調査分析部会(第7回)議事録
日時:平成19年6月15日(金)14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室
〇田近部会長
それでは、会議を始めたいと思います。
ただいまから、第7回「調査分析部会」を開催いたします。お忙しい中御参集いただき、誠にありがとうございます。
今日の議題ですけれども、2つのテーマを考えています。お手元に資料がありますけれども、専門委員である國枝さん、そして土居さんから報告を受けたいと思います。時間配分はそれぞれ1時間ずつの時間でプレゼン及び討議というやり方をしていきたいと思います。
まず最初は、調査7-1の「我が国の金融税制のあり方について」というテーマです。國枝さんに報告をいただきたいと思います。
これは、井堀主査の担当領域である「税制が経済及び社会構造・経済主体の諸行動に与える影響の検証」の一環として御説明いただくものですけれども、井堀さんから一言問題意識等について御説明いただいて、國枝さんの説明に入りたいと思います。一言お願いします。
〇井堀委員
井堀です。そんなにしゃべることはないんですけれども、金融税制に関しては、去年の年度答申でも取り上げたテーマですので、その点について、もう少しアカデミックな見地からどういう議論が行われているかのサーベイと、あと國枝委員と政策的なところも含めた見解を、今日は皆さんと議論できればと思います。
〇田近部会長
では、國枝さんお願いします。
〇國枝専門委員
御紹介いただきました、一橋大学の國枝でございます。よろしくお願いいたします。
本日は、我が国の金融税制の在り方についてということでお話をさせていただきます。
金融税制は非常に細かい話もあったりするんですが、今日は基本的に考え方の辺りを中心にお話しさせていただければと思います。
とはいえ、中盤辺りでキャピタルゲイン課税の話をしようと思っておりますが、バーマンという、この分野で有名な学者が書いた本があるんですけれども、その題名が『ラビリンス・オブ・キャピタルゲインズ・タックス・ポリシー』といいまして、ラビリンスは迷宮でございまして、なかなか基本的なところでも複雑な話が少しあったりいたしますので、その辺をうまく説明できればと思っております。
では、早速ですが、資料に基づいて御説明させていただきます。
まず、税制の話に入る前に、そもそも日本の家計のポートフォリオ選択、資産選択の特徴と、それを踏まえた上で、どういう金融税制改革の方向性が望ましいのかという話から始めさせていただこうと思います。
まず、我が国における家計のポートフォリオの状況でございますけれども、1ページ目のグラフのとおりでございます。
株式はそれぞれの国について4本棒が立っておりますけれども、左から3つ目の比較的薄くなっているものが株式でございます。
これは、1995年から2002年の家計部門のポートフォリオの配分状況をGDP比で示したものでございまして、見ていただきますとわかりますように、アメリカ等ですと株式の棒が高く、銀行預金のところは低い。
ところが、翻って日本を見てみますと、銀行が高くて、日本は株については非常に低いところにあるという状況にございます。
こういう状況を踏まえて、世間一般では、貯蓄から投資へというスローガンと言っていいと思いますけれども、話がございます。
ただ、残念ながら貯蓄から投資へというスローガンは、なかなか経済学の分野では理解し難い部分がございます。
というのは、マクロ経済学を勉強なさった方はよく御存じだと思うんですけれども、マクロ経済学は、一番初めが貯蓄イコール投資ということを学ばれると思います。ですから、銀行預金、債券等の安全資産も投資であり、かつ貯蓄であるということでございますし、株式等のリスク資産も投資かつ貯蓄ということになります。
その意味で、貯蓄より投資というのは、何のことかよくわからないということになるんですが、現在の経済学、ポートフォリオ選択理論においては、むしろこの点に関しては安全資産とリスク資産を組み合わせた、いわゆる分散投資という形で最適なポートフォリオを考えていくことになっております。
具体的には、個人のリスク選好や、あるいは経済的環境に応じて合理的なポートフォリオ選択を行っていくということになります。
こういう考え方が重要なのは、例えば長期の運用を考えましたときに、なぜ株式を持つかということを考えますと、単にリスクを取ってハイリターンということだけではなくて、例えば長期ですと、実はインフレの問題がリスクとして大きいんですけれども、債券を持ちますと、インフレのリスクにはなかなか立ち向かえないということがありますので、むしろ株式を持った方がインフレリスクをマネージする観点から望ましいということになります。
そういう意味では、分散投資あるいはリスクをマネージメントするという立場から考えていくことが不可欠だろうと思います。
次のページへ移っていただきまして、では、理論的にどういうポートフォリオが望ましいとされているかということですが、実はファイナンスの理論の中でも考え方が少し変わってきた部分がございます。
もともとは、個人の家計の資産の中だけでポートフォリオを考えておったんですが、よく考えてみますと、人の人生というのは金融資産だけではなくて、不動産を買ったり、更には経済学では人的資本といいますけれども、賃金あるいは引退後は年金というようにもなっていくわけでございまして、そういったものを考えて資産選択をすべきだということ。そうすると、望ましい資産選択というのは、恐らくライフサイクルを通じて変化してくるだろうと考えられます。
賃金等の人的資本の方ですけれども、これは、これまでの一般的な考え方では、相対的に恐らく安全であろう。しかも、その額というのは、何かあった場合には、退職の時期を調整したり、あるいは労働時間を調整することによって調整が可能である。
そうだとすると、広い意味でのポートフォリオの中で人的資本のウェートが大きい若い現役のときには、株式投資の割合を増やして、逆に高齢時になりましたら、株式投資の割合を減らすということが望ましいのではないかと考えられます。
実は、下に注で付けましたけれども、アメリカのフィナンシャル・アドバイザーの年齢と推奨ポートフォリオの関係も大抵そういう関係にございました。
実際にアメリカでどうなっているかでございますけれども、実はアメリカといいますと、どの家計も株を持っているような一般的なイメージをお持ちかもしれませんけれども、80年代の時点では、実は株式を持っていない家計の割合が大体4分の3ということで、実はなぜ株式を持たないのかというのが、アメリカでもパズルというふうに言われておりました。
取引費用や金融知識が足りないことというのが原因だろうと言われておったんですが、次のページの上に付けてございますけれども、株式の持ち方として直接保有と投資信託、更にはアメリカの場合ですと、401kという確定拠出年金、それから退職用のIRAというのがあるわけですけれども、実は、その表を見ていただきますとわかりますように、特に90年代に入りまして、確定拠出年金、それからIRAの部分が非常にふくらむ。
その結果、2001年の数字で見ますと、確定拠出、IRA投資信託、それから直接株式を持っている者を合わせて、5割ほどの家計が株式を持つようになったというようなことがございます。
ですから、1点はアメリカでも直接保有というよりは、むしろ確定拠出年金、IRAを通じた株式保有の増大を通じて株式を持つ家計が増えたということでございます。
次でございますけれども、今度は年齢との関係なんですが、これはいろいろ議論があるんですけれども、3ページ目の真ん中にありますグラフを見ていただきますと、横軸は年齢でございますけれども、何となく50歳前後を山として、ここにありますのは株式のポートフォリオの金融資産中の割合でございますけれども、それが高くなっているということでございまして、そういう意味では、ある程度先ほどの理論に応じたような状況になっている。
ただ、これは、実はほかの効果もあるんではないかという話がありますので、いろいろ議論があるところでございます。
4ページ目でございます。日本はどうなのかということなんですが、実は日本の金融資産は非常に多うございますが、そのほとんどが高齢者の方がお持ちになっております。
そのページの上に付けていますグラフは、経済財政白書に載っていたものでございますけれども、日本は純金融資産ですから負債を引いたものでございますけれども、50代ぐらいからどんどん増えていくということで、年をとればとるほど金融資産が積み上がっていくという状況にございます。
ところが、右側に付いているアメリカでございますけれども、先ほど見ていただいたのと、ほぼ同様でございますけれども、55~64というところで山ができておりまして、その後は、減少するという形になっております。
その内訳がどうかというのが、下のグラフでございますけれども、それぞれ縦の棒のグラフの中が内訳になっているんですが、上から3つ目が株式でございます。
これだけ見ると、見づらいんですけれども、基本的に高齢者になればなるほど、リスク資産への投資割合が増えていくということになっております。
更に5ページ目の上の表を見ていただきますと、株式だけではなくて、投資信託、それから外貨預金、外債を含めたリスク資産の保有割合のグラフがございますけれども、折れ線の下の方の線でございますけれども、これもやはり年齢によってどんどん高くなるということがございます。
逆に、一定の家庭の下で、どれだけリスクを避けようとしているのかということも計算できるんですが、現在のリスク資産の保有割合から、どういうリスク回避度の下であれば、それが合理的と考えられるかということを計算してみますと、それが下の表でございますけれども、日本においては、お年寄りは非常にリスクラバーでチャレンジャーなんですけれども若い人はリスクを取らないというようなパターンになっております。
しかし、やはりちょっと考えてみると、高齢者の方がチャレンジャーであるというのは、どこかおかしいのではないのかというふうに考えざるを得ないと思います。
その意味では、税制の在り方として、仮に株式投資を増やすことが必要だとして、今、金融資産の大半を高齢者がお持ちになられている状況を前提にして、高齢者のリスク資産投資を更に増やすというような政策が望ましいのかどうかというのは疑問が残るのではないかと思います。
ほかの資産の関係ですけれども、日本人の場合は、やはり不動産、特に住宅が非常に大きな資産になっております。これは、価格が上がり下がりしますし、取引が容易でないということで、非常なリスク資産なわけですけれども、その意味では持ち家ですと、ほかにリスク資産があるので、株のようなリスク資産を買わないということが考えられますし、更に住宅ローンで持ち家を買われた方は、レバレッジと言いますけれども、借金してギャンブルをしているような状況ですから、ほかにリスクを取る余裕がなくなるということがあります。
その意味では、こういう持ち家志向、更にはそれを促進する税制等がありますと、それが結局若い世代のリスク投資を抑制しているのではないかということが考えられますし、逆にそういったものを縮小すれば、リスク投資が拡大するのではないかという指摘がございます。
それから、経済格差と資産選択の関係でございますが、これは容易に想像できるところでございますけれども、欧米の家計においては、所得が高くなるほどリスク資産の保有割合が増加しております。下に少し見づらいですが、各国の、横軸が所得階層別で、縦軸が株式の保有割合のグラフを付けております。
