金融小委員会(第2回)後の奥野小委員長記者会見の模様

日時:平成15年11月7日(金)16:20~16:41

奥野小委員長

本日の第2回金融小委員会の内容についてご報告いたします。

本日の審議内容ですけれども、まず、個人の金融資産状況や、主な金融商品に対する課税の現状などについて、国際比較も交えながら、事務局から説明を受け、その後、自由討議、質疑応答等を行いました。非常に活発な質疑といいますか、フリートーキングが行われまして、ちょっと整理するのが大変なんですけれども、基本は、要するにこれから何を議論したらいいかということに関する基本的な問題意識をぶつけ合ったということかと思います。

一つの論点としては、ずっとこの金融小委員会がやってきた「貯蓄から投資へ」ということを実現するためにどうしたらいいのかということに関しての議論が一つありました。それで、「貯蓄から投資へ」という言い方が良くないと言う人もいて、そういう場合はリスク資産と安全資産ということで、安全資産志向からリスク資産志向へどういうふうにしたらいいのかということかと思います。それに関して一つの大きな論点は、税制が後押しをするということがいいことなのかどうか。今まで金融小委員会がやってきたことはむしろ、リスク資産への投資に対して、やや阻害的であった税制、安全資産が有利であった税制、それを直してきたわけです。かなり中立化したわけですけれども、それをもっとどんどん後押しすべきかということに関しては、やや引いたといいますか、税制というものはできるだけ中立的であるべきだという議論が多かったというふうに思います。そういう意味で、金融商品の間の中立性というものをできるだけ高めていくべきであるという議論が非常にたくさんありました。一つの大きな議論があった例を挙げれば、例えば貯金の中で、預金という分がこれからペイオフということが入ってくるわけですが、そのペイオフが起こってくると、実は預金を持っている人が損失を被るわけですが、これは実は、利子でもないし、譲渡したわけではないですから譲渡損でもないし、何なのだろうと。しかし、こういう人たちを何らかの形で手当をするということが必要なのではないか。もう少し別な言い方をすると、預金というものにもリスクが出てきて、預金がリスク資産になる。リスク資産と安全資産との中立性を図るためには、単に税率を等しくするだけではだめで、なぜかというと、普通、税率というのは、税金というのは所得があったときに税を課すわけで、損があったときには税を課さない。だけども、それをじゃあ安全資産と比べてみると、リスク資産は損をしたときには何の税のメリットもデメリットもなくて、所得があったときだけメリットが出るので、実はそういう形での税制をしておくと安全資産のほうが有利になってしまう。むしろ、損が出たときには税が還付をしてくれる、一部還付してくれるという税にすることによって、初めて中立化することができる。だから、それが実は今までわれわれが株の中での譲渡所得の例えば損益通算ということをやってきた理由なわけですが、つまり、損が出ても、ほかの譲渡益と損失を通算することによって事実上税が還付されるという仕組みを作ってきたわけですが、そういうことを、例えば預金についても、ペイオフなんかについても考えるべきではないのかというような、例えばですが、議論が出たわけです。それは、そういう金融商品の間の中立性ということに加えて、やはりグローバリゼーションという時代の状況を考えてみると、そういう中でもできるだけ国際的に中立化するような方向で物事は進んでいる、ないしは進むだろうから、そういう意味でもこういう金融商品の中立化ということを考えるべきではないかという意見も出ました。

