調査分析部会(第10回)議事録
日時:平成19年7月31日(火) 14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室
〇田近部会長
ただいまから、第10回「調査分析部会」を開催いたします。
お忙しい中、御参集いただき、誠にありがとうございます。
それでは、本日の議事について申し上げます。
本日は、調査分析部会の審議を行いますけれども、テーマは2つです。議事予定のとおりですけれども、まず少子化対策と欠損法人の分析ということで、少子化対策については、吉川委員と永瀬委員からお願いします。欠損法人については、八塩委員からプレゼンテーションをお願いしたいと思っています。
早速、本題に入りますけれども、まず最初の少子化対策については、吉川主査の担当領域である経済社会の構造変化とそれが税制に与える影響の検証の一環として報告させていただきます。
少子化対策については、本年2月、内閣府に「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討会議」が設置されて議論が進められ、6月1日に重点戦略の策定に向けての基本的な考え方(中間報告)がとりまとめられています。
この会議は、吉川さん御自身が主査を務めていらっしゃいまして、その会議のとりまとめをなさっていらっしゃいます。今日は吉川さんに中間報告を踏まえて、少子化問題についてお話いただきます。
永瀬さんから、これもお手元にありますけれども、少子化と税制・社会保障について説明をいただきたいと思っています。
それでは、吉川さんにお願いしますけれども、吉川さん、永瀬さんから、ともにおおむね15分ぐらいの御報告をいただいて、討議にしたいと思います。
では、吉川さん、お願いします。
〇吉川委員
ただいま田近先生から御紹介があったとおりの経緯でございますので、私の方から少子化対策の会議でどのようなことが議論されてきたか。その経過と現状について、皆様方に御報告させていただきます。
1つ出発点になりますのが、将来推計人口に関する再推計でございます。これは政府で大体5年に1回ずつ再推計を行って、そのたびに将来の人口を推計するわけですが、ほぼ5年ごとですので、やるたびに5年先までという形で転がしながら推計をやっているわけです。
直近のものは、昨年2006年12月に推計が公表されました。これが直近の推計ですが、前回までは2050年までの推計だったわけですが、先ほど御説明しましたとおり、今回は2055年までの人口推計がなされたということです。
若干、皆様方に情報として御紹介しますと、御存じの方も多いかと思いますが、2005年時点における日本の人口というのは、1億2,777万人ということなんですが、今回2055年までの推計では、2055年時点での日本の人口は8,993万人ということになっています。
これは先ほどからお話しているとおり、5年ずつ先までということなんですが、前回推計の2050年までの時点ですと、1億59万人という推計だったんですが、それから5年後になりますと、ただいま紹介したとおり、9,000万人を割り込むような人口になってくる。これが昨年12月に公表された新推計の結果でございます。
インフォメーションですので、御参考までにもう少しお伝えしますと、平均寿命も5年先ということで、今度2055年が出たわけですが、男83.67歳、女90.34歳。とりわけ女性の平均寿命が、前回推計2050年時点は89.22歳だったんですが、今回2055年時点で初めて90歳の大台に乗ったという形で、ほんのちょっとですが、印象としては本当に寿命が長くなるんだなという感じでございます。
そういう中で、一番重要なインフォメーションは、御承知のとおり、いわゆる合計特殊出生率ですが、中位推定が前回推計では1.39ということだったんですが、昨年12月に出ました新推計で1.26という形で、従来、考えていたよりも少子化が更に進んでいくということが、昨年12月、新推計で明らかになったということでございます。
そうした流れの中で、先ほど部会長からも御紹介があったんですが、今年2月に政府の方に「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討会議」、名前が長いんですが、こうした会議が立ち上げられまして、2月9日に第1回目の会議を開いて、4つの分科会の下で検討を進めて、中間報告も出された。
中間報告のエグゼクティブサマリーというんでしょうか、概要が皆様方のお手元に、右上に小さく「平19.7.31調査10-1」という、A4縦長の資料として配付されていることと思います。
これを見ながら話を聞いていただければと思うんですが、1枚目の一番上にありますとおり「1 基本認識」として、先ほど御紹介したとおり、昨年12月に出された新人口推計では、一層急速な少子化の進行が予測されている。しかしながら、これは決して国民が望んだものではないんだということで、結婚、出産、子育てに対する希望と実態の乖離が拡大している。その結果として、出生率も低下しているんだという基本的な認識を持っているということでございます。
そういう中で1つのキーワードとしては、真ん中当たりにワーク・ライフ・バランスを実現することが大切だということがうたわれていて、検証を行うべきだという議論も出ております。
その他、さまざまな提言があるんですが、今日は税制調査会の場ですので、税調に一番関係したところに重点を当てて、紹介させていただければと思っています。
その点は、1枚目の下半分、やはり少子化対策をやる必要があるという議論なんですが、そこで諸外国の経験を見てみようということで、諸外国の経験を見てみますと、1つは90年代以降、そこに書いてありますとおり、経済支援中心から両立支援を目指したサービス支援に移っている。これは、いわゆる子育て支援の中身に関わることです。ここで言う経済支援というのは、平たく言えばお金で応援するということであって、それに対してサービス支援というのは、例えば託児所を整備するとか、要はインカインドというんでしょうか、具体的な物、サービスで子育てを社会全体として応援していくということです。
専門家の間では、どちらか1つだけでいいということではなくて、この両者を組み合わせなければいけないということのようであります。その上で、こうした応援をすると、やはり効果があるんだ。結論から言えばそういうことが専門家の間でのコンセンサスで、経済的支援、物、サービスによる支援、どちらにしても、社会全体としてはコストがかかる。財源が必要になるわけですが、そういう意味で、社会全体としてお金をかければ、少子化対策にはそれなりの効果があるんだというのが専門家のコンセンサスで、したがって、先ほど御紹介した新人口推計にあるような状況の下で、日本は少子化対策を行うべきだというのが、この会議でのコンセンサスであります。
諸外国でそういうことをやっているというわけですが、一体幾らぐらいかかるのか。全く検討がなく議論していても頼りないということで、ハウマッチということについても、推計をいたしました。
縦長の資料の3ページ目を見ていただきますと、一番下の四角の中に「家族政策(少子化社会対策)の財源」というコーナーがありますが、そこの下半分辺りでしょうか、☆のところに、こうした少子化対策の先進国あるいは成功例と言われているフランスのケースについて、フランスの制度をそのまま移入するのがすべて正しいというのが、必ずしも我々の会議の結論ではなかったんです。しかし、フランスの制度に学ぶところは多い。優れている、効果があると言われているフランスの制度をもし日本に移入するとしたら、一体幾らぐらいかかるのかということを試算した結果が、ここにありますとおり、10兆6,000億円ということになるわけであります。
したがって、繰り返しになりますが、フランスの制度をそのまま移入するかどうかについては今後検討するにしても、とにかくこの少子化対策の会議では、少子化対策はやはりお金をかけると効果がある。また、日本の現状、人口動態からすれば、それをやるべきだ。仮に優れている、効果があったと言われるフランスの制度を移入するとすれば、10兆6,000億円ぐらいかかるものなんだということを、一応、結論として出したというわけであります。
この会議では、報告書を見ていただければわかるとおり、その他の論点としては多岐にわたるわけでありますが、税調に一番関わるところであれば、今、御紹介したところになるかと思います。
その後、6月19日に、皆さん御存じの例の骨太の方針「経済財政改革の基本方針2007」にも少子化対策のことが盛り込まれて、基本的には少子化対策を実施する。しかし、その中で、少子化対策の財源の検討というところがあって、有効な少子化対策の実施のためには、一定規模の効果的な財政投入の検討も必要であると考えられる。財源については、次世代の負担によって費用を賄うことのないよう、現時点で手当しなければならない。赤字国債を出してファイナンスするのでは、まずいということだと思います。
そして「実効ある持続可能な家族政策のための財源規模や負担の在り方について、税制改革の議論と並行して国民的議論を行う」。これは骨太の方針の最後のところを読み上げたわけですが、こうした形で今年の骨太2007には書き込まれたということです。
これは閣議決定されているわけですから、今、申し上げたようなことは、政府としてコミットしているということだと思いますし、また、そういう経緯から、今日この税調の場で私の方から皆様方に御報告させていただいたということでございます。
以上です。
〇田近部会長
ありがとうございました。
続いて、永瀬さん、お願いします。
〇永瀬特別委員
お茶の水女子大学の永瀬でございます。
では、配付資料をごらんください。今、吉川先生から非常にわかりやすい全体像の説明がありましたので、かいつまんでお話したいと思います。
まず一番最初にお示ししたのは、最新の中位推計でございますけれども、これは少子化のインパクトを少し想像していただければと思って挙げました。
中位推計ですけれども、今の高校生の女性の4割近くが子どもを持たない。2割ぐらいは子どもを1人。残りは子どもを2人以上というのが、今、出ている推計でございます。
では、独身者は結婚しないこと、生涯シングルでいることを望んで、そういった生涯設計を持って生きているのか、というとそうではなくて、漠然とでしょうけれども9割は結婚したい。結婚した場合、子どもが要らないという人は5%しかいない。そういう将来像を漠然と思いながら、しかし、現在の人口の趨勢が続いていくとすると、生涯子どもを持たない人が4割近くになるということが、今、見通されているということを、少し見ていただきたいなと思ってお示しいたしました。
望んだ将来とは別に、ある一定年齢になって生涯無子ということになるとすれば、-現在の高齢者の生活は、基本的には現役世代からの移転によって成り立っていますので―、おそらく将来の高齢期の生活は、現在のものとは違って、もう少し生活水準は下がるであろう。また人口のこれだけの割合が無子というような社会は、どういうものであろうかということを少し想像して見ていただければと思います。
何でそういったことが起きているんだろうかということなんですけれども、3ページを見ていただきまして、90年代の初めころまでは経済が発展すると女性の仕事の機会が増えて、また個人主義が増えるから、経済が発展すると少子化がすすむのは仕方がない。どうしても起こってくるものだという見方がございましたが、その後の十数年の展開からやや変わってきている。確かにOECD諸国の多くが2を切る出生率になっておりますけれども、その中でも、実はバリエーションが出てきた。どちらかというと、女性が仕事をできるような工夫ができているような国では、1の後半、1.6や1.8といった出生率だけれども、そうでないような国では1.1ですとか1.3ですとか、非常に厳しい少子化が見られるようになってきたと理解されております。
4ページです。1.5を切る出生率を「超低出産」と呼んだりいたしますけれども、その代表例として、ヨーロッパではドイツやイタリア、アジアでは日本などと言われていたんですけれども、最近、ドイツやイタリアは、若干出生率の上昇の見通しが見えてきまして、最近、特に出生率の低下が続いているのが東アジアの経済発展をした国。そして、それは日本を含むものでございます。
