金融小委員会(第13回)後の奥野小委員長記者会見の模様
日時:平成15年5月23日(金)16:14~16:36
〇奥野小委員長
第13回金融小委員会を今日開催いたしました。議事といたしましては、一番最初に池尾委員から「租税裁定回避の視点」というタイトルでプレゼンテーションをいただきました。それから、事務局のほうから納税環境整備について、諸外国における納税者番号制度の定着に向けた取り組みなどを中心に資料の説明を受けました。それから、日本公認会計士協会ITアシュアランス専門委員会の和貝委員長に情報セキュリティ管理と監査についてご説明をいただきました。
簡単に、今日どういうお話があったかということを説明すると、池尾委員からは、中長期的な望ましい税制を目指すという課題と当面の資本市場活性化への配慮ということを考えていろいろ簡素化に努力してきたんだけれども、まだまだいろいろと複雑で、とりわけデリバティブとか、彼の言葉で言えば、シンセティック・アセッツというようなキャッシュフローを加工する新しい金融技術ですね、こういうものの存在によって、実は節税行動というものが極めて飛躍的に誘発されつつある。そういう時にどうしたらいいかというのが、多分問題
だろうということで、それに対する説明、それからその二元的所得税制との関連でリスク負担みたいなものをどういうふうに、とりわけ個人、民間と国との間のリスク負担等を考えるためにどういうことを考えたらいいかというようなことに関して幾つかのお話をいただきました。
結論から言いますと、池尾委員のご意見としては、理想的な、理念的な解決というのは非常に難しくて、現実的な対応を多分するしかないだろうということで、例えばですけれども、所得区分をやや大括りにして、そのくくりの中での取り扱いを一元化する。典型的には、暗黙のうちにいろんな方が考えていらっしゃる日本型金融課税といいますか、そういうような仕組みでいくのが一番なのではないかというようなお話をいただきました。
それから、事務局から納税者番号についてお話をいただきまして、例えばその定義であるとか番号を付ける付番方式のあり方であるとか、導入のコストと効果であるとかプライバシー保護の問題、それから、特に諸外国の例について多岐にわたってご説明をいただきました。実は前回の金融小委員会で私のほうから北欧視察の報告ということでお話ししたんですが、前回の記者会見でお話ししなかったことも含めて、北米とか北欧とか韓国、オーストラリアといったあたりを事務局からご説明いただきました。その特徴を簡単に述べますと、北米では、番号としては社会保障番号を使っているので、社会保障と納税とが組み合わさっている。社会保障は給付をされるので、その番号を持っている人はメリットを受ける立場、納税というのは、逆に払わされる立場ですね。仕組みとしては、むしろ納税申告の適正性を担保するというところにある。だから、メリットはその社会保障の方にあり、税金の関係では申告の適正性に重きが置かれている。
北欧は、かなりこれとは違っていて、仕組みとしては個人のための番号、全国一律番号が付いている。むしろ、メリットが実は別のところでありまして、それは何かというと、これは北欧の報告に関して前回お話しすべきであったかもしれないお話です。年度の末に例えばある人の働いている先の雇用主が幾ら賃金を支払ったかというようなデータを個人登録番号とともに当局に送る。あるいは、金融機関が同じ個人に関してこれこれの金融取引を過去1年間行ったというようなことを当局に送る。そうすると、日本とかアメリカだったらば、そういうデータを個人も持っているわけですから、個人が納税申告をするわけですが、北欧の場合には、むしろそのデータを受けて当局の側がまず申告書を作成して、あなたの所得はこれだけで、税金はこれだけですよというような書類を本人に送ると。本人がそれで良ければそのままで、その申告はおしまい。嫌だったら修正する。場合によっては、全部それをなしにして、改めて申告書類を作り直すというような形で申告が極めて簡素化されるという仕組みになっています。
その他、韓国の場合には、金融実名制という仕組みがあって、金融取引を番号を付けて実名で行った場合には幾つかの優遇措置がある。オーストラリアの場合には、番号は任意なんだけれども、その番号を使わないと税金を金融取引において源泉徴収されて、しかも、その税率が最高税率であるという形になっていて、番号を使うというインセンティブが与えられているというような仕組みになっているということも説明がありました。
それから和貝委員からは、情報セキュリティに関して、OECDガイドラインに基づいて作られたというようなことのご説明に加えて、情報セキュリティの定義とかセキュリティに対する脅威、情報セキュリティの管理、情報セキュリティの監査というような項目に関して説明をいただきました。
