企画会合(第4回)議事録
日時:平成19年2月9日(金)14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室
〇香西会長
ただいまから第4回企画会合を開催したいと思います。お忙しい中ご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
本日の議事について進め方をご説明したいと思います。前回お話ししましたけれども、今回と次回の企画会合では、今後、調査分析を深めるべき領域あるいは事項等について、ご議論をいただきたいと思っております。
まずそうした議論を行うに当たっては、経済や社会の構造変化の動向とか、わが国が目指していく将来像について、問題意識を共有化していくようにしていくことが、これからあとの議論のために重要であろうと思います。
そこで、本日は、1月25日に閣議決定をされました「日本経済の進路と戦略」という資料と、税制調査会の基礎問題小委員会で平成16年6月にとりまとめられた、いわゆる「実像」と略称されている文章がございますが、これを若干リニューアルしたものをお配りしておりますので、これについて事務方から説明を受けて、その後に調査すべきテーマについて自由討議を行いたい、というのが本日の進め方というか順序ということにしたいと思います。
それでは、さっそくでありますけれども、議事に入りたいと思います。
まず、「日本経済の進路と戦略」については、内閣府の井野参事官から説明をお願いします。
〇井野参事官
それでは、ご説明させていただきます。お手元に資料番号「企画4-1」という資料と「企画4-2」という資料がございます。4-1のほうが閣議決定をされた「日本経済の進路と戦略」の本体でございます。4-2のほうは、参考までに内閣府の責任で作成をいたしました参考の資料でございます。
まず、本体のほうからご説明させていただきます。
この「日本経済の進路と戦略」は、今後5年間の政府の経済財政運営の基本方針をまとめたものでございます。5年前に小泉内閣の下で策定いたしました中期方針であります「構造改革と経済財政の中期展望」、いわゆる「改革と展望」と言っておりましたものがありましたけれども、それに代わるものとして策定いたしました安部内閣における新しい中期方針でございます。
中身につきまして、目次のあとのほうから1ページ、「はじめに」というところをお開きいただければと思います。
まず最初に、「はじめに」のところで、日本経済の現状認識、それから政策の基本哲学のようなことを書いてございます。現状認識といたしましては、1ページ目の冒頭にありますように、日本経済が長い停滞のトンネルをようやく抜け出したということで、下のほうに書いてございますけれども、ようやく未来への明るい展望を持つことができる状況となったという認識でございます。
それから、これから取り組むべきは、日本経済の負の遺産を取り除くための改革ではなく、新しい可能性を切り開くための改革であるというような認識に立ってございます。同時に、それは長期デフレの中で増加したニートやフリーター、現在も厳しい状況にある地域や中小企業など、さまざまな環境にある国民にとって、心の通う改革でなければならないという認識のもとに基本方針を作ってございます。
続きまして、4ページに飛んでいただきますと、第1章でございます。第1章では、日本経済の直面する課題と新たな可能性ということで記述がなされております。
まず、日本経済が直面する3つの課題といたしまして、4ページ目にございますように、[1]人口減少等による成長制約、[2]地域間の不均衡と格差固定化への懸念、[3]極めて厳しい財政状況、という3本の課題を指摘しております。
この課題を克服していくわけですけれども、新たに生まれつつある可能性もあるということで、5ページ目のところ、(2)でございますが、可能性を切り拓くチャンスということで、こうした可能性を大きく育てて持続的な成長につなげていくことが大切であるとしております。中身といたしましては、イノベーションがもたらす成長の可能性、アジアと共に成長するメカニズム等々、こういったチャンスを生かすべきだということが書いてございます。
7ページを見ていただきますと、第2章でございます。第2章では、目指すべき経済社会の姿について記述をしております。ここでは目指すべき経済社会の姿といたしまして、「『新成長経済』による活力あふれる社会」というふうに整理しておりますが、その新成長経済というものにつきまして、4本の柱で構成されるとしております。この7ページの冒頭にございますように、[1]成長力の強化、[2]再チャレンジ可能な社会、[3]健全で安心できる社会、[4]21世紀にふさわしい行財政システム、この4つの柱で将来の目指すべき経済社会の姿を整理してございます。
この4つの柱に沿いまして、続きます第3章で政策の基本方針を整理しております。
13ページをお開きいただきますと、第3章でございますが、まず第1点目、先ほど申し上げました成長力の強化に該当するものとして、「(1) 潜在成長力を高めるための大胆な改革」ということで整理してございます。ここの中身でございますが、まず、大きな改革を進めていく大前提として、基礎となる政策スタンスとして、最初に書いてございますように、適切なマクロ経済運営が必要であるという認識に立っております。財政運営におきましては、安易な財政出動に頼らない安定的な経済財政運営を行う。それから、金融政策につきましては、日銀が政府とマクロ経済運営に関する基本的視点を共有し、この「進路と戦略」で示す経済の展望と整合的なものとなるよう、適時適切な金融政策を行うことを期待するというふうに述べてございます。
そのもとでいくつか成長力強化のための政策を整理してございます。ITやサービス産業の革新による生産性の向上、労働市場の抜本的改革、それから、国際競争力の強化としてイノベーションの促進ですとか、アジアと共に成長するメカニズムの強化などでございます。
16ページ目のところには、「制度インフラの整備による投資等の促進」とございますけれども、ここでは、「国際的に見たイコール・フッティングの確保等の観点から、税制、企業法制などの制度インフラの整備を推進し、日本の投資環境を魅力あるものとする」というような記述もございます。
それから、人材の育成の話、地域中小企業の活性化の話などが書いてございます。
17ページの一番下のところから2本目の柱でございます「再チャレンジ可能な社会に向けて」ということで政策を整理しております。ここでは、政府が昨年12月にとりまとめました「再チャレンジ支援総合プラン」に基づきまして記述がなされております。
それから、18ページの下のほうから「健全で安心できる社会に向けて」ということで、社会保障一体改革の話、それから年金、医療、介護などがございます。
19ページの年金のところをご覧いただきますと、(年金)のところの5行目でございますが、従来の政府与党の方針に沿って記述してございますが、「基礎年金国庫負担割合については、『平成16年改正法』に基づき、所要の安定的な財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で、2009年度までに、2分の1に引き上げる」というような記述がなされてございます。
それから、4つ目の柱に飛んでいただきますと、22ページでございますが、「21世紀にふさわしい行財政システムの構築に向けて」ということで、まず、歳出・歳入一体改革の推進について書いてございます。ここでは、まず「2011年度に向けて」ということで、これも従来からの政府の基本的なスタンスでございますが、「『成長なくして財政再建なし』の理念の下、経済成長を維持しつつ、国民負担の最小化を第一の目標に、今後5年間で『基本方針2006』で示された歳出改革の内容を計画的に実施する。それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにする」ということで、こうした取り組みを進めて、まずは2011年度には、国と地方を合わせた基礎的財政収支を確実に黒字化させるということを記述してございます。
それから、その次のパラグラフで、より厳しい国の基礎的財政収支についても、できる限り均衡を回復させることを目指し、というような記述もございます。
それから、そのページの下半分のところでは、2010年代半ばに向けてということでございますが、この2011年度に黒字化した場合においても、財政健全化はまだ道半ばでありということで書いてございます。2010年代半ばにかけては、基礎的財政収支の一定の黒字幅を確保するということでございます。「債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを目指す」という記述になってございます。
それから、その下のほうからは、この「進路と戦略」による中期的目標の達成ということで、中期的に予算を管理していこうという取り組みについて書いてございます。23ページ目のほうに具体的に書いてございますけれども、予算編成の要所要所において、各年度の予算が中期目標の実現に向けて整合的になっているかどうかを点検するというようなことでございます。
それから、23ページ目の真ん中あたりには、予算編成の原則ということで、例えば、原則1で、景気を支えるために政府が需要を積み増す政策はとらないですとか、原則2で、税の自然増収は安易な歳出等に振り向けず、将来の国民負担の軽減に向ける、といったようなことが書いてございます。
23ページ目の一番下のほうから、税制改革ということについて特に記述をしております。ここでは、冒頭に「2007年秋以降に本格的・具体的な議論を行い、2007年度を目途に税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組む」というふうに記述をしております。
24ページ目のほうを見ていただきますと、2つ目のパラグラフですけれども、「上記取組を円滑に進めるため、税制改革の基本的考え方について着実に検討を進める」というようなことでございます。
それから、「また、」でございますが、「円滑、適正な納税のための環境整備が重要であり、納税者番号制度を含め、各般にわたる検討を行う」といったような記述もございます。
それから、あとは効率的な行政の推進、地方分権、地方行政改革などについて書いてございます。
26ページのところに、最後でございますが、第4章として、将来の経済展望について触れております。こちらの将来展望につきましては、もう一つの冊子でございます「企画4-2」という番号が振ってあります参考試算のほうで見ていただくと、グラフがついておりますのでわかりやすいと思いますので、そちらを見ていただきながらご説明させていただきたいと思います。
こちらの参考試算の冊子をあけていただきまして、まず、どんな試算をここでやっているのかということが最初の1ページ目のところに書いてございます。ここでは、最初に書いてございますように、新成長経済移行シナリオ、これはわが国の「進路と戦略」に沿って、わが国の潜在成長力を高めるための政策が実行される場合に視野に入ることが期待される経済の姿ということでございますが、このシナリオと、もう一つ[2]でございますが、成長制約シナリオ、これは政策の効果が十分に発現されず、かつ世界経済の減速など、外的な経済環境も厳しいものとなる場合の姿でございます。この2つのそれぞれにつきまして、その下に書いてございますように、歳出・歳入一体改革の仮定を2つ立ててございます。
1つは、2007年度につきましては、政府予算に沿って仮定をしておりますけれども、2008年度以降につきましては、「基本方針2006」で示されました歳出削減幅、これは14.3兆円から11.4兆円というふうにありますけれども、この大きいほうの削減幅、14.3兆円の歳出削減の考え方に対応するケースが1つでございます。もう一つが、小さいほうの下限の11.4兆円の歳出削減の考え方に対応するケースということでございます。すなわち、マクロ経済の2つのシナリオと、この歳出削減の2つのシナリオで、2×2で4通りの試算を行っているということでございます。
内容につきましてご覧いただきますと、2ページ目、3ページ目を見開きであけていただきますと、まずマクロ経済に姿についてのグラフがございます。2ページ目のほうが潜在成長率と実質成長率、並んで書いてございますけれども、実質成長率を見ていただきますと、足元のところから2007年度、2.0%ですけれども、移行シナリオでは徐々に高まっていって、2%台半ばぐらいまで高まっていく姿でございます。一方、移行シナリオでは、1%程度にまで逆に下がっていくような姿になっております。
3ページ目のほうで名目成長率を見ていただきますと、移行シナリオでは、足元の2007年度2.2%でございますが、4%弱ぐらいまで上がっていく姿になっております。一方、制約シナリオでは、2%ぐらいのところで伸び率で横張るといったイメージの姿になっております。