なので、豊かに生活をし、また望みを実現していくためには一体何が障害なのかということを考えていくことは、政策として非常に重要なのではないかと考えられます。
5ページです。日本の少子化の要因として、どんなことが考えられているのかということを、研究者の知見を幾つか見てみたのですが、例えば1つ目としては、交際行動が変わっている。男女交際規範が緩やかになっているので、なかなか結婚に移行しない。
もう一つ、大変日本的な特徴だと思われるんですけれども、片や低年齢での交際行動が活発になった一方で、30代以降で結婚意思があるのにだれも交際相手がいないという非常に不活発な層もある。昔ですと、職場での紹介やお仲人さんがいたのがなくなってきている。
2点目、3点目、4点目以降は、この会議に非常に関わることだと思いますけれども「2.若年層の相対的な経済状況の悪化」。特に非正規化の進展。親世代は年功賃金で比較的経済水準が高くて、(親同居であれば給料の使い出もあるが)結婚すると経済水準がむしろ落ちてしまう可能性がある。特にフリーター同士の結婚の場合は、経済状況が大変厳しいというようなこと。
「3.雇用慣行の問題」として、正社員の場合は、長時間労働が一般的でありますので、なかなか仕事と家族の両立が困難である。
ここのところ少子化対策と言われていますけれども、どのくらい保育園や育児休業等のアクセスが進んだかという点に関して、つい最近見た数字で言いますと、例えば地方圏では意外と保育園は充実してきているんですけれども、東京、神奈川、埼玉、千葉、この辺の若い人が集まってきているところでは、伸び率も低いですし、充実も全然されていないという現状がございます。また、育児休業の利用率も(出産にしめる割合で見ると)決して高くはございません。
6ページの「出生動向に関する統計」は、飛ばします。
7ページにいきまして、出生動向基本調査。これは人口推計に使われている統計でありますけれども、ここで大変目立つこととしては、出生率の低下等がありますけれども、もう一つ、大きな変化としては、理想のライフコースというのが変わってきている。独身女性の理想のライフコースは、1980年代の後半では専業主婦が最も多くて、3人に1人。それから、再就職が多かったんですけれども、2005年になりますと、再就職が一位、そして両立ですが、それぞれ3人に1人ぐらいということで、最も多くなっています。
また、大きな変化は、独身男性の意識が、従来は女性よりもやや保守的だったんですけれども、それが最新の調査では、女性に追いついて、更に専業主婦を期待する者が12%に下がった。女性を飛び越しており、女性にも就業、家計責任を求め出しているような状況を見ることができます。
しかし、現実には、第1子出産後の女性の就業継続は、1980年代以降ずっと増えていないんです。結婚、出産そのものが落ちている結果、女性の就業は増えています。しかし欧米諸国では出産後の女性の就業継続が80年代以降ずっと上がってきているんですけれども、これに対して日本は出産期の就業継続は大変低いままであるというのが特徴になっております。
8ページを見ていただきまして、こちらは「21世紀成年縦断調査よりの知見」。これは2002年10月に20~34歳だった男女に対して、毎年追跡して聞いている調査です。
これで私が面白いなと思ったのは、これは去年のものなんですけれども、家族観が若い世代で大きく変化しているんだなということです。これまでも性別役割分業に反対する方は増えていたんですけれども、実質的には男性が主に生計の責任、女性が主に家事・育児責任を支持する意見は多かった。それが過去2年間に結婚したカップルに限って見ますと、世帯収入は夫婦いずれも同様の責任、家事は夫婦いずれも同様の責任というのが、4割、5割というふうに高く、非常に大きく変化しているということが見てとれます。
また、最近2年間あるいは3年間で見た場合ですけれども、結婚後、有業の女性について見ると、就業継続の可能性が高い人ほど明らかに出産している。具体的には、育児休業制度がある、更に職場にとりやすい雰囲気があるという方での出産が多くて、とりにくい、あるいは制度がないというところでは、出産が下がっている。
それから、非正社員の場合、専業主婦あるいは正社員に比べて最も出産が低い。これについては、多変量解析ではないので因果関係はどこまでどうだかわかりませんけれども、そういうことがわかっている。
4番目として、子育て負担が妻に集中している場合には、第2子の出産が遅れている。具体的には、夫の家事・育児負担が低い。あるいは親が近くにいて支援してくれない場合には、出産が遅れるといったような傾向が見られます。
9ページですけれども、こういった意識変化の背景に何があるかということです。20~34歳の独身者の雇用形態を見たものです。これで見ますと、正社員であるという独身者は、どの年齢層も男女とも6割ぐらいになっております。残りの方たちは、フリーターあるいは無職、あるいは不詳という形で不安定な雇用になっております。
これは1980年代からの大変大きな変化で、例えば1980年代ごろですと、大体85%ぐらいの女性が正社員であった。それがここまで男女ともに落ちているというのが大きな変化でございます。
10ページでございますが、独身者の年収分布を見たものですけれども、最も多いのが100万円から300万円という年収分布です。つまり独立生計は非常に難しいような年収分布になっております。
11ページは、よりサンプル数の多い就業構造基本統計調査から見たものです。世帯主年齢階級別に年収の度数分布を見たものですが、下の表の方がわかりやすいかもしれませんけれども、世帯主60~74歳層の引退世代で世帯年収300万円未満の世帯の割合が4割なんですけれども、世帯主20~34歳も同じく4割なんです。ですから、引退世代と同じぐらいの年収しか得ていない。年収300万円未満が4割である。
そして、年収700万円以上で見ますと、引退世代よりも更に低いということが見てとれます。この方たちは、単身の方もいますけれども、夫婦のみ、夫婦と子という方たちが4割いまして、これから子どもを持とうとする世帯での経済状況の悪化が明らかであります。
12ページです。つまり、どのような変化が起きているかということを見てみますと、若い層では、雇用の不安定化によって妻の収入が生活水準維持に必要になってきている。それと同時に、夫婦の家計、家事の共同分担を支持する方向に、労働市場の変化にも裏打ちされて意識変化も起きている。
しかし、実際の就業行動がどうかということを見ますと、妻は結婚後は4割、第1子出産後は、7、8割が無職、無収入になっております。つまり、子どもを持つとすれば、経済的困難に陥る世帯が若年雇用の悪化とともに潜在的に増えているといえます。
それに関して、社会がどういうふうに配慮してきたかという点ですけれども、これまで日本の社会的な配慮というのは、妻が無収入、低収入になるのを前提として、そういった人たちを保護してきたのが基本でございました。
具体的には、妻や子どもの扶養控除あるいは第3号被保険者といったものです。しかし現在の若い層に関して言えば、扶養控除等は夫が低収入でしたら、その恩典はきません。
また第3号被保険者制度も夫が非正規社員なら対象外。
育児休業給付などは、非正社員には実質的に給付されていない。権利を持てない。
非正社員が拡大する一方で、正社員の労働時間はむしろ長くなっておりますので、その辺で正社員も共働きでの両立が難しいという実態がございます。
13ページです。つまり、今までの低収入の妻を前提として保護する形から、育児期には男女ともに子どもを育てる時間を持てる、あるいはそのときに労働収入が減ったならば、その収入が補てんされる、それから、子どもを保育園や保育ママ等に預けて、就業を継続できる。といったような形で、つまり、育児期に労働時間を調整しつつも、夫婦ともにキャリアを持っていけるような、そういった家族もモデルに変換せざるを得ない時期にきているのではないかと思われます。
ただ、直近何ができるかということを考えますと、現状、子どもを持った女性は無職になっている割合が大変高いので、そこに社会的支援を拡充させる必要があるのではないか。具体的には、妻の収入が家計にとって不可欠であるのであれば、そういった形で無収入になる場合には、育児休業給付を非正社員も含めて出していく。
それから、保育園等に関しても、先ほど言いましたように、本当に少ない割合にしか都会では提供されておりませんので、それを拡充していく。
男女ともに労働時間を短縮できるような権利を付与していく。
あるいは第3号に限らず、育児負担等で無収入、低収入化している方たちに対しては、年金権等を含めて、社会的な権利を付与していく。そういったようなことでございます。
今の税制は、妻は生涯低賃金で雇用されること、第3号被保険者制度もですが、をどちらかというと奨励している側面があるとも言われますけれども、こういった側面を縮小すると同時に、非正社員と正社員の賃金格差を縮小していくようなルールを強化していくことが必要なのではないか。更に非正社員に対する被用者保険のカバレッジの拡充といったことを、総合的にしていく必要があるのではないかと思われます。
また、育児休業給付ですけれども、これを受けた人は、最近の出産の16%にすぎません。諸外国等を見ますと、出産前に有収入であった方たちに対しては、雇用保険を通じて、あるいは雇用保険で資格がない場合では、税金等を通じて何らかの給付をしている国が、ヨーロッパでは大変多いので、そのようなことも必要なのではないか。
更に、低収入で子どものいる世帯に厚みをつけた税制の考慮なども、扶養控除等ですと収入の高い世帯にはメリットがいきますけれども、低い世帯にはいきませんので、その辺に対する考慮、1,000円稼いでも(税が上乗せされて)1,300円くるとか、そういったような考慮をすべきではないか。そういった新しいタイプの経済支援というのは、アメリカ、イギリス、ベルギー、フランス等、多くの国でされていますので、そういったことも1つオプションしては考えられると思います。
14ページでございますけれども、雇用保険に一定期間入っている人は、訓練給付を受けられるんですけれども、若年の雇用保険の加入率そのものが大変低いということがあります。その場合、若年で親が教育費をかける経済的な余裕がない人たちがどうやって訓練にアクセスできるのか、その辺の制度の問題もあるのではないかと思います。
15ページにいきまして「働き方の改革の誘導」として、例えば、現在、企業に関する税制を考えてみますと、例というところで小さな字で書いてありますけれども、現在、企業で非正社員を雇用すると、-これは男女が家族を形成しにくい不安定雇用なんですけれども―、そういった雇用をする企業の方が被用者保険の事業者負担を免除されて、育児休業中の人操りの工夫をするようなコストも免除されている。だから現在の社会のルールはむしろ、そういう雇用を奨励しているような側面さえあるわけでございます。この矛盾を解消する、また解消だけではなくて、人口再生産の社会的コストを応分に企業も負担するような制度の構築も、1つ考えられることなのではないかと思ったりいたします。
16ページですけれども、税制、社会保障、雇用ルールも含めて、仕事を持ち子どもを育てる家族モデルの転換というのが、-中年層以上はまだ古いモデルできていると思いますけれども―、若い層には本当に必要になってきているのではないか。
若い層ほど雇用は早く変化します。新規参入者に対しては、雇用の変化は一番強いインパクトできます。子どもを持つ時期は、若い年齢であるということを考えれば、若い層に対する政策を早く拡充することが必要なのではないかというふうに、私としては考えております。
以上でございます。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。
吉川さんと永瀬さんから少子化問題について、それぞれの観点から説明いただきました。30分程度議論する時間がありますから、どなた様でも御意見、感想がある人は手を上げてください。
では、加藤さん、土居さん、続けてお願いします。
〇加藤専門委員
吉川先生、永瀬先生、どうもありがとうございました。
