企画会合(第11回)・調査分析部会(第6回)合同会議 議事録
日時:平成19年5月22日(火) 14時00分~
場所:中央合同庁舎第4号館共用第一特別会議室
〇香西会長
そろそろ時間でございます。ただいまから「第11回企画会合・第6回調査分析部会合同会議」を開催したいと存じます。お忙しいところ、御参集いただきまして、誠にありがとうございました。
本日の議事でございますけれども、本日は「調査分析部会」の田近部会長に進行をお願いしましております。
本日は2つテーマを設定しておりますが、専門委員である土居委員、吉村委員から、それぞれのレポートの説明を受け、皆様で御議論をいただきたいと思っております。
また、その後は、議事予定にもございますけれども、公益法人制度改革の事務局をお招きしておりまして、その御説明を聞きたいと思います。これにつきましては、公益法人制度改革の動きについて、税調でも説明をいただく機会を設け、秋以降の議論に備えて目配りをしておくべきであるという御提案がございました。出口委員からだったと思いますが、そういったことも踏まえまして、公益認定等委員会の事務局からこれまでの経緯や現状、状況を紹介していただきたいと存じます。
本日の議事は大変盛りだくさんでございますので、審議の状況によっては、若干時間の延長があり得るということをお含みおきいただきたいと思います。
なお、前回及び前々回の2回にわたって御報告すると言いながら、延ばしてきました「経済財政諮問会議」の資料提出とその後の経緯等について、この議事が終わった後で、私から御説明をさせていただきたいと思っておりますので、少し窮屈な時間割りでございますけれども、効率的にどうぞよろしくお願いしたいと思います。
それでは、田近部会長にお願いします。
〇田近部会長
それでは、早速「調査分析部会」の審議に入りたいと思います。
今日は2テーマありまして、更にその後は「企画会合」にいって、公益法人の話がありますから、時間をできるだけきちんと使っていきたいと思います。2テーマ、それぞれ45分ということで計画しています。
まず最初のテーマは、お手元にあると思いますけれども「社会保障をめぐる税財源と保険料財源」というテーマで、専門委員の土居さんに報告していただきます。
これは、吉川主査の担当領域の経済社会の構造変化とそれが税制に与える影響の検証の一環で報告いただくものです。吉川さんの方から、ごく手短に報告の背景等を説明していただいた後、土居さんから20分程度で報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
〇吉川委員
では、役回りですので、私がイントロダクションをさせていただきます。
土居先生は我々の調査会の既に専門委員でいらっしゃるわけですが、気鋭の財政学者ということで、先週末でしょうか、NHKの長時間討論番組、国と地方がテーマだったと思いますが、その前日土居さんにお会いしても何もおっしゃらなかったので、テレビで見たら土居さんが座っていらっしゃるので、私もびっくりしたんですが、御自身の御主張を明快に述べておられたと思います。ごらんになった方もいらっしゃるかもしれません。
本日は「社会保障をめぐる税財源と保険料財源」ということで、既に皆様方は、社会保障の問題が日本の財政あるいは税制を考える場合の最も大きな問題であるということは、御認識のとおりだと思いますので、今日は土居先生の方から、そのことについて詳しく御説明いただくということにいたしました。よろしくお願いいたします。
〇田近部会長
では、土居さんお願いします。
〇土居専門委員
専門委員をさせていただいております土居でございます。今日はこのような機会をいただき、どうもありがとうございます。
お手元に「企画11-1調査6-1」という資料と、もう一つ「企画11-2調査6-2」という資料を用いて、プレゼンテーションをさせていただきたいと思います。主立っては「企画11-1調査6-1」の方を用います。
私は「社会保障をめぐる税財源と保険料財源」と題しまして、お話をさせていただきたいと思いますが、基本的には財源の客観的な性質を経済学的に考えると、どのように議論が整理できるのかということでお話をさせていただければと思っております。
2ページですけれども、まず「社会保障の給付の見通し」ということで、これは昨年5月に厚生労働省が発表した今後の社会保障給付の増大の予想でありますけれども、今後、改革でそれなりの給付の抑制というものは図られるのだけれども、やはり引き続き伸びていく。これは高齢化であるから、不可避的なものであろうということです。この財源をどう手当するかというところが、1つ重要なポイントであります。
3ページ目にありますように「社会保障給付の財源構成」ということで、これは私がデータを加工いたしましたけれども、データの基は同じものであります。先ほどご覧いただいた給付面からのものを財源ごとに予想されている金額でグラフを割って示しているものです。
下から4つ斜線になっている部分がちょうど公費ということで、まさに税財源を用いて、これから社会保障給付に充てていくことを予定しているものであります。
その上にあるのが保険料財源。
一番上は年金で運用収入が出るので、その部分です。わずかであります。
基本的には、公費負担か社会保険料負担かのどちらかが主だった財源になります。今のところ、2006年のときには28.8兆円だったものが、2011年では36兆円、2015年には41兆円の公費負担を予定している。勿論これは予算でそういうことが決まったわけでもありませんので、あくまでも見通しであります。ただ、当然のことながら、2009年に基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げたというシナリオの下で計算した結果として、これだけの公費負担を必要とするであろうという予想を示しているわけであります。
ただ、その財源の中身、公費負担といっても、どういうものでそれを賄うのか。所得税なのか、法人税なのか、消費税なのか、何なのかということについては、全く白紙といいましょうか、今の税制がそのまま継続すれば、今の税制で公費を負担していることになる。同じ構造が将来も続くということですけれども、果たして今後も引き続きそれでよいのか。あるいはまた別の税源の構成というものを考えていく必要があるのかということが、今日私のプレゼンテーションで焦点を当てたいと思っているところであります。少なくとも、明らかなことは、今後、引き続き、公費負担の金額が増えていくことだけは間違いないわけであります。
ちなみに、それぞれの社会保障分野、医療、年金、介護とありますけれども、例えば医療ということで見てみますと、直近の数字で、2004年度の国民医療費の中で、財源がどのように賄われたかというものが示されておりますけれども、基本的には国費で26%、地方費で8.8%で、3分の1程度は公費負担で賄っているということが、このグラフからおわかりいただけるかと思います。
更には、5ページですけれども、これは少しデータが古くて、今は第一号被保険者の割合は、平均すると19%になっているということではありますけれども、財源スキームは基本的に同じでありまして、介護保険の半分は公費負担で賄われているという状況であります。こういうものが当然のことながら、先ほどの見通しの中にも反映されているわけであります。既に「調査分析部会」では、千葉大学の広井先生をお迎えして社会保障に関連するところで議論なされたところでありますけれども、もう少し掘り下げまして、社会保障給付を税財源で賄うのがよいのか、保険料財源で賄うのがよいのかというところについて、1つの考え方として、どのように経済学的に整理ができるかというところをこれから御紹介していきたいと思います。
6ページにありますのは、1つの原理として「保険原理」という原理が存在します。社会保障というのは、社会保険ということで、保険の性質を帯びている。例えば病気になるというリスクに対しては、医療保険。
自立できなくて、介護を必要とするというリスクに直面する場合には、介護保険。
それから、思いのほか長生きをして、生活費に困るというリスクに対しては、年金保険ということで、社会保障は保険という性質を帯びていまして、それに対して、どのように財源を賄うかということで考えたときに、1つの考え方として、保険原理というものがあります。それはリスクに応じて給付する。これは当然なんですけれども、負担についてもリスクに応じて負担をする。
つまり、高いリスクに直面する確率が高い人には、より多く給付しなければならないので、より多く負担をしていただく。少ない確率でリスクに直面する人には、それほど給付をする必要が確率的にはないので、少ない負担でよいという形で賄われる。一般の民間の保険会社が供給するような保険というのは、基本的にこういう原理で賄われているのが通例であろうと思います。保険ということであると、そういう側面がある。
この図で示しているところは、そのリスクに直面する、例えば医療保険の分野で言えば、病気になる確率が高い人と低い人がいる。ただ、それは体質的な問題で、その人物が高い所得を稼ぐ場合もあるし、低い所得を稼ぐ場合もある。病気になる確率が低くて低所得の人と、病気になる確率が低くて高所得を稼いでいる人と、病気になる確率が高くて低所得の人と、それで高所得の人と4人いたとして、その人たちが保険原理に応じて負担を求められたとすると、どういう関係になるかというものをこの図で示しております。
当然のことながら、低いリスクの人は少ない負担でいいわけですけれども、低所得の人であろうが、高所得の人であろうが、リスクに応じて負担をし、給付するということですから、低リスクのところでは少ない負担と少ない給付。高リスクのところでは、多くの負担と多くの給付ということになる。ここで問題になるのは、所得分配上の問題であります。低所得の人が高リスクであった場合に、その負担に耐えられないという問題が起こるということであります。
7ページです。通常、公的な政策を講じる場合には「扶助原理」と呼ばれる考え方があります。これを1つ表現すれば、給付は必要に応じて行い、負担は能力に応じて行うという考え方であります。そうすると、低所得の人に対しては、負担能力がそれだけないということなので、少ない負担でよい。高所得の人には、それだけ多く負担してもらうという考え方になります。ただ、給付は必要に応じてということですから、リスクに直面して給付する必要があれば、給付するということになります。
そうしますと、どういうことになるかというと、右上の水色の部分で、病気になる確率が低いけれども、高所得を稼いでいる人は、それだけ多く負担を強いられるけれども、それほど給付は受けない。
逆に左下の桃色のところですけれども、高い確率で病気になるけれども、低所得の人には、給付は多くもらえるけれども、それほど負担しなくてよいことになりまして、両者の間で結局は所得移転が起こることになります。
ただ、問題は保険財政で、必ずしも給付にうまく歯止めがかけられない場合に、結局、余り多く負担しない人が、より多くの給付をもらうということで、ここに言わば財政上赤字が生じるわけですけれども、この赤字のギャップが大きくなればなるほど、保険財政を圧迫してしまう問題が1つあります。
それから、病気ということで申しますと、比較的若い世代の人たちは病気にかかる確率が低くて、年配の方々は病気になる確率が高いということであるとすれば、その間で世代間の所得分配、再分配が行われることになる。ここでは繰り返すまでもないですが、我が国の社会保障絡みでは、世代間に格差があることも1つ言われておりまして、こういう所得移転が世代間の格差を助長している側面もあるだろうということです。
8ページですけれども、結局、給付に抑制がうまくかけられないで、更に世代間に格差が生じることになりますと、給付に何とか歯止めをかけられないのかという、いわゆる給付抑制論が台頭してきていることが1つにあります。
私が思うには、給付抑制論の1つの背景には、どうも給付と負担の関係がどんぶり勘定になっているのではないか。給付と負担のリンクがあいまいになっているがゆえに、結局だれが負担し、だれが給付を受けているかということがわからないまま、給付がかさんで赤字がふくらんでいる側面があるとすれば、もう少し、そこはきちんとけじめをつける必要があるのではないか。
1つには、給付をうまく抑制する。そういう主張をする方もおられるということであります。ただ、私が思うには、給付を抑制すればそれで済む話ではなくて、もう少し税財源か保険料財源かということを考えたときに、両者の機能分化ないしは役割分担を考えることがあってよいのではないかと思うわけであります。
9ページにまいりまして、基本的には保険原理で給付と負担の関係を考えるということが、経済学の観点からすると、議論としては非常にすっきりしているわけですが、先ほども申し上げたように、所得分配上、低所得の人に重い負担を強いられないという政策的な配慮を要する問題が生じるわけでありまして、ここの部分については、税財源をもって別途所得再分配をする。あくまでも保険という機能として、社会保障制度が機能している部分があるならば、余りそういう側面を損なわない形で、リスクに備えてきちんと保険という仕組みを設け、それでいて、なお、負担が耐えられないということであるならば、別途税財源でもって負担に対して配慮する。そういうこともあり得るだろう。
例えばということで10ページですけれども、リスクに応じて保険料を払えと言われてしまうと、仮に年収10万円の人が5万円の保険料を払わなければならないという場合があったといたしましょう。そのときに、保険料を政策的配慮をもって5,000円にする。つまり、本当はリスクに応じて保険料を負担してもらうならば、5万円程度の負担を必要とするのだけれども、余り詳しく背景を述べずに、政策的配慮という一言で5,000円程度に保険料を減免しますということで、今は割と負担の減免ということをやっているような側面があろうと思います。つまり、リスクに応じた保険料というのは一切示さずに、あなたは低所得だから、これだけ低い負担でいいですと言ってしまう。そうすると、結局だれが給付を受け、だれが負担をしているかということが見えにくくなる。