その下に消費者物価上昇率がありますけれども、移行シナリオでは2%程度に近づいていく姿でございます。制約シナリオでは、それを若干下回る推移になってございます。
このようなマクロの姿のもとで、4ページ目、5ページ目をお開きいただきますと、先ほど申し上げました歳出削減を前提にして、基礎的財政収支、それから利払いを含む財政収支等の推移がどうなるかという試算をしております。まず、この4ページ目、5ページ目で書いてございますのは、歳出削減Aケースと書いてございますけれども、14.3兆円、大きいほうの歳出削減に該当するケースでございます。
4ページの上のほうの基礎的財政収支のグラフを見ていただきますと、足元2007年度予算で推計いたしました基礎的財政収支の値が、GDP比でマイナス0.6%の赤字でございますけれども、それが移行シナリオの高いほうの成長のシナリオでいきますと、この14.3兆円に該当する削減を行いますと、2011年度にはプラス0.2%のところまでいくということで、黒字が達成される姿になっております。
なお、これは歳出削減を仮定しておりますけれども、その他歳入面での特段の措置、増税等は仮定してございません。
それから、同じグラフでございますけれども、制約シナリオのほうでは、2011年度でもまだ赤字が残るということになってございます。
下のほうの「国・地方の財政収支」と書いてございますのは、利払いを含めた収支でございますけれども、こちらのほうはどちらのシナリオでも2%台の赤字が残っているというものでございます。
右の5ページ目のほうは、国・地方それぞれ分けた推移を示してございます。
それから、もう一つの歳出削減のケースにつきましては、一つ飛んでいただきまして8ページ目、9ページ目のところをご覧いただきたいと思います。こちらのところが11.4兆円に相当する歳出削減を行ったケースでございます。こちらを見ていただきますと、基礎的財政収支のグラフでございますが、移行シナリオ、制約シナリオともに黒字にはなっておりません。移行シナリオのほうで0.1%の赤字が残る姿になっております。制約シナリオのほうでは、0.8%の赤字が残る姿になってございます。
このように4つ試算を行ったということでございますけれども、このうち移行シナリオ、成長率の高いほうのシナリオで、しかも歳出削減を14.3兆円に相当する削減を行った場合、この場合には2011年度に黒字化が達成されますけれども、それ以外のケースではなお赤字が残るといったような、これは一つの計算例でございますけれども、一応こういった試算を参考までに示させていただいております。
こちらの資料のご説明は以上でございます。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
引き続きまして、「実像」についてのご説明をお願いします。主税局の星野調査課長よりお願いいたします。
〇星野調査課長
それでは、私のほうからは、「企画4-3」と書かれております資料に基づきましてご説明させていただきたいと思います。
先ほど会長からもご紹介がありましたとおり、平成16年の6月に税制調査会の基礎問題小委員会で、ここに書いてあります「実像」の報告書がまとめられたわけでございます。報告書自体は、席上に配られております資料の束がございますけれども、この束の中に付箋をつけさせていただいておりますが、そこにございますので、適宜参考にしていただければと思います。
今後のあるべき税制を考えていく上で、本日、このレポートのアウトラインを実際のデータとともに改めてレビューを行いたいと思っております。
それでは、資料の目次のところを何枚かめくっていただきまして、ページ番号がついておりませんけれども、一番上にまず総括表が出ております。これは全体を要約した1枚紙でございますけれども、左側に10項目並んでおりまして、この「実像」のレポートでは、「実像」に関するキーファクトとして10項目が指摘されております。適宜この紙を参考にしながら、この10項目について、順次実際のデータを見ていきたいと思います。
1枚めくっていただきまして、まず1ページでございます。まず第1のキーファクトとして、わが国の人口動態について、21世紀は一転して人口減少社会になるということが指摘されております。この表を見ていただきますと、これは昨年12月に発表された日本の将来推計人口によってリニューをした表でございますけれども、日本の人口は、20世紀の入り口、1900年の時点で見ますと、4,400万人程度であったものが、その後100年間に約8,400万人増加をして、2004年にピークを迎えております。すでにピークアウトをしまして、今後100年間で、例えば中位推計で見ていただいても、大体3分の1ぐらいまで人口が縮んでいくという、富士山の山のような形を描くということが推計されているわけでございます。
人口増加を前提とした今までの社会システムを維持し続けられるのかどうかということが当然問題になっていくわけでございますけれども、この人口減少の背景要因の一つ、これが出生率の低下でございます。1枚めくっていただきまして2ページでございます。合計特殊出生率2.07という数字がございまして、「人口置換水準」と書いてございますけれども、この水準が継続する限り、人口規模が維持できるというものでございますけれども、1975年以降、出生率が減少しまして、出生率を見ていただきますと、人口置換水準を下回りながら一貫して低下をしてきていることがおわかりいただけようかと思います。
戦後直後、1947年には出生数260万人、出生率4.54ということで高かったわけですけれども、1957年までの戦後復興期において、例えば優生保護法制定などを背景に出生数が急減したということでございます。
1957年に出生率が2.04になってからは、1974年までの間は大体2%でほぼ横ばいに推移をしております。この期間はまさに高度成長期と一致しておりまして、夫婦子ども2人という標準的な家族モデル、当たり前の家族モデルが形成された時期ということが言えようかと思います。
その後、様相が一変いたしまして、現在まで出生率、出生数ともに一貫して減少してきているわけでございますけれども、その背景要因としては、急激な未婚化、晩婚化が指摘されております。特に日本の場合、婚外子が容認されない社会でございますので、結婚しないことが直に少子化につながっているということに留意すべきだということが指摘されております。
1枚めくっていただきまして3ページでございます。これに伴って人口構成がどのように変化するかということを棒グラフにしたものでございます。高度成長期は平均年齢が大体30歳前後で、比較的若々しい社会であったわけですけれども、現在、2000年のところでございますが、見ていただきますと41.4歳、50年後は大体55歳ぐらいになるということでございます。
年齢別構成について見ていただきますと、15歳から64歳のいわゆる生産年齢人口が、2000年では68%と全体の3分の2を占めております。現役世代人口とそれ以外のいわゆる従属人口、年少人口プラス老年人口、この比が大体2対1ということなのですけれども、2055年になると、この比率が1対1になってしまう。しかも、その内訳見ると、年少人口と老年人口のシェアが劇的に逆転しているということがあざやかに見て取れるかと思います。つまり、若々しい社会から成熟した社会へ移っていくということでございまして、それに伴って価値観も大きく変化するのではないかと言われております。若々しく人口が増えていく社会であれば、例えば未来志向とか、経済性・効率性重視の傾向が強いでしょうし、逆に成熟した社会だと、現在志向が強くなるといったような傾向が見て取れるということが指摘されております。
1枚めくっていただきまして4ページ、「特定年齢までの生存率の推移」というのを見ていただきますと、平均寿命の定義というのは、ある年齢層の生存率が60%となる年齢でございまして、例えば、このグラフで見ていただきますと、男性の太線、2000年の時点での生存率が60%に対応する年齢は、大体80歳ぐらいということになっていまして、これが平均寿命でございます。同様に女性の場合は90歳弱ということになりますけれども、時代の経過とともにこの曲線が右上方向にだんだん張り出してきております。例えば今の年金の支給開始年齢65歳で見ると、1947年の時には生存率が40%程度であったのが、1965年には70%程度、90年以降になりますと、85%程度ということで、男性の数字で見ても、急上昇していることがおわかりいただけようかと思います。したがって、国民皆年金が導入されたのは1961年でございますけれども、その当時とは全くそういう意味では生存率の数字が変わってきているということでございます。
この「実像」のレポートの中でも、こうした人口面での構造変化が、例えば家族や個人のライフスタイルだけではなくて、経済社会の諸制度に至るまでの構造的な変化を迫ることになるであろうということが指摘されております。
それから、第2番目のキーファクト、1枚めくっていただきまして5ページでございますが、右肩上がりの経済の終焉ということが指摘されております。GDPの推移をここに書かせていただいておりますけれども、GDP成長率、高度成長期が大体10%前後、安定成長期が4%台、バブル崩壊後が1%前後と階段状に低下してきているというのがおわかりいただけるかと思います。
大きな変化の要因としては、高度経済成長を支えた基礎的な条件が消えてしまったということと、あと、冷戦体制が終わったという外的条件の崩壊という2つの構造変化が指摘されているわけでございますけれども、このレポートの中においても、その要因として3点ほど指摘されておりまして、それを紹介いたしたいと思います。
1枚めくっていただきまして6ページでございます。「総人口等の変化率の推移」というグラフでございます。このグラフは実線が総人口の伸び率、点線ないし破線がそれぞれ労働力人口及び生産年齢人口の伸び率を示しております。1950年代から70年代半ばまでの期間のところを見ていただくと、社会を支える側であります労働力人口ないし生産年齢人口の伸び率、これが総人口に比して大きく上回っております。これは人口学において人口ボーナスと呼ばれている状況でございまして、要するに社会的な扶養力に余裕があって、全体として社会的な負担が軽かった時代と言えるわけでございまして、こうした状況が高度経済成長をもたらした一つの要因であるということが指摘されております。
一方、現在から2050年ごろまでの期間を見ますと、実線を下回って点線が続いておりまして、位置関係が全く逆になっているということが見て取れるわけでございます。
7ページを見ていただきますと、今度は三大都市への人口移動の推移ということをグラフにしたものでございます。これを見ていただきますと、高度経済成長期においては、多くの人口が地方圏から都市圏へ移動した。民族大移動とも言うべき現象が起きているわけでございまして、これを経て日本の経済社会が大きく変貌したと言われております。1つは家族構造が大きく変化した。それまでは3世代家族であったものが、親と子からのみなる核家族へ分裂したと。それに伴って、例えば耐久消費財、いわゆる三種の神器みたいなものの需要増ですとか、住宅需要の急増といったことが、高度経済成長の好循環を需要面からサポートしたと言われております。
それから、都市部を中心に生み出された富が、うまく分配の制度に乗っかって地方にも還流をして、日本経済社会を全体として底上げしたということが言われております。要するに人は都市部に流れて、金は地方に流れたという構造がこのころはうまく回っていたということでございます。ところが、1970年代半ばを境に都市部への人口移動が急激に止まって、人と金の流れが滞ってしまったということでございます。
あと、このグラフを見ていただくと、近年、徐々に三大都市への流入の数が増えてきているというのが見て取れますけれども、これ自体はかつての地方を含めた底上げということではなくて、おそらく地方と都市部の間の二極化、今の景気回復、特に都市部を中心とした景気回復を背景に、二極化の現象が現れてきているのではないか、といったような傾向が見て取れます。
それから、1枚めくっていただきまして8ページでございます。今度は家計貯蓄率の推移でございます。高度経済成長期には、大体貯蓄率が20%を超えておりますけれども、その後低下していって、2005年度、直近では3.1%まで減少してきております。これは要因としては、ご承知のとおり、高齢化による老年者人口の増大に伴って、家計貯蓄の取り崩しが起こっているということだと考えられますけれども、資金の出し手である家計の貯蓄率が先細るということは、とりもなおさずわが国が資金不足に見舞われる恐れがあるということでございます。したがって、今後、経済社会を展望するに当たって、こういったことを十分留意していく必要があるということでございます。