日本でも同様でございまして、7ページ目でございますけれども、第V階級までありまして、第V階級の方がお金持ちでございますけれども、お金持ちの高額所得者の方ほど株式を持っているということになります。
その意味では、株式保有に対する一般的な税制優遇措置を恒久的に設けるということになりますと、経済格差の拡大につながるということになります。
他方、株式の保有割合が違うわけですけれども、一般に期待収益率は株の方が高いと考えられておりますので、このまま放って置きますと、金融資産からのリターンを通じて、更に高額所得者の方の資産が増えてしまうということになりかねないわけですけれども、そうだとすると、逆に若い世代、しかも高額所得者ではない人たちの株式保有が増大すると、期待収益率が株式の方が高いということになりますので、将来的な経済格差を防ぐという効果もあると考えております。
あと、その他の要因ですが、年金です。今のように若い人から、年金を払ってもそもそも記録があるかどうかわからないというような状況ですと、年金自体がリスク資産になってしまいますので、ほかに株式のようなリスク資産を持とうという気持ちにならないかもしれない。
あと、日本は特に保険の割合が資産の中に非常に多いということがありまして、これが資産選択を歪めている可能性というのもございます。
四角にまとめてありますのが、今のところをまとめたところでございます。時間の関係もありますので省略します。
次でございます。そうしますと、基本的には中立的な税制か望ましく、しかし、若い人についての株式投資については、何か促進することができないのかということが基本的な課題になってくるかと思います。
そうしますと、まず、中立的な金融税制ということでございますけれども、これはまず労働所得に対する課税と資本所得に対する課税と同じにすべきかどうかという議論がございます。
これは、経済学では最適な資本所得課税の在り方ということで論じられているんですが、残念ながら非常にテクニカルになりますので、内容はちょっとお話ししませんが、結論だけ申しますと、原則として資本所得税率と労働所得税率が同一である必要はないというのが標準的な見方でございます。
ただし、実際の執行を考えますと、そもそも資本所得と労働所得を分けられるのかという話がございまして、例えば自営業者の方には営業所得、それからストック・オプション等はどうだという話がございます。
そういうことで、資本所得税は労働所得税と別の税率としても今度は、さまざまな金融所得の中で課税の在り方をどうすべきかという話でございますけれども、ここでは実は中立性といったときに、実は2つ重要な柱がございます。
1つは、法人段階と個人段階を通じた中立性ということでございます。実際事業を行っているのは法人なわけですけれども、そこからさまざまな形で家計に資金が流れるわけでございます。その2つの段階で課税がなされているわけですが、その2つを併せたところで中立性が維持されないと中立的ではないということがございます。
特に問題になってくるのは、例えば配当の二重課税調整の話でございます。配当につきまして、法人段階での法人税がかかっておりますので、個人段階で何も調整しないと二重課税ということになる。
10ページでございますけれども、過去のアメリカにおいては、それを調整しない、いわゆるクラシカル・システムというのがあったんですが、現在では部分的ではございますが、調整を行っております。
一方で過去には、インピテーションという形で完全調整するのが望ましいんだということで考えられていたんですが、一方で執行上の問題がいろいろありまして、必ずしもそうでもないということになってきておりまして、部分調整を行う国、例えば日本ですと、配当税額控除がございますし、あるいは最近のドイツ、今度の税制改革の前のドイツでございますけれども、あるいは今のアメリカにおいては、法人段階での配当課税の税率を低くするということで調整を行っております。
更に、もっと根本的な調整の仕方としては、法人段階でも、例えば負債と株式を同じ扱いにする。負債の支払い利子というのは、法人税の課税の対象になっていないわけですけれども、これを損金算入を認めないで課税対象に含める。法人段階で税制上の取扱いに一元化されれば、個人段階で各種金融所得の取扱いを一元化しても、中立性は確保されるということになります。
これは、さまざまな提案でも指摘がなされているところですが、ただ、残念ながら利子は当然コストだろうというのが伝統的な経営者の方の考え方でございまして、そこが一番難しい問題ということになります。
この部会でも報告がありました、ドイツの最近の税制改革案でございますけれども、これも実は法人段階では支払利子損金算入の制限というのが入っておりまして、他方、個人段階で、利子、配当、キャピタルゲインを同一の税率で課税するという話がございます。
これは、いろいろ解釈の仕方があると思いますけれども、1つの考え方としては、今、申しましたように、法人段階、それから個人段階両方で一元化を図るというふうに考えられなくはないんですけれども、実はドイツの場合にも、もともと損金算入可能額を2分の1という話が打ち上げられたのを経営者の反対がばっとありまして、大幅に圧縮されるという歴史があったと思います。そういう難しさを抱えているということでございます。
11ページでございますが、もう一つの重要な中立性が時間を通じた中立性でございます。税法の世界では、往々にして、今年の100 万円、5年後の100 万円は同じものという発想が多いと思うんですけれども、投資をする方は、現在価値で考えているわけでございます。
したがって、キャピタルゲインの場合には、発生時課税ではなく、実現時課税なわけですけれども、そうしますと、含み益が課税されないということになりまして、実効税率が低くなるということになります。
この中立性が確保されていませんと、なかなか株式を売らなかったりという歪みが生じることになります。
ただし、金融税制の話の難しいところは、資産選択に中立的な課税を今、論じているわけですけれども、それは資産選択を行う時点で中立的であればいいので、それは事前の段階ということになります。
ところが、一般の方は、やはりリスク資産については、もうかったか、もうからないかという結果が出てから、それに対する税負担で公平性を考えるということになりますので、そこが中立的な税制と一般の方から考える公平性というものとのトレードオフを生じさせることになる要因としてございます。
キャピタルゲインでございますけれども、今、申し上げました保有期間に関する中立性が問題だということで、それがないと、ロックイン効果と申しますが、長く持ち続けてしまうということがありまして、12ページ頭に付けましたように、それによって引き起こされる経済構成への損失というものは相当なものになるという試算があったりいたします。
では、中立的な税制はどうすればいいかということですが、一番単純には、時価でキャピタルゲインの発生時に即座に課税するということをすれば問題がないわけでございます。
ところが、デメリットといたしましては、そうしますと、毎年毎年時価がわからないといけない。それから、実際には売っていないのに、納税しろということになりますので、現金がないじゃないかという問題が生じるということになります。
この問題につきましては、実はVickreyという人が、既に1939年にちゃんと考えておりまして、また、それの改良型みたいなものを、例えば八田先生とか、売却時中立課税ということで御提案なさっておりますけれども、そうすると、納税はキャッシュがないといけないのに実現時にしましょう。元のVickreyの発案は、ちゃんと毎年毎年の時価は、後からでもいいから計算して、昔のキャピタルゲインには利子を乗せて、それで税負担を決めましょうというものでした。
あるいは、それですと、毎年毎年の時価が必要になるので、八田先生の御提案とかですと、最終的な含み益がわかっていれば、後は保有期間の間は、一定の収益率だったというふうに仮定して、そうすれば、いろいろ計算できますので、その下に付けましたような税率表を使いまして、売却益と期間で税率を決めて、それで税をかければ中立的であるということを指摘しております。
更には、13ページでございますけれども、Auerbachという、この分野では第一人者の学者がおりますけれども、彼が提案しましたのが、リトルスペクティブ・キャピタルゲイン・タックスというものでございますけれども、売却益というのは、結局、売却額だけではなくて、取得価格がわからなければいけないと、それは結構大変だと、そうだとすると、売却額にある税率をかけて納税してもらうという方法はないものかということで分析しましたのが、ちょっとテクニカルになりますけれども、そこにあるような数式で示される税率でございます。
この税率で課税を行うと保有期間について中立的であることがわかっております。ただし、結局、このやり方が優れているんですけれども、問題点としては、売却額にかけるものですから、もうかっていても、もうかっていなくても、一律の税負担ということになるので、先ほどの事後の公平性から問題視される可能性がございます。
同様ですが、中立ではない方式としては、実は日本で行われておりました、みなし利益方式の課税がございます。源泉分離の方法でございますけれども、これも実は納税実現時で、しかも売却額にみなし利益率、日本の場合ですと5%かけて、そこに税率の20%をかけて、結局、売却額1%を支払いなさいという形でございます。
これは、実現時課税というメリットがあるわけですけれども、ロックイン効果の問題の解決にはなりません。あと、日本でもさんざん批判されたのは、事後的に見て公平ではないじゃないかということで批判をされております。
後は、オランダにボックスシステムというのがございまして、これは資産課税に対して一定の税率を課税するというやり方がございます。
これも実現時課税ではないので、納税に困難が生じるおそれとか、あるいは公開市場がない場合は評価をどうするんだとか、やはり公平性の問題はあるんではないかということであります。
この問題を考えるときに、非常に重要なのは、イタリアのキャピタルゲイン課税改革でございまして、1998年に行われたんですが、保有期間に中立したキャピタルゲイン課税をしようということになりまして、一定の特定口座に入っているものにつきましては、発生時課税、残りについては一種のVickreyタックス、イコライザーという調整方法だったんですけれども、それでやるということになりました。
これは、理論的には優れたものというふうに考えられるんですが、ここにキャピタルゲインの問題の難しさが出てくるんですが、どうなったかといいますと、まず、いろんな業界団体とかがいろいろ反対しまして、導入延期になりました。やっと導入されたと思いましたら、これは不公平な税であるということで、違憲の判断が示されてしまって、いきなり執行停止になりました。その後、選挙による新しくできたベルスコーニ政権によって廃止されてしまう。何でこうなってしまったかというと、やはりわかりにくさ、事後の公平性の問題ということが指摘されております。
なかなか保有期間に中立な税制が難しいということになりますと、どうなるんだということなんですけれども、時間に対して非中立性の金融税制の下ですと、実は逆に先ほどの実効税率の問題がありまして、これを利用して租税回避が行われるということになります。
15ページでございますけれども、結局、キャピタルゲインは先送りすれば、幾らでも実効税率が下げられますので、できるだけ実現を先送りする。
