企画会合(第10回)・調査分析部会(第5回)合同会議 議事録
日時:平成19年5月17日(木) 14時59分~
場所:三田共用会議所講堂
〇香西会長
ただいまから、第10回の企画会合、第5回の調査分析部会の合同会議を開催したいと存じます。お忙しい中御参集いただきまして、誠にありがとうございました。
本日の議題に入ります前に、一言だけ申し上げますが、前回の会合で御報告申し上げましたけれども、去る15日の夕刻、総理官邸で開催された経済財政諮問会議に私が出席を求められまして、そこで財政に関する若干の議論が行われました。その間の経緯等につきましては、本日はIMF(国際通貨基金)の税制専門家からのプレゼンテーションを中心に行いたいと思いますので、経済財政諮問会議の模様等については、次回、22日の会合で御報告することとさせていただきたいと思います。よろしく御了解をいただきたいと思います。
それでは、本日の議事についてでありますけれども、本日は先ほど申しましたように、国際通貨基金の税制専門家をお招きしておりますので、グローバル化する経済の中で、税制の抱えることになった課題について御意見を承り、我々も議論に加わらせていただきたいと思っております。
なお、国際通貨基金は、例年、加盟国各国の経済状況の審査を行い公表しておりますけれども、対日審査のため日本にいらっしゃっているタイミングを活用して、税制調査会との意見交換を行うということになりまして、本日それが実現の運びに至った次第でございます。
本日は、説明及び質疑にそれぞれ約一時間ずつの時間を予定しております。十分議論していただき、我々税制調査会の今後の審議に、本日の会合が有益な結果をもたらすことになればと思っております。
若干脱線いたしますけれども、私は日本の税制調査会も日本のためになる税制改革をプランするだけではなく、世界的にも大いに注目されるような立派な答申をつくりたいものだと、かねて思っておりますので、それへの一歩になればこんなうれしいことはないというわけであります。ただ、今年について、それほど立派なものができるかどうかは、全く自信がないわけでありますが、いずれにしても、その方向に向かって前進していただきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。
以下は、田近部会長に司会進行をお願いしたいと存じます。よろしくお願いします。
〇田近部会長
ただいま御紹介いただきました、田近です。これから議事に入りたいと思います。
まず、今日はIMFの皆様方に来ていただき、感謝いたしたいと思います。
アジア太平洋局次長のダニエル・アラン・シトリンさん。
財政局税制課長のマイケル・キーンさん。
アジア太平洋局第5課局長補のアレサンドロ・ザネロさん。
アジア太平洋地域事務所長の有吉章さん。
以上の4人の方に来ていただいております。よろしくお願いします。
お手元に資料が、英文、その邦訳があると思いますけれども、タイトルは「CHALLENGES FOR TAX POLICY IN THE GLOBALIZED ECONOMY 」、グローバライズされた経済における税制に課された課題ということで御報告をいただきます。
御報告は、マイケル・キーンさんと伺っていますので、キーンさんから御報告いただきたいと思います。
大体1時間程度の御説明をいただき、その後に質疑に入りたいと思います。よろしくお願いします。イヤホンが必要な方は、どうぞ着用してください。
〇ダニエル・アラン・シトリン次長
ありがとうございます。それでは、プレゼンテーションの前に一言申し上げたいと思います。香西会長、田近部会長、そしてお集まりの税制調査会の皆様、御来賓の皆様、本日はどうもありがとうございます。今回、このような機会を与えていただき、大変光栄に思っているということを、まず最初に申し上げ、心からこの対話の機会を与えていただいたことについて御礼を申し上げたいと思います。
IMFといたしましては、税制調査会における作業は、現時点において日本の経済にとってますます重要性を帯びていると感じています。というのは、債務の問題、そして高齢化社会の問題、これは既に始まっているわけですけれども、またそれと同時に生産性向上の必要性が迫っていること、そして更に成長をもたらす必要があるということ、そういったことを考えますと、恐らく日本の政策立案者にとって、何よりも重要な課題は、将来に向けた適切な税制をいかに貫くかということだと思います。
IMFといたしましては、税制調査会の皆様の作業をこれからも期待して見守りたいと思っております。
日本における財政政策につきましては、我々は過去何年にもわたって研究させていただいております。私、そしてここにおります部内のメンバーは定期的にお邪魔いたしまして、日本の当局の方々と日本についてのお話しをさせていただいているわけです。マイケル・キーンさんがここにおられますが、田近さんからも御紹介がありましたけれども、マイケル・キーンさんは財政局税制課長でありますが、その前はエセックス大学で経済学の教鞭をとっておられました。そしてクイーンズ大学並びに京都大学でも客員教授として教鞭をとっておられました。また、財政政策の権威であられます。そして、現在は国際税制会のメンバーでもありますし、キーンさんの出版物は国際租税学界で大変広く読まれております。また、"The Modern VAT"という著作を持っておられます。私の方からキーンさんを御紹介させていただきましたので、キーンさん御本人に御登場いただきます。
〇マイケル・キーン課長
御紹介どうもありがとうございます。香西会長、田近部会長、調査会の皆様、御列席の皆様、今、シトリンさんから御紹介いただきましたけれども、今回このような形で機会をいただき、その上非常に重要なテーマについてお話しできることを非常に光栄に思っております。
この機会を心から歓迎するものであります。シトリンさんから御紹介がありましたけれども、実は私、随分前ですが京都に1年ほど滞在したことがあります。そのとき覚えたわずかな日本語を、残念ながら忘れてしまいました。ですから、今日は英語でお話しすることをどうぞお許しいただければと存じます。
さて、今日のテーマですが、できるだけ幅広い形で、グローバル化の中での税制の課題について触れるということです。そして、現在目の当たりしているトレンド、例えば各国がどういう形で、これらの課題にどう対応しているか。それに関するトレンドについて御紹介し、その幅広い全体像の中で、日本がどこに位置するのかを御紹介できればと思っております。
(パワーポイント使用)
(1ページ)
今日のアウトラインですけれども、4つの項目に分けてお話をしたいと思います。
まず「はじめに」ということで、かなり一般論的ではありますが、そもそも税制のデザインにとって、グローバリゼーションによって具体的にどのような問題が出てきているのか、その問題の特質は何であるのか、それにどう対処するべきであるのか、こういったところから始めたいと思います。
そしてプレゼンテーションの第2部においては、税制そのものの仕組み、すなわちデザインの特徴に目を向けたいと思います。ますますグローバル化する経済の中で、税制のストラクチャーはどうなるのかということを考えたいと思います。これは大変重要です。というのは、永続的な税制改革をする上で、我々が学んだことの1つは、まず明確なビジョンが必要であるということです。ビジョンなくして、判断、例えば税制の構成に当たっての意思決定というものはできません。すなわち全体的なシステムについて、明確なビジョンがあるからこそ、一貫性のある形で意思決定ができるわけです。
すなわち、断片的な、その断片をつなぎ合わせるような政策であっては、税体系そのものを損なうことになりますので、それは避けるべきだと思います。
ただ、このテーマについては、そもそも最適な税制のデザインは何なのかという問題がありますが、今の環境においては、明確な答えはないと思います。ただ、面白いのは、各国がどのような道筋を選んだかということでしょう。さまざまな異なるモデルがあり、それから選ぶことができるわけですが、各国でそれぞれ違ったモデルを貫いています。
次に、すべての国々が直面している懸念、すなわちグローバル化された経済における競争力並びに持続的な成長をいかに実現するか。貧困対策やその他の社会的な目標を達成する上で、これをどう達成するか。そういった項目についても考えたいと思います。
そして最後に結語ということでまとめたいと思います。
(2・3ページ)
最初に「はじめに」というところで、冒頭部分から始めたいと思います。
そもそもグローバリゼーションという場合に、何を意味するのかを明確にする必要があります。いろいろな定義がございますけれども、このプレゼンテーションの念頭に置いているのは、グローバリゼーションの主たる側面として、国境を越えて可動性(Mobility)が高まるということです。資本も財もサービスも労働も可動性が増大するということが大きな特徴です。
これらのものの可動性がますます増大すると、さまざまな違いが生まれます。例えば資本は非常に可動性が高いと思われがちです。労働は、可動性があっても移動しないかもしれないと思われがちです。でも、国境を越えた形で、これらの資本ですとか財、労働の可動性の増大によって、新たな課題が提起されているわけです。
資本、財、労働というのは、実は課税のベースとなっているのです。したがって、これらのものの可動性が増すということは、各国の課税ベースの可動性も増しているということです。特にさまざまな税制の問題について、より敏感になっているということです。したがって、課税ベースの弾力性、すなわち各国の課税制度、税のデザイン、税率に対する敏感さも高まっているということでありましょう。
したがって、グローバリゼーションの特徴は、税制という観点から見た場合、まさにそこに見出すことができます。
さて、課税ベースがより可動性を増すと、どのような課題が出てくるか。実は、今、同時に発生しているさまざまな要因によって、これは更に増幅されています。グローバリゼーションに直結するものと、直結しない要因があります。一つは、多くの国々に、新たなる追加的な財政の圧力が高まっていることです。これは高齢化によるものです。例えば年金、医療、そういったコストが増大している。これは、特に日本では差し迫った課題となっております。したがって、課税ベースに対して圧力がかかりながら、潜在的に更に財政支出が必要であるという圧力もかかっているわけです。
また、それと同時にグローバリゼーションに非常に関連しているものなのですが、金融市場のますますの高度化があります。これが課税ベースに更に圧力をかけているのです。納税者は自分たちの所得がどこで発生しているか、そして、その所得の形態は何なのかということについて、より洗練された知識を持っているわけです。さまざまな金融商品を持って、全世界的に課税ベースを動かすことができれば、また、所得の形態を選ぶことができれば、より有利になるわけです。例えば、金利が引き上がればキャピタルゲインにつながる。キャピタルゲイン的なゲームはだれでも得られるわけですけれども、その1つについて後ほど触れたいと思います。特にデットとエクイティ、負債と資本の差がより難しくなっているということです。
3つ目の世界的に見られる要因、これも税制のデザインに非常に影響を及ぼす要因なのですけれども、それは気候変動です。気候変動は明らかに、より大きな問題として認識されるようになっています。そして、税制のデザインにとっても非常に多くの意味合いを持つものとなっています。多くの国々はそれに直面している、少なくとも直面しつつあると申し上げたいと思います。
グローバリゼーションによって課税ベースの可動性が増している。その結果、まさにこのゲームに関わる鍵がより重要になっている。今までと比べて、グローバリゼーションによってさらなるプレッシャーがかかっているということです。
また、付け加えることができるものが、ほかにもあります。例えば国際的なサービスの重要性、これも金融市場の高度化によってもたらされたわけですけれども、今までにはないような税制上の課題が出てきているのです。ですので全般的に見て課税ベースが可動性を増大している、そしてこれらの問題が更に重要になるような特質をはらんでいるということでありましょう。
(4ページ)
