グループ・ディスカッション(第2回)議事録

日時:平成18年11月15日(水) 14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館第一特別会議室

本間会長

ただいまからグループ・ディスカッションを開催いたします。

ご出席いただける予定でまだ到着されていない方もおりますけれども、時間がまいりましたので、始めさせていただきたいと思います。

前回に引き続きまして、今日は19年度の税制改正の個別テーマの審議を行いたいと思います。

審議に入る前に、席上の資料につき、いくつかご説明させていただきます。皆様の机上にこれまでの説明資料をファイルしております。また、昨日私からご説明した財政全体についての政府内の議論の内容について、本日は説明を省略しますが、これらの資料もファイルしております。今後の説明資料もファイルして机上に置くこととしておりますので、ご活用いただければと思います。

また、今年度、答申をまとめなければならないわけでありますけれども、昨年、一昨年の年度答申も置いております。これは今後の答申のとりまとめをしていくに当たって参考にしていただきたいと思いますが、おそらく今年は少しスタイルが変わるようなことも予想しております。しかし、形態はこうだということをご理解いただくために置かせていただきました。

さて、グループ・ディスカッションの審議については、答申策定に向け、限られた時間で充実した議論をするため、設定したテーマに沿って、集中的な議論をお願いしております。本日は信託法の改正などの新しい動きへの対応ということで、まず、信託税制・三角合併を中心に審議を行いたいと考えております。また、これ以外にも国際課税、同族会社の留保金課税・事業継承についても重要な項目でありますので、事務方から説明を受け審議を行いたいと思います。

議事進行については、中里委員にお願いして進めたいと考えております。

なお、これらの項目はやや専門的な問題であり、皆さんにご議論いただく前に、中里委員から背景説明などをしていただいてはどうかと考えておりますので、中里委員、よろしくお願いをいたします。

中里主査

本間会長からご指名いただきましたので、私のほうで今日は議事の進行をさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします。

ただいま会長からご指示がありましたように、まず、本日取り上げるのは非常にテクニカルな問題が多いですが、この議題について、簡単に背景等をご説明いたしたいと思います。

本日は、税制を取り巻くさまざまな法制度の新たな動きへの対応を主要なテーマとしてご議論をするということでございますけれども、昨今の新たな動きといたしまして、まず、法務省を中心といたしまして、経済法制の見直しが活発に行われております。いろいろありますけれども、例えば具体的には、会社法制の現代化ということで、明治以来の片仮名法律であるところの旧商法を抜本的に見直す改正が行われました。また、信託法改正につきましては、こうした抜本的な経済法制の見直しの中で、こちらは大正11年以来実質的改正がなく、やはり片仮名法律であるところの信託法のままでは、どうも使い勝手が悪いということで、改正が行われることとなったものでありまして、こちらは現在国会で審議中でございます。

この他、会計基準の見直しなども含め、税制はさまざまな新たな動きに適切に対応する必要がありますので、そういう観点から本日ご議論をいただければと存じます。

また、先ほど会長からお話がありましたとおり、あわせて国際課税、留保金課税、事業承継に関する税制につきまして、これもまた経済社会の変化への税制上の対応という視点も踏まえ、ご議論いただければと思っております。

本日ご議論いただく背景といたしまして、今申し上げました経済法制見直しの動きについて、少し具体的に、法制度の話ですから、あまりおもしろくというわけにはいきませんけれども、具体的に申し上げます。

まず、新しい会社法は、本年5月にすでに施行されておりますので、これに対応する税制改正も行われましたけれども、新たな会社法の中で、いわゆる三角合併の施行につきましては、敵対的買収が増えるのではないか、そのための備えがまだ日本の企業ではできていないのではないかという懸念もございまして、与党内のご議論により、施行を1年遅らせて、平成19年5月にすることとされております。その間に各企業において、敵対的買収に対する防衛策の導入準備が進められてきていることは、これは皆さんも新聞報道等でご承知のことと存じます。

これに対応する税制については、したがって平成19年度税制改正で措置する必要がありますが、三角合併により初めてクロスボーダーの組織再編が可能になるということにご留意いただきたいと思います。これに関しましては、先の小泉内閣以来、政府は「対日直接投資の促進」を政策の一つに掲げておりますので、本件に係る税制上の措置も、本年6月の「対日直接投資加速プログラム」において、「課税の適正・公平及び租税回避防止の観点も十分に踏まえ検討し、結果を得る」というふうにされているところでございます。この点もご留意の上、まさに対日直接投資の促進の観点、及び「課税の適正・公平、及び租税回避防止の観点」からご議論いただければと思います。

次に、信託法改正でございますけれども、社会・経済活動の発展や多様化によりまして、信託法制定当時には想定もされていなかった形態での信託の活用も図られるようになっていること等を踏まえ、現行法を抜本的に見直し、新たな信託類型として委託者が受託者を兼ねる自己信託制度を設けるなど、信託の利用機会を大幅に拡大する内容となっております。

なお、信託法につきましては、信託の利用機会の拡大に伴い、租税回避に用いられる懸念も各方面から指摘されており、与党内のご議論においても、自己信託制度の施行が1年延期されるなどの手直しが加えられました。また、国会審議でも、租税回避防止の必要性について、さまざまな議論があったところであり、しっかりとした税制を整備することが課題となっているところでございます。

この他、会計基準の見直しの動きへの税制上の対応や、国際課税、とりわけ、企業活動の国際化の進展を背景に、近年、課税件数や課税金額が増加しております移転価格税制について、あるいは留保金課税・事業承継に関連する税制についても、経済社会の変化に対応した税制のあり方という観点も踏まえ、本日ご議論していただくということになります。

なお、本日の議題に関連して、本日ご欠席の松田委員から意見書が提出されております。ちょっとご覧になっていただきたいわけですが、三角合併等についてご意見が述べられてありますけれども、審議に当たりましては、こちらもご参照いただけたらと存じます。

また、審議も状況によっては、何しろテーマがいくつもあるものですから、30分から1時間ほどの時間延長もあり得ますので、その点もご承知おきいただけたらと思います。

それでは、数々のテーマのうち、本題の議事に入るとして、それぞれの資料の議題ごとに説明を受けたあとに議論をしたいと思います。

初めに、三角合併・信託税制等につきまして、この資料がございますけれども、事務局のほうから説明をお願いしたいと思います。

主税局の小原企画官、よろしくお願いいたします。

小原主税局企画官

お手元の(三角合併・信託税制等)と書いてございます資料でご説明申し上げます。

めくっていただきまして、最初に目次がございまして、その次のページから説明させていただきます。大きな流れは先ほど中里主査からご説明のあったとおりでございますが、会社法の制定によりまして、合併対価の柔軟化が認められることになりまして、合併等の対価として、合併法人株式以外に金銭その他の財産を交付することが可能となったところでございます。

この合併対価の柔軟化でさまざまな組織再編成が可能となるわけでございますが、特に中心的に注目されているものとして、三角合併というものがございます。三角合併の例をこの1ページの図で説明してございます。通常、合併と申しますのは、被合併法人の株主が、被合併法人というのは消滅いたしますので、そのなくってしまう被合併法人の株式のかわりに、存続する会社の株式を受け取るというのが通常の合併でございます。

これに対しましてここで言っておる三角合併は、この合併法人の株式ではなくて、そのかわりにその合併法人の親会社の株式を被合併法人の株主がもらうという類型でございます。

こういった類型が認められるようになってまいりました背景といたしましては、もちろん、一般論としてさまざまな組織再編形態、ツールがあるほうがいいということがございますが、そのほか企業グループを維持したままでの企業再編をしていきたいというニーズですとか、あるいは、先ほど中里主査のご説明にございましたとおり、クロスボーダーの局面での企業再編成のためのツールが求められる、という側面が強くあったというように伺っておるところでございます。

それでは、このような組織再編成の局面で、これが税制上一体どういうふうに取り扱われるのか、現在どうなっておるのかということを説明しておりますのが、その次の2ページでございます。

頭の丸の中に書いてございますが、一般的なルールといたしまして、何であれ資産の移転があると、その際に譲渡益について課税されるというのが原則的な取り扱いとなっております。何かのものの資産の移転、売買、交換などが行われると、その際にその交換の対価と取得価格との差が課税されるというのが原則的な取り扱いです。したがいまして、組織再編で申しますと、消滅会社の株主あるいは消滅会社につきまして、その資産の譲渡が行われた、資産の移転があったということで、資産の譲渡益課税が行われる。これが頭の整理としては原則的な取り扱いということになってまいります。

しかし、組織再編成が行われる場合につきましては、例外が認められておるわけです。この例外と申しますのは、事業を今まで営んできた当事者が、引き続き事業を営んでいる。そういう実態が継続している場合には、譲渡損益の課税をその瞬間にはしない。そのタイミングではしないで、繰り延べるということになっております。この段階では課税関係が発生しないという扱いなわけでございます。

今申し上げました事業を営んできた当事者が、引き続き事業を営む実態、これは一体具体的にはどういう要件で見ているのかということが、この2ページの資料の下のほうに書いてございます。[1][2]という要件が細かく書いてございますが、大きく言えば企業グループ内での組織再編成の場合と、共同事業を営むために組織再編成・合併等々が行われるということが要件となっておるわけですが、ここで(注)に書いてございます。[1]のケースであっても、[2]のケースであっても、被合併法人の株主が合併法人株式以外の資産の交付を受けないこと、これが大前提の要件となっております。

先ほど申し上げましたように、三角合併が行われると、受け取る株式は合併法人の株式ではなくて、合併法人の親会社の株式になってまいりますので、この条文をそのまま適用いたしますと、三角合併等々につきましては、課税の繰延べが行われないという帰結になってまいります。

もっとも、この制度、税制の前提としておりますのは、三角合併が商法上認められない、そういうものは実際に行われないのだということを、いわば暗黙の前提と考えておって、それを前提に作られた条文でございますから、会社法上、この三角合併が現実に行われるようになってきた時に、それではそのほかの組織再編成とつり合いがとれた取り扱いというのはどういうものなのかということが、新しい検討課題として出てくるということになってまいります。

しかも、先ほど来ございますように、三角合併というのは、クロスボーダーの再編として利用されるという側面がございます。そうしますと、クロスボーダーであるがゆえに、特有の事情というものが出てまいります。この点が次のページにございます。

3ページに「クロスボーダー特有の事情」ということで整理してございますが、合併対価として渡されるものが親会社の株式ですが、この親会社の株式が外国親会社の株式であります場合、国際的な租税回避を防止する観点からは、2つ目の丸ですが、適格性をどう考えるかという問題がまずございます。

また、その点は一定の整理が行われたとして、適格な三角合併が行われた場合を考えてみたのが下の絵でございますが、この時に被合併法人の非居住者・外国法人株主について、課税の繰延べをどう考えるかについて、若干論点が出てまいろうかと思っております。右側に書いてございますが、事業譲渡類似の株式の譲渡益ですとか、不動産関連の株式の場合の従来の取り扱いと関連して問題となってくる余地がございます。

例えばという例で申し上げますと、非居住者ですとか外国法人が事業譲渡と類似するような株式の譲渡を行った場合、これは要件的には25%以上持っている方が5%以上売却する場合ですが、この事業譲渡類似の譲渡益につきましては、日本で課税されるということになっております。仮に三角合併に際して行われる株式の交換が、この事業譲渡類似の株式譲渡に当たる場合に、適格要件を満たしたとして課税の繰延べを認めるというルールをつくってまいりますと、ここでは課税の繰延べが行われます。課税の繰延べが行われた結果、被合併法人の株主は外国に存在する親会社の株式を取得することになりますので、今度、この株式を売る場合には、外国会社の株式の売却になりまして、日本の課税権が及ばないということになって、課税の繰延べをして、次のタイミングで課税するということになっていたはずのものが、実は非課税になるという懸念もあるわけでございます。

また、次のページでございますが、こちらは組織再編の法的な技術を使いまして、自分の親会社を形だけ外国に作るといった取引ができるようになってまいりますので、その点も留意する必要があるのではないかという資料でございます。

法的技術、さまざまなものがございますが、今回導入される三角組織再編成の形をとると、これはかなり簡便できるということになってまいります。このような組織再編成が行われますと、日本に存在いたします会社が、それは自分が親会社として各国に子会社を持つ方法でしか海外展開しないということを、従来ある種想定しておった国際課税の制度の側で、どう対応していくのかという論点が出てまいります。