逆にロスの方は早目に実現した方がいいということがございまして、このオペレーションをやりますと、実効税率を非常に抑えることが可能になります。
更には、純粋な租税回避として同じ株式を片方で保有して、片方で空売りをするということをしますと、保有して片方で空売りしていますので、全くリスクを負っていないわけでございますけれども、株価がどうなろうが、必ずどちらかで得をして、どちらかで損をするという形になります。
損をした方は即座に実現してしまって、得をした方はそのまま持ち続けるということをやると、完全に租税を回避するということができます。これは、シューティング・アゲインスト・ザ・ボックスと言われている有名な租税回避の方法でございまして、化粧品のEstee Lauderというのがありますけれども、あそこの一族が租税回避を行って、有名になったやり方でございます。
同じことが逆から言いますと、課税のタイミングを選べるということは、一種のオプションでございますので、もともとキャピタルゲインにはオプションが含まれているというふうに考えられまして、そのオプションの部分についても本当は課税しなければいけないのに課税していないという意味で、実効税率が低くなっているということになります。
実際にそういう理論的な租税回避がどれだけ行われているかの研究もございますけれども、昔は必ずしも多くなかったという見方もあったんですけれども、最近では、高所得者について大分増えてきたようでございます。
そうすると、仮に時間を通じた中立性を確保しないと、これはどうしても損益通算を制限しないといけないということになります。ちょうど、内閣府が主宰したフォーラムでAuerbachが発言しておりますけれども、キャピタルゲイン課税について損失控除の対象を拡大しようという議論だけでは、抜本的な改革のチャンスを逃してしまう。
実現益に対する課税を実施した場合も、無制限の控除を認めるべきではないというのは、そういう問題意識でございます。
その制限の仕方としては、具体的に考えられますのは、3つの方法でございまして、1つは、損益通算の対象となる所得の種類を制限する。日本の場合ですと、株式の損は株式の譲渡益と相殺してくださいというのがございました。
あるいはアメリカのように、損益通算の額に上限を設ける。ただし、上限を超えた分は来年以降使っていいというやり方がございます。
もう一つスウェーデンの場合ですけれども、損失の一定割合、スウェーデンの場合ですと7割でございますが、このものだけ使っていいよというやり方がございます。
ただし、今度は損益通算に制限をしますと、リスク・テイキングが抑制される可能性が出てきます。
キャピタルゲイン課税は、実は得をすると、国も一部分得をする。損をすると国も一部分、税収が減るという形で損をするという意味で、リスクをシェアするということになっておりまして、そうだとすると、実はキャピタルゲインが存在することは、リスク・テイキングを促進するということが、DomerとMusgraveが、戦時中でございますが、1944年の論文でよく知られております。ただ、損益通算に制限があると、それが抑制される可能性があるということになりますので、そこでトレードオフを考えていく必要があるということです。
あと、リスク・テイキングの関係では、ベンチャー・キャピタルの話がどうしても出てくるんですが、これもよく知られている実証研究がございまして、資金供給の投資側については、余り影響はないだろうということが知られています。これは、個人よりも、むしろ年金基金とか、そういうところが、実は投資家として重要なものですから、余り影響がないだろうと言われています。
18ページですが、逆に資金を需要する起業家については、起業を促進する可能性があるだろう。ですから、日本のエンゼル税制みたいなものがある程度影響を及ぼす可能性がある。
ただし、ベンチャーのために、キャピタルゲイン課税全体の税率を下げろとか、損益通算を広げろという話は非効率だろう。なぜかというと、ベンチャー絡みのキャピタルゲインというのは、やはりごく一部でございまして、Poterbaの言葉だと、ディズニーワールドに、ディス・イズ・スモール・ワールドというのがありますけれども、スモール・ワールド・オブ・ベンチャー・キャピタルというふうに言っておりまして、非効率、英語で言うと、ブラントなやり方だというふうに言われています。
あとは、キャピタルゲインを優遇し過ぎますと、むしろ健全な投資ではなくて、バブルを促進してしまう可能性があると考えられます。
時間を使っておりますので急ぎますが、飛ばしまして、20ページ。最後に「第3章 現役世代の株式投資の促進」をどうしたらいいかということでございます。
先ほど説明しましたように、アメリカではIRA、確定拠出年金の拡大で株式保有が増えてきました。では、日本に拡充すればいいじゃないかという話になるかもしれませんけれども、そう単純ではない部分がございます。
実は税制のことだけ考えますと、何で401kの中で株式をたくさん持つのか説明できないというのがございます。
というのは、株の方が一般には軽く課税されておりまして、預金債券の方が重く課税されている。そうすると、免税のビークルの中には、もともと重く課税されているものを入れた方が得なわけでございまして、そうだとすると、投資家は401kの中では預金とか債券をたくさん持とうとするはずないわけでございます。それがそうなっていないということなので、税制面だけでは、実は説明ができないということが知られております。アセット・アロケーション・パズルというふうに言われています。
実は、特に401kの重要な特徴として、個人が自分で資産運用を始めるということになりますので、やはり素人さんが勝手に始めて危ないということで、ちゃんとした投資教育をしろということになっております。
この投資教育が、実は株式投資を増加させているんではないかということが指摘されています。普通の投資家の方は分散投資なんていうことは知らないわけでございまして、ここで学んだ知識を401kの中、あるいはその外側でも使っているのではないかという指摘がございます。
日本の場合はどうかということでございますけれども、次のページにまいりますが、日本も確定拠出年金に入っておりまして、ここで事業主に投資教育の義務ではなくて、残念ながら努力義務が存在しております。その中で分散投資等も教えることになっております。
実際の資産配分、これもなかなかデータがないんですけれども、ある調査を見ますと、例えば元本確保型が45%、投資信託、債券も入ってしまっていますけれども、43ということで、普通よりは恐らくリスク投資が多い形になっているだろうということであります。
投資教育の効果についてもアンケートがございますけれども、一応、調査対象の4割の方が投資や運用の知識が高まったというふうに言っております。
ただ、これはアメリカでも指摘があるんですけれども、よくわかったというのと、実際にそうするかというのは別の問題だという指摘も別途ございます。
更に、実はアメリカで研究が進んでおりますのは、行動ファイナンス、行動経済学という言葉を聞かれた方も多いかと思います。この観点からの研究が非常に進んでおりまして、実はデフォルトの設定が非常に重要であるということが知られてきております。Madrian and Shea(2001)という論文がありまして、その内容は、次の22ページでございます。
401kプランはあるんですけれども、途中までは、何も運営の指図をしなかった人については、自動的に加入することもないし、資産構成についてもデフォルトはないという制度があったんですが、一番上の表の一番右側に「NEW」とありますけれども、この人たちについては、勿論断わることはできるんですけれども、何も言わないと、401kに自動的に加入になってしまう。そのときには、3%の拠出金、保険料である。そして、資産も何も言わないとマネー・マーケット・ファンドに投資しますよという新しい制度になりました。
その結果、何が起こったかというのは、少し見づらくて恐縮なんですけれども、その下の図でございます。コントリビューション・レート、拠出率でございますが、これはデフォルトがあるとはいえ、自らのリスクの選好に応じて、いろいろ変えてもいいはずなんですが、左側の黒い棒がウィンドー、右側はニューなわけですけれども、結局、デフォルトのない人たちの中には、63%も0%になってしまった人たちがいるんですが、ところがデフォルトが3%になると、いきなり65%の人が3%を選ぶことになる。
同じく資産構成もオールド、ウィンドーを見ていただきますと、見づらくて恐縮ですが、何もデフォルトがないと70%以上を株式に突っ込んでいたんですが、一番右側のニューの人たちは、いきなり80%以上をマネーマーケットに投資をしてしまう。
23ページでございますが、そうしますと、結局、デフォルトでほとんど決まっているのではないかということになってしまうわけでございます。これは、実は伝統的な経済理論では当然説明できない事態でございまして、人間心理まで含めた理論というのが重要になってきているわけでございます。
日本の確定拠出年金についても、実は運用指図をしない人たちが結構いるらしいという話がございます。一般には、運用指図がない場合には、例えば元本確保型の銀行預金とかに自動的になることになっておりまして、恐らくそれが元本確保型中心の資産運用につながっているんだろうと思われます。
アメリカでは、実はそういった知見を既に盛り込んで税制が提案されています。最近のプレジデント・アドバイザリーパネルの提案では、Auto Save プランというのが提案されています。これは自動的に加入してしまったり、自動的に保険料率が引き上げられてしまったり、自動的に分散投資して、自動的に期限が切れても、次の貯蓄プランに入ってしまうというようなものなんですけれども、勿論、ほかのプランも加入者が希望する場合は選べるわけなんですけれども、デフォルトがこういうふうに設定されている。
そうすると、これまでの研究からすると、恐らくアメリカ人もこのプランで自動的に貯蓄してしまったり、分散投資をしてしまったりするという画期的な提案でございます。そういったものに税制上の優遇措置を付与するという提案だろうと思われます。
ただ、そういった意味で、恐らく日本についても、明日から株式投資の割合を増やせということであれば、デフォルト設定で分散投資ということをすれば、恐らく確実に株式投資の量を増やせるとは思いますが、劇薬でございまして、例えば株式であれば、知らないで投資されていたものが損を出してしまったというときに大問題に当然なるというふうに思われますので、そこは慎重な議論が必要だろうと思われます。
一番最後のまとめだけざっと申し上げますと、結局、本日申し上げましたのは、まず、ミクロベースで見ますと、日本の資産構成というのは、高齢者に偏り過ぎておりまして、しかも高齢者のリスク資産保有が恐らく多過ぎるであろうということ。そうすると、一般的に株式投資のインセンティブを増やすのではなくて、金融税制としては中立な税制を目指す。ただし、現役世代に確定拠出年金等でリスク資産保有を促進していくということが望ましいのではなかろうかということ。
中立的な金融税制としては、法人段階、個人段階を通じた中立性、それから時間を通じた中立性が望まれる。
その意味では、何ら二重課税調整を行わずに、個人段階のみで一律課税をしても、中立な税制ではないということになります。
時間を通じる中立税制確保のためには、先ほどいろいろ述べましたように、幾つも課税方法があるんですけれども、完全な方法がございません。その意味では、メリット、デメリットの評価の上、適切な課税方法を検討する必要がございます。