そこで1つの例としては、5万円は5万円として、保険料をきちんと一旦納めていただく。その代わりに税を財源とした所得再分配で、4万5,000円の助成金なり補助金を分配する。そうすると、結局、足し算、引き算で、その人は実質的に5,000円だけ負担したことになっているんだけれども、自分が直面しているリスクはどれぐらいの金銭換算になるのかとか、どれぐらい所得再分配でお金を補ってもらっているのかという関係が見えてくる。
勿論、現実はここまできちんと割り切れるものではありませんけれども、考え方の整理ということであるならば、保険機能に対しては保険料財源で、所得再分配機能に対しては税財源でという発想が考えられるものと思います。
例えば年金の議論でも、基礎年金の主だった部分については税財源で賄い、そして、上乗せといいましょうか、報酬比例部分のようなところについては、保険料財源というような発想で考えるというアイデアも世の中にはありますけれども、それも1つそういう役割分担を意識したところがあろうかと思います。
12ページにまいりまして、さすがに社会保障給付のことを考えるときに、今後、歳出削減だけで財政を健全化していこうということになると、増大する社会保障費を更にもっと大胆に抑制していかないと、なかなかうまくいかない側面があろうかと思います。さりとて、国民の多くが今の社会保障の国民皆年金、皆保険をやめてしまえと言っているわけでもないということだとすると、何らかの形で社会保障財源を安定的に賄う必要がある。更に言えば、それを税財源で賄う部分が相当必要だとすれば、どの税で社会保障財源を賄っていくのがよいかということを考える必要があるのではないかと私は考えるわけであります。
そこで1つ考えられるのは、当然のことながら、所得課税で財源を賄うことは考えられるんですが、既に御承知のように、社会保険料として所得に比例して、今後、社会保険料率が上がっていくことが予定されている。それでいて、所得は後で御紹介するように、勤労世帯に重くかかる。あとは、貯蓄に対して所得課税だと中立的でないことになる。ということを考えると、消費者課税による税財源の調達も重要なデバイスではないかと思います。
前回、大竹先生からプレゼンテーションがあった所得格差の話ですけれども、同じように2004年の国民生活基礎調査のデータで、13ページにお示ししているのは、所得税をどの人が幾ら納めているかという分布であります。世帯主の年齢階層別に分けておりまして、13ページのグラフから何が言えるかと申しますと、高齢者の人たちは所得税を余り納めておられないということであります。主立っては30、40、50代の方々が所得税を納めている。
14ページの住民税も同様であります。
社会保険料は、確かに39歳以下は、皆保険の保険料徴収の対象になっていないので低いということはありますけれども、基本的に40代、50代の方が多くの社会保険料を納めておられる。
それでいて、16ページの消費税の支払額の分布を見ますと、相当若年世代、高齢世代は似たような分布をしているということがおわかりいただけるかと思います。
要約いたしましたのは、18ページでありますけれども、高齢世代は所得課税に対しては、余り多く納めておられないのに対して、消費税ということになりますと、老若問わず、それなりの負担をされておられるということであります。
そういう意味で、ここでは定性的な話として、若年世代は所得税と社会保険料の負担が多い。高齢世代は余り所得税を払わないということでありながら、消費税は分布が若年世代、高齢世代で似ていることからすると、先ほど申し上げた社会保障をめぐる世代間の格差を考える上では、格差是正という観点からは、消費税を用いるという話はかなり格差是正を促す方向に導くのではないかということが考えられるわけであります。
時間がありませんので、そろそろ締めくくりたいと思いますけれども、1つ消費税の話で、社会保障財源化という話がありまして、21ページに社会保障財源化のポンチ絵を載せておりますけれども、単に消費税を特定財源化する話ではないということが、実は1つのみそでありまして、役割分担ということで1つ消費税を安定的な社会保障財源として供給することが役割分担の1つ目であり、もう一つは、歳出削減を中心とした財政赤字の抑制ということが、役割分担としてもう片方にあるのではないか。そういう意味では、社会保障財源化という話には、メリット、デメリットがいろいろとありますけれども、こうした側面で財政規律を促すことも特徴としてあろうかと思います。
最後に22ページですけれども、勿論、消費税の話だけをしているわけではなくて、所得税の問題も併せて両にらみで考えていく必要があろうかと思います。先ほど申し上げたように、社会保障の財源として、既に社会保険料率は上昇することが予定されていますけれども、消費課税、所得課税それぞれの特徴を生かして、バランスよく課税していくことは重要だと思います。
以上です。どうもありがとうございました。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。「社会保障をめぐる税財源と保険料財源」ということで、わかりやすい明確な説明だったと思います。
今日は先ほど申し上げたとおり、幾つか議題が控えておりますけれども、45分ぐらいまで、あと20分程度使えると思います。どなた様でもどうぞ。増渕さん、林さん、続けて簡潔にお願いします。
〇増渕委員
大変明快な説明でよくわかりました。ありがとうございました。
私の質問は、量的なイメージがあるかどうかということなんですが、10ページに言わば、お話のキーであるリスクに応じた保険料と実際に払っているものというイメージが出てまいりますが、これを年金、医療、介護という実際の社会保障の支出と保険料に置き直したときに、土居先生自身でどういう金額的なイメージになるかというものがあれば、それを教えていただきたい。それだけです。
〇田近部会長
林さん、続けてどうぞ。
〇林委員
今のリスクに応じたことの負担ということの関連で、恐らく年金と医療というのはリスクの性質が違いますね。例えば医療の場合だったら、そもそもリスクがわからないから保険を使っているという面があるわけです。そこで、リスクに応じてということになってくると、要するに、職業や年齢ということで、リスク別のいわゆる保険制度をつくれという話につながっていくのかなという気もするし、結果として、リスクがどれだけだったかというのは、結果が出ないとわからない部分があります。ということは、自己負担を徹底的にして、後でその部分を返すという話になる。要するに、医療保険というのはリスクがわからないからプーリングして、それを分散するということなので、そこら辺はどうすればいいんだろうか。自己負担を増やすということなのかなという感じもするんですが、いかがでしょうか。
〇田近部会長
では、今の2つを簡潔にお願いします。
〇土居専門委員
2つ関連するお話で、御質問ありがとうございました。
私としては、まさに増渕委員がおっしゃったようなことで、マクロ的に金額がどういうイメージか示せればとは思うんですが、林先生がおっしゃったように、リスクがわからないという側面があるので、結局のところ、今の給付を前提とした場合に、今の給付がカバーしているリスクに応じて、ちゃんと保険料を払ってもらっているのかどうなのかということでいうと、例えば年金などの場合には、今の60代、70代の方々は、今の30代、40代の方よりも相当多く給付を受けられる。純給付が多いという数字が示されていたり、そういう意味では、相当多くの負担がうまくとれていなかったという部分があるのかなと思います。
それから、林先生のところですけれども、確かにリスクがわからないという問題が非常に重要な問題なんですけれども、ただ、自己負担だけで解決できるかどうかというのも、また難しいところでありまして、つまり、結局のところ、リスクに備えるという意味の部分が自己負担してもらった後で還付するといいましょうか、そういうことになるかもしれないけれども、還付する仕方が事前にどういう状況であれば還付するということが決まっていなければいけなくて、更に言えば、現物給付か現金給付かという問題もあるわけであります。そうすると、自己負担してもらった後で還付することになると、医療保険を現金給付化するという話にもなるわけですが、今の医療の供給体制からすると、それをうまくそういう形に持っていけるかどうかは難しいところがあるのかなと思います。今は現金給付ではなくて、医療保険は現物給付ですので、その辺りの整理というものが必要になるかなと思います。
〇田近部会長
では、続けて佐藤さん、國枝さん、加藤さん。後でまた続けます。とりあえず3人簡潔にお願いします。
〇佐藤専門委員
報告ありがとうございました。
社会保障の財源の確保という観点だけで言うならば、逆に社会保険料、事実上、賃金所得税であることを割り切って考えれば、要するに、税として考える方が素直ではないかなと思います。そうなってくると、実は社会保険料と税は何か違うのか。集めている人が違うことになってきて、だったら、今度は徴収の部分、これも若干難しいところはありますけれども、社会保険料と税の徴収の一元化の問題にも入ってくるのかなということも感じました。
気になったのは、一番最後の棲み分けなんですけれども、消費税の社会保障財源化による財政規律。話はすごくきれいなんですけれども、例えば将来的に当初見込んだよりも医療費が伸びた、あるいは介護費用が伸びたときに、さて、どちらで手当するか。それは社会保険料を引き上げるのか、あるいは消費税を引き上げるのか。これは後でもめるので、あらかじめルール化しておいた方がいい。先決変数として、特別な事情がない限り、この税率でいきますという消費税は固定。それでも、財源が足りなくなった部分は、社会保険料で調達する。ないし増加額が一定以上を超えたら、いわゆるマクロ管理政策ではないけれども、給付をカットさせてもらうとか、何らかの形で自動安定化装置をつくっておかないと、後々どれで賄うのかということで、いつものようにもめるのではないかという気がします。
〇國枝専門委員
ありがとうございました。
2点コメントですけれども、社会保障の税と保険料の土居さんの話は非常にわかりやすかったんですが、誤解の多い分野でもございまして、1つはよく言われているように、企業の経営者の人が社会保険料の企業負担分は、企業の負担で競争力が落ちるみたいな話があるんですけれども、実際には転嫁と帰着ということを考えると、社会保険料あるいは所得税、更には消費税も同じ効果を持つことが知られています。ただし、今回土居さんが強調なさったように、消費税であれば高齢者の方にも払っていただけるということで、格差是正になるし、それに伴って実は効率性の面でもいいのではないかということかと思います。その点は結構誤解が多いので、注意しなければいけないところだなと思いました。
もう一点は、社会保険の話をやるときに、一番初めに読まされる3冊の有名な論文がありますけれども、給付と拠出の間にリンクがあれば、企業あるいは拠出をしている人にとっても負担にならないという話がありまして、そういうことまで考えると、リンケージがはっきりしている保険料の方が負担にならない側面がある。そういう意味では、消費税、社会保険料との間で、ベストバランスがその間あるんだろうと思いますので、そういった観点でどうお考えでしょうかということでございます。
〇加藤専門委員
どうもありがとうございました。非常にわかりやすい御報告だったと思います。
2つですが、まず1つ目は、土居先生が想定している中に、結構、基礎年金のところがあるのではないかと思います。基礎年金は半分が税で、半分が保険料ということになってきたんですが、財源という面で見る以上に、基礎年金をどういうふうに位置づけるか。
例えば1つの考え方として、これは高齢者のベーシックインカムであろうと考えてしまったとするならば、社会保障ではなくて、あくまでもベーシックインカムで出すのであれば、それは税でいいだろうという形になりますし、そもそも財源をどうするかという問題以上に、基礎年金あるいはそういったものをどういうふうにして位置づけていくかということが大事ではないかなというのが1点目です。
もう一点目は、林先生も同じようなことをおっしゃったんですけれども、例えば今の10ページの中で、土居先生がおっしゃったような形でリスクがわかったとするならばという話があるんですが、基本的にリスクがわかったとするならば、これは民間保険でも対応可能だろう。リスクがわからないから、強制加入で平均リスクをとる。そのために可能なのは、政府がやることだということになりますので、社会保険の意味合いというものがなくなってしまうような気がするんですが、その点はいかがでしょうか。
以上です。
〇田近部会長
では、手短にお願いします。
〇土居専門委員
御質問ありがとうございました。すべてを網羅的にお答えするのは難しいので、時間が許す限りでお答えさせていただきます。
社会保険料の問題ですけれども、それを税と見るかどうかというまず1つ大きな点は、拠出記録を残すかどうかということでありまして、拠出記録を残すという形で、いわゆる賃金所得税のようなものを取ることになれば、それは通常社会保険料と呼んでいる。単に所得税を取って、それは別に直接給付を受ける権利だとか何とかといったことは関係ないという話は、いわゆる普通税としての所得税であるというところにあります。
それから、ルール化の問題ですけれども、私が申し上げたかったことは、消費税率を何%にするとかそういう話ではなくて、税の負担、税源で社会保険財源を賄うことになったときに、ちょうど所得再分配機能と整合的な形で給付額がはじき出されて、それに応じた形で税財源を負担する。願わくば、世代にまたがって同じように負担してもらえるような形が望ましいのではないか。そういうようなところを念頭に置いているということでございます。
