企画会合(第9回)・調査分析部会(第4回)合同会議 議事録
日時:平成19年5月11日(金)14時00分~
場所:中央合同庁舎第四号館共用第一特別会議室
〇香西会長
ただいまから「第9回企画会合・第4回調査分析部会」の合同会議を開催したいと存じます。お忙しい中、ご参集いただきまして、誠にありがとうございます。
議事に入る前に、前回の会合でお話をいたしましたけれども、4月25日に行われた経済財政諮問会議について、私からご報告をさせていただきたいと思います。
お手元に25日の諮問会議に私の名前で提出しました資料が配られていると思いますけれども、それについて簡単にご説明いたします。
当日は、急に決まった会合で、ほかの話題もありましたので、税制関係については、20分か30分ぐらいの短い時間に限られておりました。
したがって、実際には、私の方からの税調の審議の現状といいますか、流れのようなことをご説明し、その後、諮問会議の4名の民間議員がまとめました意見書といいますか、言葉としては基本哲学というような形になっておりますけれども、そういったものが提出されまして、それを説明し終わったところで、大体税制関係の議論というのはなかった。したがって、ほとんど討論ということまではいきませんでした。
ただ、その終わった辺りで、少子化対策とか、地方税との話、そういったことについて、尾身大臣と、当時、総務大臣が国会でいらっしゃらなかったんですが、副大臣から若干の応酬があったということでありまして、当日はそういうことで、一応、報告したという段階で基本的には終わったということでございます。
私から提出しました資料について少しだけ見ていただきますと、一応、社会経済構造の変化に対応した総合的な税制改革に向けて、どういうふうに税制調査会が審議してきたかということを、まず、まとめております。
Iでは、まず、総理から諮問があったと、その諮問の内容として、例えば「成長なくして財政再建なし」の理念の下に、歳出・歳入一体改革を推進する。その中の税制の問題だということ。
歳出については、国民負担の最小化を第一の目標に、歳出削減の徹底をする。しかし、税制の面においては、それと同時に並行して社会経済構造の変化に対応した中長期的視点からの総合的な税制改革を考えるということ。
更に、これはやや中長期的視点ですが、喫緊の課題として、国際競争力の強化、社会保障と少子化などに伴う、歳出を徹底的に削減した後でも、なおかつ必要となる負担増に対して、安定的財源を確保する必要がある。
それから、更に喫緊の課題として、子育て支援策を充実させる必要がある。あるいは地方分権の推進を図る必要がある。こういったようなことから総理からの諮問に、単なるステレオタイプの諮問ではなくて、かなり具体的に問題が提起されている、課題が提起されているということをご報告しました。
それに応じて、調査分析部会を設置いたしまして、それぞれの領域で3つの分野に分けて、一応、調査を始めております。それから、そのほかに、海外の調査も行いました。そういうことをご報告しました。
この海外の調査については、当時は4月25日のことで、ヨーロッパ、ドイツ、オランダ、フランスの結果を簡単に例を挙げてご説明しました。安定財源を確保するために、ドイツでは付加価値税率を上げた。それから、経済の国際化に対応して、法人税や金融課税の改革が行われた。法人税の場合は、実効税率を引き下げたということであります。
オランダにおきましては、課税ベースの浸食に対応した税制改革が行われた。課税ベースの拡大があったといったようなことをまとめて説明いたしました。
経緯としては以上のことでありましたけれども、事前に諮問会議からいろいろ期待されたこととして、これからどういうことになるのかということも言ってくれということでありましたので、私の一応の考えとして申しましたのは、まず、第一に活性化するという課題が与えられている。グローバル化の中での問題としては企業課税とか金融所得課税の現代化を図るということが必要ではないか。それについての議論が必要であろう。
例えば企業課税の改革に当たりましては、我が国企業の国際的な事業活動の実態というものが、これからどうなっていくかということの分析が重要であって、これはドイツの場合、法人税率を引き下げたのは、EUに一体化される中で、法人税率を引き下げていくという必要が生じたわけですが、同じようなことが日本にもあるのかどうか。どの程度あるのかとか、そういったことについて検討する必要があるだろう。
ドイツでは、法人税率の引き下げと同時に、法人に関する課税ベースを拡大することによって、ほぼ中立的、6分の5までは収入を確保して税率を引き下げると言われておりますが、日本の場合はそういうことができるのかどうかといった検討も必要であろう。
また、税制改革で活性化を図るというほかに、他の成長促進策というのもあるわけで、そういったことについての比較検討が必要だろうと申しました。こういったことが、これから議論すべき点であろう。
そして、安定的財源についてですが、安定的財源ということになりますと、ある程度金額が必要になるわけでありますが、やはり経済成長は財政健全化にとって必要ですけれども、税調の立場としては、財政を健全化していくことが、また、将来の健全な経済成長の土台になるものであるということを、やはり強調する立場にあるのではないかと思いまして、そういった観点を重視したいということを申しました。
また、歳入については、家計貯蓄が減少していく。これは国債の発行というものに対する1つの制約になり得るわけですし、少子高齢化が続く限りは歳出圧力というのは非常に増大していく。こういう厳しい状況にあるんだということ。
その中で、将来世代の肩の荷の重さを考えるときに、安定的財源の確保というのは、かなり難しい問題ですけれども、それを検討する必要があるだろうと申しました。
次に、経済社会構造変化への対応というところについては、グローバル化、情報化、そのほか働き方、暮らし方、いろいろ家族機能の変化といったような大きな変化が起こっているわけで、また、本日も議論になるかと思いますが、若年層を中心として所得格差が拡大するといったような傾向もございます。それから、社会保険料は今後とも増大していく予想になっています。
こうした状況を踏まえて、これにどう対応するかといったことを更に詰めていかなければいけないということであります。
4つ目の課題としては地方分権の推進ということでありまして、これは国と地方の財政状況、プライマリーバランスの達成の程度とか、そういったことも大事な問題でありますし、それから国と地方の役割分担の明確化とか、地方税の偏在性の是正の方向にとってよく検討していく必要があるのではないか。
こういうふうに今後の課題を一応、4点についてご説明いたしました。
なお、最後に申しましたのは、税制改革、それだけで独立で行うものではなくて、歳出削減を徹底して、それと税制改革がペアで進むという形でなければなりませんし、それ以外の諸改革についても税制改革を考慮してといいますか、どのやり方が一番日本全体の改革のために税制も変えるが、ほかの手段も使うということで、一体的な改革の実を上げるということが必要である。我が税調としては、そういった全体の改革の中で税制改革がうまくいくように努力をしたいと思うが、諮問会議においても、そういうことは十分考えてほしいという形の要望をいたしたということでございます。
そのほかに、お手元にももう一つ配られていると思いますが「税制改革の基本哲学について」というメモがあるはずであります。
これは、諮問会議の民間議員の4人、伊藤隆敏、丹羽宇一郎、御手洗冨士夫、八代尚宏ですが、当日は伊藤隆敏教授がこれをご説明になりました。時間がなかったものですから、省略しながら読み上げられたという程度の時間で終わりましたけれども、3つの視点「納税者の立場に立って設計されているか」「経済社会の変化に対応しているか」「受益と負担の両面から総合的に設計されているか」。
「実現すべき6つの柱」として「1.イノベーションとオープンな経済システムによって経済成長を実現する」。これは税調への諮問にもイノベーションとオープンということが書いてありましたけれども、それを更に繰り返して1.で書かれております。
「2.多様なライフスタイルや経済活動を実現する」ということでありまして、税制が就業や結婚や出産などゆがみをもたらさないよう、各種控除を見直す。
投資等の経済活動に対して、税がゆがみをもたらさないように、あるいは租税回避行動による不公平や資源のロスが生じないよう制度を設計する。
公の分野で多様な財・サービスが供給されるよう、寄附金税制の拡充等を検討するといったようなことであります。
3番目は、世代間・世代内の両方の公平というものを実現する必要があるということであります。
例えば世代を超えた格差の固定化を防ぐよう税制等の設計を行うということが書かれております。
4は、税と社会保障を一体的に設計し、持続的で安定できる仕組みを実現するということになっております。
5は、地方分権であります。
6は、納税者の信頼を確保し、かつ公平・効率的な徴収体制を実現する。言わば納税者と徴税する立場との相互で効率的な体制を実現する必要がある。こういったような趣旨のことをご説明になりました。
当日は、こういうふうにそれぞれ2つの報告を説明するまでで終わったわけでありまして、特にこの2つの文章についてのさらなる議論というのはほとんど時間に余裕がなかったということであります。ということが、当日のご報告であります。
実は、その当日、大田大臣から税制については、この1回では時間がなかったので、もう一度か二度かわかりませんが、少なくとももう1回ぐらいは議論をしたいということで終わっておりました。
実は、今、聞いたばかりでありますけれども、来週の15日火曜日ですが、経済財政諮問会議が開かれるそうでして、その席でもう一度税制の問題を取り上げたいということであります。具体的にどういう議論になるかということは、私も今日聞いたばかりで知らないわけでありますけれども、聞くところによると、新しい資料を提出するというのではなくて、この資料に基づいて、議論をもう少し深めてほしいというふうに承知しております。
そういうことでありますので、これを踏まえてもう一度いろいろな質問が出たりして、次の15日に議論が行われる方向で、現在、進んでいるということでありますので、次回の15日につきましても、今から急に新しい資料を用意するということは考えておりませんので、この資料に基づいてご議論があったときには、適当な応対を私の方でさせていただきたいということをお願いしたいと思っております。
説明は以上でございますが、例えば基本哲学、諮問会議の民間議員の意見書その他についてもご意見もあろうかと思いますが、15日までほとんど時間がないわけでありますけれども、もし何かありましたらメールでも結構ですから、私の方に、これについてはこういう感想がある、あるいは私の報告についても、こういうところはよくなかったんではないかというご指摘等があれば、教えていただければ、それなりに処理させていただきたいと考えているということをご紹介いたします。
以上で、この問題についての報告は終わりますが、大体そういう成り行きでよろしゅうございますでしょうか。
それでは、この件についてはそういうことで、また次回に15日の模様についてはご報告をし、また、それまでに出たご意見等についても次回にまたご報告をすることにさせていただきたいと思っております。
よろしゅうございますでしょうか。
それでは、次に移りまして、本日のプロパーの議題、議事について簡単にご説明をいたします。
まず最初に、進行を田近部会長にお願いしまして、前回に引き続きまして、調査分析部会の審議を行いたいと思います。
本日は「日本の所得・消費格差と再分配構造というテーマで、専門委員の大阪大学教授の大竹文雄さんから説明を受け、皆さんで議論をしていただきたいと思っております。
他方、後半におきましては、先日行われたアジアでの海外調査の報告を受けたいと存じます。ヨーロッパについては、前回、説明をさせていただいたわけですが、アジアの方については、シンガポールと韓国を調査しておりますので、これも興味深い報告が聞けると期待しております。
それでは、田近部会長からお願いします。
〇田近部会長
それでは、これから調査分析部会に入りたいと思います。部会の各領域の調査報告に入りますけれども、今日のテーマは「日本の所得・消費格差と再分配構造」です。このテーマについては、専門委員である大竹先生のプレゼンテーションをお願いします。
