調査分析部会(第9回)議事録

日時:平成19年7月13日(金)14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室

田近部会長

それでは、第9回調査分析部会を開催いたします。お忙しい中、御参集いただき誠にありがとうございます。

今日の議事進行について御説明いたしたいと思います。今日は、2つのテーマに関して調査分析部会の審議を行いたいと思います。それぞれ1時間ずつ、プレゼンテーションを30分程度、続いて議論ということで行いたいと思います。

まず、最初のプレゼンテーションは、外部有識者として公認会計士の近藤さんにお越しいただいています。

そして、第2部は専門委員の國枝さんから御説明を受けたいと思います。

続きまして、人事異動、そして新しく税調に加わっていただく事務局の方について申し上げたいと思います。

お手元に資料を配付しております。「内閣府 異動状況」「財務省主税局 異動状況」「総務省自治税務局 異動状況」。そこに前任、そして今回の人事異動で加わっていただくことになった方々の氏名が書かれていると思います。それを、今、ご覧になっていただきながら、今回、新しく代わられた局長、審議官の方から一言ご挨拶をいただきたいと思います。

先ず、資料の2ページ目ですけれども、主税局長が石井さんから加藤さんに代わられました。

大臣官房審議官が宮島さんから田部さんに、大臣官房の主税局の審議官が佐々木さんから川北さんにということで、加藤局長、川北審議官、田部審議官、一言ご挨拶をいただきたいと思います。

加藤主税局長

御紹介いただきました、主税局長を拝命いたしました加藤でございます。どうか、よろしくお願いいたします。

川北審議官

川北でございます。大阪で国税局長をしておりました。審議官を拝命いたしました。どうぞ、よろしくお願いいたします。

田部審議官

宮島の後任の田部でございます。10日付で官房審議官を拝命いたしました。どうぞ、よろしくお願いします。

田近部会長

続いて、総務省自治税務局の方ですけれども、大臣官房審議官税務担当が岡崎さんから高橋さんに代わりました。高橋審議官、一言お願いします。

高橋審議官

高橋でございます。よろしくお願いいたします。

田近部会長

いろいろ異動がありますけれども、資料をご覧になっていただいて、確認してください。

それでは、本日の議事に入りたいと思います。

まず、第1のテーマですけれども、資料の調査9-1をご覧になっていただきたいと思います。「中国の企業課税と日本企業の税制上の諸問題」ということで、近藤公認会計士に御報告いただきますけれども、この税調でもアジアの報告として井堀さんたちのグループが調査されてきた韓国とシンガポールの話がありました。それの前かどうか忘れましたけれども、この場でも中国の様子について、是非税調の中でも聞きたいという要望がありました。本日は、それに応えてというつもりで企画しました。

そして、近藤さんですけれども、中国における税務会計の第一人者でいらっしゃいます。本屋さんに行って、中国の税務に関して、近藤さんの本を買わずに済まないという方です。今日はお忙しい中、来ていただきました。

早速近藤さんから、あとはお任せしますけれども、中国の税制と日本の企業が中国で抱えている問題ということを30分程度御説明いただいて、あとは自由に議論ということにさせていただきたいと思います。

近藤さん、お願いします。

近藤公認会計士

ただいま御紹介預かりました近藤でございます。本日は、よろしくお願いいたします。

私のレジュメの1枚目が目次になっておりまして、今日はこの目次に従って、なるべく皆様に御理解いただけるような形で御説明していきたいと思います。

初めの2ページに、中国の租税体系ということで、現行の税制を一応並べておきました。区分のところは、流通税とか所得税、資源税、こういった目的税とか書いてありますけれども、これは一応、中国側の区分に従っております。税法は、真ん中に書いてあるとおり、かなりの数の税法がありまして、その右の欄が共通、外資、内資と分けておりますが、中国は対外開放しまして、外資を導入するということに当たって、税制も中国の内資の企業、要するに国内資本の企業と外資系の企業とを分けて取り扱ってきたという流れがありまして、これはまた後ほど御説明しますけれども、統一の方向に向かっております。

一番右の欄は、これらの中国の税法は一体何なのかということで、それに相当するであろうと思われる、内容は別にしまして、非常に近い税法を右に並べておきました。

表だけ初めに御説明します。

3ページに税収構造ということで、これは中国の国税庁、すなわち国家税務総局という機関がありまして、そこのホームページで中国の税収の流れをかなり古い年次から統計を発表しております。ここの区分も一応流通税、所得税、その他という形で、この辺は私の方で加工してあります。数字は、全部そのまま使っておりますけれども、この中で、皆様がわからないかなと思うもので、増値税というのが初めに出ておりますが、これは日本の消費税のうちの物、資産に該当するもの。

それから、中国では、もう一つ実は営業税というのがありまして、2ページの「[1]租税体系」のところで、増値税、営業税、消費税とありますが、日本の消費税に該当するのは、物に関しては中国では増値税、それから役務提供、サービス、それに関しては営業税が該当します。

中国でいっている消費税というのは、日本でいう、昔の物品税の奢侈品とか、そういったものに関わってくる税法である。

もう一つ、簡単に御説明しますが、2ページの租税体系の中で、所得税というのは、現在、日本の法人税に当たるものが2つありまして、1つは企業所得税暫定条例と書かれています。

これは、中国の内資企業の法人税です。その下のものが外資系の所得税法がある。あと、個人所得税法は前回の税制改正で一本化されて、今、これは外国人も中国人も同一の取扱いということになっております。

レジュメの4ページに移りますが、今の2つの租税体系と税収構造を使って、中国の税制がどんな構造になっているかということを御説明したいと思います。

初めに、これは非常にはっきりしているのですけれども、先ほど言いました増値税、営業税、消費税、この3つは流通税と言っておりますが、この税収が全体の7割を占めているということで、その中でも増値税が税収全体の半分です。その中で、更に輸入するときに、日本でも輸入するときは消費税がかかりますけれども、そういった輸入の増値税が1割強ある。

企業所得税に関しては、先ほど言いましたとおり、1978年、今から30年ほど前ですけれども、対外開放しようということで、外資には外資の税法をつくった。それから、国内の中国の企業の経済活性化を行うということで、これは内資企業の税制として出発している。

それで、2行目に書いてある、1994年に一番重要な流通税と個人所得税の内外が統一化されました。しかし、企業所得税法は統一がされておりませんで、これは今年の3月に全人代で、新しい企業所得税法として統一の税法が公布されております。来年1月から施行されることになっております。

それから、税収の方の表を見ながら御理解いただければよろしいのですけれども、1994年が前回の一番大きな税制改正だったのですけれども、それから現在に至るまで、税収はどのように増加しているか。

簡単に言いますと、中国の内資の企業については、税収が9倍に増加しております。それから外資については32倍。外資については、初め緩やかな曲線から急激な税収の増加に移っているのですけれども、これは外資に対して特別な優遇をして外資導入を図ったわけです。ということで、税収としては、初めは余り伸びておりません。

しかし、それでは、外資の優遇税制がある程度一段落するには、5~6年かかるのですけれども、その5~6年過ぎた辺り、2000年代に入ってから、外資の企業所得税の税収は急激に増えてきている。

あと、個人所得税も94年のころに、中国人の方も含めて、余り所得税を払っていなかったのかなという、要するに全員が納税しているという状況からスタートしていないと思いますので、個人所得税については、34倍という急激な伸びになっておりますし、まだまだ税収が完全に徴収されているか、どうかという問題は、現在でも残っているかと思います。

最近の税制改正なんですけれども、個人所得税に関しては、2005年に月額ですが、800元という控除がありましたけれども、それは1,600元まで増加している。

これは、80年代からの税法ですので、要するに所得の増加によって、こういった控除額を大きくしても、税収の大きな減収はないという判断で、控除額が変更されております。

それから、今年改正された企業所得税法の統一の背景ですけれども、これは中国経済が、御承知のとおり、国際化に完全に入り込んでおりますので、その中で、中国の内資企業が海外で国際競争力を保つと、それを強化するにはどうしたらいいか、そのための税率なり、租税措置を考えている。

もう一点は、海外での競争ばかりではなくて、中国国内で公平な競争というものが望まれておりました。

例えば2行目ですけれども、内資と外資と2つの税法があったわけですが、外資といっても、実は中国の内資企業が、例えばケイマンとか、香港とか、外資に1回子会社をつくりまして、外資の子会社に投じて、また、中国国内に出資させる。そうすると、外資扱いになります。

ですから、同じ内資といっても、純ドメスティックな企業は内資企業の扱いしかありませんけれども、やはり資金力もあって、国際的な活動をやっている内資については、一旦外に出て、また中国に戻る。これは往復投資と便宜的に訳しましたけれども、こういった行って帰ってくるだけで外資の扱いを受ける、これは非常に不公平だという声が非常に強く高まっておりました。

3点は、中国が一番必要なのは技術です。対外開放をやってきて、お金は入りまして、御承知のとおり、外貨準備高も非常に多いですし、財力は非常にあるわけです。

それで、今の段階では何が必要かというと、やはりあとは技術ということで、今回の税法改正でも、こういった技術力を高めて、付加価値の低い産業から高い産業に早く転換していかなければいけない。

税法も、今の経済の状況に合わせるべきだという議論で、こういった高度な技術というところに優遇を考えております。

もう一点は、外資が今まで優遇され、税率も低くなっておりましたし、2免3減とかいう、初めの2年間は免税、その後、3年間は税金を半分にしますよという2免3減の優遇税制もありましたけれども、それは、外資を優遇している。要するにWTOに入って内国民待遇を認めるという話どころではなくて超内国民待遇である。要するに内資以上に外資の方が優遇されている。これに対する批判も相当強くて、今回の税制改正でも、外資に対する優遇税制というものが、かなり廃止される方向で決まっております。

次に5ページで、中国では、国税と地方税という、1つの切り口がありまして、ここでは細かく言いませんけれども、例えば中央税、要するに中央政府に入ってくる税金の3番目ですけれども、中央企業の企業所得税というものがあります。

それから、地方税の方をご覧になっていただいて、2番目に地方企業の企業所得税、要するに国有企業といっても、中央政府に属する企業、それから地方政府に属する企業、これによって、国家税務局か地方税務局に納税する。地方政府に所属する国有企業は、地方税務局に納税するということで、まず、税収がそちらに行くわけです。これは、一応、徴税機関として国家税務局と地方税務局があります。また、それ以外に共通税というものがありまして、これは増値税、先ほどの一番大きな税収ですけれども、これは国家税務局、要するに国の方の税務局が徴収する。

その後、分配が行われます。それは、税収の分配に書いてありますけれども、これは94年に初めて国家税務局と地方税務局というものをつくりました。それまでは、各地方政府が、徴収機関を全部持っておりました。ですから、中央政府は徴収機関がなかったわけです。94年のときに、分税制ということで、要するに税務局を2つに分けて、国家中央政府は、自らの税金を徴収するという制度をつくりました。

一番重要な増値税は、中央政府の国家税務局が徴収し、その後、地方に25%分配する。地方の財政収入になります。それは、増値税だけだったのですけれども、2002年、2003年に企業所得税も、例えば地方政府に属していた企業が、いろんな事情で、今度は地方政府に属する。ですから、どこに帰属するかによって、税収が大きく変動してしまうという弊害もありましたものですから、どちらが徴収しようが、徴収した後に中央と地方で分配しましょうという形で企業所得税も行っておりますし、個人所得税もそのような形で分配が行われております。これは、ちょっと日本にはない、中国の歴史的な産物ということであろうかと思います。

