答申に盛り込まれていない主な意見

「平成16年度の税制改正に関する答申」に至る審議過程において、以下のような主な意見が出た。

経済・財政状況

イ プライマリーバランスの黒字化は経済の回復が前提であり、当面、税制改正が景気の足を引っ張ることがあってはならない。

ロ 増収措置を講ずるにあたっては、経済活動ひいては税収に与える影響も予測した上で改正を検討すべき。

ハ 現在の経済・財政状況を踏まえると、減税をすれば勤労意欲や活力が刺激されるということはなく、逆に増税による財政収支の改善が活力につながるという見方もある。

ニ 財政規律の具体的メルクマールについて国民の理解を得るためには、理論的・実証的な理由付けが必要。

ホ 景気低迷がまだ続いているので、財政からの刺激を引き続き行うべきである。

年金制度改革

イ 国民の負担を求める改革を行うためには、社会保障や財政に関するこれまでの政策的取組みについて説明責任を果たすことが必要。

ロ 人口推計に関して、合計特殊出生率の実際の動きやその決定要因について十分な分析・検討が必要。

ハ 年金制度の議論にあたっては、国民年金保険料の納付率低下への対応についても幅広い観点から議論すべき。

個人所得課税

(基本的考え方)

イ 定率減税については、基礎年金の国庫負担分見直し財源の議論とは関係なく、直ちに廃止すべき。

(年金課税)

イ ほとんどの企業年金は選択により退職一時金として受けることが可能となっていることから、退職金課税との整合性にも配意する必要がある。

ロ 賦課方式的要素が強い部分と積立方式的要素の強い部分では、望ましい年金課税のあり方も異なる。

ハ 給付段階で実質課税となる場合には、運用段階における課税の見直しも検討する必要がある。

ニ 公的年金は拠出段階で非課税とされている以上、給付段階での非課税は実質的には補助金であり、見直すべき。

(金融・証券税制)

イ 株価を上げるためには、個人投資家を株式投資に引きつけるための税制上の手段を考えるべき。

ロ 個人の株式投資促進については、税制よりも、株式の価値を高める企業の努力や証券業界が信頼性を向上させることが重要。

(住宅ローン減税)

イ 住宅建設の経済効果は大きく、また、住宅取得を支援する観点からも、引き続き重要。

ロ 住宅ローン減税は、住宅支援策としての効果も他の施策に比べれば小さいので廃止すべき。

(均等割)

イ 個人住民税の均等割については、道府県分を廃止し、基礎自治体である市町村分のみとすべき。

消費税

イ 平成15年度改正で措置された総額表示の実施にあたっては、消費者の税負担が明らかになるようにすべき。

ロ 税率の引上げに際しては、国民の理解を得るために社会保障支出の増大との関係を明確にするよう工夫すべき。

ハ 消費税を目的税とすることは財政の硬直化を招く等の観点から適当ではない。

法人税

イ 金融機関の不良債権処理については、税制面の対応と金融行政上の対応は関連しており、全体として不良債権処理の促進に資するよう措置を講じることが重要。

ロ 銀行業は決済システムの担い手、多数の小口預金者の存在といった点で特殊性を有している。金融システムの安定化を図るための対応が必要であれば、税制に頼るのではなく、公的資金の投入を含め金融行政上の対応を正面から検討すべきである。

ハ 欠損金の繰戻還付の凍結措置は、厳しい財政状況などを踏まえ講じられているものであり、引続き財政状況が厳しい中でこれを解除することは適当でない。

ニ 欠損金の繰戻還付の凍結措置は、法人税の原則に基づき解除することが適当である。

ホ 欠損金の繰越期間は、多くの企業で多額の欠損金が生じている状況を踏まえ、5年から7年に延長すべきである。

各種の政策税制

イ 経済活性化を図る観点から各種の税制上の措置について検討すべき。

ロ 政策税制については、政策目的の達成等について明確な基準を設けて廃止していくべき。

「三位一体の改革」の一環としての税源移譲

イ 三位一体の改革にあたっては、税源移譲のみならず、地方自治体の行政のあり方、パフォーマンスや地方による税金の使途をも含めて議論すべきであり、拙速に話を煮詰めることは適当でない。

ロ 住民の選択権と、負担に見合う給付を地方自治体が住民に確保できない限り、地方分権という考え方について、納税者の納得を得ることはできないのではないか。

ハ 国と地方の事務配分や税源配分を国、都道府県、市町村で横割型に整理しようという発想で議論がなされようとしているのであれば、基幹税を国、都道府県、市町村が共有しようというようなイメージで捉えることはおかしいのではないか。

