調査分析部会(第8回)議事録
日時:平成19年6月22日(金)14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室
〇田近部会長
そろそろ時間になりましたので、始めさせていただきます。
ただいまから、税制調査会第8回調査分析部会を開催いたします。お忙しい中、御参集いただきありがとうございます。
まだ御出席になられていない方もいらっしゃいますが、始めさせていただきます。
まず、本日の議事について申し上げます。本日は「調査分析部会」の審議を行いますけれども、テーマは2つ予定されています。お手元に資料があると思いますけれども、藤谷委員と辻山委員からそれぞれ説明をいただき、議論したいと思います。
それぞれ1時間ずつの配分でプレゼンテーション、そして、議論という形で進めていきます。早速、議事に入らせていただきますけれども、最初は藤谷さんの調査8-1「租税原則としての『成長』」という報告から始めたいと思います。
このグループは中里主査の担当のところですので、まず一言中里さんから、報告に至る経緯などを話していただいて、藤谷さんから報告を受けたいと思います。お願いします。
〇中里特別委員
最初の報告を藤谷委員にお願いいたしました。
藤谷委員は国家の財政活動について、経済学の手法を用いて切り込むことによって、法的な示唆を得ようという全く新しいタイプの学問をしようとしている方でして、このテーマについて最適な方だと思いましたので、お願いいたしました。
余り法的な議論というよりも、今日はかなり経済学的な議論を中心にやってくださると思いますが、我々法律家にとって示唆の大きいものです。よろしくお願いいたします。
〇田近部会長
では、25分程度でお願いします。
〇藤谷専門委員
北海道大学法学部の藤谷でございます。本日、私は「租税原則としての『成長』」ということについて御報告申し上げたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
私の方からのプレゼンテーションとしては、ごく手短に「租税原則としての『成長』」ということで、どういうことを考えなければいけないかという要素をリストアップさせていただきまして、議論をいただきたいと存じております。
まず、お手元にございますレジュメは4枚紙でございますが、4ページ目は参考資料ということでございまして、レジュメ本体としては3ページになってございます。
それでは、早速内容に入らせていただきたいと思いますが、まず「1.はじめに」ということで、報告の前置きということで、まず租税原則として、従来は公平・簡素・中立ということが言われておったわけですが、今回、私どもの作業グループの方で私に振られましたテーマが、租税原則として最近「成長」という考え方が提案されるようになっている。これをどう位置づけるべきかということについて報告をせよという話でしたので、成長そのものについてお話申し上げるというよりは、従来伝統的に租税原則として位置づけられてきた中立という原則との関係、あるいは成長がこの中立という原則を置き換えるものだといたしますと、それはどういう意味を持つことなのだろうかということに焦点を絞ってお話ししたいと存じます。
次に「成長」の意味についてですが、これも実は論者によって成長にどういう意味を込めるかというのは多々あろうかと思いますが、ここでは経済成長をとらえる量的な指標、例えばGDPであるとか国民所得、これを単に両方増やしていく、成長率を高める、増加させていくという意味で標準的な意味だと思いますが、そういう意味で用いたいと考えております。
なぜそのようなことを申し上げるかと申しますと、次に書きましたが税制と社会との全体の関係ということでは、もう一つ、社会厚生、あるいはソーシャル・ウェルフェアという考え方がございまして、これと本日御報告申し上げる成長というのは、重なる部分は勿論ございますが、違う概念であるということを確認的に申し上げるということでございます。
これは脚注の1にございますけれども、平成16年6月に出されております「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」という報告書の中で、量的拡大にとどまらない、もっと広い意味での、ここで社会厚生という言葉は使われておりませんが、おそらく標準的な経済学の用語では社会厚生と言われるようなものに配慮している。そういう観点からいたしますと、税制というのは、例えば非中立性であるとか、市場がうまく機能していないところの外部性。典型的には環境汚染のようなものが挙がるわけですが、それを内部化する。具体的には環境税ということでございますが、そういう場面でも用いられ得るわけでございます。
それによって社会厚生を増大させていくということもできるわけですが、本日の報告では、こちらの方には立ち入らないということで、ひとつよろしくお願いいたします。勿論、議論の中でいろいろあろうかと思いますが、とりあえず私の報告としては、そちらには立ち入りませんということでよろしくお願いいたします。
本論は大きく分けて3つです。
まず1つ「税制と『成長』(その1)」と題しまして、税制の基本構造の中でこの成長というものが、従来用いられていた中立という原則との関係で、どのような意味を持つのかということについてお話し申し上げたいと存じます。
今回の報告の準備といたしまして、私のバックグラウンドは法律学でございますから、当然限界はあるわけですが、マクロ経済学の方の経済成長理論の方、勿論、基本的な部分ですが、改めて勉強いたしまして、これは当たり前のことですが、国民経済が成長していくためには、資本蓄積、労働力、人的資本、知識、技術といった生産要素が成長していく。実際は国民経済はそれらを組み合わせて成長していくわけですから、この成長率がキーとなるのは当然のことでございますが、では、税制はそれにどう関係するかというと、勿論、これらの生産要素の成長率に影響を与えるということは大いにあり得ることであります。
実際、経済学の最先端まで私は到達できないわけですが、私にアクセスできる範囲で勉強させていただいた感じとしては、国民経済の作用というのは非常に複雑であって、例えばどの生産要素で、政府がどれだけ増やせばどれだけ経済成長するといったことを事前に明白に議論するということは難しい。勿論、税制が経済成長率に影響を与えるのは確かなのですが、どのように、もっと言えば政府が意図した方向に影響を与えるということは容易ではないんだろうと思います。
例えば貯蓄率というものがございますが、これも高ければ高いほどいいというものではありませんで、貯蓄が増え過ぎますと、現在の消費が冷え込むということになりますので、現在の景気を冷え込ませてということになるわけですから、結局のところ問題は家計にとって最適な資源配分というのはどうやって決まってくるか。これは次の黒ポツになりますが、一般的には自律的なマーケット、市場メカニズムによって達成される。中央政府が中央計画経済によって達成するということは不可能だということはここで繰り返すまでもないのではないかと思います。
政府が人為的に誘導するということは、多くの場合はむしろ経済成長のためにやったつもりでは、経済活動を歪め、効率性を低下させるということがあり得るわけで、1つの例として、1981年のレーガン税制、経済成長のために企業の投資活動に対して大幅な減税を行って、この結果、経済成長を促進させ、それによって動態的な税収中立も達成できるという、ウインウインのバラ色のシナリオだったわけですが、ほかのいろんなファクターもありますので、この税制だけが悪かったというわけにはいきませんが、成功しなかったという評価がおそらく一般的なのではないかと思います。
これは委員の先生方には先刻御承知のことかと思いますが、こういったことを前置きといたしまして、次に、では税制とどう関わってくるかなんですが、一括税、これは人頭税のように経済活動に影響を及ぼすのは、人は税がかかることによって行動を変えられないような税のことを、経済学の方では一括税と言うようですが、この一括税以外のすべてのあらゆる租税は経済活動に対して何らかの歪み、これを非中立性と申しますが、これを伴っております。これは当然市場がほとんどの場合において、最適な資源配分を達成するんだという前提からしますと、この非中立性というのは、効率性を損ね、結果的に経済成長を損ねるということになってまいります。
なぜ税制がそのような「歪み」、非中立性を抱え込むのかと申しますと、これは経済学の方では一括税が実現できない目的、例えば所得再分配ですね。人頭税であれば、老若男女問わず一人頭、計算すると70何万円になるらしいんですが、税金を払うということで、およそこれは所得再分配機能がないということになって、それは困ると。
所得再分配機能を達成するために、ある程度歪みを持つ税制を導入することはやむを得ない。ただ、そうであったとしても、そのコスト、歪みというのは可能な限り所得再分配という目的を達成する上では必要だが、必要最小限度にすべきという考え方は、おそらく一般的であろうと。これをここでは租税原則としての中立と申し上げたいと存じます。このような意味で従来用いられてきたのではないかということであります。
これももう確認ということになりますが、税制がもたらす「歪み」というものについて簡単におさらいしておきますと、例えば法人税という税制がございますが、これは法人形態とそれ以外の事業形態との間で前者を不利に、後者を有利に扱うということで、事業組織形態に対する歪みをもたらします。
では、何でそんな税制を導入するのかというと、これは勿論、資本所得に対する課税を貫徹するという意味で、所得税の補完、所得税を貫徹するためのコストであると考えられていると思われます。
次に所得税ですが、これは御承知のとおり、貯蓄、すなわち将来の消費を不利に扱う。これは現在稼いだものが将来蓄積されて利子が付いたときにもう一回課税されるという二重課税の議論ですが、現在の消費に対して不利に扱う。その結果、貯蓄行動に対する歪みを生ずると言われておりますが、何でこのような歪みを抱え込むかと申しますと、これは所得再分配のためであると説明されてまいりました。
最後に出てまいりますのが、消費税ということになるわけですが、消費税の場合には歪みがないかと申しますと、そうでもありませんで、これは勤労、すなわち働いてお金を稼いで、それによって得られる市場の中で売れている財の消費活動と、余暇、何もしなくても寝ていて楽しめるということで、マーケットで売っていない財、これは金銭を介在しませんから、この間で歪みを生じるということで、この意味では所得税も同じ歪みを生じるのですが、我々が持っている基幹税というのは、何らかの歪みを伴う。しかし、この歪みというのは勿論、所得再分配であるとか、あるいは所得税の補完という形での目的のためのコストであると位置づけられようかと思います。
したがって、中立というのは公平・簡素と、従来から唱えられてきた原則とのトレード・オフの関係にあるわけでして、法人税につきましても、法人税を下げれば歪みが減るのではないかと申しますと、今度はほかの事業形態、例えば投資事業組合とかいったものとのバランスが問題になってきますし、そこでパートナーシップ課税という極めて複雑な税制を導入すると、今度は簡素とのトレード・オフが生じてくるという話であります。
今のは前置きの話ですが、戻って成長の話に立ち返ってみますと、近年では、勿論経済学の方でもいろいろな議論がありますが、おおまかなところとしては、資本所得課税に対しては、ゼロ税率が望ましい。それによって経済成長を阻害しないことで達成できるという考え方が理論的には有力なのかなと。勿論、モデルを複雑化していくと、そうも言えないということでこの辺りは難しいのですが、理論的には消費税の優位ということが説かれるに至っているということであります。
これはレジュメにも書いておりますが、消費性が貯蓄活動、これは資本蓄積につながり、経済成長につながるわけですが、これに対して中立的な税制であるため、経済活動に中立的な税制こそが経済成長に貢献し得ると。今、申し上げてきたポイントからすると、そういうことになってこようかと思います。
