新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方

平成17年6月17日
税制調査会
基礎問題小委員会
非営利法人課税ワーキング・グループ

はじめに

今日、価値観の多様化や社会のニーズの多元化が進む中、公益法人やNPO法人等による民間非営利活動の重要性が高まってきている。他方、現行の公益法人制度については、民法制定以来100余年にわたり見直しが行われていない。実態面でも、主務官庁の許可主義の下、法人設立が簡便でなく、公益性の判断基準が不明確であり、営利法人類似の法人が存続しているなど種々の批判がなされている。こうした諸問題に適切に対処することが喫緊の課題であるとして、これまで、内閣官房行政改革推進事務局を中心に、現行の公益法人制度を抜本的に見直すための検討が進められてきた。昨年12月には、「今後の行政改革の方針」が閣議決定され、「公益法人改革の基本的枠組み」が定められた。現在、既存の公益法人制度に代わる「新たな非営利法人制度」の法制化に向け、具体的な制度設計の検討が進められている。

一方、このような公益法人制度改革の動きに対応して、当調査会においては、平成14年11月に基礎問題小委員会の下に非営利法人課税ワーキング・グループを設置し、翌15年3月までの間、計6回にわたり、新たな非営利法人制度のイメージを念頭に置きつつ、非営利法人に対する課税のあり方等について検討を行った。さらに、「新たな非営利法人制度」の具体化の検討が進められている中、これを受けて、新たな非営利法人に関する課税のあり方や、民間非営利活動を資金面から支える寄附金税制についても、抜本的に検討することが必要となった。

こうした状況を踏まえ、本年4月15日、当調査会は、基礎問題小委員会及び非営利法人課税ワーキング・グループ合同会議を設置して、新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制のあり方についての検討を開始し、以後6回にわたり審議を行った。この「基本的考え方」は、これまでの議論の大要をとりまとめたものである。

この「基本的考え方」は、昨年6月の「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」において指摘した「民間が担う公共」の重要性を踏まえ、この諸課題に関して今後の改革の基本的方向性を提示するものである。「あるべき税制」の一環として、「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を整合的に再設計し、寄附金税制の抜本的改革を含め、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものに他ならない。これはまた、歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組みでもあるといえよう。

一 非営利法人に対する課税のあり方

1 基本的考え方

イ 現在、検討されている「新たな非営利法人制度1」の基本的な仕組みは、おおむね以下のとおりである。

[1] 現行の民法34条法人(民法第34条に基づく社団法人及び財団法人をいう。以下同じ。2)の設立に係る許可主義を改め、法人格の取得と公益性の判断を分離するため、公益性の有無に関わらず、準則主義(登記)により簡便に設立できる一般的な非営利法人制度を創設する。

[2] 主務官庁制(各官庁が裁量により民法34条法人の設立許可等を行うことを指す。)を抜本的に見直し、主務官庁から中立的に公益性判断を行えるよう、内閣に民間有識者からなる委員会(以下、「第三者機関」という。)を新たに設置する。そして、その意見に基づき、一般的な非営利法人について目的、事業等の公益性を判断する仕組みを創設する。併せて、一定の地域を拠点として活動する非営利法人について、その公益性を判断するため、都道府県に国に準じた体制を整備し、国との間で整合性を図る。

[3] 新たに創設される非営利法人制度に包含される中間法人制度は廃止する一方、特定非営利活動法人制度(いわゆるNPO法人制度)を含め特別法によって設立される公益法人等は引き続き存続する。

ロ このような制度設計に対応して、新たな非営利法人に対する適正な課税のあり方を検討しなければならない。

そもそも法人税は、事業の目的や利益分配の有無にかかわらず、収益及び費用の私法上の実質的な帰属主体である事業体がその納税義務者とされるものであり、この点は営利法人も非営利法人も同様である。こうした考え方の下、非営利法人に対する課税に係る具体的な課税ベースについては、各々の非営利法人に関する私法上の仕組み(残余財産の帰属の態様等)や事業目的、活動の実態等を総合的に勘案して適切に設定する必要がある。