3領域を設定しておりますけれども、今日はその報告の第1の領域である経済社会の構造変化と、それが税制に与える影響の検証の一環として報告をいただくものです。
初めに、吉川主査の方から簡単に今日の報告の趣旨等を説明いただいて、大竹さんのお話を聞きたいと思います。よろしくお願いします。
〇吉川委員
既にお話が出ていますとおり、本日は所得格差につきまして、大阪大学の大竹教授にご報告いただくということでございます。
私の方から改めて大竹教授をご紹介するのも僣越ですが、大竹教授は、所得分配に関する実証分析をずっと続けてこられて、いわゆる格差問題に関する極めて冷静で客観的な研究をされている、第一人者と言っていいだろうと思うんです。大竹教授の研究というのは学会で高く評価されているということでございます。
本日の報告は、全国消費実態調査という報告、これは5年に一度の非常に大がかりな調査で、日本の家計に関する調査としては最も信頼の置けるデータの1つということでございます。5年に一度でございますので、2004年のデータというのが直近なんですが、その2004年の直近のデータを踏まえて、今日は報告をされるということです。この報告自体はごく最近まとめられたというふうに承知しております。
そういう意味で、格差問題に関する私としても最も信頼のおける、かつ直近の研究成果を本日は聞けるというふうに期待しております。よろしくお願いいたします。
〇田近部会長
それでは、早速大竹さんにご報告いただきますけれども、30分程度でお願いして、後はできるだけ多く議論の時間に割きたいと思います。よろしくお願いします。
〇大竹専門委員
大阪大学の大竹でございます。お手元の右肩に「企画9-1」「調査4-1」と書いてある資料をごらんください。「日本の所得・消費格差と再分配構造」というタイトルのものです。
本日報告させてもらいますのは、大阪大学の同僚の小原美紀准教授と共同で研究しております内容です。
1ページめくっていただきますと「本報告の目的」というのがございます。今日報告させていただきます内容は、ここに掲げておりますように4点あります。
1つは、所得格差あるいは消費格差の推移というのを最近のデータを使って明らかにする。その際、今、吉川先生の方から紹介がありましたけれども、全国消費実態調査の2004年のデータを使っております。もう一つ、所得再分配調査というものも87年から2002年のものを使っております。今日の報告は、大体全国消費実態調査に従ってお話ししたいと思っております。
その中身は、まず、不平等の指標、所得格差の指標について幾つかのものを提示しております。その中で、今日、報告させていただきますのは、2つです。
1つは、ジニ係数です。これは、所得が完全に平等だったらゼロ。1人の人がすべての所得を独占しているような状態のときに1ということで、1に近づけば不平等になるというような指標です。
それと、上位の所得。例えば今日お話ししますのは、上位1%、上から所得の高い人を順番に並べて1%の人たちが全体の所得の何%を独占しているかというふうな資料です。この2つについて主に紹介したいと思っております。
その際に全体の不平等だけではなくて、年齢の階級内の不平等は、どこの年齢層で格差が広がっているんだとか、あるいは世帯の属性別に見たらどうだろうかとか、それから所得だけではなくて、後で申し上げますけれども、経済学者は消費の格差というのを重視するんですけれども、そういったものはどう変わっているのか。あるいは世帯で見るべきなのか、個人で見るべきなのかというのも論点なんですけれども、そういった指標を幾つか計算した結果を出してみたいと思っています。
第2点目は、税との関係ですけれども、所得階級別あるいは消費階級別に見た課税前の所得に対する税負担、あるいは社会保険料負担、そして消費税負担、そういった累進度は一体この間はどう変わってきたのかということ。
もう一点は、このデータで計算できる範囲で行ったものですけれども、公的な受益です。社会保障あるいは教育についての現物給付、医療についての現物給付といったものが、所得階層別にどういう受益構造を持っているのかということをお話ししたいと思っています。 第3番目に、生涯所得で見て税は果たして累進的なのか、どのぐらい累進的なのかという観点でお話ししたいと思います。
最後に、今日お話しする内容というのは、一体税制改革に対して、どういうインプリケーションを持っているのかという形でまとめさせていただきたいと思います。
1ページめくっていただきたいと思うんですが、この資料は、3ページ目から6ページ目までが文字ばかり、そして7ページ以降にグラフだけという形になっております。文字のところをお話ししながら、後のグラフをページ数で指摘して見ていただくという形で進めさせていただきます。
3ページ目をごらんください。最初に所得・消費格差に関する報告内容の主な結果をお話ししたいと思います。
まず、一番目の結果というのは、世帯所得の不平等というのは、90年代後半から上昇しているということがわかります。
例えば7ページ目をごらんください。「所得格差の推移」と書いてあります。それで、タイトルに等価所得世帯というのがあるんですが、これは世帯間の所得格差を見ているんですけれども、世帯人員を調整するということをしているものです。
これは、例えば世帯所得を世帯人員数の平方根で割るということが、かなり標準的に行われる手法なので、それを使って、一人当たり所得に近いものを計算しています。その間の格差がどうなっているかということです。
全体の所得格差の推移というのは、◆の太い線で書かれているもので、90年代後半から右上がりに上がってきているということがわかります。94年ぐらいから99年、2004年。89年をボトムにしてだんだん上がってきているということがわかります。
次の8ページをごらんください。今度は可処分所得のデータで同じような計算をしたものです。
これは、所得税、社会保険料を差し引いた可処分所得の分配がどうなっているか。やはり同じように全体と書いてある◆の動きを見ていただきたいんですが、89年をボトムにして、90年代後半に上がってきたということがわかります。
また、3ページ目に戻っていただきますと、所得の不平等度というのは上がってきているということです。
次の3ページ目の2番目の結論というのは、実は99年までは、私は以前からの研究でわかっていたんですけれども、こういった所得格差の拡大のほとんどは、年齢階層内の格差の拡大ではなくて高齢化が原因だということはわかっていました。今回、計算してみると、少し様相が違うというのが2つ目の結論です。
99年から2004年にかけては、年齢階層内でも不平等度が拡大しているということです。それは10ページ目のグラフをごらんください。
これも同じように、(等価所得世帯?)というので世帯ベースの一人当たりのものです。年齢階層内なんですが、これは世帯主の年齢階層内の所得格差の動きを取っています。ほとんどの線は重なっているんです。それは1984年から99年まで、ちなみに、これは単身世帯も含んでいます。公表データでは含まれていないんですけれども、単身世帯を含んだ形で計算しています。
84年から99年まではほとんど線が重なっているんですけれども、やはり2004年にかけては各年齢内でも所得格差が上がったということがわかるかと思います。それは、可処分所得であっても同じことです。右側のグラフが可処分所得ですが、2004年のグラフだけ少し外れて上がっているということがわかるかと思います。
次の11ページに、今度は消費の格差というのを見ています。私の立場というか、経済学者の多くはそうだと思うんですけれども、所得というのは必ずしも豊かさ、生活水準の格差を表わさない。ストックがあってフローの所得のない人もいるということなので、生活水準の格差、生涯所得の格差を正しく表わすのは、むしろ消費の格差というふうに考えています。
これを見ていただきますと、消費の格差が上がったのは、11ページのグラフだと、年齢階層内で上がっているんですが、それは90年代から既に勤労層を中心に上がってきたということがわかります。所得の格差は、それに遅れて2004年になってはっきり出てきたということです。
消費の方は、将来格差が拡大するということを先取りするという特徴がありますので、90年代に格差が拡大してきたものが2004年になって、各年齢内でもそれが現実となって表われたというふうに解釈できると思います。
次は17ページまで飛んでいただきますと、一つこういう格差の拡大というのが、それでは一体どういうグループが格差の拡大を引き起こしたのかというのが、次のトピックスになります。
どういうことを背景にしているかといいますと、最近のアメリカの研究でわかってきたことは、アメリカで90年代以降、所得格差が拡大したということは、いろんな統計でわかっているわけです。
その中で、アメリカの所得格差の拡大の要因というのは、一番上位の人の所得が極端に上がったというのがアメリカの所得格差の拡大の原因だということが、最近の研究で明らかにされております。
日本ではどうかというのが、17ページのグラフになるわけです。左側に全国消費実態調査の上位では0.5%の人たちの所得が全体の所得の何%を占めるのかというのが書いてあります。あるいは1%、5%、10%というのが取ってあります。
これを見ていただくと、10%のところでは少し変化があるかもしれませんけれども、実はほとんど変化がない。84年から2004年まで特に上位1%というところで見ると、そのシェアというのは変わっていないということがわかります。
一方、では、なぜジニ係数という不平等尺度が拡大したのかというと、右側のグラフがその理由を示しています。右側のグラフは、下位の人たちの所得のシェアの比率がどういうふうに変わってきたかということです。
それで見ると、例えば■のグラフというのは、下位10%の人たちの所得の独占というものの変化を示していますけれども、これは先ほどのジニ係数のグラフと全く逆で、1989年を一番トップとして、そこから最近2004年にかけて徐々に下がってきたということです。
ですから、ジニ係数の動きを規定していますのは、所得下位のグループの所得がどうなってきたかということなんです。特にここでわかるのは、所得の下のグループの人たちの大きさというのが下がってきたことが全体のジニ係数を引き上げてきたということになるということです。
それで、19ページについても同じようなグラフがあります。これは、所得の上位1%の人たちの収入割合というのを全体の所得に占める割合の動きを、収入の源泉別に見ているんです。このグラフはどうしてこういうのを出しているかというと、先ほどアメリカで上位の人の所得が増えたということを申し上げたんですが、その増えた中身というのは、資産の所得が増えたんではなくて、給与所得が増えたということがわかっています。それは、経営者の所得が非常に高くなったということを背景にしています。
そういうことが日本で起こっているかということを調べるためにこれをしたんですが、勤労収入、給料所得というところは、実は日本では増えていないということがわかります。今日、ここではお示ししておりませんけれども、例えば法人企業統計を見て役員一人当たりの所得の動きというのも調べてみたんですけれども、全体ではほとんど変わりない。ただ、一部例外がありまして、2004年以降なんですけれども、資本金10億円以上の役員の所得は少し上がりました。そういう例外的な動きがありますけれども、少なくとも2004年まで見る限りは、全体の影響に与えるほど大きな変化ではないことがわかります。これが所得格差に関する3ページの要約です。
次に4ページに移りたいと思います。
次にお話ししますのは、今、全体の所得格差の動きを示したんですけれども、それでは、税の負担構造あるいは公的な受益構造についてどういう特徴があったかということです。これは、22ページのグラフを見ていただくと、4つのグラフがございますが、まず、左上のグラフは、1984年時点で所得階層別に税負担率がどうであったかということを計算しています。平均税率です。
この所得階層というのは、どういうものかというのをお話ししたいと思うんですが、例えば一番左下端にP20-40というのがあります。これは、所得の低い人から20%目から40%目の人たちのグループです。
逆に、このグラフの右下のところにP99-100というのがありますけれども、これは99%目から100%目ということで、上位1%の人たちが、平均的にどれだけの税負担をしているかということです。
見ていただくと、84年の段階では、累進税率の程度が今より高かったので、所得税の負担率は、所得階層が高いほど高いという形になります。