2ページ目、この考え方というのは、実は税制調査会の従来の議論、あるいは答申等で繰り返し確認されてきたことでございます。時間もございませんので、1つだけ、平成12年7月の中期答申を見ますと、引用してあるところの4行目ですが、個人や企業の潜在能力を最大限に引き出して、経済社会の活力を促す。これはまさに我々が今議論しようとしている成長ということでございますが、この観点から中立の原則は一層重要なものとなっていくものと考えられますというふうに既に述べられているわけです。
勿論、この考え方の背後には最適な資源配分というのは政府が指示するものではなくて、自律的なマーケットによって決まってくるんだという信念、これはおそらくほとんどの経済学者の方は、原則としてはそうだというふうにおっしゃると思うんですが、それがあるということだと思います。
ということで中立と成長との関係について浮かび上がってきたところだと思いますが、もう一つございまして、これは2005年11月にアメリカの方で出されました大統領税制改革諮問委員会の最終報告書、これはレジュメの4ページ目に付けてございますPresident's Advisory Panelのファイルリポートというものなんですが、タイトルをごらんになっていただければおわかりのとおり、Simple,Faie and Pro-Growthということで、単純に訳すと簡素・公平・成長、あるいは成長指向ということになるのかもしれませんが、これを新たな租税原則として掲げたようにも見えます。この辺りがひょっとすると最近租税原則として成長ということが言われるようになった1つのきっかけなのかもしれないのですが、この報告書がどういうことを具体的に言っているのかということを検討いたしますと、少なくとも成長に関して述べられていることは、従来中立の原則として論じられてきたこととほとんど一緒であるということです。言い換えれば、すぐ上にあります政府税調の議論で繰り返し確認されてきた考え方、税制が中立になれば、それは経済活動を促進するという考え方がそこにはある。
御関心のある向きにはもうちょっと詳しい内容が4ページにございますが、基本的には時間もございませんので、詳細は述べません。そこでのポイントは大きく言うと3つになります。
1つは、税制をまず簡素化しよう。例えば成長とか所得再分配といういろいろな制度が混在している税制をまず簡素化しようと。そして中立性を回復しよう。その結果として、経済成長が達成されるんだというのがこの報告書を貫く基本的な考え方であります。
レジュメの1ページ目の最後で申したとおり、中立性というところには、貯蓄活動に対する中立ということで、所得税から消費税へのシフトということがもう一つの柱として出てくるわけですが、最終報告は所得再分配の懸念ということもあるので、所得税的な要素を一定程度残しております。
3つ目に、経済成長のためと称してまちまちに導入されてきた個別の税制優遇措置には批判的である。こういうものを整理する。まず簡素、そして中立を達成し、そして成長。ですから、このSimple,Faie and Pro-Growthというのは、意味がある並びなんです。単純に3つ並べたというわけではなくて、意味がある並びなんだということが報告書を読むとわかってまいります。
ということで、1つ目のまとめといたしましては、確認になりますけれども、基本的に経済成長に貢献する税制というのは、経済活動に中立的な税制である。従来から租税原則として中立は効率性、成長の意味が込められていました。それにもかかわらず原則を変えるということはどういう意味があるのかということを考えなければいけませんというのが次の内容になってまいります。
次は「税制と『成長』」、ちょっと角度を変えまして、もうちょっと個別、具体的なフォーカスを絞った成長促進税制ということで、政策税制と従来言われてきましたが、そういったものについて少し検討してみたいと思います。
例えば、研究開発税制、R&Dに対する税額控除のように、企業活動を成長に向けた活動に税制上促進するという考え方は、極めて一般的でよく用いられてきました。それについての善し悪しというのはケース・バイ・ケースだと思うのですが、ここでは理論的なお話だけを申し上げますと、まず確認ですが、税制優遇措置というのは、政府の補助金を税制経由で供給するものであって、これはタックスエクスベンディチャーとも言われてきたんですが、ポイントは何かと申しますと、減税しているから小さな政府になっている。市場も活力が促進されているのではないということであります。むしろ、政府が市場に介入する範囲は拡大しております。そういう意味で一般的な減税と区別する必要がございます。
簡単な例を申しますと、企業が100万円の一般的な税負担に直面しておる。ここで例えばR&Dをすれば税額控除10万円が与えられるという制度が導入されました。これは税額控除という形をやらずにR&Dをやれば補助金を10万円支給しますという制度と、ほとんど一緒であります。若干違うんですが、それは後で申しますが、ほとんど一緒であります。これは企業の取り分は10万円増えているという見方もありますが、一律減税10万円とは大きく異なります。どう違うかというと、この場合、企業は政府に指定された活動、R&Dをしたときに限って10万円のキャッシュバックが得られるわけで、その活動をせずに10万円という選択肢はないわけです。
例えば企業によっては研究開発よりも人的資本拡充にコストをかけた方が生産性が上がるかもしれない。それはケース・バイ・ケースですし、業界によっても違うということで、税制優遇というのは、そういう可能性を政府が指示しているという時点で排除してしまっているわけです。
すなわち、市場ではなく政府が決める領域が広がっているということであります。
3枚目に行きますけれども、一方でプラスの外部性がある活動、技術開発などはそうだと思いますけれども、これに対して補助金を出すことは経済理論的に正当化されます。しかし、実際の政策論としては、外部性の存在を正確に把握することは極めて困難でありまして、その場合には無駄な補助金のリスクが常につきまといます。
例えは研究開発税制を導入しました。制度自体は積極的に活用されて、企業の税負担は減っているわけですが、よくよく見てみると、研究開発費総額は増えていない。結局企業は今まで税制優遇がなかったところでやっていたR&D活動と同じ量しかやっていないわけで、何が起こったかというと、先ほどの10万円が国家から企業に移っただけ。しかし、それは企業の取り分が増えたからいいことではないかと思われるかもしれませんが、もしほかで政府活動の必要な費用を賄わなければいけないんだとすると、税収中立だといたしますと、結局ほかの部分で税率を上げなければいけない。それは先ほど申しましたが、あらゆる税制は歪みを伴うわけですから、結局、経済活動への歪みを拡大するということでございます。ここは確認しておかなければならないことだろうと思います。
補助金一般と税制優遇、勿論、いい補助金もあるわけですから、これはケース・バイ・ケースなんですが、その中で特に税制を使って補助金政策をやるときに考慮すべき要素というのは、5つほどあるかなと思いますので簡単に申します。
まず、税収中立を前提とする場合、課税ベースの縮小というのは、先ほど申しましたとおり税率上昇につながりますが、これは効率性を損ないます。一般に経済理論の方では課税による経済厚生損失は税率の2乗に比例すると言われておりますので、税率が2倍になりますと、厚生損失は2倍ではなくて4倍ということになってしまうわけで、そこで広く薄くという古典的な租税の考え方は正しいということになるわけです。
第2に、税率構造との関係で、これは所得控除という特殊な方式を取った場合にですけれども、高所得者に過大な利益を与えてしまう。
第3に、制度運用、これは当然税務官庁が申告してきたときにその要件が満たされているかチェックして、満たされていれば税額を減らすという手続をするわけですが、これは税務官庁というのは各産業政策の専門家ではありませんから、当然機械的な運用にならざるを得ない。それがいい場合もあれば、よくない場合もあるということです。
4点目、これは租税制度を当然複雑化させますので、ケース・バイ・ケースですが、制度運用コストは上がってしまうだろう。そして、更に深刻なのは、5番目ですが、税制が複雑化すると、それは以前の吉村委員の報告にもありましたが、租税回避行為というものを促進しやすくなる。それ自体が社会にとって無駄な活動でありますから、そういう問題も出てくるということであります。
議論をまとめますと、勿論、補助金が経済効率的であるということが大前提でございますが、その上でなおかつ租税制度を通じて補助金を給付することが他の代替的な直接補助金よりもすぐれていると判断される場合にのみ政策税制を用いるべきであろうと。したがって、政策税制というのは勿論ケース・バイ・ケースでございますが、それを導入しようという側に説明する責任を課すという方が逆の仕組みよりは、原則の問題としては賢明なのではないか。従来、実際に税調はそういう議論を取ってきたわけでございます。
最後、時間もなくなってまいりましたので、まとめで「租税原則としての『成長』」ということでございますが、2点ございます。
まず第1点は、租税原則の役割とは何であろうかということでございますが、おそらく原則ということをあえてシンプルなキーワード3つに絞って議論してきたのは、これは極めて複雑な税制を評価する基準であり、税制改革の指針を提供するものであろう。その意味で中立というのは伝統的に税制を評価する基準として機能してきたわけでございます。これは勿論中立の状態が何かということが理論的には明確であるからでございます。
勿論、簡素・公平とのトレード・オフはございますから、完全な中立の達成というのは困難ですし、望ましくもありませんが、中立を理想的に達成するとこういう状況。しかし、現実はこうだと。そのためのコストは、このためのコストであるという形で常に税制改革の現状把握とその方向性を指し示すことができる。
これに対して成長というのは、基準としてはあいまいであります。ここで私が申し上げたいのは、成長というのは、望ましい税制が目指すべき大きな目標の1つであることは疑いがないだろうと。しかし、原則というのは目標とは違います。例えで言えば、目標というのは旅行で到達したいゴールだとすると、原則というのは、おそらくそこにたどり着くための道標のようなものではないか。例えば中立というのはそれ自体価値があるわけではなくて、中立によって経済成長が達成されるのか、中立によって個人の活動が自由になるといったことか望ましいのであって、勿論、成長というのはそれ自体大事でございます。しかし、それは目標であって、基準ではないのではないかというのが私の考えるところでございます。
すなわち、成長というのは、税制が理想的な成長を達成している状態が何を指すのかは不明確でございますか、具体的な指針を提供することができません。逆に税制が明らかに成長を阻害している場面というのはあるわけですが、これは中立性が害されている場合ということで、従来の枠組みに取り込めるということでございます。
最後1分でまとめますけれども、もう一つ、実質的な考慮といたしましては、これは基本的な哲学の問題でございますが、最適な資源配分とか経済成長というのは、基本的にマーケットによって達成されるんだとすると、成長に貢献する税制の具体的指針、道標となるのは、やはり中立ではないかということでございます。
そして、逆に成長というものを原則に掲げてしまいますと、例えば不必要な政策税制、報告の2点目で申したところですが、これに対するチェックが緩くなってしまうおそれがあるのではないか。そういったものは成長を掲げつつ、かえって成長を損ねてしまうというおそれがありますので、公平・簡素と並んで中立を原則として掲げていくことは、税制が成長の名の下に成長を阻害する危険性を抑制する上で有益であると考えられるということでございます。
駆け足になって恐縮でございますが、私の報告はひとまず以上とさせていただきます。
〇田近部会長
藤谷さん、どうもありがとうございます。租税原則としての成長、この場でも何回か議論してきたテーマですけれども、今日は非常にわかりやすい説明をいただきました。税制というのは一括ができない中で、税制に伴う資源のロスというか、非効率性をできるだけ小さくするものだというところから、中立性の持つ成長との関係も議論していただいたと伺いましたけれども、時間は30分程度残されていますから、どこからでも御自由に御発言ください。例によって手を挙げていただいて、進めていきたいと思います。どこからでも結構です。では、吉川さん、吉村さん、続けてお願いします。