中立的な税制を、やはり執行上の問題、イタリアで起こったような問題を考えてやらないということの場合には、実効税率の違いを利用した租税回避取引が行われます。シューティング・アゲインスト・ザ・ボックスの話ですけれども、そうすると、株式譲渡損失の損益通算には何らかの制限を課す必要がございます。
その場合には、リスク・テイキングが抑制される可能性がございますので、そこは租税の方をよく考える必要があるということでございます。
そして、現役世代の株式投資の促進でございますけれども、単純に税制上の優遇措置ということではなくて、投資教育の拡充を図った場合には、是正上の優遇措置を設けるとか、そういったきめ細やかな措置が必要かと思います。
長い目で見ますと、高度経済学のいろんな知見を生かした分析というのも必要になってくるというふうに考えます。
ちょっと時間をオーバーしてしまって申し訳ないんですけれども、以上です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。金融課税についての包括的な話と、それから最後に手際よく議論をまとめていただきましたので、時間はちょっと押しておりますけれども、20分ぐらい議論したいと思います。
増渕さん、いかがですか。
〇増渕委員
こういう話なのかなという感じもしますけれども、それでは、これを実際に、今、現にある日本の税制を変えていこうというときに、どういうふうに利用するかということになると、なかなか一筋縄ではいかないなという感想を持ちました。
特に、私が一番関心がありますのは、配当の二重課税をどう調整するかというところなので、ドイツの新しい税制でも結局、理屈をそのまま貫いてはいないということ。
そうしますと、やはり配当については、言葉として優遇というのは使いたくないですけれども、何らかの調整は必要なのではないかと思います。そういう観点をもって議論をしていく必要があるんではないかと思います。それが1点です。
もう一点は、金融所得課税の話というのは、必ず一種の番号制度という話が絡んでくるはずなんですけれども、今の國枝さんの話は、そういう執行上の問題は捨象した話として議論されているんだろうと思いますが、番号制度ということは、今、年金に絡んで1つの具体的な提案が出てくるような気運もありますけれども、それと納税者番号制度という関係ということについて大いに気にしながらといいますか、強い関心を持って議論する必要があるんではないか。そういうことを感じました。
〇田近部会長
いずれも重要な点なので、ここでお答えいただいた方がいい、あるいは議論した方がいいと思いますので、國枝さんの方に配当二重課税の調整をもう少し現実的にどう考えるかという御指摘と、それから、金融課税をするときに、執行、納税者番号制度を含めてどう考えるか、手短にお願いします。
〇國枝専門委員
大変重要な点でございまして、なかなか難しいんでございますけれども、まず、配当の二重課税調整の話でございます。理論的には私が述べましたように、二重課税調整が、まず必要だろうと思います。
ただ、昔の議論ですと、そうすると、すぐインピテーションが必要だという話になったんですが、それはなかなかグローバル化が進んだ中、実際にそこまで完全にやるのはなかなか難しいという感じになってきております。
ヨーロッパの諸国もインピテーション方式、完全なものをやるという国は減りつつあるという状況がございます。
そうだとすると、部分的な調整方法というのが考えられまして、その方法としては、1つは日本でも減税をやっておりますように、部分的にはありますけれども、配当税額控除をやるというやり方が1つだと思います。
もう一つが、御指摘がありましたように、今のは足元のドイツあるいはアメリカでございますけれども、配当に対する税率自体を軽くするというやり方でございます。
もう一つは、今回のドイツの税制改革でございますけれども、先ほども少し申し上げましたけれども、仮に法人段階のところの支払い利子の話等も、きちんと整理するのであれば、実は配当だけ取り上げて二重課税調整をしなくてもいいということになりますので、ドイツはその方向に少し向かったんですけれども、現実には抵抗があってだめになりましたという状況がございます。ドイツの場合には、昔はそもそもキャピタルゲインに課税すらしなかった国でございますので、それでも進歩なのかもしれませんけれども、そういった意味ではドイツの事例というのは、日本から見て目標というよりかは、ここにも少し書いたんですけれども、この話の難しさを示している事例なのかなというふうに思っております。
部分調整のやり方としてですね。
もう一つの納税者番号制度の方ですけれども、これは非常に難しい問題でございます。年金の今のさまざまな問題を見まして、番号を付すことを付番といいますけれども、付番の難しさ、それから番号管理の難しさというのを非常に感じております。昔の議論ですと、基礎年金番号を使えば、国民にメリットがあるので納得してくれるという話もあるんですけれども、やはり今回のことでもわかりましたように、事務的体制が本当に回るのかということについて、納税者番号については考える必要があると思います。
そういった意味では、理論的検討というよりかは、むしろ実務的に本当に何ができるのかということが、特にこういう現状でございますので、一段と重要になってくると思いますし、そういった検討を是非お願いしたいと思います。
〇田近部会長
ほかにどうでしょうか。
では、質問はまた考えていただくとして、1つ単純というか全体的な質問なんですけれども、今日の議論を伺っていて、いろいろな問題あるいはいろんな考え方があるということはわかったんですけれども、いわゆる金融所得一体課税というところとの関連では、どういうインプリケーションなんですか。
〇國枝専門委員
金融所得一体課税が個人段階で実現時課税をすれば中立性が達成できるという議論だとすると、それは今お話ししたとおり、理論的には正しくないということかと思います。ですから、やはり配当につきましては、二重課税調整の措置を考えなければいけない部分がありますし、あと、キャピタルゲインにつきましては、先ほど言いましたように、保有期間について中立性が望ましいんですけれども、イタリアの例のように、さはさりながら難しい問題があるということでございまして、ラビリンスではございませんけれども、その辺のトレードオフを考えていく必要があるだろうということでございます。
〇田近部会長
では、辻山さん、あと吉村さん、続けてお願いします。
〇辻山特別委員
今の金融所得一体課税の問題で、前にこちらで議論したときに、配当の二重課税の問題をどう考えるかというのが、多分私の聞き間違いでなければ、配当についてもいろいろあって、いわゆる法人個人一体という考え方が必ずしも該当しないケースというのがほとんどなんではないか。ですから、配当課税についても一般のそういった問題と切り離して議論する余地があるんではないかということを、多分事務局の方からそういうお答えを聞いたような記憶があるんです。
ですから、二重課税の問題というのは、あくまでも法人、個人一体というレベル、その視点を入れたときに必要だけれども、そのときにはそのとおりなのかなと思ったんですけれども、やはり今日の御議論を伺っておりますと、今日の議論の中では利子の損金不算入という話が出てきましたけれども、一方で金融所得一体課税の問題と反面で考えると、配当の損金算入というのもあり得るのかなと、そのところについて教えていただきたいと思います。
事務局の方のどなたかから指摘を受けて、そのときには一理あるなと考えたんですけれどもね。
〇田近部会長
一理というのは、法人と個人と両方考えるときには配当二重課税を調整しなければいけない。
〇辻山特別委員
そういう指摘をしたときに、現代では必ずしも法人、個人一体という考えが、というか配当に2種類あるんだと、法人、個人一体と考える場合の配当と切り離してとらえられる場合もあるんではないかという回答を、聞き間違いでなければどなたかから御説明を受けたような気がしたんです。
〇田近部会長
基本的に大きな質問は、配当支払い分を企業所得から引くことはどうかという御質問ですね。
吉村さん、どうぞ。
〇吉村専門委員
私も同じく法人税の調整なんですけれども、今回、免責に触れられていなかったところで、先ほどヨーロッパの話で少し言及があったんですが、最近のドイツや、またアメリカも一部の配当についてはそうですけれども、外国法人からの配当についても軽減税率を適用するという形になっておりますが、国際的側面についてはどのように考えたらよろしいのか教えていただけますでしょうか。
〇國枝専門委員
初めの御質問の事務局の説明の方は、事務局の方にお聞きいただければと思います。
では、配当を法人段階で損金算入を認めたらどうかという議論ですけれども、確かにそれをやると法人段階で取扱いが一律になるんですが、問題は当然ながら、1つは税収への影響でございまして、これは非常に大きな税収減につながるだろうというふうに考えられます。
もう一つは、今、非常にグローバル化が進んでおりまして、実は大企業でも相当部分が、5割以上あるいは5割近くが外国人株主になっています。これを法人段階で配当も課税しないということになると、実は吉村先生のお話ともつながってくるんですけれども、外国人株主の方にプレゼントを贈ってしまうことになるということをどう考えるかということがありまして、私個人としては、法人段階で統一した取扱いをするのであれば、むしろ利子の方の損金算入の否認という方が望ましいのかなとは思っています。勿論、議論のあるところだろうと思います。
吉村先生の方から話がありました外国人株主の配当の取扱いの話ですが、これは今も申し上げましたように、実は日本の上場企業を見ますと、非常に外国人株主が増えてきておりまして、大きな問題かと思います。
とはいえ、非常に大きな問題過ぎて、与えられた時間ではとてもしゃべれそうにございませんので、また、国際的な課税の話についてお話しする機会もあるかと思いますので、そのときにお話しさせていただければと思います。
〇田近部会長
では、忘れずに質問していただくということにして、辻山さんの最初の質問の方は、後でまた、もし答えていただけるのならあれですけれども、いただけますか。
〇佐々木審議官
昨年レポートを書いていただくときに御説明をしましたのは、金融所得の一体課税の議論の1つの目的として、金融商品間の選択の中立性ということがございまして、投資家の目から見ますと、まさに配当であろうと、利子であろうと同じ税率であるというのが税制上中立的であろうということが1点。
それから、配当について申告をして総合課税にしてもらうと、そこで配当控除という、先ほどの制度がございますので、投資家にとっては両方選択できるという制度もありますから、その配当の二重課税の問題、投資家の目から見たら、特に問題はないんではないかという説明をしたかと思います。
〇田近部会長
ただ、配当控除が法人段階の税は全額取り戻せるわけではないとか、いろいろそこはありますね。ほかにございますか。
では、井上さん、ほかにお一人ぐらいあればお願いします。
〇井上特別委員
10ページの最近のドイツにおける税制改革案のところなんですけれども、法人段階における支払い利子の損金算入の宣言。これはあくまでも子会社から親会社の借入を通じた租税回避と書いてあるんですが、日本の場合、中小企業の場合は、非常に借入に頼っているわけです。資本金というのが過少資本である。もし、日本の場合で支払い利子の損金算入の制限を付けられたときには、大変な問題が起こるんではないかと思っておりますので、その辺をちょっとお聞かせいただければと思います。
