企画会合(第22回)終了後の香西会長・神野会長代理記者会見録

日時:平成19年11月9日(金) 16時50分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室

司会

それでは、第22回企画会合後の記者会見を行います。

初めに、神野会長代理が本会見に同席させていただくことになりましたので、よろしくお願いいたします。

質問

香西会長にお伺いをしたいのですが、今日、いろいろ多岐にわたって議論が行われましたが、何人かの方がおっしゃったのが、消費税について、政府税調として答申には引上げが必要だということをはっきり打ち出すべきではないかと、そういった意見が何人かから出されたのですけれども、こういった政府税調として引上げということをはっきり答申で打ち出すべきだというような意見が出されたことをどう捉えて、答申ではどのように反映させようとお考えでしょうか。

香西会長

それは申しわけありませんが、答申を見ていただいてご判断いただくしかないですね、今の時点におきましては。ごめんなさい。

質問

こういった意見が出されたことについては、どのように捉えられましたか。

香西会長

そういう議論は、過去にもこの税調の中では、しばしばだったか、たまにはと言うべきかわかりませんが、出ておったというふうに理解しております。

質問

同じようなことで香西会長にお伺いしますけれども、消費税についての議論はいろいろあったわけですけれども、引上げの必要性について多くの方がおっしゃいました。一部反対意見を仰る方はいましたけれども、かなり多くの方がそういうことをかなり強く、はっきり仰っていたと思うのですけれども、一方で、時期や引き上げる幅、税率の議論が全くなかったように思えるのです。こういうのは一体的に議論していくのが普通かなと素朴な感想はあるのですけれども、なぜこういう議論が深まらなかったとお考えでしょうか。

香西会長

もう時間が大分切れているわけですけれども、まだ完全に尽きたわけではありませんから、これから答申をまとめる段階で足りなかったところはいろいろ詰めていかなければいけない。資料などももう一度チェックしておかなければいけない。そういうことで考えております。

質問

それと、消費税の性質にもかかわることですけれども、どの時点で見るかによって、逆進性があるかないかというのはいろいろな意見がありますけれども、一般的にはやはり何らかの低所得者への配慮というものが税率を引き上げるのであれば必要であろうという見方は多かったような気がしますけれども、そういう所得格差の問題とか、あるいは低所得者への配慮、要は再分配機能を高めるという観点で、社会保障や、あるいは所得税や資産課税、ほかの税目も含めた全体の中でそういったことをきちんと打ち出さなければいけないのではないか、という意見が多かったと思うのですけれども、こういうご意見を会長ご自身はどのように受けとめられましたか。

香西会長

私は、逆進性ということについては、確かにそれはまだまだ調べることはたくさんあると思います。しかし、例えば消費税を取って、それを社会保障に注ぎ込まなかったとしたら、社会保障が今示しているだけの福祉をちゃんとみんなに行きわたらせるとか、所得でいえばジニ係数を下げるとか、そういうことに対して、消費税から出たお金というのは相当以上に貢献しているということは、もう疑いのないことなんですね。

逆にいうと、所得税の所得再分配機能が落ちた落ちたと言われる。何で落ちたかというと、かなりの大きな理由は金額が違うわけでして、所得税の金額と、それから社会保障で集めるお金、及び社会保障が使うお金とでは、何倍か違いがありますから、それはやはり大きく金を出せば、効果が大きいというのは当たり前のことなのです。そういう形で、いわば現在におきましても、目的税ではありませんけれども、消費税は社会保障その他、福祉目的に使っておられるということは、使途がそこへ方向づけられているわけですから、そういう仕組みがないとしたら、日本の所得分布と言ってもいいのかもしれませんが、そういったものは今よりずっと悪かったわけです。じゃ、ほかに何か財源があれば同じことをできたかもしれませんけれども、少なくともその一点をとっても、今日、誰かも言っていましたけれども、消費税が国民の皆さんに何とかご理解いただいて、そこでお金が集まっていることがやはり再分配を活発にしたということは、かなりはっきりしているということだと私は思っております。