今の説明は、6ページのところを基本的に説明しました。

言い残したところは、日本のような地方交付金制度というのは、まだ法的に完全に整備されておりませんので、これも将来の課題になるだろう。

それから、租税体系のところで御理解いただいたように、かなりいっぱい不動産関係の税金も内資と外資で違っておりますし、あと、基本的に日本は消費税で一本化されている、中国でいう営業税と増値税、サービスと物、これの税法の統一というものが、今後の課題になっております。

7ページに移りたいと思います。

今度の企業所得税の課税ベースですけれども、中国の企業会計は、どんな状況かということを簡単にまとめたんですが、1993年に社会主義の会計から資本主義会計になったということです。ですから、14年前に、中国の国有企業を含めた会社が資本主義会計に基本的に移行したと御理解していただいてよろしいかと思います。

それから、2001年に中国の国有企業を前提とした会計、資本主義会計ですけれども、そういったローカルの基準から、ある程度国際会計基準に移行した会計基準を設定して、現行は企業会計制度で運用されております。

それから、今年の1月から更に新しい新企業会計準則というものが制定されまして、これは同等性がこれから検討されますけれども、国際会計基準にかなり近い状態のものにはなっております。ただ、何割かは、中国の経済の実情に合わせた会計基準は残っております。

それから、税務の方ですけれども、1990年代は、大体税務の規定と会計の規定がほとんど一致しておりまして、税務上の加算、減算は、ほとんど交際費、寄附金ぐらいしかないという状況が昔はありました。

1990年代後半から課税当局の方が、こういった会計に依存しているような課税所得計算では、要するに税の徴収を確保できないということで、会計と切り離したところの課税ベースを確立しようという論調が非常に強くなりまして、その後、会計の方も先ほど言いましたとおり、国際会計基準を少しずつ採用してきておりますので、そういった会計基準の変更に左右されないで、税務だけでどういう基準で課税所得を決定していくかという流れに完全に入っております。

先ほど言いましたように、2001年に企業会計制度を導入した段階で、上場会社からの不満が出まして、コストが大変であると、今までは税務と会計がかなり近かったので、その作業は大変でもなかったけれども、これだけ乖離してくると、我々としては大変だということ。

結論としては、会計上は、かなり費用と損失を認めておりますが、税務上は、日本でいう損金ですね、これはなかなか厳しいものですから、会計上は利益は減少する。税務上の税金は増えてくると、この乖離が非常に激しい。

それから、国際会計基準の流れの中で、減損会計とか、貸倒引当金とか持分法適用とか、いろいろな会計基準が入ってくるのですが、これらについては、大体税務上は全部否認される、自己否認するということになっております。

そういったことで、3に「税前控除規則」というのがあります。これは中国の言い方ですけれども、要するに原価とか費用、損失をどこまで損金性を認めるかということで、かなり厳格な規定が残っておりまして、今回の企業所得税法が、これから実施細則が出ますけれども、その段階で、内資と外資の統一の基準ができるだろう。

8ページに移りますが、今度は税率です。これは、旧企業所得税法は基本税率が33%、これは国税30%、地方税3%、それで、経済特区とか外資導入で沿海地域に経済特区、もしくは沿海のいろんな開放区をつくりまして、これは15%、24%で沿海地域に外資を導入したわけです。

実際には、それ以外に優遇のいろんな措置がありますので、外資企業としては、11~15%ぐらい。33%が基本の税率ですけれども、実質的には優遇によって15%ぐらいまでしか負担はなかったろうということ。

内資に関しては、22~25%程度であろう。これは、中国の税務当局がいろんな公開した資料の中で言っている数字なので、実態はどの程度表わしているか、よくわかりませんけれども、一応、建前の論議としては、外資の方の税率が低い、内資の方が高い、更に国有企業はもっと税率が基本税率に近いという議論が行われております。

それで、新しい今度の企業所得税法は、基本税率は25%にしようということ。それから、小型の利益の薄い企業については、20%の軽減税率。更に技術導入が必要ですので、中国語で高度新技術企業と言っております。一応、ハイテクと言っておりますが、ハイテク企業に関しては15%で優遇していこうということ。

新しい25%をどうやって決定したかということですけれども、全世界が減税の傾向にある。その中で、平均の税率は28.6%程度であろうということ。それから、中国周辺ですから、これはアジアだと思いますけれども、その平均税率も26.7%であるということ。

第2点目の観点は、内資の税負担は軽減しよう。国有企業は30%近い。ですから、25%であれば軽減する方向になる。

外資の方は、15%を25%ぐらいまで持っていっても、これはやむを得ないのかなと思います。それから、財政で負担できる範囲内ということで、それも考慮して25%以内。

それから、目的としては、中国企業の国際競争力の確保、それから外資導入で25%であれば周辺国より有利に設定されているということで、25%が決定されているという説明があります。

次は9ページですけれども「(3)戦略的優遇税制」と題名にしたのですけれども、今までは外資を導入するということで優遇が行われてきた。それから、沿海地方をまず発展させて、沿海地方が発展した後、中西部、内陸部の経済を発展させるという基本的な戦略がありましたので、沿海地域に経済特区を設立して、低い税率で導入した。

今回は、そういった地域的な優遇はやめまして、先ほどから言っておりますとおり、技術です。多分、私は一番技術が大きいのかなと思います。それ以外には、ここに書いてありますとおり、従来どおりの農業とか、開発をしていかなければいけない産業に対する減免税をやっていく。もしくは道路もやっておりますけれども、インフラ整備もやっていかなければいけない。

あと、新しく出てきたのは、ここに書いてある環境保護・省エネ・節水といった新しいグローバルな経済の中で、中国はこういったものの役割を果たしていかなければいけないということを税制に反映しております。

ということで、10ページに、もう一点付け加えるとすれば、研究開発の所得控除がありまして、これは、新たな新技術とか新製品の開発については、勿論、研究開発費を損金で落とす。プラス更に50%も追加で所得から控除してよいという規定を、これは実は今もありますので、継続して適用される。

それから、中国の優遇税制の特徴は、これは先ほど言いましたとおり、これは要約しただけですけれども、産業構造を低付加価値から付加価値の高いものにもっていこうということ。それから技術ですね。それから研究開発も技術です。それ以外に環境保護等の配慮を行っていくということになります。

次に11ページからは、日本企業が中国で事業活動をしていく上で、どのような問題があるのか。これは、今後、発生するかもしれない問題と、今まで存在した問題と両方一緒に書いてあります。

それから、初めは、管理支配地基準というのが出てくるのですが、これはこれからの問題です。中国は、今度新しく企業所得税法をつくりましたが、その中で、いわゆる居住法人、要するに居住企業になりますと、2段落目に書いてありますけれども、国内と国外すべての所得に対して納税義務を負うわけです。

非居住法人、要するにその国の会社ではないですよといった場合には、その国で源泉がある所得に対してのみ、納税義務があります。ですから、すべてに対して、全世界所得に対して納税義務を負う居住法人の意義というのは、非常に定義が重要になってきます。

今回、中国は、今までの居住法人の定義を全部やめまして、設立登記地、要するにその会社が登記された場所、それが中国であれば、それは中国の居住法人ですよということ。

もう一点、これが非常に重要ですが、管理支配地基準というものを入れました。日本は本店所在地基準ですね。ですから、日本の場合は、本店もしくは主たる事務所のある場所が、それは日本法人ですよということになります。

中国の場合は、先ほど言った設立登記は、本店と非常に近いと思いますけれども、国際実務の中では、本店とは別に設立登記して、また別の国での登記もありますので、厳密に設立登記地ですということ。

もう一点は、会社の本店がどこにあろうが、会社がどこで登記されようが、会社が実際に管理、支配されているその場所がその会社の所在地国である。それで税金をかけましょうと、こういった管理支配地基準を出しました。

これは、なぜ問題になるかというと、国によってそれぞれ基準が違いますし、これは租税条約で解決されますが、基本的に二重課税が発生する可能性が出てきます。

ここに香港子会社と入れましたのは、これは例えばの話ですけれども、日本の企業が香港に子会社をつくる。その香港の子会社が中国国内で加工工場、実際に工場を持っている。こういったケースは結構あるのですけれども、これは例えば日本から見たら、日本のタックスヘイブン税制で中国の加工工場までの所得まで、日本の課税が及ぶことになります。また、香港では、勿論、香港の領域内の源泉所得については課税する。

それで、将来的には、中国は先ほど言いました居住法人、これは管理支配地基準を取りますから、香港の子会社が実質的に管理運営されているのが、中国本土であれば、中国の企業として、中国の25%、香港の17.5%ではなくて、25%を香港子会社全体にかけるという課税が行われます。

ただ、これは、まだ中国の新企業所得税の管理支配地基準の具体的な内容は公表されておりませんので、まだ、今後の課題ということです。

それから、2点目は「租税回避対策税制と移転価格問題」ということで、今度、新たに制定された企業所得税法は、今まで移転価格税制は中国にもありましたけれども、更に中国から見たタックスヘイブン税制、対策税制ですね。それから、過少資本税制。

それ以外に租税回避行為があった場合には、その行為そのものも否認しますよという新たな否認の規定も設定しております。

11ページの一番下を説明しますが、租税回避行為については、合理的な事業目的を持たないで、租税を回避するための目的のためであれば、それは税務当局が修正を行う。

中国の1つの問題の難しさは、各地方の税務局が結構走っていく部分がありまして、それを中央政府の国家税務総局がコントロールしていくという場面がないと、各地方の税務の取扱いが変わってきたり、先に走ってしまう。そういった傾向がありますので、こういった行為の否認を行うに当たっては、限定的にやっていくという話がありました。

それは、12ページに先週の1週間前に、金曜日に田近先生の方で主宰された北京の大学と日本企業を集めたセミナーを2つやったんですけれども、その中で、中国の課税当局の方が説明していたものをここに紹介したいと思います。

1点は、細かい話ですけれども、中国の移転価格で、今まで企業だけだったのですけれども、個人も含めた関連者に対象範囲を拡大する。

それから、移転価格の資料の提出義務も関連者以外の第三者からの資料徴求も行わせて、その義務を負わせる。

先ほど言いました租税行為の否認については、悪質なものに限定して、濫用しない方向で中央政府としては見てきたいという話がありました。

あと、比較対象取引に関しては、一応、公開データを使用するということですが、今まで日本の企業も移転価格の問題で、中国は、要するに全部管轄地域内で外資系の企業のデータも持っているわけです。それで、その地域の、要するに税務局の管轄地域内の外資系の利益率も平均で持って、データも持っているわけです。

片や納税者である日本企業は、そういったデータは全然わからないわけで、そこにちょっと難しさがあったのですけれども、公開データは、中国でどのぐらい入手できるかという現実の問題もありまして、こういった比較対象取引の選定が非常に難しい。