質問をしながらコメントでもあるんですけれども、まずなぜ少子化対策をやらなければいけないのかというところを考えますと、例えば欧米では子どもというものを公共財としてとらえているわけでして、子どもは公共財でありますから、そのためには税を使ってもいいだろうというのが出てくるんだろうと思います。したがって、その税を使った少子化対策というのが、ある意味で正当化されてくるということになると思います。しかしながら、そうした場合、費用対効果というものを考えていかなければいけないんですが、そういった点をどういうふうにして考えていくかのというのが1つ目であります。
それから、永瀬先生のプレゼンの中にも少子化の要因というのが幾つかあったんですけれども、そもそも子どもを持つことの機会コストをいかに下げるかという問題が非常に大事だろう。とりわけ、例えば昨年の合計特殊出生率1.32ですが、2人目以降をどうやって産むかということが、結局、出生率を上げるための一番大きなキーポイントになってくるだろう。そのときに、2人目を持てるような、逆に言えば、働いている女性が2人目を持てるような制度をどういうふうにしていかなければいけないかということを考える必要があるのかと思います。
3つ目、これが最後ですが、児童手当の話もあったと思うんですが、日本の児童手当の場合には、どちらかというと、そもそも社会保障制度の中の多子による貧困対策で始まっていまして、したがって、現在、所得制約があるわけで、同時に扶養控除という形での税の控除のものと重なって、そういった少子化対策の一環になっているんですが、果たして、所得制約をつけたままの児童手当をこのまま続けるべきなのか。
それから、扶養控除を使っているのは、アメリカの場合は少子化対策をやっていませんので、ほぼ日本だけだろうと思うんですけれども、扶養控除の在り方というのがこのままでいいんだろうか。
この3点について、御意見等を教えていただければと思います。
以上です。
〇土居専門委員
御発表どうもありがとうございました。大変興味深く聞かさせていただきました。
私も吉川先生が主査の分科会の中で、議論をさせていただいていたりして、少子化対策の重要性や、更にはいろいろな政策ツールがある中で、どれを洗練した形で導入するかということについて、やはりこれから更に議論を深める重要性があるのではないかと思っております。
今日、永瀬先生の方からあった中では、特に12ページの資料、15ページの資料は、どういうところに今の制度的な問題があるかというところが要約されていて、非常にいいポイントをついておられると思います。
その中で、1点コメントともう一点は質問なんですけれども、まず1点目は、たまたま私は昨日まで海外出張に行っていまして、アメリカのボストンで学会があって、そこでハーバード大学のアレシナ教授らが男女別所得税を導入してはどうかというアイデアをおっしゃっておられました。
つまり、どういうことかと申しますと、永瀬先生の発表でも、結局そういうところとダブってくると思うんですけれども、男性と女性で労働供給の賃金弾力性が違う。だから、どういう形で労働供給するかということが、女性の場合かなり敏感である。つまり、いつ働き、いつ働くのを辞めるかということについては、非常に感応的である。男性は一旦就職し始めてから、継続的に職に就いている場合には、労働供給をしている。そうすると、通常、いわゆる最適課税論のロジックから言うと、労働供給の賃金弾力性が高い人には、低い税率をかけるのが望ましいという発想からすると、できるだけ女性には低い税率をかければいいのではないか。それをそのまま導入できるわけではないかもしれませんけれども、発想としては面白い発想だと思いました。
そういう意味では、まさに、女性の労働供給に対して、税制がどういうふうに対応していくかということを考えるときに、余りパッチワークで何とかというよりかは、体系的に税制で対応するということも必要なのではないかと思ったというのが、1点目のコメントでございます。
質問は簡単に申し上げますと、今日、御紹介されたいろいろな少子化対策の政策ツールなんですけれども、私が一番懸念しているのは、それをつまみ食いされてしまうということ。財源対策も考えずに導入されてしまうということを一番懸念するわけであります。ある意味で、それだけの政策を講じるからには、その財源ないしはどういう負担をだれがするかということを、ある程度パッケージとして提示するということが必要なのではないか。税制で少子化対策として負担減免をするということであれば、減免した分の財源はどこから持ってくるんだとか、そういうようなことも併せて議論する必要があるのではないかと思うんですけれども、その点について、永瀬先生の御意見をお聞かせいただければと思います。
〇田近部会長
ありがとうございました。
それでは、吉川さんと永瀬さんにお答えいただきますけれども、吉川さんに対しての加藤さんの御質問は、費用対効果ということでしたね。
〇加藤専門委員
はい。
〇田近部会長
では、お願いします。
〇吉川委員
私から個別の施策に対する費用対効果をお話することはできないんですが、専門家の方々の御意見では、やはり効果があるということなんです。そもそも日本の現状というのはお金を使っていないわけです。今、使っていないわけです。アメリカは例外なんですが、とりあえず少子化先進国であるヨーロッパと比べますと、ヨーロッパの方はとにかくそうした対策を打っている。フランス、スウェーデンなどは典型です。お金を使って少子化の流れに歯止めをかけたという事実があるわけです。
先ほどからお話しているとおり、細かいことは申し上げませんが、個別の施策は全体として見れば、やはり効果があったというのが専門家の方々の御意見のようで、一方、日本は相対的にお金を使っていないわけです。
例えば対GDP比ですと0.75%です。それに対して、ヨーロッパの多くの国が2~3%ぐらい、対GDP比で使っている。ですから、ヨーロッパに比べてお金を使っていない。それで少子化が進んでいるんですから、自然な流れとしては、日本も少子化を止めたいのであれば、全体として個別の施策の効果については十分に検証する必要はあるんだろうと思いますが、総論としては、やはりお金を使うべきではないかということを少子化対策の会議では言っているということです。
それでフランスのケースを仮に参考にするとすれば、10兆6,000億円ぐらい。ただし、その財源はちゃんと考えなければいけません。それについては、政府全体として、税制改革論議の中で検討してくださいというのが、少子化対策の方の会議の立場だったということです。
〇田近部会長
では、続けて、永瀬さんお願いします。
〇永瀬特別委員
土居さんの財源をどういうふうにするかということですけれども、かなりの財源を使うことになりますので、まず国民の方々の納得が必要だと思います。そして、少子化というのは、高齢化と違って、とりあえず目先ではそれほどインパクトを感じないんです。結婚しなくても親と一緒に住んでいれば、収入が100万円から200万円でも、そんなに厳しい生活ではない。結婚して子どもを持てば、あるいはそこで離婚したりすれば、貧困問題が起きてくるけれども、とりあえずそういう選択を先送りしていれば、余り問題は起こらないように見えるのですが、それは非常に強いボディーブローのように、20年、30年経つと取り返しがつかない。そのときになって、自分の高齢期はこれほど所得が低いのかとか、あるいは親も年老いてきますし、そのときになってから、いろいろできるかというと難しい。
その辺の問題をまずよく知っていただく。その上で、先ほど加藤委員のお話にもありましたけれども、私は子どもというのは非常に正の外部性が高いと思います。子どもを育てるということは、喜びである一方苦労でもあると思います。子ども負担を一部の人しかとらなくなることが、今、予想されているわけですけれども、育った子どもが日本の社会保障を支えていきますし、労働を支えていきますし、更には日本文化ですとか日本語というものを支えていく人たちでもあるわけでございます。子どももみんなが持つような時代ではなくて、6割しか持たないような時代だとしたら、そういう子どもを育てている世帯のことを国民全体で支援することが、当然なんだといったような意識形成をすることが必要なのではないかと思います。
その上で、財源ですけれども、消費目的税ですとか、子ども保険ですとか、あるいは吉川先生のものにありましたフランスの例で言うと、給付総額の半分を企業が負担しているという、こういう幾つかの選択肢があり得ると思います。
今、私がこれが一番いいというよりは、一番国民が納得できるような財源選択で、財源を確保する。ですから、まず今の問題点がどのくらい大きな問題かということをもっと広く知っていただいた上で、そして、財源がどれだけ必要かということを考えていただいた上で、可能な選択肢を示し、納得のできる、よりよい財源を選ぶということなのではないかと思います。
また、子どもは社会保険になじまない。自分の好きで持つんだから、社会保険になじまないという方がいらっしゃるんですけれども、子どもの立場になってみますと、子どもは親を選べないのでリスクともいえるのです。どんな貧しい家に生まれてしまうか、どんなリッチな家に生まれるか、それは選べないわけでありまして、子どもの立場になってみますと、―子どもを育てるということに正の外部性があるということは当然のこととして―子どもの機会均等という視点から見ても、やはり子どもに対する社会的な支援は、少子化対策として効果があるかどうか云々というものとはまた別に、是非必要なものだろうと私としては考えております。
〇田近部会長
加藤さんの方から、第2子以降を産むための機会費用を下げるにはどうしたらいいか。あと、児童手当の受給者の所得制限はどういう意味があるかとか、たしかもう一つぐらいあったと思います。
〇加藤専門委員
扶養控除です。
〇田近部会長
扶養控除ですね。永瀬さんにでしたよね。
〇加藤専門委員
はい。
〇永瀬特別委員
私は日本の大きな問題だと思うのは、それぞれの制度がそれぞれ別に運営されているところで、これが非常に問題なのではないかと思っています。日本の今の(配偶者に対する)扶養控除というのは、配偶者が103万円まで働いて、それ以上働かないということを非常に強力に推進している側面があります。ただしその制約は主に中年の女性に対して作用しています。30代、40代の女性についてはそういう制約になっています。もっと若い世代については、子どもを持っていて働ける状況にない人たちが多いですから、(担税力の考慮という意味で)期待された役割を果たし有効かもしれない。もっとも税金を払っていない世帯も比較的多いので余り関係ないかもしれません。子どもがいて、夫の収入が余り多くなければ、税金を余り負担しておりませんので、(担税力の考慮という点で実質的には)余り機能を果たしていないかもしれません。、「扶養控除」がだれをどういうふうに保護しているのか、ということについて、果たして期待される役割を、果たしているのかなという疑問は若干ある。
児童手当の所得制限につきましては、(所得制限以前に)児童手当の金額があの金額でどうなのかということがまずあります。貧しい世帯にとっては余りに少ないですし、豊かな世帯にとっても余り多くない。
「児童手当」、「扶養控除」、「育児休業給付」、「低所得世帯に対する支援」、これらをもう一度よく考え直して、構成し直す必要がある。つまり、低所得で子どもを持った世帯に対して、これらの制度がどう有効になっているかということ。現状では余り有効になっていない。
それから、家計に妻の収入が必要だったのに、出産で仕事を辞めざるを得なかった人、そういう女性に育児休業給付がくるかというと、かなり安定した仕事を持っていない限り(育児休業給付は)こないので、これも余り役割を果たしていない。
もう一度、だれに対してどういう支援が必要かという目的に向けて、もう一度きちんと制度を、(扶養控除だけでなく、児童手当、育児休業給付を含めて)、総括的に考え直す必要があるのではないかと、私としては思っております。
〇田近部会長
ありがとうございました。
ほかに続けてございますか。では、井堀さん、江上さんと続けてお願いします。
〇井堀委員
吉川さんの専門家は効果があるという話なんですけれども、それに質問です。
