企画会合(第9回)・調査分析部会(第4回)合同会議終了後の香西会長・田近部会長記者会見録

日時:平成19年5月11日(金)16時29分~
場所:合同庁舎第4号館共用第一特別会議室

司会

大変お待たせいたしました。それでは、記者会見を始めます。

質問

今日、大竹先生がプレゼンされていた中で、生涯所得で見たほうがいいという考え方と、消費に置きかえて、各年齢階級で年がたっても変化しないという前提をおいて統計処理をすると、消費税は実は逆進的ではないという驚くようなデータがあったと思います。この計算の手法や諸々の仮定の妥当性も含めて、この結果をどのように受けとめていらっしゃるのか。できれば会長と部会長それぞれにお伺いしたいのですが。

田近部会長

今のご質問ですけれども、大竹さんの資料5ページを見ていただけば、どういうことをやっているかというと、「生涯所得でみた税負担」というのは、私の理解ですけれども、経済学者の中では、消費者というのは今所得があればみんな使ってしまうというわけではなくて一生を通じて考えるだろう。ライフサイクルで一生を通じて消費を考えていくので、それはかなり平準化したものになるだろうと。そういう視点で負担を考えたらどうかということで、生涯所得で見た税負担、その近似として、いま言ったように負担というのは生涯から見たときには平準化した消費から行う。では消費から行われる負担は一体どのくらいなんですか、というのを見ましょうと。したがって生涯所得階級別にというのは消費別に見てみましょうと、そういうことだったと思います。

そうすると、この5ページの一番下ですけれども、「生涯所得階級別にみた消費税負担率には逆進性は観察されない」と。消費がある一時点で高い人は必ずしも所得が高い人というわけではない。逆もまたそうだということで、生涯所得で見ればそれは平準化された消費で見るのがいいでしょう。その平準化された消費で見たときの負担というのは、毎年毎年の所得ではかったよりは平準化されますよということで、これ自身は驚きではないし、そういう見方もあるのだろうなと私は思いました。

議論としては、生涯所得というのはここでは一時点のデータ、2004年の「全国消費実態調査」しかないわけです。それでAさんの生涯を追えるわけでは全くないわけです。あくまでここで大竹さんが言っている生涯所得というのは、消費でもってそれを代替したらどうですかと、そういう意味です。

香西会長

経済学の進歩はすばらしく早くて、私にはだんだん若い人の仕事はついていけない面もあるので、とんでもないことを言っているのかもしれませんが、経済学で消費の研究の歴史を顧みると、最初はケインズのように、所得があったら消費性向というのがあって消費が決まる。一種の一次式みたいに考えていたわけですけれども、最初にそれに対して違う意見を出したのはマネタリストとして有名なフリードマンであって、彼は「恒常所得仮説」というのを唱えたわけです。

恒常所得というのは、永久的に自分の所得水準はこれだけだと思うもの、言い方を変えるとロングラン・エクスペクテーションです。自分の所得はこれこれで、生涯を考えたらこうなるだろうというところまでを踏んで、それに対して比例的であるという仮説を彼は唱えたわけです。これはある意味でそれを実証したということがありましたので、恒常所得仮説というのは少なくともフリードマンの時点では一応の検証があった。かなり統計的にも通用するだろうということで、消費というのは恒常所得、つまり長期的な、今は貧乏だけれど将来偉くなると思うか、今は金持ちだけれど将来悪くなると思うか、それを含めて支出をしているのだと。その仮説は一応実証の波をくぐってきたということが言えるわけです。

それをさらにある意味で洗練化したのが「ライフサイクル仮説」であって、これは一生の間を計画すると。本当に人間はそんなに合理的かというのですけれども、そういう説があって、これもモディリアーニとかそういう学者によっていろいろ実証的にも議論されてきている。

したがって、これは確立した真理だとは誰も言えないわけです。例えば今回の場合も、もう少し検証してから言ったほうがいいのではないかとか、そういう議論は十分にあり得る議論でありますけれども、経済学界で共通理解、少なくともそういう学説があって、かなりそれについての研究、あるいはそれに対する反論や批判も行われて、一応サバイブしてきた仮説であると。消費というのは生涯所得とむしろ関係があるので、そういうものであるというふうに考えることは、これまでの研究から言えば、それほど素っ頓狂ではないだろうという程度の保証はあるのではないかと思います。

