平成17年度の税制改正に関する答申

平成16年11月
税制調査会

目次

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員、特別委員及び専門委員は、次のとおりである。

委員 特別委員 専門委員
秋山 咲恵井堀 利宏岩崎 慶市
石 弘光上野 博史太田 宏
井戸 敏三遠藤 安彦川北 隆雄
井上 裕之尾崎 護長宗我部 友親
猪瀬 直樹河野 光雄 
大宅 映子小嶋 功一(※)
翁 百合島田 晴雄
奥野 正寛竹内 佐和子
菊池 哲郎辻山 栄子
草野 忠義出口 正之
神津 十月中里 実
上月 英子長野 幸彦
佐竹 敬久林 宜嗣
神野 直彦本間 正明
田近 栄治松永 真理
田中 直毅宮島 洋
千速 晃 
水野 忠恒
村上 政敏
吉岡 初子

(※)「功」の字の正しい表記は、つくりが「刀」ですが、漢字コードに無いため、「功」で表記しています。


当調査会は、昨年10月、内閣総理大臣から「少子・高齢化やグローバル化等の大きな構造変化に直面しているわが国社会の現状及び将来を見据えつつ、社会共通の費用を広く公平に分かち合うとともに、持続的な経済社会の活性化を実現するため、あるべき税制の具体化に向けた審議を求める。」との諮問を受け、税制改革の具体化に取り組んできた。

この間、基礎問題小委員会において、税制を取り巻く経済社会の構造変化に関する審議を重ね、今後の税制改革に向けた基礎固めを行った。その成果を本年6月22日に「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」としてとりまとめた。これと並行して、金融小委員会において、金融所得課税の一体化に関する検討を行い、6月15日に「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」をとりまとめた。

さらに、8月29日から9月5日にかけて、欧州・北欧諸国における税制・社会保障等の改革の動向や付加価値税制度の現状について海外調査を実施した。

これらの成果を踏まえ、9月21日以降、個人所得課税、消費課税、資産課税、法人課税、国際課税、環境問題への対応等の広範な分野にわたり、中期的な課題も視野に入れつつ、審議を行った。

本答申は、向こう数年間にわたり取り組むべき税制改革を展望しつつ、平成17年度税制改正にあたっての指針を示したものである。

一 基本的考え方

1.わが国経済社会の構造変化と近年の税制改革

わが国は、歴史的な転機とも言うべき構造変化に直面している。

少子・高齢化が世界に類を見ないスピードで進んでいる。このため、わが国人口は、2006年をピークに継続的な減少局面に入る。今世紀半ばには、3人に1人が高齢者となる見込みである。家族のあり方や会社と個人との関係も急速に変容しつつある。冷戦の終結や情報化の進展などを背景に、国境を越えた経済活動が活発化し、世界規模の競争が進むとともに、各国間の相互依存関係が拡大・深化してきている。

このような中で、公正な社会を構築し、持続的な経済社会の活性化を実現するために、さまざまな分野の構造改革を急がねばならない。

かかる構造改革の一環として、税制面においても、近年、広範な改革を実現してきた。

少子・高齢化などに伴う貯蓄率の低下傾向に対応し、個人金融資産をはじめとする各種資産の有効活用を進めるため、金融・証券税制の軽減・簡素化、相続税・贈与税の一体化などを実施した。また、国際的な競争やモノ・資本・ノウハウの流れの変化も踏まえ、研究開発・設備投資減税の集中・重点化のほか、約30年ぶりに日米租税条約を全面的に改定した。これらの措置は、民間の努力とあいまって、着実に経済社会の活性化につながってきているものと考えられる。

これらの改革とあわせ、経済社会の構造変化に対応し、税負担の歪みを是正する観点から、配偶者特別控除(上乗せ部分)の廃止、年金課税の見直しなどを行った。さらに、消費税に対する信頼性・透明性を向上させるため、免税点制度などの改革を実現した。

こうした改革の流れを踏まえ、引き続き、「あるべき税制」の具体化に向けた取組みを進めていかねばならない。

2.経済及び財政の現状

近年、わが国においては、産業再生と不良債権処理をはじめとした構造改革の推進により、企業部門の有利子負債がバブル崩壊後最低の水準にまで低下するなど、民間経済の体質強化が実現されつつある。その結果、企業収益が大幅に改善し、設備投資も増加している。有効求人倍率の上昇とともに、失業率が、ここ10年来初めて趨勢的に低下するなど、雇用情勢も着実に改善しており、消費者マインドの改善もあって、個人消費は緩やかに増加している。