例えばということですが、タックスヘイブン税制は、我が国の会社が他国に子会社を作った場合を想定して租税回避的な行為を防止するという発想で作られておりますが、三角組織再編成を使えば、他国にペーパー親会社のようなものを作るということも可能になってまいります。親会社を外に作ってしまわれた場合には、前提が崩れるわけですので、タックスヘイブン税制の適用が難しくなってくるといった問題が発生するというような論点があろうかと思います。

ここまでが三角合併関係の話でございまして、次に5ページに移らせていただきまして、信託法関係でございます。冒頭、中里主査が流れについてご説明いただいた中でもありましたように、実質的には80年ぶりの大改正ということでありまして、それに対して税制でどう対応するかということですが、信託というのはかなりテクニカルなものでございますので、まずは基本的な仕組みがどうなっているのか、現在の税制がどうなっているのかをご紹介したのちに、その新たな改正でどのような論点が出てくるかをご説明申し上げたいと思います。

5ページ、信託制度の概要というものが書いてございます。上の箱の言葉ですが、下の図のほうがわかりやすかろうかと思います。ある人ないし法人が、委託者として自分の何らかの財産を信託財産として受託者に渡して、受託者に法律的には帰属することになってきます。法律上は受託者の財産になる。この受託者は、典型的な場合でいいますと、委託者と受託者の間で結んでいる契約に従って、そこの目的に従って財産を管理し、あるいは運用し、受益者に対して何らかの形で財産を給付するというものです。

抽象的に申し上げてもわかりにくい話でございますので、例えばということで具体的な例を申し上げてみますと、子どもの親が未成年の子どものために、受託者としての友人に資産を渡して、法的にはその友人のものに資産をしてしまって、この資産をルールに従って子どもに渡してやってくれと頼むようなものが民事的な利用の例として挙げられようかと思います。もちろん、今のはできるだけシンプルにご説明したわけですが、民事の場合に限らず、商事的な領域での財産管理ですとか、投資信託のような金融商品的な使われ方等、さまざまなケースが実際にはあるわけでございます。

そういうさまざまなものを含んでおります信託につきまして、では税制がどうなっておるのかということ、現行の取り扱いは6ページに整理してございます。頭に全体の整理を書いたあとで、四角い箱が下に3つございます。

一番上の箱、不動産ですとか動産の管理に代表されますいわば典型的な信託につきましては、受益者課税という箱に入っておりまして、右側にございますように、信託財産を受益者が保有しているものと見て、信託そのものでの収益が発生した時に受益者に課税するというようなこととなっております。

これに対しまして、その下、分配時課税と信託段階法人課税と書いてある箱が2つございます。これは、受益者が信託財産を実質的に有していると認められないのではないかと考えられるものですが、まずは貸付信託ですとか、一般的な投資信託といった、いわば金融商品的なものにつきましては、他の金融商品とのバランスも考えまして、分配時に課税する。信託収益が受益者に現実に分配された段階で初めて課税されるということになっております。したがいまして、収益が発生してから現実の分配までの間、課税が繰り延べられておるということでございます。

それから、その下にございます箱ですが、資産流動化法に基づきます特定目的信託。これにつきましては、特定目的会社との課税のバランスということで、信託段階法人課税ということになっておりまして、信託段階で法人課税ということになった上で、収益の大半を出資者に還元する等の一定の要件を満たしております場合には、分配額を損金算入するという扱いにしております。

ここまで申し上げましたのは、現行の信託法のもとで行われている、そういう信託を前提として、現行税制がどう対応しておるのかという説明でございましたが、今回の信託法案が成立いたしますと、非常に多様な信託の類型が行えるようになってまいります。したがって、新たな検討課題が出てまいろうかと思っております。その総論的な説明をいたしておりますのが、その次、7ページでございます。

頭で「多様な信託の類型が可能となる」と書いたあと、どう多様化されるのかというところが上の箱に中に書いてございまして、1つは自己信託というものが創設されました。自己信託は何かということですが、これは先ほど委託者、受託者、受益者という上で信託の構造をご説明申し上げましたが、その信託の仕組みで申しますと、委託者・預ける人と受託者・預かる人が同一である場合です。これが1つ。

それから、その下、目的信託の創設とございます。従来は公益信託の形でしか認められておらなかった類型でございますが、受益者の定めがない、先ほどの三者構造の中で受益者について特段の定めがない信託、いわゆる目的信託が、いわば通常の信託の一種として創設されたということになっております。

それから、今回の信託法案で事業信託が可能になるという話がよく言われております。信託法案の中に事業信託とか事業型信託といった類型が直接書いてあるわけではございませんが、さまざまな規定が整備されております。整備された規定、その右側の「『事業型』信託を可能とする環境整備」という箱の中で4つほどの丸を例示してございますが、こういうさまざまな規定整備の結果、先ほど来申し上げておりますような典型的な財産管理、運用等を超えた事業を行う手段としての事業型信託が可能となるような環境、これが整備されてきておるように思われます。

これに対応して税制上の検討課題としてどういったものがあろうかしらということを下半分に掲げてございます。

1つには、自己信託などで法人同様の事業を行う、こういう信託が創設された場合に、法人税の回避が起こるのではないかということが1つございます。また、目的信託が遺言により設定されたような場合に、相続税の回避が起こり得るのではないかということもございます。さらには、複雑な形態の信託に対応した課税関係を明確化しておくことが必要ではないかということでございます。

まとめて申し上げますと、最後にございますように、信託の多様な機能の類型に応じて、適切な税制上の整備を検討する必要があるのではないか。あわせて、制度の濫用事例に対応。それから、納税環境の整備の視点からも検討が必要ではないかということでございます。

今、検討課題と挙げておりました一部につきまして、やや具体的に整理しておりますのがその後ろの資料でございます。8ページ、9ページでございますが、8ページのほうは、自己信託により法人同様の事業を行う信託が創設された場合というものでございまして、これは法人が子会社を作るかのように一部門を自己信託に出しまして、その受益権を自らの株主に現物配当等で交付する場合でございます。これをいたしますと、外に信託で出した部門で発生する所得収益に関しまして、法人税の回避が可能になるという事例でございます。

これは似たような形式として、子どもの法人、子法人を作った場合であれば、子法人段階で所得が発生すれば課税が発生するというふうになりますところ、信託という方程式をとることで、その課税関係が発生しない、いわば対処できない状態がここで発生して、裁定が起こり得るという状況でございます。

もう一つの事例、9ページに図を入れさせていただいております。これは遺言により受益者の定めがない信託が行われた場合でございます。現行法では受益者の定めがない場合、委託者に課税が行われるという取り扱いになっております。これが遺言による信託が行われた場合、委託者自身は信託が発行した瞬間には亡くなっているわけですので、その委託者に課税することはできなくなってまいります。それでどうするかということでございますが、現行の民事法制の解釈では、相続人が委託者の地位を承継するというふうに理解されておりますものですから、委託者の地位を承継するということに着目して相続人に課税する、というのが現行の税制上の取り扱いでございます。

ところが、今回の信託法案におきましては、相続人は委託者の地位を承継しないという整理になっております。したがいまして、今までのような考え方で相続人に課税するという取り扱いは、そのままではできないということになってまいります。こういったところが課題としてあろうかということでございます。これは先ほどもございましたように、全体としての検討課題の一部を構成しておるということでございます。

細かなご説明は省略させていただきますが、信託に対する税制が外国の例はどうなっておるのかということを10ページに整理させていただいております。アメリカ、イギリスを例にとりまして、信託には多様な形態がございまして、特にアメリカ等々では非常に詳細な制度整備が行われておるのですが、あくまで原則としていえば、信託段階での課税といったことも行われておるところでございます。

ただ、下に主な例外というところがございますように、その中身に応じていろいろな課税が行われるということになっております。

それから、最後のページでございます。今までが信託の話でございまして、次がリース関係のご説明でございます。「リース会計基準の見直しと税制」ということでございまして、現在、会計の国際的な調和に向けての議論の中で、企業会計基準委員会でリース会計の処理についての議論が行われておるところでございます。リース会計の会計処理の中で最大の論点と申しますのは、所有権移転外のファイナンスリース取引のお話でございます。

これにつきましての会計上の処理につきまして、下のほうの左半分に書いてございます。会計上の取り扱いということが書いてございます。現状、ルールといたしましては、所有権移転外ファイナンスリースは売買として処理するのが原則であって、ただ、例外として賃貸借処理が認められているという整理になっておるわけですが、実務上、ほとんどのケースで賃貸借処理が選択されているという実態がございます。これにつきまして、企業会計基準委員会で見直しを検討されて、7月5日に試案が公表されておりますが、その見直しの中身が下でございまして、「今後」とございます。例外処理を廃止して、基本的に売買処理に一本化しようという方向であるようでございます。

なぜそういう整理をしていくのかという理由が、下に[1][2][3]と挙げてございますが、考え方としての基本は1点目だろうかと思います。経済的な実態として、所有権移転外ファイナンスリースというのは、通常の売買との違いは見出しにくいというところに理由があるようでございます。

それでは、税のほうはどうなっておるのかというのが、同じ資料の右側でございますが、まず現状ということで、現実の取り扱いとしては、ほとんどのケースが賃貸借処理ということになって、課税上、弊害があるものについての売買処理というのが現状の税務上の取り扱いになっております。

考え方としては、会計で行われている実態とおおむね同じということになっておるわけですが、それでは、今後、会計のほうで考え方を変えていこうかという議論が行われておる時に、税制の面ではどうするのか。適切な対応を検討していく必要があろうかと思われますが、では適切とは何かということで、視点を2つ挙げさせていただいております。

1つは、取引の経済的実態に応じた取り扱いをすべきである。この点につきましては、会計でありましても、税でありましても、同じではないかということが1点目の視点であろうかと思われます。また、もう一つの視点といたしまして、納税者の事務負担というものがございますので、納税者の事務負担を考慮すれば、会計の処理と税務処理との調和というのを図っていく必要があるのではないかということがあろうかと思います。こういったことがこの論点については視点としてあるのではないかということがこの資料でございます。

説明は以上でございます。

中里主査

どうもありがとうございました。

三角合併と信託法、それからリースと、なかなかテクニカルな問題が続くのですけれども、これについてご意見をいただけたらと思います。いかがでございましょうか。

田近委員

限られた時間の説明だったので、僕は全部理解できなかったような気がするので、手短に1点だけでいいのですけど、ご説明いただいたところで何を質問したいかというと、三角合併の時に課税上のどういう問題が起きるか。趣旨自身は、松田さんの今日のペーパーにもあるように、あるいは中里さんの最初の説明にあるように、日本もこれからどんどん外国から投資してもらわなければいけないじゃないか、直接投資を倍にしなければいけないじゃないかという政策的なゴールがあって、それならば、外国の会社が日本に来る時に、M&Aをやる時に、外国の会社の親会社の株で合併ができるようにさせてやったらどうだということだと思うのですけれども、その場合の、もちろんメリットはわかりますけれども、税制上の問題と、それをどういうふうに対応するかということをご説明いただきたいのです。3ページのところで、クロスボーダーの三角合併があった時に、被合併法人の株主がオフショア、外国にいる時の課税問題、ご説明ちょっといただきましたけれども、それをもう一回、どういうことが起きるのか。

それから、4ページのところ、それは三角合併では必ずしもありませんけれども、やはりクロスボーダーで、広い意味で三角合併だと思います。この場合の課税問題。

そして、いずれの場合にも、具体的な税制の対策としてどんなことが考えられるかというのを、ご説明いただければと思います。

小原企画官

まず、前半の適格性の話でございますが、基本的な考え方といたしましては、これはクロスボーダーであろうが、なかろうが、組織再編の通常の税制とのバランスをどうとるのかという論点がまず大前提としてございます。その段階で別段内外を差別しなければいけないという理由は全くなくて、むしろ外国からの投資が行われることも念頭に置いて、誰しも通常の組織再編の仕組みと同じように使えるものとして、どうしていくのかという話が一つございます。

あわせて、ただ、そうはいっても、クロスボーダー特有の事情として、課税がうまく行えないようなケースは発生しないようにしなければいけないという論点もございますので、具体的な中身まできちんとしておるわけではないわけですが、明らかにそういうことに使われるような類型というものがある時に、それまでも適格性が認められるのだろうかといったことは、考えていかなければならないのではないか、ということが論点としてあろうかと思っております。

田近委員

そこまではみんなわかっていると思うのですけれども、もうちょっと具体的に、3ページ、4ページ、せっかく出していただいたので、この場合、課税上の問題が何で、そして、もちろん適格性要件は当たり前ですけれども、具体的にこれは19年度の改正をまたやっているわけですよね。この時に、オフショアの問題が起きた時の課税上の三角合併の対応というのですか、具体的な、それを伺いたい。それが質問です。