國枝先生からベストバランスはという話ですが、これはまさにこれから税調の場で御議論いただければという話でありますが、1つ申し上げたいことは、今後どういう形で国庫負担をするかということはあるとしても、今のまま自然増収でも何とかなるという話もあるわけですが、自然増収で何とかなるということは、所得課税に重きが置かれた形で、税財源が社会保障に当たっていくということは、間違いない性質であって、果たしてそれでよいのかという問題であります。ひょっとしたら、世代間格差是正という観点で別の税源を持ってくる必要もあるのではないか。そういうところもあろうかと思います。
加藤先生の質問の中で、強制加入の問題という話がありますが、強制加入が保険原理だったら必要ないというわけではなくて、それはアドバースセレクションだとか、そういう問題を回避するためには、強制加入というのも1つ重要なデバイスであろうと思います。
〇田近部会長
では、続けて上村さん、井戸さん、お願いします。
〇上村専門委員
わかりやすい報告ありがとうございました。
2つありますけれども、19ページは「世代間格差是正の観点では、消費税を用いるのが適している」という話でしたが、年金というものは高齢者に給付するわけですから、高齢者をターゲットにするのであれば、年金課税の強化という方法があるわけですけれども、そこにはどうして触れていないのかというのが1つ気になりました。
いま一つ、控除でいうと社会保険料控除があって、かつ年金課税の控除があって、そういう意味では、日本という国は、国際的に見て、年金についてかなり優遇政策をとっていると言えるわけですけれども、その辺りのことについて、土居先生のお話をお聞きしたいのが1点です。
もう一つは、加藤先生も言われましたけれども、ここまで国庫負担が上がってくるときに、やはり生活保護との関連性をどう整理したらいいのかなと思っています。つまり、税財源で再分配を強化していくことは、ある程度、財源面では致し方がないかなと思っているんですけれども、そのときに、いわゆる基礎年金部分というのは、非常に性質上、生活保護と非常に似たものになりつつある。そのときに、どこで棲み分けをしていくのかというのは、非常に気になるところでした。
以上です。
〇田近部会長
では、井戸さん、どうぞ。
〇井戸特別委員
感想的な議論になってしまって恐縮なんですが、1つは、今、上村先生も触れられましたけれども、生活保護との関連で、実を言いますと、現場におきまして一番問題になっていますのは、現物給付なんです。特に医療扶助の現物給付なんです。生活保護世帯の生活保護費のうちの2分の1ぐらいが医療扶助がウェートを持っていまして、生活保護世帯ですと、全くノー負担で医療給付が受けられることになっていまして、これを何とか抑制できないかというのが、現場においては非常に大きな1つの課題になっています。
そのときに、先ほどおっしゃっておられたような償還方式を導入する。つまり、負担は1回取ってしまって、後で償還をする方式を入れたらいいのではないかという議論があるんですが、これがなかなか現実には理解されません。我々に医療サービスを提供する道を閉ざすのかという議論になっていくわけです。ですから、そういう意味では、経済的な意味での効果というのはよくわかるんですけれども、現実の活動というものに対しての先生の御印象なり、どういうふうに考えてられているのかなというのが1つです。
もう一つは、15ページ、16ページの消費税と社会保険料の世代間の年齢階層別の分布状況を見ますと、所得税、住民税、固定資産税というのはほとんど変わらないんですが、この2つについては、かなりばらつきがある。かなりばらつきがあるから、社会保険料と消費税がベターだとか、活用すべきなんだという御主張だということなんでしょうか。それとも、この分布をどのように解釈したらいいのかというのをお教えいただけますと幸いです。
〇田近部会長
では、お願いします。
〇土居専門委員
御質問どうもありがとうございました。
上村先生の話ですけれども、年金課税の問題は確かに重要で、それはそれで議論する必要があると思いますけれども、私の位置づけでは、結局、純給付のカットという話なので、給付削減という話と裏表の関係だろう。給付削減という話は、ここでの議論としては棚上げにしました。勿論、税制調査会ですから、年金税制、課税の問題は重要なマターではあるかと思います。
それから、生活保護の問題ですけれども、基礎年金と生活保護の問題は、非常にシビアな問題になりつつあるわけですけれども、1つにはミーンズテストをどこまで厳格にするのかどうなのかという側面はあろうかと思います。ですから、とりあえず高齢になって低所得だというんだったら、基礎年金でちゃんとサポートしておきましょうということで、ミーンズテストを簡略化するといったら変ですけれども、そこは免除して、基礎年金でカバーするということもあろうかと思います。
井戸委員の話ですが、私自身そんなに現場を詳しく知っているわけではないですけれども、やはり医療保険に関しては、現物給付でいくべきなのか、現金給付でいくべきなのかというところについて、非常に悩ましい問題があるなということはありまして、つまり、自己負担の部分では現金で払っているということなんだけれども、実際に保険でカバーしている部分は現物で、診療行為が行われた後で、診療報酬を渡されるという形になって、いわゆる現物給付でされているということになっているので、その辺りの棲み分けを議論してから、次の方策というところがあるのかなと思います。
分布の問題ですけれども、私が申し上げたかったことは、既に今後社会保障の財源として、所得に比例する形で負担を求めること、増大するということは、織り込まれて予定されている。それを前提にした上で、更にまだ足らないとする税財源をどう賄うかということになったときに、いろいろ配慮すべきことがある。所得に比例した財源ということになると、どうも勤労世代が多く負担する傾向が強いものなので、それでいて、全く世代間の給付の格差がなければ、それは若い人がこれからちゃんと負担しろという話になるのかもしれませんが、今の高齢の方々は、今、給付されているほどには御負担いただいていなかったということなので、何らかの配慮は必要なのかなと、この分布を読んだところになります。
〇田近部会長
では、永瀬さん、沼尾さん、続けてどうぞ。
〇永瀬特別委員
わかりやすい御説明ありがとうございました。
10ページのところで、保険機能と税財源での所得分配を別々にするというのは、1つ非常に明快かなとは思いますが、今、年金や医療の例が出てきましたけれども、例えば介護保険で考えてみますと、介護保険のネットの給付がどのぐらいなのかという計算は余りされたことがないと思います。
でも、私が以前見たものによりますと、寝たきりで2年間過ごす人は5人に1人でありまして、月々30万円とすると、1年で大変大きな給付なわけです。それを例えば60歳から始まった人に関して言えば、60歳から90歳まで生きると考えて、非常に大きな給付がされていることになって、ここでこういう形で明確にするというのは、1つどういう負担と給付がされているのかを明快にするという意味でも、非常に意味があるとは思います。しかし、そうしますと、かなり保険料は高いことになって、多分それだったら払いたくない。つまり、どこを低所得として、どこを高所得と見るかですけれども、税投入がないんだったら払いたくないというほど、恐らく高い保険料だということが容易に想像できるわけですけれども、その点については、どう思われるか。
そして、今までのお話がほとんど高齢者に対する給付を中心に話されてきたのに対して、リスクというのは、やはり若い世代からもずっとあるわけで、私は何度も言いますけれども、子どもを持つということは、普通、皆さん自分の意思だと思われるかもしれません。でも、やはり私はリスクだと思います。どういう子どもが生まれるかわかりませんし、どういう子が育つかわかりませんし、あるいはそういった側面について、勿論、失業というのは1つ十分あり得る話ですし、それは入ってくるだろうと思います。こういうところで、高齢のことが主に話し合われているのですが、ケアという面では、介護保険と類似な側面があるかなと思ったりいたします。そういった点について、どのように思われるか、少し御意見をお聞かせいただければと思います。
〇田近部会長
続けて沼尾さん、どうぞ。
〇沼尾専門委員
わかりやすい御説明ありがとうございました。
今の永瀬先生のコメントともちょっと関わるんですけれども、保険か税かということで、所得再分配機能のところだけを分化して税にするのは、私自身はなかなか難しいのではないかなと思っておりまして、先ほどのお話にもありましたけれども、やはりリスクを単純に測定することは難しいだろうということが1つございます。
そのように考えたときに、事実上、今の日本の保険制度というのは、ほとんど税と変わらないのではないかと考えているんですけれども、その点はいかがかということが1点です。
21ページのところで、消費税の社会保障財源化ということで、これは国費負担の部分の国税部分だけを社会保障財源化すると絵で描かれているんですけれども、実際に今さまざまなリスクという意味では、介護、医療などの現物給付分があって、そこは地方が担っているわけです。そこの部分については、消費税の社会保障財源化ということについて、土居先生はどのようにお考えかということを教えていただければと思います。
〇田近部会長
一応これで締めくくるということで、お答えをお願いいたします。
〇土居専門委員
御質問どうもありがとうございました。
永瀬委員からの御質問で、確かにリスクに応じてということになれば、高い保険料だということを露骨に見せることになります。露骨に見せることは、角が立つからやめろという政治的配慮はあると思いますが、ただ、もう一つ、これは沼尾委員からの質問とも関連するんですけれども、そんなに負担を増やしてほしくないという声が国民にあって、なぜならばということの1つの理由としては、結局、自分がそんなにもらえないからだとか、どうして給付がもらえるのかという給付に対するある種の不信感というか、そういうところがあるのではないかと思うわけです。
ですから、勿論こんなにきれいに頭の体操どおりに現実がいくとは全然思いませんけれども、ただ、これから国民にいろいろな形で、社会保障の財源を御負担いただかなければいけないというときに、給付の側もきちんと襟を正してといいましょうか、全うに保険として機能している側面を見せて、その上で御負担をお願いしますとすることが必要ではないか。つまり、どんぶり勘定でやっていると、国民はなかなか負担に応じてくれないのではないか。だから、だれが負担し、だれが給付しているかということは、ある程度明確に見せながら、それでいて、この程度ならば所得移転、所得再分配があってもいいですというような合意を形成していくことが必要なのではないか。
沼尾委員がおっしゃったところも、今、申し上げたようなことなんですけれども、基本的には機能分化だと私は簡単に申しましたが、非常に現実には難しいと思います。
それから、基本的に地方の話も同様に扱っていただければと思いますが、あくまでも国と地方連結決算というのをグラフで示すのはなかなか難しいので、一応こういう形で示させていただいたということであります。
〇田近部会長
時間が限られているので、残念ながら、これで一応締めくくりますけれども、土居さんからは社会保障をめぐる税と社会保険料ということで、多くの方がおっしゃられていましたが、わかりやすい説明をいただいたと思います。このテーマは、引き続きこれからも続くテーマですから、更に議論を深めていきたいと思います。
一応、最初のテーマはここまでにさせていただいて、2つ目のテーマに移りたいと思います。 お手元の資料をご覧になっていただきたいんですけれども、テーマとしては「租税原則としての『公平』と『公正』」ということで、中里さんの担当するグループの今日的意味における租税原則。その領域の中でと限定する必要もないんですけれども、我々の整理としては、中里さんが担当されている租税原理の一環で報告いただくということです。
中里さんから簡単に御紹介いただいた後、吉村さんから20分程度御説明いただいて、討論ということにしたいと思います。では、中里さんお願いします。
〇中里特別委員
今日は吉村委員から「租税原則としての『公平』と『公正』」というタイトルで、報告をいただきます。
吉村委員は、最若手の租税法研究者です。最若手の租税法研究者は、経済学を完全に理解しているという点で、法律学と経済学の両方を押さえている新しいブレンドの学問を追及している方々です。ちょうど2か月前にハーバードロースクールで経済学やファイナンス理論のトレーニングを1年半ぐらい受けて帰っていらっしゃいましたので、今日の報告を楽しみにしているわけです。よろしくお願いします。
〇吉村専門委員
ただいま御紹介にあずかりました、横浜国立大学の吉村でございます。本日、報告の機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
それでは、私からの報告といたしましては「租税原則としての『公平』と『公正』」ということで、租税原則の再検討のうち、公平原則と公正概念との関係を検討していきたいと思っております。
私自身は、これまで租税回避、いわゆるタックス・シェルターの広がりに対して、租税法がどのように対応していくか。また、どのように変容していくかという点に興味を持って研究をしてまいりましたので、本日の報告もそのような視点から、公平原則の在り方について検討を加えるといった趣が強いものになっていますので、まず御了承ください。