原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向に留意する必要はあるが、国内民間需要が着実に増加していることから、今後とも景気回復が続くと期待される。かかる状況の下、持続的な経済成長を実現していくため、引き続き、各般の構造改革が推進されている。

他方、わが国財政は、バブル崩壊以降の大規模な景気対策の実施もあり、長期債務残高が累増し、先進国中最悪の危機的状況にある。わが国の税負担は、累次の減税により、諸外国と比べても極めて低い水準にあり、国税収入の歳出総額に占める割合は辛うじて5割を上回る程度でしかない。その分、巨額の公債発行が続いている。

こうした現状にもかかわらず、金融の量的緩和政策の下、民間企業部門の負債圧縮などの動きもあって、資金の流れが国債市場に向かったこともあり、長期金利は低水準で推移してきた。しかし、かかる状況は永続的ではない。現在の財政状況を放置すれば、その持続可能性に対する信認低下を背景とした金利上昇により、金融市場の機能、ひいては経済全体の健全な発展が阻害されることとなりかねない。財政に対する国民や市場からの信認を高め、持続的な経済成長を実現するためにも、財政健全化が必要である。

3.持続可能な公的部門の構築に向けて

人口減少社会の到来など、これまでにない転換期を迎える中、現下の危機的な財政状況を踏まえると、今後、21世紀にわたり持続可能な公的部門を構築していくことが重要な課題である。

(1)歳出・歳入両面からの財政構造改革

財政を将来にわたり持続可能なものとするためには、経済の規模に比して公債残高が累増しない財政体質を確立する必要があり、そのためには、基礎的財政収支の黒字化が前提となる。2010年代前半までに団塊の世代が年金受給者となることも考慮に入れ、2010年代初頭における基礎的財政収支の黒字化を目指し、財政構造改革を確固たる足取りで進めねばならない。

このため、政府は徹底した行財政改革を行う責任がある。民間にできることは民間にとの考え方の下、事務・事業の民営化などや規制改革を推進しつつ、各種の制度・施策を抜本的に見直し、行政コストの無駄を排除するなど、聖域なき歳出の削減を進めるべきである。他方、かかる歳出改革を行ってもなお、高齢化の進展に伴う社会保障給付の増加が見込まれる中、広く公平に負担を分かち合い、安定的な歳入構造を確立するための取組みも避けて通れない。歳出・歳入両面から財政構造改革を進めていく必要がある。

急速な人口構造の変化や、先進国中例を見ない脆弱な財政体質を踏まえれば、2010年代初頭まで残された時間は長くはない。財政赤字は、いずれは国民の負担によって償還されねばならない。財政再建への取組みが遅れるほど、財政破綻を避けるために必要となる歳出削減や税負担増の規模は大きくなる。財政が経済の足枷となる事態を避けるため、問題を先送りすることなく、できる限り平準化された形で、着実に財政健全化を進めていく必要がある。かかる取組みを明確な道筋に沿って進めることは、財政赤字に起因する国民の将来不安を払拭し、活力ある経済社会を構築するために不可欠である。

(2)国・地方の三位一体改革

公的部門の改革の重要な柱として、地方分権を推進し、地方の自立を確立することにより、活力と個性のある地域社会を実現していくことが求められている。また、地方の自主性、自律性を高め、地方が自らの責任と判断で行政サービスを実施できるようにするためには、地方に対する国の関与の廃止・縮減、事務・事業の徹底した見直しなどによる地方行財政の効率化が不可避である。

このような取組みとあわせて、国庫補助負担金の改革、地方交付税の改革、税源移譲を含む税源配分の見直しからなる三位一体の改革を推進せねばならない。平成18年度までの間に、国庫補助負担金の改革とあわせ、本格的な税源移譲を実現する必要がある。その際、地方税体系の中で個人住民税が応益性、自主性の要請に最も合致している点を踏まえ、所得税から個人住民税への移譲を基本とすべきである。今後、この方針に沿って、補助金改革の成果を上げ、税源移譲の実現を図るとともに、財源保障機能の縮小を含め地方交付税の改革を進めていかねばならない。また、地方の課税自主権の活用についても、一層推進していく必要がある。