そういう点でいえば、将来もそういうことを続けるのであれば、社会保障を維持することが所得分配その他をよくしているという、そのメカニズムは働くということです。それがなければ、社会保障のほうが資金切れになってしまえば、その場合には再分配というのも非常に小さくなってしまう、あるいは逆になってしまう。逆になってしまうというと何か悪いようですけれども、例えば社会保険料というのは必ずしも累進ではないわけですね。それは所得税のほうがちゃんと累進になっておりますけれども、そういうものも含めているにもかかわらず、社会保障全体をとってみれば、消費税が入っていることによって、あるいは税が入っていくことによって、全体としての所得分配をよくしているということは、これは間違いのないこと。

つまり、財源論としていえば、そういう財源があれば、社会保障というものは国民の生活のバランスをとっていくのに非常に必要なもの。場合によっては、もっといえば、医療なんかを考えると、これは所得ではなくて、本当の差になってしまうわけです。病気した人としない人というのはかなり大きな差になる。そういうものについても社会保障は非常に貢献している。そこへ相当の公的資金が入っている。公的資金はほかにもあるじゃないかといえば、ないことはないかもしれませんが、歴史的に考えても、西欧の事例を見ても、やはり消費税というか、付加価値税というものと福祉国家というのは並行して発展してきている。こういうことは事実だと思います。非常にマクロ的な議論になっていますけれども、そういうことも含めて考えるべきではないかと思います。

それと同時に、生涯所得という考え方がありましたけれども、これはミルトン・フリードマンが言った「恒常所得仮説」という消費理論があるわけですが、それでは消費というものは、長期的に期待されるその人の所得水準と合っている。これは経済的に合理的な解釈だというような理論もあるし、フリードマンはある程度それについての実証的な成果を説明している。これは随分昔のことですから、今通用するかどうかとか、いろいろ問題はありますけれども、そういうふうに推定する経済理論というのも一応は存在し、学会の中でそれなりの存在的な場所を占めている。そういうふうに理解しているということもあると思います。といいながら、これはむしろ神野先生からお答えいただいたほうがよいのではないかと思います。ご専門家ですから、どうぞよろしく。

神野会長代理

いや、特に。

質問

今の会長のお話で、社会保障が今日、再分配に一番大きな役割を果たしているというのは、それはそのとおりだと思いますけれども、お尋ねしたかったのは、それと同時に、資産課税とか所得税の累進強化みたいなところをやるべきだという意見もありましたけれども、そういったことも同時にやることによって、消費税が持つと言われる逆進性の問題を緩和するようなことを考えるべきではないかという意見もあったことについて、どのようにお考えでしょうか。

香西会長

これについては、消費税を入れる時に、過去においては所得税を減税して入れた。つまり直間比率を是正する、財源を増やす増税手段としてではなく、従来は所得税を先行的に減税しておいて、その上で消費税を入れた。そういうようなバランスのとり方もあるわけです。

今日の議論もいろいろな議論が挙がっておりまして、軽減税率がいいという考えの方ももちろんいらっしゃると思いますけれども、それについての反対も何人かはおっしゃっていたわけです。中には一種の生活費として必要なものを所得税で減税すればいいのではないかと。それでは税金を払っていない人はどうなるかという問題もありますけれども、それはいろいろなテクニックがあり得るのだろうと私は考えています。

神野会長代理

事実問題として、先ほどの再分配のことについていえば、現実には所得負担水準の高い国は現金給付が多い。つまり社会保障制度が充実しているということもあり、租税構造よりも租税負担水準の高い国のほうが所得再分配効果は高いのです。ただ、現実に所得負担水準が高い国というのは、現金給付が多い国であるという事実を反映しているのだろうと思いますが、事実としては多分そういうことだろうと思います。

質問

今日の議論の中でも、国民の理解といいますか、広報といいますか、そういうことに関しても税調が一定の役割を果たすべきではないかというお話もいくつかあったと思うのですけれども、これに関して会長はどのようにお考えでしょうか。