それでは、さまざまな課題について触れたいと思っております。課税ベースの可動性の増大、これは既に申し上げました。もう少し厳密に申し上げます。
可動性の形態は幾つかあり得ます。1つの形としては、企業がどこに実物投資をするかという判断が、税制に対してより敏感になっているということです。というのは、どこに行っても投資をすることができればより楽ですね。市場アクセスに関する心配もしなくていい、貿易障壁もなくなっている。そういったさまざまな要因を排除してしまえば、会社がどこに投資をするかという判断は、税制に対してより敏感になるのです。勿論、税制だけではありません。企業の投資先判断に関して、税制は唯一の要因ではないのです。最も重要な要因ではないかもしれません。とは言うものの、非常に重要であるということは明らかです。すなわちロケーションの決定は税制に対して非常に敏感なものだということが判明しているんです。実物投資については、そのようなことが言えます。
もう一つ課税ベースの可動性の形として、いわゆる書類上の利益を取り上げることもできます。企業は今や異なる地域間で利益の移転がより簡単にできるようになりました。移転価格とか金融取引などを通して、あえて選んで、どの地域で所得を反映させるかということを決められるわけです。そのためには、例えば税制優遇措置が大きいところで控除を活用する。そして税率が低いところに利益を記録すればいいわけです。いうなれば、税格差の裁定ということでありましょう。これはあくまでも書類上の取引にすぎません。
さて、この可動性について、もう一つ重要なのは脱税、租税回避の可能性が出てきたということです。その共通のやり方ですけれども、例えば居住者ベースでの資本課税を避けることが可能になりつつあります。特に個人の場合はそうです。要するに、海外に貯蓄する。そしてその金利を居住者ベースの国において申告しない。これはなかなか回避としては止めることが難しくなっております。というのは、その居住者の国が、他の国において得ている利益について、なかなか情報が得られないからです。そして他の国においても、わざわざ居住国に対して情報提供するインセンティブは働きません。
脱税、租税回避ですけれども、資本所得税に対する居住者ベースの問題だけではありません。ヨーロッパでは、VATにおいて同じようなことが言われております。ヨーロッパ、またEUにおける1つの現時点の懸念として、非常に有名で、巧妙で、非常にもうかるようなVAT絡みの詐欺が発生しているということなのです。EUには、特別な要因があるのかもしれませんが、この租税回避というのは、ただ単に資本課税だけの問題ではない。実はVATに関しても絡んでくると考えるべきだと思います。
(5ページ)
それでは、定性的な側面としてはどうでしょうか。非常に重要な要素を念頭に置かなければなりません。決して楽しい、愉快なものではないかもしれません。でも、この事実を認識しなければなりません。可動性が変わることによって、税の負担をだれが担うのかということが変わるのです。経済的に見てだれが税を払うのか、法的にだれが負担するのかということを見るのではなく、マーケットの調整が終わった後、その課税によって最も影響を受けるのは最終的にだれなのか、ということを考えなければならないのです。
可動性が非常に高い世界において、最終的に税の負担が押し付けられるのは可動性の低い人々です。すなわち可動性の低い要素に対して、経済的な税負担が課せられることになるのです。というのは、可動性が高い要素は、ある国の労働にかかる課税を避けて別の国に行く余裕があるのです。
すなわち、経済的に見た税制というのは、特に非可動的な要素に落ち着くということです。また、天然資源もそうかもしれません。また、ロケーション特有の要素もそうかもしれません。でも、多くの課税は1つの形から別の形で、必ず労働に課せられる。そういった特徴を持っています。これは税のデザインにとって非常に大きな意味を持つことになります。もしも経済的な意味において、課税というものがあくまでも必ず非可動的な要素、例えば労働に対して落ち着くのであるならば、間接ではなく直接的に課税を行う方がいいということになります。
例えば資本は課税を逃れることができる。別の国に行ってしまうということであるならば、ある単独の国において、資本所得税という形で課税することができても、資本はその場合、海外に逃げる。そしてその課税を避けるでありましょう。
そうなりますと、その国における資本は減る、したがって、賃金も下がる。そして最終的には労働に対して課税の負担がかかるわけです。でも、このプロセスでは労働に対して課税しただけではありません。そこで、投資判断を歪めたことになるんです。すなわち、労働に関する課税を試みて、本来直接課税すればよかったのに所得を失ったということなのです。ですから、これを念頭に置かなければなりません。実際に課税がどう変わったのか。そして今後どう変わるかということを考えた場合、税金の名前は20年前と変わっていないかもしれないけれども、経済的に見た場合、その内実は違っている可能性がある。それを認識しなければなりません。
(6ページ)
さて、グローバリゼーションと同様に、勿論、議論の余地があるかもしれませんが、多くの国においては所得の不平等が拡大しているという状況があります。これによって多くの問題が提起されます。そして多くの国々がそれに直面しているのです。
まず、税制がこの所得の不平等に対処できるのか、今までの経験はどうなのか、税制が実際に再配分の能力を持っているのかどうかということが問題となります。
先ほど資本というものは、課税を逃れることができると申し上げました。公平の観点から見て、資本に対して課税を重くすることは問題となります。というのは、実際にこれができないからです。今まで税制の持つ再配分の能力を見ておりましても、その効果は非常に限定的であるということがわかります。それならば、その懸念に対する最善の手段は、もしかしたら歳出措置かもしれない。例えば医療に対して、ないしは教育に対して、そういった累進的な歳出措置を取る必要があるのかもしれない。
すなわち、税と歳出措置の相対的な役割を考えなければならないと思います。多くの国々では、歳出措置の方がより焦点を定めた制度でできるということがあります。ただ、1つ留意すべき点があります。多くの国においては、勤労の手当というものを考えています。例えば勤労所得税額控除というものを考えているようです。これは労働市場に関わる措置です。労働への参加を促す措置だったわけですが、でも、これは貧困軽減の措置として活用することも可能だと思うのです。すなわち、所得の不平等とみなされるものを縮小する上で使えるということです。そして、実際に非可動な要素に向けた課税というものを相殺しているということです。
2つ目の項目ですけれども、多少憶測になるのかもしれませんが、重要性は増していると考えます。
先ほど可動性についてお話しいたしました。国の間に、例えば実物投資だったり、ないしは書類上の利益だったり、常に国の間で動きがある。すなわち、必ずその動きをめぐって国同士で競争が起きているのです。国同士で可動性がないものだったとしても、国同士のやりとりは、例えば税制をシグナルとして行われてきたのです。すなわち、少なくともある一部の国においては、税制を活用してある信号を発信しているんです。企業、そして経済的な活動に対する見方を伝えようとしているわけです。
こうした側面は経済活動に実体的に影響を及ぼすものではないのですけれども、一例を挙げましょう。
御存じのとおり、東欧・中欧では、いわゆるフラットタックスというものを低い税率で導入しています。これらの国々が書類上の利益、ないし実物投資をもって法人税を低くするのはわかるのですけれども、労働は非可動であるわけですから、なぜ個人所得税を低くするのかよくわからない。とにかく税制を全般的な政策の一環として使おうとしている。それしか思い当たりません。
(7ページ)
さて、実際に今までお話しをしてみたわけですけれども、その影響はどのようなところに出てくるでしょうか。例えばグローバリゼーション、そして課税ベースの可動性が増大した結果、何が出てくるか。外部効果の強まりによる問題の典型であります。すなわち、ある国の税制は、他国の税制に今まで以上に影響力を行使し得るということがあるのです。
したがって、これも国際的な問題となります。場合によっては調整の問題が出てくるかもしれません。国によっては、税制改革で恩恵を受ける。でも、その場合、他国を犠牲にしているかもしれない。非常に低い税率を貫くことで、書類上の利益を誘致しようとするかもしれない。でも、これは他国を犠牲にする。他国が利益を失うことになるわけです。したがって、外部効果については、さまざまな議論があるようです。そもそも租税競争が外部効果によってもたらされるのか。もしもそうであるならば、租税競争はいいものなのか、悪いものなのか。国同士、税収を失うことになるから悪いのか。それとも、国が自ら、例えば歳入に対してより規律を課すという点で、租税競争はいいものなのか。そういった問題が出てくるわけです。また、協調はどういう形を取るのか。例えば情報の交換だけで十分なのか。それとも本当の意味での税率の調整が必要なのか。課税ベースについても協調、調整が必要なのか。
それに加えて、いわゆる共通の炭素課税のメカニズムをどうするのか。温室効果ガスに対処する上でどうするのか。すなわち、さまざまな協調上の問題があるのですけれども、それはさておき、あくまでも単独の国の問題として私は考えていきたいと思っております。
(8・9ページ)
それでは、背景として、これを御紹介したいと思います。
ごくごく簡単に日本の税制、ほかのG7と構造を比較したものですが、日本は右から2番目のところにあります。ここで気が付くのは、まず社会保障、地方税を含むトータルの税の負担、これが全体の棒グラフの高さですが、ほかの国から比べると低くなっております。
それから、紫の下のところ、これが法人所得に対する課税、日本はかなり大きくなっています。
それから、一般的な間接税からの税収、これは上から2番目のところ、斜めの線が対角線に入っているところです。これは相対的に低い日本の消費税の税率を反映しています。
(10・11ページ)
税制の適切な構造、これは繰り返す必要はないと思うのですけれども、まず整合的で一貫した税制改革には、それが構築しようとする税制の姿がまず必要になります。世界中を見ると、所得税に関しては4つの主要なモデルがあります。そこでまず所得税の4つの主要なモデルについて、その後、別の税制の問題についてお話しします。
(12ページ)
まず1つ目は、よく知られています包括的所得税です。これはヘイグ・サイモンズにまで遡ることができますし、シャウプ勧告などに戻ることができます。これもある意味フォーマルな形で現在日本にあります。ここは、勤労所得など全ての所得を足し上げる。そしてそれに対して累進課税を行うものであります。
これはある意味、教科書的な理想と考えられていたと申し上げていいと思います。ただ、技術的な問題があります。よく知られていることですが、例えばキャピタルゲインに関して、実現ではなくて発生するというところで課税すると問題がある。
それから、最近はっきりしてきたこと、もっと根本的な困難がここにあるということもわかっています。それは、例えばこの資本所得に対して課税しようとする時、一番高い税率を勤労所得と同じように課そうとしますと、資本所得の税率が高くなり過ぎてしまう。つまりインセンティブという意味でもそうであるし、租税回避の問題、先ほど話していた問題が出てきます。日本の場合、例えば税率を勤労所得の一番高い税率と同じ50%にしますと、好むと好まざるとにかかわらず問題に直面してしまうということで、根本的に包括的所得税には問題がある。その問題がますますはっきりしてきています。
(13ページ)
2つ目の所得税のモデルも、少なくとも教科書には出てきます。これは支出税です。この支出税は基本的に貯蓄に関する利益、これは除外します。例えば累進で行うこともできます。例えば年間の消費、勤労などに関して行うことも考えられますが、幾つか申し上げなければいけないことがあります。