(3)税・社会保障負担のあり方の改革

急速に少子・高齢化が進展する中で、経済社会の活力を維持する観点から、例えば税・社会保障負担に財政赤字分を加えた潜在的国民負担率(対国民所得比)で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制することが求められている。このため、歳出全般にわたる改革を進めていく必要があるが、特に、社会保障給付のあり方について、年金、医療、介護などを総合的に捉え、雇用政策や少子化対策との関連も踏まえつつ、抜本的に見直すことが不可欠である。その際、国民の多様なニーズに対応した質の高いサービスを効率的に実現する観点から、民間サービスの思い切った活用を図る必要もあろう。

かかる社会保障制度の総合的な改革とあわせ、税・社会保障負担のあり方について検討を進める必要がある。平成16年度予算における潜在的国民負担率で見た政府の規模は45.1%に達しているが、税負担と社会保障負担とを合わせた狭義の国民負担率は、およそ20年前とほぼ同水準の35.5%にとどまっている。この10%程度の差は、もっぱら財政赤字によるものであり、これを放置すれば、本格的な高齢社会を支える将来世代の負担をさらに増加させることとなる。経済社会の構造変化を踏まえて税・社会保障負担のあり方を改革する中で、受益と負担のバランスを図る観点から、給付面の抜本的見直しとあわせ、現在世代の負担水準の引上げを図るべきである。その際、社会保障における税負担と社会保障負担の意義・役割や、そのどちらにより重く依存すべきかの検討が重要な政策課題となってこよう。

4.今後の税制改革の道筋

かかる公的部門の改革の全体像を提示しつつ、明確な道筋に沿って改革を進めることで、国民の安心を確保しながら活力ある経済社会を構築していかねばならない。

「平成16年度の税制改正に関する答申」で指摘したように、「あるべき税制」に向けての抜本的税制改革は、国・地方の三位一体改革、社会保障制度の改革と整合性をとって行う必要があり、2010年代初頭の基礎的財政収支の黒字化に取り組む上でも避けて通れない課題である。

国・地方の三位一体改革の中で、平成18年度までに、所得税から個人住民税への本格的な税源移譲の実施とあわせ、国・地方を通じた個人所得課税の抜本的見直しを行う必要がある。こうした中で、いわゆる定率減税については、平成11年度税制改正において、当時の著しく停滞した経済活動の回復のため、個人所得課税の抜本的見直しまでの間の緊急避難的な特例措置として導入された経緯を踏まえ、経済への影響も十分に考慮しつつ、平成18年度までに段階的に廃止すべきである。

基礎的財政収支の黒字化に向け、平成18年度までに、国と地方双方が歳出削減努力を積み重ねつつ、必要な税制上の措置を判断する必要がある。また、平成18年度までを目途に結論を得るべく、社会保障制度の総合的な改革とあわせ、税・社会保障負担のあり方についても検討を行うことが不可避である。社会共通の費用を広く公平に分かち合う観点から、抜本的な税制改革について、平成18年度までを目途に結論を得るべく検討を進めていかねばならない。その一環として、消費税についても国民的な議論を進めていくべきであろう。

消費税の創設から税率引上げに至る従来の税制改革は、個人所得課税の大幅な負担軽減とあわせ、消費課税の相対的なウェイトを高めることを主眼として行われてきた。今後の税制改革にあたっては、歳出改革の推進や民需主導の持続的な経済成長を実現していくこととあわせ、必要な公的サービスの費用を広く公平に分かち合うため、所得・消費・資産等の多様な課税ベースに適切な負担を求めつつ、全体としての税負担水準の引上げを図ることが必要となろう。個人所得課税の本来の機能を回復するとともに、消費税の税率を引き上げていくことが、今後の税体系構築の基本となる。経済社会の構造変化を踏まえつつ、資産課税、法人課税、国際課税のあり方、さらには地球温暖化をはじめとする環境問題への税制面からの対応などについても、早急に検討を行う必要がある。

当調査会としては、かかる基本的考え方の下、「あるべき税制」の具体化に向け、審議を進めている。

二 個別税目の課題

1.個人所得課税

わが国の個人所得課税は、累次の減税の結果、主要国との比較において、税負担水準が極めて低くなっている。持続可能な公的部門の構築に向け、安定的な歳入構造を確立する観点からは、個人所得課税について、財源調達や所得再分配など、本来果たすべき機能の回復に取り組んでいく必要がある。加えて、少子・高齢化の進展、家族世帯類型や雇用形態の多様化といった経済社会の構造変化に即応し、個人の経済・社会活動上の多様な選択をなるべく阻害しないような負担構造の構築が求められている。