恐らく皆様関心が一番大きいかもしれない納番について申しますと、議論としては、今まで少し税調での議論が導入のコストとか当局にとっての効果ということに重点を置き過ぎていたという指摘があって、むしろ導入することが納税者にとってどういうメリットがあるのかということをもっとはっきりさせて、そのメリットがどういうふうにすればこういうメリットがある、こういうメリットがなくなる、あるいは別の仕組みにすればこういうメリットがあるというようなことをもっと考える。そうすることによって納税者の理解、国民の理解を深めた上で導入を考えるべきだという議論が強かったと思います。
ついでですが、金融小としては、これで税調本体が中期答申の立案作業に入るということもあって、一休みというのが今の状況です。ということで、一応ご報告ですが、何かご質問等ありましたら。
〇記者
中期答申に向けての総会が27日ですか、あると思うんですけれども、金融小委員会としての整理の仕方としてはどういうものを報告として上げるということになるんでしょうか。
〇奥野小委員長
1つは、金融・証券税制全体について、ここ2年間、金融・証券税制に関して幾つかの改正を行ったわけで、それにもかかわらずといいますか、それをしたためにといいますか、様々な優遇措置が乱立していてですね、税制が複雑化していて、むしろ中立性が阻害されているというような批判もあり、そういう意味で、簡素で安定的な制度というものを作っていくということを考えるべきであるという点。とりわけ、今、時限措置が乱立していますから、それと余り競合しないような形で、中期的な形になるのかもしれませんが、そういう簡素で
安定的な税制を作っていくということが必要だろうという点です。
そのためには、恐らく金融資産性所得に関する課税の一体化ということが必要なんだと思います。そのために様々な検討項目がたくさんあるでしょうが、問題点があることを指摘して、場合によってはある程度立ち入って、こういう問題点があるというところまで指摘する
のかということだと思います。
それから、納番がもう1つ言うことです。基本的には先ほども申しましたけれども、やはり納税者の利便性といいますかメリットということをきちんと踏まえて考えるべきだという点を強調しつつ、納番、納税環境整備についても触れる、報告するということになろうかと思います。
〇記者
納税者番号制の関係は、選択制については特に言及というか、そういったことになるんでしょうか。
〇奥野小委員長
そういう報道もあったようですけれども、特にそういう言及があったわけではありません。先ほども申しましたけれども、オーストラリアなんかでは任意で番号を取らないということもできるとか、北米では社会保障給付とセットであるがゆえに、強制的な色彩がうすいとい
うような説明もありました。強制的に番号を付番して税務のためには無理にでも使わせるということは、多分今日の議論の雰囲気から言うと、皆さんの賛成は得られないと思います。ただ、それに対して、選択制という仕組みがみんなの考えているものなのかどうかは、まだまだ議論としては先の話だろうというふうに私は思いました。
〇記者
1点確認なんですけれど、先ほどの北欧諸国の特徴というのは、北米と比較すると、これは基本的には課税逃れというんですかね、税金逃れを防止するためというのが主眼であるという認識なんでしょうか。当然、効率化はしているんでしょうけれど、当局に全ての情報が上がって、チェックするということは、個人が申告しないで所得隠しをということを防止する観点ということなんですか。
〇奥野小委員長
番号を使うということは、基本的に、全ての場合についてそうだと思うんですけれども、チェックをするということが1つの目的になることは事実ですね。つまり、番号を付けることによって取引の両側ですね、例えば金融取引であれば個人と金融機関、両方からその書類
を当局に送る。そこで、当局がチェックをする、マッチングをするというのが1つの納税の時の重要な要素で、その時に番号を付けることによってマッチングをするために必要な名寄せ作業を極めて容易にする。それから、その時の真正性といいますか、適正さというものを担保する。これは、恐らくどこの国であっても同じことだろうと思うんです。
北欧の場合、少し変わっているといいますか、おもしろいなというふうに私どもが思ったのは、日本であれば、例えばですけれども、いわゆる稼得所得という、サラリーマンの所得というのは、源泉徴収されて、年末調整まで雇用主がやるわけですね。彼らがコストを負担
するわけです。それに対して北欧の方式というのは、いわばそういう部分を、つまり、所得の計算、それに伴う税額の計算というのを全部当局の側がやって、それを納税者本人に通知すると。そういう意味では、納税費用を国の側が負担していると。つまり、稼得所得の場合には日本であれば雇用主が負担しているもの、それから金融所得であれば多分個人であるとか、特別口座であれば証券会社ですか、そういうところが負担するべきものを北欧では当局が負担しているというところがおもしろかったと思います。あるいは、それが北米とかそういうところと違っているということかと思います。