〇國枝専門委員
その点でございますけれども、ドイツの場合は実際に、確かに子会社から、もともと過少資本税制というのがありまして、一般的には親会社から子会社への借入で、それで海外子会社の税金を払わないのはけしからぬという過少資本税制の話があったんですけれども、それが実は親会社への借入という状況が生まれているということで、私はこの話を聞きましたときに、ついにそこまで来たのかというふうに思いました。
そういう意味では、負債の支払い利子の取扱いと株式からの所得の取扱いが法人の中で違うということが、まさに非常に大きな問題になってきているというのが一方であるんだと思います。
他方、今、御指摘もありましたけれども、実はドイツでもそうだったんですけれども、政府が2分の1損金を認めないよという話をしたときに、何だそれはという話が経営者から出てきまして、まずは今までの常識ですと、利子というのは当然コストだろうと、何でコストが引けないんだという話でございますし、あとは確かに中小企業の方々にとっては借入金というのは最も重要な資金源であるということがありまして、それをどう考えるのかという話もございます。
中小企業の問題につきましては、実は過去のいろんな提案の中で配慮のしようがあるんではないかというような話もありますので、具体になってくれば、またいろいろ考えようがあるんだと思いますけれども、ただ、御指摘のとおり難しい問題であるのはたしかでございます。
〇田近部会長
よろしいですか。ほかにまだ1人ぐらい。では、小西さん、お願いします。一応これで質問を区切りにさせてください。
〇小西専門委員
國枝先生に専門部会のときにも申し上げたんですが、一応、二重課税の調整を今日は当然するんだというところから、その前提で議論をされたんですが、といいながらインピテーション方式のような厳密なことをやっていくという流れでは全然ないという御説明だったんですけれども、私の理解では、政府税調のずっと昔からの議論からいくと、昭和30年代は結構擬制説にこだわって調整するんだということで、かなり頑張ってきたようなところがあると思うんですが、昭和の終わり、1980年代の後半ぐらいから実在説のようなものも、何か擬制説にこだわらないというんですか、そういうことを議論していても仕方がないとだんだん変わってきているところがあって、基本的には、その流れの中に今もあるんではないかと理解しているんです。
ですから、先ほど辻山先生がおっしゃった件ですけれども、当然擬制説だから調整するんだと、現実的に難しい問題もありますということで、今日はそういう御説明でそれ自体は全然おかしいとは思わないんですけれども、そもそも調整すべきか、すべきではないかということについては議論しても仕方がないんだというところがずっと税調としてはあって、その中で少なくとも中立性、税金が資産選択に大変大きな影響を与えるのはよろしくない中で、どの範囲の中で中立性を議論するかというのが問題になって、当面金融資産の中で、金融商品の中だけでの中立性というところだけはしっかりやりましょうと、割と中立性をどこの枠組みでやるかということを限定的に考えるというような流れできているんではないかと思うんです。
今日の國枝先生の御議論も、そういう感じの中で受け止めていくと、非常にいろんな示唆が与えられると思うんです。
ですから、結局、勤労所得と金融所得を所得税上同じ税率でやりますというような議論は、少なくとも、そんな議論はとてもやらなければならないという雰囲気ではないんではないかと思います。現実的に金融所得を課税しようと思うと、金融所得は金融所得の中だけで、金融商品の選択に影響を及ぼさない程度に、現実的に取れる範囲できちんと取りましょうという議論ではないかと思います。
〇國枝専門委員
御指摘でございますけれども、法人実在説、擬制説の話は、私より、この次のテーマが法人税の転嫁と帰着でございますので、その中でお話があるんだろうと思いますけれども、ただ、個人、法人の段階でつなげて考える必要性が一方で高まってきているかなと思いますのは、今、さまざまな事業体ができておりまして、ペーパーカンパニーみたいなものも含めて出てきている。
そうなってくると、結局、実際に事業をやってもうけているところと、それから最終的な個人的な投資家の間のいろんなビークルが法人だけではなくて、いろいろできてきているわけです。
そうすると、やはり一気通貫で考えていかないと、なかなか中立性というのが考えにくくなっているし、考えないと、先ほどの話ではないけれども、頭のいいファンドあるいは個人投資家がいろいろな租税回避を行うというような状況になってきているんではないかと思っております。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。この議論をまた土台にして、あるいは参考にして金融課税を考えていければと思います。
石井局長、どうぞ。
〇石井主税局長
ちょっと今までの経緯の話だけ、私なりに理解しているところを申し上げますと、実は配当については、今までずっと総合課税の枠内で日本税制は来たわけです。その総合課税をやるときには、それは擬制説によるか、実在説によるか、そこは別にしても調整が必要であると、それはインピュテーションがいいのか、税額控除方式がいいのか、いろんな歴史的な日本の税制の変遷を経ておりますけれども、そこは何らかの形で調整が必要であるということで、今、配当税額控除というものがあり、総合課税の中では、そういう形で法人税と所得課税の調整をしましょうということでずっと来ていたわけです。
他方で、さっき審議官が申しましたように、昨今の流れからすると、投資家、特に個人投資家から見ると、配当であれ、利子であれ、あるいは株式投信であれ、いわゆる金融商品は同じような投資対象として受け取られている側面が強いんではないか。
したがって、そういうものについては、総合課税から、むしろ離して分離課税で統一して、しかも統一した20%の一律の税率をかけることによって一体化を進めていこうじゃないかということから、配当についても源泉徴収はしますけれども、申告は不要にして、実質的な意味での分離課税方式を導入したという流れだと思うんです。
ですから、そのときには勿論、法人段階の課税等の調整問題というものがあるので、そこはさっき審議官が言いましたように、選択性にして、総合課税を選んで配当税額控除を取る道もあれば、分離課税については分離課税の利子と同じように、20%なり、今は軽減税率で10%になっていますけれども、そういう金融所得をグループとして、総合課税の体系から離れた分離課税の中で同じように扱うことが必要なんではないかという議論が、今まで税調の中ではあって、それにのっとった税制というものを進めてきた経緯があるんではないかと私は理解します。
〇田近部会長
わかります。それも勿論踏まえて、また私もそう思いますけれども、それをもう一回ここで議論するとあれなので、石井局長の御説明は承って、それも踏まえて議論を続けていきたいと思います。
2番目は法人税の転嫁と帰着ということで、何回もこの場でもこの話が出てきました。いろんなコンテクストで出てきたと思いますけれども、社会保険料で出てきたりしました。
これについて、土居さんにお話しいただきますけれども、その前に、井堀さん、一言お願いします。
〇井堀委員
私が付け加えることはないんですが、この話は、調査分析部会の最初のころに、加藤専門委員の方で法人税の経済効果のときの最初の話で、法人税をかけるときにどういうメリット、デメリットが経済全体に及ぶかという話が出たと思いますけれども、そこの重要な点が転嫁と帰着ですので、その点を中心に土居委員に、今までのサーベイと、それに基づく政策的な意味について議論していただきたいと思います。
〇田近部会長
では、20分程度でお願いします。
〇土居専門委員
土居でございます。今日は、こういう形で皆さんの前でお話しさせていただく機会をいただきましてありがとうございます。
お手元に調査7-2「法人税の転嫁と帰着について」というものがございますけれども、これに沿いながらお話をさせていただきたいと思います。
タイトルは、難しそうなタイトルですが、要はお開きいただいて、2ページ目の冒頭にございますように、法人税は結局だれが負担していることになっているのかということについて、突き詰めて議論をするということであります。
特に、昨年の税調答申来、法人税の減税という話になると、法人ばかり優遇されているのではないかというような議論が世の中にあるわけですけれども、ただ、それは本当に法人なるものが税金を負担しているということなのかどうなのかということを、より厳密に議論する必要があるのではないかと思っております。
結論から申しますと、法人なる存在というものが税金を負担しているわけではなくて、やはり人間、ヒューマンビーイングが負担をしているという観点に立つべきではないか。やはり従業員とか株主とか債権者とか顧客、消費者が何らかの形で陰に陽に法人税の負担をしているということだと理解する方がいいのではないか。
ただ、その負担の度合いがどうなのかということは厳密に議論をする必要があるだろうと思います。
ちなみに、結論から先に申し上げますと、2ページの中で、経済学の中で実体経済のデータを用いながら法人税の負担がどういうところに及んでいるかという議論がありまして、例えばアメリカでは、最近少し有名になった論文によりますと、法人税の負担というのは、70%は労働の所得ないしは労働者に及んでいるというような結論を導いているものもあったりします。
それから、日本では、必ずしも学術的な研究で数字が出ているわけではありませんけれども、アンケート調査などによりますと、日本の企業は、法人税の負担を賃金や雇用の調整で対応するという傾向が見られるというようなところからしますと、決して法人税は、法人という存在が負担しているというわけではなくて、いろいろな個人に帰着されているということだと言えるのではないかと思います。
その観点から、法人税と消費税をどういうふうに比較すればよいかという視点を最後に申し上げたいと思います。
3ページですけれども、先ほど少し議論がありましたけれども、この法人税はだれが負担をしているのかということを議論する上で、経済学の立場では、法人擬制説に立って議論するということがお作法というようなところになっております。
やはり、結局、経済的に負担することのできる存在というのは、生身の人間、ヒューマンビーイングであるというわけでありまして、法律上の人格を持つ法人ということではないというわけであります。
法人のステークホルダーの集まりである法人というものが、どういう形で法人税の負担を分け合うということになっているのかということを、これから議論をしていきたいと思います。
4ページです。勿論、これから我が国が法人税の増税を企画しているという話ではありませんけれども、負担をだれがしているかということを議論する上で理解しやすいかなと思いまして、仮想的に法人税の増税という形での負担が、どういうルートを通じてだれに及ぶかということを図式化したものが4ページにございます。
これはいろいろルートがあるわけですけれども、割と直接的なもので言えば、法人税を課税した後の企業所得が減少することになり、それによって株主に対する配当が減少するということだったり、更には株価に将来の企業のキャッシュフローがそれだけ減少するというふうにとらえられて株価が下がるとか、そういうようなことが短期的には及ぶかもしれない。
当然株主というのは、一消費者であったりする場合がありますから、当然その影響として家計の配当所得が減るということで、家計所得が直接的に減るという可能性もある。