「あるべき税制」の構築に向け、定率減税の見直しや課税ベースの拡大、税率構造、諸控除の見直しといった諸課題に取り組んでいかねばならない。その際、人的控除のあり方を見直す場合には、特に、少子・高齢社会における子育ての重要性に留意する必要があろう。

個人所得課税を巡っては、当面、国・地方の三位一体改革の一環としての本格的な税源移譲が大きな課題となる。その実施に際しても、こうした「あるべき税制」に沿った制度設計を行うべきである。

(1)税源移譲

国・地方の三位一体改革の一環として、補助金改革とあわせ、平成18年度までに、所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を行うこととされている。この税源移譲は、廃止される国庫補助負担金に係る財源措置と位置付けられることから、所得税法及び地方税法の改正による恒久措置によって行うことが適当である。

税源移譲にあたっては、個人所得課税体系における所得税と個人住民税の役割分担の明確化が課題となる。個人住民税については、応益性や偏在度縮小が求められることを踏まえ、所得割の税率のフラット化を行うことが基本となろう。また、所得税については、税源移譲後においても所得再分配機能の適切な発揮が求められることを踏まえ、「あるべき税制」との整合性に留意しつつ、税率構造・控除双方の見直しを視野に入れ、具体的な移譲の手法につき今後検討を重ねていく必要がある。

この税源移譲に際しては、個々の納税者に係る税負担の変動にも十分に留意すべきであり、所得税・個人住民税双方における適切な対応が求められる。

(2)定率減税の取扱い

定率減税は、平成11年度税制改正において、当時の著しく停滞した経済活動の回復に資する観点から、個人所得課税の抜本的見直しまでの間の緊急避難的な特例措置として導入され、見合いの財源なしに、毎年3兆数千億円という規模で継続されてきているものである。

現在の経済状況は、構造改革の進展によって民間経済の体質強化が実現されつつあり、定率減税が実施された平成11年当時と比べ、著しく好転してきている。また、引き続き各般の改革が実を結んでいけば、民需主導の経済成長が持続していくものと期待される。かかる状況の下、定率減税を継続しておく必要性は著しく減少したといえよう。景気対策のための特例措置として導入された定率減税を見直し、中期的な観点に立って、持続可能な経済成長を目指すべき時期にきている。また、先に述べた税源移譲とあわせ、国・地方を通じた個人所得課税の抜本的見直しを平成18年度までに行う必要がある。

従って、定率減税については、平成18年度までに廃止すべきである。その際、経済への影響を考慮すると、平成18年度税制改正において一度に廃止するよりも、段階的に取り組むことが適当であり、平成17年度税制改正においても縮減を図る必要がある。

(3)個人住民税

均等割の税率は、これまでの国民所得や地方歳出等の推移と比較すると低い水準にとどまっており、その税率の引上げを図る必要がある。

また、所得割の所得控除については、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するという個人住民税の性格や応益原則に基づき見直しを図り、課税ベースの拡大に努めるべきである。さらに、65歳以上の者等に係る非課税限度額制度は、現役世代と高齢者間の税負担の公平を確保するため、障害者のように真に配慮が必要な者に係る制度に改組すべきである。と同時に、税負担の公平や税収確保の観点から、徴収率の向上を目指した執行面・制度面からの検討を行う必要がある。

(4)金融所得課税の一体化

近年において、少子・高齢化の進展などから貯蓄率が顕著な低下傾向を示す中、経済の活力を維持するためには、現存する金融資産の効率的な活用が鍵となっている。こうした状況を踏まえ、金融小委員会においては、本年6月、金融所得課税の一体化に係る基本的な考え方をとりまとめ、金融・証券税制の一層の簡素化や一般個人の投資リスク軽減に向けての道筋を示したところである。

今後、各種の金融所得の損益通算の範囲の拡大にあたっては、投資家の混乱を引き起こさぬよう制度改変の手順に留意する必要がある。また、その際、金融番号制度の導入は不可欠である。所要のシステム構築といった面にも十分配慮しながら、金融所得課税の一体化を具体的に進めていくべきである。

2.消費税

高齢化の進展に伴う社会保障給付の増加が見込まれる中、2010年代初頭における基礎的財政収支の黒字化に向け、歳出・歳入両面から財政構造改革を進めていかねばならない。歳出改革路線の堅持・強化とあわせ、消費税についても国民的な議論を行っていくべきである。

