平成18年度の税制改正に関する答申

平成17年11月
税制調査会

目次

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員、特別委員及び専門委員は、次のとおりである。

委員 特別委員 専門委員
秋山 咲恵井堀 利宏岩崎 慶市
石 弘光上野 博史太田 宏
井戸 敏三遠藤 安彦川北 隆雄
井上 裕之尾崎 護長宗我部 友親
猪瀬 直樹河野 光雄 
大宅 映子小嶋 功一(※)
岡田 ヒロミ島田 晴雄
翁 百合竹内 佐和子
奥野 正寛辻山 栄子
菊池 哲郎出口 正之
神津 十月中里 実
上月 英子長野 幸彦
佐竹 敬久林 宜嗣
神野 直彦本間 正明
高木 剛松永 真理
田近 栄治宮島 洋
田中 直毅 
丹羽 宇一郎
水野 忠恒
村上 政敏

なお、草野忠義は途中辞任し、高木剛がこれに代わり委員に委嘱された。

(※)「功」の字の正しい表記は、つくりが「刀」ですが、漢字コードに無いため、「功」で表記しています。

一 基本的考え方

今、わが国は、先進国中最悪の危機的財政状況の下、少子・高齢化、グローバル化といった大きな構造変化に直面している。この中で、政府は、将来にわたり公正な社会を維持し、持続的な経済社会の活性化を実現するため、広範な分野の構造改革に取り組んでいる。例えば、近年、不良債権処理の促進や大胆な規制改革が進められ、経済の体質強化や民需中心の経済活性化が図られている。税制についても、新たな社会に相応しい姿に再構築するため 、「あるべき税制」の具体化に向けた取組みを進めている。

厳しい財政状況に対する国民の将来不安を払拭し、経済社会の持続的な活性化を図るため、公的部門を持続可能なものにしていくことが極めて重要な課題である。このため、「三位一体の改革」を実現することに加え、給付と負担のあり方を抜本的に見直す社会保障制度改革、さらには歳出・歳入両面からの財政構造改革を断行していかなければならない。こうした歳出・歳入一体改革の土台固めを行う平成18年度予算において、政府は、一般歳出を平成17年度に引き続き減額するとともに、新規国債発行額についてできるだけ30兆円に近づけるとの方針で、予算編成に取り組むこととしている。

今後これらの改革を実行していくにあたり、まずはあらゆる分野で徹底した行財政改革を進め、公的部門の無駄をなくして欲しいというのが国民の声である。税制調査会としても、一般会計・特別会計ともに徹底した歳出削減や予算配分の重点化・合理化を実現し、聖域なき歳出改革が図られることが不可欠であると考える。

他方、高齢化の進展に伴い公的サービスの費用が急速に拡大している中、租税を含むわが国の国民負担は、他の先進諸国と比較しても低い水準となっている。歳出改革を断行しつつも、なお必要とされる社会共通の費用については、制度・執行両面の取組みを通じて、国民全体で広く公平に分かち合う必要がある。今後、所得・消費・資産等の課税ベースを通じてどのような負担を求めることが適当かといった検討も含め、税体系全体の抜本的改革を総合的に議論していかなければならない。税制改革は、種々の改革と密接に関連しており、今後歳出・歳入両面からの財政構造改革全体の姿を示し、国民の理解を求めていく必要がある。政府は来年半ばを目途に歳出・歳入一体改革の方向についての選択肢と工程表を明らかにするとしており、税制調査会としてもかかる諸改革の動きを十分に踏まえつつ、税制全体のあり方の総合的な検討を進めていきたい。

以下、平成18年度改正の主要な課題についての指針を示すこととする。

二 個別税目の課題

1.個人所得課税

平成18年度改正においては、国・地方の三位一体改革の一環として、補助金改革とあわせ、所得税法及び地方税法の改正による恒久措置により、所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を行うこととされている。その実施にあたっては、個々の納税者における税負担の変動を極力小さくすることに十分留意し、個人所得課税体系における所得税と個人住民税の役割分担を明確化すべきである。具体的には、個人住民税については、応益性や偏在度縮小の観点から、所得割の税率をフラット化することを基本とする。一方、所得税については、所得再分配機能を適切に発揮させるように、より累進的な税率構造を構築し、国・地方を通じ全体として個人所得課税のあるべき姿と整合的な制度とすべきである。

定率減税は、経済社会の構造変化への対応といった観点とは関わりなく、専ら著しく停滞した経済活動の回復に資する観点から緊急避難的に講じられた景気対策のための措置であり、全ての納税者を対象に、一律に税負担を軽減するものである。経済状況が導入当時に比べ改善している中、この減税は見合いの財源なしに将来世代の税負担により毎年継続されてきている。こうしたことを踏まえれば、これまでの答申で指摘しているとおり、経済状況を見極め、廃止すべきである。

個人住民税均等割の税率は、これまでの1人当たり国民所得等の伸びを勘案するとなお低い水準にとどまっており、その税率を引き上げる必要がある。その際、基礎自治体である市町村を重視することを検討すべきである。

2.法人課税

経済社会の構造変化に柔軟に対応する観点から、新しい会社法制に対応する整備や株式交換等組織再編に係る税制を整備する必要がある。また、事業形態の多様化の動きについては、事業形態の選択に対する中立性を確保する観点から的確な対応が求められる。すなわち、わが国税制は、収益及び費用の私法上の実質的な帰属に着目して法人やこれに準ずる性格を有する信託等に対し法人課税を行っており、引き続きこうした適正な課税関係を構築していく必要がある。さらに、法人の設立が容易になる中で、個人形態と法人形態との税負担の差に由来する不公平は是正すべきである。