また、各国の動静を一般的に取り上げましたので、ややもすると、文脈に沿って都合のいい素材をピックアップしているのではないかという批判もお受けするかもしれませんけれども、一般的傾向を指し示した私論であるということで御容赦いただけると幸いです。
それでは、まず本報告で用いる伝統的な公平原則の内容を最初に明らかにしたいと思います。この点は、後に参考として示しますように、租税法学における公平概念であったり、また財政学における課税原則としての公平といったものが多々あると思われるんですが、ここでは最大公約数的なものとして、税調の答申における定義を出発点にしたいと考えております。
税調の答申を見ますと、公平の原則とは、各人の経済力に応じて負担を分ち合うことであると述べられております。そして、より具体的な内容としては水平的公平、垂直的公平、世代間の公平、といったものが含まれているんだということで理解されている。 こちらは租税法学、また財政学であっても公平原則といったときに、おおよそこのような内容を持ったものとして理解するのが通常であろうと思います。
私が何に注目いたしますかというのは、これから見ていきますように、執行面の課題という関係が、どちらかというと背後に隠れてしまっている部分があるのではないかと考えております。
ということで「2.公平原則の直面する課題」ですが、従来の議論であれば、税制の執行面というのは、実態的公平を実現するに当たっての制約である。もしくは、公平な課税を実現するためのインフラとして理解されてきたのではないかと思います。
しかしながら、経済取引の高度化や複雑化によって、租税法や会計領域というのが非常に複雑化している。また、国際化の進展によって、新たな執行上の問題が注目されつつあるという現状を見ますと、公平な課税というものを実現するために、税務執行の役割というものを正面から見据えるというのが重要なのではないかと思っております。
「(1)租税法規の複雑化--公平原則と簡素原則との接近」といたしましたが、課税の公平を確保するためには、簡素な税制であることが望ましいことは、既に従来から指摘されているところでありますが、この点が以前に比べてより強調される。そのような機会が増えているのではないかと感じております。
アメリカの議論の動きを見たので、申告義務の課されている納税者の範囲が広いという点で、やや特殊な面もあるんですけれども、複雑な租税法規の存在によって、適正な申告や納税が困難になっているのではないか。
またアメリカであれば、各人申告をしなければいけないということですので、そうした納税等に関するコンプライアンス・コストの配分が公平に行われているのかどうかという問題意識も登場してきております。
例えばPaperwork Reduction Actというものがアメリカに存在していますが、こちらは国民の事務負担の削減、そのための行政内部での情報共有等の効率化を図ることを定めております。
Tax Compliance Measurement Programというものがありまして、こちらはやや毛色が違うものなんですが、納税者の課税漏れ、いわゆるタックス・ギャップと呼ばれるものなんですが、こちらを把握するために申告書を精査するという調査が行われておりますが、その調査結果を前提として、さまざまな分析が行われることになっています。こちらは従来から指摘されていたものだと思います。
市場型の租税回避商品の広がりが指摘できるかと思います。ここで市場型と述べますのは、従来、租税回避と呼ばれるものというのは、資産家であったり、また多額のフロー所得を得た納税者が専門家のアドバイスを得て租税回避を実現する。少ない税負担が可能となる取引を試みる。そのようなものが従来の租税回避として考えられてきたわけですが、アメリカを中心に租税回避商品が広がりを見せている。すなわち、節税メリットがある。納税者から見るとなぜかよくわからないけれども、その商品を購入すれば、自分が払うべき税金が安くなる。そういう金融商品として流通している側面があるということです。
その結果といたしまして、納税者間での比較という視点が希薄化という面が指摘できるのではないかと思います。
例えば従来型の租税回避につきましては、課税の公平に反するということがよく言われておるわけですけれども、市場にそのような租税回避を可能とする商品が広く出回っていることになりますと、納税者の判断としては、その商品を購入するか否か。勿論、その商品を購入するための原資を調達できるかどうかという問題は残るんですけれども、その商品を買いさえすれば、税金が安くなるわけですから、納税者間、納税者を比較して、公平か否かということで、租税回避の問題点を指摘していくのが少々難しくなるのではないかと思っております。
そのような状況を受けまして、個々の納税者に注目するよりも、タックス・シェルターをつくり、また流通させているプロモーターやアドバイザーに対する規律を導入する。そういった国が増えているということです。 3点目として税務行政の効率化に向けたプレッシャーが存在しておりますので、今後、執行の強化であったり、また変容ということが予想されると思います。こちらは既に何度か海外調査の御報告の中でも登場しておりますけれども、その後、世界的に法人税率引き下げに向けたプレッシャーが強まっている中で、実際の政策パッケージとしては、法人税率の引き下げと移転価格税制等のパッケージという形で対応しているということが広く見られるということです。
タックス・ギャップの解消に向けての努力というのは、専ら法人税について強調されることが多いのですが、そのように執行の強化ということがうたわれるようになりますと、一方で手続的公正ということが正面に出てくる場面。すなわち、国民のプライバシーや私的な領域を保護する考慮が必要になってくるのではないか。現在も必要となっているんですが、ますます強調されるようになってくるのではないかと思います。
また、国際的な局面でもタックス・プランニングの仲介者といったものに注目が集まっておりますので、先ほど述べましたような政府と納税者が直接向き合って、法律関係が生じている状態から、その周りに存在しているプロモーターやアドバイザーというものを取り込んで、いかに規律していくかということが模索されていると言えるのではないかと思います。
(3)で挙げましたのは、効率的な行政というのが求められる一方で、納税者の私的領域、手続保証というものとの均衡を図っていかなければならないという法的な議論だったわけですが、もう一方で、制裁強化というものが必ずしも効率的な執行につながるわけではないといった指摘が登場しています。
そちらは「(4)コンプライアンス・モデルの転換」ということです。かつての議論の枠組みであれば、なぜ納税者が脱税をするのかということの検討に際して、納税者をギャンブラーになぞらえる。すなわち、脱税を行うという誘引が、脱税が発覚する確率と発覚した際に科される制裁によって、脱税を行うかどうかという意思決定がなされるといった枠組みが一般的であったのではないかと思います。
その帰結といたしましては、脱税を抑えることになれば、脱税を発見する確率を高める。あるいは脱税を発見した際の制裁を強化する形での対処が導かれることになります。しかしながら、ここ20年ほどの研究を見ていますと、先ほど挙げたTax Compliance Measurement Programによって得られた成果を生かした実証分析が増えているのですが、その中では、例えば制裁の大きさと過少申告との間に相関関係が見られないといったものであったり、税率の変化と過少申告との間に負の相関関係が見られるといったパズルも指摘されているところでありまして、そもそもそうした結果をどのように従来のモデルとの関係で整理するかということで議論が盛んになされているところであります。
そのうちの可能性の1つとして、納税者の認識が自発的な納税協力に影響を与えているのではないかと指摘されることがあります。こちらは、そもそも納税者のモラルというのが、脱税を行うか否かの判断に影響するんだということも言われたりしますし、脱税が発覚した際に、法的に定められたサンクションだけではなくて、社会的な制裁というものがなされ、そのような社会であれば当然発覚した際に脱税を行うという意思決定に影響を与えますので、そのような要素があるのではないか。そのような社会的なスティグマであれば、社会において脱税という行為がどのように評価されているかということが影響を与えてくる。そのような意味で、納税者の認識がコンプライアンスに影響を与えている側面が強調されることがあるということです。
今までの議論というのは手続的な側面に注目したものだったんですが、5点目としては、税制の再分配機能というものについても、課税原則として垂直的公平というようなことをいった場合に、やや従来とは異なった枠組みというのが求められているのかなという話です。
以上のような認識を前提といたしまして、公正概念というのが租税法上重要である。原則として必要であることを考えた場合に、どのような局面が公正という概念によって規律される想定できるのかというのが、IIで挙げた項目になります。
その際に重要になるのは、公正という概念は、一般的に公平に比べて主観的な判断というものに依存する概念であるととらえられていると私は思うのですが、その点からすれば、国民の信頼を獲得する税制という視点として整理できるのかなと考えております。
具体的内容といたしましては、大きく2つに分けまして、1つは実体面です。具体的な税率や課税ベースの話の実体面における公正というものと、先ほど申し上げたような執行面での公正という形に大きく分けております。
実体面における公正概念ということで、これは従来の公平概念においても言われていたように、各人に公正な分担を求めていくこととして理解されるのであろうと思います。実際に最近の法案であったり、社会情勢を見てみますと、次のような2つのイメージがそこから透けて見えるような気がいたします。
1つ目といたしましては、公正といった場合に、各納税者が平等な基盤に立つことを求める。言い換えれば、広く薄い負担を各人に求めていく。このような内容を持つものとして理解する人々がいると思います。これはアメリカでFairTax法案というのが最近出ておりますが、それは従来の所得課税の枠組みからより広く薄く負担を国民に求めていくような税制に変えるべきだということを主張するものであります。
もう一つといたしましては、公正という概念を挙げたときに、弱者を保護するための積極的な介入を求める。そのような概念であると理解する人々も勿論存在しておりまして、また最近ですと大企業やグローバリゼーションに対する批判と結び付くこともある。具体的にいいますと、大企業が途上国でちゃんと税金を納めているかということを報告するといったNGOなどもアメリカでは存在しているようです。
もう一つとしましては、簡素と非常に近い概念として公正という言葉を用いることがありまして、アメリカのPanel Reportにおいては、明瞭で見通しのよい税制ということがうたわれまして、各納税者が自分の負担額を正確に計算できるだけではなくて、それが国民の他者の負担と比べたときに、どのような位置関係にあるのかということが把握しやすくなる。そのような税制が望ましいんだということが盛り込まれています。
続いて、執行面での公正ですけれども、ここで公正という概念に期待される役割としては、2つあろうかと思います。
1つ目としましては、既に決定されている実態的な税制の内容をいかに実現していくか。その環境整備のために公正というのを用いる。先ほど公平概念というのは、執行面、執行の側面をインフラとしてとらえていたと申し上げましたけれども、インフラを整備するに当たって、どのような仕組みをつくるのが望ましいのか。そのような概念として、公正という言葉を用いる可能性があるのではないかと思います。
もう一つとしましては、効率的な税務行政というのが、これからますます求められていくことになりますが、その際に国民の私的自由との調整をどのように図っていくか。適正手続をどのように保障していくかといった問題があるんだろうと思います。
このように見た場合に具体的試みとして、各国における徴税の強化、徴収面での強化というものの具体的な試みを取り上げることで、公正概念をもし手続面で用いるとしたら、どのようなイメージになるのかというのが漠然とではありますが、伝えられるのではないかと思います。
まず1点目として租税回避への対応ですが、先ほど申し上げましたように、非常にタックス・シェルターが広がりを見せていることに応じて、各国も非常に知恵を絞っているところであります。
「i.事後的対応」としては、当然、個別事案への対処を行う。これは勿論更正処分という形で行う。もしくは立法措置を通じて、タックス・シェルターを防ぐことになりますが、実際問題といたしまして、取引把握にかかるコストが増大しているという実情がありますので、事後的な対応というのは非常に困難を伴う。
そこで「ii.事前の対応」というものに焦点が移ってきているわけであります。その際に挙げられますのが、1つ目といたしまして包括的否認規定を導入する国、特に最近になって導入した国にカナダなどでございます。また、アメリカでも包括的否認規定の導入に向けて議論しているところです。これは包括的に否認規定というものを制定法に盛り込むことによって、租税回避のみを目的とした取引について、萎縮させるものです。
また、先ほど来、個別の納税者に対してだけではなくて、周りにいるプロモーターやアドバイザーに対する規律を強めていく動きが見られると申し上げたところでございますが、開示義務や罰則を納税者から周りでアレンジしているものに広げていく、または強化していくという動きが広く見られます。
3点目といたしましては、企業の社会的責任の一内容として、適正納税を行っているかといった話であったり、またコーポレートガバナンスの強化などの側面として、課税上の扱いが不確実である取引については、十分な検討を経営者に要求する。そのような形で公正という用語が用いられることがあろうと思います。