以上見てきたように、高度経済成長を支えた基礎的条件がいろいろと変わってきて、量的拡大志向というのが難しくなってきているということでございますけれども、レポートの中では、技術革新による生産性の向上とか、潜在能力を高めることによって人的資本を充実させるとか、貯蓄の効率的活用とか、あと女性や高齢者の一層の社会参画といったようなことが、今後、社会の活力を支えていく上での鍵になるのではないか、また、真の豊かさみたいなもの、そういう質的なものが問われるようになるのではないかと、そういったようなことが指摘されております。
1枚めくっていただきまして、第3のキーファクトです。これは高度成長期以降、急激に家族の態様、形ですとか、その機能が変わりつつあるということでございます。9ページの資料を見ていただきますと、これは世帯数の推移でございます。各世帯の形態によって、どれだけの比率になっているかということを示しているわけでございますけれども、例えば先ほど申し上げたいわゆる夫婦と子どもの世帯、これが家族としてわりとイメージされてきたと思うのですけれども、実際にこのシェアは年々減ってきておりまして、2005年、直近で見てみますと、大体3割弱ぐらいでしかなくなっているということがおわかりいただけようかと思います。2020年になると25%程度ということで、4分の1に減少してしまうわけです。
これに変わってシェアが増大しているのが単独世帯でございます。2020年には、3世帯に1世帯は単独世帯になる見通しでございます。あと同じく2020年時点で見ると、夫婦のみの世帯、これが20%を超えてくるということで、単独世帯と合わせると、子どものいない世帯が5割を超えるということでございまして、今後の家族の基本イメージというのは、子どもがいる、いないということを考えると、子どもがいないということになるのかもしれません。そういった変化が現れてきているわけでございます。いずれにしても、家族類型が一層多様化していくということが言えようかと思います。
1ページめくっていただきまして10ページ、これに伴って家族間の変化がどうなっているかというのを見ていくために、まず、年齢別の未婚率の推移でございます。これを見ていただくと、1975年を境に未婚率が上昇する傾向が見て取れます。2005年時点で見ますと、男性の未婚率が30歳代前半で47%、40歳代後半でも17%ございます。女性の場合は同じく32%、8%となっておりまして、男性の未婚率のほうが高いわけですけれども、これは男性が余ってしまっている、その分適齢期の人間が多いということになるわけですけれども、要するに、過去は結婚は必ずするものといったような概念だったのが、最近は、選ぶものということで変化しつつあるという、そこの意識の変化がやはりあるのだと思います。
それから、1枚めくっていただいて11ページですけれども、家庭の役割に関する意識はどうかというのをアンケートをとったものでございます。家庭の役割として、例えば「家族の団らん」とか、「安らぎの場」と答えている人は6割程度いて、これは常識的な反応と思われますけれども、やや驚くべき比率としては、「子どもを生み、育てる場」とか、「子どもをしつける場」とか、「親の世話をする場」といったようなものが比率としてはかなり低いものになっていまして、そういう意味では、家族によるケア機能の低下といったようなことが指摘されておりますけれども、それが深刻化しているといったようなことが指摘できようかと思います。
それから、12ページを見ていただきますと、充実感を感じる時はどういう時かということでございます。「家族団らんの時」と答えている割合がコンスタンに5割弱ございますけれども、時代とともに増えてきているのが「友人や知人と会合、雑談をしている時」とか、「趣味やスポーツに熱中している時」、あと「ゆったりと休養している時」といったような回答が増えてきております。人間関係というのは、家族という器の内から外へとだんだんしみ出していて、家族構成員の間の絆というか、結びつきが弱まりつつあるのではないかといったようなことが指摘されております。社会学では「個人化の進行」といったようなことで呼ばれていますけれども、そういった傾向が見て取れるアンケートであろうと思われます。
それから、13ページを見ていただきますと、手助けが必要になった場合の頼む相手ということで、最初に頼む相手と次に頼む相手ということで聞かれているわけですけれども、最初に頼む相手が親や子が大多数、次に頼む相手としては、親子以外の親族ということで、これが半数ぐらいを占めているわけですけれども、最近の傾向としては、市町村がわりと次に頼む相手として増加してきているということが見て取れます。家族の態様なり、家族がこれまで果たしてきたケア機能というものが、若干低下して、役割が移ってきているのかなというようなことが見て取れようかと思います。
14ページ、今度は家族形成の過程の節目になる結婚とか出産とか子育て、あと死亡までの平均的な年齢を家族周期という形でモデル化をして、ちょっと長めに、江戸時代、大正時代、現在との間で比較を行った研究の結果でございます。結婚してから一番末のお子さんを出生するまでの出産期間というものを見てみますと、江戸時代は19.7年という相当長い期間だったのが、現在ではわずか4年ということでございます。もちろん出産数が減っているということもございますけれども、現代においては出産適齢期みたいなものが意識されるようになったということが背景にあるのではないかと言われております。
それから、扶養期間が終わって、一番下のお子さんが成人してから自分が死ぬまでの期間、いわゆる「空の巣」期間と呼ばれておりますけれども、その期間について見てみますと、男性では江戸時代1.5年という大変短いものだったのに対して、現在では25年、女性では0.3年に対して現在は32年ということになっております。したがって、現在は子を産み育てたあとの第2の人生が非常に長いということで、こういったことにあわせて家族設計のあり方を見直すべき時期に来ているというようなことが言えようかと思います。
以上見てきたように、意識の面でも実態面でも戦後家族モデルを前提とした家族のありようとか家族の意識というものが、改めて問われてきているというようなことが見て取れようかと思います。
それから、次のキーファクト、これが日本型雇用慣行の揺らぎということで、家族と並んでこれまでの日本で強いアイデンティティーの中心となっていた「会社」という組織に対する個人の意識とか関係が変わりつつあるという話でございます。15ページを見ていただきますと、就業形態別の労働力人口の推移でございます。自営業者数と雇用者数の動きが書かれておりますけれども、高度成長期において雇用者数が飛躍的に増大をして、現在、80%にまで達して、どんどん増えてきている。他方、農家などの自営業者の割合はどんどん低下をしていって、現在は10%台の前半になっているということでございます。
先ほども申し上げた都市部への人口移動を背景に、急激なサラリーマン化が進んで、それが進行してきたということがおわかりいただけようかと思います。
1枚めくっていただきまして16ページでございます。雇用形態別の雇用者数の推移ということでございます。1970年代半ばを境に正規の雇用者割合が低下するようになって、直近では6割強ということになっております。他方、パートとか派遣労働者などの非正規の雇用者割合が徐々に増えてきておりまして、3割程度にまで上昇をしてきております。この統計は直近のデータがまだちょっととれませんので、直近のデータの見えるものを次のページ、17ページにつけさせていただいております。若干カバレッジは低いのでございますが、それで見ていただくと、2000年に入ってからの直近2005年まで、非正規の割合が徐々に徐々に上昇してきているということが見て取れるわけでございます。こうした変化の背景には、やはり経済成長の鈍化とともに、多くの企業が日本型の雇用慣行を維持しがたくなったというような事情があるということが指摘されております。
それでは、こういったことを背景に、意識の面でどのような変化があるかということを見ていただくということで、18ページを見ていただきますと、まず会社に対する帰属意識でございます。これを見ていただいてもわかるとおり、会社に対する帰属意識が薄れていく傾向が見て取れようかと思います。
それから、19ページ、仕事に関する価値観でございます。理想とする仕事は何ですかという質問なのですけれども、「仲間と楽しく働ける仕事」というのが第1位になっております。わりと意外なのは、「働く時間が短い仕事」というのはあまり支持をされていません。右から3つ目でございます。働く時間の長短よりも、「仲間」とか「楽しさ」というようなことがキーワードになっているということなのだと思います。
もう一つは、「専門知識や特技が生かせる仕事」というのもかなりのウエイトを占めております。専門的資格を得て、手に職をつけようという傾向が強まりつつあるというようなことでございまして、見方を変えれば、会社離れが進んでいるというような傾向が出てきているのかなと思います。
ただ、こうした傾向の一方で、近年の経済状況を反映しているのだと思われますけれども、左から4つ目の「失業の心配のない仕事」というものの比率がわりと最近ぐっと伸びてきておりまして、これ自体は若干新しい最近の動きであって、注目されるかなと考えております。
20ページ、「仕事」か「余暇」かを巡る意識の変化でございます。高度成長期には仕事志向が非常に強かった。いわゆる会社人間というものが多かったわけですけれども、現在は余暇を重視する傾向、仕事と余暇の両立を意識する傾向が顕著になってきておりまして、これも経済性、効率性一辺倒ではなくて、ある意味、感性重視という時代が来たと言われている一断面を表しているのかなと思います。
21ページでございます。フリーターについてのデータでございますけれども、フリーターの増加、1980年代を通して徐々に増えて、2000年代に入って、若干最近減少はしておりますけれども、高い水準で高どまりをしているわけでございます。こういったフリーターの固定化によって、社会の階層化とか所得格差の拡大といった懸念が強まっていくことが懸念されるわけでございます。こうしたフリーターが増えていく一方で、先ほど申し上げたように、専門知識を生かした仕事を持ちたいという意識を持つ人も増えてきておりまして、ある意味、就労構造に二極化が起こっているというようなことがあるのかもしれません。
それから、22ページ、労働力率の推移でございます。15歳から64歳までの生産年齢人口において働いている人の割合、男性の労働力率は85%程度で、ほぼ一定している一方で、女性の労働力率を見ていただきますと、高度成長期、これは専業主婦化を反映して低下傾向にあって、1975年に50%、これが戦後のボトムなのですけれども、その後反転して、現在は60%を若干超えるというような水準になってきておりますけれども、ただ、このレベル自体、まだ男性に比べて低い水準になっております。
65歳以上の高齢者の労働率を見ていただきますと、高齢者数の増加スピードが大きいということで、比率としては一貫して低下基調にございまして、現在は20%程度にとどまっているわけでございます。いずれにしても、今後、女性、高齢者の就労が進むことが期待されているわけでございます。
以上見てきたとおり、日本型の雇用慣行が揺らいできていて、これに伴って会社にこれまで依存してきた諸制度の再点検が必要になってきているということが言えようかと思います。
それから、第5番目のキーファクト、これが日本人の価値観、ライフスタイルの変化ということでございまして、多様化とか多重化という形で現れてきているわけでございます。
23ページ、消費のスタイルというのを見ていただきますと、品質とか値ごろ感とか、安全性を重視して買い物をしますよという、これ自体は常識的なのですけれども、日本人に特有だと言われている話としては、1つは無名メーカーのものより有名メーカーの商品を買いますよという行動と、一方、自分のライフスタイルにこだわって商品を選ぶという行動が、無意識のうちに同居しているということが指摘されます。ですから、有名メーカーの商品を買ったほうが無難でありますから、いわば、寄らば大樹といったような感覚がある一方で、選択の自由がちゃんと自分にあるということが重要だということでございます。
例えば、バッグを買う場合に、ルイヴィトンのバッグであれば無難なのだけれども、色に凝って自分らしさを出すのだといったような行動様式が日本人には見られるということが言われていまして、3年ほど前に日本人アーティストがデザインをしたルイヴィトンのマルチカラーというバッグが非常に売れて話題になったのですけれども、そういった傾向も日本人のこういった心理をうまくつかんだ現れではないかと言われております。