まず理論的に考えて、よく言われることですが、これはすばらしい、歪みがないと言われる。というのも、貯蓄に関する意思決定が歪曲されないからです。貯蓄は、この税制に関して影響を受けない。貯蓄の後でも、負担は税金がかかる前と全く同じだからだと言われます。確かに魅力的ですけれども、気を付けなければいけません。全体的な姿を見なければいけないのです。というのも、支出税で同じだけの歳入を得ようとなると、勤労所得に対する税率を上げなければいけないので、勤労所得に関して歪みが生まれてしまいます。そうしますと、そこでの問題が更に悪化してしまう。だから、1つの歪みは改善しても、別の歪みが出てしまう。そうすると、そういうものがよいのかどうかという問題が出てくるのです。
2つ目に、消費税に関する公平性という問題が出てきます。ここでの問題は何かといいますと、基本的に恒常所得の仮定に関するものです。例えば私の1年の消費を見ていくと、所得を見るよりも全体の消費を見た方がいいのです。今年の所得というのは、例えば自分の生涯のサイクルの中で、ある一定の動きが出てくるかもしれませんけれども、消費の方が過去と将来の所得を反映しているということなので、消費に対して課税する方が年間の所得に対して課税するよりもいいということになります。すべての国がこれをやっているわけではありませんけれども、一部、この支出税を取り入れている国はあります。
例えば年金に関する貯蓄についての課税、これはある意味支出税ベースのものだと考えることができます。場合によっては寛大な国もあります。例えば日本もそうだと思います。
それから、VATによる影響、これはある意味VATは支出税、フラットだと言えると思います。累進ではなく、フラットな形での支出税が消費税であるということも言えます。
(14ページ)
3つ目は、とても興味深いもので、過去数年出てきました、二元的所得税であります。これは、どういう形で行われるかというと、勤労所得は累進的に課税する。しかし、資本所得は少し相対的に低いフラットレートで課税して、これらを組み合わせるものであります。つまり支出税までには動きたくない、しかし、包括的所得税にまでいかない。勤労と資本を別々にということであります。
なぜこういうことが出てきたかというと、まず資本所得に関しての所得税の難しさという問題があったからです。ただ、ここで覚えておかなければいけないのは、単一の税率を採択した北欧諸国は、社会の目標として公平に関して非常に懸念を持っていたのです。累進課税を資本所得に対して課すことの問題は、資本に対して非常に高い限界税率で課税することになり、資本がフラットな課税をしている国に移ってしまうということが起きる。そうすると、歳入がなくなってしまうだろうということです。一方で、勤労所得についてはより高い率で所得控除を得ることができ、税率の低い資本所得で税を払うことができるという問題もあると考えられます。
なぜこの方向に行ったかというと、非累進的な形、ある意味こちらの方が理論的に累進的であるかもしれないということが考えられたからです。
(15ページ)
北欧諸国などを見ていただくとわかるかもしれませんけれども、資本所得に対する税率はそんなに低くないのです。20%とかもう少し高い税率になっています。勤労所得に対する一番高い税率は、例えばノルウェーは48%というのがあるので、この2つの課税にはギャップがあります。しかし、資本所得への課税はそんなに軽微なものではありません。
(16ページ)
多くの国では、理論的には、包括的な所得税というものを持っています。しかし、二元的所得税に近い側面を持っていることもあります。ただ、資本所得に対する課税には難しい問題があるので、利子、配当、といったものに関して特別なスキームを、最終的に日本などのように源泉所得という形で低い税率を適用していることもあります。
ですから、多くの国が既にやっているものと違うと考えてはいけません。名前は違っても、かなり似ているものをやっているのです。ただ、北欧諸国がこの二元的所得税で経験している問題は、自営業に対する課税であります。どのぐらい自分たちに支払うのか。家族に対して支払うのか。それに関しては、資本所得を容易に労働所得に付け替えることができる。それに対してどのように課税しているかということでありますけれども、収益を資本に帰属させた上で、残余を労働所得として課税するアプローチが使われています。これは確かに複雑であります。しかし、ここにかなりの注意が払われています。
(17ページ)
4つ目のデザインでありますけれども、これはフラットタックスです。このフラットタックス、我々は多くの国で観察しておりますけれども、ラブシュカのフラットタックス、これは基本的には支出税でありまして、フラットタックスというところのフラットタックスではないのです。フラットタックッスというのは、幾つかの控除を超える勤労所得に対する正の単一税率であります。例えば法人税率を勤労所得と同じにするところもあるし、そうでない国もあります。どうやって資本所得を扱うかというのは、国によって違う。ですから、これは国によっていろいろ違うのです。
(18ページ)
この表はもう少し古くなってしまいましたが、モンゴルとか、マケドニアとかこれにもっと加わった国もあります。チェコもフラットタックスを検討しています。一番上が一番最初に導入されたものです。ロシアの改革は2001年であります。
初期のフラットタックスは、税率がそんなに低くありませんでした。ロシアのフラットタックスは13%、これが随分注意を引くようになったのです。というのも、非常に税率が低くて、この税の導入の後、かなりの減税が高所得者に対して適用されました。そして個人所得税からの税収が上がったのです。だから、すばらしいと考えられたのです。これは減税したのにもかかわらず歳入が上がったということで随分注意を引きました。
(19ページ)
ここから学ぶフラットタックスからの教訓は何でしょうか。
まず1つは、減税の効果からフラット化による効果を抜き出すのが非常に困難だということであります。というのも、こういったものは2つのものが組み合わさっていたからです。フラットタックスは簡素に見えるかもしれないけれども、利点が限定的です。ほとんどの国の税制を見てきますと、複雑でありまして、フラットタックスはたった1つの変更点しかない。それは税率構造が直線的になっただけです。1つ変わったからといってそんなに簡素になったわけではないのです。減税もそんなに大きなことにならないで、そんなに大きな変化が生まれていない。複雑なもの、例えば控除ですとか、そういったものは残って、税率に関する変化しかなかったのです。
しかし、実際には幾つかのフラットタックスを導入した国は、控除を減少させる機会として利用してきました。スロバキアもそうです。ロシアもそうです。この低い単一税率のフラットタックスを使う。しかし、その代わりにみんなに税制優遇策をあきらめさせると考えたのです。ある意味で課税ベースをクリーンアップする。そのための手段として使われました。
それに対して、どのような形での対応があったか。ロシアを見てみました。フラットタックスに関しては、実際の家庭のデータを使ったのはロシアだけであります。ロシアに関しては、それぞれの世帯の調査がありまして、パネルデータ、つまり改革の前と後を比較することができたのです。
技術的にロシアの改革の性質を見てみますと、例えば本当に教科書的な実験をしたいというのであれば、これが理想的だったのです。もし話を聞きたいという方があれば、お話ししたいと思いますけれども、とてもよいデータがあります。全く同じ人たちの挙動を見ているのです。改革の前と後で、何か大きな変化の証左があったか。つまりたくさん働いたか、所得が増えたか。しかし、その結果を見てみますと、答えはノーであります。
どんな証左が出たかということなのですけれども、コンプライアンスは改善された可能性があります。確かに所得をかなりの高い率で申告しているという証左が出ています。
ただ、技術的にいろいろなことを見ていかなければいけません。データに関しては、多少の困難があります。しかしながら、特別にサプライサイドの効果はない。コンプライアンスは改善された可能性がありますが、フラットタックスによる減収分は保証されていません。ロシアには同時期にエネルギー価格の上昇などといったいろいろなことが起こりましたので、個人所得税の歳入がこれだけよかったのは、ほかの理由によるものです。
このような4つのモデルが所得税の分野で出てきたわけです。
(20ページ)
次にその他の税制の役割について考えたいと思います。非常に大きなテーマとなるのは、直接税と間接税のバランスをいかにとるかということでしょう。現実に見た場合、VAT、付加価値税の果たす役割でしょう。実際にOECD諸国においては、付加価値税は平均して17.5%の標準税率を課しているようです。日本では5%です。税収はGDPの7.5%、日本ではそれより少ない。そしてVATはその重要性を増大しているということです。
(21ページ)
そしてVATの果たす役割、これは恐らく日本の税制の中で非常に特異な側面を持っていると思います。
なぜそうなのか。日本は非常に優れた、よくデザインされた付加価値税制を持っておられるのです。それは単一税率です。これには多くの恩恵があります。それについてはまた後ほど触れたいと思います。
また、通常私どもがIMFやOECDで使っている基準として、VATのもたらす効果をはかる上で、C効率性(C-efficiency)というものを使っています。すべての消費に対して単一税率で課税した場合は100%なのですが、日本は他国と比べて非常に高い数字となっています。一番高いのがニュージーランドで95%となっています。したがって、まさにニュージーランドはこの側面から見れば理想的なVATとなっているわけです。日本はニュージーランドよりも低くなっておりますが、でも明らかに日本はよくデザインされた付加価値税制を持っている国の1つとなっています。それでは、VATとその他の税とのバランスをどう実現したらいいのか。
(22ページ)
まずVATとその他の税との同等性を考えなければなりません。VATというのは、賃金所得及び蓄積された資産に対する課税と同等なのです。なぜか。まずVATというのは、実際にお金をどう利用するかに関連するものです。これは言うなれば、どこからお金を得ているかにも関連するわけです。さらに、消費は賃金から得る、そして蓄積された資産から得るものですから、結局同等であるということになるのです。
それならば、賃金に対する課税と付加価値税の適切なバランスを、どう実現したらいいのでしょう。まずこれは行政にとっての課題となります。もし定性的に見てこれらが同等であるならば、行政にとっての課題となります。
この2つの適切なバランスは、コンプライアンスリスクに関わるバランスにも関連するわけです。例えばVATを導入したい理由の一部は、ある特定のグループにはなかなか課税できないからです。自営業かもしれない。賃金に対しても所得に対してもなかなか課税できない。それならVATで課税するという考え方ができます。これも行政的、そしてコンプライアンス的な視点からの考え方だと思います。
もう一つの意味合いは、実際にVATがもたらす配分上の影響に関連するものです。VATの持つ均等的な効果というのは、賃金所得に対する単一税と同じような影響を持つことになります。また、それと同時に過去の貯蓄に対する偶発的な税と同じであるということです。このモデルの中では、実際にVATに移行する上で、このような恩恵が得られることが示されております。というのは、過去の貯蓄に対して偶発的な税ができるわけです。そうなると、世代間の均等がどうなるか。今後の医療、年金をだれが負担するのかという問題にもつながってくるわけです。
(23ページ)
次に相続税及び贈与税について少し触れたいと思います。
相続税及び贈与税も資本所得課税と同じ課題の多くに直面しています。これは、やはり可動性が増しているからです。実際、さまざまな控除によって浸食されていることがわかります。例えば家庭でやっている事業、土地に関わる控除、これらの控除はなかなか政治的に克服できないものとなっております。
しかしながら、控除というものは実際により裕福な所得を持つ人々に対しての免税措置的なものになっているわけです。したがって、場合によっては相続及び贈与税を非常に重くしている国があるのです。
今後、恐らく可能性としては、好むと好まざると、この問題に関する困難さは更に増していくと思います。