ただ、それに対して、それほど問題は単純ではないのではないかという議論も幾つかございました。一つが、今回の事務局の資料は専ら個人の段階での金融所得に関する資料であったわけですけれども、実は今、金融商品というのはどんどん複雑化していて、特に、日本でも始まり始めていますけれども、外国などでは法人レベルでの税がどうであるかということが、最終的に個人が得る金融所得に影響してくるということがあります。一つの例が、配当の二重課税の問題ですし、場合によってはSPCとかいろいろな組織体を作って、そこにどういう課税をするかによって、そこから、その組織体を通じて収益を得る個人の税の環境が有利になったり不利になったりする。そういうことをきちんと考えなくちゃいけないので、単に中立性だけじゃなくて、もう少し法人レベルも考えるべきだとか、あるいは、そういうことを言うけれども、非常に所得レベルの高い人というのは、多分そういうことが非常に大事だし、メリットも受けるだろうけれども、所得の少ない人というのは、そんなことをあまり考えなくて済むのではないか。あるいは、さっきの話で言えば、預金のペイオフみたいなものが起きたときに非常に困るのは、所得階層が低い人であって、所得階層の高い人と少し区別して考える必要があるのではないか。つまり、金融商品をすべて一括して中立化するということが本当にいいのか。それとも、高額所得者向けの商品と、そうじゃない低所得者向けの商品、それがひょっとしたらリスク資産と安全資産ということになっているのかもしれないのだけれども、そこを少し区別して考えないとまずいのではないかというような議論もありました。

これにもちょっと関連して言うと、これはやや専門的な話になりますけれども、安全資産というのは、多くの場合に普通預金とか国債のように、利子がある時に払われる、1年おきに払われるというのが決まっているわけですね。それに対して、債券であるとか、まあ典型的に言えば株式などというのは、値上がりとか値下がりという形で、譲渡益とか譲渡損という形で儲けが出てくるわけで、この儲けというのは実は、発生していても売らない限りは儲けが実現されなくて、課税対象にならないわけですね。そうだとすると、儲かっているものを、リスク資産の場合には普通、いつ実現するかということによって課税のタイミングを選べるわけですね。そういうのと安全資産とは随分違う。そういう意味で、実現・未実現の問題とか実現のタイミングを選べるというようなことを考えると、リスク資産と安全資産というのは少し違うのかもしれない。これもやや専門的な話ですが、そういった話も出ました。

同時に、それと少し違う話ですけれども、納番であるとか源泉徴収であるとか、そういったことに関しても今、IT化が進んでいる中で、いろんなことをやるということが金融資産の一体化課税ということの意味では非常に重要なのではないかというような問題も出ました。

そういう意味で、それが金融資産の一体化課税に関して、今日は非常に活発な議論が出た議論の幾つかの中心的な論点ですが、そういう論点を1月以降、きちんと議論していくことになるのだろうと思います。

それに加えて、実は今日はもう一つ、非常に本質的な論点が出まして、それは何かというと、われわれが議論しているのは、金融商品の一体化課税ということで金融資産に課税をしているわけですが、そもそも金融所得とはどこまでのものをカバーしているのかということに関しての議論が出ました。もちろん、土地の譲渡益なんかどうするんですかという議論が一つ出たわけですが、もう少し本質的なことで言うと、例えば経済学で考えた場合には、所得というものは労働所得とそれ以外の所得というふうに普通は分けるわけです。労働所得以外の所得というものの中に、それを資本所得というふうに言うわけですが、それは実は一部が利子所得であり、一部が配当所得であり、一部が譲渡所得であり、一部が利潤、つまり事業所得とかそういうものであるわけですね。そういう部分で、つまり労働所得と資本所得で分けるというのが二元的所得税制ということの本来の考え方であるので、金融所得は完全に定義されていないものですから、金融所得では多分ないだろうというふうに多くの人が思っていて、しかし、資本所得ではあるという部分をどういうふうに考えるんですかという議論も、これは極めて本質的な議論ですけれども、出ました。典型的に言えば、住宅に投資をしたときに、それは、住宅というのはある種の資本ですから、そこに投資をしたわけですね。それに対する所得というものをどういうふうに考えるかというときに、そこにかかった費用、これはお金を借りてきて住宅を買うといった場合には利子が費用になるわけですが、その利子を引くんですかというような議論が出ました。それは一つの例ですけれども、そういうところまで踏み込むんですかという議論もあったわけですが、ちょっとそれは、そこまで踏み込むのは少し難しいのかもしれないというのが今日の小委員会のニュアンスではありました。ただ、1月以降、場合によってはそこも少し含めて考えるのかもしれません。全体の雰囲気としては、そこまではちょっと無理でしょうという感じだったかと思います。