家族政策関連支出の財政規模と出生率の間について、専門家は効果があるということで、例として、日本はGDP比0.75%で、フランスは2~3%。日本よりもフランスの方が出生率が高いから、マクロで効果があるという提案をされたんですけれども、ただ、日本の場合は0.75という数字は時系列的に見てそんなに変わっていないと思うんですけれども、出生率はどんどん下がっているので、必ずしもフランスと日本のクロスカントリーだけの比較で言われると、本当に専門家はそういうレベルで議論して効果があるとされているのかどうかです。
そうすると、日本とアメリカはGDP比でほぼ同じ0.7ぐらいですが、御存じのように、アメリカの方が出生率が非常に高いので、個々の政策に関して、勿論、ミクロレベルで効果があるということは確かにいろいろいとあり得ると思うんですけれども、財政規模を拡大するというマクロの財源投入がその国の全体の出生率にどのくらい効いているのかというのは、確固とした効果が定量的に検証されていると、分野の専門家が本当思っているのかどうかということを確認したいです。
〇田近部会長
続けて、江上さんお願いします。
〇江上委員
私も80年代から90年代に、このテーマについて、欧州、欧米調査をずっとしてきたんですけれども、近年離れていましたので、少し整理ができていないんですけれども、今の皆様のいろいろな議論を伺っていると、例えば児童手当は財源をどこから持ってくるのかというようなお話をここですぐしますというのは、なかなか難しいと思います。
永瀬委員がおっしゃった、さまざまな観点からの税制の在り方を検討というのは、やはり財政と税制だけの問題ではなくて、いつも大橋委員がおっしゃっているように、ある程度国家観に根差した問題だと思います。日本人の将来を、日本国の将来をどういうふうに考えるのかという観点から議論をしていかないと、結論は出ないのではないかなと思っております。
そこで、人口再生産のコストをどういう社会的配分にすべきかという観点に立って、税制の見直しをしていくという視点が必要だと思います。
もう一つ、スウェーデンなどが出生率を上げていくためには、あらゆることをやったんです。育児休業を8年間にして、その間90%の育児休業を450日自由にとれる制度とか、あるいはパートタイマーを専門化して、同一労働、同一賃金を徹底するとか、あるいは個人別税制を徹底して配偶者特別控除をなくすとか、また年間総労働時間の削減とか、あらゆることをやって出生率が上がってきたということがあります。
ですから、税制だけでは、必ずしもイコールにはならないですけれども、いつも永瀬委員がおっしゃっている103万円の配偶者特別控除が、従来ですと女性の就労継続に抑制効果を上げていることは事実でありますし、今、若い世代が経済力の観点から結婚できない。結果、未婚率の上昇、晩婚化というのも出生率を上げる一番の大きなネックになっているというのも事実だと思います。
そういう意味では、今までの配偶者特別控除というものは、戦後、男性の世帯主を家族の中心とした賃金モデルに合わせた経済的なモデルを前提にしてつくってきたんだと思います。
私は配偶者特別控除を具体的にこれからどうすべきかということは、まだ十分検討はできていないんですけれども、ただ、配偶者特別控除をこのまま継続することによって、それが人口、出生率にどう影響があるのか。マイナスなのかプラスなのか。あるいは女性の就労環境、育児環境について、プラスなのかマイナスなのか。そういうシミュレーションを検討する作業が必要だと思います。
〇田近部会長
わかりました。
では、ここで吉川さんと永瀬さん、それぞれ御回答ください。
〇吉川委員
井堀委員から、クラリファイングな質問をいただきまして、どうもありがとうございました。
私の先ほどの説明は、ちょっと誤解を招いたところがあるかと思うんですが、一国の出生率というのは、マクロで少子化対策にどれだけお金をつぎ込むかという単純な関数ではない。御指摘のとおりで、一国の出生率はさまざまな要因に依存するということは、間違いない。
例えばアメリカの場合ですと、公的なお金は余り使っていない。しかし、出生率は高い。そこによく指摘されるファクターとしては、移民の影響とか、そういうようなこともございます。要は、さまざまな要因に依存する。
したがって、少子化対策にとって問題なのは、少子化対策がパーシャルな効果として、果たして効果があるのかどうか。そういうことです。
さて、それを見極めるときには、マクロでは粗過ぎるのであって、当然個別のミクロの施策を我々が見て、果たして本当に少子化対策として効果があるのかどうか。それをまずは見極めなければいけないことになるのだろうと思います。この点に関して、専門家の多くは効果があると言っているわけです。
勿論、専門的な論文もたくさんあるんだろうと思いますが、例えば一般的な論考としては、たまたま私が目にしたということですが、読みやすい論考としては、財務省あるいは大蔵省のOBでいらっしゃるんでしょうか、現在みずほにいらっしゃる藤井さんという方が、少し前に『中央公論』に少子化対策に関する論考を寄せられて、たしか2か月にわたる連載という形で書かれていたと思います。前半部分はフランスについての例をきめ細かく紹介されているということですが、こうしたミクロの施策が専門家の目、そこに紹介されているようなフランスのさまざまなミクロな施策は効果があるというふうに、多くの専門家が言っているということです。そして、それを積み上げると、フランスの場合、10兆円になる。
したがって、結果として、ミクロの施策として、多くの専門家が言っているような効果があるという効果を積み上げると、マクロの数字として10兆円ぐらいになる。それは、今、日本が使っているマクロのお金と比べて、倍以上、対GDP比で日本は現行0.75%だけれども、2%超ぐらいになるということでございます。
先ほどの私の説明はちょっと言葉が足りなかったかと思いますが、申し上げたいことは以上のようなことです。
〇永瀬特別委員
どういう対策をすると、どれだけの効果があるかということを実証するのは、非常に難しいだろうと思います。
ただ、学生などに話を聞いて、子どもを持つことをどう思うか、持ちたいと思うのか。それとも子どもを持つのは大変そうだ、あるいは仕事と家庭の両立はとても大変そうだと答えるのか、その辺を、一般の人たちがどういうふうに感じるかは、大変大きいだろうと思います。
一般の人たちがどういうふうに感じるかの背景には、例えば保育園の整備状況であるとか、あるいは育児休業をとることがどのくらい可能であるのか、あるいは男性の働き方がどうであるとかが関連します。身近な状況を見た上で、子どもをもつことがはあまり自分の効用を上げるような選択ではないと思うのかもしれない。子どもを持つことが自分の効用を上げるような選択であるならば、皆さんそれを選択するわけですけれども、なかなか子どもを持つことを選択しないということは、そういった社会的な状況整備ができていないということだと思います。
そういった問題を一つひとつ修正していけば、-もしも出生率を上げる方が社会的に最適であるのだとすれば―、そこに政策にお金を使っていくことで、子どもを持つことの効用を改善するということによって、子どもが持たれるようになっていくのではないだろうか。そういう意味では、効果はあるけれども、一般の人たちが本当に実感できるものでないと効果としてはでないだろう。たとえば制度と制度の間のつなぎが悪くて、例えば育児休業をとり終わったら、翌日からフルタイムで出なければいけないとか、あるいは病気で休もうと思ってもかなわないとか、あるいは一旦いつに復帰しますと言ったら、それを必ず守らなければいけなくて、子どもの状況によって変更できないとか、そういった微妙な制度上の設計の問題も大きく関わっていると思います。いずれにせよ一般の人たちが、こういう状況が改善したと思えば、必ず出生率は上がっていくものではないかと思いますし、そうした政策に対して財源は必要かといえば、まさに必要だと思います。
今までの少子化対策は効果がなかったというニュースが大変多いんですけれども、私はこれしか財源を使っていなくて、しかも、メニューだけが長いばかりで一体だれが実感できているんだろうかと思うような少子化対策では、効果がでるわけがないだろうと思います。これで少子化対策を実施したと国民にメッセージを発することが間違えではないか。
例えば介護保険に使っているお金に対して、少子化対策に使っているお金がどのくらい小さいか。実際に介護保険の実施は、高齢者の長寿化を進めています。平均寿命は上がっていますから、きちんと効果を出しています。逆に少子化は進んでいるわけですから、有効な政策が実施されていない、と考えていただきたいと思います。
〇田近部会長
配偶者控除のところは、どうですか。
〇永瀬特別委員
私は常々配偶者控除は大変大きい問題だと申し上げています。特に103万円という微妙な数字が大変問題で、103万円から出ると、次に130万円があるという、幾つもの段差がある。それが男性の給与を通じて、公的年金の支給額にまで影響を与えているような制度に現在なっておりますので、ここは是非変える必要があると思っています。
それと同時に、例えば正規と非正規の賃金格差がもっと縮小するようなより強力な法規制を入れるとか、あるいは控除という形ではなくて、低収入の児童を持っている世帯に対しては別の税制上の考慮をするとか、そういったような規制変化も同時に必要なのではないか。とりあえず、現在の103万円というのは、かなり時代的には取り残された制度なのではないかなと思っております。
〇田近部会長
税に関する103万円の問題は、この税調でも延々とやってきて、103万円から増えたから、一挙に配偶者控除をもらっている配偶者、夫の配偶者控除が飛んでしまうわけではなくて、それは徐々に減っていきます。だから、103万円の壁自身は税制が何かを起こしているというのは、大分改善されていて、例の130万円か幾らか知りませんけれども、その辺りで会社の育児手当がなくなるとか、社会保険料を開始するとか、そこはあると思うんですけれども、女性の方の配偶者控除が103万円を超えると、配偶者控除が一挙になくなるかは問題だ。そのこと自身は、もう議論が整理されていると思うんですけれども、そこはどうですか。
〇永瀬特別委員
1つは、税金ではないんですけれども、企業の配偶者手当の問題があります。
あと、税率という点で言いますと、夫の税率と妻の税率が同時にかかってきますので、それまでゼロだった税率が、妻だけでしたら10%ぐらいですけれども、夫のものも一緒にかかってくると、例えば夫の税率が20%だとすると、妻と合計の30%の税率でかかってくる。それが所得税ですので、住民税がかかってくるともっとかかってくる。
それから、配偶者特別控除がありますけれども、5万円単位で階段状になっていますので、実質の税負担の変化はそれほどきれいでなく、小さい段差があるということを試算したことがございます。
〇田近部会長
今日はそこに入り込むと切りがありませんから、もっといろいろな考え方、意見を承りたいと思いますけれども、香西さん、いかがですか。
〇香西会長
ありません。
〇田近部会長
ほかにだれかございますか。だれでも結構です。上村さん、手を上げていましたね。では、上村さん、佐藤さんで締め切らせてください。
〇上村専門委員
私も井堀先生と同様に、効果のことについて聞きたかったんですけれども、ちょっと視点を変えまして、年金といわゆる子どもに対する社会保障というのは、非常に関係があると思っています。
例えば子どもは将来年金財源を生み出していただけるということでとらえれば、ある種、子どもというのは外部性を持っている。そういう意味では、その外部性にただ乗りする人たちが出てくるわけで、つまり、子どもを産まずに老後の所得保障だけもらうということが出てくる。そうであるんだったら、そこが、ある種、少子化を生んでいることを考えると、この少子化の状況をどうやって是正するかというのは、年金給付を下げていくか、もしくは子どもに対する社会保障の手当をどうやって増やしていくか。2つしかないわけです。
そういう意味では、今、言われている公的な子どもに対する保障というのは、高めていく方向が望ましいかなと思っています。これは1つコメントです。