最後に書いてありますのは、国家税務総局に権限を集中管理していく方向で、移転価格の公平な運用を行いたいという話がありました。

それから、3番目は「PE課税と個人所得税」。PEと申しますのは、日本企業が中国で事業を実際に行う。その事業を行った場所がパーマネント・エスタブリッシュメントと言いまして、恒久的施設に該当すれば、そこで事業を行っているということで課税が行われます。1番目のコンサルタントの役務というのは、非常に古い問題で恐縮ですが、日本が昔プラント設備を中国に売っておりましたけれども、今でも売っておりますが、プラントを売って、そのプラントを稼働させるのに、いろんな技術役務の提供が必要になるわけですが、それについては、租税条約では機械設備の販売に伴うコンサルタントの役務というものは、役務分は課税されないわけですけれども、中国では、一律6か月間を超えて役務提供が行われた場合には、すべて、そこに事業の場所があるものとして課税を行う。これは、ずっとこういった形で行われております。

2番目は、駐在員事務所課税で、これも古い問題ですけれども、駐在員事業所が実際にどういう行為、どういう機能、どういう目的で動いているかという恒久的施設に該当するかという本来の考え方とは離れたところで、中国国内の規定で、例えば中国に最終的に輸入されるという取引に、その会社が駐在員事務所を持っていたら、その会社は恒久的施設、簡単に言いますと、これは昔の話ですが、商社が駐在員事務所を中国国内に設置した場合、駐在員事務所が連絡業務だけをやっていたとしても、もうそれはだめなんです。要するに中国に輸入する会社、販売専門の会社が中国国内に駐在員事務所を持った瞬間に、それは事業をやっているとみなして課税するということがあります。そういった問題が、現在も残っております。

3番目は、個人所得税ですけれども、これもちょっとほかの国際課税と取扱いが異なっておりまして、1回恒久的施設と認定された場合には、そこに派遣された人はすべて個人所得税の納税義務がある。一応、日中租税条約で、183 日以内の滞在であればということと、それから給与が国外の雇用主から払われている。恒久的施設が、それを費用としていない、自分のコストにしていないということの3つの条件を満たせば、所得税の課税はないんですけれども、これは短期滞在者の免税といっておりますが、そういったことは中国では一切認めておりません。恒久的施設であれば、必ず所得税は課税という実務が行われてきております。

4番目ですけれども、これは増値税という日本の消費税と同じ構造で、売上税から仕入税を引いた差し引きの税金を納付するということですが、例えば日本ですと、輸出した場合には、輸出した販売高には当然消費税はかかりません、これは国外に行きますのでね。 もう一つは、仕入れて、仕入税は払ったと、それで他に取引がなくて100%輸出した場合、日本で物を買うときに消費税を1回負担しているわけです。それは、もし、売上が輸出100%であったとしたら、その消費税というのは、日本では還付されるわけです。

ですから、輸出売上に関しては輸出した売上高は免税。それから仕入税というものは還付される。国内売上があれば、国内の売上税から控除される。こういった基本構造があります。

中国は、背景から説明しますと、ここに書いてありますとおり、外貨準備高が非常に多くなってきているということと、対米貿易摩擦が非常に多くなっている。特に繊維産業等が問題になりましたので、そういった中国国内の産業構造の転換も含めております。

それから、資源・エネルギー、これの輸出を抑制したいということで、具体的な方法として、初めに2003年10月に輸出還付政策、要するにさっき言いましたように、日本で言えば、輸出の売上税は免税になりますよ。それから仕入税は還付されますよ。こういったものを撤廃する品目を出してきました。

もう一つは、還付率そのものも、還付する会社についても還付率は引き下げましょうということにしました。

それから、2006年1月に、これも付加価値の低い加工貿易、中国はかなり加工貿易に依存しているのですけれども、付加価値の低いところは、一切こういった加工貿易を禁止してしまうという措置が取られております。

それで、これは日系企業も、例えば2003年10月に中国の増値税、日本でいう消費税ですけれども、税率は17%です。ですから、日本の税率は比較にならないという非常に大きい税率です。この大きな税率で税収の半分を賄っているという状況ですが、17%の税率に対して2003年10月のときに、還付率を13%に引き下げたんです。家電製品は、ほとんどこれに該当しました。

ですから、4%は還付されない、控除もできませんということで、製品のコストに入ったのです。実は、そのときにもかなり日本のメーカーさんは、4%のコストを更に削減するというのは、非常に困難な状況で、かなりぎりぎりのところでやっておられたようで、還付率の引き下げもかなり影響はあったかと思います。

今回は、そういったことだけではなく、輸出還付そのものをやめてしまう。ですから、17%がある意味で全部自分のコストになってしまうということですね。

もう一点は、中国の計算が仕入税額を還付するということであれば、よろしいんでしょうけれども、メーカーですと、輸出した製品の中で、どのぐらい仕入税が入っているかという日本のように帳簿できちんとやっていません。向こうはインボイス方式です。また、帳簿に依存しておりませんので、仕入税を把握するのは難しいという技術的な理由で、すべて売上にかけています。ですから、ここで実質的には売上の免税ではなくて、輸出売上に課税している状態が、1つここに生まれています。

もう一点は、これはまだ中国の実務がはっきり見えていないのですけれども、ひょっとしたら、輸出売上そのものに17%もかかってくる可能性もあります。

これは、かつて一時そういった品目がありまして、その後、撤廃されたのですけれども、今はこういった形で輸出還付を撤廃している中で、それを具体的な内容まで触れておりませんので、どういった形で行われるかということが、今、注目されているところです。

時間をオーバーしましたけれども、以上で、全体の概況の御説明を終わりたいと思います。

田近部会長

どうもありがとうございました。今、近藤さんからお聞きのように、中国の税制全般について簡単に紹介があって、その中で企業課税の現状と特に改革のプロセス、改革したときの姿、そして、日本企業が中国で事業を行うときの諸問題ということで、全体、また、個別具体的な話と両方していただきました。

あとは、いつものとおり御自由に議論ということにさせていただきたいと思います。意見、質問のある方は、是非手を挙げてください。

では、まとめて田中さん、土居さん、佐藤さんと続けて手際よくお願いします。

田中特別委員

普段余りなじみのない中国の税制をわかりやすくありがとうございます。

その中で、最後に御説明のあった、移転価格税制のところで、ちょっとお聞きしたいんですけれども、当社も3か所ぐらい中国に出ておりました。最近非常に注目されているということで、最近3か所それぞれでヒアリングを受けましたが、今までは、たしかローカルの税務当局からのあれでございますので、見解とか考え方が、それぞれ微妙に違っております。

したがって、どれを信じていいのか、なかなかわからなかったんですが、先ほどの御説明で、今後は移転価格の調整については、国家税務総局に権限を集中管理というふうに書いておりますので、そうなりますと、やはり考え方とか、背景になっている理論とかというのは、今までよりは改善が期待できるんでしょうか。

近藤公認会計士

時間はかかるかと思いますけれども、流れとしましては、さっきおっしゃったとおり、国家税務総局で集中的に見解を統一していかなければ、各地方が、おっしゃるとおり、全部ばらばらの取扱いを行っているというのが現状ですので、それが期待できるのではないか。

それ以上に、国家税務総局といいますか、課税当局の立場から見て、要するに日本企業も多国籍企業として、1か所ではなくて、中国の各省で多角的に経営を行って、拠点も多いわけですね。それを各場所ごとで、移転価格の問題をやるということではなくして、1つの企業グループとして移転価格の問題を、すべての中国国内の子会社について、統一的に処理していこうということは話しておりましたので、そういった流れに入っております。ですから、時間はかかるとは思いますが、そういった方向に行くかと思います。

田近部会長

では、続けて土居さんと佐藤さん、どうぞ。

土居専門委員

御説明どうもありがとうございました。企業税制のところで、1つ質問がありまして、軽減税率が設けられているということなのですけれども、これはどのような形で税務当局は認定をするのでしょうか。また、認定をするときに、何か問題といいましょうか、必ずしも適合する企業であるかどうか疑わしいけれども、そういう軽減税率を受けてというようなことがあるかどうか。 もう一点は、増値税のことで、増値税の最後の輸出還付の話は非常に興味深かったですけれども、輸出還付の話は、内資企業といいますか、中国国内の企業に対しても、こういう外資企業と同様に適用されるということなのでしょうか。以上です。

佐藤専門委員

御説明ありがとうございます。私の方から、消費税、所得課税、それから地方税について1点ずつ質問させてください。

以前、中国の付加価値税を調べたことがあるのですが、我々が想像しているのと全然違って、御説明のように、向こうの増値税というもの、要するに物に対する課税ですね。あと、投資に対する扱いがたしか違っていたと思っていて、いわゆる日本のような消費型消費税というよりは、むしろ所得型の消費税だったと思います。

その後どうなったんだろうと思って、たしか改革する方向にあるというのを、以前、IMFか何かの論文で読んだことがあったんですが、増値税における設備投資の扱いがどうなっているのかということを1つ伺いたいと思います。

先ほど、土居先生の方からも質問のあった、輸出還付問題なんですが、そもそもなぜ還付率を引き下げるのか、節税対策なのか、あるいは御題目にあるように、輸出を制限をするということ自体が一つの国策としてやられているのか、一種の輸出税をかけているのと変わらないですね。

あと、所得税なんですが、非常に単純なことで、パーソナル・インカム・タックスなんですけれども、課税の範囲はどこなんでしょうということ、勤労所得税だけでいいのか、それから自営業者はどうなっているのかということ。

もう一つ関連するのは、社会保険料の扱いはどうなるのかなということが1つ。

最後に、地方税なんですけれども、建前論はわかるんですが、地方というのはもう少し実態を持って、例えば地方税収の減免の問題なんですけれども、9ページの御説明では、一般の省とかというのは、減免税を決定できないということなんですが、実際のところはどうなんでしょう。その点を答えていただければと思います。

近藤公認会計士

非常にたくさんの御質問をありがとうございました。

初めに軽減税率ですけれども、これは今度、高度新技術、ハイテク企業に対して15%ということで、例えば財政部とか、国家税務総局とか、国家発展改革委員会とか、科学技術部門もありますし、そういった関連の省庁で統一した基準を定める。今度は統一した基準を、おっしゃるとおり、私も同じ意見なんですけれども、一番心配しているのは実際に認定をだれがやるかですね。

今、まだ新しい税法で、情報が出てきておりませんけれども、当局者が話した内容からすると、認定者がいる。専門の認定者を出す。ですから、専門の認定者が同じマニュアルなり同じリストに従ってチェックしていくような、そういうイメージです。ただ、それが中国は広いですから、各地方政府の認定者がすべて同じ基準で処理できるのかというと、まだ、これからやるのに文句言ったら怒られてしまうかもしれませんけれども、非常にそういった懸念はあります。

ですから、同一のリストなりのチェックリストによってきちんとやっていくという流れをつくっていくということは聞いております。

それから、2番目ですけれども、輸出還付は、要するに外資だけではなくて内資もやっているのかということですけれども、当然内資です。勿論、外資も適用になっていますが、内資も当然適用して、これはもう一つほかの御質問と併せていけば、本来、輸出還付をやめたり、還付率を引き下げるというのは、非常に問題があると思います。

というのは、輸出に対して売上税をかけてしまうこと自体、国外との対応調整が行われないということですから、ほかの国ではやっていないわけですね。それは問題がある。

もう一つ、仕入税も還付しない、控除もしない、これも非常に個人的には問題があると思っています。

ただ、今の流れはどういう流れかというと、そういう理論的な問題ではなくて、やはり対米貿易摩擦です。これがすべてです。これのために中国としては輸出抑制策を取る。その輸出抑制策の中で最も強力なものが還付の引き下げであり撤廃だと、こういう論理です。すべて、これで今は走っていると思いますので、政策的な流れですから、理論的に文句を言っても始まらないという状況はあるかもしれません。