それから、濃い色になっているのが社会保険料です。課税前の所得に対する社会保険料負担、これは社会保険料に上限がございますので、所得の高い人たちの負担率が低いという形になっている。それから住民税、消費税という形になるわけです。
これが、22ページの右側のグラフを見ていただきますと、2004年にどう変わったかというと、所得税の負担率が上位層でかなり下がってきたということがわかります。あとは、そんなに大きな差はないです。
もっと劇的な差は、下のグラフです。受益率というのを計算したものです。
全国消費実態調査では、年金がはっきりわかって、あとは教育は子どもが何歳であるかというので平均的な教育費用を割り当てています。
それから、医療も支払い医療額が3割自己負担であるという仮定の下で計算したものです。
もう一つ別の所得再分配調査を使ったものでは、もう少し丁寧な推定をしたものがありますが、ここでは全国消費実態調査の結果を紹介します。
左側が1984年の課税前所得に対する、そういったものの受益率。右側が2004年。両者で大きく違いますのは年金の部分がかなり大きくなっている。84年では、かなり年金の比率というのは、階層間では変わらなかったんですけれども、2004年になってきますと、低所得層というか、所得の半分以下の層では、年金所得の比率が急激に上がっているということがわかるかと思います。
この背景は、21ページに世帯主の年齢分布の変化があります。全国消費実態調査ですと、2004年と1984年では高齢化の程度が随分違うということがわかります。したがって、世帯構造が高齢化したということと、年金水準が上がったという両者で受益がかなり大きくなってきたということです。
同じようなグラフをもう一つお見せしたいと思いますが、29ページの所得消費階層別負担・受益率というのがあります。これは先ほどのグラフと基本的に同じようなものですが、横軸に年を取りまして、縦軸に消費税を含んだ平均税率というのを取ったものです。それぞれの線は所得階層を示しています。99から100というのが上位1%です。
上位1%の人たちの消費税を含んだ平均税率というのは、94年から99年にかけてフラット化したというのを反映して下がったということがわかります。ほかのグループは余り変わっていない。20から40のところも少し下がっているかと思います。
今度は受益の方を見ていただきますと、それが右側のグラフですが、特に急速に右上がりで上がっていっていますのが、所得階層が20%から40%、真ん中よりも下の方の階層ですが、そこでは年金を中心に受益額が急激に上がっていったということがわかるかと思います。
この所得階層の分け方を消費にしたものが下のグラフですが、所得ほど大きな差はないんですが、かなり似た動きをしているかと思います。
4ページに戻りますと、今、3つ目まできました。
次が世帯主が高齢者かどうかということで、属性別に受益と負担の構成は一体どうなっているのかということを調べたものが、31ページにあります。
31ページは所得階層と申し上げても、なかなか幾らぐらいかというのがわかりにくいかと思いますので、横軸に年間所得の金額で、万円単位で取っています。等価課税前所得という概念ですので、一種の一人当たり所得を取っているわけです。
3つの線がありまして、税、消費税、所得税、住民税、社会保険料込みの負担です。それから、先ほど申し上げた教育、年金、医療の受益といったもの。それから、その差し引きのネットの3つの線があります。
そのネットというところを見ていただくと、負担から受益の方を差し引いたものがネット負担率といったものです。
そうすると、例えば全世帯のところを見ていただきますと、大体500万ぐらいのところで、損益分岐点がございます。これより下の人たちは、受益の方が大きい。
これが、31ページの下のグラフを見ていただきますと、これは高齢者世帯なんですけれども、高齢者の世帯の方は受益がかなり大きいということで、損益分岐点が1,000万円を超えているということになるわけです。
次のページの32ページには、勤労者世帯というのがありますけれども、勤労者世帯だと400万のところで損益分岐点があるという状況になっています。
また5ページの一番上の方に戻っていきたいんですが、次は負担と便益と申し上げても、特に負担は、その時の所得階層で負担を見るのが本当に正しいのかどうかというのが次の論点です。
これは、若いときに非常に所得があった人が引退して勤労所得がなくなったときに、その人は貧しくなったのかということを考えると、これはストックの蓄積がありますから必ずしも貧しくなっていない可能性がある。あるいは非常に変動的な所得をもらっているような人たちがいて、ある年は非常にたくさん所得をもらって、次のときはそうではないという場合に、次の年に所得はないからといって貧しいのかというと、そうではないわけです。そういうことを考慮するということを検討したいというのが次の話です。
34ページに飛んでください。普通は所得税は累進的である、そして消費税は逆進的である。これは所得がない人も消費をするので、非常に所得が低い人でも所得に対する消費税の負担率は高くなってしまう。これが逆進的であるということの一般的な理解なわけです。ところが、今、申し上げたような生涯の所得だとか、あるいは変動所得のことを考えると、必ずしも正しくないということが、このページに書いたことです。
では、どうやってそういうことを調べたらいいのかというと、次のページの35ページをごらんください。
先ほど申し上げたとおり、所得は変動するかもしれませんけれども、消費は余り変わらないということを使います。消費というのは、生涯の所得を代理するものだと、だから生涯の所得が高いと消費水準も高くなって、低いと低くなるというライフサイクル仮説を念頭に置きましょう。
そうすると、フローの所得というのは、非常に変動するかもしれないけれども、消費の順位づけというのは余り変わらない可能性が高い。そうであれば年齢階級別に消費階級別データを作成する。そのグループごとに所得の平均値と税負担の平均値を計算して、消費階級別の所得税負担額というのを計算してやって、それを全年齢について足し合わせてやると、実は生涯所得に対する負担率というのが計算できるというアイデアを使っています。そうやって計算したのが、36ページのグラフです。この計算は、最新年のはまだやっていないんですけれども、1999年、もっと昔からのデータもここまではやりました。それで1999年のデータを使った結果が36ページのグラフなんです。
横軸は消費の階級別、生涯消費支出階級別と申し上げてもいいかと思いますが、生涯所得に対する各税の負担率というのを計算しています。
例えば所得税というのを見ていただきますと、これは■の線です。所得税の負担率は確かに消費の支出階級が上がると、だんだん上がっていくという形で累進的になっている。では、消費税はどうかといいますと、消費税は□と△がほとんど重なっているところです。これは意外だと思われるかもしれませんけれども、だんだん上がっていくという形で消費階級が高いほど、所得に対する消費税負担率というのが実は上がっていく。
ところが、勿論必需品、特に外食を除くような食費だけに限って見ると、よく言われているとおり、一番下の線は、少し逆進的になっています。消費税一般で見ると、逆進性はないというのがここでわかるわけです。
ちなみに、参考として38ページに、同じような計算を所得階級別で生涯所得をつくって計算したものがあります。
これは、普通に所得階級が正しい。そのときの所得階級が生涯続くという前提でつくったものです。
そうすると、やはり消費税の負担率というのは、これも□と△が重なったものですが、一番低所得のところが高い負担率で、高所得階級が低い負担率、いわゆる逆進性というのが、ここでは観察されます。
ただ、私たちは、消費階級の方が安定的であって、所得階級は年とともに変わっていく程度が高いだろうと考えていますので、消費階級別のデータの方が生涯所得を正しく近似しているんではないかと考えております。
以上が分析結果の要約になりますが、では、含意というのを最後に申し上げたいと思います。それは6ページ目にまとめてあるものです。
4つの点をお話ししたいと思いますが、1つは税の負担構造を考えるときに、所得税・住民税というのはよく使われるわけですけれども、あるいはそうではなくて消費税の負担構造だとか、社会保険料といったものも含めた負担構造というのは必要なことだというのが1つ目の含意です。
2番目は、負担だけ考えるのではなくて受給も大事である。特に先ほどお見せしたとおり、高齢化が非常に進んでいまして、受給の中で公的年金という高齢者に対する受給が非常に大きいということがあります。
そういったことから、ネットの負担構造というのを考えていく必要というのが、税制を考える上で重要だろうと思っております。
3つ目ですが、これは最後に分析結果を申し上げたことと関わりがあることですが、人口構成が変化していること、あるいは所得の変動の可能性が高まっています。これは失業率が高まったというのもありますし、いろんな企業で成果主義的な賃金が増えてきているということで変動しているということを考えると、たまたま所得が少ないからといって、その人が本当に貧しいかどうかというのはわからないということで、生涯所得における負担と受給というのを考慮していって、再分配を考えるということが重要ではないかということです。
4つ目ですが、世帯別、年齢別の分析結果を見る限りは、高齢世帯層の中で所得格差が拡大しているというわけではなくて、99年から2004年にかけての変化というのは、勤労世帯の中で所得あるいは消費格差というのが拡大してきたということが大きなポイントになります。しかも、その変化というのは、所得上位の人たちの所得が増えてきたというわけではなくて、下位の人たちの所得が低下してきたということになります。それがポイントであるということです。
これが報告の主な点なんですけれども、最後に1点だけお話ししたいと思います。39ページの最後のグラフをごらんください。
これは上位所得者の平均税率と税負担シェアというグラフなんですが、どういうものかというと、先ほどまでお話ししたのは全体の所得に占めるシェアの変化はあまり日本はないということをお話ししました。このグラフは、所得上位の人たちが負担している平均税率がどうなっているかということを日本について出したものです。
それと、その人たちが支払っている消費税を含んだものが、全体の税負担のうちのどれだけを占めているかということを示したグラフなんですが、日本の場合が左側、これは両者がほとんど同じ動きをしている。ですから、フラット化されると、税負担も下がるという形になっている。
右側がアメリカの結果です。これは1%ではなくて、0.1%なんですけれども、アメリカの一番上位の人たちの所得税の税率というのは、1980年代ぐらいから下がったんですが、税負担の中での割合というのは上がっていった。つまり、税金が下げられた以上に所得が増えたという効果がアメリカではあったということです。それだけアメリカの高所得者の所得は上がったわけですが、日本はそうではないというのが結果です。
少し超過しましたが、以上です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。大変わかりやすい説明でもあり、また、税制の含意まで含めて報告いただきました。あと20分と少しぐらい議論したいと思います。いつものとおり、ご質問、ご意見がある人は、まず、一当たり手を挙げていただきたいと思います。
では、御船さん、國枝さん、翁さん、お願いします。
〇御船委員
興味深いご報告をありがとうございました。1点簡単な質問なんですけれども、17ページで、先ほど日本では所得上位の集中度は高まっていないということで、両方の図を見せていただいたんですが、スケールがかなり違うので、例えばシェアのところで下位の10%がかなり少なくなっているというようなことを強調されたんですが、左側を見ていきますと、上位の0.20から0.30の間で少し上がっているような感じがするんですけれども、これは右側のスケールに合わせると、ほとんど無視していいような上がり方なのか教えていただきたく存じます。
〇田近部会長
もう少し質問を受けて答えていただきたいと思います。
國枝さん、翁さん、お願いします。
〇國枝専門委員
大変興味深い発表でありがとうございました。