それを具体的にどうするかなんですけれども、1つは税制でできることは、例えばフランスのN分N乗方式をどう考えておられるのかとか、例えば社会保障の控除がありますけれども、ちょっと記憶が定かではないですけれども、ドイツでは介護保険だと思うんですが、子どもの数がたしか控除の数が変わってくるということを聞いたことがあります。つまり、社会保険料控除を子どもがある家庭は控除の金額が多くなるということを導入していると聞いたことがありますけれども、いわゆる、個人単位の税制を世帯単位に変えていくようなところも、今後考えていかないといけないのではないかと思っていますが、いかがでしょうかということです。
〇佐藤専門委員
私も少し目先を変えて、少子化というのは問題なのか、あるいは問題の結果なのかということを考えたときに、よく学生と議論するんですけれども、少子化はやはり日本社会の問題の結果であろう。
1つは、例えば格差の問題ですし、若い人たちの雇用の不安定化の問題ですし、男性中心のというのは最近少しずつ変わってきてはいるんでしょうけれども、やはり雇用形態の問題、つまり、労働市場の硬直性の問題だと思います。
恐らく少子化対策というものをキャッチフレーズにして、こういう個別の問題に取り組んでいきましょうというのは、ある意味で、政策的に考えていい戦略だと思うんですけれども、やはり基本的にはそういう個別の若者の雇用問題は、当然、税制の問題で言えば、アメリカで言うところのEarned Income Tax Creditみたいな議論も出てくるかもしれませんし、永瀬先生の報告にもありましたように、若者の労働訓練といった議論にもなってくると思いますし、あと、労働市場の問題は規制緩和と関わってくるし、企業の協力体制をどうするかという議論になってくるし、少子化の方に力点がいくけれども、もう少し地道な努力の積み重ねが、結果として、子どもを持ちやすい環境につながっていくのではないかなと思うんですけれども、それはどうですかというのが、クエスチョンというよりコメントです。
1つ税制というものとの関係でいけば、確かに御指摘のように、所得の低い人はもともと税制からは何のメリットも得ないものですから、例えば児童手当であれ、そういったものを税制の中に組み込んで、いわゆる負の所得税みたいな発想、あるいはアメリカのEarned Income Tax Creditのような発想、そこまで視野に入れて議論されていくのがいいのかどうか。それは質問ですが、その辺も御意見をお聞かせいただければと思います。
〇田近部会長
では、どうぞ。
〇吉川委員
私からも一言ですか。
〇田近部会長
お願いします。
〇吉川委員
今の佐藤さんが少し、私の方にも関わるかと思いますが、私は少子化は問題だという認識です。いろんな問題があるから、少子化が進んでいるという面もあるということは、御指摘のとおりだろうと思います。しかし、少子化自体問題なんだという認識を持っているということです。
今から10年ぐらい前でしょうか、東京で開いた国際コンファレンスで、アメリカの学者がやってきて、勿論半分冗談なんですが、2100年の日本の人口推計を出してみたと言って、たしか八十何人という、そんなような話になっていたんですが、少子化というのはそれ自体として問題だという認識でいるということです。それに尽きると思います。
〇田近部会長
では、永瀬さん、お願いします。
〇永瀬特別委員
ちょっと質問が何だったかなというところです。
でも、それとは関係ないかもしれないですが、前に全国消費実態調査を特別集計した結果なんですけれども、妻の家計に占める収入がどのぐらいの割合であるかということなんです。今、大体2割です。夫が8割、妻が2割。勿論ゼロもたくさんいますけれども、平均してということです。
欧米諸国では、もうそういう家計の状況ではないです。妻の収入割合はもっと上がっています。今までの日本は、多分、夫のみの収入で暮らしていける側面があった。これは前に報告された大竹先生の書かれた本にも示されていますが、90年代、欧米で労働市場が格差拡大と変わっていったのに対して、日本は男性常用雇用者の収入は安定して推移していたということがあります。なので、主に夫が稼いで、妻は補助的にということで生活が成り立っている状況が、欧米では早くなくなったんですけれども、日本は90年代も続いたんだと思います。それが、今、若い層では崩れてしまってきている。特に90年代後半、98年以降です。ですから、これから結婚、出産するような層で本当に急速に変化が進んでいることだということです。
ところが、日本の児童に対する制度あるいは高齢者に対する制度、妻に対する制度など、世帯に対する制度は、すべて90年代より前の雇用を前提としているので、若い年齢層でなかなか家庭が形成できていけない。若い世代は意識としても変化を感じている。少子化というのは若い世代の話ですから、日本全体の人口にしめる割合は若い層は少ないかもしれませんけれども、この層に注視した政策をする必要があるのではないかと思っております。
〇田近部会長
どうしましょうか。上村さんからは、例の子どもの数に見合って負担を調整するような考え方もありますねということ。
佐藤さんからは、児童手当という形の給付というものを、要するに、若くて所得のない人たちが子どもをこれから産む、あるいは育てていくという環境の中で、税を通じる世帯への支援としては、給付ではないか。給付というものを、例えば児童税額控除という形でやったらどうだという御質問だったと思います。
〇永瀬特別委員
アメリカのEarned Income Tax Creditについては、阿部彩さんという方が『海外社会保障研究』に論文を書いていらっしゃいますけれども、アメリカの場合は、有子世帯は、所得の高い層は扶養手当でもって税から支援を受けている。所得の低い層は、負の所得税のところで支援を受けているということで、全体に子どものいる層に対しては、いろいろ支援がある。扶養控除だけですと、所得の低い層には支援がなくて、所得の高い層にだけ支援があるという状況になります。
所得の低い層に対してどういう支援があるかというと、今、ネットカフェ難民みたいなこともテレビで言われたりしていますけれども、要するに、日本の制度の中で、低収入の働ける層に対する支援措置というのが、極めて薄かったのではないかと思います。
EITCというのは、日本とアメリカの労働市場はかなり違うので、果たして効果はどうなのかというのは、ちゃんと考えてやる必要があるとは思うんですけれども、検討できるオプションの1つなのではないかなと思います。
〇田近部会長
ありがとうございました。
次のテーマがあるので、ここで少子化の方は区切りとして、2つ目のテーマの欠損法人の分析に入りたいと思います。
報告は八塩さんからしていただきますけれども「日本の欠損法人に関する考察」ということでお願いします。この問題は日本にとっても非常に古くて新しい、また世界的にもいろいろな形で起きている問題だと思います。
特にこれからお話いただきますけれども、日本の中小企業がどうして欠損法人になっているのか。またそれに関連して、アメリカやヨーロッパ諸国の中小企業あるいは個人事業者がどのような形で、税負担に対する対応をしているかというところがポイントかと思います。
早速、八塩さんに報告願いたいと思います。済みません、少し押してきたので、30分弱ぐらいでお願いします。
〇八塩専門委員
京都産業大学の八塩と申します。
今日は専門委員といたしまして、日本の欠損法人が比較的多いのではないかということで、報告してくれということでございますので「日本の欠損法人に関する考察」を報告いたします。
スライドの2枚目「1.はじめに」という項ですけれども、最初にここで報告の概要を説明したいと思います。
日本の法人、特に中小法人で比較的欠損法人が多いという指摘があります。いわゆる平成不況に入りますと、下にグラフが書いてありますけど、その比率が更に上昇しております。例えば昔の平成初期のバブルのときでも、その半分ぐらいが実は欠損法人だという指摘があります。
欠損法人がこれだけ多いのは、ちょっとおかしいのではないかという指摘があります。本来こういう欠損法人には資金が集まらないということで、存続できないというようなことを考えますと、ちょっとおかしいのではないかという指摘が比較的あるということです。
スライドの3枚目ですけれども、こうした中小法人に欠損法人が多いという原因の1つに、租税回避動機が影響しているのではないかという指摘があります。中小法人の多くというのは、オーナー経営者なんですけれども、オーナー経営者といいますのは、ここで言う経営者と労働者と資本家が同じ人だとイメージしているんですけれども、そういう人たちというのは、会社が支払う法人税だけではなくて、オーナー自身が支払う個人所得税まで含めて、トータルで実は税負担を最小化するというような租税回避動機があるのではないかということが指摘されております。
具体的にどういうことかということですけれども、スライド3枚目の下に図を書いておりますので、ごらんください。
そうした中小法人が所得を稼いだときに、法人の所得に対しましては、いわゆる軽減税率等々を含めまして、大体30%ぐらいの税がかかるわけですけれども、例えばこれを法人の所得としてではなくて、オーナー自身の給与として分配しますと、これには給与所得控除、ほかにも所得控除が入るわけですけれども、大きいものとしては給与所得控除なわけですが、これが適用されますので、要は個人所得税の課税所得が大きく縮小するということがあります。したがいまして、住民税も含めますけれども、個人所得税の限界税率が結局法人税の限界税率の30%よりも低くなりますので、ここで限界税率の裁定が起きるということです。要は、給与として分配することで、法人所得をゼロとして、それによって、法人税ではなくて個人所得税を支払うことで、トータルの税負担を軽減しているのはないかというようなことが指摘されております。
スライドの4枚目ですけれども、もう一つ話があります。実は個人形態の事業者というのが、法人に転換しているのではないかということが指摘されております。
といいますのは、これも4ページの下に図を書いておりますけれども、事業者が個人形態で事業を行った場合には、いわゆる事業所得になりますけれども、これが法人に転換をいたしまして、先ほど3ページの図で説明したように、法人に転換して、法人所得ではなく自分の給与として配ることにいたしますと、給与所得控除というものが適用されます。同じメカニズムでありまして、法人段階で損金算入されるとともに、個人所得税の課税ベースが小さくなるということで、そういう租税回避があるのではないかというようなことが言われております。つまり、個人自営業者の法人化というのが、税によって必要以上に促進されているのではないかというような指摘があります。
以上、3ページと4ページをまとめますと、欠損法人が多い背景の1つには、中小事業者、いわゆるオーナー経営者が資本所得や事業所得を給与所得に形態転換するというような租税回避的な行動があるのではないかということが指摘されております。
スライドの5ページ目ですけれども、こうした実態といいますのは、実務の世界では比較的指摘されているようです。例えば野口先生の御本ですとか、ほかにも実務家の方々が書いた論文の中には、比較的多く見られております。
いわゆる学問的な論文ということでは、非常に数が少ないんですけれども、田近部会長と私の論文が1つあります。
実務家の方のコメントということで、1つ水野先生ほかの対談記事を5ページに載せております。これは対談記事の中で出たコメントでありますけれども、ここでは日本の企業というものは、いわゆる組織型の大企業とオーナー企業に分けまして、オーナー企業ではいわゆる税制上のメカニズムがあるということを指摘した上で、5ページの一番下ですけれども、いわゆる欠損法人がどうして存在できるのかということを指摘したところです。
つまり、利益を一旦報酬として受け取って、法人の損金として落とした上で、再度オーナーの方が会社に対してお金を貸します。これをここでは第二資本金という言い方をしていますけれども、そういうことを結構していると、欠損が10年続いても会社はつぶれないという理由があるということです。これをこの対談では、税制上のメカニズムというような言い方をしております。
今のが日本で言われている話ですけれども、次にスライドの6枚目ですが、実は同じような話が欧米の方でも指摘されています。いわゆる中小事業者のオーナー経営者というのは、いわゆる所得形態を転換するということで、租税回避的な行動をしているということが、これは学術論文の中でも報告されておりますし、税の執行の点からもかなり強い関心を集めているということです。欧米ではこれはインカム・シフティングといいます。