それから、地方税の中で、中国の増値税は、日本の消費税と違う非常に大きなものが1つありまして、今日はちょっとお話をしなかったんですが、固定資産に関わる仕入税です。日本は棚卸資産を買おうが、固定資産を買おうが、そこに払った仕入税は控除もできますし、売上税が足りなければ還付もできるということですが、中国は、固定資産に関わる仕入税に関しては、固定資産のコストに入れなさいという政策を取りました。

なぜそういう増値税にしたかというと、94年の増値税改革のときに、中国は、まさに固定資産投資のバブルだったんです。ですから、固定資産の投資を抑制しなければいけないという背景がありました。これは、中国はいつもそうですが、かなり固定資産投資がぶれるんです。それの非常に極まったときに税制改正が行われていたものですから、固定資産投資を抑制する。そのためには、17%の仕入税を固定資産のコストに入れなさい。これは仕入税額を控除しませんよということで、そういった政策が取られました。

ただ、実際には、外資も来てもらわなければ困るし、内資の設備投資も盛んにしなければいけないということで、実際には外資が入ってくる場合には、設備投資の仕入税は免税です。

内資についても、その後、国産設備を使うのであれば、これは還付しますという個別の手当を行って何とかやってきました。しかし、基本的には、中国当局としては、固定資産の仕入税を仕入控除できる方向で税制改革をしたかったのですけれども、実はまだできていません。

先ほど言いましたとおり、個人所得税の改正は行った。それから企業所得税も今回は行った。ただし、増値税改正も同時に検討されているはずなんですけれども、これができなかった一番の理由は影響が大きいからだと思います。

やはり17%の固定資産投資の仕入税を今までコストに入れて、納税させていた状態ですから、それをやめるというのは非常に大変だということで、東北三省から実験的に始めました。それで、これはかなり運用もうまくいってきたようで、これは今度、中西部地域にももっていっています。ですから、これから中西部に行く企業があれば、それは固定資産の仕入税が控除できるということで、中西部がうまくいったら今度は全国範囲に広げるということと、あと企業所得税の改革で、企業がどういう反応をするかということと兼ね合わせで考えているようです。

個人所得税ですけれども、この範囲はどうかとのことですが、個人所得税は、賃金、給与所得、勤労所得以外に、すべて個人営業事業主の所得、それから利子とか配当とかの所得とか、10種類ぐらいありますので、ほとんどすべての所得がちゃんと分類されて納税するようになっております。

社会保険料ですけれども、中国も社会保険税にしようという議論が10年ぐらい前からあるんじゃないですかね。社会保険料の制度は、また養老年金制度とかいろいろありますけれども、正直言ってなかなか進んでいないのではないですかね。少しずつ整備はされておりますが。

それは都市の一部の地域に限定されていますし、まだ、農村地域には、こういった社会保険の制度はありませんし、ですから、まだまだこれから始まっていく改革かと思います。

あと、最後に地方税の減免税についての御質問がありましたけれども、今回の企業所得税で、先ほど私が説明しましたのは、新たな企業所得税では、要するに民族自治政府ですね。要するに、少数民族対策も入っていると思いますけれども、そういった民族自治政府に関してだけ、例えば先ほど言いました企業所得税でしたら、40%が地方政府に分配されるわけです。その40%の税収を免税に使っていいですよということです。ですから、その減免税の資源はそこにあるわけですね。

ですから、そういった減免を地方政府が決定する。それを中央政府に報告しなさいということになっています。ただ、それができるのが、民族自治政府だけである。それ以外の一般の漢民族の省とか地方政府は、その権限はないということです。

もう一点、先ほどの御質問に含まれているのは、過去において中国は中央政府が外資の優遇税制を決めて優遇措置を決めているんですけれども、例えば中央政府で経済開発区は、15%の税率でやりますよと、中央政府の法律で決めてやった場合、各地方政府が似たような経済開発区をどんどんつくっていたんですね。ですから、中国全土に中国政府の知らない経済開発区がいっぱいできまして、それが全部税率が15%なんです。要するに、国の定めた税率が、地方に行くと全然守られていないという弊害がありまして、これは何年か前に全部国家税務総局が中国全土を調べて、中央政府の認めていない経済開発区を全部廃止しました。そういったことまでしないと、そういったことが収まらなかったということがあります。

ということで、今後も中央政府の政策と、各地方の基本的なスタンスというのは、どこか違ったところがありまして、簡単に言えば、地方政府としては外資に来ていただきたいということで外資の優遇を行うわけです。

そういった傾向は、今までもかなり強かったですし、今後もまだ残っている可能性がありますので、似たような問題は、まだ発生するかもしれません。

以上です。

田近部会長

ありがとうございました。もう少し御質問とか、井上さんと、増渕さん、それから高山さん、続けてお願いします。

井上特別委員

優遇税制で、小型薄利企業20%、中小企業の育成ということで、こういうことが行われていると思いますけれども、日本とは違って、大分中小企業に関心を持っているなというふうに感じたわけですけれども、これは対象はどういう対象なんでしょうかということ。

それから、環境、省エネ、節水、安全等の投資税額控除、これは非常にいい税制だと、今、環境保護ということで、CO2 削減では、是非とも取り組まなければならないことだというふうに思うんですが、この認定といいますか、そういうものはどういうふうにしておるんでしょうか。その辺を聞かせてください。

増渕委員

若干ぼわっとした感じの質問になるかと思うので恐縮なんですが、税収構造ということと、8ページにある企業所得税の新税率の決定要因というところを併せて見ていますと、企業所得税、法人税に当たるものは、税収の減少を受容できる範囲内に抑制というからには、新しい税率の下では、税収としては減るということが前提になっているのか、あるいは猛烈に成長している経済ですから、税率は下がっても税収としては減らないというような考え方であるのか、それぞれの関係で、つまり日本の消費税に当たるもののウェートが非常に高く税率も高い、非常にうらやましい税収構造になっているという気がするんですが、そういうことについて、将来的にどう考えるのか、今度は企業所得税はだんだんウェートとして高まってきていたものが、そうならないというような頭があるのかとか、そんな議論があるのだろうか、どうだろうかということについて、お伺いしたいと思います。

田近部会長

高山さん、どうぞ。

高山特別委員

今、日本では、社会保険庁が大騒動を起こしていますが、幸いなことに国税庁とか、税務署は分割しろとか、民営化しろという話がなくて、大変結構なことだと思うんですけれども、中国で、私が知っている限り、社会保険料の徴収というのは極めて困難な状況にあるわけで、例えば日本の公的年金を相当するのは、大体保険料を20%を超えているんです。

企業は、インカムのところで非常にグレーな部分が多くて、それをできるだけ課税ベースを小さくするとか、従業員数を過少申告するとか平気でやっているんです。要するに保険料は高過ぎるから、いろいろな意味で、偽りの申告だとか、そういうようなことを誘っているわけですけれども、中国の社会保険当局は、我々の当初のイメージでは共産党の中で、非常にこわもてのイメージを持っていたんですけれども、実態は執行能力という点では、極めて弱体で、うまくいっていないというのが、私の知っているところなんです。

税務の方はどうなのかということなんです。企業は、それぞれの地域ですごい力を持っていて、当局とディールをやって、ばれたらしようがないなから適正に怒られない程度に協力をしていくように、ごまかし続けているのが実態ではないかと思います。

きれいに書いても、税務の執行のところでうまくいかないケースがいっぱいあって、日本の国税庁とか税務署は例外的だと思うんです。いろいろな意味で税のプロを養成している。中国では、頭脳、執行に係るプロの養成というのは、どんな形でやっているんでしょうか。

近藤公認会計士

今の御質問で、初めに小型薄利企業の御質問がありましたけれども、まだ中国の企業所得税法は実施細則が出ておりませんで、これが今年の秋に出る予定なんですが、それまで、こういう具体的な内容については、なかなか情報としては余り出てこないんです。箝口令は引かれていると思います。

ですから、最終的にどういう形になるのかわからないんですけれども、一部漏れ聞こえてくるところによれば、中国でも中小企業の標準というのは決まってはいるんですね。これは当局で2つ基準があります。でも、そういうことではなく、税務の立場で財政部とか国家税務総局を入れた上で、そういった中小企業の基準をつくろうと、どういう企業がそれに該当するのか。

その中で、特に税率に関係する部分ですけれども、どういった企業が対象になるかというところです。1つは、多分売上高ではないかと思います。例えば250万元以下の企業にするとか、中小企業の標準の中には、従業員数とか、いろんな要素が入っているんです。それは今でもあるんですけれども、それはもう採用しないと、新たに税務目的のための小型薄利企業の標準をつくって、更にその中でどういう場合にこの税率を適用するかを決めていくという詰めがこれから行われると思います。多分売上高が一番有力ではないかと思います。

それから、環境、省エネの方は、そういったことで、全然出てきていません。内容は全く今のところわかりません。

次は税収をどう考えているかということなんですが、明らかにこれは減税を考えています。減税というか、税収は減るということです。これは前提になっています。

ただ、その後、吸収できるかどうかというのは、実はさっきの表も年度別に見ると、わかるのですけれども、1年間の税収の増加率が実は20%近いんです。驚異的な増加率がありますので、そちらでカバーできると考えているのではないか。明らかに新しい企業所得税法は税収を一時的に減少させます。

次に所得税との関係ですが、中国は、こういったように増値税中心の税収構造なんです。ですから、逆に、今、所得税を確立する。要するにどうやって直接税の割合を増やしていくか、多分そちらの改革に移るのではないかと思います。

ですから、さっき言いましたとおり、増値税も固定資産の仕入税の控除を認めていくということになれば、かなり税収が減りますので、そういった流れから言えば、所得税を取らなければいけない。やはり一番大きいのは、個人所得税もありますけれども、企業所得税ですね。

さっきの数字に出ていますけれども、例えば外資と内資の税収は企業所得税の1対4ぐらいの差しかないですよ。でも、よく考えると、企業の数で考えたら何百万社と何十万社か何万社かの数の比率に比べて、外資の企業所得税は多いと私は感じます。ですから、逆に言えば、内資の企業所得税ももっともっと増えるのではないかと考えています。

あと、社会保険料ですけれども、これは私もよくわかりませんが、最後の税務局はプロを養成しているかということですが、これはかなり向上しています。

1つの例を言いますと、例えば新しい税の通達が出ますね。その年に地方の税務局に行きますと、こういう場で言ったら怒られてしまうかもしれませんが、それが2年経ち、3年経ってくると、その通達で示されたとおりの税務の取扱いが地方でも行われてくる。現実に、それは学習会とか集めて勉強会をやっておりますので、それはかなり充実させていると思います。

以上です。

田近部会長

もうワンラウンド行きたいと思いますけれども、神野さんと飯塚さんと井戸さんで、よろしいですね。では、続けてお願いします。

神野会長代理

どうもありがとうございました。私の知識は、分税制度までの知識ですので、まだ、国家税務局と地方税務局が看板を付け替えただけで、事実上、中央政府が牛耳ってしまっている、こういう時代の知識ですから、その当時と今と違っているかどうかということをお聞きしたいんですけれども、1つは、その当時でいけば、企業所得税などの税を見ていても、ほとんど意味がなくて、というよりも、税外負担が非常に多くて意味がない。