中村参事官(国際租税担当)

ここから先、今の合併対価が外国親会社の株式であった場合の適格性の問題と別に、クロスボーダー固有の問題としてどのようなものがあるか、私のほうから。

まず、3ページの説明資料の中で、一番下にあります被合併法人の非居住者・外国法人株主に対する課税の問題がございます。この絵の真ん中にあります「被合併法人の株主」、ちょっと影がついておりますが、ここが海外の株主である場合の問題でございます。もともと消滅会社の株主が外国の株主であったという場合でございまして、この三角合併の形式をとった時に、もともと日本の株式を持っていた外国法人の方が、外国の親会社の株式を保有するということで、内国の株式が外国の株式に転換するという現象が起きます。もともと外国法人が日本の会社の株を持っているという時に、一定の場合に日本で課税権がございます。

実は外国人の株式のキャピタルゲインに対する国際的なルールは、どちらかというと、居住地国で課税し合う。つまり、株を発行した法人のところで課税するというのは、なるべく限定的にして、キャピタルゲインを得た居住地で課税し合えばいいだろうというのが原則になりつつありますが、我が国はそこのところは比較的まだ国内法人の株に対する課税を留保しておりまして、いくつかの例、右側にございます大口保有者の譲渡益、株式をたくさん持っている、25%以上持っているような株主の方、あるいは不動産が主として中身であるような法人の株式、この場合はやはり日本の国内資産の移転に近いであろうというふうに考えまして、日本の国内で課税するということになります。したがいまして、もともとの会社の国内株式を、この外国の株主が今申し上げたような類型に該当する場合、売った時に、日本で課税するという事象がございます。

ところが、三角合併を経て、その消滅会社の株が親会社の株になりますと、さすがに外国法人が外国の株を持っている場合、そこには日本の課税権は及びませんので、何もしないまま株式が変わることを認めてしまいますと、そのまま課税できないという状況が起こるということでございます。

ただ、あまねく非居住者の株に課税が起きるという事象ではございませんで、かなり大口で持っていた方が、組織変換が起きた場合に、ちょっと限定的に起きる場合ではございます。

この場合、もう行ってしまいまして、親会社のほうの株式、外国の株主の外国株の売買に日本の課税権を追求していくというのは、ちょっと無理でございますので、現実は組織変換が起きた時に、課税繰延べをこの場合には認めることは難しいのではないかと思っております。

それから、4ページの資料でございます。これは、こうしたクロスボーダーのさまざまな組織再編が起きた場合に、主として、組織再編後にいろいろな租税回避を許容してしまうのではないかという問題意識でございます。

ちょっとこの絵を説明させていただきますが、今、組織再編前、組織再編後ときまして、この間に三角合併などを使った組織再編が起きるわけですが、もともと組織再編前は、日本にいる株主の方が日本の会社を所有しておりました。ところが、海外にある会社Bを使いまして、組織再編後、日本の株主の方は海外の親会社の株主になり、その親会社Bを通じて、実質的にもともと日本の会社と同じ新会社Cを保有するというケースの形で利用することが想定されます。組織再編前は株主はA社の株主でございましたが、組織再編後、株主は海外の親会社Bの株主に変わります。右側の四角に書いてあります。これを前と後を比較しますと、A会社の所有形態が直接Aを持っているところからBを経由して持つというふうに置き換わるという現象が起きまして、アメリカなどでは、置き換わりということで、インバージョンというふうな言い方をしております。インバージョン現象による租税回避ということで、問題意識があるテーマでございます。

ちょっと参考でございます。普通、海外の会社を使って、もしもともと海外の会社Bがあって、会社Aとの関係が参考図のようになっておったらどうだということなのですが、株主がもし国内A会社の株を持って、そのA会社が特に問題意識があります軽課税国、いわゆるタックスヘイブン国にあるペーパーカンパニーの会社を保有しているという状態がありますと、ここにはさまざまな租税回避防止措置がございます。いくつかのパターンがありますが、例えば、A会社とB会社で非常に利益移転的な取引を行っておれば、それは移転価格税制とか、過少資本税制とか、そう呼ばれる特別な対抗措置がございます。

それから、仮にAB間で取引そのものは通常の取引が行われたとしても、B会社のほうに利益を留保しておきますと、軽課税国ですので、所得課税がほとんどないということで、本来日本で課税すべき留保利益への課税が、海外で軽課税のままで留保されてしまうという現象がございまして、これを防止するために、B会社における利益をA会社に合算して課税する。外国子会社合算税制と申しますが、そういう留保利益への課税の対抗手段がございます。

参考図のような形であれば、今までのそうした手法によって租税回避を防止するということが可能ですが、この絵にございますような置き換わり現象によって行われたタックスヘイブン親会社を通じた所有関係に置き換えますと、ですから、親が日本で子がB、タックスへイブンの場合はいろいろある。ところが、親がタックスヘイブンになって、子会社が日本になってしまう場合、BC間で行われる租税回避的な行為が、なかなか防止する手法がないということでございまして、これについてどう対応するかということでございます。

海外の例も、ここは海外はさまざま苦労しているところでございますが、今、私どもで勉強しているところでいきますと、一番強烈なのは、タックスへイブンにもしペーパーカンパニーとしてB会社を持っている場合、そもそも、そうした会社はないものとみなして、日本にある、あるいはその国にあるというような形で課税しているケースがございます。そうした法制が日本で本当にとれるかどうか、今、悩みながら検討しているところでございます。

田近委員

細かいことを聞きたかったのではなくて、19年度に向けてはだから3ページの話で、4ページがインバージョンと。インバージョンと書いていただければ、もっとすっきりしたかもしれませんけど、インバージョンの話は19年度の問題ではないですよね。ここまで入るのですか。

中村参事官

あらかじめそうした事態が予想されておれば、できる措置には、どこまでできるかという問題はありますが、問題意識を持って取り組みたいと思っております。

中里主査

この問題は非常にテクニカルですけれども、三角合併がせっかく会社法上認められたから、じゃあ、それを邪魔しないように課税繰延べを図ればいいという、原則は仮にそうだとしても、そこに濫用が行われる可能性が常にあるわけですから、それに対する目配りをしなければいけないということですよね。

内国法人の株式が外国法人の株式に変わるということは、課税上は大変なインプリケーションがあるわけで、国内財産あるいは国内所得が、国外財産あるいは国外所得になってしまうわけですから、将来、日本の国庫に入るであろう税収が、外国に漏れてしまう。それを指をくわえて見ているべきかどうかという政策判断があるわけですよね。だから、それが濫用のような形で行われる場合には、それは世界各国でそうしているような形でふさぐ方法を考えなければいけないということですよね。

インバージョンについては、アメリカですと、7,874条という強烈な規定がございまして、これはここで詳しく説明するものでもないですが、非常に厳しい規定を置いていますから、租税条約との関係とかいろいろありますけど、三角合併、繰延べ認めろ、というふうにそう単純にはいかないという留保は多少つく。どの程度つけるかはいろいろテクニカルな問題があるのだと思いますけど。

辻山特別委員

今の問題と離れてよろしいでしょうか。

中里主査

どうぞ。

辻山特別委員

19年度改正に直接かかわりがあるかどうかわかりませんけれども、今日せっかくリースの問題が出ておりますので、昨年来、会社法が改正になって、会計基準が改正になったという部分もありますし、あるいは会計基準の改正に合わせて会社法のほうで対応していただいた。むしろそちらのほうが大きいのかもしれないのですけれども、そういった面で、リースのこともありますけれども、先ほどのご発言で、経済実態が同じであれば、会計処理と税制の扱いが同じになるべきだと。それは確かにそのとおりだと思いますし、そのようにしておいたほうが、企業の処理といいますか、コストも軽減できるだろうと思います。

そういう意味では、このリースとちょうど対照的な扱いで、退職給付の問題があったのです。今回のような大きな経済法制の改正などとも絡んでおりませんし、国際化ということも言われていなかった時代の問題で、あれは労働対価で、実際に負債があるのですけれども、税制上はキャッシュフローに着目して課税するというスタイルをとっているわけですね。

今度は逆に、今までキャッシュフローで会計は費用を計上していたのが、今度発生ベースになっていくという、そういうところの対照性をどう考えるのかというか、片一方は会計ベースで、片一方はキャッシュフローベースということになりますと、全体のスキームとして非常に不整合が生じます。平成19年度改正に直接反映できないかもしれないけれども、その辺、この間少しずつほころびが出ていまして、企業の負担もけっこう大きくなっているんですね。

今回、今日は出ておりませんけれども、大きな問題として、棚卸資産の低価基準の強制適用というのが2008年から始まりますので、これけっこう大きな問題で、特に中小企業が税と会計の扱いが生き別れになりますと、大変なコスト負担が出るということで、この辺について、少しこの機会に検討しておく必要があるのかなということです。

それから、あと2つの今日の問題、三角合併と信託の問題なのですけれども、この問題につきましても、特に事業再編、企業結合と事業分離ということで、この間、2年余にわたって、会計のほうでは基準整備が進んでおります。

その時に、税の濫用ということもありますけれども、もともと所得の捕捉とか、所得の実現とか、その辺をどういうふうに考えるのかということについて、かなり基本的な理念といいますか、もともと、今日の特に合併と信託というのは、マージナルなところで非常に典型的な練習問題といいますか、経済の中でストックがどんどん増殖していく。しかし、ストックの段階で増殖をとらえるというのは、評価の面が入ってきますから、伝統的には評価から離れてフローでとらえると。ただし、フローのマージナルな局面ですよね。

会計のこのところの議論の中での整理では、要するに、ストックの段階で、ストックが増殖していくのだけれども、それを擬似フローとしてとらえる局面というのは、リスクからに着目している。リスクがドラスティックに動いてきた時に、そこでフローを擬制して、課税せざるを得ないでしょうという考え方等、いろいろな議論がありまして、会計基準委員会というのがせっかくできましたので、そちらとの密接な連携を少しお願いしたいなというのがお願いでございます。

それから、それとの関係で、今日、三角合併というのが出ておりますけれども、もともと三角合併に限らず、合併、企業結合の問題で、のれんの扱いというのは非常にデリケートな問題なのですけれども、会計上は正ののれん、従来でいう営業権と、負ののれん、合併差益ですね。これについても対照的な扱いをしております。適格合併になりますと、今、税のほうで課税繰延べということで、益のほうを資本チャージする。これは課税繰延べの手段なのですけれども、損のほう、正ののれんのほうも資本チャージしてしまいますと、企業が損金算入の機会を永久に失うということで、恩恵を与えているようで、実は恩恵を剥奪しているという結果になっている部分もございます。この辺についても、少しこの機会にご配慮いただいて――ご配慮というか、私がご配慮をお願いするわけではないのですけれども、考え方を整理する必要があるのかな。いろいろなところで、少しずつゆがみが生じているような感じがいたします。

伊藤委員

三角合併について、一つだけコメントというか、感想なのですけれども、こういう問題は、今非常に世の中で大きな変化の中でやって、一方で、いわゆるクロスボーダーのM&Aを少し積極化させて、日本に投資を持っていきたいという大きな政策目的がありながら、他方で、既存の税制を見ると、今ご説明をいただいたように非常に難しい問題があった時に、とりあえず今まで議論があったこと以外に、一つ考えなければいけないことがあるのです。それは何かというと、ミクロのレベルで、例えば先ほどおっしゃったように、取りはぐれるケースがあるという議論と、マクロで見た時に、トータルで日本の税にとって得かどうかという話が多分あると思うのです。

3ページの話で、先ほどはちょっとミクロの難しい話が出たので、しっかり理解しているかどうかわかりませんけれども、日本の企業の株式を外国の企業が持っていて、日本の企業が外国の企業と三角合併で合併対象になった結果、外国の企業が持っている日本の株式が外国の株式になって、そのために日本の税から逃げる可能性があるというご説明があったと思うのですけれども、全く逆のことも起こるわけですね。日本の企業が外国の株式を持っていて、その外国の企業は日本の企業によって三角合併で買収されて、その結果、今まで日本の企業が外国の株式を持っていたのが、日本の企業が日本の株式を持つということもあり得ると。つまり何が言いたいかというと、マクロで、トータルで、日本から海外に資本が出て行くのか、あるいは海外から日本に資本が出ていくのかという視点で見た時に、日本はこれから長期的に純投資国なのか、あるいは純資本輸入国なのかという視点。そう簡単じゃないですね。投資ももちろん短期投資と長期投資がありますから、そういう視点も考えた上で考えていかなければいけないのかなと。

