金融小委員会(第11回)後の奥野小委員長記者会見の模様

日時:平成15年4月15日(火)16:09~16:35

奥野小委員長

本日は1年半ぶりに再開した委員会だったんですが、まず初めに15年度税制改正の内容と我が国税制の現状、それからブッシュ大統領が提案している米国の配当及び株式譲渡益課税の見直し内容などについて事務局から説明を受けました。

2番目に、それに続いて、これらの議論を行うに当たってのたたき台として、今後の検討の視点という1枚紙のメモについて、事務局に説明をしていただきました。

3番目に、これが主要な話だったんですが、田近委員から「資本所得課税の展開」というテーマで、それから中里委員から「経済理論とともに考慮すべき若干の法的視点について」というテーマで説明を受け、自由討議をいたしました。

田近委員からは、これまでの資本所得課税についてのさまざまな歴史的な経緯とか論点について話していただきました。例えば、欧米とか北欧諸国でのインフレの問題等に関連した節税の問題、あるいはそれに伴い極めて資本所得課税は不公平な税であるというような形で捉えられてしまったというようなこととか、それから国際移動がかなり自由になってきて、グローバル化を背景とした国際競争の問題とか、そういうことを反映して、総合課税による資本所得課税の困難というものが生まれてきているわけで、それをいかに克服するかという点から、例えば総合課税というやり方のほかに、資本所得課税を廃止する、極めてファンダメンタルな改革方式としての支出税とフラットタックスというふうな仕組みであるとか、あるいは総合課税と今のファンダメンタルな方法との中間、折衷案に近いようなCBIT、Comprehensive Business Income Tax とか、あるいはいわゆる北欧の二元的所得税とか、オランダのボックス課税等についてもご説明いただきました。それから、税務執行の問題等についてもいろいろご意見を頂戴しました。

中里委員からは、先ほど申しましたように、経済理論とともに考慮すべき若干の法的視点という立場から、こういう金融課税ないしは資本所得課税ということを考えるときに、経済学ないしは経済理論的な考え方で議論するだけでは、いろいろな問題が発生するので、実はそれ以外のさまざまな制約的なことが大事である。例えば憲法とか、それ以外のもの、手続的な問題があって、実際には頭で考えた理論が実行できないというふうな執行面の問題とか、例えばファイナンス的な見方と私法的な見方というふうな形で、キャッシュ・フローというふうな形でも、実は課税をするときには同じようなキャッシュ・フローの実態であっても違う形で定義せざるを得ないというようなことが起こって、その結果、経済的には同種のものであっても、課税上異なる取り扱いを受けるとか、いろいろなそれ以外の側面も含めて、さまざまな視点から経済理論で考えるほど単純な問題ではないということに関する指摘を受けました。

中里委員のご説明は、むしろこういう改革といいますか、新しい制度をつくるに当たっては、何か理論的に理想を考えるだけではなくて、むしろ法律、制度を使ってアドホックに制度を作っていくという側面も使う、両方を使っていくべきだという、ある意味で正当なご指摘だと思いますが、そういうご説明を頂戴しました。

そういう話を背景に、納番の話であるとか、金融資産の優遇税制制度としての401kであるとか、もう一つはアメリカで議論になっています配当の二重課税の廃止ということに関して、どういう論点があるのかというふうな議論であるとか、そういうさまざまな議論が自由討議で行われました。

ただ、今日は第1回目であるということもあって、それほど立ち入った議論はなかったというのが私の印象でございます。

大体そんなところですが、何か、よろしければ質疑応答に入らせていただければと思います。

記者

多分、1回目ということで、どういう論点があるのかという形での論議が中心だったとは思うんですが……。

奥野小委員長

ちょっといいですか。言い忘れたことがあるので、もしよろしければ。

もう一言、金融小委員会再開の趣旨と今後のスケジュールについて、当然ご質問に出ると思いますけれども、こちらからあらかじめご説明しようと思います。本日は、前回の金融小委員会が実は平成13年、おととしの11月27日でしたから、約1年半ぶりの再開となります。

それから、ご承知のとおり、平成15年度税制改正において、金融証券税制は配当課税を中心に大きな見直しが行われました。今回の税制改正は、市場や政治の動向等を踏まえて行われた結果と受けとめています。ただし、その一方で、その内容や意義について、理論的な側面からの検討も十分に行う必要があるだろうと考えています。