というのは、中国の予算制度というのは、それぞれ下の政府、下の政府はどこから始めるかは別ですが、簡単に3つで、市町村、道府県といった場合、市町村は予算を立てますが、市町村が予算を立てるところの予算に税が入ってくる。ここでおっしゃっている税というのは、これなんです。

もう一つ、アウト・オブ・バジェットがあって、これを甚大にかけるわけです。その甚大にかけたうちの市町村がつくった予算の部分だけ、これが上の道府県の予算の部分に入っていって、道府県はその予算と自分のところの予算と、そのほかにアウト・オブ・バジェットをつくる。この道府県と市町村が立てた合わせた国家中央レベルで予算をつくる。

したがって、下に行けば行くほど、アウト・オブ・バジェットが多くて、ここが税外負担をかけるわけです。この税外負担というのは、ほとんど企業負担で、例えばここに公園をつくりますよといったら、公園の賦課をかける。公園とか道路ぐらいだったらまだいいんですが、教育賦課、教育も負担させてしまう。

日本の企業で出ていって、つまり企業所得税が低いですよといって出ていって、税外負担の重さに耐えかねて戻ってきた企業は、私はよく知っていますので、これは変わっているか、変わっていないかということだけお願いします。

飯塚特別委員

網羅的なお話をありがとうございました。

今、井上さんから小型薄利企業の話がありましたけれども、ハイテクが15%というのはすごいなと思いますし、それから研究開発の控除が50%上乗せできる。これは細則が出ていないからあれなんでしょうけれども、両方アンドが取れるわけですね。そうなんでしょうねという質問と、香港も似たような数字が既に実現しているんですけれども、香港への影響というか、香港の制度は何かいじるのか、影響を受けるのか、その辺がもしおわかりでしたらお願いします。

井戸特別委員

済みません、私のところにも大連市から来月の上旬に大企業セミナーをやるから来いと言っていまして、とても時間がないので行けないんですが、いつも言われるのは、市が減免しますから、(この特区に)一律して来なさい、こういう話なんですね。そこで言っている減免というのは、大抵は企業所得税をまけるというんですね。

ところが、今の近藤さんのお話を聞いていると、まける権能はないということだとすると、我々はいいかげんなことを言われているのかということになりかねませんので、その辺だけ確認をしたかったんです。

近藤公認会計士

いろいろ御質問をありがとうございます。初めに分税制の御質問がありましたが、地方税務局と国家税務局、もともと中国の税務の徴収機関は中央政府が完全に握っていまして、それは94年の分税制ということで、国家税務局と分かれたときに、どうしたかというと、その税務局にいた人間が両方に分かれただけなんです。

それで、今も人事権は地方政府が握っていると思います。では、国家税務総局、日本で言う国税庁の関係は、これは指導する関係しかないんです。ですから、やはり基本的な構図は、94年の分税制と今と変わっていないと思います。全く同じ状況だということです。

ただ、いろんな徴収のやり方とか、税務局間の連絡、先ほど言いました国家税務総局にいろんな情報が集まる仕組みとか、情報をどういうふうに伝達するかとか、そういった税務局間の情報ネットワークについては、コンピュータを駆使して随分改善されてはいます。しかし、基本的に構図は変わっていない。

それから、予算外の話ですけれども、これは一時期かなり問題で、おっしゃるとおり、日本企業も引き揚げるぐらい、例えば1つの企業が40~50の公租公課を要求される。それは各地方が勝手に決めて、どんどん取ってくるわけです。

これは、中央政府から通達がどんどん出まして、かなり廃止されて、今は余り聞かなくなっています。ですから、あの当時から3~4年か5~6年かけてなくなってきていると思います。

小型薄利企業と研究開発の税額控除が一緒にできるかということについては、これは条件が整えばできると思います。

飯塚特別委員

研究開発控除とハイテクの15%も一緒にできるのか。

近藤公認会計士

まだ、実施細則が出ていないのではっきりわかりませんけれども、今の説明からすれば、全く別のところの手当ですから可能だと思います。

もう一つは、香港に対して、こういった中国の税制が影響するかということなんですが、やはり一国二制度を今のところ遵守しておりますので、そういう影響は余りないのかなと思います。

ただ、去年、中国本土と香港で租税条約をつくっているのです。国ではないのですけれども、そういうことで、香港と内地の租税条約というのがありまして、そこで実はほかの第三国よりも香港に優遇するような手当がされています。

ですから、中国政府としては、香港に資金なり投資が集まる。それは、また中国にも反映されるという方向での内部の租税条約で手当しているという形はありますね。

もう一点、先ほどおっしゃったとおり、各地方に行って減免してくれると、これはだんだん怪しくなってきますので、まだ、あると思います、それはやはり中央政府のはっきりした税務の通達なりを確認されないと危ないと思います。

もう一つは、どうしてこういうことが起きるかといいますと、やはり1回集まった税金が分配されているのです。それは、自分のところで取った税収ではなくて、言ってみれば、地方政府から見たら補助金のような感じになりますので、それを自分のところの減免の原資に使う、そういう流れがどうもできている。

実際に、これは中央政府が認めている部分ですけれども、上海の浦東新区はそれですからね。やはり、そういった部分の資金がたまってきますので、そうでなくても、自分のところでも財政資金は豊かですから、そういった部分を特別に浦東新区だけの減免税を使う。それは中央政府が認めていると思いますので、これは多分問題ないものですけれども、地方政府が勝手にやって中央政府が認めていない部分に関しては、将来的には引っくり返る可能性はあると思います。

田近部会長

ありがとうございました。尽きない議論ですけれども、ここで非常に中国の税制から個別問題まで明解なお答えをありがとうございました。

1つ、先週の今日だと思いますが、近藤さんも来ていただいて、北京でいろいろ会議をしたんですけれども、JETROとか日中商工協会にも協力をいただいてセミナーをやる。 最後に、日本企業の人からこんな質問があったんです。中国でビジネスをやるとタックスヘイブンに引っかかるんですか、つまり25%にしますから、飯塚さんがおっしゃったようにハイテクだと15ですから、適用除外という条件は勿論あって、中国できちんと生産したり取引していれば、適用除外になるんですけれども、だんだん世界中にいって、セミナーの最後の質問が、この国でビジネスするとタックスヘイブンにかかるのかという質問が最後に出てくるのかなという印象を持ちました。

ありがとうございました。今日は、続けて企業課税の話を取り上げるつもりです。國枝さんから調査9-2の資料に沿って「企業税制改革:限界税率と平均税率、税の競争と強調の観点から」ということで、時間が押してしまったので30分弱ぐらいでお願いします。

國枝専門委員

一橋大学の國枝でございます。よろしくお願いいたします。

今日、お話しする話でございますけれども、企業税制改革、この場でもいろいろな形で、もう既に発表、議論がなされておりますけれども、特に、今日は余り議論されてこなかったと思いますけれども、税率の中でも経済学者が遵守します限界税率と平均税率のお話。それから、今、ちょうど国際的な中国の話がございましたけれども、国際的な、いわゆる税の競争、それから協調という2つの観点からお話をさせていただければと思います。

まず、そういった話をする前に、80年代以降の先進国での企業税制改革の方向性はどういうものであったかというのをざっとおさらいしてみようかと思います。

1ページ目にグラフを付けておりますが、これが、まず、法定の税率でございます。これは、地方税も含んだものだったと思いますけれども、各国で1982年と2001年の法定法人税率を棒グラフで比べておりますけれども、これは明らかに法定税率は各国で低下の傾向ということになります。これが、よく新聞等で税の競争と言われるような状況に当たってくるんだと思います。

ただ、実は、一番下に書きましたように、経済学では、特に企業投資との関係では、ここで法定税率で代表されているような平均税率ではなくて、限界税率が重要である。経済学では限界の概念、新規に投資するときに、一体どれぐらいリターンがあるか、そこに税がどういうふうに影響を与えるかというのが重要視されてきましたので、限界税率が重要視されてきました。

限界税率はどうかというのを、続けて見ていただきますと、次のページでございますが、実は限界税率は各国によって状況が違うんですけれども、余り減っていないというか、比較的安定して推移してきたということが知られております。一定の公式に従って計算しまして、また、インフラの影響等もありますので、いろいろ推計の仕方はあるんですけれども、1つの推計だと、こういうことになっています。

それから、特に投資の側面では、減価償却制度が各国で違うわけですけれども、これがどうなっているかということで見ますと、その下がグラフでございますけれども、これも各国を見ますと、実は余り変わっていないということになります。

更に、3ページ目でございますけれども、法人税収がどうか。法人税率が下がったわけですから、大分法人税収が減っているんではないかというふうにお思いの方もいるかもしれませんが、これは今度は、1965年、82年、99年で各国のGNPとの比較でございますけれども、これを見ますと、各国はばらばらなんですけれども、ここには出しておりませんけれども、例えば加重平均を取ったりしますと、余り大きく変わっていないということで、比較的でございますけれども、安定的であるということになります。

この3つを考えてみますと、結局、法定税率は低下しているわけですけれども、限界税率は大きく低下していない。法人税収も安定的ということで、これは世上よく言われていることですけれども、各国が、恐らく課税ベースを拡大し、一定の法人税収を確保しつつ、その中で法定税率を引き下げてきたということを表わしているのではないかということが指摘されております。

これだけ御説明しますと、よく言われる、広く薄くですねということで終わってしまうんですが、実は経済学的には、こういった状況というのは、1つのパズルでございます。というのは、先ほど言いましたように、実は限界税率の方が経済学的には、これまで重視されてきておりまして、そちらは変わっていないんだけれども、平均税率が下がってきていると、これはどういうことなのかということがパズルでございます。それからそれに対して経済学者がどういうふうに考えているかというのをこれからお話をしていきたいと思います。

4ページ目をお開きいただければと思います。

まず、伝統的なq理論というのがございますけれども、q理論に基づいた企業投資理論におきましては、やはり新規に投資をするときに、どれだけ税金がかかってくるのかということが重要でございますので、限界税率が重要というふうにされてまいりました。

勿論、平均税率、法人税率を下げましても限界税率は下がるわけですけれども、しかし、大きな違いがある。

それは、4ページ目の真ん中にあります表をちょっと見ていただければと思います。

結局何が違うかといいますと、これから投資されるキャピタル、資本に対しての影響と、それから既に投資されてしまっている、そこにある資本、そしてその裏側にいます既存の株主に対する影響が違うということが知られています。これが限界税率の引き下げ、いわゆる投資減税の場合、勿論投資促進に働くわけでございますけれども、既存の株主につきましては関係がない。あるいは株価が下がる場合がございまして、lump-sum taxになっている。

結局新しい投資の分だけ減税をすればいいということでございますので、同じ投資促進効果を上げようとするときに、必要となる財源の額というのは、限界税率の引き下げの方が少なくて済みます。

他方、法人税率を、今、引き下げるということで考えますと、これは新規のキャピタルについては、投資促進を同じ効果を持つとしても、実は減税した分が既に投資している方について株価が上がるというような形を通じて利益が行く。それはいわゆるwindfallの利益でございます。windfallの利益なわけですけれども、これは逆に政府の方から見ますと、不必要なlump-sum transfer というふうに言いますけれども、不必要なプレゼントをキャッシュで差し上げるということになってしまう。