それで来週からは、16年度改正に向けた審議が総会で行われることになりますので、年内の金融小委員会は今回が最後の開催です。総会では私から、この2回の小委の審議状況について報告をする予定です。次回の小委員会は年明けになると思いますけれども、具体的な日程はまだかたまっていません。前回申し上げましたけれども、来年の夏ごろまでには報告書を取りまとめたいというふうに考えていて、総会にその報告をしたいというふうに考えています。次回以降、損益通算のあり方、納税環境整備、それから今日出たさまざまな論点を含めて、精力的に検討を行っていきたいというふうに考えています。

ということで、何かご質問等ございましたら。

記者

改めてですけれども、まず、来年度の税制改正に特に金融小委として何かというものは、内容は特にはなしということでよろしいでしょうか。

奥野小委員長

基本的なスタンスとしては、前回も申し上げたかもしれませんけれども、15年度改正で非常に大きな改正をしたということ、それから金融資産性所得の一体化に向けて大きな検討を始めたところであるということで、次の大きな改正はその小委員会の報告が出た後だというのが一応の認識ですね。ただ、これも前回申し上げたかもしれませんけれども、16年度改正において金融・証券税制を一切触らないということではなくて、15年度改正で措置された事項が円滑に実施されるための手当が必要かもしれないという認識は多分あると思うので、そういうことではしたらいいという認識は小委員会に共有されていると思います。ただ、あくまでその程度かなと、そういうことでございますが。

記者

その一体化の話ですけれども、一応確認ですけれども、そうしますと、資本所得についてはどこまでの範囲かというのはこれから議論していくと。あと安全資産については結局、金融所得の中で損益通算とかの対象にやっぱり含めるということについては、一応確認したということになるわけでしょうか。

奥野小委員長

後半の質問をもう一度。

記者

預金ですとか国債ですとか、そういうものについても一応一体化の対象としてやはり入れるということで今日は一致したというふうにとっていいでしょうか。

奥野小委員長

まず前者ですけれども、資本所得まで広げるといいますか、ということの意味はどういうことかというと、恐らくスウェーデンとかノルウェーなんかでは、事業所得とか不動産所得というものも、たしか小さいレベルではいわゆる資本所得に入ると思うんですけれども、そういう部分は多分、事実上議論するのは無理ではないかというのが、多くの委員の認識だろうと思います。むしろ、グレーな部分というものがあって、例えば不動産の譲渡所得であったりするわけですけれども、そこら辺についてどうするかというのはこれからの検討だろうと思います。預金とか、そういうものに関して、これは議論の対象であるということは、これは小委員会では、さっきペイオフの話を出しましたけれども、そういう話が出てくることからも明らかなように、これは議論の対象であるということはもう明らかにみんな認識していると思います。ただ、むしろイシューは、どこまでいくかはともかくとしても、金融所得というものを認めたときに、金融所得の種類をここまでですというふうに決めたときに、それを全部中立して合算して通算するというような形がよいのか、それとも、先程申しましたけれども、金融所得の商品の間には少しずつ差があるので、その金融商品ごとに少し違った取扱いも考えながら、しかし、大括りな枠組みとしては通算していくという考え方がよいのか。ここら辺を、まさに制度設計としてきちんと考える必要があるというのが、今日出た問題意識かなというふうに理解しています。

記者

先程、先生がおっしゃられた15年度改正を円滑に実施するための手当が必要かなというのは、具体的なイメージが全然わかないんですけれど、どういったことを想定されていらっしゃるのですか。