また、金融資産性所得に対する課税の一体化ということが今後の方向性として語られることが多いですけれども、その意味内容についてもやはりきちんと検証していくことが重要だろうというふうに思います。

そこで、金融小委員会としては今後、比較的中長期のタームを想定して、多岐にわたる論点についてじっくりと議論を詰めていきたいというふうに考えています。

今後の具体的なスケジュールとしては、4月末に海外出張を予定しており、アメリカとカナダに石会長と水野忠恒委員が、それからスウェーデンとデンマークに中里委員と私が参る予定でございます。金融証券税制と年金税制を中心に調査を行う予定となっております。

その後、5月後半ですが、2回ほど金融小委員会の開催を予定しています。金融に関する所得の捉え方などの議論のほか、納税者番号制度についても議論を行い、委員同士で積極的に議論を行っていきたいというふうに考えています。

記者

中長期的タームと、まず時期的なことを伺うんですが、これは大体どのぐらいを念頭に置かれているんでしょうか。

奥野小委員長

一応、議論のタームとしては多分2年ぐらい、もちろん確定しているわけではないんですけれども、大体2年ぐらいを考えています。

記者

それに際して、例えば金融課税のところでいえば、所得の一体化とかそういう形になるのかわからないですけれども、ある程度のそういう具体案というか、形のようなものをつくるということを念頭に入れているんですか。例えば納番にしても。

奥野小委員長

基本的には2年間というじっくりとした時間をかけて議論をしていくと。その結果、一体化に関する仕組みを作りたいということだと思います。その中に納番が入ってくるのか、何か特定のものが入ってくるのかということについては、今の段階ではまだ確定はしていませんけれども、できるだけ何かそういうことについて考えていきたいということだろうと思います。

記者

ということは、一体化というのを一応軸に考えていくという捉え方でよろしいんですか。

奥野小委員長

一応そうだと思いますね。昨年末の答申でもそういうことが書いてありますし、一応そういう方向で。ただもちろん、繰り返しになりますけれども、じっくりと理論的なことも含めて広く考えていきたいという立場ですので、一体化というのは一応の目標だけれども、結果的にどうなるかということまでは、まだコミットはできないと思います。

記者

まだ時期はちょっとしかないと思いますけれども、中期答申にもある程度、海外へ行かれる視察も含めて、反映させるという方向なんでしょうか。

奥野小委員長

先ほどの予定のときに申しましたけれども、海外視察というんですか、それを来週、再来週ぐらいにやって、その後、帰ってきてから金融小委員会は2回しか実は予定できておりません。そういう時間的な制約のもとでは、多分中期答申にできることは、そういう小委員会での意見や議論をもとにして、今後検討すべき論点とか課題とかを問題提起するという程度で多分終わるのではないかというふうに思います。

記者

金融所得の一体化を軸に検討されるということですが、去年の夏にまとめられたあるべき税制の構築に向けた基本方針等には、二元的所得税の問題と一元化のことについて書かれていますけれども、例えば今日資料をいただいたアメリカのブッシュが提案している二重課税撤廃のイメージですね、これはまた二元的所得税とかとは、法人段階に税をかけて個人は非課税だというのはまた違った考え方だと思うんですけれども、今日も議論があったということですが、どんな意見があったのかということと、先生のイメージとしては、こういった新しく出てきている考え方は小委員会の中でどういう位置づけにしていきたいと思っていらっしゃるのか。

奥野小委員長

そもそも金融所得は何かという問題をそもそも詰めなくてはいけないわけです。金融所得に関して、この間国会を通った改正等で少しずつ中立化の方向で動いておりますけれども、まだ完全には動いていないわけで、その中で、そういう問題をできるだけ中立化、一体化させていくやり方として、二元的所得税という考え方もあるだろうけれども、例えば今日の議論でいえば、オランダのボックス・タックスというふうな議論、非常に新しい仕組みですけれども、そういうものに対する紹介等もありました。あるいは配当に関していえば、例えばそもそも配当が二重課税になっているのかどうかというのは、法人擬制説と実在説の問題とか、今日出た話でいえば、課税のタイミングの話であるとか、課税の時点が選べるのかどうかとかというふうな議論であるとか、あるいは所得分配に対する影響とか、そういう種類の話もいろいろ出ていて、例えば今二元的所得税というふうなことをお話になりましたけれども、そこに行くという話には全然なっていなくて、そういういろいろな可能性について、今日は説明を受けたと。それに対して、最低限の質疑応答があったという程度ですね。これからもう少し、だんだん時間をかけて詰めていくという方向になるのかと思います。