ですから、もちろん税務としては、ミクロで一件一件、できるだけ取りはぐれがあってはいけないというのはよくわかるし、それはそのとおりだと思うのですけれども、マクロで今日本が今どういう状況に置かれているのか。一般論として見れば、日本はこれから投資で海外からいろいろな経済効果を取っていかなければいけないということであると、そういうこともできるだけ考えた上でのやり方というのが非常に重要なのかなと。それが第1点。

しかし、その場合ちょっと気になるのは、じゃあ海外がどうなっているのかということをよく考えなければいけなくて、不思議なことに、ほかのところはけっこう海外の事例がいっぱい出ているのですけど、ここのところは海外の事例があまり出ていないものですから、実際にアメリカだとか欧州がどういう運用をしているかというと、これはなかなか専門家がいないとわからないところなのですけれども、もし機会がありましたら、ぜひ、今問題になっているケースについて、海外がどういうふうな対応をしているのかということを教えていただきたいと思います。

中里主査

今のことについて、事務局のほうからよろしいですか。何かコメントがあれば。

中村参事官

それでは、今の伊藤委員のご説明で、そもそもキャピタルゲイン課税は、ちょっと私の説明もまだ舌足らずだったかもしれませんが、3ページをご覧いただきまして、そもそも日本で、一般的に外国の方が日本の会社の株を持っている場合に課税できる場合というのは、もともとかなり限定されております。いわゆるポートフォリオ的に今、日々大量に動いているそうしたトレードに対して、課税するということは行われておりません。それはそれぞれ各国で課税し合うという原則に立っておりまして、我が国もそうでございます。ですから、大口保有のような非常に限定された場合という事象でございます。

それから、さらに、(注)の説明をしなかったのがいけなかったかもしれませんが、お互いに相互に居住地で割り切り合いましょうという信頼できるパートナーとの関係では、租税条約というのを結びまして、その場合は、こうしたキャピタルゲイン課税をそれぞれもう居住地でやり合いましょうと。法人のある株の発行体のところで課税することはやめましょうという条約も結んでおりますので、こうした課税事象が生じること自体がまず限定されておりまして、条約で相互に納得し合って課税できる場合とか、あるいは条約がないところに主体がいる場合とか、そういった場合、かつ、通常のトレーディングで行うような場合には、課税していないということでございます。

それから、各国の例なのですが、もともと非常に限定されたケースでございまして、外国法人に対するキャピタルゲインの課税をしていることが、日本の制度がやや厳しいというところもありまして、この問題について各国がどういう解決をしているかというと、そもそもあまり起きていないというのが実情でございます。一部、ここについて比較的厳しいことを考えている国は、やはり課税という整理をしている例は若干ございます。

大橋特別委員

それでは、三角合併につきましてですから、ちょっと発言をさせていただきます。

今の外国株式の売却についての課税権の問題というのは、基本的に今のご説明のように、国内の証券取引所に上場をしていれば、その問題は全く問題ないと。そういうことでございますから、その辺の議論が一つ必要だろうと思うわけでございますけれども、今の方向というのは、どちらかというと、非上場であっても、そういう方向に持っていこうかという一つの議論だろうと思います。

この時に一番大きな問題になりますのは、やはり大きな企業よりも、本当に日本においても、大企業よりも中堅企業で、かつ上場しているところ、そういうところが、本当に、大したお金ではなくて、これが結果的に買収につながってしまうということで、日本のいろんな意味での産業を支えている中堅企業が海外に結局資本的に支配されてしまうということは、やはり日本国家全体で考えてみて、大きな問題になるのではないかと私は考えているのです。

今の議論というのは、どちらかというと、鉄鋼なんかも含めて、大きな企業はそういうリスクにさらされているから、これはだめだという議論なのですが、実はこれを本当にやってしまいますと、多分、中堅の企業のほうが、非常に少額の買収資金でやられてしまう。ということが一つ大きな問題だと。

それから、国際的なイコールフッティングがどうかということなのですが、皆さんもご承知のように、現実には今ヨーロッパでは、この三角合併は全く認められていなくて、アメリカだけの問題なのです。アメリカもこれを通すに当たっては、いや、そんなこと言ったって、敵対的買収なんてできないよ、友好的な買収だけで、だからあまり心配するなということではございますけれども、現実に最近の巨大な資金を持っているのは、アメリカだけではなくて、例えば、こういうことを言うと語弊がありますが、ロシアの企業とか、あるいは中国の企業が、この間アメリカで問題も起こしたし、こういう発展途上国でありながら、大きな企業が大変な巨大な資金を持って、それで日本に入ってくる。こういうことについては、日本の経済的ないろいろな産業の秩序がまだ未成熟ではないかと。

そういう意味で、もう少しこの問題については時間をかけていただいたほうが、やはり日本の企業の発展を健全にしていく、それがまたある意味では国際競争力をつけていくという、基本的な今の安部政権の考え方にもつながっていくのだろうと思うのです。

だから、そういう意味で、今、これを反対しているところが、経団連だとかは巨大企業の買収だと、こういうふうな議論が多いのですけれども、実は買収してこようとする仕掛ける先は、アメリカだけではなくて、ロシアとか中国とか、そういうところが出てくるということと、もう一つは、実際にはお金はあまり出ていませんけれども、上場している中堅企業にむしろ大きなリスクがあるのだということを、ぜひご理解いただきたいと思います。

増渕委員

私も上場企業の経営者で、そういう意味で、大橋委員と同じような環境にあるわけですが、私の理解するところでは、若干大橋委員とは違うのです。今の大橋さんの話は、三角合併をそもそも認めるかどうかという話のように聞こえますが、それは1年間延ばしたけれども、認めるのだということで話は進んでいるのだというふうに理解しています。そのことを是とするかどうかというのは、それを議論すべき場があるのだろうと思いますが、仮に三角合併を認めるのだとした時に、税としてどうするかということで考えれば、三角合併自体はクロスボーダーで起こり得る問題ですけれども、国内でも使い得る話ですので、そういうことであれば、課税の繰延べを基本的に認める。それが議論の出発点なのだろうと思います。

しかし、租税回避が起こり得るということについても、私が今までのご説明を聞いて理解したところでは、大部分は、それはしようがないといいますか、居住地国課税ということにならざるを得ない。ただ、例外的に現在課税しているような非常に例外的な場合について、それは租税条約がない限り課税するのだという考え方でいきたいというのが、今の行政の考え方なのかなとは思いましたけれども、それまでこの際目をつむるのだということにするのかどうかということが、この3ページに即していえばそういう問題。

私は、それは今までの税の対応がごく例外的なものだということであれば、今までの税の対応を連続するという考え方でよろしいのではないかと思います。そういうふうに整理されるのではないかと思います。

中里主査

ありがとうございます。

三角合併は2つの相対立する意見が出ましたので、それはとりあえずそういうふうにしておいて、信託のほうについて……、三角合併ですか。どうぞ。

原特別委員

私も主にアメリカとヨーロッパの公開会社の経営者という立場で、この三角合併を毎月のように否が応でも経験させられたりしたりする立場から発言させていただきますけれども、三角合併のこの流れですが、これは時価総額経営、要するに自分の会社の株式の時価総額を上げて、これを通貨にして、M&Aを使って会社の株式をさらに上げていこうと、実際に実業をしっかり作っていくよりは、M&Aによって拡大していこう、という流れを非常に助長する一番大きなツールなのです。これはアメリカの会社が非常にやりたがっています。先ほどのイコールフッティングなどもありましたけれども、時価総額だけで言いますと、米国の場合は、今のところ、株価がROEと非常に相関関係が高いですから、ROEも本当にまともなやり方ですと、いい製品を作って、研究開発をやって、大変リスクがありますけれども、それを成功させて、売上が増えて利益が上がってというふうにしていく。その結果として株価が上がるというのが王道だとすれば、邪道とは言いませんが、ほかの方法としては、資産を圧縮するとか、今までのリースを活用するとか、アウトソーシングを使うとか、またヘッジファンドをうまく活用しながら株価を煽るとか、メディアを使って株価を上げるとか、いろいろな方法で時価総額を上げる方法があります。後者のほうが最近流行っていて、かっこいいというふうに思われている傾向が強いのですが、三角合併の背景には、ここのアメリカにおける風潮を全世界に広めていく流れを助長するという、世界的に見て大変な欠陥があります。

でありますので、こういうことをあまりやっていくと、実業よりはM&Aをやったほうがいいのではないかと若い人たちがみんな思い出すということになります。とはいうものの、アメリカの流れに日本は一応やるのだと決めたわけだから、せめて、方向は決まったものの、何らかの警鐘は置いておく。ここで税制面を使って、これは本当はよくないのだよというような流れを作るぐらいのほうが私はいいかと思いますけれども、そういうことをちょっと申し上げておきます。

中里主査

ありがとうございます。

出口特別委員

資料の9ページを見ていただきたいのですが、信託法に関しましては、中里委員のほうからご説明がありましたとおり、大正11年から70数年ぶりの改正ということで、ある意味では、税制についても十分な議論が本来必要ではないかと思っております。あまり拙速にすぎると、大変なことになるのではないかと。

まず考えるべきは、現行信託法上の問題点がどこにあるのか、何を改正して、税法をどういうふうに変えるのか。先ほど伊藤委員が言った考え方の順序というものをしないといけないと思います。

それで、ご承知のとおり、目的信託は信託法ができてから50年ぐらい全然できなかったわけです。初めて50年ぐらいたってから、一般の公益信託という形ででき上がっているわけですね。

それで、一般の公益信託が現行どうなっているかというと、委託者が、公益信託ですから、世のため人のために信託を作るわけです。亡くなった時に財産は、受託者のほう、右側にいっているわけですね。受託者のほうにいっているのに、委託者の地位を承継するということで、相続人が財産がないのに相続税を課せられる。場合によっては、全く財産がないケースも想定されるわけです。そこに相続税がかかるというような税制になっているわけです。これはなぜかというと、右下に受益者がバツになっていますが、現在の信託税制は、発生時課税と受益者課税、これは目的信託の場合ですが、この種の目的信託の場合ですと、受益者が不特定または未存在ということになるわけですね。

今回、公益信託は議論はありませんが、逆に言うと、安部政権の中で少子・高齢化ということが言われているわけです。少子・高齢化の中で、例えば子育て信託とか、あるいは子育て支援信託とかいうものを作った時に、この関係がどうなるのか。その辺をよく考えて、もう一度言いますが、信託財産が右の受託者にある時に、相続人が相続税を負担する。それから、ここでは書いておりませんけれども、土地・建物の場合はみなし譲渡課税とか、さまざまな問題が発生してくるわけです。こうした中で、租税回避をとにかく防止するのだということを最大限に考えるのであれば、もちろん簡単な答えはあるのですけれども、そういうことでない形で、この信託制度というものを非常に活性化させるという観点からすると、どういうふうにするのか。それから、課税の論理をどうするのか。これは私自身答えを持っているわけではないのですけれども、私自身はこの問題は非常に重要な問題だと思います。自己信託が1年延びましたけれども、この辺、よくよく考えていくべきだろうと。

それから、次のページ、これも本間税調の精神に合うのかどうかわかりませんが、事務局でご努力されて作られたこの一覧表、これはわかりやすくということは、複雑なものをこういう形にするというのがわかりやすいという解釈もあるでしょうけれども、複雑なものは複雑なものだというメッセージを持って入れたほうがいいと思います。例えば備考欄のこのメッセージは、かなりミスリーディングでありますし、それから、アメリカで「課税」という言葉がありますが、これは先ほど中里委員もご指摘にあったとおり、単なる課税というよりも、ペナルティーに近い、エクサイズタックスというような形で、租税回避に非常に効くような形のものを各種入れているわけですね。それを単に課税という形でいろいろ表現するということになってくると、今回のことも含めて、信託法の改正の一番いいところを、言ってみたら角を矯めて牛を殺すような、租税回避だけに利用されるような形にかえってなりはしないかということを非常に心配しております。

中里主査

公益信託の話は……

出口特別委員

いや、公益信託ではない。

中里主査

公益信託の話は今は話していないですから、ちょっと勘弁してください。

出口特別委員

ちょっと待ってください。目的信託でこれはいっぱいあるわけです。例えば子育てに、不特定多数でない形で受益者が未定のケース、つまり民法改正からいうと、一般財団に相当するようなケースというのは非常にあるわけですね。そこのところもよくよく考えて議論していかないといけないということは、十分ご承知だと思います。