今後、公共政策を打ち出していく時に、こういった心理をどう考えていくか。例えば問題状況をきちんと設定した上で、それへの対応策を例えば選択肢の形で複数示すといったようなアプローチのほうが好まれるのかもしれません。
それから、24ページを見ていただきますと、家計消費支出のおける近年の特徴ということで、家計の名目消費支出額自体は全体として低下をしてきているわけですけれども、その中で「健康(H)」「情報(I)」「教育(E)」「リフレッシュメント(R)」「アウトソーシング(O)」、5項目、HIERO化というふうに呼ばれていますけれども、こうした支出項目が増加しているということで、これらの項目に共通して見られる気分というか傾向というのは、例えば「快適」とか、「利便」とか、「啓発」とか、「癒し」とか、「開放」「自由」といった感性にかかわるようなものでございまして、これも一種成熟化社会の一断面を表しているというようなことではないかと考えられます。
それから、25ページ、「未来志向」か「現在志向」かについての意識の変化を見ていただきますと、「未来志向」の線と「現在志向」の線が、1975年から90年ころの間を境にして、X字型になってきておりまして、かつては高度成長期、「未来志向」が強かったわけですけれども、これが右肩上がりの終焉によって、経済のパイの持続的拡大が期待できなくなったことが反映して、「現在志向」が強くなってきていると。言い換えれば、持続可能性という考え方が腑に落ちないというようなことを表しているのかなと思います。
ただ、直近の傾向を見ていただくと、「未来志向」の「貯蓄・投資など将来に備える」といった数字がやや反転をしてきている傾向が見て取れまして、これは将来に備えるという将来の不安みたいなものが若干反映してきているのかなという傾向がここ何年間か見て取れるということでございます。
それから、26ページ、人間関係に関する意識の変化というNHKの調査を載せてございます。親せき、職場、近隣のつきあいというものの中で、どういうつきあい方を好みますかというのですけれども、全面的なつきあい、深いつきあいというものが見られなくなって、従来型の結びつきが弱くなってきていることがうかがわれるわけでございます。
ただ、こういった人間関係の希薄化の一方で、「実像」のレポートの中では、インターネットなどを媒介とした新たな緩やかなネットワークが広がりつつありますよというような指摘も行われております。例えばネット上のコミュニティー型の会員制サービス、ソーシャルネット・ワーキングサービスというものが最近普及してきておりますけれども、例えば利用者数を見ると、昨年の3月末で700万人を超えるような規模になっていると言われておりまして、例えばその中の日本最大の会員数を持つミクシィという会社ですけれども、昨年9月に東証マザーズに上場して、若干話題になりましたけれども、こういったネット上のつながりみたいなものについては、今後新しい社会の動きとして注意深く見ていく必要があるのではないかと思われます。
それから、第6のキーファクトでございます。これが社会と公共のかかわり方についての意識に関するものでございます。27ページを見ていただきますと、「何か社会のために役立ちたいと思っている」というふうに回答している人の割合が上昇してきております。ある意味、共助の意識といいますか、そういうものが広がってきている傾向が見て取れるわけでございます。経済性とか効率性一辺倒では限界があるのではないかといった意識が下敷きになっているのではないかと思われます。
もう一つ、別のデータで日本人の社会意識を見てみますと、28ページでございます。社会のために役に立ちたいと思う人は増えてきているわけでございますけれども、世の中とのかかわり合い方を尋ねた調査によると、「自分の生活との関わりの範囲で自分なりに考え、身近なところから世の中をよくするように心がけている」、それから、「決められたことには従い、世間に迷惑をかけないように心がけている」という人が多くて、自分に近い身近なところでの公共的な意識が強く見られる一方で、社会全体レベルでの公共的意識というものはあまり観察されないというようなことは見て取れるわけでございます。
日本人の意識としてよく指摘されることとして、内と外の意識の峻別みたいな意識構造があると言われていますけれども、そういったものが背景に潜んでいるのかなというような感じがいたします。
これをもう一つ表す資料として29ページを見ていただきますと、問題の領域に応じて、日本人が社会的にどう行動するかということを調査したものでございますけれども、問題の領域が全国レベルのものから職場レベルのもの、さらには地域レベルのものになるにつれて、次第に事態を静観する。言い換えると、他人に寄りかかるという回答割合が低下していくということになるわけでございます。「自ら行動する」という回答割合が増えていきまして、もちろん、地域レベルの問題のほうは全国レベルの問題よりは対処しやすいという面はございますけれども、自分に近い問題については自ら行動するけれども、それ以外のものについては静観して、ほかの人に寄りかかる、他者に寄りかかるといったような傾向、意識を読み取ることができるかと思います。言い換えると、社会の成熟化とともに、次第に社会への意識そのものが高まってきているわけですけれども、その意識に上ってきている範囲というのは、自分により近い世界というようなことが日本人については言えるのかもしれません。
こういったことは、今後、税を考えていく上でもけっこう重要なポイントになると思います。例えばマンションの共益費は払うけれども、税は払いたくないといったような意識の落差ですとか、例えば年金問題の保険料と税との関係をどう考えるのかといったような話についても、参考になる話かなと思われます。
それから、もう一つ、日本人の社会意識という点から、ボランティア活動に関する関心が最近高まっていると言われておりますけれども、30ページを見ていただきますと、ボランティア活動に「現在参加している」という人が3割強、「そのうち参加したい」という人が4割程度おりまして、何らかの形でボランティア的なものに関わろうと考えている人が相当程度いるわけでございます。これは社会の成熟化とともに、次第に自分にとっての内の領域がやや意識の中で拡大していって、これまで公とされた領域にまで若干広がってきているというようなことなのかもしれません。この「実像」のレポートの中でも、公の中でも2つあって、「政府が担う公共」と「民間が担う公共」というものがあって、特に後者、「民間が担う公共」については、今後大変重要になってくるといったような指摘がなされております。
それから、31ページ、各種組織、制度をどの程度信頼しているかという調査でございます。これによりますと、最も信頼しているのはお医者さん、そのあと警察官とか学校の先生、市役所の公務員といったふうに、だんだん自分から離れていくと信頼度が低下をしていく。あと、「わからない」と回答した人の割合が、信頼度が低いものであればあるほど上昇していくという傾向が見て取れるわけでございます。距離が遠くなればなるほどわかりにくいので、信頼できないということでございまして、国の側から見ると、国に対しては信頼度が低い存在ではあるけれども、他方、先ほどから見るとおり、寄りかかる対象ということにもなっているわけでございまして、国に対する日本人の意識というのは、一種のねじれみたいなものが生じているのではないかというようにレポートの中では指摘されております。
次、第7のキーファクトが分配面での変化ということでございます。33ページを見ていただきますと、OECD加盟国の中でのジニ係数を比較したものでございます。これを見ますと、日本は若干高めというような感じになっておりますけれども、34ページ、所得のジニ係数の推移、これもけっこうよく出てくるグラフでございますけれども、再分配所得のジニ係数を見ていただきますと、1981年がボトムで、その値が0.3143ですけれども、その後、1981年を境に上昇しておりまして、現在は0.3812ということになっております。これをもって日本の所得分配状況の不平等化が進んでいるのではないかという指摘もございますけれども、これは必ずしも適当な指摘ではないということが、例えば経済学者の方からの反論としてなされております。
35ページをめくって見ていただきますと、年齢階級別の世帯分布でございます。ジニ係数が相対的に高いのは高齢者層でございまして、この高齢者層が増加してきているために、全体のジニ係数が増えているのだという説明が行われているわけでございます。
ただ、若干留意すべきは、高齢者層のジニ係数はやや低下傾向にある一方で、若年者層のジニ係数が上昇してきているということが顕著に見て取れます。したがって、それぞれの年齢層をミクロ的に見ると、何らかの分配面での変化が進行している可能性がございます。特に資料の対象は、フリーターなどは含んでいない2人以上の一般世帯を対象とした調査になっておりまして、このフリーターなども含めてその分配を見ると、さらに乖離が進んでいる可能性があるのではないかと思われます。若干、その点は要注意かと思います。
それから、36ページ、親と子の職業性ステータスの継承性というものでございます。オッズ比と書いてありますけれども、オッズ比が高いほど親と子の仕事の関連性が強い。職業が出自によって影響を受けやすいということを示す関係を示したグラフですけれども、1975年調査までは、全体的に右肩下がりになっておりまして、要するに、親の仕事と子どもの仕事が異なり、社会の流動化がそれまで進んできたわけでございますけれども、1975年調査を境に、このグラフが横ばいになってきております。ある意味、社会的な流動化、モビリティーがやや鈍化してきているのではないかといったようなことをこの傾向は示しているのではないかと思われます。
37ページ、収入層別の階層帰属意識調査でございます。「あなたはどの社会階層に帰属していると思いますか」ということを尋ねた結果なのですけれども、どんな収入階層にあっても、大体日本人というのは中程度、中の下ぐらいですよと答える傾向があるということなのですけれども、1975年が特に典型で、どんな4つの収入層でも、すべて中の下で一致しているわけですけれども、1995年の調査を見ていただくと、意識が二分化していて、高収入層で、自分は中の上ではないかと思う人の割合が高くなっているということでございまして、やや「勝ち組」「負け組」的な意識の二分化が起きているのではないかというのが見て取れる調査になっております。
それから、38ページ、これは収入や財産の不平等に関する国民の意識を調査したものでございます。まず、実線のほうを見ていただきますと、収入や財産の不平等に対する満足度、これが少ないことに対する満足度が落ちてきているということで、不平等に対する不満感が徐々に大きくなってきているというのがわかるわけですけれども、他方、点線のほうですけれども、こういった不平等が少ないということをどの程度重要視するかという比率です。これは、90年代を通して収入や財産の不平等が少ないことを問題視する意識自体が急速に低下をしてきて、これ自体は、おそらくある程度豊かな暮らしになってきたというようなことを反映しているのだと思うのですけれども、1999年を境にまたこれが若干頭をもたげて、増えてきているということが見て取れます。したがって、不平等を問題視する傾向がやや高まってきているということで、これ自体も経済状況、意識みたいなものがやや変わってきているというようなことが見て取れようかと思います。
それから、39ページ、地位と報酬に関する意識でございます。これは黒く塗ったほうが、「高い地位や報酬を得ることが望ましいと思われている人は誰ですか」ということで、努力をした人が高い地位や収入を得ることが望ましいと考えている人が全体の6割を超えるというのが、直近、平成18年の調査で明らかになっております。「実績をあげた人」という回答もわりと多いのですけれども、これ自体は若干減少してきているわけでございます。
現実はどうかと問われると、現実には努力しても報われないという意識の強まりが見て取れようかと思います。少なくとも「努力」ということがキーワードであることは間違いないと思われます。「誰でも同じくらい」というのが右から3番目にありますけれども、この回答がほとんどないということで、結果の平等みたいなものに対しては、やや懐疑的な気持ちが強いのかなと思われます。