記者

今のお話と関連してなんですけれども、まず金融所得は何かを詰めなければいけないということで、資本性所得、金融所得、いろいろな言い方があると思うんですけれども、大体どの辺の範囲までを一体課税の中で想定していらっしゃるのか。それは、不動産なんかはどう考えているのかとか、その辺のお話を伺いたいのと、その中でも配当なり譲渡益なりいろいろあると思うんですが、預貯金の利子まで含めた話もあると思うんですけれども、今回、15年度の改正で配当、譲渡益、投信の収益分配金まで税率を一体にしたわけですけれども、具体的な議論で損益通算とかになってきたときに、一番短距離にあるのはどの辺で、やはり性格的に所得の性質としてすごく遠くにあるのはどういうところなのかというイメージをお聞かせ願いたい。

奥野小委員長

例えば今日出た議論で、所得として金融資産に基づくその収益としての所得と、実物資産に基づくそれが生み出す所得というふうなものを二つに分けるべきではないかという議論と、これは多分中里さんがそういうことを定義されたわけですが、それに対して、例えば田近さんは、資産性所得という言葉をお使いになって、これは多分、金融資産も実物資産も、生み出したところは全部一体としてとらえるという立場だと思うんですね。事々さように、まだ何も議論としては煮詰まっていないと。したがって、いわゆる狭義の金融所得から今おっしゃる不動産所得とか、もっと言えば事業所得のうちのある部分とか、そんな部分だって考え得る範囲には当然入っているのかなというふうに思います。

その中で、では具体的にはどこら辺の問題ですかという話ですけれども、これもまだ私、やはり議論として始まったばかりで、とてもまだ言える状況にはなっていないのかなというふうにも思いますけれども、例えば債券の譲渡益とかというような部分というのは、少なくとも考えざるを得ないんだろうと思います。だから、金融所得の中で割と皆が金融資産性所得というふうに考えていて、かつほかの金融資産性所得とは異なる取り扱いをされている部分をどういうふうに考えるのかというのが議論にはなるんだろうと思いますけれども、繰り返しになりますけれども、今言ったのは私の例であって、それが本当に議論するかどうかも含めて、まだよくわからないということだと思います。

記者

最近の株価下落を受けて、経済界からいろいろな要望がまた出ていますけれども、そういう外側での議論とこの金融小委員会での議論をどういうふうに位置づけていくのか、全く関係ないのか、お考えを。

奥野小委員長

昨日、財界の3団体が提言を出されましたけれども、財界団体としてのお立場はあるんだろうと思いますけれども、金融小の委員長として見ると、率直に言って、昨年、証券税制に対して改革をして、それが国会でやっと通ったところで、そういう状況のもとで、また新たに、とりわけ時限的な改正をということになると、恐らく投資家の方は非常に混乱するのではないかという気がしていまして、そういうやや朝令暮改的な形にすることが株式市場の活性化にとって本当にいいことなのかどうかということに関しては、個人的には少し疑問を持っています。もっと言えば、個人的な疑問ということでもう一つ言えば、労働所得とか賃金所得と通算を認めたりなんかすると、今、株で損をしている人がそれを売って、実現させて、それで賃金所得を通算して税金を下げるというようなことをしかねないので、むしろ、下手をしたらああいう案では売り圧力になる可能性もあるし、だからもう少し、余り小手先のことを考えるよりも、きちんとした対応を税制としては考えるべきで、むしろ株価自体はその企業の収益ということを反映するものですから、そちらをやるべきではないかというふうに思います。