2 「公益性を有する非営利法人」に対する課税

(1) 公益性の判断

今般の制度設計においては、公益性を有するにふさわしい規律のある非営利法人の受け皿となる仕組みを構築するため、以下のような方向で検討されている。

[1] 非営利法人の目的、事業等の公益性について、(i)積極的に不特定多数の利益の実現を図ること、(ii)残余財産の帰属者は国等の一定の範囲に限定されること、(iii)公益的事業の規模は法人の事業の過半を占めること、(iv)同一親族等が理事等に占める割合を制限すること、(v)必要な範囲を超えた過大な資金等が内部留保されないこと等、できる限り裁量の余地の少ない明確な要件を設定し、これに照らして「第三者機関」が非営利法人の公益性を判断する。

[2] 「第三者機関」において、公益性を有すると判断された非営利法人(以下、「公益性を有する非営利法人」という。)に対して、事業報告書等の定期的な提出、一定期間ごとの公益性の有無の確認、公益性判断の取消し等、事後チェックのための監督上の措置を講じる。

[3] さらに、「公益性を有する非営利法人」に対して、適正運営の確保のために適切なガバナンスを求めるとともに、国民一般に対する情報開示の強化を図る。

このような公益性判断の仕組みや事後チェックの担保措置を前提とする限り、「公益性を有する非営利法人」については、「第三者機関」による公益性の認定をもって、法人税法上の公益法人等として取り扱うこととすべきである。

(2) 課税上の取扱い

「公益性を有する非営利法人」に対する法人所得課税上の取扱いについては、その事業活動の公益性に鑑み、現行制度同様、基本的にすべての収益を非課税とすることが適当である。

ただ、当該法人が行う事業活動の実態は極めて多様であり、収益を得ることを目的とする営利法人と同種同等の事業活動が行われる場合もある。これを含めてすべての事業活動から生じる収益を非課税とすることは営利法人との間で著しくバランスを失することになる。このため、「公益性を有する非営利法人」においても、現行制度と同様、営利法人と競合関係にある事業のみに課税することとすべきである(収益事業課税)。

3 「公益性を有する非営利法人」以外の非営利法人に対する課税

(1) 基本的方向

「公益性を有する非営利法人」以外の非営利法人は、「新たな非営利法人制度」の下では、準則主義(登記)により簡便に設立できる。利益分配を目的としないものの残余財産の帰属の制約がなく、事業内容の制限もない法人と位置付けられる。このため、例えば、同窓会のような「会員からの会費を活動の原資として専ら会員共通の利益を目的とした共益的事業活動を行う非営利法人」から、「その事業活動が営利法人と実質的にほとんど変わらない非営利法人」に至るまで、様々な態様の非営利法人の設立が予想される。

かかる多様な実態を踏まえると、これら非営利法人に対する課税を一律の取扱いとすることには無理がある。これら非営利法人の組織運営や事業活動の目的・内容等の実質面に着目しつつ、これに対応した適正な法人所得課税のあり方を検討する必要がある。

(2) 課税上の取扱い

イ 非営利法人のうち「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」とは、典型的には、会員からの会費を原資として、それが会員向けの共益的事業活動に専ら費消され、会員がその潜在的受益者になることが想定される法人である。このような法人の場合、実際には、会員からの会費の収入時期と支出時期とのタイムラグにより一過性の「余剰」が生じることは避けられない。しかし、このような「余剰」への課税は当該法人の活動実態に照らし必ずしも合理的とは考えられない。かかる観点から、会員からの会費について非課税とする方向で検討することが適当である。

併せて、「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」といっても千差万別であるため、このような課税の取扱いとすべき非営利法人を判定するための具体的基準のあり方等について検討を行う必要がある。

ロ また、「新たな非営利法人制度」の下では、「公益性を有する非営利法人」でも「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」でもない非営利法人も存在する。これについては、利益分配を目的としていないものの、実質的に給与やフリンジベネフィットという形で利益分配を行ったり、解散時に残余財産の帰属という方法により利益を分配したりすることが可能である。さらに、事業内容にも特段の制限がないため、実質的に営利法人と同種同等の事業活動も行いうる。このような法人の特性や実態等を踏まえれば、これに対する課税については、非営利法人、営利法人という法人形態の選択に対して中立的になるように、また租税回避手段としての濫用を防止するため、営利法人と同等の課税とすべきである。

さらに、こうした非営利法人については、相続税等の租税回避に濫用されるおそれがあることから、現行の公益法人等に関する租税回避の防止措置をも考慮し、適切な措置を検討する必要がある。