〇吉川委員
どうもありがとうございました。藤谷先生が結論でおっしゃった租税原則としては成長ではなくて、むしろ中立の方がいいという結論に対しては、私もそんなに強い異論はないんですが、お話を伺っていて、1つは、中立が大事というのは、税はなるべくランプサム・タックスとは別に、上げない方がいいんだということで、最後にどこかに書いてあったと思うんですが、基本的には効率的な資源配分というのが市場機構で面倒を見てもらうものなんだというお話だったんですが、基本が市場だというのは私は全く異存はありません。ただ、私は経済ですので、これは藤谷先生もよく御存じのとおり、市場の失敗というのはあるわけです。市場の失敗の場合には、例えば資源配分がある場合には過大になったり、過少になったりということがあるわけです。ですから、フリーハンドでパレート最適な資源配分を達成させるとか、そういうことはやや乱暴だと思うんです。
もうちょっと具体的に言うと、研究開発投資に関する優遇措置についてお話があったかと思うんですが、発表の資料を拝見していると、研究開発投資を応援しようということで優遇措置をとるというけれども、効果があるかどうかわからない。マーケット・フェーリアが上がるかどうかわからないんじゃないかというお話があったと思うんですが、それは私はレトリックだと思います。確かにそれがあるかどうかジャッジメントの問題ですけれども、やらないとしたら、そこにはひょっとしたら不作為のミスがあるわけでしょう。実際にマーケット・フェーリアがあるにもかかわらず、研究開発投資が過小になっている。実際は優遇措置を主張した人、実は私もそうなんですが、そこで研究開発投資が過小になっているであろうという判断の下に優遇措置をした方がいいんじゃないか。マーケット・フェーリアをコレクトするんじゃないという議論をしたわけです。でも、それはわからないんじゃないかというのは、確かめる必要は当然あると思いますが、ただ、わからないから、だから、効果がないかもしれないんだから、やらないでいいというのは、不作為の方のあれとして、議論として対象だと思うんです。このケースは、抗生物質は飲まない方がいいかもしれない。しかし、飲んだ方がいいかもしれないわけで、そこについてきっちり効果を確かめなくちゃいけないということはそうだと思うんですが、わからないんだから、やめておいた方がいいですよというのは一般論として、そうおっしゃったのかどうかわからないんですが、やや研究開発投資の優遇措置のところではそういうふうに私には聞こえたものですから、今回はわからないんだからやめておいた方がいいんじゃないかというのは、半分の議論じゃないかなと感じました。
〇田近部会長
続けて吉村さんに質問をいただいて、まとめてお答えいただきます。
〇吉村専門委員
今のジャッジメントという話と関連していると思うんですけれども、アメリカの報告書を少し御紹介いただきましたけれども、アメリカですと税制改正に伴うインパクトに対するシミュレーションというのは、非常に立法段階でもある程度重みを置かれているのかと。例えばこのパネルリポートにもシミュレーションの結果というのが確か付いていたような記憶もあるんですが、そうした環境の違い、またアメリカであれば、シンクタンクで、税制改正に対して意見を表明するシンクタンクも非常に多いということも影響しているのかどうかということをお伺いしたかったんです。
〇田近部会長
では、R&Dと今の改革に対するいろいろなレスポンスということをお願いします。
〇藤谷専門委員
御質問ありがとうございました。まず吉川先生の御意見、全くそのとおりでございまして、半分の議論じゃないかということはおっしゃるとおりでございます。私自身が例えば研究開発税制がよくないと申し上げたというふうにお感じになったとすれば、それは私の話し方が悪かったということでございまして、そういう趣旨では全くございません。その点についてはニュートラルでございまして、私がここで申し上げたかったことは、単純に租税原則の話でして、研究開発税制をやろうというときには、当然ある程度実証的なデータを集めてきて、経済理論的なバックグラウンドがあって、そういうものについて、これは政府が介入すべきだということは何の問題もないと思うんです。それは中立は原則だけれども、こういう場合には、むしろ中立を放棄した方がいいということは当然あり得る。原則というのはおそらくそういうものではないか。
今までだって、公平・簡素・中立だけですべてやってきたかというと、そういうわけではないわけでございますから、全く先生のおっしゃったことはそのとおりだと私も存じますし、その意味で誤解を招いた点は訂正させていただいた上で、原則と個別の政策税制の賢明さということは一応別の問題であるということで御了解いただければと存じます。
続きまして、吉村委員の御質問につきましてですが、これは本当に吉川先生の御質問にも重なるんですが、結局中立と言ってすましていればいいかというと、勿論そういうわけではないわけでありまして、政府が実証的なデータ、あるいは理論的に詰めていって、これは経済成長を促進するという判断がかなり堅く行けるのであれば、それに見合った税制、例えば中立でなくてもやるということはあり得るんだろうと。少なくともアメリカの方ではその前提として相当のエコノミストが政府にいてシミュレーションを組んでいるということはあるわけですから、ここで申し上げたことは、決してそういう方向性を排除するものではございません。ただ、今の時点で、例えば私が当惑したのは、こうやれば経済成長をするということは一般論としては言えないわけです。それは経済理論の方では、最先端の議論ではいろいろと切磋琢磨しておれるわけで、そうだとする、例えば1つの学説がこうすると成長すると言ったから、それでいいというわけにはおそらくいかないんだろう。それは多分レーガン税制になってしまうんだろう。そうではなくて、コモンセンスとして、この辺は間違いなかろう。シミュレーションでも大体この辺であろうということであれば、その方向に舵を切るということはあり得ると思うんですが、原則というのはその前段階というか、どちらに説明責任を課すかという問題でございますから、ということで一応お答えさせていただきたいと思います。
〇田近部会長
わかりました。では、佐藤さんと國枝さん、続けてお願いします。
〇佐藤専門委員
非常にわかりやすい説明ありがとうございました。非常に経済学的で、いい財政学の講義を聞いているみたいでした。
吉川先生は非常に批判的におっしゃっていましたけれども、原則論というものとして中立性を設けることは、研究開発問題も含めて悪くないと思うんです。なぜかというと、原則は原則なんで、別に逸脱してはいけないと言っているわけじゃない。そこに政策判断があって、それはしかるべきだと思います。ただ、中立性を原則とするならば、そこから逸脱するような政策を行うためには挙証責任が生じるわけです。つまり、藤谷先生がレスポンスのところでもおっしゃられていましたように、仮にそういう研究開発であれ少子化対策であれ、そういう政策をしたときに、具体的にこういう効果があるんだよということを、理論も含めてちゃんと根拠のある実証結果を出して、それで納得させるという責任が政策税制を提言する側に出てくるわけです。仮に成長というものを原則とするのであれば、要するに、挙証責任は一切発生しませんから、とにかく成長が見込めればそれでいいんだということになれば、一種の冒険主義になると思うんです。
税制というのは、ある意味でプルデンシャルというか、非常に慎重なものでなければならないので、あえて経済に対してリスクを課すようなことはする必要はないし、何よりもよく市場の失敗、市場の失敗と言うんですけれども、市場の失敗も大事なんですが、政府の失敗ももっと大きいので、そこはバランスをよく考えた方がいいのではないかと思います。
質問なんですが、例えばこういう租税の原則というものを考えるときに、勿論、我々専門家、あるいは官僚・政治家の方々の間での議論として勿論使える部分もあると思うんですが、政策の指針であるとか、制度の強化のためにですね。もう一つ、納税者に対するメッセージとしてはどういう意味を持つんだろう。税法の方々はよく予見可能性であるとか、納税者との関係でよくこういう議論をされていますので、例えば成長、あるいは中立というものが納税者に対してどんなメッセージを通知するんだろうというのを素朴に疑問に思ったので、何かアイデアがあれば教えていただければと思います。
〇國枝専門委員
非常にわかりやすい報告で大変勉強になりました。私も大体共感しております。特に1枚目で1981年のレーガン税制のお話をなさっていましたけれども、この問題を考える際に、やはりレーガン第一次税制改革81年、第二次86年、この2つを比べることが非常に重要だろうと思います。と言いますのは、結構報道とかですと、ごっちゃにしていることが多いものです。そうしますと、81年のレーガン税制は失敗したと多くの人が認めるものですけれども、これは活力重視で中立軽視。86年の方は中立重視というのはおっしゃるとおりだと思います。
もう一つの特徴が、中立がちょっと違う意味で出てくるので面倒くさいんですが、81年の方は実は成長重視の結果、伝統的な意味での税収中立は軽視された。いわゆるブードーエコノミクスということがあったわけですけれども、これは見事に失敗に終わったわけですけれとも、86年のレーガン税制改革では改革の際に、そもそも伝統的な意味での税収中立というものも枠組みとして重視されてきた。
恐らく財政学者の多くは86年の方を支持していると思いますし、レジュメの最後にお付けいただいておりますけれども、アメリカの今回のものは成長重視とは言いながら、3でついていますけれども、税収中立ということを言っておりまして、税収中立というと、重なってわかりづらくなりますので、必要な税収確保と言っていいのかもしれませんけれども、その点も含めたレーガン税制改革、第一次、第二次の違いというのが重要かと思いますけれども、いかがでございましょうか。
〇田近部会長
手短にお願いします。
〇藤谷専門委員
ありがとうございました。まず、佐藤先生の御質問、納税者との関係でどのようなメッセージをもたらすかというのは、おそらく報告の中では省略してしまったのですが、実際に租税原則としての中立というのが、例えば経済の活力に影響を及ぼすときには、簡素とか公平というものと一緒になって、特に簡素と予見可能な制度というのは、法手続として後から事後的に課税されないということもありますが、そもそも見通しがきくということがありますし、その前提として余りごちゃごちゃつくり込まないと。中立の制度をつくっておくということは、恐らく簡素というものと、その部分では相互補完的なんだろうと思います。国民は中立の税制を求めているか否かということであれば、それは直接関係してくる、これはむしろ税調の今までの議論を振り返ってみますと、結局ライフスタイルだとか、自分はどこで経済活動で利益を得ようとするかということについて、よけいな介入をしないということが賢明であるということは言えるのではないかなと思うんですが、今いただいた御質問はかなり射程が長いと思いますので、改めて私、考えさせていただきたいと存じます。この場ではとりあえず御容赦いただければと存じます。
次に國枝先生のおっしゃった税収中立というのはどうなんだというお話でございますが、非常に重要な御指摘かと存じます。ここで中立と言ったときには、いわゆる税によるディストーションという意味での中立のみを議論しておりまして、税収中立ということについては議論しておりませんでしたが、例えば報告書が広く薄くということは、税収中立という考え方を前提としたものであります。課税ベースを広げて税率を引き下げるということは、例えば中立性にも資するということで、それは当然相互補完的な関係になりますし、逆に税収中立というものを外してしまうと、とにかく小さな政府になるから、どこでも税金を減らしてしまえばいいということになるわけですが、それはかえってディストーションを生じるかもしれないということは、III のところで申し上げたことでございます。ですから、非常に重要なポイントです。ここで申し上げた中立とは違うんですが、大変重要かと思います。
〇田近部会長
続けて大橋さんと井戸さん、お願いします。
〇大橋特別委員
藤谷先生、ありがとうございました。