更には、もう少し中長期的な視点から見ますと、設備投資が企業のキャッシュフローが減ることによって減少するかもしれない。そうなると、経済全体の潜在成長率が低下するということを通じて、究極的には家計の所得の減少ということになるかもしれない。
更には、ほかにも製品価格を上昇させるという形で、法人税負担を消費者に転嫁するという形もあるかもしれない。更には、雇っている従業員に対する賃金を法人税の増税の影響を受けて下げるということがひょっとしたらあるかもしれないというようなさまざまなルートが考えられるということであります。
これは、既に調査分析部会で加藤委員が議論された法人税の経済効果の話と同じことではあるんですけれども、そのルートを今度はだれがその税負担をしているかという観点からたどっていくというのが今日のメインテーマであります。
4ページの図をもう少し経済モデルに即しながらとりまとめたものが5ページでありますけれども、これからお話ししていく中でだれが負担しているかという、その人物をどういう形で対象者を絞るかということで、この図を書いているわけです。
先ほどの議論を敷衍しますと、労働者が負担していることになるとか、債権者が負担しているとか、株主が負担しているとか、消費者が負担しているというような形になるわけでありますけれども、そこは結局日本経済全体をマクロで考えますと、労働者は翻って消費者になる。債権者や株主も本源的な債権者ないしは株主というのは、個人ということになりますから、そうすると、結局は消費者という形で企業が売っているものを買うということになるということですので、それぞれ分解して、4つのプレーヤーというようなことで表わしてもいいんですけれども、多少簡素化するために、労働所得と資本所得を受け取っている個人というふうなとりまとめ方で、だれが負担しているかということを議論するということが経済学の文脈ではよく用いられております。
ですから、究極的には法人税の負担は、労働を供給する人、ないしは労働者が負担するということなのか、それとも資本を提供する債権者とか株主という立場であるかと思いますけれども、資本を持っている人が資本所得を受け取る、その過程の中で間接的に法人税の負担を強いられるということになっているのかという労働所得と資本所得というところにターゲットを絞って負担というものを見ていくということにしたいと思います。
当然ながら消費者が負担しているという部分があるわけですけれども、それは分解する中では、労働と資本というこの2つの要素に集約していくという形で議論を進めていくということにしております。
7ページですけれども、先ほど来申し上げていることの繰り返しでありますけれども、そこで消費者というものは、先ほど申し上げたように労働者とか資本保有者という形で集約するということでありますけれども、法人税の負担というのは、要は需要や供給の価格弾力性、もう少し平たく言えば、どれだけ値段が上がったときに、自分の需要や供給を減らしたり、増やしたりするかというフレキシビリティリーに依存しているということであります。
もう一つ重要な視点は、法人税の負担の転嫁というのは、現在だけのことではなくて、ひょっとすると、来年以降の将来にも転嫁が及ぶという可能性というのは、実は考えられるということは視野に入れておく必要があるだろう。
8ページに少し図式化しておりますけれども、今年の法人税は、ひょっとすると来年の賃金の引き下げという形で負担が及ぶかもしれない。ひょっとしたら来年の配当の減少ということで、今年の法人税の負担が及ぶかもしれないということは十分に考えられる話だということであります。
そこで、いろいろな数字を使いまして、だれが負担しているのか、ないしはだれが負担することになるのかということについて議論を進めていきたいと思います。
9ページですけれども、日本のデータというのは、なかなか学術的に分析したデータがまだございませんで、アンケート調査というものに頼る形になります。アンケート調査をしたものが、井堀先生が座長を務められた経済社会の持続的発展のための企業税制改革に関する研究会の報告書の中で、その数字が示されております。調査概要は9ページに書いてあるとおりです。
10ページ、法人税がもし負担増となった場合に、企業はどう対応しますかということをアンケートで直接聞いております。
そのときには、これは質問の仕方が先に社会保険料負担の話をしたものですから、こういうことになっているんですが、基本的には社会保険料負担の増大と同様の対応をするという企業が大半である。
それでは、社会保険料負担が増大したとき、ここでは法人税という話ですので、法人税負担の増大ということと擬して見るということに致したいと思いますけれども、11ページのところで負担増に対して、まず、最初に企業が対応するのは、どういう形で対応するかということですけれども、これは、まず、ぎりぎりまで我慢すると半分近い企業がそう答えた。次いで多かったのは、賃金・雇用調整ということで27.2%という答えであったわけです。
それでは、続いて中長期的に見てどう対応しますかという質問が12ページにございまして、12ページのアンケート結果によりますと、まず、一番多かったのは、賃金雇用調整で対応するというのが32.8%、ですから、短期的なところで11ページの回答、それから中長期的に見たところでの12ページの回答を見ますと、やはり賃金・雇用調整というところが、一番大きな要因として法人税負担の対応ということで考えられるというのが、今の日本の状況ではないかというふうに思われるわけであります。
勿論、価格の引上げとか、さまざまな方法も当然あり得るわけですけれども、一番回答として多かったところというのが賃金雇用調整というところであります。
更に、もう少し話を広げまして、法人税負担の増大が企業の競争力に対してどういう影響を与えるかということについてもアンケートで聞いておりまして、この結果を見ますと、8割弱の企業は法人税負担が企業の競争力に影響があると答えているという話があったりいたします。
15ページに、企業の立地選択に対して法人税がどの程度影響を与えるかということですけれども、いろいろ議論はありまして、真っ先に企業が立地選択をするときに、法人税のことから考え始めるということではないという議論もあるわけですけれども、真っ先に考えるか考えないかは別として、法人税負担というものが企業の立地選択に対して、何がしかの判断材料になり得るのかということですけれども、重要な判断材料となるという答え、それからある程度判断材料となると答えた企業というのは相当数、この15ページにあるような形でありまして、やはり立地選択にも法人税の影響がある。
これは裏を返すと、それだけ法人がそういう負担の判断として、そういうところに実際の法人税の負担を及ぼしているということだというふうに読み替えることもできるわけであります。
では法人が、例えば先ほど賃金や雇用の調整で対応するという答えがあったりいたしましたけれども、どのような形で法人は個人の生身の人間に法人税負担を転嫁するのかというところであります。
16ページです。これは、まず、考え方の整理ということですけれども、要は企業が法人税の負担を商品の価格に転嫁するというような形で価格を上げようとした場合に、もし、その商品の需要が余り減らないというようなマーケット、市場の状況であったとすると、これは企業の側からすると、そこには負担を転嫁しやすいということになって、究極的には消費者にその負担が及ぶということになる。
そうではない、もしちょっとでも価格を上げると、すぐに需要が減ってしまうというような市場環境にあると、それはなかなか価格を引き上げるということで対応するのは難しいということで、結局は負担は生産者、生産者というのは、ここでは従業員だとか、株主だとか、そちらの側で負担するということになるだろう、こういうことが予想されるわけであります。
更に、生産者側という話で、17ページですけれども、賃金を下げても従業員の労働供給が余り減らないというような労働状況にあるならば、これは賃金に転嫁しても余り雇用の問題で影響がないということになりますから、当然賃金を下げるということで企業は対応するという可能性が考えられる。
そういたしますと、法人税の負担というのは、労働者の方に及ぶということが考えられるわけであります。逆にそうではないということになりますと、なかなか賃金を下げにくいということになって、法人税の負担を労働者に負担してもらうということは難しい。労働者以外の人に何らかの形で負担してもらうということになるだろう。
ぎりぎりまで待つという話は、当座は内部留保なり配当なりを切り詰めるというようなこととも解釈できたりするわけですから、そういう場合、とりあえずは資本所得といいましょうか、配当なり、そういう形で株主や経営者が負担するということがあるかもしれないということであります。
18ページは、議論のバックグラウンドということで、こういうような議論は、実はきちんと理論的な裏づけがあって議論しているという証拠の程度です。
19ページに移りまして、こうした議論はアメリカのHarberger教授の議論が先駆的な研究として代表的に言われております。
ただ、この議論は既に学会の中でもいろいろ問題点があるということで指摘されておりまして、例えば先ほど申し上げたように、今年の法人税の負担というのは、今年だけで完結するかどうかはわからないということだとすると、将来の時点の問題を考える必要があるだろうということで言うと、実はHarbergerモデルは、そこまで分析対象としていなかったとか、あと国際取引は無視していいだとか、いろいろ実は今日的な企業環境を考えると、修正をして議論しなければいけないだろうということがあります。
そうした修正を加えた先行研究が幾つかありますので、簡単に御紹介させていただきたいと思います。
ここでは、あくまでも論点整理ということで、実際の経済がそうであるかどうかということは、若干後回しにいたしまして、論理的に考えられる帰結としてどういうことが起こり得るのかということを整理しております。
まず、当然のことながらグローバル化ということですので、開放経済、国際的に自由に貿易なり資金移動が起こるということを念頭に置いた経済での、法人税の負担がどういうところに及ぶのかという議論をしております。
20ページの例では、これは実際にそうかどうかは別として、ある仮想的な状況として、これは日本と考えていただいてもいいんですが、日本が小国、小国というのは注に書いてありますように、国際的な影響力が小さい国であって、資本の国際移動は完全に自由に規制なく行われるというような状況であると、仮に自国が法人税を重くかけるということになりますと、自国における資本の収益率が低下するという可能性になり、それでいて国際的な収益率には自国は影響力が小さいということですので、相変わらず国際的な収益率は変わらないということになると、自国だけ収益率が下がるということになり、国際的に自国から海外に流出してしまうということになる。
流出すると、それだけ生産の資本が足りなくなりますから、そうすると、賃金が下がるという形で、自国が日本だとするとですね、それに影響が及ぶ。
そうすると、結局、法人税の負担というのは、賃金の引き下げという形で及んでくるということになるという話であります。
結局、労働者が負担している。資本家は、結局資本を国際的に自由に移動できるので、その負担を被らないで済むということが、このケースでは起こったりします。