資産税はどうでしょうか。多くの国において資産税に目を向けています。これはある意味では便益に対する税だと、すなわち、非可動的なものに対する課税であるとみなされています。ある特定のエリアに住む、そして仕事をする上でかかる税金です。したがって、便益に対する課税として、もしも機能するのであるならば可動性の問題は避けられます。あくまでも特定の地域におけるものに対する課税となるからです。資産税は日本においては他の国と比べてもより税収源として重要でありました。恐らく他国も目を向けていると思います。
ただ、幾つかの例外を除いて、資産税のもたらす歳入面でのプラス効果はある程度限定されております。
(24・25ページ)
それでは、3つ目の項目に移りたいと思います。競争力と成長のための税制改革ということでお話したいと思います。
まずこういった問題を提起する上では、当然のことで、そして適切だと思うのですけれども、法人所得税に焦点が当たってしまうと思います。ですから、是非そうしたいと思います。
ただ、ここで重要なのは、成長・競争力の問題に関して、法人所得税だけが唯一の問題ではないということです。今まで課税が成長にどのように影響するか、どのような証拠があるか、さまざまな文献を見ておりますと、現状については明確な答えはありません。確かに研究は活発に行われているのですが、記録を見ても、実は直接結論づけられるほどのものがないのです。
ただ、例外はあります。しっかりした結果が出ている分野が1つあります。すなわち、国というのは、所得課税よりも消費課税への依存が大きければ大きいほど成長が早いという証拠があります。勿論、いろいろな意味合いがあるのですけれども、証拠を見る限り消費課税への依存が大きければ大きいほど、今までの経験から言うと成長がより早いとうことが裏づけられております。ですから、法人所得税のデザインだけではなく、より全般的に見て、さまざまな税目の組み合わせということを考えるべきではないかと思います。
そう申し上げた上で、法人所得税について触れたいと思います。ご存知のとおり、法人所得税はこの何年間かで大幅に下がってきました。これは恐らく国同士の租税競争があったからでありましょう。OECD諸国を見た場合、法人所得税、2005年の単純平均は27%でした。20年前は41%でした。41%から27%に下がったことになります。
IMFにとって関心があるのは、これはOECDだけの現象ではないということです。全世界的に法定税率が下がっているということなのです。
(26ページ)
法定税率をG7で見た場合どうなるか。青いところが90年、そしてもう一つが2005年のものです。
日本の数字は、90年代後半の引下げを反映したものとなっておりますが、日本の場合は相対的に見ると高い法人税率となっています。今度、ドイツが連邦税を30%に引き下げれば、更に日本の高さが顕在化すると思います。
さて、誤解があるかもしれないので、ちょっと横に逸れますが申し上げたいと思います。法人所得税で得られる歳入ということですけれども、法定税率は下がった、でも税収はどうなったか。OECD諸国においては、法人所得税の税収は下がっていないのです。どうしてか。まず国々が課税ベースを拡大したからでありましょう。減税しながら課税ベースを拡大したのです。でも、これだけでは説明できません。それ以外の動きがあった可能性もあります。
例えば対GDP比で見た場合、利益の比率が高まったのかもしれません。特に金融セクターは、英国において法人所得税収に大幅に貢献しています。他国でもそうなのかもしれません。また、そのほかの要因としては、法人所得というものが、よりボラティリティを高めている。そしてリスキーとなっている。そして利益に対して課税しない。ロスに対しては何も措置しない。そうなると利益のボラティリティによって税収は増えるということなのです。結局のところ、法人所得税がどうしてこれだけきちんと維持できたのかよくわかりません。
更に申し上げますと、IMFから見た場合、OECD諸国においては、確かに法人所得税はずっと維持されています。でも、他国はどうなのかわかりません。他国の場合、法人所得税のもたらす税収というものは、競争の結果、そんなに上昇していないということなのかもしれません。いずれにしても、法人所得税のデザインに話を戻したいと思います。
(27ページ)
法人所得税のデザイン、そして成長のための投資にどう影響するかを考えた場合、まず考えなければならないのは、より厳密に法人所得課税制度についてきちんと捉えなければならないということです。2つの側面があります。まず平均実効税率、そして限界実効税率です。これはそれぞれ全く異なるものです。しかも、異なった方向性に向かうことがあります。例えば下限率を下げるとか、平均率を下げるとか、いろいろな方向性がありますので、それについて少し触れたいと思います。
まず、平均実効税率でありますけれども、あるプロジェクトのライフサイクルで、税収として得ることができた収入ということであります。すなわち、そのプロジェクトのサイクルの間、収入の中で何%を税収として受けることができたか。そういったことに関連するのです。
これは、企業がどこに投資するかを決定する上で、非常に大きな数字となります。例えば日本、ドイツ、イギリス、アメリカのどこに投資するのか。それを考える上で、企業が税制を見た場合、平均税率が重要なのです。
これは、全部とは言いませんけれども、概して法定税率に依存するわけです。したがって、法定税率は少なくとも企業がどこに投資するかということにおいて、非常に大きな影響を及ぼすものとなるわけです。
また、法定税率がそれ自体重要なのは、法定税率は租税回避において非常に大きな意味を持っているためです。例えば地域間で移転価格をやる、ないしは金融商品を使って、税格差の裁定をやる場合、重要なのはやはり法定税率ということになるのです。
したがって、法定税率が相対的に高いということであれば、恐らく平均税率も高いであろうと。そうなると、移転価格、そして利益の移転に対する脆弱性も高まることになります。
(28ページ)
もう一つ重要なのは、限界実効税率です。これは、新たな追加的投資にどの程度の税率がかかるかということに関連いたします。
まず、限界実効税率は、例えばどの程度投資をするかということに影響すると考えられます。例えば平均実効税率においてどこに投資するか、そして限界実効税率で、どのぐらい投資するかということが決まってくるわけです。限界実効税率は、実は法定税率だけではありません。さまざまな控除ですとか、償却、そして投資に対する免除、そういったことが関連してきます。ですから、限界実効税率が低い制度であるならば、これは控除が非常に寛大であるからでありましょう。他方で、法定税率が高いのであるならば、平均実効税率は高いということになります。そうなりますと、投資に対しては妨げとなる。そして移転価格上の問題につながるわけです。
日本では、依然として限界実効税率は高いのですけれども、しかしながら、法定税率ほどは高くないという状況にあります。
ディスカッションの中で是非取り上げたいと思っておりますが、日本における課税ベース拡大の余地は、実は相対的には小さいのではないかと思うのです。したがって、法人所得税のデザインを考える場合、確かに法定税率は重要であります。
もう一つ考えなければならないのは、課税ベースの定義、そして金融商品の取扱い、そういったものも大変重要であるということです。そして、実際に平均実効税率、限界実効税率の組み合わせでいろいろと動く余地があるということです。もし時間があれば、後ほどこれについて更に掘り下げたいと思っております。
(29ページ)
では、法人所得税をめぐる、そのほかの最近の課題について触れたいと思います。
租税競争は明らかに出てきております。実際に法人所得税が引き下げられておりまして、租税競争の影響が見られます。また、学術的に見ても長期的に重要なのは、租税競争が実は税率引下げとは違った形での法人所得税の競争という形に変化しているという点です。
1つの例を挙げましょう。ベルギーであるシステムが導入されました。皆様御存じだと思いますが、これは企業資本に対する控除(ACE(Allowance on Corporate Equity))というものです。ここでは、ただ単に利払いに関して控除が得られるだけではなく、エクイティに対する純粋な利益に対しても課税を避けることができるわけです。したがって、デット、そしてエクイティのコストが控除されることになります。
これによって、デットとエクイティ間の移転のゲームというものはできなくなる。というのは、デッドもエクイティも税制上全く同じ扱いをするからです。これは、つい最近ベルギーが導入したものです。ただ、これは同じようなクロアチアにおける税制の実験と関連しているわけです。クロアチアは何年にもわたってこれを実行いたしました。イタリアも長年にわたって同じようなものを持っています。ブラジルは、今、企業資本に対する控除なども設けております。したがって、このような方法を持って対処することができる。国々も大変関心を寄せているようです。これよって、いわゆるエクイティ、デットのゲームを避けることができるわけです。
あともう一つの実験であります。これはエストニアの法人税です。これは実際法人税ではないのです。エストニアは配当のみに課税しています。配当だけなのです。だから、法人税ではありません。これはEUのルールに関して論争を呼んでおります。しかしながら、そういった懸念をわきに置けば、これも多少魅力的です。ミードレポート、覚えてらっしゃるかもしれませんが、キャッシュフロー法人税の議論をしています。Sベースキャッシュフロー法人税というのがありました。この法人税はネットの配当であって、支払配当マイナス新規の株式ということです。ただし、エストニアのものは新株に関しては考慮していません。エストニアは、ある意味このSベースキャッシュフロー法人税だと言えるかもしれません。
エコノミストは、これを魅力的だと言っています。法人税に関しては、こういった発展があるわけです。両方の実験とも、法人所得税を純粋な利益に対する課税に近づけるものであります。エクイティだけではなくて、デットに対する利益に課税するものであります。
これは、見方としては法人税がやろうとしていることとはかなり異なります。しかしながら、学会は長い間これに興味を持っておりました。これまでのところ、こういった国々は推奨に値するだけの幾つかのメリットがあると考えているのです。
これは少し推測になりますけれども、もしかしたら潜在的なリンクが法人税とVATの間にあるかもしれません。というのも、VATはどういうものかということを見ますと、VATは基本的にキャッシュフローの利益プラス賃金に対する課税です。ですから、VATの中に既にキャッシュフロー、法人所得税が入っていると考えることが可能なのです。もう既にキャッシュフローの法人所得税がVATの中に含まれている。将来を考えると、このような間接的な法人税を、我々が現実に法人税と呼んでいるものとどう関係づけるかということがあります。勿論、例えば輸出時のVAT還付など、いろいろな取扱いがあるのですけれども、VATと法人税の間のリンクは現在よりも注意を向けてしかるべき問題だと考えています。
あと一つ、法人税に関する実験をお話ししたいと思います。これは数か国で行われています。特にドイツ、デンマーク、あと違うやり方でカナダでも行われている実験ですけれども、こういった国は基本的に課税ベースを拡大しようとした。そして、利子の控除に関して、より厳しくしようとした。つまり企業が利子を控除するのをより困難にしたのです。
つまり、利子の控除に関して制限を加えることによって租税回避のリスクを下げようとした。これはどうなるかというのは、余りはっきりしておりません。例えばベルギーのシステム、エストニアのシステムに比べると、どちらかというと根本的な対応というよりは、絆創膏を貼っているだけのように見えます。しかしながら、潜在的には面白い動きであります。
最後に、法人所得税における研究開発税制についてです。これは多くの国で課題となっています。このR&Dに関しては税制上のインセンティブを導入しろという、大きな圧力があるからです。証左を見るとどうなっているか。こういった税のインセンティブは、確かに研究開発を促進している結果は出ている。しかしながら、こういったR&Dは本当に社会的に利益につながるのかという問題があります。というのも、R&Dは基本的には外部性に関しての話でなければいけないのです。つまり企業が研究開発を行うのを奨励したい。それはなぜかというと、もし成功すれば彼らはすべての便益を、自分たちだけではなく、ほかの経済に対しても外部的な形でいい影響を与えるからだと考えられているからです。したがって、最終的に社会的利益が出ているのかどうかということが政策的に重要な問題となります。