4 公益性判断の変更があった場合等の取扱い

「新たな非営利法人制度」の下、「第三者機関」が「公益性を有する非営利法人」に対する事後チェックによりその公益性判断を取り消した場合、当該法人は、「公益性を有する非営利法人」という資格を失い、通常の非営利法人に移行することになる。この場合、当該法人の財産には税制上の優遇措置によって蓄積されてきたものが含まれている。このため、営利法人との課税のバランスや租税回避の防止の観点から、取消事由の発生時点に遡及して優遇措置を取り消すとともに、優遇措置により蓄積された財産に対し一定の課税を行うといった何らかの税制上の措置を講じるべきである。

併せて、「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」の場合についても、これと同様の検討を行う必要がある。

5 特別法に基づく非営利法人等との関係

今般の公益法人制度改革は、民法34条法人と中間法人に代えて、「新たな非営利法人」を制度化するものであり、「特別法に基づく公益法人等」(学校法人、社会福祉法人、宗教法人、NPO法人等)の私法上の位置付けの変更は予定されていない。加えて、「公益性を有する非営利法人」との課税上のバランスを考慮すれば、これらの法人に対する課税については、当面、現行と同様の取扱いとすることが考えられる。ただし、後述のように公益法人等に共通する課税上の諸論点について見直しを行う場合には、制度の整合性に配慮した検討を行うべきである。

地縁団体や管理組合法人のように、「共益的事業活動を行うことを目的として特別法に基づき設立される法人」については、その実態を踏まえつつ、上述の「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」の課税上の取扱いと整合性が確保されるよう検討する必要がある。

「人格のない社団等」については、収益及び費用の実質的な帰属主体として一定の団体的性質を備えていることを踏まえ、これを法人とみなして収益事業からの所得に対して課税されている。人格のない社団等には、公益的活動や共益的活動を行うような団体から、営利的活動を行う団体まで様々なものがある。「新たな非営利法人制度」の制度化に伴って、営利目的のものでなくても法人格取得の途が開かれるため、法人格を取得して「非営利法人」に移行することが少なからず想定される。このような事業体の選択に税制が歪みをもたらすことのないよう、人格のない社団等に対する課税について、営利法人や非営利法人との課税のバランスや租税回避の防止の観点から、その実態に配意しつつ、そのあり方の見直しを行う必要がある。

6 地方法人課税

今回新たに制度化される非営利法人に対する地方法人課税については、法人所得課税としての法人住民税法人税割及び法人事業税所得割は、原則、法人税と同様の取扱いとすべきである。また、法人住民税均等割については、現行制度と同様、「公益性を有する非営利法人」が収益事業を行わない場合は最低税率により、また当該法人が収益事業を行う場合は法人の規模に応じて課税することとし、「公益性を有する非営利法人」以外の非営利法人については、営利法人との均衡等を考慮し課税することが適当である。

二 公益法人等に共通する課税上の諸論点

わが国経済社会において、価値観の多様化、社会のニーズの多元化が進む中で、「民間が担う公共」の領域である民間非営利部門の重要性が増してくる。これを支えるのが公益法人等であり、従来からも税制上の優遇措置が講じられてきた。

しかしながら、他方で、近年、公益法人等の事業活動が拡大・多様化し、各種分野で規制緩和が進展する中、営利法人との課税のバランスを考慮して、公益法人等に対する課税の適正化が強く求められるようになっている。具体的には、これまでの累次の答申等で指摘してきたように、収益事業の範囲、軽減税率、みなし寄附金制度(寄附金の損金算入限度額の特例)、金融資産収益に対する課税のあり方について、公益法人等に共通する横断的な課題として再検討する必要がある。

1 公益法人等の課税対象所得の範囲(収益事業課税方式)

現行法人税法では、公益法人等、人格のない社団等、NPO法人などが、営利法人の営む事業と競合関係にある事業を行う場合、課税の公平性・中立性の観点から、その収益事業から生じた所得に対してのみ法人税が課税されている。

現在、課税対象となる収益事業としては、33種の事業が限定列挙されている。これについては、公益法人等の行う事業活動が拡大・多様化し、営利法人との間で課税のアンバランスが生じているのではないか、昭和59年度以来その対象範囲の見直しが行われておらず、実態から乖離しているのではないか等の問題がある。

