金融小委員会(第12回)後の奥野小委員長記者会見の模様
日時:平成15年5月16日(金)12:10~12:26
〇奥野小委員長
今日の第12回金融小委員会についてご説明いたします。本日は、ゴールデンウィークの時に2組の海外出張が行われましたので、それについて、まず私のほうから、私と中里委員が出張しましたスウェーデンとデンマークの視察の報告をいたしました。続きまして、石会長と水野忠恒委員が出張なさいましたカナダとアメリカの視察報告を石会長がなさいました。最後に慶応大学の吉野委員から、「金融課税とわが国との金融資産選択・金融業の再生」ということについてお話をいただきました。その3点が本日の議題です。
私のデンマーク・スウェーデンの報告は、主に両国の社会保障制度と所得税の関係についてもお話ししましたけれども、ついでですが、両方の視察報告は火曜日の基礎問題小委員会でも報告をされましたけれども、今回の金融小で2回目の報告ということになっておりまして、そういう関係もありまして、どちらかというと、私の報告は社会保障、所得税の関係よりも二元的所得税について、これが金融小の一番の課題であろうということで、それにウエイトを置いたご報告をいたしました。
火曜日の基礎小の説明で、石会長のほうからも既にご説明があったかもしれませんが、視察の印象といたしましては、二元的所得税というのは4つぐらいの論点が、多分本来仕組まれた時には考えられていた問題で、1つが、稼得所得と資本所得の分離、2番目が稼得所得に関しては累進、資本所得に関しては比例、定額、定率ということですね。3番目が、資本所得に関しては一律で、各資本所得からの損益通算。4番目が資本所得と法人税率と稼得所得の最低税率も一緒にするという仕組みだというふうに理解していたのですが、われわれの視察の結果で一番印象的であったこととして今日ご報告しましたのは、どうもそういう理想像のとおりには余り動いていなくて、とりわけある種の損益通算といいますか、例えば資本所得と稼得所得の間、あるいは資本所得の内部で損益通算が必ずしも完全に認められているわけではない。むしろ場合によっては税率も資本所得内部で違ったり、場合によっては累進、比例でさえないというところもあって、そういう二元的所得の、われわれが考えている理論形といいますか理念形といいますか、それとは随分現実は違う形で執行されているというのがわれわれの印象でございました。
視察の時に聞いた結果も、彼らは、これは極めてプラクティカルな税制であって、そういう実務上の観点から、例えば租税回避を起こさせないとか、タックスイロージョンと、タックスベースを減らすというようなことを避けるとか、そういう理由からいろいろな修正を加えているのだというご説明がありました。
私のほうからは、以上を踏まえて簡単に、日本で二元的所得税を考えることの意味というようなことを、とりわけ税率の観点と損益通算を認めるか認めないかという観点、それからもう一つが、支払利子の控除というものが実は大幅に認められていたことが、北欧で二元的所得税が導入された1つの契機なわけですが、それを支払利子控除というものを使った租税回避とか、そういうことが北欧では多かったわけですけれども、そういうことを踏まえて1つの考え方として、場合によっては、資本所得は非課税にしてしまって、むしろ金利支払みたいなものを非控除にするというような考え方もあるのかもしれない…これは全くの私見ですが、というようなことも含めてちょっとお話ししました。最後の点はそれほど今日の議論の本質ではないかもしれません。
2番目に石会長から、カナダとアメリカについてのご説明がありました。とりわけ、例えばカナダの社会保障の仕組みがうまく機能しているということとか、あるいは納税者番号制度というものがかなり根づいてきているということについて詳しいご説明がありました。
それからアメリカの、最近問題になっていますいわゆる配当課税の見直しですね。これについてのご報告もいただきました。関連して、実は日本時間の昨晩、米国の上院で動きがあったようで、それについてのご説明もあって、下院・上院ともにブッシュのそもそもの提案はそのままの形で通らないという、それでしかも極めて異なる形で上院・下院が通ったという、両院協議会に回したというご趣旨のお話を、これは調査課長のほうからつけ加えてご報告をいただきました。
それから吉野委員からは、「金融課税とわが国の金融資産選択・金融業の再生」というテーマでお話をいただきまして、これは、まずデータを使って、日本がもちろんアメリカとかそういうものに比べて極めて預金とか債券とかそういうものの比重が高くて、株式であるとか、いわゆるリスク資産のほうが非常に少ないということ。それから、もちろんドイツでもリスク資産の比重は増えてきているということを含めて、それから各国では、特に英米では製造業の比率が経済全体で落ちていくのに対応してサービス業、特に金融業の比率が上がってきているという形で対応してきている。日本は全然それができていない。そういう意味で日本の産業構造ということから考えて金融業をもう少しきちんと復活させなくてはいけないという趣旨のお話をいろいろいただきました。