そうすると、ここでほかの問題、つまり税制または歳出措置はどの程度有効なのかという問題も関連してきます。本当に研究開発を促進したい。つまり、社会的メリットがあるものを促進したいということであれば、もっと標的を絞った歳出、例えば大学に対するものとか、そういった方がいいのではないかと考えられる。税制上のインセンティブというのは、ある意味ぶっきら棒なものです。例えば、新しい企業に対して、つまり、そもそも課税ベースのないような企業、所得のないところには全くメリットがない。そして、実際にこれを活用しているところが、必ずしも社会的メリットをつくり出していないかもしれない。どのぐらい適切なリターンを、社会的リターンを出しているかという問題もあるからです。
(30ページ)
ごくごく簡単になりますが、1つ、今、多くの国で台頭している問題、ますます懸念を持たれている問題として言えるのが、エネルギー課税であります。多くの国々は、エネルギー租税制度を導入していますが、それは全く透明性がない形で構築されている。つまり、そもそもの政策の目標が明解ではない。ネットのインパクトがどういうものであるか、はっきりしていないものがあります。
1つ言えるのが、多くの国々で、これから問題になってくるのは石油課税だということです。これは再検討を要し得ると考えております。石油課税は多くの国でいろいろな目的のために導入されています。例えば道路の財源というのもありますし、渋滞あるいは交通事故、炭素排出の抑制というのもあります。
いろいろな多くの目的に役立つと言っていますが、しかしながら再検討をしなければいけません。適切なレベルかどうかということであります。米国と英国という2つの国で行われた調査では、石油課税をこういったさまざまな機能に照らして見ているのですが、それぞれ高すぎるとか、低すぎるという実証結果が出ています。結語として、はっきり言えるのが、米国では低すぎる、英国では高すぎるということです。ですから、将来、石油課税は再検討しなければなりません。
この石油課税に関して最後に1点申し上げます。いろいろな目的を考えて導入されたわけですが、それから技術の発展の状況を見ますと、これから先数年間、アンバンドリング、こうした目的ごとに分解することが考えられます。つまり、渋滞対策に関しては、更に洗練された渋滞に対する課金をするとか、炭素排出の対策として、最終的には現在よりも石油課税を下げるということもあると思います。
この石油課税ですけれども、歳入をただ伸ばすというよりも、ともかくCO2の排出、ここに焦点を当てるというふうに考えていく、そういうことが出てくると思っております。
以上、設計、デザインとしては幾つか重要な鍵となるところを申し上げました。
(31ページ)
最後に結語です。
(32ページ)
まず1つ、世界中で税制には圧力がかかっている。世界が非常に急激に変わっているので、何とかそれに対応しようとしているという状況であります。いろいろな課題を申し上げました。これは多くの国で共通の課題であると考えています。
ただ、はっきりしているのは、解決策は国によって違うだろうということです。行政の構造によっても違ってくる、文化的な伝統によって違ってくる。どの程度までその国が天然資源を持っているかによっても異なる、また、どの程度金融市場が高度化しているかによって違う。国のそれぞれの特徴によって解決策は各国それぞれであろうということです。
その文脈でいうと、いろいろなデザインがあり、所得税などに関して、いろいろな実験が行われている。法人税などに関しても最終的にこれが1つのデザインとなるか、収斂するかどうかということは、まだはっきりしていません。
この文脈でもう一つ言えるのは、日本はほかの多く先進国と同様に多くの課題に直面しています。
しかし、幾つか有利性も持っていると思っております。まず1つは、小さいことに見えるかもしれませんが、島国であるということです。これは間接税を助けることになり得るのです。国境が接している国のように密輸ですとか、国境を越えての輸送の心配をしなくても済むということであります。
それから、消費税は多くの長所を持っています。所得税と比べた場合、資本所得に関しての取扱い、簡便性ということを見た場合でも、多くの長所を持っています。将来の改革をそこに基づいてやっていくだけの長所を持っています。
それでは、香西会長、メンバーの委員の方々、ありがとうございました。御清聴ありがとうございました。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。まさにグローバル化する経済における税制に課せられたチャレンジとは何かということで、非常に適切な議論をしていただいたと思います。
これから吉川先生にコメントをいただきます。いろいろな点で我々は参考になりましたけれども、特に3つ目の話題のコンペティティブネスとグロース、競争と成長のために税制改革はどういう意義があるかというところも含めて、これから議論があると思いますけれども、いろいろ示唆に富んだ御指摘をいただいたと思います。
吉川さんの方から、これからの議論を活発にしてもらうということも含めて、10分程度コメントをいただきます。
〇吉川委員
ありがとうございます。ここにおられる多くの皆様は日本人であられます。私も日本人でございますが、国際会議ということもございますし、そしてキーンさんも、IMFからお越しの皆様も、大変グローバリゼーションを正しく御指摘いただいたと思いますので、英語で発言することをお許しいただければと存じます。
まず、最初に今回のキーンさんのプレゼンテーションが大変内容が豊富で、そして示唆に富んだものだったということについて御礼を申し上げたいと思います。多くのことを学ぶことができました。
まず最初に申し上げたいのは、日本にいる者としても、グローバリゼーション、そしてグローバリズムの持つ意味を十分実感しているということです。
つい数日前のことでした。既にIMFの皆様は日本におられたかもしれませんが、多くの日本企業が決算発表を行っています。
私はキッコーマンの決算発表で大変驚きました。醤油の最大手の企業なのですけれども、醤油というのは、日本にとって大変重要な調味料であり、まさに日本の伝統的な調味料である。ところが、その会社で、初めて海外における利益が、いまや国内における収益を上回ったということをおっしゃったのです。大変強い印象を受けました。まさに、これはグローバリズムを表わす動きではないかと思います。
また、日本はいまや世界で最大の対外資産を保有している国となっています。そして、実際に対外資産によって得られる利益は、いまや貿易黒字を上回るところまでいっているのです。ですので、これもグローバリズムの一端でありましょう。したがって、グローバリズムの重要性は重々承知しています。
ただ、日本における最大の懸念は何かと言えば、やはり高齢化です。人口自体は減っている。そして労働人口も縮小しつつあります。たしか労働人口は、年々0.6%減ってきていると言われております。
そうなりますと、日本の潜在的な成長力が今後の懸念となります。人口が減少しているかもしれませんが、技術革新、そして資本の蓄積によって、私を含む多くのエコノミストは、日本の潜在的な成長率は2.0%になるだろうと予測しています。
本日、内閣府が今年の第1四半期の成長率の発表を行っているはずです。2006年度、すなわち前年度はちょうど3月の発表が終わったばかりですが、ここでは日本は1.9%の実質成長を遂げたということが指摘されています。
ですので、潜在成長率にほぼ匹敵する実質成長を得たわけです。いずれにしても、今申し上げたとおり、労働人口が減っている点が私どもの懸念です。でも資本の蓄積、そして技術的な革新があるということがあります。
さて、法人所得税でありますけれども、法人所得税について議論する場合に、皆様、恐らく有形資産に対する課税を考えがちだと思います。これも資本の蓄積になるわけですが、技術革新も重要です。また、人的資本に基づいた知識というものも財産としてあります。したがって、キーンさんは資源の可動性、モビリティーについて言及されました。また、人的資本も潜在的には可動なものであると思われます。
ただ、日本ではそうではないかもしれません。最後にこうおっしゃいました、日本は島国だ。そして、非常に強く根づいた文化的な風土があると。そうなりますと、日本においての可動性は、多くの欧州諸国と比べて、さほどではないのかもしれません。とは言うものの、潜在的に見た場合、人的資本の可動性にいずれ直面するだろうとも思います。
このような中で、高齢化も懸念となっています。また、格差の問題が出てきています。これも高齢化に密接に関連しています。OECDの報告書によりますと、少なくとも私が読んだ限りにおいては、特に高齢者や年配者におけるジニ係数を見た場合、多くの国では若者とそんなに大きな違いは見られません。
ところが、日本は、こういった意味では非常に特徴があります。というのは、日本においては年配者、高齢者におけるジニ係数というのが若者の間のジニ係数を大幅に上回っているのです。したがって、高齢化が進みますと、いわゆる格差が更に拡大するという状況になっています。大竹先生、そしてその他の方々も同じような結論を導き出しておられます。これはグローバルに適用されるルールではないかもしれません。でも、少なくとも日本においては、高齢化が進み、格差は更に拡大するという状況にあります。ご存知かもしれませんが、現在、日本では非常に深刻な格差に関わる議論を行っております。
当然のことながら、社会保障というものがこのような格差に対抗する上で大変重要なものとなります。しかし、社会保障は多くのお金を食う機械のようなものです。そして財政赤字問題を抱えておりますし、財政再建が政府にとっても非常に重要なテーマとなっています。
財政再建ですが、これは社会保障制度と非常に密接に関連しています。少なくとも日本ではそうです。
まとめとして、高齢化、人口動態の変化、これが日本にとって何よりも最大の懸念となっています。人口が減少している局面において、まずは適切な成長率を何とかキープしたい。そして国際的な競争力も何とか維持したいと考えています。その重要性を重々認識しています。それと同時に格差問題も非常に大きな懸念事であるということです。
以上です。ありがとうございました。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。日本は高齢化と同時に公平の問題、2つの問題を抱えて、今日の議題である税制も考えていかなければいけないという御指摘であったと思います。
ここからは、私の方から意見を誘導するということは余りしないで、せっかくの機会ですから、どのような点からでも御自由に発言していただいて、意見が少しまとまってくるようでしたら、その点に少し焦点を当てて議論していきたいと思います。
だれでも結構ですから、いつものとおり、御遠慮なく手を挙げてください。
では、幾つかまとめて質問していただいて、吉村さんと土居さんと佐藤さんまで、お願いします。
〇吉村専門委員
プレゼンテーションを感謝いたします。グローバル化する経済においては、競争力が非常に重要なテーマとなっております。しかしながら政治家は、競争政策を違った形で受け止めているようです。例えば政治家は特別な措置をもって国内の投資を保護しようということをいたします。すなわち雇用の創出をしようとする。これは有権者向けのものだと思います。
そこでお尋ねしたいのですけれども、エコノミストの皆さんは、そのような政策についてどう評価されますか。政治的な圧力にどういうふうに対処したらいいのでしょうか。私はエコノミストではないので、御意見をいただければ幸いです。
〇田近部会長
質問を3つぐらいまとめてお願いします。
〇土居専門委員
御発表ありがとうございました。
1つ質問です。法人所得税を消費税へとシフトさせるということ、これは国際的な傾向だと考えます。例えばドイツ、シンガポールは税制改革を実施しましたけれども、法人所得税を下げ、そしてVATの引上げということを行っています。