消費税は、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合い、安定的な歳入構造を構築する上で重要な税である。今後の税体系構築にあたっては、国民の理解を得る努力を払いつつ、消費税の税率を引き上げていくことが必要である。

将来、消費税率の水準が欧州諸国並みである二桁税率になった場合には、食料品等に対する軽減税率の採用の是非が検討課題となる。しかしながら、消費税の税率構造のあり方については、制度の簡素化、経済活動に対する中立性の確保、事業者の事務負担、税務執行コストといった観点からは極力単一税率が望ましい。低所得者層に対する配慮については、税制全体や歳出面を含めた財政全体の中で、近年の民間非営利活動の広がりをも踏まえつつ、十分な吟味が行われるべきであろう。また、将来、仕入税額控除の際に税額を明記した請求書等の保存を求める「インボイス方式」の採用が検討課題となる。これらについては、今後の消費税率の水準に関する議論も踏まえ、高い税率水準の下で複数税率を採用している欧州諸国の実態も参考にしつつ、引き続き検討を深めていくべきである。
消費税は、わが国財政全体にとって重要な役割を果たすべき税であり、基本的に一般財源とすべきである。しかしながら、今後、税率を引き上げる際には、国民の理解を得るため、社会保障の給付水準との関係を明確に説明することが必要であろう。

3.相続税

これまで相続税の負担は、累次の減税や各種特例の拡充により大幅に緩和されてきた。他方、近年、経済のストック化が進む中、人口構成の高齢化を背景として、資産保有において高齢者層の占める比重が高まっている。また、所得、消費、資産等の多様な課税ベースに適切な負担を求めていく観点、特に今後の消費税率の引上げに向けた議論なども考慮すると、資産の再分配機能を有する相続税の役割は一層重要となる。

さらに、少子・高齢化の進展や老後扶養の社会化に伴い、現役世代の負担の増大が見込まれることに鑑みると、相続時に残された資産について、その一部を社会に還元する観点から負担を求める必要性も高まっている。

これらの点を踏まえ、より広い範囲に適切な税負担を求めるため、相続税の課税ベースの拡大に引き続き取り組むことが課題である。

平成15年度税制改正において生前贈与の円滑化を目的として導入された相続時精算課税制度は、親子間の資産移転の促進を通じた経済活性化の効果を発揮している。若年層の住宅取得や事業承継にも活用されていることから、引き続きその一層の活用に向け制度の周知などに努めていくことが重要である。

4.法人課税

(1)法人税

これまで法人税については、国際的に整合性がとれ、企業活動に歪みの少ない中立的な税制を目指し、課税ベースを拡大・適正化しつつ、税率を引き下げてきた。研究開発・設備投資減税といった政策税制の集中・重点化を図ったほか、商法改正等に伴うインフラ整備として組織再編税制や連結納税制度を導入した。今後とも、経済社会の構造変化に柔軟に対応する観点から、改革を進めていかねばならない。

法人税率については、既に他の先進諸国並みの水準となっており、当面、引き下げる状況にはない。今後、研究開発・設備投資減税の有効性を検証しつつ、経済・財政状況、わが国の税負担の水準や税体系全体のあり方との関連、他の先進諸国との税率バランスを踏まえ総合的に検討すべきである。

既存の租税特別措置については、その効果を検証しつつ、引き続き整理合理化を大胆に進めるとともに、経済社会の活性化と構造改革のために真に有効な政策税制への集中・重点化を図る必要がある。

また、少子・高齢化が進行し社会の多様化が進む中、公益法人やNPO法人等による民間非営利活動は、一層その重要性を増してくるものと考えられる。このため、引き続き、透明性を確保しつつ民間非営利活動が円滑に行われるよう、寄附金税制を含め適正な課税のあり方を検討していくべきである。

こうした中で、現在行われている公益法人制度改革の検討結果を踏まえ、公益法人及び中間法人に対する課税のあり方について、法人の活動実態を見極めつつ、検討を進める必要がある。

(2)法人事業税

法人事業税は、複数の都道府県に事務所等を有する法人について、事業活動と行政サービスの受益関係を的確に反映し、税源帰属を適正に行うため、分割基準により課税標準を都道府県間で分割する制度となっている。この分割基準は平成元年度以降見直しがなされていないが、IT化の進展やアウトソーシングの活用といった法人の事業活動を取り巻く環境の変化を踏まえ、見直しを図ることが必要である。