このため、まずは、公益法人等が行っている事業の実態を調査し、これに基づいて、課税とされるべき収益事業の範囲を根本的に洗い直すべきである。その際、限定列挙されている収益事業の範囲を拡大するとともに、現行の収益事業の範疇であっても一部非課税とされている特定の事業内容についてその妥当性を再検討すべきである。

他方、これに関連して、公益法人等が多様な事業活動を行っている現状を踏まえ、課税対象を個別列挙により定めるのではなく「対価を得て行う事業」というように包括的に定めた上で一定のものを除外するという考え方もある。その制度的可能性について検討することも、今後の課題となろう。

2 軽減税率及びみなし寄附金制度

公益法人等に対しては、収益事業に対してのみ課税するという形で一定の配慮がなされている。これに加え、収益事業からの利益について、政策的観点から軽減税率とみなし寄附金制度が設けられ、公益法人等の実質的な法人税負担が更に軽減されている。これは、公益法人等が公益活動の財源に充てるために収益事業を行っているという実態に配慮したものである。

収益事業から生じる利益に対しては、現行制度では、軽減税率(22%)が適用されるが、収益事業課税の趣旨等に照らせば、できる限り営利法人の基本税率(30%)との格差を縮小し、営利法人と同等の税率とすることを目指すべきである。

みなし寄附金制度は、公益法人等が収益事業から生じる利益を非収益事業に支出した場合には、それを寄附金とみなして、寄附金の損金算入限度額(原則として所得金額の20%相当額)まで損金算入できる制度である。これについては、公益法人等における財源面の実態に照らせば、収益事業からの利益が本来事業に充当されている限りにおいてその損金算入限度額を拡充すべきであるとの考え方がある。他方、収益事業に係る課税所得が減殺され、収益事業課税の趣旨が歪められているとの考え方が出されている。

こうしたことを踏まえ、公益法人等に係る軽減税率やみなし寄附金制度のあり方について、今後更に検討を進めるべきである。

3 利子・配当等の金融資産収益に対する課税

公益法人等の場合、利子・配当等の金融資産収益に対する課税については、収益事業に属するものを除き、法人税が非課税とされている。金融資産収益については、会費や寄附金収入とは異なり、公益法人等が事業活動を行う中で新たに発生した所得であって、経済的価値においては現在収益事業とされている金銭貸付業から生じた所得と同じであること等から一定の税負担を求めるべきとの考え方がある。他方、金融資産収益は、公益活動を支える不可欠な財源であり、政策的な配慮が引き続き必要であるとの考え方もある。

こうした考え方やその実態を十分踏まえ、金融資産収益に対する適切な課税のあり方について、今後検討を進めていく必要がある。

三 寄附金税制のあり方

1 寄附金税制の見直しの基本的方向

わが国の現行の寄附金税制は、(i)国・地方公共団体に対する寄附金、(ii)指定寄附金、(iii)特定公益増進法人に対する寄附金、(iv)認定NPO法人に対する寄附金等の区分に対応して、個人ないし法人が寄附を行った場合、各々の課税所得の計算上、一定限度の所得控除ないし損金算入ができる仕組みとなっている。こうした寄附金税制は、本来課税すべき利益を減額してでも、民間の公益的活動の発展に資するため政策的に寄附活動を支援するとの考え方に基づいているものである。このため、真に政策的支援にふさわしい公益的な非営利法人を厳格に絞り込んだ上で、税制上の優遇措置が適用されている。

しかしながら、「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」でも示唆したように、近時、わが国経済社会は大きく変容しつつある。少子・高齢化の進展、右肩上がり経済の終焉、社会の多様化の進行といった構造変化が進み、きめ細かな社会ニーズに対応しうる柔軟で厚みのある社会システムを再構築することが求められている。こうした中で、これまでになく、「民間が担う公共」の領域の役割が重要となっている。その主たる担い手が公益的な非営利法人であり、その活動を資金面で支えるのが寄附金である。

このような状況の下、「新たな非営利法人制度」の制度化を契機として、税制面において、欧米諸国並みに寄附文化を育んでいくためのインフラ整備に積極的に寄与するとの視点が重要となる。かかる視点に立って、寄附金税制についての従来の考え方を抜本的に見直し、より一層その充実を図る方向を目指すべきである。こうした寄附金税制の拡充は、「民」が「公共」の領域により深く主体的に関与するチャネルを拓き、今日的視点から官民の役割分担のあり方を改めて見直すきっかけにもなりうるものである。