今回は書類が見にくくなりますので、論文を一点一点報告することはいたしませんけれども、かなり多くの論文が出ております。
ただし、欧米の方ではむしろ日本とは逆でありまして、日本の場合は給与の税率が低いということで、法人所得や事業所得額を給与に転換されるということでしたけれども、むしろ、欧米の方では労働所得が資本所得に転換されるということが一般的に行われていると報告されております。具体的にアメリカや北欧諸国がありますが、この辺については、後ほどまた御報告いたします。
ここで言いたいことは、日本におけるいわゆる所得形態転換、給与に変えるというタイプの租税回避的行動と言いますけれども、これは欧米でも違う形で発生しているということであります。むしろ、所得形態を自由に労働資本へ転換させる。要は、課税ベースを選択するといいますのは、いわゆる中小事業者の1つの特徴かもしれないということです。
こうした行動がもたらす問題点というものを、6ページの下に書いております。
1つは、税収ロスということでありまして、税収ロスがもしこうした租税回避的な行動によって発生するときに、その分、税率を引き上げなければいけないとすると、これは税制による非効率が発生するということだと思います。
もう一つ、2点目としては、不公平ということです。こうした租税回避をできる人とできない人がもしいるとすれば、不公平が発生する。これは一般的な議論ですけれども、こういう点はあると思います。
これが今日の問題意識というところであります。
以下、スライドの7ページ、8ページ以降ですけれども、報告を続けていきたいと思います。
まず7ページ、今日の概要ですけれども、欧米の話を先にいたしまして、その後、日本の話をいたします。最後、論点整理にいきたいと思います。
スライドの8ページですけれども「2 欧米の事例」ということで、簡単に説明いたします。
「中小事業者の行動と税に関する議論」ということで「1 伝統的な議論」ということでありますけれども、いわゆる個人所得税の包括的所得税と法人税というものがあります。したがって、資本所得に対する二重課税がかかるというような議論があります。
これは8ページの下の図に書いてあります。この図といいますのは、1段目に給与、事業、利子、配当、キャピタルゲインとありますけれども、所得の発生形態を問わずに、個人所得の段階ではすべて合算して課税するんだというようなことで、これを包括的所得税と言います。これに対しまして、配当とキャピタルゲインのところにつきましては、法人段階で法人所得税が課されるということになりますので、いわゆる資本所得に対する二重課税だということで、これが歪みをもたらすんだという伝統的な議論です。
どんな歪みかということですけれども、3つ書いてあります。
法人の投資を歪める。
事業形態選択を歪める。要は、法人形態を税制上不利にしているということがあります。
資金調達方法を歪める。
こんなような問題があります。
スライドの9枚目ですけれども「2 近年の議論」といたしましては、今までの議論は資本所得の税率が高いんだという議論でしたけれども、どうも実態はそうではなくて、最近、資本所得の税率が低いのではないかという議論があります。これによって、中小事業者の方は、特に資本所得に所得を転換させるというようなことをしているのではないかということです。
9ページの(1)ですけれども、まず中小事業者の方々の場合は、法人税の二重課税というのは余り深刻ではないという議論があります。
図としては、9ページの下に書いてありますけれども、要は配当をしない。二重課税されるからというのはありますけれども、余り配当はしないということがあります。もし、個人の方に所得を分配するのであれば、給与でやるとか、そういったようなことでやりますので、余り二重課税は深刻でないかもしれない。これ自体が法人税の歪みかもしれませんけれども、とりあえず、そういうことです。
一方、法人に所得を留保いたします。そういたしますと、例えば所得の高い富裕階層といいますのは、一生懸命所得を稼いで、限界税率が高くなってきますので、そこで法人を設立いたしまして、そこに所得の一部を留保いたします。そうしますと、要は、給与に対する限界税率と法人税の限界税率を裁定するということで、法人所得に所得をシフトするというようなことが知られております。
(2)の議論ですけれども、先ほど8ページの議論では、包括的所得税ということを言いましたけれども、実際は包括的所得税ではなくて、乖離をしている。例えば資本所得に対しては、税率は軽減されておりますし、労働所得に対して社会保険税ということで、追加的に税がかかっているという流れです。10ページの下の図に書いてあります。
もう一つは、二重課税を避けるような新たな事業態、パートナーシップやS法人というようなことがあります。
今までの9ページと10ページをまとめますと、実態としては、いわゆる資本所得の方が税率が低くて、どちらかというと、そちらの方にシフティングが起きている。欧米の方ではむしろ主流だ。最近指摘されていることです。
スライドの11枚目です。時間がありませんので簡単にいきたいと思いますけれども、もう少し具体的な事例を3つぐらい御紹介します。
11ページの上に書いてございますのは、アメリカのケースです。1986年のレーガン大統領の税制改革のケースです。ここではいわゆる個人所得税の最高税率というのが、法人税率よりも下げられました。図に書いてあります。
その結果、それまで富裕階層というのは、先ほど9ページの図で説明しましたように、法人に所得を留保していたんですけれども、税制改革の直後につくっていた法人は一斉に解散いたしまして、所得を一斉に自分の給与に転換したということが報告されております。これは単にエピソード的ですけれども、報告されていますし、勿論、学術論文でも報告されております。
もう一つの例は、スライド12番ですけれども、アメリカの「(2)S法人による社会保険税の租税回避」というものがあります。S法人とは何かと申しますと、法律上は法人、要は有限責任などのメリットがつくわけですけれども、税制上は導管として、法人税は課されずに個人所得税が課される。そういう事業体であります。この場合、S法人が稼いだ所得といいますのは、給与と配当に分配いたしまして、その後、個人所得税が課税されるというような構造になっております。
ここのポイントは、12ページの下の図に書いてありますけれども、給与には実は社会保険税というものが課税されますけれども、配当にはこれが課税されないということです。
したがいまして、12ページの下の図でいきますと、個人自営業者というのは、いわゆる事業所得でありまして、この方は社会保険税を支払わなければいけないわけですけれども、これがS法人になりまして、所得は給与と配当なんですけれども、配当の方にすべて分配するということで、社会保険税負担の軽減が起きていることが知られております。
スライド13番ですけれども、次はアメリカではなくて「北欧諸国の二元的所得税のケース」というものがございます。
北欧諸国といいますのは、1990年代以降、いわゆる包括的所得税、労働も資本も全部合算して課税するというところから、いわゆる二元的所得税に移行しております。
二元的所得税は、スライド13枚目の下に書いてありますけれども、すべての所得を労働と資本の2つに割りまして課税するということです。資本所得には低い税率を適用しております。
ここで話が出ましたのは、いわゆる事業所得であります。個人で事業を行う事業所得であります。事業所得といいますのは、自分が労働をして稼いだ所得とともに、投資をして、資本所得もございますので、事業所得については2つに分割しております。
分割の方法というのは、計算式に沿って行う。詳細は時間もございませんので、省きますけれども、労働所得に分割するんですけれども、このときに、いわゆる中小事業の方々が税率の高い労働所得税ではなくて、資本の方に所得を、ある意味頑張ってといいますか、転換する。インカム・シフティングするというようなことで、そういうことが起きた。要はこれをどうやって止めるかということで、税当局との話が起きたということが知られております。
スライドの14枚目ですけれども、以上簡単にぱっといきましたけれども、欧米では中小事業者、いわゆるオーナー経営の方になりますけれども、労働所得から資本所得へインカム・シフティングが起きていると言われております。その性質や政策当局の対応は、以下の点でかなり共通しているのではないかということを、3点挙げております。
1つ目は、経済実態を伴うというよりは、勿論そういうケースもあるんですけれども、単なる税負担の軽減という側面が結構あるということです。例えばアメリカのS法人の場合では、例えば給与と配当に所得を配るわけですけれども、全部配当に所得を寄せてしまうということです。これは勿論給与で、全然労働していないというわけではなくて、労働は恐らく普通にやられているんですけれども、所得のつけかえという意味で、配当ということをやっているようです。
2番目ですけれども、各国の税務当局がこの問題については課題と考えているようだということです。実際、二元的所得税のノルウェーでは税制改革が行われたということですし、アメリカのS法人の話に関しては、財務省の報告書が上がったということがあります。
3番目ですけれども、執行の強化でこれを防止することは難しいようです。例えばこれは給与が過少というようなことで、否認できるような法律はあるようなんですけれども、実際にこれを1件1件やりますと、非常にコストがかかるということで、不可能だということが書かれています。
ということで、欧米の方では、いわゆる中小事業者の方が労働から資本へ所得をインカム・シフティングしているというようなことが数多く指摘されているということでございます。
スライドの15枚目ですけれども「3 日本の欠損法人について」考察してみたいと思います。
日本に欠損法人が多いと言われるわけですけれども、1つには欧米と類似の租税回避的な行動があるのではないかということです。
欧米ではとにかく資本所得の方へ所得を転換するということだったんですけれども、日本ではむしろ労働所得に対して税率が低くて、労働所得に対するインカム・シフティング。労働所得も具体的にいうと、給与所得ということでございます。
日本の特徴といいますのは、欧米の場合ですと、資本所得と労働所得の税率の裁定ということだったんですけれども、日本の場合でも、税率の裁定には行き着くわけですけれども、税率構造とともに給与所得控除というものが重要だったのではないかという点が1つ特徴的であろうと思います。
そこに2点挙げております。
先ほど説明した話でありますけれども、1つ目は法人のオーナー経営者の方が所得を法人に留保せずに、給与として分配する。そうしますと、給与所得控除が適用されて課税所得が縮小するということで、税率の裁定でありますけれども、結果として税負担が軽減できるという話です。
15ページの2番目ですけれども、個人自営業者の方が事業形態転換をする。要は、事業所得には給与所得控除が適用されないので、法人になりまして、給与として分配することで税負担が軽減されるということです。そうしますと、事業を法人化することについて、メリットもあるわけですけれども、税がそれ以上の法人化を促進しているのではないかというような議論が考えられるということです。
スライドの16番目ですけれども、今まで欧米は絵で描いてきましたので、日本のケースを絵で描いたものが16ページの上です。
ここでは真ん中に事業所得がありますけれども、給与の税率が低くなっています。税率が低くなるというのは、ここでは給与所得控除だと思いますけれども、これによって個人事業者の方が事業から給与に所得を転換する。
勿論、法人所得に留保する選択肢もあるんですけれども、結果として、税制上の話から給与に転換するということで、資本から労働へという所得のインカム・シフティングが起きているのではないかということであります。
留意点もあります。
最初の1つは、日本では実は実証研究が非常に少ないので、私はかなり威勢よく言ってきましたけれども、そういう点はございます。エピソード的な話はありますけれども、実証研究が少ないというのが1点ございます。