こちらはどちらかといいますと、納税者やアドバイザーに対して負担を課していくものであったんですが、一方で見られる動きというのが、申告や納税といった納税者の声に対して、それを支援するサービスを充実させていこうという動きが見られます。その背景にあります思想というのは、大ざっぱにまとめますと、一般の納税者、先ほどの制裁強化という話はどちらかというと大企業や資産家をターゲットにしていたわけですが、こちらは一般的な納税者に対しては、制裁の強化ではなくて、むしろ、法に従った申告を行おうという精神を促進する。そのような思想が背景にあります。
例えばオーストラリアでは、対応的規制という考え方に基づきまして、税行政の改革が行われまして、制裁の多様化・柔軟化が図られております。
また、アメリカにおきましても、1998年にIRSの改革が行われたわけですが、それ以降においては、IRSの資源は納税者サービスに振り向けられるようになっていることが指摘されております。 このように見ていきますと、公平概念と異なる公正概念独自の意味合いというものがもしあるとすれば、次のような3つのものとして整理できるのではないかと考えております。
1つ目といたしましては、公平な税制を実現した結果として、国民の信任を勝ち取ることは、従来の議論でも勿論前提としていたところでありますが、むしろ、実現する公平な税制と国民との信任とを橋渡しする。そちらを正面に見据えて公正ということを主張する可能性があるのではないかと思います。
2点目といたしましては、執行面の話になりますが、適正な執行を担保していく。特に先ほど申し上げましたような税務行政の困難が今後ますます強まっていく中で、適正な執行を担保していくためには、従来とは異なった枠組みが必要になっていくのであろう。その際に、どのように執行面での変化を取り込んでいくか。規律していくかということを考えた場合に、公平原則の補助的な側面、もしくはインフラとしてのみの執行面をとらえ続けるというのでは不十分なのではないかと考えます。
3点目といたしまして、税務行政の効率化に当たってということなんですが、先ほど申しましたように、制裁強化、手続的負担を強化することの一方で、納税者に対する手続的保証を図ることが必要になりますので、その両者の均衡を図る場面において、公正という概念を提示する必要があるのかもしれないと考えております。
雑駁な報告ではございましたけれども、以上です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。
租税原則としての公平と公正。ややもすれば、概念的な問題に陥りがちなテーマですけれども、現在のグローバル化した経済における税の執行の重要性というところに軸足を置いて、きちんと執行できる。そういう仕組みなんだということを国民に信頼を持ってもらう。そういう橋渡しとして、公正という概念を考えたらどうだと私は聞きましたけれども、非常に概念的な問題を今の我々の状況に近づけたお話だったと思います。
藤谷さん、横山さん、御船さんと続けてお願いします。
〇藤谷専門委員
北海道大学法学部の藤谷でございます。専門委員をさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
私はこの場にいる数少ない租税法を専門に研究している法学者の1人だと思うのですが、感想めいた、私どもはこういうふうに伺ったというようなことで、最後に簡単な確認的な質問をさせていただきたいと思います。
法学者というのは、委員の先生方は御承知のとおり、公平という概念が大好きでございまして、公平ということを言うわけですが、勿論、租税原則として政策の場面でも公平ということを言われるわけですが、実際に答えというのは決まらない。
部会長から先ほどありましたように、実際、概念的に抽象的に飛んでいってしまう。垂直的公平という話がレジュメの1ページにありますが、これはまさに所得再分配で、これをどうしていくかというのは政策的に論じていかなければいけないし、水平的公平、等しいものには等しい税負担をということもわかりやすいように見えて、実際の税の現場では、個別具体的なときはこちらが公平なんだという話で、やはり難しくなっていく。
そうした中で法学者というのは、この場で政策的な租税政策と大きなグラウンドデザインが、実際に執行されていく間をつなぐ役割。法律というのは、まさに間をつないでいるわけですが、そういった視点から見ると、今日の吉村先生の御報告は私も非常に共感を持って受け止めたのですが、例えば政策の場面で、個別の事情をいろいろ配慮して、複雑な税制を仕組んだ方が、より実態的な公平にかなう。しかし、それが、例えば納税者のコンプライアンス・コストを高めていたり、見通しが悪くなっていたり、あるいはもっと負の側面として、悪用する人たちがいらっしゃいまして、租税回避あるいはもっと極端に言うと、脱税というものがあるんですが、そういったことまで目配りしていかなければいけない。
先ほど吉村先生のお話の中では、政策的な話と執行的なお話の2本立ててお話になったんですが、やはりお話を伺っていて感じたのは、その両者はつながっているのかなど、結局、先ほど申しましたように、執行というのは政策を実施に移すものでありますが、国民の目から見て、執行の方で複雑怪奇な税制をデザインしていますと、当然、法律に従って現場は執行するわけですが、そこでいろいろな問題が生じるということが、今日ここでお話になったことだと思います。
そういう意味で、公平あるいは公正という言葉で、伝統的な概念を読み直すということが行われるときに、恐らく政策への反映として、見通しがいいあるいは濫用しにくいだとか、それを通して納税者が規範意識、納税者意識を高めていくといったことに、恐らく御配慮いただく必要があるという趣旨に受け取ったのですが、そういった理解でよろしいでしょうかというのが確認的な質問と申しましたが、私の質問でございます。
〇田近部会長
時間がないので、横山さんと御船さん、手短にお願いします。
〇横山委員
2点教えていただきたい、お考えを伺いたいと思います。
1つは垂直的公平というのは、異なる支払い能力あるいは異なる受益の人には異なる租税上の取扱いをということなんですけれども、結局、端的に言うと、差別課税をすることなのではないか。そうすると、所得が違うとか子どもがいるかいないかとか、そういう差別的な課税、何を持って差別的な課税をすることが社会に受け入れられるかということも検討していかなければいけないのではないかと私は思っています。
もう一点、是非お聞きしたいのは、差別的課税を正当化するための挙証責任は課税側が負うのか、納税者側が負うのか。言いたいことは、異なる所得を持っているのではないか。あなたはたくさん所得を稼いでいるから、あなたにはたくさん税をかけますというときの挙証責任を政府が負う場合と、そうではなくて、一律に税を納めていて還付を受けるようなときに、自分はこれだけの所得しかないから、差別的におまけをしてくださいというような形でいくのか、どちら側に差別的課税を正当化するための挙証責任を負わせるのかということで、税務執行が違ってくると思うんですが、この辺をどういうふうに吉村先生はお考えなのかということが1点です。
2点目の質問というか教えていただきたい点は、最後の結論の3点目ですけれども、私が尋ねたいことは、いわゆる租税特赦、タックス・アムネスティについて、諸外国、特にアメリカなどは税の仕組みの中に、税に関与していなかったような潜在的納税者を巻き込む工夫がなされてきているのではないか。日本でそうした租税特赦ないしタックス・アムネスティのルールなり制度というものは根づくのかどうか。この辺は3点目とも関わってくるんですが、どのようにお考えなのか伺いたい。
この2点です。
〇田近部会長
では、御船さんも、続けてどうぞ。
〇御船委員
公正概念ということが、戦略的、理念的あるいは実務的に非常に重要な概念だということを認識させていただきました。本当にありがとうございました。
「iii.公正概念の位置づけ」の3番目で「納税者一般に対する制裁・手続的負担を強化することは必ずしも望ましい結果をもたらさない」ということなんですが、手続的負担というのはよくわかるんですが、制裁を強化することは、必ずしも望ましい結果をもたらさないというのは、オーストラリアの税務行政改革の議論の中でそういうことが出てきたのかと推測するわけですが、この2つの概念の違い及びオーストラリアにおける税務行政改革における議論の中で、これがどういうふうに整理されてきたのか。この2点に関してお伺いしたいと思います。
〇田近部会長
吉村さん、手際よくお願いします。
〇吉村専門委員
まず1点目の藤谷先生のコメントに関しまして、やはり法学者の議論というのは、やや立法論というのを相手にしたときには、概念的なものに陥りやすいということがありますので、その点を意識して、御報告の方向性を定めたということがありますので、藤谷先生のコメントは、まさにそのとおりであろうと思います。
その中で、最後の方に政策への反映の局面ということで、公正概念の有用性等に関するお尋ねがありました。例えば公平と簡素との衝突というか、そういった場面を取り上げてお尋ねがあったかと思うんですが、私はこの点は、ややもすると、迷っているところがありまして、現状の整理としては、例えば公平な税制によって納税者の具体的な実情に応じた税負担を考える方向性と、また一方で簡素な税制を実現するという方向性は、トレードオフの関係にも立つんだという形で整理されているんだと思いますが、それを、私はこの中では、公正という言葉によって、それを置き換える。公正という一語によって、見通しのよさということを置き換える可能性があるのではないかということを報告の中で申し上げたんですが、果たして、政策論議、トレードオフとして、そういった場面を整理して議論していく方が望ましいのか、それとも公正という一語で評価してしまう方がいいのかというのは、少々迷うところであります。お答えにはなっていないんですけれども、そのような迷いがあります。
次に横山先生の御質問に対するお答えで、まさに何が公平かというのは、結局、差別的な課税がいけないんだというような御指摘はごもっともであろうと思います。特に裁判所に持ち込まれて、憲法判断を仰ぐことになれば、平等違反になっているかどうか。合理的な根拠を欠く差別的な政策なのかどうかということが問われることになりますので、租税法において公平を考える場面でも、差別になっているかというのは、非常に重要であろう。
その際に、お尋ねの中で、勿論、合理性というのをだれが主張すべきなのかということで、局面としては2つありまして、政策の立法の段階で区別を設けよう。区別を租税法に導入しようという際に、その根拠の合理性を政府が負うべきか否かということについては、立法の場面で政策論議を繰り広げて、その合理性を基礎づけていく話もあります。
横山先生の御質問としては、執行面または裁判の場面において、そのように導入された後の規定の適用に関して、いずれが立証責任を負うかという話だったんですが、一般的な訴訟法上の挙証責任の原則からすると、恩恵を受ける側が立証責任を負うことになっていますので、一般的な話、ルール等の整合性を重視すれば、当然、先ほどのお話であれば、税負担が低くなる。そのような規定に自分が適合するんだということを主張する方が、立証責任を負うのかなという気がいたします。
勿論、それを立法によって覆すことは可能ですし、実際に国によっては、その点をひっくり返す。特に相手方が大企業、海外に展開している場面のように、情報取得ということに非常に差がある場合には、情報取得に関わるアクセスするリソースに差がある場合には、それを覆すことも当然必要なんだろうと思います。
済みません、お答えになっていませんけれども、先ほど横山先生が例に出されたような場面、個人が恩恵を求めて規定の適用を主張する場合であれば、その場面についてのみ一般的なルールを変更するというのが、より一層の根拠、そのような区別を立法政策上導入することに加えて、別途もう一段階上の考慮が必要なのかなと思います。
また、アムネスティの話なんですが、アムネスティに関して、日本に根づくのかということは、課徴金の減額を認めるというような措置も導入されておりますので、そういった面を見ながら、日本でもアムネスティ的な発想が根づくのかというのが今後の課題なんだろうと思います。私自身は、そこを判断すべき材料というのは持ち合わせておりません。
御船先生の制裁の強化というお話で、オーストラリアのことなんですが、オーストラリアの対応的規制というのは、制裁一本やりではなくて、より柔軟に被規制者の状況に応じて、いろんな手段を使っていこうという仕組みでありまして、一方で挙げた制裁強化がコンプライアンスに対して悪い影響を与えるという話だけではなくて、行政庁にいろんな手段を与えようという発想もまた一方でありましたので、必ずしも制裁強化が悪いというような文脈でまとめられたものではありません。
〇田近部会長
時間が少し過ぎようとしていますけれども、御質問を受けたいと思います。
初めての人で、翁さんと上月さんお願いします。
〇翁委員
2つなんですけれども、1つ目は、4ページの下の方にIRSの資源が、かなり納税者サービスに振り向けられるようになっているというお話があったんですけれども、日本の現状での事前相談というか、納税サービスということに関して、今の体制をどういうふうに評価されるかということを1つお伺いしたい。
もしかしたら、上月さんが質問されようとしているのかもしれないんですけれども、いわゆる税理士とかプロフェッショナルの方々について、こういう税の複雑化とかそういうことについて、アメリカで参考になるような、そういう人たちの役割ということについて議論がありますかということが1つ目です。