奥野小委員長

15年度改正でしたときに、いろんなことをやったわけですが、その中で何か問題が、実務面とか、あるいは投資家から、これは余りにもおかしいんじゃないかというような、そういうものが出てくるようなものがあれば、それは変えていかなくちゃいけないんだろうと思うんですけれども、そういうものが何かあるのかもしれないというふうに、私は一応理解をしています。あるのかもしれないということなので、私もちょっとよくわかっていませんが。きちんとやるためには、多分議論はしなくちゃいけないんでしょうけども、具体化して総会に上げるほどまでにはまだ考えを詰めていないということかもしれません。

記者

先程、安全資産とリスク資産という分類をしておられて、安全資産のところに国債、普通預金を同じカテゴリーに小委員長は入れておられたわけですが、塩川前大臣時代に、個人向け国債の利子を優遇したらどうかというようなことを、国会答弁なんかでも時々おっしゃっていたのですが、現在の小委員会としてのスタンスですね。個人向け国債の利子についてはどういうふうな動きがありますか。

奥野小委員長

小委員会としては議論はしたことはありませんから、小委員会のスタンスはないと思います。もし必要なら、個人の意見は言ってもいいですが、それをお聞きになりたいということであれば言いますが。

記者

一応、小委員長としての見解をお願いします。

奥野小委員長

個人レベルで言えば、意味がないということです、一言で言えば。要するに、税金を優遇すると価格が高く売れるわけですね。そのかわりに税収がなくなるわけですよね。だから、要するに税収でとるのか、売却収入でとるのかという違いだけであって、そこをきちんと考えない方が悪いわけではなくて、大衆、普通の人たちはそこまでは普通考えませんから、そうすると売れるということにはなりますけれども、しかし、金融機関の人たちはそこまできちんと考えますから、価格はそういう形にしかつかないと。だから、私個人としては、それはやってもいいですけれども、余り意味のないことですよということをはっきりおっしゃってから売り出されないと、やはりちょっと、国民にとっては必ずしも望ましい売り方ではないのではないかというふうに私は思っていますけれども、これは個人の意見です。間違っているかもしれませんし、そうじゃないというご意見の方もいるかもしれません。

記者

預金のペイオフ時の、先程ちょっとお話があったのですが、その際の損失の扱いなんですけれども、小委員会の中では、含めるべき、含めないべき、どちらか方向性というのは多少意見としてあったのでしょうか。

奥野小委員長

多分、一言で言えばこういう話になると思うんですね。経済学、財政学の関係の人たちは当然含めるべきでしょうという立場ですね。つまり、ある意味ではあるお金を預金に投資しました、損しましたという人と、株とか債券に投資しました、損しましたというのと、何が違うんだという考え方ですね。それに対して、法律とか事務局の方々は困っているというのが実情だと思うんですね。つまりなぜかというと、所得の種類として、あるいは所得というものを定義しようとしたときに、それは利子で入ってくる所得とか、配当で入ってくる所得とか、譲渡して売ったときに損をしたとか、そういうものは定義できるわけですよね。だから、譲渡損というのもそういうふうに定義できるわけです。だけれども、ペイオフというのはなんかなくなっちゃったわけですよね。だから、今日出た例で言えば、大変高い、高価な壺を落として壊してしまったと。そうすると損したわけですね。これは、でも損失ですかというと、法律上損失として定義できないわけですよね。そういうものをどういうふうに税法上扱ったらいいのかという、いわゆるテクニカルな問題というふうに、経済学の側から言えばそういう問題かなあというふうに考えています。

記者

そうしたら、やはり一体化に入る。

奥野小委員長

というか、だから一体化の検討には当然入ると。で、常識的にといいますか、私は経済学の出身なので、私などの常識から言うと、それは当然一体化して、一体化を実現させる方向で考えるべきだと。そのために法律的な物事の考え方を作ってほしいというのが、私なんかの考え方ですね。ただ、非常に安易に作るといろんな問題が、こういうことは起きますから、そういう意味でもきちんとした制度設計が必要だと。そのためにこれからきちんと議論していかなくてはいけない。それは、申しわけないんですけれども、やはり時間がかかる。皆様ご関心があるだろうけれども、少し時間をくださいということになるのだろうと思います。

(以上)

金融小委員会