その上で、1つが、そういう意味で税制というものももう少しうまく色々とそれを活用して、今言ったような形で日本の金融業をもう少しきちんと成長させる方向で考えなくてはいけない。その観点から1つが、今まで日本の金融業というのは余りにも国内中心で資産運用をしてきているので、むしろ国際的な資金運用、資産運用ができるような仕組み、それで金融業でもっと稼げるような仕組み、例えばバブルの時の…バブルと言っていいのかどうかわかりませんが、90年代のアメリカの株式が非常にうまく投資できるとか、アジアが成長した時にアジアの市場でうまく投資ができるとか、そういうことができるような金融業をつくらなくてはいけないのではないかとか、あるいは資本蓄積にこういう金融課税というのは大きな影響を与えるから、そういうことに気をつけなくてはいけないのではないかとか、外国に日本の金融資産は極めてリスクレスなところには行っていますけれども、そうは言っても、一旦何か動くと足が速い可能性が非常に強いから、そこをきちんと考えた対応を今から考えるべきでだというような示唆をいただきました。
そういう意味で言うと、吉野先生のお話としては、基本的には稼得所得と資本所得の税率を変えることによって、資本蓄積に対してもよい影響を与えて、しかもいろんな意味での自由度の高い仕組み・税制をつくるべきではないかというお話をいただきました。またさらには、日本の安全資産、預貯金とかそういうものが、実は裏で金融機関が破綻しているということを考えるとリスクは結構高くて、それを国がカバーしているだけなのだと。その真のリスクがもう少し預金者側にも見えるような体制をつくることによって、いわば無理にリスクをとらせるというよりも、いわゆる「リスキーな」と言われている株式とかそういうところに、投資家が自らの判断で動いていくという仕組みづくりが大切だというようなご示唆をいただきました。
大体そんなところかと思いますが、あとは質問等で補足をさせていただきたいと思います。いずれにしても、今日の小委員会はこういうことで次回は23日(金)の2時から4時を予定しています。池尾委員からのプレゼンテーションに加えて、納番についてのお話とか、納番に関しての幾つかのトピックを予定しております。そんなところですが、どうぞご質問等を。
〇記者
吉野先生の話の中で、今ご説明いただいた税率を変えて自由度の高い税制の仕組みというお話がありましたけれども、もう少し具体的に、どういうイメージなのかということを教えていただきたいのと、それに対して委員の方からどういう意見があったのかをお願いします。
〇奥野小委員長
自由度を高めるというのは簡単な話でありまして、要するに資本所得と稼得所得に関して税率が均一の税率を課すと、政府の政策としては、その税率1つしか動かせない。それに対して稼得所得と資本所得と別々の税率でやっておくと、税率が2つになるので、その2つをうまくいろいろ動かして、もう少し自由度が高い政策運営ができるという趣旨です。特にそれに対しては質問等はありませんでした。
〇記者
先生の視察のところで、いわゆる二元的所得税、理念形からは結構違っているというお話だったと思うんですけれども、日本的な二元的所得税とかそういうことも言われたりするわけですが、そういう視察を踏まえて、先生、今後どういうふうな議論を進めていくべきだと思われたのでしょうか。
〇奥野小委員長
要するに北欧型の二元的所得税というのは、4つぐらいの特徴と言った4つ目のところがかなり効いていると思うんですが、つまり、資本所得と事業所得と稼得所得のうちの一番税率の低いところですけれども、ここを同じ税率にするという形なんですね。ですから、きちんとそういう形で実際に運営されているとは思いませんけれども、そもそも考えたときには、そこら辺を損益通算するという考え方だったと思うんですね。ところが、そこを損益通算すると実はいろんな問題が起きてきて、資本所得で例えばキャピタルロスが生まれるとか、利子支払がたくさんあるとかということで、例えば資本所得が負になる、マイナスになるということがしばしばあるわけですね。損益通算をほかの部分と認めると、例えば事業所得とか稼得所得の税収が減るといいますか、あるいは逆に言えば、納税者側から言えば税支払が減る。それはタックスベースが減るという意味では国民経済にとって問題があるかもしれないし、逆に税を支払う側から言うと、租税回避行為といいますか、タックスアボイダンスということを逆に言うと大幅に認めることにつながりかねない。日本はそういうことをもともと分類所得税という形でさまざまな所得区分をつくることによって、そこの損益通算は認めてきていないので、そういう問題は余り表に出ていないわけですが、逆に言うと、北欧の場合には、そこをあまりにも認めてきたので逆に90年頃のインフレでそこの問題が非常に大きくなった、それがあるがために二元的所得税が導入されたというところもあるのかなあというのが、私の印象でございます。
ですから、そういう意味で言うと、今言ったようなところですね。資本所得と事業所得ないしは稼得所得との損益通算を認めるかとか、あるいはもっと言えば北欧でも、スウェーデンでもデンマークでもそうみたいなんですが、資本所得の内部でも実は損益通算に関してかなり制約を課している。例えばキャピタルゲインとそれ以外の資本所得に関して損益通算を完全には認めていなかったり、さまざまな形で制約を課している。それはまさに、今申し上げたようなタックスベースの問題とタックスアボイダンスの話だと思うんですけれども、極めてプラクティカルな税金だと申し上げたのはそういう意味なのですけれども、そういうことを日本の場合には考えていくべきだろうと。そういう意味で、だからこそ日本型金融課税といいますか、金融所得に限った、つまり資本所得に限って何か考えていると吉野さんがおっしゃるのは、そういう趣旨だと思いますけれども、ただ、そこら辺、損失資本をどう考えていくのか、あと税率をどこまで共通一律のものにすべきなのか、そこら辺が多分イシューになるのかなというふうに思います。
(以上)