中里主査

公益法人改革との関係で、もっと時間をかけてゆっくりやりましょう。

田近先生のほうからちょっと。

田近委員

信託のほうに移らせていただきますけれども、今日、私は三角合併、信託税制というものすごく重要なテーマをやっていると思っていて、というのは、日本の経済で、企業にしろ、個人にしろ、資産をどう活用していくかというところで、私は、今まさに日本の経済というのはこういうことが重要なのかなと。

それで、三角合併では、基本的には日本の企業、あるいは日本に外国から入ってくる企業、いずれにしても、そういう資本取引を活発にしてあげましょうと。ただ、だけど課税を繰延べした先が何もないというのは、いくら何でも問題かなと。そこはもう少し、被合併法人が外国だというけど、日本の会社が外国で子会社を作った時には、その子会社は外国企業になるとすると、ずっと抜けてしまうじゃないかとか、すぐそういうことも思い浮かべますから、方向はわかりますけど、だけどその穴というのは簡単な穴ではなくて、非常なでかい穴だという気はします。

信託のほうも、その方向性を持てば、重要なのですけど、これは僕のイメージは、ものすごくうまいというか、企業のほうからうまい球を投げてきたなと思うのは、さんざっぱらLLCだLLPだということをやってきて、要するに法人であるけれども、構成員課税にできないかというのが企業側からの大変なプレッシャーでずっとあったわけです。それはわかります。法人税がこんな高い中で、それを払わなくて、構成員課税にできたらどんなにすばらしいかというのは誰でも思うと思います。

実態的には、LLC、Limited Liability Companyですから、これは法人税をかけるということでしたと。ただ、LLPの場合にはパートナーなので、構成員課税にしたということで、今はおさまっているわけです。この信託法案との関係で、どこまで何が意図的に出てきたか知りませんけど、この自己信託というのは、非常にうまい話で、会社が事業の一部を信託してしまえば、そこからの収益は構成員課税になってしまう。そこがポイントなわけです。これ自身がまた事業の活性化で、悪くないのではないかという考えももちろんあります。ただ、今、我々がどこで答えを出すかとすれば、ある意味でとりあえずなのだと思うのです。事業体全体に対して、日本の税制をどうするかという問題、大きなその問題があって、そういう中で、今、信託の新しい改正に答えを出さなければならない時に、私は、とりあえずというか、信託段階の課税、LLCでやったと同じように、LLCの場合には法人段階で課税する。この場合には信託段階で課税。とりあえずなんでしょうけど、とりあえず課税するしかないのだろうなと。

出口さんのお気持ちはわかりますけれども、目的信託も含めて、とりあえずあまり広げる必要はないかもしれませんけれども、信託段階で課税する、あるいは相続税で課税するとか、その辺の網は張って、いよいよ本格的な議論は次なのかなと思います。

林委員

技術的な話はよくわかりませんけれども、ただ、取りっぱぐれがあるといった場合に、日本特有の事情によって取りっぱぐれがある場合と、各国共通で非常に悩んでいる場合があるわけですよね。先ほど伊藤委員がミクロ、マクロというお話をなさった時に、私は、日本特有の事情で取りっぱぐれがある、つまり、これは国際課税なんかは特にそうだと思うのですけれども、共通になっていない制度があるがゆえにそうなっているという場合に、むしろ問題なのは、課税の繰延べをするという問題よりは、むしろもっと根本の問題があって、そこの部分をセットで出していただかないと、もし各国共通の問題だったら、それはおそらく各国で議論しなければいけない話だし、日本特有の事情だったら、それは日本の法人税制等のあり方を検討する中で考えていく必要があるので、今後、特に国際課税とかというグローバルな話になってくると、日本の制度の違いみたいなものが原因になっている場合は、そこも説明の中に入れていただいたほうが判断をしやすいと思います。

中里主査

ありがとうございます。

ちょうど国際課税の話が出ました。時間を三角合併、信託、リースだけに使うわけにいきませんので、次の議題に入っていきたいと思いますが、要するに、三角合併といっても、信託といっても、多種多様なものがあるわけで、一面的な議論だけでできない、複層的な、個別具体的にというところが入るということですよね。

では、時間の都合もございますので、次の国際課税のほうの話に入っていきたいと思います。

これは主税局、中村参事官のほうからご説明をお願いいたします。

中村参事官

改めまして、国際租税を担当しております中村でございます。国際課税の諸問題、日々変わります国際的な取引、あるいは取引の多様化、国際交流の進展といった事象に対応いたしまして、毎年制度改正をいろいろ検討しておるという状況でございまして、最近の私どもとして問題意識を持っているテーマについて、ご説明させていただきます。

1つ目のテーマが移転価格税制でございます。1ページ目の資料でご説明させていただきますが、我が国企業が海外の関連企業、典型的には子会社でございますが、それとの間におきまして取引をする時に、親子間で独立した主体同士の取引ということで、何らか取引には価格をつけます。それが関連企業間であるがゆえに、特別な価格をしておる。そして、それが通常の価格と異なるという場合には、結果的に利益がどちらかに動くという事象になります。これをそれぞれきちんとした価格で行われたものとして考え、それぞれの国における課税所得を認識しようというのが、この税制の基本的な考え方でございます。

移転価格税制は、このような海外の関連企業との取引を通じた所得の海外移転を防止するため、移転価格、すなわち関連企業間で設定されました価格に代えまして、通常の取引価格、これを独立企業間価格と呼んでおります。それを用いて所得を計算し、課税する制度でございます。諸外国でも80年代の後半ぐらいから各国導入の傾向がございまして、今、ほとんどの国で入っているという状況でございます。

先ほどもご指摘がございましたが、それぞれの国でばらばらにこうしたことをやっていると、経済取引の安定を損ねる、二重課税を生じさせるという問題意識から、この移転価格税制につきましては、国際的な税制の調和を図る場でありますOECDの租税委員会というところで、ガイドラインを作っております。そして、それに基づきまして各国が制度を作るということになっておりまして、そうした国際的なガイドラインに規定されました方法と平仄を合わせた国内制度となっております。

2ページ目にいっていただきまして、実際の適用関係でございますが、左側、一般的と申しますか、移転価格税制がそのまま適用されるとどうなるかということでございます。まず、法人が海外にいます関連者、子会社と一定の価格において取引を行います。それにつきまして国税当局のほうが、それは通常、独立企業間価格と異なるではないかという指摘をいたしまして、移転価格課税という再計算いたしました所得によって、所得は多かったはずだという、もともと100であるべき取引が、50で売上としてなっておれば、本来の100の売上を立ててくださいという課税処分を行います。

そうしますと、相手国におきましては、実際の取引価格である50のまま子会社のほうでは売上を立てておりますので、そのままでは相手国における仕入れが小さいままになってしまいますので、目線を合わせてほしいという申し立てをしていきます。それが対応的調整を求める相互協議ということです。両国間での相互協議を申し立てていきます。そして、我が国の国税当局と相手当局との間で対応的調整のための相互協議を行いまして、結果的に相互間で目線合わせをした調整を行う。これが対応的調整でございますが、それを行うための相互協議に入りまして、合意した場合には、それぞれ納得し合った国におけるそれぞれ決まった価格で所得を調整しようと。合意に至らない場合は、そのまま双方で課税する事態になります。

このままでは国税当局がどのような考えかわからないというリスクがございますので、今、我が国では事前確認という制度を設けておりまして、前広に企業のほうから問題提起があれば、その相互協議、相手国との協議は先に行うという手続をとっております。

それから、右側の事前確認でございまして、法人より国税当局に対して事前確認の手続をしていきます。関連者との間でこういう取引をしておりますが、独立企業間価格ということで、こういうことで大丈夫だろうかという確認を申し立ててきます。それを受けまして、国税当局では相手国と相互協議を行います。そして、合意をした場合には、事前に法人に対して通知をしまして、それぞれの国で確認を得た価格で取引をしたということをもとに課税所得を計算していただければ、それで結構ということであります。

私どもとしては、こうした事前確認の手続を使って、なるべく事前のリスクみたいなものを縮減していただきたいと考えておりまして、ただ、その現状がどうなっておるかということが3ページ目の資料でございます。事前確認制度の説明でございますが、実態としては、ご覧いただきましたとおり、平成17年度では76件申し出がございまして、処理が32件でございます。ちょっと今繰越件数がたまっておるという状況でございます。

下の図は、前の資料で申し上げた手続を絵にしたものでございますので、省略させていただきます。

この移転価格税制につきましては、納税者のリスク軽減ということで、こうした事前確認制度の活用の環境整備が課題というふうに思っております。また、現実に独立企業間価格の確定までそれなりの時間がかかっているということについては、問題意識を持っているところでございます。

続きまして、4ページ目に入りまして、外国子会社合併税制ということでございます。先ほどクロスボーダーの組織再編の時にもう少し説明させていただきましたが、かつていわゆるタックスヘイブン税制と呼んでおった税制でございます。ある国をタックスヘイブンと名指しするような言い方、それから必ずしもタックスヘイブンかどうかということと重なり合っているわけでもないので、最近は外国子会社の合算税制というふうに呼んでおります。

我が国企業が国外で稼得した所得につきまして、海外に子会社を設立しまして、そこに利益を留保しますと、結局、我が国での課税を免れて、我が国企業が配当として受け取るまで課税を繰り延べるという形での租税回避が可能となります。これを防止するための制度でございまして、外国子会社合算税制は、このような外国子会社を利用した租税回避行為に対応するため、税負担の著しく低い海外子会社に留保された所得を、その持ち分に応じて我が国親会社の所得に合算して課税することによって、課税繰延べの防止というか、効果を縮減するという制度でございます。

ただ、これはあくまで租税回避的なものを防止するという趣旨でございますので、たとえ税負担の低い国にあっても、いわゆるペーパーカンパニーでなく、実体のある事業を行っている場合には適用しないということで、そうしたペーパーカンパニーを活用した租税回避を防止する措置でございます。

ちょっと絵で説明させていただきますが、非常に単純な例、日本の企業がA国にある企業に対してお金を貸して、それに対して利子20を得たというケースでございます。その利子につきましては、この場合であれば、日本の所得として20計算するということになりますが、これを税負担の著しく低い海外子会社を活用いたしまして、そこで受け取る形にする。日本企業が海外の軽課税国に子会社を作りまして、その子会社から貸付金を行う。その子会社に対して何らか金銭出資をして、その原資をもとにA国企業に貸付金をいたしまして、利子を子会社で受け取るということになりますと、軽課税国にある限り、日本の側で課税ができない。そして、軽課税国においても課税が行われないという状態になりますので、この場合につきましては、この20を日本企業の所得として計算するということでございます。もちろん、後日本当に配当した場合には、その時の課税分は調整するといった仕組みが入っております。

これにつきましては、グローバルな経済環境の中で、企業の活動実態もさまざまなものがありますので、合算対象会社の範囲、あるいは帳簿保存といったところにつきまして、不断の見直しが必要であろうと考えております。

以上でございます。

中里主査

ありがとうございます。

国際課税についてご説明いただきましたけれども、ただいまの説明を踏まえまして、またご自由にご議論いただきたいと思います。いかがでございましょうか。

大橋特別委員

今のご説明、大変わかりやすいご説明をいただいたのですが、要するに、この問題は、税制として制度をどうするという問題よりも、むしろ相手国との調整をどうしていたか、協議をどうしていたか、それをなるべく時間をかけずに早く結論を出していただけないかという問題が、多分経済界からは出てきているのではないかと思います。

事前の制度、これは大変いい制度で、しかし、これを今まで十分に理解をしていなかったために、そういうものを利用していなかったということは確かにあるのだろうと思います。ただ、問題は、現実にこれを利用させていただいても、今のところですと、2年ぐらいはどうも時間がかかる。この2年という時間はなかなか大変な時間でございまして、そのくらいかかってしまいますと、こんなことをやっていてもしようがないからということになってしまいますので、これは相手国のほうも準備をしたり、あるいは日本側の協議に応じていくのに時間がかかるという、この事情も十分理解をしておりますが、何とか、事前制度を我々が利用するとしても、それを少なくとも1年以内ぐらいに結論をしっかり出していただいて、それがある意味での、相手国側との関係においても私どもがフェアと考えれば、今のような紛糾する問題は非常に減るのではないかと思うのです。