それで、特に興味深かったのは、やはり同じ年齢の中で格差が広がっていて、しかも所得の下位の方が下がってきているというお話ですけれども、これはやはり各国で結構観察されていると思いますけれども、グローバル化とか技術革新によってスキルのない人たちに対する相対的な需要が下がって、その結果、彼らの賃金が下がって格差が拡大しているという話がアメリカとかでも観察されていますけれども、それと同じようなことが日本でも起こってきたと考えていいのかどうかということが1点ございます。
あとはコメントになるんですけれども、一番最後にご説明になられたアメリカの政府の例のところです。最後のページの右側でございますけれども、平均税率が下がって、確かに納税額が増えているんですけれども、大竹先生はお分かりだと思うんですけれども、逆にラッファー・カーブがあるんではないかとおっしゃる人もいるかもしれませんが、これは一応いろんな実証研究で、経済格差の拡大と租税回避によって、こういうことが起こっていることが指摘されております。
もう一点、4ページの3つ目の丸のところで、消費階層別に課税所得に対する負担構造を見ると、過去20年間で大きな変化はない。一方、受益はすべての消費階層グループで一様に上昇しているとございますけれども、これは質問になりますけれども、結局、ということは受益に対して、きちんと増税なりをしてこなかったということで、負担が将来世代に先送りにされてきたということで理解してよろしいでしょうかということでございます。
最後にもう一つだけですけれども、高額所得者の格差が開いたかどうか、所得が集中したかどうかというところについては、結局もともとトップ1%とか0.5%とか0.1%ぐらいのものというのは、普通の家計サーベイだとなかなか答えてもらえないので、なかなか良質なデータがないということがあって、ですから税のデータでやったというところがあると思いますので、そこは家計サーベイからの結論については、少し留保が付くのかなという気がいたしました。
以上でございます。
〇田近部会長
では、翁さん、どうぞ。
〇翁委員
國枝先生の第1の質問と少し共通するんですけれども、今回、1999年から2004年で格差が拡大して、下位の部分の影響が非常に大きな主因になっているというお話だったんですが、これは背景として、例えば非正規雇用の増大とか、そういったことが影響しているのか。
それから、99年というのは、かなりまだ不良債権の問題があって、景気が非常に悪くなっていた状況で、今、徐々によくなってきている。そして雇用も少しずつ改善してきているということですが、経済成長との関係で、格差の拡大というのを少し長期的に見た場合に、どういうふうに理解すればいいのかということを教えていただきたいんです。
〇田近部会長
では、そこで、いずれも大分関連した質問だったと思うんですけれども、所得分配の下の方が更に拡大したのかということと、よろしくお願いします。
〇大竹専門委員
まず、17ページのグラフから御船先生のお話ですけれども、確かに上位10%になってきますと、相対的なものですから、下位が下がった部分もだんだん入ってくるので、シェアを大きく取れば、例えば上位50%の変化というのは、下位50%の変化と全く一緒になりますから、そこを余り強調しているのではなくて、我々は上位1%とか上位0.5%の数字を見ています。
それで見ると、グラフでは見にくいですけれども、生の数字でもほとんど変わっていないというのが言いたかったことです。ですから、そこだけ見るとスケールには影響しないで、ほとんど変わっていないという結論は変わりません。
それから、國枝先生の問題ですが、同じ年齢層でも下がってきた、特に下位が下がってきたのはグローバル化あるいはIT化というのが影響しているんではないかということですが、その影響はあるかもしれない。ただ、よくわかりません。不況の影響を色濃く受けたのかもしれないというふうに思っています。
ですから、この次のデータが出てきたら確実に、不況の影響がだんだんなくなってきたのが、もう少し浸透してきた時点のデータが出てくればわかるかと思うんです。
ただ、実は、今日報告していないんですけれども、2年にわたる所得階層間移動の分析というのもやっていて、それは住民税の階級と所得税の負担階級の移動を見れば、実はそれができるんです。来年からできなくなると思いますけれども、過去についてはできる。それで見ると、真ん中より下の人たちが、より下になっているということが分かってくる。
ただ、グローバル化なのか、技術革新なのか、不況の影響を一番受けたのか、そのどれかというのは、まだわからないとしか言いようがございません。
2つ目のご指摘は、トップの人たちの税負担率が上がったのは、労働意欲が上がったというだけではなくて、租税回避の努力が下がったということで、ちゃんと税負担が増えたという議論もあるというのは、そのとおりだと思います。
3つ目のご指摘ですけれども、全般的に受益の方が増えて、負担が上がっていないというのは、将来世代の先送りではないかというのは、そのとおりだろうと思います。受益の方が一方的に上がってきたというのが言える。
4つ目は、リマークとしてそのとおりだと思います。高額所得者の上位1%というのは、家計サーベイにほとんど入ってこないというのは、そうかもしれない。ただ、2人がやったのは、税務データを使った研究で、それと基本的には家計のデータを使っても同じような動きをしているということを確認したということになります。
翁先生の議論ですが、非正規の部分についての効果があるとは思います。それはいろんな職業の労働力調査なんかのデータを見ても、この年齢層で非正規労働が増えているというのは、その背景になっていると思います。
これは、先ほど國枝先生にお話ししたことと同じでして、それが何故起こっているのかというところまでは、まだよくわかりません。
それから、経済成長との関連についても、できたら次のデータを見ないとよくわからないというのが本当のところです。
以上です。
〇田近部会長
では、続けて質問を、今度はこちらサイドで、上村さん、井堀さん、吉川さんと手短にお願いします。
〇上村専門委員
非常に興味深い報告をありがとうございました。2点質問というかコメントがあります。22ページです。
社会保障と税金を一緒に考えないといけないというのは、非常に大事な論点だと思いますけれども、1984年と2004年の税の負担率、あと社会保険料の負担率の図が上にありますけれども、これを見る限り、大体社会保険料の負担がだんだん大きくなり、所得税の負担が下がるという効果が出ていますけれども、これは、社会保険料がどんどん上がってきて、それが社会保険料控除によって所得税の方が食われてきているというように解釈していいのかどうかということをお聞きしたいのが1つです。
もう一つは、例えば29ページとか、その後、ライフサイクルで消費税の分析がなされているわけですけれども、例えば29ページだと、1984年~2004年までの消費税を含む平均税率が書かれているわけですが、消費税は、1984年時点ではなかったので、この辺りは、例えばほかの間接税とかをどう考えられているのかというところを確認としてお聞きしたいと思っています。
以上です。
〇田近部会長
井堀さん、手短にお願いします。
〇井堀委員
最初の3ページの結論の2番目の99年から2004年の所得不平等の上昇の要因なんですけれども、今日のお話だと、年齢階層内の不平等度の上昇によって引き起こされていると書いてありますが、これは重要な点だと思うんですけれども、同時高齢化によっても不平等度の上昇は起きているはずで、問題は、どちらがどの程度大きいのか。
今日の話は、不平等度の上昇が年齢階層内で不平等度の上昇によっても引き起こされるということで、要するにジニ係数が上がったということで、所得内格差、同じ年齢内の格差によっても起きるけれども、同時に、それよりも前だと、高齢化のご意見があったと思いますけれども、2004年にかけては、高齢化の要因がどの程度大きくて、年齢階層内の不平等度の上昇と、どちらがどの程度かということがわかれば、教えていただきたいと思います。
〇吉川委員
私は22ページの税、社会保障のところですが、社会保障の給付の影響が非常に大きくなったということで、そこの医療保険のところの影響なんですが、先ほど伺っていた限りでは、自己負担3割負担を仮定して推計されている。ですから、3割ですから、おおざっぱに言って3分の1だとすると、個々の家計で医療費をXだけ払ったとき、それを約2倍したものが給付だという前提ですね。
ただ、3割負担というのはあるわけですが、実は高額療養費制度のために、マクロ経済全体で見ますと、今日、正確な数字が来ていないですが、多分15~16%だろうと思うんです。ですから、6分の1だとすると、医療費をX払ったとき、5X、5倍公的給付を受けているということだと思います。ですから、2倍でやったとすると、下のグラフの医療の黒いところが2.5倍ぐらい大きくなるというのが、恐らく医療を通した社会保障の受給額になるだろうと思います。
ですから、勿論、大竹さんたちが言われていることが、もっと強く出てくるはずで、この図ですと、教育のところと医療のところが、むしろ教育の方が大きいくらいに出てきていますが、はるかに医療のところが2.5倍縦軸方向に伸ばせば、黒いところがそれだけ広がるわけですから、教育よりは医療の方がはるかに公的な分配効果は大きいというふうに思います。
コメントは、以上です。
〇大竹専門委員
どうもありがとうございました。上村さんの第1点目は、社会保険料が増えてきて、社会保険料控除の影響があって、税の負担が減っているんではないかということです。
それもあると思いますけれども、税のフラット、減税そのものも進んできたと、両方あるんではないかと思います。
2番目は、84年は消費税がなかったから間接税があるんではないかということですけれども、間接税は無視して、84年は消費税を含んでいないということで計算しています。そこは少し問題があるかもしれません。
それから、井堀先生の議論ですけれども、2004年にかけても高齢化が進んでいるんだから、高齢化の影響もまだ残っているでしょうということだと思いますが、そのとおりだと思います。
どの程度あるのかと言われると、まだ分解していません。分解できるデータがそろっているんですけれども、まだ、やっていない段階です。
ただ、高齢化の要因というのは、急激に進むものではないので、今までと同じようにあったということです。それに比べて年齢内の影響が2004年にかけてはジャンプしたという形で、この間の変化は、年齢内の影響が大きいだろうと解釈しています。
それから、吉川先生の話は、それは22ページのグラフ、全くその問題があるんですが、実は時間がなくて飛ばしていたんですが、25ページに所得再分配調査を使った計算をやっていまして、所得再分配調査だと、教育についてはうまくできなかったんですが、所得再分配調査は厚生労働省が医療の実物給付というのを推計していて、おっしゃるような高額医療費とかも全部推計しているので、それで見ていただくと、25ページの下のグラフですけれども、医療受給というのは、かなりいろんな所得階層でも大きいということがわかるかと思います。
〇田近部会長
質疑を得て、大分中身の理解というか、その解釈も進んできたと思うんですけれども、図表の余り細かなところにとらわれなくても、政策的な観点、あるいはご印象も含めて、非常に貴重な報告をいただいたと思いますので、どなた様でもご自由にご意見ください。
特に税調の委員の方とか特別委員の方も是非ご発言いただきたいんですけれども、よろしいですか。
それでは、加藤さん、土居さん、手短にお願いします。
〇加藤専門委員
どうもご報告ありがとうございました。非常に簡単な質問だけさせてください。
90年代に消費の、若い層であっても消費ではジニ係数が上昇してきた。所得の方は安定していたんだけれども、2004年で所得の方も上がってきた。そのタイムラグについて、どういうふうに解釈するべきなのかというのと、先ほどの井堀先生のご質問とも絡んでくるんですが、もし、高齢化だけであれば、それほどノーマティブな議論をするのは難しいのかもしれないんですが、もし、所得のジニ係数が上がってきて、それが若い世代でもそうということになると、今度はポジティブな議論だけではなくて、ノーマティブな議論も必要になってくるんではないかと思います。その点については、どうお考えですか。この2点について教えてください。
〇田近部会長
土居さん、どうぞ。
〇土居専門委員
大変洗練された分析で勉強になりました。特に消費税の逆進性は観察されないという点は、非常に客観的に示されたということで、これはもう少し国民にも浸透されていいんではないかと思います。