私も実は今のお話をずっと伺っていて、吉川先生と同じような誤解をしておりましたので、それは違うんだということを明快におっしゃっていただいたことについては非常に安心をしております。中立と成長の概念というのは、相対立する概念だと考えていくのがそもそも間違いなんで、中立でありながら成長をねらっていくというお話であれば、これはそのとおりだと思います。
ただ、研究開発促進税制について一言だけ、これは私、物作りの現場におりますもので申し上げますと、日本がこれから特にグローバル化していく世界市場の中で生き残っていくためには、とにかく技術立国、今は経済大国とか言っておりますけれども、技術大国になるしかない。それしか日本が生きる道はないということだけは、ここにおいでになる皆さんも全員が御賛同いただけるんだと思います。
それを今回の研究開発促進税制というのは、国家が、日本はそれが一番最重要なんだということを理解していただいて、それを税制として乗せていただいた。それは物づくりをしている実際の現場の人たちから企業の経営者まで含めて、大変勇気づけられているわけです。その勇気が日本をこれから救っていくんだろうと私は思っております。
ですから、理論で中立だとか成長だとかということ以前に、国家が政策税制とは言いながら、その中で日本がこれから進むべき道というものを示していただいたということは、大変強い、大きな支援効果があるので、現実にそういっても、研究開発費が増えているのか増えていないのかという短期的な見方よりは、もう少し長期的にこの効果を見ていただきたいと考えています。
〇田近部会長
続けて井戸さんお願いします。
〇井戸特別委員
簡素・公正・中立ということを租税原則として主張し始めたのは、15年か20年くらい前からじゃないかと思うんです。以前は違った原則を言っていたと思います。なぜ簡素と中立を非常に強調し始めたかというと、実を言うと、税制度そのものが非常に複雑になり過ぎて、政策税制が余りにも多くて、租税特別措置を、これは法人税も所得税も含めて、整理をしていかなければいけないという要請が、税収が落ちたこともありまして、課税ベースを広げながら、整理をしていこうという言わば政策意図がこういう租税原則に出てきた結果でもあったのではないかなと私は思うんです。
そういう中で中立を外してしまって成長ということに変えるということは、実を言うと舵をぼんと切り替えるぞという表明になりかねませんので、私は中立と成長というのが切り替えるべき基準なのかどうかというふうに考えるべきだと。つまり、プラスオンするかしないかという話ではないかと思うんです。
そういう意味からすると、例えば目標というものに対してどんな手段を講ずるかという観点で議論をすべきであって、そういう意味からすると、簡素と公正と中立という原則は、それぞれ全部税制に対しては非常にニュートラルな基本原則ですので、その基本原則は基本原則としながら、今の時代の中で何が望まれているのか、どんな目的を税制でもって解決しようとしているのかというのを議論しないで租税原則だけ議論しても、これは実を言うと、原則を打ち立てたことにならないのではないかという思いがいたします。
私も今までの税調の議論を見ていましても、要は中立ということを非常に強調し始めたのは、政策税制を整理していこうという意図があったからではないか。今、中立ということについてどうかと言われているのは、今、大橋さんが言われたような政策的な仕掛けをどう新しく仕掛けてかということの是非を議論しようという政策課題があるからだととらえていった方がいいのではないか、そんな思いがしております。
〇藤谷専門委員
ありがとうございました。まず大橋委員の御指摘、大変私勉強になりました。と申しますのは、経済活動というのはソフトな人的な部分というのは重要だと思いますので、そこは私は今まで意識しておりませんで、大変勉強になりました。ありがとうございます。
その点では、井戸委員のお話も非常に興味高く拝聴したのですが、これは先ほど来の、例えば吉川委員とか大橋委員のお話にも関係があり、R&Dが悪いという話では全然ないわけでして、例えば中立というのを原則として掲げながら、その中で選択と集中という言葉がございますが、国策として技術開発に投入しようというのであれば、むしろそこをフォーカスしてやっていく。その上で補助金がいいのか、税制優遇がいいのかというのはまた議論があるところだと思うんですが、それを全く否定する趣旨ではございません。これについては、佐藤先生の方からお話があったとおりで、付け加えるべきことはないんですが、原則として中立を掲げることが政策を排除するということになりませんので、出発点をそこにしながら、逆に政策といったら何でも通るといのは、おそらくこれは小さな政府の時代に逆行するだろうと。申しましたとおり、租税優遇措置というのは大きな政府なんです。そうすると、原則は中立だけれども、ここは選択的に国策として重視していこうということは当然あり得ると思いますし、そういうものであれば、先ほど吉川先生からありましたように、ちゃんとシミュレーションを組んで、理論的な裏付けがある上でやっていくということになれば、これは野放図な特別措置の拡大ということとは違いますし、結局原則というのは死守すべきものではなくて、道標なんだというのが私の考えでございます。
〇田近部会長
では、飯塚さん、お願いします。
〇飯塚特別委員
非常にシンプルでわかりやすいお話をありがとうございました。
原則はそういうことなのかもしれせんが、現実には政策減税という制度は必要なんだろうと強く思います。税制を評価をする上でときどき心配になるのは、結果の数字を見て、例えばR&D減税などですが、全然増えていないから意味がないんだとか、エンジェル税制もよくそういう議論がなされるんですが、実はほかの要素で随分決まっているところがあるわけで、そこを非常に注意しなければいけないだろうと思うんです。
小さな政府という原則を守りながら、中立ではないかもしれないけれども、そういう政策は取っていかなければいけない。もし完全に中立だけでやると、相当税率を下げないと生き延びられないんじゃないかなという強い思いがしております。
現実にここ3、4年間の日本と米国を代表する大企業の実効税率などを見ても、例えばシャープとサムスンでは2.5倍くらいの税率の違い。トヨタとGMだと2倍くらいの実効税率の違いがあるという現実の中で、原理原則で中立一括と言っても、なかなか難しいところがあって、そこは注意深く議論しなければ実際に現場で事業している人たちは死に絶えていってしまうということだろうと思います。
〇藤谷専門委員
現場からの御指摘というのは、非常に勉強になりました。ありがとうございます。結果を見て、増えていないからだめというのは近視眼に過ぎるだろうというのはおっしゃるとおりだと思いまして、逆にそれがなかったら悪くなっていたかもしれないという議論だってあり得るわけで、その辺は恐らく吉川先生が先ほどおっしゃったように、実際にはそこはきっちりと見ていって、その上で政策というのは、常に将来に向かってのかけでありますから、結果的に失敗することはあるかもしれない。事前にできるだけ実証データと理論的なバックグラウンドを詰めていく。
これは繰り返しになってしまうんですが、原則として中立を掲げながら、きっちり説明した上でそこから逸脱するということはありだろうと。ただ、野放図に成長と言えば何でも通るということになってしまうということだけを心配しているわけで、R&Dなどというのは、選択と集中ということでいいんじゃないかと。
一点気になりましたのは、日米の大企業の実効税率の違いということで、どこが何によって決まってきているかというのがありまして、いろんなファクターがございます。表面税率はほとんど変わりがないわけですが、例えば租税優遇措置がいっぱいあるからなのか、それともウォール街のアカウンティングファームをうまく使って、うまく租税回避商品を組む。それはアメリカの連邦所得税が非常にいろいろな問題を抱えているからなんですが、それによって実効税率を減らしているという部分もありますし、逆に言えば、では、そこで表面税率というのはアメリカにおいて何なんだという話になるわけです。ですから、アメリカではむしろそういうものをふさいでいって、その前に中立にしよう。そうしないと何が起こるかというと、結局、うまく使った人たちの税負担は減るけれども、どこかで負担しなければいけないわけです。それは真面目にやっている、例えば中小企業など。アカウンティングファームに行って、プランニングするなどということはできませんから、実際に日本の経済成長を支えているそういう真面目な人たちのところに表面税率がかかってくるということなると、ならして実効税率が低いからというのは、いろんなファクターがあると思いますから一概には言えませんが、私は若干気になったということだけ付け加えさせていただきます。
〇田近部会長
続けて長谷川さん、出口さん、高山さん、手短に続けてお願いします。
〇長谷川委員
私はマスコミの人間なんでわかりやすさを考えるわけですけれども、中立的な税制をという見出しを掲げたときと、成長に貢献し得る税制をという、1ページの一番下ですけれども、これを掲げたときとどっちがわかりやすいかというと、成長に貢献する成長のための税制といった方が、普通の国民にはわかりやすいなと思います。この場は税制調査会なわけなので、何を目指して税制改正をするのかということを国民に対してわかりやすく掲げるという意味で、原則ということを考えるのであれば、中立的と言われたときに、先ほど税収中立という言葉もありましたし、それは税収中立のことなのかという誤解も招きかねないということから考えれば、成長の方がよりわかりやすさという点では訴える力が強いと思います。
〇出口特別委員
私のはコメントなんでございますが、特に2ページ目の下の辺りから3ページにわたりまして、基本的なお考えは二眼レフと言うか、先ほど話がありましたように、市場があって、市場の失敗が前提となって政府という、この2つのアクターで考えてらっしゃいますが、この一番最初に掲げられたソーシャル・ウェルフェアというものを見たときに、第三のセクターである民間の非営利の部門というのがあるわけです。この部門は、ここで書いてあるように、政策減税とか一般的な減税とも異なるような形の寄附金減税があるわけでありまして、その次のページに掲げられているいろんな例、例えばこういうのを導入したときの弾性値の考え方とか、課税ベースを広げるような話のときに、ついつい間違って、そっちの方にも影響を与えるということがございますので、ここはひとつタックスエクスペンディチャーというものとは、寄附金控除というのは非常に性質が違うものであるということについて、コメントだけさせていただきたいと思います。
〇高山特別委員
中立とかいう議論は税の方でよくするんですが、もう一つの財源調達の有力手段である社会保険料の方ではほとんど議論しないんです。国としての財源調達という観点からすると、今、社会保険料のシフトがものすごく起こってきているわけです。おそらく経済学者は社会保険料、特に賃金税的なものなんですけれども、成長への阻害要因だとか、中立性を著しく侵している。ただし、何か政治的ないろいろな枠組みの中で増税するよりは社会保険料を上げた方がやりやすいというか説明しやすいとか納得をしてもらいやすいとかいう話で今までシフトしてきたわけです。今ここで中立ということを改めて議論する、あるいは成長重視、活力重視みたいな話をするときに、財源全体の中の公正の話ですね。税だけでなく社会保険料をどうするのか。社会保険料をあまり上げないで、また税に戻すのかとう観点も非常に重要じゃないかと思うんです。そういう意味で中立性の議論をもってやってほしいなと思っております。
以上です。
〇田近部会長
では、手短にお願いします。
〇藤谷専門委員
時間も押してまいりましたので、手短にいたしますが、まず、長谷川委員の話、成長の方がわかりやいんじゃないか。全くそのとおりだと思います。一般国民にどう受け止められるかというのは、当然考えなきゃいけない問題だと私も御意見を拝聴したところでございます。その上で私の考えとしては、目標と基準というのは違うんじゃないか。実際に税調の今までの議論の中でも、これはわかりやすい、わかりにくいといういろんな議論があると思うんですが、平成12年度答申、中期答申の後は相当わかりやすい、新聞を読む人であれば理解できるという意味でわかりやすい言葉で中立と経済成長の関係というのは書かれていますし、目指すところは活力である、そのために中立なんだということは既に明らかになっているのかなという気がします。例えば国民のライフスタイルというものにも響いてくるわけですから、これは先ほど来繰り返しになりますが、中立を原則と掲げるということは別に成長を否定することでもないし、もう一つ付け加えるならばまさに中立を通して目標であるところの成長、成長以外にも環境とか安全とかも含めての目標というものが税制によって促進されるということなのかなと思っております。