もう一つは、先ほどの御船先生の議論と関連するんですけれども、制裁金のレベルなんですが、先ほどTax Compliance Measurement Programでは、制裁のレベルと過少申告の間に余り関係がなかったということなんですけれども、それでもアメリカは制裁金を上げようとしているということは、言わば今の制裁金のレベルが余り経済的に見合わないレベルまで達していないというような理解をこの調査ではして、そういう取組みになっているんですか。
その2つをお伺いしたいです。
〇田近部会長
では、続けて、上月さんお願いします。
〇上月特別委員
ありがとうございました。
公平というのは、非常に重要なことだというのは私たちもよくわかるんですが、税の現場におきましては、必ずしも個別の納税者が公平について考えられるかといったら、そういうことは考えられないわけで、結局は租税法律主義に基づいて位置づけるというような場面が少しは出てまいります。それを納税者に強いるということは、ちょっと酷な問題だと思いますので、その辺をどうお考えになるか。あるいはアメリカでというお話がございましたが、そういうのはどういうふうに解決されているのか、できればお教えいただきたいと思います。
〇田近部会長
では、吉村さんお願いします。
〇吉村専門委員
手短にということですので、まず最初に翁先生の御質問で、日本の国税庁の資源振り分け状況に関して、どのように評価されているかということなんですが、98年の段階でIRSの改革が行われたというのは、非常に政治的な背景を持つものですので、簡単に当時のIRSがサービスをおろそかにしていたということを、必ずしも意味しないとは思うんですが、日本の国税庁に関して、どう思うかということについては、現状として見た場合に、納税者サービスに対して、資源を振り分けていないことよりも、実は後ほどの上月先生のお答えにも重なるところがあるんですが、アメリカ等の動きを見ていると、制裁の使い方として、大企業や資産家のように、巧妙な、発見しにくいタックス・プランニングを行う納税者に対しては、非常に制裁を強くして、代わりに一般的な納税者については柔軟なアプローチで対応するという方向を目指しておりますので、日本についても、そのような方向というのは考えられるのではないかということです。
2点目の御質問のあった制裁金のレベルに関しては、制裁金のレベルを引き上げているというのは、どちらかというと、発見しにくい巧妙な納税者を相手にした場合の話として、そういう政策をとっているということです。
上月先生の御質問なんですが、そうしたアドバイスを受けられる納税者、大企業の高額所得者たち、一般の納税者ですと、やはりいちいちアドバイスを求めて申告等を行うと、特に手間や費用がかかりますので、そういった事情を考慮して、弾力的にサポートという側面を持つような対応の仕方をしていくのが、アメリカやオーストラリアで見られている改正なんだと私は理解いたしました。
〇田近部会長
では、これで締めくくりの質問を受けたいと思いますけれども、質問がある方は挙手をお願いいたします。では、吉川さん、上村さん、佐藤さん、手短にお願いします。
〇吉川委員
いろんなことを教えていただいて、どうもありがとうございました。
1つ、資料の4ページの真ん中に辺り「ii.事前の対応」の「1 包括的否認規定」というのは、私は法律に暗いものですから、具体的にたとえ話か例で説明していただければと思います。経済学者の目からしますと、租税回避だけを目的とする取引についてとあるんですが、それをどのように事前に定義しておくのか。乱暴にいいますと、そんなことができるんだろうかという気がするんですが、このことについて、具体例か何かで教えていただけると幸いです。
〇田近部会長
では、上村さん、どうぞ。
〇上村専門委員
報告ありがとうございました。
2つあるんですけれども、応益課税や応能課税という話が、恐らく今日の公平と公正というお話に非常に関係してくると思っているんですけれども、そういう話がなかったんです。例えば公共サービスの受益と負担の対応を考えると、公平という概念が非常に重要な話になってくると思うんですけれども、特に地方税のことを考えるときは、いわゆる応益性というのは大事だと思っているんですけれども、その辺はどうお考えになっているかというのが1つです。
もう一つは、公正という言葉を辞書で引くと、フェアネスもそうなんですけれども、ジャスティスという言葉が出てくると思うんですが、正義という言葉ですけれども、そこから例えばロールズの正義論であるとか、ベンサムの話とか、そういったところとの対応が見えてくるわけですけれども、特に経済学者はそういうところを考えてくるわけですが、その辺りの話というのは、租税法学では考えないのか。もしくは考えるのかというのを教えていただきたいということです。
以上です。
〇佐藤専門委員
応益課税を言われてしまったので1つだけにします。
私は公平と公正の違いについて、多分頭の中が混乱している。公平を理解すると、公平は税負担の在り方に対する価値尺度である。これはこれでいいでしょう。公正は、ある意味で自分の負担がどうであったかだけではなくて、税制全体に対する国民のパーセプションというか認識。先ほど上村先生がジャスティスと言いましたけれども、正義に即しているかどうか。そういう評価について、公正という言葉を使われているのかということです。
あとは、公平や公正は、我々学者もよく言うんですけれども、具体的にどうするのと言われると困ってしまうんです。社会的な合意に関わる問題なので、こういう社会的な合意形成については、法律サイドはどういうふうにとられていらっしゃるのかということです。
〇田近部会長
では、これで締めくくりの質問とさせていただいて、お答えお願いします。
〇吉村専門委員
まず1点目、包括的否認規定の可能性ということなんですが、例えば国によってありますが、例えばある取引を行ったときに、勿論取引自体として何かしらの利益が得られるというのがあります。租税回避として非難されるものというのは、大体取引を行うことによって税負担が安くなる。そこで両者を比較して、その取引による経済的な利益というのがゼロであれば、非常にわかりやすい場合なんですが、場合によってはマイナスになるという場面もあるんです。租税回避として具体的に争いになる場面としては、単純に取引だけを考えるとマイナスになるんだけれども、税制上のメリットによって、トータル、税引き後ではプラスになるという状況が出てきますので、そうした状況をどの段階で線を引くかというのは、また立法判断なんですが、そうした場面を念頭に置いて利益を比較して、いずれを得ることに納税者の目的があるかということで、取引の否認を行ったり、行わなかったりという判断をするという例があります。
2点目の応益性原則という話なんですが、公平的な概念を議論するときには、勿論こうした、具体的にどういったような場面を公平と考えるのかということが非常に難しい。公平概念自身も非常にまだまだ議論の余地があるではないかということもあったんですが、前提として掲げましたのは、税制調査会の答申で、とりあえずどう提起されているかということを出発点としたということで、今の税調の答申を見ますと、公平というのは各自の経済力に応じて負担をわかち合うことということで、どちらかというと応能原則的な考え方を取っているんだという気がいたしまして、それを前提に今、議論を進めていったということであります。
ですので、応能に従った税制だけが公平だということを主張したかったわけではなくて、今の枠組みの中で公平といった場合に、ある程度前提を置きませんと、その議論が進められませんでしたので、そのようなことということで、勿論その応益性というのが税制のデザインに当たって、重要な理念になる場合も当然あるんだと思います。
2点目の公正というのは正義であると。また、特に再分配を行う際にどのような在り方が望ましいのかといった議論につながっているんだという御指摘だったと思うんですが、その点につきましても、ロールズの正義論が公正という言葉の広がりに強い影響を及ぼしたというのは、勿論、私も存じ上げているところなんですが、ただ、それを望ましい分配状況を、どのようなツールでつくり上げていくかということを考えた場合に、税制という局面だけで完結的にそれを実現していく、その税制の原則として、垂直的公平ということを強調するというのは、少しずれてくるところが出るのかなと。そこのずれに注目して、再分配とは一旦離れて税制として考えた場合に、フェア・シェアという言葉で代表されると思うんですが、どういった税制の在り方が公正なのかという、また違う筋の議論が出てきているのかなという気がしました。
佐藤先生の御指摘なんですが、納税者が公正さというものを認識する場合には、やはり個別の税目についてのみではなくて、税制全体に対して信頼を持っているかどうかということに影響を及ぼしているんだと思います。
そのような意味でおっしゃったとおり、個別の税目を考える際に登場してくる公平原則と比べた場合に、公正という概念はやや具体的なレベルに落とす際には少し困難があると思います。
社会的な、勿論どういう税制が望ましいのかという話には、社会的合意形成が必要だということで、その場面での法学の取り上げ方ということなのですが、これは少々難しいところがありまして、裁判所での憲法審査も事実上立法府に広い裁量が与えられているという実情がありますので、余りこの規範、このルール、この原則を取り上げなければ、取り上げるべきだといった主張は法学者としては、なかなか苦手としているところで、法学として何か提供できるものがあるかと言われると、少し困ってしまう状況です。
〇田近部会長
どうもありがとうございました。少し時間を伸ばしてしまいましたけれども、租税原則における公平と公正、大変貴重な、また我々にとってはこれから参考になる御報告をいただいたと思います。
以上で調査分析部会の方は、終了させていただきます。
〇香西会長
それでは、残りました議題は、企画会合ということで、皆さんに御報告をしたいと思います。
最初に申しましたけれども、公益法人制度改革の動きについて、公益認定等委員会が審議をいろいろ進めていただいているわけですけれども、そこからの説明を聞くようにということが、我が税調においても御発言があったところでありますので、公益認定等委員会から経緯と現状についてのお話を承りたいと思います。
これにつきまして、内閣府の公益認定等委員会事務局の原山審議官にお越しをいただいておりますので、御説明をいただくことにします。
また、本件の過去の経緯の中で、税制調査会が平成17年6月に報告書、「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」をとりまとめた経緯がございます。この報告書の概要につきまして、主税局の吉田税制第三課長より簡単に御説明をお願いしたいと思います。
続けて御説明いただいた上で、できれば若干質疑の時間を設けさせていただきたいと思います。
それでは、原山審議官、吉田税制第三課長よろしくお願いいたします。
〇原山審議官
それでは、お手元の「公益法人に関する制度の抜本改革について」というレジュメに沿って若干お時間をちょうだいして説明させていただきます。
まず、簡単に経緯を振り返らせていただきますが、現台の公益法人といいますのは、明治29年の民法制定以来、ずっとそのままの制度を引きずってきたものでございまして、民法には34条というところに、学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とする法人は、主務官庁の許可をもって成立すると書かれているわけでございます。
要は、明治時代において公益というのは官がやるべきことであって、官が許可した者だけが公益を担えるという考え方を今日まで110年引きずってきているというものを、今回大改革をしようということでございます。
2にございますとおり、主務官庁制の下で許可された、あるいは監督を受けている法人が、積もり積もって国所管で約6,800、都道府県所管で1万9,000ほどの法人がございます。
これらの法人について、例えばそこにございますとおり、主務官庁の裁量権に基づく許可、監督の不明瞭性、箸の上げ下ろしまで官庁が関与するといったようなことに代表されるような問題が指摘されてきておりまして、今回の大改革に至ったわけでございます。
平成15年より前にも、勿論いろいろ経緯はあるんでございますが、当面のことで申し上げますと、15年6月に、そこにございますとおり、抜本改革に関する基本方針についてという閣議決定がなされて、いろんなことを決めたんですが、特に今後有識者の協力を得て中身を詰めていこうということが決まりました。そのため、その年の11月に、行革担当大臣の下に「公益法人制度改革に関する有識者会議」というものを設置しまして、資生堂の福原さんに座長をやっていただいて、1年間、本会議のみをとっても合計26回という回数を重ねて中身を詰めたわけでございます。
その翌年の11月に報告書をとりまとめ、それらを基に公益法人制度改革の基本的枠組みの具体化ということを行革閣議決定の中で決めたわけでございまして、法制化に向けて具体的に検討を進めようと。税制上の措置についても専門的な検討を進めようと。18年の通常国会を目途に法案を提出しようと決めたわけでございます。
こうしたことを背景に、今、会長からも御説明がございましたが、当政府税調の基礎問題小委員会・非営利法人課税WG、これは水野先生に座長をやっていただいたと承知しておりますが、そこで新たな非営利法人制度に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方という報告書をおまとめいただいたところでございます。
これらを受けて、17年12月、その年の半年後でございますが、行革の重要方針という閣議決定の中で、先ほど申し上げた16年の基本方針に沿って、18年通常国会に法案を提出するということを改めて確認をし、新制度の施行までの間に対応する税制上の措置を講ずることということを決めていただいたところでございます。