それで、特に36ページのところで、よく消費税に関連しては、軽減税率はどうなんだという話があるんですけれども、食費の軽減税率というようなことを考えようということだとしても、しょせん負担率ということで行けば、1%内外というような程度の少ない負担率になっているわけで、そういう意味では、制度的には軽減税率を設けるということで、実務的に大変コストがかかるわけですけれども、国民に対する食費の軽減税率の恩恵というのは、それほど大きくないという可能性というのを示唆しているんではないかと思うんですが、その辺りの大竹先生のご見解をお伺いしたいということ。
もう一つは、39ページに上位所得者の平均税率と税負担シェアのグラフを載せておられるわけですけれども、これで、特に上位1%ということであったとしても、日本では税負担率のシェアが8%前後ある。
これを見ると、特に99年辺りで、我が国は所得税の最高税率を引き下げたということもあったりするわけで、当然こういう影響も入っているということが考えられるわけですけれども、これらを併せ持って考えたときに、低所得者への配慮という話ないしは累進性という問題というもの考えるには、消費税の軽減税率という話よりかは、むしろ所得税の累進度を高めるというような話で対応するというようなメッセージというのは、私には感じられるわけですけれども、大竹先生はどのようにお考えかというのをお聞かせいただきたいと思います。
〇大竹専門委員
まず、加藤先生の話ですけれども、消費の格差が先になって、所得の格差が後で生じた、そのタイムラグはどうしてかということですが、これは消費の格差は将来所得の格差というのを先取りするということで、今、生じていなくても、例えば失業不安があるというのもそうですし、成果主義的な賃金が導入されたということがわかったときに、今の賃金は、まだ格差がないわけですけれども、生涯所得で大きな差が出るということが、予見されれば、その段階で消費の格差というのは発生する。現実化していくのは、それが後に出てくるというのは、それを反映しているんではないかと私は考えています。
人口構成だけではなくて、年齢内の格差が観察されることについて、ノーマティブな議論をしなければいけないんではないかということですけれども、それは低所得の人たちが増えてきたということについて、何らかの配慮をする必要があると思います。
それから、土居先生の話ですが、1つは消費税の逆進性については、この研究結果を宣伝していただければ、私たちはうれしいというふうには思いますが、2番目の軽減税率をどう考えるべきか。これは、ちょっと価値判断なのでよくわかりませんが、逆進性、確かに外食以外の食品についての逆進性は観察される。消費階級で見ても観察されるというのはそうなんですけれども、大きくはない。
特に、消費全体で見ると、全然逆進的ではないということなので、この程度の消費税率の範囲だと、そんなにベネフィットはないかなと、私自身は思っていますが、それは、どれだけ徴税コストがかかるのかということとの、コスト、ベネフィットの問題だと思います。
39ページの消費税よりも累進度を上げるべきではないかという含意を持っているんではないかということが土居さんのご意見だったんですが、そうとも取れるかなというふうに思います。
ここでの結果は、平均税率を下げれば、税負担力も下がったということで、アメリカの上位0.1%と、しかも全国消費実態調査の1%というところで、ターゲットとしているのは少し違いますが、それでもそのクラスの人たちに、税金を下げた以上に所得が増えるとか、租税回避が減るという効果は日本ではなかったということです。ですから、税金を上げれば、彼らの税負担は上がるというのが日本の特徴だと思います。
〇田近部会長
では、江川さん、井伊さん、永瀬さん、お願いします。
〇江川委員
生涯所得に税を考えるときに注目すべきだというのは、私は今まで余り考えたことがない視点だったので、非常に新鮮で興味深かったんですけれども、実際に税を考えるときに、それをどういうふうに利用するかというイメージがつかめなくて、先ほどのお話の中で、消費が生涯所得より反映するというお話があったんですけれども、税制の含意ということを更に進めると、消費にある程度リンクした税の方が望ましいというお話なのか、あるいは消費以外にも何か実際に税制を考えるときに、代理変数となるようなものがあるのであれば、教えていただければと思います。
〇井伊特別委員
36ページの下のところなんですけれども、消費階級が各年齢階級で変化しないという仮定で作成したということなんですが、その仮定がどのぐらい強い仮定になるのかどうかということと、それをデータとして何らかの形で分析をするご予定があるのかどうか、その辺りをお伺いしたいと思います。
〇田近部会長
永瀬さん、どうぞ。
〇永瀬特別委員
ちょっと遅れてまいりましたが、先生の日本の不平等を読ませていただきましたので、多分99年までの分析を2004年まで広げると、こういうことになっただろうというふうに思って見させていただいたんですが、10ページのところを見ますと、分子は世帯収入で、分母が世帯人数のルートで割っていると思うんですが、そうすると、今、例えばフリーターの人が3人家族の4人目にいて、100万稼いでいるとすると、その人は0.2 のウェートをされますので400万に換算される。
ところが、その人が独立して200万稼ぐようになると、200万の世帯に変動する。そして、その人が、今度同じように400万分にカウントされていた女性と結婚して、その人もフリーターで100万ぐらいしか稼いでいなくても、その人は子どもを持ったので、当初は合わせて400万の世帯だったわけですけれども、その人は子どもを持ったので、仕事を続けていけなくて、200万になってしまうと、3人家族になりますから、200割る1プラス0.4 ですか、プラス零コンマ幾つぐらいになりますから、そうすると、非常に貧しい世帯になっていく。
つまり、これは世帯変動がないという前提の下で、すごくスタティカルに見れば、すばらしい研究だと思いますけれども、しかし、子どもを持つ前に、大きな家族の中に入っていれば豊かに見えるけれども、でも独立してフリーター同士が、例えば2人で一緒になってどうにかやろうとして、今度は、子どもを持って仕事が続けられなくなると、非常に貧困になるというようなことが予見される、そういったことに対して、この分析はどういうことが言えるのかということを、今日はあれかもしれませんけれども、今度教えていただければと思います。
〇田近部会長
幾つかテクニカルな質問もありましたけれども、特に江川さんがご質問されていた、要するに消費で分配を考えるということが、政策的にどういう意味があるというところを特にお答えいただければと思います。
〇大竹専門委員
1つは、生涯で考えるべきだというのは、負担の方だけではなくて、受益も考えたらどうかということです。例えば年金というのは、高齢に入ってくるということを考えて、生涯便益と負担というふうに考えているのが1つだと思います。税だけではなくて、生涯の便益も考えるということが1つだと思います。
それ以外に消費税というのは、生涯所得を代理するということなんですけれども、それだけだと累進性というのは、これは少し累進性が出ていますけれども、大きな累進性は担保できないということで、それ以外の資産課税といったものも多分入ってくるんではないか。あるいは相続税もそうです。そういうのが生涯で見た再分配という意味では重要な税項目に入ってくると思います。
井伊先生の話ですが、消費階級が変化しないという仮定の妥当性ですけれども、所得階級と消費階級とどっちが変化するかという問題だと思います。それから、経済理論からいったら、やはり消費階級の方が安定的だろうということで考えている。
それを検証できるかどうかというと、消費のパネルできちんと考えないといけないんですけれども、まだやっていない。ここまでのレベルのいいデータは余りないと思っています。
永瀬先生の話ですけれども、おっしゃることはそのとおりなんですが、今日はお話ししなかったんですけれども、別のこともやっていまして、15ページでやっているのは、実は個人で当てはめている。ルートnで割ったのを各個人別に全部当てはめて、個人別の不平等度を計算しているということもやっています。
それだと、少し違う要素が出ていますけれども、全体の動きは同じなんです。年齢内の動きが、世帯主の動きと少し違って、全年齢層に変化したり、あるいは若年のところで大きな格差が生まれたりというのは出てきます。いろんな解決の方法はあると思いますが、1つは個人別でもやってみたということです。
あるいは世帯属性別にも単身世帯でどうなっているかというのもやっていますから、そういうのを総合的に見て対応していきたいと思いますけれども、それほど大きな結論に差は出てくるとは思っていません。
〇田近部会長
大橋さん、どうぞ。
〇大橋特別委員
ありがとうございました。1点だけ端的な質問をさせていただきます。
3ページの一番最後のところで、所得の上位層の所得の集中は、下位層の所得下落によって引き起こされたとあります。その説明の資料が、先ほどご説明いただきましたように17ページ、18ページということなんですが、非常に2002年辺りから日本の景気が回復してきた結果が、このデータにどの程度反映されているかというところが、ちょっと気になるところでございまして、先生のご見解をいただければいいんですが、これを例えば2005年、2006年まで、つまり昨年まで延長した場合に、同じような結論なり傾向なりが出てくるとお思いになっていらっしゃるのか、あるいはそれによって多少結論が変わってくるのかどうかというところは、非常に大事なところではないかと思うので、そこだけ教えていただきたいと思います。
〇田近部会長
では、答えてください。
〇大竹専門委員
これは、少し報告で申し上げたんですけれども、法人企業統計の経営者の一人当たり役員給与の動きを見ると、資本金10億円以上の企業の平均役員給与、賞与のところだけ2004年以降に急上昇が見られます。それ以外のグループは変わらないということです。
ですから、そこが経済全体にどのぐらい影響するのかわからないですけれども、アメリカ的な状況が少し見られている。それは、資本金10億円以上の大企業の業績回復等が関係しているだろうということと、あるいはコーポレート・ガバナンスの仕組みが変わってきたということも影響しているかもしれない。
〇田近部会長
大橋さん、下の方の話ですね。
〇大竹専門委員
ごめんなさい。上ではなくて下ですね。下がどう変わってきたかは、ごめんなさい、全くわかりません。
〇田近部会長
去年当たりはどう変化しているんだろうという質問だったと思います。
〇大橋特別委員
これは、多分少しずつ非正規社員が減っているとか、そういうことも出てきて、景気の回復とともに、そういうものが下支えになってきて、ある程度ここのところの所得の階層、この辺は少し回復してきているかなという感じもするんですが、これが多分2002年というよりは、2004年から2005年、2006年ぐらいにそういう傾向が出てきていると思うんです。
〇大竹専門委員
2004年のデータまでで変わりはないんです。2004年以降については、ごめんなさい、わかりません。どうなっているかということも、今、わかりません。
〇田近部会長
時間を大分過ぎてしまったので、これで最後としたい。
では、秋山さん、佐竹さん、林さん、佐藤さん、簡潔にお願いします。
〇秋山特別委員
22ページのデータについて、1点質問なんですけれども、大変印象的なデータを見せていただいて大変驚いたのは、この20年の間に、これだけの負担率の低下と受益率の増加ということで、これが将来世代の先送りをやってきたんだと。こういうことが20年間に起きてきた要因として、高齢化の進展以外に要因があるということを、もしお考えであれば、是非教えていただきたいと思います。
〇田近部会長
佐竹さん、どうぞ。
〇佐竹特別委員
4ページの一番下のポツなんですけれども、これは我々現場からしますと、大変生々しく、受益と負担の問題というのは、国政であっても地方行政であっても一番大きな問題なんですけれども、いわゆる年金受給を反映して、1,000万程度の世代であっても、負担よりも受益が上回っている。
ところが、勤労者世帯は500万円程度で負担の方が高くなっている。端的に言うと、この期間の税制の歪みというのが、これと連動すると読んでもいいものでしょうか。
〇田近部会長
林さん、佐藤さん、どうぞ。
〇林委員
所得格差の拡大と、所得税の税率構造の関係について、ちょっとお尋ねしたいんですけれども、格差が拡大すれば、累進構造をもっと強めようじゃないかというような意見がすぐ出てくるわけですね。