ただ、本当に日本が国際的に影響力のない小さな国なのかどうかというのは、また別問題で、実際の現実への対応というところで議論したいと思います。
更に、もう少し頭の体操を続けますけれども、21ページです。
商品の貿易は自由だけれども、資本の移動がほとんど行われない、それほど資本が自由に移動しないというようなケースだとして、ここで法人部門と非法人部門、端的に言いますと、製造業と農業、法人税が直接課税されない形で事業を営んでいる部門というのは非法人部門とここで呼んでおりますけれども、法人部門というのは、法人税が課税対象となる事業、そうすると、その事業でより資本集約的、要は労働者を少なくして、機械設備を多めに使うという形で生産しているというような状況だといたしますと、法人税が課税される部門で資本をより多く使っているという状況でありますと、自国内で法人税が課税されると、それだけ法人部門での資本の収益率が下がるということになりますから、資本が法人部門から撤退して、非法人部門に移動するということになる。
そうすると、法人部門の資本集約度が下がって、逆に非法人部門の資本集約度が上がるということになります。そうすると、結局両部門で資本の収益率は下がって、賃金が上がるという形になるので、結局資本収益的なところに法人税が重く課税されるということになると、法人税は主に資本の保有者が負担するということになります。
22ページは逆という話なので、労働集約的な、つまり労働者をより多く使うという産業が法人税を課税する対象としては多いということだとすると、法人税というのは、主に労働者に負担が及ぶということになります。
これは、小国ということを仮定したような状況ですが、我が国は大国である、国際的にも日本国内の経済取引が世界の価格や利子率に影響を及ぼし得るというような国であると認識しているということであれば、そのときにはどうなるかということは23ページにあります。
ここでの結論は、もし、我が国の資本が世界にある資本の総額のX%、例えば10%ということだとすると、全世界にある10%の資本を使って日本は生産をしているということだとしますと、結論から言えば、もし日本で法人税を課税すると、その負担は10%が日本の資本に負担が及び90%が日本の労働者に負担が及ぶというような状況になるという結論が導かれております。
その理論をベースにして、実は24ページですけれども、アメリカで実証分析をしたという結果があります。
Randolphさんは、アメリカ連邦議会のCBOでこの論文を書かれまして、マンキュー・ハーバード大学教授のブログでも有名になった論文だったりするんですけれども、先ほど冒頭に申し上げた結論というのは、実はこの論文の結論ということであります。
25ページの結論のところを見ていただきますと、これは先ほどの議論でアメリカが全世界にある資本の大体32.5%ぐらい、そういうデータがあるらしいんですが、それぐらいの資本を実際に使っているだろうということで、そのデータに基づいて分析した結果というのがあります。
その結果によると、30%のアメリカでの法人税の負担が、アメリカにおける資本に及んでいる。
それに対して、残りの額というのは、実は海外で外国、日本を含む外国で資本が使われているということなので、その資本に間接的に負担が及んでいるということになります。
アメリカの法人税の負担が、実は日本などの外国の資本にも間接的に影響が及んでいるという話であります。
勿論、30%ぐらいの資本にアメリカで負担を課しているということで、あと残りはというと、アメリカの国内の労働者に対して負担を課しているという話であります。
ですから、アメリカでは法人税の負担は70%が労働者に、それから30%は資本家に及んでいるというふうに議論をしたということであります。
ちなみにということで、経済学者は、この負担割合というのをどう見ているのかという主観であります。アンケートをした結果の論文というのがありまして、それを見ますと、大体アメリカも日本も経済学者の主観では40%ぐらいと思っている人が平均的なところというわけであります。ただ、日本での中位値を見ますと、30%ぐらいではないかと答えているという結果があります。
もう一つ最後に、実は今の議論というのは、企業金融の面では強い仮定を置いて分析しているということでありまして、実際の企業金融の現状を見ますと、本当にそうでいいのかという問題もあります。
実は、今まで議論した前提というのは、27ページにあるところでは、トラディショナル・ビューと言われている企業金融の状況を描写した理論で分析をしている。
ここでは、どういうことかというと、企業が、もし新たに1,000万円なりの資金調達をしたいと思ったときには、そのときには新株を発行して資金を調達する、そういう状況で企業は経営しているという認識で理論を構築している。
更には、もし、追加的に100万円なり1,000万円という利益が増えた場合に、追加的に増えた利益をどういうふうに処分するかというと、配当で処分するということだと、そういう企業の状況というのを念頭に置いて議論している。
そうすると、当然のことながら、できるだけ法人は法人減税をされると、それだけ企業が設備投資に回すというような傾向が出てくるという話であります。
ところが、実際に本当にそうなのかということが、実は経済学の中ではいろいろと議論されておりまして、特にこれに対抗するような形の議論というのは、タックス・キャピタライゼーション・ビュー、ニュー・ビューというふうにも言われていますけれども、こういう議論があります。
実は、実際には限界的な資金調達手段というのは、新株発行ではなくて、内部留保で対応するという企業が実際の姿なのではないかということになります。
もし、そういう企業だとすると、法人減税をしても、結局、配当に回すということになりますので、設備投資には回さない。結局、既存株主への配当増に回って、先ほど國枝委員もおっしゃいましたけれども、株主へのプレゼントということに法人減税がなるかもしれないという状況というのは、実はあるのではないかという議論も別途あります。
そうすると、実際の日本ではどうか。青柳さんの実証分析というのが28ページにあるんですが、それによると、トラディショナル・ビューなのか、タックス・キャピタライゼーション・ビューなのかということでいうと、日本のこういうデータの分析対象となった企業では、どうやらタックス・キャピタライゼーション・ビューの方が支持される結果が出ているんではないかという話があったりします。
そうすると、実は法人税の負担というのは主立っては、株主が持っていて、法人減税をされると、先に法人税を負担していた株主に、その減税の恩恵をプレゼントするということになるかもしれない。そういうような状況もあります。
こういうようなことで、法人税と消費税の議論がよくなされるわけでありますけれども、つまり法人減税と消費税の増税というのは、企業優遇、消費者冷遇ではないかという議論があったりしますけれども、それほど単純な話ではないだろう。消費者とて、労働者という立場で法人税を負担するということになっていたりするということであります。
ですから、結局のところ、消費税が労働所得税に近い性質を持っていることだとすれば、労働所得税で課税するのか、資本所得税で課税するのか、どっちがどれだけ望ましいのかということをにらみながら法人税や消費税の議論をするということも重要なことなのではないか。
いろいろ細々と難しいことを言いましたけれども、法人税の転嫁と帰着という話は、結局、法人税の負担というのは、労働者なり資本家なりが負うということになるということをにらみながら、法人税の在り方、その他の税とのバランスで考えるということは重要なのではないかというふうに思います。
以上です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。非常に大きな議論をしていただいて、議論の前提と現実とがどう関係し合っているかとか、いろいろ思いはあると思いますけれども、どこからでも御質問をください。
では、横山さん、加藤さん、大竹さん、3人続けて簡潔にお願いします。
〇横山委員
3点伺いたいと思うんですけれども、1点は法人税の負担、いわゆる増税のときの企業の対応と、それから法人税の負担を減少させる、あるいは減税するときの企業の対応が本当に同じなのかどうか、この辺をどのように考えられているかというのが1点目です。
2点目は、先ほど来の議論にもあったんですが、外国人株主をどういうふうに理解したらいいのか、グローバル化の中で考えたらいいのか。
機関投資家、とりわけ外国の機関投資家の実質的な個人投資家は日本の居住者でないとすると、この辺の消費税ということとの兼ね合いでは、どう考えたらいいのか。
3点目は、30%から40%は株主に帰着するというアンケート調査を見たときに、日本の個人株主の保有状況と考えた場合、先ほどの國枝さんからの年齢別状況はわかるんですが、これが所得階層別あるいは資産保有別というんでしょうか、この辺のところの最終的な帰着というのは、あるシミュレーションをした場合に、どういうふうなことが最もらしいのか。
とりわけ、日本の内国人の株主とした場合、機関投資家として、年金の運用があるんだろう。そうすると、その所有者はどういうふうに理解したらいいのか。それは若い人々なのかどうか、この辺のところをどういうふうに理解したらいいか教えていただきたい。3点お尋ねしたいと思います。
〇加藤専門委員
非常に整理された議論を聞かせていただきまして、どうもありがとうございました。
1点目は、実は横山先生と全く同じで、本来は自分自身でも数量的に見ていかなければいけないんですけれども、非常に難しいところがあると思うんですが、増税と減税が対称的なのかどうなのか。減税が問題になっているときに、増税と減税とは多分内部留保に取り込められてしまって、設備投資がいかないのかなというニュー・ビューみたいなところがあるんではないかなという気がします。
もう一点なんですが、社会保険料と法人税を考えたときに、多分社会保険料の方は、どちらかというと、人件費コストですから、より労働に対して負担が強くなるのかなというような気がするんですが、その点について教えてください。
〇大竹専門委員
今の加藤さんの2つ目のコメントと重なるんですけれども、10ページと11ページでアンケート調査の結果があるんですけれども、これは質問が、恐らく先に社会保険料を聞いて、それから法人税のときにどうしますかというふうになっていまして、逆に聞いたら全く違う可能性がある。
それが、恐らく、今、加藤さんがおっしゃったみたいに、法人税負担の選択肢として、例えば最初から配当を減らすとか、内部留保を減らすとかという選択肢があれば、多分後半でやっていたニュー・ビューの議論と対応して考えてみると、そういったものが回答に出てきたはずですけれども、社会保険料だけ先に聞いて、それで法人税についてどうですか、それと同じですかということをやっていますから、そういう視点が消えているんではないかと思います。
ですから、10ページ、11ページの議論で、社会保険料と全く同じで賃金にかなりかぶるという議論をここだけでやると問題があるんではないかと思います。特に、後半部分との議論では対応していないと思います。
〇田近部会長
では、お答えください。
〇土居専門委員
御質問、どうもありがとうございました。
まず、横山先生、それから加藤先生の増減税のときの対応の違い、異同についてですけれども、基本的に理論上では対称的であるということが前提の議論をここでは御紹介したということであります。
勿論、実際に本当にそうなのかどうかということはあります。しかも、単純に本則税率を下げるという話で増減税するということなのかどうなのかということもあります。