留意点の2つ目ですけれども、日本では社会保険の問題があります。要は個人事業者が法人になりますと、社会保険の加入が義務づけになるということで、これは税負担ではないかということも考えられます。ここにつきましては、余り定かではございませんが、例えば中小法人の場合は、いわゆる社会保険には余り入っていないのではないかというような調査結果もあります。社会保険の問題については、かなり微妙な問題ですけれども、今日この問題はスキップして議論を進めたいと思います。
スライドの17ページですけれども、まず日本の税構造が本当に給与に所得を分配させるようなインセンティブを与えているのかどうかというところを、17、18ページで説明したいと思います。
17ページの図は、横軸に給与を示しております。500万円、1,000万円、1,500万円と書いてあります。
500万円のところに縦線が入っていますけれども、これがちょうど2005年の有限会社の役員の平均給与になっています。
この図の縦は、給与を分配しますと、その給与に対して所得控除が適用された上で残ったのが課税所得になりますので、それぞれの給与が所得控除と課税取得がどういうふうに分配されるかというのを、図の縦軸で書いてあります。
とりあえず、有限会社の役員平均給与の500万円で議論させていただきますと、まずそもそも個人形態で事業をしていた方が法人になって、500万円の所得を給与として分配いたしますと、これに対して給与所得控除というものが大体150万円ぐらい適用されるということになっております。これに対して、人的所得控除が更に適用されますので、課税所得というものは、全部で250万円ちょっとぐらいというような課税所得になるということです。
こうしますと、個人自営業者の方というのは、事業所得ですと給与所得控除は適用されないわけですけれども、法人になることで、課税ベースを大きく縮小できるというような性質があるということです。
もう一つありますのは、給与所得控除です。この図でいきますと、給与所得控除というのは、給与額が大きくなると、だんだん大きくなるというような制度になっているということも1つつけ加えておきたいと思います。
18ページですけれども、そういったときに、例えば給与として分配するのではなくて、法人に留保するというような選択肢もございます。
その辺はどうなのかということでありますけれども、18ページの図は少し見にくいんですけれども、これは1965年から実質所得ベースで評価しております。例えば所得が1,000万円、1,500万円、2,000万円の人たちが、最後、法人に所得を留保するか、自分に対する給与として所得を分配するかというときに、税負担最小化のときに、どういうふうに所得を分配するかということを示したのが18ページの図です。
図は若干見にくいんですが、例えば所得が1,500万円でありましても、1990年代の一部を除いては、全額法人に所得を留保せずに給与として分配した方が税負担が軽減されるというようなことが、この図には書かれています。
特に、先ほど17ページでいいましたように、給与所得控除というのは、自分の給与を分配するほど給与所得控除も大きくなる。実はそういう構造を持っておりまして、1,500万円のように比較的高い所得を稼ぐ人でも、法人に留保するのではなくて、給与として分配する方が税負担が軽減できるという構造になっているということです。
〇田近部会長
少し簡潔にお願いします。
〇八塩専門委員
実際にそういう行動を起こしているのかということが、スライドの19ページに書いてあります。
日本は非常に実証分析が少ないということですけれども、2点ほど挙げてあります。ここは今日は省略いたします。こういうことがどうもありそうだということです。
20ページは「4 論点整理(一般的な議論として)」ということでありますが、ごく簡単にいきますと、欧米の論文などを読みますと、中小事業者の課税というのはシンプルにすべきではないかということです。
要は、複雑な税を組みますと、インカム・シフティングを起こしやすいので、極力シンプルにすべきではないかということです。
例えば中小事業者に税を優遇すべきだという議論もありますけれども、効果が余りはっきりしない。理論的にもはっきりしない上に、こうしたインカム・シフティングが起きる可能性があるということが言われております。
21ページは、一般的な議論でありますけれども、税制の非効率性は正す方向が望ましいということで、例えば法人の欠損の繰越しは認めた方がいいという話があります。新規開業の法人というのは欠損になることが多いわけですから、これに対しては欠損の繰越しも認める。いわゆる税制の非効率は正すということだと思います。
ただ、日本の場合は、欧米と違いまして、必要以上の欠損を促進する構造になっていますので、この点をどう考えるかという留保はつきますけれども、そういうことであろうと思います。
一番最後の22ページですけれども、ここは今日の議論にかなり即した論点だと思います。
まず「3 法人税・所得税をトータルで考える必要がある」ということだと思います。中小事業者の方々というのは、法人税・所得税の両方を見ているところがありますので、トータルで考える必要があるということです。
一番最後ですけれども、これは日本の特徴だと思いますが、欧米のような単なる税率の裁定ではなくて、税率の裁定というのはありますけれども、根っこに所得控除があるということです。
所得控除によりまして、その所得については税額がゼロになりますので、政府の税収ロスも多くなるし、発生する不公平も深刻になるということだと思います。
よく言われる話としましては、所得控除の税負担軽減効果というものは所得の高い方に及ぶということが言われておりますので、そうした点でも留意する必要があるかなと思います。
説明は以上です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。
あとは、御自由に御意見、コメントをお願いします。手を挙げていただけますか。大竹さん、上月さん、國枝さんまで簡潔にお願いします。
〇大竹専門委員
コメントが3点あって、1つはスライドの15ページなんですけれども、日本で欠損法人が多いことの背景の1つに、租税回避行動があるのではないかというところなんですけれども、それは欠損法人にかかっているのかよくわかりにくい文章で、まず欧米で欠損法人が多いのか少ないのかということと、日本の欠損法人で租税回避行動が行われているのかどうかというところが、少し混乱しているように思いました。
おっしゃりたいことは、とにかく欧米とは関係なくて、欠損法人が多いのは租税回避行動から起こっているのではないかということだと思うんですけれども、それでいいのかどうかということです。
2番目は、今のことと繰り返しになりますが、ここにどこにも書いていなかったんですけれども、欧米ではそもそも日本と比べて欠損法人が多いのか少ないのかということを教えていただけたらと思います。
同時に給与所得控除についても、日本独特で海外にはなくて、日本だけの特徴であるのかどうかということです。そうであれば、例えば欠損法人の大小と給与所得控除のある国とない国で関連があるのかどうかということが示せるのではないかなと思います。
3点目は、この結果から言えることは、給与所得控除をもう少し小さくしろとかなくせというのが一番おっしゃりたいことなのかどうか。そのことを質問したいと思います。
〇田近部会長
では、続けて、上月さんどうぞ。
〇上月特別委員
今の大竹先生のお話にちょっとつながりますけれども、今の税制そのものが租税回避と盛んにおっしゃっているんですけれども、個人の事業者の場合ですと、給与所得控除がありませんから、出た所得はそのものに対して基礎控除が引かれて、そのほかいろんな所得控除がありますけれども、即それが課税されることになります。
それに対して、給与所得者というのは給与所得控除があるわけですから、それを中小法人が使うことが租税回避なのかもしれないけれども、本当にそれは悪いことなのかどうか。1点は税制の問題です。その点は違和感があります。
もう一点は、21ページのところで「日本では、欧米と違って必要以上に欠損を促進する構造となっている」とおっしゃっているんですが、例えばどういう点で、欠損の繰越しの期間が7年になりましたけれども、そういう問題をおっしゃっているのか、どういう点でこういう言葉が出てきているのかというところをお伺いしたいと思います。
〇田近部会長
國枝さん、どうぞ。
〇國枝専門委員
今回発表がありました中小企業に関する租税回避の話というのは、私も興味を持っていますし、確かに欧米でよく指摘されていることだと思います。そういう意味で、重要な点を御指摘だったと思います。
コメントですけれども、中小企業の税制について日本で話をする際に、特に欠損ということに着目すると、よく言われるのは、費用の部分です。特に交際費などですけれども、必ずしも本来の事業と関係ないところが費用として出てきているのではないか。よくランチや食事に行きますと、領収書をもらって帰られる方を見かけたりもするわけですけれども、そういうものについては、どう考えるか。
また、ここでは資本所得と労働所得の話が出てきていますけれども、消費課税というもので、そういうところもつかまえていくという発想があるのではないかというのが1点です。
もう一点は、中小企業といいますか、むしろ同族経営の話ですけれども、同族経営の話については、最近、学会ではガバナンスの観点から、同族経営の非効率性というのが指摘されていますけれども、その辺をどう考えるかという2点です。
〇田近部会長
多岐にわたりますけれども、ここでお答えください。もう1ラウンドぐらいはいきます。
〇八塩専門委員
ありがとうございました。
ちょっと時間も限られていますので、表現はかなりはっきりと言ってしまうところもありましたので、その点に関しましては、おわび申し上げます。
最初は大竹先生の御指摘でございますけれども、3点ほどございまして、15ページの一番上の欧米と類似の租税回避的行動につきましては、まさに大竹先生の御指摘のとおりで、欧米の方ではむしろ労働から資本に所得を持っていくということであります。そういう意味で、類似といいますのは、所得の形態転換という観点で類似ということです。
したがいまして、欧米の方では、実態ではないですけれども、欠損法人というよりは、むしろ法人の方に所得を持っていく。今日の枠組みで言えばですけれども、そういうことであろうと思います。実際にそういうことが起きているかどうかは、定かではございません。
2番目の御質問ですけれども、欧米で欠損法人が多いのかどうかということで、例えばアメリカでは欠損法人比率が60%、ドイツで37%、フランスで48%というような数字があります。一応、日本の方が欠損法人比率は高いということになっておりますけれども、ただ、法人の形態なども全然違いますし、毎年、諸外国で追っているわけでもないということなので、一概にこれでもって日本が多いということを言えるかどうかは、かなり微妙ではありますけれども、一応こういう数字になっているということです。
給与所得控除は日本特有のものかということですけれども、フランスで何かあるというのは聞いたことがありますけれども、フランスの欠損法人の話は調べておりません。
例えばアメリカなどですと、給与所得というのではなくて、所得全般に対してみなし控除みたいなものが一律で与えられるというようなことで、日本のように所得形態に対して控除が認められるというのは、ほかの国でも余りないような気はいたします。フランスについては、調べたいと思います。
給与所得控除について、縮小をすべきかという御質問がありました。給与所得といいますのは、かつて税調でも議論されておりますし、実際の経費に対して過大だというような議論もあるということは、私も知っております。
ただ、今日の話につきましては、一応、調査分析でもありますし、そういうことまで踏み込むというよりは、1つの日本の税制の実態として、こういう話があるということを御紹介したということにとどめさせていただきます。
上月先生の御質問は、本当に悪いことかどうかということですけれども、悪いということではございません。