ところが、大竹さんの研究というのは、そんな簡単な話ではないよということだろうと思いますが、例えば高齢者の格差が広がっているとか、高齢者の格差が多いという場合には、例えば年金課税をどうするかとか、という話になるんだろうと思います。あるいはトップ1%が非常にシェアが増えたということになれば、最高税率を上げろという話になるんだと思います。
ところが、今回、2004年で同じ年齢の中で格差が広がってきているということになったときに、所得税の税率構造として、これはやは累進構造を高めろという話になるのか、勿論、所得税、消費税全体で考えなければいけないとか、あるいは生涯所得で考えなければいけないということはわかるんですけれども、やはり前の論点整理のところで、所得税の再分配機能が落ちているというようなことも一部指摘された部分があって、そうすると、やはり所得税をどうするんだということが恐らく出てくると思いますので、その辺り、格差と税率構造の関係というのは、現時点でどのように考えればいいのか、それだけ教えてください。
〇田近部会長
それでは、佐藤さん、これで今日は締めくくりとします。
〇佐藤専門委員
では、36ページが、みんなの注目を集めている図なので、36ページなんですけれども、我々経済学者をやっていると、生涯所得でものを考えるというのは、当たり前過ぎて、逆に何でこれが今ごろ議論になるんだろうと思ってしまうところもあるんですが、ただ、生涯所得ということを考えると、当然消費税、つまり生涯所得は逆に人々の担税力が消費に表われるということをライフサイクルの形上、前提にするので、逆に消費を担税力としてみなす消費税が大体フラットで、あるいはこれに累進性を与える方がいいというような議論、そこは生涯所得を分母にするところに出てくる結論かなという気はするんです。
気になったのは、所得税の考え方で、例えば生涯所得は同じでも、所得の発生するタイミングが違ってくれば、当然それに累進課税を前提にすると、ある意味で集中的に所得を得る人間の同じ生涯所得であってもです、払う所得税が高くなりますね。
ですから、そこの辺り、生涯所得をベースにして担税力を考えたときに、賃金所得税とか、累進度というのは、今度は逆に公平な観点からどうとらえていったらいいんだろうかという問題が1つ。
それから、幾つか出ていましたけれども、格差の問題を考えるときに、単に税金だけで考えるのは、やはり間違いで、これは年金とか医療も含めて、公共支出のところで、どういう再分配機能があるのか、そこも含めて考えないと、格差の議論はできないのかなと思いました。
〇田近部会長
お願いします。
〇大竹専門委員
秋山先生の話からですが、こういう将来世代の先送りをしてきたということは、高齢化以外に何があるかということですが、どこまで高齢化なのかがわからない、わからないというのは、同じシステムの下で高齢化したら、こうなるというのを随分前につくったわけです。それを変えなかったということですね。
それから、高齢化しなければうまくいくという制度をつくっておいて、それが高齢化してしまったということで、それを維持したのは、やはり高齢者の方が多いからだろうなと思っていますが、それを含めて高齢化が大きな要因だったんではないかと思っております。同じ議論ですが、佐竹先生の話も税制の歪みがこうだったんではないかというのも、まさにそうで、それを手直ししないような政治的な力があったんだというふうに思います。
林先生の議論は、こういう話を受けて、所得税の累進税制というのを一体どう考えるべきか、ということで世代内の格差拡大というのをどう対応していくべきかということだと思いますけれども、基本的に、これがパーマネントなショックなのか、テンポラリーに起こったことかわかりませんけれども、低所得者の所得が下がったというのが、特に2000年代に入ってからの変化ですから、そこについて、累進性云々で対応できる問題ではないと思います。それから、支出の方あるいは勤労所得税額控除みたいなものをつくっていくという形で対応せざるを得ないと思います。
それから、佐藤さんのポイントは、生涯所得で考えたときに、所得税の累進性というのは、一時的な所得を受ける人たちが所得変動の大きい人がペナルティーを被っているんではないか。そのときにどう考えるべきか、ということだと思うんですけれども、そういうデメリットがあるということを踏まえて、税を設計せざるを得ないということしか言えないと思います。
あとは、生涯所得の再分配というときに、先ほども私が申し上げたものと繰り返しになりますけれども、年金や医療という受益の方も考えて、負担を考えるべきというのは、そのとおりだと思います。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。大幅に時間を超えてしまいましたけれども、今日は大竹さんに日本の所得、消費格差と再分配ということで、最新のデータまで分析していただいて、貴重なご報告をいただきました。また、議論もそれを更に政策的あるいは実態的な面でより理解を深めるべく議論もできたと思います。
ありがとうございました。私も一言言いたいんですけれども、それを言うと、終わらなくなるかもしれませんから、ここで今日の部会の方は終わらせていただいて、後は香西先生の方に続けていただきたいと思います。
〇香西会長
私も本当に大竹さんには、研究室でとれたての材料を持ってきていただいたということで大変感激しております。また、後の議論、とっても面白かったといいますか、かなり政策に密着した議論が幾つもあって、非常に興味深かったと思っております。大竹さんは、この仕事をますます広げられていくでしょうから、今後とも我々にいろいろ教えていただける機会があるんではないかと期待しております。
それでは、以下におきましては、一応、合同会議ということにして、海外調査、前回はヨーロッパを行いましたが、今回は、アジアでシンガポールと韓国の情勢を視察していただきました。4月15日から19日にかけて井堀委員、永瀬委員、水野委員にご出張いただいたわけで、その報告をいただきたいと思います。
なお、水野委員は、本日、別の会議が挟まりまして、出席ができなくなられたということでございますが、一応、資料が提出されておりますので、本日、ここではご参加いただきませんので、後で皆様の方で目を通していただきたいと思います。また、その質問等は次回以降、適当な段階で受け付けたいと思っております。
それでは、井堀委員、永瀬委員からよろしくお願いいたします。
〇井堀委員
時間も余りないようなので、手短にやりますけれども、資料の方は、「企画9-2」「調査4-2」というパワーポイントのものと、それから「企画9-3」「調査4-3」、A4のものと2つございます。
それで、今、会長から紹介いただきましたように、4月15日から19日まで、私と水野委員と永瀬委員、それから事務方から田辺さんと吉住さんと5人でシンガポールと韓国に出張しました。
シンガポールでは、財務省あるいは民間の会計事務所等、韓国は実質で24時間も滞在できなかったので、政府の経済財政部と保健福祉部のみの訪問となりました。
それで、基本的な役割分担ですけれども、私が、全般的な財政運営の話と、法人税、それから消費税関係の分野で、水野委員が租税回避、それからタックス・ヘイブン、移転価格を中心とした税法と企業の会計上のいろんな問題等も含めてです。
それから、永瀬委員が少子化を中心とした、税と歳出面での少子化対策を中心にヒアリングしました。
先ほど会長からありましたように、今日、水野委員は欠席ですので、タックス・ヘイブン、移転価格税制、外国企業の進出に関する税制上の、特に法的な問題に関する点は、水野先生の3枚のレジュメがございますので、後でこれを読んでいただいて、質問等は、今日は多分無理だと思いますが、いずれ水野先生が来られたときにでも質問していただければと思います。
基本的にパワーポイントの「企画9-2」「調査4-2」に従って、お話しさせていただきます。
まず、最初に私が前半の話をしまして、後半、永瀬委員が少子化対策の方をやることになります。
まず、1枚めくっていただきましてシンガポールですけれども、ご存じのように狭い国で、しかも人口は勿論たくさんいるんですが、何しろ国土が狭いものですから、トータルの人口も400万程度で、いわゆる都市国家です。ただ、一人当たりのGDPは日本と同じぐらいの350万くらいで、そういう意味では非常に経済的にも税制上もかなりインフラは進んでいるんですが、金融あるいは多国籍企業の統括会社等、企業誘致で経済活性化をやっている。
今回の訪問の一つの大きなトピックは、その下に書いてありますように、2007年の税制改正で、法人税率を20%から18%に下げると同時に、物品サービス税、GSTというのは、日本でいう消費税に相当しますけれども、これを5%から7%に引き上げるという税制改革を決めましたので、その内容について聞いてきたということが、一つの大きな目的です。
それで、次の「シンガポールの主要経済指標等」に関しては、これを見ていただければと思いますので、飛ばします。
3ページ目の「マクロ経済、財政状況」のところで、折れ線のグラフが実質経済成長率ですが、シンガポールは、平均的には経済成長率は5%を超える水準で来ているんですけれども、このグラフでも見ていただけるように、98年と2001年に2回だけ大きなショックが起きております。
これは、ご存じのように、98年はアジア通貨危機の反動で、2001年はSARSの影響で大きなショックを受けていますけれども、それを除くと、大体5%を超える経済成長が実現できている。直近でも8%程度、それから棒グラフは財政収支なんですけれども、財政収支も2000年ぐらいまでは黒字を出してきたんですけれども、最近はほぼ均衡か若干の赤字という状況です。
それにしても、日本のように、ずっと財政赤字の累積で、公債残高がたまっている状況ではありません。
日本から見ると、かなり恵まれた財政状況の中で、今回の税制改正の内容ですけれども、4ページ目に主なものがございますが、消費税、GSTを5から7に引き上げることによって、大体年間で日本円にしますと、1,110億円ぐらいの増収を想定しています。
その裏側で法人税率を下げていますので、それで600億円ぐらいの減税と、それに伴う付加的な法人関係の減税等がありますので、トータルでいいますと、ネットで200億弱の増収になります。これを後でお話しします、社会保障関係の財源に充てているということになります。
それで、まず、法人税の引き下げの方なんですけれども、5ページに、税率をこの表にありますように、30万シンガポールドルを超える部分に関しては、20から18に下げるんですけれども、シンガポールの法人税率は、一律のフラット税率を最初から提供しているんではなくて、課税所得によって、段階的に調整しておりまして、最初5、10、20の現行税率を4.5、9、18に変えて、9のところを少し上げているということで、これは大企業でないところの中小企業にも法人税負担の引き下げの効果が、より相対的に行くようにという政策です。
下に書いてありますけれども、シンガポールというのは、非常に小さな国で、固有の天然資源ないし、輸出入に依存した経済ですので、金融業の振興や多国籍企業の統括会社などの企業誘致による経済活性化をしておりまして、特に大企業に関しては、今までもいろんな形の税制上の優遇措置を取っていますので、今回も20から18への引き下げが、大企業を更に誘致するという効果に関しては、それほど大きなものはないだろうということです。ただ、香港が、今、17.5ですので、それに対抗する意図として18%というのは、それなりの意味があると思います。
それから、中小企業に関しては、9%の税率のところが広がりましたので、それなりに経済活性化に関しては効果があるのではないか。
では、法人税の引き下げが、どの程度経済を活性化して、マクロ経済を刺激して、結果として中長期的に経済成長にどのぐらい寄与するのかに関しては、向こうの方でも試算はしているようなんですけれども、なかなかこれという信頼できるものというのは難しいので、実質的にどの程度の効果を期待しているのかに関しては、定量的にはそれほどはっきりとした見通しは出していないということです。
6ページへ行きますけれども「物品・サービス税(GST)引上げ」。要するに、これは消費税率の引き上げの話ですが、これは94年に3%で導入したものが、だんだんと引き上げてきまして、2003年に4、2004年に5、今度5から7に上がるんですが、シンガポールは日本と同じで、軽減税率なしの一本の税率で、消費税率をかけています。