40ページを見ていただきますと、「機会の平等」に対する意識調査の日米比較でございます。「機会が平等であれば公平な社会だと言えるか」と質問に対して、アメリカでは圧倒的に「イエス」と答える人が多いわけですけれども、日本は全体として見ると、大体半々ぐらいというような感じでございまして、「機会の平等」一辺倒にはなりきれないという感じでございます。「機会の平等」を重視するにしても、結果の不平等というものを許容できる範囲にも限界があるということで、そこは「結果の平等」「機会の平等」、ある意味、そこそこということでございます。ただ、行き過ぎた結果の不平等ということについては、懐疑的だというようなことが言えようかと思います。今後、こういった点を考慮に入れて、いろいろな政策を考えていくことが重要だということがレポートの中にも書かれているわけでございます。
それから、第8のキーファクトは環境負荷に関するものでございますけれども、環境といっても、ここに書かれているとおり、問題領域の裾野は非常に広いわけです。レポートを見てみますと、環境というものを社会の成熟化との関係でとらえて、経済一辺倒ではなくて、環境と経済の両立とか、社会経済の持続可能性というような視点を十分に織り込んだ上で政策を作っていく必要があるというようなことが指摘されているわけでございますけれども、日本人の環境に対する意識調査というのを見てみますと、42ページ、43ページをご覧いただきたいのですが、いずれを見ても、環境に関して「よくわからない」とか、「どちらともいえない」といったような回答が非常に多い。全体の3分の1も存在するということで、諸外国に比べて、環境問題について、ある意味、自分の問題としてあまりとらえられていないのかもしれないという傾向が現れているわけでございます。
いずれにしても、環境について、今後、社会的費用を要するということを認識するとともに、自らの問題としてとらえる意識が広がっていくことが望まれるということだと思います。
それから、次にグローバル化の進行というのが第9のキーファクトでございます。まず、45ページに経常収支の推移が載っております。これを見ていただくと、一つ重要な点は、貿易サービス収支と所得収支が近年ほぼ同様の黒字になってきているということでございます。いわゆる成熟化した債権大国ですと、貿易収支は赤字化しているというパターンを示すことが多いと学説などで言われるわけですけれども、日本の場合は、物でも対外投資でも食べていけるという、ある意味特殊な立場になっているということがおわかりいただけようかと思います。
それから、46ページを見ていただきますと、貿易構造です。これはアメリカからアジア、特に中国に中心が移ってきているということが端的におわかりいただけるかと思います。さらに、垂直型から、いわゆる製品を輸入して製品を輸出するという水平型に転換してきていて、生産工程の国際分業化というすみ分けが起こってきているということがおわかりいただけようかと思います。
それから、47ページ、対外直接投資の推移でございます。これはバブル期に海外の資産を買いあさったというようなことで、わりと大きく数字が伸びておりますけれども、バブル期を除くと、趨勢としては、製造業が例えばアメリカ、ヨーロッパ、アセアン諸国、中国に進出するという形で順調に伸びてきております。
それから、48ページ、対外直接投資でございます。これは1件の個別案件の大きさによってかなり変動幅が大きいのでございますけれども、1990年代半ば以降になってようやく増加をしてきているということでございます。今後、日本の貯蓄不足みたいなことが慢性化することが予想されるわけでございまして、その観点からも、海外からの対外直接投資を呼び込むことがますます重要になってくるという可能性がございます。
それから、49ページが特許等の使用料の対外的受払の推移でございます。これも一番右側を見ていただきますと、2003年についに受取超ということになっておりまして、支払よりも特許の受取が多くなったということで、先ほど言った物とか資本だけではなくて、ノウハウの面でも食べていける、稼いでいけるという国に日本がなってきているということがおわかりになっていただけようかと思います。
あと50ページ、グローバリゼーションに対する意識調査みたいなことでございますけれども、ポジティブなとらえ方がある一方で、犯罪が増えるとか、競争志向が強まって弱者が切り捨てられるといったネガティブなとらえ方もけっこう日本人はしていて、グローバル化に対する意識が必ずしも開かれたものになっていないというようなことが見て取れようかと思います。
以上見てきたとおり、物、資本、ノウハウという多面的な相互依存関係が強まる中で、今後、こういったグローバル化をどういうふうにとらえて、わが国の位置づけを考えていくかというようなことが課題になるということを、レポートの中では指摘しているわけでございます。
それから、最後の項目、10番目が深刻化する財政状況でございます。先ほど内閣府のご説明の中で、フローベースで最近の財政状況が好転してきているという姿が見ていただけたかと思うのですけれども、ただ、なかなか予断を許すような状況ではございませんで、例えば52ページを見ていただきますと、国の一般会計の歳出総額と税収規模の比率とか、公債発行額と歳出規模の比率が載っておりますけれども、過去に比べてまだまだ財政状況は悪いということがおわかりいただけようかと思います。
1枚めくって53ページを見ていただきますと、ここ5年間で企業収益も2桁増になっていますし、税収も伸びてきておりますので、基本的には公債発行額、公債依存度は減ってきておりますが、10年前と比べてもまだまだ高い水準だということが端的に見て取れようかと思います。
それから、54ページを見ていただきますと、これが国・地方を合わせた財政収支と長期債務残高の対GDP比の推移でございます。特にストック面で見てみますと、長期債務残高に対するGDP比は、1990年代においてグググッと上昇してきているというのがおわかりいただけようかと思います。現時点でも150%近い高水準になっておりまして、55ページを見ていただきますと、国際比較が載っておりますけれども、諸外国に比べて日本は圧倒的に残高ベースで見て悪い状態になっているわけでございます。
それから、部門別の資金過不足の推移を見ていただきます。56ページでございます。4つの部門、家計、企業、海外、政府というので、それぞれ資金過不足の状況を対GDP比で示したものでございます。通常、家計部門は資金の出し手、企業は資金の取り手であるわけですけれども、近年においては、貯蓄率の低下を背景に、家計部門の比率が大体1~2%という低水準になっている一方で、企業部門は資金の出し手になっているという状況になっております。政府部門は、先ほど申し上げたとおり、大幅な資金不足が続いているということでございます。
今後、景気回復がどんどん進んで、資金需要が伸びていくということになると、経済全体としてはクラウディングアウトが問題になるおそれがあるということが指摘されているわけでございまして、そういう意味からも、財政再建が急務だというようなことが言えようかと思います。
それから、57ページでございます。国民負担率の推移でございます。租税負担率自体は、バブル期において税収が伸びたことを反映して、1990年にかけて上昇したのち、減税ですとか景気の悪化による税収の落ち込みによって、租税負担率が低下をして、最近また税収増に伴ってやや上がってきているというような波を描いておりますけれども、他方、社会保障負担率は一貫して上昇をしてきているということでございまして、そういう意味では、租税機能ではない公的負担構造になりつつあるというようなことが見て取れるかと思います。したがって、社会保障の部分も含めた受益と負担ということを、今後考えていく必要があるということだと思います。
それから、最後のページ、OECD諸国の国民負担率ということで、日本の水準を見ていただきますと、基本的に最も低い水準のレベルにあるということが一目でおわかりいただけようかと思います。
以上、駆け足でご説明させていただきましたけれども、以上申し上げた10のキーファクトを基礎に、2つの軸というものをレポートの中では提示をしておりまして、1つは、量的拡大から質の充実という時代の流れ、変化ということを指摘しております。要するに、経済性、効率性一辺倒の量的拡大の時代とは異なって、それが困難な中で、社会の成熟化の中で、例えば「感性」とか、「アメニティー」とか、「心地よさ」といったような質が問われる時代になってきているのではないかというのが指摘の第1、もう一つの軸としては、標準から多様へということで、例えば家族についてのモデル、それから就労面での日本型の雇用慣行といったものが崩れてきて、それを前提に今後の社会を考えていくわけにはいかない。新たな変化に対応していかなくてはいけないというようなことが、2つの変化の軸として見られるということを指摘しております。
これに対応して、今後の政策なり経済社会制度のあり方を考えていく場合の方向感、指摘として5点ほど指摘されております。
1つが、社会の新しいダイナミズムを重視することによって、社会の活力を維持しつつ、持続可能な質の高い経済社会の実現を目指すべきだというのが第1点でございます。
第2点目としては、選択の自由と責任ということが言われております。「多様性」がキーワードになるこれからの時代に、標準的なライフコースみたいなものがなくなるわけでございまして、そういう中で、社会経済の諸制度を設計する上で、個人による自由で多様な選択を可能とするような工夫、これをどう考えていくかといったようなことが2番目の柱、方向性というようなことが言えようかと思います。
3つ目は機会の平等という視点でございます。量的拡大が見込めなくなって、多様化が進んでいく中で、今までのような分配原理、結果の平等ということが維持できなくなってくる中で、機会の平等という点が今後強調されていくわけだと思いますけれども、そういったことに伴って、例えば潜在能力をどのように培っていくとか、セーフティーネットみたいなものを、どういうふうに適切に敷いていくかといったようなことが重要になるということが指摘されております。
4点目がグローバル化を生かすということでございまして、これは先ほど説明したとおり、多様性を認めながら、世界の中で共生といったような視点も考えながら、日本の強みというものをそういう中でどうやって生かしていくか、といったことが重要になるということかと思います。
最後に、社会と公的部門の将来像ということでございまして、これは個人、家族、公的部門の間の役割分担みたいなものを考え直していくことが重要であるというようなことがレポートの中にも指摘されているわけでございまして、公的部門の役割とか守備範囲、それの費用負担水準といったようなものを幅広く議論をしていって、国民に参加と選択を求めていくべきであるといったようなことが指摘されているわけでございます。
以上、駆け足でございますけれども、これからの議論の基礎的な資料ということで、ご紹介させていただきました。どうもありがとうございました。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
いろいろ多岐にわたる論点で、税調の先輩たちもずいぶんいろいろな勉強をしていたのだなという印象を持つわけで、感嘆しておるわけです。
ご質問、ご意見等もあろうかと思いますが、本日は、私たちがこれからどういうテーマを取り上げていくべきかということを議論していただきたいと思っておりますので、ご質問やご意見等はそれに絡めてご発言いただきたいと思います。自由討議の中で今のご質問やご意見等を含めながら、今後我々として何を議論していくべきだろうかということについてのご意見を承りたいと思っております。
それに関連しまして、私が大体こういうふうにやったらどうかと考えていることの若干を、口頭ですけれども、ごく簡単に申し上げたいと思います。
先ほどの資料にもございましたように、これは国会での演説や質問等でも常に言われていることですけれども、本年の秋以降に、具体的、本格的な議論をする。そこではそれぞれの税の役割とか、これからの日本の税制のあり方について、かなり大きな規模で、大きな視野で議論をしたいということが言われているわけであります。それまでの間ということでありますけれども、秋になってからやり出したのでは、そういう大きな問題はなかなか解決できないわけですので、調査分析をまず始めたいと思いますが、これ自体は直接、具体的、本格的な討論ではないと思います。しかし、いつでもそこへ入れるように、そういう形の問題提起をしていただいて、そういうことを調べておれば、秋以降の議論も実のあるものになるという形の調査分析から手をつけていただきたいというのが、まず全体的な私の気持ちであります。
そういう点については、切り方はいくつもあるかと思うのですけれども、とりあえずは、やはり先ほどからご説明のあった経済社会の構造変化というものが、税制に対してどういうインパクトを与えているだろうか、それをどういうふうに受け取るか、どう対応すべきかといいますか、社会的あるいは経済的な構造変化はどういうものであって、それが税制にどういう問題を引き起こしているか、といったようなことが1つ目の領域として、あるいは視点としてはあるだろうと考えております。