したがって、同じ投資促進効果をもたらすのに必要な財源というのは、より巨額となるということで、q理論に基づく税制分析というのは、一番初めに始めたのは恐らくSummers だと思いますけれども、Summers の81年の中で、平均税率の引き下げよりも限界税率の引き下げの方が効率的であるということをはっきり言っております。このフレームワークというのは、よく日本でも使われるんですが、残念ながら重要な指摘としては日本では余り触れられることが少ないんですけれども。

なぜそうなのかという理由として、恐らくアメリカの経営者の方が、どちらかといえば、法人税率の引き下げの方を支持することが多いんですけれども、なぜそういうことなのかということについては、アメリカ経営者の方が既存株主の利益を重視しているかもしれないということまで指摘されております。

ただ、平均税率の引き下げをやるとしても、今、申し上げたような形で非効率な形ではなくて、そういうものを返した形でやる方法もないわけではありません。それは、これから下げますということをアナウンスして時間をかけて引き下げを行っていく。

そうすると、先の話ですので、急に株価が上がって、今の株主がwindfallの利益をたくさん得てしまうということがなくなるので、そういった非効率性を圧縮することができるということが知られております。

とはいえ、本来限界税率の方が重要だということが指摘されているのにもかかわらず、何で平均税率が引き下げられてきたのかということをもう少し考えてみたいと思います。5ページに移っていただければと思いますが、幾つか要因が考えられるわけですけれども、国際的な要因を除いた部分でどういった議論があり得るかということでお話ししますと、まず1つは、経済学者のいうところの流動性制約というものの存在が指摘されております。

これは、どういうことかといいますと、5ページ目の真ん中にあります図を見ていただければと思いますけれども、そこの図のうち、グラフで折れ線でだんだんになっているのが、いろんな資金原価で資金を取ってきたときの資本コストということになります。

その際に、経済学者は情報の非対称性というのを重視いたしますので、内部留保であれば、外部から資金を調達するわけではないので、経営者の方が一番状況がわかっているということで、一番安く資本が調達できる。しかし、銀行からの借入れ、更には新株発行ということになりますと、外部からの資金借入れということで、情報の非対称性がある世界では、プラスαのコストがかかってくるということになる。

これが非常に差が大きい場合には、そこのグラフにございますように、本来、情報の非対称性というものがなければ、斜めの線は資金の需要の方でございますけれども、そこのBの点のように、本来の資本コスト、本来の資本コストというのは投資家が求めている、いわゆるハードルレートと言われるものですけれども、これに対応したところまで投資が行われるのに、しかし、内部留保が少なくて、銀行借入れあるいは新株発行ということで、例えばAの点あるいは借入れがなかなか難しいような状況ですと、内部留保の額に投資額が圧縮されてしまうという話がございます。

仮にそうだとしますと、内部留保で使える金というのは、法人税を引いた後のお金でございますので、法人税の平均税率の減税をすると、投資を増やせるということになるという可能性が出てくるわけです。

ただ、次の6ページを見ていただきますと、初めにお断わりしておかなければいけないのは、この場にも経営者の方がいらっしゃいますけれども、ここにいらっしゃる方は立派な経営者ということでございまして、ここにいらっしゃらない方についてのお話でございます。

最近の企業理論におきましては、経営者の方というのは、残念ながら企業価値や株主の利益の最大化だけではなくて、自らの私的利益の追及のために行動する可能性が強調されております。

これは、コーポレート・ガバナンスの話がいろんな場で強調されていることもそうですし、あるいは典型的には最近の、いわゆる買収のファンドが出てきてどうのこうのという話もここに絡んでくるわけでございます。

それを前提にした場合、特に企業に潤沢なフリー・キャッシュ・フローが存在する場合には、経営者が自分の好きなことをやりやすくなる。それは株主や企業価値ということからすると、非効率な場合が多いということで、その意味で過剰な投資を行うインセンティブが働くことになるということがマイク・ジェンセンというハーバードのビジネススクールの先生ですけれども、その方が指摘されております。

「フリー・キャッシュ・フロー仮説」と呼ばれておりますけれども、そうだとすると、ジェンセンは、過剰投資を減らすために配当の増加、あるいは借金を増やすことによってフリー・キャッシュ・フローを削減するということで、経営者の行動をコントロールできるということを指摘しております。

最近の買収ファンドで大体配当を増やせという提案が入っておりますが、その裏にはこういった見方がございます。

実は、法人税の支払いというのもその意味ではフリー・キャッシュ・フローを減らすことになるわけですけれども、これは仮に経営者の私的利益追及というものがあるとすると、それをはばむ影響を持つということになる。

そうすると、経営者の立場からは投資減税よりも自分が自由に使える金が増える平均税率の引き下げの方が望ましいということになってくる。

そうすると、経営者の方々からは平均税率を下げてくれという要求が出てくるということになるわけでございます。

これは、実際の場でもこういうことが指摘されておりまして、アメリカで92年に財務省レポートというのが出まして、そこで二重課税の調整の税制改革案が出たんですが、株主にとっては望ましい案と思われたんですが、なぜかアメリカの財界では支持を受けなかった。

これについては、アメリカの経営者の人に聞くと、こんな税制改正がなされると、株主からもっと配当を増やせという要求が出てくる。配当が増えると自由に使える金が少なくなって困るんだということで支持しなかったということが知られております。

あるいは、悪気はないのかもしれないんですが、残念ながら内部留保の資本コストの部分を標準的なコーポレート・ファイナンスの理論に従って、理解していない場合は過剰投資を行ってしまう可能性がございます。

典型的には、日本のバブルのときに、転換社債の資本コストはマイナスだといって過剰投資をしてしまった例がよく知られているわけでございます。

そういった場合には、図6にありますように、本来の資本コストよりも低いところで資本コストを考えておりますので、過剰な投資が行われるということになるわけでございます。

この場合には、むしろ平均税率を引き下げて、フリー・キャッシュ・フローを増やしてしまいますと、非効率な投資を増やしてしまうという可能性があるわけでございます。

さて、日本企業はどちらかということ、これは実証研究を重ねていくしかありませんし、あるいは個別の企業によって当然事情が違うというふうに考えられます。ただ、マクロ的に見ますと、そのグラフを付けておりますが、税調で過去に出された資料でございますけれども、設備投資は最近増えてきておりますけれども、まだまだキャッシュフローの方が上回っている。

金融自体も、最近、また社債発行する会社も幾つか出てきておりますけれども、まだまだ締まっているような状況ではない。

他方、いわゆる買収ファンドから増配の要求も出ていますし、あるいはそういったファンドに買われるのを逃れるという目的で配当増加を行う企業が非常に増えてきております。この配当を増やすということは、フリー・キャッシュ・フローを削減するということを意味しております。

株主の利益というのは、別に配当をもらうことだけではなくて、株主が求める資本コストあるいはハードルレートよりもより高い収益を得るプロジェクトがあれば、そういうふうに投資をしてもらった方が株主としては望ましいわけですけれども、そうではなくて、配当を支払うことによって、買収の行為から逃れようとしているという経営者が増えてきているということは、これは残念ながらこれまで実は無駄な投資が結構あったのではないかということを意味しております。

そういう意味では、勿論、今後の景気動向等にもよりますけれども、足元で考えますと、流動性制約で大変というよりかはフリー・キャッシュ・フロー仮説の方が当てはまるような状況にあるのではないかというふうにも考えられます。

7ページの下、もう一つの考え方でございますけれども、アメリカの話でございますけれども、1980年代の初めにレーガン政権、実は二度税制改革をしておりますが、1つ目の税制改革におきましては、このときは企業の活力というものが非常に重視されまして、強調されまして、実際に、いろんな設備が価値を減じていくよりもはるかに早いスピードでの加速度償却が行われたわけでございます。これは投資を促進して成長を促進して、更には、それによって税収が返ってきて財政赤字をなくすんだというふうに主張されてきたんですが、実は資本の種類、それから産業ごとで減価償却は違うわけでございまして、むしろ競争条件をゆがめて、経済全体の効率性を下げてしまったのではないかというのが、これはアウバックという学者の1983の非常に論文で指摘されました。

具体的には、8ページ目に書いておりますが、例えば一般設備と構築物で見ますと、もともと、例えば80年の段階で見ても、一般設備では22、構築物は50ということで、大きな差があったんですが、レーガン第1次税制改革を行った結果、これは金利とかインフラも影響してくるので、必ずしも税だけでは説明しきれないんですが、ただ81年を見ますと、例えば一般設備についてはマイナス、これは税ではなくて補助金を与えているような状況になっている。

一方、構築物の方は40%ということでございますので、当然ながら、各企業の投資自体もゆがみますし、各産業間のインセンティブもゆがむということが批判されました。

こういったものも受けまして、86年のレーガン政権の第2次税制改革におきましては、むしろ産業間あるいは資本の種類間の税制の中立性の確保、level the playing field という英語の言葉がございますけれども、これが重視されまして、多くの加速度償却は縮小される。課税ベースの拡大でございまして、一方、法人税率が引き下げられるということが行われました。

これが、俗に言われる広く薄くという考え方の根っこにある部分でございまして、こういった考え方が各国に広がりましたので、先ほど見ましたような形で、減価償却や限界税率は必ずしも下がっていないんだけれども、平均税率は下がるというようなことが起きたのではないかとも考えられます。

あと、注で付けておりますが、日本では法人実在説に基づいての議論もありますが、これは端折ります。

他方、9ページでございますけれども、もう一つ重要な要因が、やはり国際的な要因でございます。

今も中国の話がまさにあったわけでございますけれども、国際的な要因としては、実は2つありまして、言わば実業が伴う対外直接投資の話と、実業が必ずしも伴わない利益移転の話でございます。まず、よく言われます対外直接投資の方を見てみたいと思います。9ページ目のグラフにもございますように、大きく対外直接投資、これは日本の対外直接投資でございますけれども、伸びておりますし、諸外国においても伸びておるということでございます。

そういう対外直接投資というのは、どういうものがあるかということにつきましては、国際経済学者の方々が非常に広範に研究をなさっております。水平的な直接投資、市場アクセスを求めての投資や、10ページ目にあります、垂直的な直接投資、これはアウトソーシング等ですけれども、こういったものが行われております。

そもそも多国籍企業がどうするかというときに、対外直接投資をしたり、あるいは輸出をしたり、あるいは外国企業のライセンスを供与したりするという方法もありますし、その他、いろいろ考えられるわけですけれども、いろんな要因を念頭に置いて考えていくのだろう。

具体的に、よく挙げられるものとしては、規模の利益がそれぞれどれぐらいあるのかということ。

あるいはアウトソーシングをするとして、ある製作過程を外国に持っていくのにどれだけコストがかかるかという話。

それから、特に立地選択にかかってきます話としては、貿易に伴う費用と直接投資をしたときの費用の比較ということでございますので、例えば関税等の貿易障壁がどれぐらいあるか、あるいは広い意味では、例えば過去に日本の自動車産業がアメリカに投資をしたときには、貿易摩擦を避けるというようなものもあったかと思います。

あるいは市場アクセスという観点からいいますと、例えば中国になぜ進出するかといいますと、1つは人件費でございましょうけれども、勿論、今後の市場としての将来性ということもあると思いますので、受入国の市場規模がどれだけ大きいかということもあります。

それから、生産要素費用、特に人件費等でございますが、この格差。

それから、最近言われますのが、集積効果といいまして、同じような産業が、それまでにどれだけ集まっているか。集まってきますと、外部効果が発生して、そこに行く企業が増える。例えば日本企業が多くいったところには、日本企業がよく行くという話がございます。それから、税あるいは補助金を出す場合もあるかと思います。