ところが、実際には、今までの事例でも、某薬品会社とか、あるいは電気会社でも、500~600億とか300億に近いような、こういう問題が出てまいりますと、これはかなり深刻な問題でございますので、ぜひとも、もし知恵が皆さんにおありになって、税制上の解決でこれが本当に進むのであれば、なおさら結構だと思うのですけれども、ぜひ運用上の問題として、これを経済界から見てもリーズナブルな時間で、しかも結論をきちっと出していただくことが、とりあえずの一番の解決方法ではないかと考えております。

中里主査

ありがとうございます。

この点については、今日は国税庁のほうから調査課長がいらしていますので、お願いいたします。

亀水国税庁調査課長

ただいま、移転価格税制の執行面についてのご指摘がありましたので、私からお答えをさせていただきたいと思います。

中村参事官からの説明の中にもございましたように、移転価格課税の課税リスクを避ける、予見可能性を高めていくという観点から、国税庁のほうでは、昭和62年からこの事前確認制度というのをやっておりまして、2ページにございますような、すでに中村参事官からご説明がありましたので繰り返しませんけれども、事前にお申しをいただきまして、相互協議を経まして、日本企業が海外の関連会社と実際の取引をする際の独立企業間価格について、事前に合意をしておくというものでございまして、これをやっております。

ご指摘ございましたように、確かに租税協議を経て事前確認をする場合には、国税庁内部の審査と租税協議と両方合わせて約2年弱の時間がかかっているのは事実でございます。この点につきましては、我が国だけ特別長いというわけではございませんで、例えばアメリカでも2年強ぐらいかかっているというような事情がございますけれども、我々といたしましては、なるべく迅速化を図りまして、利用を促進してまいりたいと考えておるところでございます。

これに関連しまして少しご説明申し上げたいのは、先ほどの資料の3ページの下段の部分、中村参事官のほうからは説明を省略なさいましたけれども、これについて若干ご説明をさせていただきますと、事前確認制度、原則3年から5年の期間についての企業の取引の独立企業間価格を事前に確定しておくというものでございます。

(例)と書いてあるこの図に沿って若干ご説明申し上げますと、18年4月から23年3月までの5年間の価格について、確認をしたいという場合に、まず事前確認の申出期限というのは、最初の18年度の申告期限であります、この例でまいりますと19年5月までに申し出をしていただくということになっております。そのあと、国税局の申出内容の審査、それから、同じ国税庁で相手国とやっております相互協議を経まして、実際には、平均的に2年弱の期間を経まして、相互協議の合意が得られまして、そのあと申出企業に対して確認の通知を送付するという手続をしております。

この場合、下の囲みに書いてございますように、実際には確認をしたい期間の何年かが、実際には経過したあとに事前確認の通知というものが届くものですから、今、委員からご指摘があったようなことがあるわけですけれども、この場合、確認をいたしますと、すでに経過した3年分、あるいはその次の2年分合わせて、確認した内容に適合した申告を行っていただいている場合には、確認取引については独立企業間価格で行われたものとして取り扱っております。

それから、(注)でございますけれども、すでに経過した年分につきまして、確定申告の内容が事前確認の内容に適合しないという場合が起こり得ます。経済情勢の変化とか、いろいろな変化によりまして、こういうことが起こり得ますけれども、当該確認対象取引に係る所得がそれで増加する、確認によって増加するという場合であっても、修正申告書を提出していただくことによりまして、これについては加算税の対象外という運用になっております。

ということで、我々といたしましては、予測可能性を高めてまいります観点からも、この事前確認制度をぜひともご活用いただきたいと考えておりまして、それがなるべくご活用いただきやすいように、活用の促進、それから処理の迅速化ということに努めてまいりたいと考えている次第でございます。

大橋特別委員

ちょっと一言だけ。

皆さんにもぜひご理解いただきたいので、ちょっと申し上げるのですが、ここのところ、ご承知のように、グローバル化が大変進んでおりますので、今、一部上場企業の1,000社を超えるところで統計をとりましても、現実に2001年には20%ぐらいしかなかった海外での連結営業利益が、すでにもう25%を超えて26%になっているのです。ですから、そのくらい海外で私どもはいろいろな意味で利益を稼いでいる。また、そういう形にならざるを得なくなってきている。現実に海外での営業利益が50%を超えている会社が相当出てきておりまして、そういう意味では、税務当局には大変またご負担がかかるのですけれども、いよいよこれからさらに日本が発展していくためには、この5年ぐらいで、この問題が相当大きなウエイトを占めてくることになると思うのです。ですから、そういう意味で、ぜひ税務当局の体制もさらに強化をしていただいて、かつ、迅速に解決をしていただくという体制をおとりいただくことが、やはり日本全体のためになるのではないかと考えております。

中里主査

ありがとうございます。ほかにこのことについて。

原特別委員

私もアメリカとヨーロッパの会社のほうの立場から、移転価格の税の認定を受けて、同時にアメリカとその他の国の両方で課税されるというのがしょっちゅう起きるのです。これは今の事前確認制度をきちっとやっていただければありがたいです。人手もいるし、とにかく、相手国の税務当局の事前協議ですから、時間もかかりますので。一応、これは運用面として、事前確認制度を利用している企業については、相手国と我が国の両方で課税をするべきだという、仮に日本で課税するべきだということが発生したとしても、実際には、物事が解決するまでは課税を実行しないというような、そういう運用面の工夫をすることによって、企業に対する負担、フリーハンドでいろいろなことができるような状況を作っておくのが非常に重要だと思います。

中里主査

事前確認を結んでいる場合には、相手国の了解も得ているわけですよね。

亀水国税庁調査課長

3ページの例で申し上げますと、合意が得られて確認をしたものについては、日本側と相手国側とで合意が得られているということでございます。

それから、この例で申しますと、19年5月までに事前確認の申し出が行われますと、税務当局、国税庁といたしましては、税務調査を予期して提出された事前確認である場合ですとか、そういう場合は別ですけれども、事前確認の国税局がその審査をしている期間につきましては、私どもはそれについて、我々が審査中にそれを調査して課税するということはいたしておりません。

井上特別委員

私は素人なんですけれども、ともかく、先般新聞で、移転価格の是正、追徴最高だというような数字が出ていて、あれっと思ったのですけど、それで今日ここで説明を受けて、事前申請があると。これは204件も残っているわけですよね。トータルしても約4年分ですよね。申請されて、事前確認が通るか通らないか。結局、それが通らないから、そういう問題が起こっているのではないかなと思うのです。ですから、仕組みというのをもっとしっかりと、事前審査制度の仕組みというのがどこか問題があるのではないのかなと。企業としては、これまた裁判を起こしてやらなければいけないということになると、大変な無駄な費用を使っていると思うので、その辺、この事前確認制度というものを、もっと仕組みを変えてやるべきではないのかなと思います。それだけです。

中里主査

実際、企業は課税処分を受けますと、代表訴訟のリスクがありますので、訴訟を起こさざるを得ない。別に喜んで起こすところはあまりないと思うので、非常にこれも経済的負担になっていますから、やはり国税庁のほうの事前確認に関連する人員の増員というのでしょうか、それがないと、少ない人数ですごい処理件数は難しいと思いますし、そういう方向も必要かもしれませんですね。

秋山特別委員

少しミクロな話になってしまうかもしれませんが、私自身が、先ほどおっしゃられたように、営業利益の半分以上を海外で稼ぐということをやっていて、この事前確認制度についても、一度自分で問い合わせをしてみたことがあるのですけれども、まず申し上げたいのは、3ページに出ている申出件数と繰越件数のこの数字が、これだけのニーズがあるのだということではなくて、これは氷山の一角でしかないということをまず強く申し上げたいと思います。

問い合わせをした時に、これだけの状況だということで、非常に時間がかかると。そうすると、例えば非常に金額の大きい大企業で、この件に関して人手もコストもかけられるような会社が多分申請して、こういう数字になっている。例えば、そうでないけれども必要性がある会社は、どう考えるかというと、この制度を使うよりは、あとは自己防衛で何とかするしかないなと。そうなってきた時に、この確認制度自体の処理能力を上げるのも必要だと思うのですけれども、一方で、これを使わなくてもある程度の予測可能性が担保されるようなガイドラインの制度を上げたり、情報を公開していただいたりというようなことが、非常に重要になってくるのではないかと思っております。

中里主査

この点、事務局、いかがですか。

亀水国税庁調査課長

今おっしゃったガイドラインといいますか、移転価格税制の適用基準につきましては、法令、それから解釈通達は公表されているのはもちろんでございますけれども、国税庁の移転価格事務運営指針というものも公表しておりまして、さらには、法令、それから事務運営指針ともに、OECDの先ほどご紹介ありました移転価格ガイドラインとも整合的に仕組まれている制度でございまして、そういったものも参照しながらやっているわけでございます。

ただ、現実問題、基準はなるべくわかりやすく明確に書かなければいけない。我々もたくさんの国税庁の現場を動かしていかなければいけない立場で、基準はなるべく明確にしなければいけない要請はあるのですけれども、他方で、例えばしばしば報道されておりますように、無形資産の価値の評価といった問題につきましては、なかなか基準の中で書き切れないような点も多々ございまして、これはどうしても事実認定の問題が残らざるを得ないというところがございます。

例えば無形資産の価値を評価する時に、それを構成するのに要した費用でもって、親会社と子会社が持つ無形資産の比率を算定するというようなことを実務的にはいたしますけれども、それでは親会社のどこの費用まで、子会社のどういう費用まで含めて算定するかということにつきましては、現実には国税当局と納税者の方の間で判断が異なる場合がままあるのは事実でございます。これはなかなか、すべて企業の事業実態を把握できないところがございますので、それについて紙の上に100%書き切れないということがございますことはご理解いただきたいと思うのですけれども、なるべくそこは、我々のほうも明確化を図れるところは、引き続き図ってまいりたいと考えているところでございます。

辻山特別委員

今の事前確認制度なのですけれども、3ページにあるところから見ても、今、氷山の一角という話が出ましたが、ニーズが年々高まっているということで、そういう意味では、経済のインフラに近い制度といいますか、そういうものになっていると思うのです。ただ、アームスレングス取引の価格というのは、本当に難しいんですね。ですから、3ページの図で見ますと、申出内容の国内審査というのがありますよね。それと事前協議に入っていくわけで、ある意味では、そこを少し切り分けるというか、相互協議の時間はかなりの時間を要すとしても、国内審査の段階である程度の見通しが立った段階で、少し企業側に担保を与えるとか、ツーステップ、段階的な処理を……。新聞報道等で課税処分ということになると、非常に企業イメージが悪いことに一気に進んでしまうわけなのですが、その点の少し段階的な取り扱いも考えたらどうかなと思います。

伊藤委員

ごく短く。私、秋山委員と辻山委員のおっしゃったことに大変賛成で、実際いくつか過去に案件を多少見たことがあるのですけれども、確かに評価が難しいということはよくわかるのです。しかし、そこが一番鍵で、ですから、全部相手の、税務当局との取引、話に行く前に、多分ツーステップもう少し努力することがあって、OECDの基準はある意味で抽象的であるわけですから、具体的にどういうケースがあるかというガイドラインをもうちょっと詳しく、日本はこれから特に国際化が進んでいくわけですから、整備するということと同時に、今、辻山委員がおっしゃったように、もう少し企業の相談について、相手国と交渉に入る前に、日本でどう考えるかと。

というのは、要するに日本の企業にとって一番深刻なケースは、日本の所得と海外の所得をどう評価するかということですから、ある意味で一方向なものですね。ほかのケースはもちろんあるわけですから、全体で見れば、いろいろな移転の価格のケースがあるわけですけれども、結局、日本の国内で日本の企業の海外活動にかかわっていろいろな指摘を受けるケースというのは、外国に利益が大きすぎるのではないだろうかということですから、ある意味で見ると、日本の税務当局がそれに対してアクションを起こさない限りは、税務的な紛争は起きないわけですから、その件については、ひょっとしたら、ある部分については、日本の税務当局と企業の間で事前にいろいろな形で状況がもうちょっとクリアになるのではないだろうかと。

とにかく、トランスペアレンシーということは、なかなか難しいことはよくわかるのですけれども、ここのところをもう少し、国内だけでもいろいろできることがあるのかなという気がします。

中里主査

事前確認の、よりそれを活発にきちんと利用できるようにする環境整備も必要ですが、事前確認をする際の基準の整備がなかったら、確認のしようもないわけですから、ないというか、あるのですけど、さらにそれを詳しくしていく努力が必要だということ、おっしゃるとおりではないかと思いますけれども、これはご当局も努力なさっているところで、まだまだ時間はかかると思いますが。