翌年3月10日に、公益法人制度改革に関する三法案を国会に提出し、簡素で効率的な政府を目指すという行革推進法と併せて、衆参両方の行革特別委員会において御審議をいただき、5月末に法案が可決・成立し、6月2日に公布をいただきました。それに基づいて、衆参両院の同意を得て、公益認定等委員会、全体で7人でございますが、これが任命をされまして、現在、政令・府令についての精力的な検討をしていただいているところでございます。
政令・府令についても、官が勝手にルールをつくってはいかぬと、こういう認定委員の御意見を踏まえてつくらなければいけないという仕組みになっているところでございます。7名につきましては、その冊子の一番下の別紙3のところをご覧いただきますと、7名の氏名が書いてございますが、当税制調査会の方からも出口委員あるいは水野委員に加わっていただいております。池田守男さんが互選により委員長に就任していただいているところでございます。
元のページにお戻りいただきまして「2.改革の視点」でございますが、ざっくり言って3本かと思います。
第1本目が、明治29年以来続いた主務官庁制を廃止するということでございまして、廃止し、民間有識者、先ほどの公益認定等委員会による法令にのっとった一元的認定・監督を行うということ。
2番目が、法人統治についての規定の整備、わかりにくうございますが、ガバナンスでございます。いろんな公益法人についての不祥事が新聞等に出てまいりますけれども、これらの一つの理由が、公益法人の理事といっても、もう場合によっては名ばかりで、ほとんど代理出席か何かで、理事としての責任を果たさないまま常勤の役員と事務局長だけで好き勝手に財産を使ってしまおうとか、そういうものが不祥事の1つの温床になっている場合もあるわけでして、理事というのはこういう責任を持たなければいけないんだということを法律上明確にしたということでございます。
加えて、最も重要なのが「民による公益」の拡大。先ほど行革推進法と申し上げましたが、簡素で効率的な政府をつくる。すなわち、政府を小さくするわけですが、公、公益というのがなくなるわけではないし、これからもっと重要になる。そこを、官が小さくなった分、民がそこを担ってもらえるような環境をつくるんだということが非常に大事なのではないかということで、簡素で効率的な政府の裏側として「民による公益」の拡大ということを意図しているということでございます。
「3.新制度の概要」でございますが、法律は3本から成り立っております。
1つ目が、非営利の社団・財団が登記のみで法人格を取得できる制度を創設すること。後ほど絵を使いながら説明します。
2つ目が、内閣総理大臣または都道府県知事が民間有識者による委員会の答申に基づき公益性の認定を行うなどの制度の創設。
3つ目が、現行2万5,000余りの公益法人が新制度へ移行するための手続の整備ということでございます。
3枚目の別紙1をご覧いただきまして、左上の方にあります四角が現行でございます。法人の設立については、主務官庁の許可が必要でありまして、これが公益性の判断ということと一体でございます。その公益性の判断については、主務官庁が自由に判断、すなわち、裁量権がある。したがって、大臣ごとに許可する基準が違ったりするということもここで起こったりするわけでございます。
それを右側の2つの四角のようにしようということでございまして、法人の設立については、登記のみで可能と。これは公益法人と呼ばずに、一般社団法人・一般財団法人と呼ばれることになります。それが改めて申請に基づいて、先ほど御紹介したような、公益認定等委員会により、明確な法律に決められた基準に基づき、統一的な判断を経て、公益認定を受けると公益社団法人・公益財団法人となるという仕組みでございます。
2ページの2にお戻りいただきまして、その明確に定めた基準は、ここで御紹介する時間がございませんので、代表的なことだけ申し上げますと、公益目的事業比率が100分の50以上、これは費用で計って、その法人の公益事業と言えるものが50%以上なければだめだということでございます。
その際の公益目的事業とは何なんだというのは、いろいろと事例は法律上書いてございますが、端的に申し上げると、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するということが公益だというふうに法律上書かれておりまして、逆に言うと従来の共益というもの、同窓会みたいなものです、そういう共益と言われているものと公益というものを、法律上明確に区別しているというところが、1つの特徴でございます。
それ以外にも、さまざまな認定基準がございますが、例えば50%以内であれば収益事業等をやることも許されているわけですが、そういった事業から得られた利益の半分以上は公益目的財産にしなければいけない、公益的に使わなければいけないといったような種々の基準がございます。
もう一つ、現在の国の所管で6,800、地方所管で1万9,000、こういった既存の公益法人が一般法人へ移行するに当たっても、これについてはただ登記だけすればいいということではなくて、先ほどの公益認定等委員会などの認可が必要であります。
資料の別紙2をごらんいただきまして、左側の矢印の流れの一番下を見ていただくと、公益社団法人・公益財団法人に移行するためには、委員会の認定が必要でございます。
右の方の流れが、一般社団法人・一般財団法人に行くためにも認可が必要でございまして、その認可の中心が、それぞれの四角の中に書いてございます。公益目的支出計画というのをつくって、これを満たしているということの認可を受けなければなりません。
何かというと、既存の公益法人が公益法人として蓄積した純資産について、一般法人に移行した以降も計画的に公益事業に使っていくという計画を立てていただいて、確かに蓄積した財産は一般法人になっても公益的に使うなということを確認し、かつその監督を受けることになります。
元の2ページにお戻りいただきまして「4法人の監督」につきましては、勿論毎年の報告書をいただきますし、委員会による立入検査、通常3年に一遍ぐらいだと思いますが、立入検査を受けることになります。
公益法人以外も、公益目的支出計画を実施中の一般法人に対しても委員会が監督を行いますし、当然必要に応じて、突然の立入検査も実施いたします。
勧告、命令、最終的に認定が取り消されますと、公益目的財産として公益目的に使うための財産を他の公益法人等に贈与しなければいけないという、一種の制裁措置が入っているということでございます。
この法律の執行体制でございますが、国にあっては、先ほどご覧いただきました公益認定等委員会、その下に専門の事務局がございまして、私はそのメンバーなわけでございますが、その委員会を支える体制を整備する。特に事後の検査が大変重要だと思っておりますので、専門的知見を有する検査部隊を構築していくということを予定しております。
都道府県におかれても、国と同様の合議制の機関をつくっていただくことになっておりますし、今後委員会において定めていく基準に基づく全国同等の審査を目指していただくことになります。
「5.スケジュール」といたしましては、現在、精力的に政令・府令の審議をしていただいておりまして、その答申案を、できれば6月半ばぐらいにお出しいただけるように、今週だけ取っても木曜日と金曜日の2日間にわたって、出口委員には3時間ずつ御審議に加わっていただくほどの加速度的な審議をお願いしているところでございます。
その後、詳細な運営指針も定め、できる限り早期に公表したいと思っております。
これらの申請の受け付けは、予定しておりますのは、平成20年12月1日、来年の12月1日を受付開始を予定しておりまして、既存の法人につきまして、そこから5年間の間に、公益法人として認定を受けるか、一般法人に移行するに当たっても、先ほど申し上げましたように認可を受けるか。できなければ最終的には解散になってしまうようなスケジュールになっているところでございます。
以上でございます。
〇香西会長
それでは、続いて吉田課長よりお願いいたします。
〇吉田税制第三課長
それでは、私の方から税に関する議論ということで、まず、今、原山審議官から御説明がありましたところで、スケジュール感というものと重ね合わせて御説明差し上げたいと思いますが、今、御説明あった中で、税制上の措置につきましては、新制度の施行までの間に対応するということになっておりまして、先ほどのスケジュールでいいますと、平成20年末ごろをめどに施行するということでございますので、それまでに税制上の措置が必要になるということでございます。
それから、公益性を定めるに当たっての政令・府令の部分が、今まさに御審議をいただいているということでございますので、そこで公益社団・財団の在り方が決まったところで、税の建て付けについても、そこから精力的に議論をしていただくというスケジュール感なのかと思います。
私の方からは、机上にお配り申し上げました「企画11-5 調査6-5」という3枚の資料、それからそのときのワーキンググループの報告書をお手元にもお配りしていると思いますけれども、それはまた後刻ご覧いただければと思います。こちらの3枚の資料に沿って御説明を差し上げたいと存じます。
これにつきましては、平成17年6月に、前体制でございますけれども、非営利法人課税WGで水野座長を中心に御議論いただきまして、最終的には石会長とともに、税制調査会の基礎問題小委員会との合同会議で最終的に報告をおまとめいただいたところです。
その時点での検討の方向性でございます。その時点では、まだ法律の提出、成立以前でございまして、その直前の法律のための閣議決定を行っておりましたので、その内容に沿った形で御議論をいただいた。
その基本的な考え方を3枚紙に沿って御説明差し上げますけれども、当時の検討の方向性ということで、先ほど原山審議官からもお話がございましたが、「民による公益」の拡大というのが中心に据えられておりまして、基本的な考え方の最後のところでございますけれども「民間が担う公共」を支えるための税制の構築を目指すということでございます。
そのときの税制のパーツとして2つあるので、非営利法人に対する課税そのものをどうするかというのと、寄附金税制の在り方でございます。
基本的な考え方は、それを税制面からも民間が担う公共というものを最大限サポートしていくんだという基本的な考え方ででき上がっているものでございます。
「非営利法人に対する課税のあり方」でございます。
3つ●がございますけれども、1つ目が、先ほどありました公益性を有すると認定されたものについてです。それについては、先ほどありました第三者機関の公益認定等委員会のチェックが行われた場合には、現在、法人税法上、その公益法人に扱われている税制上の特例が自動的に認められる。
したがって、今まで各省庁、主務官庁が関与していたものが、公正な第三者機関によって認知されることによって、税制上の特例もそれについて同時に付与されるというスキームになってございます。
そのときの税制上の特例というのが何かというのが、最初の●の2つ目の矢印でございますけれども「収益事業課税」ということで、営利法人と競合関係にある事業にのみに課税されるということでございます。
2つ目の●は、公益性を有するもの以外の非営利法人。先ほどありました一般社団・財団の世界でございますけれども、ここでも、実は2つ類型が分けられております。1つ目が「専ら会員のための共益的活動を行う非営利法人」。先ほど同窓会という例がございましたが、これについては会員からの会費については収益ということではなくて、会費ということでございますので、これについては非課税とする方向で検討してはどうかというのが当時の整理でございました。
これはこの共益性をどういうふうに認定するのかというところもあろうかと思いますけれども、それ以外の部分については、営利法人と基本的に同等の課税とする方向で検討してはどうかというのが当時の議論の方向性としておまとめいただいたものでございます。
それ以外の公益法人に更に関わる税制上の諸論点としまして、今、言った収益事業課税方式というのが、現行は33業種に限定されておりますが、この範囲をどう考えるか。
その収益課税につきましても、通常の法人税率は30%のところ、軽減税率22%が適用されていますので、そこについてどう考えるのか。
あるいは利子・配当の金融資産収益について。これも収益事業に属するもののみについて課税されておりますので、そこの取扱いについてどう考えるかという論点が整理されているところでございます。
「寄附金税制のあり方」でございますけれども、これは現在は主務官庁の認定において、特定公益増進法人という形で認定された場合には、そこに寄附金の税制上の特例が与えられるということになっておりますが、これにつきましても、上の建付けと同様に、第三者機関の判断により、公益社団・財団という位置づけになった場合には、自動的に税制上の特例が与えられるという整理になっております。
それ以外の論点としまして、現在、それぞれ所得、法人、相続税に寄附金控除の枠がございますが、これについての取扱いはどうするかという論点。
最後に地方公共団体の話ですが、公益法人の場合は地域に密着した活動の担い手ということでございますので、地方公共団体が寄附金税制の在り方について、独自にどう判断できるかという論点もそのときにおまとめをいただいております。
あと、2、3ページ目は、現在の建付けとの比較ということで、今、申し上げたものを図表として整理したものでございます。
3ページ目は、特に寄附金税制との関係でございます。