もとより、寄附文化は優れて歴史的・文化的な背景や社会風土に規定されるものである。わが国においては、寄附文化はこれまで比較的希薄と言われており、寄附金税制が果たす役割にも自ずと限界がある。真の意味で寄附文化を発展させるためには、寄附金税制の抜本改革のみならず、公益的な非営利法人において適正な事業活動や情報公開により寄附者の理解を得るための一層の努力が求められる。そして何よりも、国民一人一人における「公共」意識を育てる努力こそが欠かせない。

2 国税における寄附金税制

(1) 寄附金優遇の対象法人の範囲等

[1] 「新たな非営利法人制度」の下での寄附金税制(特定公益増進法人制度の見直し)

イ 「新たな非営利法人制度」の制度化に伴い、民法34条法人に係る特定公益増進法人制度3のあり方を見直すことが必要となる。

この制度は、主務大臣の許可に基づいて設立された民法34条法人の中から、「より一層公益性が高いとして国が特に政策的に支援する必要があるとする公益的事業を行う法人」を主務大臣が更に認定するという基本的仕組みとなっている。ここに言う「より一層公益性が高い公益的事業」は法令上38事業に類型化され、限定列挙されている。

しかしながら、この事業類型に関しては、網羅的でなく必ずしも時代のニーズに適合していないのではないか、そもそも事業類型を定める基準が不明瞭ではないかといった問題がある。また、寄附金優遇のための認定基準自体も必ずしも明確でないという問題もある。

ロ こうした中、「新たな非営利法人制度」の下では、これまでとは異なり、非営利法人の公益性の判断が「第三者機関」により統一的に行われることになる。かかる新たな仕組みの趣旨・内容等を踏まえれば、制度の一貫性を確保するとの観点から、基本的に、「第三者機関」が判断した「公益性を有する非営利法人」をもって寄附金優遇の対象法人とするとともに、当該法人が行う公益的事業を寄附金優遇の対象事業とすることが合理的である。

ハ 寄附金税制は、法人及び事業の公益性に着目して税の減免が行われるものであり、租税回避手段として濫用されることがあってはならない。また、寄附を行う多くの個人及び法人に対して講じられるものであることからも、その運用が有効かつ適正に行われるための工夫が欠かせない。制度の信頼性を高めていく上でも、寄附金に関する事項について国民のチェック機能を強めるための情報公開の仕組みや、寄附金の使途の適正性の確保や寄附金税制の不正利用防止のための仕組み等を具体的に検討する必要がある。併せて、例えば、「第三者機関」が「公益性を有する非営利法人」に対して公益性判断を取り消した場合、こうした法人に対して寄附金優遇法人としての資格を取り消すとともに、その後一定期間内は再認定されないこととするといった事後チェックの仕組みの導入も検討すべきである。

また、都道府県レベルで認定された「公益性を有する非営利法人」を国税に係る寄附金税制の対象とする場合、その前提として、国レベルで認定された法人とのバランス上、当該公益性の判断が国・地方を通じて整合的になされるとともに、当該法人の運営の適正性が同等に確保されることが重要であり、これが担保される仕組みの検討も必要である。

ニ 併せて、現行の特定公益増進法人のうち民法34条法人以外の法人(脚注3参照)に係る寄附金税制についても、今般の抜本的見直しの一環として、その利用実態等を踏まえつつ、「公益性を有する非営利法人」の取扱いとの整合性に配慮した検討を行う必要がある。

[2] 認定NPO法人制度

NPO法人に係る寄附金税制としては、「認定NPO法人制度」がある。今般の公益法人制度改革との関連では、NPO法人制度が引き続き存置されることから、認定NPO法人制度も存続することとなる。

認定NPO法人の認定基準については、平成13年度の制度創設以来、累次にわたり大幅に緩和されてきた。しかしながら、制度施行後3年半を経過して認定NPO法人が34法人(平成17年6月1日現在)にとどまっていることもあり、NPO法人の活動実態を踏まえた更なる見直しが必要ではないかとの問題提起がある。

例えば、認定基準のひとつである「パブリック・サポート・テスト(PST)」は、「『官』の関与を排除しつつ広く一般から支援を受ける度合い」をもって公益性を測定するとの考え方に基づいて、専ら寄附金収入の多寡によってこれを測定する方式が採られている。NPO法人制度が次第に定着し、その活動も多角化・多様化し、官とのパートナーシップを組んで活動するNPO法人をはじめ、様々なタイプのものが現われてきている。こうした中、現行方式は、最近のNPO法人の活動実態にそぐわなくなっているのではないかとも考えられる。