法人税率については、既に他の先進諸国並みとなっており、引き下げる状況にはなく、また、国際競争力維持の観点を踏まえれば、当面、現在の水準を維持することが適当である。

公益法人制度改革に対応する税制については、本年6月の「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」で示したとおり、「新たな非営利法人制度」の適切な制度設計が税制上の措置を検討する不可欠の前提である。当調査会としては、「新たな非営利法人制度」に関する法案の具体的な内容を踏まえ、改めて税制の具体化に向けた検討を行うこととしたい。

3.国際課税

租税条約は、国家間の課税権を調整し、国際的な投資交流を促進するための基礎的なインフラである。そのネットワークを拡充すべく、先般改定について基本合意された日英租税条約・日印租税条約の早期の実施に向け、努力すべきである。

脱税等のいわゆる犯則事件に関し、条約上の情報交換規定に基づく情報提供要請に応じての情報収集手段を拡充する必要がある。また、課税の適正化を図るため、わが国に短期間滞在する居住外国人の課税範囲を限定している非永住者制度を見直すべきである。さらに、条約上と国内法上との取扱いの差異を利用した国際的な租税回避の防止が重要であり、その方策について検討していく必要がある。

4.酒税

現行の酒税制度は、近年の酒類消費の多様化や製造技術の変革に必ずしも適切に対応したものとはなっていない。このような状況を踏まえ、税制の中立性や公平性を確保する観点から、酒類の製法や性質等に着目してその分類の大括り・簡素化を図り、酒類間の税負担格差を縮小する方向で包括的に見直す必要がある。

5.固定資産税

固定資産税は、どの市町村にも広く存在する固定資産を課税客体としており、税源の偏りも小さく市町村税としてふさわしい基幹税目であり、今後も本税の安定的な確保が重要である。

土地に係る固定資産税については、平成6年度以降いわゆる7割評価が実施され、評価水準は全国的に均衡化された。一方、税負担の急増に配慮した措置が講じられてきた結果、負担水準については依然としてばらつきが残っている。このため、今後、これまでの負担調整措置を基本に、負担の均衡化・適正化を一層促進する必要がある。

6.租税特別措置等の整理合理化

政策減税として平成15年度に導入された研究開発税制(上乗せ分)及びIT投資促進税制は本年度末に期限を迎えるが、この間に企業の研究開発や設備投資は総じて順調に増加した。平成18年度税制改正においては、研究開発税制の基幹的部分は期限を区切らない措置とされる一方で、前述の措置は3年間の時限措置とされたという経緯を十分に踏まえる必要がある。また、同様に3年間の時限措置として導入され、本年度末に期限を迎える不動産登記に係る登録免許税の軽減措置や不動産取得税の軽減措置についても、導入の経緯や土地取引を巡る状況を勘案しなければならない。したがって、これら現行の措置を延長する必要はない。

租税特別措置・非課税等特別措置を講ずるに当たっては、これまでの答申で指摘しているとおり、既存の措置について大胆な整理合理化を進めつつ、競争力向上等の構造改革や経済社会の活性化を進めるために真に有効な措置に集中・重点化していかねばならない。

7.特定財源

道路特定財源等の特定財源については、資源の適正な配分を歪め財政を硬直化させる可能性があることから、一般財源として活用していくべきである。

道路特定財源を含むエネルギー関係諸税等については、資源節約・消費抑制・社会的コストといった観点や諸外国と比較して税負担水準が低い状況にあること、地球温暖化対策が求められている中で税負担水準の引下げには問題が多いこと、さらには国・地方を通じた極めて厳しい財政事情等を考慮すると、当調査会がこれまで指摘してきたとおり、納税者の理解を求めつつ、現行の税負担水準を維持することが適当である。

8.地球温暖化問題への対応

いわゆる環境税については、国・地方の温暖化対策全体の中での環境税の具体的な位置付け、その効果、国民経済や産業の国際競争力に与える影響、諸外国における取組みの現状、さらには既存のエネルギー関係諸税との関係といった多岐にわたる検討課題がある。現在、関係省庁等において、これらの課題について議論が行われているところであり、その状況を踏まえつつ、総合的に検討していく必要がある。

9.納税環境整備

税制に対する国民の信頼を確保するためには、制度のみならず、所得捕捉等の執行面においても適正・公平な課税の実現に努めるとともに、まじめな納税者の視点に立って制度を改善していく必要がある。

公示制度については、第三者の監視による牽制的効果の発揮を目的として設けられたが、所期の目的外に利用されている面がある、犯罪や嫌がらせの誘発の原因となっている等、種々の指摘がなされている。また、これに加え、個人情報保護法の施行を契機に、国の行政機関が保有する情報について一層適正な取扱いが求められている。このような諸事情を踏まえ、公示制度は廃止すべきである。

相続税の物納制度については、物納の許可基準が明確でない、手続に長期間を要するケースが見られる等の指摘があることを踏まえ、物納制度に対する信頼を確保するため、手続の明確化・迅速化等の観点から制度を整備すべきである。

加算税制度については、近年のインターネット取引の急増等を背景に無申告事例が多発している状況等にかんがみ、申告秩序維持の観点からその割合を見直す必要がある。

個人住民税については、徴収の効率化を図る観点から、所得税や介護保険料と同様に、公的年金等からの特別徴収を速やかに実施する必要がある。