5から7に引き上げる理由は、そこにまとめてありますように、高齢化の進展等による課税ベースの縮小、つまり所得税にどうしても依存していますと、課税ベースは減りますし、法人税は国際的なプレッシャーの中で、今後、税制上期待できないということで、シンガポールは後で出てきますけれども、日本と同じような、高齢化、少子化が進んでいますので、そういう意味では、今後の社会保障等のことも考えて、安定的な財源として消費税をより重視していこうということです
国際的潮流として、直間比率を是正するというのも一つの理由になるんだという理解でした。
ただし、消費税の引き上げは、今日の大竹さんの話にも出てきましたが、所得再分配効果の面では、差し当たっては、当然所得の低い人には、かなりマイナスの影響が出てきますので、その引き上げの再分配への逆進性の緩和のために、オフセットパッケージというのを実施しています。
このオフセットパッケージというのは、非常に興味深いんですけれども、細かい話は、A4の資料の4ページの下の方から書いてありますので、余り時間がありませんので、細かくは説明しませんが、これは基本的に時限の措置で、恒久的にやるのではないんですけれども「企画9-3」「調査4-3」の4ページの真ん中辺りに書いてありますけれども、税収が増えるということは、その分だけで、低所得者の人から見ると、負担も増えるので、それをオフセットするようなパッケージをつくる。
そのオフセットパッケージの内容というのは、総額5年間で2,960億円ということですので、1年間に直すと、600億円ぐらいの減税をしましょうということです。
そうしますと、最初の税制改正のトータルのパッケージですと、法人税も減税もやっていますので、合計で229億円の増収になるわけですけれども、最初の5年ぐらいは、それを上回る規模の減税もして、消費税が上がることにも、いろんな再分配のマイナスの影響を面倒見ましょうと。
ただし、それを恒久的にやりますと、消費税を上げることによって、ネットで減収になりますので、それはなかなか大変だということです。5年の時限にするという形でやっております。
内容については、5ページのところにもよりますけれども、年間の課税所得と、その人の住宅の資産価格、要するにフローとストックの客観的なその人の経済状況をより反映する指標に基づいて、相対的に経済状態が悪い人に高い金額を現金で給付するということをやるということです。
もう一つは、高齢者について5ページにありますけれども、高齢市民手当というのを出して、これも上限がありますけれども、これもやる。
それから、シンガポールの場合には、CPFという中央積立基金という個人勘定の住宅、老後、医療、福利厚生のための勘定があって、強制的な貯蓄制度があるんですけれども、これに労使で給与の一定割合を振り込ませるという、それへの補助を若干出すとか、そういうことをやって、多少緩和措置を取っています。
6ページですけれども、ワークフェアと言われている、勤労所得のうちで、今まで所得の少なかった人に、一時金として支給した補助金を恒久化するということで、若干の手当を出すということで、激変緩和措置を出す。ただし、これは時限ですから、5年を過ぎれば、当然経済力がある人は、ネットで増税になるわけですけれども、そのときは経済全体を活性化すれば、みんな所得は増えていいだろうという発想か、あるいはその時点で、それでも大変だったら、もう一回見直すかということだろうと思います。
7ページは韓国ですけれども、韓国については、差し当たっては、シンガポールのように、法人税を下げるとか、消費税を上げるという話は、今は検討しておりません。今、想定しているのは、税制については、租税特別措置を縮減して、課税ベースの拡大によって税収増を目指すということを想定しているのみということです。
韓国については、9ページにマクロ経済、財政状況がありますけれども、経済成長率は2000年台に入って若干低下していますけれども、それでも5%前後で、財政赤字もありますが、日本ほどは高くないという状況です。
今、何を、やっているかというと、これは非常にテクニカルな話ですけれども、10ページですけれども、非課税減免措置の見直しということで、これは国税の減免率という概念を出してきて、いわゆる租税特別措置で、どれぐらい税収が減っているかというのを、国税全体の中のシェアを、それが余り減らないように、要するに非課税減免措置がどんどん拡大しないように、一定の歯止めをかけて、それを徐々に減らしていきましょうということをやっている。
将来に関しては、11ページですけれども、2010年以降については、韓国は日本とは10年ぐらい遅れて少子高齢化がやってきますので、その後は、社会保障の財源がかなり大変だという問題意識は持っています。
そのために、社会保険の負担をどうするかということが非常に重要な問題なんですが、まだ、2010年以降の話なので、それをどういう形で取るか、例えば増税、ある程度公債を発行して将来世代に負担を転嫁するのかということについては、まだ議論が具体的に煮詰まっていない。
法人税に関しては、現在、25%ですけれども、引き下げは考えていなくて、電子申告制度等で、あるいは納税者番号をより活用して、納税コストの縮減に努めているという状況です。
〇永瀬特別委員
では、引き続き少子化の方をご説明させていただきます。
シンガポールは、1980年代の後半から少子化に対する政策を取るようになりまして、韓国は95年までは、むしろ人口抑制策を取っていて、その後、少子化に対する施策を取られたということです。
ページをめくっていただきまして「シンガポール」ですけれども、87年から少子化対策を取り出し、90年代に入り出生率は比較的安定していましたが、2000年以降、出生率がずっと下がっていきまして、そこで2001年、2004年と総合的な対策が取られました。
2004年に出された対策の総額はGDP比の0.4%ですが、内容としては、(1)以後に書いてありますが、ベビーボーナスと政府補助付きの子どもへの積み立て制度、これはこれまで第2子、第3子だったものを、第1子、第4子にも出すということで、大体女性の平均賃金1か月分ぐらいを所得制限なしにベビーボーナスとして第1子、第2子に出し、第3子、第4子には倍額を出す。
それから、子どものための特別な貯蓄口座というのがありますが、そこに預金をすると、その倍額を政府が積み立てる。この預金は保育所や幼稚園の費用等に使用できます。
それから、税制面の考慮ですけれども、第2子については、1万シンガポールドル、第3子、第4子については、2万シンガポールドルを所得税額控除する。シンガポールの実行税率は日本よりも低いのですが、使い残しがある場合は、無期限持ち越しができるというものです。
次は母親に対してだけですけれども、母親の就業支援として、母親の収入への所得控除、第1子は5%、第2子は15%、第3子は20%、第4子は25%行っている。
また、祖父母が12歳児以下をケアしている場合には、母親収入から3,000ドルの所得控除を行う。
3番目として、出産休暇が、今まで2か月だったのを3か月にして、その間の有給分は全部政府がつというようなことが主な対策です。
シンガポールは、日本や韓国と違いまして、女性の労働力率は20歳代、30歳代に比較的高く、40代以降ずるずる下がっていくというような構造でM字型ではありませんのでその点は留意すべき点と思われます。
続いて、14ページの韓国の少子化対策でございます。韓国は、1997年のIMFの金融経済危機以後、失業率が高まり、それ以後労働市場が大きく変わりました。男女ともに非正規雇用というか、臨時日雇い雇用が大きく増えて、賃金も低いといった変化を背景に、急速に出生率が低下していって、05年でTFRが1.08であります。
その背景としては、雇用不安定の問題、また共働きでないと、家計がなりたたないな状況が広がっているものの、現実的には日本と同じように、女性の第1子出産後の就業継続は低調であり、なかなか雇用を続けることが難しい。一方で教育費は高騰している、その中で、子どもを持たなくてもいいんじゃないかというふうな価値観の変化が出ていると聞いております。かなり日本とは状況が似ているのではないかと思います。
95年までは出生抑制策を取っていたというようなこともあり、対応がやや遅れて、2002年以降ぐらいから、対策を取るべきだということが明確にされて、2003年に未来社会委員会が設置され、2005年に低出産及び高齢社会基本法という基本法が出されて、2006年から10年までに、(日本と違って、出生率の目標を掲げておりますが)、OECD加盟国平均の1.6 を目指す目標とするというセロマジプラン2010というのを策定したということです。ちなみに、韓国の2005年のTFRは、ここに書いてありますように、1.08、シンガポールはさっきのページにありましたけれども、2005年が1.25、日本は2005年が1.26でございます。
対応としては、比較的シンガポールがかなり直接にお金を配るというのに対して、韓国の場合には、もう少し支援を得られる人と、得られない人、-得られない人も多いかもしれないなというのが実は印象でしたけれども-、具体的には、保育教育費への財政的支援と拡充が出されています。保育園に対して日本のような公的助成の措置が余りされていませんので、都市勤労世帯平均所得70%以下の世帯で保育を利用する未就学児への保育教育費の補助、これを2009年の平均の130%にすることによって、大体保育園に行っている子どもの8割ぐらいが、そういった助成を受けることになるということです。
それから、公立保育園の方が人気が高いが、現在には11%しかないので、これを30%に拡充するといったようなことも出されています。
ただ、先ほど全員が受けられるとは限らないのではないかと思いましたのは、保育園に行っている子どもの比率は、それほど高くはないからということです。
それから、塾などに費用がかかるということから、放課後に小学校で塾のようなことをやるといったようなことも考えているということです。
次に税制・社会保険面からの考慮としては、多子世帯を奨励するような、3子以上ですと控除が大きくなるような所得控除ですとか、2人以上の子どもを持つ家庭に対して、Earned Income Tax Creditを導入、これはアメリカやイギリスやそのほか、多くの国で導入されているもので低所得層で主に子どもがいる世帯を優遇する場合が多いのですけれども、韓国の場合は、2人以上の子どもを持つ場合に限って、賃金を10%税金から上積みして与えるというものです。ただ、Creditは最大80万ウォンですので、8万円程度ということですから、アメリカは例えば上積みが40%ぐらいと聞いておりますけれども、比較的小規模なのを、まず試しに入れてみるという雰囲気かなという印象です。
児童手当については、入れようという動きはあったのですが、財政面からいろいろ駆け引きがあったようで、現在は存在しておりません。低所得世帯に対して、EITCを行ったということかと思います。
出産休暇については、これは日本と違う点としては、雇用保険から手当が100%まで出る、日本は健康保険から出ておりますけれども、100%は出ておりません。
それから男性に3日の出産休暇を付与するといったような点、ここには書いていませんけれども、子どもを持った世帯に対する年金の給付権を1年と1.5 年にする、そういったようなものもあったように思います。
そこから先は、本当に私の感想でございますけれども、シンガポールの印象としては、働いている人は、かなり多いものですから、有給の産休の1か月の延長というのは、かなり多くの人がメリットを受けるんではないか。それから現金給付、繰延べ可能な税額控除など、予算規模は韓国と同じぐらいなんですけれども、比較的見えやすい政策が取られています。
ただ、それが可能な背景は、日本や韓国とは事情が違いまして、子どもが老齢の親を扶養するということを奨励するのが前提となっておりますし、逆に祖父母が孫をケアするということをも政策として奨励し、実際にそれがかなり行われていることや、また外国人家政婦がかなり家庭に入っているということがかなりあるだろうと思われます。
ただし外国人家政婦の受け入れには、私が聞いたところによりますと、外国人家政婦にとってはいかがかと思うような厳しい管理体制が敷かれておって、問題点も指摘されているというふうに聞いております。そして、出産率は上がるまでの効果は今のところ出てはいません。