日本は、このような税制改革を行うべきだと考えますが、政治的な障壁が日本にはあります。多くの日本の消費者たちは、そのような税制改革には反対の傾向があります。多くの日本の消費者たちは、企業だけが法人所得税の負担をし、消費者だけがVAT、つまり消費税の負担をすると考える傾向があるのです。
これは、通常、正しくないと考えています。経済分析、税の帰着ということに関しては、消費者も、それから企業のステークホルダーも法人所得税を負担していると考えています。ですので、誤解を払拭しなければいけないと思います。つまり、消費者もステークホルダーも両方とも負担しているのだということで、誤解を払拭しなければいけないと思うのですけれども、この問題を解決するためには、どのような策を取ればいいということを御提案なさいますか。
〇佐藤専門委員
包括的な御説明に感謝いたします。また、プレゼンテーションに感謝いたします。
2つ大きな質問をさせていただきたいと思います。そして社会保障負担についてお尋ねいたします。
土居先生も、今おっしゃいましたけれども、今、考えているのは、日本では政治的にタブーとなっている消費税の引上げということであります。国民からも、そして消費者団体からも大いなる反対が寄せられています。
おっしゃったとおり、日本における消費税は確かにうまくいっている。なぜかと言えば、税率が低いからだと思います。5%だけですからね。でも、例えば消費税を10%まで引き上げた場合どうなるか。その際は、複数税率を考えるべきでありましょう。
例えば必需品、食品についてより低い税率、ないしはGSTクレジットも必要になるのかもしれません。そのようなスキームについてはどうですか。VATにおいては、ある特定の平等というものを得るために、どう対処したらいいのでしょうか。例えばIMFは、VATの複数税率については反対していると聞いておりますけれども、どうでしょうか。
また、社会保険料の拠出ですが、今日は税制ということでお話をいただいたわけでございますが、社会保険料の拠出、これも実は労働に対する課税だと思います。労働コストも増大する。企業にとって労働コストの増大は非常に大きな負担となっています。こうした社会保険料の拠出にどう対処したらいいのでしょうか。これは個人所得税に完璧に組み込んだ方がいいのか、それとも例えば年金、医療というものは、例えば消費税、VATで賄った方がいいのでしょうか。世代間の平等を考えた場合、どちらがいいのでしょうか。
まず、ACE、すなわち企業資本に対する控除ということなのですけれども、確かにこれは二重課税を避けれる上ではいいのかもしれません。そしてエクイティ、デットファイナンスの歪みを避ける意味では、企業資本に対する控除はいいのかもしれません。でも、キャッシュフロー課税というのは、課税ベースが狭いですね。IMFは通常、課税ベースの拡大を主張しておられます。でも、ACEへの移行は課税ベースの拡大とは逆行するものだと思うのです。それについてのコメントもいただければと思います。
以上です。
〇田近部会長
いずれも重要な御指摘だと思いますけれども、では、キーンさん、お願いします。
〇マイケル・キーン課長
御質問感謝いたします。非常に重要な御質問をいただいたと思います。
まず、最初の質問から始めましょう。政府が何か特別なスキームを奨励する。そういったような趣旨のお話だったと思うのです。そのように私は理解いたしました。ターゲットを設定した課税スキームの場合、常にリスクが出てきます。特別な目的に沿った形での課税、特別のグループに対する課税である場合、どんなによい意図を持ったものだったとしても、租税回避、税に関わるゲーム、そういったものが出てきてしまうことがあります。税金を払わない人々が出てくる。例えばスタートアップ企業なども、税金を払わない企業などが出てくるでしょう。ですので、通常、歳出措置の方がよりよくコントロールできる。よりターゲットを設定できると思います。
もしかしたら、御質問の趣旨を理解していなかったのかもしれませんが。
〇吉村専門委員
海外から投資を誘致するということもそうなのですけれども、やはり有権者の雇用創出を図りたいというのが政治家の願いであると思います。
〇マイケル・キーン課長
そうですね。おっしゃるとおり税制を設定する上で重要なのは、雇用創出に即応するような形でのスキームをもたらすような投資をいかに誘致するか、それは確かに重要な要素だと思います。だからこそ、国同士の租税競争が起きているわけです。すなわち、そのような海外からの投資を誘致しようとしていることが背景にあります。
2つほどあります。まず、特定の業界、特定のセクター、特定の地域にターゲットを設定したスキームの場合、これはやはり歪みをもたらします。そして、歳出ロスにつながる、歳入が減る。歳出自体も非効率になり得ます。FDIを誘致しようと思った場合、例えばインセンティブですとか、そういったものが税制全体で必要となる。そうなりますと、実は先ほど説明しなかったことですけれども、国同士の協調をどうするかということにつながってきます。
例えば、ある国において雇用の創出が起きている、でもそれは他国の雇用を奪う形で創出されたものである。そうならば、潜在的な調整の可能性があるというふうに主張することもできます。でも、これは議論を呼ぶでしょう。というのは、人によってはそうではない。逆にこのような状況はいいのだと、国同士が競争することは大変結構だと、優れた優遇措置を導入して、企業を誘致するのは結構なことだと、政府はそんなに歳出を増やさなくて済むということです。ですので、まさに神学論争になってしまうのです。ですので、この点については、残念ながらそんなに証拠というものはありません。
さて、2つ目、3つ目といろいろな御質問をいただきました。
2つの懸念の間に、いろいろな関係が見られます。まず、法人所得税のVATへのシフトなのですが、確かに税率面では、そのような動きが見られます。しかし法人所得税というのは、そんなに変わっていない。少なくとも、法人所得税収自体は下がっていないということです。税率そのものが下がったとしても収入が減っているわけではないのです。
また、2つの税率、すなわち法人所得税は株主にかかるもの、VATは消費者にかかるもの、そういった見方を間違っているというふうにおっしゃったわけです。VATは確かに、実は一部法人所得税なのです。VAT自体法人所得税でもあるのです。ですので、本当の法人所得税と同じようなものだと受け止めるべきです。ですので、おっしゃったとおりだと思います。これをどうやって国民に説明したらいいのか、実は皆さんから逆に知恵をいただければと、私は思っておりました。
ちょっと付け加えますと、幾つかの国々は、日本における控除方式のVATを持っているのです。すなわち企業税というものです。ビジネス・タックスと呼んでいるから企業税だと皆さん思いがちですけれども、これは実はVATなのです。ですので、啓蒙する以外に、どうやったら人々の見方を変えることができるのか、私はちょっと思いつきません。でも、これはパーセプションへの対処、すなわち単一税率のVATは、逆進的な税金であるというパーセプションをどう変えることができるのか、という問題にはつながってくると思います。
更に何点か申し上げますと、日本における消費税がうまくいったのは税率が低かったからというふうに言うことができると思います。でも、勿論詳細に検討したわけではないのですが、多くの国と比べて課税ベースは非常に広いということが言えます。例えば英国と比べてもそうです。場合によっては実は消費支出の30%が控除されているのがイギリスです。ですので、日本の場合は純粋に課税ベースが非常に広いということが1つありました。
また、おっしゃったとおり、もしも税率が上昇した場合どうなるか。政治的には問題が出てくるかもしれません。技術的には問題はないかもしれませんが。予想されたとおり、VATの税率引下げを考える上では、非常に慎重に考えなければなりません。例えば公平を追及する、それでいいと思いがちですけれども、慎重にならざるを得ません。まず、VATよりも、要するにほかの手段で所得の低い人々に向けた措置を取るべきであるということなのです。
確かに貧困層は所得の多く比率を、例えば食費に回さざるを得ないと思われがちです。でも実は富裕層の方が所得の多くの比率を食費に回している。そうであれば、VATを引き下げれば、そのメリットは貧困層ではなく富裕層に行くことになるのです。累進的に見えるかもしれませんが、現実的に見た場合、これは富裕層にとって重要なのです。VATを引き下げれば恩恵を受けるのは富裕層なのです。
また、幾つかの技術的な問題が出てくるのではないかと思います。すなわち控除方式のVATを入れた場合、いわゆる他国のようなインボイス方式のVATと違って、どのような問題が出てくるか。
まずは、控除方式のVATの場合は、インボイス方式のVATと比べて、複数の税率を導入することは難しいと思います。税率を差別化することは、非常に難しいと思います。また、ターゲットをどうするかという問題も出てきます。
それならば、実際にほかの手段でよりターゲットを設定した形で貧困の問題が解決できるか、この問題を考えてみたいと思います。例えば勤労所得に対する課税も一つのやり方かもしれません。そうなるとデザインのものだけでできますが、相当大きな試みになるでしょう。また、社会保険料の拠出の構造を変えるということもあり得るかもしれません。でも、これもまた潜在的な貧困につながりかねない。
税制の観点から見て別の手段があるのかもしれません。税制以外にどうしたらいいのか、例えば歳出措置はどうか、教育だとか、児童手当だとか、歳出的な手当措置の方がターゲットを設定するという上では、よりよい措置になるのかもしれません。
そして、最後にいただいたコメント、これはACEに関するコメントでした。非常に重要なコメントをいただいたと思います。
まさに、私が言ったことをより雄弁に重要な点を御指摘いただきました。すなわち、限界実効税率と平均実効税率との違いです。ACEの場合は、レントに対する課税があるわけです。でも、税率の限界的な影響力はゼロです。純粋な利益はないので、課税はない。ですので、限界実効税率は低い。これが理論的なメリットだと思います。
それならば、平均実効税率はどうなるのか、もしも同じような収入を上げようと思うのであれば、これは法定税率ということになりますが、これは国際的な基準よりも高いところに設定しなければならない。そうなると、今度は投資の誘致ができなくなるという問題が出てくるかもしれません。ですので、おっしゃったことは、確かに大きなジレンマであると思うのです。
ただ、今までの経験から見た場合、例えばエストニア、ないしはクロアチアを見た場合、非常に好調な税収を上げているのです。ですので、思ったほど大きな問題とはなっていない。でも、御指摘をいただいたとおり、非常に大きな懸念だと思います。レントに対する課税にシフトする場合、大きな問題になるかもしれません。お答えになれば幸いです。
〇田近部会長
お答えもどうもありがとうございました。法人税を下げる一方、付加価値税を上げる。それをどう実現するかというのは、それぞれの国が考えなければいけないのでしょうけれども、法人税の負担というのは、実は法人だけではなくて、実はいろいろな形で帰着するのだと、それが下げられることによる便益はいろいろ帰着するのだと言っても、なかなか説明は難しい。
あとは、付加価値税、日本では消費税ですけれども、上げたときの対応の措置について適切な御指摘があったと思います。
日本語をしゃべっているのは私だけみたいですけれども、基本的には日本語の方がわかりやすい人が多いと思いますから、御遠慮なく日本語でも御発言ください。だれでも結構ですので、手を挙げてください。
井上さん、井堀さん、あと國枝さんの3人、手短にお願いします。
〇井上特別委員
25ページのところに、例えば消費課税の依存が大きいほど成長が早いという証拠があると言っておられるのですが、その事例というのは、日本では消費税を上げたときにタイミングが悪かったということもあるかもしれませんが、非常に景気を失速させているということが経験としてあるわけです。そういった点で、ちょっと御説明をいただければと思います。
〇井堀委員