逆に成長というものを原則として掲げたときに、成長しなかったかどうかというのをどうやって評価すればいいのか。中立か否かというのは基準として評価できるわけですか、これは逆に飯塚委員がおっしゃったように、いろんなファクターが関わってきますから、税制改革の方針、道標として使いにくいかなと思うんですが、これはいろんな議論があるところだと思います。
出口委員の御報告、ソーシャル・ウェルフェア、ノンプロフィット・セクターの話は非常に興味深く拝聴いたしましたし、アメリカでもいろんな議論がございまして、タックスエクスペンディチャーに寄附金控除を入れていいかいけないか。ちょっと違うんじゃないかという議論はございます。アメリカでは寄附金控除というのが歴史的に根付いているという部分もございますし、逆に日本ではこれから増やしていこうという部分がございますので、単純にほかのものと一緒にはできないというのはおっしゃるとおりだと思います。ここは今後の検討が必要だと思います。
最後に高山委員のお話、これは私にとって非常に新鮮な御指摘でありまして、なるほど社会保険料の方で中立ということは聞いたことがないというのは、言われてみれば本当にそのとおりでございまして、そこも含めて考えていくべきというのもおっしゃるとおりなのかと思いまして、この点は私は今日の報告の中で準備しておりませんでしたので、今後また考えさせていただきたいと存じます。ありがとうございました。
〇田近部会長
いろいろ御質問ありがとうございました。香西会長からも一言お願いします。
〇香西会長
1つは個人的感想ですから、特にどうということはありませんが、何人かの方が誤解されていたかもしれないが、コメントされたように、市場に任せておけば成長の問題まで解決するんだとまで言い切るというのは、やや行き過ぎであるということです。そういう印象を与えたということがございます。
例えば経済学でも、経済史的に言えば、例えばヴィクトリア朝というのは非常に市場経済の時代だったんだけれども、ドイツに追い抜かれたではないかとか、あるいはルーカスの『成長の講義』という本がありますが、あの中でもなぜ市場経済が、例えばロシアの方がある時期は成長が高かったといったことは実例としてたくさんあるわけですから、そういったことも踏まえて考えてほしいということですが、これは個人的な感想で別にそれ以上のことは申しません。
ただ、会長という立場で一言だけ言っておきたいことがありまして、実はこの問題は非常に注目されているということなんです。何を原則だと考えるかということ。実は5月11日の会議で私から御報告したと思うんですけれども、5月15日でしたか、経済財政諮問会議の方で税の基本哲学を議論した際に、経済産業省の方から中立はやめて成長という目標にしてほしいという希望が出たわけです。
それに対して私は、この税調では19年度の税制改正答申に当たって、原則としては3つの原則を言い、それとは別に19年度税制改正の目標としては、「経済活性化を目指して」という形のサブタイトルを付けて、そっちの方が活字は大きいわけで、後の方は原則は文章の中に煮詰めていたという形なんですが、そういう形で一応処理しているわけで、そのときからこの会議の構成が変わったのは、私だけでから、会長が代わったら、すぐ原則が変われるのかと言われても、私はどうかと思って、大臣のおっしゃるとおり、次の改革において成長は極めて大事な目標であることは私も全く同感であります。ただ、税調としては、これまで中立ということでやってきているので、それは税調の中でちゃんと議論を詰めた上でなければ変更しろと言われてもできませんと、そういうお答えをしているわけなんです。今日の議論で、今のような受け方で大体いいと考えるのか、これも最後の答申を書くときには、もう一度議論する余地があるわけですから、もう一度議論することにするのか、大体の方向としては、目標としては成長が非常に重要であるし、それが今の時の問題としても非常に重要だということは入れると同時に、中立のいいところと言いますか、つまり、余り国家が口を出さないで、市場経済でできるところは市場に任せていきたいという気持ちを持っているという、大体のコンセンサスの方に歩み寄りつつあると考えていいのか。その辺について皆さんの御判断が何かあればおっしゃっていただきたい。一度議論をしたけれども、原則は原則で目標は目標でという形の方向に流れているとすれば、たまたま5月の諮問会議で私が言ったことはうそではなかったというか、1つの解釈の受け方だったと言えると思うんです。
つまり、変える以上はもう一度議論しなければいけないという形で一応収めてきたわけですけれども、もうこれで収まってしまったと考えていいのか。それとも、この問題についてもう少し議論をやった方がいいのか。これは最終の答申のときにもう一度議論するということにして、とりあえず今日のところの雰囲気はそういう形で収めるということでよろしいでしょうかと、その点を部会長が確認していただければいいわけです。
〇田近部会長
いろいろ議論はありましたけれども、藤谷さんがおそらくこのメンバーの中で一番お若いメンバーかと思いますけれども、非常に成熟した議論をされたなと。原則としての中立性は墨守すべきものではなくて、道標だというのは、非常に含蓄のある言葉を使われて、香西会長が今おっしゃったこととの関連で言えば、租税原則としての中立性、それから租税政策の目標としての成長という形で今日、議論したのかなと。当然ですけれども、ここの全員、成長を目指す形で政策があるし、その中で税制というのもあるんでしょうけれども、具体的に成長政策ということで税制をつくるならば、立証はきちんとしなければいけませんということだったと思います。
その中で特にR&D減税、研究開発減税が1つの具体的な重要な例として出てきましたけれども、まさにそれもそういうことではないのかなと。おそらくこの場でも研究投資減税というのが導入されて、それは事後的になるんでしょうけれども、どういう効果があったということでやっていくということで、私の理解は原則としての中立、それから目標としての成長という形の議論をしたのかということだと思いますけれども、どうしましょうかね。
〇香西会長
採決するわけにもいきませんから、答申の段階で再度詰めると。
〇田近部会長
そういう形で今日はとてもいい議論をする機会を得たということで、藤谷さんには特に感謝したいと思います。ありがとうございました。
続けて、これも我々の中の長い間の課題というか、議論しなければならないテーマであるんですけれども「税制と企業会計」、これについて辻山さんから御報告をいただきます。最初に中里さんの方から、このテーマに至った背景を御紹介いただいて、早速辻山さんのお話を伺いたいと思います。
〇中里特別委員
日本の法人税の制度は御承知のとおり、実務上会計というものが非常に重要な意味を持っております。会計を無視して、法人税制を語ることができないようなほど重要なものです。これについて、随分前からアメリカの租税判例等も十分に研究なさりながら、それを財務会計の方に生かしていらっしゃる辻山先生に、広い立場から御説明いただくということでお願いしたわけでございます。よろしくお願いします。
〇田近部会長
では、お願いします。
〇辻山特別委員
早稲田大学の辻山でございます。本日はこのような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
お手元の資料8-2に沿って御報告させていただきたいと思います。
全体の話の構成を「目次」というところにまとめさせていただきましたけれども、全体を3つに分けてございます。中里主査から御依頼いただきまして、会計の話というのはかなり広いんですけれども、主としてこれまでの部会、あるいは調査会で出た議論の中から、会計に関わりのある部分を拾い出してこのような構成にさせていただきました。
1のところは、新しい議論ではなく、確認という意味で付けさせていただきました。2の国際的な動向。これは昨日の新聞でも報道されたようですけれども、今、会計をめぐる国際的な動向というものがどのようなことになっているのか。その中で日本の会計基準がどのように動いているのかということについて、これは御紹介という意味合いでお話しさせていただきます。
最後のところが、企業会計の視点から見た法人税の当面の論点ということで、ここで少し考え方を述べさせていただきたいという構成になっております。
早速ですが、2ページ、本日のお話の中心部分ですが、法人税と会計がどのように関わるのかと言いますと、言うまでもなく課税所得の計算ということでございます。経済学ではインカム(income)、所得と訳されておりますけれども、同じインカムが会計では利益と訳されておりまして、これがどのようにつながって、どのように違うのかという、この辺も少し確認させていただきたいところでございます。
何回かこちらの方の議論でも出てきたと思うんですけれども、理想的な課税ベースというのは、包括的所得、comprehensive incomeという概念、これは古い概念ですが、ある意味では課税対象のカテゴリーを表わしているということで、前に5月17日のIMFの方のプレゼンの中でも出ていたわけですけれども、もともと包括的という冠が付いたのは、それまでの制限的と言いますか、源泉によって課税の対象を分けていくという考え方に対して、所得については、源泉にかかわらずすべて課税するという意味で入ってきたわけでございます。
ところがこのcomprehensive incomeというものを測定のレベルに落としていくというのはなかなか難題でございまして、古くて新しい議論です。租税法でも古くはハーバードレビューで1970年代にかなり長い間議論がございましたけれども、会計の世界では今に至るまでこの論争と言いますか、どのように測定していくのかということについて議論がございます。
スライドの4、2ページの下の図ですけれども、所得あるいはincomeの測定類型というものを少しまとめてみたものがこの図でございます。
一番広いのは経済的現価所得と言いますか、将来キャッシュフローを現在価値で割り引いて、その一時点のストックの価値を2時点で比べてどのくらいそれが増えたのかという形、これが一番理想的と言いますか、しばしばヒックス流の所得概念とも言われているものです。次のものは個別の財産を時価で全部はかって、2時点で比べていくという考え方。
それから、同じストックで所得をはかっていく場合でも、いわゆる取得原価主義。この取得原価主義はストックで所得をはかるために出てきたものではございませんで、その下にありますフローで所得を、あるいは利益を計算していくこととの、いわゆるリンケージと言いますか、フローとストックとの橋渡しとして取得原価というモデルが出てきているということです。いずれにしましても、一番上の経済的現価型については、どの辺が所得の範囲になるのか、資本的なものと考えるのかという額が他の所得と違ってきますけれども、その下のものはすべてタイミングの違いで、総額としては一致しています。これをどう見ていくのか。最近出ております、いわゆる法人支出税と言われるものも、この中で大きな発想の転換のように見えるんですけれども、これは主体からの流出のレベルで捕足するということで、このフローに基づく所得把握の一環として位置づけられると思っております。
3ページ、先ほど中里主査の方から御紹介いただきましたように、法人税の計算において、いわゆる企業会計というものが一定の役割を果たしているということで、このGAAPというのは、アメリカでもUSGAAPというのがありますが、日本でもGAAPというものがあります。これは下の方に書いておりますように、一般に認められた会計原則、あるいは一般に公正だと認められる企業会計の基準ということで、固有名詞ではございません。この範囲にどこまでが含まれるのかということについてもいろいろな解釈があり得るのかなと思います。