次に韓国に対する印象ですけれども、韓国の状況は非常に日本と似ているなと思いました。出生の低下というのが、若年層の雇用条件の悪化、それから仕事と家庭の両立困難、価値観変化などという点で類似、ただ、雇用条件の悪化が日本よりもはるかに急速で深いものだったので少子化もより急速なのではないかという印象を持っております。
韓国で政府が少子化の政策に着手したのは最近で、少子化に対して国民がこれは問題だという認識が高まりつつあり、いろんなメニューが出されている。けれども、本当にいろんな人に届くような政策の実施というのも、まだこれからなのかなというような印象を持ちました。
ちなみに、昨年、内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査」2006の調査、「子育てしやすい国」への同意及び弱い同意というのを調べますと、子育てがしやすい国と思っているのは韓国19%、日本48%、フランス68%、アメリカ81%、スウェーデン98%というふうになっております。
それから、前回、フランスの出張報告があったので、それについて、ちょっと私の感想を申し上げますと、子どもを持った人が仕事面で払う犠牲を可能な限り小さくすることで、「子どもを持たない選択、子どもを持って家でケアする選択、子どもを持って、子どもを預けて働くことを選べる選択」という政策というご報告でしたが、これはどれでもご自由にどうぞという政策のように一瞬聞こえますけれども、どちらかというと、子どもを持っていない人も子育てのためのいろんな負担を応分に取る。それから、子どもを持つ人の場合は、家でケアしたい人は、その結果働けなくなりますので、その人たちに対して社会的に給付を補填する。そして、今度は子どもを持って働きたい人の場合は、保育園の質を確保する必要がありますので、(保育園等に対して、多様な保育をフランスは助成していますけれども)、助成金を出して、社会的にかなりサポートする。つまり子どもを持つも持たないも保育園に預けるも自分でケアするもどれが損ということがなくて、どれを選んでも同じくらいであるようにするという政策という意味なのではないかと思います。
フランス政府ですけれども、70年代から既に出生率が低過ぎると認識していて、政策として出生率を挙げるという方針を出しております。
今度は日本ですけれども、2006年12月に新しい人口推計が出たのですが、そこで1990年生まれの、今の女子高生、16歳の方が、何人子どもを持つかという予測が出ています。子どもゼロ人の割合はどのくらいだと思うかと私の大学の学部学生に聞きましたところ、回答としては、30%ぐらいかなという回答が多かったんですけれども、それは2002年の推計でありまして、2006年の推計では、37%が子どもを持たない、子どもが1人が14%という驚くものです。先ほど社会保険の負担が次世代に持ち越しになっているということをおっしゃっていましたけれども、その次世代というのは、どの程度いるかわからないというような推計が出ているということでございます。
ですけれども、独身者に対する調査を見ますと、9割が結婚したいと、そして子ども数ゼロが希望という独身者は5%にすぎません。それにもかかわらず、今の人口トレンドを延長していくと、そういう日本社会が現在予見されているということでございます。
そこで少子化に対して、政策を取ろうとされていると思いますが、シンガポール、韓国、日本等の東アジア国々と(出生が回復している)フランスとはかなりスタンスが違うのかなと思います。前者は追加的にちょっと助けてあげましょうというのですが、後者は、子どもがいる人もいない人も、それぞれに応分の負担をというのであり、対策のスタンスが違うという印象を持っています。
時間もありませんので、17ページはちょっと飛ばしまして、18ページを見ていただきたいんのですが、ちなみに、これは税、社会保険料の負担率がどうかというのをOECDのタックスベースから、平均賃金に対する個人の所得税プラス地方所得税、プラス被用者社会保険料の合計を見たものです。 ただし、子どもがいる世帯について普通的な児童手当が5歳から12歳児に出されている場合は、それが差し引かれるという形になっております。一方育児休業給付等は含まれておりません。
一番左側が、単身で、子どもがいない人たちの負担率です。
その次の線というのが、扶養している配偶者を持っているような世帯、平均的な賃金の世帯の負担率。
そして、一番右側が扶養している配偶者及び子ども2人を持っているような世帯の負担率というふうになっています。
日本と韓国はともに税・社会保険料の負担率は低いのですけれども、子どもがいる世帯といない世帯での負担率の差というのは(扶養控除等がありますけれども)、それほど大きくなく、子どもへの配慮が小さい。これに対して、大きな差が付いている国としては、フランスですとか、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン、英国、米国などというふうになっております。
次のページを見ていただきまして、保育園の利用と家族支出の対GDP比で、これもOECDで見たものですけれども、上は保育園を利用する0~3歳児の割合です。日本に丸を付けてありますが、日本はかなり低い方に入ります。そして日本より低いドイツ、韓国、イタリアとスペイン、ギリシャ、この辺の国はどこも少子化の問題をかかえる国になっています。
その下のOECDの家族支出の対GDP比の割合ですけれども、日本、韓国が、いろいろ少子化政策を打っているとしてもその規模はどの程度か、客観的に見ることができるかと思い、参考に付けさせていただきましたが、規模は国際的にはとても低いと言えます。一番右側の米国は、家族支出は低いんですけれども、保育園を利用する割合が高いという形で、保育の教育が民間でなされているような国になっております。
先ほど飛ばしました17ページに戻りまして、では、有子世帯への政策的メニューは、どんなことがされているかということで、1つは税制面から所得傾斜を付けた税クレジットあるいは所得のかなり傾斜を付けた児童手当、あるいは出産給付などが1つあるかなと思います。
例えば出産直後に、シンガポールでベビーボーナスという話がありましたけれども、そういった例というのは、フランスやイタリアなどもございます。
それから、世帯所得でかなり強い傾斜が付いた児童手当は、カナダなどがあります。この場合は、世帯所得が上がっていくと、児童手当が減っていく構造になっています。また就業を支援するような形でEITCを取っているような国は、アメリカやイギリス、フランス、オランダ、韓国等でございます。
有子世帯の税負担の軽減としては、税額控除や所得控除の拡大があります。今回、シンガポール、韓国がここに入りますし、大家族に対する所得控除の拡大に、ここでは韓国もあったと思います。
ケアへの支援としてもいろいろあります。日本の場合は、育児休業が取れた人にしか給付を出していませんけれども、取れなかった人も含めてケア活動で収入が下がる人に社会的に給付を出すタイプの国としては、フランスやカナダなどがございます。
年金や介護面で有子世帯を考慮するとか、そういったような国々もあります。
こういった子どもに対する多様な政策をとっている国々は、一つのタイプは少子化で悩んでいる国々です。もう一つのタイプは児童の貧困が問題になっていて、それに悩んでいる国々かと思われます。
以上、少し時間をオーバーして恐縮でございます。
〇香西会長
どうもありがとうございました。大変興味深い話でした。
税の関係で言うと、勤労所得の税額控除、その問題については、既に日本でも多くの関心を集めているところで、それが隣国で実現する要請になってきたということですから、これは何回かこの調査会でも議論せざるを得ない問題になりつつあるのではないかという気が私はしております。
ところで、時間が大変過ぎましたので、こちらから提案ですが、今、是非発言されたい方で、今日、まだ初めての発言になる方、2人だけ受け付けるということにしたいと思います。
ただし、ほかのことでコメントとか質問がありましたら、恐縮ですけれどもメールで調査会の事務の方にご連絡いただきたいと思います。そうすると、あらかじめそれに対する答えも準備する形で、何らかの機会にご返答する、あるいは次の機会で行う場合でも、なるべく要領よく議論を進めていただくために、そういうことを提案させていただきたいと思います。
それでは、この際2人、お願いします。では、こちらからお願いします。
〇飯塚特別委員
まだ、発言していなかったので、質問というよりもシンガポールと韓国がありましたけれども、やはり日本が一番影響を受ける国の調査を是非お願いしたいと思います。
特にブリックス30億で先進国圧力を、これから非常に短時間で強烈な影響を与えていくということで、小資源の国が非常に厳しくなる時代に突入しようとしているわけです。
こういうときに、やはり今日のデータにもありましたけれども、企業がどのぐらい健全かというのが非常に重要だというのはよくわかるんですけれども、特にブリックスの中でも一番影響力、多分、今、8割ぐらいの大きさ、いずれGDPでも世界No.2になる中国を議論せずに、あるいは香港を議論せずに、こういうふうにはいかないんではないかと思いますので、是非、調査、ご教授を願えればと思います。
〇香西会長
どうぞ、お願いします。
〇上月特別委員
前回のドイツもそうなんですけれども、今回のシンガポールも付加価値税が上がっていますね。これで、今回の場合は、オフセットパッケージを使われて、国民は納得されたのかもしれませんけれども、聞くところでは、シンガポールというのは、結構税制改正の過程というのが透明性が高いと聞いているんですが、これは国民へ納得させるというと何ですけれども、どういう形でなってきているのか、その辺を、ドイツの場合は景気がよくなってというようなことを聞きますけれども、現実にはどんな形なんですが、今日はドイツではありませんけれども、できれば、お伺いしたいと思います。
〇香西会長
どうぞ。
〇井堀委員
ご存じのように、シンガポールは、政治的にはかなり統制の厳しい国ですので、国民がいろんな形で政府に対する反対意見をなかなか率直に言えないような雰囲気なので、そういう意味では、民主的なんでしょうけれども、我々の感覚とは若干違うところがありますので、こういう税制改正の話も、国民の意見もいろんな形で吸い上げてというよりは、政府の方でいろんな見識の下に決めて、国民に納得してもらうという方向だろうと思います。
〇香西会長
それでは、質問を以上で終わらせていただきます。
中国の調査については、事務的に検討しておりまして、簡単に言えば、予算の問題になるということで、余るかどうかということになると思いますが、大いに気持ちとしてはやりたいという気持ちは持っております。
それでは、今後の予定をお伝えしてお終わりにしたいと思います。大分予定が長いんですけれども、次回は、5月17日木曜日、いつもの火曜、金曜とは外れまして17日の木曜日、午後3時から5時まで、時間も変わっております。場所は三田共用会議所の講堂になります。そこへお集まりいただくということで、企画会合と調査分析部会の合同会議を開きます。
そのテーマといいますか、やり方、内容でございますけれども、前回、お話ししたかと思いますが、国際通貨基金のIMFの税制専門家と意見交換をするというのが趣旨でございまして、IMFの税制専門家のプレゼンテーションを行ってもらって、それに対して当方からもいろいろな議論を交換するということでございますので、世界的な流れ等の話が中心になると思いますが、できるだけ多くの方に出席していただければありがたいと思います。
これ以後につきましては、前にも申しましたけれども、5月22日の火曜日、6月8日の金曜日、6月22日の金曜日、7月13日の金曜日は、まだ予定ですけれども、一応、マークしておいていただければありがたいと思います。
これらの日については、現在のところ、午後2時から4時までという時間を想定しております。これにつきましては、確定しましたら、改めてご案内をします。
本日も非常に有益な報告と討論が行われましたけれども、これからも、まだ内容ははっきり決まっておりませんけれども、例えば社会保障財源と税制の関係であるとか、金融資産課税とマクロ経済の関係であるとか、あるいは企業課税の帰着、そういったような政策にもかなり大きな影響の与え得る問題についての報告が続くことになると思いますので、是非参加していただきたいと思っております。
時間を超過して申し訳ございませんでしたけれども、本日の会合は、これで終了したいと思います。
どうもありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。