32ページの最後のスライドで、日本のアドバンテージとして「Being an island can help indirect taxation」というのがありますが、これは非常に興味深いセンテンスなのですけれども、島国であることが、間接税にとってプラスになるということの理由が、消費税率の違いで、国境を越えた歪みが余り起きないということだという説明だと思うのですけれども、そうすると、日本がこれから消費税を上げて、例えば韓国が既に10%なので、消費税率を韓国の10%に近づければ、この問題は、むしろ逆に働くので、要するに消費税率のギャップの差を余り消費税率を上げる方が気にする必要はないということなので、このセンテンスが、どのぐらい重要な意味を持つのかというのを、もう少し説明していただければと思うのです。
ついでに言いますと、島国であるということは、消費もなかなか動かないのですけれども、同時に労働供給も、人も余り動きにくいので、国境を越えての人の移動に関してかなり制約があります。そうしますと、このセンテンスが同時に直接税のところの勤労所得税にも同じように当てはまるとすると、必ずしも間接税であると、消費税を上げるということを、島国であるということがそれの条件としてどのぐらい意味があるのかというのを、確かに日本は島国なのですけれども、そこが日本の税制改革を考えるときに、どの程度重要なポイントになるのかというのを、もう少し教えていただければと思います。
〇國枝専門委員
2点質問がございますけれども、1点は当たり前過ぎて、プレゼンテーションの中でおっしゃらなかったこととして、税制改革を考えるときには、予算制約式を考えなければいけないということがあると思います。
日本の場合には、財政赤字と高齢化の問題がありますので、中長期的には大幅な増税を考えざるを得ないと思うのですけれども、一方で、いわゆるラッファーカーブ的な議論も結構なされています。そういう意味では、今回のプレゼンテーションの中で、個人所得税については、フラットタックスの例を引かれて、ラッファーカーブのようなことは期待できないということを御指摘いただいたのは、非常に意義深かったと思います。
質問ですけれども、さて、法人所得税の方はどうなのかということですけれども、恐らく国のサイズによって、全く効果が違うのだろうと思いますけれども、アイルランドのような小国であれば、法人税率を下げれば、たくさん企業が来るでしょうけれども、日本の場合には、大国でございますので、それほど期待できない。そうすると、税率を下げる場合にも課税ベースの拡大とともにやっていかないと、税収面でなかなかうまくいかないのではないかと思いますが、いかがでしょうかというのが1点です。
もう一点でございますけれども、スライドの5ページになりますけれども、そちらでこれからグローバル化していく中で、非可動的な要素の税負担が重くなるというお話があって、それは恐らく非熟練の労働者であろうというお話があったわけですけれども、他方、公平の観点からいいますと、まさに世界的に広がっている経済格差の1つの原因は、恐らくスキルのある人たちとない人たちの格差だということになってきている。
そうすると、ここで指摘された状況というのは、公平という観点から非常に深刻なトレードオフが今後世界に広がっていくという難しい状況を御指摘なさったものだと思っているのですけれども、そうしますと、やはり今回、勿論テーマとして大き過ぎるし、チャレンジング過ぎるということで言及なさらなかったと思うのですけれども、是非、税の協調の話についても、ごく簡単にお話しいただければと思います。
以上です。
〇田近部会長
いろいろな論点の質問が出たと思うのですけれども、こちらも我々の自己紹介が少し遅れましたけれども、このメンバーは、決してアカデミックな人たちだけではなくて、御質問をなさった井上さんは、ビジネスマンでいらっしゃいます。
あと、ジャーナリストの方もこのフロアにいて、その意味では一般的な国民の意見をここで議論するという場だというふうに御理解いただきたいと思います。
あと、我々の質問に対しては、シトリンさんを含めて、御自由に御意見をおっしゃってください。
お答えいただきますけれども、私も司会をして、どこで口を挟もうかと思っていたのですけれども、やはり25ページのところで「evidence e.g. that growth faster when reliance on consumption taxes greater」。井上さんが、まさに質問されたところですけれども、消費への課税の依存が高い国は成長が高い。消費税が成長に対して、影響が誘導的であるというところを、できるだけ実証的な証拠も含めて御説明いただきたい。あとは島国における税制の特色の問題。それから、個人所得税の問題、そして協調の問題とありましたけれども、よろしくお願いします。
〇マイケル・キーン課長
御質問に感謝いたします。次回はもっと簡単な御質問をいただければありがたいと思いました。
では、まず最初に、このプレゼンテーションの中において、VATに対する依存と成長との関連について、私は言及しているわけですが、ここで考えていたのは、ある特定の経済学的な証拠なのです。すなわち、年々総計の需要がどう変わるか、そういったようなものではなく、何年にもわたって、そして幾つもの国々について調べたものです。税率だけではなく、異なるタイプの税金の組み合わせが、どう影響したか、そんな証拠を求めたわけです。これが成長率にどう影響するか、その証拠を求めてまいりました。
実際に幾つかのペーパーが出ておりまして、その中の1つはピーター・タンジーさん、IMFの財政部門のトップだった方ですけれども、非常に説得力のあるペーパーでした。ちょっと説明いたしましょう。実証的に見た場合、消費税に対する依存度が低い国に比べて消費税への依存が高い国の方がより高い成長率を示している。ただ、消費税の定義が、これらの報告書でどう行われているのか、ちょっと慎重にならざるを得ません。少し裁量的なものがあるからです。例えばVATだけではなく、物品税も入ったりしておりました。また、消費税とその他の税金をどう区分けしているか。これも裁量的なものがありました。そんな中で、成長に対するインパクトについて少なくとも最も説得力があるレポートを見た場合、こうした結果があったわけです。すなわち税金の組み合わせ、これが非常に大きな影響を及ぼす。そうやってみると、VATの方がより成長を促すということでした。
〇ダニエル・アラン・シトリン次長
私の方からも申し上げましょう。実は、昨年ある研究を行いました。この時、使ったモデルは、キーンさんの部署で作成したグローバル財政モデルというものなのです。これを活用いたしました。それでシミュレーションをやって、こういった実験をやったのです。
例えば日本が向こう4年で財政の均衡ができた、対GDP比何%で財政の健全化ができた。そして財政赤字の縮小が図られた。そう想定した場合、成長に対するインパクトはどのぐらいあるのか。財政健全化をもたらすための、さまざまな措置の組み合わせがどう影響するかということを検討したわけです。
私どもが行ったこの研究では、もしもある一定の歳入増を果たそうと思うのであるならば、そして、それは消費税の引上げによってもたらされたものであり、法人税の引上げではないと仮定した場合、成長に対するインパクトはどうなるのかを分析しました。結果として消費税引上げの時と比べて、よりよい結果が出てくるということがわかりました。ですので、異なる証拠があるということでありましょう。
〇吉川委員
今、おっしゃったモデルは日本に関わるカントリーモデルの話ですか、それともクロスカントリーモデルですか。
〇ダニエル・アラン・シトリン次長
日本向けのカントリーモデルでやったものです。
〇マイケル・キーン課長
ありがとうございます。島国の部分についてお答えしたいと思います。もしかしたらちょっと誇張したのかもしれません。
私がここで考えておりましたのは、こういったことなのです。我々がIMFで作業する上で、例えばたばこ税だとか、石油税だとか、そして、酒税などを考えた場合、大体どの地域でも国境を越えた密輸ですとか、国境を越えたショッピング、そういった問題が出てくるのです。そうなりますと、税制にとって非常に大きな問題をもたらすわけです。島国だからといって、こういった問題が起きないというわけではないと思います。英国も同じような問題を抱えております。
ただ、他国と比べた場合、これらの地理的な条件がある場合、消費税、物品税を考える上で制約条件が少ないと思うのです。消費税、物品税というのは、その国の隣国で起きていることの影響をどうしても受けがちです。
そうなりますと、島国は多少余裕があると思うのです。ただ、VATにとっては、これはそれほど大きな要因ではないかもしれません。というのは、ヨーロッパでは、幾つかの例外を除いては、VATの税率の差が非常に大きかった、例えばデンマークとドイツなどは25%対16%という状況にあったのですが、問題ではあったけれども、ある程度管理できる範囲の問題であった。本当に問題になるのは、間接税に関わる問題の方が大きかったと思います。
また、島国であるということは、そのような風土を持つということは、やはり人々の可動性に関しては、よりよい影響を持ちます。ですので、100%島国だからこうだということが言えるわけではないのですけれども、そういった要因もある程度働くということを申し上げたのです。
また、法人所得税と規模の問題ですが、おっしゃるとおりだと思います。我々の持っております理論モデルというのは、法人所得税が低い国ならば小国であるべきだと。そして、法人所得税が高い国は大国であるべきだと考えがちです。
おっしゃったとおり、小国の場合、法人所得税率を引き下げても自国の居住者に関連する税収のロスはありません。数が多くないからです。逆に他国から誘致することができれば、その分税収が増えるわけです。日本と他国と比較すると、まさに理論的な予測にぴったりはまるわけです。
もう一つ重要な要素を考えなければなりません。恐らく、これは皆様、十分考慮されていると思いますが、大きな国の場合、法人所得税率について検討する上では、他国も税率を変え得るということを想定しながら、自分たちの法人所得税率を変えるわけです。例えばドイツが自国の法人所得税率を考えた場合、全世界の税率は一定のまま、自分たちが税率を変えることにはならないというふうにきちんと考えていると思います。
2つ目の質問に移りたいと思います。
租税競争は、もしかしたら悪いものと受け止められるかもしれないという御指摘がありました。しかしながら、大国の場合、より広範囲な意味での公益につながるわけです。グローバルな視点から見た場合、課税のベースが拡大することはいいわけです。
さて、協調についてはどうかということについては、喜んで何時間でもお話しできると思います。
ただ、基本的な問題としては、協調はいいことなのか、悪いことなのか、人によって意見が大きく違います。エコノミストとしては、本来であれば、もっとこの問題の解決をしていなければならないと思うのです。租税競争が悪いととらえた場合、そうなると、ある程度協調は必要であるということに帰結するわけなのですが、それでもやはり多くの困難な問題が出てきます。
まず、どのような協調をするのか、例えば法人所得税であるならば、例えば税率だけで合意してもどうしようもない。今度は課税ベースで競争が起きますから、税率だけ調整すればいいというものではありません。
それならば、地域レベルで調整するべきなのか。地域レベルで協調することは、既存の制度にとって、機構にとってはいいかもしれない。しかしながら、国々は近隣諸国だけと競争するわけではありません。最も激しい関係にある国は、世界の裏側にあるかもしれない。したがって、適切なグループはどのようなものであるのか、そういった問題でもあるわけです。また、正式な合意をどうするかという問題があります。
1つの動きとしては、例えば行動規範を設定する。これは法律ではなく、ソフトロー的なものであります。すなわち、特定の問題があった場合、罰則を設けなくても、何の税制上のインセンティブも提供しませんということを行動規範で示すということもあり得ます。
でも、行動規範をベースに国同士が信頼しながら、これを遵守するでしょうか。やはり税制の協調については、さまざまな問題があると思うのです。また、それ以外にもさまざまな問題が、いずれ議論されると私は思っております。