ただ、私自身、実は大竹さんの細かい計算のステップまでまだフォローしておりません。これが絶対的な真理で、これに基づいて税調はこういう政策提言をするであろうというところまではとても言えないことであると考えております。恒常所得仮説でいけば、例えば減税して可処分所得が増えたからといって、すぐ消費が増えるわけではないということになるわけですから、ケインズ理論の言い方は間違いだという彼のマクロ経済ともリンクした考えで、それはかなりの論争があって、だんだんライフサイクル仮説にまで行き、「合理的期待」にまで行きという、一応の歴史がある--ということくらいは言ってもいいのではなかろうかと私は思っているわけです。

質問

その関連で、ライフサイクル仮説のある程度合理性があるというのは、今お話を伺ったとおりかなと思います。これはテクニカルな話で、統計を越えて、ではどういうデータをもとに分析するかという限界もあるのかもしれませんけれども、36ページで、「20歳代で第一分位であれば~第一分位に属する」と。「仮定」と書いていますけれども、これも人によっては、さっきどなたかから質問があったと思いますが、例えば20歳代は独身の会社員だった方が、例えば女性で結婚されたあと専業主婦になったときに、個人で見ると所得はゼロになる。それでも消費はしているわけで、そういういろいろなケースもそれなりにあると思いますけれども、その中でこの仮定というものがどれだけ説得力を持つのか。そこも議論のあるところだと思いますけれども、この点についてはいかがでしょうか。

田近部会長

これは大竹さんに聞かないとわからないと思いますけどね。また、アドホックにこれと近い仕事も見たことがありますけれども、いずれにしても年齢階級別にどういうルートを通っていくかというのをまた選ばなければならないわけで、それ自身、今我々がここで議論できないと思います。

重要なことは、所得というのを毎年毎年の所得で見るのか、あるいは平準化されたもの、つまり消費で見るのかということで、今、香西先生はマクロ経済のインプリケーションでおっしゃったし、僕は税負担のインプリケーションで言ったと。つまり消費で見れば、消費がうんと高いほうの人がみんな所得が高いわけではないし、そこが混ざるわけです。したがって、消費が高いほうの人でも実は所得はそんなに高くなくて、結果的には所得に対する負担は高いという形で出ているだろうなと思います。

司会

ほかにございますか。

質問

すみません、今日の税調からははずれたところで毎度お伺いしていることなのですが、今度は「ふるさと納税」という構想がいろいろなところで話題になっております。自民党の中川幹事長などは、寄附金税制の拡充というような形式で、都市部に住む人が地方でも税を納められるようにという構想を述べられています。よく言われるのが税の受益と負担という根幹にかかわるところなので、それはいかがなものかという意見がある一方で、格差是正に役立つのであれば結構ではないかという意見もありますが、それぞれ、どのように考えられるかというご意見をお聞かせいただけますでしょうか。

香西会長

この話は総務大臣の発言から起こって、研究会を設けてこれからいろいろ議論しようという段階で、具体的な案はまだ固まっていないというふうに私は理解しております。ご質問にあったとおりの問題があるということは、私は実は税についてはそれほど玄人ではないものですから、私の意見だということではなくて、耳学問によれば、地方税というのは基本的に応益原則です。その所に住んで利益を得たから、それに対する対価という意味で税金を払っているのだと、仮にこういうことになっていたとします。

例えば東京に住んで東京の中で利益を得ているから、それに対して税金を納めた。しかし、その一部はよその地域に渡してしまってくれという形になりますと、その人が今まである恩恵に対して例えば100万円納めていたのが、50万円はあっちの地域へやってくれ、こういうことになったら、50万円で従来と同じ利益を得ていいのか。ある意味で言えば、地方に移さなかった人はえらい損をするわけですね。依然として100万円で別に東京都からもらう利益は大きくない、こういうことになると非常に問題があるのではないかというような議論がある。これは私がそういうことを言っているということではないです。そういう議論を私も耳にしております、こういうことなのです。だから、それは税のあり方としていろいろ問題があるだろうと。

一方で、「ふるさとは遠きにありて思ふもの」と。これからは、遠きにありてお金を送るものというふうになるかもしれない。それはそれで美しい日本かもしれないわけですから、その辺についてどう考えるか。例えば不公平感が残るとしたら、東京生まれの人にとって、他にふるさとがない人は、人の2倍払うのか、こういう議論になってくるわけですから、それはやはり一つの問題で、そういったことをむしろこれから研究会で十分議論し、納得のいく形でふるさとを育てていくといいますか、ふるさとにも感謝する、あるいは、ふるさとを活性化することもまた重要な課題である。ふるさとという気持ちを国民が持つこと自体は、非常にありがたいことだと考えられるのではないか。