2つ目は、税制によって経済や社会構造にどういう形で影響が及ぶのだろうか、あるいは人々の行動に対してどういう影響が及び得るだろうかということを、これまでのいろいろな機会での体験を振り返ることによって、検証していきたいと考えております。
3つ目は、税制論議におきましていつも問題になることでありますけれども、いろいろな問題が出てきていると思いますので、それらはある意味で租税原則というのを見直すことになる。今日的な意味で租税原則を見直すことが必要になってきていると考えておりますので、そういったことも議論をしておきたい。
おそらく年度末、今年度自体としては、諮問にもありましたように、経済の活性化とか喫緊の課題、それから安定的な財源ということもありますので、安定的な財源をどうやって確保できるかとか、あるいはそれぞれの税の役割をどう決めるかといったような具体的な問題になると思います。
あるいは、これは前回の総会の際に委員からのご提言もありましたが、やはり格差問題というのもその中で重要な地位を占めるのではないかというお話もありましたので、そういったやや政策課題に対する回答については、時期的にいえば秋以降に中心を置いて議論がされるとスケジュール化されているようでありますから、それへの前段階として、今言ったような3つの領域について、それが秋以降に出される結論に、あるいは議論に生かされるということを前提に、今からいろいろなテーマについてご議論をしていただくことが必要ではないかと考えておりますので、一応、そういったような形でお願いしてみたい。
そういう意味で、どういうテーマをどういうふうにやっていくか、最初どういう形で調査分析に手をつけるか、その体制をどうするかといったようなことについてのご意見をぜひお伺いしたいと考えております。どなたからでも結構でございますけれども、先ほどの説明に対するご質問を絡めていただいてももちろん結構でありますから、ご意見をよろしくお願いしたいと思います。手を挙げていただければありがたいと思いますが、いかがでしょうか。
〇井戸特別委員
34ページにもジニ係数の推移の表があったと思いますが、それで見てみますと、税の再配分機能がすごく落ちています。これは格差問題とも関連するのですけれども、税の再配分機能というのをどう考えるかというのは、非常に重要な問題だと思うのです。
落ちている原因はいくつかあるのですけれども、所得税の最高税率を落としたこととか、あるいは相続税をまけすぎたとか、そういう問題がありまして、その辺の税の再配分機能というのをどこまで考えるべきなのか、税でどこまでそれを取り扱っていくべきなのか、これは非常に重要な課題だと思います。この点は格差に対して税制でどういうふうに対応していくかということも絡んでくると思います。それから、先ほど会長がおっしゃった経済の活性化ということを仮に考えるにしても、公正とか平等ということとの税制の持つ機能との関連で、どこまでやることが適当なのかという議論も詰めておく必要があると思うのです。単純に税はもう再配分機能なんか要らないのだということには絶対ならないと思いますので、そういう意味では、どこまでの機能を税に期待するのが適当なのか、その辺の議論をぜひ詰めておく必要がある。
それから、そのためには、今、再配分機能を持っている税制として考えてきた所得税だとか相続税だとか、相続税なんかにつきましても、いわば人生で稼いできた所得の総決算だというふうにも考えられるわけですね。そういう面を含めて、所得税の機能というのをどういうふうに考えるのか。これも非常に重要な課題ではないか。このように思いますので、その点、ご議論を詰めていただけますと幸いかなと思っております。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
今お話がありましたように、所得税の問題あるいは相続税の問題と、いわゆる格差問題等の間には、かなり密接な関係がある。そこを議論しないと問題が解けないだろうということは、前回もたしかご指摘の発言があったところでございますけれども、ただいまのご意見は十分尊重して審議していく必要があると私も考えております。
どうぞ、お願いします。
〇田近委員
そのことなのですけれども、したがって、会長が今3つ論点というか、方向性を指摘されたのですけれども、せっかくなので、34ページの図をどう読むかという私なりの解釈を、今の井戸さんの指摘を踏まえて述べさせてもらいたいのですけれども、34ページの所得のジニ係数ということで、井戸さんがおっしゃったのは、一番上に当初所得で、下に税による再分配で、この幅が近ごろは狭くなったではないかというご指摘だと思うのですけれども、実は、おっしゃられた1981年ぐらいから90年にものすごく再分配効果が起きました。90年ですけれども、88年、89年に実は消費税が入りました。
この間に何が起きたか、実はこの間に何をずっと議論したかというと、まさにこの差が開きすぎたのが問題だと。なぜ起きたかというと、この間にインフレが起きたわけです。しかも財政再建しなければいけなかった。財政再建をして、消費税が入らなかったという局面なのです。インフレがあって、したがって何をしたかというと、所得税の諸控除の見直しをしなかった。つまり、インフレがある部分、実は、インデクセーションと言いますけれども、その部分は大きくしていってあげないと、インフレ以上に税がダーッと上がってしまうわけです。したがって、隠れた増税というのがこの間激しく起きた。これを何とかしなければいけないというので、昭和63年の税制の抜本改革というのがあって、そして、消費税が入ったと同時に景気がよくなったということがあるのですけれども、だから安易にこの差が広がればいいというのは逆で、この10年間に日本の税制で死にもの狂いで苦労していたのは、香西先生がいるから、その辺はフォローアップしていただければいいのですが、オイルショック以降、日本の経済が減速した。そこで税収が減ってきた。財政再建しなければいけない。一方で消費税を入れましょうという議論に対して、それはできない。したがって、所得税の見直しをしない。それで見かけの、増税とは言わないのだけれども、激しい増税が起きた。その構造を直すということで抜本改革をしていったという流れがあるので、決してこの差が広がったからいい税だとか悪い税――これ自身が問題だというので、死にもの狂いの改革が抜本改革であったということを私は申し上げたいということです。したがって、だからこそそういう調査をする必要があるだろうと思います。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
ほかに、お願いします。
〇林委員
構造変化というのをお伺いすると、税を考える時に、トレンドをそのまま伸ばすような形で税制を考えるのか。つまり、社会経済構造が変わっているので、さまざまな制度がそれに合わなくなってきている。税制もその一つだと。だから、トレンドに合わせて税制を変えていくという話と、それから、トレンドそのものを少し変えていこうとか、あるいは、そこまでいかなくても、例えば先ほどご説明にあったように、家族のケア機能が低下しているといった場合に、低下しているということを前提にして制度を構築するのか、あるいは家族のケア機能をもう少し高めようという形で構築していくのかによって、ずいぶん違うと思うのです。
今、会長がおっしゃったように、社会経済構造が変わっているので、税が制度疲労を起こしているという部分もあるし、あるいは、税は政策税制といいましょうか、インセンティブを与えるといったことが果たして本当に効果があるのかということと、ちょっと切り分けて考えなければいけない部分があって、そこを一緒に考えてしまうと、ちょっと議論が混乱するのかなと。分析もそこはやはりきちっと考えなければいけない。
例えば、会社法制にしても、要するにグローバル化が進んでいるから会社法を変えよう、それに対して税がまだ追いついていないので、税制も変えていこうという話と、もう少し投資にインセンティブを与えるといったような、組織再編に影響を与えるといったような、ちょっとその辺が違ってくると思うのです。
それと、再分配機能ですけれども、先ほどの価値観の多様化というようなことを考えて、所得よりもむしろ生活の質だというような話になってくると、果たして所得税でいいのかという問題が出てくるわけですね。ですから、そういうようなことも考えていかないといけないし、例えば再分配といっても、やはり一方で財政の受益があるわけですから、受益と負担で、34ページは社会保障を含めた再分配効果ということですけれども、当然、意図せざる分配効果というのがあるわけで、そこらを考えていかなければいけないのではないかという気もするのです。それはとりわけ、国税のあり方と地方税のあり方を考えた時に、特に地方税の場合は受益と負担を対応させるといったような考え方が必要だとするならば、果たして税制だけで再分配効果を地方税に関しても強化していくことが妥当なのかどうかというようなことも検討していかなければいけない。
ですから、多様化しているということを考えれば、やはり多様な選択肢を選べるような、その中でインフラとしては中立的で、というような多様な選択肢を前提とした制度構築をしていくというようなことは、ある意味では中立性を重視するということだろうし、やはりその選択肢はまずいのではないかということになってくると、今度はどの選択肢がいいと考えるのかということは、税制とは別の議論としてまた一つ必要になってくるし、政策税制ということになると、果たして税がコストパフォーマンスから考えた時に、最善の方策なのかどうかということも考えていかなければいけない。
ですから、少し議論する時に、インフラ整備というか、トレンドに合うような整備をするという話と、少しそれを変えていくという話とを、きちっと区分して議論していき、分析をしていくということが必要なのではないかと、ちょっとそういう気がいたします。
〇香西会長
どうぞ、お願いします。
すみません、名前を一言言っていただくようにお願いしていいでしょうか。
〇増渕委員
増渕です。
先ほど、「実像」ということで詳細な説明があった「わが国経済社会の構造変化」ということは、たくさんあるわけですが、私の非常に主観的な見方では、税制を考える時に、どうしても最も重いものとして考えなければいけないのは、一つはすでに進行しつつある日本の高齢化ということだと思います。おそらく労働力人口の減少ということが大きな問題になっていくまでには、まだ少し時間があるのかなと思いますので、それよりは差し迫った問題は高齢化、それからグローバル化という、この二つではないかと。それを大きなファクターとして考える必要があるのではないかというのが考えたい1点です。
もう一つは、財政再建というか、財政健全化との関係ですけれども、一方でプライマリーバランスの均衡というか、これが中間目標となっているのですけれども、こういう目標が出てきた時の環境からいうと、そういう中間目標の設定というのは、やむを得ないというか、あるいは実現可能性という意味で必要だったのかもしれませんが、いろいろなところにも書かれているとおり、財政健全化という観点からは、プライマリーバランスの黒字化と均衡達成というのは、全く中間目標にしかすぎないわけで、その先さらに債務残高のGDP比を下げていくということが必要になるわけです。
その一方で、その目標年度というのをあまりに近いところに設定しますと、経済活力、経済成長との関係が難しくなってくるということがありますので、一方では目標をより高いというか、中間目標でない最終目標に設定すると同時に、その達成すべき時点ということについて、より弾力性を持って考える。そういうことで税制を考えていくことが必要ではないかと思います。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
どうぞお願いします。お名前を一言言ってください。
〇横山委員
中央大学、横山です。
私が少し議論していただきたいなと思うのは、最初のご説明がございました、閣議決定された「創造と成長」という一つの進路と戦略というようなことで示された目標です。それは2ページで、(「新成長経済」の姿)ということで、こういう望ましい姿を目指したいというものが描かれている。そのことと、秋以降の本格的な税制改革がどういうふうに関係を持つのかということの整理がやはり必要なのではないか。
私が申し上げたいのは、構造が変化したということはそうなのですけれども、秋以降の税制改革の目的、何のための税制改革論議なのだと。そして、その税制改革の目標が、こういうような問題解決、あるいはこういうような社会をつくるために今の税制ではそぐわない、だから変えましょうといった時に、税制改革の議論をする時の制約条件は何なのかということについて、やはり整理しておくべきなのではないかと。