ほかに国際課税全般で何かございますでしょうか。

それでは、まだご意見もあろうかと思いますけれども、時間の関係がございますので、3つ目の議題、留保金課税と事業承継に入りたいと思います。これにつきまして、事務局からのご説明をお願いいたします。

これは主税局の吉田三課長と川嶋企画官、よろしくお願いいたします。

吉田税制第三課長

それでは、お手元にあります(留保金課税・事業承継)と書かれた資料に沿ってご説明を差し上げたいと思います。

まず、留保金課税のところについてご説明差し上げますが、古くて新しい問題といいますか、そもそも法人課税と個人課税の間で、どう均衡をとっていくかというテーマがございまして、そもそも同族会社に対する課税上の特別の取扱いということを、1ページ目にまず整理をさせていただいておりますけれども、同族会社は、基本的に個人事業体と同様で法人形態をとって事業を行っている会社で、その場合に、通常の会社組織であって、多数の株主がいる場合には、お互いの牽制とかが働くのでありますけれども、一人オーナーでありますとか、非常に少ない場合に、いろいろな恣意的な会計上、それから行為ができるということで、これは非常に古い制度でございますけれども、まず、一番下のところ、「同族会社の行為又は計算の否認規定」ということで、包括的に税務署長に権限が与えられているものがございまして、そういった違法行為があった場合に否認ができるという、これは包括的な規定でございまして、伝家の宝刀と呼ばれるものでございます。

それ以外にもっと具体的な側面に着目しているところで、1つ目の丸の留保金課税制度、それから、実質的な一人オーナー役員への役員給与の損金算入制限措置というのが2つございます。

1つ目のところは、個人課税と法人課税の税率格差に着目したものでございまして、2つ目のところは、法人と個人における所得の控除の部分でございますが、そこの算定に当たっての比較をしたものでございます。

1ページお送りいただきまして、2ページ目になります。同族会社の留保金課税制度ということでございますけれども、同族会社については、実質一人の株主が意思決定権を有するということで、配当を行わないで、利益を内部留保するということで、所得税であれば通常累進税率がかかりますが、ここについて、比較的には低い法人税率のところで課税を、一番高い累進のところを逃れるというようなことがあるということです。

それで、下のイメージでございますけれども、法人所得の中で、通常、全体の法人所得の中に法人税がかかりますけれども、その中の一部について留保した場合に、そこについて累進と合わせるような形で、留保金について課税を行っているという制度でございます。

これについての論点としてありますのが、今日のテーマになっております新しい動きへの対応という意味では、今日、中里主査からもご紹介がありましたけれども、会社法の施行があって、その最低資本金基準が撤廃されるとか、会社の設立が非常に容易になったという背景があって、その位置づけの中でどう考えるかということ。

それから、本制度は実は昭和25年に始まった制度でございまして、その後、累進構造の変化、あるいは法人税率の引下げ等もありまして、所得税・法人税の税率格差というのが昭和40年代は40%ありましたが、その後、現在は10%程度に低下してきているという実態がございます。それを踏まえてどう考えるかという論点があります。

それから、もう一つ、経済の活性化という意味でも若干重なってくるかとも思いますけれども、中小企業の資金調達面で、内部留保がやはり一番身近にある資金調達手段であるとすると、そこの部分について課税するということをどう考えるかという論点があろうかと思います。

それから、1ページお送りいただきまして、もう一つのほうは、実質的な一人会社オーナーへの役員給与の損金算入制限措置でございますけれども、これも法人と個人との課税実態について、どう調整するかという長い議論の中で、平成18年度の税制改正で措置しているところでございます。

それで、これは何があるかといいますと、基本的に個人事業者の場合には、そこの経費で落とした部分以外が課税ベースになります。法人になりますと何が起きるかというと、給与として支払った分については、まずそこで損金が算入されまして、さらに、それを給与として受け取ったあとに、個人所得の部分の給与所得控除というのが行われるという意味で、そこの重なっている部分が二重に控除されているということでございます。ここについて、均衡上何らかの措置をとらなければいけないということでございまして、その部分について、法人段階での損金算入を制限する措置を設けているということでございます。

川嶋企画官

続きまして、事業承継の関係の税制についてご説明申し上げます。

4ページでございますけれども、事業承継を円滑化するために設けられておりますこの税制上の措置といたしましては、大きくIとIIと書いてございますけれども、事業承継に関連する相続税の課税価格の計算の特例というもので、課税価格を減額するというもの、それと相続時精算課税制度がございます。

Iのほうですけれども、これも内容は大きく3つございまして、1つは小規模宅地等についての課税価格の減額というものでございまして、この小規模宅地といいますのは、事業用の土地でありますとか、商業用の土地というのも含まれますが、そういった一定規模以下の商業用の土地について、課税価格を減額しているという制度です。2つ目が取引相場のない株式についての減額でございまして、これは同族株式について課税価格を減額しているものでございます。それから、3つ目は山林について課税価格を減額している。こういった大きく3つの内容に分かれております。

それから、相続時精算課税制度でございますけれども、これは15年にできた新しい制度でございます。通常の贈与税、これを暦年課税と呼んでおりますけれども、これに代えましてこの精算課税制度というものを選択いたしますと、この丸にありますように、相続時の精算を前提にいたしまして、贈与時の税負担を緩和する。そういった税負担の緩和によって生前贈与を円滑化して、経済活性化につなげる。そういった狙いの制度でございます。必ずしも事業承継に特化した制度ではございませんけれども、経営者の判断によって、計画的な株式の承継を可能にするというものでございまして、事業承継に役立つ制度というふうに位置づけられております。

それで、下の箱にありますように、こういった事業承継関係の税制についての主なご議論ですけれども、1つは、経済活性化の観点から、事業承継に係る税制を拡充すべきだというご指摘がございます。他方で、事業承継に対する優遇については、自ら起業する者や事業用資産を持たない給与所得者とのバランスを失わせるといった問題があるといったご指摘もございます。

次のページ、精算課税について若干補足させていただきたいのですけれども、上の箱は適用要件について書いてございます。詳細は省略させていただきますけれども、贈与者は65歳以上の親で、受ける側は20歳以上の子どもといった要件がございます。

それで、下に具体的な計算例が書いてございますので、これを簡単にご説明したいと思います。例えば3,000万円の生前贈与を受けた場合には、これは非課税枠が2,500万円ございます。それで、残った部分に一律20%の税率がかかるものですから、500万円に20%かかって、納付税額は100万円になるということです。

参考にありますように、この制度を適用しないで、暦年課税、通常の贈与税の課税になると、贈与税額が1,220万円になるということでございまして、精算課税を使うと、当座の贈与税の負担がかなり低くて済む。これが生前贈与を円滑化するということの部分だと思います。

それから、相続時、贈与者が亡くなった時に、精算するという段階ですけれども、この贈与額3,000万円がそのまま相続財産の中に合算されます。したがいまして、例えば贈与を受けてから値上がりしていたとしても、その値上がり分というのは相続財産に入らなくて、贈与時の価格で合算される。これがまた1つのポイントになってございます。

それで、贈与額を合算して相続税の計算をします。仮に、右端にありますように、税額αというものが出てきたといたしますと、どういうふうな精算になるかということですが、一番下にありますように、税額αというのが、すでに納付しました精算課税での納付税額100万円と比べまして、相続税のほうが多いという場合であれば、差額だけを納付していただく。逆に相続税のほうがすでに払った贈与税よりも少ないということでありますと、この差額が還付されるという仕組みでございます。

簡単ですが、以上でございます。

中里主査

ありがとうございました。

それでは、ただいまの説明を踏まえまして、ご自由にご議論いただきたいと思います。

田近委員

同族課税のところで意見を述べさせてもらいたいのですけれども、ご説明にあったように、長い長い議論をして、そして今日に来ているのですけど、その長い長い議論をほんの少し議論させていただいて、その挙句、私はやはり留保金課税は残すべきだという主張をしたいと思います。

おそらくこの税調でも、一番思ったのは、非常に多くの時間を使われたと思うのですけれども、たまたま昭和28年から昭和が終わるまで、「昭和財政史の税制」というのを書いた経験があるので、一つだけ逸話なのですけど、昔、同族会社へ自営業者の課税で、いろいろな話があるのですけど、社会保険医というか、開業医の問題があって、東畑精一さんという人が会長だった時に、とにかくこれだけは許さんと。開業医だと、所得の7割とか何かが自動的に控除してくれる。それは許さん、これほど不平等な税制はないのだということをずっとやってきました。いろいろあって、最後は昭和50年ぐらいになって、一人医療法人というのができてきて、お医者さんはご本人が代表になって、ご家族が理事になって、それぞれにみんな給与所得を配って、おそらく税は非常に軽くしている。なおかつ、お医者さんには個人事業税はかかっていないという問題があります。これは別にお医者さんの問題なのですけど、問題の根っこは、なぜ古くて長いか、あるいは財政学とか税制をやっている人間には永久につきまとう問題かというと、同族や個人事業者の場合には、得ている所得が資本からの所得か、労働からの所得かがわからないわけですよね。企業の場合なら、労増賃金で払う。残ったものは営業利益だ、何とか利益だ、資本に対するリターンだと。それが同族、個人の場合には、特に同族の場合も含めてわからない。それをどうやって割り振りするかということで、世界各国問題が起きているわけです、二元的所得税とかいいますけど、その最大の問題は、やはり自営業者の所得を資本所得にするか、労働所得にするか……。

今日は原さんがいらっしゃいますから、ご説明いただけるかもしれませんけれども、アメリカで中小企業のS法人の問題が非常に大きな問題になっている。そういうコンテクスの中で、日本も例外でないのだということは確かだと思う。日本は例外でないのだけど、日本なりの方言というか、非常に特殊な問題がある。それは個人所得税において給与所得控除が猛烈に大きいことであると。日本の場合には、ほとんどその一点に尽きてくるわけです。したがって、同族会社だの個人事業者は、まず本人、家族従業員にできるだけ給与で配る。そして、そこでは給与所得控除がありますから、税を軽減する。なおかつ残るものがあるわけです。なおかつ残るものには留保金課税をしましょうよね、というのが長い間の理屈だったわけです。

正直申し上げて、今日の資料ほど税調の歴史で腰抜けというか、言葉は悪いのですけど、気持ちのこもっていない資料は、申しわけないのですけど僕は見たことがない。僕はこれはやはり税制の性だと思うんですよ。どの国が税を作っても、この問題は避けられないんですよ。なおかつ、日本には今言ったような特殊な問題があるから、だからこそ留保金課税は建前としてもしなければいけないわけですよ。

ところが、法人税、所得税の格差が下がったじゃないかとか、中小企業の発展には云々とか。でも、考えてみると、今、法人税の議論もしていて、もしそれが下がれば、格差は広がるわけだし、だからそうじゃないと思うんですよ。これは世界各国所得課税を行う時の性だ。そして、日本では性というのが日本なりに起きているのだと。それなりに留保金課税はしましょうよねと。

実際、昨年だと思いますけれども、ものすごく大きな改正をしていて、同族会社というのは今まで3グループで50%以上を保有しているというのが、1グループで50%。そして留保金の控除額というのもものすごく大きくした。税収がどれぐらい減ったか、そういうデータもぜひ見せていただきたいですけれども、そういう手当もすでにしちゃっているわけですね。そういうことを考えると、この税調の役割として、これは残さなければいけないと思います。

そして、2番目のオーナー社長の、これもパッチワークみたいなもので、新しい会社法ができたので、一人法人ができやすくなりますよと。一人医療法人で驚いていたけど、そんなの誰でももう会社を作れますよと。一人でなぜすごいかというと、自分で一人で会社を作って会社だと。したがって、俺の払っている、私の払っている給与は、それは会社の利益じゃなくて、給与ですよということで引いてしまうわけですよね。それに対しては、いくら何でもという話だと思います。やむを得ない。

そういうことで、私の議論は、税の人間が理屈っぽいことで、頭が堅いかもしれない。ふだんあまり堅いことを言わないつもりなのですけど、ここは、多少税をやってきて、やはり我々は踏ん張らなければいけないと思います。

