという仕組みになるんだと思いますけれども。今申し上げたケースならばという限定的な話ですよ。

(以上)

金融小委員会