通常イメージするときの法人増税というのは、本則税率を上げるみたいなことは多いと思いますけれども、減税するときには本則税率を下げるだけが手段ではなくて、設備投資をターゲットにした減税ということがあったりするというようなことだったりしますので、そこら辺の法人税の増税と減税といっても、税制の変え方の中身もイメージをする中では違うということになるんではないかと、そういうことを惹起させる、そういう要因もあるのかなと思います。
ただ、理論的には基本的には対称的である、追加的に1円増税する、減税するというところの対称というのはあると思います。
もう一つ問題としてあるのは、法人税は赤字法人には課税されないというか、納税しないでいいということになりますので、その非対称性はあるとは思います。結局、法人税を減税するといっても、赤字法人には直接減税の効果は、場合によっては及ばないかもしれないということがあったりするわけで、そういうようなところの非対称性はあるとは思いますが、ここでは基本的には法人税が課税されるという企業は、常に黒字法人であるということを念頭に置いて議論をしている結果であるということを申し上げたいと思います。
それから、横山先生の2点目の御質問ですけれども、機関投資家と消費税との間の兼ね合いということですけれども、基本的には消費税は労働所得税に近い性質を持っていると考えられますので、当然ながら機関投資家は主立って資本を持っているということだと理解すれば、労働所得税ないしは消費税の負担を直接は負わないということになるわけです。法人税は入り混った形、つまり労働者に負担をもたらす部分もあり、資本に負担をもたらす部分もある。
勿論、国際課税の関係で、日本国内で投資している外国人投資家をどういう扱いにしているかということ次第では、転嫁と帰着ということも変わってくるということでありますけれども、基本的には機関投資家に対して、ある程度日本国内で課税しておくべきではないのかということであれば、法人税という手段ないしは金融所得は個人ということですけれども、何らかの形で課税するということはあり得ると思います。
ただ、その場合に、源泉地主義課税になるという可能性があるということは留意をする必要があるだろう。基本的には経済学的に見ると、純粋な世界を想定すれば、居住地主義の方がよりエビシエートであるということだと言われていますので、そういう点は留意をする必要があるのかなと思います。
3番目の点は、まだ私自身もまだ研究中というところで、この点は、また追い追いお答えさせていただければと思います。今日はすぐにはお答えできません。
最後は、加藤先生の2番目の論点と、大竹先生の御質問のところで、アンケートの聞き方とか、社会保険料云々というところは非常に重要な御指摘でありまして、確かめようのないところではあるんですが、確かに聞き方によって、ひょっとしたら答えが違っていたかもしれないという可能性は否定できません。そうなのかどうなのか、もう一回アンケートしてみないとわからないというところであります。
ただ、1つ言えるのは、社会保険料の企業経営における認識をどういう認識でいるかというところであります。
勿論、損金算入云々ということで言えば、配当は、先ほど来、議論があるように、損金算入されていないもので、当然のことながら法人税の課税後に配当されるということになるわけですけれども、社会保険料負担は、一見すると、企業が拠出義務を負っているということになるわけですけれども、ある意味でのインプリシットな賃金の一部であるというふうに認識するということであれば、これはある種、労働所得税を源泉徴収しているも同然というような側面もあったりする。そういうところは違いとしてあると思います。
〇田近部会長
ほかに、いかがですか。では、長谷川さん、吉川さん、八塩さんまで3人お願いします。
〇長谷川委員
私がお伺いしたいのは、時間的な話なんですけれども、例えば法人税を下げたときに、賃金が増え、雇用が増えるとして、それは大体経済学者の皆さんは、どのぐらいの時間軸でそういう効果が発現すると考えていらっしゃるのか。つまり非常に端的に言えば、来年から法人税を下げ、消費税を上げると考えた場合、やがて賃金と雇用は増えるかもしれないけれども、私の消費税は来年から直ちに上がるとなったときに、家計はそれをどうやって納得できるかという問題です。
〇田近部会長
では、続けて吉川さんと八塩さん。
〇吉川委員
2つあるんですが、1つは土居さんのプレゼンテーションの中で、法人税というのは必ずしも法人ないし資本が最終的に負担するものではない。転嫁の問題、それは非常によくわかるんですが、また、実際に労働が最終的に負担する比率がアメリカなんかの実証分析だと非常に比率が高いというお話でしたね。
そういうことで、法人税を下げるということは、必ずしも法人優遇だけではありませんよという一つのインプリケーションがあるのかもしれませんが、だとすると、もう一つは、法人税を下げろというときには、国際競争力が失われるから、法人税を下げろという議論があるわけですね。こことの関係はどうなるんでしょうかというのが第1点。
第2点目は、法人税の帰着のところで幾つかの御紹介をいただいて勉強になったんですが、1つ、Randolphという人ですか、これは実証分析と書いてあって、非貿易財も入っているようなことが書いてあるんですが、私が個人的に法人税と国際競争力や何かのところで関心を持ってきたのは、よくオープン・エコノミーで貿易財だという前提で議論がされるんですが、御承知のとおり、日本の法人というか、日本の産業構造の3分の2以上が非製造業になっているわけで、先ほどの経産省のアンケート、立地や何かについても多分製造業が中心なのかなというふうに想像しますけれども、非製造業イコール非貿易財では必ずしもないですが、非貿易財のノントレーダブルズの比率が相当高いわけで、この点、法人税の帰着に関する議論で、オープン・エコノミーでの議論、貿易財だけではなくて、非貿易財のノントレーダブルズセクターがある、日本の場合には、それがかなり大きいわけですが、その場合についての議論はどういうことになっているのか教えていただければと思います。
〇田近部会長
では、八塩さんで、一応、これで質問を終わります。
〇八塩専門委員
どうもありがとうございました。大変勉強になりました。先ほど赤字法人の話が出たので、今日の話の本質ではないかもしれませんけれども、一言コメントを言いたいんですけれども、日本は赤字法人というのが非常に多くて、法人の多くが税を払っていないという問題があるんですけれども、その多くは大体中小法人ということだと思います。
今日の土居先生の話は、大法人の古典的な話で非常に重要な話だと思います。要は経営者と労働者、資本家が異なるケースで、法人税をかけたときに、その負担を労働者とか資本家にどう振り分けるか。要は賃金と利子をどう減らすか、そういう問題だったと思います。
一方、中小法人の場合は、恐らく経営者と労働者と資本家が、実は同じ人物でありまして、そうすると、法人税が上がると、むしろ法人の利益を減らしてしまって、自分の賃金や利子を増やすという話もあるかと思います。
そうすると、今日の話は、要は最近の中小法人と大法人を分けなければいけないと思いました。
〇田近部会長
いずれも大きな論点でしたけれども、どうぞ。
〇土居専門委員
御質問どうもありがとうございました。長谷川委員の御質問ですけれども、ずばり何年と答えられるものでは、残念ながら私の知見では及びません。ただ、今の環境で、先ほど大竹先生、加藤先生からも少し議論があったんですが、企業の置かれている状況が、それこそ法人減税をしたときに、直ちに配当を増やすということで対応するというような状況があるならば、労働者に還元するというのは次ということになるので、4~5年というタイムラグを伴うような形で及ぶという可能性は十分に考えられるだろうと思います。
特に、法人税を払えるぐらい利益を上げている企業ということになりますと、そういうところというのはあり得るのかなと思います。つまり、そんなにスピーディーに賃金が上がる、法人税が下がったから賃金がすぐに上がるというほどスピーディーではないかもしれないということがあります。
もう一つは、これは必ずしも法人税そのものの問題ということではないにしても、グローバル化の影響で必ずしも付加価値が高くない労働者といいますか、生産性が必ずしも高くない労働者に対する賃金を法人税が下がったからといって、直ちに上げられるかどうかはわからない。もし、ここで上げてしまうと、雇用のコストがかかるから、それだったら中国に生産拠点を移してしまおうという方がよほどいいんではないかというケースもあり得るわけであります。
そうすると、ある意味で労働者のバーゲニングパワーが弱いというようなことが考えられると、法人減税をしたからといって、直ちに賃金が上がるというわけではないということがあるかもしれません。ただ、必ずしもそういう人たちばかりではないので、高付加価値の労働者だとすると、法人減税をしたんだから、おれたちにも分け前をよこせと言える、そういう立場にある労働者もいるかもしれません。そんな印象を持っております。
次に吉川先生の御質問なんですけれども、この問題と国際競争力云々という問題は、特に実証分析で挙げたRandolphの論文ですけれども、この論文では、結局のところ資本労働比率が変わらないところで、課税後も均衡するというモデリングになっているために、実際のところ、余り国際競争力云々ということに注意を払わなくてもいいようなモデルになっているというのは、実はモデル上の制約としてあります。
ですから、結局、自分の国に資本をより多く呼び込むというようなことだとか、自国の企業に国際的に優位な立場になるように促すというようなところというのは、今日御紹介した話の中には入れられておりませんで、その点は、むしろ企業の国籍といいましょうか、そういったところも含んだ形で議論をするような形で、今後研究が進められればなと思っております。
それから、論文の詳細について、非貿易財部門という話でありましたけれども、一応、この論文はアメリカの産業構造を前提にして数字を取ってきていまして、例えば非貿易財産業での生産に占めるシェアというのはアメリカ全体のGDPの45%というふうな設定で議論をしているというモデリングになっていますので、そこの辺りは、実はある程度現実的な数字を使っているのかなと思います。
それから、八塩先生の御質問で、中小企業云々という話で、勿論それは言い出せば、そういうことはきりがないところでございまして、実際の学術的な議論では、大企業、中小企業と明確に分けて分析しているというのは余りないというところではないかと思います。せいぜい言うと、法人部門と非法人部門、そういうような形での分類ということ止まりかなと思います。
以上です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。時間もちょうど来ましたので、ここで今日は終了したいと思います。國枝さん、そして土居さん、どうもありがとうございました。
次回以降の御案内ですけれども、既に御案内しているとおり、6月22日、その次は7月13日、いずれも金曜日ですけれども、午後2時から4時まで、場所は合同庁舎4号館のこの場所で開催するということでお願いします。
引き続き専門委員、委員、いろんな方から御報告いただくべく準備をしています。
今日は、これで調査分析部会を終了します。どうもありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。