〇記者
使う側、納税者の方のほうに利便性があるようなことをもっと訴えていくべきだというご意見が出たということですけれど、今後具体的に、じゃあどういう形でそういう利便性の議論を深めていくのかというところまで議論はあったんでしょうか。
〇奥野小委員長
そういう議論を深めていくべきだという議論はありました。ただ、それを具体的にどういう形でというところまでは、まだ行っていません。どう言ったらいいんでしょう、そういうメリットを重視した議論をすることが大事だという指摘までで、要するに、多分今の質問と私の答えにちょっと距離があるのは、皆様がお考えになっている程、われわれとしてはすぐに新しい仕組みを作って導入するという準備ができているとは思っていないということだと思います。これは、納番についても所得税といいますか、税のデザインの話についても両方ともそうですけれども、われわれとしてはいろんなことをきちんと調べて、例えば納番であればプライバシーの問題であるとかセキュリティの問題とか、いろいろ難しい問題がありますから、こういう問題をきちんと考えた上でちゃんとしたものを入れたいというふうに考えています。そのためには拙速であってはいけないというふうに思っている。そこを皆さんにも理解していただきたいと思います。
〇記者
先程納番の関係で、恐らく強制的にやることについては賛成は得られないということをおっしゃっていましたけれども、そうしますと、社会保障番号みたいな形でおしなべて番号を付けるということではなくて、イメージといいますか、どういったようなイメージで考えていらっしゃるんでしょうか。
〇奥野小委員長
それは、私がということですか、イメージとおっしゃっているのは。
〇記者
小委員会の中で何らかの共有できる認識があれば、どういうものかということを知りたいのと、もしそれがない場合は、小委員長がどのようにお考えになっているかということをお願いします。
〇奥野小委員長
例えば1つの例を挙げますと、納番に対して出た最初の質問が、今の時代に納番が必要なんですかという質問です。これはどういうことかというと、実はもう、今はインターネットとコンピュータの世界であって、例えば検索エンジンというのがあってですね、個人の名前
と住所とか、そういうものを全てのホームページとか全てのデータベースに関して全文検索をしようとしたらできます。だから番号なんかなくても、本気になったら名寄せができるはずなんです。それにもかかわらずどうして番号を入れるんですかという質問が最初に出たん
です。それに対する1つの答えが、それは余りにもコストがかかる。しかし、やる気になったらできるというのは、これはアメリカなんかでも当局者が言っていることです。そういう意味で言うと、社会的なコストをそこそこ引き下げるために番号が必要なのだろうというのが、委員会の雰囲気です。逆に言うと、どうしても、例えばですけれども、必要な情報に関して本当に少数の、しかし非常に重要な情報だということになれば、今の社会であればある程度の名寄せ作業というのはできるという認識が多分、小委員会にある。だから、そういう
ことも考えると、あまり嫌な人にまで無理に入ってもらわなくてもできるような形で入れることは多分可能だろう。今の時代のプライバシーとか情報とか、官と民の関係などに対する社会認識を考えると、あまり無理やりに入れるというのは今の時代には合わないということ
ではなかろうか。それが、少なくとも私は、委員の発言の言外に端々に表れていたというふうに思いますけども。それでお答えになりましたでしょうか。
〇記者
そうしますと、無理に入ってもらわなくてもいいということになりますと、入る人と入らない人という区別ができますよね。そこで当然違いがあってはいけないと思うんですけれども、そこら辺の、入る、入らないというところの、何て言うんですかね、何をその選ぶあれになるんでしょうかね。
〇奥野小委員長
先ほどのお答えにもう一度戻りますけれども、ちょっとまだそこまで具体的な納番の設計作業ということを始める段階まで来ていないわけですよね。だから、要するに私が言っているのは、強制的に番号を付けるというようなことは余り望ましくないというふうにみんな思
っていると。だけど、それが本当にどういう形にしたら可能かというようなことまでまだまだ議論は進んでいない。だから、もう少し具体的な、本当の納番の設計作業といいますか、そういうことが始まりましたらそういうことに対するお答えをきちんとしなくちゃいけないと思うんですけど、ちょっとそこに行く段階には残念ながらまだまだ来ていないということだと思います。
(以上)