それから、投資国と受入国の間のいろんな関係、例えば言語とか民族の共通性というのがございます。

ヨーロッパですと、アイルランドが低税率国で外資を集めたということでよく指摘されるんですが、その半分以上はアメリカからの投資なんですけれども、これはアメリカの企業から見ますと、英語が使える。それからアメリカにいらっしゃっていた方はよく御存じのとおり、実はアイルランド系のアメリカ人の方というのは結構いらっしゃるわけで、そういったものが影響しただろうということが指摘されております。

さて、税の話でございますけれども、まず、ここにいらっしゃる方は確認する必要はないと思いますけれども、世上よく言う、単純に税金が違うという話がありますけれども、少なくとも我が国につきましては、外国税額控除制度がございますので、10ページにございますけれども、二重課税の調整がなされておりまして、理屈の上では、外国税分は控除になりますので、直接影響は出てこないということになります。

ただし、実際には、本国での法人税額が外国税額に達しない場合。それから、海外子会社の中で内部留保される場合には、二重課税の調整というものが十分な調整ができないことになりますので、こういった場合に、法人税率の格差が企業の対外直接投資に影響を与える可能性が、理論的には出てくる可能性がございます。

限界税率と平均税率なんですが、これも実は対外直接投資についても理論的には限界税率が重要なはずだったわけなんですが、これに対して、Devereux and Griffith という論文が出まして、実は多国籍企業の対外直接投資については、段階的に決定がなされるのではないか。

まず、企業はやはり輸出あるいはパテントの供与で市場にアクセスする手前があるわけで、そうではなくて現地生産という選択がまずある。現地で生産するということになったときに、どこで生産しましょうかという立地選択がある。

その上で、どこの国に進出すると決めたときに、どれぐらいの額の投資をするかということがあるだろう。

そうだとしますと、第3段階のところでは、投資水準でございますので、言わば連続的な選択になるので限界税率が重要と思われますけれども、そうではない第1段階、第2段階では、特に固定費用が存在しますとすると、平均税率も重要になってくるということが指摘されております。

さて、本当にそうかということが12ページの実証研究、簡単に御説明していこうと思いますけれども、まず、財政学者と国際経済学者がやはり関心を持って実証研究を行ってきました。財政学者の方は80年代半ば以降だと思いますけれども、ハートマンという学者がいまして、彼の研究を初めとしまして研究が行われてきて、特に先ほど言いましたように、アメリカの場合も、実は外国税額控除があるものですから、そうしますと、再投資を行った場合に影響が出てくるということに理論的になるんですが、そうではないかという実証研究が行われました。

ただ、残念ながらといいますが、初めの段階だったので、例で書いてありますように、そのころの推計式というのは、先ほど挙げましたような多国籍企業が当然いろいろと、関心を払うであろう人件費の違いであるとか、距離とか関税とか、そういうことは全く考えずに単に税だけで説明するという簡単な推計式で行われてきておりました。

他方、国際経済学者による実証研究の方は、これは先ほど挙げたような決定要因を大分入れて実証研究が行われてきました。

むしろ、税を入れたものは少なかったりしたんですけれども、幾つかある研究では、余り法人税率は影響がないのではないかというようなことが言われてきています。

多国籍企業の研究で、有名な学者のサーベイですと、恐らく企業というのは、どこの国に行くかというのを決めた後に、財務担当者を呼んで、ここの国に行くことになったから税金を減らすように考えてねと言うんではないかというようなことを指摘したりしております。

ただ、最近の実証研究の中では、先ほど言いましたように、段階的に考えていく必要があるということで、過去の単純な推計からいろいろ勘案した推計になってきております。

実は膨大にあるんですが、では、まとめるとどうなるかということで、2つ代表的なサーベイを引っ張りますと、ゴードンとハインズという人がまとめたものでは、1%の法人税率の引き下げに対して、約0.6%の対外直接投資が見込まれるんではないかということを言っております。

逆に言いますと、仮にこの数字を取ったとしても、1%法人税率を下げても0.6 ということでございますので、何か税金を下げれば、直接投資がたくさんやってきて法人税収がそれを上回るだけ来るというような状況にはないということを意味しています。

更には、実はゴードン・アンド・ハインズで見ていますサーベイというのは、先ほど言いましたように、余りほかの要因を勘案しないものが結構多かったわけなので、その辺まで考慮した分析ですと、現在言えることとしては、恐らく税制が対外直接投資に何らかの影響を与えることはたしかなんだろうけれども、その規模についてはコンセンサスがなく、更に研究が必要ではないかということを指摘しております。私もざっと見た限りは、この結論が正しいかなと思います。

日本企業はどうかということで、これは残念ながら私が知っている限りで申しますと、必ずしも多くはございません。そこにありますような研究があるわけですけれども、見解は分かれているというふうに言っていいかと思います。

もう一つが、14ページにございます利益移転の方でございます。これは結局、多国籍企業が世界全体で税負担の最小化を図ろうとする。そうすると、税金が低い国に利益を移転するということをやろうとする。これは、いわゆる先ほどの話が出ましたが、移転価格税制や場合によっては資本構成をいじるというようなことを使うだろうということが知られております。

その関係では、いわゆるタックス・ヘイブン国も出てくるだろうと思われますけれども、この場合には税負担の最小化ということでございますが、ここでは平均税率が重要になってくるというふうに考えられます。

時間がなくなってきましたので、説明を端折りますが、実証研究でもおそらくそういう動きがあるだろうということが確認されております。

こういったものに対しまして、まず、課税の一種の回避でございますので、移転価格税制の拡充整備、その他を含めて税務当局が、こういったものに対抗する措置を、まず充実していくということが望まれるんだろうというふうに思われます。

ただ、そういった対抗措置が十分機能しない場合には、税率の引き下げで対処しようという国も出てくるのかもしれません。

ちょっと時間がなくなりまして、簡単に説明しますが、15ページでございますけれども、今までお話しした話というのは、自分の国が下げた場合どうなるか、あるいは他の国が動かして、自分の国を動かさない場合にどうなるかという話だったわけです。実際には各国がいろんな税制を取っているわけでございまして、他の国の動きまで見ないと、意味がない。

特に、小国の場合は、結局小国が下げても余りほかの国は気にしないということはあり得るわけですけれども、日本のような経済大国になってきますと、それに対してほかの国も対応するということを当然考えなければいけないということになります。

そういった対応は、税の競争、タックスコンペディションということで知られております。

そこにちょっと表を付けましたけれども、結局、出入と格差が重要ということになりますと、各国は協調しないで、しかもほかの国は反応しないという前提で減税を押し出しますと、どんどん下げていくということになるということで、英語でRace to the Bottomということで、どういう訳がいいかわかりませんけれども、底辺への競争というふうに言われていますけれども、過大な税への引き下げを行ってしまう可能性がございます。

特に、国の規模が違うような状況で考えますと、小国の方は相対的に大きな恩恵が期待できますし、他国の方が反応しないことが予想されますので、積極的に制限を行うことが考えられます。

他方、大国の方は、一般的に自分が下げても国の規模が違いますので、余り国の規模と比べて、対内直投がそれほど期待できませんし、しかも自分が下げると他国も下げるだろうということになる。

それで、実際にも例で引き下げを一生懸命行っていくときには、小さい国、アジアでいうと、シンガポール、香港というところが出てくるわけでございます。

そういう話がありまして、そうしますと、法人税が下手するとなくなって、底辺の競争がなくなってしまうという話が、一方で理論的に予言されていたわけですけれども、他方、先ほども言いましたように、法人税収というのは、実は余り減っていない。これはいろいろ理由が考えられるわけですけれども、経済学者の中では、いわゆる経済学者のいうレントというものが存在していて、それに対する課税が、これは経済学では望ましいということになるんですけれども、それを法人税という形で課税しているのではないか。この話を尽き詰めますと、いわゆるキャッシュフロータックスへ更に移行したらどうかという話になるんですが、そこまで行きますと、大きな税収減を伴いますので、そこまで行かないレベルですと、法人税は残すということになってくると思います。

では、競争をやめて法人の国際的調和ということも考えられるのではないかというものが18ページでございます。

これも結局税の国際的調和というのは、なかなか難しいところがございまして、特に法人税については、実は法人税率だけではなくて、法人税の課税ベース自体が各国によって、先ほどの中国の例などは、まさに特徴的ですけれども、違いますので、なかなか難しいという話は一方でございます。

ただ、そういうことを議論すること自体、例えばシンガポール等が更にアグレッシブな減税をしているということに対して、抑制効果を用いるのではないかということが言えるのではないかと思います。

まとめでございますが、先進国においては、課税ベースを拡大していて、法人税収を確保しつつ、法定税率を引き下げる方向での企業課税改革が進んでおりまして、我が国の企業税制も中長期的にはその方向ということを目指さずを得ないんだろうと思います。

ただし、国内的には流動性制約に直面しているような状況ではないと思われますので、今すぐやらなければいけないということでも必ずしもないであろう。

逆に、今すぐやりますと、非効率性が発生するおそれが強いことも理論的には指摘されております。そうだとすると、財政再建の進捗に合わせて時間をかけて行っていくことが考えられたんではないかと思います。

その間も、もし、企業投資の促進が必要だとすれば、より効率的な投資減税で対応することが考えられるでありましょう。

それから、4、5は国際的な関係で平均税率の競争というのは行われているわけですけれども、6にありますように、日本のような経済大国の立場からすると、なかなか小国ほどの利益は期待できないという側面がある。

ほかの国が追随して下げてしまうと、実はメリットがなくなるということがありますので、他国の反応まで考慮しない議論というのは、戦略的な発想に欠けるのではないかと思われます。

むしろ、財源がなくて困っている日本からしますと、税の競争を激化させないということが重要な戦略となってくるだろう。その意味では、アジア地域における税の国際的調和について、我が国がイニシアティブを取っていくことも考慮に値するのではないかと思われます。

その例で説明したのが最後でございますが、例えばマラソンで考えますと、ゴールよりちょっと手前のところで、先頭集団に残っているベテラン選手の立場に日本は似ているんではないかなと。ベテラン選手なので非常に体力的にきついという状況にある。

そうすると、2つ戦略が考えられまして、戦略Aですと、ここですぐにラスト・スパートをかければ、優勝できるという発想。これは戦略的発想に欠けまして、それは若い選手が対抗して、スパートをかけてきて、一番困るのは体力がないベテラン選手。

むしろ戦略的な発想としては戦略Bにありますように、ベテランらしい駆け引きで先頭集団のペースが上がるのを阻止しつつ、集団に付いていく。それで、スローペースの走行中に体力を回復して、最後にゴールに近くなったところで、最後に勝負をかけるということではないか。ちょうど日本の税の競争に対する対応というのも、戦略Bのような対応というのが、戦略的なのではないかというふうに思います。

そういうことで、最後に例を挙げました。時間を使ってしまって恐縮です。

田近部会長

國枝さん、どうもありがとうございました。最初にお断わりすべきだったんですけれども、國枝さんの報告は、実は井堀さんのグループの税制が経済及び社会構造、経済主体の諸行動に与える影響の検討、いわゆるインセンティブの誘因のグループの中の一環として報告いただいたわけです。