香西会長

私もそれは大事な仕事だとは思います。しかし、何か宣伝隊になっちゃうというのは・・・。プロパガンダをやるというのは、もちろん、自分たちが一応結論を出せば、それを国民の皆さんにご理解いただくようにその答申は書かなければいけないし、それを皆さんに読んでいただくように働きかけるというのは当然ですけれども、あまりプロパガンダばっかりやっていると、例えば理論的な研究とか実証的な研究というものからはちょっと違う領域で、ちゃんとした論理をつくるとか、ちゃんとした検証をしていくということも私は税制調査会の非常に重大な義務だと思っていますので、そういったほかの義務もあるということの上では、それは余力と言ってはいけませんが、それも重要な仕事ですけれども、それは国民にぜひ理解してもらいたいと思っているわけです。

例えば、消費税が社会保障を持続的に維持できるということの前提として、それを増やさなければならないというふうに、あるいは消費税の役割は社会保障の安定財源として重要なものになる方向にあるじゃないかと、そういうことは増税したら皆さん楽になりますよと言っているわけでは決してないので、それは放っておけば社会保障の先行きが危ない状況だというような懸念がある時だから、何とか防がなければならないのですよと、そこのところをむしろご理解いただいて、その上でご批判をいただくということが必要で、いきなり増税したら国民は幸せになりますというような言い方をするつもりは毛頭ないわけです。鉦や太鼓で言っているわけではない、というつもりで考えているということであります。

質問

ちょっと大きな話なのですけれども、政府税調というのは国民から見てどういう役割を期待されているのかというところにも係わるのですけれども、負担増の話が今メインに出てきていて、その時に、どういう理由で必要なのか、あるいは逆に国民の生活にとってどういう理由づけがあるのかということを、きちんとわかりやすく説明して理解を求めるということは、これは政治の仕事でもあると同時に、政府税調にも結構期待されてきたことかなと思うのですけれども、そこについての議論が、全くなかったわけではないですけれども、やや乏しかった印象が私自身はあるのです。例えば一時期、会長は調査分析部会と同時に広報広聴みたいなことも重要だということを仰っていたと思うのですけれども、いろいろ時間の都合などもあったのかもしれませんし、そういったところもできなかったのかなとは思うのですが、何か反省点、あるいは今後こうしていきたいという、そういったところについてはイメージはお持ちでしょうか。

香西会長

今のところはもう答申一路でして、ほかのことを考えている頭の中の余地が残っていない状態ですが、大きく流れを考えれば、仰ることは非常に的を射ているので、反省すべきところもある。

ただ、私は、意見を聞いてやるぞというような、権力が上から「おまえらの意見を聞いてやるぞ」というような会にはしたくないんですね。そうじゃなくて、やはり、こういう状況であるということからご理解をいただきたいと思っています。

というのは、従来は、消費税を上げる時は、所得税を先行減税させてあったわけで、そして社会保障という新しいサービスが付け加わったわけですよね。例えば介護保険は、こういうサービスができたから介護保険料をいただきますと。これはいいのですけれども、最近になってくると、だんだん、高齢化してきた人がたくさんいるようになりましたから、お金が足りないんです、要るんですと、こういうことになると、一人一人にとったらどれだけ利益があったか、そういう議論は当然出てくるわけですね。そこは、つまり高度成長の中で社会保障制度が発展して、それが国民に受け入れられていった過程よりは厳しい環境にある。それは我々として説明するのも厳しい。受けるほうはもっと厳しい。そうだけれども、それを放っておくことは非常に難しいのではないか、もっと悪くなるのではないかと、現にそうだということを言うには、もっといろいろちゃんとした論証をしなければいけませんが、比喩的にいえばそういう状況だと言ってもいい面がいくつかあるわけです、今の日本経済なり日本の財政のあり方には。そういう中でご理解いただくというのは、相当の努力が必要だろうなということは覚悟はしております。

質問

またちょっと違う話なのですけど、給付付き税額控除の話です。最近いろいろなところでされていて、きのうも経済財政諮問会議で出てきたり、議論が活発になっていて、政府税調の中でも支持する委員の方もけっこう多かったようなのですが、ただ、今日はお一人、実現可能性の面からいっても否定的なような強い意見があったわけですけれども、答申に向けてこういう考え方は何か整理されているのでしょうか。