現行は一番左のところです。今、どういうふうになっているかというと、「民法34条法人(社団・財団)」に主務大臣の認定があって、それについて特定公益増進法人という形で認定された場合に、寄附金税制の特例を受けられるというシステムになっておりますが、新しい制度に移行した場合には、右のイメージでございます。基本的に、公益認定等委員会の公益性の判断があった場合に、右の点線の四角の範疇の中に入りまして、自動的に寄附金の優遇が受けられるという制度に新たになるということでございます。
私からは、以上でございます。
〇香西会長
どうもありがとうございました。何か御発言の方、お手を挙げていただけますでしょうか。
お一人ですね。よろしくお願いします。
〇井戸特別委員
公益法人改革について諸準備が進んでいることで、私どもも、もう既に地方版の委員会を立ち上げまして、議論を進めているところでございます。制度改革に当たりまして、我々から見た問題点等については提言をさせていただこうと思っていますので、どうぞよろしくお願い申し上げたいと存じます。
その中で幾つかございまして、税制調査会の問題でないこともあるんでございますが、例えば公益認定基準で、先ほど原山審議官も、公益目的事業比率が100分の50以上という基準をつくって判断しようとしているんだということを申されたんですが、収益事業の費用のカウントの仕方をどうするのかというのが非常に大きな問題でございます。
収益事業を現実に行っていたとしても、非常にコストのかかる収益事業とほとんどコストのかからない収益事業がありまして、コストをかけても利益としては非常に小さい。しかし、一方ではコストがかからなくても利益が大きいという収益事業のもの。例えば不動産投資などをして、その上がりで公益法人活動を支えているという場合に、不動産投資額は非常に大きい。ですから、費用は非常に大きいが収入はそう大きくないというケースが考えられます。
したがいまして、100分の50の収益事業の費用のカウントの仕方というのが、よほど工夫されないと、実態にそぐわなくなるおそれがあるというのが第1でございますので、是非、適切に調整していただきたいなというのが我々の希望でございます。
公益法人の会計基準につきましては、もう新会計基準をベースに議論を進めていただいた方が、公益法人の公益性なり経営を判断する場合にとっても望ましいのではないかと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
収益事業に対する税制上の措置につきましては、既に水野さんの委員会で基本方向は出ているわけでありますけれども、これは私の考えではございますが、公益事業以外の事業は、基本的にもう収益事業と考えて、利益が出れば課税をしてしまうぐらいのスタイルの方が、今回の改正に合っているのではないかと考えております。それから、公益法人の内部の収益事業と公益事業との間の寄附。つまり、みなし寄附金制度につきましては、私はできれば100%算入も認めるぐらいの、収益事業は何のためにやっているかというと、公益事業を支えるためにやっているんだという位置づけを明確にした方が望ましいのではないかと考えておりますので、提言をさせていただきます。
また、法人税制等にあっては、公益法人については、公益法人の認定が非常にシビアに行われるということを前提に、国だとか地方公共団体の寄附金と同様に、法人では全額損金算入ということも、個人にあっては、政党等の寄附金と同様に、所得控除と併せて税額控除も一部できるような仕掛けを是非、導入すべきではないかと提言をさせていただきたいと思います。
以上です。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
それでは、田中さんお願いします。
〇田中特別委員
この新しい制度の中で、民間の有識者でつくられる委員会の責任とか権限は、非常に重要なものだと私は解釈しております。
その中で、単に新しい法人格を認定するのみならず、2ページ目に出ておりますように、その後の法人のフォローアップの監査、監督までやるとなったときに、本当に7人の有識者の委員会でそこまで十分に手が届くのかなという心配があって、途中から目が甘くなってしまうのではないかという心配を持っております。
以上です。
〇香西会長
どうもありがとうございました。この問題は、いずれ税調でも、税に関するところは、また議題として取り上げられることだと思いますが、本日はとりあえずこの辺でよろしゅうございますでしょうか。
本日は、大変盛りだくさんな報告がございまして、御報告される方、質問された方、聞いている方、みんな大分くたびれてしまったと思うんですけれども、今後の会議の在り方はいろいろ注意したいと思います。
これでおしまいと言いたいところですが、実はもう一つ私から御報告をさせていただきたい点が1点ございます。経済財政諮問会議の関係でございます。
経済財政諮問会議では、4月25日におきまして、税制の問題を討議するということで、それに備えて、これは5月15日の日付になっておりますが、私から資料を提出して、私どもの調査、分析を進めている現状と経緯をまず御報告しました。
1ページ目に書いてあるのは、まず諮問がありました。その諮問にはいろいろ書いてありますということと、調査分析部会を設けて、基礎的な調査に入りました。
それから、海外調査をいたしましたというのが経過報告でございます。
2ページ目に「III 主要論点をめぐる考え方の整理」ということで、ここは私がとりあえず独断でまとめさせていただきましたけれども、今、大体やっていることは、基礎的な調査ということでやっているけれども、実際は例えば活性化の視点とか安定財源の確保とか経済社会構造変化への対応とか地方分権とか、いずれも諮問の中に含まれている条項であって、これからは基礎的な調査をこういう政策的な問題にだんだんつなげていくということが、私どもの税制調査会のスケジュールになるだろうということを、一応お話しをさせていただきました。
同日、有識者から「税制改革の基本哲学について」というペーパーが出まして、これも実は質問というか、時間が非常に切迫しておりまして、これも伊藤隆敏議員がほとんど読み上げるだけで終わったということで、25日の会議は、そういうことで、経過報告と民間議員からの提案があったということで、税制プロパーの議論は終わったわけでございます。
その間、地方税等について、若干大臣の間で御意見がありましたが、それは省かせていただきます。
当日がそのように非常に短く終わったものですから、改めて5月15日にもう一度税制の問題をやりたいというふうに大田大臣からお話がありました。ただし、新しい資料は必要がないということで、私がまた参加いたしました。そのことは申し上げたとおりです。
当日も議題が3つあって、当初30分の予定で税制を議論するということであったんですけれども、実はもう部屋に呼び込まれてから10分間あったかなかったぐらいの短い時間しか残っておりませんでした。
したがって、余り報告はありませんが、1つだけ御報告しておいた方がいいと思いますのは、経済産業大臣から、今度の税制改革においては、租税原則というのを見直してもらいたい。はっきり言えば、中立と書いてあるところを成長と書いてほしいというお話が出ました。
そこで私は、一応、考えは非常によくわかっています。そして、成長が大事だということは、諮問にも書かれているとおりです。それはいいんですけれども、税制調査会は、加藤寛先生が平成12年の会長時代に書いた「わが国税制の現状と課題」以来、この点は、今日の吉村先生のペーパーでも最初に引用されていますが、そこでもう公平・中立・簡素という3つの原則を言っておりますし、一番新しいところでは「平成19年度の税制改正に関する答申-経済活性化を目指して-」というので、平成18年12月にこの税調でこの3つの原則を毎年繰り返して再確認しているということであります。
したがって、今、急にそういうことを言われても、現在いる税制調査会の37人の委員の方は、過去の3つの原則に賛成してきているので、原則というのをそうあっさり捨ててしまうというのもいかがなものかという感じがする。
そうではなくて、今、我々が取り組んでいる税制改革においては何を目指すかということであるなら、成長ということは非常に大事なことだと自分は思っている。
吉村先生のプレゼンもその1つだと思うんですけれども、租税原則についての議論も行っているので、今すぐ変えるということにはちょっとコミットできないと御返事をいたした経緯がございます。
これは今、申したようなことでよろしければ、今後とも吉村先生や中里先生の方でいろいろ御検討いただいて、それを全体で踏まえていって、我々が答申をつくるときにもう一度改めて議論するということですが、私は中立というと、政策意欲が余りはっきり出てこないというのがどうしてもマイナス点になるんですが、逆に余りよけいなことをしないという自戒の意味では非常に大事な部分でもありますので、原則は原則で置いていくというのも1つの選択。その中で、今回の税制改革はこういうことを目指したという、現に、19年度の税制改正に対する答申も、副題に「経済活性化を目指して」というふうに大きく定めているわけですから、そういう処理を繰り返すということもあり得る。その辺はもう少し御議論を見た上で決めたいと考えて、以上のように処理いたしましたということを一言御報告しておきたいということでございますので、できれば御了解いただきたいと思います。
どうぞ。
〇松田委員
税調の運営について、1つ申し上げたいと思います。
今、地方の自治体ごとの税収をめぐっていろいろ議論が起こっていまして、いろんな政治サイドとか、あるいは総務省とか財務省の中でも議論が行われている。
それで、一応、我々は税の専門家と称して集まっていて、全くそれに加わらずにやり過ごしているというのは、私は個人的にはじくじたる思いがしています。ほかの皆さんが何も感じていないんなら結構ですけれども、もし私と同じような気分がおありになるんでしたら、やはりそういう問題も、こういう割と早い段階で取り上げるべきではないかと思うんですが、会長のお考えを伺いたいと思います。
〇香西会長
地方分権の推進ということは、先ほどの私のメモにも、一応大きな課題として掲げております。
現在、私が承知している限りでは、いろいろな御議論が行われ、各省間で事務的にいろいろ打ち合わせが行われておりますけれども、たしかあの問題を提起されたときも、菅大臣の新聞等への御発言では、いずれそういったことで知恵が出た段階で税調に図りたい。どちらの税調かは書いていませんでしたけれども、そういうことになっているので、今のところ、至急何かこういうふうに言った方がいいという御意見があれば、発言することをまとめてもいいんですが、その私たちの出番としていつが一番いいときなのかということについては、まだちょっと情勢を見計らっているという段階でございます。
したがって、もしこういう原則で行こうではないかというふうに御提案があって、それがまたこういうところで御議論いただいて、何か意見を言おうということであれば、私はその方に従いたいと思っています。
どうぞ。
〇井戸特別委員
地方の側として考えてみましたときに、特に課税権をめぐる問題に関わりますので、課税権の帰属の問題についての税としての立場からの吟味は、どうしても不可欠になるであろうと思います。
ただ、最初からその議論をしてしまうことの是非というのがありましょうから、私は会長のおっしゃっていただいたように、タイミングを見た上で、税調としての見解を表明せざるを得ない時期が来るのではないかという事態に備えておくような対応も、松田委員の御提言のように考えていただくとありがたいなと思っております。
〇香西会長
どうもありがとうございました。
実は、個人的には多少インタビューを受けて、まず最初にふるさとへ贈ってしまうと、その人と贈らなかった人との間に応益と負担がそこが崩れてしまう可能性があるので、税そのものとしてはなかなか問題があるけれども、ふるさとを大事にするという気持ちは、何とかしたいということについては、何かやり方があるかもしれない。例えば寄附金税制というやり方もありますが、これも既にこの前、基本的な考え方は、先ほどの公益法人と併せて御議論が行われているわけです。
そういった形で、もう少し具体的にどういう形になるのかというのを見極めた上で発言をしたらどうかなと思っております。
どうぞ。
〇出口特別委員
直接は関わりはないんですが、納税者のことを第1に考える上に、税源移譲に関わる今年の所得税と住民税の問題がございまして、そろそろ6月でございますので、この点について繰り返し税調でも話題にはなったことでございますけれども、とりわけ納税者の理解が得られるようにしていただければと思っております。
〇香西会長
その点は、総務省もいろいろ気を使ってはおられるというふうに期待しております。
言いたいことがあったら、やはり発言をすべきときにはしたいと私も思っていますから、どうぞこういうふうにまとめたらどうかとか、事務局を通してでも結構ですから、いろんな提案をお伝えいただければ、それなりに相談させていただきたいと思っています。
残り物には福はないんですけれども、急いで言ってばんばん使われるのも困る。若干見極めが付いていなくて誠に申し訳ありませんが、今のところはもう少しチェックした上でということで考えていますが、御意見は是非、聞かせてください。
それでは、長かった会議はこれで終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
次回以降の予定ですけれども、次回は、6月8日午後2時から、第4合同庁舎で調査分析部会を開催いたします。
ほかに、6月22日、7月13日、いずれも金曜日ですが、2時~4時を予定しています。議題等が決まりましたら、その際に、また改めて御連絡、御案内いたします。
〔閉会〕
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、議事の速記録から、内閣府大臣官房企画調整課、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。