ニ 税源移譲については、国税・地方税・社会保障負担の3つをどのように組み合わせるかといった国民負担全体の方向性を念頭において議論を進めることが必要。

ホ 厳しい財政状況の下、国・地方ともに中期的には増税が避けられない中で税収中立の税源移譲を行っても意味がないのではないか。増収を図る中で税源移譲を行うべき。

ヘ 地方自治体が自分達の行政に自信があるのであれば、独自の増税を行うことを考えるべきではないか。

ト 国が巨額の赤字を抱える中、現在の国の厳しい財政状況をしっかりと認識した上で税源移譲の議論を行うべき。歳出総額の約半分しか税で賄えていない現状では、補助金をカットし、その100%を移譲すれば、移譲額の半分は国の借金によってファイナンスされることになる。その点はきちんと明記すべき。

チ 交付税の問題、補助金の交付金化の問題等、税源移譲の前に議論すべき問題がたくさんある。税源移譲についての議論をする準備もないまま、所得税が良いのか消費税が良いのかといった議論はすべきでない。

リ 税源移譲に当たっては、住民に身近な市町村にウェイトを置いて行うべき。

ヌ 地方自治体が、地方税法上、今与えられている能力を独自に発揮し、税収をあげることが地方分権の趣旨に適う。国から税収を奪わなければ地方が税収をあげられないのでは地方分権にはならない。

ル 地方の側から見れば、たとえ移譲額が小さくても、平成16年度から基幹税を税源移譲の対象として欲しい。また、三位一体の改革をしっかりとやるという方向性を税調として示すことが大事。

ヲ 地方自治の基本的な税源は課税自主権や応益性の観点から、個人住民税と固定資産税を基本とすべき。

ワ 消費税から地方消費税へ移譲することについては、地方消費税の税率は地方公共団体が自主的に決められないという問題。また、消費税は社会保障に結びついた財源であるが、地方においては福祉に関する支出についてコスト意識を自治体が持つような仕組みになっていないことから、安易に地方消費税への移譲を行うことは適当でない。

カ 地方消費税の機能は地方交付税と実質的に同じであり、住民の自治意識につながらないことから、地方分権の観点から好ましい地方税とはいえない。付加価値税については、所得型の付加価値税である事業税を地方が、消費型の付加価値税である消費税を国がというように分けるのが適当である。

ヨ 地方税の徴収は、自治体自らが行うべきであり、自治体が自分で徴収しない税金を移譲せよ、ということがどこまで通るのか。全面的に否定はしないが、地方消費税のように、国が徴収し地方公共団体が受け取る税は地方分権になじまないのではないか。

タ 地方消費税は、住民税のように地方公共団体が住民と対面して徴収を行っている税ではなく、単に国から地方へ収入を移しているだけであり、地方交付税とほとんど同じ。こういった税収移譲的なものは減らしていくのが、地方分権の目的に沿うのではないか。

レ 多段階課税となっている消費税については、技術的に見て地方で徴収するのは非常に難しいため、地方消費税制度は、国が徴収した消費税を単に財源として一部地方に配分するという仕組みになっている。これをそのままの形で地方の取り分を多くすることは技術的には可能だが、地方の自己責任原則、自己決定原則からみて何の意味もない税制となってしまう。

ソ 地方税体系は、地域社会のメンバーシップを持つ者が納める個人住民税と、地域社会で様々な事業や取引をして、その地域社会からサービスを受けている者が負担する地方消費税を軸として、国と地方の役割分担に応じ配分すべき。

ツ 福祉・教育等により地方財政が膨張していく中で、その基礎的な部分を地方消費税で賄うことが必要であり、全ての地方税について税率の自主決定権が及ばなくても構わなく、課税の自主性は住民税の税率を自由に決定することによって自治体間の差をつけられれば良い。

ネ 今後、たばこ税がどの程度の税収になるかと考えた場合、たばこ税を地方財政の基幹税と位置付けるのは非常に難しい。また、たばこ税は喫煙者のみが負担する税であり、負担分任という地方税の原則から見て望ましいかどうか疑問。

ナ たばこ税は基幹税に入っておらず、これを移譲するかどうかは政治の世界で決めればいいのであって、税制調査会の議論としては、むしろ三位一体改革の意義について筋論を展開し、その中で税源移譲の考え方を示せばいいのではないか。

ラ たばこ税の税源移譲にあたっては、市町村への移譲割合をより高めるべきである。

ン 税源移譲を機に、地方公共団体に従来以上に自ら責任を持って税務執行に取り組むべき。

その他

イ 固定資産税の負担水準の均衡化・適正化の方針は理解できるが、大都市部の負担水準がなお高い。

ロ 「基幹税」という言葉は、その意味するところが明らかでなく、誤解を招きかねないことから、使用すべきでない。