商法を中心にして、証券取引法、法人税法、それぞれが企業会計についてはこのGAAP、その範囲はどこまでかということについてはいろいろございますけれども、それについて一定の考慮を払うという構成になっている。法人税法につきましては、必ずしもそうではないんだという御指摘もございますけれども、法人税法第22条4項を見ますと、この公正妥当と認められる企業会計に従いなさいという表現がございます。証取法ですと、もう少しきつくそれに準拠すべしという規定がございます。
その中で現在日本のGAAPは、次のスライドの6ですけれども、2001年からは、民間の組織である企業会計基準委員会、ASBJと略称されておりますけれども、ここが開発しております。2000年までは企業会計審議会、金融庁の諮問委員会でしたけれども、そこでつくっておりまして、現在は左側のように移っていっています。
ここは基本的に後で出てまいります国際的な動きに対応して、かなり洗練された投資家向けの、主として上場企業を対象とした会計基準というものの開発が建て前になっています。
古い企業会計原則というのがございましたけれども、その時代、非常に範囲が狭く、非常にシンプルだった会計基準から、現在は非常に複雑な経済実態に対応した基準に移行している。それに伴って、中小企業、そういった上場企業から外れる中小企業の会計がどうなるのかということで、少し議論がございましたけれども、現在は企業会計基準、高度なものですけれども、それをベースにして一定のレベルで簡略化を認めるということで、中小企業会計指針というものが出ております。これはあくまでも考え方としては指針でして、基準はシングル・スタンダードです。しかし、中小企業のコストベネフィットに配慮して簡略化するという形でこういうものもまとめられております。
次のページ、具体的に法人税とGAAPがどのように関係するのかということですが、ピックアップしますと、3点。いわゆる確定決算主義、しばしばこちらの税制調査会でも何人かの委員が発言されているところですけれども、課税所得の計算は会社法上の確定決算から出発して、株主総会で承認された決算を基に、そこから計算をするということです。
次に後でお話しするところと関係してくる損金経理ということです。課税所得の計算は、益金マイナス損金イコール課税所得ということですけれども、この損金として認められるためには、あらかじめ企業会計上の費用にしておきなさいという要件がございます。
それから、先ほど申し上げた別段の定めがない場合には一般に公正妥当な会計処理の基準に従って計算するという規定も持っております。
このような中で会計と法人税が非常に密接に関わっておりますけれども、当然のことながら両者の間には差異がございます。スライドの8ページに書いておりますように、言うまでもなく課税所得は担税力の指標になります。会社法上は昔は配当可能利益ということでしたが、今はかなり様変わりいたしまして、剰余金分配のための基礎係数ということになります。企業会計上の利益は後で詳しくお話ししますように、現在では先ほど御紹介したASBJの開発している基準は、投資家の投資意思決定のための情報ということで、ありていに申しますと、将来キャッシュフローを見積もるために有用な情報としての利益ということが基本になっております。その下に書いておりますのは、先ほどの議論にも関わるんですけれども、そういう意味では利益と課税所得というものをどこまで合わせて、どこまでをずらすのかということが、これからお話しする対象になるわけですけれども、主として租税優遇措置とかは、扱いによっては課税ベースの計算に反映される場合がございます。これは大分最近は整理されまして、昔は租税特別措置で損金経理を求めていた時代がございましたが、今はできるだけ申告調整の方へ持っていくというところで切り離されて、大分整理されてきたと思っております。
次のページ、そういう中で日本の会計基準の現状と国際的な環境というものですけれども、しばしば新聞等にも出ておりますけれども、今、会計基準の国際的なコンバージェンスが進む中で、課税所得の計算と企業会計上の利益計算の再検討が迫られている。先ほど御紹介しましたように、企業会計上の利益計算というものが、将来キャッシュフローの見積り、あるいは将来利益の見積りにとって有用な情報という位置づけになってきているということで、当然のことながら課税所得になりますと、財源というもの、支払財源と言いますか、そういうものと結び付いているということで、この確定決算主義をどう考えるのか。
更にヨーロッパなどでは、連結上の会計基準は国際的なコンバージェンスを図っていく一方で、単独決算、個別決算ですね、税制と結び付いている部分については独自の基準を開発するという動きもございます。
そもそもコンバージェンスとは何ですかということですけれども、訳語自体が収斂、統合、共通化。日経新聞などは共通化と訳して、それ自体がある思いがあるのかなという印象を持っているんですけれども、その昔は調和化といわれてましたが、現在はコンバージェンスといわれる時代になっている。
さて、コンバージェンスというのは昔の調和化と言われていた時代と何が違うのかということを示したのがスライド10でございます。
2001年に現在の国際会計基準審議会というものが民間組織として発足する前の段階では、1973年に発足し、古くは9か国の各国の職業会計士団体、日本ですと日本公認会計士協会の代表が集まった組織だったわけです。ここで開発された基準と各国の証取法上の規範性の関係はさまざまでございまして、ただ国際会計基準というものが存在したという時代ですけれども、2001年からこの組織が民間の組織に変わるのと軌を一にしてと言いますか、国際会計基準の位置づけ自体がかなり変わっております。それはスライド10の第2期のところで、その前に出てきます証券監督者国際機構というものが86年に国際バージョンの組織になりまして、それとの連携との関係で、各国における規範性の付与の度合いがかなり違ってきたということでございます。
6ページ、これが現在の国際会計基準審議会の組織でして、法人としては、一番右上にありますように、アメリカに国際会計基準委員会財団、日本語に訳すと変な名前なんですけれども、旧組織を財団化したものがアメリカに組織されておりまして、その活動の本拠地、ボードの活動はロンドンを中心にしているということです。
日本からはこの組織にかなりさまざまなレベルで関係しております。評議会にも2名、理事にも1名、実は私も左上の基準諮問会議に入っておりますけれども、世界からいろいろな人たちが、個人の資格ですけれども、ここに参画して基準設定に意見発信しているという現状でございます。
この組織が2001年に改組になったときに、スライド12にございますd項、これはちょっと前まではc項だったんですけれども、c項として中小企業向けの会計基準というものが国際会計基準審議会の開発に入りましたので、今はd項になっています。
これが「各国基準と国際会計基準との質の高い融合に向けた統合を達成する」となっています。この意味が具体的に何を意味していたのかということについては、2001年の段階では余り明確ではなかった。それが現在2007年になりまして、その姿がかなり明確になってきた。共通理解が進んできたということでございます。
この問題を理解するためには、スライドの13にございますように、まず会計基準の国際的なコンバージェンスがなぜ喫緊の課題として浮上したのかということが問題になりますが、この問題を考える場合にはEUの存在は無視できません。
EUは御承知のように、経済活動というものが域内統合されておりますので、そこで使われる会計基準というものが統合されないとよろしくない。市場も統合されているという前提の下で、EU基準を開発する必要がある。
そこでEU自前の基準ということよりは、むしろ国際会計基準というものの方が有用である。EU基準をつくろうとした時代もありましたけれども、国際的にむしろコンバージェンスすべきだというスタンスになったわけです。
いち早く2005年からEU域内のすべての上場企業の連結財務諸表を国際会計基準に準拠させますということを2000年の段階で表明いたしました。このことは実はEU域内の統一基準をつくるということにとどまりませんで、後でお話をしますアメリカとEUの関係が背景にあったということが今日ではわかるわけです。
一方で、EUは国際会計基準を域内基準にすると言っていますけれども、国際会計基準審議会、IASBという組織でつくったものを、そのまま域内に入れているわけではございませんで、一応域内のEU議会の中に会計規制委員会というのをつくりまして、そこで一つひとつ基準の諾否を決めていく。一応基準設定の主権は担保しているということです。
その一方で、EU基準というものをつくることによって、あとでお話をしますSEC、アメリカの証券取引委員会との関係、プレゼンスがかなり上がってきたということです。それを受けて、IASBは2001年に新しく発足してから、まずはEU域内で使える基準に、これまであった会計基準を改善することに精力を使っておりましたけれども、2005年1月からは、「FASB」と書いてしまったんですけれども、アメリカの会計基準設定主体のことですが、国際会計基準委員会のつくる基準と、FASB、アメリカ基準とのコンバージェンスというものにターゲットを移しているということです。
EUにおける国際会計基準、昔は国際会計基準と呼んでおりましたけれども、今は国際財務報告基準というふうに2001年から名前が変わっておりますが、その受け入れ状況は、この調査会でも、100ヵ国が受け入れているんだという発言が過去にありましたけれども、必ずしもそうでもなくて、EUでも先ほど申し上げたように個別財務諸表については、国内基準を開発している。一方で連結については、域内基準としてIFRSを使っているという状況でございます。
具体的にはこのデロイト・トシュという法人が出しているこのウェブサイトに行っていただきますと、世界中の詳細な状況というものが出ていますが、今日は本題から外れるので省略させていただきます。
スライド16ですが、このような動きが始まる直前の2003年の段階では、世界の会計基準はこのような状況でした。日本市場では、日本基準と米国基準が受け入れられていました。米国基準は米国企業がつくってきた財務諸表は当然米国基準でつくってくるわけですけれども、米国で上場している日本企業についても、米国基準を認めている。ただ、日本企業全般に米国基準を認めているという現状ではありません。
これを見ていただくと一目瞭然なんですけれども、当時は最もオールマイティー、強い基準は米国基準でして、一番分が悪かったのが国際会計基準だったということです。日本基準は欧州市場では相互承認を受けておりまして、日本企業は日本基準でつくっていったもので欧州で受け入れられていたという現状でした。これが先ほどのEUの戦略と言いますか、国際会計基準がEU域内基準になることによって、右のように様変わりしております。
まず、EUは日本基準、米国基準のように、それまで相互承認していた基準について、EU域内基準である国際会計基準との同等性を評価する。本当に同等な基準ですかということを改めて見直させてもらいますという戦略なんです。これによって、もし同等でなければ国際会計基準でつくり直した財務諸表を持っていかなければならないということになりました。
その結果、アメリカ市場で、それまではアメリカはアメリカ基準しか認めておりませんでしたけれども、それではということで、アメリカは国際会計基準でつくった財務諸表について、これはおとといのSECの決議で外国企業については、少なくとも国際会計基準でいいんだという案を公開中でございます。これは恐らくそうなるであろう。そして、2009年からは承認するということですから、こちらが承認されますと、欧州市場における米国基準も相互承認が成りたつと。日本もそういう中で今、同等性評価の対象になっているということで、急速に世界の会計基準のコンバージェンスが進んでいる段階というのが、スライド16の右の図の意味でございます。
そういう中で日本基準も、先ほどの図の中で、日本企業というのは実はこの同等性評価が始まるまでは、約80社ほどのEU域内の上場企業がございましたけれども、今は30社を切っているんです。起債企業はまだ残っておりますけれども、コスト負担ということで撤退しておりますが、このまま撤退が続くのか、あるいは会計基準のコンバージェンスが進むのか。