例えば炭素税の問題です。どの国に排出に対する課税をするのか、そういった問題が出てくるでしょう。また、集団としての行動が取れるのかという問題もあります。なぜなら、排出は地球規模でどんどん国境を越えて波及効果をもたらすからです。そもそも税金とするべきなのか、それとも貿易に係るスキームとするのか、また、すべての国で均一の税率とするのか、どの国が参加するべきなのか、だれが逆にお金をもらうべきなのか、さまざまな問題がはらんでいるわけです。
すなわち、租税競争がよかろうと、悪かろうと、この問題が解決した後でも、まだまだ問題が残るわけです。租税競争は悪いと、それならば政策的な対応が必要なのかもしれませんが、政治的な問題を度外視しても、まだまだ技術的な問題が残っているということだと思います。
〇田近部会長
続けて、中里さん、高木さん、小西さん、どうぞ。
〇中里特別委員
2点に関してコメントをいただければと思います。
まず第1点目、国際会計基準が、企業所得税の改革に対してどのような役割を持っているのか、この基準はそんなに重要なものでしょうか。
2つ目ですが、法人所得税が地方政府に対して持つ役割は何だと思われますか。
〇高木特別委員
御説明のペーパーの6ページに「Increased income inequality」ということで「earned income tax credit」の話を提起されておられますが、日本の状況においては、こういう施策について、どういうスタンスで考えるべきだとお考えなのか、1つ日本のことについて、ある程度御存じならば、お考えをお聞かせいただきたい。
今日のお話を聞いていて、せっかくお見えいただいて、失礼なお話になって恐縮かもしれませんが、法人税を引き下げたいという方々が、日本にたくさんおられる。また、消費税を上げたいという人もたくさんおる。そういう中で、最後に、それぞれの国の選択だということでキーンさんは、多分この場におられる皆さんに、そういうことで自分の立場をエスケープされたんではないかという感じで聞きましたけれども、それぞれの国には、それぞれの税目間のいろいろなバランスあるいはそれをめぐる歴史的な経過、その中で得られた国民の感情等がいろいろあると思いますが、今日はそういう意味で法人税の引下げ、あるいは消費税の引上げのための説明の場であるという御認識があって来られたのかどうか。非常に嫌な質問でお許しをいただきたいと思いますが、その点をちょっとお聞きしておきたいと思います。実は、私は労働組合の仕事をしております。
〇小西専門委員
それでは、私は今日御説明いただいたこと以外のことについてお尋ねしますので、もし、コメントがあれば、していただければありがたいと思います。
日本は消費税を導入して、もう20年になるのですが、20年以上前、消費税を導入する前は、所得税がうまく取れないと不公平になってしまって、十分捕捉ができないので、非常に不公平だというふうに言われたことがあって、それもあって消費税を導入したという経緯があるのですが、私は、そもそも所得税をきちんと取るために必要な条件が課税当局に与えられていないということが、そもそも不公平だと言われた原因であって、そのことは20年経っても、いまだに余り解決されていないのではないかと思うのです。
1つは、課税庁と納税者があると、納税者の権利保護には非常に熱心だけれども、要するに課税庁が税金を取ろうと思ったら、ある程度、挙証責任は納税者側にあって、課税庁側が全部説明しなくてもいいようにするとか、一般否認規定、そういうものを設けて、課税庁側がみなし課税ができると、そういう法規定が要ると思うのですが、それがほとんどないとか。
それから非常にプリミティブなことを言えば、日本の税務署員は極端に数が少ないというのがありますし、それから納税者番号制度のような、言わばインフラストラクチャーに当たるようなものもない。トータルで見ると、日本は課税庁には非常に力が与えられなくて、条件が整っていなくて、所得税が取れないという状態がいまだに続いているのではないかと思うわけですが、そういう税務行政面で、日本の所得税というのが、どちらかといえば、非常にプアーな状態であるという印象を持っているのですが、そういう研究をされておられるのかどうかということについてお尋ねしたいと思います。
〇田近部会長
時間もそろそろになりましたけれども、いろいろ質問があったと思います。2番目に御質問なさった高木さんは、日本の一番大きな労働組合の代表をされている方で、御質問は法人税と付加価値税の相対的な扱い等について、どうお考えですかということだったと思います。
それも含めて、2時間のセッションですけれども、このお答えで、一応締めくくりたいと思います。よろしくお願いします。
〇マイケル・キーン課長
ありがとうございます。時間もなくなってまいりましたので、できれば、手短にお答えいたしましょう。
まず、国際会計基準の果たす役割ということですけれども、エコノミストとして、税のデザインが会計の基準によって動くものであってほしくないと思っています。勿論、会計基準が先導する役割も、リードする分野もあると思いますが、最終的には税制と会計は異なる。税制と会計では、デザインも違うし、目的も違います。
さて、法人所得税ですが、地方自治体の場合、どうなるかということですけれども、法人所得税が、例えばベネフィット、便益に対する課税であるということならば、それを主張することはできると思います。しかしながら、税収源としては、まだまだボラティリティがあると思うのです。
もう一つ考えなければならないのは、全体像をいかにとらえるかということでしょう。すなわち、どんな国であろうと、地方自治体に関わる税制をどうするかという全体像をやはり考えなければなりません。
地方自治体においては、何らかの形で限界的な収入源を持っている。そして自分たちが裁量権を行使できる、自分たちで歳入を得ることができるような裁量が必要だと思うのです。全体でなくてもいいけれども、限界的な収入源が必要だと思います。
でも、法人所得税がそうなのか、恐らく法人所得税はそのような地方自治体にとっての収入源にはなれないと思っています。
また、日本における状況について、私の方から憶測することができないのですけれども、多くの国々が大変関心を寄せております。政策的にも非常に魅力的だと思うのですけれども、ただ、政策的なデザインとして、いろいろと細かい問題があります。
例えば家族ベースで課税するのか、個人ベースの所得税とどう調整したらいいのか、自営業はこの中に入るのか、そして、どの程度の期間をかけて評価をするのか、そして実際に還付申告をする人々をどうするのか、いろいろな問題を想定しなければ、この道筋を選ぶことはできないと思います。多くの国々は、この問題を考えていると思うのですけれどもね。
また、歴史的な経緯、そしてバランス、税制、この御指摘もおっしゃるとおりだと思います。すなわち、税制のデザインは歴史から切り離すことはできない。歴史、風土、そして人々の感情、変化に対する対応、それと切り離すことができないのです。
今回、プレゼンテーションで申し上げようとしたのは、あくまでも共通の問題を指摘するということです。多くの国々における共通の問題です。多くの国々では、このような税制の問題を抱えている。この2つの税制の役割で悩んでおりますので、このような要素の重要性を決して否定するものではありません。税制が成功するために、やはり国民の支持が必要です。また、税当局の果たす役割について、非常に興味深い御指摘をいただきました。プレゼンテーションの中では、確かに触れておりません。ただ、政策と当局との連動、これは大変重要です。納税者に対するしっかりとしたサービスも必要です。しっかりとした監査も必要です。特に皆様が考えている改革を考慮した場合、しっかりとした監査が必要になるでしょう。
今回のプレゼンテーションは、あくまでも政策ということでさせていただきました。私どもの同僚は、よろこんで、また後日同じようなテーマについて、執行についてお話しできるかと思います。
以上です。
〇田近部会長
どうも長時間にわたってありがとうございます。キーンさんには報告をいただき、そして、また吉川さんにはコメントをいただきました。
そして、また、多くの重要な御質問、そして適切なお答えをありがとうございました。伺っていて、まさにグローバル化した経済における税制の課題ということで、重要な議論ができたと思います。
そういうグローバル化した経済の中で課税ベースが動く、そういう中で、包括的な所得税が非常に難しくなってきた。わかりやすい例をおっしゃいましたけれども、日本の最高税率、個人所得税の最高税率50%で資本所得に税金をかけることができるのかという問いかけもなされていたと思います。
そうした中で、我々が耳をすまして伺いたかった、競争力、そして成長、それに対する税制改革ということでは、所得税と付加価値税が成長にどのような関係があるのだろうか。
そして、今日は御質問にはありませんでしたけれども、私が伺っていて興味深いと思ったのは、国際化した社会の中で資本が国境を越えて移っていく。そして、資本が移るだけではなくて、所得が移っていく。そういう中で、法定税率、平均税率、特にその中でも法定税率のレートが重要だという御指摘もありました。
それから、法人税において、正面突破の問題だと思いますけれども、負債と自己資金のファイナンスの問題で、ベルギーやエストニアの例を引きながら、ある意味でこの問題を正面から突破する。支払い利子の制約を置くようなことは、絆創膏のような応急的な措置なのではないか。私にとっては非常に興味深い御指摘があったと思います。
そのほか、本来ならば、環境税についても議論を深めるべきだったでしょうけれども、我々がこれから議論していく上で、大変参考になりました。もし、シトリンさんから御意見があれば、最後に伺って終わりにしたいと思いますけれども、よろしいですか。
〇ダニエル・アラン・シトリン次長
もう付け加えることはそんなにございません。キーンさんがおっしゃっていましたけれども、我々は本当にこの機会をいただきまして感謝いたしております。何か別のやり方で情報を提供するようなことがございましたら、フォローアップ、例えば質問ですとか、研究でフォローアップできることがありましたら、喜んで皆さんの作業に対してインプットとして提供したいと思っておりますので、どうぞ御遠慮なく、いつでもおっしゃってください。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。また、機会があれば、交流を続けて、あるいは個人的にもここのメンバーの方々が、より多くの情報とか、議論が必要ならば、コンタクトをいただくということにしたいと思います。
本日は、どうもありがとうございました。続けて、香西会長からお話があります。
〇香西会長
繰り返しになりますが、心よりお礼申し上げます。今回、非常にお忙しい中、議論に加わってくださった方々にお礼を申し上げます。これから報告をまとめていくわけですが、皆様から、またその時点でコメント、御批判をいただければと思っております。
ですので、我々の結論が出た近い将来の時点でお会いさせていただきたいと思います。
少し事務的な連絡ですが、申し上げておきたいと思います。
次回のこの部会でございますけれども、5月22日火曜日の午後2時から4時まで、場所は中央合同庁舎第4号館において行います。お伝えいたしておりますように、委員の方からプレゼンテーションがありまして、それに関連して討議を行いたいと思います。
なお、15日に催されました、経済財政諮問会議での税制の議論についても御報告をいたします。
これ以降につきましては、既にお伝えしておりますけれども、6月8日の金曜日、6月22日の金曜日、7月13日の金曜日、時間はいずれも午後2時から4時までということで会議を予定しておりますので、よろしく御参加をお願いしたいと思います。議題等を確定次第、改めて御案内をいたします。
それでは、本日の会合は、これで終了いたします。国際通貨基金から御参加いただきました皆様方には、お忙しいところを御出席いただき、熱心に討論に参加し、プレゼンテーションをいただき、更にディスカッションに参加していただきまして、どうもありがとうございました。改めてお礼を申し上げたいと思います。
それでは、閉会といたします。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、英語で行われた議事の同時通訳の速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。