こういうふうに思っておりますので、これからの研究会の動きを私どもとしてもフォローしながら、しかるべき時期が来ましたら、それについて税調委員の皆さんのご意見を聞きたい、こう思っております。今のところはそういった論点について、いろいろなオルタナティブがあると思いますけれども、それはまだ明確でない段階です。いろいろ問題はあるけれども、しかし、かなり重要な提案である。そういった問題点を乗り越えていく方法を見つけることができるのなら、それはそれで一つのアイデアではないかと思います。日本国にとってもありがたいアイデアになる可能性は十分あるのではないか、こういうふうに考えております。

田近部会長

今日、せっかく大竹さんからご報告をいただいて、あれだけ熱のこもった意見交換をしたので、部会長として私がどう聞いていたかというか、どの辺が今日の議論で重要か。私見ですけれども、これだけのお仕事をしていただいたので、お話ししておいたほうがいいのかなと思います。

まず、大竹さん自身の仕事は、学界で認められているとかそういうことはここで繰り返さない。ただ、今回、2004年の全国消費実態調査を踏まえた上で、会長がおっしゃったように、ベリーホットなできたてのものを持ってきてもらった。

それで、恐縮ですけれども、二、三点、大竹さんの資料で私が思ったハイライトのところです。最初のところに手際よくポイントはまとめられているので、それをお読みになっていただきたいということですけれども、図を見ていくと、10ページは各年齢別に見たジニ係数ですが、2004年というのが上がってきた。もちろんカーブ自身が上に上がっていくわけですから、これが高齢化要素です。これに人口のウエートがつくわけで、75歳以上の人たち、高齢者のウエートが重くなっていくわけですから、ジニ係数が大きくなることは当然で、それは大竹さんの問題意識ではもう既に十分議論されたことだと。井堀さんもその点を質問したときに大竹さんは確か答えていた。

今回、これが2004年で各年齢階層で上がっているというところが非常に重要だと。それを所得階層別にさらに見たのが、だいぶ議論が出ましたけれども、17ページだったと思います。所得の高い人・低い人でどこで格差が拡大したのかというと、アメリカでは上のほうだと言われている。日本では、御船さんの適切な質問もありましたけれども、つまり軸の読み方等あるでしょうけれども、ここで下位10%のほうをとったときに、事実として下位10%の人の所得のシェアが減っている。これは重要ですよということで、世代間の中で起きていて、さらに所得階層の下のほうの人たちのシェアが減っているところを彼が力説していたのだと思います。

それで22ページに移りまして、これは本当に重要な仕事をされたと私は思いますけれども、22ページというのは、要するに84年と2004年をまずとる。それから、税や社会保険の負担だけではなくて受益サイドもとるということで、図の見方ですけれども、左側の84年のほうが負担です。pというのは所得分布の20-40%。下からとっていって一番上が一番高い人。

これで見ていくと、左側の上ですけれども、所得税の負担は累進的になっている。社会保険料は、対応する標準報酬月額の頭打ちがありますから、これがどこかで小さくなってくる。その上に住民税がのって消費税がのっている。そういう形で、それが上の右に行くとだいぶ減った。それは90年代の税制改革の効果もあるでしょうけれども、それに対して彼の今日のポイントは、受益のほうを入れたらというので、それが下の右のほうでバンと上がった。吉川先生がこれに対してまた適切な質問をされて、これでも受益のほうで過小推計なのではないかと。つまり医療費というのは高額医療費というのが入っているから、それも考えましょうというようなことをおっしゃったわけです。

今日の議論でぜひ振り返ってもらいたいのは、31ページの図です。彼は「ブレイク・イーブン・ポイントを見つける」ということを言っていましたけれども、31ページで、図に色がないので見にくいでしょうけれども、下からバーッと上がっていくのがネットです。受益から負担を引いたもの。マイナスがネットの負担ということです。これが全世帯だと500万円ぐらいでクロスしている。高齢者のところではこれが1,000万円くらいまでいく。それが勤労世帯の場合は500万円くらい、単身の場合にはさらに低いというような話になって、佐竹さんから、何でこんなふうになるのか、税制が悪いのではないか、何か問題があるのではないかという指摘をされた。大竹さん自身も、それはそういう問題ですよということを答えられていましたけれども、これは事実ですから多少敷衍すれば、高齢者のところでは、おそらく決定的に効いているのは公的年金等控除ではないかと思います。

あとは、生涯負担、つまり消費に対する負担で考え直したらというようなところが今日の大竹さんの話で、私も司会をして聞いていましたけれども、日本で交わされている格差論議の中で非常に地に足のついた議論が今日はできたのではないかと思います。

司会

ほかに質問ございますでしょうか。よろしいですか。

なければ、これで記者会見を終了させていただきます。

香西会長

どうもありがとうございました。(了)

調査分析部会