アメリカも相互承認を認めましょうという背景には、アメリカ市場から世界企業がEUに移っていっているという事情もございます。そういう中でレジュメ9ページ、スライド17番です。日本もその中で会計基準のコンバージェンスに積極的に取り組んでいるという状況です。実際にアジェンダに上っておりますのが、スライドの18にEU側から同等性評価、これらについては差異が認められるので、できるだけ差異を縮めてほしいという指摘事項がこの18ページに上がっているような状況でございます。
10ページ、現在ASBJで短期コンバージェンスとして、その中でも喫緊の課題としてリストアップされて、今、取り組んでいるものがこちらでございます。
国際的な動きの中で世界はどうなっているんでしょうかということですが、よく100ヵ国が受け入れると言われておりますけれども、実は厳密に言いますと、幾つかのバラエティーがございます。いわゆるIFRSのコンバージェンスの中でもアドプション国と言われている国は、全部受け入れる。その中にEUも入っております。受け入れるけれども、一応個別に是非は問わしてもらいますよということなんですが、一方、アドプション宣言国と言われる国がかなり多うございます。これは受け入れると言っているんだけれども、実際にはいろいろバラエティーのあるものを開発して、実際には水準がかなり違うということです。今IFRSブランドという表現が出てきまして、どこまでIFRSブランドを使わせるのかというのが真剣に討議されております。
日本はその中で第3の道と言いますか、アメリカとともに既に国内の発達した市場がありますので、そこで使われていた基準をできるだけ国際的な水準に合わせて、かつ、差異をどんどん縮めていくというオプションを今選択しています。基本的なスタンスはそういうことでございます。
全体の動きというのはそういうことなんですけれども、実はそのときに見逃してはいけないことですが、特に税調とも関係があると思うんですけれども、コンバージェンスするというのは、どういう基準にコンバージェンスするのかということが重要で、それを抜きにして、どこかでつくってくれる、それがどういう基準であろうと差異を縮めていくということになりません。それについて今世界の会計界の論争というものがかなりございまして、これは深刻な論争になっております。
これまでの会計は、先ほど見ていただいたものの中に発生主義会計。これは財政学の方が使われている発生主義会計という言葉とは若干意味が違いまして、発生主義というのは、実は下のスライドにございますように、収益は実現で考えます。しかし、売買目的有価証券のような市場の完備された、販売に制限のないものについては時価を取り入れているということなんですけれども、あくまでも発生主義会計というのは、下のスライド22に書かれていることをパッケージにして、これに発生主義会計(accrual accountion)という名前を付けているんです。
これに対して、世界の今の考え方というのは、先ほどのスライド21のストックに基づく捕足というものに大きく方向転換しようとしております。先ほどのスライドと実は21は違うんですけれども、包括利益という、あえて利益という名前を使っておりますけれども、租税の分野で長い間包括的所得と言われていたものと英語は同じです。comprehensive incomeを使っているんですけれども、会計はその概念を使いまして、ただし包括的所得とどこが違うのかというと、理念型としても、すべて時価にする、持っているストックを全部時価にするという考え方は取っておりません。何を時価にし、何を時価にしないのかということは、これからの議論ですよという一方で、利益というものをストックの差額でとらえましょうという考え方が台頭しております。IASBというのは主として包括利益を支持する立場。
それに対して、レジュメの次のページを見ていただきますと、スライド24のところに左右に、余り厳密ではないんですけれども、どちらかというとということで、左が国際会計基準審議会の考え方、右側がいわゆる伝統的な考え方で、この右側の考え方は日本独自の考え方ではございませんで、アメリカの現行基準、それから国際会計基準の現行の基準は右の考え方によっております。つまり、利益というものはフローを重視して考えていきますけれども、例えば金融商品については上にありますように、金融商品に限定しては時価会計を入れていくということです。しかし、基本的な考え方はあくまでも継続企業ですから、今清算したらどういうストックの価値があって、その差額が利益だという考え方は取りません。企業は継続していくとしたら、どういう収益力がこの企業にあるんですかという考え方で物事を見ているということです。
それは図解しますと、スライド23のようなことで、先ほど申し上げましたように、会計上の利益情報というのは、企業価値を推定するために将来フローを見積もる際のインプット情報ですから、そのためには、現在のキャッシュフローだけで見ていくよりは、それを利益として転換した情報が価値があるんだというとらえ方をしているわけです。
したがいまして、資産とか負債を全部時価にして、その純資産を時価ベースでとらえても、それは企業価値とは違いますよ。御承知のように、その差額というのはのれんになるわけですけれども、のれん価値というものを正確に出すためには、将来フローというものがキーファクターなんだという考え方になっております。
そういう中で会計が動いているわけなんですけれども、依然として、現在の会計はフローベースですから、ある意味では税制上の課税所得計算とは親和性を失っていないというふうに私は考えております。企業会計上の利益計算と課税所得の計算の関係で、確定決算主義についてしばしば批判されますけれども、これを一致させておくということは、納税コストや徴税コストの両面から見た社会的コストの節減や、課税ルールの安定性という観点からはメリットが大きいと思います。
しかし、一方で会計基準というものがそういうふうにコンバージェンスされていく中で、この2つがスライド26のように、相互が制約とならずに、かつ、これまでのような課税ルールの安定性を担保するためには、損金経理要件というものをできるだけ柔軟に考える。あるいは申告調整の範囲を拡大するということ。
これは具体的にどういうことかにということについては、後ほど、もし質疑の中で御質問があれば触れさせていただきます。
そういう意味で何が今日のお話のエッセンスになるのかと言いますと、利益計算のモデルというものは、基本的に共有した方がいいのではないか。発生主義会計と言われるモデルは共有しつつ、そこから外れていく部分については、申告調整等の措置を通じて理由を明確にしつつ、調整していくという方式が望ましいのではないか。
そういう意味で私は最近問題になるのかなと思いますのは、例えば有税償却の範囲というのは、不必要に多くないか。それから引当金につきましても、平成10年の税制改正で引当金が言ってみれば全廃に近い形になっておりますが、もし、そうであるならば、課税所得の計算がキャッシュフローベースに移行するのであれば、その中で整合的な計算ルールをつくればいいし、そうではなくて、発生主義という考え方を取るのであれば、引当金全廃というのは行き過ぎなのかな。具体的に言うと退職給付引当金のようなものが全く損金算入ゼロの状態というのは、相互にとって歪みがあるのかなという感じがしております。
最後のページは、今、いろいろ企業会計の方から個別の論点が上がっておりますけれども、税制との関係で特にこれから問題になるとしてピックアップしたものでございます。内容につきましては、もし、後で個別の御質問があればということで、とりあえず御報告は以上にさせていただきます。
ありがとうございました。
〇田近部会長
ありがとうございました。国際企業会計の動向と税との関係では、最後に御指摘になった、これでいいわけですね。企業会計上は発生主義会計による利益の測定ということに対して、法人税上のキャッシュ的な会計とがどう齟齬が起きるかというところですね。どこからでも質問、御意見お願いします。
上村さんと吉村さん、続けてお願いします。
〇上村専門委員
報告ありがとうございました。私、会計とかはそんなに詳しくないんですけれども、2つほど質問させていただきます。
最後に、スライドの25枚目に会計上の利益計算と課税所得の差があるということがある種納税コストを増やしているということではないかということなんですが、例えば大企業も損益計算書とかを見ると、法人税を一応計上しておいて、その後別表調整で損金不算入をして、加算項目でちゃんと税金を計算するという方式を取っているわけですが、これが本当なのかわからないのでお聞きしたいんですけれども、特に大企業の場合は、損益計算書に載っている法人税の金額をなるべく実際に支払う税金の金額に非常に近づけているということを聞いたことがあるんですけれども、それはまさに別表調整をなるべくしないようにするのと、株主に対して法人税の金額を見込んで計算をしているということだと思うんですが、そういう実態がちゃんとあるのかどうかというのを、もしも知っておられるなら教えていただきたいということです。
もう一つは、スライドの9枚目なんですが、連結決算と個別決算の一体性の問題とかいう話が今あったんですが、そのときにも思いついたんですが、今、納税の話でいくと連結納税を企業でやっているわけで、それと会計の連結決算の、いわゆる連結対象の企業の基準が違いますね。連結納税の方が対象となる企業が狭いわけですけれども、その辺りで何か問題が起こらないのかということ。つまり、企業にとってみれば、連結納税するために、新たに納税コストを払わないといけないということかもしれないんですが、そこは問題になっていないのかということをお聞きしたいと思います。
以上です。
〇吉村専門委員
どうもありがとうございました。御報告を伺って、確かに一般論としては、会計基準と税務会計との乖離は広がっていくのかという気がしたんですが、1点お伺いしたいことがあります。
先ほど国際的な会計基準の議論の中で、中小企業向けの会計基準も検討の対象にしていくというお話が少しあったんですけれども、そうしたSME向けの会計基準というのも国際的にコンバージョンの方向に向かいつつあるのかという点と、その基準というのが、今、御紹介された、向かっている方向とどういった違いがあるのかというのをお教えいただければと思います。
〇辻山特別委員
御質問ありがとうございます。
それでは、まず上村先生の御指摘ですけれども、これはおそらく逆なのかなと思います。日本では会計上は税効果会計というものが会計ビッグバン以来取り入れられまして、会計上の損益計算書上の法人税というものは、支払税額ではなくて、会計上の利益計算に合わせて、その期が会計上負担すべき税額ということで、もし、会計上費用であっても、損金として認められないということで税を一時的に払ったといたしますと、それは税の前払いとして、PL上の法人税を会計上の法人税に再計算するということを行っております。
そういう意味では、先ほどの御指摘と逆なのかなと。PL上は支払い額ではなくて、会計上本来負担すべき税額にPLを再構成する、税効果会計というものが取り入れられているということが1点目でございます。
2点目ですけれども、これは連結納税というのは、基本的に連結決算とは別のものでして、私の理解では、御専門の方がいらっしゃって恐縮なんですけれども、連結納税というのは、現在日本で取り入れられているものは100%子会社で、赤字が出ている子会社をグループで合算することによって節約できる税というものを有効に使っていくということですから、連結決算と当然範囲も異なりますし、もともと仕組みが違う。連結納税そのものに伴う実務的な負担というのは、相当なものであるということは伺っておりますけれども、それが連結決算との関係で特に違う方向に行くとか行かないとかには考えておりません。