かかる状況を踏まえ、認定NPO法人の認定基準のあり方について、NPO法人の実態に即したものとなるよう更に検討を進める必要がある。

[3] 適用期間

寄附金税制が適用される期間については、現行制度では基本的に2年間とされている。こうした適用期間を設けることには、寄附金優遇の対象法人において適正な運営を確保する観点から一定の意義がある。しかしながら、その具体的な適用期間については、申請手続の事務負担等に配慮すれば、現行(2年間)よりも長めに設定する方向で検討することが適当である。

(2) 寄附金控除等

[1] 所得税における寄附金控除

個人による寄附金については、一般的には他人に対する金銭等の贈与であり、所得の任意の処分であるため、個人所得課税の課税ベースに含めるべきものである。しかしながら、公益的活動に対する寄附の奨励措置として、特定公益増進法人や認定NPO法人等に対する寄附金などの公益目的の寄附金について所得控除を行う寄附金控除制度が設けられている。

寄附金控除の控除限度額については、平成17年度税制改正において総所得の25%から30%に引き上げられ、基本的には諸外国と比較しても遜色のない水準にあるが、更に拡充する余地があるかについて検討を行うべきである。

寄附金控除の適用下限額については、少額の寄附金まで所得控除の対象とした場合には税務執行上煩雑となりかねないこと等の理由により設けられたものである。しかしながら、個人が「民間が担う公共」の領域に主体的に参加していくことが求められる中、現行の1万円という適用下限額について、寄附金税制の充実の必要性の観点を踏まえ、そのあり方を改めて検討する必要がある。

[2] 法人税における寄附金の損金算入限度枠

寄附金は、直接的な対価を伴わない支出であり、基本的に利益処分としての性格が強いものである。しかしながら、事業関連性を否定しきれない面もあることから、法人税においては、一定限度の金額に限って一般寄附金として損金算入できることとされている。その上で、特に公益的活動を支援するとの観点から、特定公益増進法人や認定NPO法人等に対する一般法人からの寄附金について、一般寄附金とは別枠で、更に一定限度の損金算入が可能とされている。

公益目的の寄附金に係る損金算入枠については、近年、企業の社会的責任や社会貢献が強く求められるようになってきており、寄附金税制の充実の必要性の観点から、これを拡充する方向で見直すべきである。

他方、一般寄附金については、寄附金の本来的な性格、法人の交際費支出に対する課税上の取扱いとのバランス等に照らせば、現行の取扱いにはそもそも適当とは言い難い面がある。このため、公益目的の寄附金の損金算入枠を拡充する中で、一般寄附金の損金算入枠を縮小する方向で検討を進める必要がある。その際、損金算入の対象とする寄附金の範囲を限定するか、一定限度内であってもその一部を損金算入しないこととするか等を含め、その利用実態を見極めつつ検討を行う必要があろう。

[3] 相続財産の寄附に係る非課税措置等

相続財産からの寄附については、現行制度上、公益の増進に著しく寄与するものとして主務大臣の認定を受けた一定の公益法人等に対し寄附を行った場合には、原則として、相続税の課税対象としない措置が講じられている。今般の「新たな非営利法人制度」の制度化に当たり、所得税や法人税と同様の考え方から、相続税においても、「第三者機関」による公益性の判断をもって非課税とできるよう、制度を見直すべきである。その際、相続税の不当回避のために非営利法人制度が濫用されないよう、適切な税制上の対応を採ることとすべきである。

(3) その他の課題

[1] 指定寄附金制度

指定寄附金制度は、広く一般に募集され、公益の増進に寄与するための支出で緊急を要する事業に充てられる寄附金として財務大臣が指定したもの(指定寄附金)について、その寄附者に対して所得税ないし法人税に係る税制上の優遇措置が適用されるものである。

この指定寄附金制度は、事業そのものの公益性に着目し、寄附金優遇の面で個別事業ごとに機動的に対応しうる仕組みである。特定公益増進法人制度等とは別個の制度としてその存在意義はあるものと考えられ、これを存続することが適当である。ただし、指定基準や対象事業の範囲の明確化を含め、本制度のあり方について見直しを行う必要がある。