いろいろな政策評価をする時に、経済学的な観点で恐縮なのですけれども、資源配分効果と分配効果という両面から見ると、税制の議論でいえば、誘引効果分析と帰着分析というふうに専門的に言われるわけですけれども、その時に歳入歳出両面の帰着分析をした場合、林委員も言われたように、受益と負担の両面で見た形の分配効果を見るのか、税制だけの分配効果を見るのかで、大分議論が変わってくる。その辺もどういうような枠組みで税制改革のあるべき姿をデザインしていくのか。
その時に、結果を求めて、あるターゲットがあって、社会状態があって、それを実現するための税制改革というような、ピンポイントの政策目標があって達成するような改革なのか、そうではなくて、手続というのでしょうか、プロセスというのでしょうか、より平等で、例えばイコール・フッティングと言われているような、そういうふうなものを実現するための、結果はわからないけど、プロセスをターゲットにした税制改革なのか。この辺も何のための税制改革なのかの議論の時に議論していくべきではないか。これは当然、会長が言われたように、租税原則との関係で問われてくるのではないかと思います。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
〇吉川委員
吉川でございます。
今、横山先生からのお話で、税制だけで考えるのかということもありましたので、私の意見を申し上げたいのですが、やはり税制だけで考えるのは限界があると思うのです。もともと税についても、「簡素」もありますが、「効率性」、あるいは「活力」、それと「公平」ということを言っているわけですが、とりわけ公平ということになると、我々経済学者の目から見ると、最終的には、所得もさることながら、「効用」「ユーティリティー」というのでしょうか、あるいは、「厚生」「ウェルフェア」、言葉は何でもいいのですが、「満足度」でもいいわけですが、意味があるのは、そういうレベルでの公平ということになるだろうと思うのです。所得というのは、つまるところ、消費をどれだけやるかということにつながるのでしょうけれども、申し上げたいことは、私は高齢化社会というのは、ユーティリティーレベルで見れば、格差社会だと思うのです。
それの一番は、健康というのが若い人はかなり平等に付与されているのに対して、ある年齢を超えると、健康というのは非常にアンニーブルに分配されている。健康なお年寄りもいるけれども、もう一方では不幸にして病気になる人もたくさんいるということからしても、そういう意味での本質的な格差というのがあるわけで、そこに医療の問題というのも出てくるわけで、また、その医療を公的な保険あるいはプライベートをどういうふうに組み合わせるかということによって、メリット、あるいはユーティリティーの分配というのは、国によって相当違ってくる。ヨーロッパとアメリカで、あるいは日本で大分違うということがあるのだろうと思います。
そういう意味で、ある意味での先進国のイギリスなんかでは、実はいろいろなインカムクラス、その他職業別に寿命の違いということの分析すら疫学的な分析があるのです。日本ではわりにそういう分析はなされていないのですけれども、そういう意味で、本質的な格差があるということで、当然、医療保険、社会保障というような制度も我々は念頭に置いた上で、その上で税というものを公平という観点から考えなければいけない。ジニ係数というのも、所得分配のところでもちろん重要ですが、大変に大きいですが、問題の一角にすぎないということだろうと思います。それが一つです。
もう一つは、全く別のことですけれども、活力等との関係で、これはとりわけ農業も含めた自営業で問題になるのだろうと思うのですが、事業の承継性というのでしょうか、そういうことで税がずいぶんいろいろな意味で関与しているのだろうと思うのです。しかし、私が常日ごろ思っているのは、ある産業が大事だということと、それを血がつながっている人の間で承継するということにどれだけ必然性があるかということは、ちょっと別だと思うのです。つまり、私も教師ということで教育の一角で働いているわけですけれども、教育は大事だというのはそのとおりだと思うのですが、では教育を今担っている我々教師が事業を承継するかというと、そんなことは問題にもならない。というのは、教師は世襲ということがないわけで、大まかに見てみると、多くの職業が昔は世襲だったのが、だんだん世襲でなくなってきているということだろうと思うのです。今でもすべての職業が世襲に全く合理性がないと私は申し上げませんが、しかし、歴史の大勢としては、多くの職業がもとは世襲制、それがだんだん世襲でなくなってくる。それぞれの産業なり企業なりがそれ自体としてはゴーイングコンサーン、あるいは一つの産業として大切だけれども、今それを担っている人が、とりわけ血のつながりのある人の間に承継するということにどれぐらい合理性があるかということは、別途個別によく考えてみるべきことだろうと思います。個別にもそうでしょうし、国全体でいろいろなことを少し整理したほうがいいのではないかと思っております。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
ほかにご意見ありませんでしょうか。
今まで出たご意見の中で、税の中でも、例えば所得税だけでものを見ないで、相続税も関連しているではないかとか、そういうご議論から、社会保障その他いろいろなところへ関連が出てくる。それから、経済情勢というか、経済政策の方向といったようなことにも関係が出てくると思います。当然、この税調においてもそういうことは視野に入れて議論もしたいと思いますが、一方で、それについてはまた別の審議会等もあるわけですので、その辺の連携をどういうふうに保っていくかということについては、それこそ秋以降にはいろいろ対応していかなければいけないだろうと覚悟しているところであります。またいろいろそういう点でご示唆いただきたいと思います。
ほかにご意見、どうぞお願いします。
〇長谷川委員
長谷川です。
私は、最初の時から申し上げてきたのは、国民の納得感をどういうふうに作っていくのかということがとても大事だろうということを申し上げてきたわけです。その点で、広報と広聴についてしっかりやっていこうよという話が前会長からありましたので、その広報と広聴の部分は、調査研究と並んでやはり重視すべきではないかということ。これが申し上げたいことの1点です。
それから、もう一つは、先ほど説明いただいた資料で、とても私心強く思ったのは、27ページにあります社会への貢献意識です。ここのところで、社会のために役立ちたいと思っている人の割合がどんどん傾向的には増えてきておりまして、今や6割以上の方は社会のために役立ちたいと思っているわけです。これは高度成長期のころよりも高い数字になっている。あとボランティアなんかもやりたいという数字もありましたし、などなどを考えあわせますと、国民意識一般として、社会に何とか貢献したいという気持ちはあるなと見ていいのではないか。
そのことを税の問題で考えた時に、じゃあ、税を積極的に納めて貢献したいなと思ってくれればいいわけだけど、なかなか思ってくれない人が多いのではないかなと、何となく私はそういうふうに思う。じゃあ、社会のために役立ちたいと思っているけれども、積極的に私はどんどん税を払いたいよと思う人が現れないのはなぜなのか。ここをやはり調査する必要がある。それは、例えば税の捕捉率の問題、不公平感の問題、要するに公平に捕捉されて、みんなが平等に今の現状の仕組みの中でも払っていないのではないのかというこの実感、これがあるのだろうということ。
それから、これは先ほどから帰着の問題でもちょっとあったかもしれませんけれども、企業、家計の問題、これをどう考えるのか。これについては考え方を整理する必要がある。つまり、これから消費税の増税を議論する時には、前から申し上げているとおり、「家計にしわ寄せ、企業優遇」という議論が出かねない。この時に企業と家計の問題、そもそも企業というのは何なのだと、国民経済にとって企業というのはどれほどのものなのだということについての考え方を整理する必要があるだろう。これは、私素人ですけれども、ぜひ納得できるように、国民に対して説明責任が果たせるような論理立てをわかりやすく整理する必要があるだろう。これも広くいえば調査でもあるし、広報でもあると思います。あとは納番制の問題もあるでしょう。
などなど、そういう観点からやっていく上で、最後に申し上げたいのは、官と民の関係なのですが、構造改革というのは、「官から民へ」だというふうに言ったわけですね。ところが、税の問題というのは、「民から官へ」なのです。つまり、官から民へ経済構造を変えていくというのだけど、国民一人一人が税金を払う時には、まさに民である我々が官にお金を払うということなのです。それは冒頭に申し上げた、社会にどうやって貢献していくのか、いきたいと思っているわけだから、いきたいと思っている多くの人がどうやって民から官に貢献していくのか。そのルートが一つ税であるわけですから、そこの貢献の仕方と、「民から官へ」なのだぞという税の問題というのは、そこのところをはっきりと、思いをきりりとして、考え方を整理していく必要があるのではないかなというようなことを思いました。
〇大橋特別委員
大橋でございます。
私も前からこの会議でもいろいろ申し上げていることもあるのですが、やはり税制というのは、国家の将来に対するあるべき姿をどうやって実現していくのか、それの手法の大きな一つとして税制があると思っております。したがって、国家の思想とか哲学とか、そういうものが非常に重要な要素になっているわけで、そこのところを明確にしていかないと、小手先で単に当面の国民の希望に沿うことだけがいいのではない。基本的に大きくこういう将来像に日本という国家を持っていくのだということを示して、そのために一部の不満が出ても、国民の理解を十分に説明責任を果たしながらやっていくということも、場合によって必要であろうと思っております。
公正という考え方、これは誰も反対するものではありませんし、公平という考え方についても、反対する者はどなたもいらっしゃらないと思うし、私もそうでございます。ただ、公正とか公平を実現するために、一体日本が国際社会の中で本当にどうやってプレゼンスを高め、特にアジアの中で、日本という国家が信頼と尊敬を得るような国になれるか。こういうことは私は非常に大事ではないかと思っておりまして、これを実現するための税制というものを考えていかなければいけないだろうと思っております。
したがって、今、非常に短期的な問題になっております格差の問題だとか、あるいは労働分配率の問題だとか、いろいろな問題がございます。それから、今この資料でもございましたけれども、機会が平等であればいいのか、あるいは結果まで平等でなくてはいけないのか、という問題もございます。これは十分に弱者へのケアというものは必要だと思いますが、一方で完全に結果が平等であれば、これは社会主義国に陥ってしまうわけで、現在の日本のいわゆる資本主義的な民主主義からは離れていくことになると思います。その辺のことも含めて、現在の格差問題とかそういうことを十分に、なぜ場合によっては一部のところで格差が生じざるを得ないのかというようなことも含めて、説明責任を果たしながら、しかし、それが日本が国家としてマクロで見て、最大の成果の上がるやり方になっていくかどうか、こういう視点で税制というものをぜひ考えていただきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
〇飯塚特別委員
飯塚でございます。
今日の資料の中でもずいぶん感じたのですけれども、日本の経済は90年以降非常に大きく海外からの影響を受けているなという気がしています。グローバル化というのが経済に対する非常に大きな影響力を持っているというのは、もう見て取れるなと感じまして、こうした中で、政治と税調が無縁でいられるわけはなくて、時の政治がこういう方向に進みたいという、例えば4つほど「成長力の強化」とか「再チャレンジ」というものを問題意識として明確に持っておられるわけで、それに対する答えという意味でも、グローバル化の中での我々の元気をどうして実現していくかという議論の中で、非常に重要なのは、国際的な比較をぜひ進めていただきたいなと思うのです。そういう中で初めて国境――尾身大臣の言い方を申し上げれば、国境というのは経済にはないと言われるぐらいですが、企業なんかはどんどん今海外へ投資を決定しているわけです。最近もいくつも大きな案件があって、海外投資に切り替えたという決断がされていますけれども、こういうことをどういうふうに考えるのか。国際比較の中でぜひ議論していっていただきたいと思っています。
〇香西会長
ありがとうございました。
どうぞお願いします。
〇永瀬特別委員