それから、2点目の吉村委員からの御質問でございますけれども、先ほどSMEの会計基準、最初に2001年にIASBが発足したときに、あくまでも高水準の世界的な基準を開発するというのを目標に掲げておりました。その後、国際会計基準の傘の中に世界のいろいろな国、さまざまな国が入ってくるというときに、新興国とか、あるいはその中の中小企業もできるだけ国際会計基準を活用させてほしいということで、このコンバージェンスの議論というよりは、自国内にそういう基準のない国が、SMEというものが国際的にあればそれを使うということですから、既にある各国の中小企業のものを全世界でコンバージェンスしていくという動きとはちょっと次元が違うのかなというふうに考えております。ですから、SME会計基準というのも、ものすごく世界的にいいものができて、日本がそれを取り入れる。あるいは既に日本で使われている現行の実務をコンバージェンスさせていくという動きが将来あるのかないのかということについては、軽々に将来を予測して、後で外れると責任取れませんので、わかりません。
〇田近部会長
続けて御質問、御意見どうぞ。田中さんお願いします。
〇田中特別委員
我々実務家から言いますと、この会計上の利益と課税上の所得の不一致を調整するというのは大変なコストで、ここに御説明のとおりでございまして、したがって、これが少しでも緩和できる方向で進むというのは大変我々にとっては朗報なんですけれども、先ほどスライドの26、損金経理要件の緩和とか申告調整範囲の拡大ということが1つのきっかけになるというお話でしたが、この辺を具体的に御説明いただくとありがたいんです。
〇田近部会長
では、そのお答えをいただけますか。
〇辻山特別委員
御質問どうもありがとうございました。
私がここでイメージしておりましたのは、26の1つ目のポツでございますけれども、特別償却というのが企業にあります。先ほど来お話になっている、誘因措置の一環と言いますか、それがまず決算調整と呼ばれている次元。すなわち会計上の利益計算をするときに入っていなければいけないということで、会計上の利益計算がよく言われる逆基準性というんですか、租税の計算を必ず使わなければ、後でその措置が使えないということがございました。今は特別償却についても、企業は会計上は通常の経済的な合理性を持った償却をしておいて、そして特別償却については、申告調整でメリットを受けるというようになりました。ですから、そういう意味で会計モデルというものは基本的に共有して、先ほど来出ている特別措置的なものはすべて申告調整で行うように、棲み分けをすべきではないかということです。
問題は、税制上のメリットを、要するに、モデルは共有なんだけれども、例えば減価償却費制度というものがございまして、これ会計上は定額法で償却するんだけれども、税法上定率法でやりたいということをどうするのかと。これが一番最後に残る問題なのかなと思います。
アメリカの場合は基本的にそういうことも許されている。そうすると、申告調整ですけれども、限りなく両方が独立に走るという形なんですけれども、そこまで踏み込むのかどうか。できるだけ減価償却というのは統一しておいて、優遇措置の面では、例えば特別償却のようなものは別建てでやりますけれども、方法そのものを全部変えて、もう一度やり直して、租税のメリットだけを受けるということを認めるのかどうか。これは議論の余地があると思います。そこまで認めるというのは究極的な姿だと思いますけれども、それは少し難しいのかなと思います。
〇田近部会長
田中さん、よろしいですか。
〇田中特別委員
わかりました。
〇田近部会長
では、続けて出口さん。
〇出口特別委員
国際的なコンバージェンスというのは、会計だけではなくて、このボーダレスの時代でいろんなことが起こっているわけです。例えばコンピュータ文字コードの統一ですとか、そういったことも含めて。一番シンプルにわかりやすい例を言いますと、車の道を右側通行か左側通行かと。これはコンバージェンスしたら便利だというのはだれでもわかるんですけれども、これはできないわけです。極めてポリティックスになる。ところが、こういう非常に複雑なものになると、何らかの形でコンバージェンスしていく1つのスタンダードができ上がっていくということがいろいろ行われているんですが、そのときに取り得る戦略というのは2つあって、1つは、ある国が有利になるような形でコンバージェンスしていくという方法が取られる可能性が多々あるわけです。これは極めてコンバージェンスのプロセスがポリティックスだということにほかならないわけなんですけれども、今の御指摘は、私よくわからなかったんですが、この国際的な会計の標準化を前提として、それに合わせて税体系を考えた方がいいというふうに受け取ったんですが、もう一つの戦略としては、国際的な標準化の議論に深くコミットして、日本の税体系に最も有利な形で標準化が決着するようにするという2つの戦略があろうかと思うんですが、日本は会計だけではないんですが、この種のことについて、ことごとくハンディを負ってきたのではないかなというふうに思っております。
その点で、今は御指摘がなかったんですが、やや気になっていますのは、アジアの他の国々の動きなんですが、韓国とか中国とかマレーシア、シンガポール、この辺がいち早く標準化の動きに乗ろうとしていると漏れ聞いているんですが、それはそういう理解でよろしいんでしょうか。
〇辻山特別委員
御指摘ありがとうございます。
幾つか御指摘された中で、アジアの現状はどうなっているんだということですが、しばしばアジアが、先ほどのスライドで行きますと、世界の状況ということで、レジュメの10ページ、スライド20にございますけれども、いわゆる中国はフルアドプション国と言われて、一応中国基準をつくらないで、IFRSをそのまま受け入れますよという、聞くところによると人民大会堂でサイン式を行ったと聞きましたけれども、そういう宣言はしているんですけれども、実際に使われている基準、会計というのは連結レベルでは特に監査のレベルとセットで考えないといけないと思いますが、実は会計基準に使われているけれども、その適用は必ずしもそうじゃなかったということがございます。会計基準の質というのは監査とセットで考えなければいけないということでございますけれども、中国については、今、そういう宣言はなされているんですけれども、IASB 側でこの財務諸表は、IASBの開発したIFRSに準拠した財務諸表ですと書くことは許されていません。IASBの方も、IFRSブランドというものを大切にしたいということです。そういう状況です。
韓国は経済危機のときに、世界的な会計基準を入れるということを約束しまして、高い水準のものを入れたんですけれども、IASBの基準そのものではなかったために、世の中の疑念を払拭できないということで、今年の3月に2009年からはIFRSの翻訳バージョンを使うということは宣言しております。ですから、実際にIASBの方で2009年からブランドを使わせるのかどうかというのは、そのときの検証にかかっていると思います。
シンガポールについては、昔のIASC時代からIASC基準を使ってきたということで、個別に今、シンガポールの関係者の話を聞きますと、タイミングで調整していますという部分はあるけれども、基本的に速やかに入れていくつもりだという対応をしているようでございます。各国それぞれの対応です。
それとの関係で、前半の方の御質問でございますけれども、よく文字コードとか、左側通行か右側通行か、そこまで会計の基準の中身というのは簡単ではないんです。そもそも先ほど来御紹介したように、利益とは何ですかという考え方自体が、さまざまございます。そういう中で、御指摘のように2つ方法があるんだということはまさしくそのとおりかなという感じでして、例えば日本がアドプションという道を採用する場合には、この基準は誰に設定を委ねるんですか、どこかでつくってもらうということになりかねません。しかし、一緒に協調しながらやっていく。そういう意味では御指摘の後者の方の戦略になるのか。
ただ一つ、先ほど伺ったのと違うのは、日本の税制に有利なようにという戦略はないのかなと。やはり日本の企業が日本の資本市場の投資家にとって最もいい情報をつくれるような会計基準になるように意見発信し、国際会計基準をそのようにつくっておいてもらうような働きかけをするということだと思います。
税制の問題は、それを踏まえて、同じ会計モデルを使うとしたら、申告調整の意味を明確にし、その範囲をきちっとしていくという対応になるのかなと考えております。
〇井戸特別委員
非常に素人なものですから、素人なりの質問をさせていただくので恐縮なんでございますけれども、1つは、企業会計と税務会計と比べたときに何が違うかというと、税務会計のときには担税力をどうはかるかということをベースにして考えていくべきだと思いますし、しかも企業はゴーイング・コンサーンという永続性があるものだと。何も今すぐに解散して、価値を減失するものではない。現実に営業活動や生産活動を続けていくことを目指しているものだということを前提にして考えていかなければおかしいのではないかと思うんですが、どうも会計基準の方が投資家ばかりに目を向けていてしまって、いわゆる企業の存在価値の基本を忘れてしまいつつあるんではないかというふうに感じてしまうんですが、いかがでしょうかというのがまず1番です。
2番目は、非常に疑問に思うのが、時価評価主義、時価会計主義なんです。例えばゴーイング・コンサーンの企業が投資をするということを考えましたときに、投資時点で採算性があるかないかを判断して、それで投資していくわけです。だから、外部的な要因でプラスになったりマイナスになったりということではなくて、自前の営業活動だとか生産活動の中で償却していければいいんであって、その企業が持っている価値が今は幾らあるかというのを問いながら投資をしているわけではない。そういうふうなことを投資行動の原点として考えると、時価主義会計はものすごい歪みをもたらしてしまうのではないかと私は思っているんですが、この2点について非常に素人的で恐縮なんですけれども、お教えいただきましたら幸いです。
〇辻山特別委員
まさにそのことで今日のレジュメの12ページ、スライド24にまとめた図がそのことでございます。今、会計は時価会計と言われていますけれども、実は時価といっても金融商品に限定されていて、かつ、いつでもトレーディングできるというものに限って利益に入れる。ですから、ゴーイング・コンサーンを前提にして、よく会計のデータは企業が倒産すると使いものにならないと言いますけれども、それはゴーイング・コンサーン価値で見ているからだということになろうかなと思います。まさに井戸委員御指摘のとおりでして、スライド24でいきますと、右側の範囲の基準、これは世界的に見ても同様でございます。
ただし、一部に左側に全面移行しようという動きがございまして、それについては実は明日からロンドンに行くんですけれども、日本から盛んに意見発信をしているのが現状でございます。おっしゃるとおりだと思います。
時価会計と今言われているのは、あくまでも金融商品の、しかもトレーディング目的のものだけが利益算入されているという意味なんです。BSに限っては、金融商品だけは全面時価になりましたけれども、その一部は損益としてはとらえていないという構造になっております。
〇松田委員
土地の評価はどうですか。
〇辻山特別委員
土地の評価は一時時限立法、議員立法で土地再評価されている時代はございましたけれども、本来の会計基準の中には入っておりません。
〇松田委員
減損はどうですか。
〇辻山特別委員
減損は、時価会計と言われますけれども、実は違って、評価益は計上しない。コストの中でどこまで将来回収できるのかというところまで切り下げるということですから、あくまでも原価主義の配分の組み替えということです。
〇田近部会長
まだ、御質問、御意見があるかもしれませんけれども、一応ここで区切りにしたいと思います。国際会計基準の動きは、更に最新のことを適宜教えていただくと同時に、我々としては、やはり企業会計上の利益と税務会計上の所得が具体的にどう乖離しているのか。それが節税的なものとどう特に関わるのかということも具体的な数字も見ながら検討していくというのが課題だし、特にアメリカでそういうことが強く言われていると思います。そういうことで、今日は辻山さんからも貴重な御報告をいただいたと思います。また、これからも、今、申し上げたように新しい動向を伝えていただきたいと思います。ありがとうございました。
これからの予定ですけれども、次回は既に御案内していると思いますけれども、7月13日午後2時から4時まで、場所はここで行います。御出席よろしくお願いします。
本日はどうもありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。