香西会長

中里先生は著名な法学者、特に租税法、国際課税等についての先端を行く研究者でいらっしゃるので、先生のご意見はやはり聞かなければいけないが、他の税調の委員があの意見に全員賛成しているということはないと私は思っております。

アメリカの例でいいますと、今のアーンド・インカム・タックス・クレジットは2,200万件ぐらいの人がもらっていて、アメリカでは最大の福祉ばらまきというか、福祉を配る制度としては最大の規模になっているわけです。あれは1年間でしたかね、500万人が従来のポバティラインから上へ出たとか、そういう褒め言葉もいっぱいあって、非常に大きな成果があったという評価も一応あるわけです。それはイギリスにもありますし、韓国もこれから始めます。だから、憲法違反だとまで言われると、それではアメリカの憲法や、イギリスには成文憲法はないのでしょうけど、イギリスではどうしてやっているのか、韓国ではどうしてできたのかということにもなってくるわけで、まあ、あまり好ましくないというご意見なのだろうということは、取ったり入ったりを分業しておくことに意味があるだろうと、そういうお考えは一つあることはあるのですけれども、私個人としては、そういう議論ばかりではないのだろうなと思います。

むしろ、アメリカの経験でこの点を突かれると弱いなという点は、簡単にいえば不正請求が非常に多い。アメリカでは内国歳入庁、国税庁ですね。最初は1983年にやった時に3分の1あったのです。それが減ってきたという学説もあったのですけど、2000何年かで調べると、やはり30%近く正規以上の要求が出ているとか、そういうことも言われている。例えば生活保護ですと、資産が何があるかということを調べますけれども、いわゆる負の所得税ですと、所得があるかないかだけで配るということもあります。

アメリカも今のアーンド・インカム・タックス・クレジットは、もともとは子育ての費用として考えられてきたのですが、アメリカでは結婚しても届けないでシングルマザーにしておくと、いろいろ福祉が受けやすいわけですから、そういうような申告がかなりあるということは事実で、そういう点は確かに私も非常に興味も持っているし、アメリカやイギリスや、それから韓国は間もなく実施すると言っているので、少なくとも追跡する理由がある。できればここで日本もそういうことを考えたほうがいいのではないかと、私自身は進めたいと思っておりますけれども、それは皆さんのご意見もどうしても聞かなければならないわけですから、私の意見をあまり言っていると、答申にはそう書いていないとまた叱られるかもしれないので、この辺にしたいと思うのですけれども、そういう問題があるということは否定できない。いろいろな問題があるということは否定できないのですが、全くだめということになるのかどうかと言われると、私はそうではないのではないかと感じているということですが、これも先ほど言いましたけれども、税調で議論をする中で、起草の過程で結論を得たいということで考えております。

神野会長代理

余計なことですが、やるべきことは様々なことがたくさんあるのに、議論を尽くしていないことがあるのではないかというお話ですが、やるべきことはたくさんあるのだけれども、この税調はかなりの回数をやっているのです。最も多いかどうか計算してみないとわかりませんが、かなり多くやって、しかしそれでもやるべきことは多いということしか言いようがないと思うのです。つまり、川は海に流れるけれども、海は満つることがないということではないかと思いますね。

質問

最後に、来週から起草の作業をやって、20日頃を目途に答申をまとめたいというお考えだということなのですけれども、その作業の進め方で、答申作業は前年の慣例に従って非公開でやりたいというようなお考えだったのですけれども、昨年に従ってというのは、説明として私は不十分ではないかと思うのですけれども、なぜこれまで非常に透明性の高い議論をこうやって公開の場でやってきたのに、その最後のまとめの段階だけ非公開にするのか、そこの点について、もう少しご説明をいただきたいのですが。

香西会長

それはやはり、途中で漏れることによっていろいろな多方面から介入されることを避けているわけです。やはり税調としての中でとにかくまとめるということを私は期待しております。

司会

よろしいですか。それでは、これで記者会見を終了させていただきます。

香西会長

どうもご協力ありがとうございました。これからもよろしくご指導ください。(了)