先ほど会長が、どういう社会の変化があるか、それがどういう影響を税制に与えるかということをおっしゃったのですけれども、いただいた資料の「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」の3ページをご覧になりますと、これはかなりショッキングなものだと思うのですけれども、65歳以上の高齢者の比率が、55年後には人口の40%になるというものであります。それも多分2020年ぐらいまでは、75歳以上の後期高齢者はそれほど多くありませんので、それほど強いインパクトはないかもしれませんけど、そのあとになりますと、75歳以上の高齢者が大変増えますので、非常に大きなインパクトがある。
介護保険や年金、その他の制度によって、税金は例えば介護保険だったら半額投入するとか、年金でしたら今後2分の1、国民年金分は税金で投入するとか、いろいろなことがもうすでに決まっているわけですね。ですから、これから自動的に非常に税の支出が高齢者に振り向けられていくということを非常に深く感じるというのが、この図を見て感じることでございます。
それについて、先ほど経済の活性化という話があって、それは非常に重要な点だろうとは思いますけれども、子どもが、次世代が生まれていくというのは、究極的な経済の長期的な活性化なのではないかと私は思うのですけれども、そういう議論はこの表の中からかなり抜けているのではないかという気もしないでもないのです。
そして、この表の35ページを見ていただきますと、先ほど調査課長からすでにご指摘がありますけれども、若い世代での不平等度が非常に高まっているということがわかります。それは、非正規化の波などを若い世代が最も受けているからというふうに思われます。
先ほどお話ししたように、さっきの3ページを見ると、自動的に高齢者に対する税支出というのは増えていく。そうすると、それを賄うためには、何らかの形で税金を取っていかなくてはいけないわけですけれども、その時に、子育て世帯に対する配慮をどうするのかということは、非常に重要な論点になるのではないか。それは中長期的な論点だという見方もあり得るでしょうが、しかしながら、子どもが育つのには非常に年数がかかるわけでございまして、今なら後期高齢者はそれほど多くないわけですから、ゆとりがあるこの時点で、例えばいろいろな資料についても、子育て世帯とそうでない世帯とか、ただ単に年齢階層別の見方ではなくて、もう少し違う表章の仕方もあるのかなということを考えます。そして、そういった視点で論じていくことは、とても重要な論点なのではないかと考えるということを申し上げたいと思います。
〇御船委員
3点申し上げたいと思います。
第1点は、横山先生、それから吉川先生もおっしゃったと思うのですが、何のための税制改革かという議論の延長に、納税をしたいというインセンティブを、家計にもそうなのですけれども、企業にもする必要がある。今は企業の軽減税制みたいなことが議論の主流だと思うのですが、企業が社会的な責任というのをかなり議論していらっしゃる。その時に、自主的に例えばメセナをするとかということをやっているのですけれども、税金を払うということの、企業にとってのマイナスということではなくて、どういうふうに貢献するかという、そういう見方ができないかということが第1点でございます。
第2点は、グローバル化というのは、実は経済だけではなくて、日本がグローバル化するためにしなければいけないことは2点あるかと思います。第1点は環境対応です。だから、新しい経済、活性化する経済というところに、いかに環境を配慮したということをどういうふうに入れていって、そこに税金がどういうふうに貢献できるかということだと思うのですが、先ほどの資料でちょっと違和感があったのは、若者だけを取り出した議論があったかと思うのです。先ほどの資料の42ページで、「あなたは、自然環境を守るために、上記のようなことを行うつもりがありますか」という回答をお示しいただいたのですが、これは18歳から24歳までの青少年です。これだけをもって国民が「わからない」「どちらともいえない」というふうに即断できるかどうか。もちろん、「わからない」「どちらともいえない」という意識は、やはりあると思います。これがなかなかいい質問で、日本人の環境意識は高いのだけれども、行動がいかない。けっこう行動に重点を置いているので、そうかなとも思うのですが、こういう環境についての意識というものを税制にどういうふうに反映するかというのは、重要な論点だと思います。これはとてもナイーブな問題が入っていると思うのですが、どういう方向性を持っていくのかという、先ほどの議論でいえば、税制から構造をどういうふうに変えていくかという議論、これが重要かと思います。
それから、日本がグローバル化しなければいけない第2の点は、やはりジェンダーだと思います。男性と女性の格差がこんなに先進国で大きい国はないわけですから、それを個人化する税制の体系の中で、ジェンダーに配慮した税制のあり方というのをどうしてもしなければいけないと思います。
〇山田委員
先ほど飯塚さんがおっしゃった論点を1点だけ付言したいのですが、企業が国際的な競争にさらされている。先ほど会長が挙げられた3点の中で、日本の税制を変えていくにしても、国際的な競争という観点で、特に、例えば最近はヨーロッパで法人税率を下げるというような記事も出ていましたけれども、一方で、競争にさらされて、そちらを下げるとすると、日本ではその下げた分を一体どういうところで補っていくのかというのが、多分、日本独自の難しさを持っているのではないか。そこのところを少し詰める必要があるかと思っていまして、そのためには、もちろん海外のそれぞれの国の法人税率を下げるために、その背景となっている所得税や付加価値税といったようなものの研究と同時に、それらをそれぞれの国でどうなっているかを調べた上で、それが日本の中でどういうふうに適用できるかという観点で咀嚼してみる必要があるのではないかなと。
特に個人の所得税も同じことが言えて、特に金融所得のような足の速いものについては、必ずしも日本にとどまる可能性もないことを考えますと、やはりそういう国際的な税率の競争という観点を少し検討いただけたらと思います。
〇水野特別委員
一橋大学の水野でございます。
私はあまり抽象的な話は得意でないのですが、今日と2月のもう一回とで進め方について議論されるということですが、今日すでにいろいろな関心を持っておられる問題などは、いろいろな委員の方から出していただいておりますが、初めに会長がおっしゃいました3つの方向といいますか、枠組みというのでしょうか、これは大体、首相の諮問に対応させてこういうふうにお考えになったのではないかと思うのです。
作業としましては、一つは経済社会の構造変化にどういう税制の影響があるか、それから、税制によって変化する経済社会、場合によってはインセンティブとしてどういうふうに使うのか、それから、租税原則そのものにかかわるような問題というお話ですけれども、大体、こちらのこの3つの中にいろいろな論点を分類して中に加えていく。例えば、今まであまり興味を引かなかったのか、給与所得に関連していえば、就労構造が変わってきているというお話もちょっと出ましたが、SOHOといったようなグループの人たち、こういった人たちについてどういう課税をするのかというような問題、これはやはり経済社会の変化に伴って生じてきた問題だと思いますけれども、こういったいろいろな問題をこの3つのカテゴリーにある程度当てはめて議論を深めていったら、それに対応して税制以外の論点も議論することにもなるのではないかということで、そういうふうに進めていくことができるのではないかと思っております。
〇辻山特別委員
先ほど冒頭で所得の再分配のお話が出まして、その際に、所得税、相続税の累進税の見直しというご意見も出ましたし、一方では、それと必ずしも対立するものではないかもしれませんけれども、経済の活性化との絡みで、機会の均等であるとか、あるいは、今日は言葉としては出ませんでしたけれども、「小さな政府」という一方の議論があって、2つの軸があると思うのです。極端な税制の設計というのはできないわけですけれども、その間のバランスをとっていくということが、今後重要なのだと思うのです。
今日のお話を聞いていて一番気になりましたのは、セーフティーネットのレベルをどういうふうに考えていくのかということが、その両方のバランスを考えていく時に問題になってくるのかなと思います。
今日の統計には出ていなかったのですけれども、私自身が団塊の世代で、周りを見てみますと、無年金の人がけっこうおりまして、年金支給とか社会保障という議論が出ておりますけれども、一体日本で、あるところ以上の無年金者は――皆年金以降にも払っていない人たちがどのぐらいの人口が、将来国が、最悪の場合、全責任をとらない人口とその予算がどのぐらいなのかというのを、ちょっと調査していただければと思いました。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
最後、時間が過ぎてきていますので、これで最後にしていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
〇江川委員
先ほど大橋さんが、税金は国家観であって、それをしっかり考えなければいけないというのは、おっしゃるとおりだと思います。今までの方が、「民と官」ですとか、あるいは「企業と家計」、あるいは「グローバル」といういろいろな軸を定義されたのですが、もう一つ加えていただきたい軸として、「国と地方」というのがあるかと思います。今日見せていただいた資料の31ページの中で、国会議員だとか中央官庁の官僚に対する信頼感が低くて、それに対して市役所の公務員というのは真ん中辺にあって、これは一方でほかの資料で、国全体とか、自分に遠い問題に関してはアクションを起こさないけれども、自分に身近な問題にはアクションを起こすというのと、ある程度一致しているところがあると思います。
今、地方分権ということが大きな流れになっています。ですから税金を徴収すること、それから、それを使っていくことも、できるだけ納税者に近いところでその決定を行い、やっていくという観点を取り入れていけば、関心も行き届きますし、納得感も出てきて、実際に市民意識が高まるということで、いいのではないかと思って申し上げました。
〇香西会長
多数の大変有益なご意見をお伺いしたと思います。いろいろ私のほうからまだ申したいこともありますが、例えば広報広聴については、どういうふうにそれをやればいいかということについて、単にPRするのではなくて、やはり納得を得るということだと思います。会社だってPRをやっていたのが、最近だと、インベスター・リレーションシップというような形でありますから、納税者というもののあり方といいますか、それとの関係というのをもう少し見直すようにしたい。単なるタウンミーティングをやっているだけではならないだろうと思っておりまして、何か新機軸で、新しい形でいい対話なり意見の吸い上げができればいいなと。説明責任という形ももちろん大事だと思います。
それから、税以外のいろいろな手段、政策とのバランスなり、協働なり、コンフリクトなりについては、これからも大いに注意してこの会を運営するようにしたいと思います。
それから、外国の検討については、一応、税制改革の動向は諸外国でいろいろなことが起こっておりますので、差し当たり、全員というわけではございませんけれども、委員の中の数名で調査に行っていただくということを予定しております。3月はもう時間的に限られてしまいましたので、そういうことでありますけれども、一応、海外調査を行うつもりであるということです。アジアにも行っていただいていいのではないかと思っております。そういった点については、ご希望があればおっしゃっていただいて結構でありますし、その場合でも人数に限りがあるということでありますので、人選は最終的にはご一任いただきたいと思いますが、ご希望、関心、そういったことはぜひお伝えくださるように、事務局に申し出ていただくようにお願いしたいと思います。
また、これまでの発言で不十分であった、あるいは言い足りなかったというようなこと、別のことでも結構でございますけれども、メールでぜひ事務局にご連絡をいただいて、それを踏まえた上で次回の2月20日、火曜日、午後2時から、この第4号館において企画会合を開きたいと思っておりますので、どうぞその時にまた引き続いて今日の議論を展開させていただきたいと思っております。ただ、議論ばかりしていると、なかなか調査・審議に進みませんから、調査・審議の体制も次第に固めていきたいと思っておりますので、よろしくご協力のほどお願いいたします。
では、本日はちょっと時間が切れたかもしれませんが、こういうことで本日は散会ということにしたいと思います。どうもご協力ありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。