また、事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置については、税負担の公平を図る観点から、速やかに撤廃すべきである。

5.国際課税

本年3月に発効した新日米租税条約では、国際的な投資交流や技術移転をより一層促進する観点から投資所得に対する源泉地国の課税が大幅に軽減されるとともに、適正な課税を確保するための措置が講じられた。グローバル化が進行する中で、投資促進などの効果が期待できる国々との間の租税条約ネットワークの拡充は、わが国の持続的な経済社会の活性化を実現するための基盤強化に繋がる。今後とも国際的な投資交流や技術移転の促進のための重要なインフラである租税条約の改定を積極的に進めるべきである。

国際課税に関する国内法制度についても、国際的な経済活動の複雑化・多様化への対応が求められている。すなわち、国際的な投資交流や技術移転の促進の観点も踏まえると同時に、わが国の課税権を確保するための措置を講じるべきである。例えば、外国子会社合算税制や外国税額控除制度の見直しを行う場合には、合算対象となる外国子会社の範囲や税額控除の範囲等について所要の適正化措置をあわせて講じなければならない。また、構成員に直接課税される組合については、わが国の課税を確保するため、非居住者や外国法人である構成員に対して源泉徴収を含む制度的な対応を行う必要がある。さらに、各国の税制の相違や間隙を利用する国際的な租税回避行為を防止することや確実な執行が可能となるような制度の整備を行うことも重要な課題である。

6.酒税

近年、ライフスタイルの変化などを背景に、酒類消費の多様化が進展している。また、技術革新の進展などに伴い、従来とは異なる原料や製法により、同種・同等のものでありながら税負担の異なる酒類が生産されるようになってきている。

酒税については、酒類の生産・消費の態様の変化に応じ、税制の中立性や公平性を確保する観点から適切に対応できるよう、酒類の分類の簡素化を図り、酒類間の税負担格差を縮小する方向で早急かつ包括的に見直すべきである。

7.地球温暖化問題への対応

地球温暖化対策の国際的枠組みとして、温室効果ガス排出量の削減目標を定めた京都議定書が、来年2月に発効する。これに伴い、日本の国際的責務が現実的なものとなる。こうした中で、わが国における排出量は民生・運輸部門を中心に年々増加しており、その削減のため、早急に追加的な対策を検討することが求められている。

その一環として、いわゆる環境税導入の是非については、国・地方の温暖化対策全体の中での具体的な位置付けを踏まえて検討せねばならない。現時点では、他の政策手段との関連において、環境税の位置付けは必ずしも明らかでない。来年3月までに行われる「地球温暖化対策推進大綱」(平成14年3月)の見直し作業を通じ、京都議定書の目標達成を念頭に、環境税の果たすべき役割が具体的かつ定量的に検討されることが必要である。

環境税の役割としては、本来、価格インセンティブを通じた排出抑制効果を重視すべきであろう。他方、追加的な温暖化対策の財源確保により重点をおいて環境税を活用することについては、既存の温暖化対策予算との関係、税収の使途を特定することの是非を慎重に検討する必要がある。

環境税は、国民に広く負担を求めることになるため、その導入を検討する際には、国民の理解と協力が不可欠である。国民経済や産業の国際競争力に与える影響、既存のエネルギー関係諸税との関係、その他税制全体の中での位置付けなど、多岐にわたる検討課題がある。今後、温暖化対策全体の議論の進展を踏まえ、環境税に関する多くの論点をできる限り早急に検討せねばならない。

8.その他

(1)企業年金等にかかる税制

公的年金に上乗せされる企業年金等の私的年金は、より豊かで多様な老後生活のニーズに対応するためその役割がますます高まってくると考えられる。こうした状況の下、企業年金等に対する課税のあり方については、今後の年金制度をめぐる動向などを勘案しつつ、特別法人税(退職年金等積立金に対する法人税)を含め、拠出・運用・給付の各段階を通ずる負担の適正化の観点から総合的な検討を行う必要がある。

(2)組合事業に関する租税回避の防止

今日、法人形態に限らず、多様な形態による事業・投資活動が行われるようになっているが、こうした中で、組合事業から生じる損失を利用して節税を図る動きが顕在化している。このような租税回避行為を防止するため、適切な対応措置を講じる必要がある。