中里主査

さて、いかがでしょうか。

上月委員、どうぞ。

上月特別委員

すみません、井上委員のあとのほうがいいのですけど。

中里主査

そのほうがいいですか。では井上委員。

井上特別委員

まず、今日、留保金課税と事業承継税制をやるということを聞いておりませんで、最初11月10日にもらったのは、国際課税までだったわけですよね。今日突然出てきたので、データや何かを持ってきてお話しするあれがないのですけれども、ただいまの田近委員のお話は、絶対に許せないというのが私の考え方でございまして、まず留保金課税、今の世の中の仕組みというのが本当に変わったということなのです。要するに、金融の問題にしても、金融のシステムがまず変わっているじゃないかと。企業が健全化するということがまず第一で、利益を上げて、税を払って、残して留保して、自己資本を充実させるということが大事なわけですよね。そして、それによって企業がよくなる。そして、金融機関というのは、今、もう目利きができる金融機関はなくなったのと同然なわけです。大企業はみんなスコアリングでしかやらない。そうすると、その自己資本比率がどこまであるかによって、金利というのが、今の公定歩合から10%近くまで高い金利を納めなければならなくなるわけであって、そういうことからいって、企業の自己資本比率を上げていくということは、非常に大事なわけであって、それを儲けたからといって、税金を20%も留保するからといって持っていくというのは、とんでもない話ではないのかということなわけです。

ともかく、どの先生も性悪説のほうに立って物事を考えているのではないかと思うわけですけれども、企業家はもっともっとまじめに、日本人というのはまじめにやっていますよ。そういう点をよくおくみ取りおきいただきたいということです。

それから、事業承継の問題ですけれども、同族会社の株式というものは、確かに資本ということでなっておるわけですけれども、要するにこれは担保にもならない、資産価値が一銭もないようなものですよね。要するに、銀行は同族会社の株を持っていったら、担保に取って金を貸してくれるかといったら、それはないわけです。要するに紙っぺら同然だということであるわけであって、それを評価して、それで相続税をかけるということに問題があるのではないかと思います。

先ほど三角合併の時に、事業を営んできた事業者が引き続き事業を営む場合には、課税を繰延べするという、企業の場合、大手の場合はそういうことはちゃんとはっきりしている。じゃあ、中小企業ではそれが許されないのかということになるわけでして、やはりまず株式については、事業を継続している間においては、絶対に繰延べをするべきであって、そして企業を栄えさせていくことのほうが大事なのではないか。安部総理に、中小企業の元気が不可欠だということを言っていただいた以上は、中小企業をどうやって育てるかということが大事だと思います。

それから、開業率、廃業率を見てくださいよ。廃業率6%を超えている。これは何でかと。先行きに希望が持てないという個人企業の人が廃業しているということなわけですよね。大体12万社から廃業を毎年しておるということであるわけでして、そのうちの3年間でいうと7万社が、もう後継者がいないだとか、もう先行き見通しが立たないというようなこともあって、廃業しているのだと思いますけれども、中には個人企業などは、子どもを育てる時に、親父の威厳といいますか、この企業を運営することによる楽しさというかそういうもの、国に貢献する、そういったようなことについて子どもたちに教育をしていないということから、後継者を失っているというようなケースもあると思いますけれども、やはりお店にしても何にしても、儲からなければいけないということが大前提だと思いますので、そういう点をおくみおきいただいて、留保金課税は絶対にこの際なくしていただくということと、それから、事業承継のための株の問題については、これは課税の繰延べをするということは、絶対的に考えるべきだと思います。よろしくお願いいたします。

上月特別委員

私は中小企業の経営者でも何でもないのですけれども、ただ、同族会社の留保金課税につきましては、18年度税制改正でかなり緩和されました。その効果がどの程度あるのかというのを教えていただきたいと思います。それの内容を見て、必ずしも絶対にこれは廃止ということは言わなくてもいいのではないかなと、そんなふうに思います。

ただ、実質的な一人会社のオーナー役員の損金算入制限の問題ですね、これにつきましては、もともと会社法が施行されました時に、個人事業者が法人成りをすることによって節税メリットを図るということで導入されたわけですけれども、現実の状態を見てみますと、必ずしも法人成りした零細企業者というよりも、中小企業がようやく育ってきて、従業員もある程度擁し、そして、規模もかなり大きくなったというようなところに本当に影響が大きくなってきておりますので、このあたりは一度見直していただけないのかなと私は思っております。ちょうど今の中小企業の活性化とか成長とかいうお話が出ておりますので、そういう観点からも見直しをお願いできないのかなという気がいたしております。資金が実際に流出しておりますのに課税だけされるというのは、間接金融に頼っている中小企業にとっては、やはり重いのではないかなという思いでございます。

中里主査

最初のご質問についての、実態のほうは何か。

吉田税制第三課長

それでは、留保金の18年度改正で何をやったかということでございますけれども、先ほど田近委員からもご指摘がございましたけれども、判定の基準で株主グループを3グループから1グループに見直したというのと、それから、所得に占める留保控除のところを2分の1に引き上げたというような形。したがって、内部留保の通常行われている額のところまでは当然確保した上で、課税関係が生じないようにしていくという形の措置をとっておりまして、その措置によってどの程度財政的に影響があるか。昨年特に試算したものによりますと、改正前で大体1,600億円ぐらいに相当するものが、改正後には大体800億円ぐらいになるという形で試算をしております。

それから、一人オーナーの損金算入につきましては、18年度改正で行ったものでございまして、実態がどうなっているかというのは、執行がまだ始まっておらないものですから、そこは見てみないとわからないという実態がありますということは、ご理解いただきたいと思います。

林委員

留保金課税は、先ほどからお話が出ていますように、控除率が引き上がったわけですね。実はいわゆる適正な内部留保ってどれぐらいなんだろうというところがまずあって、それに比べて今までの据え置かれた控除率が適正なのかどうかということがあって、そして、それが引き上げられたと私は理解をしているのです。

そうすると、それを上回ってまだ内部留保があるとするならば、それは中小企業の育成を図るのだという意味で、政策的に優遇していくというぐあいに考えるのか、あるいは、それはやっぱりおかしい、つまり中小企業だけでなくて大企業も大事なので、なぜ中小企業だけなのかという話にもつながってくるわけですね。

ですから、私、問題は、要するに中小企業対策をどうするかという話と、税の議論として、適正な内部留保なのかどうかというところと、切り分けて議論しなければいけないと思うのです。ということは、引き上がった控除率というのが、いわゆる適正なものなのかどうかというところが非常にポイントになっていて、その引き上げた目安といいますか、どういう根拠でそこまで引き上げているのか。もしそれが税の論理としてはリーズナブルな率なのだということであれば、あとは次のステップとして、中小企業は特にという話になってくるので、そこを切り分けて議論しないといけないのではないかなとちょっと思います。

田近委員

いや、それも甘いと僕は思うのは、今議論しているのは同族会社ですよね。普通の会社ではなくて。それは、さっき言ったように、家族を従業員にして、給与で分配してしまうわけですよね。その挙句の留保所得を議論するわけですから、一般的な会社と比較しても、基本的には意味がない。だから、どこかの法律学者が、これは日本のオルタナティブ・ミニマムタックスだと。アメリカもそれが嫌で嫌で、取っ払いたいという議論をしていますけれども。だから、これを取っ払うというのは、基本的には日本の状況では給与所得控除を直す。そして、法人税率と個人所得税率の最高税率をそろえるという形で解決していくべきで、根っこがものすごくはっきりしていて、大きな問題があるわけですから、その根っこを変えられないという前提で税制を立てるならば、ある意味のこういうものもやむを得ない。だからこそ、一時日本はみなし法人課税から延々とどろどろした議論をしてきてここにいると、私はそう思っています。

林委員

田近さんは、そうしたら留保控除もそもそも存在すべきではないというぐあいにお考えですか。

田近委員

いやいや、その辺はもう割り切りの問題で、細かくやれとなれば、いくらでもやれます。つまり、留保所得のところにいる人たちの所得を全部調べればいいじゃないですか。あるいは典型的な同族会社の税負担というのを見て、その判断をしていくべきで、だから、それをやめるとか、やめないとかじゃなくて、一般の会社とのイクイバレンスで同族会社を考えても、それは適切ではないということを言いたいわけです。

秋山特別委員

この問題を議論する時に、ぜひとも1点ご考慮をいただきたいなと思っている点がございます。例えば、また自分の経験で申しわけないのですけれども、原さんがおっしゃるような技術開発を一生懸命やりながら、王道の経営をやっていきたいなと取り組んでいる創業経営者の立場からすると、この制度の趣旨は非常によくわかりますし、例えば個人事業の法人成りのような形で営んでいらっしゃる方の中に、一生懸命稼いだ利益の一部を社会に還元するという意識が薄い方が多いという実態も、これは認めます。ただ、実際に自分がやっとの思いで出した初めての利益の税額計算の中から、これがかかったんですね。これはなぜかというと、大概、新しい創業間もない会社の資本構成というのは、往々にして同族会社にならざるを得ないという部分がございまして、本当にその時の率直な感覚としては、そういう会社と同じに見られている、一緒くたにされているということについて、非常に残念な思いをしたという経験がございます。

ここで申し上げたいのは、例えば、ベンチャー企業の育成を推進していこうというような方向性があるのであれば、例えば創業間もない企業が初めて利益を出したら、それからしばらくの一定期間、もしくはいくつかの要件をつけて、こういうものをかけないというようなことは、ぜひご考慮いただきたい。それが「成長なくして財政再建なし」という道にもまたつながっていくのではないかなと思っております。

井上特別委員

どうも田近委員のおっしゃることが私理解できないのだけど、要するに個人会社と同族会社、個人会社から次のステップは同族会社として株を持って、何人か従業員も抱えてという企業がいっぱいあるわけですよね。確かに個人の場合には、勝手気まま、いろいろなことができるから、そういう考え方もおありになるのだろうと思うけれども、今、秋山さんのおっしゃったように、開発型の企業だって、それもスタートは2人、3人でスタートをして、それが4人、5人になっていく。物を作り出す開発というのは、大変なんですよね。一つの物を作り上げるにしたって、何千万の金がかかる。それを先行的に投資してやっていくということについて、もう少し先生方にも理解してもらいたいなと思います。よろしくお願いします。

江上委員

この個別制度については、ちょっとよくわかっていないのですけれども、今、秋山委員からベンチャー企業の育成というような言葉が出ましたので、長らく私はベンチャー企業の育成に関連した仕事をしてまいりまして、それから、女性企業家の実態調査などをずっとしてきまして、やはり今秋山さんがおっしゃったように、資金に容易にアクセスできる状態じゃない企業家というのはたくさんいるわけですね。ですから、女性企業家などの、どういう資金構成かというのを見てみると、やはり同族、親、夫、そういうような形で立ち上がり、行っているという例がたくさんあります。やはり今、先ほど井上委員もおっしゃったように、開業率を廃業率が上回っているという実態で、アメリカでは1992年から年間82万社ぐらいの中小企業が出てきて、それが非常に大きな景気の下支えになり、雇用の吸収、受け皿になっているということを考えると、従来のステレオタイプで同族会社という形態を一律に想定して、従来の税制の考え方を適用するのはいかがなものかなという観点を、ちょっとまた考慮していただきたいと思いまして、一言申し上げます。

中里主査

アメリカは留保金課税がございますよ。細かいことですけど。

そろそろいかがでございましょうか。言いたいことはそれぞれのお立場でいろいろとあると思うのですが、十分に発言いただけましたでしょうか。

それでは、時間の関係もございますので、それぞれのテーマについての質疑をこれで終わります。

なお、このあとの記者会見で、私のほうから議論に関し、質疑を受ける予定でございます。

それでは、本間会長、よろしくお願いいたします。

本間会長

大変精力的なご審議をいただきまして、ありがとうございます。本当に税の問題は難しいということがご議論の中でも散見されるわけでありますけれども、税調としてもう少しきちんと深掘りしなければならないなというような要素も、これまでの議論の中で、私、出てきておるのだろうと思っております。今年どこまでやるのかということも含めて、もう一度、今日もまだ収束していないと、私思っておりますので、しっかりとした議論をこれからしていただきたいと思います。

時間が押しておりますので、今後の予定について、私のほうからご案内差し上げます。すでに決めておりますけれども、減価償却制度、外形標準課税等に関するグループ・ディスカッション、ここで実効税率のところが出ていないというのがおもしろいのですけれども、おそらくその問題も出てくると思いますけれども、11月21日、午後2時から4時まで、中央合同庁舎第4号館で開催をいたします。この点については、田近委員のもとで議事を進行していただきたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

また、これ以降の日程ですが、11月22日、午後2時から5時まで、総理官邸において総会を開催し、3回のグループ・ディスカッションの報告を行いたいと思います。

それでは、本日のグループ・ディスカッションはこれで終わらせていただきたいと思います。お忙しいところ、どうもありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。

グループ・ディスカッション