最初に井堀さんの方に紹介いただくつもりだったんですけれども、近藤さんのセッションが盛り上がったので、時間が気になって、いきなり報告をお願いしましたけれども、まず、井堀さんに一言御解説願って、あとはフロアーをオープンにしたいと思います。

お願いします。

井堀委員

解説することもないんですけれども、我々の作業グループで、前にも報告していただいた加藤さんの法人税、設備投資に与える効果の話と、あと土居さんに報告いただいた法人税の転嫁・帰着の話でも理論実証で、どういう研究が行われているかに関して、かなりアカデミックの分野での包括的なサーベイをしたつもりですが、今回も國枝さんの方から限界税率と平均税率、それから国際的な租税競争の観点からアカデミックスなところでは、どういう議論が行われているかに関して、かなり包括的に理論実証でサーベイしていただいたと思います。

結論は、お聞きになったように、何でもあり得ると、なかなかこうだという決め打ちはできないというところが、ある意味でアカデミックの限界でもあるんですけれども、今日の議論も含めて、これらの専門委員からの報告を受けて、税制改革の中で具体的に法人税あるいは企業活性化、経済活性化の観点から法人税制改革に対してどういう議論をするかの参考になれば幸いです。あとは、皆さんにお任せしたいと思います。

田近部会長

済みません、不手際で時間が押してしまいましたけれども、いろいろ御意見、御質問があると思いますが、増渕さん、大橋さん、続けてお願いします。

増渕委員

直ちに企業経営の立場から出てくるであろう反応、特に井上さんから当然あるだろうと思うのは、例えば7ページの図なんかで見て、これは日本にたった1つの企業しかなければ、こういうことなんだろうけれども、相当企業格差が大きくて、少なくとも大企業と中小企業では全然違うんではないか。ですから、そういうセクターごとに分けても同じことが言えるのかということぐらいのことはあるんではないかと、すぐ思いました。

田近部会長

大橋さん、どうぞ。

大橋特別委員

大変経営者にとっては刺激的な御報告なので、関心して伺っていたんですけれども、新規投資に促進するという意味で、限界税率というものを非常に重視していこうということ。したがって、法人税率の方は、もう少し冷静に考えていってもいいんじゃないかと。これは非常に説得的なところもあるんですが、私が一番、今、強調したいのは、日本が国家として、これから成長していくためには、我々が日本の企業としてのエゴで法人税率のことを考えているのではなくて、1つは海外から企業が入ってくると、そういうときに日本の法人税率が、これほど高ければ魅力的ではない。

したがって、我々の厳しい競争を我々に強いるためにも、海外からの企業がもっと入ってこられるように、対内投資が必要だと。そのためにも、やはり法人税率の引き下げというのがどうしても必要だということが基本にあります。

もう一つは、今の増渕さんの話にもちょっと関連しているんですが、古典的な大企業の場合には、既存の大きな投資をもう既にしたものがあって、それを転がしていくことによって利益を出していくということであれば、限界税率ということだけでいいんでしょうけれども、現実には日本は非常に技術開発オリエンデッドな形で、今後進んでいかざるを得ない。それが唯一日本の企業なり、日本が国家として、製造業が生きていく道であるとすれば、IT関連の場合には、設備の陳腐化というのは大変早いわけです。2~3年でとにかく新しい設備をうっていく。2~3年で全部償却していくということをやらざるを得ないわけですから、もうそこの概念になりますと、平均税率とか限界税率という概念を超えたことがどうしても今後の研究の中では必要だと思います。

今の先生のお話を伺っていると、私が間違っていればいいんですけれども、やはりアメリカでの議論というのが非常にこういう形で進んでいるということで、それを日本に引き直したらどうかということが多少おありになろうかと思うんですけれども、アメリカと日本の場合というのは、先ほどの経営者の姿勢なり倫理観でも全く違っておりまして、アメリカの事業の場合には、確かに経営者が自己の利益を大きくするためにやっている。

ところが、日本の場合には、いろんな犯罪が起きていますけれども、これは基本的には個人の利益を、懐を増やすためにやっている人というのは、ほとんどいないです。ですからそこは是非、ここにいる方だけではなくて、ここにいらっしゃらない経営者のためにもちょっと弁護しておかないといけない。

もう一つだけ、立地を検討するときには、税金のことは余り考えないで、初めに決めるんではないか。これもかなり私どもの感覚とはずれがあります。やはり私どもが外に出る場合には、そこでの税金がどのぐらいベネフィットがあるのか、何年免税されて、何年減税されるか、これは非常に大きなポイントですから、それについても是非、もう少し日本企業については掘り下げたお話をいただければと思っております。ありがとうございます。

國枝専門委員

質問、ありがとうございます。確かに御指摘のとおりのところはあると思います。

1つは、中小企業の話につきましては、確かにキャッシュフローと投資の関係、個別企業によって違っておりますし、あと中小企業の場合には、流動性制約に直面している会社というのは、実際に多いだろうと思います。

そういった会社につきまして、大企業と違った考え方あるいは取り扱い、あるいは別に税ではなくて、いわゆる政策金融の方かもしれませんけれども、対応というのが必要になってくる場面というのはあるかと思います。

それから、大橋委員の方から御指摘いただきましたように、対外投資の重要性というのも当然ございまして、それについて対応していく必要があるけれども、おっしゃるとおりかと思います。

ただ、やり方は恐らくいろいろあるわけでございまして、中国ではありませんけれども、そういった企業について、本当に呼ぶんだとすると、優遇税制ということも考えられないわけではないというふうに思います。

それから、IT等の話でございますけれども、これもおっしゃるとおりで、回転がどんどん早くなってきているわけでございまして、実は、ITの話で陳腐化が早いというのは、まさに限界税率の話でございます。

その意味では、実際にIT減税あるいはR&D減税というものがあるわけで、こういったものと平均税率、財源が限られている中で、どちらを選ぶべきなのかというところ、これはいろいろ考えるべきだと思いますけれども、むしろそういった目で見ていくことが必要になってくるのかなと思います。

それから、経営者に関してですけれども、これは私の説明が足りなくて申し訳ございませんが、勿論、日本の経営者の方が高くやられているかと思います。ただ、私の説明が足りなかったのは、マイク・ジェンセンとかが言っておりますのは、別に経営者の方の懐に入れる話をしているわけではございませんで、わかりやすい例として、確かに豪華な役員室とか本社という話もあるんですけれども、もっとあり得る話としては、例えば役員の方がどうしても自分が詳しく愛着がある出身部門の事業について、リストラが遅れるとか、あるいは技術者の方ですと、どうしても自分のもともと研究していたものをペットプロジェクトというふうに言うんですけれども、なかなか切れないというようなところまで含んだ話でございますし、別に自分の懐に入れている経営者が日本に多いとは全く思っておりません。

ただ、低収益の投資をやっているケースがあるかもしれない。また、今、買収ファンドで、どっちが正しいと別に思いませんけれども、ただ、そういう問題が提起されているというのは、そういった側面を持つ企業も日本企業の中にも残念ながらあるかもしれないということでございます。

田近部会長

では、秋山さん、飯塚さん、井上さんお願いします。

秋山特別委員

何名の方かに御質問とか御指摘をいただいたので、余り特別に新しいことはないんですけれども、やはりいろんなアカデミックな研究成果の御報告をお伺いしている中で、やはり現業に携っているものとしては、部分的にしっくり来ないお話というのは、どうしてもあるなというのは実感としてあるというのを、まず、申し上げておこうかなというふうに思います。

ただ、この辺りを税制の議論にどういうふうに反映していったらいいのかという難しさというのも、どうしたらいいのかなというのが正直なところですので、ただ、先ほど大橋さんが御指摘になったように、ある程度日本の企業ですとか、あるいは日本の企業の今後のというような、あるいは成長というキーワード、こういうことを加味したような議論が、特に企業税制に関しては、今後もいろいろ発言していきたいと思っております。

飯塚特別委員

私もギャップというのを非常に強く感じます。アカデミックな話は、学部時代に戻って聞いている感じがして、それなりにいいんですけれども、先進国とかベテランという感じを実感として非常に失っています。日本がそういうポジションにあるという実感がとてもありません。その辺、是非もう一回スタディーをお願いしたいと思います。

例えば対内投資が3倍~12倍も先進国と比べても違うということとか、平均税率と言わずに実効税率というんですか、これも1.5倍~2倍違う、米国と比べても、特定の代表的な企業間を比べても違う。これは因果関係はないですかという質問をしておきたいと思います。

田近部会長

では、井上さんと原さん、どうぞ。

井上特別委員

中小企業の問題は、先ほど増渕委員から言われたので、もう言いませんけれども、やはり日本というものをどういうふうに考えるのか。GDPについても第2の大国になっておりながら、世界から企業が来ないということには、やはりこういうところにいろんな問題があるんではないかと思うんですが、その辺、どうなんでしょうか。

田近部会長

では、原さん、どうぞ。

原特別委員

私も大橋さんと同じで、競争力維持のためには法人税を下げる努力をするのはいいと思いますけれども、その結果として出てきた利益を、また配当金の形でファンドに取られていくのは、それもおかしいということでありますので、長くなるので一言で、アメリカではやっている会社は株主のものだという間違った考え方を修正しながら、税率のことも話していけば、この辺のところは現場に即した考え方でまとまっていくと思います。

田近部会長

特に異論を唱えませんけれども、アカデミックのサイドから是非何人か、佐藤さん、どうですか。

佐藤専門委員

先生、気の毒だなと思っていまして、非常にチャレンジングで、私自身は国際租税競争の専門もやっているので、そちらの方の質問なんですけれども、確かに税制で租税協調が大事だと、これはだれもが言うお題目なんですが、特にアジアの中で、ヨーロッパを見てみても、通貨で統合できたとしても、あるいは金融政策で協調できても、財政政策で協調、財政赤字云々も含めてかなり難しいんです。ましてや税制なんてそうなわけですね。

ですから、やはりアジアの中で租税協調という言い方をしても、やはりかなり難しいし、さっきのベテランのランナーの例でいうならば、既にアジアの国は自分の前を走ってしまっているわけですね。つまり、どんどん税率を下げ始めているわけで、集団形成にはなっていなくて、置いてきぼりを食らっているところがあるので、それをゴール直前までその状況を続けるかどうかというのを、やはり問われるかなと思ったんです。

田近部会長

特に、またお答えを願っているところで、終わらない可能性もあるので、また、法人税に関しての議論は、秋に深めていきたいと思います。

ただ、1つ言わせてもらえば、さっき増渕さんが、いろんな企業があるんではないか、そのとおりですけれども、逆に言うと、また法人税もどこかで一本に決めなければいけないわけで、そういういろんなものがある中で、為替だってそうですね。アグリゲートした中で、1ドル120円で決まるとか、それはどこかで議論しなければいけない。

そういう意味では、キャッシュフローが、今、相対的に設備投資の額が多いとか、少ないというのは、情報としては重要だったのかなと思います。一言、蛇足ですけれども、言わせていただきました。

ありがとうございました。次回は、7月31日火曜日、午後2時からこの場所で行いたいと思います。本日同様、プレゼンテーションとディスカッションということで、続けさせていただきたいと思います。

本日は、近藤さん、國枝さん、ありがとうございました。そして、また、いつものように活発な議論をしていただきましてありがとうございました。お忙しいところ、御出席いただきまして、ありがとうございました。

これで終了とさせていただきます。

〔閉会〕

(注)

本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。

調査分析部会