言葉が少し走りまして、申し訳ございません。税制の構造として、そういう構造があるということだと思います。これは実は日本特有の話ではなくて、欧米の方でも形態は違うけれども、幅広く行われていることでありまして、中小事業者ということはいいとか悪いというよりも、どうしても、自分で申告書を書いて提出する以上、こういうことは普遍的に起きるものだということで、そういうつもりで申し上げました。
2つ目は、21ページの欠損を促進する構造ということでありますけれども、ここで言う必要以上に欠損を促進する構造といいますのは、税制の構造上、給与に所得を出してしまうというような構造になっているということです。欧米の方では、一般的な話として、労働から資本の方に所得を持っていくのがあるのに対して、日本ではむしろ逆だということです。
したがって、日本で欠損の控除を余り無制限に認めてしまいますと、それがいわゆる租税回避といいますか、それを促進させてしまうかもしれない。そういうことで申し上げた次第です。
國枝先生のお話でありますけれども、交際費の在り方等々ということです。中小法人に関しましては、先ほども少し申し上げましたけれども、交際費とかそういうことで、かなり話は万国共通ということで、欧米の交際費は私存じませんけれども、中小事業者の方といいますのは、どうしてもこういう問題はどこの国でも起きている問題のようで、ほぼ一致している話だと思っております。
消費課税でやるべきかということですけれども、それは勿論1つの考え方であろうと思います。
同族経営の非効率性の話ですけれども、ここでインカム・シフティングが起きますのは、やはり同族経営で、自分がオーナーで労働者で資本家でという企業において、やはり給与や配当が自由に分割できる。そういう話が指摘されておりますので、これを非効率性と見るかどうかはあれですけれども、そういう性質は非常に強い問題だろうなと思います。
〇田近部会長
続けて、井上さん、神野さん、松田さん。簡潔にお願いします。
〇井上特別委員
委員のお話の中で、まず中小企業という言葉は、分けて考えてもらわないといけないのではないか。小規模企業と中堅中小企業。今、言っておられることは、小規模零細企業のことなんです。大体2人、3人の企業というのは、確かに非常に多いんです。約370万社ある。雇用従業員というのが980万ということでして、ただ、そこの付加価値というのは、大体製造で20兆円、小売で20兆円という非常に少ないところであるということを、まず認識しておいてもらいたいと思います。
やはりどうしても所得が安い労働所得と経営所得、安い方に流れる。これはやむを得ないわけでして、やはり法人税が安ければ法人の方に、所得税が安ければ所得税の方にという、これはやむを得ないことだろうから、できれば同じようなレベルに持っていく。今、日本は法人税が高いわけですから、そういう点からいうと、そういう方向に持っていかないといけないのではないかというようなことも考えます。
租税回避ということなのかどうなのか。余りそういうことで決めつけられるのは、非常に問題があるのでないのかなと思いますので、ちょっと申し上げておきます。
〇田近部会長
神野さん、どうぞ。
〇神野会長代理
どうもありがとうございました。
私は一般的な話として、租税回避を問題として取り上げるときに一番重要な点は、ある税金で租税回避をすると、他の税金の負担が重くなる。ないしは給付が少なくなってしまうというふうに、有機的に関連づけることは重要だと思います。これは借款国の思想です。
そういう観点からいって、先ほどスカンジナビア諸国の二元的所得税のお話がございましたが、スウェーデンしか私は実態調査をしておりませんので、スウェーデンの例でいけば、ここで言っている給与所得と事業所得の所得を資本所得の方に移せば、スウェーデンではここの給与所得と事業所得は年金の負担とリンクしています。しかも、確定拠出型の賦課方式という最も自分たちがつくった制度だと自負している制度があって、所得比例、つまり、賃金や事業所得に比例して年金が給付されるんです。これをやると、この人は年金を要らないという意思を表示したことになりますから、通常、私はそういう現象を見たことがないんです。
つまり、逆で、普通申告書が回ってくると、自分の所得税というのはこんなに軽いわけがない。修正申告して、重いと言わないと、年金が地獄になりますから、こういう例が本当に生じているのかどうかということです。
ちなみに申し上げておきますと、うそか本当かちょっとわかりませんが、イタリアが財政再建をしたときには、徴税を非常に上げたわけですけれども、徴税が上がった1つの理由として、スウェーデン型の年金を導入したことが挙げられておりますので、これは幾つかの制度を考えてみないと、労働ないしは事業所得から資本所得の方に移行させるということが必ず起きているとは言えないのではないかと思います。
〇田近部会長
続いて、松田さんどうぞ。
〇松田委員
コメントだけです。
欠損の繰り延べについてなんですけれども、日本は何年か前に5年から7年に延ばしたわけですけれども、実は私はこれに反対で、今でも反対でして、例えばこれを2年ぐらいでやめてしまう。いつまでも赤字を抱えている企業は生きていく資格がないと思います。
仮にこれをやめると、大手銀行が一斉に税金を払い出して、恐らく来年度の税収で1兆円ぐらいだれも文句を言わずに税収が増えるという結構なことになると思いますので、繰越し欠損の期間短縮は、是非今後の税調の検討課題に挙げたいと思います。
〇田近部会長
では、手短にお願いします。
〇八塩専門委員
どうもありがとうございました。答えやすい質問から、お答えします。
神野先生のお話でございますけれども、賃金を減らすと年金がもらえないということで、そういった側面は勿論あると思います。ですから、それを考えるのは、実際に人それぞれのようです。
ただし、例えばアメリカのS法人の話などでいきますと、そういう人の中に、そういうふうに考えない人もいますけれども、社会保険料を支払いたくない。要は、自分で貯蓄をするんだというような方が多いとすれば、そういう人にとって社会保険料というのは、ちょっと言葉は悪いですけれども、うっとうしいものだということで、そういうようなことが起きているということです。
ですから、ここについては、かなり意見が分かれますけれども、文献などによりますと、どうもそういう話は起きているという指摘はあるそうです。
松田先生の話ですけれども、欠損金の繰り延べの話に関しましては、経済学の話でいきますと、一般的な話として、いわゆる事業を開始したスタートアップの企業というのは、どうしても欠損が続くということがあります。そうすると、本来、所得いうのは所得と損失を合算しまして課税をする。損失が出たときには、税ではなくて還付というか、本来それが望ましい。特にスタートアップの企業については、それをすべきだということが指摘されているようです。
従いまして、経済学の論文をいろいろ読んだんですけれども、繰越し欠損については認めるべきではないかというようなことが、主流だと思います。何となく日本の場合は、余り無制限にやってしまうと、言葉が難しいですけれども、租税回避を招くかもしれないということだと思います。
〇田近部会長
手短にね。
〇八塩専門委員
一番最初の御質問でございます。まず租税回避という言葉は、余りいい言葉が見つからなかったものですから、時間もございませんので、手短に申し上げるということで、こういう言葉を使わさせていただきました。
税率をそろえるということでございますけれども、これは勿論、理想論としてはこういうことになるんだと思います。しかし、二元的所得税などでも税率をそろえると難しい。資本所得が飛び交うという話もあるので、難しいということなんだろうなと思います。
〇田近部会長
では、最後に中里さん、手短にどうぞ。
〇中里特別委員
ついこの間まで小さな会社、同族会社には、留保金課税というものがあって、留保すると懲罰的課税を受ける。だから、留保されていないというのは1つあるのではないですか。
もう一つは、同族会社には法人税法132条というものがあって、こういうケースは否認規定というものがあって、何か怪しいことをすると、すぐに租税回避を否認されてしまうわけです。
それだけコメントしておきます。
〇田近部会長
コメントということでいいですね。
〇中里特別委員
はい。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。いつものように活発な議論をありがとうございました。
特に後段の方は、私も参加したかったんですけれども、ここにいて、もっと八塩君が歯切れよく答えてくれればいいのになと思っていました。非常に言葉を選んで話したと思います。
ただ、言葉ですけれども、回避という言葉はこれからよく使われると思うんですけれども、我々がなじんでいるというか、タックスアボイダンスという言葉でよく使って、これは別に脱税とかそういうことではなくて、合理的な経済行動だろう。むしろ、租税回避があるからこそ、税というものも有効に使われるし、その問題も出てくる。だけれども、イベージョン、脱税とは別なものだということで、この言葉自身は回避ということで耳に障るかもしれませんけれども、ニュートラルな言葉だと思います。
あと、この税調との関連でいうと、結局、何を議論したかというと、事業所得をどうかけるか。それは2つの問題があると思って、今日は事業所得を企業所得として認定するか、あるいは資本所得で認定するか。日本の場合には、企業所得にかぶせた方がいい。あるときには、例えば個人所得税が非常に高い。特に社会保険料が高いときには、資本所得に移した方がいい。そういうような議論があった。
もう一つ大きな議論は、資本所得を個人で払うのか法人で払うのか。つまり、法人として資本所得を払うのか、あるいは導管というかパススルーにして、個人に分けて払った方がいいのか。言葉で言うと、具体的にはLLPとかLLCとか、この税調でも去年来、盛んに議論してきた信託を通じた課税にするか。だから、問題点としては、やはり所得税の根幹の1つで、事業所得をどこでかけるか。それは給与なのか資本所得なのか。資本所得としても、個人なのか法人なのかということで、まさに資本に税をかけるときの難しさと重要性というものが根っこにあって、それが日本では、あるいは欧米の井上さんの言葉によると、小規模法人でどういう問題が起きたかということだったのかと思います。
議論をどうもありがとうございました。
次回の予定ですが、立て続けで申し訳ありませんけれども、次回は8月3日金曜日午後2時から、この場所で開きたいと思います。次回は調査分析部会と同時に企画会合を合同で開催いたしたいと思っております。プレゼンテーションの内容などは、こちらでもう少し検討させていただいた上、至急、御案内申し上げます。
以上です。本日もありがとうございました。
〇横山委員
ちょっとよろしいですか。
〇田近部会長
どうぞ。
〇横山委員
これは調査分析部会ではなくて、税制調査会全体について、会長のお考えをお尋ねしておきたいということです。
選挙結果が出ているわけですから、恐らく委員各位も御関心があろうかと思いますが、あえて、今すぐお答えにならなくても、今度の8月3日のときまでに御準備いただけたらと思うんでございますが、秋以降の税制調査会の進め方について、どういうふうに私どもは考えていったらいいのかということについて、やはり1回みんなで議論しておく必要があるのではないか。中長期的な税制改革としては、粛々とやっていくべきではないかと私個人はそう思っておるんでございますが、あくまで国民の御納得がないと、税制改革ができないというのは勿論でございますので、この点も含めて、会長はどういうふうにお考えになっているのかをお伺いしたいということで、要望を出しておきたいと思います。
〇香西会長
どうしましょうかね。次回は企画会合も行われるので、若干の時間はフリーディスカッション的に使えるのではないかと思っておりますので、その際にでももう一度御提案があってもいいのではないかと思います。
〇横山委員
わかりました。
〇香西会長
私個人の考えは、とにかく予定どおりやっていかないと、時間的にどんどん迫っているものですから、将来何が起こるかわからないけれども、既に与えられた課題については、少しでも前に進んでおいた方がいいだろうという程度の感じでおります。
どうもありがとうございました。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。