[2] 現物による寄附

個人から法人への資産の寄附については、一般的には、当該個人がその資産を保有していた期間中に生じたキャピタル・ゲインに対して課税が行われるが、公益法人等に寄附が行われる場合については、一定の条件の下でこれを非課税とする措置が講じられている。こうした措置についても、今般の「新たな非営利法人制度」の制度化に併せ、租税回避の防止に留意しつつ、現物による寄附を円滑にするための見直しを検討すべきである。

3 地方税(個人住民税)における寄附金税制

地方税である個人住民税については、「地域社会の会費」であり広く負担を分任するという性格などを踏まえ、平成元年度までは寄附金控除の仕組みは設けられていなかった。平成2年度に住所地の都道府県共同募金会を対象にはじめて寄附金控除の仕組みが設けられた。その後、平成4年度に住所地の日本赤十字社支部が、平成6年度には全ての都道府県・市区町村が寄附金控除の対象となった。しかし、税の性格に基づき、対象団体、適用下限額、控除限度額について所得税と比べて大きく異なる制度となっている。

近年、寄附を促進する必要性が指摘されている。非営利法人等の中には、地方公共団体の施策と関連が深く、また、地域に密着した活動を行うものが多くなってきている。

国が一律に個人住民税の寄附金控除の対象を定めることについては地方分権の観点からも慎重であるべきであろう。しかし、こうした地域に密着した非営利法人等については、歳出等による支援の手法のほか、地方税においても寄附金控除が可能となるよう見直していくべきである。また、現行10万円の適用下限額についても、大幅に引き下げることが望ましい。

地方税である個人住民税の性格にあった寄附金控除の仕組みは、「民間が担う公共」の領域の役割が重要となっていることも踏まえながら、基本的に条例などにより地方公共団体によって独自に構築されるべきである。その際、控除を行う地方公共団体と寄附金による当該地域の受益との対応関係や、地方公共団体の自主性、市町村・納税者の事務負担などにも留意する必要がある。

結びにかえて ── 制度設計に当たっての要請

この「基本的考え方」は、「新たな非営利法人制度」の創設を契機として、21世紀のわが国経済社会を展望しつつ「あるべき税制」の一環として、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものであり、その今日的な意義は大きい。とりわけ、「新たな非営利法人制度」の下、「一般的な非営利法人」が「第三者機関」の公益性判断に基づいていったん「公益性を有する非営利法人」とされれば、基本的に、税制上、法人税法上の公益法人等となると同時に寄附金優遇の対象法人とも位置付けられることになる。

それだけに「第三者機関」の責務は重い。今回の制度改革の成否は、「第三者機関」の公益性判断や事後チェックが、国・地方を通じ、制度・運用両面において継続的に適正かつ的確になされるかどうかにかかっている。「第三者機関」の公益性判断の要件について、税制の視点をも含めた法人運営の適正性をどのように具体的に設定するかも重要な鍵となろう。政府に対して、こうした観点からの適切な制度設計を強く要請するものである。

その上で、「新たな非営利法人制度」の法制化の進捗状況を踏まえながら、当該制度との整合性に留意し、新たな非営利法人に関する税制及び寄附金税制についての具体化に向けた検討を更に深めていかなければならない。国民の期待に応えられるよう、よりよい制度の構築に向け着実な取り組みを求めたい。

と同時に、今後、各方面においても、この「基本的考え方」について活発な論議がなされることを期待したい。


(1) ここにいう「非営利法人」とは利益分配を目的としない法人をいう。 [戻る]

(2) 平成15年10月1日現在の民法34条法人の数は25,825法人である。 [戻る]

(3) 「特定公益増進法人制度」は、公共法人、公益法人等のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものを「特定公益増進法人」とし、これらの法人の主目的である業務に関連する寄附金について、その寄附者に対して所得税ないし法人税に係る税制上の優遇措置が適用される制度である。「特定公益増進法人」の類型としては、独立行政法人等、一定の特殊法人等(日本赤十字社等)、学校法人、社会福祉法人等のほか、民法34条法人のうち、具体的に法人名が掲名されているもの(財団法人日本体育協会等)と、「公益の増進に著しく寄与する業務を主たる目的とするもので適正な運営がなされているものであることにつき主務大臣の認定を受けたもの」とがある。 [戻る]