記者

3団体の提案に対しては、今日の金融小の中でもどなたかから意見は出ましたでしょうか。

奥野小委員長

いえ、全然ありません。

記者

非常に基本的なことで恐縮なんですけれども、1年半ぶりにこの金融小委員会を開いて、2年かけて一体化を軸に検討していくということなんですけれども、そもそも今回の検討の狙いというのは、どういう理由なのかということをもう一度整理したいんですけれども、株式を初めとする証券投資を活発にするための税制改革を進めるのか、それとももう少し大きな視野に立った税のあるべき姿というところを重視してお話を進めていかれるのかという、そこら辺、基本的なところなんですけれども、狙いというのをご説明願いたいのが1点と、もう一つ、2年をかけてというふうなおっしゃり方をしたんですけれども、そうしますと、今回の改革を実際の制度に載せていく税制改革というのを考えると、17年度改正とかそういうところを視野に入れているということなのかというところを教えてください。

奥野小委員長

前者は、去年11月に出した答申というのは、多分証券市場の活性化だったと思うんですが、今回やろうとしているのはもう少し、いわゆる金融資産といいますか、あるいは資産性所得といいますか、言い方はいろいろあると思いますけれども、そこら辺の一体化、中立化ということを基本的な狙いとしつつ、その周辺のこと、例えば納番であるとか、あるいは租税論でどういうふうに考えるべきかというふうなことも含めて、周辺のこともきちんと考えていくと。つまり、さまざまな今日本が置かれている、証券市場だけではなくて、もっと広い視野から考えたときに、それから税制の金融所得、資本所得に関する税制の置かれている立場から考えたときに、やはりきちんとした対応をとるべきではないかという時期に来ていると思うので、そこをやるというのが狙いだということです。だからこそ、今日配られた検討の視点というものの中では、例えば一体化の意義と問題点という話だけではなくて、租税論との関係であるとか、その関係で法人所得と個人所得課税との関係とか、あるいは広い意味での課税環境、納番とか源泉徴収の制度とか、そういうことまできちんと考えましょうということなので、これを別の言い方をすると半年ぐらいではちょっと議論できない、そのぐらい広がりのあるテーマだということです。

答申との関係は、もしよければ事務局の方から。

事務局

若干補足をいたしますと、昨年11月におまとめいただいた答申の中に、金融証券税制について、できる限り一体化する方向を目指すべきであるというふうにおまとめいただきました。こういう方向で金融資産性所得に対する課税のあり方という大きなテーマでご議論いただきたいというのが金融小委員会に私どもお願いした立場であります。

ご承知のように、貯蓄から投資ということで、5年間配当譲渡益についての税率を10%に軽減するという時限措置もついているものですから、恐らく5年後、時限措置が切れるあたりでは、また放っておいてもいろいろな議論になると思います。したがいまして、その5年を待たずに、2年とかそのくらいのところで次のあるべき金融資産性所得課税の議論が具体的にできるようなことになればいいなという希望も私どもも持っておりまして、そういうことでじっくりとした議論を小委員会でやっていただければなということで再開していただいたということだというふうに理解いたしております。

記者

実際の見直しというのは、2年ぐらいで一つの基本方針を出して、実際に制度を変えるのは5年後ぐらいということなんですか。

事務局

それは何とも言えないんですが、ご議論をいただいた上でのことではないかと思いますが。

記者

納番の話なんですけれども、昨年の答申で、できる限り一体化というふうなことを進めるとすると、課税環境としての納番というのは、いわばそれに先立つものというか、前提として当然必要になってくるような気もするんですけれども、そこら辺は先生どのようにお考えでいらっしゃるんでしょうか。

奥野小委員長

必要なものになってくるというよりも、こういう金融資産性所得の課税を一体化した上で、そのできた仕組みを有効に機能させるためには、納番が極めて重要だろうというふうに考えています。そういう意味で、納番というのが前提というよりも、できるだけ一緒にやりたい、やるべきものではないかというのが私の個人的な意見ですし、今日の議論を聞いていても、委員の方々のかなりの方はそう考えているのではないかというふうに思います。

ただ、そこで出てきた議論も含めて言えば、投資家にとってメリットのある納番制度でないと意味がないといいますか、せっかく作ってもうまく機能しないだろうというニュアンスの意見も結構ありましたし、そういうことではないかというふうに私も思います。

(以上)

金融小委員会